説明

ノイズ除去音声再生

【課題】ノイズ除去音声再生システムを提供する。
【解決手段】スピーカ入力経路に連結されているスピーカ3と、二次経路2を介して前記スピーカに音響結合されておりかつマイクロフォン出力経路に連結されているマイクロフォン4と、前記マイクロフォン出力経路と第1の有用信号経路の下流に連結されている第1の減算器8と、前記第1の減算器の下流に連結されているアクティブノイズ除去フィルタ5と、前記アクティブノイズ除去フィルタと前記スピーカ入力経路との間で連結されておりかつ第2の有用信号経路に連結されている第2の減算器9と、を含み、再生される有用信号x[n]が前記2つの有用信号経路に送信され、前記2つの有用信号経路の少なくとも1つが1つ以上のスペクトル整形フィルタ10を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ除去音声再生システムに係り、より詳細には、周辺ノイズを除去することにより、ユーザが、例えば、再生した音楽などを楽しむことを可能にするイヤホンを含むノイズ除去システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブノイズキャンセル/コントロール(ANC)システムとしても知られるアクティブノイズ除去システムにおいて、同じスピーカ、具体的には、ヘッドフォンの2つのイヤホンの内部に配置されたスピーカはしばしば、ノイズ除去と音楽やスピーチなどの聴きたい音声の再生の両方に使用される。しかしながら、共通するノイズ除去システムは望ましい音声までも少なからず低減するという事実によってアクティブノイズ除去システムを用いた場合と用いなかった場合では音声の印象に大きな差が生じる。このため、このような影響を補償するためには、高度な電気的な信号処理が要求されるか、またはノイズ除去をオンまたはオフにすることに影響を受けて差異が生じる音声の印象を聴き手が受け入れる必要があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、上記欠点を克服すべく改良されたノイズ除去システムが一般的に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様は、スピーカ入力経路に連結されているスピーカと、二次経路を介してスピーカに音響結合されておりかつマイクロフォン出力経路に連結されているマイクロフォンと、マイクロフォン出力経路と第1の有用信号経路の下流に連結されている第1の減算器と、第1の減算器の下流に連結されているアクティブノイズ除去フィルタと、アクティブノイズ除去フィルタとスピーカ入力経路との間で連結されておりかつ第2の有用信号経路に連結されている第2の減算器と、を含み、再生される有用信号が両方の有用信号経路に送信され、有用信号経路の少なくとも1つは1つ以上のスペクトル整形フィルタを含むことよりなる、ノイズ除去音声再生システムである。
【0005】
本発明の第2の態様は、スピーカにより音響放射される入力信号をスピーカへ送信し、二次経路を介してスピーカと音響結合しかつマイクロフォン出力信号を送信するマイクロフォンがスピーカによって放射された信号を受信し、有用信号をマイクロフォン出力信号から減算してフィルタ入力信号を生成し、フィルタ入力信号をアクティブノイズ除去フィルタにてフィルタリングしてエラー信号を生成し、エラー信号から有用信号を減算してスピーカ入力信号を生成し、マイクロフォン出力信号またはスピーカ入力信号または両信号から有用信号を減算する前にこの有用信号を1つ以上のスペクトル整形フィルタによってフィルタリングすること、を含むノイズ除去音声再生方法である。
【0006】
図面に例示されている実施形態に基づいて様々な具体的な実施形態を以下に詳細に説明する。特に明記されていないかぎり、すべての図面を通して同様または同一の構成要素には同様の参照番号が付されている。
【0007】
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
ノイズ除去音声再生システムであって、
スピーカ入力経路に連結されているスピーカと、
二次経路を介して前記スピーカに音響結合されておりかつマイクロフォン出力経路に連結されているマイクロフォンと、
前記マイクロフォン出力経路と第1の有用信号経路の下流に連結されている第1の減算器と、
前記第1の減算器の下流に連結されているアクティブノイズ除去フィルタと、
前記アクティブノイズ除去フィルタと前記スピーカ入力経路との間で連結されておりかつ第2の有用信号経路に連結されている第2の減算器と、
を含み、
再生される有用信号が前記2つの有用信号経路に送信され、
前記2つの有用信号経路の少なくとも1つが1つ以上のスペクトル整形フィルタを含む、
ノイズ除去音声再生システム。
(項目2)
前記二次経路が二次経路の伝達特性を有し、前記スペクトル整形フィルタの少なくとも1つが、前記二次経路伝達特性をモデリングするか又は前記有用信号に関して前記マイクロフォン出力経路上でマイクロフォン信号を線形化する伝達特性を有している、上記項目に記載のシステム。
(項目3)
前記第1の有用信号経路が、前記二次経路の伝達特性に一致する伝達特性を有する第1のスペクトル整形フィルタを含む、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目4)
前記第1のスペクトル整形フィルタが、少なくとも2つのサブフィルタを含む、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目5)
前記第1のスペクトル整形フィルタまたは前記第1のスペクトル整形フィルタの前記サブフィルタの少なくとも1つが等価フィルタである、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目6)
前記等価フィルタがトレブルカット等価フィルタである、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目7)
前記第1のスペクトル整形フィルタまたは前記第1のスペクトル整形フィルタの前記サブフィルタの1つがシェルビングフィルタである、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目8)
前記シェルビングフィルタがトレブルカットシェルビングフィルタである、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目9)
前記第2の有用信号経路が逆の前記二次経路の伝達特性に一致する伝達特性を有している第2のスペクトル整形フィルタを含む、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目10)
前記アクティブノイズ除去フィルタ、第1のスペクトル整形フィルタ、および第2のスペクトル整形フィルタの少なくとも1つが適応フィルタである、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目11)
ノイズ除去音声再生方法であって、
スピーカにより音響放射される入力信号をスピーカへ送信するステップと、
前記スピーカによって放射された前記信号を、二次経路を介して前記スピーカと音響結合しかつマイクロフォン出力信号を送信するマイクロフォンによって、受信するステップと、
有用信号から前記マイクロフォン出力信号を減算してフィルタ入力信号を生成するステップと、
前記フィルタ入力信号をアクティブノイズ除去フィルタにてフィルタリングしてエラー信号を生成するステップと、
前記エラー信号から前記有用信号を減算して前記スピーカ入力信号を生成するステップと、
前記マイクロフォン出力信号または前記スピーカ入力信号または該両信号から前記有用信号を減算する前に、前記有用信号を1つ以上のスペクトル整形フィルタによってフィルタリングするステップと、
を含む方法。
(項目12)
前記二次経路が二次経路の伝達特性を有しておりかつ全てのスペクトル整形フィルタが全体として前記二次経路の伝達特性をモデリングする、上記項目に記載の方法。
(項目13)
前記有用信号を前記マイクロフォン出力信号から減算する前に、前記有用信号を前記二次経路の伝達特性に一致する伝達特性によってフィルタリングする、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記有用信号のフィルタリングが等価および/またはシェルビングフィルタリングを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記有用信号を前記スピーカ入力信号から減算する前に、前記有用信号を前記逆の二次経路の伝達特性に一致する伝達特性によってフィルタリングする、上記項目のいずれかに記載の方法。
【0008】
(摘要)
本発明は、スピーカにより音響放射される入力信号をスピーカへ送信し、二次経路を介してスピーカと音響結合しかつマイクロフォン出力信号を送信するマイクロフォンがスピーカによって放射された信号を受信し、有用信号をマイクロフォン出力信号から減算してフィルタ入力信号を生成し、フィルタ入力信号をアクティブノイズ除去フィルタにてフィルタリングしてエラー信号を生成し、エラー信号から有用信号を減算してスピーカ入力信号を生成し、有用信号をマイクロフォン出力信号またはスピーカ入力信号またはこれらの両信号から減算する前にこの有用信号を1つ以上のスペクトル整形フィルタによってフィルタリングすることを含む、ノイズ除去音声再生システムおよび方法を開示している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】有用信号がスピーカの信号経路へ送信される一般的なフィードバック型のアクティブノイズ除去システムを示すブロック図である。
【図2】有用信号がマイクロフォン信号経路へ送信される一般的なフィードバック型のアクティブノイズ除去システムを示すブロック図である。
【図3】有用信号がスピーカとマイクロフォンの信号経路に送信される一般的なフィードバック型のアクティブノイズ除去システムを示すブロック図である。
【図4】有用信号がスペクトル整形フィルタを経由してスピーカ経路へ送信される、図3のアクティブノイズ除去システムを示すブロック図である。
【図5】有用信号がスペクトル整形フィルタを経由してマイクロフォン経路へ送信される、図3のアクティブノイズ除去システムを示すブロック図である。
【図6】図3〜図6のアクティブノイズ除去システムとの連結に適用することができるイヤホンを概略的に示す図である。
【図7】有用信号が2つのスペクトル整形フィルタを経由してマイクロフォン経路へ送信される、図5のアクティブノイズ除去システムを示すブロック図である。
【図8】図7のシステムにおいて適用可能なシェルビングフィルタの伝達特性を示す振幅周波数応答図である。
【図9】図7のシステムにおいて適用可能な等価フィルタの伝達特性を示す振幅周波数応答図である。
【図10】有用信号はスペクトル整形フィルタを経由してマイクロフォンとスピーカの両経路へ送信される、図5のアクティブノイズ除去システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
フィードバックANCシステムは、経時的には理想的には同一振幅であるがノイズ信号に比較して逆位相を有するノイズ除去信号をリスニングサイトにて提供することによってノイズなどの妨害信号を除去もしくはキャンセルするために提供されている。ノイズ信号とノイズ除去信号を重畳させることによって得られる信号(「エラー信号」としても知られる)は、理想的には、ゼロに向かう傾向がある。ノイズ除去の品質は、所謂、二次経路、即ち、スピーカと聴き手の耳の代わりのマイクロフォンとの間の音響経路の品質に影響される。ノイズ除去の品質はいわゆるANCフィルタの品質にさらに影響される。このANCフィルタは、マイクロフォンとスピーカとの間に連結されておりかつマイクロフォンによって提供されるエラー信号をフィルタリングするように作用する。また、このANCフィルタは、フィルタリングされたエラー信号がスピーカによって再生された場合、エラー信号をさらに除去するように作用する。しかしながら、特に、同様にフィルタリングされたエラー信号を再生するスピーカによってリスニングサイトで音楽やスピーチなどの有用信号が、追加的に、フィルタリングされたエラー信号へ与えられる時点で、問題が生じる。このため、この有用信号は上述したシステムによって低下する可能性がある。
【0011】
簡略化のため、本明細書において電気信号と音響信号の区別は行わない。しかしながら、スピーカによって送信されマイクロフォンによって受信された全ての信号は実際に音響的な性質を含む。全ての他の信号は電気的な性質を含む。スピーカとマイクロフォンはスピーカ3によって形成された入力段とマイクロフォンによって形成された出力段とを有する音響サブシステム(例えば、スピーカ・ルーム・マイクロフォン・システム)の一部であって、このサブシステムに電気入力信号が送信されこのサブシステムは電気出力信号を送信する。この点において、「経路」は、例えば、信号伝導手段、増幅器、フィルタなどのさらなる要素を含み得る電気的または音響的な連結のことである。スペクトル整形フィルタは入力信号と出力信号のスペクトルが周波数に応じて異なるフィルタである。
【0012】
ここで、一般的なフィードバック型のアクティブノイズ除去(ANC)システムを示すブロック図である図1を参照されたい。このフィードバック型のアクティブノイズ除去システムにおいて、妨害信号d[n](ノイズ信号とも呼ばれる)は一次経路1を経由してリスニングサイト、例えば、聴き手の耳へ伝達(放射)される。一次経路1はP(z)の伝達特性を有している。さらに、入力信号v[n]はスピーカ3から二次経路2を介してリスニングサイトへ伝達(放射)される。二次経路2は伝達特性S(z)を有している。
【0013】
リスニングサイトに配置されたマイクロフォン4は、妨害信号d[n]と一緒にスピーカ3から生じる信号を受信する。マイクロフォン4はこれらの受信した信号の和を表すマイクロフォン出力信号y[n]を提供する。マイクロフォン出力信号y[n]はフィルタ入力信号u[n]としてANCフィルタ5へ送信され、ANCフィルタ5は加算器6へエラー信号e[n]を出力する。このANCフィルタ5は、適応フィルタであってもよく、伝達特性W(z)を有している。加算器6はまた、例えば、スペクトル整形フィルタ(図示しない)によって必要に応じてプリフィルタ処理された音楽や音声などの有用信号x[n]を受信しスピーカ3に入力信号v[n]を送信する。
【0014】
信号x[n]、y[n]、e[n]、u[n]およびv[n]は離散時間領域内にある。以下の考慮事項には、これらのスペクトル表現、X(z)、Y(z)、E(z)、U(z)およびV(z)が使用される。図1に示したシステムを記述する微分方程式は以下の通りである。
【0015】
【化1】

図1のシステムにおいて、有用信号の伝達特性 M(z)=Y(z)/X(z)はしたがって、
【0016】
【化2】

である。
【0017】
方程式(4)〜(7)から分かるように、有用信号の伝達特性M(z)はANCフィルタ5の伝達特性W(z)が増加するにつれてゼロ(0)へ近づくが、二次経路の伝達関数S(z)はニュートラルなレベル1付近、即ち、0[dB]状態を保つ。このため、ANCのオンまたはオフ時に、聴き手がまったく同じに有用信号x[n]を確実に捕えることができるように有用信号x[n]を適宜に適応させる必要がある。また、有用信号の伝達特性M(z)も二次経路2の伝達特性S(z)に影響されかつ有用信号x[n]の適応も伝達特性S(z)とその経時、温度、聴き手の変化などに因る変動とに影響されることから、「オン」と「オフ」との間の一定の差異が明確になる。
【0018】
図1のシステムにおいて、有用信号x[n]はスピーカ3の上流に連結された加算器6の音響サブシステム(スピーカ、部屋、マイクロフォン)へ送信されるが、図2のシステムにおいて、有用信号x[n]はマイクロフォン4へ送信される。これによって、図2のシステムにおいて、加算器6は省略され、加算器7がマイクロフォン4の下流に配置されて、例えば、プリフィルタ処理された有用信号x[n]とマイクロフォン出力信号y[n]との和を求める。したがって、スピーカ入力信号v[n]はエラー信号[e]に等しい、すなわち、v[n]=[e]であり、フィルタ入力信号u[n]は有用信号x[n]とマイクロフォン出力信号y[n]との和、すなわち、u[n]=x[n]+y[n]である。
【0019】
図2に示したシステムを記述する微分方程式は以下の通りである:
【0020】
【化3】

図2のシステムにおいて、妨害信号d[n]を考慮しなかった場合の有用信号の伝達特性M(z)は以下の通りである:
【0021】
【化5】

式(11)〜(13)から分かるように、有用信号の伝達特性M(z)は、開ループ伝達特性(W(z)・S(z))が増加または減少すると、1に近づき、開ループ伝達特性(W(z)・S(z))が0(ゼロ)に近づくと、0(ゼロ)に近づく。このため、有用信号x[n]は、ANCのオンまたはオフ時に聴き手が有用信号x[n]をまったく同じに確実に捕えることができるように更に高いスペクトル範囲に適応する必要がある。しかしながら、高いスペクトル範囲の補償はきわめて困難であるため、オンとオフの間である一定の差異が明確になる。一方、有用な伝達特性M(z)は、二次経路2の伝達特性S(z)とその経時、温度、聴き手の変化などによる変動とに影響されない。
【0022】
図3は、有用信号がスピーカとマイクロフォンの両経路に送信される一般的なフィードバック型のアクティブノイズ除去システムを示すブロック図である。簡略化するために、一次経路1は、ノイズ(妨害信号d[n])は依然として存在しているが、以下では省略されている。具体的には、図3のシステムは、有用信号x[n]をマイクロフォン出力信号y[n]から減算してANCフィルタ入力信号u[n]を形成する減算器8をさらに設け、加算器6に代えてエラー信号e[n]から有用信号x[n]を減算する減算器9を設けたこと以外は、図1のシステムと同様である。
【0023】
図3に示したシステムを説明する微分方程式は以下のように表される。
【0024】
【化5】

図3のシステムにおける有用信号の伝達特性M(z)は以下のように表される。
【0025】
【化6】

式(17)〜(19)から、図3のシステムの振る舞いは図2のシステムと同様であることが判断できる。唯一の違う点は、開ループ伝達特性(W(x)・S(z))がゼロ(0)に近づくと、有用信号の伝達特性M(z)がS(z)に近づくことである。図1のシステムと同様に、図3のシステムは、二次経路2の伝達特性S(z)とその経時、温度、聴き手の変化などに因る変動とに影響される。
【0026】
図4において、図3のシステムに基づくとともに逆の二次経路の伝達関数1/S(z)によって有用信号x[n]をフィルタリングするために減算器9の上流に連結された等価フィルタ10をさらに含むシステムが示されている。図4に示したシステムを説明する微分方程式を以下に示す。
【0027】
【化7】

図4のシステムにおける有用信号の伝達特性M(z)は従って、
【0028】
【化8】

となる。
【0029】
式(22)から分かるように、マイクロフォン出力信号y[n]は有用信号x[n]と同一である。つまり、等価フィルタが二次経路伝達特性S(z)の真の逆数であれば、信号x[n]はシステムによって変更されないということである。この等価フィルタ10は、最適な結果、すなわち、理想的には最小の位相、第2経路の伝達特性S(z)の逆数へ向かうその実際の伝達特性の最適な近似に対する最小位相フィルタとなり、従って、y[n]=x[n]となる。この構成は理想的なリニアライザとして作用する。すなわち、この構成はスピーカ3から聴き手の耳となるマイクロフォン4までの伝達によって生じる有用信号の劣化を補償する。よって、この構成は、二次経路S(z)の有用信号x[n]に対する妨害影響を補償または線形化し、これによってヘッドフォンの音響特性に因る負の影響を生じることなく、音源が提供する通りの有用信号が聴き手に到着する。すなわち、y[z]=x[z]である。このように、このような線形フィルタに助けられて、設計不良のヘッドホンであっても、音響的に完全に調整された音声、即ち、線形音声を発生させることができる。
【0030】
図5において、図3のシステムに基づくとともに二次経路の伝達関数S(z)によって有用信号x[n]をフィルタリングするために減算器8の上流に連結された等価フィルタ10をさらに含むシステムが示されている。図5に示したシステムを説明する微分方程式を以下に示す。
【0031】
【化9】

となる。
【0032】
式(25)から判断して、ANCシステムがアクティブなとき、有用信号の伝達特性M(z)は二次経路伝達特性S(z)に一致していることが分かる。ANCシステムがアクティブでないときも、有用信号の伝達特性M(z)は二次経路伝達特性S(z)に一致している。このように、マイクロフォン4に近い場所での聴き手に対する有用信号が耳に届いた時の聴覚印象はノイズ除去がアクティブであるか否かにかかわらず同じである。
【0033】
ANCフィルタ5および等価フィルタ10と11は各々、一定の伝達特性を有する固定フィルタまたは調整可能な伝達特性を有する適応フィルタである。図面においてそれ自体のフィルタの適応構造を各ブロックの下に矢印によって示し、適応構造の選択性を破線で示す。
【0034】
図5に示したシステムは、ノイズに関して、例えば、音楽や音声などの有用信号が異なる条件下で再生されるヘッドホンに適用可能であり、特に、ノイズが存在しない場合、聴き手は、ANCシステムのアクティブな状態と非アクティブな状態の音の違いを経験せずに、ANCシステムのスイッチをオフにすることが可能であることを評価するであろう。しかしながら、本明細書に提示されているシステムはヘッドホンのみならず、偶発的なノイズ除去が望まれる全ての他の分野にも適用可能である。
【0035】
図6は、本発明のアクティブノイズ除去システムが使用される可能性のあるイヤホンを例示している。イヤホンは、別の同様のイヤホンと一緒に、ヘッドホン(図示しない)の一部を成し、聴き手の耳12に音響結合される。本発明の実施例において、耳12は、一次経路1を介して、妨害信号d[n]、例えば、周囲ノイズへ露出される。イヤホンは、透音性カバー、例えば、グリル、格子または任意の他の透音性の構造または材料により被覆される穴15を有するカップ状のハウジング14を含む。スピーカ3は、音声を耳12へ放射するように作用しかつハウジング14の穴15に配置され、共にイヤホンキャビティ13を形成する。キャビティ13は、例えば、出入口、通気口、開口などの任意の手段によって気密化され又は通気される。マイクロフォン4はスピーカ3の正面に配置される。音響経路17は、スピーカ3から耳12まで延在し、スピーカ3からマイクロフォン4まで延在する二次経路2の伝達特性によってノイズ抑制目的のために近似される伝達特性を有している。
【0036】
ヘッドフォンなどの携帯機器に於いて、ANCシステムが使用可能なスペースおよびエネルギはきわめて限定されている。デジタル回路がスペースとエネルギを消費しすぎるため、携帯機器においてアナログ回路がANCシステムの設計に於いてしばしば好ましいとされる。しかしながら、アナログ回路だけではANCシステムの複雑性の可能性を限定することから、アナログ手段だけで二次経路を正確にモデリングすることは困難である。具体的にいえば、ANCシステムに於いて使用されるアナログフィルタは、組立てが簡単、エネルギ消費量が少ない、省スペースであるという理由から、固定フィルタであるかまたは非常に単純な適応フィルタであることが多い。図4、図5および図7を参照して上記に説明したシステムでも、アナログ回路を用いた場合は、二次経路の振舞いに影響されることはほとんどない(図4)または全くない(図5および図7)ので、良好な結果を示した。さらに、図5と図7のシステムは、原則としてほんのわずかな変動にすぎないが、共に開ループ伝達特性W(z)・S(z)を形成する、ANCフィルタの伝達特性W(z)と二次経路のフィルタ特性S(z)に基づいて、および聴き手の頭部に取り付けた時のヘッドホンの音響特性の評価に基づいて、等価フィルタに必要とされる伝達特性の良好な推定を可能とする。
【0037】
ANCフィルタ5は、通常、周波数に対して最大ゲインまで増加しその後周波数に対してゲインは減少して低下を続けてループゲインに至るような低周波数で低ゲインを有する傾向にある伝達特性を有する。ANCフィルタ5が高ゲインである場合、ANCシステムに固有のループは、例えば、1kHz未満の周波数範囲でシステムを線形に保つことからこの周波数範囲においてどの等価も冗長にする。3kHz超の周波数範囲において、このANCフィルタ5は、ブーストもカットもないから従って線形の効果もない。この周波数範囲内のANCフィルタゲインは略ループゲインであるため、有用信号の伝達特性M(z)は、各々のフィルタ、例えば、等価フィルタに追加されるシェルビングフィルタによって補償する必要がある高周波数においてブーストを経験する。1kHz〜3kHzの周波数範囲では、ブーストとカットの両方が発生することがある。聴覚印象に関しては、ブーストがカットより妨害性が高いことから、同様に設計されたカットフィルタによって伝達特性のブーストを補償するだけで十分である。ANCフィルタのゲインが3kHz超にて0dBであれば、線形化の影響はなく、したがって、第1の等価フィルタに加えかつシェルビングフィルタの代わりに、第2の等価フィルタを使用することができる。
【0038】
上記の考察からわかるように、補償には少なくとも2つのフィルタが使用される。図7は、図5のシステムにおける単一フィルタ11ではなく、(少なくとも)2つのフィルタ18および19を用いる例示的なANCシステムを示している。例えば、フィルタ伝達特性S(z)を有するトレブルカットシェルビングフィルタ(例えば、フィルタ18)と伝達特性S(z)を有するトレブルカット等価フィルタ(例えば、フィルタ19)において、S(z)=S(z)・S(z)である。或いは、トレブルブースト等価フィルタが、例えば、フィルタ18として実施され、トレブルカット等価フィルタが、例えば、フィルタ19として実施され得る。有用信号の伝達特性M(z)がさらにもっと複雑な構造を展開する場合、例えば、トレブルカットシェルビングフィルタが1つとトレブルブースト/カットの等価フィルタが2つの三つのフィルタを用いることができる。使用するフィルタの数は、コスト、フィルタのノイズの振舞い、ヘッドホンの音響特性、システムの遅延時間、このシステムを実施するために使用可能なスペースなどの多くの他の状況に影響される。
【0039】
図8は、図7のシステムに適用可能なシェルビングフィルタの伝達特性a、bを概略的に示す図である。特に、一次のトレブルブースト(+9dB)シェルビングフィルタ(a)とバスカット(−3dB)シェルビングフィルタ(b)を示す。図9は、図7のシステムに適用可能な等価フィルタの伝達特性c、dを概略的に示す図である。等価フィルタの1つ(c)は1kHzで9dBのブーストを提供し、他のフィルタ(d)はより高いQを有する100Hzで6dBの遮断を提供するので、より鮮明な帯域幅が提供される。
【0040】
スペクトル整形関数の範囲は線形フィルタの理論によって支配されるが、これらの関数の調整やこれらが調整されるフレキシビリティは回路のトポロジおよび遂行する必要がある要件に応じて変化する。シェルビングフィルタは通常、コーナーの周波数よりはるかに高いかつはるかに低い周波数の間の相対的なゲインを変更する単純な第一次のフィルタである。低い即ち低音のシェルフは低い周波数のゲインに影響を与えるために調整されるが、そのコーナー周波数を超えてはあまり影響を与えない。高い即ちトレブルのシェルフは高い周波数のみのゲインを調整する。他方で、単一の等価フィルタは、二次のフィルタ関数を実施する。これは三つの調整、即ち、中心周波数の選択、帯域幅のシャープネスを決定する品質(Q)係数の調整、および選択された中心周波数が中心周波数の(はるかに)上下において周波数に対してどの程度ブーストされまたはカットされるかを判断するレベルやゲイン、を伴う。
【0041】
図10は、有用信号x[n]が、各々が伝達特性S(z)を有するフィルタ20を介して、または伝達特性S(z)を有するフィルタ21を介して、マイクロフォンとスピーカ経路の両方へ送信される(ここで、例えば、S(z)=S(z)・S(z))、図4および図5に示したシステムの組み合わせを示す。
【0042】
本発明を実施する様々な実施例を開示してきたが、本発明の精神及び範囲を逸脱しない限りにおいて本発明の利点を達成する様々な変更や変形を行ってよいことは当業者にとって明らかであろう。また、同様の機能を果たす他の構成要素によって適切に置き換えてよいことも当業者にとって明らかであろう。本発明の概念についてのこのような変形は添付の特許請求の範囲によって網羅されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズ除去音声再生システムであって、
スピーカ入力経路に連結されているスピーカと、
二次経路を介して前記スピーカに音響結合されておりかつマイクロフォン出力経路に連結されているマイクロフォンと、
前記マイクロフォン出力経路と第1の有用信号経路の下流に連結されている第1の減算器と、
前記第1の減算器の下流に連結されているアクティブノイズ除去フィルタと、
前記アクティブノイズ除去フィルタと前記スピーカ入力経路との間で連結されておりかつ第2の有用信号経路に連結されている第2の減算器と、
を含み、
再生される有用信号が前記2つの有用信号経路に送信され、
前記2つの有用信号経路の少なくとも1つが1つ以上のスペクトル整形フィルタを含む、
ノイズ除去音声再生システム。
【請求項2】
前記二次経路が二次経路の伝達特性を有し、前記スペクトル整形フィルタの少なくとも1つが、前記二次経路伝達特性をモデリングするか又は前記有用信号に関して前記マイクロフォン出力経路上でマイクロフォン信号を線形化する伝達特性を有している、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の有用信号経路が、前記二次経路の伝達特性に一致する伝達特性を有する第1のスペクトル整形フィルタを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1のスペクトル整形フィルタが、少なくとも2つのサブフィルタを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1のスペクトル整形フィルタまたは前記第1のスペクトル整形フィルタの前記サブフィルタの少なくとも1つが等価フィルタである、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記等価フィルタがトレブルカット等価フィルタである、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のスペクトル整形フィルタまたは前記第1のスペクトル整形フィルタの前記サブフィルタの1つがシェルビングフィルタである、請求項4または5に記載のシステム。
【請求項8】
前記シェルビングフィルタがトレブルカットシェルビングフィルタである、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2の有用信号経路が逆の前記二次経路の伝達特性に一致する伝達特性を有している第2のスペクトル整形フィルタを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項10】
前記アクティブノイズ除去フィルタ、第1のスペクトル整形フィルタ、および第2のスペクトル整形フィルタの少なくとも1つが適応フィルタである、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
ノイズ除去音声再生方法であって、
スピーカにより音響放射される入力信号をスピーカへ送信するステップと、
前記スピーカによって放射された前記信号を、二次経路を介して前記スピーカと音響結合しかつマイクロフォン出力信号を送信するマイクロフォンによって、受信するステップと、
有用信号から前記マイクロフォン出力信号を減算してフィルタ入力信号を生成するステップと、
前記フィルタ入力信号をアクティブノイズ除去フィルタにてフィルタリングしてエラー信号を生成するステップと、
前記エラー信号から前記有用信号を減算して前記スピーカ入力信号を生成するステップと、
前記マイクロフォン出力信号または前記スピーカ入力信号または該両信号から前記有用信号を減算する前に、前記有用信号を1つ以上のスペクトル整形フィルタによってフィルタリングするステップと、
を含む方法。
【請求項12】
前記二次経路が二次経路の伝達特性を有しておりかつ全てのスペクトル整形フィルタが全体として前記二次経路の伝達特性をモデリングする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記有用信号を前記マイクロフォン出力信号から減算する前に、前記有用信号を前記二次経路の伝達特性に一致する伝達特性によってフィルタリングする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記有用信号のフィルタリングが等価および/またはシェルビングフィルタリングを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記有用信号を前記スピーカ入力信号から減算する前に、前記有用信号を前記逆の二次経路の伝達特性に一致する伝達特性によってフィルタリングする、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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