説明

ノンオイル乾麺の製造方法

【課題】油を使用せずに製造できるようにする。また、偏平で細い新規な手延べ麺を製造することもできるようにする。
【解決手段】混捏して得た麺生地から麺帯を切り出したのち、麺帯を圧延してグルテンが生成された麺紐を得て、該麺紐をさらに細い麺糸にしてから、麺糸を延ばして乾燥する乾麺の製造法において、前記麺糸を得るべくローラで圧延成形する圧延成形の前段で、前記麺糸となる麺糸素材17にでんぷん粉15を塗布する。そして、前記圧延成形によって、でんぷん粉15を麺糸素材17に圧着させて、麺糸16を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乾麺、たとえば素麺や冷麦のように、麺生地を延ばしてから切らないで乾燥させて製造する乾麺の製造方法に関し、より詳しくは、油を使用せずとも製造でき、また、偏平で細い新規な手延べ麺を製造することもできるような方法に関する。なお、この発明における「乾麺」とは、外側だけを乾燥させた半生麺を含む意味である。
【背景技術】
【0002】
手延べ素麺は、小麦粉などに水を加えて混捏して麺生地を得た後、この麺生地から麺帯を切り出し、この麺帯に対して圧延を行って麺紐を得て、油返し作業を行った後、麺紐をさらに細くして、手延べを可能にするための作業に移行して、延ばして乾燥するという工程を経て製造されている。
【0003】
前記油返し作業は、麺紐に油を塗る作業であるが、油は酸化すると特有の臭いが発生するので、下記特許文献1に開示された方法においては、油返し作業に使用する油として、酸化しにくいグレープシードオイルを用いることを提案した。
【0004】
この特許文献1に開示された方法によれば、油特有の臭いを抑えることができるなどの効果が得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−67372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、油を使用することに変わりは無く、改良の余地があった。
【0007】
また、得ようとする麺が細い場合や、製造する麺が平たい場合、麺に柔らかさを求めるべく低グルテンの小麦粉を使用した場合には、麺同士のくっつきに対する対策を十分に講じなければならないところ、油を使用すると効果があるため、またそれが常識であったため、特に、細い麺や平たい麺、低グルテンの小麦粉を使用した乾麺では、油を使用したものしかなかった。
【0008】
さらに、偏平な麺ほどくっつきに弱かったので、たとえば「手延べ平素麺」、「手延べ平冷麦」などと称すべき、手延べでありながらも偏平で細い乾麺は、これまでになかった。
【0009】
そこでこの発明は、油を使用せずとも製造でき、また、偏平で細い新規な手延べ麺を製造することもできるようにすることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段は、混捏して得た麺生地から麺帯を切り出したのち、麺帯を圧延してグルテンが生成された麺紐を得て、該麺紐をさらに細い麺糸にしてから、麺糸を延ばして乾燥する乾麺の製造法であって、前記麺糸を得るべくローラで圧延成形する圧延成形の前段で、前記麺糸となる麺糸素材にでんぷん粉を塗布する
ノンオイル乾麺の製造方法である。
【0011】
圧延成形時の圧力により、麺糸素材に塗布されたでんぷん粉が麺糸の表面に圧着する。そして、圧着によりでんぷん粉は麺糸の表面に一体化する。このため、油を塗布しなくとも、麺糸同士のくっつきを防止できる。
【0012】
前記圧延成形を、撚りをかけながら行うと、でんぷん粉の圧着がより良好に行える。
【0013】
また、前記でんぷん粉の塗布を、前記麺糸素材を巻き取るときに行うと、麺糸素材の全周に対する塗布が容易に行える。
【0014】
前記麺糸を偏平に成形すると、切らずに平麺を製造できる。
【0015】
前記でんぷん粉には葛粉を用いるとよい。葛粉は、その他のでんぷん粉のように単に糊化するだけではなく、ツルツルとしたのど越しを麺に与えるとともに、美麗な光沢、透明感を茹で上げられた麺に出す。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、この発明によれば、麺糸素材の表面にでんぷん粉を圧着させ一体化することによって、くっつきを防止するので、油を使用せずとも所望する乾麺を製造できる。また、これまでできなかった手延べでありながらも偏平な細い麺を製造することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ノンオイル乾麺の製造工程を示す流れ図。
【図2】麺圧作業を示す説明図。
【図3】第1イタギ作業の説明図。
【図4】第2イタギ作業の一部の説明図。
【図5】第2イタギ作業の一部の説明図。
【図6】でんぷん粉の塗布状態を示す説明図。
【図7】細目作業の説明図。
【図8】でんぷん粉の圧着を説明する模式図。
【図9】こなし作業の説明図。
【図10】掛巻作業の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、ノンオイル乾麺の製造工程を示す説明図である。この図に示したように、油返し作業が不要で、油を使用せずに製麺できる。
【0019】
図1に示した順に従って説明する。
【0020】
まず、小麦粉や水等の材料11を混捏する混捏作業n1を行う。材料11には必要に応じて適宜のものを使用できる。具体的には、小麦粉と葛粉を用いるとよい。小麦粉には、低グルテンのもの、換言すれば薄力粉を用い、麺に柔らかさと腰の強さを出すようにするとよい。また、麺生地の安定のために塩が必要であるが、塩は、前記水に溶かしてから加える。
【0021】
必要な材料に対して行う混捏は、周知の装置で行い、満遍なく均等に混ぜ合わせて捏ねる。
【0022】
混捏作業n1を経た材料11は麺生地12となる。
【0023】
つぎに、麺圧作業n2に移行する。麺圧作業n2では、混捏作業n1で得た麺生地12を、図2に示したように薄い円板状をなす容器21に入れて、圧延ローラ22で押し付けて、容器21内で均等に延びるように圧延して空気を押し出す。前記圧延ローラ22が回転するとともに、前記容器21も回転し、前述の圧延がなされる。
【0024】
この圧延は、人手によって、つまり足で踏んで行うことも、その他の装置を用いて行うこともできる。
【0025】
つづいて、第1イタギ作業n3に移行する。第1イタギ作業n3では、圧延されて円板状になった麺生地12から麺帯13を切り出す。すなわち、麺生地12に対して図3に示したように切断刃23を用いて、麺生地12を切断する。麺生地12の切断は、円板状をなす麺生地12に対して突き立てるように外周側から切り込み、中心に向けて渦巻きを描くように行う。この切断によって、断面四角形をなす麺帯13が形成される。切断は、機械で行うも、人手によって行うも、いずれでもよい。
【0026】
麺帯13は、盥状をなす円形の容器24に(図4参照)、一端側から巻くようにして収められる。
【0027】
次に、第2イタギ作業n4に移行する。第2イタギ作業n4では、前記麺帯13をもとにして幾重にも重合した層状をなす麺紐14を圧延して形成する。すなわち、図4に示したように、麺帯13が収められた複数の容器24から麺帯13の他端を出し、これらを合わせて圧延装置25に入れて重合しながら引き延ばして1本にするとともに、同一の圧延装置25で引き延ばすようにして絞り、断面円形の麺紐14に圧延する。
【0028】
麺紐14は、容器24に他端側から巻くようにして収められる。
【0029】
このような作業を、図5に示したように複数回繰り返す。この作業の繰り返しにより、先の混捏作業n1のときから起こっているグルテンの生成がさらに進行し、グルテンの網目構造の組織が展開する。
【0030】
十分に圧延された麺紐14は、盥状をなす円形の容器24に、図6に示したように前記他端側から巻くようにして収められ、熟成(ねかし)される。このように熟成は、必要に応じて適宜の時間、適宜の段階でなされる。重複を避けるため、以下の説明では、熟成についての説明を省略する。
【0031】
なお、最後の圧延作業をして麺紐14を前記容器24に収めるときには、麺紐14に対して、図6に示したように葛粉15を塗布する。葛粉15の塗布は、振り掛けるようにして行うも、パフのような適宜の治具を用いて行うも、適宜行える。このようにして容器14に収めるときに塗布をすると、葛粉15を上から降りかけるようにするだけでも麺紐14の全周に付着させることができ、作業は容易である。
【0032】
葛粉15は、麺紐14の周囲において、麺紐14同士のくっつきを防止するとともに、乾きも防ぐ。
【0033】
熟成後、細目作業n5に移行する。細目作業n5は、前記麺紐14を、それよりもさらに細い麺糸16にするべく、麺紐14を圧延成形装置26の圧延成形ローラ27で圧延成形する工程である。この圧延成形は、適宜回数行うことができ、この例では、細目作業n5とこなし作業n6の2回行う例を示す。つまり、麺紐14から麺糸16を圧延成形し、さらにその麺糸16からさらに細い所定太さの麺糸16を圧延成形する。
【0034】
この圧延成形では、図7に示したように、麺糸16となる麺糸素材17、すなわち麺紐14及び/又は麺糸16を圧延成形ローラ27間に通して、全周に圧力を掛けて引き延ばしながら成形する。また、このときに、圧延成形ローラ27間を通って出される麺糸16に対して撚りをかける(矢印A参照)。
【0035】
前述の葛粉15の塗布により、圧延成形の前段において、麺糸素材17としての麺紐14の周面には葛粉15が付着しているので、細目作業n5における圧延成形によって、図8に模式的に示したように、葛粉15は、麺糸16の周面に食い込むようになって、圧着された状態なる。換言すれば、葛粉15は麺糸16の周面で一体となる。なお、圧延成形ローラ27間に通して圧延成形をするので、塗布された葛粉15が余分であれば、圧延成形ローラ27間に入る前に落ちる。
【0036】
細目作業n6を経た麺糸16は、図7に示したように、前述の場合と同様に盥状の円形の容器24に収められるが、この場合も、必要に応じて、麺糸素材17としての麺糸16に葛粉15が塗布される。
【0037】
そして、図9に示したように、次のこなし作業n6に移行する。こなし作業n6では、前述したように麺糸16(麺糸素材17)を圧延成形装置26の圧延成形ローラ27で圧延成形して、たとえば二分の一ほどの径にするなど、さらに細い麺糸16に形成する。このとき、前述の細目作業n5の場合と同様に、撚りがかけられながら(矢印A参照)、必要に応じて塗布された葛粉15が周面に圧着される。
【0038】
このようにして所望の太さに形成された麺糸16は、次の掛巻作業n7に移行する。
【0039】
掛巻作業n7では、周知の掛巻装置によって作業を行う。すなわち、所定間隔を隔てて平行に保持した2本の掛巻棒28(図10参照)に対して麺糸16を巻きつける。巻きつけは、麺糸16に撚りをかけながら8の字を描くようにして行う。
【0040】
このとき、断面円形の麺ではなく、偏平な形態の麺、すなわち平麺を得ようとする場合には、図10に示したように、掛巻を行う直前にて、円柱状をなす一対の成形ローラ29で麺糸16に圧力を加えて偏平に成形する。
【0041】
この後は、図1に示したように、周知の小引作業n8、ふくら出し作業n9、さばき作業n10、乾燥作業n11、そのほか裁断、検品、包装等の工程を経て、乾麺が完成する。
【0042】
以上のようにして、葛粉15の圧着により麺紐14等同士のくっつきを防止するので、油の使用を避けることができる。このため、油による臭いをなくせる。
【0043】
また、油臭をなくせるので、小麦の風味や味(特に甘味)を素直に感じることのできる麺となる。
【0044】
しかも、材料の小麦粉として薄力粉を用いた場合でも、麺紐14等同士のくっつきを防止できるので、薄力粉による柔らかい食感の良さと、生成されたグルテン組織による腰の強さを兼ね備えた最高品質の麺を得られる。
【0045】
加えて、くっつきを良好に防止する葛粉15は、麺糸16の表面に圧着されているので、茹で上げたときの外観は、透明感を有し、清流のような美麗な光沢を有する。このため、見た目に良く、食欲をそそる上に、ツルツルとしていてのど越しも斬新である。
【0046】
さらに、麺糸素材17を圧延成形ローラ27間に通して圧延成形をする前段で葛粉15を塗布するので、塗布された葛粉が過剰であれば前述のように圧延成形ローラ27間に入る前に落ちるため、油を塗布する場合のように塗布しすぎることはなく、作業が容易で製品のバラ付きをなくすことにも貢献する。この効果は、麺糸素材17を細くするとき、すなわち引き延ばし成形するときに行うので、表面に付きすぎることがないことによっても享受できる。
【0047】
そして、油を用いずとも良好にくっつき防止が図れるので、前述した低グルテンの小麦粉を用いた麺のほか、細い麺や平たい麺、細くて偏平な麺を得ることが可能となり、これまでになかった「手延べ平素麺」、「手延べ平冷麦」とも称すべき新規な麺を製造することもできる。このような新規麺は、新しい食感により、麺の魅力を発揮し、人を引き付け、麺の世界をさらに発展させるものとなる。
【0048】
この発明の構成と、前述の一形態この構成との対応において、
この発明のでんぷん粉は、前述の葛粉に対応し、
以下同様に、
ローラは、圧延成形ローラ27に対応し、
麺糸素材は、麺紐14及び/又は麺糸16、麺糸素材17に対応するも、
この発明は前述の構成のみに限定されるものではなく、その他の形態を採用することもできる。
たとえば、でんぷん粉には、葛粉以外のものを使用することができる。
【符号の説明】
【0049】
12…麺生地
13…麺帯
14…麺紐
15…葛粉
16…麺糸
17…麺糸素材
27…圧延成形ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混捏して得た麺生地から麺帯を切り出したのち、麺帯を圧延してグルテンが生成された麺紐を得て、該麺紐をさらに細い麺糸にしてから、麺糸を延ばして乾燥する乾麺の製造法であって、
前記麺糸を得るべくローラで圧延成形する圧延成形の前段で、前記麺糸となる麺糸素材にでんぷん粉を塗布する
ノンオイル乾麺の製造方法。
【請求項2】
前記圧延成形を、撚りをかけながら行う
請求項1に記載の乾麺の製造方法。
【請求項3】
前記でんぷん粉の塗布を、前記麺糸素材を巻き取るときに行う
請求項1または請求項2に記載のノンオイル乾麺の製造方法。
【請求項4】
前記麺糸を偏平に成形する
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の乾麺の製造方法。
【請求項5】
前記でんぷん粉として葛粉を用いる
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載のノンオイル乾麺の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−252672(P2010−252672A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105368(P2009−105368)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(509117724)株式会社三輪山勝製麺 (2)
【出願人】(502201686)
【出願人】(509117757)
【Fターム(参考)】