説明

ハイドロコロイド型粘着剤組成物及びこれを基材に塗布した創傷材

【課題】所望の粘着性を有し、吸水時にも過度の吸水により溶解や形状崩壊を起こさず一体性を保ち、また所望の吸水量及び吸水速度を有し、且つ基材等に塗布した場合においても前述の特性が失われることのない、安定な粘着剤製品を可能とする粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】(A)スチレン系ブロック共重合体及び液状ゴムを含むエラストマー、(B)粘着付与樹脂、(C)少なくとも一種の可塑剤、及び(D)吸水剤を含有する組成物であって、前記成分(C)はポリエステル化合物を少なくとも1種含むことを特徴とする、皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物及び該粘着剤組成物を基材に塗布してなる創傷材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロコロイド型粘着剤組成物に関し、特に創傷用処置剤として好適な粘着剤組成物及びこれを基材に塗布した創傷材に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロコロイド型粘着剤は、それ自体が粘着性を有し、治癒過程で滲出する創傷分泌物を吸収し、且つ湿潤状態を保持することにより、良好な創傷治癒効果を示すとして近年その重要性が増している。
【0003】
一般に、ハイドロコロイド型粘着剤は、可塑性ゴムからなる連続相(母材)に吸収性のコロイド粒子(吸水剤)が分散して存在している構造を有し、その多くは、一定時間で自重の3〜5倍程度の水又は創傷部位からの滲出液を吸収し得るように調製されている。水等を吸収してもその母材が一体性を失うことがないよう、且つ、所望の粘着性を発揮できるよう、ゴム成分を種々検討した提案がなされている(例えば特許文献1等)。
【0004】
ハイドロコロイド型粘着剤において、その吸水量や吸水速度を調整する方法のひとつとして、可塑剤の使用が挙げられる。従来、フタル酸エステル(DOP:フタル酸ビス(2−エチルヘキシル))やアジピン酸エステル(DOA:アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル))等の汎用の低分子系可塑剤が使用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−512295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで使用されてきたDOPやDOA等の可塑剤は、近年、環境ホルモン作用や発がん性の疑いが持たれ、皮膚等に直接貼付する医療用粘着剤の分野においては、とりわけ健康に悪影響を与える可能性が大きいとして、これらに替わる可塑剤が求められている。
しかしながら、実用的な粘着性能や吸水時の一体性を保持させながら十分な吸水量・吸水速度の調整ができ、また粘着剤層形成時、例えばホットメルト塗工時に揮散することのない、DOP及びDOAに替わる可塑剤はこれまで得られていない。
【0007】
本発明は、上記の課題、すなわち、健康に悪影響を与える可能性が少なく、実用上の粘着性と吸水時の一体性を保有し、且つ、所望の吸水量及び吸水速度を有し、また粘着剤製品製造時の加熱後においてもこうした特性が保たれている、ハイドロコロイド型粘着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に対して鋭意研究を行なった結果、可塑剤としてポリエステル化合物、とりわけアジピン酸ポリエステルを可塑剤として使用することにより、所望の粘着性を有し、吸水時にも形状崩壊することがなく、また所望の吸水量及び吸水速度を有する粘着剤組成物と成すことができることを見出した。
しかも、アジピン酸ポリエステルを可塑剤として採用することにより、粘着剤層製造時(ホットメルト塗工時)の熱による可塑剤の揮散を少なくでき、このため、この粘着剤組成物を基材等に塗布した場合においても前述の粘着性、安定性及び吸水性を保持することができ、製品安定性に優れる粘着剤製品(例えば創傷材等)の提供を可能とし、本発明を
完成させた。
【0009】
即ち本発明は、(A)スチレン系ブロック共重合体及び液状ゴムを含むエラストマー、(B)粘着付与樹脂、(C)少なくとも一種の可塑剤、及び(D)吸水剤を含有する組成物であって、前記成分(C)は下記式(1)
【化1】

(上記式中、
1は互いに独立して炭素原子数2乃至10のアルキレン基を表し、
2は炭素原子数2乃至10のアルキレン基又は酸素原子により中断された炭素原子数2
乃至10のアルキレン基を表し、
3は互いに独立して水素原子又は炭素原子数4乃至14のアルキル基を表し、そして
nは1乃至10の数を表す。)
で表されるポリエステル化合物を含む、皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物に関する。
【0010】
本発明において、前記成分(C)は、前記式(1)中の2つのR1がともにn−ブチレ
ン基を表すアジピン酸ポリエステルであることが好ましく、前記アジピン酸ポリエステルの成分(C)中の含有量は10質量%以上であることが好ましい。
また、前記アジピン酸ポリエステルは、アジピン酸と炭素原子数2乃至8のグリコールとの反応生成物を含むことが好ましく、より好ましくは前記アジピン酸ポリエステルが、炭素原子数8乃至10のアルコールで末端封鎖されている、即ち、式(1)中、2つのR3がともに炭素原子数8乃至10のアルキル基を表すことが好ましい。
【0011】
さらに本発明は、37℃の生理食塩水に浸漬したとき、浸漬から1時間後の重量増加量が自重の50%以上であり、浸漬から24時間後の重量増加量が自重の300%以上であり、且つ37℃の生理食塩水に24時間浸漬した後においても過剰な吸水性による溶解や形状崩壊を起こさず一体性を保つことを特徴とする、ハイドロコロイド型粘着剤組成物に関する。
【0012】
また本発明は、前記粘着剤組成物を基材に塗布してなる創傷材にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、実用可能な貼付性(粘着強度)や吸水時の一体性と、一定時間内に十分な吸水量や吸水速度を有する粘着剤組成物を提供できる。
しかも本発明の粘着組成物に使用する可塑剤は、粘着剤層製造時、すなわち、150℃以上の高温下でのホットメルト塗工時における揮散が少ないため、上記粘着剤を塗布した製品を製造した後においても可塑剤がその性能を発揮でき、粘着性や吸水性等の上述の特性を安定して維持することができる。
従って、本発明の粘着剤組成物を塗布した創傷材は、貼付性、吸水時の一体性、そして所望の吸水量・吸水速度を達成できることから、創傷部位に使用した場合に治癒過程で滲出する創傷分泌物を吸収し、且つ湿潤状態を保持して良好な創傷治癒効果を示すことが期待できる。
そしてこの粘着剤組成物を塗布した創傷材は救急絆創膏やドレッシング材等の医療・衛生分野への展開が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物は、(A)スチレン系ブロック共重合体及び液状ゴムを含むエラストマー、(B)粘着付与樹脂、(C)少なくとも一種の可塑剤、及び(D)吸水剤を含有し、所望によりその他の成分を含み得る。
以下、上記各成分について詳述する。
【0015】
<(A)スチレン系ブロック共重合体及び液状ゴムを含むエラストマー>
本発明において使用するエラストマーは、スチレン系ブロック共重合体及び液状ゴムを含む。
前記スチレン系ブロック共重合体としては、スチレン・ブタジエンブロック共重合体(SBS)及びその水添ゴム(SEBS)、スチレン・イソプレンブロック共重合体(SIS)及びその水添ゴム(SEPS)、スチレン・イソブチレンブロック共重合体(SIBS)などが挙げられ、これらの1種あるいは複数を組合せて使用することができる。
また、前記液状ゴムとしては、液状ポリイソプレン(LIR)や液状ポリブタジエン(LPB)、ポリイソブチレン(PIB)、ポリブテン(PB)などの液状エラストマー成分を挙げることができる。
【0016】
スチレン系ブロック共重合体と液状ゴムは、好ましくは重量比でスチレン系ブロック共重合体:液状ゴム=20〜80:80〜20、特に好ましくは50〜80:50〜20の割合で使用することが望ましい。これらの使用割合を変化させることにより、吸水率(特に長時間浸漬後の吸水率)をコントロールすることができる。
【0017】
<(B)粘着付与樹脂>
本発明において使用する粘着付与樹脂としては、一般に疎水性ゴムベース成分と相溶して粘着性を発現させる疎水性の樹脂であり、具体的にはロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、C5系石油系樹脂、C5/C9系石油系樹脂、
DCPD系石油系樹脂、クマロン・インデン樹脂などが挙げられる。
本発明において、成分(B)の粘着付与樹脂は、例えば、脂環族飽和炭化水素樹脂のアルコンP−125(荒川化学工業)であれば、創傷材としての充分な粘着力及び剥離時の皮膚への刺激性を考慮して、粘着剤組成物の全エラストマー成分の100質量部に対して80質量部乃至180質量部、好ましくは120質量部乃至160質量部の量で存在していることが好ましい。
【0018】
<(C)可塑剤>
本発明においては、少なくとも一種の可塑剤として、下記式(1)で表されるポリエステル化合物を含む事を特徴とする。
【化2】

上記式中、R1は互いに独立して炭素原子数2乃至10のアルキレン基を表し、R2は炭素原子数2乃至10のアルキレン基又は酸素原子により中断された炭素原子数2乃至10のアルキレン基を表し、R3は互いに独立して水素原子又は炭素原子数4乃至14のアル
キル基を表す。
そしてnは1乃至10の数を表し、好ましくは2乃至8の数を表す。
【0019】
上記式(1)で表されるポリエステル化合物としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素原子数4乃至12の脂肪族ジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール等の炭素原子数2乃至10
のグリコールとの縮重合により得られるポリエステル化合物が挙げられる。
【0020】
本発明においては成分(C)として、上記式(1)で表されるポリエステル化合物を2種以上含んでいてもよい。
さらに、本発明の効果を損ねない範囲において、成分(C)として上記式(1)で表されるポリエステル化合物以外のポリエステル化合物、たとえばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸とグリコールとのポリエステル化合物や、その他化合物からなる可塑剤を含んでいてもよい。
【0021】
好ましくは、上記式(1)で表されるポリエステル化合物は約500乃至3,500の分子量を有する化合物であり、特に、約600乃至2,500の分子量を有するアジピン酸ポリエステルであることが好ましい。
【0022】
上記アジピン酸ポリエステルは、アジピン酸と炭素原子数2乃至8のグリコールとの反応生成物を含みて構成される。
前記炭素原子数2乃至8のグリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。
また、アジピン酸ポリエステルが、炭素原子数8乃至10のアルコールで末端封鎖されている、即ち、式(1)中、2つのR3が共に炭素原子数8乃至10のアルキル基である
ことが好ましい。前記炭素原子数8乃至10のアルコールとしては、n−オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ノニルアルコール、イソノニルアルコール、n−デカノール等が挙げられる。
【0023】
上記成分(C)において、アジピン酸ポリエステルの含有量は、本発明の効果を奏する範囲であれば任意の範囲としても良いが、成分(C)の10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。
【0024】
本発明において、成分(C)の可塑剤は、粘着剤組成物全成分の質量に対して、0.5質量%乃至10質量%の量で存在していることが好ましい。
該可塑剤の使用量が0.5質量%を下回ると可塑剤としての効果が得られず、また、10質量%を上回ると生理食塩水(37℃)に浸漬時、すなわち使用時に、吸水による膨潤に対して凝集力が不足することにより粘着剤の溶解や形状崩壊が起こり、一体性が保たれなくなる虞がある。
【0025】
<(D)吸水剤>
本発明において使用する吸水剤は、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラヤガム、ペクチン、アルギン酸、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム等のセルロース誘導体、キチン、キトサン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、デンプン・アクリル酸グラフト重合体等が挙げられる。これらの吸水剤のなかで、特に耐熱性のよいカルボキシメチルセルロース・ナトリウム等を使用することが好ましく、カルボキシメチルセルロースの粒径は、5乃至500μm、好ましくは50乃至250μmである。
【0026】
これら吸水剤の配合量は、適度な吸水速度と吸水量を得るために、例えばカルボキシメチルセルロース・ナトリウムであれば、粘着剤組成物全成分の質量に対して10乃至50質量%、好ましくは20乃至40質量%の割合で使用することが望ましい。
【0027】
<その他含有可能な成分>
また本発明の粘着剤組成物においては、パラフィン系、ナフテン系、等の石油系プロセスオイルやひまし油、大豆油などの植物油、及び植物油由来の脂肪酸エステルなどの軟化剤を使用してもよい。
さらに、一般的なゴム系粘着剤で使用するビスフェノール系、ヒンダードアミン系、ベンゾイミダゾール系などの老化防止剤や紫外線吸収剤、光安定剤などを1種又は複数の組合せで適宜添加してもよい。
その他皮膚貼付用の粘着テープやシートに一般に用いられるような各種添加剤、例えば充填剤などを適宜配合してもよい。
あるいは、既に損傷を受けた皮膚又は、損傷が予想される皮膚に対しては、皮膚の治療又は損傷の予防、美容等を目的とする薬効成分を添加してもよい。例えば、セラミド等の保湿効果のある物質を添加することで、角質剥離でダメージを受けた皮膚の健常な皮膚への再生を助長することができ、また、血流促進効果の高いγオリザノール等を添加することにより、褥瘡発生が懸念される部位において体圧によって生じる血管の閉塞を緩和し、褥瘡予防が期待できる。
【0028】
本発明の皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物は、37℃の生理食塩水に浸漬したとき、浸漬から1時間後の重量増加量が自重の50%以上であり、浸漬から24時間後の重量増加量が自重の300%以上であり、且つ、37℃の生理食塩水に24時間浸漬した後においても、過剰な吸水性による溶解や形状崩壊を起こさず、一体性を保つものとなるように、各成分を配合することが好ましい。ここで、溶解とは粘着剤組成物が水分を吸収することにより、組成物中の親水性成分の大部分が疎水性部分から分離して水中に溶け出した状態を意味し、また、形状崩壊とは、組成物中の親水性成分が水分を吸収し大きく膨潤することにより、親水性成分の膨潤力が粘着剤組成物の凝集力より勝るようになり、親水性成分の大部分が水に溶け出すとともに、疎水性部分の一部も水中に分散した状態、またはごく僅かな力で元の形状が崩れる状態になることを意味し、このような場合、組成物を水中からひとつの固体として取り出すことが困難となる。このような組成物の場合、皮膚に貼付した際、剥離時に凝集破壊を起こしたり、貼付中に粘着剤組成物の一部が脱離したりする虞がある。
【0029】
<創傷材>
このようにして調製した本発明の皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物を基材に適量塗布することで、本発明の創傷材を得ることができる。なお前記粘着剤組成物を、疎水性粘着剤を塗布した支持体の中心部分に位置するように、疎水性粘着剤層又は直接支持体の上に塗布(或いは貼付)することにより、該粘着剤組成物を救急絆創膏のパッドとして使用することもできる。
【0030】
本発明の創傷材は、有機溶剤が不要の塗工方法であるカレンダー法やホットメルト法などによって、好適に作製することができる。
ホットメルト法は、有機溶剤などの希釈媒体を全く使用せず、高温で急激に軟化溶融するブロック共重合体の特性を利用した方法であり、乾燥工程が不要、塗工速度が速い、爆発火災の危険がないなどの利点がある。
ホットメルト法による創傷材の製造例を以下に記載する。加熱制御可能な高速回転ミキサーで、エラストマー成分、粘着付与樹脂、可塑剤及び吸水剤を、窒素雰囲気下、通常150〜200℃の温度で30〜120分間加熱高速撹拌して溶解物として各成分が均一となった粘着剤組成物を得る。
前記方法にて得られた粘着剤組成物を、ホットメルト塗工機にて、150〜180℃に温度制御したダイヘッド部分から押し出して剥離シート上に100〜1,000μmの厚さに展延した後、これに、基材をラミネートすることで創傷材を作製する。
なお前述の本発明の粘着剤組成物は、170〜180℃の高温の加熱高速撹拌においても実用上、可塑剤等の添加物が揮散等によって消失しない組成となっており、ホットメル
ト法に好適な構成となっている。
【0031】
ここで用いられる基材としては、適度な伸縮性、柔軟性、強度、適度の通気性及び菌バリヤー性を備えるものであれば特に限定されず、例えばポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル及びポリアクリル酸等のフィルム、フォーム、不織布、織布及び編み布等が挙げられる。中でも上述の観点からポリウレタン性のフィルムが好ましい。
【0032】
また、使用する剥離シートは貼付材の分野で慣用のものを用いることができる。例えばシリコーン離型処理した上質紙、グラシン紙等の紙基材やポリエステルフィルム等を用いることができる。また、剥離体の目付けは、限定はされないが、通常、50〜150g/m2程度が好ましく、60〜100g/m2程度がより好ましい。剥離シートは1枚としても良いが、剥離シートの略中心部に、その外形を分断する線状の剥離シート分断部を1本もしくは2本以上設けることによって、一方の剥離シートを剥がしても、他方の剥離体が残り、粘着面に触れることなく貼付作業ができるようになり、作業性が向上する。貼付材をロール状とした場合においては、特に剥離シートを剥ぎ取りやすくし、取り扱い性を向上させるのに有効である。また、2枚以上の剥離シートを粘着剤から剥離しやすいように、剥離シートを一方に覆い被さるか又は折り返すように配置しても、取り扱い性を向上させるのに有効である。
本発明において、剥離シートの長さは、粘着剤の流出防止、生産性、取扱性、経済性及び製法の容易性等の観点より、粘着剤の塗工領域よりも、0.2mm以上、特に1〜5mm大きくすることが好ましい。
【0033】
本発明の創傷材の粘着剤層の厚さは、特に制限されないが、皮膚への固定性を担保し、支持体厚みとのバランスの点から、一定厚とする場合は、100乃至1200μm以下が好ましい。また、例えば、創傷材の縁取り部の粘着剤の塗布量を、創傷剤の中央部分の粘着剤の塗布量より少なく、厚みを薄くすることにより、縁取り部と衣類等とのこすれを防止し、皮膚へ適用した時に剥がれにくくなる効果が得られる。この場合、粘着剤の塗布量は、中央部で、好ましくは300〜1,200μm、更に好ましくは600〜800μmであり、縁取り部の粘着剤の塗布量は、好ましくは50〜300μm、更に好ましくは100〜300μmである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
<皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物の調製>
前記ホットメルト法で、表1に示す組成にて170℃で30〜50分間の加熱高速撹拌を行い、均一な粘着剤組成物を調製した。
調製した粘着剤組成物をシリコーン処理したグラシン紙(厚さ120μm)上に、600μmの厚さに展延して粘着剤層を形成した。この粘着剤層の上に基材として30μmのポリエーテル系ポリウレタンフィルムをラミネートし実施例及び比較例の創傷材を作製した。
なお、実施例及び比較例で使用した各材料の一覧を表2に示す。
【0036】
<吸水率の評価>
こうして調製した実施例1乃至実施例4並びに比較例1乃至比較例5の創傷材について、吸水率を評価した。
試料として各創傷材を20mm×20mmに裁断したものを用い、これを37℃の生理食塩水に浸漬した。
浸漬後1時間経過後、6時間経過後及び24時間経過後の試料の重量増加量(g数)を
測定し、下記式に従い、浸漬前の試料重量に対する重量増加率(%)を吸水率とした。
・t時間後の吸水率(%)=[(生理食塩水にt時間浸漬後の試料重量−浸漬前の試料重量)/浸漬前の試料重量]×100
また、1時間経過後の吸水率が150%以上であるものを◎、50%以上150%未満を〇、50%未満を△として評価した。
得られた結果を表1に示す。
【0037】
<可塑剤の揮散性の評価>
実施例1乃至実施例4並びに比較例1乃至比較例5の創傷材の粘着剤に用いた可塑剤を、夫々約1gずつアルミカップに量り取り、180℃のオーブンで加熱し、一定時間毎に重量を測定し、可塑剤の揮散性を評価した。
詳細には加熱前の初期の重量に対する加熱後の残量を算出し、加熱後の残量が初期の重量の0.1%以下になるまで、或いは、加熱時間が30分に達するまで、加熱及び測定を行った。
180℃にて30分加熱後の揮散残量が95%以上のものを○、60%以上95%未満を△、60%未満のものを×として評価した。
得られた結果を表1にあわせて示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1乃至実施例4の創傷材は、生理食塩水浸漬後1時間経過後から高い吸水率を示し、また、180℃における可塑剤の揮散量も非常に低いものであった。
一方、アジピン酸ポリエステル以外の可塑剤を用いた比較例1乃至比較例5の創傷材は、生理食塩水浸漬後24時間経過後には、実施例の創傷材と同等の吸水率を示すものもあったが、1時間経過後の吸水率はいずれも実施例の創傷材と比べて低いものであった。また、180℃における可塑剤の揮散量も非常に多く、特に比較例3乃至比較例5にあっては、30分経過後にはその殆どが揮散してしまうとする結果となった。また、生理食塩水浸漬後24時間経過後において、実施例及び比較例の粘着剤組成物の溶解や形状崩壊は認められなかった。
【0041】
<皮膚刺激性の評価>
前述において調製した実施例1乃至実施例4の創傷材をヒト前腕内側に貼付し、貼付24時間後に試験片を剥離し、剥離1時間後と24時間後の試験片の貼付部位の皮膚刺激を本邦基準に従って評価した(n=30)。
ここで、本邦基準とは、本邦パッチテスト研究班の基準である。具体的には、皮膚反応の程度により、−:0、±:0.5、+:1、++:2、+++:3、及び++++:4として重み付けし、下式に従い、各被験者の評価結果の平均値を100倍して、皮膚刺激指数とした。
[判定基準]
− :反応なし
± :軽い紅斑
+ :紅斑
++ :紅斑+浮腫
+++ :紅斑+浮腫+丘疹
++++:紅斑+浮腫+丘疹、漿液性丘疹、小水疱
[皮膚刺激指数 計算式]
皮膚刺激指数=(評点総和/被験者数)×100
【0042】
得られた皮膚刺激指数を、下記の基準にて評価した。
安全品 :0以上〜15未満
要改良品:15以上〜30未満
危険品 :30以上
実施例1乃至4の創傷材の皮膚刺激はいずれも安全品に区分された。
【0043】
以上の結果より、本発明の粘着剤組成物は高い吸水性を有する粘着剤とすることが確認され、またそこに使用される可塑剤は塗工時の温度においても揮散が少ないことから、吸水性能等が失われることのない、製品安定性に優れる粘着剤を与えることができることが確認された。さらに本発明の粘着剤組成物を用いた創傷材は皮膚刺激性が弱いことが確認された。
従って、本粘着剤組成物を塗布した創傷材は、救急絆創膏やドレッシング材の医療・衛生分野への展開が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレン系ブロック共重合体及び液状ゴムを含むエラストマー、
(B)粘着付与樹脂、
(C)少なくとも一種の可塑剤、及び
(D)吸水剤
を含有する組成物であって、
前記成分(C)は下記式(1)
【化1】

(上記式中、
1は互いに独立して炭素原子数2乃至10のアルキレン基を表し、
2は炭素原子数2乃至10のアルキレン基又は酸素原子により中断された炭素原子数2
乃至10のアルキレン基を表し、
3は互いに独立して水素原子又は炭素原子数4乃至14のアルキル基を表し、そして
nは1乃至10の数を表す。)
で表されるポリエステル化合物を含む、皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物。
【請求項2】
前記成分(C)は、前記式(1)中の2つのR1がともにn−ブチレン基を表すアジピン
酸ポリエステルを含む、請求項1記載の皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物。
【請求項3】
前記成分(C)中のアジピン酸ポリエステルの含有量が10質量%以上である、請求項2記載の皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物。
【請求項4】
前記アジピン酸ポリエステルは、アジピン酸と炭素原子数2乃至8のグリコールとの反応生成物を含む、請求項2記載の皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物。
【請求項5】
前記式(1)中、2つのR3が共に炭素原子数8乃至10のアルキル基を表す、請求項2
記載の皮膚貼付用ハイドロコロイド型粘着剤組成物。
【請求項6】
37℃の生理食塩水に浸漬したとき、浸漬から1時間後の重量増加量が自重の50%以上であり、浸漬から24時間後の重量増加量が自重の300%以上であり、且つ
37℃の生理食塩水に24時間浸漬した後においても過剰な吸水性により溶解や形状崩壊を起こさず一体性を保つことを特徴とする、請求項1に記載のハイドロコロイド型粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の粘着剤組成物を基材に塗布してなる創傷材。

【公開番号】特開2011−45494(P2011−45494A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195812(P2009−195812)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】