説明

ハイドロコロイド含有食品組成物及びそれを用いた食品の製造方法

【課題】ソース及びグレーズなどの、温かい状態で流動性を有する食品組成物を、室温で容易に保存するための方法、及びその方法によって得られた食品組成物を用いて、完成した食品を簡単に調理する方法を提供する。
【解決手段】調味料、香辛料、野菜類、肉類、魚類、ナッツ類、及び果実類から選択される1種以上と、ペクチン、カラギーナン、及びキサンタンから選択される1種以上のハイドロコロイドとを用いて、付与された形状を25℃において保つことができ且つ加熱することによって融解可能な第一の食品組成物を調製する。得られた第一の食品組成物を、調理済又は半調理済み又は未調理の第二の食品及び/又は食品材料とともに加熱調理することによって、完成した食品を簡単且つ失敗することなく調理することができる。第一の食品組成物はソース又はグレーズであることが好ましく、加熱して融解した状態の本発明の食品組成物は優れた質感を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め所定の形状に成形され且つその形状が25℃で保持され、しかも加熱により流動可能となるハイドロコロイド含有食品組成物、及びそれを用いた食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調理済みの食品を製造してそれを顧客に提供する外食産業、例えば、ファーストフード店、ファミリーレストラン、及びレストランなどでは、客から注文された食品を速やかに調理して顧客に提供することが必要とされている。このような産業では、調理作業の効率を高めるとともに、常に一定した高い品質の食品を提供できるようにする方法が必要とされている。
【0003】
調理作業の効率を高めるためには、完成間近の状態に予め調理しておいた食品を準備しておき、客から注文を受けてから追加の調理を行って食品を完成させることも行われている。料理の上にかけるソース又はグレーズなどは、適切なタイミングで適切な加熱状態にしたものを料理完成直前に準備する必要があり、しかも一回当たりに取り扱う量がそれほど多くないために加熱しすぎになりやすいので、加熱状態に注意を払わなければならない。
【0004】
一方、食品素材を室温で取り扱いやすい状態に保ち且つ必要に応じて使用する方法として、例えば、粉末調味料と食品用結着剤としてのハイドロコロイドとを含む調味料シートを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1)。この発明は、ハイドロコロイドを用いて即席ラーメンやカップ麺の調味料をフィルム状に成形し、麺とそのフィルム状調味料に湯を注いで調理するときにそのフィルム状調味料が湯に溶けて、ラーメンのスープに調味料が容易に分散するというものである。
【0005】
また、調味料及び/又は香辛料を含有し、且つ可食性天然高分子物質又はその誘導体を主成分として含むものをマトリックスとする成形体であるフィルム又はシート状の調味料及び/又は香辛料が知られている(例えば、特許文献2)。しかし、このシート状調味料に用いられる天然高分子物質としてあげられているものは、タンパク質およびでんぷんなど(特許文献2の2頁左下欄)であり、加熱により融解し流動化する態様のものは記載されていない。
【0006】
また、ハイドロコロイドフィルム形成材料と、活性剤とを含有するマイクロカプセルからなる可食性フィルムが知られている(例えば、特許文献3)。これは、口中の水分によってフィルムが分散又は溶解して、フィルムに含まれる活性剤を放出するというものである。
【0007】
さらに、ペクチンなどの基材に香料を含有させ、レンジ加熱によってその香料を食品に移すためのフィルム又はシート状の香り入り可食片が知られている(例えば、特許文献4)。この香り入り可食片は、加熱により溶解して、香りが食品に移るというものである。
【特許文献1】特開2007−195518号公報
【特許文献2】特開昭52−108058号公報
【特許文献3】特表2005−522991号公報
【特許文献4】特開2007−74969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の料理の上にかけるソース及びグレーズなどを、室温で取り扱いやすい形態にして保存しておき、それを必要な時に食品の調理に用いることができれば、調理に要する作業時間を短くでき、かつ調理のための手順を簡単にすることができる。また、そのような方法は、料理すなわち食品ためのソース及びグレーズへの応用に限られることなく、加熱時に流動可能な状態であることが好ましい食品又は食品材料にも応用できる。さらに、複数回分の使用量のソース又はグレーズなどを予め調製しておき、それを1回分の使用量に分けて、取り扱い易い状態に保存しておくことができれば、調理作業上便利である。そのためには、加熱時には融解して流動性を有するが、冷却した場合には流動せずに付与された形状を室温で保つことができ、再び加熱した場合には融解して再度流動化するソース又はグレーズがあれば、調理の作業の効率化及び調理時間の短縮などを図ることができて便利である。
【0009】
上記のソース又はグレーズなどは、再加熱により均一かつ滑らかな融解状態となる必要があり、しかも融解した状態での舌触りが優れたものでなくてはならず、かつソース又はグレーズの本来の風味が損なわれてはならない。
【0010】
本発明者らは、種々検討した結果、加熱された状態で流動性を有するソース及びグレーズなどの食品にハイドロコロイドを添加することによって、冷却したときに付与された所定の形状を25℃において保つことができ、しかも加熱した場合には再度融解して流動可能となるようにした第一の食品組成物を調製しておき、この第一の食品組成物を、調理済み又は半調理済み又は未調理の第二の食品及び/又は食品材料とともに加熱調理して、最終的に完成された食品を製造することによって、調理に手間がかかるソース又はグレーズなどを用いた食品が非常に簡便に製造できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、ハイドロコロイドが添加されていることによって、付与された所定の形状を25℃において保つことができ、かつ加熱により融解可能である第一の食品組成物を、調理済又は半調理済み又は未調理の第二の食品及び/又は食品材料とともに加熱調理する工程を含む、食品の製造方法を提供するものである。
【0012】
上記方法においては、付与された所定の形状を25℃において保つことができるようにした前記第一の食品組成物を、前記の第二の食品及び/又は食品材料の上に載せるかあるいは前記第二の食品及び/又は食品材料に入れ、次に加熱する工程を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の食品の製造方法においては、前記第一の食品組成物が、加熱されることによって融解したときにソース又はグレーズとなるものであることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明においては、第二の食品組成物のあらかじめ付与された所定の形状が、シート状又はフレーク状であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明に用いるハイドロコロイドは、ペクチン、カラギーナン、及びキサンタンからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0016】
すなわち、上記の本発明の食品の製造方法に用いる上記第一の食品組成物は、調味料、香辛料、野菜類、肉類、魚類、ナッツ類、及び果実類から選択される1種以上と、ペクチン、カラギーナン、及びキサンタンから選択される1種以上のハイドロコロイドとを含み、付与された所定の形状を25℃で保つことができ、且つ加熱した場合には融解して流動しうることを特徴とするものである。
【0017】
上記第一の食品組成物に用いるためのハイドロコロイドは、20〜70%のDE値(エステル化度)を有するペクチンを含むことが好ましく、40〜65%のDE値を有するペクチンを含むことがさらに好ましい。
【0018】
第一の食品組成物に用いるためのハイドロコロイドは、40〜50%のDE値(エステル化度)を有するペクチンと0〜35%、好ましくは20〜35%のDE値を有するペクチンとを含むことがさらに好ましい。この場合、0〜35%のDE値を有するペクチンは、アミド化されていないペクチンであることがさらに好ましい。
【0019】
あるいは、第一の食品組成物に用いるためのハイドロコロイドが、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、κ-ιハイブリッドカラギーナンから選択される1種以上を含むことも好ましい。κ-ιハイブリッドカラギーナン(κ-ι hybrid carrageenan)とは、一つの分子中にκ(カッパ)及びι(イオタ)構造を合わせ持つハイブリッドカラギーナンである。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、ソース又はグレーズなどの食品を、ハイドロコロイドの作用によって、付与された所定の形状を25℃において保つことができる第一の食品組成物とすることができる。この第一の食品組成物は常温で取り扱いやすく、しかも加熱した場合には融解して流動可能な状態に戻すことができる。したがって、ソース又はグレーズなどを予め準備し、一回ごとに使用する量に分けて取り扱い易い形態で保存し、使用する場合には、必要な量だけを用いることができる。それにより、最終的な食品を調理する時の手間を省くことができ、少量のソース又はグレーズなどを取り扱っても過熱しすぎるなどの失敗をするおそれを少なくできる。しかも、本願発明の第一の食品組成物は、加熱して融解したときに均一かつ滑らかな状態となり、舌触りなどの質感に優れたものである。
【0021】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の方法では、予め準備した、加熱時に流動性を有する第一の食品組成物、たとえばソース及びグレーズなどにハイドロコロイドを添加し、これにシート及びフレークなどから選択される所望する所定の形状を付与する。ハイドロコロイドを含む第一の食品組成物は、冷却した場合にはハイドロコロイドの作用によってゲル化して、付与された所定の形状を25℃で保つことができ、これは室温で容易に取り扱うことができる。次に、最終的に完成した形態の食品を調製するときには、この第一の食品組成物を、最終的な食品を構成する調理済み又は半調理済み又は未調理の第二の食品及び/又は食品材料とともに加熱する。具体的には、たとえば、チキンソテー、ポークソテー、及びハンバーグなどの調理済み又は半調理済みの第二の食品の上に、25℃で所定の形状を保ち且つ溶融時にはソース又はグレーズとなる第一の食品組成物を載せて、任意の加熱方法、例えば、オーブンまたはレンジを使用して、第一の食品組成物及び第二の食品をともに加熱することにより、流動可能な状態のソース又はグレーズが上がけされたチキンソテーなどの食品を作ることができる。
【0022】
本発明の第一の食品組成物は、食品の上にかけるソース及びグレーズに限られず、例えば、肉又は魚の味付け用調味ソース、中華料理の具材と混ぜる調味ソース、パスタ用ソース、及びピザの具材と混ぜるソースなど、加熱時に融解し流動性を有するものであればどのような食品組成物であってもよい。また、第一の食品組成物は、温められて流動性を再び示す形態の食品であっても、あるいは、加熱によって一旦融解した後で第二の食品又は食品材料とのさらなる加熱調理により、最終的に得られる食品中では流動性をもはや示さないものであってもよい。本発明で用いる第二の食品としては、上述したようなチキンソテー及びポークソテーなどの調理済みの食品に限られず、下ごしらえをしてあるか又は未だ加熱をしていない肉、魚、及び/又は野菜などの半調理済み又は未調理の任意の食品材料を用いることもできる。
【0023】
上述したとおり、最終的な食品を製造するための本発明の方法は、上記第二の食品及び/又は食品材料を、第一の食品組成物とともに加熱してする工程を含む。この場合、第一の食品組成物が食品の上にかけるソース又はグレーズである場合には、第一の食品組成物を第二の食品及び/又は食品材料の上に載せて、第一の食品組成物と第二の食品及び/又は食品材料をともに加熱して調理することができる。また、第一の食品組成物を第二の食品及び/又は食品材料に入れてから、加熱して調理を行ってもよい。ここで「入れる」とは、例えば第一の食品組成物を第二の食品及び/又は食品材料で挟むこと又は巻くこと、あるいは第二の食品及び/又は食品材料と混合するなどの任意の方法によって、第一の食品組成物を第二の食品及び/又は食品材料に組み込むことをいう。第一の食品組成物を第二の食品及び/又は食品材料に入れて調理する具体例としては、肉または魚と、野菜または果実との重ね焼き、アスパラガスなどの野菜の肉巻き、ピザの具に混ぜるソース、及び中華料理の調味ソースなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
本発明の特に好ましい食品の製造方法としては、第一の食品組成物が食品の上掛けに使うソース又はグレーズであり、チキンソテーなどの第二の食品の上に載せて加熱する方法が挙げられる。ソース及びグレーズは、食品分野では良く知られているものである。
【0025】
第一の食品組成物はハイドロコロイドを含むことによって、冷却したときにゲル化して、その有する形状を25℃において保つことができるが、その形状はいかなる形状であってもよく、特定の形状に限定されない。第一の食品組成物が25℃で有する具体的な形状としては、たとえば、シート、フレーク、粉末、及びブロックなどが挙げられる。取り扱いやすいこと及び均一に加熱されやすいことなどの点から、本発明の第一の食品組成物は、シートまたはフレークの形状を有することが特に好ましい。第一の食品組成物を加熱して融解し、例えば、型に流し入れて冷やす、あるいは2枚の離型フィルムに挟んで所望の厚さに調節してからゲル化させる、などによって望みの形状を付与することができるが、第一の食品組成物に所定の形状を付与する方法は任意の方法を用いることができ、これらに限定されない。
【0026】
本発明の第一の食品組成物は、それに含まれるハイドロコロイドの作用によって、加熱時(例えば一般的に、用いるハイドロコロイドがペクチンの場合は60℃以上、κ-、ι-、及び/又はκ-ιハイブリッドカラギーナンの場合は70℃以上)には溶融し、25℃に冷却したときにはゲル化して所定の形状を保つことができる。そのためには、第一の食品組成物は水を含むことが必要である。本発明の第一の食品組成物には、水とともに固形分が含まれる。固形分としては水に不溶性の成分及び水溶性成分のいずれか又は両方を含むことができる。水に不溶性の固形分の例としては、肉類(好ましくは調理済みのもの、魚肉も含む)、香辛料、野菜類、ナッツ類、果実類、及び油脂類などが挙げられる。固形分とは固体であることを意味せず、水を蒸発させた後で残存する成分をいう。たとえば、本発明においては、水に不溶性の液体類、例えば油脂類、は水に不溶性の固形分に含める。水溶性の固形分としては、コーンシロップ、マルトデキストリン、及びショ糖などの糖類、クエン酸及びビタミンCなどの酸味料、塩化ナトリウム及びグルタミン酸ナトリウムなどの塩類、水溶性のその他の調味料などが挙げられる。しかし、水溶性固形分及び水に不溶性の固形分の両方とも、ここに例示したものに限定されず、上記以外のものも用いることができる。
【0027】
本発明の第一の食品組成物に上記固形分、水、及びハイドロコロイドに加えて、食品製造において用いることができる添加剤を用いてもよく、添加剤としては、乳化剤、及び食品用保存料などが挙げられる。本発明において用いる好ましい乳化剤としては、例えば、酢酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド及びジグリセリド、並びにこれらの混合物などが挙げられる。
【0028】
第一の食品組成物が、付与された所定の形状を25℃において保つことができ、かつ加熱して融解したときには所望の質感が得られるようにするための、第一の食品組成物に含まれる水及び水溶性固形分の量に対して用いるハイドロコロイドの好ましい量は、当業者であれば極めて容易に決定することができる。一般的には、第一の食品組成物の水及び水溶性固形分の量に対するハイドロコロイドの割合が少ないと、得られる食品組成物は、加熱して融解したときに低粘度で流れやすくなり、かつ25℃における固さは柔らかくなる。一方、第一の食品組成物の水及び水溶性固形分の量に対するハイドロコロイドの割合を多くすると、得られる食品組成物は、加熱して融解したときに高粘度であり、25℃における固さは硬くなる。第一の食品組成物が、付与された所定の形状を25℃で保つことができ、かつ、その食品組成物を加熱して融解したときに所望の質感が得られる量のハイドロコロイドを用いることが好ましい。一般的には、溶融したときに所望の質感を得るためには、ハイドロコロイドは、第一の食品組成物に含まれる水に対して0.01〜20質量%で用いることが好ましく、0.01%〜15質量%の量で用いることがさらに好ましく、0.3〜10質量%の量で用いることが特に好ましい。また、第一の食品組成物に含まれる水溶性固形分の総量(ハイドロコロイドを含む)に対して、ハイドロコロイドの量が0.01〜10質量%であることが好ましく、0.01〜2質量%であることがさらに好ましい。しかし、第一の食品組成物に添加するハイドロコロイドの量はここに記載した量に限定されず、所望の量を用いることができる。
【0029】
[ハイドロコロイド]
本発明に用いるハイドロコロイドは、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、ジェランガム、澱粉、化工澱粉、ガーゴム、寒天、ペクチン、アミド化ペクチン、カラギーナン、ゼラチン、キトサン、メスキートガム、ヒアルロン酸、セルロース誘導体(例えば、セルロース酢酸塩・フタル酸塩等)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、エチルセルロース並びにカルボキシメチルセルロース(CMC)、ユードラジット(Eudragit)(登録商標)等のメチルアクリル酸塩共重合体、オオバコ(サイリウムシードガム)、タマリンド(タマリンドシードガム)、キサンタン、イナゴマメゴム、キサンタンイナゴマメガム混合物、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、カゼイン酸ナトリウム、任意の食品等級のタンパク質、及びこれらの混合物、から選択されることが好ましい。
【0030】
特に好ましいハイドロコロイドは、ペクチン、カラギーナン、及びキサンタンからなる群から選択される1種以上のハイドロコロイドである。
【0031】
本発明に用いるペクチンの種類は特に限定されないが、20〜70%のDE値(エステル化度)を有するものが好ましく、40〜62%のDE値を有するものがさらに好ましく、40〜50%のDE値を有するものが特に好ましい。さらに、DE値の異なる2種以上のペクチンを併用することもでき、その場合は、前記のDE値を有するペクチンとそれ以外のDE値を有するペクチンとを併用してもよい。
【0032】
第一の食品組成物がソース又はグレーズなどであり、加熱されて融解した後でも第二の食品の上から流れ去らずにその多くが残っているためには、40〜70%のDE値を有するペクチン、特に40〜50%のDE値を有するペクチンと、0〜35%のDE値を有するペクチンとを併用することが好ましい。0〜35%のDE値のペクチンを用いることによって第一の食品組成物中の水不溶性固形物が良好な分散状態を保つことができ、加熱されて融解された第一の食品組成物が第二の食品上に残りやすいという効果が得られる。また、40〜70%のDE値、特に40〜50%のDE値を有するペクチンを0〜35%のDE値のペクチンと併用することによって、第一の食品組成物が加熱されて融解したときに均一に溶けて、得られた溶けた状態の食品組成物は滑らかな質感をもち、しかも流動性と第二の食品への付着性のバランスにも優れているという効果を得ることができる。
【0033】
さらに、上記の効果を得るためには、0〜35%のDE値を有するペクチンが、アミド化されていないペクチンであることが特に好ましい。ペクチンのアミド化度はDA値として知られている。
【0034】
ペクチンのDE値(エステル化度)及びDA値(アミド化度)は、それぞれ、FCC法に基づいて測定される。FCC法は、「The Food Chemicals Codex(FCC)」に記載されており、当業者には良く知られている。
【0035】
本発明に用いるカラギーナンとしては、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、κ-ι-ハイブリッドカラギーナン(κ-ι hybrid carrageenan)から選択される1種以上が特に好ましい。これらから選択されるカラギーナンを用いた場合には、加熱した場合に、第二の食品及び/又は食品材料上への付着性に優れ且つ良好な質感を有する溶融物となる第一の食品組成物が得られる。カラギーナンの使用量は、第一の食品組成物に25℃における所望の固さと融解したときに所望の質感が得られる量であればよく、特に限定されない。カラギーナンの好適な使用量は当業者が簡単な試験によって容易に決定することができる。
【0036】
本発明においては、ハイドロコロイドとしてキサンタンを用いることもできる。キサンタンはキサンタンガムともいわれ、食品工業分野で良く知られている多糖類である。キサンタンを用いる場合は、ローカストビーンガム及び/又はグァーガムと併用してもよい。キサンタンガムの使用量は、ペクチン及びカラギーナンと同様、当業者が、好ましい使用量を簡単な試験によって容易に決めることができる。
【0037】
本発明の第一の食品組成物は、予め調製したソース又はグレーズなどの食品組成物に、上述したハイドロコロイドを添加して、加熱するとともに混合してハイドロコロイドを溶かし、その後、冷却して所望の形状にゲル化させることによって得ることができる。ハイドロコロイドは予め水に分散させたもの、又はさらに加熱して水に溶解させたもの、を用いることもできる。上記食品組成物にハイドロコロイドを添加してから、得られた混合物中に含まれる水分を除去して濃縮することもできる。第一の食品組成物を所望の形状にする方法は特定の方法に限定されないが、例えば、食品用の剥離紙又はラッピングフィルムなどの上に、融解している第一の食品組成物をシート状に流してから冷却してゲル化させてシート状に成形する方法、あるいは、型に流し入れてから冷却してゲル化させて賦形する方法などが挙げられる。本発明の第一の食品組成物をフレーク状にする方法としては、上述したようにシート状に成形した後でこれを粉砕して細かくする方法、少量ずつシート状に成形し、それを集めて全体としてフレーク状にする方法などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、第一の食品組成物を離型紙又はラッピングフィルムなどの上に流した後に、さらに乾燥させて、食品組成物中に含まれる水分を低減させることもできる。
【0038】
本発明の第一の食品組成物は、例えば、その表面を剥離紙又はラッピングフィルムで覆った状態で冷蔵庫などに保存しておき、使用時に剥離紙又はラッピングフィルムを除去してから第二の食品及び/又は食品材料の上に載せ又はそれらに入れて、加熱調理することができる。
【実施例】
【0039】
実施例に基づいて本発明を以下に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0040】
[実施例1]
実施例1はハイドロコロイドとして40〜44%のDE値(エステル化度)及び8〜12%のDA値(アミド化度)をもつペクチンLA040と、31〜33%のDE値(エステル化度)をもち、アミド化されていないペクチンLC950を用いたグレーズの例である。
【0041】
本発明の第一の食品組成物であるグレーズを調製するための具体的手順は以下のとおりである。
(1)ペクチンLA040、LC950、及びクエン酸ナトリウムをドライブレンドし、得られたブレンド物を、高速ミキサーを使用して熱水に80℃で溶かした。(2)別途、砂糖、マルトデキストリン、コーンシロップ、マンゴーピューレ、粉砕乾燥ハラペーニョ、水素化パーム核油、並びに乳化剤であるジアセチル酒石酸モノグリセリド/ジグリセリド及び酢酸モノグリセリドを添加し、混合物を沸騰させた。(1)と(2)でそれぞれ得られた混合物を混ぜ、撹拌を続けた。(3)水と可溶性固形分の合計に占める可溶性固形分の量が78質量%になるまで水を蒸発させた。次に、アナート抽出物(着色料)とマンゴー香料を添加した。(4)クエン酸を添加し、すぐに離型紙の上に流し、好ましい厚さに延ばした。(5)60℃のオーブンで約4〜8時間乾燥させて最終的に好ましい質感のものを得た。これはゲル化した後、25℃でシート形状を保持していた。
【0042】
こうして得られたシート状のゲルを、別途調理したハンバーグの上に載せてオーブン中で加熱したところ、シート状ゲルは流動化し、ハンバーグの上に広がってグレーズとなった。溶けた状態のグレーズは滑らかで優れた質感を示し、流動しすぎることなくハンバーグの上に付着し、グレーズとして非常に好ましい性状のものであった。
【0043】
【表1】

【0044】
[実施例2]
実施例2は、ハイドロコロイドとして40〜44%DE値(エステル化度)と8〜12%のDA値(アミド化度)をもつペクチンを用いて調製した電子レンジ加熱用又は調理済み食品用のグレーズの例である。
表2に示した成分を用いて、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて、シート形状の、ゲル化したグレーズを調製した。得られたものは、25℃でシート形状を保持していた。
【0045】
こうして得られたシート状のグレーズ(本発明の第一の食品組成物に対応する)を、別途調理しているテンダーロインステーキ(本発明の第二の食品及び/又は食品材料に対応する)の焼き上がり直前にその上に載せ、アルミホイルをかぶせて5分置いた。シート状ゲルは流動化し、テンダーロインステーキの上に広がってグレーズとなり、完成した料理(本発明の食品に対応する)が得られた。溶けた状態のグレーズは滑らかで優れた質感を示した。
【0046】
同じシート状のグレーズを、別途調理したローストチキンの上に載せて電子レンジで加熱したところ、グレーズの一部は溶けてローストチキンの上から溶け落ちてしまったが、なお充分な量のグレーズがローストチキンに付着しており、溶けた状態のグレーズの質感は良好であった。
【0047】
【表2】

【0048】
[実施例3]
実施例3は、ハイドロコロイドとして40-44%のDE値(エステル化度)と8-12%のDA値(アミド化度)をもつペクチンLA040と、31〜33%のDE値(エステル化度)をもちアミド化されていないペクチンLC950を用いて調製したベーキング用食品組成物である。
表3に示した成分を用いて、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いてシート形状の、ゲル化したベーキング用食品組成物を調製した。得られたものは、25℃でシート形状を保持していた。
【0049】
こうして得られたシート状のベーキング用食品組成物を薄切り豚肉と重ね、アスパラガスに巻きつけてからローストした。ローストされた肉巻きの中には充分な量のベーキング用食品組成物がなお残っており、その融解した状態での質感は良好であった。
【0050】
【表3】

【0051】
[実施例4〜6]
実施例4〜6はハイドロコロイドとしてカラギーナン、又はカラギーナンとキサンタンとを用いたグレーズの例である。表4に示した成分を用い、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いてシート状のグレーズを得た。これは25℃でシート状を保っていた。
得られたシート状のグレーズを、別途調理したローストポークの上にそれぞれ載せて160℃のオーブンに入れて加熱したところ、実施例4〜6のそれぞれのシート状グレーズは融解して流動化し、ローストポークの上に広がってグレーズとなった。上述した実施例1のペクチンを用いたグレーズに比較すると溶けた状態の滑らかさ及び外観はやや劣るが、優れた質感のグレーズが得られた。
【0052】
【表4】

【0053】
以上の実施例に示したとおり、本発明の第一の食品組成物は、常温で取り扱い易く、第二の食品及び/又は食品材料とともに加熱したときには融解して流動性を示すとともに、なお第二の食品及び/又は食品材料に付着し、しかも滑らかな質感を有す。したがって、本発明の第一の食品組成物は様々な食品製造用途に適しており、特にソース及びグレーズなどの用途に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロコロイドが添加されていることによって、付与された所定の形状を25℃において保つことができ、かつ加熱により融解可能である第一の食品組成物を、調理済又は半調理済み又は未調理の第二の食品及び/又は食品材料とともに加熱調理する工程を含む、食品の製造方法。
【請求項2】
付与された所定の形状を25℃において保つことができるようにした前記第一の食品組成物を、前記の第二の食品及び/又は食品材料の上に載せるかあるいは前記第二の食品及び/又は食品材料に入れ、次に加熱する工程を含む、請求項1記載の食品の製造方法。
【請求項3】
前記第一の食品組成物が、加熱されることによって融解したときにソース又はグレーズとなる、請求項1又は2に記載の食品の製造方法。
【請求項4】
前記の付与された所定の形状が、シート状又はフレーク状である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ハイドロコロイドが、ペクチン、カラギーナン、及びキサンタンからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の食品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法に用いるための前記第一の食品組成物であって、調味料、香辛料、野菜類、肉類、魚類、ナッツ類、及び果実類から選択される1種以上と、ペクチン、カラギーナン、及びキサンタンから選択される1種以上のハイドロコロイドとを含むことを特徴とする食品組成物。
【請求項7】
前記所定の形状がシート状又はフレーク状である、請求項6に記載の食品組成物。
【請求項8】
前記ハイドロコロイドが20〜70%のDE値を有するペクチンを含む、請求項6又は7に記載の食品組成物。
【請求項9】
前記ハイドロコロイドが、40〜50%のDE値を有するペクチンと0〜35%のDE値を有するペクチンとを含む、請求項6又は7に記載の食品組成物。
【請求項10】
前記0〜35%のDE値を有するペクチンがアミド化されていないペクチンである、請求項9に記載の食品組成物。
【請求項11】
前記ハイドロコロイドが、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、κ−ιハイブリッドカラギーナンから選択される1種以上を含む、請求項6又は7に記載の食品組成物。

【公開番号】特開2010−46044(P2010−46044A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215664(P2008−215664)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(508257898)ダニスコジャパン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】