説明

ハイブリッド偏光子

【課題】本発明の目的は、従来の吸収型の有機偏光子と同程度の偏光特性を有しつつ、耐光性を備え、しかも取扱い容易なハイブリッド偏光子を安価に提供することにある。
【解決手段】少なくとも1枚の吸収型の有機偏光子と、少なくとも1枚の反射型の無機偏光子との複合体であるハイブリッド偏光子であって、該ハイブリッド偏光子を構成する少なくとも光入射側部分が、前記無機偏光子であり、記無機偏光子は、表面の少なくとも一方向に周期的な凹凸を有する透明非晶質基板上に、高屈折率透光材料の第1層と低屈折率透光材料の第2層からなる所定の総膜厚をもつ1ユニットの複層膜を、多数ユニット積層して多層構造体を形成してなる、いわゆるフォトニック結晶タイプの偏光子であることを特徴とするハイブリッド偏光子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、液晶プロジェクタ、液晶表示装置等の偏光を利用した光学機器に用いられ、入射光のある特定方向の直線偏波成分のみを透過させる機能を有する偏光子であって、吸収型の偏光子と反射型の偏光子との複合体であるハイブリッド偏光子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光子は、複数の偏光を含む光から特定方向の直線偏光を取り出すための光学素子であり、各種の構成、形態のものが広く利用されている。特に、液晶表示技術の分野では、小型化、軽量化、高輝度化等の技術革新が進み、各種用途に偏光子を用いた液晶表示装置が急速に普及している。
【0003】
一般的に用いられる偏光子としては、例えば、特許文献1に示されているような、ヨウ素や染料系等の高分子フィルムからなる有機偏光子が挙げられる。前記偏光子のような、光を吸収することで特定方向の直線偏光を取り出す有機偏光子を、吸収型の有機偏光子と呼ぶ。しかし、吸収型の有機偏光子は偏光子としての性能は高いものの、特定方向の直線偏光以外の光を吸収するため、紫外線等の短波長の光に対しての耐性(耐光性)が低く、現在の小型化・高輝度化を実現する装置において、高密度の光による偏光子の性能の劣化が問題となっている。加えて、光束密度の大きな光を偏光子に入射すると、蓄熱し、偏光子が変形する等の耐熱性の問題もある。
【0004】
上記問題を解決する方法としては、特許文献2及び特許文献3に示されるように、耐光性の高い無機偏光子を用いる方法が挙げられる。特許文献2の方法は、ガラス基板の中に細線状の金属(ワイヤ)を一方向に規則的に配列した構造を有するワイヤグリッド型の偏光子を用いる方法であり、特許文献3の方法は、高屈折率透光材料の第1層と低屈折率透光材料の第2層からなる1ユニットの複層膜を多数ユニット積層した多層構造体のいわゆるフォトニック結晶タイプの偏光子を用いる方法である。特定方向の直線偏光のみを透過し、他の光は反射させる無機偏光子を反射型の無機偏光子と呼ぶ。
【0005】
しかし、反射型無機偏光子は耐光性については効果を有するものの、現時点では、偏光子としての性能は吸収型の有機偏光子に比べ、概して低い。また、前記ワイヤーグリッドタイプ偏光子は、ワイヤの太さや間隔等を高精度で制御して作製する必要があり、技術的に困難な上に工程数が多くなるため、製造コストが高騰する。さらに、前記フォトニック結晶タイプの偏光子についても、偏光の動作波長帯域を広げるには、前記複層膜を多く積層させる必要があり、多層構造体全体としての総膜厚・総層数が増すため、製造コストが高騰するといった問題がある。
【0006】
また、上記問題を解決する別の方法として、特許文献4に示されるように、前記ワイヤーグリッドタイプの偏光子と吸収型の有機偏光子の複合体であるハイブリッド偏光子(図1)を用いる方法が挙げられる。前記ハイブリッド偏光子を用いることで、耐光性の高いワイヤーグリッドタイプ偏光子を光の入射側に、吸収型の有機偏光子を光の出射側に配設することで、偏光性能が高く、耐光性にも優れた偏光子の提供が可能となった。
【0007】
しかし、特許文献4記載のハイブリッド偏光子は、上記したように製造プロセスが煩雑なため製造コストの低減が困難であり、また、前記ワイヤーグリッドタイプ偏光子の表面はAl等の金属からなる薄い壁が複数立っているような形状であるため、小さな衝撃に対しても壊れ易く、取扱いにくいという欠点がある。
【0008】
そのため、偏光性能が高く、耐光性に優れ、しかも取扱いが容易な偏光子の提供が望まれている。
【特許文献1】特開2001−228332号公報
【特許文献2】米国特許第6108131号公報
【特許文献3】国際公開第2004/113974号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2001/055778号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来の吸収型の有機偏光子と同程度の偏光特性を有しつつ、耐光性を備え、しかも取扱い容易なハイブリッド偏光子を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)少なくとも1枚の吸収型の有機偏光子と、少なくとも1枚の反射型の無機偏光子との複合体であるハイブリッド偏光子であって、該ハイブリッド偏光子を構成する少なくとも光入射側部分が、前記無機偏光子であり、前記無機偏光子は、表面の少なくとも一方向に周期的な凹凸を有する透明非晶質基板上に、高屈折率透光材料の第1層と低屈折率透光材料の第2層からなる所定の総膜厚をもつ1ユニットの複層膜を、多数ユニット積層して多層構造体を形成してなる、いわゆるフォトニック結晶タイプの偏光子であることを特徴とするハイブリッド偏光子。
【0011】
(2)前記複合体は、それを構成する偏光子同士が、複合一体化されてなる上記(1)記載のハイブリッド偏光子。
【0012】
(3)前記複合体は、それを構成する偏光子同士が、所定の間隔をおいた離隔配置状態で位置決めされてなる上記(1)記載のハイブリッド偏光子。
【0013】
(4)前記ハイブリッド偏光子の使用波長帯域が、590nm以下であることを特徴とする上記(1)、(2)または(3)記載のハイブリッド偏光子。
【0014】
(5)前記有機偏光子の使用波長帯域は、前記無機偏光子の使用波長帯域に含まれることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項記載のハイブリッド偏光子。
【0015】
(6)前記ハイブリッド偏光子中の無機偏光子は、フォトニック結晶単体の偏光子に比べて、複層膜のユニット数が少ない上記(1)〜(5)のいずれか1項記載のハイブリッド偏光子。
【0016】
(7)前記有機偏光子は、アゾ系染料、スチルベン系染料、アントラキノン系染料、フタロシアニン系染料またはこれらの合成材料を含有する上記(1)〜(6)のいずれか1項記載のハイブリッド偏光子。
【0017】
(8)前記無機偏光子の高屈折率透光材料が、Nb2O5、TiO2、Ta2O5、Al2O5、HfO2またはこれらの合成材料からなり、前記低屈折率透光材料が、SiO2、MgF2またはこれらの合成材料からなる上記(1)〜(7)のいずれか1項記載のハイブリッド偏光子。
【0018】
(9)特定の単色光を生成するための手段と、上記(1)〜(8)のいずれか1項記載の偏光子とを具える直線偏光生成装置。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、少なくとも1枚の吸収型の有機偏光子と、少なくとも1枚の反射型の無機偏光子との複合体であるハイブリッド偏光子において、該ハイブリッド偏光子を構成する少なくとも光入射側部分を、前記無機偏光子にすることで、吸収型の有機偏光子と同程度の偏光特性を有しつつ、耐光性を確保することが可能となり、前記無機偏光子として、表面の少なくとも一方向に周期的な凹凸を有する透明非晶質基板上に高屈折率透光材料の第1層と低屈折率透光材料の第2層からなる所定の総膜厚をもつ1ユニットの複層膜を多数ユニット積層して多層構造体を形成してなる、いわゆるフォトニック結晶タイプの偏光子を用いることで、特許文献4記載のハイブリッド偏光子よりも取扱いが容易なハイブリッド偏光子を安価に提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の構成と限定理由を説明する。
本発明に従う偏光子は、図2に示すように、少なくとも1枚の吸収型の有機偏光子と、少なくとも1枚の反射型の無機偏光子との複合体であるハイブリッド偏光子であって、該ハイブリッド偏光子を構成する少なくとも光入射側部分が、前記無機偏光子であり、前記無機偏光子は、表面の少なくとも一方向に周期的な凹凸を有する透明非晶質基板上に、高屈折率透光材料の第1層と低屈折率透光材料の第2層からなる所定の総膜厚をもつ1ユニットの複層膜を、多数ユニット積層して多層構造体を形成してなる、いわゆるフォトニック結晶タイプの偏光子であることを特徴とするハイブリッド偏光子である。
【0021】
(有機偏光子)
本発明における吸収型の有機偏光子としては、材料及び形状のいずれも特に限定されるものではないが、耐熱性及び耐光性の点から、ヨウ素系よりも染料系の吸収型の有機偏光子を用いることが好ましい。さらに、2色性が大きく、染料性がよい等の理由から、アゾ系染料、スチルベン系染料、アントラキノン系染料、フタロシアニン系染料またはこれらの合成材料を含有することがより好適である。
【0022】
(無機偏光子)
本発明における反射型の無機偏光子としては、表面の少なくとも一方向に周期的な凹凸を有する透明非晶質基板上に、高屈折率透光材料の第1層と低屈折率透光材料の第2層からなる所定の総膜厚をもつ1ユニットの複層膜を、多数ユニット積層して多層構造体を形成してなる、いわゆるフォトニック結晶タイプの偏光子である。
【0023】
本発明者らは、従来のワイヤーグリッドタイプの偏光子と吸収型の有機偏光子の複合体であるハイブリッド偏光子は、良好な耐光性及び偏光性能を有するものの、製造コストが高く、取扱いが難しいという問題についての原因及び解決策について鋭意研究を行った。
その結果、反射型無機偏光子としてワイヤーグリッドタイプ偏光子を用いた場合、図1で示すような、偏光子の表面にAl等の金属からなる薄い壁が複数立っているような微細構造体13を有するため、強度が弱く、取扱いが容易でないこと、また、製造プロセスが煩雑なため製造コストの低減が困難となることが判明した。そして発明者は、さらに検討を重ねた結果、前記反射型無機偏光子としてフォトニック結晶タイプの偏光子を用いることで、良好な耐光性及び偏光性能を維持しつつ、しかも取扱い容易な偏光子を安価に作製できることを見出した。
【0024】
前記フォトニック結晶タイプの偏光子とは、図3に示すように、表面の少なくとも一方向に周期的な凹凸を有する透明非晶質基板32上に、高屈折率透光材料の第1層33と低屈折率透光材料の第2層34からなる所定の総膜厚をもつ1ユニットの複層膜35を、多数ユニット積層して第1多層構造体36を形成してなる偏光子である。
【0025】
また、ハイブリッド偏光子中の前記無機偏光子は、フォトニック結晶単体の偏光子に比べて、前記複層膜35のユニット数を少なくすることが好ましい。本発明における無機偏光子の役目は、吸収型有機偏光子に到達する光の量、特に有機偏光子を劣化させる短波長の光量を減少させることであるため、通常の偏光子のように広い波長域に対応できるように前記複層膜35のユニットを積層させる必要がなく、複層膜35のユニット数が少なくなれば、それだけコスト的に有利となるからである。
【0026】
さらに、前記無機偏光子の高屈折率透光材料が、Nb2O5、TiO2、Ta2O5、Al2O5、HfO2またはこれらの合成材料からなり、前記低屈折率透光材料が、SiO2、MgF2またはこれらの合成材料からなることが好ましい。上記材料を用いれば、十分な耐熱性を確保でき、光学的な損失の少ない無機偏光子を、低コストで作製することが可能となるためである。また、前記無機偏光子の透明非晶質基板材料としては、例えば、石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスまたはサファイアガラス等を用いることができる。
【0027】
(ハイブリッド偏光子)
本発明に従うハイブリッド偏光子は、少なくとも1枚の前記吸収型の有機偏光子と、少なくとも1枚の前記フォトニック結晶タイプの無機偏光子との複合体であり、前記ハイブリッド偏光子を構成する少なくとも光入射側部分が、前記無機偏光子であることを特徴とする偏光子である。
【0028】
本発明におけるハイブリッド偏光子は、入射光、特に590nm以下の短波長入射光の吸収による有機偏光子の劣化を防止するために製造された偏光子であり、前記無機偏光子23を光の入射側部分に配設することで、光出射側に位置する前記有機偏光子22に到達する光量を減少させることにより耐光性を向上させることができる。
【0029】
前記本発明によるハイブリッド偏光子は、例えば、図2(a)に示すように、凹凸を有する非晶質透明基板24上に、界面での反射損失を低減させるための反射コーティング25を形成し、その上に、偏光子部分26を配設し、その上に、界面での反射損失を低減させるための低反射コーティング27と、物理的・化学的作用から偏光子を保護するためのオーバーコート28を形成した無機偏光子を光入射側とし、この裏面である光出射側に前記吸収型の有機偏光子22を配設することにより構成される。本発明に従うハイブリッド偏光子の表面の凹凸高さHは、従来のワイヤーグリッドタイプ偏光子を用いたハイブリッド偏光子の表面の凹凸高さに比べて低く、かつ波型形状で適度なスロープを持つため、物理的強度が大きい。
【0030】
また、別形態として、図2(b)に示すように、前記無機偏光子23と前記吸収型有機偏光子22を、直接貼り合わせずに所定の間隔をおいた離隔状態で位置決め配置することもできる。このような配置にすることで、前記無機偏光子と有機偏光子の界面での、熱膨張率の差に起因する応力の発生を抑えることができる点で有効な手段であり、加えて、放熱効果も高まるため、耐熱性の点でも有利である。なお、各偏光子を離隔状態で配設する場合には、空間の距離を光の波長に対して十分大きくする必要がある。光の干渉による透過率のばらつきを抑えるためである。各偏光子を離隔状態で配設する手段としては、例えば、各偏光子の側面を固定することができるガイドを設け、各偏光子の透過軸(偏光子を最もよく透過する偏光の方向)を揃えるように配設する構成にすればよい。
【0031】
なお、本発明によるハイブリッド偏光子の使用波長帯域は、590nm以下であることが好ましい。吸収型の有機偏光子22の光による劣化は、特に590nm以下の緑色光や青色光や紫外線のような短波長の光の影響が大きく、上記波長の光について光量を減少させることができれば、耐光性が発揮されるためである。また、使用波長帯域が限定されれば、前記フォトニック結晶タイプの偏光子23の前記複層膜の積層数を減らすことができるため、コスト的にも有利となるためである。さらにまた、前記使用波長帯域を530nm以下の青色光に限定することで、前記複層膜の積層数をより少なくすることができる。
【0032】
さらに、前記有機偏光子の使用波長帯域は、前記無機偏光子の使用波長帯域に含まれることが好ましい。有機と無機の2枚の偏光子を、それぞれの使用波長帯域を揃えずに組み合わせた場合、ハイブリッド偏光子として本来使用したい領域において光の透過率が低下したり、使用帯域が狭くなる恐れがあるからである。また、前記無機偏光子の使用帯域を有機偏光子よりも広く取るのは、前記有機偏光子の使用波長帯域を前記無機偏光子よりも大きくした場合、前記無機偏光子の使用波長帯域から外れた光は、光量が減少することなく前記有機偏光子に到達するため該有機偏光子を劣化させる恐れがあるからである。ただし、シャープカットフィルタ等により、偏光子入射前に所定波長帯域の光がカットされている場合には、前記有機偏光子の使用波長帯域が前記無機偏光子の使用波長帯域に含まれていなくてもよい。
【0033】
また、本発明では、特定の色光を生成するための手段と、上記した本発明における偏光子とを具える直線偏光生成装置を製造することが可能である。特定の色光を生成するための手段とは、例えば、色光が青色の場合は、水銀ランプと特定のフィルタとで構成すればよい。直線偏光生成装置は、直線偏光を作り出す装置であれば特に限定するものではなく、例えば、プロジェクタや液晶テレビ等が挙げられる。
【0034】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明に従う偏光子を試作し、性能を評価した。
(実施例1)
実施例1は、ゾルゲルナノインプリント法により周期190nmの概三角形状の溝を形成したソーダライムガラス基板上に、スパッタリング装置を用いて、高屈折透光材料(屈折率2.45)であるNb2O5からなる第1層と、低屈折透光材料(屈折率1.48)であるSiO2からなる第2層とを、スパッタ及びイオンエッチングを施すことにより交互に形成した、フォトニック結晶タイプの無機偏光子を作製した後、入射側と出射側の両面に反射損失を低減させるため、Nb2O5とSiO2からなる低反射コーティングを施した。作成したフォトニック結晶タイプの偏光子の光学特性は図4のようになる。その後、前記無機偏光子の光出射側(裏面側)に、図5の光学特性を有する市販の偏光フィルム(吸収型の有機偏光子)をアクリル系接着剤で接着することにより、本発明によるハイブリッド偏光子を作製した。
ここで、図4及び図5のTE透過率は、フォトニック結晶偏光子の溝方向と偏光方向が平行な光の透過率を表すものであり、TM透過率は、フォトニック結晶偏光子の溝方向と偏光方向が垂直な光の透過率を表すものである。
【0036】
(実施例2)
実施例2は、偏光フィルムとフォトニック結晶タイプの偏光子を接着せず、各偏光子の側面を固定することができるガイドを設け、1.5mm程度の離隔状態で配設すること以外は、実施例1と同様の方法でハイブリッド偏光子を作製した。
【0037】
(比較例1)
比較例1は、市販のプロジェクタ(SONY製:商品名「VPL−CX86」)中の有機フィルムを用いた。
【0038】
(比較例2)
比較例2は、市販のワイヤーグリッドタイプの偏光子(エドモンドオプティクスジャパン製:商品コード「47102−H」)を、フォトニック結晶タイプの偏光子の代わりに用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によりハイブリッド偏光子を作製した。
【0039】
上記実施例及び比較例で作製した各偏光子について各種試験を行った。本実施例で行った試験の評価方法を以下に示す。
【0040】
(評価方法)
(1)偏光特性
上記で作製した各偏光子の、波長400nm〜500nmにおける、TE透過率、TM透過率及びコントラスト(TM透過率/TE透過率)の計測を行った。計測結果を表1に示す。
【0041】
(2)耐光性
上記で作製した各偏光子に500Wの高圧水銀ランプからの光を100時間照射し、各偏光子の耐光性を評価した。評価基準は、偏光子の光出射側の表面を観察し、表面退色の有無に従って評価した。評価結果を表1に示す。
○:退色なし
×:退色あり
【0042】
(3)取扱い容易性
上記実施例1及び比較例2で作製した偏光子の、それぞれの外観から強度及び取扱い易さを定性的に判断した。実施例1で作製された偏光子及び比較例2で作製された偏光子の、それぞれの外観写真を、図6及び図7に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果から、実施例1及び2並びに比較例1及び2は、同程度のコントラストを有しており、偏光子としての性能に変わりがないことがわかる。また、実施例1、2及び比較例2が比較例1よりも、耐光性についての効果を有していることがわかる。さらに、図6及び図7の観察から、実施例1のフォトニック結晶タイプの無機偏光子を用いたハイブリッド偏光子は、外観上、比較例2のワイヤーグリッドタイプの無機偏光子を用いたハイブリッド偏光子よりも取扱い易い形状を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、少なくとも1枚の吸収型の有機偏光子と、少なくとも1枚の反射型の無機偏光子との複合体であるハイブリッド偏光子であって、該ハイブリッド偏光子を構成する少なくとも光入射側部分が、前記無機偏光子であり、前記無機偏光子は、表面の少なくとも一方向に周期的な凹凸を有する透明非晶質基板上に、高屈折率透光材料の第1層と低屈折率透光材料の第2層からなる所定の総膜厚をもつ1ユニットの複層膜を、多数ユニット積層して多層構造体を形成してなる、いわゆるフォトニック結晶タイプの偏光子であることを特徴とすることで、従来の吸収型の有機偏光子と同程度の偏光特性を有しつつ、耐光性を備え、しかも取扱い容易なハイブリッド偏光子を安価に提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】ワイヤーグリッドタイプの無機偏光子と有機偏光子の複合体である、従来のハイブリッド偏光子を示す断面図である。
【図2】本発明によるハイブリッド偏光子を示す断面図である。
【図3】フォトニック結晶タイプの偏光子を示す斜視図である。
【図4】実施例に用いたフォトニック結晶タイプの偏光子の光学特性を示す図である。
【図5】実施例及び比較例に用いた有機偏光子の光学特性を示す図である。
【図6】実施例1で作成されたハイブリッド偏光子の断面及び外観を示す写真である。
【図7】比較例2で作成されたハイブリッド偏光子の断面及び外観を示す写真である。
【符号の説明】
【0047】
11 ハイブリッド偏光子
12 ワイヤーグリッドタイプ偏光子
13 微細構造体
14 基板
15 有機偏光子
16 基板
21 ハイブリッド偏光子
22 有機偏光子
23 フォトニック結晶タイプ偏光子
24 非晶質透明基板
25 低反射コーティング
26 偏光子部分
27 低反射コーティング
28 オーバーコート
31 フォトニック結晶タイプ偏光子
32 透明非晶質基板
33 第1層
34 第2層
35 複層膜
36 周期構造体
Z 光の入射方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚の吸収型の有機偏光子と、少なくとも1枚の反射型の無機偏光子との複合体であるハイブリッド偏光子であって、
該ハイブリッド偏光子を構成する少なくとも光入射側部分が、前記無機偏光子であり、
前記各無機偏光子は、表面の少なくとも一方向に周期的な凹凸を有する透明非晶質基板上に、高屈折率透光材料の第1層と低屈折率透光材料の第2層からなる所定の総膜厚をもつ1ユニットの複層膜を、多数ユニット積層して多層構造体を形成してなる、いわゆるフォトニック結晶タイプの偏光子であることを特徴とするハイブリッド偏光子。
【請求項2】
前記複合体は、それを構成する偏光子同士が、複合一体化されてなる請求項1記載のハイブリッド偏光子。
【請求項3】
前記複合体は、それを構成する偏光子同士が、所定の間隔をおいた離隔配置状態で位置決めされてなる請求項1記載のハイブリッド偏光子。
【請求項4】
前記ハイブリッド偏光子の使用波長帯域が、590nm以下であることを特徴とする請求項1、2または3記載のハイブリッド偏光子。
【請求項5】
前記有機偏光子の使用波長帯域は、前記無機偏光子の使用波長帯域に含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のハイブリッド偏光子。
【請求項6】
前記ハイブリッド偏光子中の無機偏光子は、フォトニック結晶単体の偏光子に比べて、複層膜のユニット数が少ない請求項1〜5のいずれか1項記載の偏光子。
【請求項7】
前記有機偏光子は、アゾ系染料、スチルベン系染料、アントラキノン系染料、フタロシアニン系染料またはこれらの合成材料を含有する請求項1〜6のいずれか1項記載のハイブリッド偏光子。
【請求項8】
前記無機偏光子の高屈折率透光材料が、Nb2O5、TiO2、Ta2O5、Al2O5、HfO2またはこれらの合成材料からなり、
前記低屈折率透光材料が、SiO2、MgF2またはこれらの合成材料からなる請求項1〜7記載のハイブリッド偏光子。
【請求項9】
特定の単色光を生成するための手段と、
請求項1〜7のいずれか1項記載のハイブリッド偏光子とを具える直線偏光生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−102183(P2008−102183A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282566(P2006−282566)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】