ハイパーサーミア用マイクロ波アレイアプリケータ
(たとえば、1GHzから300GHzの周波数を有する)マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための機器(10)を開示し、この機器(10)では、治療すべき皮膚組織の領域(24)上に位置付けて、治療すべき皮膚組織の領域(24)と適合させるために、放射素子(18)、たとえばパッチアンテナのアレイが可撓性の治療面(16)上に配置される。放射素子(18)は、給電構造からマイクロ波エネルギを受取り、皮膚の領域を実質的に均一な浸透深さまで可能にする電磁場を外向きに放出するように構成される。各放射素子(18)は、治療面全体にわたる電磁場の相対的な調整を可能にするために、独立して制御可能な電源を有していてもよい。各放射素子は、検出された反射された電力に基づく調整を可能にするために、監視ユニットを有していてもよい。各々の独立して制御可能な電源は、動的インピーダンス整合ユニットを含んでいてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、マイクロ波技術を用いて組織を治療する際に制御された熱エネルギを生成するための機器および方法に関する。この発明は特に、皮膚疾患を治療するための手段としての、(たとえば組織壊死を引起す)熱剥離の制御された使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
皮膚は、人体構造の中で最大の器官であり、身体の全表面を覆っている。皮膚癌を含む幅広い種類の皮膚病および障害が知られており、症状を軽減するまたは治すために皮膚組織自体の直接的な治療が必要である。さらに、美容整形目的で皮膚を治療する方法、たとえば組織のリサーフェシング(resurfacing)または皮膚の若返りがますます一般的になっている。従来の皮膚治療技術として、レーザ療法、光力学的療法、冷凍外科療法、機械的皮膚剥離、およびプラズマリサーフェシングがある。
【0003】
皮膚癌は癌の最も一般的な形態であり、従来の治療方法は多少限定される傾向がある。多くのタイプの皮膚病変は通常のほくろに似ており、大きくなって皮膚のより深い層に拡大し、真皮に達すると、癌細胞は血管に入って、身体の他の部位に広がるまたは転移する可能性がある。癌の段階は、病気の程度を表わしており、病変が皮膚に貫入する深さおよび病変がどれだけ広がっているかによって決定される。どのようにして増殖の段階を規定し得るかの一例は以下のとおりである。
【0004】
第0段階−癌が表皮にあり、広がり始めていない
第1段階−厚みが0.75mmまたはそれ未満であり、上部真皮に広がっている局所的な腫瘍
第2段階−0.75mmよりも厚いが1.5mm未満であり、および/または下部真皮に侵入し始めている局所的な腫瘍
第3段階−厚みが1.5mm以上であるがせいぜい3mmである局所的な腫瘍
第4段階−1.5mmよりも厚いが4mm未満であり、および/または下部真皮に侵入している局所的な腫瘍
第5段階−厚みが4mmよりも大きく、および/または皮下組織(皮膚の下の組織)に侵入しており、および/または原発腫瘍の2cm以内で衛星中継する(satellite)局所的な腫瘍
第6段階−腫瘍がリンパ節付近に広がっているか、または5つ未満の移動途中の(in-transit)転移が見られる。移動途中の転移とは、原発腫瘍と最も近いリンパ節領域との間に位置する転移であり、メラノーマ細胞がリンパ管に閉じ込められることによって起こる。
【0005】
第7段階−腫瘍が身体の他の部位に転移している
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
公知の皮膚治療システムは、異なる段階のすべての皮膚癌に作用することはできないので、融通がきかない。良性から悪性までいくつかの種類の皮膚腫瘍があるという事実のために、「皮膚癌」という用語は非常に幅の広い用語である。メラノーマの診断は、ABCD(E)基準に従って注意深く行なわれるべきである。
【0007】
他の皮膚治療技術として、皮膚移植手術または怪我の後の出血または組織からの流体の滲出を止めるための、制御された「封止」または制御された浸透深さまでの瞬時の焼灼がある。これらの効果を達成する従来の方法は、患者の不快感(痛みおよび炎症)を引起す可能性があり、実質的な組織治癒時間を必要とする可能性があり、包帯を巻く必要がある可能性があり、この包帯は定期的に取換える必要があり得る。したがって、従来の技術は時間またはコスト効率が高くない。
【0008】
これに対処するために、US6463336は、たとえば傷の治癒を改善するためまたは経皮薬物送出を向上させるために、パルス状電磁場で包帯下の柔組織を治療するための曲げやすい平面マイクロストリップまたはスロットラインアンテナ構造を組入れる適合した包帯を開示している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
この発明は、皮膚病変および他の皮膚疾患を治療するための臨床治療機器を提供する。
【0010】
最も一般的には、この発明は、皮膚組織に浸透するように非電離マイクロ波電磁場を生成および使用して、浸透深さの点で制御可能な、その組織に対する熱損傷を引起し、所望の治療エリアにわたって効果の均一性をもたらす治療装置および方法を提案する。
【0011】
この明細書では、「マイクロ波」という用語は一般に、1GHzから300GHzまたはそれ以上の周波数範囲を示すために用いられる。マイクロ波は、ミリ波領域にあるといえる高周波数を含んでいてもよい。しかしながら、以下の例では、好ましい周波数は10GHzを上回る。たとえば、14.5GHz、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、および94GHzのスポット周波数が可能である。
【0012】
好ましくは、この発明は、浸透深さが5mm未満、好ましくは2mm未満である制御可能な均一な熱剥離(または細胞破壊)を引起すための手段を提供する。たとえば、0.1mmから2.0mmの浸透深さの範囲を有することが望ましいであろう。
【0013】
この発明を説明する目的で、皮膚は、2つの主要な層、すなわち表皮と呼ばれる上部(最上)最上層と、真皮と呼ばれる下部(底部)層とを備えると考えられてもよい。
【0014】
この発明を用いると、表皮内にのみマイクロ波エネルギを送出することが可能であろう。これは望ましい可能性がある。なぜなら、真皮に対する損傷が皮膚の構造に対する永久的な損傷を引起す場合がある、または治癒時間を長引かせる場合があるためである。さらに、これによって、この発明は、真皮に浸透することが非常に望ましくない皮膚の若返りまたはリサーフェシング手順において用いるのに好適になり得る。
【0015】
この発明はまた、身体の表面、たとえば人間の背中または足の体毛の大群を脱毛するために用いられてもよい。この用途では、マイクロ波エネルギの浸透深さは、毛嚢の根元を破壊するようなものであってもよく、これは結果的に体毛を永久的に除去するはずである。
【0016】
この発明の制御可能なマイクロ波放射の1つの利点は、瞬間的にエネルギを送出して、制御可能な浸透深さがたとえば5mm未満(好ましくは2mm未満)でありかつ治療が必要な表面積にわたって電磁場が均一である制御された凝固を引起すシステムの能力である。典型的に、治療すべき表面積の大きさは、0.5cm2未満から15cm2以上であり得る。提案される治療技術はまた、細菌を死滅させるレベルまで温度を引上げることによって細菌が開放組織または開放創に入る可能性を低減することを助け得る。
【0017】
この発明はまた、患者の方向転換の回数を大幅に低減し、治療コストを低減し、順番待ちリストを短くすることを助け得る。この発明を用いて治療可能な疾患は典型的に、浸透深さが0.4mm未満から5mmよりも大きい状態で、0.5cm2未満から15cm2よりも大きな表面積にわたって、均一で細かく制御された熱損傷を引起す能力の恩恵を受ける疾患である。現在の従来の治療システムは、このような治療条件を生み出すことができない。たとえば、従来のレーザ治療は小さな領域の効果しかなく、より大きなエリアを治療するには正確な走査が必要である。さらに、抗生物質ジェルまたはクリームなどの局所治療はいかなる効き目も現われるのに時間がかかり、これは不便である可能性がある。また、生物系への抗生物質の投入は望ましくない場合がある。抗生物質治療は、しばしば、長い期間使用すると効き目がなくなり始めて、身体の免疫システムの効率が悪くなる場合がある。
【0018】
この発明は、これらのタイプの治療の代替案を提供してもよい。
この発明は、通信産業用に近年開発されてきた半導体パワーデバイスを用いて実施されてもよい。これらのデバイスによって、以前は生物医学的な治療用途で用いるために調査または活用されてきたわけではない電磁スペクトル内に含まれる周波数でエネルギを発生させることができる。電磁場から生物組織負荷へのエネルギの浸透深さは、とりわけ、その電磁場の周波数の逆数に依存する。したがって、皮膚組織の上部層にのみ浸透させる場合、高いマイクロ波周波数エネルギ源(たとえば、周波数が10GHzを上回るエネルギ源)が望ましい。
【0019】
第1の局面において、この発明は、マイクロ波電磁場を皮膚組織に送出するように配置された皮膚アプリケータ装置に関する。この発明に従って、マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための装置が提供されてもよく、この装置は、治療すべき皮膚の領域上に位置付けるための治療面と、治療面上の複数の放射素子と、マイクロ波エネルギを放射素子に送出するように配置された給電構造とを有し、放射素子は、送出されたマイクロ波エネルギを治療面において電磁場として外向きに放出するように構成され、その結果、治療中、放出された電磁場は、実質的に均一な予め定められた深さまで、治療すべき皮膚の領域に浸透する。
【0020】
好ましくは、給電構造は複数の電源(たとえば電力増幅器)を含み、各電源は、(1つ以上の)放射素子の群に関連付けられる。電源は好ましくは放射素子に近接している。これは、この発明において好ましい高い動作周波数の場合に特に関係のある2つの利点を給電構造に与える。第1に、放射構造の近くで増幅を行なうことによって、伝送線に沿った高周波数マイクロ波電力の伝達に起因する電力の損失を低減できることである。すなわち、45GHzの周波数で信号を伝送する好適な50Ωマイクロストリップ伝送線に沿った挿入損失は、10cm当たり10dBまでであってもよい。第2に、電源が放射素子に近接していることによって、電源と放射素子との間の給電構造を単純な構造にできることである。すなわち、アンテナアレイの各放射パッチまたは素子が自身の専用のパワーデバイスを有する場合にさらなる複雑さおよび挿入損失を付加するパワースプリッタまたはコンバイナを用いる必要がない。この構成を用いるさらなる利点は、パワーデバイスを飽和状態に駆動する必要がないことであり、これによって、直流電力放散レベルが低減され得る、または直流電力効率に対してより高いマイクロ波電力でこのデバイスを動かすことが可能になり得る。これによって、(より優れた伝送構造のためにより高くなる)電力損失と、(達成すべき電磁場全体のよりよい均一性を可能にする)放射電磁場配置の制御との間の釣り合いを取ることができる。
【0021】
好ましくは、各放射素子は独立して制御可能な電源を有し、それによって、放出された電磁場は治療面全体にわたって調整可能である。したがって、この発明は、治療箇所全体
にわたって皮膚特性の違いを調整できる適応性のある治療機器を提供してもよく、それによって、治療箇所の皮膚表面全体にわたって均一な電力送出が達成され得る。
【0022】
放射素子は好ましくはアンテナ構造を規定し、アンテナ構造は、給電構造とともに、エネルギを代表的な組織インピーダンスに伝播させるように最適化されてもよい。エネルギの分布は好ましくは、治療エリアにわたって浸透深さの点で均一である。
【0023】
好ましくは、マイクロ波エネルギは、電磁スペクトルの超高周波数(SHF)(super high frequency)または極高マイクロ波(EHF)(extremely high microwave)範囲内の周波数を有し、これらの範囲では、生物組織(たとえば、さまざまなタイプの皮膚組織)に伝播されるときの関連する波長は、組織において制御可能な熱損傷を引起すようなものである。典型的に、これらの周波数範囲は、3GHzから30GHz(SHF)および30GHzから300GHz(EHF)である。このような周波数および/または周波数源は従来の生物医学的な治療用途では用いられない。なぜなら、このような周波数では制御可能な電力を生成することが不可能であったまたは現実的でなかったためである。しかしながら、半導体パワー技術の近年の進歩を利用することによって、この発明の発明者はそれらの実際的でない事柄のうちのいくつかを克服した。
【0024】
好ましくは、マイクロ波エネルギは、マイクロ波エネルギを皮膚構造の治療に役立たせることができるように10GHz以上の周波数を有する。
【0025】
この発明の装置は、従来のシステムに比べて、引起された熱損傷の、効果の深さの点での精密な制御、治療表面積にわたる効果の均一性、および、皮膚病変の治療に関連する用途において病的な組織を破壊するレベルまで温度を瞬時に引上げる能力、または、皮膚移植もしくは事故による損傷の治療に関連する用途において傷の出血、流体の滲出を瞬時に止めるための表面剥離もしくは開放創への細菌の侵入の防止を引起す能力を提供することによって改善されてもよい。
【0026】
好ましくは、放射素子によって放出されたマイクロ波電磁場は、治療すべき皮膚の領域を45℃またはそれ以上、好ましくは60℃またはそれ以上、たとえば60℃から100℃までの温度に実質的に瞬間的に加熱するように配置される。このような温度は、治療すべき皮膚の領域において組織構造の永久的な損傷を引起す。たとえば、癌細胞を60℃またはそれ以上の温度に晒すことによって、確実に細胞が死滅する。
【0027】
特定の実施例では、複数の放射素子は誘電体基板層の外向きの面上にあってもよく、接地された導電層は、外向きの面とは反対側の誘電体基板層の面上に形成されることができ、給電構造は、複数の放射素子に交流を送出するように配置され、接地された導電層は、この交流のための戻り経路を提供するように配置される。
【0028】
他の実施例では、接地された導電層は、誘電体基板層の外向きの側にあってもよい。たとえば、接地された導電層にスロットが形成されてもよく、マイクロストリップ給電線または共平面導波路給電サスペンド型パッチアンテナ構成とは反対側の誘電体基板層が利用されてもよい。スロットアンテナ構成では、スロットが放射素子の役割を果たしてもよい。スロットの幅は、同じ量のマイクロ波エネルギが各放射スロットから送出されて、均一な電磁場を組織構造に放射できるように給電線の長さに沿って広くなっていてもよい。
【0029】
好ましくは、各放射素子は、たとえばスロット、放射パッチなどとして、誘電体基板層の外向きの面上に取付けられた導電パッチを含む。たとえば、微細加工技術を用いて作製された小型マイクロストリップアンテナまたはミリ波アンテナが用いられてもよい。
【0030】
代替的に、放射素子は、微細加工された共平面導波路によって給電される複数のサスペンド型パッチアンテナを備えていてもよい。この構造は、20GHzを超える周波数、すなわち24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、またはそれ以上で(すなわち、いわゆる「ミリ」波周波数で)特に有用であり得る。
【0031】
したがって、この装置は、皮膚組織を治療するために制御されたマイクロ波放射を生成するように構成されたパッチアンテナアレイを治療面上に含んでいてもよい。パッチアンテナアレイは好ましくは、たとえば皮膚腫瘍の厚み、他の皮膚病および傷の治癒に対応した予め定められた浸透深さを有する、治療表面積にわたって均一な組織剥離を引起すように構成される。
【0032】
さらにまたは代替的に、この装置は、皮膚の除去後の血液もしくは血流または滲出する流体を瞬時に凝固させるために用いられてもよい。この用途は、この発明が、表面凝固にとって興味深い浸透深さの達成を可能にする非常に高い周波数でマイクロ波電力を用いるので、実現可能である。以前は、対象の放射の浸透深さが確実に、浸透深さが1mm未満から約5mmの間である制御された組織損傷を引起すほど十分に低くなるように、十分に高い周波数で制御可能なエネルギを生成することは困難であった。より高い周波数のマイクロ波エネルギはまた、血液の連鎖凝固が確実に起こらないようにし得る。これは、より低いマイクロ波周波数を用いるときには、これらのより低い周波数でのマイクロ波エネルギの関連する浸透深さのために、困難である場合がある。
【0033】
この発明の特定の利点は、開放組織または開放創に入る細菌の量を低減する能力であり得る。これは、エネルギ送出の瞬間的な性質、小さな浸透深さ、均一な組織効果、比較的大きな表面積を治療する能力、および細菌を死滅させるのに十分に高い温度で瞬時の熱を生成する機能によって達成される。
【0034】
動作周波数で波長の半分に匹敵する寸法を有するパッチを製作することが好ましい。好ましくは、放射素子の面積は1mm2またはそれ未満である。周波数が必要な半波長に反比例するので、この程度のパッチ寸法は高いマイクロ波周波数を用いることによって達成される。これは、幅および長さに関してこれらのまたは類似の寸法を有するパッチが上記パッチの幅に関連する端縁に沿って効率的に放射するという事実のためである。理論的には、電磁場は長さに沿ってゼロになり得て、幅に沿って最大になり得る。したがって、各導電パッチは好ましくは長方形であり、基本(TM10)モードで電磁場を放出するように構成される。単一のパッチからの放射は、通常、パッチの周囲と接地された導電層との間の縁をなす電磁場から生じる。基本モード(TM10)励起を可能にするために、長方形のパッチの長さは好ましくは、負荷波長の半分よりもわずかに小さくされる。他のモードおよび好適な幾何学的配置が用いられてもよい。
【0035】
代替的に、互いに隣接して配置された複数の進行波アンテナ構造が用いられてもよい。
より高いマイクロ波周波数の場合、共平面導波路給電サスペンド型パッチアンテナアレイが好ましい。
【0036】
この発明は、高いマイクロ波(または、ミリ波)周波数エネルギを用いて、以下の3つの要因の有益な相互関係を可能にすると見なされてもよい。以下の要因とは、小さなパッチサイズ、パッチのアレイの表面にわたる電磁場の均一性、および皮膚のさまざまな構造を制御可能に治療するのに有用であるエネルギの浸透深さである。
【0037】
エネルギが皮膚組織に伝播し、アプリケータが皮膚表面と接触するとき、負荷は、誘電体基板層の比誘電率および生物組織負荷の比誘電率から生じる。組織導電性および誘電体基板層の放散係数(tanδ)も関連要因である。たとえば、複合比誘電率が20であり
、放散係数が0.001という低い値を有する場合、負荷係数は約20、すなわち√[202+(0.001×20)2]=20.00001になる。したがって、治療面において実質的に均一な電磁場を発生させるためにこれらの要因を考慮に入れて、各導電パッチの寸法が計算されてもよい。
【0038】
複数の独立して制御可能な電源は、放出された電磁場が治療面全体にわたって適応できるようにしてもよい。換言すれば、放射素子からの放射は調整可能であってもよい。したがって、この装置によって放出される電磁場は、たとえば放射のビーム操縦および/または箇所を特定した集束を達成するように制御可能である。これは、組織の大きなエリアを被覆する装置にとって特に有用である。なぜなら、組織のインピーダンスは、アプリケータが接触するエリアにわたる生物組織構造の変化に起因して、治療エリアにわたって変化し得るためである。
【0039】
好ましくは、各電源は、電力増幅器と、増幅器によって送出された電力を検出するように配置された監視ユニットとを含み、その結果、電力増幅器によって供給された電力は、監視ユニットによって検出される、生物組織に送出された電力に基づいて制御される。監視ユニットはまた、反射して電力増幅器に戻る電力を検出するように配置されてもよく、その結果、電力増幅器に供給された電力は、監視ユニットによって検出される、反射された電力に基づいてさらに制御される(すなわち、組織に送出される電力=[要求される電力−反射される電力])。監視ユニットは好ましくは、順方向および逆方向方向性結合器を備える。これらは、単一の装置(双方向結合器)に設けられる場合もあれば、2つの単一方向性結合器として設けられる場合もある。これらのユニットは、マイクロストリップ結合器または導波路結合器の形態を取ってもよい。この構成は、たとえば湿気、組織構造などに起因して、治療すべき組織のエリアにわたる変化するインピーダンスを補償して、さらなる制御手段として、組織に放射されたエネルギのレベルを細かく制御し、放出された電磁場を集束させる能力を提供する。
【0040】
好ましくは、給電構造は、一次安定マイクロ波周波数エネルギ源と、一次エネルギ源から複数の電源におよび放射素子上にエネルギを搬送するための伝送線のネットワークとを含む。
【0041】
ネットワーク伝送線は、一次エネルギ源からの出力を複数の入力に分けるように配置された複数のパワースプリッタを含んでいてもよく、各入力はそれぞれの電源のためのものである。複数のパワースプリッタは、一次エネルギ源の出力を分けている間の電力損失を補償するように配置された1つ以上の緩衝増幅器を含んでいてもよい。
【0042】
監視ユニットよって検出された情報に基づいて、電力増幅器に供給された電力を制御するために、各電源は好ましくは、各放射素子のインピーダンスを治療すべき皮膚組織に整合させるように配置された動的インピーダンス整合ユニット(すなわち、インピーダンスチューナ)を含む。この発明では、インピーダンス整合は好ましくは(機械的に対して)電気的に達成される。インピーダンス整合は、位相調整(たとえば、PINダイオードまたはバラクタダイオード移相器)によって達成されてもよい。後者の構成では、装置のキャパシタンスは、装置に電圧を印加することによって変更される。システムのインピーダンスを組織(皮膚)のインピーダンスに整合させるために、(電力増幅器に供給された信号の位相および大きさを調整できる)任意の整合フィルタが用いられてもよい。これらの装置は、たとえば各放射素子が自身の電力増幅器を備える場合に用いることができ、そのため、伝送線のネットワークを通じて送出される電力がたとえば約4Wという最大値に限定される。小さなインピーダンス整合装置、たとえばPINダイオードは、通常、たとえば単一の電源が120Wまでを送出し得る、他のタイプの治療機器とともに用いられる実質的により高い電力レベルでは動作できない。
【0043】
この発明では高周波数が用いられるので、物理的に小さなPIN移相器およびマイクロストリップ方向性結合器が、それぞれ、動的インピーダンス整合装置および監視ユニットとして用いられてもよい。このような構成要素は、5mm2未満、場合によっては1mm2未満の底面積(または表面積)を有する可能性がある。小さな構成要素を用いることによって、この装置は集積構造を備えてもよく、それによって、監視ユニットおよび動的インピーダンス整合ユニットは、給電線損失を最小限にするまたは少なくとも低減するように、物理的に電力増幅器の近くに位置する。たとえば、この装置は、積層構造を有していてもよい。本明細書において提案される層状構造は、異なる機能を有する層を縦に積重ねることを伴っていてもよい。層状構造は、電源と複数の放射素子との間の挿入損失または給電線損失を低減でき、装置の全体的な大きさを低減することも可能にし得る。たとえば、マイクロ波サブシステムは、アプリケータと同じ表面積を有するブロック内に含まれていてもよく、直流電源および他の関連する低周波数器具は、遠く離れて位置する別個のユニット内、たとえば患者の近くの表面上に含まれていてもよい。
【0044】
電源用に用いられるマイクロ波構成要素をすべて単一の層に集積することが好ましい。積層構造は、誘電体基板上に配された放射素子を備える第1の層と、各放射素子(または、たとえば2個または4個の素子の群)用に監視およびインピーダンス調整装置を備える第2の層と、各放射素子(または、たとえば2個または4個の素子の群)用に電力増幅器を備える第3の層と、複数のパワースプリッタを備える第4の層とを含んでいてもよい(これらは、伝送線のネットワークの形態で作製されてもよい)。たとえば検出器または受信機および(以下に記載する)コントローラの追加の素子を備えるさらなる層も設けられてもよい。この構造のコンパクトな性質によって、装置を携帯可能なユニットで設けることが可能になり得て、このシステムは外来患者または在宅治療での使用に非常に適したものになり得る。
【0045】
伝送線は、たとえば導電接地面と導電パッチとの間に位置する誘電体層に挟まれることによって(ストリップライン構造)、または導電接地面の、導電パッチとは反対の側に位置することによって(共平面構造)、治療面から遮蔽されてもよい。積層構造は、この遮蔽を達成する1つの方法である。好ましくは、同軸接続が各放射素子および接地された導電層を伝送線に接続する。たとえば、導電パッチの下面に電気的に接続するようにワイヤまたはピンを誘電体基板層を通して挿入できる。ピン(ピンは誘導リアクタンスを示し得る)が呈示する一定のリアクタンスを相殺するために、静的整合が行なわれてもよい。したがって、共役インピーダンス整合を与えるために、等しい容量リアクタンスの値を提供するスタブが設けられてもよい。
【0046】
給電構造は、少なくとも1つの伝送線が1つ以上の電源から、直列に接続された複数の導電パッチにマイクロ波エネルギを送出するように配置されるように配置されてもよい。複数の放射素子は、複数の直列に給電される導電パッチから形成されてもよい。各列は、すべての導電パッチまたは放射素子を高インピーダンス伝送線と相互接続して、一端において電力を送り込むことによって、形成されてもよい。
【0047】
代替的にまたはさらに、給電構造は、少なくとも1つの伝送線が1つ以上の電源から、並列に接続された複数の導電パッチにマイクロ波エネルギを送出するように配置されるように配置されてもよい。
【0048】
直列のアレイが好ましい。なぜなら、給電構成は並列の(共同給電(corporate feed))アレイよりもコンパクトであるためであり、これは、線損失(または挿入損失)が典型的により低いことを意味している。直列の(たとえば線形の)アレイは、共振モードまたは非共振モードのいずれにおいても動作し得る。
【0049】
好ましくは、給電構造は、隣接する導電パッチによって放出された電磁場を互いに直交させるように配置される。したがって、隣接するパッチは好ましくは、互いに直交する端縁に沿って放射する。これは、治療表面積全体にわたる均一な組織効果を容易にする。
【0050】
好ましくは、治療面、放射素子および給電構造は、一方の側または両側が金属化されかつ治療すべき皮膚の領域に適合した、誘電材料からなる可撓性シート上に形成される。この構成は、治療面が一様でない可能性がある傷または身体の領域、たとえば足または腕にアンテナを巻付ける必要があり得る傷を治療するのに特に好適である。
【0051】
好ましくは、この装置は、治療面と治療すべき皮膚の領域との間に位置付けるための、たとえば誘電材料からなる被覆部を含む。被覆部は、パッチアンテナアレイの、組織に面する面上に取付可能な薄層、すなわちスーパーストレートであってもよい。被覆部は、放射素子の各々によって生成された電磁場を分散させることによって、アンテナによって生成された電磁場の均一性を高めるように配置されてもよい。被覆はまた、放射アンテナと皮膚の表面との間の絶縁バリアの役割を果たしてもよく、すなわち、これは、放射素子(パッチ)が、損失の大きい構造(アンテナ構造内に含まれる誘電材料、給電線および放射パッチ)が引起す導電性加熱によって、皮膚の表面に焼けを引起すことに関連する如何なるリスクも防止できる。動的インピーダンス整合ユニットが用いられる場合、各放射素子からの放射は、電磁場の均一性を改善するために、さらに操縦または位相シフトされてもよい。
【0052】
被覆部は、電磁波を減速させるように選択された異なる比誘電率を有する1つ以上の誘電材料からなるブロックから形成されてもよい。代替的に、被覆部は、治療面と治療すべき組織との間の空隙の存在を確実にするように配置された直立した誘電体ポストを含んでいてもよい。空隙は、電磁場を集束させるために用いられてもよい。ブロックまたは空隙は好ましくは、0.1cm未満から2cmよりも大きい厚みを有する。好ましくは、ブロックは、対象の周波数で低損失(すなわち、低いtanδ値、たとえば0.0001)である材料から作られる。これは2つの理由で重要である。第1に、マイクロ波エネルギの大部分が誘電体ブロックに吸収されるのを防ぐという理由である。第2に、ブロックが暖まり、マイクロ波エネルギが材料中に分散して材料を物理的に熱くすることに起因して皮膚の表面上に火傷を引起すのを防ぐという理由である。ブロックは、治療すべき組織と接触するように適合されたスーパーストレート層を備えるまたは含んでいてもよい(やはり、スーパーストレート材料が低いtanδ値を示すことが好ましい)。好ましくは、スーパーストレートは生体適合性材料から作られる。スーパーストレートは、ブロック上に形成された生体適合性材料、たとえばパリレンCからなる適合したコーティングであってもよい。コーティングは好ましくは、マイクロ波に対して透過性がある厚み、たとえば10μmを有する。パリレンCは、コーティングとして塗布することが比較的容易であるので、特に有用である。好ましくは、誘電体ブロックは、高い熱伝導率を有する材料、すなわちセラミック材料から作られる。
【0053】
【数1】
【0054】
好ましくは、被覆部は治療面から分離可能であり、それによって、使い捨ての要素として用いられてもよく、これは通常臨床的な使用に必要である。
【0055】
したがって、好適に構成されたパッチアンテナアレイとインピーダンス整合された給電線との組合せは、上述の新しいSHFまたはEHF半導体エネルギ源とともに、さまざまな皮膚疾患の治療に用いるのに好適な浸透深さおよび表面積を有する瞬間的かつ均一な組織効果をもたらし得る。以下に記載するように、この発明の装置はさまざまな浸透深さでの治療を可能にし、これによって、さまざまな増殖段階の皮膚病変の効果的な治療が可能になる。さらに、SHFおよびEHF放射で可能になるさまざまな浸透深さによって、皮膚の除去(皮膚移植または傷/組織の損傷)に関連する用途のための制御された表面組織の凝固も可能になる。新しい装置の潜在的利点として、(たとえば10msから100msで一気にエネルギを加えることによる)痛みの低減、包帯を巻く必要性の軽減、治癒時間の改善、および皮膚を除去した組織の大きなエリアへの細菌の侵入の防止がある。脳が神経末端から如何なる刺激も受取らないが、一方で、生物学的状態の変化を引起すという観点からいえば組織が応答可能である、すなわち治療中の所望の組織構造の細胞壊死を引起すような期間を有するパルスを用いることが可能であり得る。さらに、この発明は、たとえば従来の光凝固装置と比較して、治療時間の低減を可能にし得る。実際、治療は単回投与で施されるまたは送出されてもよい。
【0056】
この発明の別の利点は、放射素子の数(導電パッチまたは他のアンテナ構造)と、放射素子が正しく給電されるときに電源から送出される電力との間に存在する線形の関係のた
めに生じる。これによって、治療面が皮膚の比較的大きなエリアを均一に被覆および治療できる。たとえば皮膚移植後のさまざまな大きさの開放創および露出した組織を制御された剥離によって封止できるようにするため、またはメラノーマの大きなエリアを治療するために、0.5cm2未満から10cm2を超えるまでの表面積の範囲にわたる均一な組織効果がたとえば可能であってもよい。
【0057】
好ましくは、電源における電力増幅器は、ソリッドステート半導体MMICである。電力増幅器は好ましくは、電磁スペクトルの超高周波数領域および極高周波数領域において制御されたエネルギを生成するように配置される。たとえば、電力増幅器は、14.5GHz、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、または94GHzで動作してもよい。31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、および94GHzで動作する治療システムの装置は、近年の通信技術の進歩を通じて可能になる。これらの周波数での発電は、高電子移動度トランジスタ(high electron mobility transistor)(HEMT)、特にリン化インジウムベースのInAlAs/InGaAs HEMT構造を用いて実現されてもよい。45GHzまでで動作する単一のPHEMT装置を用いて4Wまでを発生させることが可能であり得る。この電力は、いくつかのパッチまたは放射素子を給電するように分割されてもよく、たとえば8つの放射素子がたとえば1つの4W装置を用いて励起されてもよい。メタモルフィック(metamorphic)HEMT(MHEMT)技術が別の好適な候補である。これらの装置は、77GHzの周波数でおよび77GHzを超える周波数で発電できる。
【0058】
上述のように、この装置は誘電体ポストを含んでいてもよく、または治療面と治療すべき皮膚組織の領域との間に空隙を作るために治療面の端縁の周りに取付けられたある長さの材料を含んでいてもよい。治療中に空隙を設けることによって、表在性の組織効果、たとえば皮膚のリサーフェシングおよび/または皮膚の若返りを達成することが可能になり得る。この発明はまた、可能な浸透深さの範囲のために、コラーゲン収縮、体毛の除去または円形脱毛症の治療に使用可能であり得る。空隙はまた、上述のように、放出された電磁場を集束させるまたは操縦するために用いられてもよい。
【0059】
第2の局面において、この発明は、マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための機器を提供してもよく、この機器は、安定した出力周波数またはさまざまな選択可能な安定した出力周波数を有するマイクロ波放射の供給源と、マイクロ波放射の供給源に接続された上述の治療装置と、マイクロ波放射によって治療すべき組織に送出されたエネルギの量を制御するように配置されたコントローラとを含む。この機器において用いられる他の装置は、制御および監視のための(たとえば、デジタル信号プロセッサ(digital signal processor)(DSP)を含む)マイクロプロセッサユニットと、ディスプレイおよび入力装置(たとえば、キーボードおよび/もしくはマウスまたはタッチスクリーンディスプレイ)を備えるユーザインターフェイスと、直流電源ユニットと、好適なハウジングとを含んでいてもよい。マイクロプロセッサユニットは好ましくは、各放射素子に関連する監視ユニットから、検出された情報を受取り、それに従ってそれぞれの動的インピーダンス整合ユニットを制御するように配置される。
【0060】
第3の局面において、マイクロ波放射で皮膚組織を治療する方法が提供されてもよく、この方法は、複数の放射素子をその上に有する治療面で、治療すべき皮膚の領域を被覆するステップと、複数の独立して制御可能な電源を介して、EHFまたはSHF範囲の安定した出力周波数またはさまざまな選択可能な安定した出力周波数を有するマイクロ波放射の供給源を放射素子に接続し、それによって、放射素子は治療すべき皮膚の領域に予め定められた深さまで浸透するマイクロ波電磁場を放出するステップと、治療すべき皮膚の領域にわたって均一なエネルギ送出を可能にするように、電源によって放射素子に送出された電力を制御するステップとを含む。
【0061】
この発明は、本明細書に開示されるスペクトルのより高い端部に向かう周波数で用いられるときには、皮膚ウイルスまたは皮膚組織に見られる他のタイプのウイルスを治療するために用いられてもよい。この発明は、たとえばウイルスを不活性化するようにウイルスのDNA構造を変更できるようにしてもよい。この治療方法は、身体に耐性ができ、特定の抗生物質が効かなくなった場合に、抗生物質に勝る利点を有し得る。身体は、本明細書に記載する治療システムに対して免疫をもつことはない。
【0062】
この発明はまた、良性の皮膚腫瘍、たとえば光線性角化症、軟性線維腫、皮角、脂漏性角化症、または一般的なイボの治療に用いられてもよい。この発明に関連して興味深い特に関連性のある臨床的用途は、アトピー性皮膚炎および脂漏性皮膚炎またはざ瘡の治療であってもよく、そこでは、皮脂腺または汗腺の過活動が過剰な発汗を引起し、これは、細菌または菌類が皮膚の表面上に生じることに繋がる。生じた菌類はピチロスポルムとして知られており、ピチロスポルムは、皮膚上に生じる一般的な細菌であり、汗をかく領域、たとえば頭、胸部の下、前頭部、および腋窩に現われる細菌である。脂漏性皮膚炎を患っている人は通常よりも汗をかくので、これはより多くのピチロスポルム菌類が生成されることに繋がる。皮膚表面において放射素子(たとえば、10mm2パッチまたはパッチアンテナのアレイ)によって電力を送出するように起動されて、制御されたエネルギ投与量を皮脂腺に送出するマイクロ波またはミリ波電源は、過剰な活動を抑え得る。
【0063】
ここで提案される新しい皮膚システムは、すべての皮膚構造を治療するのに有効であり得て、この場合には、新しい皮膚システムは、皮膚細胞だけでなく、血管、神経系統、さらには皮膚の免疫系統にとっても有用であり得る。したがって、このシステムは、壊疽性膿皮症、白斑、痒疹、限局性強皮症、過形成性瘢痕、およびケロイドなどの皮膚に関連する疾患を治療するのに有効であり得る。
【0064】
ここに記載する治療システムはまた、慢性的な痛み、すなわちヘルペス後神経痛(postherpetic neuralgia)(PHN)の緩和のために用いられてもよい。
【0065】
おそらく関連性のある別の臨床的用途は、円形脱毛症の治療である。円形脱毛症は、頭髪が成長する皮膚組織の一部である毛嚢を身体の免疫系統が誤って攻撃する自己免疫病である。この疾患が生じると、頭髪は通常小さな丸いパッチ状に抜け落ちる。この疾患は、高周波数マイクロ波またはミリ波エネルギを用いて毛嚢に刺激を与えることによって治療可能であり得る。この発明に従って、このエネルギは、頭皮に突き刺すことができるパッチアンテナのアレイを介して供給されてもよい。パッチまたはアレイの大きさの範囲は、特定の患者において脱毛症が引起す脱毛の量に合わせるように開発されてもよく、たとえばその大きさは1cm2から100cm2の範囲であってもよい。この円形脱毛症の治療には、小さな浸透深さ、たとえば約0.1mmが必要である可能性があり、したがって、この発明は、100GHzを超える周波数、たとえば300GHzまたはそれ以上の周波数が用いられるときにこの臨床的用途に特に適したものになり得る。アンテナを担持または収容するために用いられる材料は、頭皮と十分に接触する可撓性のまたは適合した材料であってもよい。アレイにおける各アンテナは別個の増幅器からエネルギを供給されてもよく、または各アンテナに電力を送出して、各アンテナが適切な量のエネルギを頭皮に放射するようにするためにパワースプリッタが用いられてもよい。
【0066】
この発明の他の特徴について、添付の図面を参照して、以下でなされるこの発明の例の詳細な説明の中で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1(a)】皮膚病変の治療に適合されたこの発明の実施例である治療システムを示す。
【図1(b)】皮膚病変の治療に適合されたこの発明の実施例である治療システムを示す。
【図1(c)】皮膚病変の治療に適合されたこの発明の実施例である治療システムを示す。
【図2(a)】開放創の治療に適合されたこの発明の別の実施例である治療システムを示す。
【図2(b)】開放創の治療に適合されたこの発明の別の実施例である治療システムを示す。
【図2(c)】開放創の治療に適合されたこの発明の別の実施例である治療システムを示す。
【図3】この発明のさらなる実施例である皮膚治療装置を通る断面図である。
【図4】この発明のさらなる実施例である皮膚治療機器全体を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施例において実現され得る積層構造の概略図である。
【図6】図4に示される機器の給電構造を示す。
【図7】図4に示される機器からの単一の監視ユニットを示す。
【図8】この発明の別の実施例である皮膚治療装置の概略図を示す。
【図9(a)】この発明のさらに別の実施例である皮膚治療装置の上面図を示す。
【図9(b)】この発明のさらに別の実施例である皮膚治療装置の底面図を示す。
【図9(c)】この発明のさらに別の実施例である皮膚治療装置の側面図を示す。
【図10】この発明に従う、装置における放射パッチに電力を提供するための給電構造の一例を示す。
【図11】装置の1つの層における増幅器からその装置の別の層における放射パッチに電力を提供する給電構造の一例を示す。
【図12】図11に示される構成の断面図である。
【図13】この発明に適用することができる第1の給電構成の概略図である。
【図14】この発明に適用することができる第2の給電構成の概略図である。
【図15】この発明に適用することができる第3の給電構成の概略図である。
【図16】この発明に適用することができる第4の給電構成の概略図である。
【図17】図16に示される給電構造の実際の実施例の平面図である。
【図18】14.5GHzの放射とともに用いられるパッチアンテナのアレイの平面図である。
【図19】31GHzの放射とともに用いられるパッチアンテナのアレイの平面図である。
【図20】この発明の実施例において用いることができる緩衝増幅器を有する給電構造を示す。
【図21(a)】単一のサスペンド型パッチアンテナを給電する従来の共平面導波路構造の断面図を示す。
【図21(b)】単一のサスペンド型パッチアンテナを給電する接地された共平面導波路構造の断面図を示す。
【図22(a)】放射アンテナパッチと共平面導波路構造との間に接続された給電ポストを用いて空気中に吊り下げられた単一のパッチアンテナの代替的な図を示す。
【図22(b)】共平面導波路の接地面が放射パッチアンテナに接地面も提供する、共平面導波路線を用いて給電されるサスペンド型パッチアンテナのアレイを示す。
【図23】マイクロストリップ線の構成とともに共平面導波路構造を用いて給電される16個のサスペンド型放射パッチアンテナのアレイを用いるアンテナアレイおよびマイクロ波サブアセンブリの具体的な実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
詳細な説明、さらなるオプションおよび選択
この発明の一般的原理は、放射素子のアレイからの、実質的に均一な電磁場を有する電磁放射を生成することである。以下に記載する実施例のうちのいくつかでは、放射素子としてパッチアンテナが用いられる。スロット付き線または共平面導波路給電サスペンド型パッチのアレイも用いられてもよい。このような放射素子およびそれらの給電線構造を作製するために、微細加工技術を用いることができる。さらなる実施例は、接地面に複数のスロットを有する底部層と、放射マイクロストリップ線がスロットの上にくるように誘電体層上に作製されたマイクロストリップ線の構成とを備える放射構造を提供する。マイクロストリップ線およびスロットの大きさは、スロットからエネルギが放射されるように決められる。ここで紹介するパッチアンテナアレイの動作環境は、このようなアンテナ構造が通常動作する通常の「自由空間」状況とは非常に異なっている。たとえば、パッチアンテナのアレイは、通常、船のレーダ、地上レーダおよびさまざまな他のタイプの通信機材で利用される。したがって、生物組織は、パッチアンテナのアレイが動作する環境としては、従来とは多少異なったものになる。なぜなら、通常この発明における構造は近距離場において動作することになるためである。すなわち、この動作は、変位電流が関係するアンテナと組織との間の容量結合であると考えられてもよい。
【0069】
生物学的環境での動作には、特定の課題がある。皮膚組織に関連する高い誘電率により、自由空間に比べて共振構造の大きさが縮小される。たとえば、湿った皮膚を治療する場合、パッチまたは半波ダイポールアンテナ素子は31GHzで約1.16mm2であるのに対して、空気中では4.8mm2である。したがって、最大エネルギが送出される(すなわち、最適効率でエネルギが送出される)ように共振動作を保つために、共振パッチアンテナ構造の外形を調整する必要があり得る。
【0070】
波長単位で測定された、大きなエリアにわたる均一な放射を確実にするために、多数のパッチが用いられる。皮膚組織の導電性が局所的に高いために、パッチアレイアンテナの通常の共振挙動は失われることになる。これは、インピーダンスの制御および給電分配ネットワークに整合させる能力を制限する。たとえば、4分の1波モノポールの入力インピーダンスは35Ωから5Ωに落ちる可能性がある。したがって、給電構造を放射パッチに整合させるためには、追加の整合が必要とされ得る。これを達成するために、動的インピーダンス整合ユニットが必要とされ得る。可能な構成について以下で説明する。
【0071】
表1は、乾燥した皮膚および湿った皮膚に関連する関連性のある電気特性および誘電特性の一覧である。これらの特性は、パッチが効率的に皮膚組織にエネルギを放射して、装置の表面積全体にわたって組織上に均一な効果をもたらすことを確実にするようにパッチアンテナアレイを設計する際に、考慮に入れられる。
【0072】
【表1】
【0073】
上の表における記号:εr,σおよびαは、それぞれ、比誘電率(無次元)、導電性(メートル当たりのジーメンス)および浸透深さ(ミリメートル)を表わす。この作業において検討されるアンテナアレイ構造をモデリングするために、電磁場モデリングパッケージ、たとえばコンピュータシミュレーションツール(Computer Simulation Tools)(CST)マイクロ波スタジオ(Microwave Studio)(登録商標)が用いられた。
【0074】
以下に記載する実施例において調査される周波数は、14.5GHz、31GHzおよび45GHzであり、乾燥した皮膚および湿った皮膚への浸透深さは、14.5GHzではそれぞれ2.16mmおよび2.10mmであり、31GHzではそれぞれ0.82mmおよび0.85mmであり、45GHzではそれぞれ0.59mmおよび0.61mmである。類似の技術が、より高い周波数(たとえば、60GHz、77GHzまたは94GHz)で動作する装置に適用されてもよい。これらの周波数は、もたらされる浸透深さが皮膚に関連するいくつかの疾患の治療にとって興味深いものであるという事実のために、この発明において検討される治療アプリケータにとっては好ましい動作周波数であり、これらの周波数は、「超高周波数」領域(SHF)および「極高周波数」領域(EHF)として知られているマイクロ波スペクトルの領域内にある。より低いマイクロ波周波数と比較して、関連する波長が小さいという事実のために、比較的小さな表面積の中に単一波長または半波長放射パッチの大きなアレイを製作して、確実に均一な組織効果を得られるようにすることを助けることが可能である。より高い周波数で動作する装置は、より小さな浸透深さが必要である場合に用いられることができる。
【0075】
小さな放射浸透深さと、小さな表面積を有する放射パッチを製作する能力との組合せによって、これらの高いマイクロ波周波数で動作するエネルギ源を皮膚科の用途のために実用化することが可能である。
【0076】
図1(a)、図1(b)および図1(c)は、患者の腕の癌性病変を治療するために用いられ得る治療システム一式の図を示す。図1(a)は、病変302を有する腕300を
示す。図1(b)は、病変302を治療する放射アンテナアレイ304を示す。治療システム全体は、直流電源用伝送線と制御信号用伝送線とを含むケーブルアセンブリ308を用いてともに接続された2つのサブシステム304、306を備える。制御信号の動作周波数は、マイクロ波周波数スペクトルと比較して非常に低く、たとえば1Hzから100KHzの間であり、したがって、ケーブルに沿った挿入損失は無視できるほどのものであり、さまざまな標準的なケーブル、たとえば直径が0.2mmの7本の(7/0.2mm)錫めっき銅線が用いられてもよい。第1のサブシステム306は、直流電源と、制御ユニット(たとえば、マイクロプロセッサおよび/またはデジタル信号プロセッサ)と、適切なユーザインターフェイス(たとえば、モニタを有するキーボード/マウス、キーパッドまたはタッチスクリーンディスプレイを有するLED/LCDディスプレイなど)とを含む。第2のサブシステムは、図1(c)に詳細に示されるマイクロ波サブアセンブリ304であり、マイクロ波供給源発振器310と、マイクロ波電力増幅器312と、電力分割および給電ネットワーク314と、放射アンテナアレイ316とを含む(すべてについて以下でより詳細に説明する)。このユニットはまた、方向性結合器(図示せず)、たとえば、マイクロストリップ結合器、検出器、および動的同調またはビーム操縦手段を含む。方向性結合器を用いて、順方向に進むまたは反射される電力のレベルを監視できるようにし、上記結合器の結合されたポートからの信号は、PINダイオード移相器または可変キャパシタンスバラクタダイオード(これらも図示せず)を制御して、アンテナアレイを皮膚の表面インピーダンスにインピーダンス整合させることができるようにするために、用いられてもよい。
【0077】
図2(a)、図2(b)および図2(c)は、患者の足の大きな傷を治療するために用いられるシステムの図を示す。図2(a)は、足に大きな開放創322を有する患者320を示す。この傷は、たとえば皮膚病、自動車事故によって、または戦闘もしくは戦争にかかわることによってもたらされ得る。図2(b)は、直流電力供給を搬送する伝送線と制御信号を搬送する伝送線とを含むケーブルアセンブリ328を用いてともに接続された2つのサブシステム324、326を含む治療システム一式を示す。第1のサブシステム326は、直流電源と、制御ユニット(たとえば、マイクロプロセッサおよび/またはデジタル信号プロセッサ)と、適切なユーザインターフェイス(たとえば、モニタを有するキーボード/マウス、キーパッドまたはタッチスクリーンディスプレイを有するLED/LCDディスプレイ)とを有する。第2のサブシステムは、図2(c)により詳細に示されるマイクロ波サブアセンブリ324である。マイクロ波サブアセンブリ324は、マイクロ波供給源発振器330と、マイクロ波電力増幅器332と、電力分割ネットワーク334と、放射アンテナ336とを含む。この実施例では、足(または、類似の構造を有する身体の他の領域)に巻付けることができるように、放射アンテナ336は可撓性基板338上に作製される。マイクロ波電力増幅器332、供給源発振器330、およびマイクロ波サブアセンブリ324に関連する他のマイクロ波電子部品は、望ましくは可撓性アンテナアレイ構造の入力に直接接続されて、挿入損失を最小限にする。
【0078】
この実施例では、複数の進行波アンテナ構造を用いて、可撓性アンテナアレイを形成する。
【0079】
実際には、足の全周の傷の迅速な治癒に必要な均一な組織効果をシステムがもたらすことができるように、図2(c)に示されるタイプの2つのアンテナアレイがともに用いられてもよい。より大きな表面積を治療すべきである場合には3つ以上のアレイを用いることが望ましいであろう。
【0080】
図3は、皮膚表面24に適用された、この発明の実施例である皮膚治療装置10を示す。装置10は、エネルギ、たとえば予め定められた安定した周波数を有する交流電力をエネルギ源(図示せず)から装置に与えるマイクロ波給電コネクタ12を有する。給電コネ
クタは、任意の好適なタイプ、たとえばSMA、SMB、SMC、MCXまたはSMPなどの同軸接続であってもよい。(たとえば、銅、銀などからなる)接地された導電層14は、給電構造(以下に記載)を介して複数の導電パッチ18に供給される電流のための戻り電流経路を提供するように、誘電体基板16上に取付けられる。各パッチ18は、提供されたマイクロ波エネルギのための放射アンテナの役割を果たすように選択された長方形の形状を有する。放射素子の形状は必ずしも長方形ではない。すなわち、放射素子は、正方形、三角形または円筒形であってもよい。この形状は、電磁場シミュレーションを用いて最適化されてもよい。複数のパッチ18は、規則的な配列で配置され、一緒になって実質的に均一な電磁場を外向きに放出するように基板16の表面上の空隙20によって隔てられている。パッチ18のアレイは、好ましくは生体適合性材料、たとえばパリレンC、テフロン(登録商標)などから形成された誘電体スーパーストレート22によって被覆される。
【0081】
典型的に、スーパーストレート22は、治療中に皮膚24と接触する。しかしながら、より表在性の治療が必要である場合(たとえば、組織のリサーフェシングの場合)には、スーパーストレート22と皮膚24との間に空隙が導入されてもよい。上記空隙と上記組織との間の距離が、信号減衰がたとえば1dB未満であるようなものである場合、アプリケータの表面を組織の表面と直接接触させる必要なく、供給源エネルギの大部分を組織の表面に結合することが可能である。この治療方法の利点は、高温のアプリケータに起因して焼けまたは組織の炭化の点で組織の表面が損傷を受け得る可能性がないはずであること、およびスタンドオフ距離を調整することによって、たとえば装置から突出している1つ以上の誘電体ポスト間に調整可能なねじ式係合を有することによって、エネルギ分布を変更できることである。この方法は、皮膚表面を影響を受けないままにしながら皮膚の表面下の組織に影響を及ぼすために用いることができる。特定の用途は、コラーゲン収縮および毛嚢の房の破壊を含んでいてもよい。
【0082】
代替的に、放射パッチと皮膚の表面との間で低損失誘電体ブロックが用いられてもよい。エネルギ調整はまた、PINダイオード減衰器を調整して電力レベルを制御することによって、またはPINダイオードスイッチを変調して、送出されたエネルギのパルス幅もしくはデューティサイクルを変更することによってなされてもよい。代替的に、互いに対して放射パッチの位相を制御するためにPINダイオード位相調整器が用いられてもよい。個々のパッチ(または放射素子)に送出された電力レベルの調整と、位相の調整との組合せによって、表面上および表面下の両方の皮膚構造の変化が異なる量のエネルギまたは異なる整合条件を必要とし得るときに、均一なエネルギを大きな表面積にわたる皮膚の表面に送出することができる。したがって、この発明は、治療エリア上の組織構造のばらつきに適合できる、個々に制御可能な放射素子を提供してもよい。
【0083】
スーパーストレート22は、取外し可能であり、機器の使い捨て部を形成する。
誘電体基板16は、任意の好適な材料、すなわち、好ましくは治療中の皮膚組織の表面に装置をインピーダンス整合させることを助ける、低いtanδおよび比誘電率を有する誘電材料からなっていてもよい。好適な材料の例は、PTFE、ナイロン、サファイア、およびパリレンCでコーティングされたアルミナ(コーティングの厚みは好ましくは10μm未満である)である。アルミナを用いることの利点は、皮膚構造の比誘電率に匹敵する約10という比誘電率を有すること、および優れた熱伝導率を有することを含む。場合によっては、伝導によって発生する如何なる熱も組織の表面に伝達されることを防ぐために、劣った熱伝導率を有する材料を用いることが望ましいであろう。これは組織の表面の焼けを招く可能性がある。すなわち、熱が皮膚に伝えられるのではなく材料に蓄積される。
【0084】
PTFEまたはナイロンの比誘電率は比較的低い傾向があり、たとえば2から4の間で
あり、したがって、誘電体基板層とパッチアンテナ層との間に整合変圧器が必要であり得る。低誘電率誘電体が用いられる場合、誘電体基板層とパッチアンテナ層との間に追加の誘電体層を挟んで、必要なインピーダンス整合を行なうこと、および電力の一部が組織/誘電体界面において反射されるのを防ぐことが好ましい。
【0085】
罹患した皮膚組織を治療しながら皮膚の表面を冷たい状態に保つことが必要である場合には、パッチアンテナアレイはペルティエ冷却器装置上に取付けられることができるであろう。これは、コラーゲン収縮の用途にとって特に興味深いものであり得る。優れた熱伝導率を有するセラミック基板はまた、皮膚の表面から熱を除去することを助け得る。
【0086】
マイクロ波エネルギが加えられるときに組織の表面を冷却するために冷却剤またはフリーザ噴霧器で皮膚の表面を噴霧することも可能であり得る。この構成では、マイクロ波エネルギは、マイクロ波エネルギの周波数に関連する深さまで皮膚の層内に吸収され、皮膚の表面は変化しない。冷却剤の送出をマイクロ波パルスの印加と同期させることが好ましいであろう。たとえば、マイクロ波パルスが期間100msを有する場合、パルスよりも50ms前に噴霧器を起動させることが望ましいであろう。
【0087】
図1に示される構造は剛性かつ平坦であるが、でこぼこの組織構造に適合する可撓性アレイを製作するように修正することが可能である。たとえば、ロジャース・コーポレーション(Rogers Corporation)およびシェルダール社(Sheldahl)(現在のマルテック・フレキシブル・サーキッツ社(Multek Flexible Circuits))は、この発明を実施する際に用いられてもよい可撓性のラミネートポリマー回路材料を製造している(たとえば、ロジャース・コーポレーションは、R/flex3600として知られている特定の材料を製作している)。
【0088】
導電パッチ18が用いられる場合、装置設計はパッチアンテナアレイの理論に基づき、各放射パッチの大きさ(長さ「L」および幅「W」)は有効誘電率の関数として計算され、動作周波数(たとえば、14.5GHz)、パッチアレイを作製するために用いられる材料の誘電率εr、パッチアンテナを用いて治療する皮膚組織の誘電率、および誘電体ブロックまたは空隙(用いられる場合)の誘電率に依存する。スーパーストレート22はまた、アンテナ構造全体の性能に影響を及ぼすことになり、これはパッチアンテナアレイを設計および最適化する際に考慮に入れなければならない。スーパーストレート材料の厚みが小さい、たとえば5〜10μmである場合、影響は無視できるほどのものであり得て、無視することができる。非常に薄い層のみが用いられる場合には、比較的損失の大きい、すなわち0.001より大きなtanδを有する材料を用いることも可能である。
【0089】
厚いスーパーストレート22に起因する有効誘電率の変化は実質的な変化をもたらす可能性があり、変化の量は、スーパーストレート22の厚みおよび比誘電率によって支配される。
【0090】
表2は、アプリケータを皮膚の表面に接触させた状態での乾燥した皮膚と湿った皮膚に関連する誘電負荷についてcm2当たりのパッチの数を確認するために行なわれた理想的な計算に基づく情報を示している。これらの数字は、放射パッチが皮膚と直接接触しており、放射パッチが作製される基板材料がパッチの大きさに影響を与えないと仮定している。また、材料損失に起因する誘電率の成分が比誘電率と比較して低いと仮定している。より正確な数字を得るためおよび/または上で無視した要因を考慮に入れるために、電磁場シミュレーションを行なうことができ、パッチアレイまたはこの発明とともに用いるのに適した他のアンテナ構造の大きさの最適化を行なうことが可能である。
【0091】
【表2】
【0092】
上記の周波数で動作するソリッドステートトランジスタ装置は、トライクイント・セミコンダクター社(TriQuint Semiconductor)、東芝セミコンダクター社、ヒッタイト・マイクロウェーブ・コンポーネンツ社(Hittite Microwave Components)、および三菱セミコンダクター社から商業的に調達可能である。14.5GHzで動作する装置は十分に確立しつつあるのに対して、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、および94GHzで動作する装置は現在利用可能になり始めている。トライクイント・セミコンダクター社は、現在、45GHzおよび31GHzで動作する4W装置を製造している。この電力出力では、いくつかの放射素子を給電するために単一の装置が用いられてもよい。半導体技術、特にPHEMT装置の近年の進歩により、100GHzまでの周波数で発生する100mWから2Wの電力レベルが提供される。
【0093】
表2中の数字は、全部の半波長負荷パッチを表面積10mm2の正方形に収容できるように、端数を切上げるまたは切下げている。実際の実施の際には、利用可能な基板材料のエリア上に作製できるパッチの数を最適化するために大きさをわずかに拡張または縮小してもよく、電磁場モデリングから得られた結果に従って大きさは変化し得る。たとえば、寸法が10.62mm(W)×10.62mm(L)に増大される場合、動作周波数が14.5GHzであれば16個全部の半波長パッチをアレイにおいて用いることができるであろう。これらの寸法は、シミュレーションが行なわれると変化する。なぜなら、損失の大きい生物組織構造とアンテナ構造との間の相互作用が考慮に入れられるためである。最も単純なレベルで、構造全体に関連する誘電率の3つの値がある。3つの値とは、生物組織(皮膚)の複素誘電率、スーパーストレート層の複素誘電率、および基板層の複素誘電率である。治療エリアを増大させるために均一な態様でパッチの数を増やすことが可能であり、たとえば31GHzでは、表面積が4cm2である正方形の治療アプリケータを作製するために144個のパッチを用いることができ、したがって、表面積が16cm2である正方形の治療アプリケータを作製するには576個のパッチが必要になるであろう。
【0094】
図4は、この発明の実施例に従う治療機器一式100に含まれる構成要素の図を示す。図5は、その機器の概略図を示し、ここでは、マイクロ波エネルギ源、給電構造および放射アンテナアレイのために用いられる機器構成要素はすべて、単一の基板上に集積され、それによって、コンパクトな全体設計を作り出している。垂直積層技術を用いて、機器100は複数の層からなっている。バッテリまたは交流/直流コンバータ(すなわち、電源)102は、ユーザによって操作可能な制御およびディスプレイ装置を含む第1の層104上に取付けられる。第1の層104は、機器を制御するためのプロセッサを含む第2の層106上に取付けられる。この層はまた、故障状態を監視し、第1のプロセッサが動作不良を起こした場合に保護手段の役割を果たすように用いられる「ウォッチドッグ」として知られている第2のプロセッサを含んでいてもよい。第2の層106は、マイクロ波信
号生成ラインアップを含む第3の層108上に取付けられる。第3の層108は、生成されたマイクロ波信号を昇圧するためのマイクロ波増幅器ラインアップ(たとえば、複数のMMICまたはMHEMT装置)を含む第4の層110上に取付けられる。第4の層110は、第5の層112上に取付けられ、第5の層112は、生成されたマイクロ波信号を分けかつエネルギを放射素子に伝送するように配置されたパワースプリッタのネットワークを組入れる(たとえば、マイクロストリップトラックの)給電構造を含む。第5の層112は、第6の層113上に取付けられ、第6の層113は、アンテナ構造の放射素子に与えられる前に、分けられた信号を昇圧するための電力増幅器(たとえば、MMIC装置)のアレイを含む。第6の層113は、第7の層114上に取付けられ、第7の層114は、各放射素子に送出された電力および各放射素子から反射された電力を監視するように、および、たとえば治療すべき組織とのインピーダンス整合を確実にするために各信号を調整するように配置された信号制御装置のアレイを含む。第7の層114は、第8の層116上に取付けられ、第8の層116は、各々が信号制御装置のアレイから、分けられた信号を受信する放射素子(たとえば、導電パッチ、スロットライン、または共平面導波路サスペンド型パッチアンテナ)のアレイ(たとえば、規則的なパターン)を含む。第8の層は、図4に示される構成に類似した放射構成を提供するために、放射素子とは反対側の面上に、接地された導電性コーティングを有していてもよい。生体適合性の取外し可能な(使い捨ての)第9の層117が第8の層116上に設けられる。第9の層117は、使用中、治療すべき組織と接触する(すなわち、それは上述のスーパーストレート層である)。
【0095】
したがって、機器一式が層のサンドイッチ構造内に含まれることができる。パワーデバイスを放射パッチ上に直接取付けることの主な利点は、伝送損失(または、給電線損失もしくは挿入損失)を最小限にすることである。これは、高周波数(たとえば、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、94GHz、およびそれを上回る周波数)での動作にとって特に興味深いものである。図1および図2に示されるように治療システム全体を2つの別個のブロックに分割することが望ましいであろう。第1のブロックは、スーパーストレート層、アンテナアレイ、給電構造、発電装置、および供給源発振器からなるマイクロ波サブアセンブリを含んでいてもよい。第2のブロックは、直流電源、制御電子機器(マイクロプロセッサおよび/またはDSPおよび/またはウォッチドッグ)、およびユーザインターフェイスを含んでいてもよい。
【0096】
各層における構成要素が図4に示されている。マイクロ波信号は安定周波数源126によって生成され、安定周波数源126は、電磁スペクトルの超高周波数(SHF)または極高周波数(EHF)領域内に含まれる単一周波数で、より詳細には、14.5GHz、24GHz、31GHz、45GHz、66GHz、77GHz、または94GHzで(周波数変動は数百kHzに限定される)信号を提供する。ここに示される安定周波数源126は、マイクロ波供給源126の周波数安定性を導き出す基準信号を含む位相ロック誘電体共振器発振器(dielectric resonator oscillator)(DRO)の形態を取り、上記基準信号の供給源(図示せず)は、1MHzから100MHzの間であるが、より好ましくは10MHzから50MHzの間の範囲内の周波数で動作する温度安定水晶発振器を備えていてもよい。電圧制御発振器(voltage controlled oscillator)(VCO)またはガンダイオード発振器などの他の周波数源が用いられてもよいが、この発明ではDROを用いることが好ましい。システムの周波数安定性を高めるために、2つの基準発振器をマイクロ波供給源126内で用いることができる。複数の安定周波数源を用いて、複数のマイクロ波周波数源を用いることができるようにして、単一のパッチアンテナアレイを励起することが好ましいであろう。この構成では、安定周波数源は周波数合成器の形態を取ってもよい。
【0097】
安定周波数源126は、3dB 0°パワースプリッタ128の入力ポートに接続され
る。スプリッタ128の目的は、位相変化を導入することなく、供給源126が生成した電力を2つの等しい割合に分けることである。
【0098】
スプリッタ128からの第1の出力は第1の信号アイソレータ132の入力に接続され、スプリッタ128からの第2の出力は減衰パッド130の入力に接続される。減衰器パッド130の出力はマイクロプロセッサ124への入力であり、マイクロプロセッサ124では、信号を用いて周波数源126の状態を監視する。減衰器パッド130の目的は、マイクロプロセッサ124への入力に入射する信号レベルを限定することである。信号供給源126が不適切に機能していることを信号が示す場合、マイクロプロセッサ124は、エラーが発生したことを合図し、システムは適切な動作を行なう。すなわち、エラーメッセージが生成され、および/またはシステムが停止される。
【0099】
第1の信号アイソレータ132の目的は、たとえばロードプリング、または信号供給源126が生成した信号に影響を及ぼし得る別の条件に起因して供給源126において周波数変化を引起す第1の変調ブレークスルー阻止フィルタ134の入力に存在する如何なる不整合信号も防ぐことである。実際には、フィルタ134の入力ポートが十分に整合されていればアイソレータ132は必要ないかもしれないが、アイソレータ132は予防措置として含まれている。第1の変調ブレークスルーフィルタ134の出力は変調スイッチ136の入力に接続され、変調スイッチ136の機能は、安定周波数源126が生成した信号を変調して、システムがパルスモードで動作できるようにすることであり、それによって、ユーザ制御およびディスプレイユニット118ならびにマイクロプロセッサ124を用いて、デューティサイクル、パルス幅、および(望まれる場合)パルス形状を修正できる。第1の変調ブレークスルーフィルタ134の目的は、変調スイッチ136が生成した高速スイッチング信号内に含まれる周波数成分が安定周波数源126に戻り、その出力信号に影響を及ぼすのを防ぐことである。
【0100】
変調スイッチ136への入力制御信号135はマイクロプロセッサ124から生じる。この制御信号135はトランジスタ−トランジスタ論理(transistor-transistor logic)(TTL)レベル信号であってもよく、他の信号フォーマット(たとえば、エミッタ結合論理(emitter coupled logic)(ECL))が可能である。
【0101】
変調スイッチ136からの出力は、第2の変調ブレークスルー阻止フィルタ138の入力に接続され、第2の変調ブレークスルー阻止フィルタ138の機能は、特定の治療法のために変調スイッチ136が生成し得る高速スイッチング信号内に含まれる周波数成分が、後続の前置増幅器144および電力増幅器146に入り、たとえば信号の歪み、誤った出力電力レベル、またはたとえば出力電力段発振の顕在化によるこれらのユニットに対する損傷、または信号の過励振を引起すのを防ぐことであり、信号の過励振は、周波数源126が生成する信号もしくは増幅器144、146の帯域幅内である、すなわち上記増幅器が利得を与える信号の周波数と同じ周波数で生じるスイッチング信号内に含まれる高調波のうちの1つによって引起される。
【0102】
ブレークスルー阻止フィルタの実際の実施は単に長方形導波路セクションであってもよく、そこでは、導波路セクションの遮断周波数よりも低い周波数は阻止され、したがって、導波路セクションはハイパスフィルタの役割を果たす。
【0103】
第2の変調ブレークスルー阻止フィルタ138からの出力は、第2の信号アイソレータ140の入力に接続される。上記第2のアイソレータ140からの出力は可変信号減衰器142に接続され、可変信号減衰器142の機能は、マイクロプロセッサ124が生成した入力制御信号143を用いて信号減衰のレベルを変化させることによってシステム電力レベルを制御できるようにすることである。可変信号減衰器142は、アナログ減衰器で
ある場合もあれば、デジタル減衰器である場合もあり、反射型である場合もあれば、吸収型である場合もある。この減衰器は、いくつかのパルス形状またはシーケンスを生成するようにマイクロプロセッサ124によって制御されてもよい。第2の信号アイソレータ140の機能は、可変減衰器142の入力ポートと第2の変調ブレークスルー阻止フィルタ138の出力ポートとを分離することである。第2の信号アイソレータ140は、優れた設計実践のために挿入されており、劣化またはマイクロ波サブアセンブリに対する損傷を引起すことなく機器から割愛することができる。
【0104】
可変減衰器142からの出力は信号前置増幅器144の入力に接続され、信号前置増幅器144の機能は、後続の電力増幅器段146への入力の駆動にとって許容できるレベルに信号を増幅することである。前置増幅器144は、電力増幅器段146を駆動するために必要な10dBから40dBの間の利得を与えてもよい。前置増幅器144は、単一の小型マイクロ波集積回路(miniature microwave integrated circuit)(MMIC)、複数のMMIC、MMICと単品部品との組合せ、または複数の単品部品の形態のものがあってもよい。MMIC装置は単品部品にとって好ましい。なぜなら、これらの装置は通常、より多くの利得を生み出すためであり、したがって、単品部品のカスケード接続の代わりに単一のMMICを用いてもよい。これは、空間(大きさ)の最小化および熱の放散の点で有利である。たとえば、トライクイント社の半導体装置TGA8658−EPU−SGを用いることができる。前置増幅器において用いられる好ましい装置技術はガリウム砒素(GaAs)技術であるが、実現性のある代替案を提供し得る他の台頭しつつある技術、たとえば窒化ガリウム(GaN)または高電子移動度トランジスタ(HEMT)がある。
【0105】
前置増幅器144からの出力は入力を電力増幅器146に供給し、電力増幅器146の機能は、治療装置の放射アンテナ構造を供給するために必要なレベルに信号を昇圧することである。
【0106】
電力増幅器146からの出力は、3dBパワースプリッタ148のネットワークに供給される。パワースプリッタ148は、機器のそれぞれの層112上にマイクロストリップ構造として作製されることができる。図6に示されるように、電力分割ネットワークは、電力増幅器からの信号を16個の給電装置A1〜A16に分ける15個のパワースプリッタSP1〜SP15を備え、16個の給電装置A1〜A16の各々は、次の層113におけるそれぞれの増幅器150に接続される。したがって、この実施例では、増幅器ネットワークは単一の供給源から給電される。
【0107】
16個の増幅器150の各々は、その出力が導電放射パッチまたはアンテナ154を駆動するように配置される。16個の増幅器150は、この目的で駆動信号S1〜S16を生成する。増幅器150は各々、33dBm(2W)の1dB圧縮点において電力を生成し、16dBの利得を有し、41GHzから46GHzの間の周波数範囲で動作することができる。好適な装置として、トライクイント社の半導体装置TGA4046−EPUがある。
【0108】
信号S1〜S16は、隣接するパッチが互いに直交して放射を放出するように8つの層116上の導電放射パッチ154に供給される。
【0109】
治療中の組織の領域のインピーダンスのばらつきを調整するように電磁場全体が集束(操縦)され得るように、放射パッチの各々に供給されたマイクロ波電力を独立して制御することが望ましいであろう。この独立した制御は、第5の層114に取付けられた信号制御装置152によって行なわれる。図7に示されるように、各信号制御装置は、フロント順方向方向性結合器156と、移相器(たとえば、PINダイオードまたはバラクタダイ
オード)158と、順方向電力方向性結合器160と、反射電力方向性結合器162とを備える。結合器156、160、162は、装置を通って順方向に進むか、または信号が組織から反射されて供給源の方に戻る反対方向に進む電力を検出するように配置される。信号は、位相および/または大きさ検出器回路155を介してマイクロプロセッサ124に供給される。検出器は、位相および大きさの両方の情報を測定することが望ましいヘテロダイン受信機の形態を取る場合もあれば、大きさ情報のみを必要とするホモダイン受信機の形態を取る場合もある。大きさ情報を検出および処理することのみが必要である単純なダイオード検出器も用いてもよい。これらの信号に基づいて、マイクロプロセッサ(および/またはDSP)は、生じ得る如何なるインピーダンス不整合も計算でき、必要な制御信号を移相器158に送ることによってインピーダンス不整合を調整できる。
【0110】
換言すれば、方向性結合器156、160、162および(たとえば、ヘテロダイン、ホモダイン、もしくはダイオードタイプの)マイクロ波検出器または受信機は、順方向電力信号および反射電力信号の位相および/または大きさを測定する。次いで、これらの信号を用いて、移相器158によってエネルギ送出プロファイルを制御する。移相器(たとえば、PINまたはバラクタダイオード)が信号の位相のみを変更している間、大きさおよび位相の両方を変更し得る整合フィルタを用いることができる。
【0111】
図6は、図5の積重ねられた第5の層112、積重ねられた第6の層113、積重ねられた第7の層114、および積重ねられた第8の層116の図をそれぞれ示し、それらの層上の構成要素間の給電接続を示す。実際には、隣接する層の構成要素は互いの上にあり、明確にするために、図6はそれらの層を同心の構成で示している。
【0112】
図6に示される構成は、16個の導電パッチに分割されるマイクロ波エネルギ源のためのものである。元のマイクロ波エネルギ源を16個の別個の供給源または信号に分割するために、第5の層112には15個の1対2パワースプリッタ148(SP1〜SP15)がカスケード接続アレイで取付けられている。したがって、元の供給源は1つの第1の生成スプリッタSP1によって2つに分割され、結果として生じる2つの供給源の各々はさらに第2の生成スプリッタSP2、SP3によって2つに分割され、結果として生じるそれら4つの供給源の各々はさらに第3の生成スプリッタSP4〜SP7によって2つに分割され、最終的に、結果として生じるそれら8つの供給源の各々はさらに第4の生成スプリッタSP8〜SP15によって2つに分割される。第4の生成スプリッタSP8〜SP15からの各出力は、第6の層113における16個の増幅器150(Amp1〜Amp16)のうちのそれぞれ1つに供給される。次いで、増幅器出力は、第7の層114におけるそれぞれの信号制御装置152(C1〜C16)を介して、第8の層116におけるそれぞれの放射パッチ154(P1〜P16)に供給される。パッチ154は正方形であり、これは、放出される電磁場がほとんど2つの対向する端縁から生じることを意味している。図6では、放射端縁155は太い線によって示されているのに対して、非放射端縁153は細い線によって示されている。給電線は、隣接するパッチの放射端縁155が確実に互いに直交するようにパッチ154に接続される。これは、放射アンテナアレイのエリアにわたってもたらされる電磁場の均一性を最大にすることができ、ひいては、アンテナアレイのエリアにわたって均一な組織効果をもたらすことができる可能性を最大にする。
【0113】
実際には、図6に示される構造では給電線損失を考慮に入れる必要があり得る。特に、装置を通る好適な信号レベルを維持するために緩衝またはブースタ増幅器を含める必要があり得る。各パワースプリッタ148は典型的に、それに関連する3dBの損失を有する。45GHzでは、7dBまでの構成要素間の給電線損失が起こり得て、これは、パワースプリッタカスケード接続の各経路(マイクロストリップ線)に沿って10dBまでの全体損失に繋がるであろう。この損失は、パワースプリッタごとの前または1つおきのパワースプリッタの前に緩衝増幅器を置くことによって補償されることができる。実際の構成
は、装置について計算された電力収支に依存する。電力収支の一例について、以下の図20に関連して説明する。
【0114】
この発明の1つの重要な特徴は、エネルギ源から放射素子に電力を伝達する手段である。パッチアレイ内に含まれる各パッチアンテナにはマイクロ波エネルギを供給する必要がある。一般的に言って、並列給電および直列給電の2つの主な給電構造がある。
【0115】
並列給電は単一の入力ポートを有し、多数の給電線が並列に接続されて、出力ポートを構成する。給電線の各々は、個々の放射素子(またはパッチ)で終端する。
【0116】
直列給電は、近接結合、直接結合、プローブ結合、またはアパーチャ結合を含むさまざまな手段によって線に沿って配された個々の素子にエネルギのごく一部を累進的に結合する連続した伝送線からなる。直列給電は、給電線が整合負荷で終端する場合には進行波アレイを構成し、給電線が開回路または短絡で終端する場合には共振アレイを構成する。
【0117】
直列給電の一例は、放射伝送線または「漏洩フィーダ」であり、放射素子の組で進行波を搬送する伝送線からなっていてもよい。各素子は、総電力のうちのほんのわずかの部分を放射するであろう。そして線に沿って累進的に各素子の大きさを調整することによって、長さに対する、均一に近い電力強度が達成可能であろう。この場合、従来の非近距離場アンテナに必要であるように素子は同相ではないが、これはこの用途では重要でないはずである。この構成では、各放射素子のインピーダンスは伝送線の特性インピーダンスよりも低くしなければならず、たとえば、伝送線給電インピーダンスが50Ωであるときには放射素子のインピーダンスは12.5Ωであってもよく、そうでなければ放射パッチの第1の対によって放射される電力が過剰になり、入力における反射減衰量は劣ったものになる(不整合状態)。放射構造に沿って均一な電力を維持するために放射パッチの大きさを変えることが好ましいであろう。パッチアンテナアレイを構築するために用いることができるであろう可能な材料は、シェルダール社製のノバクラッド(NovaClad)、タコニック社(Taconic)製の薄い銅覆PTFE/ガラス、またはロジャース・コーポレーション社製のR/Flex液晶ポリマー回路材料である。
【0118】
並列給電も直列給電も、放射素子を有する共平面導波路としてまたは別個の伝送線層において実現されることができる。パッチと同じ平面に置かれた給電線は放射し、放射パッチが放出する放射と干渉する可能性がある。これは、給電線が制御された伝送線であり、放射が放射パッチから強制的に行なわれる場合には、問題ではないかもしれない。この問題はまた、給電線の上方に放射パッチを吊り下げることによって克服され得る。たとえば、共平面導波路給電サスペンド型パッチアンテナアレイが作製されてもよい。
【0119】
パッチアレイ用の給電構造を設計する際、(典型的には動作周波数の関数である)導体および誘電体損失、ならびに湾曲部、接合部および遷移部などの不連続部に起因するスプリアス放射も考慮すべきである。これらの損失は、給電装置の挿入損失全体を構成し、各放射パッチに送出され得る最大可能電力を検討する際の重要な決定要因である。これらの給電構造の設計において、給電線の劣化を最小限にするために、たとえば200Ωの実現可能な高特性インピーダンス給電線が用いられてもよい。挿入損失または給電線損失および最適化の複雑さを低減するために、分周器段の数を最小限に抑えるべきである。
【0120】
図8および図9(a)、図9(b)および図9(c)は、スロット付きアンテナ構成に基づく皮膚治療装置を示す。図8では、給電線に沿ってスロットの幅が広くなっている。これは、同じ量のマイクロ波エネルギが各スロットから放出されることを確実にする定評のある方法であり、皮下治療または皮膚の若返りもしくはリサーフェシングのための実現性のある用途を提供する。この構造は、接地面に形成された(たとえば、切込まれた)ス
ロットのアレイを備える。基板層上にマイクロストリップ線が作製され、それによって、線(図8では図示せず)がスロットを横断する。この構造の利点は、基板の上に給電線を作製することが比較的容易であることである。スロットの大きさ(長さ)とマイクロ波エネルギ給電装置(供給源)からスロットまでの距離との間の関係が通常線形ではないので、スロットの間隔およびスロットの大きさの点で構造を最適化するために電磁場シミュレーションツールが用いられる。伝送線の端部付近での電力低減を考慮に入れるために、理論的には見られる遠位スロット(供給源から最も遠く離れたスロット)の長さを長くする必要があることがわかった。反復的な態様で構成を最適化するために経験的実験も用いてもよい。
【0121】
図8における装置200は、供給源発振器202を含み、供給源発振器202は、本明細書に記載する離散周波数、たとえば14.5GHz、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、または94GHzのうちのいずれかまたはいくつかで動作するVCO、DRO、ガンダイオード、SAW装置、または周波数合成器のうちのいずれかであり得る。供給源発振器202からの出力は、増幅器ラインアップを含む給電構造を介して、8つのスロット付きアンテナ215のアレイに供給される。供給源発振器202からの出力は、第1に、一次および二次3dBスプリッタ206、208によって4つの信号に分けられる前に、一次増幅器204によって増幅される。これらの信号の各々は、三次3dBスプリッタ212によって2つに分けられる前に、二次増幅器210によって増幅される。結果として生じる8つの信号の各々は、それぞれのスロット付きアンテナ215に供給される前に、三次増幅器214によって再び増幅される。
【0122】
図8に示されるように、各アンテナ215は、中にスロット218が形成された接地された導電層216を有する。各スロットから放出されたエネルギが同じであるように、およびスロットの集合からの電磁場が均一であるように、スロット218の幅はアンテナ215の長さに沿って広くなっている。スロットの寸法は、電磁場シミュレーションを用いることによって決定されてもよい。
【0123】
スロット付きアンテナの構造は、図9(a)、図9(b)および図9(c)に示される代替的な構成を参照してさらに理解でき、図9(a)、図9(b)および図9(c)では、代替的なスロット付きアンテナ構造220のさまざまな図が与えられている。図9(a)は、複数のマイクロストリップ給電線222が誘電体基板224上に作製された上面図を示す。各線には、上述のように、増幅器ラインアップからマイクロ波電力信号が供給される。
【0124】
図9(b)は、装置の底部(皮膚に面する)面を示す。ここでは、接地された導電層226は誘電体基板224上に作製される。(便宜上等しい幅を有するように示される)スロット228が、接地された導電層226および誘電体基板層224に形成されて、マイクロストリップ給電線222の一部を露出させる。この構造は、スロット228が放射素子の役割を果たすように設計される。スロットの大きさは、動作周波数での放射の波長に応じて選択される。実際の値は、電磁場シミュレーションから得られてもよい。誘電体基板224の厚みは、1波長よりもはるかに少ないように選択される。図9(c)は、アンテナ220の側面図を示す。
【0125】
マイクロストリップ線222は好ましくは、最大E場または最大H場をスロットを通して組織に放射できるように設置される。したがって、スロットの長さは波長の約半分である。高いマイクロ波周波数(たとえば、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、または94GHz)が用いられる場合、スロットは互いに近接して位置決めされることができ、したがって、マイクロ波放射による浸透深さが限定された状態で、アプリケータの表面全体にわたって均一なエネルギを発生させるための必要な条件を提供する。
【0126】
図10は、この発明において用いることができる給電構造の具体的な例を示し、直列に接続された複数の放射パッチ37を給電するために共同の(並列な)給電装置35が用いられてもよい。この構成について以下で詳細に説明する。非常に大きなアレイの場合、放射素子の各々まで走っている給電線の長さはひどく長い場合があり、その結果、挿入損失が許容できないほどに高くなる。たとえば、45GHzでは、ほんの数センチメートルの長さで挿入損失が数dBになり得る可能性がある。有効な対称的な共同給電アレイを設計する際に、以下のステップを取らなければならない。
【0127】
1) 結合構造の適切な寸法決めを通じてまたは4分の1波変圧器を用いることによって、放射パッチを確実に給電線に整合させる。
【0128】
2) 必要であれば4分の1波変圧器によって入力線に整合されるT−接合に、隣接する素子からの給電線の各対を確実に接続させる。
【0129】
3) 給電線をアレイの給電ポイントに接続する最後の段階に到達するまで繰返す。
図10に示される共同給電構成では、放射パッチ18は、端縁において200Ωの入力インピーダンスを有し、特性インピーダンスが200Ωである給電線45に接続される。隣接する素子からの給電線45は、T−接合を用いて接合され、140Ωの4分の1波変圧器44を用いて、(特性インピーダンスが200Ωである)単一の供給線43に戻るように変圧される。対象の周波数で波長の4分の1の奇数倍に対応する長さを有する(すなわち、その長さは(2n−1)λL/4であり、ここで、λLは負荷波長であり、nは整数である)変圧器も、線が損失のないものであると仮定すると、同じ変圧を行なうことになる。短波長では、4分の1波長よりも大きな長さを有する、すなわち4分の1波長の奇数倍に等しい長さを有する線を用いることが実際には必要であるかもしれない。伝送線が確実にインピーダンス変圧器の役割を果たすようにするために、誘電材料の特性は安定していなければならない。λ/4よりも長い、すなわち3/4λまたは5/4λなどの変圧器が用いられる場合、この特徴は特に重要である。なぜなら、所望の4分の1電気波長は、そうでなければ、望ましくない電気的長さに修正されるためであり、たとえば、最悪の場合には、それは電気的波長の2分の1の倍数になる可能性があり、変圧を全く行なわない可能性がある。次のステップにおいて、供給線の隣接する対は次いで別のT−接合において接合され、そこでは、140Ωの4分の1波変圧器42によって、さらなる単一の供給線41(特性インピーダンスは200Ωである)に戻るように同様に変圧される。このプロセスは、さらなる供給線41の対が最後のT−接合において接合されるように繰返される。最終の変圧は、71Ωの4分の1波変圧器40を用いて、2つの200Ω線の並列の組合せ(すなわち、100Ω)を、アレイ全体を給電するために用いられるエネルギ源38からの入力線39(特性インピーダンス=50Ω)と整合させる。インピーダンス整合は、式、すなわちZtrans=√(ZinZout)を用いて計算され、今回の場合、最後の接合では√(50×100)=71Ωに対応する。
【0130】
図11および図12は、この発明において用いることができる給電構造の別の具体的な例を示す。ここで、(治療ゾーンの大きさに応じて、8、16、32、64、128などの番号が付けられている)パッチのアレイは、各パッチが単一のMMIC増幅器によって給電されるように配置される。図11は、この構成の斜視図を示し、図11では、複数の電力増幅器48が装置の上層52上に取付けられている。複数の電力増幅器48は、安定周波数エネルギ源(図示せず)から入力信号50を受信するように配置される。それらの出力信号は、たとえば低損失伝送線を用いて同軸コネクタ54(たとえば、SMAコネクタ)に供給され、同軸コネクタ54の外部導体は接地された導電面(図示せず)に接続され、内部導体46は導電放射パッチ18(ここではスーパーストレート22上に示されている)である。図12は、この接続の断面図をより詳細に示す。各パッチ18は、それに
関連付けられる同軸コネクタ54を有する。各同軸コネクタ54の外部導体は導電接地面14で終端するのに対して、内部導体46は面を貫通し、基板層16を通ってそれぞれのパッチ18に達している。放射素子とは別個の層上に増幅器を位置付けることによって、共同給電ネットワーク(伝送線など)は同様に、放射パッチを含む層以外の層上にエッチングされることができる。これによって、給電構造と放射パッチとの間の如何なる干渉も最小限にすることができる。優れた設計実践のために、構造全体が組織と接触するときでさえ給電線を放射パッチと同じ側に作製することが可能であるが、給電線とパッチとが隔てられた状態を保つことが好ましい。放射パッチと組織との間に空間を設けるという発想はまた、給電線が放射パッチアンテナと同じ側にある実施例では望ましい。高周波数、たとえばSHFまたはEHF放射が用いられるときに発生し得る給電線損失を補償するために、緩衝増幅器またはブースタ増幅器が給電構造に、たとえば図5に示される第5の層112における1つ以上のパワースプリッタの間に含まれる。
【0131】
トライクイント・セミコンダクター社は、この発明において電力増幅器として用いるのに好適な装置を製造している。特に、トライクイント社のTGA4505−EPU部品は、27GHzから31GHzの間の帯域幅にわたる動作に用いることができ、圧縮(1dB圧縮ポイント)の点で36dBm(4W)までの電力レベルを生成することができ、23dBの利得を与えることができる。これらのMMICチップの寸法は、約2.8mm×2.2mm×0.1mmである。1つの装置を用いて4つのパッチを給電し、給電線の長さを非常に短く保つ場合、1Wまでの電力レベルが各パッチから放射され得る。最近になって、45GHzまでで機能する増幅器(たとえば、トライクイント社のTGA4046−EPU)が利用可能になってきた。これらの部品は、2Wまでの電力を提供できる。ミリ波技術およびテラヘルツシステムの近年の進歩および関心のために、関連する小さな浸透深さを有する高いマイクロ波およびミリ波周波数でのエネルギがより容易に利用可能になっており、そのため、これらの装置を用いて組織内で高い局所的なエネルギ密度を生成することが可能になる。
【0132】
図13は、この発明の実施例において用いられ得る4W発電機のための増幅器ラインアップを概略的に示す。このラインアップは好適な周波数源51を備え、周波数源51は、単一のまたは複数の温度補償水晶発振器基準を用いる閉ループ位相ロック誘電体共振器発振器(DRO)、または温度補償開ループDROであってもよい。ガンダイオード発振器または電圧制御発振器(VCO)などの他の周波数源を用いることができ、発振器の選択は、用いられている周波数に依存する。周波数源の出力52は、25dBmの1dB圧縮ポイントを有する前置増幅器47(ここでは、トライクイント社のTGA4902−EPU−SM装置)に供給される安定周波数信号を表わす。一般的に、モノリシックマイクロ波集積回路(monolithic microwave integrated circuit)(MMIC)が前置増幅器として用いるのに好適である。約20GHzまでの周波数では、ガリウム砒素(GaAs)ベースのMMICが好ましい。これを超えて100GHzまでの周波数では、高電子移動度トランジスタ(HEMT)ベースのMMICまたはメタモルフィックHEMTを用いることができる。たとえば、31GHzおよび45GHzの動作に好適なMMICは、それぞれ、トライクイント社のTGA4902−EPU−SMおよびTGA4042−EPU部品である。前置増幅器の出力は、電力増幅器48(ここでは、トライクイント社のTGA4505−EPU MMIC装置)に供給される。約20GHzまでの周波数では、ガリウム砒素(GaAs)もしくは窒化ガリウム(GaN)トランジスタまたはMMIC装置が電力増幅器として用いるのに好適である。これを超えて100GHzまでの周波数では、高電子移動度トランジスタ(HEMT)ベースの装置を用いることが好ましいであろう。31GHzおよび45GHzの動作に好適なパワーMMICの例は、それぞれ、トライクイント社のTGA4505−EPUおよびTGA4046−EPU部品である。
【0133】
典型的に、周波数源からの電力レベルは、−10dBmから+15dBmの範囲内であ
り、用いられる供給源発振器のタイプに依存し、それ自体は所望の動作周波数によって支配される。たとえば、典型的なDRO発振器は、−5dBmから+5dBmの範囲内の電力を生成してもよい。周波数源51によって提供される電力レベル出力が−5dBmであり、前置増幅器47の利得が約18dBである場合、電力増幅器48に入力される電力レベルは13dBmである。電力増幅器48の利得は約23dBであり、そのため、出力56における電力レベルは36dBm(4W)である。インピーダンス整合共同給電構造57(上記の図10の説明を参照)は、4つの放射パッチ18を励起するために出力56を個々のマイクロ波電源に分割する。
【0134】
図13は、単一の供給源発振器51の後に単一の前置増幅器47、および共同分配ネットワーク57を給電する単一の電力増幅器48が続く構成を示す。共同給電ネットワークを用いる他の分配構成も可能である。図14は、単一の供給源発振器51および単一の前置増幅器47の後にパワースプリッタ62が続く構成を示し、パワースプリッタ62は複数の電力増幅器48に入力を与え、複数の電力増幅器48の各々は、単一の放射パッチ18を給電する。図15は、別個の供給源発振器51および電力増幅器48が放射パッチごとに設けられる構成を示す。
【0135】
図15において、各パッチに入力される電力は、各パッチの同じ(すなわち、並列の)端縁64が放射するように配置される。しかしながら、放射された電磁場の均一性をさらに改善するために、隣接するパッチの放射端縁64が互いに直交するように入力給電装置を配置することが望ましい。図16は、各放射パッチ18を給電するための別個の供給源発振器51および電力増幅器48を示し、図16では、隣接するパッチの交互の端縁に給電装置が設けられて、直交する端縁64が放射するようにし、それによって、より均一な電磁場分布を確実にし、これは均一な組織効果に繋がり得る。換言すれば、パッチアレイは、縁をなす電磁場を生成する際に支配的であるパッチの2つの端縁が隣接するパッチ間で交互になるような態様で設置される。したがって、図16において、隣接するパッチは直交して給電され、各給電線は、出力される電磁場が同相であり、皮膚の表面にわたって均一な電磁場を生成するように設計される。
【0136】
上で説明したように、たとえば、アンテナ構造を確実に生物組織の特徴とインピーダンス整合させ、皮膚組織内の電磁場が確実に均一になるように、電磁場モデリングを用いて装置が最適化される。給電構造はまた、アンソフト(Ansoft)HFSS、フロメリックス・マイクロストリップス(Flomerics Microstripes)またはCSTマイクロ波スタジオ(登録商標)などのマイクロ波シミュレーションツールを用いてモデリングされることができる。
【0137】
電磁場モデリングは、パッチに対する給電線の位置を決定する際に役立つ。たとえば、給電線の位置は、給電インピーダンスまたは放射パッチによって見られるインピーダンスを決定する。ワイヤまたはピンがパッチの裏に接続され、ワイヤまたはピンが基板または誘電体層を通して挿入される同軸給電パッチの場合、パッチのエリアに対するピンの位置は、給電インピーダンスを決定する。反射される電力のレベルを最小限にするために給電線を確実にアンテナと整合させることが重要である。パッチ上の給電装置の位置はまた、放射するパッチの2つの端縁を決定する。したがって、隣接するパッチが直交場を放射することが望ましい場合、パッチのエリアに対する給電線の位置はこのパターンを決定する。
【0138】
図17は、図16に示される構成の実際の実施例を示す。16個の導電パッチ18が4×4のアレイで基板層16上に取付けられる。マイクロ波エネルギはエネルギ源給電コネクタ12から送出され、マイクロ波エネルギは、エネルギ源給電コネクタ12から、複数の伝送線70、72、74、76、78を備える共同給電構造を介して、各パッチに送出
される。給電コネクタ12からの一次給電線70は2本の二次給電線72に分割され、その各々は2本の三次給電線74に分割され、その各々は2本の四次給電線76に分割され、その各々は2本の五次給電線78に分割され(合計16本を与える)、その各々は放射パッチ18に接続される。伝送線は、互いに直交する端縁64において隣接するパッチが給電される(すなわち、それぞれの五次給電線を接続させる)ように配置される。給電構造はまた、上述のようにインピーダンス整合される。
【0139】
上述のように、電磁場を分散させることによって組織効果の均一性を増大させ、たとえば金属製放射パッチアレイと人間の組織との間に使い捨ての要素を提供するために、放射パッチと皮膚の表面との間に位置するスーパーストレート層、たとえば誘電体カバーを用いることができる。この層はまた、放射パッチアレイと皮膚の表面とをある程度熱的に分離させてもよい。コスト面の理由で、上記カバーが使い捨てのアイテムとしてパッチアンテナアレイ一式を有するのではなく、上記カバーが使い捨てのアイテムであることが望ましい。したがって、スーパーストレートは残りの装置から取外し可能であり、訓練を受けていない医療関係者がスーパーストレートを容易に装着できる。たとえば、スーパーストレートは所定の場所にスナップ式に装着されてもよい。空隙がインピーダンス不整合状態を引起すのを防ぐために密な嵌め合いを有することが望ましい。使用中に所定の位置にスーパーストレートを固定するために、ロッキング機構、たとえば装置の端縁の周りのクリップが用いられてもよい。
【0140】
上述のものの代替案は、パリレンCまたはテフロン(登録商標)などの生体適合性材料を用いてパッチアンテナアレイアプリケータに対して適合したコーティングを提供するであろう。この場合、装置全体が使い捨てのアイテムを形成するであろう。なお、誘電体カバーは、パッチアンテナアレイを設計する際に考慮に入れなければならない程度までパッチアンテナアレイアプリケータの性能に影響を及ぼす。一般的に言って、誘電体カバーは共振周波数を低下させることになる。したがって、パッチは、選択の動作周波数よりもわずかに高い周波数で共振するように設計されるべきである。パッチアレイが上記誘電体カバーで被覆される場合、変化する特性として、基板材料の有効誘電率、損失、Q係数、および指向性利得がある。パッチアレイが動作している通常でない環境を想定して、Q係数および指向性利得は、パッチアレイが従来の環境で、すなわち、レーダシステムの一部としてまたは見通し線通信リンクにおいて動作している場合に考慮されるであろう態様と同じ態様で考慮される必要はないはずである。カバーに起因する有効誘電率の変化は最大の課題を提示することになり、変化の量は、基板材料の厚みおよび比誘電率によって支配される。また、被覆層が存在することによって、アンテナアレイが生成する放射パターンの変化が生じる。
【0141】
スーパーストレート層が一様な電磁場分布または均一な組織効果を確実にすることを助けることも注目に値する。誘電率および損失係数(1/Qまたはtanδ)を正しく選択することによって、電磁場の均一性を高めることが可能であり得る。異なる誘電特性を有する複数の材料からスーパーストレート層を形成して、個々の放射アンテナが生成する波を異なる量だけ減速させることができることが好ましいであろう。材料は表面積にわたって変化し得て、さまざまな材料の厚み(深さ)は変化し得る。この特徴によって、アプリケータ(アンテナ)アレイの表面にわたって生み出される電磁場の均一性が高められ得る。
【0142】
上述のように、この発明の皮膚治療装置は、エネルギ源から電力を受取る。エネルギ源は、供給源発振器、たとえば電圧制御発振器(VCO)または誘電体共振器発振器(DRO)を含む。15GHzを上回る周波数では、DROが好ましい。VCOは一般に、典型的に15GHzまでの周波数に限定されるLC同調回路を用いる。用いることができるであろう他の装置として、ガンダイオード発振器および弾性表面波(Surface Acoustic Wav
e)(SAW)発振器がある。安定した単一の動作周波数を維持するために、閉ループ位相ロックDROまたは温度補償開ループDROを用いることが好ましいであろう。また、供給源発振器が異なる周波数で動作する状態で個々の放射パッチまたは放射パッチの群を駆動することが好ましいであろう。すなわち、複数の供給源発振器が用いられてもよく、各々の個々の発振器が異なる周波数を出力して、放射パッチの群を給電する。周波数合成器を用いて、複数の一定の(安定した)周波数を生成することが好ましいであろう。上述の1つの実施例は、半導体パワーデバイスが容易に利用可能である14.5GHzの動作周波数に基づいている。大きさ(装置が治療し得る表面積)は、0.5cm2未満から10cm2よりも大きな大きさの間で変化し得る。図18は、治療表面積が約8cm×9cmであるパッチアンテナアレイの縮尺図を示し、図18では、各パッチの大きさおよび分離は、14.5GHzで電磁場を湿った皮膚に放射するのに好適であるように計算される。他の実施例は、より高い周波数(たとえば、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、94GHz、またはそれより高い周波数)で動作するように設計されることができ、これは、より高密度のアレイを形成でき、かつ、より小さな放射浸透深さを達成できるという利点を提供する。より高い周波数(たとえば、45GHzまたはそれを上回る周波数)では、エネルギ源(たとえば電力増幅器)は、給電線損失をさらに低減または最小限にするために、放射素子(放射パッチ)に直接接続されてもよい。より高い周波数では、より低い浸透深さが達成可能である。図19は、治療表面積が約6.5cm×6.5cmであるパッチアンテナアレイの縮尺図を示し、図19では、各パッチの大きさおよび分離は、31GHzで電磁場を湿った皮膚に放射するのに好適であるように計算される。各パッチは一般に、約λL/2の距離だけ隣接するパッチから隔てられており、ここで、λLは負荷波長である。したがって、周波数が増大するにつれて分離距離は低減される。実際には、間隙の大きさは、コンピュータシミュレーションツールを用いて正確に計算されて、放射された電磁場の均一性および組織効果を最適化する。
【0143】
図20は、第5の層112のパワースプリッタネットワークの別の図を示す。図20におけるネットワークは、(給電線損失などにかかわらず)信号振幅が確実に好適なレベルに留まるようにして、第6の層113における増幅器150を駆動するために、パワースプリッタ間の選択された位置に位置する緩衝増幅器164、166を有する。図20における給電構造の電力収支について以下で説明する。
【0144】
パワースプリッタ148のネットワークへの入力の前に、(9dBの利得および28dBmの1dB圧縮電力定格を有する)電力増幅器146は、前置増幅器144からの電力を16dBmから25dBmまで増大させる。次いで、このレベルは、3dBスプリッタSP1および推定挿入損失が7dBである給電線を用いて2つの等しい部分に分割され、これは、16dBの利得を有する第1の緩衝増幅器164の各々への入力において15dBmの入力電力を与える。したがって、第1の緩衝増幅器164は31dBmの出力電力を生成する。トライクイント社製のTGA4046−EPU構成要素は、第1の緩衝増幅器として用いることができる。第1の緩衝増幅器164からの出力は3dBスプリッタSP2およびSP3を用いて分割され、給電線損失を考慮に入れて、21dBmの電力レベルで4つの釣り合いの取れた出力を提供する。これらの出力電力はさらに3dBスプリッタSP4〜SP7を用いて分割されて、11dBmの8つの釣り合いの取れた出力を与える。これらの出力電力は次いで、16dBの利得を有する第2の緩衝増幅器166(たとえば、トライクイント・セミコンダクター社製のTGA4046−EPU装置)で増幅される。したがって、各緩衝増幅器166からの出力電力は27dBmであり、これらの出力の各々を用いて、8つのパワースプリッタSP8〜SP15のそれぞれ1つを給電する。
【0145】
給電線損失を考慮に入れて、8つのスプリッタSP8〜SP15の各々の2つの分割された部分の各々からの出力電力は17dBmである。これらの出力は、第7の層113における16個の電力増幅器150(Amp1〜Amp16)の入力ポートに供給される。それ
らの出力は放射パッチ(図示せず)に直接接続される。ここで用いられる装置は、利得が16dBであり圧縮電力が33dBmであるトライクイント社のTGA4046−EPU構成要素である。このように、この構成は、したがって、16個の放射パッチの各々に33dBm(2W)を駆動することができて、さまざまな所望の組織効果をもたらす。
【0146】
要望があれば、2つのパワースプリッタSP2、SP3の群と4つのパワースプリッタSP4〜SP7との間に追加の緩衝増幅器を含めることができるであろう。その場合、緩衝増幅器はより低い利得を有していてもよい。
【0147】
周波数範囲のより高い端部、たとえば45GHz、60GHzまたはそれより高い周波数で機能するときに用いられ得るアプリケータまたはアンテナアレイのさらなる実施について以下で記載する。これらの周波数では、共平面導波路給電サスペンド型パッチアンテナアレイ構造が好ましいであろう。これらの代替的な構造は、共平面導波路給電線と、適切な給電ポストと、正方形または長方形の放射パッチとからなっていてもよい。共平面導波路構造は、接地面と信号線とを同じ面上に有しており、したがって、放射パッチが給電ポストで支持されるときに、共平面導波路構造の接地面を放射パッチのための接地面として用いることができ、すなわち、放射パッチの裏面と接地面との間の空気が誘電体基板を形成する。共平面導波路構造は、高い誘電率を有する誘電材料または基板上に取付けられることができ、放射パッチアンテナは空気の層上に位置する。放射パッチが空気中で金属ポスト(または、金属化プラスチック支持体)で支持されるので、誘電損失がなく、したがって、放射パッチアンテナの性能は、誘電材料が放射パッチアンテナと接地面との間に挟まれる従来のマイクロストリップベースのアンテナ構造のものよりも優れている可能性がある。
【0148】
以下で説明する構造は、前に記載した同軸給電構成と類似しており、ワイヤまたはピンが放射パッチに接続され、上記ピンが誘電体基板材料を通して給電されて、たとえばマイクロ波コネクタが放射パッチに直接接続される直接接続方法を用いて電気的接続を行なうことができる。
【0149】
提案される共平面導波路アンテナ構造のための給電ポストは、信号線および放射パッチアンテナのための機械的な支持体の役割を同時に果たす。給電ポストの場所を注意深く選択することによって、パッチアンテナについて所望の入力インピーダンスを選択することが可能である。このインピーダンスは好ましくは、4分の1波インピーダンス変圧器を用いる必要なく、給電線を放射パッチアンテナと直接整合させることができるように選択される。
【0150】
図21(a)は、単一の放射パッチアンテナ402が給電ポスト404を介して給電される共平面導波路構造400を示す。共平面導波路は、接地面408の対から隔てられた単一の導体406から形成され、接地面408の対はすべて同じ側にあり、誘電材料410の第1の面に取付けられている。この構成では、単一の導体が誘電体の第1の面に接続され、接地面が上記誘電体の第2の面に接続されるマイクロストリップ構造と比較して、誘電体410に入る電磁場がはるかに少ない。
【0151】
誘電体の厚みは、電磁場が外界に到達するまで、すなわち、電磁場が誘電材料の第2の面に到達して、空気中に伝播するまで、電磁場が実質的に低減されることを保証するのに十分に大きくてもよい。
【0152】
図21(b)は、図21(a)における構造の変形例401を示す。この構成では、誘電材料の第2の面は、さらなる接地面を形成する導体412で完全に被覆されている。この構造は、接地面共平面導波路または接地された共平面導波路構造として知られている。
従来のマイクロストリップ給電構造に勝る、これらの共平面導波路給電構造を用いることの利点は、マイクロストリップ構造の場合のように、接続する共平面導波路が接地面における寄生性の不連続部を必然的に伴わないという事実のために100GHzまでおよび100GHzを超える周波数で動作できることであり、動作周波数が増大するにつれて寄生素子の影響はより広く行き渡ることになる。
【0153】
図21(a)および図21(b)は、単一の給電ポストを用いて共平面導波路給電構造に電気的および物理的に接続された放射パッチアンテナを示す。放射パッチを支持するために複数のポストが用いられてもよい。放射パッチと接地面との間にポストが接続される場合、ポストのために用いられる材料は望ましくは低損失誘電材料である。代替的に、接地面と放射パッチアンテナとの間のポストとして4分の1波スタブが用いられてもよく、ポストはマイクロ波信号に対して電気的に透過性があるように位置決めされてもよい。ポストの長さは典型的には1mm未満、たとえば0.3mmであり、そのため、微細加工技術を用いてこの構造を作製することは現実的である。
【0154】
図22(a)は、給電ポスト504を用いて共平面導波路給電構造の上方に吊り下げられた単一の放射パッチアンテナ502のための構成500を示す。構成500は、接地面506が誘電材料508の第1の面上にのみ存在する従来の共平面導波路構造を用いる。
【0155】
図22(b)は、8つの放射パッチアンテナ502のアレイ510を示し、一端が放射パッチアンテナに接続され、他端が共平面導波路構造に接続された状態の別個の給電ポスト504を用いて各放射パッチアンテナ502が給電される。
【0156】
図23は、16個の放射パッチアンテナ602のアレイが各々、給電ポスト606を用いて共平面導波路構造の信号線604に接続されるこの発明のこの局面の別の実施例を示す。図23において、放射パッチアンテナ602は隣接する対に分けられ、各対は、それぞれ、単一の共平面導波路給電線を用いてまとめられる。この実施例では、各放射パッチアンテナ602の入力インピーダンスは100Ωである。したがって、信号線604が100Ωの特性インピーダンスを有する場合、エネルギをこの構造に供給する線の中心点608は50Ω、すなわち、並列に接続された2つの100Ωインピーダンスの組合せである。この構成は、4分の1波変圧器を用いて、放射パッチアンテナの入力インピーダンスを、通常50Ωである供給源または発電機の出力インピーダンスに変圧することが不要であるという点で、有利であり得る。
【0157】
各信号線604の中心点608は、平面マイクロストリップ線610の一端に接続される。マイクロストリップ線610の特性インピーダンスは50Ωである。マイクロストリップ線610の他端は対にグループ化され、マイクロストリップ線の各対は、パワースプリッタ612の出力ポートに接続される。パワースプリッタ612は、入力ポートおよび2つの出力ポートが50Ωのマイクロストリップ線を受入れるように設計された3dBパワースプリッタである。ドロップインマイクロストリップ結合器を用いることができる。3dB結合器を用いることの利点は、入力ポートに入射する入力電力が2つの部分に等しく分割されて、各放射パッチアンテナ602が等しい量のマイクロ波エネルギを生成できることである。各パワースプリッタ612の入力ポートは、一次マイクロストリップ線614の一端に接続される。一次マイクロストリップ線614の特性インピーダンスは50Ωである。一次マイクロストリップ線614の他端は対にグループ化され、各対は一次パワースプリッタ616の出力ポートに接続される。一次パワースプリッタ616は、入力ポートおよび2つの出力ポートが50Ωのマイクロストリップ線を受入れるように設計された3dBパワースプリッタである。各一次パワースプリッタ616の入力ポートは、それぞれ、電力増幅器618の出力に接続される。電力増幅器618は好ましくは、HEMT装置技術、たとえばメタモルフィックHEMT技術(MHEMT)に基づいており、1
つのユニットに集積されて所望の組織効果をもたらすのに必要な必要電力レベルを提供する単一の装置または個々のHEMT装置のアレイであってもよい。各電力増幅器618の入力は、周波数源発振器620の出力に接続される。周波数源発振器620はガンダイオード発振器または誘電体共振器発振器であってもよいが、選択の周波数で信号を生成できる他の装置が用いられてもよい。
【0158】
この構造の中にインピーダンス変圧器がないので、パッチアンテナアレイは、接合部における望まない放射をもたらし得る不連続部を発生させる線のステップの変化の数または変圧が行なわれるステップの数が最小限であるように設計されることができる。
【0159】
隣接する放射パッチアンテナは、0.8λに等しい距離だけ隔てられ、ここで、λは選択の周波数である。
【0160】
追加の支持ポストを用いてアンテナを支持する場合、追加のポストを放射パッチのE−場の中心に置き、接地面に接続することが好ましいであろう。理想的には、追加のポストは放射アンテナの性能に影響を及ぼさない。
【0161】
放射パッチの端縁の長さが動作周波数で2分の1波長であることが好ましい。放射パッチ下の電場は、第1の放射端縁において最大であり、中央においてゼロであり、第2の放射端縁において再び最大である。電場が放射パッチの中央においてゼロであるので、放射パッチ下の電磁場分布を乱すことなく支持ポストまたは短絡壁をこれらの場所に立てることができる。共平面導波路構造において接地面が信号線の付近に位置しているので、電場を導くことがより容易である。マイクロストリップ伝送線の場合、線のインピーダンスは基板特性に大きく依存し、高いマイクロ波周波数、特にミリ波範囲内であるように規定される周波数でいくつかのマイクロ波誘電材料上で安定した線を実現することが困難である可能性がある。しかしながら、共平面導波路構造の場合、信号線の幅および信号線と接地面との間の間隙を調整できる。
【0162】
上記の技術はまた、より低いマイクロ波周波数で用いられてもよいが、欠点は、隣接するパッチ間の間隙が大きくなり、生成される全体的な電磁場パターンが均一でない可能性があり、したがって、組織効果の均一性も下がる可能性があることである。
【0163】
放射パッチアンテナを給電線に接続するために用いられる給電ポスト(または支持体)は好ましくは可撓性であって、治療中の組織、すなわち皮膚の表面とアンテナアレイを適合させることができる。この特徴を実現するために、金属材料でコーティングされるかまたは金属材料を含浸させることができる可撓性プラスチック材料を利用して、共平面導波路構造内で放射アンテナと給電線との間に導電性接触を形成することが望ましいであろう。上記の導電性コーティングまたは層の厚みが動作周波数で少なくとも5つの皮膚深さに等しくなるようにして、マイクロ波エネルギの大半を給電線から放射パッチアンテナまで運ぶことができることが好ましい。この発明を実現するための対象の周波数において、一般的な導体タイプ、たとえば銅(Cu)または銀(Ag)が用いられる場合、厚みは約1μmになる。これは、可撓性の給電ポストを形成するために用いられる非導電性材料の可撓性が損なわれないことを暗に示している。皮膚の表面に適合する構造を製作する能力は、この発明に対してさらなる特徴を提供し得る。
【0164】
なお、この説明の中で前に説明したものなどの共同給電ネットワークまたは平面給電ネットワークの別の実施例を用いて給電される放射パッチを吊り下げて、治療中の人の特定の身体部位の皮膚の表面に適合または適用可能な放射アンテナ素子のアレイを製作する能力を利用することも好ましいであろう。平面構造を用いる構成では、信号線として誘電材料の同じ面上に放射パッチのための接地面を有するという発想を用いることは不可能であ
り得て、したがって、第1のピンを用いて信号線を接続し、第2のピン(または、複数の追加のピン)を用いて放射マイクロストリップパッチの接地面をマイクロストリップベースの給電線構造に接続する同軸給電構成を検討する必要があるであろう。
【0165】
サスペンド型アンテナアレイの発想は、生物治療組織(今回の場合、皮膚の表面)と直接接触する従来の平面給電線構造が引起す給電線構造の加熱および放射パッチにおいて利用可能なエネルギの低減に関連する問題を克服できる。
【0166】
放射パッチアンテナによって生成される伝導熱に皮膚の表面が確実に晒されないようにし、均一な組織効果をもたらすことを手助けするように、サスペンド型放射パッチの各々は、生体適合性の材料でコーティングされる場合もあれば、そこに取り付けられた放射材料のブロックを有する場合もある。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、マイクロ波技術を用いて組織を治療する際に制御された熱エネルギを生成するための機器および方法に関する。この発明は特に、皮膚疾患を治療するための手段としての、(たとえば組織壊死を引起す)熱剥離の制御された使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
皮膚は、人体構造の中で最大の器官であり、身体の全表面を覆っている。皮膚癌を含む幅広い種類の皮膚病および障害が知られており、症状を軽減するまたは治すために皮膚組織自体の直接的な治療が必要である。さらに、美容整形目的で皮膚を治療する方法、たとえば組織のリサーフェシング(resurfacing)または皮膚の若返りがますます一般的になっている。従来の皮膚治療技術として、レーザ療法、光力学的療法、冷凍外科療法、機械的皮膚剥離、およびプラズマリサーフェシングがある。
【0003】
皮膚癌は癌の最も一般的な形態であり、従来の治療方法は多少限定される傾向がある。多くのタイプの皮膚病変は通常のほくろに似ており、大きくなって皮膚のより深い層に拡大し、真皮に達すると、癌細胞は血管に入って、身体の他の部位に広がるまたは転移する可能性がある。癌の段階は、病気の程度を表わしており、病変が皮膚に貫入する深さおよび病変がどれだけ広がっているかによって決定される。どのようにして増殖の段階を規定し得るかの一例は以下のとおりである。
【0004】
第0段階−癌が表皮にあり、広がり始めていない
第1段階−厚みが0.75mmまたはそれ未満であり、上部真皮に広がっている局所的な腫瘍
第2段階−0.75mmよりも厚いが1.5mm未満であり、および/または下部真皮に侵入し始めている局所的な腫瘍
第3段階−厚みが1.5mm以上であるがせいぜい3mmである局所的な腫瘍
第4段階−1.5mmよりも厚いが4mm未満であり、および/または下部真皮に侵入している局所的な腫瘍
第5段階−厚みが4mmよりも大きく、および/または皮下組織(皮膚の下の組織)に侵入しており、および/または原発腫瘍の2cm以内で衛星中継する(satellite)局所的な腫瘍
第6段階−腫瘍がリンパ節付近に広がっているか、または5つ未満の移動途中の(in-transit)転移が見られる。移動途中の転移とは、原発腫瘍と最も近いリンパ節領域との間に位置する転移であり、メラノーマ細胞がリンパ管に閉じ込められることによって起こる。
【0005】
第7段階−腫瘍が身体の他の部位に転移している
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
公知の皮膚治療システムは、異なる段階のすべての皮膚癌に作用することはできないので、融通がきかない。良性から悪性までいくつかの種類の皮膚腫瘍があるという事実のために、「皮膚癌」という用語は非常に幅の広い用語である。メラノーマの診断は、ABCD(E)基準に従って注意深く行なわれるべきである。
【0007】
他の皮膚治療技術として、皮膚移植手術または怪我の後の出血または組織からの流体の滲出を止めるための、制御された「封止」または制御された浸透深さまでの瞬時の焼灼がある。これらの効果を達成する従来の方法は、患者の不快感(痛みおよび炎症)を引起す可能性があり、実質的な組織治癒時間を必要とする可能性があり、包帯を巻く必要がある可能性があり、この包帯は定期的に取換える必要があり得る。したがって、従来の技術は時間またはコスト効率が高くない。
【0008】
これに対処するために、US6463336は、たとえば傷の治癒を改善するためまたは経皮薬物送出を向上させるために、パルス状電磁場で包帯下の柔組織を治療するための曲げやすい平面マイクロストリップまたはスロットラインアンテナ構造を組入れる適合した包帯を開示している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
この発明は、皮膚病変および他の皮膚疾患を治療するための臨床治療機器を提供する。
【0010】
最も一般的には、この発明は、皮膚組織に浸透するように非電離マイクロ波電磁場を生成および使用して、浸透深さの点で制御可能な、その組織に対する熱損傷を引起し、所望の治療エリアにわたって効果の均一性をもたらす治療装置および方法を提案する。
【0011】
この明細書では、「マイクロ波」という用語は一般に、1GHzから300GHzまたはそれ以上の周波数範囲を示すために用いられる。マイクロ波は、ミリ波領域にあるといえる高周波数を含んでいてもよい。しかしながら、以下の例では、好ましい周波数は10GHzを上回る。たとえば、14.5GHz、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、および94GHzのスポット周波数が可能である。
【0012】
好ましくは、この発明は、浸透深さが5mm未満、好ましくは2mm未満である制御可能な均一な熱剥離(または細胞破壊)を引起すための手段を提供する。たとえば、0.1mmから2.0mmの浸透深さの範囲を有することが望ましいであろう。
【0013】
この発明を説明する目的で、皮膚は、2つの主要な層、すなわち表皮と呼ばれる上部(最上)最上層と、真皮と呼ばれる下部(底部)層とを備えると考えられてもよい。
【0014】
この発明を用いると、表皮内にのみマイクロ波エネルギを送出することが可能であろう。これは望ましい可能性がある。なぜなら、真皮に対する損傷が皮膚の構造に対する永久的な損傷を引起す場合がある、または治癒時間を長引かせる場合があるためである。さらに、これによって、この発明は、真皮に浸透することが非常に望ましくない皮膚の若返りまたはリサーフェシング手順において用いるのに好適になり得る。
【0015】
この発明はまた、身体の表面、たとえば人間の背中または足の体毛の大群を脱毛するために用いられてもよい。この用途では、マイクロ波エネルギの浸透深さは、毛嚢の根元を破壊するようなものであってもよく、これは結果的に体毛を永久的に除去するはずである。
【0016】
この発明の制御可能なマイクロ波放射の1つの利点は、瞬間的にエネルギを送出して、制御可能な浸透深さがたとえば5mm未満(好ましくは2mm未満)でありかつ治療が必要な表面積にわたって電磁場が均一である制御された凝固を引起すシステムの能力である。典型的に、治療すべき表面積の大きさは、0.5cm2未満から15cm2以上であり得る。提案される治療技術はまた、細菌を死滅させるレベルまで温度を引上げることによって細菌が開放組織または開放創に入る可能性を低減することを助け得る。
【0017】
この発明はまた、患者の方向転換の回数を大幅に低減し、治療コストを低減し、順番待ちリストを短くすることを助け得る。この発明を用いて治療可能な疾患は典型的に、浸透深さが0.4mm未満から5mmよりも大きい状態で、0.5cm2未満から15cm2よりも大きな表面積にわたって、均一で細かく制御された熱損傷を引起す能力の恩恵を受ける疾患である。現在の従来の治療システムは、このような治療条件を生み出すことができない。たとえば、従来のレーザ治療は小さな領域の効果しかなく、より大きなエリアを治療するには正確な走査が必要である。さらに、抗生物質ジェルまたはクリームなどの局所治療はいかなる効き目も現われるのに時間がかかり、これは不便である可能性がある。また、生物系への抗生物質の投入は望ましくない場合がある。抗生物質治療は、しばしば、長い期間使用すると効き目がなくなり始めて、身体の免疫システムの効率が悪くなる場合がある。
【0018】
この発明は、これらのタイプの治療の代替案を提供してもよい。
この発明は、通信産業用に近年開発されてきた半導体パワーデバイスを用いて実施されてもよい。これらのデバイスによって、以前は生物医学的な治療用途で用いるために調査または活用されてきたわけではない電磁スペクトル内に含まれる周波数でエネルギを発生させることができる。電磁場から生物組織負荷へのエネルギの浸透深さは、とりわけ、その電磁場の周波数の逆数に依存する。したがって、皮膚組織の上部層にのみ浸透させる場合、高いマイクロ波周波数エネルギ源(たとえば、周波数が10GHzを上回るエネルギ源)が望ましい。
【0019】
第1の局面において、この発明は、マイクロ波電磁場を皮膚組織に送出するように配置された皮膚アプリケータ装置に関する。この発明に従って、マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための装置が提供されてもよく、この装置は、治療すべき皮膚の領域上に位置付けるための治療面と、治療面上の複数の放射素子と、マイクロ波エネルギを放射素子に送出するように配置された給電構造とを有し、放射素子は、送出されたマイクロ波エネルギを治療面において電磁場として外向きに放出するように構成され、その結果、治療中、放出された電磁場は、実質的に均一な予め定められた深さまで、治療すべき皮膚の領域に浸透する。
【0020】
好ましくは、給電構造は複数の電源(たとえば電力増幅器)を含み、各電源は、(1つ以上の)放射素子の群に関連付けられる。電源は好ましくは放射素子に近接している。これは、この発明において好ましい高い動作周波数の場合に特に関係のある2つの利点を給電構造に与える。第1に、放射構造の近くで増幅を行なうことによって、伝送線に沿った高周波数マイクロ波電力の伝達に起因する電力の損失を低減できることである。すなわち、45GHzの周波数で信号を伝送する好適な50Ωマイクロストリップ伝送線に沿った挿入損失は、10cm当たり10dBまでであってもよい。第2に、電源が放射素子に近接していることによって、電源と放射素子との間の給電構造を単純な構造にできることである。すなわち、アンテナアレイの各放射パッチまたは素子が自身の専用のパワーデバイスを有する場合にさらなる複雑さおよび挿入損失を付加するパワースプリッタまたはコンバイナを用いる必要がない。この構成を用いるさらなる利点は、パワーデバイスを飽和状態に駆動する必要がないことであり、これによって、直流電力放散レベルが低減され得る、または直流電力効率に対してより高いマイクロ波電力でこのデバイスを動かすことが可能になり得る。これによって、(より優れた伝送構造のためにより高くなる)電力損失と、(達成すべき電磁場全体のよりよい均一性を可能にする)放射電磁場配置の制御との間の釣り合いを取ることができる。
【0021】
好ましくは、各放射素子は独立して制御可能な電源を有し、それによって、放出された電磁場は治療面全体にわたって調整可能である。したがって、この発明は、治療箇所全体
にわたって皮膚特性の違いを調整できる適応性のある治療機器を提供してもよく、それによって、治療箇所の皮膚表面全体にわたって均一な電力送出が達成され得る。
【0022】
放射素子は好ましくはアンテナ構造を規定し、アンテナ構造は、給電構造とともに、エネルギを代表的な組織インピーダンスに伝播させるように最適化されてもよい。エネルギの分布は好ましくは、治療エリアにわたって浸透深さの点で均一である。
【0023】
好ましくは、マイクロ波エネルギは、電磁スペクトルの超高周波数(SHF)(super high frequency)または極高マイクロ波(EHF)(extremely high microwave)範囲内の周波数を有し、これらの範囲では、生物組織(たとえば、さまざまなタイプの皮膚組織)に伝播されるときの関連する波長は、組織において制御可能な熱損傷を引起すようなものである。典型的に、これらの周波数範囲は、3GHzから30GHz(SHF)および30GHzから300GHz(EHF)である。このような周波数および/または周波数源は従来の生物医学的な治療用途では用いられない。なぜなら、このような周波数では制御可能な電力を生成することが不可能であったまたは現実的でなかったためである。しかしながら、半導体パワー技術の近年の進歩を利用することによって、この発明の発明者はそれらの実際的でない事柄のうちのいくつかを克服した。
【0024】
好ましくは、マイクロ波エネルギは、マイクロ波エネルギを皮膚構造の治療に役立たせることができるように10GHz以上の周波数を有する。
【0025】
この発明の装置は、従来のシステムに比べて、引起された熱損傷の、効果の深さの点での精密な制御、治療表面積にわたる効果の均一性、および、皮膚病変の治療に関連する用途において病的な組織を破壊するレベルまで温度を瞬時に引上げる能力、または、皮膚移植もしくは事故による損傷の治療に関連する用途において傷の出血、流体の滲出を瞬時に止めるための表面剥離もしくは開放創への細菌の侵入の防止を引起す能力を提供することによって改善されてもよい。
【0026】
好ましくは、放射素子によって放出されたマイクロ波電磁場は、治療すべき皮膚の領域を45℃またはそれ以上、好ましくは60℃またはそれ以上、たとえば60℃から100℃までの温度に実質的に瞬間的に加熱するように配置される。このような温度は、治療すべき皮膚の領域において組織構造の永久的な損傷を引起す。たとえば、癌細胞を60℃またはそれ以上の温度に晒すことによって、確実に細胞が死滅する。
【0027】
特定の実施例では、複数の放射素子は誘電体基板層の外向きの面上にあってもよく、接地された導電層は、外向きの面とは反対側の誘電体基板層の面上に形成されることができ、給電構造は、複数の放射素子に交流を送出するように配置され、接地された導電層は、この交流のための戻り経路を提供するように配置される。
【0028】
他の実施例では、接地された導電層は、誘電体基板層の外向きの側にあってもよい。たとえば、接地された導電層にスロットが形成されてもよく、マイクロストリップ給電線または共平面導波路給電サスペンド型パッチアンテナ構成とは反対側の誘電体基板層が利用されてもよい。スロットアンテナ構成では、スロットが放射素子の役割を果たしてもよい。スロットの幅は、同じ量のマイクロ波エネルギが各放射スロットから送出されて、均一な電磁場を組織構造に放射できるように給電線の長さに沿って広くなっていてもよい。
【0029】
好ましくは、各放射素子は、たとえばスロット、放射パッチなどとして、誘電体基板層の外向きの面上に取付けられた導電パッチを含む。たとえば、微細加工技術を用いて作製された小型マイクロストリップアンテナまたはミリ波アンテナが用いられてもよい。
【0030】
代替的に、放射素子は、微細加工された共平面導波路によって給電される複数のサスペンド型パッチアンテナを備えていてもよい。この構造は、20GHzを超える周波数、すなわち24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、またはそれ以上で(すなわち、いわゆる「ミリ」波周波数で)特に有用であり得る。
【0031】
したがって、この装置は、皮膚組織を治療するために制御されたマイクロ波放射を生成するように構成されたパッチアンテナアレイを治療面上に含んでいてもよい。パッチアンテナアレイは好ましくは、たとえば皮膚腫瘍の厚み、他の皮膚病および傷の治癒に対応した予め定められた浸透深さを有する、治療表面積にわたって均一な組織剥離を引起すように構成される。
【0032】
さらにまたは代替的に、この装置は、皮膚の除去後の血液もしくは血流または滲出する流体を瞬時に凝固させるために用いられてもよい。この用途は、この発明が、表面凝固にとって興味深い浸透深さの達成を可能にする非常に高い周波数でマイクロ波電力を用いるので、実現可能である。以前は、対象の放射の浸透深さが確実に、浸透深さが1mm未満から約5mmの間である制御された組織損傷を引起すほど十分に低くなるように、十分に高い周波数で制御可能なエネルギを生成することは困難であった。より高い周波数のマイクロ波エネルギはまた、血液の連鎖凝固が確実に起こらないようにし得る。これは、より低いマイクロ波周波数を用いるときには、これらのより低い周波数でのマイクロ波エネルギの関連する浸透深さのために、困難である場合がある。
【0033】
この発明の特定の利点は、開放組織または開放創に入る細菌の量を低減する能力であり得る。これは、エネルギ送出の瞬間的な性質、小さな浸透深さ、均一な組織効果、比較的大きな表面積を治療する能力、および細菌を死滅させるのに十分に高い温度で瞬時の熱を生成する機能によって達成される。
【0034】
動作周波数で波長の半分に匹敵する寸法を有するパッチを製作することが好ましい。好ましくは、放射素子の面積は1mm2またはそれ未満である。周波数が必要な半波長に反比例するので、この程度のパッチ寸法は高いマイクロ波周波数を用いることによって達成される。これは、幅および長さに関してこれらのまたは類似の寸法を有するパッチが上記パッチの幅に関連する端縁に沿って効率的に放射するという事実のためである。理論的には、電磁場は長さに沿ってゼロになり得て、幅に沿って最大になり得る。したがって、各導電パッチは好ましくは長方形であり、基本(TM10)モードで電磁場を放出するように構成される。単一のパッチからの放射は、通常、パッチの周囲と接地された導電層との間の縁をなす電磁場から生じる。基本モード(TM10)励起を可能にするために、長方形のパッチの長さは好ましくは、負荷波長の半分よりもわずかに小さくされる。他のモードおよび好適な幾何学的配置が用いられてもよい。
【0035】
代替的に、互いに隣接して配置された複数の進行波アンテナ構造が用いられてもよい。
より高いマイクロ波周波数の場合、共平面導波路給電サスペンド型パッチアンテナアレイが好ましい。
【0036】
この発明は、高いマイクロ波(または、ミリ波)周波数エネルギを用いて、以下の3つの要因の有益な相互関係を可能にすると見なされてもよい。以下の要因とは、小さなパッチサイズ、パッチのアレイの表面にわたる電磁場の均一性、および皮膚のさまざまな構造を制御可能に治療するのに有用であるエネルギの浸透深さである。
【0037】
エネルギが皮膚組織に伝播し、アプリケータが皮膚表面と接触するとき、負荷は、誘電体基板層の比誘電率および生物組織負荷の比誘電率から生じる。組織導電性および誘電体基板層の放散係数(tanδ)も関連要因である。たとえば、複合比誘電率が20であり
、放散係数が0.001という低い値を有する場合、負荷係数は約20、すなわち√[202+(0.001×20)2]=20.00001になる。したがって、治療面において実質的に均一な電磁場を発生させるためにこれらの要因を考慮に入れて、各導電パッチの寸法が計算されてもよい。
【0038】
複数の独立して制御可能な電源は、放出された電磁場が治療面全体にわたって適応できるようにしてもよい。換言すれば、放射素子からの放射は調整可能であってもよい。したがって、この装置によって放出される電磁場は、たとえば放射のビーム操縦および/または箇所を特定した集束を達成するように制御可能である。これは、組織の大きなエリアを被覆する装置にとって特に有用である。なぜなら、組織のインピーダンスは、アプリケータが接触するエリアにわたる生物組織構造の変化に起因して、治療エリアにわたって変化し得るためである。
【0039】
好ましくは、各電源は、電力増幅器と、増幅器によって送出された電力を検出するように配置された監視ユニットとを含み、その結果、電力増幅器によって供給された電力は、監視ユニットによって検出される、生物組織に送出された電力に基づいて制御される。監視ユニットはまた、反射して電力増幅器に戻る電力を検出するように配置されてもよく、その結果、電力増幅器に供給された電力は、監視ユニットによって検出される、反射された電力に基づいてさらに制御される(すなわち、組織に送出される電力=[要求される電力−反射される電力])。監視ユニットは好ましくは、順方向および逆方向方向性結合器を備える。これらは、単一の装置(双方向結合器)に設けられる場合もあれば、2つの単一方向性結合器として設けられる場合もある。これらのユニットは、マイクロストリップ結合器または導波路結合器の形態を取ってもよい。この構成は、たとえば湿気、組織構造などに起因して、治療すべき組織のエリアにわたる変化するインピーダンスを補償して、さらなる制御手段として、組織に放射されたエネルギのレベルを細かく制御し、放出された電磁場を集束させる能力を提供する。
【0040】
好ましくは、給電構造は、一次安定マイクロ波周波数エネルギ源と、一次エネルギ源から複数の電源におよび放射素子上にエネルギを搬送するための伝送線のネットワークとを含む。
【0041】
ネットワーク伝送線は、一次エネルギ源からの出力を複数の入力に分けるように配置された複数のパワースプリッタを含んでいてもよく、各入力はそれぞれの電源のためのものである。複数のパワースプリッタは、一次エネルギ源の出力を分けている間の電力損失を補償するように配置された1つ以上の緩衝増幅器を含んでいてもよい。
【0042】
監視ユニットよって検出された情報に基づいて、電力増幅器に供給された電力を制御するために、各電源は好ましくは、各放射素子のインピーダンスを治療すべき皮膚組織に整合させるように配置された動的インピーダンス整合ユニット(すなわち、インピーダンスチューナ)を含む。この発明では、インピーダンス整合は好ましくは(機械的に対して)電気的に達成される。インピーダンス整合は、位相調整(たとえば、PINダイオードまたはバラクタダイオード移相器)によって達成されてもよい。後者の構成では、装置のキャパシタンスは、装置に電圧を印加することによって変更される。システムのインピーダンスを組織(皮膚)のインピーダンスに整合させるために、(電力増幅器に供給された信号の位相および大きさを調整できる)任意の整合フィルタが用いられてもよい。これらの装置は、たとえば各放射素子が自身の電力増幅器を備える場合に用いることができ、そのため、伝送線のネットワークを通じて送出される電力がたとえば約4Wという最大値に限定される。小さなインピーダンス整合装置、たとえばPINダイオードは、通常、たとえば単一の電源が120Wまでを送出し得る、他のタイプの治療機器とともに用いられる実質的により高い電力レベルでは動作できない。
【0043】
この発明では高周波数が用いられるので、物理的に小さなPIN移相器およびマイクロストリップ方向性結合器が、それぞれ、動的インピーダンス整合装置および監視ユニットとして用いられてもよい。このような構成要素は、5mm2未満、場合によっては1mm2未満の底面積(または表面積)を有する可能性がある。小さな構成要素を用いることによって、この装置は集積構造を備えてもよく、それによって、監視ユニットおよび動的インピーダンス整合ユニットは、給電線損失を最小限にするまたは少なくとも低減するように、物理的に電力増幅器の近くに位置する。たとえば、この装置は、積層構造を有していてもよい。本明細書において提案される層状構造は、異なる機能を有する層を縦に積重ねることを伴っていてもよい。層状構造は、電源と複数の放射素子との間の挿入損失または給電線損失を低減でき、装置の全体的な大きさを低減することも可能にし得る。たとえば、マイクロ波サブシステムは、アプリケータと同じ表面積を有するブロック内に含まれていてもよく、直流電源および他の関連する低周波数器具は、遠く離れて位置する別個のユニット内、たとえば患者の近くの表面上に含まれていてもよい。
【0044】
電源用に用いられるマイクロ波構成要素をすべて単一の層に集積することが好ましい。積層構造は、誘電体基板上に配された放射素子を備える第1の層と、各放射素子(または、たとえば2個または4個の素子の群)用に監視およびインピーダンス調整装置を備える第2の層と、各放射素子(または、たとえば2個または4個の素子の群)用に電力増幅器を備える第3の層と、複数のパワースプリッタを備える第4の層とを含んでいてもよい(これらは、伝送線のネットワークの形態で作製されてもよい)。たとえば検出器または受信機および(以下に記載する)コントローラの追加の素子を備えるさらなる層も設けられてもよい。この構造のコンパクトな性質によって、装置を携帯可能なユニットで設けることが可能になり得て、このシステムは外来患者または在宅治療での使用に非常に適したものになり得る。
【0045】
伝送線は、たとえば導電接地面と導電パッチとの間に位置する誘電体層に挟まれることによって(ストリップライン構造)、または導電接地面の、導電パッチとは反対の側に位置することによって(共平面構造)、治療面から遮蔽されてもよい。積層構造は、この遮蔽を達成する1つの方法である。好ましくは、同軸接続が各放射素子および接地された導電層を伝送線に接続する。たとえば、導電パッチの下面に電気的に接続するようにワイヤまたはピンを誘電体基板層を通して挿入できる。ピン(ピンは誘導リアクタンスを示し得る)が呈示する一定のリアクタンスを相殺するために、静的整合が行なわれてもよい。したがって、共役インピーダンス整合を与えるために、等しい容量リアクタンスの値を提供するスタブが設けられてもよい。
【0046】
給電構造は、少なくとも1つの伝送線が1つ以上の電源から、直列に接続された複数の導電パッチにマイクロ波エネルギを送出するように配置されるように配置されてもよい。複数の放射素子は、複数の直列に給電される導電パッチから形成されてもよい。各列は、すべての導電パッチまたは放射素子を高インピーダンス伝送線と相互接続して、一端において電力を送り込むことによって、形成されてもよい。
【0047】
代替的にまたはさらに、給電構造は、少なくとも1つの伝送線が1つ以上の電源から、並列に接続された複数の導電パッチにマイクロ波エネルギを送出するように配置されるように配置されてもよい。
【0048】
直列のアレイが好ましい。なぜなら、給電構成は並列の(共同給電(corporate feed))アレイよりもコンパクトであるためであり、これは、線損失(または挿入損失)が典型的により低いことを意味している。直列の(たとえば線形の)アレイは、共振モードまたは非共振モードのいずれにおいても動作し得る。
【0049】
好ましくは、給電構造は、隣接する導電パッチによって放出された電磁場を互いに直交させるように配置される。したがって、隣接するパッチは好ましくは、互いに直交する端縁に沿って放射する。これは、治療表面積全体にわたる均一な組織効果を容易にする。
【0050】
好ましくは、治療面、放射素子および給電構造は、一方の側または両側が金属化されかつ治療すべき皮膚の領域に適合した、誘電材料からなる可撓性シート上に形成される。この構成は、治療面が一様でない可能性がある傷または身体の領域、たとえば足または腕にアンテナを巻付ける必要があり得る傷を治療するのに特に好適である。
【0051】
好ましくは、この装置は、治療面と治療すべき皮膚の領域との間に位置付けるための、たとえば誘電材料からなる被覆部を含む。被覆部は、パッチアンテナアレイの、組織に面する面上に取付可能な薄層、すなわちスーパーストレートであってもよい。被覆部は、放射素子の各々によって生成された電磁場を分散させることによって、アンテナによって生成された電磁場の均一性を高めるように配置されてもよい。被覆はまた、放射アンテナと皮膚の表面との間の絶縁バリアの役割を果たしてもよく、すなわち、これは、放射素子(パッチ)が、損失の大きい構造(アンテナ構造内に含まれる誘電材料、給電線および放射パッチ)が引起す導電性加熱によって、皮膚の表面に焼けを引起すことに関連する如何なるリスクも防止できる。動的インピーダンス整合ユニットが用いられる場合、各放射素子からの放射は、電磁場の均一性を改善するために、さらに操縦または位相シフトされてもよい。
【0052】
被覆部は、電磁波を減速させるように選択された異なる比誘電率を有する1つ以上の誘電材料からなるブロックから形成されてもよい。代替的に、被覆部は、治療面と治療すべき組織との間の空隙の存在を確実にするように配置された直立した誘電体ポストを含んでいてもよい。空隙は、電磁場を集束させるために用いられてもよい。ブロックまたは空隙は好ましくは、0.1cm未満から2cmよりも大きい厚みを有する。好ましくは、ブロックは、対象の周波数で低損失(すなわち、低いtanδ値、たとえば0.0001)である材料から作られる。これは2つの理由で重要である。第1に、マイクロ波エネルギの大部分が誘電体ブロックに吸収されるのを防ぐという理由である。第2に、ブロックが暖まり、マイクロ波エネルギが材料中に分散して材料を物理的に熱くすることに起因して皮膚の表面上に火傷を引起すのを防ぐという理由である。ブロックは、治療すべき組織と接触するように適合されたスーパーストレート層を備えるまたは含んでいてもよい(やはり、スーパーストレート材料が低いtanδ値を示すことが好ましい)。好ましくは、スーパーストレートは生体適合性材料から作られる。スーパーストレートは、ブロック上に形成された生体適合性材料、たとえばパリレンCからなる適合したコーティングであってもよい。コーティングは好ましくは、マイクロ波に対して透過性がある厚み、たとえば10μmを有する。パリレンCは、コーティングとして塗布することが比較的容易であるので、特に有用である。好ましくは、誘電体ブロックは、高い熱伝導率を有する材料、すなわちセラミック材料から作られる。
【0053】
【数1】
【0054】
好ましくは、被覆部は治療面から分離可能であり、それによって、使い捨ての要素として用いられてもよく、これは通常臨床的な使用に必要である。
【0055】
したがって、好適に構成されたパッチアンテナアレイとインピーダンス整合された給電線との組合せは、上述の新しいSHFまたはEHF半導体エネルギ源とともに、さまざまな皮膚疾患の治療に用いるのに好適な浸透深さおよび表面積を有する瞬間的かつ均一な組織効果をもたらし得る。以下に記載するように、この発明の装置はさまざまな浸透深さでの治療を可能にし、これによって、さまざまな増殖段階の皮膚病変の効果的な治療が可能になる。さらに、SHFおよびEHF放射で可能になるさまざまな浸透深さによって、皮膚の除去(皮膚移植または傷/組織の損傷)に関連する用途のための制御された表面組織の凝固も可能になる。新しい装置の潜在的利点として、(たとえば10msから100msで一気にエネルギを加えることによる)痛みの低減、包帯を巻く必要性の軽減、治癒時間の改善、および皮膚を除去した組織の大きなエリアへの細菌の侵入の防止がある。脳が神経末端から如何なる刺激も受取らないが、一方で、生物学的状態の変化を引起すという観点からいえば組織が応答可能である、すなわち治療中の所望の組織構造の細胞壊死を引起すような期間を有するパルスを用いることが可能であり得る。さらに、この発明は、たとえば従来の光凝固装置と比較して、治療時間の低減を可能にし得る。実際、治療は単回投与で施されるまたは送出されてもよい。
【0056】
この発明の別の利点は、放射素子の数(導電パッチまたは他のアンテナ構造)と、放射素子が正しく給電されるときに電源から送出される電力との間に存在する線形の関係のた
めに生じる。これによって、治療面が皮膚の比較的大きなエリアを均一に被覆および治療できる。たとえば皮膚移植後のさまざまな大きさの開放創および露出した組織を制御された剥離によって封止できるようにするため、またはメラノーマの大きなエリアを治療するために、0.5cm2未満から10cm2を超えるまでの表面積の範囲にわたる均一な組織効果がたとえば可能であってもよい。
【0057】
好ましくは、電源における電力増幅器は、ソリッドステート半導体MMICである。電力増幅器は好ましくは、電磁スペクトルの超高周波数領域および極高周波数領域において制御されたエネルギを生成するように配置される。たとえば、電力増幅器は、14.5GHz、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、または94GHzで動作してもよい。31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、および94GHzで動作する治療システムの装置は、近年の通信技術の進歩を通じて可能になる。これらの周波数での発電は、高電子移動度トランジスタ(high electron mobility transistor)(HEMT)、特にリン化インジウムベースのInAlAs/InGaAs HEMT構造を用いて実現されてもよい。45GHzまでで動作する単一のPHEMT装置を用いて4Wまでを発生させることが可能であり得る。この電力は、いくつかのパッチまたは放射素子を給電するように分割されてもよく、たとえば8つの放射素子がたとえば1つの4W装置を用いて励起されてもよい。メタモルフィック(metamorphic)HEMT(MHEMT)技術が別の好適な候補である。これらの装置は、77GHzの周波数でおよび77GHzを超える周波数で発電できる。
【0058】
上述のように、この装置は誘電体ポストを含んでいてもよく、または治療面と治療すべき皮膚組織の領域との間に空隙を作るために治療面の端縁の周りに取付けられたある長さの材料を含んでいてもよい。治療中に空隙を設けることによって、表在性の組織効果、たとえば皮膚のリサーフェシングおよび/または皮膚の若返りを達成することが可能になり得る。この発明はまた、可能な浸透深さの範囲のために、コラーゲン収縮、体毛の除去または円形脱毛症の治療に使用可能であり得る。空隙はまた、上述のように、放出された電磁場を集束させるまたは操縦するために用いられてもよい。
【0059】
第2の局面において、この発明は、マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための機器を提供してもよく、この機器は、安定した出力周波数またはさまざまな選択可能な安定した出力周波数を有するマイクロ波放射の供給源と、マイクロ波放射の供給源に接続された上述の治療装置と、マイクロ波放射によって治療すべき組織に送出されたエネルギの量を制御するように配置されたコントローラとを含む。この機器において用いられる他の装置は、制御および監視のための(たとえば、デジタル信号プロセッサ(digital signal processor)(DSP)を含む)マイクロプロセッサユニットと、ディスプレイおよび入力装置(たとえば、キーボードおよび/もしくはマウスまたはタッチスクリーンディスプレイ)を備えるユーザインターフェイスと、直流電源ユニットと、好適なハウジングとを含んでいてもよい。マイクロプロセッサユニットは好ましくは、各放射素子に関連する監視ユニットから、検出された情報を受取り、それに従ってそれぞれの動的インピーダンス整合ユニットを制御するように配置される。
【0060】
第3の局面において、マイクロ波放射で皮膚組織を治療する方法が提供されてもよく、この方法は、複数の放射素子をその上に有する治療面で、治療すべき皮膚の領域を被覆するステップと、複数の独立して制御可能な電源を介して、EHFまたはSHF範囲の安定した出力周波数またはさまざまな選択可能な安定した出力周波数を有するマイクロ波放射の供給源を放射素子に接続し、それによって、放射素子は治療すべき皮膚の領域に予め定められた深さまで浸透するマイクロ波電磁場を放出するステップと、治療すべき皮膚の領域にわたって均一なエネルギ送出を可能にするように、電源によって放射素子に送出された電力を制御するステップとを含む。
【0061】
この発明は、本明細書に開示されるスペクトルのより高い端部に向かう周波数で用いられるときには、皮膚ウイルスまたは皮膚組織に見られる他のタイプのウイルスを治療するために用いられてもよい。この発明は、たとえばウイルスを不活性化するようにウイルスのDNA構造を変更できるようにしてもよい。この治療方法は、身体に耐性ができ、特定の抗生物質が効かなくなった場合に、抗生物質に勝る利点を有し得る。身体は、本明細書に記載する治療システムに対して免疫をもつことはない。
【0062】
この発明はまた、良性の皮膚腫瘍、たとえば光線性角化症、軟性線維腫、皮角、脂漏性角化症、または一般的なイボの治療に用いられてもよい。この発明に関連して興味深い特に関連性のある臨床的用途は、アトピー性皮膚炎および脂漏性皮膚炎またはざ瘡の治療であってもよく、そこでは、皮脂腺または汗腺の過活動が過剰な発汗を引起し、これは、細菌または菌類が皮膚の表面上に生じることに繋がる。生じた菌類はピチロスポルムとして知られており、ピチロスポルムは、皮膚上に生じる一般的な細菌であり、汗をかく領域、たとえば頭、胸部の下、前頭部、および腋窩に現われる細菌である。脂漏性皮膚炎を患っている人は通常よりも汗をかくので、これはより多くのピチロスポルム菌類が生成されることに繋がる。皮膚表面において放射素子(たとえば、10mm2パッチまたはパッチアンテナのアレイ)によって電力を送出するように起動されて、制御されたエネルギ投与量を皮脂腺に送出するマイクロ波またはミリ波電源は、過剰な活動を抑え得る。
【0063】
ここで提案される新しい皮膚システムは、すべての皮膚構造を治療するのに有効であり得て、この場合には、新しい皮膚システムは、皮膚細胞だけでなく、血管、神経系統、さらには皮膚の免疫系統にとっても有用であり得る。したがって、このシステムは、壊疽性膿皮症、白斑、痒疹、限局性強皮症、過形成性瘢痕、およびケロイドなどの皮膚に関連する疾患を治療するのに有効であり得る。
【0064】
ここに記載する治療システムはまた、慢性的な痛み、すなわちヘルペス後神経痛(postherpetic neuralgia)(PHN)の緩和のために用いられてもよい。
【0065】
おそらく関連性のある別の臨床的用途は、円形脱毛症の治療である。円形脱毛症は、頭髪が成長する皮膚組織の一部である毛嚢を身体の免疫系統が誤って攻撃する自己免疫病である。この疾患が生じると、頭髪は通常小さな丸いパッチ状に抜け落ちる。この疾患は、高周波数マイクロ波またはミリ波エネルギを用いて毛嚢に刺激を与えることによって治療可能であり得る。この発明に従って、このエネルギは、頭皮に突き刺すことができるパッチアンテナのアレイを介して供給されてもよい。パッチまたはアレイの大きさの範囲は、特定の患者において脱毛症が引起す脱毛の量に合わせるように開発されてもよく、たとえばその大きさは1cm2から100cm2の範囲であってもよい。この円形脱毛症の治療には、小さな浸透深さ、たとえば約0.1mmが必要である可能性があり、したがって、この発明は、100GHzを超える周波数、たとえば300GHzまたはそれ以上の周波数が用いられるときにこの臨床的用途に特に適したものになり得る。アンテナを担持または収容するために用いられる材料は、頭皮と十分に接触する可撓性のまたは適合した材料であってもよい。アレイにおける各アンテナは別個の増幅器からエネルギを供給されてもよく、または各アンテナに電力を送出して、各アンテナが適切な量のエネルギを頭皮に放射するようにするためにパワースプリッタが用いられてもよい。
【0066】
この発明の他の特徴について、添付の図面を参照して、以下でなされるこの発明の例の詳細な説明の中で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1(a)】皮膚病変の治療に適合されたこの発明の実施例である治療システムを示す。
【図1(b)】皮膚病変の治療に適合されたこの発明の実施例である治療システムを示す。
【図1(c)】皮膚病変の治療に適合されたこの発明の実施例である治療システムを示す。
【図2(a)】開放創の治療に適合されたこの発明の別の実施例である治療システムを示す。
【図2(b)】開放創の治療に適合されたこの発明の別の実施例である治療システムを示す。
【図2(c)】開放創の治療に適合されたこの発明の別の実施例である治療システムを示す。
【図3】この発明のさらなる実施例である皮膚治療装置を通る断面図である。
【図4】この発明のさらなる実施例である皮膚治療機器全体を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施例において実現され得る積層構造の概略図である。
【図6】図4に示される機器の給電構造を示す。
【図7】図4に示される機器からの単一の監視ユニットを示す。
【図8】この発明の別の実施例である皮膚治療装置の概略図を示す。
【図9(a)】この発明のさらに別の実施例である皮膚治療装置の上面図を示す。
【図9(b)】この発明のさらに別の実施例である皮膚治療装置の底面図を示す。
【図9(c)】この発明のさらに別の実施例である皮膚治療装置の側面図を示す。
【図10】この発明に従う、装置における放射パッチに電力を提供するための給電構造の一例を示す。
【図11】装置の1つの層における増幅器からその装置の別の層における放射パッチに電力を提供する給電構造の一例を示す。
【図12】図11に示される構成の断面図である。
【図13】この発明に適用することができる第1の給電構成の概略図である。
【図14】この発明に適用することができる第2の給電構成の概略図である。
【図15】この発明に適用することができる第3の給電構成の概略図である。
【図16】この発明に適用することができる第4の給電構成の概略図である。
【図17】図16に示される給電構造の実際の実施例の平面図である。
【図18】14.5GHzの放射とともに用いられるパッチアンテナのアレイの平面図である。
【図19】31GHzの放射とともに用いられるパッチアンテナのアレイの平面図である。
【図20】この発明の実施例において用いることができる緩衝増幅器を有する給電構造を示す。
【図21(a)】単一のサスペンド型パッチアンテナを給電する従来の共平面導波路構造の断面図を示す。
【図21(b)】単一のサスペンド型パッチアンテナを給電する接地された共平面導波路構造の断面図を示す。
【図22(a)】放射アンテナパッチと共平面導波路構造との間に接続された給電ポストを用いて空気中に吊り下げられた単一のパッチアンテナの代替的な図を示す。
【図22(b)】共平面導波路の接地面が放射パッチアンテナに接地面も提供する、共平面導波路線を用いて給電されるサスペンド型パッチアンテナのアレイを示す。
【図23】マイクロストリップ線の構成とともに共平面導波路構造を用いて給電される16個のサスペンド型放射パッチアンテナのアレイを用いるアンテナアレイおよびマイクロ波サブアセンブリの具体的な実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
詳細な説明、さらなるオプションおよび選択
この発明の一般的原理は、放射素子のアレイからの、実質的に均一な電磁場を有する電磁放射を生成することである。以下に記載する実施例のうちのいくつかでは、放射素子としてパッチアンテナが用いられる。スロット付き線または共平面導波路給電サスペンド型パッチのアレイも用いられてもよい。このような放射素子およびそれらの給電線構造を作製するために、微細加工技術を用いることができる。さらなる実施例は、接地面に複数のスロットを有する底部層と、放射マイクロストリップ線がスロットの上にくるように誘電体層上に作製されたマイクロストリップ線の構成とを備える放射構造を提供する。マイクロストリップ線およびスロットの大きさは、スロットからエネルギが放射されるように決められる。ここで紹介するパッチアンテナアレイの動作環境は、このようなアンテナ構造が通常動作する通常の「自由空間」状況とは非常に異なっている。たとえば、パッチアンテナのアレイは、通常、船のレーダ、地上レーダおよびさまざまな他のタイプの通信機材で利用される。したがって、生物組織は、パッチアンテナのアレイが動作する環境としては、従来とは多少異なったものになる。なぜなら、通常この発明における構造は近距離場において動作することになるためである。すなわち、この動作は、変位電流が関係するアンテナと組織との間の容量結合であると考えられてもよい。
【0069】
生物学的環境での動作には、特定の課題がある。皮膚組織に関連する高い誘電率により、自由空間に比べて共振構造の大きさが縮小される。たとえば、湿った皮膚を治療する場合、パッチまたは半波ダイポールアンテナ素子は31GHzで約1.16mm2であるのに対して、空気中では4.8mm2である。したがって、最大エネルギが送出される(すなわち、最適効率でエネルギが送出される)ように共振動作を保つために、共振パッチアンテナ構造の外形を調整する必要があり得る。
【0070】
波長単位で測定された、大きなエリアにわたる均一な放射を確実にするために、多数のパッチが用いられる。皮膚組織の導電性が局所的に高いために、パッチアレイアンテナの通常の共振挙動は失われることになる。これは、インピーダンスの制御および給電分配ネットワークに整合させる能力を制限する。たとえば、4分の1波モノポールの入力インピーダンスは35Ωから5Ωに落ちる可能性がある。したがって、給電構造を放射パッチに整合させるためには、追加の整合が必要とされ得る。これを達成するために、動的インピーダンス整合ユニットが必要とされ得る。可能な構成について以下で説明する。
【0071】
表1は、乾燥した皮膚および湿った皮膚に関連する関連性のある電気特性および誘電特性の一覧である。これらの特性は、パッチが効率的に皮膚組織にエネルギを放射して、装置の表面積全体にわたって組織上に均一な効果をもたらすことを確実にするようにパッチアンテナアレイを設計する際に、考慮に入れられる。
【0072】
【表1】
【0073】
上の表における記号:εr,σおよびαは、それぞれ、比誘電率(無次元)、導電性(メートル当たりのジーメンス)および浸透深さ(ミリメートル)を表わす。この作業において検討されるアンテナアレイ構造をモデリングするために、電磁場モデリングパッケージ、たとえばコンピュータシミュレーションツール(Computer Simulation Tools)(CST)マイクロ波スタジオ(Microwave Studio)(登録商標)が用いられた。
【0074】
以下に記載する実施例において調査される周波数は、14.5GHz、31GHzおよび45GHzであり、乾燥した皮膚および湿った皮膚への浸透深さは、14.5GHzではそれぞれ2.16mmおよび2.10mmであり、31GHzではそれぞれ0.82mmおよび0.85mmであり、45GHzではそれぞれ0.59mmおよび0.61mmである。類似の技術が、より高い周波数(たとえば、60GHz、77GHzまたは94GHz)で動作する装置に適用されてもよい。これらの周波数は、もたらされる浸透深さが皮膚に関連するいくつかの疾患の治療にとって興味深いものであるという事実のために、この発明において検討される治療アプリケータにとっては好ましい動作周波数であり、これらの周波数は、「超高周波数」領域(SHF)および「極高周波数」領域(EHF)として知られているマイクロ波スペクトルの領域内にある。より低いマイクロ波周波数と比較して、関連する波長が小さいという事実のために、比較的小さな表面積の中に単一波長または半波長放射パッチの大きなアレイを製作して、確実に均一な組織効果を得られるようにすることを助けることが可能である。より高い周波数で動作する装置は、より小さな浸透深さが必要である場合に用いられることができる。
【0075】
小さな放射浸透深さと、小さな表面積を有する放射パッチを製作する能力との組合せによって、これらの高いマイクロ波周波数で動作するエネルギ源を皮膚科の用途のために実用化することが可能である。
【0076】
図1(a)、図1(b)および図1(c)は、患者の腕の癌性病変を治療するために用いられ得る治療システム一式の図を示す。図1(a)は、病変302を有する腕300を
示す。図1(b)は、病変302を治療する放射アンテナアレイ304を示す。治療システム全体は、直流電源用伝送線と制御信号用伝送線とを含むケーブルアセンブリ308を用いてともに接続された2つのサブシステム304、306を備える。制御信号の動作周波数は、マイクロ波周波数スペクトルと比較して非常に低く、たとえば1Hzから100KHzの間であり、したがって、ケーブルに沿った挿入損失は無視できるほどのものであり、さまざまな標準的なケーブル、たとえば直径が0.2mmの7本の(7/0.2mm)錫めっき銅線が用いられてもよい。第1のサブシステム306は、直流電源と、制御ユニット(たとえば、マイクロプロセッサおよび/またはデジタル信号プロセッサ)と、適切なユーザインターフェイス(たとえば、モニタを有するキーボード/マウス、キーパッドまたはタッチスクリーンディスプレイを有するLED/LCDディスプレイなど)とを含む。第2のサブシステムは、図1(c)に詳細に示されるマイクロ波サブアセンブリ304であり、マイクロ波供給源発振器310と、マイクロ波電力増幅器312と、電力分割および給電ネットワーク314と、放射アンテナアレイ316とを含む(すべてについて以下でより詳細に説明する)。このユニットはまた、方向性結合器(図示せず)、たとえば、マイクロストリップ結合器、検出器、および動的同調またはビーム操縦手段を含む。方向性結合器を用いて、順方向に進むまたは反射される電力のレベルを監視できるようにし、上記結合器の結合されたポートからの信号は、PINダイオード移相器または可変キャパシタンスバラクタダイオード(これらも図示せず)を制御して、アンテナアレイを皮膚の表面インピーダンスにインピーダンス整合させることができるようにするために、用いられてもよい。
【0077】
図2(a)、図2(b)および図2(c)は、患者の足の大きな傷を治療するために用いられるシステムの図を示す。図2(a)は、足に大きな開放創322を有する患者320を示す。この傷は、たとえば皮膚病、自動車事故によって、または戦闘もしくは戦争にかかわることによってもたらされ得る。図2(b)は、直流電力供給を搬送する伝送線と制御信号を搬送する伝送線とを含むケーブルアセンブリ328を用いてともに接続された2つのサブシステム324、326を含む治療システム一式を示す。第1のサブシステム326は、直流電源と、制御ユニット(たとえば、マイクロプロセッサおよび/またはデジタル信号プロセッサ)と、適切なユーザインターフェイス(たとえば、モニタを有するキーボード/マウス、キーパッドまたはタッチスクリーンディスプレイを有するLED/LCDディスプレイ)とを有する。第2のサブシステムは、図2(c)により詳細に示されるマイクロ波サブアセンブリ324である。マイクロ波サブアセンブリ324は、マイクロ波供給源発振器330と、マイクロ波電力増幅器332と、電力分割ネットワーク334と、放射アンテナ336とを含む。この実施例では、足(または、類似の構造を有する身体の他の領域)に巻付けることができるように、放射アンテナ336は可撓性基板338上に作製される。マイクロ波電力増幅器332、供給源発振器330、およびマイクロ波サブアセンブリ324に関連する他のマイクロ波電子部品は、望ましくは可撓性アンテナアレイ構造の入力に直接接続されて、挿入損失を最小限にする。
【0078】
この実施例では、複数の進行波アンテナ構造を用いて、可撓性アンテナアレイを形成する。
【0079】
実際には、足の全周の傷の迅速な治癒に必要な均一な組織効果をシステムがもたらすことができるように、図2(c)に示されるタイプの2つのアンテナアレイがともに用いられてもよい。より大きな表面積を治療すべきである場合には3つ以上のアレイを用いることが望ましいであろう。
【0080】
図3は、皮膚表面24に適用された、この発明の実施例である皮膚治療装置10を示す。装置10は、エネルギ、たとえば予め定められた安定した周波数を有する交流電力をエネルギ源(図示せず)から装置に与えるマイクロ波給電コネクタ12を有する。給電コネ
クタは、任意の好適なタイプ、たとえばSMA、SMB、SMC、MCXまたはSMPなどの同軸接続であってもよい。(たとえば、銅、銀などからなる)接地された導電層14は、給電構造(以下に記載)を介して複数の導電パッチ18に供給される電流のための戻り電流経路を提供するように、誘電体基板16上に取付けられる。各パッチ18は、提供されたマイクロ波エネルギのための放射アンテナの役割を果たすように選択された長方形の形状を有する。放射素子の形状は必ずしも長方形ではない。すなわち、放射素子は、正方形、三角形または円筒形であってもよい。この形状は、電磁場シミュレーションを用いて最適化されてもよい。複数のパッチ18は、規則的な配列で配置され、一緒になって実質的に均一な電磁場を外向きに放出するように基板16の表面上の空隙20によって隔てられている。パッチ18のアレイは、好ましくは生体適合性材料、たとえばパリレンC、テフロン(登録商標)などから形成された誘電体スーパーストレート22によって被覆される。
【0081】
典型的に、スーパーストレート22は、治療中に皮膚24と接触する。しかしながら、より表在性の治療が必要である場合(たとえば、組織のリサーフェシングの場合)には、スーパーストレート22と皮膚24との間に空隙が導入されてもよい。上記空隙と上記組織との間の距離が、信号減衰がたとえば1dB未満であるようなものである場合、アプリケータの表面を組織の表面と直接接触させる必要なく、供給源エネルギの大部分を組織の表面に結合することが可能である。この治療方法の利点は、高温のアプリケータに起因して焼けまたは組織の炭化の点で組織の表面が損傷を受け得る可能性がないはずであること、およびスタンドオフ距離を調整することによって、たとえば装置から突出している1つ以上の誘電体ポスト間に調整可能なねじ式係合を有することによって、エネルギ分布を変更できることである。この方法は、皮膚表面を影響を受けないままにしながら皮膚の表面下の組織に影響を及ぼすために用いることができる。特定の用途は、コラーゲン収縮および毛嚢の房の破壊を含んでいてもよい。
【0082】
代替的に、放射パッチと皮膚の表面との間で低損失誘電体ブロックが用いられてもよい。エネルギ調整はまた、PINダイオード減衰器を調整して電力レベルを制御することによって、またはPINダイオードスイッチを変調して、送出されたエネルギのパルス幅もしくはデューティサイクルを変更することによってなされてもよい。代替的に、互いに対して放射パッチの位相を制御するためにPINダイオード位相調整器が用いられてもよい。個々のパッチ(または放射素子)に送出された電力レベルの調整と、位相の調整との組合せによって、表面上および表面下の両方の皮膚構造の変化が異なる量のエネルギまたは異なる整合条件を必要とし得るときに、均一なエネルギを大きな表面積にわたる皮膚の表面に送出することができる。したがって、この発明は、治療エリア上の組織構造のばらつきに適合できる、個々に制御可能な放射素子を提供してもよい。
【0083】
スーパーストレート22は、取外し可能であり、機器の使い捨て部を形成する。
誘電体基板16は、任意の好適な材料、すなわち、好ましくは治療中の皮膚組織の表面に装置をインピーダンス整合させることを助ける、低いtanδおよび比誘電率を有する誘電材料からなっていてもよい。好適な材料の例は、PTFE、ナイロン、サファイア、およびパリレンCでコーティングされたアルミナ(コーティングの厚みは好ましくは10μm未満である)である。アルミナを用いることの利点は、皮膚構造の比誘電率に匹敵する約10という比誘電率を有すること、および優れた熱伝導率を有することを含む。場合によっては、伝導によって発生する如何なる熱も組織の表面に伝達されることを防ぐために、劣った熱伝導率を有する材料を用いることが望ましいであろう。これは組織の表面の焼けを招く可能性がある。すなわち、熱が皮膚に伝えられるのではなく材料に蓄積される。
【0084】
PTFEまたはナイロンの比誘電率は比較的低い傾向があり、たとえば2から4の間で
あり、したがって、誘電体基板層とパッチアンテナ層との間に整合変圧器が必要であり得る。低誘電率誘電体が用いられる場合、誘電体基板層とパッチアンテナ層との間に追加の誘電体層を挟んで、必要なインピーダンス整合を行なうこと、および電力の一部が組織/誘電体界面において反射されるのを防ぐことが好ましい。
【0085】
罹患した皮膚組織を治療しながら皮膚の表面を冷たい状態に保つことが必要である場合には、パッチアンテナアレイはペルティエ冷却器装置上に取付けられることができるであろう。これは、コラーゲン収縮の用途にとって特に興味深いものであり得る。優れた熱伝導率を有するセラミック基板はまた、皮膚の表面から熱を除去することを助け得る。
【0086】
マイクロ波エネルギが加えられるときに組織の表面を冷却するために冷却剤またはフリーザ噴霧器で皮膚の表面を噴霧することも可能であり得る。この構成では、マイクロ波エネルギは、マイクロ波エネルギの周波数に関連する深さまで皮膚の層内に吸収され、皮膚の表面は変化しない。冷却剤の送出をマイクロ波パルスの印加と同期させることが好ましいであろう。たとえば、マイクロ波パルスが期間100msを有する場合、パルスよりも50ms前に噴霧器を起動させることが望ましいであろう。
【0087】
図1に示される構造は剛性かつ平坦であるが、でこぼこの組織構造に適合する可撓性アレイを製作するように修正することが可能である。たとえば、ロジャース・コーポレーション(Rogers Corporation)およびシェルダール社(Sheldahl)(現在のマルテック・フレキシブル・サーキッツ社(Multek Flexible Circuits))は、この発明を実施する際に用いられてもよい可撓性のラミネートポリマー回路材料を製造している(たとえば、ロジャース・コーポレーションは、R/flex3600として知られている特定の材料を製作している)。
【0088】
導電パッチ18が用いられる場合、装置設計はパッチアンテナアレイの理論に基づき、各放射パッチの大きさ(長さ「L」および幅「W」)は有効誘電率の関数として計算され、動作周波数(たとえば、14.5GHz)、パッチアレイを作製するために用いられる材料の誘電率εr、パッチアンテナを用いて治療する皮膚組織の誘電率、および誘電体ブロックまたは空隙(用いられる場合)の誘電率に依存する。スーパーストレート22はまた、アンテナ構造全体の性能に影響を及ぼすことになり、これはパッチアンテナアレイを設計および最適化する際に考慮に入れなければならない。スーパーストレート材料の厚みが小さい、たとえば5〜10μmである場合、影響は無視できるほどのものであり得て、無視することができる。非常に薄い層のみが用いられる場合には、比較的損失の大きい、すなわち0.001より大きなtanδを有する材料を用いることも可能である。
【0089】
厚いスーパーストレート22に起因する有効誘電率の変化は実質的な変化をもたらす可能性があり、変化の量は、スーパーストレート22の厚みおよび比誘電率によって支配される。
【0090】
表2は、アプリケータを皮膚の表面に接触させた状態での乾燥した皮膚と湿った皮膚に関連する誘電負荷についてcm2当たりのパッチの数を確認するために行なわれた理想的な計算に基づく情報を示している。これらの数字は、放射パッチが皮膚と直接接触しており、放射パッチが作製される基板材料がパッチの大きさに影響を与えないと仮定している。また、材料損失に起因する誘電率の成分が比誘電率と比較して低いと仮定している。より正確な数字を得るためおよび/または上で無視した要因を考慮に入れるために、電磁場シミュレーションを行なうことができ、パッチアレイまたはこの発明とともに用いるのに適した他のアンテナ構造の大きさの最適化を行なうことが可能である。
【0091】
【表2】
【0092】
上記の周波数で動作するソリッドステートトランジスタ装置は、トライクイント・セミコンダクター社(TriQuint Semiconductor)、東芝セミコンダクター社、ヒッタイト・マイクロウェーブ・コンポーネンツ社(Hittite Microwave Components)、および三菱セミコンダクター社から商業的に調達可能である。14.5GHzで動作する装置は十分に確立しつつあるのに対して、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、および94GHzで動作する装置は現在利用可能になり始めている。トライクイント・セミコンダクター社は、現在、45GHzおよび31GHzで動作する4W装置を製造している。この電力出力では、いくつかの放射素子を給電するために単一の装置が用いられてもよい。半導体技術、特にPHEMT装置の近年の進歩により、100GHzまでの周波数で発生する100mWから2Wの電力レベルが提供される。
【0093】
表2中の数字は、全部の半波長負荷パッチを表面積10mm2の正方形に収容できるように、端数を切上げるまたは切下げている。実際の実施の際には、利用可能な基板材料のエリア上に作製できるパッチの数を最適化するために大きさをわずかに拡張または縮小してもよく、電磁場モデリングから得られた結果に従って大きさは変化し得る。たとえば、寸法が10.62mm(W)×10.62mm(L)に増大される場合、動作周波数が14.5GHzであれば16個全部の半波長パッチをアレイにおいて用いることができるであろう。これらの寸法は、シミュレーションが行なわれると変化する。なぜなら、損失の大きい生物組織構造とアンテナ構造との間の相互作用が考慮に入れられるためである。最も単純なレベルで、構造全体に関連する誘電率の3つの値がある。3つの値とは、生物組織(皮膚)の複素誘電率、スーパーストレート層の複素誘電率、および基板層の複素誘電率である。治療エリアを増大させるために均一な態様でパッチの数を増やすことが可能であり、たとえば31GHzでは、表面積が4cm2である正方形の治療アプリケータを作製するために144個のパッチを用いることができ、したがって、表面積が16cm2である正方形の治療アプリケータを作製するには576個のパッチが必要になるであろう。
【0094】
図4は、この発明の実施例に従う治療機器一式100に含まれる構成要素の図を示す。図5は、その機器の概略図を示し、ここでは、マイクロ波エネルギ源、給電構造および放射アンテナアレイのために用いられる機器構成要素はすべて、単一の基板上に集積され、それによって、コンパクトな全体設計を作り出している。垂直積層技術を用いて、機器100は複数の層からなっている。バッテリまたは交流/直流コンバータ(すなわち、電源)102は、ユーザによって操作可能な制御およびディスプレイ装置を含む第1の層104上に取付けられる。第1の層104は、機器を制御するためのプロセッサを含む第2の層106上に取付けられる。この層はまた、故障状態を監視し、第1のプロセッサが動作不良を起こした場合に保護手段の役割を果たすように用いられる「ウォッチドッグ」として知られている第2のプロセッサを含んでいてもよい。第2の層106は、マイクロ波信
号生成ラインアップを含む第3の層108上に取付けられる。第3の層108は、生成されたマイクロ波信号を昇圧するためのマイクロ波増幅器ラインアップ(たとえば、複数のMMICまたはMHEMT装置)を含む第4の層110上に取付けられる。第4の層110は、第5の層112上に取付けられ、第5の層112は、生成されたマイクロ波信号を分けかつエネルギを放射素子に伝送するように配置されたパワースプリッタのネットワークを組入れる(たとえば、マイクロストリップトラックの)給電構造を含む。第5の層112は、第6の層113上に取付けられ、第6の層113は、アンテナ構造の放射素子に与えられる前に、分けられた信号を昇圧するための電力増幅器(たとえば、MMIC装置)のアレイを含む。第6の層113は、第7の層114上に取付けられ、第7の層114は、各放射素子に送出された電力および各放射素子から反射された電力を監視するように、および、たとえば治療すべき組織とのインピーダンス整合を確実にするために各信号を調整するように配置された信号制御装置のアレイを含む。第7の層114は、第8の層116上に取付けられ、第8の層116は、各々が信号制御装置のアレイから、分けられた信号を受信する放射素子(たとえば、導電パッチ、スロットライン、または共平面導波路サスペンド型パッチアンテナ)のアレイ(たとえば、規則的なパターン)を含む。第8の層は、図4に示される構成に類似した放射構成を提供するために、放射素子とは反対側の面上に、接地された導電性コーティングを有していてもよい。生体適合性の取外し可能な(使い捨ての)第9の層117が第8の層116上に設けられる。第9の層117は、使用中、治療すべき組織と接触する(すなわち、それは上述のスーパーストレート層である)。
【0095】
したがって、機器一式が層のサンドイッチ構造内に含まれることができる。パワーデバイスを放射パッチ上に直接取付けることの主な利点は、伝送損失(または、給電線損失もしくは挿入損失)を最小限にすることである。これは、高周波数(たとえば、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、94GHz、およびそれを上回る周波数)での動作にとって特に興味深いものである。図1および図2に示されるように治療システム全体を2つの別個のブロックに分割することが望ましいであろう。第1のブロックは、スーパーストレート層、アンテナアレイ、給電構造、発電装置、および供給源発振器からなるマイクロ波サブアセンブリを含んでいてもよい。第2のブロックは、直流電源、制御電子機器(マイクロプロセッサおよび/またはDSPおよび/またはウォッチドッグ)、およびユーザインターフェイスを含んでいてもよい。
【0096】
各層における構成要素が図4に示されている。マイクロ波信号は安定周波数源126によって生成され、安定周波数源126は、電磁スペクトルの超高周波数(SHF)または極高周波数(EHF)領域内に含まれる単一周波数で、より詳細には、14.5GHz、24GHz、31GHz、45GHz、66GHz、77GHz、または94GHzで(周波数変動は数百kHzに限定される)信号を提供する。ここに示される安定周波数源126は、マイクロ波供給源126の周波数安定性を導き出す基準信号を含む位相ロック誘電体共振器発振器(dielectric resonator oscillator)(DRO)の形態を取り、上記基準信号の供給源(図示せず)は、1MHzから100MHzの間であるが、より好ましくは10MHzから50MHzの間の範囲内の周波数で動作する温度安定水晶発振器を備えていてもよい。電圧制御発振器(voltage controlled oscillator)(VCO)またはガンダイオード発振器などの他の周波数源が用いられてもよいが、この発明ではDROを用いることが好ましい。システムの周波数安定性を高めるために、2つの基準発振器をマイクロ波供給源126内で用いることができる。複数の安定周波数源を用いて、複数のマイクロ波周波数源を用いることができるようにして、単一のパッチアンテナアレイを励起することが好ましいであろう。この構成では、安定周波数源は周波数合成器の形態を取ってもよい。
【0097】
安定周波数源126は、3dB 0°パワースプリッタ128の入力ポートに接続され
る。スプリッタ128の目的は、位相変化を導入することなく、供給源126が生成した電力を2つの等しい割合に分けることである。
【0098】
スプリッタ128からの第1の出力は第1の信号アイソレータ132の入力に接続され、スプリッタ128からの第2の出力は減衰パッド130の入力に接続される。減衰器パッド130の出力はマイクロプロセッサ124への入力であり、マイクロプロセッサ124では、信号を用いて周波数源126の状態を監視する。減衰器パッド130の目的は、マイクロプロセッサ124への入力に入射する信号レベルを限定することである。信号供給源126が不適切に機能していることを信号が示す場合、マイクロプロセッサ124は、エラーが発生したことを合図し、システムは適切な動作を行なう。すなわち、エラーメッセージが生成され、および/またはシステムが停止される。
【0099】
第1の信号アイソレータ132の目的は、たとえばロードプリング、または信号供給源126が生成した信号に影響を及ぼし得る別の条件に起因して供給源126において周波数変化を引起す第1の変調ブレークスルー阻止フィルタ134の入力に存在する如何なる不整合信号も防ぐことである。実際には、フィルタ134の入力ポートが十分に整合されていればアイソレータ132は必要ないかもしれないが、アイソレータ132は予防措置として含まれている。第1の変調ブレークスルーフィルタ134の出力は変調スイッチ136の入力に接続され、変調スイッチ136の機能は、安定周波数源126が生成した信号を変調して、システムがパルスモードで動作できるようにすることであり、それによって、ユーザ制御およびディスプレイユニット118ならびにマイクロプロセッサ124を用いて、デューティサイクル、パルス幅、および(望まれる場合)パルス形状を修正できる。第1の変調ブレークスルーフィルタ134の目的は、変調スイッチ136が生成した高速スイッチング信号内に含まれる周波数成分が安定周波数源126に戻り、その出力信号に影響を及ぼすのを防ぐことである。
【0100】
変調スイッチ136への入力制御信号135はマイクロプロセッサ124から生じる。この制御信号135はトランジスタ−トランジスタ論理(transistor-transistor logic)(TTL)レベル信号であってもよく、他の信号フォーマット(たとえば、エミッタ結合論理(emitter coupled logic)(ECL))が可能である。
【0101】
変調スイッチ136からの出力は、第2の変調ブレークスルー阻止フィルタ138の入力に接続され、第2の変調ブレークスルー阻止フィルタ138の機能は、特定の治療法のために変調スイッチ136が生成し得る高速スイッチング信号内に含まれる周波数成分が、後続の前置増幅器144および電力増幅器146に入り、たとえば信号の歪み、誤った出力電力レベル、またはたとえば出力電力段発振の顕在化によるこれらのユニットに対する損傷、または信号の過励振を引起すのを防ぐことであり、信号の過励振は、周波数源126が生成する信号もしくは増幅器144、146の帯域幅内である、すなわち上記増幅器が利得を与える信号の周波数と同じ周波数で生じるスイッチング信号内に含まれる高調波のうちの1つによって引起される。
【0102】
ブレークスルー阻止フィルタの実際の実施は単に長方形導波路セクションであってもよく、そこでは、導波路セクションの遮断周波数よりも低い周波数は阻止され、したがって、導波路セクションはハイパスフィルタの役割を果たす。
【0103】
第2の変調ブレークスルー阻止フィルタ138からの出力は、第2の信号アイソレータ140の入力に接続される。上記第2のアイソレータ140からの出力は可変信号減衰器142に接続され、可変信号減衰器142の機能は、マイクロプロセッサ124が生成した入力制御信号143を用いて信号減衰のレベルを変化させることによってシステム電力レベルを制御できるようにすることである。可変信号減衰器142は、アナログ減衰器で
ある場合もあれば、デジタル減衰器である場合もあり、反射型である場合もあれば、吸収型である場合もある。この減衰器は、いくつかのパルス形状またはシーケンスを生成するようにマイクロプロセッサ124によって制御されてもよい。第2の信号アイソレータ140の機能は、可変減衰器142の入力ポートと第2の変調ブレークスルー阻止フィルタ138の出力ポートとを分離することである。第2の信号アイソレータ140は、優れた設計実践のために挿入されており、劣化またはマイクロ波サブアセンブリに対する損傷を引起すことなく機器から割愛することができる。
【0104】
可変減衰器142からの出力は信号前置増幅器144の入力に接続され、信号前置増幅器144の機能は、後続の電力増幅器段146への入力の駆動にとって許容できるレベルに信号を増幅することである。前置増幅器144は、電力増幅器段146を駆動するために必要な10dBから40dBの間の利得を与えてもよい。前置増幅器144は、単一の小型マイクロ波集積回路(miniature microwave integrated circuit)(MMIC)、複数のMMIC、MMICと単品部品との組合せ、または複数の単品部品の形態のものがあってもよい。MMIC装置は単品部品にとって好ましい。なぜなら、これらの装置は通常、より多くの利得を生み出すためであり、したがって、単品部品のカスケード接続の代わりに単一のMMICを用いてもよい。これは、空間(大きさ)の最小化および熱の放散の点で有利である。たとえば、トライクイント社の半導体装置TGA8658−EPU−SGを用いることができる。前置増幅器において用いられる好ましい装置技術はガリウム砒素(GaAs)技術であるが、実現性のある代替案を提供し得る他の台頭しつつある技術、たとえば窒化ガリウム(GaN)または高電子移動度トランジスタ(HEMT)がある。
【0105】
前置増幅器144からの出力は入力を電力増幅器146に供給し、電力増幅器146の機能は、治療装置の放射アンテナ構造を供給するために必要なレベルに信号を昇圧することである。
【0106】
電力増幅器146からの出力は、3dBパワースプリッタ148のネットワークに供給される。パワースプリッタ148は、機器のそれぞれの層112上にマイクロストリップ構造として作製されることができる。図6に示されるように、電力分割ネットワークは、電力増幅器からの信号を16個の給電装置A1〜A16に分ける15個のパワースプリッタSP1〜SP15を備え、16個の給電装置A1〜A16の各々は、次の層113におけるそれぞれの増幅器150に接続される。したがって、この実施例では、増幅器ネットワークは単一の供給源から給電される。
【0107】
16個の増幅器150の各々は、その出力が導電放射パッチまたはアンテナ154を駆動するように配置される。16個の増幅器150は、この目的で駆動信号S1〜S16を生成する。増幅器150は各々、33dBm(2W)の1dB圧縮点において電力を生成し、16dBの利得を有し、41GHzから46GHzの間の周波数範囲で動作することができる。好適な装置として、トライクイント社の半導体装置TGA4046−EPUがある。
【0108】
信号S1〜S16は、隣接するパッチが互いに直交して放射を放出するように8つの層116上の導電放射パッチ154に供給される。
【0109】
治療中の組織の領域のインピーダンスのばらつきを調整するように電磁場全体が集束(操縦)され得るように、放射パッチの各々に供給されたマイクロ波電力を独立して制御することが望ましいであろう。この独立した制御は、第5の層114に取付けられた信号制御装置152によって行なわれる。図7に示されるように、各信号制御装置は、フロント順方向方向性結合器156と、移相器(たとえば、PINダイオードまたはバラクタダイ
オード)158と、順方向電力方向性結合器160と、反射電力方向性結合器162とを備える。結合器156、160、162は、装置を通って順方向に進むか、または信号が組織から反射されて供給源の方に戻る反対方向に進む電力を検出するように配置される。信号は、位相および/または大きさ検出器回路155を介してマイクロプロセッサ124に供給される。検出器は、位相および大きさの両方の情報を測定することが望ましいヘテロダイン受信機の形態を取る場合もあれば、大きさ情報のみを必要とするホモダイン受信機の形態を取る場合もある。大きさ情報を検出および処理することのみが必要である単純なダイオード検出器も用いてもよい。これらの信号に基づいて、マイクロプロセッサ(および/またはDSP)は、生じ得る如何なるインピーダンス不整合も計算でき、必要な制御信号を移相器158に送ることによってインピーダンス不整合を調整できる。
【0110】
換言すれば、方向性結合器156、160、162および(たとえば、ヘテロダイン、ホモダイン、もしくはダイオードタイプの)マイクロ波検出器または受信機は、順方向電力信号および反射電力信号の位相および/または大きさを測定する。次いで、これらの信号を用いて、移相器158によってエネルギ送出プロファイルを制御する。移相器(たとえば、PINまたはバラクタダイオード)が信号の位相のみを変更している間、大きさおよび位相の両方を変更し得る整合フィルタを用いることができる。
【0111】
図6は、図5の積重ねられた第5の層112、積重ねられた第6の層113、積重ねられた第7の層114、および積重ねられた第8の層116の図をそれぞれ示し、それらの層上の構成要素間の給電接続を示す。実際には、隣接する層の構成要素は互いの上にあり、明確にするために、図6はそれらの層を同心の構成で示している。
【0112】
図6に示される構成は、16個の導電パッチに分割されるマイクロ波エネルギ源のためのものである。元のマイクロ波エネルギ源を16個の別個の供給源または信号に分割するために、第5の層112には15個の1対2パワースプリッタ148(SP1〜SP15)がカスケード接続アレイで取付けられている。したがって、元の供給源は1つの第1の生成スプリッタSP1によって2つに分割され、結果として生じる2つの供給源の各々はさらに第2の生成スプリッタSP2、SP3によって2つに分割され、結果として生じるそれら4つの供給源の各々はさらに第3の生成スプリッタSP4〜SP7によって2つに分割され、最終的に、結果として生じるそれら8つの供給源の各々はさらに第4の生成スプリッタSP8〜SP15によって2つに分割される。第4の生成スプリッタSP8〜SP15からの各出力は、第6の層113における16個の増幅器150(Amp1〜Amp16)のうちのそれぞれ1つに供給される。次いで、増幅器出力は、第7の層114におけるそれぞれの信号制御装置152(C1〜C16)を介して、第8の層116におけるそれぞれの放射パッチ154(P1〜P16)に供給される。パッチ154は正方形であり、これは、放出される電磁場がほとんど2つの対向する端縁から生じることを意味している。図6では、放射端縁155は太い線によって示されているのに対して、非放射端縁153は細い線によって示されている。給電線は、隣接するパッチの放射端縁155が確実に互いに直交するようにパッチ154に接続される。これは、放射アンテナアレイのエリアにわたってもたらされる電磁場の均一性を最大にすることができ、ひいては、アンテナアレイのエリアにわたって均一な組織効果をもたらすことができる可能性を最大にする。
【0113】
実際には、図6に示される構造では給電線損失を考慮に入れる必要があり得る。特に、装置を通る好適な信号レベルを維持するために緩衝またはブースタ増幅器を含める必要があり得る。各パワースプリッタ148は典型的に、それに関連する3dBの損失を有する。45GHzでは、7dBまでの構成要素間の給電線損失が起こり得て、これは、パワースプリッタカスケード接続の各経路(マイクロストリップ線)に沿って10dBまでの全体損失に繋がるであろう。この損失は、パワースプリッタごとの前または1つおきのパワースプリッタの前に緩衝増幅器を置くことによって補償されることができる。実際の構成
は、装置について計算された電力収支に依存する。電力収支の一例について、以下の図20に関連して説明する。
【0114】
この発明の1つの重要な特徴は、エネルギ源から放射素子に電力を伝達する手段である。パッチアレイ内に含まれる各パッチアンテナにはマイクロ波エネルギを供給する必要がある。一般的に言って、並列給電および直列給電の2つの主な給電構造がある。
【0115】
並列給電は単一の入力ポートを有し、多数の給電線が並列に接続されて、出力ポートを構成する。給電線の各々は、個々の放射素子(またはパッチ)で終端する。
【0116】
直列給電は、近接結合、直接結合、プローブ結合、またはアパーチャ結合を含むさまざまな手段によって線に沿って配された個々の素子にエネルギのごく一部を累進的に結合する連続した伝送線からなる。直列給電は、給電線が整合負荷で終端する場合には進行波アレイを構成し、給電線が開回路または短絡で終端する場合には共振アレイを構成する。
【0117】
直列給電の一例は、放射伝送線または「漏洩フィーダ」であり、放射素子の組で進行波を搬送する伝送線からなっていてもよい。各素子は、総電力のうちのほんのわずかの部分を放射するであろう。そして線に沿って累進的に各素子の大きさを調整することによって、長さに対する、均一に近い電力強度が達成可能であろう。この場合、従来の非近距離場アンテナに必要であるように素子は同相ではないが、これはこの用途では重要でないはずである。この構成では、各放射素子のインピーダンスは伝送線の特性インピーダンスよりも低くしなければならず、たとえば、伝送線給電インピーダンスが50Ωであるときには放射素子のインピーダンスは12.5Ωであってもよく、そうでなければ放射パッチの第1の対によって放射される電力が過剰になり、入力における反射減衰量は劣ったものになる(不整合状態)。放射構造に沿って均一な電力を維持するために放射パッチの大きさを変えることが好ましいであろう。パッチアンテナアレイを構築するために用いることができるであろう可能な材料は、シェルダール社製のノバクラッド(NovaClad)、タコニック社(Taconic)製の薄い銅覆PTFE/ガラス、またはロジャース・コーポレーション社製のR/Flex液晶ポリマー回路材料である。
【0118】
並列給電も直列給電も、放射素子を有する共平面導波路としてまたは別個の伝送線層において実現されることができる。パッチと同じ平面に置かれた給電線は放射し、放射パッチが放出する放射と干渉する可能性がある。これは、給電線が制御された伝送線であり、放射が放射パッチから強制的に行なわれる場合には、問題ではないかもしれない。この問題はまた、給電線の上方に放射パッチを吊り下げることによって克服され得る。たとえば、共平面導波路給電サスペンド型パッチアンテナアレイが作製されてもよい。
【0119】
パッチアレイ用の給電構造を設計する際、(典型的には動作周波数の関数である)導体および誘電体損失、ならびに湾曲部、接合部および遷移部などの不連続部に起因するスプリアス放射も考慮すべきである。これらの損失は、給電装置の挿入損失全体を構成し、各放射パッチに送出され得る最大可能電力を検討する際の重要な決定要因である。これらの給電構造の設計において、給電線の劣化を最小限にするために、たとえば200Ωの実現可能な高特性インピーダンス給電線が用いられてもよい。挿入損失または給電線損失および最適化の複雑さを低減するために、分周器段の数を最小限に抑えるべきである。
【0120】
図8および図9(a)、図9(b)および図9(c)は、スロット付きアンテナ構成に基づく皮膚治療装置を示す。図8では、給電線に沿ってスロットの幅が広くなっている。これは、同じ量のマイクロ波エネルギが各スロットから放出されることを確実にする定評のある方法であり、皮下治療または皮膚の若返りもしくはリサーフェシングのための実現性のある用途を提供する。この構造は、接地面に形成された(たとえば、切込まれた)ス
ロットのアレイを備える。基板層上にマイクロストリップ線が作製され、それによって、線(図8では図示せず)がスロットを横断する。この構造の利点は、基板の上に給電線を作製することが比較的容易であることである。スロットの大きさ(長さ)とマイクロ波エネルギ給電装置(供給源)からスロットまでの距離との間の関係が通常線形ではないので、スロットの間隔およびスロットの大きさの点で構造を最適化するために電磁場シミュレーションツールが用いられる。伝送線の端部付近での電力低減を考慮に入れるために、理論的には見られる遠位スロット(供給源から最も遠く離れたスロット)の長さを長くする必要があることがわかった。反復的な態様で構成を最適化するために経験的実験も用いてもよい。
【0121】
図8における装置200は、供給源発振器202を含み、供給源発振器202は、本明細書に記載する離散周波数、たとえば14.5GHz、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、または94GHzのうちのいずれかまたはいくつかで動作するVCO、DRO、ガンダイオード、SAW装置、または周波数合成器のうちのいずれかであり得る。供給源発振器202からの出力は、増幅器ラインアップを含む給電構造を介して、8つのスロット付きアンテナ215のアレイに供給される。供給源発振器202からの出力は、第1に、一次および二次3dBスプリッタ206、208によって4つの信号に分けられる前に、一次増幅器204によって増幅される。これらの信号の各々は、三次3dBスプリッタ212によって2つに分けられる前に、二次増幅器210によって増幅される。結果として生じる8つの信号の各々は、それぞれのスロット付きアンテナ215に供給される前に、三次増幅器214によって再び増幅される。
【0122】
図8に示されるように、各アンテナ215は、中にスロット218が形成された接地された導電層216を有する。各スロットから放出されたエネルギが同じであるように、およびスロットの集合からの電磁場が均一であるように、スロット218の幅はアンテナ215の長さに沿って広くなっている。スロットの寸法は、電磁場シミュレーションを用いることによって決定されてもよい。
【0123】
スロット付きアンテナの構造は、図9(a)、図9(b)および図9(c)に示される代替的な構成を参照してさらに理解でき、図9(a)、図9(b)および図9(c)では、代替的なスロット付きアンテナ構造220のさまざまな図が与えられている。図9(a)は、複数のマイクロストリップ給電線222が誘電体基板224上に作製された上面図を示す。各線には、上述のように、増幅器ラインアップからマイクロ波電力信号が供給される。
【0124】
図9(b)は、装置の底部(皮膚に面する)面を示す。ここでは、接地された導電層226は誘電体基板224上に作製される。(便宜上等しい幅を有するように示される)スロット228が、接地された導電層226および誘電体基板層224に形成されて、マイクロストリップ給電線222の一部を露出させる。この構造は、スロット228が放射素子の役割を果たすように設計される。スロットの大きさは、動作周波数での放射の波長に応じて選択される。実際の値は、電磁場シミュレーションから得られてもよい。誘電体基板224の厚みは、1波長よりもはるかに少ないように選択される。図9(c)は、アンテナ220の側面図を示す。
【0125】
マイクロストリップ線222は好ましくは、最大E場または最大H場をスロットを通して組織に放射できるように設置される。したがって、スロットの長さは波長の約半分である。高いマイクロ波周波数(たとえば、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、または94GHz)が用いられる場合、スロットは互いに近接して位置決めされることができ、したがって、マイクロ波放射による浸透深さが限定された状態で、アプリケータの表面全体にわたって均一なエネルギを発生させるための必要な条件を提供する。
【0126】
図10は、この発明において用いることができる給電構造の具体的な例を示し、直列に接続された複数の放射パッチ37を給電するために共同の(並列な)給電装置35が用いられてもよい。この構成について以下で詳細に説明する。非常に大きなアレイの場合、放射素子の各々まで走っている給電線の長さはひどく長い場合があり、その結果、挿入損失が許容できないほどに高くなる。たとえば、45GHzでは、ほんの数センチメートルの長さで挿入損失が数dBになり得る可能性がある。有効な対称的な共同給電アレイを設計する際に、以下のステップを取らなければならない。
【0127】
1) 結合構造の適切な寸法決めを通じてまたは4分の1波変圧器を用いることによって、放射パッチを確実に給電線に整合させる。
【0128】
2) 必要であれば4分の1波変圧器によって入力線に整合されるT−接合に、隣接する素子からの給電線の各対を確実に接続させる。
【0129】
3) 給電線をアレイの給電ポイントに接続する最後の段階に到達するまで繰返す。
図10に示される共同給電構成では、放射パッチ18は、端縁において200Ωの入力インピーダンスを有し、特性インピーダンスが200Ωである給電線45に接続される。隣接する素子からの給電線45は、T−接合を用いて接合され、140Ωの4分の1波変圧器44を用いて、(特性インピーダンスが200Ωである)単一の供給線43に戻るように変圧される。対象の周波数で波長の4分の1の奇数倍に対応する長さを有する(すなわち、その長さは(2n−1)λL/4であり、ここで、λLは負荷波長であり、nは整数である)変圧器も、線が損失のないものであると仮定すると、同じ変圧を行なうことになる。短波長では、4分の1波長よりも大きな長さを有する、すなわち4分の1波長の奇数倍に等しい長さを有する線を用いることが実際には必要であるかもしれない。伝送線が確実にインピーダンス変圧器の役割を果たすようにするために、誘電材料の特性は安定していなければならない。λ/4よりも長い、すなわち3/4λまたは5/4λなどの変圧器が用いられる場合、この特徴は特に重要である。なぜなら、所望の4分の1電気波長は、そうでなければ、望ましくない電気的長さに修正されるためであり、たとえば、最悪の場合には、それは電気的波長の2分の1の倍数になる可能性があり、変圧を全く行なわない可能性がある。次のステップにおいて、供給線の隣接する対は次いで別のT−接合において接合され、そこでは、140Ωの4分の1波変圧器42によって、さらなる単一の供給線41(特性インピーダンスは200Ωである)に戻るように同様に変圧される。このプロセスは、さらなる供給線41の対が最後のT−接合において接合されるように繰返される。最終の変圧は、71Ωの4分の1波変圧器40を用いて、2つの200Ω線の並列の組合せ(すなわち、100Ω)を、アレイ全体を給電するために用いられるエネルギ源38からの入力線39(特性インピーダンス=50Ω)と整合させる。インピーダンス整合は、式、すなわちZtrans=√(ZinZout)を用いて計算され、今回の場合、最後の接合では√(50×100)=71Ωに対応する。
【0130】
図11および図12は、この発明において用いることができる給電構造の別の具体的な例を示す。ここで、(治療ゾーンの大きさに応じて、8、16、32、64、128などの番号が付けられている)パッチのアレイは、各パッチが単一のMMIC増幅器によって給電されるように配置される。図11は、この構成の斜視図を示し、図11では、複数の電力増幅器48が装置の上層52上に取付けられている。複数の電力増幅器48は、安定周波数エネルギ源(図示せず)から入力信号50を受信するように配置される。それらの出力信号は、たとえば低損失伝送線を用いて同軸コネクタ54(たとえば、SMAコネクタ)に供給され、同軸コネクタ54の外部導体は接地された導電面(図示せず)に接続され、内部導体46は導電放射パッチ18(ここではスーパーストレート22上に示されている)である。図12は、この接続の断面図をより詳細に示す。各パッチ18は、それに
関連付けられる同軸コネクタ54を有する。各同軸コネクタ54の外部導体は導電接地面14で終端するのに対して、内部導体46は面を貫通し、基板層16を通ってそれぞれのパッチ18に達している。放射素子とは別個の層上に増幅器を位置付けることによって、共同給電ネットワーク(伝送線など)は同様に、放射パッチを含む層以外の層上にエッチングされることができる。これによって、給電構造と放射パッチとの間の如何なる干渉も最小限にすることができる。優れた設計実践のために、構造全体が組織と接触するときでさえ給電線を放射パッチと同じ側に作製することが可能であるが、給電線とパッチとが隔てられた状態を保つことが好ましい。放射パッチと組織との間に空間を設けるという発想はまた、給電線が放射パッチアンテナと同じ側にある実施例では望ましい。高周波数、たとえばSHFまたはEHF放射が用いられるときに発生し得る給電線損失を補償するために、緩衝増幅器またはブースタ増幅器が給電構造に、たとえば図5に示される第5の層112における1つ以上のパワースプリッタの間に含まれる。
【0131】
トライクイント・セミコンダクター社は、この発明において電力増幅器として用いるのに好適な装置を製造している。特に、トライクイント社のTGA4505−EPU部品は、27GHzから31GHzの間の帯域幅にわたる動作に用いることができ、圧縮(1dB圧縮ポイント)の点で36dBm(4W)までの電力レベルを生成することができ、23dBの利得を与えることができる。これらのMMICチップの寸法は、約2.8mm×2.2mm×0.1mmである。1つの装置を用いて4つのパッチを給電し、給電線の長さを非常に短く保つ場合、1Wまでの電力レベルが各パッチから放射され得る。最近になって、45GHzまでで機能する増幅器(たとえば、トライクイント社のTGA4046−EPU)が利用可能になってきた。これらの部品は、2Wまでの電力を提供できる。ミリ波技術およびテラヘルツシステムの近年の進歩および関心のために、関連する小さな浸透深さを有する高いマイクロ波およびミリ波周波数でのエネルギがより容易に利用可能になっており、そのため、これらの装置を用いて組織内で高い局所的なエネルギ密度を生成することが可能になる。
【0132】
図13は、この発明の実施例において用いられ得る4W発電機のための増幅器ラインアップを概略的に示す。このラインアップは好適な周波数源51を備え、周波数源51は、単一のまたは複数の温度補償水晶発振器基準を用いる閉ループ位相ロック誘電体共振器発振器(DRO)、または温度補償開ループDROであってもよい。ガンダイオード発振器または電圧制御発振器(VCO)などの他の周波数源を用いることができ、発振器の選択は、用いられている周波数に依存する。周波数源の出力52は、25dBmの1dB圧縮ポイントを有する前置増幅器47(ここでは、トライクイント社のTGA4902−EPU−SM装置)に供給される安定周波数信号を表わす。一般的に、モノリシックマイクロ波集積回路(monolithic microwave integrated circuit)(MMIC)が前置増幅器として用いるのに好適である。約20GHzまでの周波数では、ガリウム砒素(GaAs)ベースのMMICが好ましい。これを超えて100GHzまでの周波数では、高電子移動度トランジスタ(HEMT)ベースのMMICまたはメタモルフィックHEMTを用いることができる。たとえば、31GHzおよび45GHzの動作に好適なMMICは、それぞれ、トライクイント社のTGA4902−EPU−SMおよびTGA4042−EPU部品である。前置増幅器の出力は、電力増幅器48(ここでは、トライクイント社のTGA4505−EPU MMIC装置)に供給される。約20GHzまでの周波数では、ガリウム砒素(GaAs)もしくは窒化ガリウム(GaN)トランジスタまたはMMIC装置が電力増幅器として用いるのに好適である。これを超えて100GHzまでの周波数では、高電子移動度トランジスタ(HEMT)ベースの装置を用いることが好ましいであろう。31GHzおよび45GHzの動作に好適なパワーMMICの例は、それぞれ、トライクイント社のTGA4505−EPUおよびTGA4046−EPU部品である。
【0133】
典型的に、周波数源からの電力レベルは、−10dBmから+15dBmの範囲内であ
り、用いられる供給源発振器のタイプに依存し、それ自体は所望の動作周波数によって支配される。たとえば、典型的なDRO発振器は、−5dBmから+5dBmの範囲内の電力を生成してもよい。周波数源51によって提供される電力レベル出力が−5dBmであり、前置増幅器47の利得が約18dBである場合、電力増幅器48に入力される電力レベルは13dBmである。電力増幅器48の利得は約23dBであり、そのため、出力56における電力レベルは36dBm(4W)である。インピーダンス整合共同給電構造57(上記の図10の説明を参照)は、4つの放射パッチ18を励起するために出力56を個々のマイクロ波電源に分割する。
【0134】
図13は、単一の供給源発振器51の後に単一の前置増幅器47、および共同分配ネットワーク57を給電する単一の電力増幅器48が続く構成を示す。共同給電ネットワークを用いる他の分配構成も可能である。図14は、単一の供給源発振器51および単一の前置増幅器47の後にパワースプリッタ62が続く構成を示し、パワースプリッタ62は複数の電力増幅器48に入力を与え、複数の電力増幅器48の各々は、単一の放射パッチ18を給電する。図15は、別個の供給源発振器51および電力増幅器48が放射パッチごとに設けられる構成を示す。
【0135】
図15において、各パッチに入力される電力は、各パッチの同じ(すなわち、並列の)端縁64が放射するように配置される。しかしながら、放射された電磁場の均一性をさらに改善するために、隣接するパッチの放射端縁64が互いに直交するように入力給電装置を配置することが望ましい。図16は、各放射パッチ18を給電するための別個の供給源発振器51および電力増幅器48を示し、図16では、隣接するパッチの交互の端縁に給電装置が設けられて、直交する端縁64が放射するようにし、それによって、より均一な電磁場分布を確実にし、これは均一な組織効果に繋がり得る。換言すれば、パッチアレイは、縁をなす電磁場を生成する際に支配的であるパッチの2つの端縁が隣接するパッチ間で交互になるような態様で設置される。したがって、図16において、隣接するパッチは直交して給電され、各給電線は、出力される電磁場が同相であり、皮膚の表面にわたって均一な電磁場を生成するように設計される。
【0136】
上で説明したように、たとえば、アンテナ構造を確実に生物組織の特徴とインピーダンス整合させ、皮膚組織内の電磁場が確実に均一になるように、電磁場モデリングを用いて装置が最適化される。給電構造はまた、アンソフト(Ansoft)HFSS、フロメリックス・マイクロストリップス(Flomerics Microstripes)またはCSTマイクロ波スタジオ(登録商標)などのマイクロ波シミュレーションツールを用いてモデリングされることができる。
【0137】
電磁場モデリングは、パッチに対する給電線の位置を決定する際に役立つ。たとえば、給電線の位置は、給電インピーダンスまたは放射パッチによって見られるインピーダンスを決定する。ワイヤまたはピンがパッチの裏に接続され、ワイヤまたはピンが基板または誘電体層を通して挿入される同軸給電パッチの場合、パッチのエリアに対するピンの位置は、給電インピーダンスを決定する。反射される電力のレベルを最小限にするために給電線を確実にアンテナと整合させることが重要である。パッチ上の給電装置の位置はまた、放射するパッチの2つの端縁を決定する。したがって、隣接するパッチが直交場を放射することが望ましい場合、パッチのエリアに対する給電線の位置はこのパターンを決定する。
【0138】
図17は、図16に示される構成の実際の実施例を示す。16個の導電パッチ18が4×4のアレイで基板層16上に取付けられる。マイクロ波エネルギはエネルギ源給電コネクタ12から送出され、マイクロ波エネルギは、エネルギ源給電コネクタ12から、複数の伝送線70、72、74、76、78を備える共同給電構造を介して、各パッチに送出
される。給電コネクタ12からの一次給電線70は2本の二次給電線72に分割され、その各々は2本の三次給電線74に分割され、その各々は2本の四次給電線76に分割され、その各々は2本の五次給電線78に分割され(合計16本を与える)、その各々は放射パッチ18に接続される。伝送線は、互いに直交する端縁64において隣接するパッチが給電される(すなわち、それぞれの五次給電線を接続させる)ように配置される。給電構造はまた、上述のようにインピーダンス整合される。
【0139】
上述のように、電磁場を分散させることによって組織効果の均一性を増大させ、たとえば金属製放射パッチアレイと人間の組織との間に使い捨ての要素を提供するために、放射パッチと皮膚の表面との間に位置するスーパーストレート層、たとえば誘電体カバーを用いることができる。この層はまた、放射パッチアレイと皮膚の表面とをある程度熱的に分離させてもよい。コスト面の理由で、上記カバーが使い捨てのアイテムとしてパッチアンテナアレイ一式を有するのではなく、上記カバーが使い捨てのアイテムであることが望ましい。したがって、スーパーストレートは残りの装置から取外し可能であり、訓練を受けていない医療関係者がスーパーストレートを容易に装着できる。たとえば、スーパーストレートは所定の場所にスナップ式に装着されてもよい。空隙がインピーダンス不整合状態を引起すのを防ぐために密な嵌め合いを有することが望ましい。使用中に所定の位置にスーパーストレートを固定するために、ロッキング機構、たとえば装置の端縁の周りのクリップが用いられてもよい。
【0140】
上述のものの代替案は、パリレンCまたはテフロン(登録商標)などの生体適合性材料を用いてパッチアンテナアレイアプリケータに対して適合したコーティングを提供するであろう。この場合、装置全体が使い捨てのアイテムを形成するであろう。なお、誘電体カバーは、パッチアンテナアレイを設計する際に考慮に入れなければならない程度までパッチアンテナアレイアプリケータの性能に影響を及ぼす。一般的に言って、誘電体カバーは共振周波数を低下させることになる。したがって、パッチは、選択の動作周波数よりもわずかに高い周波数で共振するように設計されるべきである。パッチアレイが上記誘電体カバーで被覆される場合、変化する特性として、基板材料の有効誘電率、損失、Q係数、および指向性利得がある。パッチアレイが動作している通常でない環境を想定して、Q係数および指向性利得は、パッチアレイが従来の環境で、すなわち、レーダシステムの一部としてまたは見通し線通信リンクにおいて動作している場合に考慮されるであろう態様と同じ態様で考慮される必要はないはずである。カバーに起因する有効誘電率の変化は最大の課題を提示することになり、変化の量は、基板材料の厚みおよび比誘電率によって支配される。また、被覆層が存在することによって、アンテナアレイが生成する放射パターンの変化が生じる。
【0141】
スーパーストレート層が一様な電磁場分布または均一な組織効果を確実にすることを助けることも注目に値する。誘電率および損失係数(1/Qまたはtanδ)を正しく選択することによって、電磁場の均一性を高めることが可能であり得る。異なる誘電特性を有する複数の材料からスーパーストレート層を形成して、個々の放射アンテナが生成する波を異なる量だけ減速させることができることが好ましいであろう。材料は表面積にわたって変化し得て、さまざまな材料の厚み(深さ)は変化し得る。この特徴によって、アプリケータ(アンテナ)アレイの表面にわたって生み出される電磁場の均一性が高められ得る。
【0142】
上述のように、この発明の皮膚治療装置は、エネルギ源から電力を受取る。エネルギ源は、供給源発振器、たとえば電圧制御発振器(VCO)または誘電体共振器発振器(DRO)を含む。15GHzを上回る周波数では、DROが好ましい。VCOは一般に、典型的に15GHzまでの周波数に限定されるLC同調回路を用いる。用いることができるであろう他の装置として、ガンダイオード発振器および弾性表面波(Surface Acoustic Wav
e)(SAW)発振器がある。安定した単一の動作周波数を維持するために、閉ループ位相ロックDROまたは温度補償開ループDROを用いることが好ましいであろう。また、供給源発振器が異なる周波数で動作する状態で個々の放射パッチまたは放射パッチの群を駆動することが好ましいであろう。すなわち、複数の供給源発振器が用いられてもよく、各々の個々の発振器が異なる周波数を出力して、放射パッチの群を給電する。周波数合成器を用いて、複数の一定の(安定した)周波数を生成することが好ましいであろう。上述の1つの実施例は、半導体パワーデバイスが容易に利用可能である14.5GHzの動作周波数に基づいている。大きさ(装置が治療し得る表面積)は、0.5cm2未満から10cm2よりも大きな大きさの間で変化し得る。図18は、治療表面積が約8cm×9cmであるパッチアンテナアレイの縮尺図を示し、図18では、各パッチの大きさおよび分離は、14.5GHzで電磁場を湿った皮膚に放射するのに好適であるように計算される。他の実施例は、より高い周波数(たとえば、24GHz、31GHz、45GHz、60GHz、77GHz、94GHz、またはそれより高い周波数)で動作するように設計されることができ、これは、より高密度のアレイを形成でき、かつ、より小さな放射浸透深さを達成できるという利点を提供する。より高い周波数(たとえば、45GHzまたはそれを上回る周波数)では、エネルギ源(たとえば電力増幅器)は、給電線損失をさらに低減または最小限にするために、放射素子(放射パッチ)に直接接続されてもよい。より高い周波数では、より低い浸透深さが達成可能である。図19は、治療表面積が約6.5cm×6.5cmであるパッチアンテナアレイの縮尺図を示し、図19では、各パッチの大きさおよび分離は、31GHzで電磁場を湿った皮膚に放射するのに好適であるように計算される。各パッチは一般に、約λL/2の距離だけ隣接するパッチから隔てられており、ここで、λLは負荷波長である。したがって、周波数が増大するにつれて分離距離は低減される。実際には、間隙の大きさは、コンピュータシミュレーションツールを用いて正確に計算されて、放射された電磁場の均一性および組織効果を最適化する。
【0143】
図20は、第5の層112のパワースプリッタネットワークの別の図を示す。図20におけるネットワークは、(給電線損失などにかかわらず)信号振幅が確実に好適なレベルに留まるようにして、第6の層113における増幅器150を駆動するために、パワースプリッタ間の選択された位置に位置する緩衝増幅器164、166を有する。図20における給電構造の電力収支について以下で説明する。
【0144】
パワースプリッタ148のネットワークへの入力の前に、(9dBの利得および28dBmの1dB圧縮電力定格を有する)電力増幅器146は、前置増幅器144からの電力を16dBmから25dBmまで増大させる。次いで、このレベルは、3dBスプリッタSP1および推定挿入損失が7dBである給電線を用いて2つの等しい部分に分割され、これは、16dBの利得を有する第1の緩衝増幅器164の各々への入力において15dBmの入力電力を与える。したがって、第1の緩衝増幅器164は31dBmの出力電力を生成する。トライクイント社製のTGA4046−EPU構成要素は、第1の緩衝増幅器として用いることができる。第1の緩衝増幅器164からの出力は3dBスプリッタSP2およびSP3を用いて分割され、給電線損失を考慮に入れて、21dBmの電力レベルで4つの釣り合いの取れた出力を提供する。これらの出力電力はさらに3dBスプリッタSP4〜SP7を用いて分割されて、11dBmの8つの釣り合いの取れた出力を与える。これらの出力電力は次いで、16dBの利得を有する第2の緩衝増幅器166(たとえば、トライクイント・セミコンダクター社製のTGA4046−EPU装置)で増幅される。したがって、各緩衝増幅器166からの出力電力は27dBmであり、これらの出力の各々を用いて、8つのパワースプリッタSP8〜SP15のそれぞれ1つを給電する。
【0145】
給電線損失を考慮に入れて、8つのスプリッタSP8〜SP15の各々の2つの分割された部分の各々からの出力電力は17dBmである。これらの出力は、第7の層113における16個の電力増幅器150(Amp1〜Amp16)の入力ポートに供給される。それ
らの出力は放射パッチ(図示せず)に直接接続される。ここで用いられる装置は、利得が16dBであり圧縮電力が33dBmであるトライクイント社のTGA4046−EPU構成要素である。このように、この構成は、したがって、16個の放射パッチの各々に33dBm(2W)を駆動することができて、さまざまな所望の組織効果をもたらす。
【0146】
要望があれば、2つのパワースプリッタSP2、SP3の群と4つのパワースプリッタSP4〜SP7との間に追加の緩衝増幅器を含めることができるであろう。その場合、緩衝増幅器はより低い利得を有していてもよい。
【0147】
周波数範囲のより高い端部、たとえば45GHz、60GHzまたはそれより高い周波数で機能するときに用いられ得るアプリケータまたはアンテナアレイのさらなる実施について以下で記載する。これらの周波数では、共平面導波路給電サスペンド型パッチアンテナアレイ構造が好ましいであろう。これらの代替的な構造は、共平面導波路給電線と、適切な給電ポストと、正方形または長方形の放射パッチとからなっていてもよい。共平面導波路構造は、接地面と信号線とを同じ面上に有しており、したがって、放射パッチが給電ポストで支持されるときに、共平面導波路構造の接地面を放射パッチのための接地面として用いることができ、すなわち、放射パッチの裏面と接地面との間の空気が誘電体基板を形成する。共平面導波路構造は、高い誘電率を有する誘電材料または基板上に取付けられることができ、放射パッチアンテナは空気の層上に位置する。放射パッチが空気中で金属ポスト(または、金属化プラスチック支持体)で支持されるので、誘電損失がなく、したがって、放射パッチアンテナの性能は、誘電材料が放射パッチアンテナと接地面との間に挟まれる従来のマイクロストリップベースのアンテナ構造のものよりも優れている可能性がある。
【0148】
以下で説明する構造は、前に記載した同軸給電構成と類似しており、ワイヤまたはピンが放射パッチに接続され、上記ピンが誘電体基板材料を通して給電されて、たとえばマイクロ波コネクタが放射パッチに直接接続される直接接続方法を用いて電気的接続を行なうことができる。
【0149】
提案される共平面導波路アンテナ構造のための給電ポストは、信号線および放射パッチアンテナのための機械的な支持体の役割を同時に果たす。給電ポストの場所を注意深く選択することによって、パッチアンテナについて所望の入力インピーダンスを選択することが可能である。このインピーダンスは好ましくは、4分の1波インピーダンス変圧器を用いる必要なく、給電線を放射パッチアンテナと直接整合させることができるように選択される。
【0150】
図21(a)は、単一の放射パッチアンテナ402が給電ポスト404を介して給電される共平面導波路構造400を示す。共平面導波路は、接地面408の対から隔てられた単一の導体406から形成され、接地面408の対はすべて同じ側にあり、誘電材料410の第1の面に取付けられている。この構成では、単一の導体が誘電体の第1の面に接続され、接地面が上記誘電体の第2の面に接続されるマイクロストリップ構造と比較して、誘電体410に入る電磁場がはるかに少ない。
【0151】
誘電体の厚みは、電磁場が外界に到達するまで、すなわち、電磁場が誘電材料の第2の面に到達して、空気中に伝播するまで、電磁場が実質的に低減されることを保証するのに十分に大きくてもよい。
【0152】
図21(b)は、図21(a)における構造の変形例401を示す。この構成では、誘電材料の第2の面は、さらなる接地面を形成する導体412で完全に被覆されている。この構造は、接地面共平面導波路または接地された共平面導波路構造として知られている。
従来のマイクロストリップ給電構造に勝る、これらの共平面導波路給電構造を用いることの利点は、マイクロストリップ構造の場合のように、接続する共平面導波路が接地面における寄生性の不連続部を必然的に伴わないという事実のために100GHzまでおよび100GHzを超える周波数で動作できることであり、動作周波数が増大するにつれて寄生素子の影響はより広く行き渡ることになる。
【0153】
図21(a)および図21(b)は、単一の給電ポストを用いて共平面導波路給電構造に電気的および物理的に接続された放射パッチアンテナを示す。放射パッチを支持するために複数のポストが用いられてもよい。放射パッチと接地面との間にポストが接続される場合、ポストのために用いられる材料は望ましくは低損失誘電材料である。代替的に、接地面と放射パッチアンテナとの間のポストとして4分の1波スタブが用いられてもよく、ポストはマイクロ波信号に対して電気的に透過性があるように位置決めされてもよい。ポストの長さは典型的には1mm未満、たとえば0.3mmであり、そのため、微細加工技術を用いてこの構造を作製することは現実的である。
【0154】
図22(a)は、給電ポスト504を用いて共平面導波路給電構造の上方に吊り下げられた単一の放射パッチアンテナ502のための構成500を示す。構成500は、接地面506が誘電材料508の第1の面上にのみ存在する従来の共平面導波路構造を用いる。
【0155】
図22(b)は、8つの放射パッチアンテナ502のアレイ510を示し、一端が放射パッチアンテナに接続され、他端が共平面導波路構造に接続された状態の別個の給電ポスト504を用いて各放射パッチアンテナ502が給電される。
【0156】
図23は、16個の放射パッチアンテナ602のアレイが各々、給電ポスト606を用いて共平面導波路構造の信号線604に接続されるこの発明のこの局面の別の実施例を示す。図23において、放射パッチアンテナ602は隣接する対に分けられ、各対は、それぞれ、単一の共平面導波路給電線を用いてまとめられる。この実施例では、各放射パッチアンテナ602の入力インピーダンスは100Ωである。したがって、信号線604が100Ωの特性インピーダンスを有する場合、エネルギをこの構造に供給する線の中心点608は50Ω、すなわち、並列に接続された2つの100Ωインピーダンスの組合せである。この構成は、4分の1波変圧器を用いて、放射パッチアンテナの入力インピーダンスを、通常50Ωである供給源または発電機の出力インピーダンスに変圧することが不要であるという点で、有利であり得る。
【0157】
各信号線604の中心点608は、平面マイクロストリップ線610の一端に接続される。マイクロストリップ線610の特性インピーダンスは50Ωである。マイクロストリップ線610の他端は対にグループ化され、マイクロストリップ線の各対は、パワースプリッタ612の出力ポートに接続される。パワースプリッタ612は、入力ポートおよび2つの出力ポートが50Ωのマイクロストリップ線を受入れるように設計された3dBパワースプリッタである。ドロップインマイクロストリップ結合器を用いることができる。3dB結合器を用いることの利点は、入力ポートに入射する入力電力が2つの部分に等しく分割されて、各放射パッチアンテナ602が等しい量のマイクロ波エネルギを生成できることである。各パワースプリッタ612の入力ポートは、一次マイクロストリップ線614の一端に接続される。一次マイクロストリップ線614の特性インピーダンスは50Ωである。一次マイクロストリップ線614の他端は対にグループ化され、各対は一次パワースプリッタ616の出力ポートに接続される。一次パワースプリッタ616は、入力ポートおよび2つの出力ポートが50Ωのマイクロストリップ線を受入れるように設計された3dBパワースプリッタである。各一次パワースプリッタ616の入力ポートは、それぞれ、電力増幅器618の出力に接続される。電力増幅器618は好ましくは、HEMT装置技術、たとえばメタモルフィックHEMT技術(MHEMT)に基づいており、1
つのユニットに集積されて所望の組織効果をもたらすのに必要な必要電力レベルを提供する単一の装置または個々のHEMT装置のアレイであってもよい。各電力増幅器618の入力は、周波数源発振器620の出力に接続される。周波数源発振器620はガンダイオード発振器または誘電体共振器発振器であってもよいが、選択の周波数で信号を生成できる他の装置が用いられてもよい。
【0158】
この構造の中にインピーダンス変圧器がないので、パッチアンテナアレイは、接合部における望まない放射をもたらし得る不連続部を発生させる線のステップの変化の数または変圧が行なわれるステップの数が最小限であるように設計されることができる。
【0159】
隣接する放射パッチアンテナは、0.8λに等しい距離だけ隔てられ、ここで、λは選択の周波数である。
【0160】
追加の支持ポストを用いてアンテナを支持する場合、追加のポストを放射パッチのE−場の中心に置き、接地面に接続することが好ましいであろう。理想的には、追加のポストは放射アンテナの性能に影響を及ぼさない。
【0161】
放射パッチの端縁の長さが動作周波数で2分の1波長であることが好ましい。放射パッチ下の電場は、第1の放射端縁において最大であり、中央においてゼロであり、第2の放射端縁において再び最大である。電場が放射パッチの中央においてゼロであるので、放射パッチ下の電磁場分布を乱すことなく支持ポストまたは短絡壁をこれらの場所に立てることができる。共平面導波路構造において接地面が信号線の付近に位置しているので、電場を導くことがより容易である。マイクロストリップ伝送線の場合、線のインピーダンスは基板特性に大きく依存し、高いマイクロ波周波数、特にミリ波範囲内であるように規定される周波数でいくつかのマイクロ波誘電材料上で安定した線を実現することが困難である可能性がある。しかしながら、共平面導波路構造の場合、信号線の幅および信号線と接地面との間の間隙を調整できる。
【0162】
上記の技術はまた、より低いマイクロ波周波数で用いられてもよいが、欠点は、隣接するパッチ間の間隙が大きくなり、生成される全体的な電磁場パターンが均一でない可能性があり、したがって、組織効果の均一性も下がる可能性があることである。
【0163】
放射パッチアンテナを給電線に接続するために用いられる給電ポスト(または支持体)は好ましくは可撓性であって、治療中の組織、すなわち皮膚の表面とアンテナアレイを適合させることができる。この特徴を実現するために、金属材料でコーティングされるかまたは金属材料を含浸させることができる可撓性プラスチック材料を利用して、共平面導波路構造内で放射アンテナと給電線との間に導電性接触を形成することが望ましいであろう。上記の導電性コーティングまたは層の厚みが動作周波数で少なくとも5つの皮膚深さに等しくなるようにして、マイクロ波エネルギの大半を給電線から放射パッチアンテナまで運ぶことができることが好ましい。この発明を実現するための対象の周波数において、一般的な導体タイプ、たとえば銅(Cu)または銀(Ag)が用いられる場合、厚みは約1μmになる。これは、可撓性の給電ポストを形成するために用いられる非導電性材料の可撓性が損なわれないことを暗に示している。皮膚の表面に適合する構造を製作する能力は、この発明に対してさらなる特徴を提供し得る。
【0164】
なお、この説明の中で前に説明したものなどの共同給電ネットワークまたは平面給電ネットワークの別の実施例を用いて給電される放射パッチを吊り下げて、治療中の人の特定の身体部位の皮膚の表面に適合または適用可能な放射アンテナ素子のアレイを製作する能力を利用することも好ましいであろう。平面構造を用いる構成では、信号線として誘電材料の同じ面上に放射パッチのための接地面を有するという発想を用いることは不可能であ
り得て、したがって、第1のピンを用いて信号線を接続し、第2のピン(または、複数の追加のピン)を用いて放射マイクロストリップパッチの接地面をマイクロストリップベースの給電線構造に接続する同軸給電構成を検討する必要があるであろう。
【0165】
サスペンド型アンテナアレイの発想は、生物治療組織(今回の場合、皮膚の表面)と直接接触する従来の平面給電線構造が引起す給電線構造の加熱および放射パッチにおいて利用可能なエネルギの低減に関連する問題を克服できる。
【0166】
放射パッチアンテナによって生成される伝導熱に皮膚の表面が確実に晒されないようにし、均一な組織効果をもたらすことを手助けするように、サスペンド型放射パッチの各々は、生体適合性の材料でコーティングされる場合もあれば、そこに取り付けられた放射材料のブロックを有する場合もある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための装置であって、
治療すべき皮膚の領域上に位置付けるための治療面と、
前記治療面上の複数の放射素子と、
マイクロ波エネルギを前記放射素子に送出するように配置された給電構造とを有し、
前記放射素子は、前記治療面において、電磁場として、送出されたマイクロ波エネルギを外向きに放出するように構成され、その結果、治療中、放出された電磁場は、予め定められた深さまで前記治療すべき皮膚の領域に浸透するように配置された均一な電磁場分布を有する、装置。
【請求項2】
マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための装置であって、
治療すべき皮膚の領域上に位置付けるための治療面と、
前記治療面上の複数の放射素子と、
マイクロ波エネルギを前記放射素子に送出するように配置された給電構造とを有し、
前記給電構造は、複数の電源を含み、各電源は1つ以上の前記放射素子に関連付けられ、それによって、前記放射素子は、前記治療面において、電磁場として、送出されたマイクロ波エネルギを外向きに放出するように構成され、その結果、治療中、放出された電磁場は、予め定められた深さまで前記治療すべき皮膚の領域に浸透するように配置された均一な電磁場分布を有する、装置。
【請求項3】
各電源は独立して制御可能である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
各電源は、電力増幅器と、前記増幅器によって送出された電力を検出するように配置された監視ユニットとを含み、前記電力増幅器に供給された電力は、前記監視ユニットによって検出された送出された電力に基づいて制御される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記監視ユニットは、反射して前記電力増幅器に戻る電力を検出するように配置され、前記電力増幅器に供給された電力は、前記監視ユニットによって検出された反射された電力に基づいてさらに制御される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
各電源は、各放射素子のインピーダンスを治療すべき皮膚組織のインピーダンスに整合させることによって、前記監視ユニットによって検出された情報に基づいて、前記電力増幅器に供給された電力を制御するように配置された動的インピーダンス整合ユニットを含む、請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
前記複数の放射素子は、誘電体基板層の外向きの面上にあり、接地された導電層は、前記外向きの面とは反対側の前記誘電体基板層の面上に形成され、前記給電構造は、前記複数の放射素子に交流を送出するように配置され、前記接地された導電層は、前記交流のための戻り経路を提供するように配置される、請求項1から6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
各放射素子は、前記誘電体基板層の前記外向きの面上に取付けられた導電パッチを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
各導電パッチは、長方形であり、基本(TM10)モードで前記電磁場を放出するように構成される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記給電構造は、単一の安定マイクロ波周波数エネルギ源と、単一の供給源から前記複数の放射素子にエネルギを搬送するための伝送線のネットワークとを含み、ネットワーク伝送線は、前記単一の供給源からの出力を複数の入力に分けるように配置された複数のパ
ワースプリッタを含み、各入力は、それぞれの放射素子のためのものである、請求項7から9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記伝送線は、前記接地された導電層と前記放射素子との間の前記誘電体基板層に挟まれる、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
同軸接続は、各放射素子および前記接地された導電層を伝送線に接続する、請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記給電構造は共平面導波路を含み、前記複数の放射素子の各々は、導電性給電ポストによって前記共平面導波路から吊り下げられる、請求項1から6のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記給電構造は、隣接する放射素子によって放出された電磁場を互いに直交させるように配置される、請求項1から13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記治療面、放射素子および給電構造は、前記治療すべき皮膚の領域に適合する可撓性シート上に形成される、請求項1から14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記治療面と前記治療すべき皮膚の領域との間に位置付けるための被覆部を含み、前記被覆部は、前記放射素子からの前記電磁場を前記組織に分散させるための低損失材料からなる、請求項1から15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記被覆部は、使い捨ておよび/または生体適合性である、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記治療面は、0.5cm2から10cm2の面積を有する、請求項1から17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記予め定められた浸透深さは、0.05mmから5mmである、請求項1から18のいずれかに記載の装置。
【請求項20】
前記放射素子によって放出されたマイクロ波電磁場は、前記治療すべき皮膚の領域を45℃またはそれ以上の温度に実質的に瞬間的に加熱するように配置される、請求項1から19のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
前記マイクロ波エネルギは、10GHz以上の周波数を有する、請求項1から20のいずれかに記載の装置。
【請求項22】
マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための機器であって、
安定した出力周波数を有するマイクロ波放射の供給源と、
前記マイクロ波放射の供給源に接続された、請求項1から21のいずれかに記載の装置と、
前記マイクロ波放射によって治療すべき組織に送出されたエネルギの量を制御するように配置されたコントローラとを含む、機器。
【請求項23】
マイクロ波エネルギが治療面下方の組織に影響を及ぼしながら表面における組織を変化のないままにするように、前記マイクロ波エネルギを加えている間に前記治療面を冷却するように配置された冷却装置を含む、請求項22に記載の機器。
【請求項24】
前記冷却装置は、ペルティエ冷却器または冷却剤もしくはフリーザ噴霧器である、請求
項23に記載の機器。
【請求項25】
マイクロ波放射で皮膚組織を治療する方法であって、
複数の放射素子をその上に有する治療面で、治療すべき皮膚の領域を被覆するステップと、
安定した出力周波数を有するマイクロ波放射の供給源を前記放射素子に接続し、それによって、前記放射素子は、予め定められた深さまで前記治療すべき皮膚の領域に浸透するマイクロ波電磁場を放出するステップと、
前記マイクロ波放射によって前記治療すべき皮膚の領域に送出されたエネルギの量を制御するステップとを含む、方法。
【請求項1】
マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための装置であって、
治療すべき皮膚の領域上に位置付けるための治療面と、
前記治療面上の複数の放射素子と、
マイクロ波エネルギを前記放射素子に送出するように配置された給電構造とを有し、
前記放射素子は、前記治療面において、電磁場として、送出されたマイクロ波エネルギを外向きに放出するように構成され、その結果、治療中、放出された電磁場は、予め定められた深さまで前記治療すべき皮膚の領域に浸透するように配置された均一な電磁場分布を有する、装置。
【請求項2】
マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための装置であって、
治療すべき皮膚の領域上に位置付けるための治療面と、
前記治療面上の複数の放射素子と、
マイクロ波エネルギを前記放射素子に送出するように配置された給電構造とを有し、
前記給電構造は、複数の電源を含み、各電源は1つ以上の前記放射素子に関連付けられ、それによって、前記放射素子は、前記治療面において、電磁場として、送出されたマイクロ波エネルギを外向きに放出するように構成され、その結果、治療中、放出された電磁場は、予め定められた深さまで前記治療すべき皮膚の領域に浸透するように配置された均一な電磁場分布を有する、装置。
【請求項3】
各電源は独立して制御可能である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
各電源は、電力増幅器と、前記増幅器によって送出された電力を検出するように配置された監視ユニットとを含み、前記電力増幅器に供給された電力は、前記監視ユニットによって検出された送出された電力に基づいて制御される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記監視ユニットは、反射して前記電力増幅器に戻る電力を検出するように配置され、前記電力増幅器に供給された電力は、前記監視ユニットによって検出された反射された電力に基づいてさらに制御される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
各電源は、各放射素子のインピーダンスを治療すべき皮膚組織のインピーダンスに整合させることによって、前記監視ユニットによって検出された情報に基づいて、前記電力増幅器に供給された電力を制御するように配置された動的インピーダンス整合ユニットを含む、請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
前記複数の放射素子は、誘電体基板層の外向きの面上にあり、接地された導電層は、前記外向きの面とは反対側の前記誘電体基板層の面上に形成され、前記給電構造は、前記複数の放射素子に交流を送出するように配置され、前記接地された導電層は、前記交流のための戻り経路を提供するように配置される、請求項1から6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
各放射素子は、前記誘電体基板層の前記外向きの面上に取付けられた導電パッチを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
各導電パッチは、長方形であり、基本(TM10)モードで前記電磁場を放出するように構成される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記給電構造は、単一の安定マイクロ波周波数エネルギ源と、単一の供給源から前記複数の放射素子にエネルギを搬送するための伝送線のネットワークとを含み、ネットワーク伝送線は、前記単一の供給源からの出力を複数の入力に分けるように配置された複数のパ
ワースプリッタを含み、各入力は、それぞれの放射素子のためのものである、請求項7から9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記伝送線は、前記接地された導電層と前記放射素子との間の前記誘電体基板層に挟まれる、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
同軸接続は、各放射素子および前記接地された導電層を伝送線に接続する、請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記給電構造は共平面導波路を含み、前記複数の放射素子の各々は、導電性給電ポストによって前記共平面導波路から吊り下げられる、請求項1から6のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記給電構造は、隣接する放射素子によって放出された電磁場を互いに直交させるように配置される、請求項1から13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記治療面、放射素子および給電構造は、前記治療すべき皮膚の領域に適合する可撓性シート上に形成される、請求項1から14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記治療面と前記治療すべき皮膚の領域との間に位置付けるための被覆部を含み、前記被覆部は、前記放射素子からの前記電磁場を前記組織に分散させるための低損失材料からなる、請求項1から15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記被覆部は、使い捨ておよび/または生体適合性である、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記治療面は、0.5cm2から10cm2の面積を有する、請求項1から17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記予め定められた浸透深さは、0.05mmから5mmである、請求項1から18のいずれかに記載の装置。
【請求項20】
前記放射素子によって放出されたマイクロ波電磁場は、前記治療すべき皮膚の領域を45℃またはそれ以上の温度に実質的に瞬間的に加熱するように配置される、請求項1から19のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
前記マイクロ波エネルギは、10GHz以上の周波数を有する、請求項1から20のいずれかに記載の装置。
【請求項22】
マイクロ波放射で皮膚組織を治療するための機器であって、
安定した出力周波数を有するマイクロ波放射の供給源と、
前記マイクロ波放射の供給源に接続された、請求項1から21のいずれかに記載の装置と、
前記マイクロ波放射によって治療すべき組織に送出されたエネルギの量を制御するように配置されたコントローラとを含む、機器。
【請求項23】
マイクロ波エネルギが治療面下方の組織に影響を及ぼしながら表面における組織を変化のないままにするように、前記マイクロ波エネルギを加えている間に前記治療面を冷却するように配置された冷却装置を含む、請求項22に記載の機器。
【請求項24】
前記冷却装置は、ペルティエ冷却器または冷却剤もしくはフリーザ噴霧器である、請求
項23に記載の機器。
【請求項25】
マイクロ波放射で皮膚組織を治療する方法であって、
複数の放射素子をその上に有する治療面で、治療すべき皮膚の領域を被覆するステップと、
安定した出力周波数を有するマイクロ波放射の供給源を前記放射素子に接続し、それによって、前記放射素子は、予め定められた深さまで前記治療すべき皮膚の領域に浸透するマイクロ波電磁場を放出するステップと、
前記マイクロ波放射によって前記治療すべき皮膚の領域に送出されたエネルギの量を制御するステップとを含む、方法。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図2(a)】
【図2(b)−2(c)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図9(c)】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21(a)】
【図21(b)】
【図22(a)】
【図22(b)】
【図23】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図2(a)】
【図2(b)−2(c)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図9(c)】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21(a)】
【図21(b)】
【図22(a)】
【図22(b)】
【図23】
【公表番号】特表2010−511459(P2010−511459A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539802(P2009−539802)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004660
【国際公開番号】WO2008/068485
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(509160557)バンガー・ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】BANGOR UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004660
【国際公開番号】WO2008/068485
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(509160557)バンガー・ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】BANGOR UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
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