説明

ハッチ装置

【課題】隣接する1組のハッチカバーの任意の一方を昇降装置で高位置に持ち上げて、その下に他方のハッチカバーを自在に引き入れることのできるピギーバック型のハッチ装置を、より簡易な機構で実現する。
【解決手段】ハッチカバー1の側面に突出するリフティングアーム2と、リフティングアーム2に当接してハッチカバー1を高位置に持ち上げる昇降装置9を備えたハッチ装置において、リフティングアーム2は、ハッチカバー1の側面に固定された固定部3及び固定部3に軸支されて水平面内で自在に旋回するとともに、旋回中心から放射状に延びて昇降装置9に支持される複数の旋回アーム6を有する旋回部5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のハッチ装置、特に共通の軌道上を水平方向に滑動する複数のハッチカバーを上下に積み上げてハッチ開口の片側に寄せてハッチを開放するピギーバック(Piggy back)型のハッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
共通の軌道上を水平方向に滑動する複数のハッチカバーを上下に積み上げてハッチ開口の片側に寄せてハッチを開放するピギーバック型のハッチ装置はバラ積み貨物船等に多用されている。このピギーバック型のハッチ装置では、ハッチ開口の両側に油圧で昇降する昇降装置を備えるとともに、ハッチカバーの両側面にリフティングアームを突設して、昇降装置をリフティングアームの下面に押し当ててハッチカバーを持ち上げ、その下に他のハッチカバーを引き入れている。
【0003】
さて、上下に積み重ねられる1組のハッチカバーの両方にリフティングアームを突設すると、一方のハッチカバーの下に他のハッチカバーを引き入れる際に、下に位置するハッチカバーのリフティングアームが昇降装置と干渉する。そこで、一方のハッチカバーにだけリフティングアームを突設して、常に当該ハッチカバーが他のハッチカバーの上に積み重ねられるようにすれば、この問題は解決する。しかし、リフティングアーム付きハッチカバーの定位置に相当するハッチ開口の部分を開放しようとすれば、前記定位置でリフティングアーム付きハッチカバーを持ち上げて、その下に他のハッチカバーを引き入れて、2枚のハッチカバーを積み重ね、積み重ねられた2枚のハッチカバーを前記他のハッチカバーの定位置まで移送するという複雑な操作が必要であり、操作に長時間を要するという問題がある。また、荷役作業中に予期しない降雨があった場合、この逆の操作を行ってハッチを閉鎖するが、閉鎖操作に時間を要するので、降雨によって積み荷が大きなダメージを受けるという問題も生じる。
【0004】
これらの問題を解決するために、アーム格納機構を備えたリフティングアームをハッチカバーの側面に突設して、ハッチカバーを他のハッチカバーの下に引き入れる時には、アームを格納するようにしたハッチ装置が提案されている(特許文献1)。
【0005】
図9は、特許文献1に記載されたハッチ装置の構成を示す船舶の部分横断面図である。図9から明らかなように、船舶の上甲板31に開口するハッチオープニング(図示せず)の側方にサイドコーミング32が立設され、サイドコーミング32のコーミングトップ33にはハッチカバー34が載置されている。また、34aはハッチカバー4がコーミングトップ33に密着した状態(閉鎖状態)を、34bはハッチカバー4をジャッキアップ装置35によってジャッキアップして、前後方向(図の紙面に垂直な方向)に走行可能にした状態(走行状態)、34cはハッチカバー34を昇降装置36で高位置に持ち上げた状態(ハイリフト状態)をそれぞれ示している。
【0006】
ハッチカバー34の側面にはリフティングアーム37が突設され、リフティングアーム37の内部には、アクチュエータ38によって駆動されてリフティングアーム37の先端から突出する可動アーム部材39が備えられている。
【0007】
昇降装置36は、上甲板31に固定されたシリンダ40と、シリンダ40に出没自在に支持されて油圧で昇降するロッド41から構成される油圧ジャッキである。また、昇降装置36はロッド41とリフティングアーム37の先端の間に所定の間隙が空くように配置されている。
【0008】
ハッチカバー34を昇降装置36によって押し上げて、ハイリフト状態34cにする時は、アクチュエータ38を駆動して可動アーム部材39をリフティングアーム37の先端から突出させて、昇降装置36のロッド41の先端を可動アーム部材39に当接させる。一方、ハッチカバー34が閉鎖状態34aまたは走行状態34bにある時は、可動アーム部材39はリフティングアーム37内に格納されているから、ハッチカバー34と昇降装置36は干渉しない。このように構成されているので、一方のハッチカバー34を昇降装置36によってハイリフト状態34cに持ち上げて、その下に他方のハッチカバー34を水平方向に引き込むことができる。
【0009】
また、本願の出願人は、リフティングアーム37の内部にアクチュエータ38と可動アーム部材39を備える代わりに、ロッド41の上端にリフティングアーム37に向けて伸びる水平部材を備えることを提案している(特許文献2)。
【0010】
【特許文献1】特開2005−178457号公報
【特許文献2】特願2006−086695
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示されたハッチ装置は、リフティングアーム37から自在に突出・格納する可動アーム部材39を備えるので、ハイリフト状態34cにあるハッチカバー34の下に、他のハッチカバー34を引き込む際の昇降装置36との干渉が生じない。そのため、ハッチカバー34は他のハッチカバーの上下のいずれにも積み重ねることができる。
【0012】
しかしながら、特許文献1のハッチ装置は可動アーム部材39を駆動するアクチュエータ38をリフティングアーム37の内部に装置する必要があるので、機構が複雑になり、製造や整備に手間がかかるという問題がある。またコスト増、信頼性低下等の問題も生じる。
【0013】
また、特許文献2のハッチ装置のように、ロッド41の上端に取り付けた水平部材でリハッチカバー34の重量を支持すると、ロッド41に偏荷重が加わるので、シリンダ40やロッド41の座屈や偏摩耗などの故障のリスクが大きくなるという問題がある。
【0014】
本発明はこれらの課題を解決するためになされたものであり、1組のハッチカバーの任意の一方を昇降装置で高位置に持ち上げて、その下に他方のハッチカバーを自在に引き入れることのできるピギーバック型のハッチ装置を、より簡易で信頼性の高い機構で実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のハッチ装置の第1の構成は、共通の軌道上を水平方向に滑動する複数のハッチカバーと、前記ハッチカバーを前記軌道から離して高位置に持ち上げる昇降機構を備えて、前記昇降機構によって前記軌道から離されて高位置に持ち上げられた前記ハッチカバーの下方に、他の前記ハッチカバーを引き入れるように構成されたハッチ装置において、前記ハッチカバーの側面に固定された固定部材と、前記固定部材に軸支されて水平面内で自在に旋回するとともに、旋回軸から放射状に延びて前記昇降機構に支持される複数の腕部材を有する旋回部材とを備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、旋回部材が水平面内で自在に旋回するので、昇降装置が腕部材の側面に当たると旋回部材が旋回して腕部材と昇降装置の干渉が解消される。そのため、ハッチカバーは他のハッチカバーを持ち上げて上昇状態にある昇降装置の側方を通過することができる。また、旋回部材は複数の腕部材を放射状に備えているので、ハッチカバーが昇降装置の側方を通過すると別の腕部材が正規の位置(昇降装置が支持できる位置)に来る。したがって、高位置に持ち上げられたハッチカバーの下に他のハッチカバーを自在に引き入れることができる。
【0017】
なお、実施例においては4本の腕部材を十字形に配置した例を示したが、本発明はこれに限られるものではない。2本、3本、あるいは5本以上の腕部材を備えた旋回部材の設計が可能である。
【0018】
また、ハッチ装置が備えるハッチカバーは2枚に限られない。3枚以上のハッチカバーを上下に積み上げるように構成してもよい。
【0019】
本発明のハッチ装置の第2の構成は、前記第1の構成において、前記旋回部材の旋回角度を前記腕部材の底面が前記昇降機構に当接する角度に固定する旋回角度固定手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、旋回角度固定手段によって、旋回部材の旋回角度が腕部材の底面が昇降機構に当接する角度に固定されるので、昇降機構がハッチカバーを持ち上げている間に、旋回部材が不意に回転して腕部材が昇降機構から脱落することを避けることができる。
【0021】
本発明のハッチ装置の第3の構成は、前記第2の構成において、前記旋回角度固定手段は、前記固定部材に凹設された凹部と、前記旋回部材に凸設されて前記凹部と嵌合する凸部とであることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、旋回角度固定手段を固定部材に凹設された凹部と、前記旋回部材に凸設されて前記凹部と嵌合する凸部で構成したので、旋回角度固定手段を簡易な構成で実現できる。また構成が簡易なので、故障・損傷の可能性が低くなり、信頼性が向上する。
【0023】
本発明のハッチ装置の第4の構成は、前記第2の構成において、前記旋回角度固定手段は、一端が前記昇降機構に当接するように前記旋回部材に軸支されるともに、前記一端が上昇すると他端が下降するように構成された梃子と、前記固定部材に凹設されて前記梃子の前記他端が下降した時に前記他端と嵌合する凹部とであることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、旋回角度固定手段を、一端が前記昇降機構に当接するように前記旋回部材に軸支されるともに、前記一端が上昇すると他端が下降するように構成された梃子と、前記固定部材に凹設されて前記梃子の前記他端が下降した時に前記他端と嵌合する凹部で構成したので、昇降機構が梃子から離れると、梃子の他端と固定部の凹部の嵌合が解除される。
【0025】
なお、実施例においては、昇降機構が梃子から離れた時に、梃子の他端と固定部の凹部の嵌合が解除される方向に梃子を付勢するばねを備えた例を示したが、このばねは必ずしも必要ではない。ばねを省略して、昇降機構が梃子から離れると重力によって梃子が嵌合を解除する方向に動くように設計することも可能である。
【0026】
本発明のハッチ装置の第5の構成は、前記第1ないし第4の構成において、前記腕部材は前記旋回部材の半径に直交する平面で切断した断面形における下方左右の隅部に左右対称な斜面を有するとともに、前記固定部材に取り付けられて前記腕部材の左右の前記斜面をそれぞれ押圧する2組の押圧手段を備えたことを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、腕部材の下方左右の隅部に左右対称な斜面を有するとともに、固定部材に取り付けられて前記腕部材の左右の前記斜面をそれぞれ押圧する2組の押圧手段を備えるので、腕部材は2組の押圧手段の押圧力が釣り合う位置、つまり腕部材の中心が2組の押圧手段の中間になるように誘導される。このため、腕部材が正規の位置(ハッチカバーに対して正横、つまり腕部材の底面が昇降装置に対して正しく当接する位置)からずれても、正規の位置に誘導される。
【0028】
本発明のハッチ装置の第6の構成は、前記第1ないし第5の構成において、前記腕部材の底面に前記昇降機構の端部と嵌合する凹所を設けたことを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、腕部材の底面に昇降機構の端部と嵌合する凹所を設けたので、昇降機構の端部が腕部材の底面に対して滑るのを抑制して、昇降機構によるハッチカバーの保持をより確実にする。
【0030】
本発明のハッチ装置の第7の構成は、前記第1ないし第6の構成において、前記昇降機構は甲板に固定された油圧シリンダと、前記油圧シリンダに出没自在に支持されて昇降するピストンロッドと、及び前記ピストンロッドの周囲を取り囲むとともに、前記ピストンロッドと共に昇降する円筒状のプロテクタとを備えたことを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、ピストンロッドの周囲を取り囲んで、ピストンロッドと共に昇降する円筒状のプロテクタを備えるので、ハッチカバーを水平方向に滑動する時にピストンロッドが腕部材に直接衝突することを防止できる。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明によれば、任意のハッチカバーを高位置に持ち上げて、他のハッチカバーをその下に引き入れることができるピギーバック型のハッチ装置を提供できる。また、本発明のハッチ装置は複雑なリンク機構等を必要としないので、簡易で信頼性の高いハッチ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0034】
図1は、本発明の実施例に係るハッチカバーの平面図である。また図2は、図1に示したハッチカバーを備えるハッチ装置の説明図であり、図示しない船体の首尾線方向から見た立面図である。図1に示すように、ハッチカバー1の側面には4基のリフティングアーム2が突設されている。リフティングアーム2はハッチカバー1の側面に固定された固定部3と、固定部3に軸支されて旋回軸4周りに自由に旋回する旋回部5から構成される。また、旋回部5の平面形は旋回軸4から4本の旋回アーム6が放射状に延びる十字形をなしている。
【0035】
図2に示すように、ハッチカバー1はハッチコーミング7上に載置され、ハッチコーミング7上を前後(図の紙面に垂直な方向)に滑動する。また、ハッチカバー1はハッチコーミング7の外側の甲板8に立設された昇降装置9によってハッチコーミング7から離れた高位置にリフトアップされる。またリフトアップされたハッチカバー1bの下に別のハッチカバー1aを引き込み、その後、昇降装置9を下降させて、ハッチカバー1aの上にハッチカバー1bを積み上げることができる。
【0036】
昇降装置9は、甲板8に固定された油圧シリンダ10と、油圧シリンダ10に出没自在に支持されて自在に昇降するピストンロッド11と、ピストンロッド11の上端に固定されて旋回アーム6の下面に当接する支承金物12から構成される。
【0037】
さて、リフティングアーム2の旋回部5は旋回軸4周りに自由に旋回するから、旋回部5の旋回角度は任意に選べる。図1において記号Aで示したような4本の旋回アーム6の何れか1本が正横を向く角度(以下、角度Aと呼ぶ)をとった場合は、旋回アーム6が昇降装置9の支承金物12の直上に位置するから、ピストンロッド11を上昇させると、支承金物12が旋回アーム6に当接する。一方、図1において記号Bで示したような角度Aから45°だけ旋回した角度(以下、角度Bと呼ぶ)をとったときに、ピストンロッド11を上昇させると、支承金物12は2本の旋回アーム6の間を突き抜ける。
【0038】
さて、ハッチカバー1bのリフティングアーム2の旋回部5は角度Aの位置にあって、昇降装置9の支承金物12が旋回アーム6の下面に当接するから、ハッチカバー1bは昇降装置9によってリフトアップされる。ハッチカバー1bがリフトアップされた状態で、ハッチカバー1aをハッチカバー1bの下に引き入れると、昇降装置9のピストンロッド11がハッチカバー1bのリフティングアーム2の旋回アーム6の側面を押して、ハッチカバー1bのリフティングアーム2の旋回部5を角度Bまで旋回させるので、昇降装置9のピストンロッド11はハッチカバー1bのリフティングアーム2と干渉しない。
【0039】
なお、図1及び図2はリフティングアーム2等の概念を説明するための図であり、詳細な構造等の図示は省略している。また、旋回部5が適当なトルクで旋回できるように、固定部3と旋回軸4の接触面はグリース等で潤滑されるが、そのための装置等についても図示を省略している。
【0040】
次に図3を参照しながら、リフティングアーム2の機能を更に説明する。図3は、ハッチカバー1をハッチコーミング7上で水平に移動させた場合のリフティングアーム2の動きを時系列に示す説明図である。以下、図3(A)から(E)を順に引用してリフティングアーム2の動きを説明する。
【0041】
図3(A)は、ハッチカバー1が定位置にある状態を示している。ハッチカバー1はハッチコーミング7の左端にあって、ハッチの左半分(船体の首尾線方向を図の左右方向に取っているので、「左半分」は「船尾側半分」に相当するが、ここで「船首・船尾」を用いると煩わしいので、「左・右」で表示する)を閉蓋している。また、図示を省略しているが、ハッチの右半分にはハッチカバー1と対になる別のハッチカバーがあって、昇降装置9c,9dによってリフトアップされている。
【0042】
なお、ハッチコーミング7の両側には昇降装置9c,9dの他に、ハッチカバー1を定位置でリフトアップする昇降装置9a,9bがあるが、図3(A)では、リフティングアーム2の直下にあって隠れている。
【0043】
図3(B)は、ハッチカバー1が右に移動して、右側のリフティングアーム2の旋回アーム6の側面が昇降装置9c(前記別のハッチカバーをリフトアップするために、ピストンロッド11が上昇している)のピストンロッド11に当接した状態を示している。
【0044】
ハッチカバー1が更に右に移動すると、図3(C)に示すように右側のリフティングアーム2の旋回アーム6は昇降装置9cに押されて角度Bの位置まで旋回する。また、ハッチカバー1が図3(C)に示す位置から更に右に移動して、右側のリフティングアーム2が昇降装置9cの右側に到達すると、右側のリフティングアーム2の旋回アーム6は更にに旋回して、再び角度Aの位置に来る(旋回アーム6とピストンロッド11の関係は、回転ドアと回転ドアを通過する人間の関係と相似であると考えれば理解が早い)。
【0045】
図3(D)は、ハッチカバー1が更に右に移動して、右側のリフティングアーム2の旋回アーム6の側面は昇降装置9dに当接し、左側のリフティングアーム2の旋回アーム6の側面は昇降装置9cに当接した状態を示している。
【0046】
図3(E)に示すように、ハッチカバー1がハッチの右端、つまり昇降装置9c,9dによってリフトアップされた前記別のハッチカバーの直下に到達すると、右側のリフティングアーム2の旋回アーム6は昇降装置9dに、左側のリフティングアーム2の旋回アーム6は昇降装置9cにそれぞれ押されて、角度Bの位置まで旋回する。
【0047】
図3(E)に示す状態では、ハッチカバー1の4基のリフティングアーム2の旋回アーム6は全て角度Bの位置にあるから、昇降装置9c,9dはハッチカバー1のリフティングアーム2に干渉することなく、リフトアップされていた前記別のハッチカバーをハッチカバー1の上に降下させることができる。
【0048】
なお、図3(E)の状態での荷役の後でハッチの右半分を開口して荷役をする場合は、ハッチカバー1の上に前記別のハッチカバーを積み重ねたまま、ハッチの左端に移動させる場合がある。このような場合に予期しない降雨があって急いでハッチを仮閉鎖したい時は、昇降装置9a,9bを用いてハッチの左端で前記別のハッチカバーをリフトアップし、ハッチカバー1をハッチの右端に引き寄せてハッチの右半分を仮閉鎖し、前記別のハッチカバーをハッチコーミング7上に降ろしてハッチの左半分を仮閉鎖する、つまり緊急時には2つのハッチカバーの位置を入れ替えてハッチを仮閉鎖することができる。これによって、ハッチの閉鎖に要する時間を短縮して、降雨によるダメージを減らすことができる。
【0049】
次に、リフティングアーム2の構造の詳細について説明する。図4はリフティングアーム2の外形図であり、図4(A)は平面図、図4(B)は側面図、図4(C)は図4(A)のa−a’線で切断した部分断面図である。
【0050】
図4に示すように、リフティングアーム2の固定部3は、下部ベース3aと上部ベース3bからなり、旋回部5は下部ベース3aと上部ベース3bに両持ちで軸支されている。また、下部ベース3aには2台のストッパ13が装置されている。
【0051】
ストッパ13は下部ベース3aに開けられた凹所から上方に突出する押圧子14と、押圧子14を旋回アーム6に向けて付勢するばね15及び押圧子14の先端に取り付けられたローラ16から構成されている。
【0052】
また、図4(C)に示すように、旋回アーム6の断面形の下部には左右対象な傾斜面を備えているので、旋回アーム6は2台のストッパ13の押圧力がバランスする位置、つまり旋回アーム6の断面形の中心が2台のストッパ13の中間に位置するように誘導される。このため、旋回アーム6が正横を向いた状態から多少ずれた場合に、旋回アーム6は正横を向くように誘導される。
【0053】
図5はリフティングアーム2の第2の例を示す側断面図であり、図5(A)は昇降装置9がリフティングアーム2から離れている状態、図5(B)は昇降装置9がリフティングアーム2を持ち上げた状態を示している。このリフティングアーム2の上部ベース3bには凹部17が、旋回部5には凹部17に対応する突起18がそれぞれ設けられているので、図5(B)に示すように、て、昇降装置9がリフティングアーム2を持ち上げると、突起18が凹部17に嵌合して旋回部5の回転を規制する。
【0054】
図6はリフティングアーム2の第3の例を示す断面図であり、回転軸19回りに回転する梃子20を旋回アーム6の内部に軸支して、昇降装置9のピストンロッド11が梃子20の一端を押圧すると、梃子20の他端が下部ベース3aに設けた凹部21と嵌合して旋回部5の回転を規制するように構成されている。なお、ばね22は梃子20と旋回アーム6の間に架け渡された圧縮ばねであり、昇降装置9のピストンロッド11が旋回アーム6から離れると、ばね22は梃子20の一端を押し下げて、梃子20の他端と凹部21と嵌合を解除する。
【0055】
図7はリフティングアーム2の第4の例を示す断面図であり、旋回アーム6の下面に支承部12と嵌合する凹所23を設けて、ピストンロッド11が旋回アーム6から外れないように規制した例を示している。
【0056】
図8はプロテクタ24を備えた昇降装置9の例を示す図であり、図8(A)は昇降装置9を最大高さまで伸ばした状態、図8(B)は最小高さまで縮めた状態をそれぞれ示す立面図であり、図8(C)は昇降装置9とリフティングアーム2の関係を示す平面図である。プロテクタ24は支承金物12から吊りワイヤ25に吊り下げられた鋼製の円筒であり、図8(A)に示すように、ピストンロッド11が上昇するとプロテクタ24は所定の高さに上昇し、またピストンロッド11が下降しているときは、図8(B)に示すように、プロテクタ24も下降して、シリンダ10の下部に設けた鍔部26に載置される。また、図8(C)に示すようにリフティングアーム2が昇降装置9の横を通過する時はプロテクタ24が旋回アーム6を押して、旋回アーム6を旋回させる。このようにプロテクタ24は旋回アーム6とピストンロッド11の接触を防いで、ピストンロッド11を保護する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例に係るハッチカバーの平面図である。
【図2】図1に示したハッチカバーを備えるハッチ装置の説明図である。
【図3】ハッチカバーをハッチコーミング上で水平に移動させた場合のリフティングアーム動きを時系列に示す説明図である。
【図4】リフティングアームの外形図である。
【図5】リフティングアームの第2の例を示す断面図である。
【図6】リフティングアームの第3の例を示す断面図である。
【図7】リフティングアームの第4の例を示す断面図である。
【図8】昇降装置の例を示す図である。
【図9】従来技術の例を示す船舶の部分横断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ハッチカバー
2 リフティングアーム
3 固定部
4 旋回軸
5 旋回部
6 旋回アーム
7 ハッチコーミング
8 甲板
9 昇降装置
10 油圧シリンダ
11 ピストンロッド
12 支承金物
13 ストッパ
14 押圧子
15 ばね
16 ローラ
17 凹部
18 突起
19 回転軸
20 梃子
21 凹部
22 ばね
23 凹所
24 プロテクタ
25 吊りワイヤ
26 鍔部
31 上甲板
32 サイドコーミング
33 コーミングトップ
34 ハッチカバー
35 ジャッキアップ装置
36 昇降装置
37 リフティングアーム
38 アクチュエータ
39 可動アーム部材
40 シリンダ
41 ロッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の軌道上を水平方向に滑動する複数のハッチカバーと、
前記ハッチカバーを前記軌道から離して高位置に持ち上げる昇降機構を備えて、
前記昇降機構によって前記軌道から離されて高位置に持ち上げられた一の前記ハッチカバーの下方に、他の前記ハッチカバーを引き入れるように構成されたハッチ装置において、
前記ハッチカバーの側面に固定された固定部材と、
前記固定部材に軸支されて水平面内で自在に旋回するとともに、旋回軸から放射状に延びて前記昇降機構に支持される複数の腕部材を有する旋回部材とを備えたことを特徴とするハッチ装置。
【請求項2】
前記旋回部材の旋回角度を前記腕部材の底面が前記昇降機構に当接する角度に固定する旋回角度固定手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のハッチ装置。
【請求項3】
前記旋回角度固定手段は、
前記固定部材に凹設された凹部と、
前記旋回部材に凸設されて前記凹部と嵌合する凸部とであることを特徴とする請求項2に記載のハッチ装置。
【請求項4】
前記旋回角度固定手段は、
一端が前記昇降機構に当接するように前記旋回部材に軸支されるとともに、前記一端が前記昇降機構に当接して上昇すると他端が下降するように構成された梃子と、
前記固定部材に凹設されて、前記梃子の前記他端が下降した時に前記他端と嵌合する凹部とであることを特徴とする請求項2に記載のハッチ装置。
【請求項5】
前記腕部材は前記旋回部材の半径に直交する平面で切断した断面形における下方左右の隅部に左右対称な斜面を有するとともに、
前記固定部材に取り付けられて前記腕部材の左右の前記斜面をそれぞれ押圧する2組の押圧手段とを備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のハッチ装置。
【請求項6】
前記腕部材の底面に前記昇降機構の端部と嵌合する凹所を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のハッチ装置。
【請求項7】
前記昇降機構は
甲板に固定された油圧シリンダと、
前記油圧シリンダに出没自在に支持されて昇降するピストンロッドと、
前記ピストンロッドの周囲を取り囲むとともに、前記ピストンロッドと共に昇降する円筒状のプロテクタとを備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のハッチ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−30577(P2008−30577A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205292(P2006−205292)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(592250540)株式会社大島造船所 (32)