説明

ハイモビリティーグループ蛋白の吸着材、吸着方法および吸着装置

【課題】 液体中のハイモビリティー蛋白を効率よく選択的に吸着することが可能な吸着材、ならびに吸着材により液体中のハイモビリティー蛋白を除去する方法を提供する。また、液体中のハイモビリティー蛋白を除去するための吸着器を提供する。
【解決手段】 水不溶性担体にlogP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が5.0以上の化合物を固定してなるハイモビリティーグループ蛋白の吸着材を得る。このハイモビリティーグループ蛋白吸着材にハイモビリティーグループ蛋白を含有する液体を接触させることにより液体中のハイモビリティーグループ蛋白を効率よく選択的に吸着することができる。さらに、液の入口、出口を有し、かつハイモビリティーグループ蛋白吸着材の容器外への流出防止具を備えた容器内に前記吸着材を充填した吸着器により効率よく選択的にハイモビリティーグループ蛋白を吸着することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は体液よりハイモビリティーグループ蛋白(以下、「HMG蛋白」と略す)を吸着するための吸着材、これを用いたHMG蛋白の吸着方法およびHMG蛋白の吸着器に関する。
【背景技術】
【0002】
HMG蛋白は、真核細胞内に存在する一群、の非ヒストン性のDNA結合蛋白であり、HMG−1、HMG−2、HMG14、HMG17、HMG−I(Y)等が知られている(非特許文献1)。HMG蛋白は本来細胞内でDNAに結合して転写の促進や細胞の増殖などの機能に関与すると考えられてきたが、神経細胞の表面に存在して神経突起を伸張させる因子として見いだされたアンフォテリンがHMG蛋白の一つであるHMG−1であることが示され、HMG蛋白が幅広い作用を有する可能性が示されている。
【0003】
最近、このHMG−1が細胞外に分泌され、エンドトキシン血症時のショックにおける強力なメディエーターとして作用するという興味深い報告が出された(非特許文献2)。すなわち、マウスにリポポリサッカライド(LPS)を投与すると8〜24時間後に血清中のHMG−1濃度が顕著に上昇し、マウスは死に至る。精製したHMG−1自体をLPSと同時にマウスに投与した場合にも相乗的に作用して致死活性を示し、また抗HMG−1抗体を投与するとLPSによる致死作用が抑制されることから、HMG−1がエンドトキシン血症時のショックにおける重要なメディエーターであることが示された。ヒトにおいても、エンドトキシン血症患者の血中でHMG−1濃度が顕著に上昇し、特に死亡例において高いことが示された。HMG−1は、出血性ショックにおいても血中濃度の上昇が認められ(非特許文献3)、さらにはHMG蛋白に属する他の蛋白であるHMG−I(Y)も、LPS刺激により産生が誘導されることが報告されている。
【0004】
また、自己免疫性肝炎、炎症性腸疾患、全身性リウマチ性疾患などにおいては、HMG−1、HMG−2、HMG−14、HMG−17などのHMG蛋白に対する自己抗体が産生されることが認められており、HMG蛋白はこれらの炎症性疾患への関与も示唆されている(非特許文献4など)。さらには、HMG蛋白が癌の増殖に関与することも報告されている(非特許文献5)。
【0005】
このように、HMG蛋白は本来生体に必要な機能を有するものであるが、エンドトキシン血症のような病態においては細胞外に過剰に分泌されて病態悪化を引き起こし、生体を死に至らしめる物質である。このHMG蛋白により引き起こされる病態を改善するためには、例えば上述のマウスの実験に示されたように、抗体のようにHMG蛋白と結合してその作用を阻害する医薬品を投与する方法が考えられる。しかし、HMG蛋白が細胞内および細胞表面で生体に必要な機能を有することを考えると、HMG蛋白の活性を阻害する薬剤の投与は、生体に重大な副作用を引き起こす懸念がある。つまり、生体に好ましくない細胞外のHMG蛋白を、選択的に体内から除去する手段が望まれる。
【非特許文献1】吉田充輝(1993)、化学と生物 vol.31、No.10、p628
【非特許文献2】Wangら(1999)、Science vol.285、p248
【非特許文献3】Ombrellinoら(199)、Lancet vol.354、p1446
【非特許文献4】Sobajimaら(1997)、Clin.Exp.Immunol.vol.107、p135
【非特許文献5】Taguchiら(2000)、Nature vol.405、p354
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、体液中のHMG蛋白を効率よく選択的に吸着しうる吸着材、前記吸着材を用いた溶液中のHMG蛋白の吸着方法およびHMG蛋白吸着器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、体液中のHMG蛋白を効率よく吸着しうる吸着材について鋭意検討した。その結果、水不溶性担体にlogP値が5.0以上の化合物を固定してなる吸着材が体液中のHMG蛋白を効率よく吸着しうることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は水不溶性担体にlogP(Pはオクタノール−水系の分配係数)値が5.0以上の化合物を固定してなるHMG蛋白の吸着材に関する。
【0009】
好適な実施態様においては、前記水不溶性担体は水不溶性多孔質担体である。
【0010】
また本発明は、水不溶性担体にlogP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が5.0以上の化合物を固定してなる、HMG蛋白の吸着材に体液を接触させることを特徴とする、体液中のHMG蛋白の除去方法に関する。
【0011】
また本発明は、液の入口および出口を有しかつ、吸着材の容器外への流出防止手段を備えた容器内に、水不溶性体にlogP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が5.0以上の化合物を固定してなる、HMG蛋白の吸着材を充填してなるHMG蛋白の吸着器に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水不溶性担体にlogP値5.0以上の化合物を固定化した吸着材により、HMG蛋白を効率よく選択的に吸着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における体液とは、血液、血漿、血清、腹水、リンパ液、関節内液およびこれらからえられた分画成分、ならびにそのほかの生体由来の液体成分をいう。
【0014】
本発明の吸着材は、logP値が5.0以上の化合物を水不溶性担体に固定化してなる。logP値は、以下のように求められる。まず、化合物をオクタノール(もしくは水)に溶解し、これに等量の水(もしくはオクタノール)を加え、グリッフィン・フラスク・シェイカー(Griffin flask shaker)(グリッフィン・アンド・ジョージ・リミテッド(Griffin & George Ltd.)製)で30分間振盪する。そののち2000rpmで1〜2時間遠心分離し、オクタノール層および水層中の化合物の各濃度を、室温、大気圧下において分光学的またはGLCなどの種々の方法で測定することにより次式から求められる。
P=Coct/Cw
Coct:オクタノール層中の化合物濃度
Cw :水層中の化合物濃度
これまでに多くの研究者らにより種々の化合物のlogP値が実測されているが、それらの実測値はシー・ハンシュ(C.Hansch)らによって整理されている(「パーティション・コーフィシエンツ・アンド・ゼア・ユージズ;ケミカル・レビューズ(PARTITION COEFFICIENTS AND THEIR USES;Chemical Reviews)、71巻、525頁、1971年」参照)。
【0015】
また実測値の知られていない化合物についてはアール・エフ・レッカー(R.F.Rekker)がその著書「ザ・ハイドロフォビック・フラグメンタル・コンスタント(THE HYDROPHOBIC FRAGMENTAL CONSTANT)」,エルセビア・サイエンティフィック・パブリッシング・カンパニー・アムステルダム(Elsevier Sci.Pub.Com.,Amsterdam)(1977)中に示している疎水性フラグメント定数fを用いて計算した値(Σf)が参考となる。疎水性フラグメント定数は数多くのlogP実測値をもとに、統計学的処理を行い決定された種々のフラグメントの疎水性を示す値であり、化合物を構成するおのおののフラグメントのf値の和はlogP値とほぼ一致すると報告されている。
【0016】
HMG蛋白の吸着に有効な化合物の探索にあたり、5.0以上のlogP値を有する化合物を水不溶性担体に固定した結果、化合物としてヘキサデシルアミン(Σf=7.22)を水不溶性担体に固定した場合、吸着能は非常に高いことがわかった。この結果より、本発明の吸着材によるHMG蛋白吸着は、logP値が5.0以上の化合物の固定により担体上に導入された原子団とHMG蛋白とのあいだの疎水性相互作用によるものと考えられる。固定化された化合物のLogP値が高値である程良好なHMG蛋白吸着能を示すことから、固定化する化合物のLogP値は5.0以上であることが好ましく、より好ましくは7.0以上である。
【0017】
本発明において、水不溶性担体に固定化される化合物としては、logP値が5.0以上の化合物であれば特別な制限なしに用いることができる。ただし、担体上に化合物を共有結合によって結合する場合には化合物の一部が脱離することが多いが、この脱離基が化合物の疎水性に大きく寄与している場合、すなわち脱離により担体上に固定される原子団の疎水性がΣf=5.0より小さくなるような場合には本発明の主旨から考えて、本発明に用いる化合物としては不適当である。このように、担体上に固定化されることにより化合物の疎水性が大きく低減する例を一つあげると、安息香酸イソペンチルエステル(Σf=4.15)をエステル交換により水酸基を有する担体上に固定する場合があげられる。この場合実際に担体上に固定される原子団はC65CO−であり、この原子団のΣfは1以下である。このような化合物が本発明で用いる化合物として適当かどうかは、脱離基の部分を水素に置き換えた化合物のlogP値が5.0以上かどうか、または、脱離により担体上に固定される原子団の疎水性がΣf=5.0以上であるかにより判断すれば良い。
【0018】
logP値が5.0以上の化合物の中でも、不飽和炭化水素、アルコール、アミン、チオール、カルボン酸およびその誘導体、ハロゲン化物、アルデヒド、ヒドラジド、イソシアナート、グリシジルエーテルなどのオキシラン環含有化合物、ならびにハロゲン化シランなどのように担体への結合に利用できる官能基を有する化合物が好ましい。このような化合物の代表例としては、たとえばドデシルアミン、セチルアミン、オクタデシルアミン、2−アミノオクテン、ナフチルアミンなどのアミン類、n−ドデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、1−オクテン−3−オールなどのアルコール類およびこれらのアルコールのグリシジルエーテル類、ドデカン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、などのカルボン酸類およびこれらの酸ハロゲン化物、エステル、アミドなどのカルボン酸誘導体、塩化デシル、塩化ドデシルなどのハロゲン化物、ドデカンチオールなどのチオール類、n−オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシランなどのハロゲン化シラン類などがあげられる。
【0019】
これらの他にも、前記の例示化合物の炭化水素部分の水素原子がハロゲン、窒素、酸素、イオウなどのヘテロ原子を含有する置換基、他のアルキル基などで置換された化合物のうち、logP値が5.0以上の化合物、前述のシー・ハンシュ(C.Hansch)らの総説「パーティション・コーフィシエンツ・アンド・ゼア・ユージズ;ケミカル・レビューズ(PARTITION COEFFICIENTS AND THEIR USES;Chemical Reviews)、71巻、525頁、1971年」中の555ページから613ページの表に示されているlogP値が5.0以上の化合物などを用いることができるが、本発明においてはこれらのみに限定されるものではない。
【0020】
なお、これらの化合物はそれぞれ単独で用いてもよいし、任意の2種類以上を組み合わせてもよく、さらにはlogP値が5.0未満の化合物との組み合わせで用いてもよい。
【0021】
本発明の吸着材における水不溶性担体とは、常温常圧で固体であり水不溶性であることを意味する。また、本発明における水不溶性担体は粒状、板状、繊維状、中空糸状等があるが形状は問わず、その大きさもとくに限定されない。
【0022】
たとえば、本発明の吸着材が粒状である場合、平均粒子径は5μm以上、1000μm以下であることが好ましい。平均粒子径が5μmより小さいと、体液に細胞が含まれる場合に充分に通過し得る間隔を得られない傾向にある。平均粒子径が1000μmをこえると、体積あたりの吸着能が充分得られない傾向にある。細胞がスムーズに通過できる点から平均粒径は25μm以上、1000μm以下がさらに好ましく、より細胞が通過しやすくまた吸着能が得られる点から40μm以上、600μm以下が特に好ましい。特に、体液が血液である場合には、血球が通過しやすい点から平均粒径は200μm以上、1000μm以下であることが好ましく、吸着能が得られる点から200μm以上、600μm以下がさらに好ましい。また、圧力損失の増大を引き起こさないなどの理由から、粒径分布は狭い方が好ましい。
【0023】
また、本発明の吸着材が繊維状でかつ中空である場合、その内径は1μm以上、500μm以下であることが好ましい。内径が1μmより小さいと、体液に細胞が含まれる場合に充分に通過しない傾向にある。内径が500μmをこえると、体積あたりの吸着能が充分得られない傾向にある。細胞がスムーズに通過できる点から内径が2μm以上、500μm以下がさらに好ましく、より細胞が通過しやすくまた吸着能が得られる点から5μm以上、200μm以下が最も好ましい。
【0024】
本発明の吸着材における水不溶性担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストリンなどの多糖類からなる有機担体、さらにはこれらの組み合わせによってえられる有機−有機、有機−無機などの複合担体などが代表例としてあげられる。
【0025】
なかでも、親水性担体が非特異吸着が比較的少なくHMG蛋白の吸着選択性が良好であるため好ましい。ここでいう親水性担体とは、担体を構成する化合物を平板状にしたときの水の接触角が60度以下の担体を指す。水の接触角の測定方法は種々知られているが、たとえば池田がその著書(実験化学選書・コロイド化学,第4章,界面の熱力学,75頁から104頁,裳華房(1986))に示しているごとく、化合物の平板上に水滴を置き測定する方法が最も一般的である。上記の方法で測定した水の接触角が60度以下である化合物としては、セルロース、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸グラフト化ポリエチレン、ポリアクリルアミドグラフト化ポリエチレン、ガラスなどからなる担体が代表例としてあげられる。
【0026】
これらの水不溶性担体は、適当な大きさの細孔を多数有する、すなわち多孔構造を有する担体であることがより好ましい。多孔構造を有する担体とは、基礎高分子母体が微小球の凝集により1個の球状粒子を形成する際に微小球の集塊によって形成される空間(マクロポアー)を有する担体のばあいは当然であるが、基礎高分子母体を構成する1個の微小球内の核と核との集塊の間に形成される細孔を有する担体のばあい、あるいは三次元構造(高分子網目)を有する共重合体が親和性のある有機溶媒で膨潤された状態の時に存在する細孔(ミクロポアー)を有する担体のばあいも含まれる。
【0027】
また吸着材の単位体積あたりの吸着能から考えて、多孔構造を有する水不溶性担体は、表面多孔性よりも全多孔性が好ましく、また空孔容積および比表面積は、吸着性が損なわれない程度に大きいことが好ましい。
【0028】
これらの好ましい要件を満たす担体として、多孔質セルロース担体があげられる。多孔質セルロース担体は、(1)機械的強度が比較的高く、強靭であるため撹拌などの操作により破壊されたり微粉を生じたりすることが少なく、カラムに充填した場合体液を高速で流しても圧密化したりしないので高流速で流すことが可能となり、また多孔質構造が高圧蒸気滅菌などによって変化を受けにくい、(2)ゲルがセルロースで構成されているため親水性であり、リガンドの結合に利用しうる水酸基が多数存在し、非特異的吸着も少ない、(3)空孔容積を大きくしても比較的強度が高いため軟質ゲルに劣らない吸着容量がえられる、(4)安全性が合成高分子ゲル等に比べて高いなどの優れた点を有しており、本発明に用いる最も適した担体の1つである。しかしながら本発明においてはこれらのみに限定されるものではなく、さらに上述の担体はそれぞれ単独で用いてもよいし、任意の2種類以上を混合して用いてもよい。
【0029】
またこのような多孔質構造を有する水不溶性担体は、吸着対象の物質はある程度大きな確率で細孔内に侵入できるが、他の蛋白質の侵入はできる限り起こらない特徴を有することがより好ましい。すなわち本発明の吸着材の吸着対象であるHMG蛋白は分子量約5000Da以上40000Da未満の蛋白質であるため、これらの蛋白質を効率よく吸着するためにはHMG蛋白はある程度大きな確率で細孔内に侵入できるが、他の蛋白質の侵入はできる限り起こらないことがより好ましい。多孔質内に侵入可能な物質の分子量の目安としては、排除限界分子量が一般に用いられている。排除限界分子量とは成書(たとえば、波多野博行、花井俊彦著、実験高速液体クロマトグラフ、化学同人)などに述べられているごとく、ゲル浸透クロマトグラフィーにおいて細孔内に侵入できない(排除される)分子の内最も小さい分子量をもつものの分子量をいう。排除限界分子量は一般に球状蛋白質、デキストラン、ポリエチレングリコールなどについてよく調べられているが、本発明に用いる担体の場合、球状蛋白質を用いてえられた値を用いるのが適当である。本発明に用いる水不溶性多孔質担体の排除限界分子量はHMG蛋白の細孔内への侵入しやすさのから5000Da以上が好ましく、より好ましくは30000Da以上であり、HMG蛋白以外の蛋白の侵入を防ぐことを考慮すれば、さらに好ましくは30000Da以上100000Da未満である。
【0030】
さらに、担体にはリガンドの固定化反応に用いうる官能基を有していることが好ましい。これらの官能基の代表例としては水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、アミド基、エポキシ基、ハロゲン基、スクシニルイミド基、酸無水物基などがあげられるが、これらに限定されるわけではない。
【0031】
本発明に用いる担体としては硬質担体、軟質担体のいずれも用いることができるが、体外循環用の吸着材として使用する場合には、カラムに充填し、通液する際などに目詰まりを生じないことが重要であり、そのためには充分な機械的強度が要求される。したがって本発明に用いる担体は硬質担体であることがより好ましい。ここでいう硬質担体とは、たとえば粒状ゲルの場合、後記参考例に示すごとく、ゲルを円筒状カラムに均一に充填し、水性流体を流した際の圧力損失ΔPと流量の関係が0.3kg/cm2までの直線関係にあるものをいう。
【0032】
本発明の吸着材はlogP値が5.0以上の化合物を水不溶性多孔質担体に固定してえられるが、その固定化方法としては公知の種々の方法を特別な制限なしに用いることができる。しかしながら、本発明の吸着材を体外循環治療に供する場合には、滅菌時あるいは治療時においてのリガンドの脱離溶出を極力抑えることが安全上重要であり、そのためには共有結合法により固定化することが好ましい。
【0033】
本発明による吸着材を用いて体液中よりHMG蛋白を吸着する方法には種々の方法がある。最も簡便な方法としては体液を取り出してバッグなどに貯留し、これに吸着材を混合してHMG蛋白を吸着した後、吸着材を濾別してHMG蛋白が除去された体液をえる方法がある。この方法は、体液を原材料として医薬品(例:血液製剤、ワクチン、遺伝子組換製剤)又は医療材料を製造する際にも、適用することができる。次の方法は体液の入口と出口を有し、出口には体液は通過するが吸着材は通過しないフィルターを装着した容器に吸着材を充填し、これに体液を流す方法がある。いずれの方法も用いることができるが、後者の方法は操作も簡便であり、また体外循環回路に組み込むことにより患者の体液、とくに血液から効率よくオンラインでHMG蛋白を除去することが可能であり、本発明の吸着材はこの方法に適している。
【0034】
ここでいう体外循環回路では本発明の吸着材を単独で用いることもできるが、他の体外循環治療システムとの併用も可能である。併用の例としては、人工透析回路などがあげられ、透析療法との組み合わせに用いることもできる。
【0035】
つぎに、HMG蛋白吸着材を用いた本発明のHMG蛋白吸着器を、一実施例の概略断面図である図1に基づき説明する。図1中、1は液体の流入口、2は液体の流出口、3は本発明のHMG蛋白吸着材、4および5は液体および液体に含まれる成分は通過できるがHMG蛋白吸着材は通過できないフィルター、6はカラム、7はHMG蛋白吸着器である。しかしながら、HMG蛋白吸着器はこのような具体例に限定されるものではなく、液の入口、出口を有し、かつHMG蛋白吸着材の容器外への流出防止具を備えた容器内に前記吸着材を充填したものであれば、どのようなものでもよい。
【0036】
前記流出防止具には、メッシュ、不織布、綿栓などのフィルターがあげられる。また、容器の形状、材質、大きさにはとくに限定はないが、形状としては筒状容器が好ましい。容器の材質として好ましいのは耐滅菌性を有する素材であるが、具体的にはシリコンコートされたガラス、ポリプロピレン、塩化ビニール、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリメチルペンテンなどがあげられる。容器の容量は50ml以上、1500ml以下で、直径は2cm以上、20cm以下が好ましい。容器の容量が50mlより小さいと吸着量が充分でなく、1500mlより大きいと体外循環量が多くなるので好ましくない。容器の直径が2cmより小さいと線速が大きくなるため圧力損失が大きくなり好ましくない。20cmより大きいと取り扱いにくくなるうえ線速が小さくなるため凝固の危険性があり好ましくない。効果的な吸着量があり、安全性に優れているという点から容量は100ml以上、800ml以下で、直径は3cm以上、15cm以下がさらに好ましく、容量は150ml以上、400ml以下で、直径は4cm以上、10cm以下が特に好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例において本発明についてさらに詳細に述べるが、本発明は以下の実施例
のみに限定されるものではない。
【0038】
(参考例)
両端に孔径15μmのフィルターを装着したガラス製円筒カラム(内径9mm、カラム長150mm)にアガロース材料(バイオラッド(Bio−rad)社製のBiogelA−5m、粒径50〜100メッシュ)、ビニル系高分子材料(東ソー(株)製のトヨパールHW−65、粒径50〜100μm)およびセルロース材料(チッソ(株)製のセルロファインGC−700m、粒径45〜105μm)をそれぞれ均一に充
填し、ペリスタティックポンプにより水を流し、流量と圧力損失ΔPとの関係を求めた。その結果を図2に示す。図2に示すごとく、トヨパールHW−65およびセルロファインGC−700mが圧力の増加にほぼ比例して流量が増加するのに対し、BiogelA−5mは圧密化を引き起こし、圧力を増加させても流量が増加しないことがわかる。本発明においては前者のごとく、圧力損失ΔPと流量の関係が0.3kg/cm2までの直線関係にあるものを硬質材料という。
【0039】
(実施例1)
酢酸セルロースをジメチルスルホキシドとプロピレングリコールの混合溶剤に溶解し、この溶液を特開昭63−117039号公報に記載された方法(振動法)により液滴化し、凝固させて、酢酸セルロースの球形のヒドロゲル粒子を得た。このヒドロゲル粒子を水酸化ナトリウム水溶液と混和し、加水分解反応を行い、セルロースのヒドロゲル粒子(平均粒子径460μm、球状蛋白質の排除限界分子量5万)を得た。この粒子170mlに水を加えて全量340mlとしたのち、2M水酸化ナトリウム水溶液90mlを加え40℃とした。これにエピクロルヒドリン31mlを加え、40℃で攪拌下2時間反応させた。反応終了後、充分に水洗し、エポキシ化ゲルを得た。
【0040】
このエポキシ化ゲル10mlにn−ヘキサデシルアミン(Σf=7.22)200mgを加え、エタノール中、45℃で静置下、6日間反応させ、固定化した。反応終了後、エタノール、水の順に充分洗浄し、n−ヘキサデシルアミン固定化ゲルを得た。この固定化ゲルを湿潤状態で10μl計量し、これに対してヒト血清にヒトリコンビナントHMG1(Protein One社製)を加えて調製したHMG加血清60μlを加え、37℃で4時間インキュベートし、上清のHMG1とアルブミン濃度をそれぞれELISA法、ビウレット法により測定し、吸着体の代わりに生理食塩液10μlを用いた生食コントロールと比較した。なおここでHMGおよびアルブミンの吸着率は以下の式で求める。
【0041】
吸着率(%)={1−吸着後の濃度/生食コントロールにおける濃度}×100
結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
実施例1で用いた固定化前のセルロースのヒドロゲル粒子に対し、実施例1と同様にして吸着実験を行った。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
GC100m(チッソ(株)製のセルロース系多孔質硬質ゲル、球状蛋白の排除限界分子量60000)へ実施例1と同様の手順で、n−ドデシルアミン(Σf=5.10)を固定化した。このn−オクチルアミン固定化ゲルに対し、実施例1と同様にして吸着実験を行った。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例2)
n−ドデシルアミンをn−オクチルアミン(Σf=2.90)へ変えた他は実施例2と同様にして固定化ゲルを取得し、実施例1と同様にして吸着実験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
(比較例3)
n−ドデシルアミンをn−ヘキシルアミン(Σf=2.06)へ変えた他は実施例2と同様にして固定化ゲルを取得し、実施例1と同様にして吸着実験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
(比較例4)
実施例2で用いた固定化前のGC100mに対し、実施例1と同様にして吸着実験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
(比較例5)
球状蛋白の排除限界分子量70000のセルロース系多孔質ゲルへ実施例1と同様の手順でn−ブチルアミン(Σf=0.97)を固定した。このn−ブチルアミン固定化ゲルに対し、実施例1と同様にして吸着実験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例6)
比較例4で用いた固定化前のセルロース系多孔質ゲルに対し、実施例1と同様にして吸着実験を行った。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明におけるHMG蛋白吸着器の一実施例の概略断面図である。
【図2】3種類の材料を用いて流速と圧力損失との関係を調べた結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 液体の流入口
2 液体の流出口
3 HMG蛋白蛋白吸着材
4 液体および液体に含まれる成分は通過できるが前記HMG蛋白吸着材は通過できないフィルター
5 液体および液体に含まれる成分は通過できるが前記HMG蛋白吸着材は通過できないフィルター
6 カラム
7 HMG蛋白蛋白吸着器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性担体にlogP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が5.0以上の化合物を固定してなる、ハイモビリティーグループ蛋白の吸着材。
【請求項2】
logP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が5.0以上の化合物を固定化する方法が共有結合であることを特徴とする請求項1記載の吸着材。
【請求項3】
ハイモビリティーグループ蛋白がHMG1である請求項1または2記載の吸着材。
【請求項4】
該水不溶性担体が水不溶性多孔質担体であることを特徴とする請求項1乃至3記載の吸着材。
【請求項5】
該水不溶性多孔質担体の排除限界分子量が5000Da以上である請求項4記載の吸着材。
【請求項6】
水不溶性担体にlogP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が5.0以上の化合物を固定してなるハイモビリティーグループ蛋白の吸着材に体液を接触させることを特徴とする、体液中のハイモビリティーグループ蛋白の除去方法。
【請求項7】
液の入口および出口を有しかつ、吸着材の容器外への流出防止手段を備えた容器内に、水不溶性体にlogP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が5.0以上の化合物を固定してなる、ハイモビリティーグループ蛋白の吸着材を充填してなるハイモビリティーグループ蛋白の吸着器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−29511(P2007−29511A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218629(P2005−218629)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】