説明

ノンスチレン型下地補修用パテと同下地補修用パテを用いた自動車ボディー等の補修方法

【課題】 低VOC、低臭で、かつ皮膚刺激性が少なく、環境負荷が少なく、人体に対して安全で、塗布作業性、乾燥性、研削性、密着性、耐水性、耐熱性等の特性に優れ、自動車ボディー等の塗装損傷個所の下地補修に好適なノンスチレン型下地補修用パテを提供する。
【解決手段】 不飽和ポリエステル樹脂(30重量部〜65重量部の樹脂固形分と、反応性希釈剤として35重量部〜70重量部の単官能または多官能(メタ)アクリレートモノマーとからなる)に、促進剤、安定剤、湿潤分散剤、充填剤、着色顔料を含有させること二より達成できる。また 前記不飽和ポリエステル樹脂固形分として、多塩基酸成分、多価アルコール成分、空乾性成分を用いて製造されているパテ用樹脂の固形分を使用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディー等の損傷個所を鈑金修正した後、上塗り塗装前に行う下地補修塗装に用いられるノンスチレン型下地補修用パテと同下地補修用パテを用いた自動車ボディー等の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車ボディー等の塗装損傷個所の補修塗装では、下地補修材として、一般に厚付けパテ、中間パテ、ポリパテ、仕上げパテ等のポリエステルパテが使用される。これらのパテの主成分である不飽和ポリエステル樹脂は、多価アルコールと多塩基酸からなる不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂を反応性希釈剤であるスチレンモノマー(以下、単にスチレンという)で溶解希釈したものであり、樹脂中にはスチレンが30〜50%含まれており、従ってポリエステルパテ中においても10〜30%のスチレンが含まれていることになる。
【0003】
これらの不飽和ポリエステル樹脂やアルキド樹脂は、スチレンなどのモノマーなしには過酸化物触媒によるラジカル重合による架橋が極めて遅く、スチレンが存在して初めて硬化性に優れた樹脂となる。一般には、スチレンラジカルが2〜3分子重合してから不飽和ポリエステル樹脂の不飽和基に反応して架橋、網状化に至るとされている。また、スチレンの不飽和ポリエステル樹脂の溶解性が良好なことと安価なことから、不飽和ポリエステル樹脂の反応性希釈剤として、スチレンは必要不可欠なものとなっている。
【0004】
一方、スチレンはVOC(揮発性有機化合物)物質であり、排出規制の対象物質である。また、厚生労働省のいわゆるシックハウス症候群関連の14物質の1つであり、さらには環境ホルモン物質67種の1種に挙げられている。さらにまたスチレンは、揮発性が高く、臭気も強く、悪臭防止法に定める特定悪臭物質でもある。また、PRTR法(化学物質排出把握管理促進法)の第一種指定化学物質でもある。また、パテを硬化した場合、100%硬化せず、スチレンが残存モノマーとして残り、硬化一週間後でも指針値以上の放散スチレン量が検出される。
【0005】
このような状況において、環境対策の一環としてノンスチレン型のポリエステルパテの開発が切望されている。
【0006】
ところで、スチレン以外のモノマーを含んでいる不飽和ポリエステル樹脂を用いた補修用パテの先行技術として、「架橋モノマーを含んでいる不飽和ポリエステル樹脂と、充填剤と、硬化触媒と、硬化速度調整剤を含む不飽和ポリエステル樹脂パテにおいて、架橋モノマーがスチレン:ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの重量比が0:100〜80:20の混合物であることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂パテ組成物」が開示されている(特許文献1参照)。
【0007】
その他の先行技術として、「不飽和ジカルボン酸又はその無水物、飽和ジカルボン酸又はその無水物、脂肪族飽和2価アルコール、ヒドロキシ官能性アリルエーテルの反応によって得られる不飽和ポリエステルとポリグリコールジアクリレート、開始剤を含む不飽和ポリエステルに基づくコーティングメジウム」が開示されている(特許文献2参照)。
【0008】
また、ノンスチレン系ラジカル重合性樹脂組成物で許容濃度を超えないホルムアルデヒドの放散量に抑制できる組成物として「ノンスチレン系ラジカル重合性樹脂組成で、許容濃度を越えないホルムアルデヒドの放散量に抑制できるホルムアルデヒド非放散性ラジカル重合性樹脂組成物」が開示されている(特許文献3参照)。
【0009】
さらに、「ノンスチレン型の不飽和ポリエステル樹脂又はノンスチレン型のビニルエステル樹脂を繊維マットに含浸させ複合化したノンスチレン型FRP防水材層を有することを特徴とする低臭型FRP防水構造」が開示されている(特許文献4参照)。
【0010】
他の先行技術として「低発泡ポリスチレン樹脂よりなるボード本体(1)の表面にノンスチレン不飽和ポリエステル樹脂層(2)を介して不飽和ポリエステル樹脂系の繊維強化プラスティック層(3)を積層一体化したことを特徴とする装飾断熱板」が開示されている(特許文献5参照)。
【0011】
複素環式(メタ)アクリレートモノマーを不飽和ポリエステル樹脂の反応性希釈剤として「PII値(皮膚毒性指数)が3以下の(メタ)アクリル系化合物(A)及び重量平均分子量3000〜30000の不飽和ポリエステル樹脂(B)を含有したボルト固定用固着剤で、(メタ)アクリル系化合物(A)がテトラヒドロフルフリルメタクリレートであることを特徴とするボルト固定用固着剤」が開示されている(特許文献6参照)。
【特許文献1】特開平11−61036号公報
【特許文献2】特開平9−176568号公報
【特許文献3】特開2005−162922号公報
【特許文献4】特開2005−271295号公報
【特許文献5】特開平9−131821号公報
【特許文献6】特開2001−19913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載のものは、ポリエステルパテに反応性希釈剤として皮膚刺激性の少ない、低粘度、低臭で比較的安価な2−ヒドロキシエチルメタクリレートをスチレンとの混合又は単独で使用しているが、加熱硬化時に硬化ムラ、薄膜部の硬化不良が起こり、また、加熱時にモノマーの蒸発に起因する発煙(蒸気の飛散)現象が見られ、環境対応の点から望ましくない。
【0013】
特許文献2に記載のものは、自動車の補修目的ではあるが、中塗り塗料のプライマーサフェーサーであり、本発明の下地補修用パテとは対象が異なっている。
【0014】
特許文献3、4、5に記載のものは、ガラスマット積層用のFRP用樹脂であり、充填剤が含有されたペースト状の本発明とは対象が異なっている。
【0015】
特許文献6に記載のものは、アンカーボルト用の固着剤であり、本発明とは対象が全く異なっている。
【0016】
また、ノンスチレンパテとして、従来から水性エマルジョンパテ、エポキシ樹脂パテ、ウレタン樹脂パテがある。しかしながら、水性エマルジョンパテは水揮発型であるため、数百ミクロン以上に厚付けできず、また内部まで十分乾燥させるためには長時間を要するので、自動車ボディー等の塗装損傷個所の補修に必要な厚みを得るには、薄膜塗布、乾燥を数回繰り返す必要があり、極めて長時間を必要とする。さらに、耐水性、耐溶剤性、耐候性などについて十分な性能を有しないため、自動車等のボディの補修用途には不向きである。
【0017】
さらに、エポキシパテは自動車ボディー等の塗装損傷個所の補修や大型車両の製造時に一部使用されているが、作業性の悪さ、特に研削性の悪さから普通の補修には向かない。
【0018】
また、ウレタンパテも商品化されてはいるが、柔軟性を有する特長は持つもののゴム弾性のために極めて研削性が悪く、自動車ボディー等の塗装損傷個所の補修には使用されていない。
【0019】
本発明は上述の点に鑑みてされたもので、環境面を重視してスチレンを一切使用することなく、加熱乾燥、常温での自然乾燥で、低VOC、低臭で、かつ皮膚刺激性が少なく、環境負荷が少なく、人体に対して安全で、しかも、塗布作業性、乾燥性、研削性、密着性、耐水性、耐熱性等の特性に優れ、自動車ボディー等の塗装損傷個所の下地補修に好適なノンスチレン型下地補修用パテとこれを用いた補修方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために本発明にかかるノンスチレン型下地補修用パテは、自動車ボディー等の塗装損傷個所を補修するための単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーを反応性希釈剤とする不飽和ポリエステル樹脂を主体とする主剤と、有機過酸化物を主成分とする硬化剤とを含有するノンスチレン型下地補修用パテであって、
前記単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーからなる反応性希釈剤が、環式(メタ)アクリレートモノマー(環式有機化合物)である不飽和ポリエステル樹脂からなることを特徴とする。
【0021】
下地補修用パテは上記モノマーを用いることにより環境に対応したスチレンフリーのパテであり、環境面で優しく、しかも自動車ボディー等の塗装損傷個所を補修するため必要な諸性能を有している。
【0022】
請求項2に記載のように、前記反応性希釈剤が環式有機化合物であり、かつ脂環式化合物又は芳香族化合物等の炭素のみから構成される環構造を持つ炭素環式(メタ)アクリレートモノマー、及び又は炭素とそれ以外の酸素、窒素、硫黄などの元素から構成される環構造を持つ複素環式(メタ)アクリレートモノマーからなることが好ましい。
【0023】
このように構成することにより、請求項1のノンスチレン型下地補修用パテと同様に対環境性に優れた自動車ボディー等の塗装損傷個所の下地補修材料となる。
【0024】
請求項3に記載のように、前記(メタ)アクリレートモノマーが、皮膚刺激性指数(PII値)が3以下で、かつ粘度が300cps/25℃以下である(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0025】
皮膚刺激性が低いので人体に対して安全なパテであり、また粘度が低いために不飽和ポリエステル樹脂を溶解後の樹脂粘度が低く、取り扱いが容易になり且つヘラ付け性等の作業性においても優れている。
【0026】
請求項4に記載のように、前記(メタ)アクリレートモノマーとしての、複素環式(メタ)アクリレートモノマー及び又は炭素環式(メタ)アクリレートモノマーが、補修用塗料の主剤の10.5〜45.5重量部、望ましくは13〜40重量部であることが好ましい。いいかえれば、前記複素環式(メタ)アクリレートモノマー及び又は前記炭素環式(メタ)アクリレートモノマーが、不飽和ポリエステル樹脂中に28.3〜79.6重量部、望ましくは35〜70重量部含まれることが好ましい。
【0027】
環式(メタ)アクリレートモノマーを上記範囲内の配合量にすることでヘラ付け性と厚盛り性のバランスの取れたパテを得ることが出来、さらに乾燥性、研削性、密着性、硬化物性についても優れている。
【0028】
請求項5記載のように、本発明にかかる下地補修用パテは、不飽和ポリエステル樹脂(30重量部〜65重量部の樹脂固形分と、反応性希釈剤として35重量部〜70重量部の単官能又は及び多官能(メタ)アクリレートモノマーとからなる)に、促進剤、安定剤、湿潤分散剤、充填剤、着色顔料を含有させることができる。
【0029】
上記各種剤を含有することでヘラ付け性と厚盛り性のバランスの取れたパテを得ることが出来、また硬化性、乾燥性、キメ、ス穴性、隠ぺい性、研削性、密着性、硬化物性についても優れている。
【0030】
前記不飽和ポリエステル樹脂固形分として、多塩基酸成分、多価アルコール成分、空乾性成分を用いて製造されているパテ用樹脂の固形分を使用できる。またパテ用樹脂には、汎用パテ用樹脂と防錆処理鋼板用樹脂とがあるが、その何れの固形分も使用でき、樹脂合成終了後に樹脂用安定剤を加え、希釈するモノマー(反応性希釈剤)の沸点以下に冷却後、モノマーを加え溶解することにより、反応性希釈剤とポリエステル樹脂固形分からなり、均一に混合された液状の不飽和ポリエステル樹脂が得られる。
【0031】
前記液状の不飽和ポリエステル樹脂は、防錆処理鋼板用樹脂と汎用パテ用樹脂とのいずれかを単独で使用してもよく、両者を混合してもよい。
【0032】
反応性希釈剤としては、単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーを使用できるが、そのうちでも炭素環式(メタ)アクリルモノマー(化合物)及び又は複素環式(メタ)アクリルモノマー(化合物)を使用できる。また、それぞれ単独で使用してもよく、数種類を混合してもよい。
【0033】
炭素環式(メタ)アクリルモノマーとしては、イソボニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンタン基やシクロヘキシル基を有する脂環式化合物系の(メタ)アクリレート化合物、ジ(メタ)アクリレート化合物およびフェニル基、フタレート基やビスフェノールA等を有する芳香族化合物系の(メタ)アクリレートモノマー、ジ(メタ)アクリレートモノマーがある。
【0034】
複素環式(メタ)アクリルモノマーには、五員環及び六員環の(メタ)アクリルモノマーを使用でき、望ましくはフラン環を有するテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート化合物、モルホリン環を有するアクリロイルモルフォリンやイソシアヌレート化合物、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレートなどの(メタ)アクリレートモノマー、ジ(メタ)アクリレートモノマーがある。
【0035】
前記反応性希釈剤は、不飽和ポリエステル樹脂固形分との相溶性が良く、低粘度(300cps/25℃以下)で、低揮発性で低臭であり、皮膚刺激性が少ない(PII値が3.
0以下)ものが望ましい。
【0036】
単官能アクリレートとして最も汎用的なメチルメタクリレートは、低粘度で不飽和ポリエステル樹脂の溶解性は良好であるが、臭気がきつく、皮膚刺激性は中程度(メーカーカ
タログ値では2以上〜5以下)で、感作性があるため、使用には適さない。
【0037】
また、ノンスチレン不飽和ポリエステル樹脂に使用されることがある2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)は、皮膚刺激性が少なく、低粘度、低臭で、比較的安価ではあるが、加熱硬化時に硬化ムラ、薄膜部の硬化不良が起こり、さらに、加熱時にモノマーの蒸発に起因する発煙(蒸気の飛散)現象が見られるため、主たる反応性希釈剤としては使用には適さない。
【0038】
前記炭素環式(メタ)アクリルモノマー(化合物)及び又は複素環式(メタ)アクリルモノマー(化合物)を、反応性希釈剤として単独又は2種以上混合して使用できる。
【0039】
希釈された不飽和ポリエステル樹脂の粘度は、500〜20000cps/25℃の範囲にあることが望ましい。
【0040】
反応性希釈剤と不飽和ポリエステル樹脂固形分との重量比は、35:65〜70:30であることが望ましい。すなわち、パテ中での反応性希釈剤の割合は13〜40%であることが望ましい。この範囲より反応性希釈剤の比が少なくなると、樹脂の粘度が高くなり、扱いにくくなると同時にパテ中の不飽和ポリエステル樹脂分が多くなり、乾燥性、研削性、密着性への悪影響を与える。また、前記の範囲より反応性希釈剤の比が大きくなると、不飽和ポリエステル固形分の不飽和基に対する反応性希釈剤の不飽和基の比が多くなり、反応性希釈剤の短分子のホモポリマーを生じることなどにより、乾燥性、密着性、耐水性などの諸物性の低下を生じるために望ましくない。
【0041】
促進剤としては、ナフテン酸又はオクチル酸の金属塩(コバルト、ジルコニウム、カルシウム、銅、亜鉛、マンガンなどの金属塩)及びジメチルアニリンやジエチルアニリンなどの第三級アミンを単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0042】
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メトキシフェノール、P−tブチルカテコール、ピロガロールなどのキノン類、メチルエチルケトンオキシムなどのオキシム類が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0043】
その他、本発明の効果を損なわない範囲で、湿潤分散剤、充填剤、着色顔料を配合することができる。
【0044】
湿潤分散剤には、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩又はポリカルボン酸系高分子活性剤などが使用できる。
【0045】
充填剤としては特に限定されないが、タルク、カオリン、クレー、マイカ、アルミナ、無水硅酸、含水硅酸、炭酸カルシウム、胡粉、ドロマイト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、リトポン、パーライト、ガラス質の中空バルーン、有機質の中空バルーン、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維などを使用できる。
【0046】
着色顔料としては、酸化チタン、鉄黒、弁柄、カーボンブラックやシアニンブルー等の有機顔料、アルミペースト等を使用できる。
【0047】
本発明に用いられる有機過酸化物は、従来からポリエステルパテの硬化剤として用いられるベンゾイルパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド等が挙げられ、可塑剤で希釈されたものを単独又は2種以上混合して使用できる。
【0048】
本発明の下地補修用パテは、主剤100重量部に対し上記有機過酸化物を主成分とする硬化剤を1〜4重量部望ましくは1.5〜3重量部混合して使用できる。
【0049】
請求項6に記載のように、硬化剤を配合し均一に混ぜ合わせた本発明の請求項1〜5のいずれかに記載の下地補修用パテを自動車ボディー等の損傷個所に塗付した後、3分〜30分のセットタイムを取ってから、温風乾燥機、近赤外線乾燥機、遠赤外線乾燥機、中遠赤線乾燥機などの乾燥機を用い、50℃〜120℃で5分〜40分加熱することにより、硬化・乾燥する。乾燥終了後、硬化・乾燥した下地補修用パテの表面を研磨し平滑にして
から、中塗り、上塗りの塗料などを塗布することができる。また、常温(室温)での自然乾燥もでき、気温20℃で3.5〜7時間以上(最長1日以内)経過すれば硬化・乾燥するので、その後に研磨することもできる。
【発明の効果】
【0050】
本発明の下地補修用パテおよび補修方法には、次のような優れた効果がある。
【0051】
単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーからなる反応性希釈剤が環式(メタ)アクリレートモノマーである不飽和ポリエステル樹脂を主体とするノンスチレン型補修用材料であり、この補修材料を用いることにより、低臭で、人体に対する悪影響が少なく、環境対応がなされ、また自動車ボディー等の塗装損傷個所の補修塗装において下地補修材料として、優れた乾燥性、研削性、密着性、耐水性、耐熱性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明にかかるノンスチレン型下地補修用パテについて実施の形態を説明する。
【0053】
本発明に使用される不飽和ポリエステル樹脂の固形分には、ポリライト(ディーエイチ・マテリアル株式会社)、ポリセット(ディーエイチ・マテリアル株式会社)、ゴーセラック(日本合成化学工業株式会社)、リゴラック(昭和高分子株式会社)、ユピカ(日本ユ
ピカ株式会社)、ポリマール(ジャパンコンポジット株式会社)などの不飽和ポリエステ
ル樹脂の固形分を使用できる。
【0054】
本発明に用いられる炭素環式(メタ)アクリレートモノマー、ジ(メタ)アクリレートモノマーにはイソボニル系化合物があり、これらはアロニックス(東亞合成株式会社製
)、ライトアクリレート(共栄社化学株式会社製)、ニューフロンティア(第一工業製薬株式会社製)、IBXA(大阪有機化学株式会社製)などの商品名(登録商標が含まれる)で市販されている。
【0055】
ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートモノマー、ジ(メタ)アクリレートモノマーはファンクリル(日立化成工業株式会社製)の商品名で、ジシク
ロペンタン基を有する(メタ)アクリレートアクリレートモノマー、ジ(メタ)アクリレートモノマーはIRR(ダイセルUCB株式会社製)、カヤラッド(日本化薬株式会社製)、ライトアクリレート(共栄社化学株式会社製)、LUMICURE(大日本インキ化学工業株式会社製)、NK−ESTER(新中村化学株式会社製)等の商品名で市販されている。
【0056】
シクロヘキシル基を有する(メタ)アクリレートモノマー、ジ(メタ)アクリレートモノマーがビスコート(大阪有機化学株式会社製)、ブレンマー(日本油脂株式会社製)デナコールアクリレート(ナガセ化成株式会社製)、ライトエステル(共栄社化学株式会社製)、アクリ
エステル(三菱レイヨン株式会社製)等の商品名で市販されている。
【0057】
また、フタレート基を有する(メタ)アクリレートモノマー、ジ(メタ)アクリレートモノマーはアロニックス(東亞合成株式会社製)、ビスコート(大阪有機化学株式会社製)等の商標で、フェニル基を有する(メタ)アクリレートモノマー、ジ(メタ)アクリレートモノマーがアロニックス(東亞合成株式会社製)、ビスコート(大阪有機化学株式会社製)、NKエステル(新中村化学株式会社製)等の商標で、ビスフェノールAを有するジ(メタ)アクリレートモノマーがライトアクリレート(共栄社化学株式会社製)の商品名で市販されている。
【0058】
さらに、本発明に用いられる複素環式(メタ)アクリレートモノマーとしてはテトラヒドロフルフリルメタクリレートがあり、ライトエステル(共栄社化学株式会社製)、ア
クリエステル(三菱レイヨン株式会社製)等の商品名で市販されている。また、アクリロイルモルフォリンはACMO(興人)の商品名で、イソシアヌレート化合物としてはアロニックス(東亞合成株式会社製)の商品名でアクリレートモノマーが、またファンクリル(日立化成工業株式会社製)、アロニックス(東亞合成株式会社製)、ニューフロンティア(第一工業製薬株式会社製)などの商品名でメタクリレートモノマーがそれぞれ市販されている。
さらにネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレートは、カヤラッド(日本化薬株式会社製)などの商品名で市販されている。
【0059】
促進剤としては、大日本インキ化学工業株式会社、日本化学産業株式会社、キクチカラー株式会社、東栄化工株式会社などから市販されているナフテン酸又はオクチル酸の金属塩(コバルト、ジルコニウム、カルシウム、銅、亜鉛、マンガンなどの金属塩)及び三星化学研究所株式会社から市販されているジメチルアニリンやジエチルアニリンなどの第三級アミンを、単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0060】
重合禁止剤としては、川口化学株式会社から市販されているハイドロキノン、宇部興産株式会社から市販されているメトキシフェノール、P−tブチルカテコール、大日本製薬で市販されているピロガロールなどのキノン類、東亞合成で市販されているメチルエチルケトンオキシムなどのオキシム類、又は日本合成化学工業株式会社のゴーセラックSDの商品名で市販されるものが挙げられる。
【0061】
硬化剤としては、化薬アクゾ株式会社、川口薬品株式会社、日本油脂株式会社で市販されるベンゾイルパーオキサイド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンパーオキサイ
ド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド等の液状硬化剤又はペースト状硬化剤を使用できる。
【実施例1】
【0062】
以下、本発明の下地補修用パテについて実施例を挙げて説明する。
【0063】
本実施例の下地補修用パテは下記表1の材料を混合撹拌することによって製造される(材料詳細は前述)。
【0064】
【表1】

【0065】
以下、詳細に説明する。なお、以下、「部」は「重量部」を示す。
【0066】
○樹脂1〜5:ノンスチレン不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂の固形分を反応性希釈剤としての(メタ)アクリレートモノマー、ジ(メタ)アクリレートモノマーで希釈し、均一に混合することによって下記の表2に示すものが得られた。
【0067】
【表2】

【0068】
ポリセット1875はディーエイチ・マテリアル株式会社より市販されている防錆鋼板用不飽和ポリエステル樹脂であり、ポリセット1147はディーエイチ・マテリアル株式会社より市販されている汎用のパテ用不飽和ポリエステル樹脂である。
【0069】
ライトアクリレートBP−4EA(ビスフェノールAのPO付加物ジアクリレート)(共栄社化学株式会社製)は炭素環式のジアクリレートであり、ファンクリルFA152
M(ジシクロペンテニルメタクリレート)(日立化成工業株式会社製)は炭素環式のメタアクリレートであり、およびIBXA(イソボニルアクリレート)(大阪有機化学株式会社製)は炭素環式のアクリレートである。
【0070】
ライトアクリレートBP−4EAは粘度が700〜900cpsと高いが、不飽和ポリエ
ステル樹脂の反応性希釈剤として使用できる。但し樹脂の粘度が高くなり取扱いにくくなるので、反応性希釈剤としての(メタ)アクリレートモノマーは300cps以下がのぞま
しい。
【0071】
ライトエステルTHF(テトラヒドロフルフリルメタクリレート)(共栄社化学株式会社製)は複素環式の(メタ)アクリレートモノマーであり、カヤラッドR−604(ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート)(日本化薬株式会社製)は複素環式のジアクリレートモノマーである。
【0072】
不飽和ポリエステル樹脂の固形分を反応性希釈剤としてのスチレンおよび(メタ)アクリレートモノマーにより希釈して均一に混合することによって、下記表3の樹脂6〜8が得られた。
【0073】
【表3】

【0074】
ライトエステルM(メチルメタクリレート)(共栄社化株式会社製)とライトエステルHO(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(共栄社化株式会社製)は鎖状のメタクリレートモノマーである。
【実施例2】
【0075】
上記の表2に示す配合により混合撹拌して下記の表4に示す下地補修用パテの主剤を調整した。
【0076】
【表4】

【0077】
表4の主剤は良好なペースト状であり、臭気が少なく、かつ皮膚刺激性の少ないものが得られた。硬化剤として主剤100部に対し2部のF−10(化薬アクゾ株式会社製)を加え、この混合物に10分セッティングタイムを取った
後、60℃の温度で20分間、近赤外線乾燥機(テーピー熱学株式会社製)で加熱した。加熱終了後、タックはなく5分冷却後、#80ペーパーで目詰りすることなく研磨できた。その後、ペーパーの番手を変えながら研磨し、車両補修用の中塗りおよび上塗り塗料を塗布することにより、光沢に優れた仕上がりを得た。
【0078】
ライトエステルTHFは粘度5cpsと低粘度であり、PII値は0.8と低くかつ低臭で、不飽和ポリエステル樹脂の溶解性に優れたメタクリレートモノマーである。固形分45%の樹脂1は粘度1080cps/25℃と適正な粘度であった。6%ナフテン酸コバルトは大日本インキ化学工業株式会社の商品名であり。ジメチルアニリンは三星化学研究所株式会社の商品名であり、共に促進剤としての役目をなす。ゴーセラックSDは日本合成化学工業株式会社の商品名で市販されている安定剤であり、キノン系化合物を酢酸エチルで溶解したものである。ディスパロン1830は商品名で、楠本化成株式会社の添加剤(湿潤分散剤)である。クラウンタルクSCは松村産業株式会社製のタルク粉末(充填剤)である。タイペークCR−90は石原産業株式会社製の酸化チタン粉末(着色顔料)である。
【0079】
以下、同様に作成した実施例2〜5を下記の表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
上記の混合物は全て良好なペースト状であり、臭気が少なく、皮膚刺激性も少なかった。硬化剤を混合撹拌してから鋼板に塗布した。加熱もしくは室温で乾燥させた後、研磨し、その表面に塗装することにより良好な仕上がりを得た。
【0082】
なお、フローレンG700は共栄社化学株式会社製の添加剤(湿潤分散剤)である。クラウンタルクDRは松村産業株式会社製のタルク粉末であり、炭酸カルシウムは竹原化学工業株式会社製である。
【0083】
以下、同様に調整した比較例1〜3を下記の表6に示す。
【0084】
【表6】

【0085】
これらの実施例1〜5、比較例1〜3による各試験結果を下記の表7に示す。
【0086】
実施例6は実施例1のパテを加熱せず、室温で硬化させたものである。
【0087】
【表7】

【0088】
試験は主剤100重量部に対し硬化剤F−10を2重量部配合したもので行った。
【0089】
室温でのゲルタイム、及び特性値は温度23〜24℃で測定した。
【0090】
加熱条件は近赤外線乾燥機(テーピー熱学株式会社製)で行い、非接触の温度計で測定し、温度一定になるよう照射距離を調整して行った。
【0091】
なお、実施例1〜5は60℃20分、60℃30分、100℃20分のいずれの加熱条件下でも硬化乾燥した。
【0092】
加熱後の硬化・乾燥性は加熱終了直後にタックの有無をチェックし、自然放置で冷却し、加熱終了5分後に、#80のペーパーで研磨した時の目詰りの有無、および剥離等の異常を起こさず研磨できるかどうかについて試験した。
【0093】
塗膜上の硬化性は水性塗料が使用されているパネルに厚みを変えてパテ付けし、薄膜と厚膜部で硬化ムラを生じないか(硬化ムラを生じると硬化後の表面が点状にムラになるか
、もしくは硬化後の表面の色が異なる)、また薄膜部が硬化せずに金ベラで簡単に除去さ
れてしまうかなどについて試験した。
【0094】
蒸気の発生は加熱中に反応前のモノマー等が蒸気となって白煙状に舞い上がることでこれの有無を観察した。この現象は性能的には問題ないが、環境対応の面からは望ましくないと判断される。
【0095】
防錆鋼板への密着性は70×150×0.8mmのボンデ鋼板を#80ペーパーで研
磨後脱脂したものに1mm厚でパテ付けし加熱乾燥後、翌日折り曲げてパテの密着状態を観察した。凝集剥離を◎、界面剥離を×、その間を○、△として評価した。
【0096】
耐熱密着性は同様の試験片を翌日120℃で30分焼き付け、その後に同様に折り曲げて密着性を評価した。
【0097】
耐水密着性は70×150×0.8mmのボンデ鋼板に長さ方向にテーパー状にパテ
付けし、研磨して一方の端を厚み0mm、他方の端を1mmとテーパー状に膜厚調整後、自動車補修用塗料を塗装し、翌日60℃の温水に6時間浸漬した。薄膜部でのブリスターのチェックと5mm幅にナイフでカットし、パテの付着度を試験することにより耐水性の評価をした。
【0098】
バーコル硬度はBARBAR COLMAN社製 NO.935を使用する(50以上が必要な値)。
【0099】
上記の実施例1〜6は全て臭気が少なく、硬化物としての性能も良好であり、自動車ボディー等の1〜5塗装損傷個所の補修塗装での下地補修用パテとしての要素を満たしている。
【0100】
実施例4、実施例5について耐水性が劣るのは汎用樹脂を併用しているためで、ボンデ鋼板上での耐水密着性が低下したからであり、反応性希釈剤の影響ではない。
【0101】
一方、比較例1はスチレンを使用しているために環境上の問題があり、比較例2では臭気が強く、また感作性が有りPII値も2〜5と高く、人体に対する影響が大きい。また、60℃20分の加熱では硬化しなかった。比較例3は臭気が少なく、PII値も小さいが、加熱時に蒸気の発生が見られ、水性塗膜上にパテ付けして加熱すると、薄膜部での硬化性が悪く、中央部は淡い黄土色になるのに対し、エッジの薄膜部は白っぽいままで未硬化の状態で残った。これについては加熱終了後に金ベラで簡単に除去される場合があるか、若しくは研磨時に薄膜部が剥れ、フェザーエッジを得ることができなかった。また、耐水性も薄膜部でのブリスターと厚膜部での密着性が不十分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ボディー等の塗装損傷個所を補修するための単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーを反応性希釈剤とする不飽和ポリエステル樹脂を主体とする主剤と、有機過酸化物を主成分とする硬化剤とを含有するノンスチレン型下地補修用パテであって、
前記単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーからなる反応性希釈剤が、環式有機化合物である不飽和ポリエステル樹脂からなることを特徴とするノンスチレン型下地補修用パテ。
【請求項2】
前記反応性希釈剤が環式有機化合物であり、かつ脂環式化合物又は芳香族化合物等の炭素のみから構成される環構造を持つ炭素環式(メタ)アクリレートモノマー、及び又は炭素とそれ以外の酸素、窒素、硫黄などの元素から構成される環構造を持つ複素環式(メタ)アクリレートモノマーからなることを特徴とする請求項1記載のノンスチレン型下地補修用パテ。
【請求項3】
前記(メタ)アクリレートモノマーは、皮膚刺激性指数(PII値)が3以下で、かつ粘度が300cps/25℃ 以下である(メタ)アクリレートモノマーであることを特徴とする請求項2記載のノンスチレン型下地補修用パテ。
【請求項4】
前記炭素環式(メタ)アクリレートモノマー及び又は複素環式(メタ)アクリレートモノマーが、補修用塗料の主剤の10.5〜45.5重量部、望ましくは13〜40重量部であることを特徴とする請求項2記載のノンスチレン型下地補修用パテ。
【請求項5】
促進剤、安定剤、湿潤分散剤、充填剤および着色顔料との混合物を、前記主剤に添加したペースト状からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のノンスチレン型下地補修用パテ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の前記ノンスチレン型下地補修パテを用いて補修する方法であって、
前記主剤に有機過酸化物を主成分とする前記硬化剤を混ぜ合わせた後、3分〜30分のセットタイムを取り、50℃〜120℃の温度で5〜40分の加熱するか又は常温で3.5時間以上維持するかにより硬化させて乾燥させ、続いて表面を研磨したのちに、上塗り塗料にて研磨した表面を塗装することを特徴とする自動車ボディー等の補修方法。


【公開番号】特開2007−224211(P2007−224211A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48857(P2006−48857)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(500314382)株式会社ソーラー (5)
【Fターム(参考)】