ハニカム構造体の製造方法
【課題】ハニカム構造体の捕集層を隔壁の表面に強固に固着させることができ、且つ、このような捕集層を比較的低温で形成することが可能なハニカム構造体の製造方法を提供すること。
【解決手段】ハニカム基材の隔壁12表面に、セラミックスからなる骨材粒子21と、ルイス塩基成分と、骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、得られた捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、骨材粒子21中のルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて、酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部32によって骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とが固着された捕集層30を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【解決手段】ハニカム基材の隔壁12表面に、セラミックスからなる骨材粒子21と、ルイス塩基成分と、骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、得られた捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、骨材粒子21中のルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて、酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部32によって骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とが固着された捕集層30を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関する。更に詳しくは、ハニカム構造体の捕集層を隔壁の表面に強固に固着させることができ、且つ、このような捕集層を比較的低温で形成することが可能なハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関、又は各種燃焼装置(以下、適宜「内燃機関等」という)から排出される排ガスにはスート(黒鉛)を主体とする粒子状物質(以下、適宜「パティキュレート・マター」、「パティキュレート」、或いは「PM」ともいう)が多量に含まれている。このパティキュレートがそのまま大気中に放出されると環境汚染を引き起こすため、内燃機関等からの排ガス流路には、パティキュレートを捕集するためのフィルタ(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ:DPF。以下、「DPF」ともいう)が搭載されていることが一般的である。
【0003】
このような目的で使用されるフィルタとしては、例えば、多数の細孔を有する多孔質セラミックスからなる隔壁によって、排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム構造の基体を有し、上記複数のセルの一方の開口端部(排ガス流入側の開口端部)と他方の開口端部(排ガス流出側の開口端部)とが目封止部によって、互い違いに目封じされてなるハニカム構造体(以下、「ハニカムフィルタ」ともいう)を挙げることができる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
例えば、図7に示されるハニカム構造体(ハニカムフィルタ101)は、多数の細孔を有する多孔質セラミックスからなる隔壁112によって、複数のセル111が区画形成されたハニカム構造体101(ハニカム基材)を備え、所定のセル111bの排ガス流入側の開口端部と残余のセル111aの排ガス流出側の開口端部とが目封止部113a,113bにより目封止されている。このようなハニカムフィルタ101は、一方の端部115aが開口したセル111a(以下、「流入セル」ということがある)から排ガスが流入すると、セル111aを区画形成する隔壁112の表面から隔壁112を通過して、他方の端部115bが開口したセル111bから排ガス(浄化ガス)が流出するように構成されている。即ち、セル111aに流入した排ガスは、隔壁112に形成された細孔を経由してセル111bに流出し、ハニカムフィルタ101の他方の端部115bから排出される。そして、上述したように排ガスが隔壁を通過する際に、排ガス中のパティキュレートが隔壁に捕集され、排ガスが浄化される。
【0005】
しかし、DPFは上述のような構造を有するため、クリーンな状態からPMの捕集を開始すると、隔壁内部の細孔にPMが堆積し(深層ろ過)、急激に圧力損失(以下、「圧損」と記す場合がある)が増加してしまう場合がある。このような急激な圧力損失の増加は、エンジン性能を低下させる要因となる。このような急激な圧力損失の増加を抑制するため、また、PMの捕集効率を向上させるために、隔壁の流入側表面に捕集層を形成し、PMが隔壁内部へ侵入することを防止するDPFが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
また、捕集層を隔壁に固着させるために、捕集層を隔壁の流入側表面に塗布(製膜)するだけでなく、捕集層形成粒子や隔壁を構成する材料より融点が低い結合材(釉薬)を用いて、捕集層形成粒子や隔壁を構成する材料の融点よりも低く、且つ、結合材の融点より高い温度で焼成して結合材を溶融させ、捕集層構成粒子と隔壁とを固着させる捕集層形成方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−255539号公報
【特許文献2】特開2005−248726号公報
【特許文献3】特開2008−188511号公報
【特許文献4】実用新案登録第2607898号公報
【特許文献5】特開平9−48679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5に記載の捕集層形成方法では、用いる結合材の融点が高く、結合材を溶融させ、捕集層構成粒子を隔壁に固着させるためには、高温(1300〜1350℃)で焼成を行う必要があった。そのため、このような捕集層を有するDPFを工業的規模で大量に製造する際、1つ1つのDPFの製造に要する時間が長く、製造効率を上げることが困難であるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ハニカム構造体の捕集層を隔壁の表面に強固に固着させることができ、且つ、このような捕集層を比較的低温で形成することが可能なハニカム構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、捕集層の結合部形成原料として、比較的低温、例えば、700〜1000℃での熱処理により、捕集層構成粒子どうし、及び捕集層構成粒子と隔壁とを強固に固着する結合部を形成することができる物質、例えば、骨材粒子を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質や、融点又は軟化点が比較的低い物質を用いることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下に示すハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0012】
[1] 多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の前記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることにより前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、得られた前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させて、前記酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部によって前記骨材粒子どうし及び前記骨材粒子と前記隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【0013】
[2] 前記原料供給工程において、前記捕集層形成原料として、前記ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子と、前記骨材粒子を構成するセラミックス中の前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を、加熱されることにより生じ得る結合部形成原料と、を含むものを用い、前記熱処理工程において、前記骨材粒子中の前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させる前記[1]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0014】
[3] 前記結合部形成原料として、前記結合部形成原料から生成したルイス酸成分と、前記ルイス塩基成分とが酸塩基反応したときに、前記骨材粒子より融点が高い塩を生成し得る物質を用いる前記[1]又は[2]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0015】
[4] 前記結合部形成原料として、リン酸化合物、硫酸化合物、硝酸化合物、炭酸化合物、塩素酸化合物、シュウ酸化合物、及びヨウ素酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を用いる前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0016】
[5] 前記結合部形成原料として、リン酸化合物を用いる前記[4]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0017】
[6] 前記結合部形成原料として、リン酸二水素アンモニウムを用いる前記[5]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0018】
[7] 前記骨材粒子として、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含有するセラミックス粒子を用いる前記[1]〜[6]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0019】
[8] 前記骨材粒子として、コージェライトからなる微粒子を用いる前記[1]〜[7]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0020】
[9] 前記原料供給工程において、前記骨材粒子100質量部に対して、50〜250質量部の前記結合部形成原料を含む前記捕集層形成原料を塗布して、前記捕集層前駆体を形成する前記[1]〜[8]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0021】
[10] 多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の前記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、融点又は軟化点が500〜1000℃である結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、前記結合部形成原料を溶融又は軟化させて、溶融又は軟化した前記結合部形成原料から形成される前記結合部により前記骨材粒子どうし及び前記骨材粒子と前記隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【0022】
[11] 前記結合部形成原料として、ガラス粉末を用いる前記[10]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0023】
[12] 前記熱処理を、前記結合部形成原料として用いられる物質の融点又は軟化点より0〜100℃高い温度で行う前記[10]又は[11]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0024】
[13] 所定のセルの排ガス流入側の開口端部と残余のセルの排ガス流出側の開口端部とが目封止された前記ハニカム基材の前記排ガス流入側の端面側から前記捕集層形成原料を気流を介して搬送して、前記排ガス流入側の端面側が開口した前記残余のセルの開口部から前記捕集層形成原料を流入させ、前記残余のセル内の隔壁の表面に前記捕集層形成原料を付着させる前記[1]〜[12]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0025】
[14] 前記ハニカム基材としてコージェライトからなるものを用いる前記[1]〜[13]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、比較的低温で、隔壁に強固に固着した捕集層を作製することができる。結合部形成原料として、例えば、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることによりルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質(結合部形成原料)、又は融点又は軟化点が500〜1000℃である物質を用いることにより、比較的低温であっても、隔壁に強固に固着した捕集層を作製することができる。
【0027】
即ち、本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、捕集層中に結合部が形成されるため、この結合部により骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とが固着され、隔壁に強固に固着した捕集層を作製することができる。
【0028】
そして、本発明のハニカム構造体の製造方法では、結合部形成原料として、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることによりルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質(結合部形成原料)、又は融点若しくは軟化点が比較的低い物質を用いることにより、比較的低温でも、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とを固着することができる結合部を形成することができる。
【0029】
また、結合部形成原料として、この結合部形成原料から生成したルイス酸成分と、ルイス塩基成分とが酸塩基反応したときに、骨材粒子より融点が高い塩を生成し得る物質を用いて、高融点の塩を含有する結合部を形成した場合、高温条件下でも捕集層が破損したり剥離したりすることがなく、耐熱性に優れた捕集層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において用いられるハニカム基材を模式的に示す断面図である。
【図2A】第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態の原料供給工程において、捕集層前駆体を形成した後の状態を模式的に示す断面図である。
【図2B】図2A中のP2部の拡大図である。
【図3A】第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体を模式的に示す断面図である。
【図3B】図3A中のP3部の拡大図である。
【図4A】第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【図4B】図4Aに示すハニカム構造体の一方の端面を模式的に示す平面図である。
【図4C】図4B中のA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【図5】X線回折法による測定の結果を示すスペクトルである。
【図6】実施例において、捕集層の製膜に用いられた捕集層作製装置の構成を示す模式図である。
【図7】従来のハニカムフィルタの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0032】
[1]ハニカム構造体の製造方法(1):
本発明(第一の発明)のハニカム構造体の製造方法は、多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の上記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることにより「上記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、「捕集層前駆体が形成されたハニカム基材」を得る原料供給工程と、得られた「捕集層前駆体が形成されたハニカム基材」を熱処理することにより、上記ルイス塩基成分と、上記結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて、酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部によって骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備える方法である。
【0033】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法によれば、捕集層30中に結合部32が形成されるため、この結合部32が骨材粒子21どうしを固着するとともに骨材粒子21と隔壁12とを固着し、結果として隔壁12に強固に固着した捕集層30を形成することができる。
【0034】
そして、本実施形態のハニカム構造体の製造方法では、ルイス塩基成分と、結合部形成原料22として「ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」と、を用いる。このような物質を反応物として用いることにより、比較的低温、例えば、700〜1000℃でも、酸塩基反応が進行し、生成物として反応物よりも融点が高い塩が生成される。結合部32は、このような塩を含有することにより、骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とを強固に固着することができる。
【0035】
セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることにより「上記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料における、上記ルイス塩基成分としては、結合部形成原料が生成するルイス酸成分と酸塩基反応して塩を生成するものであれば特に制限はないが、例えば、マグネシア、アルミナなどを挙げることができる。
【0036】
第一の発明のハニカム構造体の製造方法においては、原料供給工程において、捕集層形成原料として、「ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子」と、[「上記骨材粒子を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を、加熱されることにより生じ得る結合部形成原料]と、を含むものを用い、熱処理工程において、骨材粒子中のルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させることが好ましい。このように、ルイス塩基成分を別途添加することなく、「ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子」を用いることにより、より強固な固着状態の捕集層が得られるという利点がある。ルイス塩基成分を更に添加する手間が掛からないという利点がある。
【0037】
本発明(第一の発明)のハニカム構造体の製造方法の一実施形態を図1〜図3Bを参照しながら説明する。図1は、第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において用いられるハニカム基材を模式的に示す断面図である。図2Aは、第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態の原料供給工程において、捕集層前駆体を形成した後の状態を模式的に示す断面図である。図2Bは、図2A中のP2部の拡大図である。図3Aは、第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体10cを模式的に示す断面図である。図3Bは、図3A中のP3部の拡大図である。なお、図1〜図3Bの断面図は、ハニカム構造体1(図4A参照)のセル11の延長方向に平行な断面を示す図である。なお、図3A及び図4C中、隔壁12の表面にのみ捕集層20を描いているが、ハニカム構造体の機能上、隔壁の表面以外に、目封止部の内側(目封止部のセル側の面)に形成されていてもよい。
【0038】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法は、図1〜図3Bに示すように、多孔質の隔壁12によって排ガスの流路となる複数のセル11が区画形成され、且つ、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部(一方の開口端部)と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部(一方の開口端部)とが目封止されたハニカム基材(目封止ハニカム基材10a)(図1参照)の、残余のセル11aを区画形成する隔壁12の残余のセル11a側の表面に、ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子21と、「骨材粒子21を構成するセラミックス中の前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を、加熱されることにより生じ得る結合部形成原料22と、を含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体20を形成し、捕集層前駆体20が形成されたハニカム基材(捕集層前駆体形成ハニカム基材10b)を得る原料供給工程(図2A、図2B参照)と、捕集層前駆体形成ハニカム基材10bを熱処理することにより、前記骨材粒子21中の前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料22中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させて、前記酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部32によって前記骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とが固着された捕集層30を形成する(捕集層30を形成して、捕集層30が形成されたハニカム構造体10cを得る)熱処理工程(図3A、図3B参照)とを備える方法である。このようにして、隔壁12の表面に捕集層30が形成されたハニカム構造体10cを製造することができる。
【0039】
第一の発明のハニカム構造体の製造方法においては、結合部形成原料から生成したルイス酸成分と、ルイス塩基成分とが酸塩基反応したときに、酸塩基反応により骨材粒子より融点が高い塩を生成し得る物質を用いることが好ましい。具体的には、本実施形態においては、結合部形成原料22として、「骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して融点が骨材粒子21の融点よりも高い塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」を用いることが好ましい。結合部形成原料22として、「骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して融点が骨材粒子21の融点よりも高い塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」を用いた場合、高温条件下でも捕集層30が破損したり剥離したりすることがなく、耐熱性に優れた捕集層を形成することができる。なお、ここでいう「高温条件」とは、セラミックスからなる骨材粒子の融点、即ち、セラミックスの融点を超えない範囲で、高い温度のことである。
【0040】
なお、本明細書中、「塩」とは、ルイスの定義におけるルイス酸とルイス塩基との酸塩基反応により生成する塩(えん)のことである。
【0041】
また、本明細書中、「結合部」とは、捕集層の内部において骨材粒子どうしを結合し、更に捕集層中の骨材粒子とハニカム基材の隔壁とを結合する架橋部分のことである。捕集層は、これらの結合により、骨材粒子どうし、及び骨材粒子と隔壁との間を固着し、捕集層としての耐剥離性や耐熱性を発現するものである。
【0042】
以下、本実施形態のハニカム構造体の製造方法について、順を追って説明する。
【0043】
[1−1]ハニカム基材の作製:
図1に示すように、目封止ハニカム基材10aは、多孔質の隔壁12によって排ガスの流路となる複数のセル11が区画形成され、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部とを目封止する目封止部13a,13bを有するものである。
【0044】
ハニカム基材は、例えば、セラミックス粒子、水の他、所望により有機バインダ(ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、メチルセルロース等)、造孔材(グラファイト、澱粉、合成樹脂等)、界面活性剤(エチレングリコール、脂肪酸石鹸等)等を混合し、混練することによって坏土とし、その坏土を所望の形状に成形し、乾燥することによって成形体を得、その成形体を焼成することによって得ることができる。なお、上述したハニカム基材用のセラミックス粒子としては、捕集層を形成するための骨材粒子よりも平均粒子径が大きな粒子を用いることが好ましい。
【0045】
ハニカム基材の原料としては、特に制限はなく、セラミックスを形成し得る原料を好適に用いることができ、強度、耐熱性、耐食性等の観点から、コージェライト化原料、珪素−炭化珪素複合材料、アルミナ、ムライト、アルミニウムチタネート、窒化珪素等を挙げることができる。これらの原料の中でも、後述するように、捕集層の骨材粒子として好ましいコージェライトと熱膨張係数等が等しいため、コージェライト化原料が特に好ましい。
【0046】
ハニカム基材は、例えば、以下のような作製方法を一例として挙げることができる。但し、ハニカム基材の作製方法は、以下の作製方法に限定されることはなく、例えば、従来公知のハニカム基材(ハニカム構造体)の製造方法に準じて行うことができる。
【0047】
まず、ハニカム基材の原料として、例えば、コージェライト化原料に、水等の分散媒、及び造孔材を加えて、更に、有機バインダ及び分散剤を添加して混練することによって、可塑性の坏土を得る。次に、得られた坏土を、所定の金型を用いて押出成形し、所望形状のハニカム成形体を成形する。次に、得られたハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させる。
【0048】
次に、図1に示すように、所定のセル11bの一方の開口部を、目封止部を形成するためのスラリーによって目封止して目封止部13bを形成する。次いで、残余のセル11aの他方の開口部も同様に上記スラリーによって目封止して目封止部13aを形成する。その後、目封止部13a,13bを形成したハニカム成形体を焼成(仮焼き)する。
【0049】
上記した仮焼きは、脱脂のために行われるものであって、例えば、酸化雰囲気において550℃で、3時間程度で行うものが挙げられるが、これに限られるものではなく、ハニカム成形体中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)に応じて行われることが好ましい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼温度は200〜1000℃程度とすればよい。仮焼時間としては特に制限はないが、通常は、3〜100時間程度である。
【0050】
更に、焼成(本焼成)を行う。この「本焼成」とは、仮焼体中の成形原料を焼結させて所定の強度を確保するための操作を意味する。焼成条件(温度・時間)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、焼成温度は一般的には、約1400℃〜1500℃前後程度であるが、これに限定されるものではない。
【0051】
以上のようにして、ハニカム基材を作製することができる。なお、上記作製方法においては、セルの開口部を目封止する目封止部を形成した後に、仮焼き、及び本焼成を行ってハニカム基材を作製する例について説明しているが、目封止部は、ハニカム成形体の焼成を行った後に、別途形成してもよい(例えば、後述するように、捕集層を配設した後に形成したものでもよい)。なお、目封止部の形成方法については、特に制限なく従来公知の形成方法を用いることができ、例えば、所定のセルの一方の開口部にマスクを配設し、残余のセルの開口部に目封止スラリーを充填し、その後、残余のセルの他方の開口部にマスクを配設し、所定のセルの開口部に目封止スラリーを充填する方法を挙げることができる。
【0052】
目封止部の原料としては、ハニカム基材の原料と同様の原料を用いると、ハニカム基材と焼成時の膨張率を同じにでき、耐久性の向上につながるため好ましい。
【0053】
なお、本発明のハニカム構造体の製造方法においては、図1に示す目封止ハニカム基材10aのように、目封止部13a,13bを有するものを用いることが好ましいが、目封止部を有さないハニカム基材を用いてもよい。
【0054】
例えば、目封止部を有さないハニカム基材を用いて、原料供給工程を行って、捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得た後、熱処理工程を行い、捕集層が配設されたハニカム構造体を得る。その後、所定のセルの排ガス流入側の開口端部(一方の開口部)と残余のセルの排ガス流出側の開口端部(他方の開口部)とを目封止して目封止部を形成することもできる。目封止部を形成するには、従来公知の方法を適宜採用することができる。具体的には、まず、ハニカム構造体の一方の端面に、所定のセルの開口部に対応する部分に孔が形成されたマスクを貼り付けるとともに、他方の端面に、残余のセルの開口部に対応する部分に孔が形成されたマスクを貼り付ける。次に、一方の端部及び他方の端部を順次目封止スラリーに浸漬させることにより、所定のセル及び残余のセルの開口端部に目封止スラリーを充填する。次に、従来公知の条件にて、乾燥、焼成を行う。このようにして所定の位置に目封止部を配設したハニカム構造体を得ることができる。
【0055】
なお、原料供給工程において、目封止部を有さないハニカム基材を用いる際には、予めその両端面に上記マスクを貼り付けておくことが好ましい。捕集層を配設する必要のないセルの表面(例えば、図3Aに示す所定のセル11bの表面)に捕集層を配設することを回避し、捕集層形成原料を無用に使用することを防止することができるためである。
【0056】
また、上記作製方法においては、ハニカム基材が、一体的に押出成形(一体成形)される場合の例について説明しているが、例えば、複数本のハニカムセグメントからなるハニカムセグメント接合体からなるハニカム基材を作製し、このハニカム基材を用いてもよい。
【0057】
また、上記作製方法においては、ハニカム基材の原料として、コージェライト化原料を用いた場合の例について説明しているが、例えば、ハニカム基材をSi−SiC複合材料によって作製する場合には、SiC粉末及び金属Si粉末を80:20の質量割合で混合し、これにメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、界面活性剤及び水を加えて混練して坏土を調製することができる。
【0058】
[1−2]捕集層の作製:
次に、本実施形態のハニカム構造体の製造方法における捕集層を作製する方法について図2A〜図3Bを参照しながら説明する。本実施形態のハニカム構造体の製造方法における捕集層30を作製する方法は、図2A、図2Bに示すように、上述の作製方法で得られた目封止ハニカム基材10aの、残余のセル11aを区画形成する隔壁12の残余のセル11a側の表面に、ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子21と、「骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を、加熱により生じ得る結合部形成原料22と、を含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体20を形成し、捕集層前駆体20が形成されたハニカム基材(捕集層前駆体形成ハニカム基材10b)を得る原料供給工程と、図3A、図3Bに示すように、捕集層前駆体形成ハニカム基材10bを熱処理することにより、骨材粒子21中のルイス塩基成分と、結合部形成原料22中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて、酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部32によって骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とが固着された捕集層30を形成する(捕集層30を形成して、捕集層30が形成されたハニカム構造体10cを得る)熱処理工程とを備える方法である。
【0059】
即ち、本実施形態のハニカム構造体の製造方法における捕集層30を作製する方法は、結合部形成原料22として、「骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」を用い、熱処理により、骨材粒子21中のルイス塩基成分と、結合部形成原料22中のルイス酸成分と、を酸塩基反応させて、塩を含有する結合部32により固着された捕集層30を形成する方法である。
【0060】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法では、骨材粒子21と結合部形成原料22との間で酸塩基反応を進行させて、骨材粒子21を固着させる結合部32中に塩を生成させることで捕集層30を形成させる。具体的には、結合部形成原料22として、骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質とを用いることにより、比較的低温、例えば、700〜1000℃でも、骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とを強固に固着する結合部32を形成することができる。即ち、ルイス塩基成分とルイス酸成分との酸塩基反応は、比較的低温でも進行するため、従来のような高い温度条件を必要とせず、結合部32を形成することができる。また、酸塩基反応の一方の反応物であるルイス塩基成分は、骨材粒子21を構成するセラミックス中に存在するものとすることができる。その場合、骨材粒子21と結合部32との界面において酸塩基反応が特に良好に進行し、塩が生成するため、骨材粒子21と結合部32との結合(固着)がより強固なものとなる。
【0061】
[1−2−1]原料供給工程:
捕集層を構成する骨材粒子の材質は、結合部形成原料中のルイス酸成分との酸塩基反応においてルイス塩基として反応するルイス塩基成分を含む材質であれば、特に制限はなく、例えば、コージェライト、炭化珪素、アルミナ、ムライト、アルミニウムチタネート、カルシア及び窒化硼素のうちのいずれかであることが好ましい。また、これらの骨材粒子の材料の中でも、結合部形成原料に含有されるルイス塩基と酸塩基反応するもの、例えば、コージェライト、アルミナ、ムライト、カルシアが更に好ましく、コージェライト、アルミナ、ムライトが特に好ましい。このような結合部形成原料に含有されるルイス塩基と酸塩基反応するものは、より高融点の塩を生成することが可能となる。なお、ルイス塩基成分は、酸塩基反応においてルイス塩基として反応する成分(化合物)である。
【0062】
また、骨材粒子の平均粒子径は、ハニカム基材の隔壁の細孔よりも平均細孔径が小さい細孔を有する多孔質の捕集層を形成することができるものであれば、特に制限されず、平均粒子径が、0.5〜15μmの粒子を用いることが好ましく、1〜10μmの粒子を用いることが更に好ましく、2〜5μmの粒子を用いることが特に好ましい。骨材粒子の平均粒子径が0.5μm未満であると、骨材粒子がハニカム基材の細孔内に入り込み圧力損失特性を悪化させることがあり、一方、15μmを超えると、捕集層の細孔径が大きくなり捕集効率や圧力損失特性が悪化することがある。
【0063】
本実施形態において、結合部形成原料としては、後述する熱処理の際、「骨材粒子を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」を用いる。即ち、結合部形成原料は、熱処理により(熱を加えられると)、ルイス酸成分を生じる物質である。このような結合部形成原料としては、リン酸化合物、硫酸化合物、硝酸化合物、炭酸化合物、塩素酸化合物、シュウ酸化合物、及びヨウ素酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、リン酸化合物、硫酸化合物、及び炭酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含有していることが更に好ましく、リン酸化合物、及び硫酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含有していることが特に好ましい。
【0064】
結合部形成原料として、更に具体的には、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸水素ナトリウムが好ましく、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、硫酸水素アンモニウムが更に好ましく、リン酸二水素アンモニウム、硫酸水素アンモニウムが特に好ましい。このような結合部形成原料を用いることによって、後述する熱処理の際、骨材粒子中のルイス塩基成分と、酸塩基反応することにより、より高融点の塩を生成することができる。なお、ルイス酸成分は、酸塩基反応においてルイス酸として反応する成分(化合物)である。
【0065】
捕集層形成原料中、骨材粒子と結合部形成原料との配合比は、骨材粒子100質量部に対して、結合部形成原料15〜250質量部であることが好ましく、20〜100質量部であることが更に好ましい。骨材粒子と結合部形成原料との配合比を上述の数値範囲内とすることにより、酸塩基反応を効率良く進行させ、酸塩基反応により生成する塩の含有率が高い結合部を形成することができ、骨材粒子をより強固に固着させることができる。なお、骨材粒子100質量部に対して、結合部形成原料が50質量部未満であると、上記酸塩基反応の進行が不十分となり、結合部が形成され難くなることがある。即ち、捕集層が剥離し易くなることがある。一方、骨材粒子100質量部に対して、結合部形成原料が250質量部超であると、骨材粒子の間隙が結合部によって充填され、捕集層の細孔が閉塞してしまうことがある。即ち、捕集層の気孔率が小さくなってしまうことがある。
【0066】
捕集層を作製する方法における原料供給工程において、捕集層形成原料を塗布する方法としては、特に制限はなく、例えば、気流法、スラリー法等の従来公知の方法を適宜用いることができる。本実施形態においては、薄く均一な捕集層前駆体を形成することができ、水溶性の結合部形成原料でも使用することができるため、気流法が特に好ましい。
【0067】
ここで、気流法とは、所定のセルの排ガス流入側の開口端部と残余のセルの排ガス流出側の開口端部とが目封止されたハニカム基材の排ガス流入側の端面側から捕集層形成原料を気流を介して搬送して、排ガス流入側の端面側が開口した残余のセルの開口部から捕集層形成原料を流入させ、残余のセル内の隔壁の表面に捕集層形成原料を付着させる方法である。
【0068】
また、スラリー法とは、ハニカム基材の一方の端面側から骨材粒子及び結合部形成原料を含有するスラリーを圧入して隔壁表面にスラリーを付着させ、その後、スラリーを排出し、隔壁表面に残存するスラリーを乾燥させることにより製膜する方法である。スラリーの分散媒としては、特に制限はなく、例えば、水等を用いることができ、これらの中でも水が好ましい。
【0069】
[1−2−2]熱処理工程:
捕集層を作製する方法における熱処理工程は、上述の原料供給工程において捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を、例えば、700〜1000℃で熱処理することにより、骨材粒子中のルイス塩基成分と結合部形成原料中のルイス酸成分との酸塩基反応が進行し、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とが結合部により固着された捕集層を形成する工程である。
【0070】
熱処理工程において、ルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とが酸塩基反応し、この反応生成物である塩が結合部に含有されることにより、骨材粒子どうし、及び骨材粒子とハニカム基材の隔壁とが強固に結合される。そして、この結合部に含有される塩の融点が、骨材粒子の融点よりも高い場合、高温条件下においても結合部が融解、又は軟化することがないため、高温にさらされることにより破損したり、隔壁から剥離したりすることがなく、耐熱性にも優れた捕集層を形成することができる。熱処理工程においては、結合部形成原料からルイス酸成分が生じるとともに、結合部形成原料から生じたルイス酸成分と骨材粒子中のルイス塩基成分とが酸塩基反応を起こす。なお、熱処理工程においては、設定温度によって、酸塩基反応が完結する(即ち、リン酸二水素アンモニウムの全てがリン酸アルミニウムになる)場合、酸塩基反応が完結せずに、リン酸二水素アンモニウムの一部が未反応で残っている(即ち、リン酸アルミニウムとリン酸二水素アンモニウムが共存している)場合が生じ得る。本発明においては、酸塩基反応が完結してもよいし、完結しなくてもよいが、酸塩基反応が完結するように温度を設定することが好ましい。
【0071】
熱処理工程における熱処理温度としては、700〜1000℃であることが好ましく、800〜1000℃であることが更に好ましく、900〜1000℃であることが特に好ましい。熱処理温度が700℃未満であると、骨材粒子中のルイス塩基成分と結合部形成原料中のルイス酸成分とが十分に反応することができず、骨材粒子どうしを強固に結合することができない場合がある。一方、熱処理温度が1000℃超であると、形成される結合部やハニカム基材自体が溶融し、捕集層の細孔が閉塞してしまう場合がある。
【0072】
また、熱処理に掛ける時間は、特に制限はないが、0.5〜72時間掛けて熱処理することが好ましく、1〜48時間掛けて熱処理することが更に好ましく、3〜24時間掛けて熱処理することが特に好ましい。熱処理時間が0.5時間未満であると、酸塩基反応が十分に進行しないことがある。一方、熱処理時間が72時間超であると、更なる酸塩基反応が進みにくく、熱処理におけるエネルギーコストが増大する傾向がある。
【0073】
[2]ハニカム構造体(1):
本発明(第一の発明)のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体1(10c)について、図4A〜図4Cを参照しながら説明する。ここで、図4Aは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体1の斜視図であり、図4Bは、図4Aに示すハニカム構造体1の一方の端面を模式的に示す平面図であり、図4Cは、図4B中のA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【0074】
図4A〜図4Cに示すように、本実施形態において製造されるハニカム構造体1は、排ガスの流路となる一方の端部15aから他方の端部15bまで延びる複数のセル11を区画形成する多孔質の隔壁12、及び、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部(一方の開口端部)と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部(他方の開口端部)とを目封止する目封止部13a,13bを有するハニカム基材(目封止ハニカム基材10a(図1参照))と、流入側の開口端部が開口した流入セル(残余のセル)11aを区画形成する側の隔壁12の表面に膜状に配設された、隔壁12の平均細孔径よりも平均細孔径が小さい細孔を有する多孔質の捕集層30と、を備えたハニカム構造体である。ハニカム基材は外周に外周壁14が形成されている。
【0075】
本実施形態において製造されるハニカム構造体は、このように構成されることにより、排ガス中の粒子状物質の捕集を良好に行うことができるものである。即ち、ハニカム基材を構成する隔壁の表面に、隔壁の細孔よりも平均細孔径が小さい細孔を有する多孔質の捕集層が配設されているため、排ガス中の粒子状物質の隔壁の細孔内への侵入を有効に防止することができる。
【0076】
そして、本実施形態において製造されるハニカム構造体の捕集層は、セラミックスからなる骨材粒子と、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とを結合する結合部と、を有するものである。
【0077】
また、上記結合部には、骨材粒子のルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて生成される塩が含まれており、上記塩の融点が骨材粒子の融点よりも高いものであることが好ましい。本実施形態において製造されるハニカム構造体は、このような構成を有することにより、比較的低温で形成されたにも関わらず、骨材粒子どうしが強固に固着されているため、排ガス中の粒子状物質を効率良く除去することができると共に、高温条件下においても、捕集層が欠損、剥離等することがないという効果を奏するものである。
【0078】
[2−1]ハニカム基材:
本実施形態において製造されるハニカム構造体を構成するハニカム基材は、上述したように、目封止部が配設されたものであってもよいし、目封止部が配設されないものであってもよい。ハニカム基材は、図4A〜図4Cに示すように、排ガスの流路となる一方の端部15aから他方の端部15bまで延びる複数のセル11を区画形成する多孔質の隔壁12を有するものである。なお、本実施形態において製造されるハニカム構造体1は、所定のセル11bと残余のセル11aとが交互に隣接して配設され、目封止部13a,13bが、図4A〜図4Cに示すように、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部とを交互に目封止するものであっても良い。即ち、目封止ハニカム基材10aの一方の端面におけるセルの開口部が市松模様状に目封止されたものであっても良い。
【0079】
ハニカム基材の全体形状については特に制限はなく、例えば、図4Aに示されるような円筒状の他、楕円形状、四角柱状、三角柱状等の形状を挙げることができる。このようなハニカム基材は、従来公知のハニカム構造体に用いられるハニカム基材を好適に用いることができる。
【0080】
また、ハニカム基材に形成されたセルの形状(セルの貫通方向に対して垂直な断面におけるセル形状)としては、例えば、図4Bに示されるような四角形セルの他、六角形セル、八角セル、三角形セル等の形状を挙げることができる。但し、ハニカム基材に形成されたセルの形状としては、このような形状に限られるものではなく、公知のセルの形状を広く包含することができる。
【0081】
また、ハニカム基材においては、異なるセル形状を組み合わせることもできる。隣接するセルの片側のセルを八角形とし、もう片側を四角形にすることで、片側セル(即ち、八角形セル)をもう片側セル(即ち、四角形セル)に比べ大きくすることができる。特に、アッシュの発生量が多いエンジンに用いられる場合には、ガス流入側のセル(流入セル)を大きくすることで、アッシュ堆積時の圧損上昇を抑制することができる。
【0082】
ハニカム基材のセル密度も特に制限はないが、本実施形態のようなハニカム構造体として用いる場合には、0.9〜233セル/cm2の範囲であることが好ましく、15.5〜62.0セル/cm2の範囲であることが更に好ましく、23.3〜45.0セル/cm2の範囲であることが特に好ましい。このような範囲とすることによって、流入セルに粒子状物質を溜める領域を良好に確保することができる。
【0083】
ハニカム基材を構成する隔壁の厚さは、20〜2000μmの範囲であることが好ましく、強度と圧損のバランスから、100〜635μmの範囲であることが更に好ましく、200〜500μmの範囲であることが特に好ましい。
【0084】
ハニカム基材の材質については特に制限はないが、セラミックスを好適に用いることができ、強度、耐熱性、耐食性等の観点から、コージェライト、炭化珪素、アルミナ、ムライト、アルミニウムチタネート、窒化珪素、及び炭化珪素を骨材とし金属珪素を結合部形成原料として形成された珪素−炭化珪素系複合材料のうちのいずれかであることが好ましい。これらの材質の中でも、後述するように、捕集層の骨材粒子として好ましいコージェライトと熱膨張係数等が等しいため、コージェライトが特に好ましい。
【0085】
なお、本実施形態において製造されるハニカム構造体に用いられる目封止部は、従来の目封止ハニカム構造体(目封止部を有するハニカム構造体)に配設される目封止部と同様に構成されたものを用いることができる。
【0086】
ハニカム基材を構成する隔壁の細孔の平均細孔径としては、隔壁の細孔の平均細孔径が大きいと、捕集層の形成が難しく、一方、平均細孔径が小さいと、例えば、ハニカム構造体に捕集した粒子状物質を除去するための触媒(例えば、酸化触媒)を担持する際に、上記した触媒の担持が困難となる。このため、隔壁の細孔の平均細孔径としては、0.3〜150μmであることが好ましく、1〜60μmであることが更に好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。
【0087】
また、隔壁の気孔率は、30〜70%であることが好ましく、35〜60%であることが更に好ましい。隔壁の気孔率が30%未満であると、圧力損失が大きくなることがある。また、気孔率が70%を超えると、隔壁の強度が不足するために好ましくない。上記隔壁の気孔率は、捕集層を除く、ハニカム基材の隔壁本来の気孔率を示す。なお、本発明において、ハニカム基材を構成する隔壁(捕集層を形成する前)の「平均細孔径」、「気孔率」というときには、水銀圧入法により測定した平均細孔径、気孔率を意味するものとする。
【0088】
[2−2]捕集層:
本実施形態において製造されるハニカム構造体は、排ガス流入側の開口端部が開口した流入セルを区画形成する側の隔壁の表面に膜状に配設された、隔壁の細孔よりも平均細孔径が小さい細孔を有する多孔質の捕集層を備えるものである。そして、本実施形態において製造されるハニカム構造体の捕集層は、セラミックスからなる骨材粒子と、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とを結合する結合部と、を有するものである。
【0089】
捕集層は複層(即ち、二層以上の捕集層が積層された層)としてもよい。また、捕集層の細孔径又は粒子径は傾斜していてもよい。その場合、細孔径又は粒子径は、その表面に近い程小さい方が、隔壁の細孔内へのPM堆積を防止することができる上、圧損上昇も少なくすることができるため好ましい。
【0090】
また、隔壁の細孔の平均細孔径と捕集層の細孔の平均細孔径とを比較した場合、捕集層の細孔の平均細孔径は、隔壁の細孔の平均細孔径の1/1000〜9/10倍であることが好ましく、隔壁の細孔の平均細孔径の1/100〜1/2倍であることが更に好ましく、1/20〜1/5倍であることが特に好ましい。捕集層の細孔の平均細孔径が、隔壁の細孔の平均細孔径の1/1000倍未満であると、捕集層等の細孔が小さすぎてハニカム構造体の圧損が大きくなることがある。一方、捕集層等の平均細孔径が、隔壁の細孔の平均細孔径の9/10倍を超えると、捕集層の細孔が大きすぎて、隔壁の細孔との実質的な差異が無くなり、捕集層の細孔内に粒子状物質が侵入し、圧損が増大してしまうことがある。
【0091】
本実施形態において製造されるハニカム構造体における捕集層の細孔の平均細孔径は、0.1〜30μmであることが好ましく、0.1〜15μmであることがより好ましく、0.9〜11μmであることが更により好ましく、1.5〜6μmであることが特に好ましい。このように構成することによって、捕集層による圧損の上昇を有効に抑制しつつ、捕集層の表面上にて粒子状物質を良好に捕集(即ち、ケーキ層状に捕集)することができる。平均細孔径が0.1μm未満であると、ガス透過性が小さくなり細孔の透過抵抗が急上昇しやすくなるため好ましくなく、30μmより大きいと捕集性能が低下し、PMエミッションが欧州規制のユーロ5規制値をオーバーし易くなり好ましくない。
【0092】
本実施形態のハニカム構造体の捕集層の細孔の平均細孔径は、ハニカム構造体の隔壁断面のSEM(走査型電子顕微鏡)による画像から、以下の方法によって測定された値とする。まず、ハニカム構造体の隔壁の軸方向に対して垂直な断面の所望領域を樹脂埋め研磨し、倍率1000倍の視野にてSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、その断面の画像(SEM画像)を得る。このSEM画像は、1ピクセルが、縦0.261μm×横0.261μmの画像とする。次に、得られたSEM画像を二値化処理する。二値化処理により、上記SEM画像が、撮像された骨材粒子の実体部分と、各骨材粒子相互間の空隙とに分離される。二値化処理は、1ピクセルを最小単位として行われる。
【0093】
次に、この二値化処理した画像において、骨材粒子の空隙隙間として認識された領域(以下、「空隙領域」ということがある)に、空隙領域内に納まる大きさの「円」を、直径が大きな円から、順次、各円が重ならないように描く。具体的には、まず、上記空隙領域に、最も直径が大きな円(以下、「内接円」ともいう)を描く。次に、この内接円が描かれている領域を、「空隙領域」から除く。このようにして得られた「内接円が描かれた領域が除かれた空隙領域」に、再度、この状態で最も直径が大きな内接円を描き、その後、この内接円(2回目の内接円)が描かれた領域を、更に「空隙領域」から除く。以下、「空隙領域(具体的には、各内接円が描かれた領域が除かれた空隙領域)」に、内接円を描くことができなくなるまで上記方法に従い内接円を描く。即ち、画像の最小単位である1ピクセルまで、空隙領域に内接円を描き続ける。SEM画像の二値化、及び空隙領域に内接円を描く画像処理は、市販の画像解析ソフト(例えば、MVtec Software GmbH社製の商品名「Halcon」など)を用いることができる。
【0094】
次に、空隙領域内に描かれた全ての内接円の面積を、直径が大きな内接円から順次積算し、空隙領域内に描かれる全ての内接円の面積を積算した積算面積を算出する。そして、上記積算時において、総積算面積の50%に到達する際に加算される内接円の直径を、捕集層の細孔の平均細孔径とする。例えば、「総積算面積の50%に到達する際に加算される内接円の直径」は、上記内接円の直径と、積算面積とについて、横軸を内接円の直径とし、縦軸を積算面積としたグラフを作成し、このグラフにおける、総積算面積の50%に相当する、上記内接円の直径を求めることによって得ることができる。
【0095】
また、捕集層等を形成する微粒子の平均粒子径を測定する際には、隔壁の軸方向に対して垂直な断面の所望領域を樹脂埋め研磨した断面、又は、破断面を、倍率100倍〜1000倍の視野にてSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、捕集層を形成する微粒子の粒子径(最大径)を測定する。一視野内にて測定された全粒子径の平均を平均粒子径とする。
【0096】
また、捕集層の厚さは、隔壁の厚さの3/500〜1/2であることが好ましく、1/150〜1/5であることが更に好ましく、1/100〜1/10であることが特に好ましい。なお、捕集層の厚さが、隔壁の厚さの3/500未満であると、捕集層の厚さが薄すぎて、粒子状物質の捕集を十分に行うことができず、捕集層を粒子状物質の一部が容易に通過してしまうことがある。また、捕集層の厚さが、隔壁の厚さの1/2を超えると、捕集層による圧損上昇の影響が大きくなり、ハニカム構造体の初期の圧損を増大させてしまうことがある。
【0097】
なお、本発明において、「捕集層の厚さ」とは、下記の方法によって測定される厚さのことを意味する。
【0098】
(捕集層の厚さの測定方法)
まず、捕集層が形成されている隔壁を、セルの貫通方向に対して垂直に切断する。次に、得られた隔壁の断面における所望領域を、樹脂埋め研磨する。次に、樹脂埋め研磨した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって500倍の倍率で撮像する。撮影したSEM写真を、横に100分割する直線を引き、この直線を、SEM写真の上から順に観察し、隔壁の表面に触れる直線のうち一番上の直線と、捕集層を形成する粒子に触れる直線のうち一番上の直線と、をそれぞれ決定する。決定された2本の直線間の幅を、その視野の(即ち、当該SEM写真における)膜厚とし、20視野の(即ち、同様の倍率で異なる部位を撮像した20枚のSEM写真における)平均値を、捕集層の厚さとする。
【0099】
なお、より具体的な捕集層の厚さとしては、1〜100μmであることが好ましく、5〜60μmであることが更に好ましい。このように構成することによって、粒子状物質を良好に捕集することができるとともに、初期の圧損の増大を有効に抑制することができる。
【0100】
捕集層を構成する骨材粒子としては、例えば、コージェライト、炭化珪素、アルミナ、ムライト、アルミニウムチタネート、及び窒化珪素のうちのいずれかであることが好ましい。
【0101】
捕集層を構成する骨材粒子としては、上述の材料の中でも、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含有する材料であることがより好ましく、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、及びカリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含有する材料であることが更に好ましい。より具体的には、コージェライト、アルミナ、ムライト、及びアルミニウムチタネートのうちのいずれかであることがより好ましく、コージェライト、アルミナ、ムライトのうちのいずれかであることが更に好ましい。捕集層を構成する骨材粒子が、上述のような材料から構成されることにより、結合部形成原料から供給されるルイス酸成分と酸塩基反応して、塩を含有する強固な結合部を形成し、更に、耐熱性にも優れた結合部を形成することができる。
【0102】
また、これらの骨材粒子は、ハニカム基材を構成する隔壁の材料と同じ材料であることも好ましい。例えば、隔壁がコージェライト材料によって構成されている場合には、この隔壁と同様のコージェライト材料からなる骨材粒子を用いて捕集層が形成されていることが好ましい。このように構成することによって、隔壁と捕集層との熱膨張率が同じとなり、ハニカム構造体の強制再生時における温度変化によって破損等を生じ難くすることができる。
【0103】
捕集層を構成する結合部の融点は、700〜3000℃であることが好ましく、1000〜2500℃であることが更に好ましく、1200〜2300℃であることが特に好ましい。結合部の融点が700℃未満であると、結合部の一部が溶融してしまう可能性があり、捕集層の細孔を閉塞させてしまうことがある。結合部の融点が3000℃超であると、捕集層として使用できる原料が限られてきてしまい、捕集層の熱膨張などの諸特性を調整できる猶予が少なくなってしてしまうことがある。
【0104】
結合部は、骨材粒子中のルイス塩基成分と、結合部形成原料中に含まれるルイス酸成分と、が反応して生成した塩を含有していることが好ましい。
【0105】
結合部に含有される塩としては、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩素酸塩、シュウ酸塩、及びヨウ素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、リン酸塩、硫酸塩、及び炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが更に好ましく、リン酸塩、及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが特に好ましい。そして、捕集層を構成する結合部に含有される塩は、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塩であることが好ましく、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、及びカリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塩であることが更に好ましく、アルミニウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塩であることが特に好ましい。
【0106】
上述のような塩としては、具体的には、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムが好ましく、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムが更に好ましく、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウムが特に好ましい。結合部に含有される塩が上述のような、生成温度が低く、融点が高い塩であることにより、捕集層の耐熱性を向上させることができる。
【0107】
捕集層の気孔率は40〜90%であることが好ましく、50〜80%であることが更に好ましい。捕集層の気孔率が、40%未満であると、圧力損失が大きくなるという問題が生じるおそれがあり、90%を超えると、捕集層の強度が不足するために、隔壁の表面から捕集層が剥離してしまうという問題が生じるおそれがあるため好ましくない。
【0108】
なお、捕集層の気孔率を、隔壁の気孔率よりも5%以上大きく形成すると、捕集層における圧力損失(透過圧損)を小さくすることができるという利点があるため、好ましい。
【0109】
ここで、捕集層の気孔率は、隔壁の軸方向に対して垂直な断面の所望領域を樹脂埋め研磨し、倍率100倍〜1000倍の視野にてSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、得られた画像を二値化処理し、一視野内の空隙と粒子の面積比により測定することができる。
【0110】
また、本実施形態において製造されるハニカム構造体における捕集層は、これまでに説明した隔壁の細孔内への粒子状物質の侵入を防止し、粒子状物質を事前に捕集する役割(機能)だけでなく、捕集層に、捕集したPMを酸化処理する役割(機能)が付与されていてもよい。
【0111】
即ち、捕集層には酸化触媒が担持されていてもよい。このように構成することによって、PMを捕集する捕集層としての機能と、PMを酸化処理する機能とが相俟って、隔壁の流入側に形成された捕集層で良好にPMを捕集するとともに、捕集したPMを酸化処理することができる。
【0112】
このような酸化触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)及び銀(Ag)等の貴金属が好適に用いられる。
【0113】
なお、本実施形態において製造されるハニカム構造体においては、上記酸化触媒以外にも、他の触媒や浄化材が、更に担持されていてもよい。例えば、セリウム(Ce)やジルコニウム(Zr)の酸化物に代表される助触媒が担持されていてもよい。
【0114】
なお、このような酸化触媒は、隔壁の細孔内部の少なくとも一部に更に担持してもよい。このように構成することによって、仮に、排ガス中のPMの一部が、捕集層によって捕集されず、捕集層を透過して隔壁の細孔内に侵入した場合であっても、そのPMを酸化触媒によって燃焼除去することができる。
【0115】
なお、このような酸化触媒のハニカム構造体の体積1Lあたり担持量については特に制限はないが、1〜34g/Lであることが好ましく、5〜30g/Lであることが更に好ましい。例えば、酸化触媒の担持量が1g/L未満であると、触媒による粒子状物質の燃焼性能が十分に得られなくなることがあり、一方、34g/Lを超えると、捕集層の細孔を塞ぎ、ススが堆積しない状態でも圧力損失が高くなることがある。粒子状物質は捕集層の部分にほとんど堆積するため、隔壁細孔内部への担持が不要となり、従来の担持量よりも減らすことができる。
【0116】
[3]ハニカム構造体の製造方法(2):
次に、本発明(第二の発明)のハニカム構造体の製造方法の一実施形態について、図1〜図3Bを参照しながら説明する。
【0117】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法は、多孔質の隔壁12によって排ガスの流路となる複数のセル11が区画形成され、且つ、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部とが目封止されたハニカム基材体(目封止ハニカム基材10a)(図1参照)の、残余のセル11aを区画形成する隔壁12の残余のセル11a側の表面に、セラミックスからなる骨材粒子21と、結合部形成原料23とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体20を形成する原料供給工程(図2A、図2B参照)と、捕集層前駆体20が形成されたハニカム基材(捕集層前駆体形成ハニカム基材10b)を熱処理することにより、骨材粒子21どうしが結合部33により固着された捕集層30を形成する(捕集層30を形成して、捕集層30が形成されたハニカム構造体10cを得る)熱処理工程(図3A、図3B参照)とを備え、上記結合部形成原料23として融点又は軟化点が500〜1000℃である物質を用い、熱処理により結合部形成原料23を溶融又は軟化させて、結合部形成原料23から形成される結合部33により骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とが固着された捕集層30を形成する方法である。
【0118】
本実施形態(第二の発明)のハニカム構造体の製造方法は、前述の第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態における捕集層形成原料に代えて、「セラミックスからなる骨材粒子と、融点又は軟化点が500〜1000℃である結合部形成原料とを含む捕集層形成原料」を用いている。第一及び第二の両発明における捕集層形成原料は、いずれも、比較的低温でも捕集層(特に、結合部)を形成することができる原料である。
【0119】
本実施形態では、結合部形成原料として融点又は軟化点が500〜1000℃である物質を用い、熱処理により結合部形成原料を溶融又は軟化させて、結合部形成原料から形成される結合部により固着された捕集層を形成することにより、比較的低温、例えば、500〜1000℃でも、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とを強固に固着する結合部を形成することができる。
【0120】
本実施形態において、結合部形成原料として用いられる物質の融点又は軟化点は、500〜1000℃であり、550〜950℃であることが好ましく、600〜900℃であるであることが更に好ましく、650〜850℃であることが特に好ましい。結合部形成原料の融点又は軟化点が上述の温度範囲内であることにより、熱処理工程における熱処理温度を低く設定することができ、1つ1つのハニカム構造体の製造に要する時間を短縮し、製造効率を上げることができる。なお、結合部形成原料の融点又は軟化点が500℃未満であると、実際の使用環境における温度環境下で容易に溶融してしまう。結合部形成原料の融点又は軟化点が1000℃超であると、熱処理におけるエネルギーコストが高くなる。
【0121】
このような結合部形成原料、即ち、融点又は軟化点が500〜1000℃である物質としては、捕集層形成後の結合部としての結合性能が良く、扱い易いという観点から、ガラス粉末(ガラスフリット)が好ましい。
【0122】
本実施形態において、熱処理は、結合部形成原料として用いられる物質の融点又は軟化点より0〜100℃高い温度で行うことが好ましく、10〜80℃高い温度で行うことが更に好ましく、20〜50℃高い温度で行うことが特に好ましい。熱処理を上述の温度範囲内で行うことにより、余剰の加熱を行うことなく、効率良く捕集層を形成することができる。
【0123】
なお、本実施形態についてこれまで説明してきた結合部形成原料等に関すること以外は第一の発明と同様の説明をすることができる。例えば、ハニカム基材、捕集層を構成する骨材粒子等は、第一の発明で説明したものと同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0124】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0125】
(実施例1)
[ハニカム基材の作製]
コージェライト化原料として、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用し、コージェライト化原料100質量部に、造孔材を13質量部、分散媒を35質量部、有機バインダを6質量部、分散剤を0.5質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。分散媒として水を使用し、造孔材としては平均粒子径10μmのコークスを使用し、有機バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0126】
調製した坏土を押出成形し、ハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体をマイクロ波乾燥機を使用して乾燥し、更に熱風乾燥機を使用して完全に乾燥させた後、両端部を切断し、所定の寸法の長さのハニカム乾燥体を得た。次いで、隣接するセルが互い違いに目封止されるように、ハニカム乾燥体のセルの両端部に目封止部を形成した後、1410〜1440℃で5時間焼成することによって、目封止部が形成されたハニカム基材(目封止ハニカム基材)を得た。
【0127】
得られた目封止ハニカム基材は、セル貫通方向に垂直な断面のセル形状が四角形であり、全体形状が四角柱形のものであった。また、セル貫通方向に垂直な断面(四角柱形の底面)における一辺の長さは36mmであり、セル貫通方向における長さ(四角柱形の高さ)は152.4mmであった。なお、セル密度は46.5セル/cm2であり、隔壁の厚さは356μmであり、隔壁の気孔率は48%であり、平均細孔径は12μmであった。
【0128】
[捕集層の作製]
骨材粒子として平均粒子径2.1μmのコージェライト粉末2.0質量部、結合部形成原料としてリン酸二水素アンモニウム1.5質量部を混合し、更に乳鉢を使用して混合し、捕集層形成原料を得た。なお、コージェライト粉末は、コージェライト製のハニカム基材等を作製する際に生じる廃材を平均粒子径が2.1μmとなるように粉砕し分級したもの(コージェライトセルベン)を用い、リン酸二水素アンモニウムは、和光純薬工業社製の商品名「リン酸二水素アンモニウム」を用いた。
【0129】
次に、得られた上記捕集層形成原料を用いて捕集層前駆体を形成した(原料供給工程)。具体的には、図6に示すような捕集層作製装置を用いて捕集層を作製(製膜)した。まず、上記捕集層形成原料46を、原料供給器47に導入し、原料供給器47から一定量の捕集層形成原料46を、ハニカム基材40(目封止ハニカム基材10a)の流入側40aに設けられたエジェクタ48(真空発生器)を使用して飛散させる。この際、ハニカム基材40の流出側40bにおいては、ブロワ45によって400L/min(リットル/分)で吸引して、捕集層形成原料46を流入セル内に誘導する。このようにして、ハニカム基材40の流入セルを区画形成する隔壁の流入セル側の表面に、捕集層形成原料46を堆積させて、捕集層前駆体の作製を行った。なお、捕集層前駆体の作製は10秒掛けた(即ち、捕集層形成原料46を原料供給器47に導入した時から数えて10秒後に、ブロワ45による吸引を停止させた。)。
【0130】
ここで、図6は、実施例において、捕集層前駆体の作製に用いられた捕集層作製装置の構成を示す模式図である。なお、図6において、符号43は、エジェクタに導入される空気を示す。
【0131】
その後、700℃で1時間熱処理することにより、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とが結合部により固着された捕集層を形成し、ハニカム構造体を得た(熱処理工程)。形成された捕集層は、気孔率が65%であり、平均細孔径が3μmであった。
【0132】
得られたハニカム構造体について、以下に示す評価を行った。その結果、実施例1のハニカム構造体の捕集層の剥離率は「0(%)」であり、耐熱性は「良好」であった。エックス線回折による測定の結果、実施例1のハニカム構造体の捕集層には、結合部にリン酸アルミニウムが生成していることが確認できた。なお、エックス線回折装置として、パナリティカル(PANalytical)社製の商品名「X’Pert PRO MPD」を用いた。図5に、エックス線回折による測定の結果を示す。リン酸アルミニウムが生成していたことは、図5中の矢印が指し示すピーク(Al(PO4))が現れていたことにより確認した。なお、表1中の「結合部」には、エックス線回折により測定される結合部(即ち、ハニカム構造体の捕集層を構成する成分のうち骨材粒子以外の成分)の主成分を示す。なお、本明細書において「主成分」というときは、全成分の50%以上の成分のことを意味する。
【0133】
[耐剥離性評価]
ハニカム構造体の流出側から、エアーガン(栗田製作所社製の商品名「エアーガン(AG50)」(噴出し口径3mm))を使用して0.4MPaに圧縮された空気を、ハニカム構造体の流出側端面の全体に吹きつけた。この際、エアーガンの噴出し口を、ハニカム構造体の流出側端面からの距離を20mmに固定して吹きつけた。
【0134】
ハニカム構造体の流入側端部から、粉末(剥離した捕集層)が排出されなくなるまで、上記吹きつけを実施した。なお、粉末が排出されているか否かは、ハニカム構造体の質量を計測し、吹きつけの前後で質量が変化するか否かによって、粉末が排出されているか否かを判断した。
【0135】
粉末が排出されなくなったこと、即ち、吹きつけの前後でハニカム構造体の質量に変化が無くなったことを確認した後、吹きつけを開始する前のハニカム構造体の質量と、粉末が排出されなくなった後のハニカム構造体の質量の差を剥離量とした。そして、下記式(1)で表されるような、製膜量に対する剥離量の比率(百分率)を剥離率(%)とした。なお、製膜量としては、原料供給工程において、製膜した後のハニカム構造体の質量(製膜後)と、ハニカム基材(製膜前)の質量との差を用いた。求めた剥離率(%)を表1に示した。
剥離率(%)=剥離量(g)/製膜量(g)×100 ・・・(1)
【0136】
[耐熱性評価]
炉内温度が1000℃に設定された電子炉内で1分間加熱した。その後、捕集層の微細構造を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製の商品名「S−3200N」)を使用して観察し、上記熱サイクル試験の前後で、捕集層が維持されているものを「良好」と評価し、結合部が溶融し捕集層の細孔が閉塞したり、ハニカム基材の隔壁の細孔内へ浸透したりしている等、捕集層が維持されなかったものを「不良」と評価した。評価結果を表2に示した。なお、実施例3においては、若干変質が確認されたが、捕集層が維持されていたので「良好(若干変質あり)」と評価した。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
(実施例2〜9、比較例1〜5)
捕集層形成原料として、表1に示す骨材粒子及び結合部形成原料を表1に示す配合量(質量部)で使用したものを用いたこと以外は、実施例1のハニカム構造体と同様にして、ハニカム構造体を作製し、その評価を実施した。評価結果を併せて表1に示した。なお、実施例2〜9、比較例1〜5で用いた結合部形成原料(表1中の結合部形成原料)は、以下に示す物質である。
【0140】
ガラス粉末(SiO2・B2O3・ZnO):旭硝子株式会社製の商品名「ASF1620B」(平均粒子径4.5μm)
ガラス粉末(SiO2・B2O3・R2O):旭硝子株式会社製の商品名「ASF102M」(平均粒子径3.5μm)
タルク:竹原化学工業株式会社製の商品名「ハイトロンA」(平均粒子3.0μm)
モンモリロナイト:株式会社ホージュン社製の商品名「ベンゲルHVP」
カオリン:竹原化学工業株式会社製の商品名「サテントンW」
高塩基性塩化アルミニウム:多木化学株式会社製の商品名「タキバイン#3000」
【0141】
表1中、結合部の欄の「主成分」に記載されている「結合部が形成されていない(物質名)」とは、熱処理の温度が低温であるため結合部形成原料として使用した物質が結合部を形成していないことを意味する。即ち、例えば比較例1において「結合部が形成されていない(タルク)」とは、熱処理の温度が低温であるため結合部形成原料として使用した「タルク」が結合部を形成していないことを意味する。また、結合部の欄の「融点」に記載されている「(数値)」とは、結合部形成原料として使用した物質の融点を示している。即ち、例えば比較例1における「(1500)」とは、結合部形成原料として使用した「タルク」の融点を示している。なお、実施例4において、耐熱性と気孔率の評価結果が「−」であるのは、剥離率が20%以上のため評価していないことを意味する。
【0142】
(考察)
表1の結果から明らかなように、骨材粒子中のルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて、塩を含有する結合部により固着された捕集層は、低温(700℃程度)での熱処理でも剥離率が小さく、隔壁に強固に固着するものであった。更に、結合部に高融点の塩が含有されている場合、捕集層は耐熱性にも優れるものであった(実施例1及び2)。
【0143】
また、結合部形成原料として融点又は軟化点が500〜800℃である物質を用いた捕集層は、低温(700℃程度)での熱処理でも剥離率が小さく、隔壁に強固に固着するものであった(実施例3及び4)。
【0144】
実施例1、2、5〜8のうち、実施例1、5〜7は、剥離率が0%であり、耐熱性も良好であるため好ましいものであった。
【0145】
一方、比較例1〜4のハニカム構造体は、低温(700℃程度)では溶融又は骨材粒子に含有される成分との反応が起こらず、結合部が形成されなかったため、捕集層が剥離した(剥離率が高い)。比較例5のハニカム構造体には結合部形成原料が用いられていないため、低温(700℃程度)ではコージェライトからなる骨材粒子が溶融せず、結合部が形成されなかったため捕集層が剥離した。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されるハニカム構造体は、ディーゼルエンジン、普通自動車用エンジン、トラックやバス等の大型自動車用エンジンをはじめとする内燃機関、各種燃焼装置から排出される排ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するためのフィルタとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0147】
1,10c:ハニカム構造体、10a:目封止ハニカム基材、10b:捕集層前駆体形成ハニカム基材、11:セル、11a:流入セル(残余のセル)、11b:流出セル(所定のセル)、12:隔壁、13a,13b:目封止部、14:外周壁、15a:一方の端部、15b:他方の端部、20:捕集層前駆体、21:骨材粒子、22,23:結合部形成原料、30:捕集層、32,33:結合部、40:ハニカム基材、40a:流入側(ハニカム基材の流入側)、40b:流出側(ハニカム基材の流出側)、43:空気、45:ブロワ、46:捕集層形成原料、47:原料供給器、48:エジェクタ、101:ハニカム構造体、111:セル、111a:流入セル、111b:流出セル、112:隔壁、113a,113b:目封止部、115a:一方の開口端部、115b:他方の開口端部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関する。更に詳しくは、ハニカム構造体の捕集層を隔壁の表面に強固に固着させることができ、且つ、このような捕集層を比較的低温で形成することが可能なハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関、又は各種燃焼装置(以下、適宜「内燃機関等」という)から排出される排ガスにはスート(黒鉛)を主体とする粒子状物質(以下、適宜「パティキュレート・マター」、「パティキュレート」、或いは「PM」ともいう)が多量に含まれている。このパティキュレートがそのまま大気中に放出されると環境汚染を引き起こすため、内燃機関等からの排ガス流路には、パティキュレートを捕集するためのフィルタ(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ:DPF。以下、「DPF」ともいう)が搭載されていることが一般的である。
【0003】
このような目的で使用されるフィルタとしては、例えば、多数の細孔を有する多孔質セラミックスからなる隔壁によって、排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム構造の基体を有し、上記複数のセルの一方の開口端部(排ガス流入側の開口端部)と他方の開口端部(排ガス流出側の開口端部)とが目封止部によって、互い違いに目封じされてなるハニカム構造体(以下、「ハニカムフィルタ」ともいう)を挙げることができる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
例えば、図7に示されるハニカム構造体(ハニカムフィルタ101)は、多数の細孔を有する多孔質セラミックスからなる隔壁112によって、複数のセル111が区画形成されたハニカム構造体101(ハニカム基材)を備え、所定のセル111bの排ガス流入側の開口端部と残余のセル111aの排ガス流出側の開口端部とが目封止部113a,113bにより目封止されている。このようなハニカムフィルタ101は、一方の端部115aが開口したセル111a(以下、「流入セル」ということがある)から排ガスが流入すると、セル111aを区画形成する隔壁112の表面から隔壁112を通過して、他方の端部115bが開口したセル111bから排ガス(浄化ガス)が流出するように構成されている。即ち、セル111aに流入した排ガスは、隔壁112に形成された細孔を経由してセル111bに流出し、ハニカムフィルタ101の他方の端部115bから排出される。そして、上述したように排ガスが隔壁を通過する際に、排ガス中のパティキュレートが隔壁に捕集され、排ガスが浄化される。
【0005】
しかし、DPFは上述のような構造を有するため、クリーンな状態からPMの捕集を開始すると、隔壁内部の細孔にPMが堆積し(深層ろ過)、急激に圧力損失(以下、「圧損」と記す場合がある)が増加してしまう場合がある。このような急激な圧力損失の増加は、エンジン性能を低下させる要因となる。このような急激な圧力損失の増加を抑制するため、また、PMの捕集効率を向上させるために、隔壁の流入側表面に捕集層を形成し、PMが隔壁内部へ侵入することを防止するDPFが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
また、捕集層を隔壁に固着させるために、捕集層を隔壁の流入側表面に塗布(製膜)するだけでなく、捕集層形成粒子や隔壁を構成する材料より融点が低い結合材(釉薬)を用いて、捕集層形成粒子や隔壁を構成する材料の融点よりも低く、且つ、結合材の融点より高い温度で焼成して結合材を溶融させ、捕集層構成粒子と隔壁とを固着させる捕集層形成方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−255539号公報
【特許文献2】特開2005−248726号公報
【特許文献3】特開2008−188511号公報
【特許文献4】実用新案登録第2607898号公報
【特許文献5】特開平9−48679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5に記載の捕集層形成方法では、用いる結合材の融点が高く、結合材を溶融させ、捕集層構成粒子を隔壁に固着させるためには、高温(1300〜1350℃)で焼成を行う必要があった。そのため、このような捕集層を有するDPFを工業的規模で大量に製造する際、1つ1つのDPFの製造に要する時間が長く、製造効率を上げることが困難であるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ハニカム構造体の捕集層を隔壁の表面に強固に固着させることができ、且つ、このような捕集層を比較的低温で形成することが可能なハニカム構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、捕集層の結合部形成原料として、比較的低温、例えば、700〜1000℃での熱処理により、捕集層構成粒子どうし、及び捕集層構成粒子と隔壁とを強固に固着する結合部を形成することができる物質、例えば、骨材粒子を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質や、融点又は軟化点が比較的低い物質を用いることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下に示すハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0012】
[1] 多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の前記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることにより前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、得られた前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させて、前記酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部によって前記骨材粒子どうし及び前記骨材粒子と前記隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【0013】
[2] 前記原料供給工程において、前記捕集層形成原料として、前記ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子と、前記骨材粒子を構成するセラミックス中の前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を、加熱されることにより生じ得る結合部形成原料と、を含むものを用い、前記熱処理工程において、前記骨材粒子中の前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させる前記[1]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0014】
[3] 前記結合部形成原料として、前記結合部形成原料から生成したルイス酸成分と、前記ルイス塩基成分とが酸塩基反応したときに、前記骨材粒子より融点が高い塩を生成し得る物質を用いる前記[1]又は[2]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0015】
[4] 前記結合部形成原料として、リン酸化合物、硫酸化合物、硝酸化合物、炭酸化合物、塩素酸化合物、シュウ酸化合物、及びヨウ素酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を用いる前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0016】
[5] 前記結合部形成原料として、リン酸化合物を用いる前記[4]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0017】
[6] 前記結合部形成原料として、リン酸二水素アンモニウムを用いる前記[5]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0018】
[7] 前記骨材粒子として、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含有するセラミックス粒子を用いる前記[1]〜[6]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0019】
[8] 前記骨材粒子として、コージェライトからなる微粒子を用いる前記[1]〜[7]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0020】
[9] 前記原料供給工程において、前記骨材粒子100質量部に対して、50〜250質量部の前記結合部形成原料を含む前記捕集層形成原料を塗布して、前記捕集層前駆体を形成する前記[1]〜[8]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0021】
[10] 多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の前記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、融点又は軟化点が500〜1000℃である結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、前記結合部形成原料を溶融又は軟化させて、溶融又は軟化した前記結合部形成原料から形成される前記結合部により前記骨材粒子どうし及び前記骨材粒子と前記隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【0022】
[11] 前記結合部形成原料として、ガラス粉末を用いる前記[10]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0023】
[12] 前記熱処理を、前記結合部形成原料として用いられる物質の融点又は軟化点より0〜100℃高い温度で行う前記[10]又は[11]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0024】
[13] 所定のセルの排ガス流入側の開口端部と残余のセルの排ガス流出側の開口端部とが目封止された前記ハニカム基材の前記排ガス流入側の端面側から前記捕集層形成原料を気流を介して搬送して、前記排ガス流入側の端面側が開口した前記残余のセルの開口部から前記捕集層形成原料を流入させ、前記残余のセル内の隔壁の表面に前記捕集層形成原料を付着させる前記[1]〜[12]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0025】
[14] 前記ハニカム基材としてコージェライトからなるものを用いる前記[1]〜[13]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、比較的低温で、隔壁に強固に固着した捕集層を作製することができる。結合部形成原料として、例えば、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることによりルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質(結合部形成原料)、又は融点又は軟化点が500〜1000℃である物質を用いることにより、比較的低温であっても、隔壁に強固に固着した捕集層を作製することができる。
【0027】
即ち、本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、捕集層中に結合部が形成されるため、この結合部により骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とが固着され、隔壁に強固に固着した捕集層を作製することができる。
【0028】
そして、本発明のハニカム構造体の製造方法では、結合部形成原料として、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることによりルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質(結合部形成原料)、又は融点若しくは軟化点が比較的低い物質を用いることにより、比較的低温でも、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とを固着することができる結合部を形成することができる。
【0029】
また、結合部形成原料として、この結合部形成原料から生成したルイス酸成分と、ルイス塩基成分とが酸塩基反応したときに、骨材粒子より融点が高い塩を生成し得る物質を用いて、高融点の塩を含有する結合部を形成した場合、高温条件下でも捕集層が破損したり剥離したりすることがなく、耐熱性に優れた捕集層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において用いられるハニカム基材を模式的に示す断面図である。
【図2A】第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態の原料供給工程において、捕集層前駆体を形成した後の状態を模式的に示す断面図である。
【図2B】図2A中のP2部の拡大図である。
【図3A】第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体を模式的に示す断面図である。
【図3B】図3A中のP3部の拡大図である。
【図4A】第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【図4B】図4Aに示すハニカム構造体の一方の端面を模式的に示す平面図である。
【図4C】図4B中のA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【図5】X線回折法による測定の結果を示すスペクトルである。
【図6】実施例において、捕集層の製膜に用いられた捕集層作製装置の構成を示す模式図である。
【図7】従来のハニカムフィルタの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0032】
[1]ハニカム構造体の製造方法(1):
本発明(第一の発明)のハニカム構造体の製造方法は、多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の上記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることにより「上記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、「捕集層前駆体が形成されたハニカム基材」を得る原料供給工程と、得られた「捕集層前駆体が形成されたハニカム基材」を熱処理することにより、上記ルイス塩基成分と、上記結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて、酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部によって骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備える方法である。
【0033】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法によれば、捕集層30中に結合部32が形成されるため、この結合部32が骨材粒子21どうしを固着するとともに骨材粒子21と隔壁12とを固着し、結果として隔壁12に強固に固着した捕集層30を形成することができる。
【0034】
そして、本実施形態のハニカム構造体の製造方法では、ルイス塩基成分と、結合部形成原料22として「ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」と、を用いる。このような物質を反応物として用いることにより、比較的低温、例えば、700〜1000℃でも、酸塩基反応が進行し、生成物として反応物よりも融点が高い塩が生成される。結合部32は、このような塩を含有することにより、骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とを強固に固着することができる。
【0035】
セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることにより「上記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料における、上記ルイス塩基成分としては、結合部形成原料が生成するルイス酸成分と酸塩基反応して塩を生成するものであれば特に制限はないが、例えば、マグネシア、アルミナなどを挙げることができる。
【0036】
第一の発明のハニカム構造体の製造方法においては、原料供給工程において、捕集層形成原料として、「ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子」と、[「上記骨材粒子を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を、加熱されることにより生じ得る結合部形成原料]と、を含むものを用い、熱処理工程において、骨材粒子中のルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させることが好ましい。このように、ルイス塩基成分を別途添加することなく、「ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子」を用いることにより、より強固な固着状態の捕集層が得られるという利点がある。ルイス塩基成分を更に添加する手間が掛からないという利点がある。
【0037】
本発明(第一の発明)のハニカム構造体の製造方法の一実施形態を図1〜図3Bを参照しながら説明する。図1は、第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において用いられるハニカム基材を模式的に示す断面図である。図2Aは、第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態の原料供給工程において、捕集層前駆体を形成した後の状態を模式的に示す断面図である。図2Bは、図2A中のP2部の拡大図である。図3Aは、第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体10cを模式的に示す断面図である。図3Bは、図3A中のP3部の拡大図である。なお、図1〜図3Bの断面図は、ハニカム構造体1(図4A参照)のセル11の延長方向に平行な断面を示す図である。なお、図3A及び図4C中、隔壁12の表面にのみ捕集層20を描いているが、ハニカム構造体の機能上、隔壁の表面以外に、目封止部の内側(目封止部のセル側の面)に形成されていてもよい。
【0038】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法は、図1〜図3Bに示すように、多孔質の隔壁12によって排ガスの流路となる複数のセル11が区画形成され、且つ、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部(一方の開口端部)と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部(一方の開口端部)とが目封止されたハニカム基材(目封止ハニカム基材10a)(図1参照)の、残余のセル11aを区画形成する隔壁12の残余のセル11a側の表面に、ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子21と、「骨材粒子21を構成するセラミックス中の前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を、加熱されることにより生じ得る結合部形成原料22と、を含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体20を形成し、捕集層前駆体20が形成されたハニカム基材(捕集層前駆体形成ハニカム基材10b)を得る原料供給工程(図2A、図2B参照)と、捕集層前駆体形成ハニカム基材10bを熱処理することにより、前記骨材粒子21中の前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料22中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させて、前記酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部32によって前記骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とが固着された捕集層30を形成する(捕集層30を形成して、捕集層30が形成されたハニカム構造体10cを得る)熱処理工程(図3A、図3B参照)とを備える方法である。このようにして、隔壁12の表面に捕集層30が形成されたハニカム構造体10cを製造することができる。
【0039】
第一の発明のハニカム構造体の製造方法においては、結合部形成原料から生成したルイス酸成分と、ルイス塩基成分とが酸塩基反応したときに、酸塩基反応により骨材粒子より融点が高い塩を生成し得る物質を用いることが好ましい。具体的には、本実施形態においては、結合部形成原料22として、「骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して融点が骨材粒子21の融点よりも高い塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」を用いることが好ましい。結合部形成原料22として、「骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して融点が骨材粒子21の融点よりも高い塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」を用いた場合、高温条件下でも捕集層30が破損したり剥離したりすることがなく、耐熱性に優れた捕集層を形成することができる。なお、ここでいう「高温条件」とは、セラミックスからなる骨材粒子の融点、即ち、セラミックスの融点を超えない範囲で、高い温度のことである。
【0040】
なお、本明細書中、「塩」とは、ルイスの定義におけるルイス酸とルイス塩基との酸塩基反応により生成する塩(えん)のことである。
【0041】
また、本明細書中、「結合部」とは、捕集層の内部において骨材粒子どうしを結合し、更に捕集層中の骨材粒子とハニカム基材の隔壁とを結合する架橋部分のことである。捕集層は、これらの結合により、骨材粒子どうし、及び骨材粒子と隔壁との間を固着し、捕集層としての耐剥離性や耐熱性を発現するものである。
【0042】
以下、本実施形態のハニカム構造体の製造方法について、順を追って説明する。
【0043】
[1−1]ハニカム基材の作製:
図1に示すように、目封止ハニカム基材10aは、多孔質の隔壁12によって排ガスの流路となる複数のセル11が区画形成され、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部とを目封止する目封止部13a,13bを有するものである。
【0044】
ハニカム基材は、例えば、セラミックス粒子、水の他、所望により有機バインダ(ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、メチルセルロース等)、造孔材(グラファイト、澱粉、合成樹脂等)、界面活性剤(エチレングリコール、脂肪酸石鹸等)等を混合し、混練することによって坏土とし、その坏土を所望の形状に成形し、乾燥することによって成形体を得、その成形体を焼成することによって得ることができる。なお、上述したハニカム基材用のセラミックス粒子としては、捕集層を形成するための骨材粒子よりも平均粒子径が大きな粒子を用いることが好ましい。
【0045】
ハニカム基材の原料としては、特に制限はなく、セラミックスを形成し得る原料を好適に用いることができ、強度、耐熱性、耐食性等の観点から、コージェライト化原料、珪素−炭化珪素複合材料、アルミナ、ムライト、アルミニウムチタネート、窒化珪素等を挙げることができる。これらの原料の中でも、後述するように、捕集層の骨材粒子として好ましいコージェライトと熱膨張係数等が等しいため、コージェライト化原料が特に好ましい。
【0046】
ハニカム基材は、例えば、以下のような作製方法を一例として挙げることができる。但し、ハニカム基材の作製方法は、以下の作製方法に限定されることはなく、例えば、従来公知のハニカム基材(ハニカム構造体)の製造方法に準じて行うことができる。
【0047】
まず、ハニカム基材の原料として、例えば、コージェライト化原料に、水等の分散媒、及び造孔材を加えて、更に、有機バインダ及び分散剤を添加して混練することによって、可塑性の坏土を得る。次に、得られた坏土を、所定の金型を用いて押出成形し、所望形状のハニカム成形体を成形する。次に、得られたハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させる。
【0048】
次に、図1に示すように、所定のセル11bの一方の開口部を、目封止部を形成するためのスラリーによって目封止して目封止部13bを形成する。次いで、残余のセル11aの他方の開口部も同様に上記スラリーによって目封止して目封止部13aを形成する。その後、目封止部13a,13bを形成したハニカム成形体を焼成(仮焼き)する。
【0049】
上記した仮焼きは、脱脂のために行われるものであって、例えば、酸化雰囲気において550℃で、3時間程度で行うものが挙げられるが、これに限られるものではなく、ハニカム成形体中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)に応じて行われることが好ましい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼温度は200〜1000℃程度とすればよい。仮焼時間としては特に制限はないが、通常は、3〜100時間程度である。
【0050】
更に、焼成(本焼成)を行う。この「本焼成」とは、仮焼体中の成形原料を焼結させて所定の強度を確保するための操作を意味する。焼成条件(温度・時間)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、焼成温度は一般的には、約1400℃〜1500℃前後程度であるが、これに限定されるものではない。
【0051】
以上のようにして、ハニカム基材を作製することができる。なお、上記作製方法においては、セルの開口部を目封止する目封止部を形成した後に、仮焼き、及び本焼成を行ってハニカム基材を作製する例について説明しているが、目封止部は、ハニカム成形体の焼成を行った後に、別途形成してもよい(例えば、後述するように、捕集層を配設した後に形成したものでもよい)。なお、目封止部の形成方法については、特に制限なく従来公知の形成方法を用いることができ、例えば、所定のセルの一方の開口部にマスクを配設し、残余のセルの開口部に目封止スラリーを充填し、その後、残余のセルの他方の開口部にマスクを配設し、所定のセルの開口部に目封止スラリーを充填する方法を挙げることができる。
【0052】
目封止部の原料としては、ハニカム基材の原料と同様の原料を用いると、ハニカム基材と焼成時の膨張率を同じにでき、耐久性の向上につながるため好ましい。
【0053】
なお、本発明のハニカム構造体の製造方法においては、図1に示す目封止ハニカム基材10aのように、目封止部13a,13bを有するものを用いることが好ましいが、目封止部を有さないハニカム基材を用いてもよい。
【0054】
例えば、目封止部を有さないハニカム基材を用いて、原料供給工程を行って、捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得た後、熱処理工程を行い、捕集層が配設されたハニカム構造体を得る。その後、所定のセルの排ガス流入側の開口端部(一方の開口部)と残余のセルの排ガス流出側の開口端部(他方の開口部)とを目封止して目封止部を形成することもできる。目封止部を形成するには、従来公知の方法を適宜採用することができる。具体的には、まず、ハニカム構造体の一方の端面に、所定のセルの開口部に対応する部分に孔が形成されたマスクを貼り付けるとともに、他方の端面に、残余のセルの開口部に対応する部分に孔が形成されたマスクを貼り付ける。次に、一方の端部及び他方の端部を順次目封止スラリーに浸漬させることにより、所定のセル及び残余のセルの開口端部に目封止スラリーを充填する。次に、従来公知の条件にて、乾燥、焼成を行う。このようにして所定の位置に目封止部を配設したハニカム構造体を得ることができる。
【0055】
なお、原料供給工程において、目封止部を有さないハニカム基材を用いる際には、予めその両端面に上記マスクを貼り付けておくことが好ましい。捕集層を配設する必要のないセルの表面(例えば、図3Aに示す所定のセル11bの表面)に捕集層を配設することを回避し、捕集層形成原料を無用に使用することを防止することができるためである。
【0056】
また、上記作製方法においては、ハニカム基材が、一体的に押出成形(一体成形)される場合の例について説明しているが、例えば、複数本のハニカムセグメントからなるハニカムセグメント接合体からなるハニカム基材を作製し、このハニカム基材を用いてもよい。
【0057】
また、上記作製方法においては、ハニカム基材の原料として、コージェライト化原料を用いた場合の例について説明しているが、例えば、ハニカム基材をSi−SiC複合材料によって作製する場合には、SiC粉末及び金属Si粉末を80:20の質量割合で混合し、これにメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、界面活性剤及び水を加えて混練して坏土を調製することができる。
【0058】
[1−2]捕集層の作製:
次に、本実施形態のハニカム構造体の製造方法における捕集層を作製する方法について図2A〜図3Bを参照しながら説明する。本実施形態のハニカム構造体の製造方法における捕集層30を作製する方法は、図2A、図2Bに示すように、上述の作製方法で得られた目封止ハニカム基材10aの、残余のセル11aを区画形成する隔壁12の残余のセル11a側の表面に、ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子21と、「骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分」を、加熱により生じ得る結合部形成原料22と、を含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体20を形成し、捕集層前駆体20が形成されたハニカム基材(捕集層前駆体形成ハニカム基材10b)を得る原料供給工程と、図3A、図3Bに示すように、捕集層前駆体形成ハニカム基材10bを熱処理することにより、骨材粒子21中のルイス塩基成分と、結合部形成原料22中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて、酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部32によって骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とが固着された捕集層30を形成する(捕集層30を形成して、捕集層30が形成されたハニカム構造体10cを得る)熱処理工程とを備える方法である。
【0059】
即ち、本実施形態のハニカム構造体の製造方法における捕集層30を作製する方法は、結合部形成原料22として、「骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」を用い、熱処理により、骨材粒子21中のルイス塩基成分と、結合部形成原料22中のルイス酸成分と、を酸塩基反応させて、塩を含有する結合部32により固着された捕集層30を形成する方法である。
【0060】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法では、骨材粒子21と結合部形成原料22との間で酸塩基反応を進行させて、骨材粒子21を固着させる結合部32中に塩を生成させることで捕集層30を形成させる。具体的には、結合部形成原料22として、骨材粒子21を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質とを用いることにより、比較的低温、例えば、700〜1000℃でも、骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とを強固に固着する結合部32を形成することができる。即ち、ルイス塩基成分とルイス酸成分との酸塩基反応は、比較的低温でも進行するため、従来のような高い温度条件を必要とせず、結合部32を形成することができる。また、酸塩基反応の一方の反応物であるルイス塩基成分は、骨材粒子21を構成するセラミックス中に存在するものとすることができる。その場合、骨材粒子21と結合部32との界面において酸塩基反応が特に良好に進行し、塩が生成するため、骨材粒子21と結合部32との結合(固着)がより強固なものとなる。
【0061】
[1−2−1]原料供給工程:
捕集層を構成する骨材粒子の材質は、結合部形成原料中のルイス酸成分との酸塩基反応においてルイス塩基として反応するルイス塩基成分を含む材質であれば、特に制限はなく、例えば、コージェライト、炭化珪素、アルミナ、ムライト、アルミニウムチタネート、カルシア及び窒化硼素のうちのいずれかであることが好ましい。また、これらの骨材粒子の材料の中でも、結合部形成原料に含有されるルイス塩基と酸塩基反応するもの、例えば、コージェライト、アルミナ、ムライト、カルシアが更に好ましく、コージェライト、アルミナ、ムライトが特に好ましい。このような結合部形成原料に含有されるルイス塩基と酸塩基反応するものは、より高融点の塩を生成することが可能となる。なお、ルイス塩基成分は、酸塩基反応においてルイス塩基として反応する成分(化合物)である。
【0062】
また、骨材粒子の平均粒子径は、ハニカム基材の隔壁の細孔よりも平均細孔径が小さい細孔を有する多孔質の捕集層を形成することができるものであれば、特に制限されず、平均粒子径が、0.5〜15μmの粒子を用いることが好ましく、1〜10μmの粒子を用いることが更に好ましく、2〜5μmの粒子を用いることが特に好ましい。骨材粒子の平均粒子径が0.5μm未満であると、骨材粒子がハニカム基材の細孔内に入り込み圧力損失特性を悪化させることがあり、一方、15μmを超えると、捕集層の細孔径が大きくなり捕集効率や圧力損失特性が悪化することがある。
【0063】
本実施形態において、結合部形成原料としては、後述する熱処理の際、「骨材粒子を構成するセラミックス中のルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る物質」を用いる。即ち、結合部形成原料は、熱処理により(熱を加えられると)、ルイス酸成分を生じる物質である。このような結合部形成原料としては、リン酸化合物、硫酸化合物、硝酸化合物、炭酸化合物、塩素酸化合物、シュウ酸化合物、及びヨウ素酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、リン酸化合物、硫酸化合物、及び炭酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含有していることが更に好ましく、リン酸化合物、及び硫酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含有していることが特に好ましい。
【0064】
結合部形成原料として、更に具体的には、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸水素ナトリウムが好ましく、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、硫酸水素アンモニウムが更に好ましく、リン酸二水素アンモニウム、硫酸水素アンモニウムが特に好ましい。このような結合部形成原料を用いることによって、後述する熱処理の際、骨材粒子中のルイス塩基成分と、酸塩基反応することにより、より高融点の塩を生成することができる。なお、ルイス酸成分は、酸塩基反応においてルイス酸として反応する成分(化合物)である。
【0065】
捕集層形成原料中、骨材粒子と結合部形成原料との配合比は、骨材粒子100質量部に対して、結合部形成原料15〜250質量部であることが好ましく、20〜100質量部であることが更に好ましい。骨材粒子と結合部形成原料との配合比を上述の数値範囲内とすることにより、酸塩基反応を効率良く進行させ、酸塩基反応により生成する塩の含有率が高い結合部を形成することができ、骨材粒子をより強固に固着させることができる。なお、骨材粒子100質量部に対して、結合部形成原料が50質量部未満であると、上記酸塩基反応の進行が不十分となり、結合部が形成され難くなることがある。即ち、捕集層が剥離し易くなることがある。一方、骨材粒子100質量部に対して、結合部形成原料が250質量部超であると、骨材粒子の間隙が結合部によって充填され、捕集層の細孔が閉塞してしまうことがある。即ち、捕集層の気孔率が小さくなってしまうことがある。
【0066】
捕集層を作製する方法における原料供給工程において、捕集層形成原料を塗布する方法としては、特に制限はなく、例えば、気流法、スラリー法等の従来公知の方法を適宜用いることができる。本実施形態においては、薄く均一な捕集層前駆体を形成することができ、水溶性の結合部形成原料でも使用することができるため、気流法が特に好ましい。
【0067】
ここで、気流法とは、所定のセルの排ガス流入側の開口端部と残余のセルの排ガス流出側の開口端部とが目封止されたハニカム基材の排ガス流入側の端面側から捕集層形成原料を気流を介して搬送して、排ガス流入側の端面側が開口した残余のセルの開口部から捕集層形成原料を流入させ、残余のセル内の隔壁の表面に捕集層形成原料を付着させる方法である。
【0068】
また、スラリー法とは、ハニカム基材の一方の端面側から骨材粒子及び結合部形成原料を含有するスラリーを圧入して隔壁表面にスラリーを付着させ、その後、スラリーを排出し、隔壁表面に残存するスラリーを乾燥させることにより製膜する方法である。スラリーの分散媒としては、特に制限はなく、例えば、水等を用いることができ、これらの中でも水が好ましい。
【0069】
[1−2−2]熱処理工程:
捕集層を作製する方法における熱処理工程は、上述の原料供給工程において捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を、例えば、700〜1000℃で熱処理することにより、骨材粒子中のルイス塩基成分と結合部形成原料中のルイス酸成分との酸塩基反応が進行し、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とが結合部により固着された捕集層を形成する工程である。
【0070】
熱処理工程において、ルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とが酸塩基反応し、この反応生成物である塩が結合部に含有されることにより、骨材粒子どうし、及び骨材粒子とハニカム基材の隔壁とが強固に結合される。そして、この結合部に含有される塩の融点が、骨材粒子の融点よりも高い場合、高温条件下においても結合部が融解、又は軟化することがないため、高温にさらされることにより破損したり、隔壁から剥離したりすることがなく、耐熱性にも優れた捕集層を形成することができる。熱処理工程においては、結合部形成原料からルイス酸成分が生じるとともに、結合部形成原料から生じたルイス酸成分と骨材粒子中のルイス塩基成分とが酸塩基反応を起こす。なお、熱処理工程においては、設定温度によって、酸塩基反応が完結する(即ち、リン酸二水素アンモニウムの全てがリン酸アルミニウムになる)場合、酸塩基反応が完結せずに、リン酸二水素アンモニウムの一部が未反応で残っている(即ち、リン酸アルミニウムとリン酸二水素アンモニウムが共存している)場合が生じ得る。本発明においては、酸塩基反応が完結してもよいし、完結しなくてもよいが、酸塩基反応が完結するように温度を設定することが好ましい。
【0071】
熱処理工程における熱処理温度としては、700〜1000℃であることが好ましく、800〜1000℃であることが更に好ましく、900〜1000℃であることが特に好ましい。熱処理温度が700℃未満であると、骨材粒子中のルイス塩基成分と結合部形成原料中のルイス酸成分とが十分に反応することができず、骨材粒子どうしを強固に結合することができない場合がある。一方、熱処理温度が1000℃超であると、形成される結合部やハニカム基材自体が溶融し、捕集層の細孔が閉塞してしまう場合がある。
【0072】
また、熱処理に掛ける時間は、特に制限はないが、0.5〜72時間掛けて熱処理することが好ましく、1〜48時間掛けて熱処理することが更に好ましく、3〜24時間掛けて熱処理することが特に好ましい。熱処理時間が0.5時間未満であると、酸塩基反応が十分に進行しないことがある。一方、熱処理時間が72時間超であると、更なる酸塩基反応が進みにくく、熱処理におけるエネルギーコストが増大する傾向がある。
【0073】
[2]ハニカム構造体(1):
本発明(第一の発明)のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体1(10c)について、図4A〜図4Cを参照しながら説明する。ここで、図4Aは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において製造されるハニカム構造体1の斜視図であり、図4Bは、図4Aに示すハニカム構造体1の一方の端面を模式的に示す平面図であり、図4Cは、図4B中のA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【0074】
図4A〜図4Cに示すように、本実施形態において製造されるハニカム構造体1は、排ガスの流路となる一方の端部15aから他方の端部15bまで延びる複数のセル11を区画形成する多孔質の隔壁12、及び、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部(一方の開口端部)と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部(他方の開口端部)とを目封止する目封止部13a,13bを有するハニカム基材(目封止ハニカム基材10a(図1参照))と、流入側の開口端部が開口した流入セル(残余のセル)11aを区画形成する側の隔壁12の表面に膜状に配設された、隔壁12の平均細孔径よりも平均細孔径が小さい細孔を有する多孔質の捕集層30と、を備えたハニカム構造体である。ハニカム基材は外周に外周壁14が形成されている。
【0075】
本実施形態において製造されるハニカム構造体は、このように構成されることにより、排ガス中の粒子状物質の捕集を良好に行うことができるものである。即ち、ハニカム基材を構成する隔壁の表面に、隔壁の細孔よりも平均細孔径が小さい細孔を有する多孔質の捕集層が配設されているため、排ガス中の粒子状物質の隔壁の細孔内への侵入を有効に防止することができる。
【0076】
そして、本実施形態において製造されるハニカム構造体の捕集層は、セラミックスからなる骨材粒子と、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とを結合する結合部と、を有するものである。
【0077】
また、上記結合部には、骨材粒子のルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて生成される塩が含まれており、上記塩の融点が骨材粒子の融点よりも高いものであることが好ましい。本実施形態において製造されるハニカム構造体は、このような構成を有することにより、比較的低温で形成されたにも関わらず、骨材粒子どうしが強固に固着されているため、排ガス中の粒子状物質を効率良く除去することができると共に、高温条件下においても、捕集層が欠損、剥離等することがないという効果を奏するものである。
【0078】
[2−1]ハニカム基材:
本実施形態において製造されるハニカム構造体を構成するハニカム基材は、上述したように、目封止部が配設されたものであってもよいし、目封止部が配設されないものであってもよい。ハニカム基材は、図4A〜図4Cに示すように、排ガスの流路となる一方の端部15aから他方の端部15bまで延びる複数のセル11を区画形成する多孔質の隔壁12を有するものである。なお、本実施形態において製造されるハニカム構造体1は、所定のセル11bと残余のセル11aとが交互に隣接して配設され、目封止部13a,13bが、図4A〜図4Cに示すように、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部とを交互に目封止するものであっても良い。即ち、目封止ハニカム基材10aの一方の端面におけるセルの開口部が市松模様状に目封止されたものであっても良い。
【0079】
ハニカム基材の全体形状については特に制限はなく、例えば、図4Aに示されるような円筒状の他、楕円形状、四角柱状、三角柱状等の形状を挙げることができる。このようなハニカム基材は、従来公知のハニカム構造体に用いられるハニカム基材を好適に用いることができる。
【0080】
また、ハニカム基材に形成されたセルの形状(セルの貫通方向に対して垂直な断面におけるセル形状)としては、例えば、図4Bに示されるような四角形セルの他、六角形セル、八角セル、三角形セル等の形状を挙げることができる。但し、ハニカム基材に形成されたセルの形状としては、このような形状に限られるものではなく、公知のセルの形状を広く包含することができる。
【0081】
また、ハニカム基材においては、異なるセル形状を組み合わせることもできる。隣接するセルの片側のセルを八角形とし、もう片側を四角形にすることで、片側セル(即ち、八角形セル)をもう片側セル(即ち、四角形セル)に比べ大きくすることができる。特に、アッシュの発生量が多いエンジンに用いられる場合には、ガス流入側のセル(流入セル)を大きくすることで、アッシュ堆積時の圧損上昇を抑制することができる。
【0082】
ハニカム基材のセル密度も特に制限はないが、本実施形態のようなハニカム構造体として用いる場合には、0.9〜233セル/cm2の範囲であることが好ましく、15.5〜62.0セル/cm2の範囲であることが更に好ましく、23.3〜45.0セル/cm2の範囲であることが特に好ましい。このような範囲とすることによって、流入セルに粒子状物質を溜める領域を良好に確保することができる。
【0083】
ハニカム基材を構成する隔壁の厚さは、20〜2000μmの範囲であることが好ましく、強度と圧損のバランスから、100〜635μmの範囲であることが更に好ましく、200〜500μmの範囲であることが特に好ましい。
【0084】
ハニカム基材の材質については特に制限はないが、セラミックスを好適に用いることができ、強度、耐熱性、耐食性等の観点から、コージェライト、炭化珪素、アルミナ、ムライト、アルミニウムチタネート、窒化珪素、及び炭化珪素を骨材とし金属珪素を結合部形成原料として形成された珪素−炭化珪素系複合材料のうちのいずれかであることが好ましい。これらの材質の中でも、後述するように、捕集層の骨材粒子として好ましいコージェライトと熱膨張係数等が等しいため、コージェライトが特に好ましい。
【0085】
なお、本実施形態において製造されるハニカム構造体に用いられる目封止部は、従来の目封止ハニカム構造体(目封止部を有するハニカム構造体)に配設される目封止部と同様に構成されたものを用いることができる。
【0086】
ハニカム基材を構成する隔壁の細孔の平均細孔径としては、隔壁の細孔の平均細孔径が大きいと、捕集層の形成が難しく、一方、平均細孔径が小さいと、例えば、ハニカム構造体に捕集した粒子状物質を除去するための触媒(例えば、酸化触媒)を担持する際に、上記した触媒の担持が困難となる。このため、隔壁の細孔の平均細孔径としては、0.3〜150μmであることが好ましく、1〜60μmであることが更に好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。
【0087】
また、隔壁の気孔率は、30〜70%であることが好ましく、35〜60%であることが更に好ましい。隔壁の気孔率が30%未満であると、圧力損失が大きくなることがある。また、気孔率が70%を超えると、隔壁の強度が不足するために好ましくない。上記隔壁の気孔率は、捕集層を除く、ハニカム基材の隔壁本来の気孔率を示す。なお、本発明において、ハニカム基材を構成する隔壁(捕集層を形成する前)の「平均細孔径」、「気孔率」というときには、水銀圧入法により測定した平均細孔径、気孔率を意味するものとする。
【0088】
[2−2]捕集層:
本実施形態において製造されるハニカム構造体は、排ガス流入側の開口端部が開口した流入セルを区画形成する側の隔壁の表面に膜状に配設された、隔壁の細孔よりも平均細孔径が小さい細孔を有する多孔質の捕集層を備えるものである。そして、本実施形態において製造されるハニカム構造体の捕集層は、セラミックスからなる骨材粒子と、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とを結合する結合部と、を有するものである。
【0089】
捕集層は複層(即ち、二層以上の捕集層が積層された層)としてもよい。また、捕集層の細孔径又は粒子径は傾斜していてもよい。その場合、細孔径又は粒子径は、その表面に近い程小さい方が、隔壁の細孔内へのPM堆積を防止することができる上、圧損上昇も少なくすることができるため好ましい。
【0090】
また、隔壁の細孔の平均細孔径と捕集層の細孔の平均細孔径とを比較した場合、捕集層の細孔の平均細孔径は、隔壁の細孔の平均細孔径の1/1000〜9/10倍であることが好ましく、隔壁の細孔の平均細孔径の1/100〜1/2倍であることが更に好ましく、1/20〜1/5倍であることが特に好ましい。捕集層の細孔の平均細孔径が、隔壁の細孔の平均細孔径の1/1000倍未満であると、捕集層等の細孔が小さすぎてハニカム構造体の圧損が大きくなることがある。一方、捕集層等の平均細孔径が、隔壁の細孔の平均細孔径の9/10倍を超えると、捕集層の細孔が大きすぎて、隔壁の細孔との実質的な差異が無くなり、捕集層の細孔内に粒子状物質が侵入し、圧損が増大してしまうことがある。
【0091】
本実施形態において製造されるハニカム構造体における捕集層の細孔の平均細孔径は、0.1〜30μmであることが好ましく、0.1〜15μmであることがより好ましく、0.9〜11μmであることが更により好ましく、1.5〜6μmであることが特に好ましい。このように構成することによって、捕集層による圧損の上昇を有効に抑制しつつ、捕集層の表面上にて粒子状物質を良好に捕集(即ち、ケーキ層状に捕集)することができる。平均細孔径が0.1μm未満であると、ガス透過性が小さくなり細孔の透過抵抗が急上昇しやすくなるため好ましくなく、30μmより大きいと捕集性能が低下し、PMエミッションが欧州規制のユーロ5規制値をオーバーし易くなり好ましくない。
【0092】
本実施形態のハニカム構造体の捕集層の細孔の平均細孔径は、ハニカム構造体の隔壁断面のSEM(走査型電子顕微鏡)による画像から、以下の方法によって測定された値とする。まず、ハニカム構造体の隔壁の軸方向に対して垂直な断面の所望領域を樹脂埋め研磨し、倍率1000倍の視野にてSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、その断面の画像(SEM画像)を得る。このSEM画像は、1ピクセルが、縦0.261μm×横0.261μmの画像とする。次に、得られたSEM画像を二値化処理する。二値化処理により、上記SEM画像が、撮像された骨材粒子の実体部分と、各骨材粒子相互間の空隙とに分離される。二値化処理は、1ピクセルを最小単位として行われる。
【0093】
次に、この二値化処理した画像において、骨材粒子の空隙隙間として認識された領域(以下、「空隙領域」ということがある)に、空隙領域内に納まる大きさの「円」を、直径が大きな円から、順次、各円が重ならないように描く。具体的には、まず、上記空隙領域に、最も直径が大きな円(以下、「内接円」ともいう)を描く。次に、この内接円が描かれている領域を、「空隙領域」から除く。このようにして得られた「内接円が描かれた領域が除かれた空隙領域」に、再度、この状態で最も直径が大きな内接円を描き、その後、この内接円(2回目の内接円)が描かれた領域を、更に「空隙領域」から除く。以下、「空隙領域(具体的には、各内接円が描かれた領域が除かれた空隙領域)」に、内接円を描くことができなくなるまで上記方法に従い内接円を描く。即ち、画像の最小単位である1ピクセルまで、空隙領域に内接円を描き続ける。SEM画像の二値化、及び空隙領域に内接円を描く画像処理は、市販の画像解析ソフト(例えば、MVtec Software GmbH社製の商品名「Halcon」など)を用いることができる。
【0094】
次に、空隙領域内に描かれた全ての内接円の面積を、直径が大きな内接円から順次積算し、空隙領域内に描かれる全ての内接円の面積を積算した積算面積を算出する。そして、上記積算時において、総積算面積の50%に到達する際に加算される内接円の直径を、捕集層の細孔の平均細孔径とする。例えば、「総積算面積の50%に到達する際に加算される内接円の直径」は、上記内接円の直径と、積算面積とについて、横軸を内接円の直径とし、縦軸を積算面積としたグラフを作成し、このグラフにおける、総積算面積の50%に相当する、上記内接円の直径を求めることによって得ることができる。
【0095】
また、捕集層等を形成する微粒子の平均粒子径を測定する際には、隔壁の軸方向に対して垂直な断面の所望領域を樹脂埋め研磨した断面、又は、破断面を、倍率100倍〜1000倍の視野にてSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、捕集層を形成する微粒子の粒子径(最大径)を測定する。一視野内にて測定された全粒子径の平均を平均粒子径とする。
【0096】
また、捕集層の厚さは、隔壁の厚さの3/500〜1/2であることが好ましく、1/150〜1/5であることが更に好ましく、1/100〜1/10であることが特に好ましい。なお、捕集層の厚さが、隔壁の厚さの3/500未満であると、捕集層の厚さが薄すぎて、粒子状物質の捕集を十分に行うことができず、捕集層を粒子状物質の一部が容易に通過してしまうことがある。また、捕集層の厚さが、隔壁の厚さの1/2を超えると、捕集層による圧損上昇の影響が大きくなり、ハニカム構造体の初期の圧損を増大させてしまうことがある。
【0097】
なお、本発明において、「捕集層の厚さ」とは、下記の方法によって測定される厚さのことを意味する。
【0098】
(捕集層の厚さの測定方法)
まず、捕集層が形成されている隔壁を、セルの貫通方向に対して垂直に切断する。次に、得られた隔壁の断面における所望領域を、樹脂埋め研磨する。次に、樹脂埋め研磨した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって500倍の倍率で撮像する。撮影したSEM写真を、横に100分割する直線を引き、この直線を、SEM写真の上から順に観察し、隔壁の表面に触れる直線のうち一番上の直線と、捕集層を形成する粒子に触れる直線のうち一番上の直線と、をそれぞれ決定する。決定された2本の直線間の幅を、その視野の(即ち、当該SEM写真における)膜厚とし、20視野の(即ち、同様の倍率で異なる部位を撮像した20枚のSEM写真における)平均値を、捕集層の厚さとする。
【0099】
なお、より具体的な捕集層の厚さとしては、1〜100μmであることが好ましく、5〜60μmであることが更に好ましい。このように構成することによって、粒子状物質を良好に捕集することができるとともに、初期の圧損の増大を有効に抑制することができる。
【0100】
捕集層を構成する骨材粒子としては、例えば、コージェライト、炭化珪素、アルミナ、ムライト、アルミニウムチタネート、及び窒化珪素のうちのいずれかであることが好ましい。
【0101】
捕集層を構成する骨材粒子としては、上述の材料の中でも、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含有する材料であることがより好ましく、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、及びカリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含有する材料であることが更に好ましい。より具体的には、コージェライト、アルミナ、ムライト、及びアルミニウムチタネートのうちのいずれかであることがより好ましく、コージェライト、アルミナ、ムライトのうちのいずれかであることが更に好ましい。捕集層を構成する骨材粒子が、上述のような材料から構成されることにより、結合部形成原料から供給されるルイス酸成分と酸塩基反応して、塩を含有する強固な結合部を形成し、更に、耐熱性にも優れた結合部を形成することができる。
【0102】
また、これらの骨材粒子は、ハニカム基材を構成する隔壁の材料と同じ材料であることも好ましい。例えば、隔壁がコージェライト材料によって構成されている場合には、この隔壁と同様のコージェライト材料からなる骨材粒子を用いて捕集層が形成されていることが好ましい。このように構成することによって、隔壁と捕集層との熱膨張率が同じとなり、ハニカム構造体の強制再生時における温度変化によって破損等を生じ難くすることができる。
【0103】
捕集層を構成する結合部の融点は、700〜3000℃であることが好ましく、1000〜2500℃であることが更に好ましく、1200〜2300℃であることが特に好ましい。結合部の融点が700℃未満であると、結合部の一部が溶融してしまう可能性があり、捕集層の細孔を閉塞させてしまうことがある。結合部の融点が3000℃超であると、捕集層として使用できる原料が限られてきてしまい、捕集層の熱膨張などの諸特性を調整できる猶予が少なくなってしてしまうことがある。
【0104】
結合部は、骨材粒子中のルイス塩基成分と、結合部形成原料中に含まれるルイス酸成分と、が反応して生成した塩を含有していることが好ましい。
【0105】
結合部に含有される塩としては、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩素酸塩、シュウ酸塩、及びヨウ素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、リン酸塩、硫酸塩、及び炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが更に好ましく、リン酸塩、及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが特に好ましい。そして、捕集層を構成する結合部に含有される塩は、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塩であることが好ましく、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、及びカリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塩であることが更に好ましく、アルミニウム、マグネシウム、及びカルシウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塩であることが特に好ましい。
【0106】
上述のような塩としては、具体的には、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムが好ましく、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムが更に好ましく、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウムが特に好ましい。結合部に含有される塩が上述のような、生成温度が低く、融点が高い塩であることにより、捕集層の耐熱性を向上させることができる。
【0107】
捕集層の気孔率は40〜90%であることが好ましく、50〜80%であることが更に好ましい。捕集層の気孔率が、40%未満であると、圧力損失が大きくなるという問題が生じるおそれがあり、90%を超えると、捕集層の強度が不足するために、隔壁の表面から捕集層が剥離してしまうという問題が生じるおそれがあるため好ましくない。
【0108】
なお、捕集層の気孔率を、隔壁の気孔率よりも5%以上大きく形成すると、捕集層における圧力損失(透過圧損)を小さくすることができるという利点があるため、好ましい。
【0109】
ここで、捕集層の気孔率は、隔壁の軸方向に対して垂直な断面の所望領域を樹脂埋め研磨し、倍率100倍〜1000倍の視野にてSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、得られた画像を二値化処理し、一視野内の空隙と粒子の面積比により測定することができる。
【0110】
また、本実施形態において製造されるハニカム構造体における捕集層は、これまでに説明した隔壁の細孔内への粒子状物質の侵入を防止し、粒子状物質を事前に捕集する役割(機能)だけでなく、捕集層に、捕集したPMを酸化処理する役割(機能)が付与されていてもよい。
【0111】
即ち、捕集層には酸化触媒が担持されていてもよい。このように構成することによって、PMを捕集する捕集層としての機能と、PMを酸化処理する機能とが相俟って、隔壁の流入側に形成された捕集層で良好にPMを捕集するとともに、捕集したPMを酸化処理することができる。
【0112】
このような酸化触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)及び銀(Ag)等の貴金属が好適に用いられる。
【0113】
なお、本実施形態において製造されるハニカム構造体においては、上記酸化触媒以外にも、他の触媒や浄化材が、更に担持されていてもよい。例えば、セリウム(Ce)やジルコニウム(Zr)の酸化物に代表される助触媒が担持されていてもよい。
【0114】
なお、このような酸化触媒は、隔壁の細孔内部の少なくとも一部に更に担持してもよい。このように構成することによって、仮に、排ガス中のPMの一部が、捕集層によって捕集されず、捕集層を透過して隔壁の細孔内に侵入した場合であっても、そのPMを酸化触媒によって燃焼除去することができる。
【0115】
なお、このような酸化触媒のハニカム構造体の体積1Lあたり担持量については特に制限はないが、1〜34g/Lであることが好ましく、5〜30g/Lであることが更に好ましい。例えば、酸化触媒の担持量が1g/L未満であると、触媒による粒子状物質の燃焼性能が十分に得られなくなることがあり、一方、34g/Lを超えると、捕集層の細孔を塞ぎ、ススが堆積しない状態でも圧力損失が高くなることがある。粒子状物質は捕集層の部分にほとんど堆積するため、隔壁細孔内部への担持が不要となり、従来の担持量よりも減らすことができる。
【0116】
[3]ハニカム構造体の製造方法(2):
次に、本発明(第二の発明)のハニカム構造体の製造方法の一実施形態について、図1〜図3Bを参照しながら説明する。
【0117】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法は、多孔質の隔壁12によって排ガスの流路となる複数のセル11が区画形成され、且つ、所定のセル11bの排ガス流入側の開口端部と残余のセル11aの排ガス流出側の開口端部とが目封止されたハニカム基材体(目封止ハニカム基材10a)(図1参照)の、残余のセル11aを区画形成する隔壁12の残余のセル11a側の表面に、セラミックスからなる骨材粒子21と、結合部形成原料23とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体20を形成する原料供給工程(図2A、図2B参照)と、捕集層前駆体20が形成されたハニカム基材(捕集層前駆体形成ハニカム基材10b)を熱処理することにより、骨材粒子21どうしが結合部33により固着された捕集層30を形成する(捕集層30を形成して、捕集層30が形成されたハニカム構造体10cを得る)熱処理工程(図3A、図3B参照)とを備え、上記結合部形成原料23として融点又は軟化点が500〜1000℃である物質を用い、熱処理により結合部形成原料23を溶融又は軟化させて、結合部形成原料23から形成される結合部33により骨材粒子21どうし及び骨材粒子21と隔壁12とが固着された捕集層30を形成する方法である。
【0118】
本実施形態(第二の発明)のハニカム構造体の製造方法は、前述の第一の発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態における捕集層形成原料に代えて、「セラミックスからなる骨材粒子と、融点又は軟化点が500〜1000℃である結合部形成原料とを含む捕集層形成原料」を用いている。第一及び第二の両発明における捕集層形成原料は、いずれも、比較的低温でも捕集層(特に、結合部)を形成することができる原料である。
【0119】
本実施形態では、結合部形成原料として融点又は軟化点が500〜1000℃である物質を用い、熱処理により結合部形成原料を溶融又は軟化させて、結合部形成原料から形成される結合部により固着された捕集層を形成することにより、比較的低温、例えば、500〜1000℃でも、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とを強固に固着する結合部を形成することができる。
【0120】
本実施形態において、結合部形成原料として用いられる物質の融点又は軟化点は、500〜1000℃であり、550〜950℃であることが好ましく、600〜900℃であるであることが更に好ましく、650〜850℃であることが特に好ましい。結合部形成原料の融点又は軟化点が上述の温度範囲内であることにより、熱処理工程における熱処理温度を低く設定することができ、1つ1つのハニカム構造体の製造に要する時間を短縮し、製造効率を上げることができる。なお、結合部形成原料の融点又は軟化点が500℃未満であると、実際の使用環境における温度環境下で容易に溶融してしまう。結合部形成原料の融点又は軟化点が1000℃超であると、熱処理におけるエネルギーコストが高くなる。
【0121】
このような結合部形成原料、即ち、融点又は軟化点が500〜1000℃である物質としては、捕集層形成後の結合部としての結合性能が良く、扱い易いという観点から、ガラス粉末(ガラスフリット)が好ましい。
【0122】
本実施形態において、熱処理は、結合部形成原料として用いられる物質の融点又は軟化点より0〜100℃高い温度で行うことが好ましく、10〜80℃高い温度で行うことが更に好ましく、20〜50℃高い温度で行うことが特に好ましい。熱処理を上述の温度範囲内で行うことにより、余剰の加熱を行うことなく、効率良く捕集層を形成することができる。
【0123】
なお、本実施形態についてこれまで説明してきた結合部形成原料等に関すること以外は第一の発明と同様の説明をすることができる。例えば、ハニカム基材、捕集層を構成する骨材粒子等は、第一の発明で説明したものと同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0124】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0125】
(実施例1)
[ハニカム基材の作製]
コージェライト化原料として、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用し、コージェライト化原料100質量部に、造孔材を13質量部、分散媒を35質量部、有機バインダを6質量部、分散剤を0.5質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。分散媒として水を使用し、造孔材としては平均粒子径10μmのコークスを使用し、有機バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0126】
調製した坏土を押出成形し、ハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体をマイクロ波乾燥機を使用して乾燥し、更に熱風乾燥機を使用して完全に乾燥させた後、両端部を切断し、所定の寸法の長さのハニカム乾燥体を得た。次いで、隣接するセルが互い違いに目封止されるように、ハニカム乾燥体のセルの両端部に目封止部を形成した後、1410〜1440℃で5時間焼成することによって、目封止部が形成されたハニカム基材(目封止ハニカム基材)を得た。
【0127】
得られた目封止ハニカム基材は、セル貫通方向に垂直な断面のセル形状が四角形であり、全体形状が四角柱形のものであった。また、セル貫通方向に垂直な断面(四角柱形の底面)における一辺の長さは36mmであり、セル貫通方向における長さ(四角柱形の高さ)は152.4mmであった。なお、セル密度は46.5セル/cm2であり、隔壁の厚さは356μmであり、隔壁の気孔率は48%であり、平均細孔径は12μmであった。
【0128】
[捕集層の作製]
骨材粒子として平均粒子径2.1μmのコージェライト粉末2.0質量部、結合部形成原料としてリン酸二水素アンモニウム1.5質量部を混合し、更に乳鉢を使用して混合し、捕集層形成原料を得た。なお、コージェライト粉末は、コージェライト製のハニカム基材等を作製する際に生じる廃材を平均粒子径が2.1μmとなるように粉砕し分級したもの(コージェライトセルベン)を用い、リン酸二水素アンモニウムは、和光純薬工業社製の商品名「リン酸二水素アンモニウム」を用いた。
【0129】
次に、得られた上記捕集層形成原料を用いて捕集層前駆体を形成した(原料供給工程)。具体的には、図6に示すような捕集層作製装置を用いて捕集層を作製(製膜)した。まず、上記捕集層形成原料46を、原料供給器47に導入し、原料供給器47から一定量の捕集層形成原料46を、ハニカム基材40(目封止ハニカム基材10a)の流入側40aに設けられたエジェクタ48(真空発生器)を使用して飛散させる。この際、ハニカム基材40の流出側40bにおいては、ブロワ45によって400L/min(リットル/分)で吸引して、捕集層形成原料46を流入セル内に誘導する。このようにして、ハニカム基材40の流入セルを区画形成する隔壁の流入セル側の表面に、捕集層形成原料46を堆積させて、捕集層前駆体の作製を行った。なお、捕集層前駆体の作製は10秒掛けた(即ち、捕集層形成原料46を原料供給器47に導入した時から数えて10秒後に、ブロワ45による吸引を停止させた。)。
【0130】
ここで、図6は、実施例において、捕集層前駆体の作製に用いられた捕集層作製装置の構成を示す模式図である。なお、図6において、符号43は、エジェクタに導入される空気を示す。
【0131】
その後、700℃で1時間熱処理することにより、骨材粒子どうし及び骨材粒子と隔壁とが結合部により固着された捕集層を形成し、ハニカム構造体を得た(熱処理工程)。形成された捕集層は、気孔率が65%であり、平均細孔径が3μmであった。
【0132】
得られたハニカム構造体について、以下に示す評価を行った。その結果、実施例1のハニカム構造体の捕集層の剥離率は「0(%)」であり、耐熱性は「良好」であった。エックス線回折による測定の結果、実施例1のハニカム構造体の捕集層には、結合部にリン酸アルミニウムが生成していることが確認できた。なお、エックス線回折装置として、パナリティカル(PANalytical)社製の商品名「X’Pert PRO MPD」を用いた。図5に、エックス線回折による測定の結果を示す。リン酸アルミニウムが生成していたことは、図5中の矢印が指し示すピーク(Al(PO4))が現れていたことにより確認した。なお、表1中の「結合部」には、エックス線回折により測定される結合部(即ち、ハニカム構造体の捕集層を構成する成分のうち骨材粒子以外の成分)の主成分を示す。なお、本明細書において「主成分」というときは、全成分の50%以上の成分のことを意味する。
【0133】
[耐剥離性評価]
ハニカム構造体の流出側から、エアーガン(栗田製作所社製の商品名「エアーガン(AG50)」(噴出し口径3mm))を使用して0.4MPaに圧縮された空気を、ハニカム構造体の流出側端面の全体に吹きつけた。この際、エアーガンの噴出し口を、ハニカム構造体の流出側端面からの距離を20mmに固定して吹きつけた。
【0134】
ハニカム構造体の流入側端部から、粉末(剥離した捕集層)が排出されなくなるまで、上記吹きつけを実施した。なお、粉末が排出されているか否かは、ハニカム構造体の質量を計測し、吹きつけの前後で質量が変化するか否かによって、粉末が排出されているか否かを判断した。
【0135】
粉末が排出されなくなったこと、即ち、吹きつけの前後でハニカム構造体の質量に変化が無くなったことを確認した後、吹きつけを開始する前のハニカム構造体の質量と、粉末が排出されなくなった後のハニカム構造体の質量の差を剥離量とした。そして、下記式(1)で表されるような、製膜量に対する剥離量の比率(百分率)を剥離率(%)とした。なお、製膜量としては、原料供給工程において、製膜した後のハニカム構造体の質量(製膜後)と、ハニカム基材(製膜前)の質量との差を用いた。求めた剥離率(%)を表1に示した。
剥離率(%)=剥離量(g)/製膜量(g)×100 ・・・(1)
【0136】
[耐熱性評価]
炉内温度が1000℃に設定された電子炉内で1分間加熱した。その後、捕集層の微細構造を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製の商品名「S−3200N」)を使用して観察し、上記熱サイクル試験の前後で、捕集層が維持されているものを「良好」と評価し、結合部が溶融し捕集層の細孔が閉塞したり、ハニカム基材の隔壁の細孔内へ浸透したりしている等、捕集層が維持されなかったものを「不良」と評価した。評価結果を表2に示した。なお、実施例3においては、若干変質が確認されたが、捕集層が維持されていたので「良好(若干変質あり)」と評価した。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
(実施例2〜9、比較例1〜5)
捕集層形成原料として、表1に示す骨材粒子及び結合部形成原料を表1に示す配合量(質量部)で使用したものを用いたこと以外は、実施例1のハニカム構造体と同様にして、ハニカム構造体を作製し、その評価を実施した。評価結果を併せて表1に示した。なお、実施例2〜9、比較例1〜5で用いた結合部形成原料(表1中の結合部形成原料)は、以下に示す物質である。
【0140】
ガラス粉末(SiO2・B2O3・ZnO):旭硝子株式会社製の商品名「ASF1620B」(平均粒子径4.5μm)
ガラス粉末(SiO2・B2O3・R2O):旭硝子株式会社製の商品名「ASF102M」(平均粒子径3.5μm)
タルク:竹原化学工業株式会社製の商品名「ハイトロンA」(平均粒子3.0μm)
モンモリロナイト:株式会社ホージュン社製の商品名「ベンゲルHVP」
カオリン:竹原化学工業株式会社製の商品名「サテントンW」
高塩基性塩化アルミニウム:多木化学株式会社製の商品名「タキバイン#3000」
【0141】
表1中、結合部の欄の「主成分」に記載されている「結合部が形成されていない(物質名)」とは、熱処理の温度が低温であるため結合部形成原料として使用した物質が結合部を形成していないことを意味する。即ち、例えば比較例1において「結合部が形成されていない(タルク)」とは、熱処理の温度が低温であるため結合部形成原料として使用した「タルク」が結合部を形成していないことを意味する。また、結合部の欄の「融点」に記載されている「(数値)」とは、結合部形成原料として使用した物質の融点を示している。即ち、例えば比較例1における「(1500)」とは、結合部形成原料として使用した「タルク」の融点を示している。なお、実施例4において、耐熱性と気孔率の評価結果が「−」であるのは、剥離率が20%以上のため評価していないことを意味する。
【0142】
(考察)
表1の結果から明らかなように、骨材粒子中のルイス塩基成分と、結合部形成原料中のルイス酸成分とを酸塩基反応させて、塩を含有する結合部により固着された捕集層は、低温(700℃程度)での熱処理でも剥離率が小さく、隔壁に強固に固着するものであった。更に、結合部に高融点の塩が含有されている場合、捕集層は耐熱性にも優れるものであった(実施例1及び2)。
【0143】
また、結合部形成原料として融点又は軟化点が500〜800℃である物質を用いた捕集層は、低温(700℃程度)での熱処理でも剥離率が小さく、隔壁に強固に固着するものであった(実施例3及び4)。
【0144】
実施例1、2、5〜8のうち、実施例1、5〜7は、剥離率が0%であり、耐熱性も良好であるため好ましいものであった。
【0145】
一方、比較例1〜4のハニカム構造体は、低温(700℃程度)では溶融又は骨材粒子に含有される成分との反応が起こらず、結合部が形成されなかったため、捕集層が剥離した(剥離率が高い)。比較例5のハニカム構造体には結合部形成原料が用いられていないため、低温(700℃程度)ではコージェライトからなる骨材粒子が溶融せず、結合部が形成されなかったため捕集層が剥離した。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されるハニカム構造体は、ディーゼルエンジン、普通自動車用エンジン、トラックやバス等の大型自動車用エンジンをはじめとする内燃機関、各種燃焼装置から排出される排ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するためのフィルタとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0147】
1,10c:ハニカム構造体、10a:目封止ハニカム基材、10b:捕集層前駆体形成ハニカム基材、11:セル、11a:流入セル(残余のセル)、11b:流出セル(所定のセル)、12:隔壁、13a,13b:目封止部、14:外周壁、15a:一方の端部、15b:他方の端部、20:捕集層前駆体、21:骨材粒子、22,23:結合部形成原料、30:捕集層、32,33:結合部、40:ハニカム基材、40a:流入側(ハニカム基材の流入側)、40b:流出側(ハニカム基材の流出側)、43:空気、45:ブロワ、46:捕集層形成原料、47:原料供給器、48:エジェクタ、101:ハニカム構造体、111:セル、111a:流入セル、111b:流出セル、112:隔壁、113a,113b:目封止部、115a:一方の開口端部、115b:他方の開口端部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の前記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることにより前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、
得られた前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させて、前記酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部によって前記骨材粒子どうし及び前記骨材粒子と前記隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記原料供給工程において、前記捕集層形成原料として、前記ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子と、前記骨材粒子を構成するセラミックス中の前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を、加熱されることにより生じ得る結合部形成原料と、を含むものを用い、
前記熱処理工程において、前記骨材粒子中の前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させる請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記結合部形成原料として、前記結合部形成原料から生成したルイス酸成分と、前記ルイス塩基成分とが酸塩基反応したときに、前記骨材粒子より融点が高い塩を生成し得る物質を用いる請求項1又は2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記結合部形成原料として、リン酸化合物、硫酸化合物、硝酸化合物、炭酸化合物、塩素酸化合物、シュウ酸化合物、及びヨウ素酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を用いる請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記結合部形成原料として、リン酸化合物を用いる請求項4に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記結合部形成原料として、リン酸二水素アンモニウムを用いる請求項5に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
前記骨材粒子として、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含有するセラミックス粒子を用いる請求項1〜6のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項8】
前記骨材粒子として、コージェライトからなる微粒子を用いる請求項1〜7のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項9】
前記原料供給工程において、前記骨材粒子100質量部に対して、50〜250質量部の前記結合部形成原料を含む前記捕集層形成原料を塗布して、前記捕集層前駆体を形成する請求項1〜8のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項10】
多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の前記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、融点又は軟化点が500〜1000℃である結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、
前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、前記結合部形成原料を溶融又は軟化させて、溶融又は軟化した前記結合部形成原料から形成される前記結合部により前記骨材粒子どうし及び前記骨材粒子と前記隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【請求項11】
前記結合部形成原料として、ガラス粉末を用いる請求項10に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理を、前記結合部形成原料として用いられる物質の融点又は軟化点より0〜100℃高い温度で行う請求項10又は11に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項13】
所定のセルの排ガス流入側の開口端部と残余のセルの排ガス流出側の開口端部とが目封止された前記ハニカム基材の前記排ガス流入側の端面側から前記捕集層形成原料を気流を介して搬送して、前記排ガス流入側の端面側が開口した前記残余のセルの開口部から前記捕集層形成原料を流入させ、前記残余のセル内の隔壁の表面に前記捕集層形成原料を付着させる請求項1〜12のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項14】
前記ハニカム基材としてコージェライトからなるものを用いる請求項1〜13のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項1】
多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の前記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、ルイス塩基成分と、加熱されることにより前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を生じ得る結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、
得られた前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させて、前記酸塩基反応により生成した塩を含有する結合部によって前記骨材粒子どうし及び前記骨材粒子と前記隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記原料供給工程において、前記捕集層形成原料として、前記ルイス塩基成分を含むセラミックスからなる骨材粒子と、前記骨材粒子を構成するセラミックス中の前記ルイス塩基成分と酸塩基反応して塩を生成するルイス酸成分を、加熱されることにより生じ得る結合部形成原料と、を含むものを用い、
前記熱処理工程において、前記骨材粒子中の前記ルイス塩基成分と、前記結合部形成原料中の前記ルイス酸成分とを酸塩基反応させる請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記結合部形成原料として、前記結合部形成原料から生成したルイス酸成分と、前記ルイス塩基成分とが酸塩基反応したときに、前記骨材粒子より融点が高い塩を生成し得る物質を用いる請求項1又は2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記結合部形成原料として、リン酸化合物、硫酸化合物、硝酸化合物、炭酸化合物、塩素酸化合物、シュウ酸化合物、及びヨウ素酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を用いる請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記結合部形成原料として、リン酸化合物を用いる請求項4に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記結合部形成原料として、リン酸二水素アンモニウムを用いる請求項5に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
前記骨材粒子として、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含有するセラミックス粒子を用いる請求項1〜6のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項8】
前記骨材粒子として、コージェライトからなる微粒子を用いる請求項1〜7のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項9】
前記原料供給工程において、前記骨材粒子100質量部に対して、50〜250質量部の前記結合部形成原料を含む前記捕集層形成原料を塗布して、前記捕集層前駆体を形成する請求項1〜8のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項10】
多孔質の隔壁によって排ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材の前記隔壁の表面に、セラミックスからなる骨材粒子と、融点又は軟化点が500〜1000℃である結合部形成原料とを含む捕集層形成原料を塗布して、捕集層前駆体を形成し、前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を得る原料供給工程と、
前記捕集層前駆体が形成されたハニカム基材を熱処理することにより、前記結合部形成原料を溶融又は軟化させて、溶融又は軟化した前記結合部形成原料から形成される前記結合部により前記骨材粒子どうし及び前記骨材粒子と前記隔壁とが固着された捕集層を形成する熱処理工程とを備えるハニカム構造体の製造方法。
【請求項11】
前記結合部形成原料として、ガラス粉末を用いる請求項10に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理を、前記結合部形成原料として用いられる物質の融点又は軟化点より0〜100℃高い温度で行う請求項10又は11に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項13】
所定のセルの排ガス流入側の開口端部と残余のセルの排ガス流出側の開口端部とが目封止された前記ハニカム基材の前記排ガス流入側の端面側から前記捕集層形成原料を気流を介して搬送して、前記排ガス流入側の端面側が開口した前記残余のセルの開口部から前記捕集層形成原料を流入させ、前記残余のセル内の隔壁の表面に前記捕集層形成原料を付着させる請求項1〜12のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項14】
前記ハニカム基材としてコージェライトからなるものを用いる請求項1〜13のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−206914(P2012−206914A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75385(P2011−75385)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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