説明

ハニカム構造体、及びハニカム触媒体

【課題】従来よりも多くの触媒を担持することが可能であり、強度の低下を防止しつつ圧力損失の増大を防止することが可能なハニカム構造体、及びハニカム触媒体を提供する。
【解決手段】ハニカム構造体1は、セル3を形成する隔壁2の、隔壁同士が交差する領域に、隔壁交点部10が形成されてなり、セル3の断面形状が八角形からなるとともに、隔壁交点部10の一部が、セル3の断面形状における八角形の斜辺10aに相当してなり、斜辺10aの両端から引いた仮想線を隔壁交点部側で交差させた際に形成される形状が三角形状となり、且つ、仮想線の、前記斜辺10aの両端から交差させた点までの交点三角長さaの夫々が、セルピッチをCP、隔壁厚さをWTとした際に、0.2(CP−WT)mm〜0.35(CP−WT)mmの長さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多くの触媒を担持可能で、強度の低下、圧力損失の増大を防止したハニカム構造体、及びハニカム触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
次期ディーゼル排ガス規制(特にNOx)に適合するためには、従来よりも多くの触媒をハニカム担体に担持する必要がある。しかし、触媒担持量の増加は、セル隔壁表面に形成される触媒層厚の増加を伴い、セル開口率や水力直径を減少させ、以って圧力損失の増大を招く。そこで、ハニカム担体の気孔率を従来のハニカム担体のそれより高め(高気孔率化)、触媒がセル隔壁の開気孔内に出来るだけ多く担持されるようにすることで、セル開口率・水力直径を増大させながら、セル隔壁表面に形成される触媒層厚の増加を抑え、圧力損失増大を回避し得る。一方、ハニカム担体の高気孔率化により、ハニカム担体の強度低下を招く。
【0003】
この強度低下を回避する方法として、図4Aに示されるように、セル103と隔壁102の交点部109にR状の曲率を有する部分(以下、適宜「R部」という)を付加したハニカム構造体がみられる(従来のハニカム構造体)。この従来のハニカム構造体では、多くの触媒を担持する場合、図4Bに示されるように、セル隔壁の交点部にR部を付加しているため、強度低下を抑制できる。しかし、セル隔壁の交点部にR部を付加すると、従来のハニカム構造体では、たとえば、図4Cのように、触媒105が不均一にコートされることになる。特に、図4Cに示されるように、触媒105が、セルコーナー部に多く堆積してしまい、斜線で示される領域に見られるように、不均一な触媒層105aが形成されてしまう。その結果、セル開口率・水力直径が減少し、圧力損失が増大するといった新たな問題が生じている。また、セルコーナー部に堆積する触媒の一部は、排ガス浄化に有効に使われず、無駄となる触媒を存在させてしまうといった問題もある。
【0004】
また、強度低下を回避する方法として、下記特許文献1、2が開示されている。
【0005】
特許文献1では、隔壁をより薄く構成しても十分な機械強度を得ることができるセラミックハニカム構造体を提供することを目的として、貫通路に垂直な平面において、中心を含む第一の領域の外側の第二の領域に存在する貫通路の各隅部に補強部を設けている。さらに、当該補強部は、円弧形状または直線形状の隅肉形状であることが開示されている。
【0006】
特許文献2では、取り扱い時および缶入れ作業時において、欠け、ひび割れ損傷を受けることのない等方強度を備えるハニカム、及び、耐熱衝撃特性を保持し、圧力低下が増大するのを阻止できるハニカムを提供することを目的として、複数のセルが、外周壁の近傍にある一部のセルを含む第1領域と、残りのセルを含む第2領域とに分類されるハニカムが開示されている。当該ハニカムでは、第1領域内のセルの壁の厚さが、外周壁に向かって延びる軸に沿って連続的に増大し、少なくとも第1領域のセルの内壁間の交差部に隅肉が形成されている。その隅肉は半径を有し、隅肉の半径が、外周壁に向かって延びる軸に沿って連続的に増大している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−264125号公報
【特許文献2】特表2006−519953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のように、貫通路の各隅部に補強部を設けて、その補強部を、円弧形状または直線形状の隅肉形状にしたのみでは、セル開口率・水力直径の減少を防ぐことができず、圧力損失を低減できない。そのため、セルコーナー部に堆積する触媒の一部は、排ガス浄化に有効に使われず、無駄となる触媒を存在させてしまう。とりわけ、特許文献1の補強部の大きさは、最大0.15mmであることからも、触媒が均一にコートされていない。これは、同文献で示される比較例1,5,9,13の補強部の大きさ(0.2mm)にも示されている。また、特許文献2のように、セルの内壁間の交差部には隅肉を形成しても、触媒を担持する際に触媒が不均一にコートされ、特にセルコーナー部に多く触媒が堆積してしまう。したがって、特許文献1と同様に、セル開口率・水力直径が減少し、圧力損失が増大するといった新たな問題の解決にはならない。
【0009】
本発明の課題は、触媒層をセル形状に沿って均一化でき、この触媒層の均一化により、圧力損失の増大を低減できるハニカム構造体及びハニカム触媒体を提供することにある。とりわけ、触媒層が均一化することにより、触媒の大部分を有効活用でき、従来技術と等価のNOx浄化率を得る場合には、触媒量をより少なくでき、セル隔壁交点の一部に、三角形状を付加させているため、高気孔率による強度低下を回避できるハニカム構造体及びハニカム触媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、セルの断面形状が八角形からなるとともに、隔壁交点部の一部が、セルの断面形状における八角形の斜辺に相当してなり、斜辺の両端から引いた仮想線を隔壁交点部側で交差させた際に形成される形状が三角形状となり、且つ、仮想線の、前記斜辺の両端から交差させた点までの交点三角長さの夫々が、セルピッチをCP、隔壁厚さをWTとした際に、0.2(CP−WT)mm〜0.35(CP−WT)mmの長さを有するハニカム構造体として構成することによって、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のハニカム構造体、及びハニカム触媒体が提供される。
【0011】
[1] 多孔質体からなる隔壁を有し、前記隔壁によって、流体の流路となる多数のセルが区画形成されたハニカム構造体であって、前記セルを形成する前記隔壁の、前記隔壁同士が交差する領域に、隔壁交点部が形成されてなり、前記セルの断面形状が八角形からなるとともに、前記隔壁交点部の一部が、前記セルの断面形状における八角形の斜辺に相当してなり、前記斜辺の両端から引いた仮想線を前記隔壁交点部側で交差させた際に形成される形状が三角形状となり、且つ、前記仮想線の、前記斜辺の両端から交差させた点までの交点三角長さの夫々が、セルピッチをCP、隔壁厚さをWTとした際に、0.2(CP−WT)mm〜0.35(CP−WT)mmの長さを有するハニカム構造体。
【0012】
[2] 前記交点三角長さが、0.2(CP−WT)mm〜0.3(CP−WT)mmである[1]に記載のハニカム構造体。
【0013】
[3] コージェライト、SiC、ムライト、アルミニウムチタネート、アルミナの群から選択される少なくとも1種からなる[1]又は[2]に記載のハニカム構造体。
【0014】
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体に、自動車排ガス浄化用触媒を担持したハニカム触媒体。
【発明の効果】
【0015】
セルの断面形状が八角形からなるとともに、隔壁交点部の一部が、セルの断面形状における八角形の斜辺に相当してなり、斜辺の両端から引いた仮想線を隔壁交点部側で交差させた際に形成される形状が三角形状となり、且つ、仮想線の、前記斜辺の両端から交差させた点までの交点三角長さの夫々が、セルピッチをCP、隔壁厚さをWTとした際に、0.2(CP−WT)mm〜0.35(CP−WT)mmの長さを有するハニカム構造体として構成することにより、触媒層をセル形状に沿って均一化することができる。この触媒層の均一化により、圧力損失の増大を低減できる。また、触媒層が均一化することにより、触媒の大部分を有効活用できる。そのため、従来技術と等価のNOx浄化率を得る場合には、触媒量を従来技術より少なくできる。さらに、セル隔壁交点の一部に、三角形状を付加させているため、高気孔率化による強度低下を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のハニカム構造体の一実施形態を示す斜視図であり、模式図である。
【図2A】本発明のハニカム構造体の端面の部分的拡大図であり、模式図である。
【図2B】本発明のハニカム構造体の端面の部分的拡大図であり、セル及び隔壁の構造を示す模式図である。
【図3A】本発明のハニカム触媒体の隔壁における、触媒層を付着する前の状態を説明するための模式図である。
【図3B】本発明のハニカム触媒体の隔壁における、触媒層を付着した後の状態を説明するための模式図である。
【図4A】従来のハニカム構造体の端面の部分的拡大図であり、模式図である。
【図4B】従来のハニカム触媒体であって、R部を備える隔壁における、触媒層を付着する前の状態を説明するための模式図である。
【図4C】従来のハニカム触媒体であって、R部を備える隔壁における、触媒層を付着した後の状態を説明するための模式図である。
【図5】本発明のハニカム構造体を製造するために使用する押出成形用の口金を説明するための模式図である。
【図6】交点部にR部を付加するための口金を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
図1に本発明のハニカム構造体の斜視図を示す。図2A、図2Bは、ハニカム構造体の端面の拡大図である。ハニカム構造体1は、多孔質体からなる隔壁2を有し、隔壁2によって、流体の流路となる多数のセル3が区画・形成されている。そして、ハニカム構造体1は、セル3を形成する前記隔壁2の、前記隔壁同士が交差する領域に、隔壁交点部10が形成されている。さらに、セル3の断面形状が八角形からなるとともに、隔壁交点部10の一部が、セル3の断面形状における八角形の斜辺10aに相当してなる。斜辺10aの両端から引いた仮想線を前記隔壁交点部側で交差させた際に形成される形状が三角形状となり、且つ、仮想線の、前記斜辺10aの両端から交差させた点までの交点三角長さaの夫々が、セルピッチをCP、隔壁厚さをWTとした際に、0.2(CP−WT)mm〜0.35(CP−WT)mmの長さを有するように、本発明のハニカム構造体が構成されている。
【0019】
ここで、隔壁交点部10とは、隔壁同士が交差する交差領域を意味する。具体的には、図3Aに示される。これに対し、図4A〜図4Cは、セル隔壁102の交点部109にR部を備える従来のハニカム構造体の端面の拡大図を示す。図4Bは、図4Aをさらに拡大した図である。この図4A、図4Bに示されるように、従来のハニカム構造体においても隔壁交点部は存するが、隔壁交点部がR形状に形成されている。そのため、図4Cに示されるように、触媒105を隔壁に付着させると、付着して形成された触媒層105aが、湾曲してR状に形成される。さらに、隔壁交点部近傍で、触媒層5が厚くなる。
【0020】
一方、本実施形態のように形成されると、図2A、図2B及び図3Aに示されるように、隔壁交点部の一部が、セルの断面形状における八角形の斜辺10aに相当し、触媒5を隔壁に付着させて形成された触媒層5aを、従来のハニカム構造体よりも隔壁交点部近傍で、薄くできる。すなわち、隔壁交点部の一部が、R状に曲率を有するものを除き、直線である斜辺として構成されているものを対象としている。また、隔壁交点部10は、隔壁同士が交差する交差領域から構成される。したがって、交差領域は八角形状の領域となる。
【0021】
なお、図3A、3Bに示される符号sは、前述の隔壁交点部と、隔壁交点部以外の隔壁とを区分けするために引いた仮想線であって、実際に引かれているものでない。したがって、隔壁交点部と、それ以外の隔壁との材料、気孔率等は同様となっている。また、図4B、図4Cに示される符号tも、隔壁交点部と、隔壁交点部以外の隔壁とを区分けするために引いた仮想線であって、実際に引かれているものでなく、隔壁交点部と隔壁との材料、気孔率等は同様となっている。
【0022】
また、「セルの断面形状が八角形からなる」ことから、三角形セルや四角形セルは除かれる。また、「斜辺の両端」とは、八角形状のセルの斜辺と、その斜辺と隣接する他の辺との間であって八角形の頂角に相当する両端部を意味する。また、「斜辺の両端から引いた仮想線」とは、前述の両端部から引いた想像線(仮想の線)を意味し、実際に隔壁に引かれているものではない。具体的には、図2Bで示される斜辺10aの両端部10b,10bから引いた仮想線b,bを挙げることができる。また、「隔壁交点部側で交差させた際に形成される形状が三角形状となる」とは、前述の仮想線を隔壁交点部側で交差させた際に、前述の斜辺と、仮想線の交差により形成される形状が三角形状となることを意味する。具体的には、図2Bに示されるような、仮想線b,bを隔壁交点部10側で交差させた際に、斜辺10aと、仮想線b,bの交差により形成される三角形Tを挙げることができる。
【0023】
また、「仮想線の、斜辺の両端から交差させた点までの交点三角長さの夫々」とは、仮想線を2本引いて、斜辺の両端から互いに交差する点までの、夫々の仮想線の長さを、交点三角長さとすることを意味する。具体的には、図2Bで示されるように、斜辺10aの両端から引いた仮想線b,bが、互いに交差する点までの交点三角長さaを挙げることができる。ただし、この交点三角長さを有する辺の夫々は、前述の三角形状でいえば、夫々同じ長さの辺からなる二等辺三角形の2つの辺に相当するため、いずれか一方が短いもの(或いは長いもの)は除かれる。また、図2Bに示されるような、直角二等辺三角形に限定されるものではない。また、「交点三角長さの夫々が、セルピッチをCP、隔壁厚さをWTとした際に、0.2(CP−WT)mm〜0.35(CP−WT)mmの長さ」における、「0.2〜0.35」とは、交点三角長さaのセル幅に対する比の値を示す。たとえば、隔壁厚さ(WT)を0.3mm、セルピッチ(CP)を1.80mmとし、交点三角長さaのセル幅に対する比の値を0.35とした場合には、交点三角長さaは、0.525mmとなる。
【0024】
好ましくは、前記交点三角長さが、0.2(CP−WT)mm〜0.3(CP−WT)mmである。触媒層をセル形状に沿ってより均一化でき、圧力損失の増大を確実に低減できる。隔壁交点部における触媒層の湾曲がなくなり、触媒層を薄くできる。これにより、圧力損失の増大を回避でき、触媒層が均一化することにより、触媒の大部分を有効活用できる。
【0025】
また、隔壁2の気孔率は、40〜80%であることが好ましく、45〜80%であることが更に好ましい。気孔率が40%未満であると、隔壁内へ触媒が十分に侵入せず隔壁表面に形成される触媒層厚が増加し、圧力損失が増大する傾向にある。一方、気孔率が80%超であると、強度が不十分となる傾向にある。
【0026】
ハニカム構造体1に使われる材料としては、コージェライト、SiC、ムライト、アルミニウムチタネート、及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種からなる材料を使用することができる。
【0027】
また、本実施形態のハニカム構造体1の、セルの連通方向に垂直な面で径方向に切断した断面の形状は、設置しようとする排気系の内形状に適した形状であることが好ましい。具体的には、円、楕円、長円、台形、三角形、四角形、六角形、又は左右非対称な異形形状を挙げることができる。なかでも、円、楕円、長円が好ましい。
【0028】
また、セル密度が30セル/cm以上100セル/cm未満であり、隔壁の厚さが50μm以上310μm未満であるように形成することが好ましい。セル密度が30個/cm未満であると、排ガスとの接触効率が不足する傾向にある。一方、セル密度が100個/cm以上であると、圧力損失が増大する傾向にある。隔壁の厚さが50μm未満であると、強度が不足して耐熱衝撃性が低下する場合がある。一方、隔壁の厚さが310μm以上であると、圧力損失が増大する傾向にある。好ましくは、隔壁の厚さが110μm以上300μm未満である。
【0029】
また、CP(セルピッチ)が、0.85mm以上3.59mm以下であることが好ましく、1.27mm以上1.80mm以下であることがより好ましい。CP(セルピッチ)が、0.85mm未満であると、排ガスとの接触効率が不足する傾向にある。一方、CP(セルピッチ)が、3.59mm超であると、圧力損失が増大する傾向にある。
【0030】
本発明は、前述のハニカム構造体に、自動車排ガス浄化用触媒を担持したハニカム触媒体である。つまり、本発明のハニカム触媒体は、前述のハニカム構造体1の隔壁の表面、および細孔の内表面の双方に触媒が担持されて触媒層が形成されたものであり、次にハニカム触媒体について説明する。
【0031】
本実施形態における隔壁の平均細孔径は、5〜100μmであることが好ましく、10〜80μmであることが更に好ましく、15μmを超えて60μm以下であることが特に好ましい。平均細孔径が5μm未満であると、例えばエンジンから排出される排ガスに含まれるカーボン微粒子やアッシュ等の微粒子が捕捉され易くなり、細孔を閉塞してしまう。一方、平均細孔径が100μm超であると、排ガスと触媒層との接触面積を十分に確保し難くなる傾向にある。この平均細孔径の測定は、水銀ポロシメータにより測定できる。
【0032】
本実施形態のハニカム触媒体を構成する触媒層5aに含有される触媒の具体例としては、(1)ガソリンエンジン排ガス浄化三元触媒、(2)ガソリンエンジン又はディーゼルエンジン排ガス浄化用の酸化触媒、(3)NOx選択還元用SCR触媒、(4)NOx吸蔵触媒、を挙げることができる。
【0033】
ガソリンエンジン排ガス浄化三元触媒は、ハニカム構造体(ハニカム担体)の隔壁を被覆する担体コートと、この担体コートの内部に分散担持される貴金属とを含むものである。担体コートは、例えば活性アルミナにより構成されている。また、担体コートの内部に分散担持される貴金属としては、Pt、Rh、若しくはPd、又はこれらを組み合わせたものを好適例として挙げることができる。更に、担体コートには、例えば、酸化セリウム、酸化ジルコニア、シリカ等の化合物、又はこれらを組み合わせた混合物が含有される。なお、貴金属の合計量を、ハニカム構造体の体積1リットル当り、0.17〜7.07gとすることが好ましい。
【0034】
ガソリンエンジン又はディーゼルエンジン排ガス浄化用の酸化触媒には、貴金属が含有される。この貴金属としては、Pt、Rh、及びPdからなる群より選択される一以上が好ましい。なお、貴金属の合計量を、ハニカム構造体の体積1リットル当り、0.17〜7.07gとすることが好ましい。また、NOx選択還元用SCR触媒は、金属置換ゼオライト、バナジウム、チタニア、酸化タングステン、銀、及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種を含有するものである。
【0035】
NOx吸蔵触媒には、アルカリ金属、及び/又はアルカリ土類金属が含有される。アルカリ金属としては、K、Na、Liを挙げることができる。アルカリ土類金属としては、Caを挙げることができる。なお、K、Na、Li、及びCaの合計量を、ハニカム構造体の体積1リットル当り、5g以上とすることが好ましい。
【0036】
次に、本発明のセラミックスハニカム構造体の製造方法を説明する。本発明において、ハニカム構造体1は、所定原料からなる坏土を用いて押出成形法等によりハニカム形状の成形体を得た後、それを乾燥、焼成することにより得られるものである。なお、前述のような、隔壁交点部10の一部が、セル3の断面形状における八角形の斜辺に相当し、セルピッチをCP、隔壁厚さをWTとして、斜辺の両端から引いた仮想線を隔壁交点部側で交差させた際に形成される形状が三角形状となるような、セル及び隔壁構造を備えさせるには、例えば、図5のような口金30を用いて、押出成形すればよい。図5に示すように、口金30には、セル3の断面形状における八角形の斜辺と、前述の交点三角長さを有する2辺を充足する隔壁交点部10を形成できるように口金が形成されている。さらに、口金には、八角形セルに相当するブロック部51を備える。そして、この口金に、素地用注入口スリット50から注入された素地(坏土)が、スリット53側から排出されることにより、ハニカム形状の成形体を得られるように構成されている。
【0037】
本発明のハニカム触媒体は、前述のハニカム構造体1に、従来公知の方法に準じた製造方法に従って、触媒を担持することにより製造することができる。具体的には、先ず、触媒を含有する触媒スラリーを調製する。次いで、この触媒スラリーを、吸引法等の方法により、ハニカム構造体1の隔壁2の細孔表面にコートする。その後、室温又は加熱条件下で乾燥することにより、本発明のハニカム触媒体を製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実験1)
タルク、カオリン、仮焼カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカのうちから複数を組み合わせて、その化学組成が、SiO42〜56質量%、Al0〜45質量%、及びMgO12〜16質量%となるように所定の割合で調合されたコージェライト化原料に対して、造孔剤としてグラファイト及び合成樹脂を狙いの気孔率を得るために必要な量添加した。更に、メチルセルロース類、及び界面活性剤をそれぞれ適当量添加した後、水を加えて混練することにより杯土を調製した。調製した杯土を真空脱気した後、押出成形することによりハニカム成形体を得た。
【0040】
なお、押出成形では、図5に示す、八角形セルに相当するブロック部51、及び隔壁交点部に相当する素地用注入口スリット50が形成されている口金30を用いた。得られたハニカム成形体を乾燥後、最高温度1400〜1430℃の温度範囲で焼成することにより、表1、2に示す隔壁の細孔構造を有する、直径228.6mm、全長203.2mmのハニカム構造体(実施例1〜12、比較例2、3、6、7、10、11、14、15)を作製した。また、隔壁交点部に交点Rを備えるハニカム成形体を作成するために、押出成形では、図6に示す、口金107を用いた。この口金107では、隔壁交点部に交点Rを備えさせるため、図6に示されるように、隔壁交点部に相当する領域にR状スリット107aを形成している。そして、このR状スリット107より、注入された素地(坏土)が、スリット108側から排出される。このようにして、得られたハニカム成形体を乾燥後、最高温度1400〜1430℃の温度範囲で焼成することにより、表1、2に示す隔壁の細孔構造を有する、直径228.6mm、全長203.2mmのハニカム構造体(比較例1、4、5、8、9、12、13、16)を作製した。なお、比較例1、4、5、8、9、12、13、16の交点Rの曲率半径は、表2に示される通りである。
【0041】
なお、上述した表1、2内の「交点三角長さa」は、セルピッチをCP、隔壁厚さをWTとした際に、交点三角長さaのセル幅(CP−WT)に、交点三角長さaのセル幅に対する比(0.2〜0.35)をかけて算出した長さ(mm)であり、交点三角長さa=交点三角長さaのセル幅に対する比×(CP−WT)(式1)から算出できる。なお、隔壁交点部の一部が、ハニカム構造体の八角形セルの斜辺に相当し、その斜辺と「交点三角長さa」を有する辺の2つを、交差させることで、仮想の2等辺三角形が形成されることになる。また、上述した表1、2内の「交点R」は、次の通りである。「交点R」とは、ハニカム構造体1の隔壁2の交点部に意図的にR部(円弧状の湾曲部)を付加したものである。そして、「交点R曲率半径」は、「交点R」を設けた際のR部の半径Rの長さであって、0.2mm≦半径R≦1.2mmのものを指し、今回製作したハニカム構造体の交点部のR部の半径Rは、0.2mm〜0.4mmの範囲であった(比較例参照)。また、表2における「交点三角長さaのセル幅に対する比の値」の「−」は、交点Rを設けたことを示している。「交点三角長さa」の「−」についても同様である。一方、表1、2中「交点R曲率半径」が「−」となっているものは、交点R曲率半径を有していないためである。
【0042】
(気孔率の測定方法)
気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0043】
(圧力損失の測定方法)
エンジン(8L/6気筒)を用いて試料(直径228.6mm×全長203.2mm)に排気ガスを通し、試料の前段および後段の排気ガス圧力を測定、圧力損失を算出した。
【0044】
(NOx浄化率の測定方法)
Urea−SCRシステムを用いてエンジン(8L/6気筒)評価を行った。エンジン排気ガスとNOx浄化に必要な尿素をSCR触媒(選択還元型NOx触媒)が担持された試料(直径228.6mm×全長203.2mm)へ通し、試料前段および後段のNOx量を測定、NOx浄化率を算出した。主な試験条件は次の通りである。排気ガス流量は、380kg/h、排気ガス温度は、250℃(測温位置:試料ガス入口端面から20mm手前)、NOx/NH当量比は、1.0であった。
【0045】
(アイソスタティック強度の測定方法)
試料(直径228.6mm×全長203.2mm)を用いて、社団法人自動車技術会発行の自動車規格であるJASO規格M505−87に規定されているアイソスタティック破壊強度の測定方法に従いアイソスタティック強度試験装置にて測定した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
評価試験において、実施例1〜3及び比較例2〜4は比較例1を、実施例4〜6及び比較例6〜8は比較例5を、実施例7〜9及び比較例10〜12は比較例9を、実施例10〜12及び比較例14〜16は比較例13の結果を基準とした。なお、試料に担持させた触媒量は200g/L(試料(ハニカム担体)の外形形状の単位容積(L)あたりの触媒量(200g)を示す)とした。
【0049】
*2の判定基準は、次の通りである。圧力損失は、基準に対して、−16%以下を◎(極めて良好)、−15〜−6%を○(良好)、−5〜5%を△(同等)、6%以上を×(悪い)とした。アイソスタティック強度は、基準に対して、21%以上を◎(極めて良好)、20%〜11%を○(良好)、−10〜10%を△(同等)、−11%以下を×(悪い)とした。NOx浄化率は、16%以上を◎(極めて良好)、6〜15%を○(良好)、−5〜5%を△(同等)、−6%以下を×(悪い)とした。
【0050】
また、総合判定基準は、次の通りである。圧力損失が◎、且つアイソスタティック強度が△または○または◎(同等以上)、且つNOx浄化率が△または○または◎(同等以上)の場合を総合判定◎(極めて良好)とした。圧力損失が○、且つアイソスタティック強度が△または○または◎(同等以上)、且つNOx浄化率が△または○または◎(同等以上)の場合を総合判定○(良好)とした。圧力損失が△(同等)、且つアイソスタティック強度が△または○または◎(同等以上)、且つNOx浄化率が△または○または◎(同等以上)の場合を総合判定△(同等)とした。圧力損失が×、またはアイソスタティック強度が×の場合を総合判定×(悪い)とした。
【0051】
(考察1)
表1、2に示されるように、実施例1〜3は、比較例1に比べ、触媒層厚が均一になったため、総合判定が良くなった。同様に比較例4においても、交点Rを形成したため、触媒層厚が均一にならず、総合判定として見劣りすることが裏づけられた。また、比較例2、3では、交点Rを形成せずに、交点三角を有する構造としている。しかし、比較例2では、交点三角長さaが0.37であり、比較例3では、交点三角長さaが0.18であることから、触媒層厚が均一とならず、十分な結果を得られないことが確認された。同様に、実施例4〜6、実施例7〜9、及び実施例10〜12についても、比較する比較例5、9、13よりも好ましい結果を得ることができた。
【0052】
次に、触媒量の低減効果確認のために以下のように実験2を行った。
【0053】
(実験2)
まず、実験1のハニカム成形体と同様のハニカム成形体を用意した。具体的には、図5に示す、隔壁交点部に相当するスリット50が形成されている口金30を用いた。そして、得られたハニカム成形体を乾燥後、最高温度1400〜1430℃の温度範囲で焼成することにより、表3に示す隔壁の細孔構造を有する、直径228.6mm、全長203.2mmのハニカム構造体(参考実施例1〜12)を作製した。また、押出成形の際に、図6に示す口金107を用いて、隔壁交点部に交点Rを備えるハニカム成形体を得た。そして、得られたハニカム成形体を乾燥後、最高温度1400〜1430℃の温度範囲で焼成することにより、表3に示す隔壁の細孔構造を有する、直径228.6mm、全長203.2mmのハニカム構造体(参考比較例1〜4)を作製した。なお、参考比較例1〜4の交点Rの曲率半径は、表3に示される通りである。
【0054】
なお、上述した表3内の「交点三角長さa」、及び「交点R」は、実験1と同様とした。また、表3における「交点三角長さaのセル幅に対する比の値」の「−」は、交点Rを設けたことを示している。「交点三角長さa」の「−」についても同様である。一方、表中「交点R曲率半径」が「−」となっているものは、交点R曲率半径を有していないためである。
【0055】
(気孔率の測定方法)
気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0056】
(圧力損失の測定方法)
エンジン(8L/6気筒)を用いて試料(直径228.6mm×全長203.2mm)に排気ガスを通し、試料の前段および後段の排気ガス圧力を測定、圧力損失を算出した。
【0057】
(NOx浄化率の測定方法)
Urea−SCRシステムを用いてエンジン(8L/6気筒)評価を行った。エンジン排気ガスとNOx浄化に必要な尿素をSCR触媒(選択還元型NOx触媒)が担持された試料(直径228.6mm×全長203.2mm)へ通し、試料前段および後段のNOx量を測定、NOx浄化率を算出した。主な試験条件は次の通りである。排気ガス流量は、380kg/h、排気ガス温度は、250℃(測温位置:試料ガス入口端面から20mm手前)、NOx/NH当量比は、1.0であった。
【0058】
(アイソスタティック強度の測定方法)
試料(直径228.6mm×全長203.2mm)を用いて、社団法人自動車技術会発行の自動車規格であるJASO規格M505−87に規定されているアイソスタティック破壊強度の測定方法に従いアイソスタティック強度試験装置にて測定した。
【0059】
【表3】

【0060】
評価試験において、参考実施例1〜3は参考比較例1を、参考実施例4〜6は、参考比較例2を、参考実施例7〜9は参考比較例3を、参考実施例10〜12は参考比較例4の結果を基準とした。なお、表3中の*1の触媒量比は、試料(ハニカム担体)の外形形状の単位容積(L)あたりの触媒量を示し、200g/Lが100%である。
【0061】
*2の判定基準は、次の通りである。圧力損失は、基準に対して、−16%以下を◎(極めて良好)、−15〜−6%を○(良好)、−5〜5%を△(同等)、6%以上を×(悪い)とした。アイソスタティック強度は、基準に対して、21%以上を◎(極めて良好)、20%〜11%を○(良好)、−10〜10%を△(同等)、−11%以下を×(悪い)とした。NOx浄化率は、16%以上を◎(極めて良好)、6〜15%を○(良好)、−5〜5%を△(同等)、−6%以下を×(悪い)とした。
【0062】
また、総合判定基準は、次の通りである。圧力損失が◎、且つアイソスタティック強度が△または○または◎(同等以上)、且つNOx浄化率が△または○または◎(同等以上)の場合を総合判定◎(極めて良好)とした。圧力損失が○、且つアイソスタティック強度が△または○または◎(同等以上)、且つNOx浄化率が△または○または◎(同等以上)の場合を総合判定○(良好)とした。圧力損失が△(同等)、且つアイソスタティック強度が△または○または◎(同等以上)、且つNOx浄化率が△または○または◎(同等以上)の場合を総合判定△(同等)とした。圧力損失が×、またはアイソスタティック強度が×の場合を総合判定×(悪い)とした。
【0063】
(考察2)
表3に示されるように、参考実施例1〜12は、基準となる比較例に比べ、触媒層厚が均一になったため、総合判定が良くなった。とりわけ、触媒量比を、比較例と同等する実施例においては、圧力損失、アイソスタティック強度、NOx浄化率の点で、極めて良好な結果を得た。さらに、触媒量比を低減させた実施例においても、基準となる比較例に比べ、極めて良好な結果を得られた。したがって、触媒量比を低減させても、圧力損失の増大を低減でき、触媒の大部分を有効活用でき、さらに、強度低下を回避できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のハニカムハニカム構造体は、触媒を担持することにより、浄化効率に優れ、圧力損失が小さく、限られた空間であっても搭載可能なハニカム触媒体として利用することができる。従って、本発明のハニカム触媒体は、例えば、自動車用、建設機械用、及び産業用定置エンジン、並びに燃焼機器等から排出される排ガスに含まれる被浄化成分の浄化に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0065】
1:ハニカム構造体、2:隔壁、3:セル、5:触媒、5a:触媒層、10:隔壁交点部、10a:八角形セルの斜辺(隔壁交点部の一部)、10b:(斜辺の)両端部、30:口金、50:素地用注入口スリット、51:ブロック部、53:スリット、102:(従来のハニカム構造体の)隔壁、103:(従来のハニカム構造体の)セル、105:触媒、105a:触媒層、107:口金、107a:R状スリット、108:スリット、109:(従来のハニカム構造体のセルと隔壁の)交点部、a:交点三角長さ、b:仮想線、s:仮想線、t:仮想線、T:三角形、CP:セルピッチ、WT:隔壁厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体からなる隔壁を有し、前記隔壁によって、流体の流路となる多数のセルが区画形成されたハニカム構造体であって、
前記セルを形成する前記隔壁の、前記隔壁同士が交差する領域に、隔壁交点部が形成されてなり、
前記セルの断面形状が八角形からなるとともに、前記隔壁交点部の一部が、前記セルの断面形状における八角形の斜辺に相当してなり、
前記斜辺の両端から引いた仮想線を前記隔壁交点部側で交差させた際に形成される形状が三角形状となり、且つ、前記仮想線の、前記斜辺の両端から交差させた点までの交点三角長さの夫々が、セルピッチをCP、隔壁厚さをWTとした際に、0.2(CP−WT)mm〜0.35(CP−WT)mmの長さを有するハニカム構造体。
【請求項2】
前記交点三角長さが、0.2(CP−WT)mm〜0.3(CP−WT)mmである請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
コージェライト、SiC、ムライト、アルミニウムチタネート、アルミナの群から選択される少なくとも1種からなる請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハニカム構造体に、自動車排ガス浄化用触媒を担持したハニカム触媒体。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−189252(P2011−189252A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56223(P2010−56223)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】