説明

ハッチ装置及びハッチカバーの昇降装置

【課題】ピギーバック型のハッチ装置を、より簡便な構成で実現する。
【解決手段】第1及び第2ハッチカバー6,7のリフティングアーム10を支持して、第1又は第2ハッチカバー6,7を高位置に持ち上げる昇降装置9を備えて、昇降装置9によって高位置に持ち上げられた第2ハッチカバー7の下方に、第1ハッチカバー6が水平方向に滑動して入り込めるように構成されたハッチ装置において、昇降装置9はシリンダ16とシリンダ16に支持されて自在に昇降するロッド17と、ロッド17の上端に固着されて、リフティングアーム10を支持する支持部材18を備え、ロッド17はリフティングアーム10から水平方向に間隙Cを空けて配置されるとともに、支持部材18は前記間隙Cを超えてリフティングアーム10に伸びる腕部材18aを有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のハッチ装置、特にハッチカバーの上に他のハッチカバーを載置するピギーバック(Piggy back)型のハッチ装置、及びそれに用いるハッチカバーの昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
隣接する一方のハッチのハッチカバーを取り外して、他方のハッチのハッチカバーの上に載置するピギーバック型のハッチ装置はバラ積み貨物船等に多用されている。ピギーバック型のハッチ装置は、ハッチコーミング上にある一方のハッチカバーを持ち上げて、その下に他方のハッチカバーを移送して、その後前記一方のハッチカバーを降下させて前記他方ハッチカバーの上に載置するので、ハッチカバーを持ち上げる昇降装置を必要とする(例えば、特許文献1)。
【0003】
図4は、特許文献1に記載されたハッチカバーの昇降装置の構成を示す船舶の部分横断面図である。図4において、1は船舶の上甲板であり、2は上甲板1に開口するハッチオープニング(図示せず)の側方に立設されたサイドコーミングであり、3はコーミングトップである。また、4はハッチカバーであり、4aはハッチカバー4がコーミングトップ3に密着した状態(閉鎖状態)を、4bはハッチカバー4をジャッキアップ装置5によってジャッキアップして、前後方向(図の紙面に垂直な方向)に走行可能にした状態(走行状態)、4cはハッチカバー4を昇降装置21で高位置に持ち上げた状態(ハイリフト状態)をそれぞれ示している。
【0004】
ハッチカバー4の側面にはリフティングアーム22が突設され、リフティングアーム22の内部には、アクチュエータ23によって、リフティングアーム22の先端から突出する可動アーム部材24が備えられている。
【0005】
昇降装置21は、上甲板1の外舷寄りに立設された油圧ジャッキであり、上甲板1に固定されたシリンダ25と、シリンダ25に支持されて油圧で昇降するロッド26から構成される。また、昇降装置21はロッド26とリフティングアーム22の先端の間に間隙を空けて配置される。
【0006】
ハッチカバー4を昇降装置21によってハイリフト状態4cに持ち上げる時は、アクチュエータ23を駆動してリフティングアーム22の先端から可動アーム部材24を突出させて、昇降装置21のロッド26の先端を可動アーム部材24に当接させる。一方、ハッチカバー4が閉鎖状態4aまたは走行状態4bにある時は、可動アーム部材24はリフティングアーム22内に格納されているから、ハッチカバー4と昇降装置21は干渉しない。そのため、2枚のハッチカバー4を前後方向に配置している場合において、一方のハッチカバー4を昇降装置21によってハイリフト状態4cに持ち上げて、その下に他方のハッチカバー4を水平方向に引き込むことができる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−178457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたハッチ装置は、ハッチカバー4に可動アーム部材24を突出・格納自在に取り付けたので、ハイリフト状態4cにあるハッチカバー4の下に、他のハッチカバー4を引き込む際に、走行状態4bにある他のハッチカバー4と昇降装置21の干渉を避けることができる。そのため、操作が容易で実用性の高いハッチ装置を実現できる。
【0009】
しかし、特許文献1に開示されたハッチ装置はハッチカバー4の側面に突設されたリフティングアーム22の内部にアクチュエータ23と可動アーム部材24を備えるので、ハッチカバー4の構造が複雑になり、信頼性が低下するという問題がある。
【0010】
また、リフティングアーム22の内部は狭隘なので、アクチュエータ23や可動アーム部材24の給脂や部品交換などの保守作業には困難が大きいという問題もある。
【0011】
また、ハッチカバー4の開閉操作の手順中に可動アーム部材24の突出・格納の操作が加わるので操作が複雑になり、作業者の負担が増えるという問題がある。
【0012】
そこで本発明は、昇降装置で高位置に持ち上げたハッチカバーの下に、他のハッチカバーを自在に引き入れることのできるピギーバック型のハッチ装置を、より簡便な構成で実現することを目的とする。また、そのようなハッチ装置に使用するハッチカバーの昇降装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のハッチ装置の第1の構成は、水平方向に滑動する第1及び第2ハッチカバーと、前記第1及び第2ハッチカバーの側面に突出する突出部材を支持して、前記第1又は第2ハッチカバーを高位置に持ち上げる昇降機構を備えて、前記昇降機構によって高位置に持ち上げられた一方のハッチカバーの下方に、他方のハッチカバーが水平方向に滑動して入り込めるように構成されたハッチ装置において、前記昇降機構は、基部と前記基部に支持されて自在に昇降する昇降柱と、前記昇降柱の上端に固着されて、前記突出部材を支持する支持部材を備え、前記昇降柱は前記突出部材から水平方向に所定の間隙を空けて配置されるとともに、前記支持部材は前記所定の間隙を超えて前記突出部材に伸びる腕部材を有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、ハッチカバーの突出部材及び昇降機構の支持部材に可動部材およびアクチュエータを備えないので、簡易で信頼性の高いハッチ装置を実現できる。
【0015】
ここで、昇降機構は、シリンダと、前記シリンダに摺動支持されて油圧で動作するピストンを備える油圧ジャッキが一般的だが、他の動力や機構を利用するもの、例えば電動スクリュージャッキやラックアンドピニオン機構を利用するものであってもよい。
【0016】
なお、腕部材は昇降柱と突出部材の間の間隙を超えて支持部材の先端が前記突出部材に届くだけの長さがあれば足りる。したがって前記間隙が狭ければ腕部材は短くなる。また強度確保等の要請から腕部材の垂直方向の寸法を大きく設計する場合もありうる。このような場合に腕部材は横に短く縦に長くなるが、前記間隙を超えるだけの横方向の長さがあれば、腕部材に該当する。
【0017】
また、本発明のハッチ装置では、昇降機構をハッチカバーの定位置の前後左右にそれぞれ1基ずつ備えて、ハッチカバーを4点で支持するのが一般的だが、ハッチカバーの寸法形状によっては、6点あるいは更に多点で支持することもできる。
【0018】
本発明のハッチ装置の第2の構成は、前記昇降装置は前記第1及び第2ハッチカバーのそれぞれの定位置の側方に配置されることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、前記第1及び第2ハッチカバーをそれぞれの定位置で高位置に持ち上げることができるので、第1又は第2の何れのハッチカバーを開放する場合であっても、最小の手順で開放することができる。
【0020】
本発明のハッチカバーの昇降装置の構成は、ハッチカバーの側方に配置されて、前記ハッチカバーの側面に突出する突出部材を支持して、前記ハッチカバーを高位置に持ち上げるハッチカバーの昇降装置において、基部と前記基部に支持されて自在に昇降する昇降柱と、前記昇降柱の上端に固着されて、前記突出部材を支持する支持部材を備え、前記支持部材は水平方向に伸びる腕部材を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、昇降装置で高位置に持ち上げたハッチカバーの下に、他のハッチカバーを自在に引き入れることのできるピギーバック型のハッチ装置を簡便な構成で実現できるので、ハッチ装置の信頼性及び整備性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の実施例に係るハッチ装置の外形図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は側面図である。なお、図1は船舶用図面の習慣に従って船首方向を右に取って、ハッチ装置の右舷側のみを描いているが、左舷側は右舷側と対称に構成される。
【0024】
図1において、1は船舶の上甲板であり、2は上甲板1に開口するハッチオープニング(図示せず)の側縁に立設されたサイドコーミングであり、3はコーミングトップである。また、6は第1ハッチカバーであり、7は第2ハッチカバーであり、8は第1ハッチカバー6の定位置の前後左右に配置された昇降装置であり、9は第2ハッチカバー7の定位置の前後左右に配置された昇降装置である。昇降装置8及び昇降装置9は、その配置場所によって符号を使い分けているが、同一の装置である。なお、図1ないし図3においては、第1ハッチカバー6がコーミングトップ3に密着してハッチを閉鎖した状態(閉鎖状態)と、第2ハッチカバー7が昇降装置9によって高位置に持ち上げられた状態(ハイリフト状態)を実線で示し、第1ハッチカバー6が船尾方向(図の左方向)に移送されて、第2ハッチカバー7の下方に到着した状態(走行状態)を破線で示している。
【0025】
第1,第2ハッチカバー6,7の側面には、リフティングアーム10、車輪11及び連結板12を備えている。リフティングアーム10は昇降装置8,9と当接して、第1,第2ハッチカバー6,7の重量を支える突出部材である。車輪11は、コーミングトップ3上を走るレール13上を転動する車輪である。また、連結板12はサイドコーミング2と平行に走るチェーン14の途中に介装される連結コマ(図示せず)と嵌合する楔形の部材である。チェーン14は図示しないチェーン駆動手段によって、船首尾方向に移動するので、第1,第2ハッチカバー6はチェーン14に牽引されて船首尾方向に走行する。なお、昇降装置8,9によって第1,第2ハッチカバー6,7を上昇させれば、連結板12と前記連結コマの結合は容易に解除される。また、前記連結コマを連結板12の下方に位置決めして、第1,第2ハッチカバー6,7を下降させれば、連結板12と前記連結コマは容易に結合される。
【0026】
サイドコーミング2の側面の、第1,第2ハッチカバー6,7を定位置に位置決めした時に車輪11の下方になる場所には、ジャッキアップ装置5が備えられている。ジャッキアップ装置5は、レール13の一部をその上に載った車輪11と一緒に昇降させる油圧ジャッキである。ジャッキアップ装置5が下降すると、第1,第2ハッチカバー6,7はコーミングトップ3に密着して、ハッチを閉鎖する。ジャッキアップ装置5が上昇すると、レール13の前記一部はレール13の他の部分と同じ高さになるので、第1,第2ハッチカバー6,7はレール13上を走行できるようになる。
【0027】
図2は、図1(b)においてA−A’線で切断した断面図である。図2において、1617及び18はそれぞれ昇降装置9のシリンダ、ロッド及び支持部材であり、支持部材18が最大高さまで上昇した状態を示している。また破線で示した図形は、第1ハッチカバー6が第2ハッチカバー7の下に移送された状態を示している。図2から、ただちに理解できるように、第1ハッチカバー6のリフティングアーム10の先端とロッド17の間には、水平方向の間隙Cが設けられているので、この状態において、第1ハッチカバー6が昇降装置9に干渉することはない。つまり、第1ハッチカバー6は昇降装置9によって高位置に持ち上げられた第2ハッチカバー7の下方の空間に自由に出入りできる。
【0028】
ロッド17の先端に取り付けられた支持部材18は、間隙Cを超えてリフティングアーム10の下に届く腕部材18aを備えているので、支持部材18の先端は第2ハッチカバー7のリフティングアーム10の下面に当接して、第2ハッチカバー7を支持することができる。
【0029】
さて、この状態から、第1ハッチカバー6の上に第2ハッチカバー7を載置する場合は次の手順を実行する。
(1)ジャッキアップ装置5を下降させ、第1ハッチカバー6をコーミングトップ3の上に載置する。
(2)昇降装置9のロッド17を下降させ、第2ハッチカバー7を第1ハッチカバー6の上に載置する。
(3)昇降装置9のロッド17をさらに下降させ、支持部材18を第2ハッチカバー7のリフティングアーム10を第1ハッチカバー6のリフティングアーム10の中間に位置決めして、待機する。
【0030】
第1ハッチカバー6を第2ハッチカバー7から引き出して、定位置に戻す場合は、上記手順の逆の操作を行う。
【0031】
図3は、図1(b)においてB−B’線で切断した断面図である。図3は、昇降装置8のロッド17を最低高さまで下降させるとともに、ジャッキアップ装置5を下降させて、第1ハッチカバー6をコーミングトップ3の上に載置した状態(閉鎖状態)を示している。この状態でも、昇降装置8と第1ハッチカバー6は干渉しないから、ジャッキアップ装置5を上昇されば、第1ハッチカバー6はレール13上を自由に走行できる。
【0032】
なお、本実施例では第1及び第2ハッチカバー6,7のそれぞれの定位置の側方の上甲板1に昇降装置8及び昇降装置9を配置したから、第1及び第2ハッチカバー6,7をそれぞれの定位置で昇降させることができる。しかし、昇降装置8又は昇降装置9の何れか一方を省略することもできる。例えば、昇降装置8を省略して昇降装置9のみにした場合を考えると、第1ハッチを開放する場合は、昇降装置9によって第2ハッチカバー7を昇降装置9によって持ち上げ、第1ハッチカバー6をその定位置から第2ハッチカバー7の下に移動させる。また第2ハッチを開放する場合は、第2ハッチカバー7の定位置で第2ハッチカバー7を第1ハッチカバー6に載置して、第2ハッチカバー7と第1ハッチカバー6を第1ハッチカバー6の定位置まで移動させる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例に係るハッチ装置の外形図である。
【図2】図1のA−A’線で切断した断面図である。
【図3】図1のB−B’線で切断した断面図である。
【図4】特許文献1に記載されたハッチカバーの昇降装置の構成を示す船舶の部分横断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 上甲板
2 サイドコーミング
3 コーミングトップ
4 ハッチカバー
4a 閉鎖状態
4b 走行状態
4c ハイリフト状態
5 ジャッキアップ装置
6 第1ハッチカバー
7 第2ハッチカバー
8 昇降装置
9 昇降装置
10 リフティングアーム
11 車輪
12 連結板
13 レール
14 チェーン
16 シリンダ
17 ロッド
18 支持部材
18a 腕部材
21 昇降装置
22 リフティングアーム
23 アクチュエータ
24 可動アーム部材
25 シリンダ
26 ロッド




【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に滑動する第1及び第2ハッチカバーと、
前記第1及び第2ハッチカバーの側面に突出する突出部材を支持して、前記第1又は第2ハッチカバーを高位置に持ち上げる昇降機構を備えて、
前記昇降機構によって高位置に持ち上げられた一方のハッチカバーの下方に、他方のハッチカバーが水平方向に滑動して入り込めるように構成されたハッチ装置において、
前記昇降機構は、
基部と前記基部に支持されて自在に昇降する昇降柱と、
前記昇降柱の上端に固着されて、前記突出部材を支持する支持部材を備え、
前記昇降柱は前記突出部材から水平方向に所定の間隙を空けて配置されるとともに、
前記支持部材は前記所定の間隙を超えて前記突出部材に伸びる腕部材を有することを特徴とするハッチ装置。
【請求項2】
前記昇降装置は前記第1及び第2ハッチカバーのそれぞれの定位置の側方に配置されることを特徴とする請求項1に記載のハッチ装置。
【請求項3】
ハッチカバーの側方に配置されて、前記ハッチカバーの側面に突出する突出部材を支持して、前記ハッチカバーを高位置に持ち上げるハッチカバーの昇降装置において、
基部と
前記基部に支持されて自在に昇降する昇降柱と
前記昇降柱の上端に固着されて、前記突出部材を支持する支持部材を備え、
前記支持部材は水平方向に伸びる腕部材を有すること
を特徴とするハッチカバーの昇降装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−261337(P2007−261337A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86695(P2006−86695)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(592250540)株式会社大島造船所 (32)
【出願人】(593059038)株式会社ナカタ・マックコーポレーション (3)