説明

ハイドロカーボン測定装置

【課題】サンプルガス中のハイドロカーボン類の濃度を短時間で検出するハイドロカードン測定装置を提供する。
【解決手段】サンプルガス中のTHC濃度を検出するFID1を有し、FID1によって検出したTHC濃度からサンプルガス中のハイドロカーボンの成分比率を算出し、THC濃度と成分比率に基づいて、サンプルガス中に含まれるHC類の濃度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイドロカーボン測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスに対する規制、特にハイドロカーボン(以下、HC)成分に関する規制では、水素炎イオン化検出器(以下、FID)によって検出する全ハイドロカーボン(以下、THC)による規制の他に、ノンメタンオーガニックガス(以下、NMOG、NMOG=THC−メタン+全アルデヒド)、ホルムアルデヒド(以下、HCHO)、またはノンメタンハイドロカーボン(以下、NMOG、NMOG=THC−メタン)による規制が、既に米国において導入されている。
【0003】
しかし、HCHOに代表されるアルデヒド類は、通常のFIDではほとんど感度を示さない。このアルデヒド、あるいはHCHOを検出する分析方法として代表的なものとして、例えばカートリッジ液体クロマトグラフ法(以下、カートリッジHPLC法)、あるいは還元FID法(ガスクロマトグラフ法、以下、GC)法がある。
【0004】
従来、還元FID法としてカラムとFIDとのラインと途中に還元触媒を設け、サンプルガスをカラムに導入して成分を分離し、カラムから出てくるアルデヒド成分を順次メタンに還元して検出するものが、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平7−260764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の発明では、HCHOに代表されるアルデヒドを検出する分析方法では、アルデヒド類検出専用の分析装置、分析に必要な溶剤や器具、場所などが必要となり、多額の設備費が必要となる。また基本的にバッチ処理であるためTHCとの同時測定、連続測定はできず、サンプリングから結果が出るまでの間に、GCであれば感度向上のための排出ガスの濃縮、HPLCであれば抽出、さらには共通として成分の分離というような多くの工数と数時間程度の長い時間を要するため、実験評価の効率が非常に悪い、といった問題がある。
【0006】
本発明ではこのような問題点を解決するために発明されたもので、自動車などの内燃機関から排出される排出ガス中のHC成分をFIDで検出し、THC濃度の他に、アルデヒド(全アルデヒドまたは個別アルデヒド)、メタン、NMOG、NMHCの内、少なくとも一つのHC類の濃度を実用的で精度良く、かつ勘弁に同時測定する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハイドロカーボン測定装置は、燃焼排ガスとしてのサンプルガス中の全ハイドロカーボン濃度を検出する第1水素炎イオン化検出手段と、全ハイドロカーボン濃度に応じて定まる全ハイドロカーボン中のハイドロカーボン類の成分比率を算出するハイドロカーボン成分比率算出手段と、検出された全ハイドロカーボン濃度と、ハイドロカーボン成分比率算出手段に基づいてサンプルガス中に含まれる少なくとも一つのハイドロカーボン類のハイドロカーボン濃度を検出する濃度検出手段を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、第1水素炎イオン化検出手段によって検出した全ハイドロカーボン濃度に基づいて、サンプルガス中に含まれるハイドロカーボン類の濃度を検出することができるので、例えばアルデヒド類の専用の検出装置などを設けずにアルデヒド類などの検出ができ、装置の小型化、実験時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1実施形態の構成を図1のブロック図を用いて説明する。この実施形態のHC測定装置10は、エンジンなどから排出される排気ガス(サンプルガス)と、水素炎発生用の空気と水素が導入される第1水素炎イオン化検出手段であるFID1と、FID1によって検出されたTHC濃度の信号に基づいて、THCの他にアルデヒド、メタン、NMOG、NMHCなどの内、少なくとも1つのHC類の濃度を演算処理して検出する濃度検出手段である演算部2と、検出されたTHC濃度や演算部2により検出された各種HC類を、所定時間積算して積算濃度(あるいは平均濃度)を算出する濃度積算手段である積算部3と、演算部2に検出されたTHC濃度や各種HC類濃度、または積算部3によって算出された積算濃度(あるいは平均濃度)を表示する濃度表示手段である表示部4と、を備える。
【0010】
FID1は、空気と水素によってサンプルガスを水素炎により燃焼させ、その際に生じるイオンを計測して、THC濃度を検出し、そのTHC濃度を電気信号により演算部12へ伝達する。
【0011】
演算部2、積算部3は例えばパーソナルコンピュータを使用し、FID1からのTHCの信号に基づいてパーソナルコンピュータ内の専用のデータ処理プログラムによって、THCのリアルタイムの濃度や各種HC類の積算濃度(あるいは平均濃度)の測定を行う。また、表示部4はパーソナルコンピュータに連結されるモニタ、またはプリンタである。
【0012】
次に本発明のHC検出方法について図2のフローチャートを用いて説明する。
【0013】
ステップS201では、FID1にサンプルガスと空気と水素を導入し、FID1によってサンプルガス中のTHC濃度を検出する。
【0014】
ステップS202では、演算部2において、サンプルガス中の各種HC類の中で検出する種類のHCの含有量(成分比率)を図3に示すマップに基づいて検出する。図3のマップは性状の異なる様々な燃料で例えばディーゼルエンジンを運転したり、ディーゼルエンジンの燃焼室形状を変化させたときのサンプルガス中のTHCに対する各種HC類(NMOG、アルデヒド類総量、メタン、NMHC、HCHO)の含有量を示したものであり、サンプルガス中のTHC含有量(濃度)が多くなると各種HC類の含有量(濃度)が多くなる。図3に示すマップがハイドロカーボン成分比率算出手段、第1記憶手段を構成する。
【0015】
ステップS203では、ステップS202で検出した各種HC類を所定時間積算し、積算濃度、または所定時間で割った平均濃度を算出する。ここでは或る所定時間積層することで、検出したHCの濃度を正確に検出することができる。
【0016】
ステップS204では、ステップS201で検出したTHCとステップS203で検出した各種HC類の濃度を表示部4に表示する。
【0017】
これにより、FIDでTHCを検出するだけで、サンプルガス中に含まれる各種HC類を検出することができる。
【0018】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0019】
FID1によって検出されたTHC濃度によって各種HC類の濃度を検出するので、FID1の他にHC類検出用の装置、例えばGC、HPLCなどの分析装置を必要とせず、各種HCを検出するので検出装置のコストを削減できる。また、装置を小型化することができる。また、THCと各種HCをほぼ同時に検出することができ、測定時間を短縮することができる。
【0020】
次に本発明の第2実形態について図4のブロック図を用いて説明する。この実施形態はTHC濃度を検出するFID1の他に、メタン濃度のみを検出可能な第2水素炎イオン化検出手段であるFID5を備える。その他の構成については第1実施形態と同じ構成なので、ここでの説明は省略する。この構成によって、サンプルガス中からメタン成分を除いたNMHCに対する各種HC類を検出することができる。なお、演算部2ではFID1とFID5から伝達されるTHC、メタンによってNMHC中の各種HC類の濃度を算出する。
【0021】
FID5はTHCからメタンを分離して、メタン濃度を検出する装置である。また、サンプルガスと空気と水素が導入される導入口ハイドロカーボン除去手段である酸化触媒部6を設けており、この酸化触媒部6を約300℃に加熱し、メタン以外の各種HC類を酸化除去する。なお、酸化触媒部6をFID5へ導入される前のガス供給路に設けても良い。メタンは酸化触媒部6でも酸化除去されずに残るため、FID5はメタン濃度を連続的に検出することができる。例えば自動車のエンジンなど排気ガスを触媒処理をした場合、THC中のメタンが酸化処理できずに排出されるが、FID5によってメタン濃度を検出し、演算部2でTHC濃度からメタン濃度を除したNMHC中の各種HC類を求めることができる。
【0022】
次にこの実施形態のHC検出方法について図5のフローチャートを用いて説明する。
【0023】
ステップS501では、FID1とFID5にサンプルガスと空気と水素を導入し、FID1によってサンプルガス中のTHC濃度を検出し、FID5によってサンプルガス中のメタン濃度を検出する。なお、FID5に導入されるサンプルガスは、酸化触媒部6によってメタン以外の各種HC類が酸化除去される。
【0024】
ステップS502では、演算部2において、FID1によって検出されたTHC濃度からFID5によって検出されたメタン濃度を除いたNMHCを算出する。そしてNMHC中の各種HC類の中で検出する種類のHCの含有量を図6に示すマップに基づいて検出する。図6のマップはNMHCに対する各種HC類(NMOG、アルデヒド類総量、HCHO)の含有量を示したものであり、サンプルガス中のNMHCの含有量(濃度)が高くなると各種HC類の含有量(濃度)が多くなる。なお、NMHC中の各種HC類はTHC中の各種HC類よりも正確に測定することができる。図6に示すマップがハイドロカーボン成分比率算出手段、第2記憶手段を構成する。
【0025】
ステップS503では、ステップS502で検出した各種HC類を所定時間積算し、各種HC類の積算量から積算濃度、または所定時間で割った平均濃度を算出する。これは、或る所定時間積算することで、検出した各種HC類の濃度を正確に検出することができる。
【0026】
ステップS504では、ステップS502で算出したNMHCとステップS503で検出した各種HC類の濃度を表示部4に表示する。
【0027】
これにより、FID1でTHC濃度を、またFID5でメタン濃度を検出するだけで、NMHC中に含まれる各種HC類を検出することができる。
【0028】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0029】
FID5によって排出ガス中のメタン濃度を検出し、FID1によって検出されたTHC濃度からメタン濃度を除いたNMHCに対する各種各種HCの濃度を検出するので、排気ガスに触媒処理を行った後の排気ガスにおいてもFID1、FID5の他にHC類検出用の装置、例えばGC、HPLCなどの分析装置を必要とせず、各種HC類の濃度を検出することができる。また、NMHC中のHC類の濃度を算出することができ、各種HC類の濃度を正確に測定することができる。
【0030】
また、FID1、FID5の他にHC類検出用の装置、例えばGC、HPLCなどの分析装置を必要とせず、各種HCを検出するので検出装置のコストを削減できる。また、装置を小型化することができる。また、THCと各種HCをほぼ同時に検出することができ、測定時間を短縮することができる。
【0031】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
複数の種類のハイドロカーボン濃度を検出する分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態を示すHC測定装置のブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態の各種HC類を測定するフローチャートである。
【図3】本発明の第1実施形態のTHCと各種HC類の関係を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示すHC測定装置のブロック図である。
【図5】本発明の第2実施形態の各種HC類を測定するフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態のTHCと各種HC類の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 FID(第1水素炎イオン化検出手段)
2 演算部(濃度検出手段)
3 積算部(濃度積算手段)
4 表示部(濃度表示手段)
5 FID(第2水素炎イオン化検出手段)
6 酸化触媒部(ハイドロカーボン除去手段)
10 HC測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼排ガスとしてのサンプルガス中の全ハイドロカーボン濃度を検出する第1水素炎イオン化検出手段と、
全ハイドロカーボン濃度に応じて定まる全ハイドロカーボン中のハイドロカーボン類の成分比率を算出するハイドロカーボン成分比率算出手段と、
前記検出された全ハイドロカーボン濃度と、前記ハイドロカーボン成分比率算出手段に基づいて前記サンプルガス中に含まれる少なくとも一つのハイドロカーボン類のハイドロカーボン濃度を検出する濃度検出手段を備えることを特徴とするハイドロカーボン検出装置。
【請求項2】
前記ハイドロカーボン成分比率算出手段は、前記全ハイドロカーボン濃度に対するハイドロカーボン類の濃度を記憶した第1記憶手段であり、
前記濃度検出手段によって検出した前記ハイドロカーボン濃度を所定時間積算し、前記ハイドロカーボン濃度の積算濃度を算出する濃度積算手段と、
前記濃度検出手段によって検出された前記ハイドロカーボン濃度と、前記濃度積算手段によって積算された前記ハイドロカーボン濃度の積算濃度を表示する濃度表示手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のハイドロカーボン検出装置。
【請求項3】
前記濃度検出手段によって検出される前記ハイドロカーボン濃度は、アルデヒド、メタン、ノンメタンオーガニックガス、ノンメタンハイドロカーボンの内少なくとも一つの種類のハイドロカーボンであることを特徴とする請求項1または2に記載のハイドロカーボン検出装置。
【請求項4】
前記サンプルガス中のメタン以外のハイドロカーボンを除去するハイドロカーボン除去手段と、
前記ハイドロカーボン除去手段によって残ったメタンの濃度を検出する第2水素炎イオン化検出手段と、を備え、
前記ハイドロカーボン成分比率算出手段は、前記全ハイドロカーボン濃度から前記メタン濃度を除したノンメタンハイドロカーボン中のハイドロカーボン類の成分比率を算出することを特徴とする請求項1に記載のハイドロカーボン検出装置。
【請求項5】
前記ハイドロカーボン成分比率算出手段は、前記ノンメタンハイドロカーボン濃度に対するハイドロカーボン類の濃度を記憶した第2記憶手段であり、
前記濃度検出手段によって検出した前記ハイドロカーボン濃度を所定時間積算し、積算ハイドロカーボン濃度を算出する濃度積算手段と、
前記濃度検出手段によって検出された前記ハイドロカーボン濃度と、前記濃度積算手段によって積算された前記積算ハイドロカーボン濃度を表示する濃度表示手段と、を備えることを特徴とする請求項4に記載のハイドロカーボン検出装置。
【請求項6】
前記濃度検出手段によって検出される前記ハイドロカーボン濃度は、アルデヒド、ノンメタンオーガニックガスの内少なくとも一つの種類のハイドロカーボンであることを特徴とする請求項4または5に記載のハイドロカーボン検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−184114(P2006−184114A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377414(P2004−377414)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】