説明

ハニカム構造体

【課題】再生処理時における流出側端部の局所的な温度上昇を防ぎ、クラックや溶損の発生を低減させたハニカム構造体を提供する。
【解決手段】流出側端部の熱容量が、流入側端部よりも大きいハニカム構造体、即ち、流出側目封じ部の断面積が流入側よりも大きく、流出側目封じ部深さが流入側よりも大きく、流出側目封じ部気孔率が流入側よりも小さいハニカム構造体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関、ボイラー等から排出される燃焼排ガスから、炭素を主成分とする固体粒子を除去するために使用される多孔質のハニカム構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、ボイラー等の排ガス中の微粒子や有害物質は、環境への影響を考慮して排ガス中から除去する必要性が高まっている。特にディーゼルエンジンから排出される微粒子(以下PMということがある)の除去に関する規制は世界的に強化される傾向にあり、PMを除去するための捕集フィルタ(以下DPFということがある。)としてハニカム構造体の使用が注目され、種々のシステムが提案されている。上記DPFは、通常、多孔質の隔壁によって被処理流体の流路となる複数のセルが区画形成されたものであり、セルを交互に目封じすることで、セルを構成する多孔質の隔壁がフィルタの役目を果たす構造である。
【0003】
DPFは、一方の端部側から微粒子を含有する排ガス等を流入させ、隔壁で微粒子を濾過した後に、浄化されたガスを他方の端部側から排出するものであるが、排ガスの流入に伴い、排ガス中に含有される微粒子が上記一方の端部(流入側端部)に堆積し、セルを閉塞させるという問題があった。これは、排ガス中に多量の微粒子が含有される場合や、寒冷地において発生し易い現象である。このようにセルが閉塞すると、DPFにおける圧力損失が急激に大きくなるという問題があった。このようなセルの閉塞を抑制するために、容積の大きなセル(以下、大容積セルともいう)群と、容積の小さなセル(以下、小容積セルともいう)群の2種類のセルを設け、大容積セル群の排ガス流出側端部を充填材により目封じするとともに、小容積セル群の排ガス流入側端部を充填材により目封じし、流入側が開放されたセル(以下、流入側セルともいう)の内側表面積を流出側が開放されたセル(以下、流出側セルともいう)の内側表面積と比べて相対的に大きくすることにより、PM捕集時の圧力損失の上昇を抑制したフィルタが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。このようなフィルタとしては、一定の強度を確保する為に、流入側セル及び流出側セルの形状をそれぞれ八角形と四角形にしたものも知られている(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。
【0004】
即ち、特許文献1〜5に開示された排ガス浄化用フィルタとして用いられるハニカム構造体では、流入側セル群の内側表面積の総量と流出側セル群の内側表面積の総量とが等しいハニカム構造体と比較して、流入側セル群の表面積の総量が相対的に大きく設定されているため、捕集したPMの堆積層の厚さを薄くすることができ、その結果、上述したように、PM捕集時の圧力損失の上昇を抑制したり、PMの捕集限界量を多くすることができる。
【0005】
さらに、一定量のPMを捕集した後には、エンジンコントロールを行って排ガスの温度を上昇させたり、ハニカム構造体よりも排ガスの上流側に設置したヒーターの温度を上昇させたりすることによって、PMを高温のガスと接触させて燃焼させる再生処理が行われるが、PMの堆積層の厚さを薄くすることにより、PMの燃焼速度を早くすることができる。
【0006】
【特許文献1】特開昭56−124417号公報
【特許文献2】特開昭62−96717号公報
【特許文献3】米国特許第4364761号明細書
【特許文献4】国際公開第02/10562A1パンフレット
【特許文献5】仏国特許発明第2789327号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の様に流入側端部の開口率を大きくすると、ハニカム構造体に占めるセルの容積の割合が大きくなることに起因して、ハニカム構造体が、低密度、低熱容量となり、再生処理時に、特にPMの堆積しやすい流出側目封じ部近傍の温度が急激に上昇して局所的に高温となるという問題がある。即ち、再生時の熱衝撃によりクラックが発生したり、PMの自己着火によるハニカム構造体の溶損が発生したり、担持した触媒が劣化したりするという問題が発生する。
【0008】
本発明の課題は、流出側目封じ部の熱容量を大きくし、再生処理時における最高温度を抑えることによって、流出側端部の急激な温度上昇による、クラック、溶損、触媒劣化等の不具合を低減したハニカム構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、流出側目封じ部の深さを流入側目封じ部よりも深くし、流出側目封じ部の気孔率を流入側目封じ部よりも小さくすることによって、流出側目封じ部の熱容量を流入側目封じ部よりも大きくすることを可能とし、再生処理時に流出側目封じ部が局所的に高温となることを防止できることを見出した。即ち、本発明によれば、以下のハニカム構造体が提供される。
【0010】
[1] 多孔質の隔壁によって区画された被処理流体の流路となる複数のセルを有し、前記被処理流体の流入側端部において所定の前記セルが充填材により目封じされ、前記被処理流体の流出側端部において残余の前記セルが前記充填材により目封じされたハニカム構造体であって、前記流入側端部における目封じ部の前記セルの中心軸方向に対する垂直断面積の平均を流入側平均目封じ部断面積S1、前記流出側端部における目封じ部の前記セルの中心軸方向に対する垂直断面積の平均を流出側平均目封じ部断面積S2とした場合に、S1<S2の関係であり、前記流入側端部における前記目封じ部の深さを流入側目封じ部深さD1、前記流出側端部における前記目封じ部の深さを流出側目封じ部深さD2とした場合に、D1<D2の関係であり、前記流入側端部における前記充填材の気孔率を流入側目封じ部気孔率P1、前記流出側端部おける前記充填材の気孔率を流出側目封じ部気孔率P2とした場合に、P1>P2の関係であり、前記目封じ部の熱容量が、前記流入側端部よりも前記流出側端部おいて大きくなるように形成されたハニカム構造体。
【0011】
[2] 前記流入側平均目封じ部断面積S1が0.2mm<S1<1.0mmの範囲であり、前記流出側平均目封じ部断面積S2が0.4mm<S2<1.4mmの範囲であり、前記流入側目封じ部深さD1が2mm<D1<10mmの範囲であり、前記流出側目封じ部深さD2が5mm<D2<20mmの範囲であり、前記流入側目封じ部気孔率P1が50%<P1<70%の範囲であり、前記流出側目封じ部気孔率P2が30%<P2<60%の範囲である前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0012】
[3] 前記流入側平均目封じ部断面積S1が0.3mm<S1<0.7mmの範囲であり、前記流出側平均目封じ部断面積S2が0.6mm<S2<1.2mmの範囲であり、前記流入側目封じ部深さD1が3mm<D1<7mmの範囲であり、前記流出側目封じ部深さD2が8mm<D2<18mmの範囲であり、前記流入側目封じ部気孔率P1が55%<P1<65%の範囲であり、前記流出側目封じ部気孔率P2が35%<P2<55%の範囲である前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0013】
[4] 一の前記隔壁を挟んだ両側の前記セルが互いに反対側の端部において目封じされており、前記流入側端部において目封じされている前記セルの中心軸方向に対する垂直断面形状と、前記流出側端部において目封じされている前記セルの中心軸方向に対する垂直断面形状が異なる前記[1]〜[3]の何れかに記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0014】
排ガス浄化用フィルタに用いられるハニカム構造体において、セルの中心軸方向(長手方向)に対する流出側目封じ部の垂直断面積を流入側目封じ部よりも大きくし、流出側目封じ部の深さを流入側目封じ部よりも深くし、流出側目封じ部の気孔率を流入側目封じ部よりも小さくすることによって、流出側目封じ部の熱容量を流入側目封じ部よりも大きくすることができる。即ち、再生処理時における流出側目封じ部の局所的な温度上昇を防ぎ、フィルタの最高温度を耐久温度よりも低く制御し、流出側目封じ部における熱応力を緩和して、クラックや溶損の発生や触媒の劣化を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。尚、特に断りのない限り、以下において断面とは、セルの中心軸方向(長手方向)に対して垂直な平面で切断した断面を意味し、断面積とは、セルの中心軸方向(長手方向)に対して垂直な平面で切断した断面の面積を意味する。また、以下においては、全体が一体として形成された構造を有するハニカム構造体を一体型ハニカム構造体といい、ハニカムセグメントが接合材層を介して複数個組み合わされた構造を有するハニカム構造体を接合型ハニカム構造体という。また、一体型ハニカム構造体と接合型ハニカム構造体とを特に区別しない場合には、ハニカム構造体という。
【0016】
(実施形態1)
図1は本発明の一実施形態である接合型ハニカム構造体1を模式的に示す斜視図である。図2は、図1のハニカム構造体1を構成するハニカムセグメント2を示す斜視図である。さらに、図3は、図2のハニカムセグメント2のX−X断面図である。
【0017】
ここで、ハニカムセグメント2は、図1及び図2に示すように、ハニカム構造体1(ハニカムセグメント接合体)の全体構造の一部を構成し、複数のハニカムセグメント2がハニカム構造体1の中心軸方向に対して垂直な方向に組み付けられることによってハニカム構造体1を構成する。セル5はハニカム構造体1の中心軸方向に互いに並行するように配設されており、隣接しているセル5におけるそれぞれの端部が交互に充填材7によって目封じされている。
【0018】
さらに具体的に説明すると、ハニカムセグメント2は、柱状に形成されており、被処理流体の流路となる複数のセル5を区画形成する多孔質の隔壁6を備え、図3に示すように、断面積が異なる2種類のセル5a,5bが形成されている。流入側セル5aは、その断面積が流出側セル5bよりも大きく形成されている。流入側セル5aの断面形状及び流出側セル5bの断面形状は異なっていても良い。即ち、各セルの断面は、四角形の角部に相当する部分が切り落とされた八角形状、角部に相当する部分が円弧状の略四角形状等、セグメントの強度及びPM捕集面積を十分に確保できる範囲において所望の形状をとることができる。ここで角部とは、断面形状が、相当する多角形(直線部分を延長して形成される多角形)であるとした場合の頂点及びその周辺部分を指す。
【0019】
これら流入側セル5aと流出側セル5bは、セルの断面において、第1の方向とその第1の方向に垂直な第2の方向に、交互に並んで配設されている。そして、流入側端部Aが開口され且つ流出側端部Bが目封じされた流入側セル5aと、流入側端部Aが目封じされ且つ流出側端部Bが開口された流出側セル5bとが交互に配設されて、流入側セル5aの開口する流入側端部Aから流入した被処理流体を、隔壁6を透過させて流出側セル5b内に透過流体として流出させ、透過流体を流出側セル5bの開口する流出側端部Bから流出させることができるように構成されている。
【0020】
更に本実施形態においては、流出側目封じ部の断面積が流入側目封じ部の断面積よりも大きくなるように形成されている。即ち、流入側端部Aにおける目封じ部のセルの中心軸方向に対する垂直断面積の平均を流入側平均目封じ部断面積S1、流出側端部Bにおける目封じ部のセルの中心軸方向に対する垂直断面積の平均を流出側平均目封じ部断面積S2とした場合に、S1<S2の関係となるようにする。この時、0.2mm<S1<1.0mm及び0.4mm<S2<1.4mmの範囲であることが好ましく、0.3mm<S1<0.7mm及び0.6mm<S2<1.2mmの範囲であることが更に好ましい。
【0021】
ハニカムセグメント2の原料としては強度、耐熱性の観点から、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材、珪素−炭化珪素複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属からなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。中でも、炭化珪素又は珪素−炭化珪素系複合材料が好ましい。
【0022】
ハニカムセグメント2の作製は、例えば、上述の原料から適宜選択したものに、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のバインダー、造孔材、界面活性剤、溶媒としての水等を添加して、可塑性の坏土とし、この坏土を上述の形状となるように押出成形し、次いで、マイクロ波、熱風等によって乾燥した後、焼結することにより行うことができる。
【0023】
セル5の目封じに用いる充填材7としては、ハニカムセグメント2と同様な材料を用いることができる。充填材7による目封じは、目封じをしないセル5をマスキングした状態で、ハニカムセグメント2の端部をスラリー状の充填材7に浸漬することにより開口しているセル5に充填することにより行うことができる。この時、流出側セル5bの目封じ部の深さが、流入側セル5aの目封じ部の深さよりも深くなるようにする。即ち、流入側端部Aにおける目封じ部の深さを流入側目封じ部深さD1、流出側端部Bにおける目封じ部の深さを流出側目封じ部深さD2とした場合に、D1<D2の関係となるようにする。この時、D1が2mm<D1<10mmの範囲であり、D2が5mm<D2<20mmの範囲であることが好ましく、D1が3mm<D1<7mmの範囲であり、D2が8mm<D2<18mmの範囲であることが更に好ましい。目封じ部深さは、ハニカムセグメント2の充填材7への浸漬深さを調節し、充填材7の充填量を変化させることによって所望の値とすることができる。
【0024】
またこの時、流出側セル5bの目封じ部の気孔率が、流入側セル5aの目封じ部の気孔率よりも大きくなるようにする。即ち、流入側端部Aにおける目封じ部の気孔率を流入側目封じ部気孔率P1、流出側端部Bおける目封じ部の気孔率を流出側目封じ部気孔率P2とした場合に、P1>P2の関係となるようにする。この時、P1が50%<P1<70%の範囲であり、P2が30%<P2<60%の範囲であることが好ましく、P1が55%<P1<65%の範囲であり、P2が35%<P2<55%の範囲であることが更に好ましい。目封じ部気孔率は、充填材7の材料のうち炭化珪素等の原料及び造孔材の粒子径を調節することによって所望の値とすることができる。
【0025】
このように、実施形態1のハニカム構造体1は、流出側セル5bの目封じ部深さが流入側セル5aの目封じ部深さよりも深くなるようにし、流出側セル5bの目封じ部気孔率が、流入側セル5aの目封じ部気孔率よりも大きくなるようにすることにより、流出側目封じ部の熱容量を大きくすることができ、再生処理時における流出側端部の局所的な温度上昇を防ぎ、クラックや溶損の発生を低減させることができる。言い換えれば、目封じ部の体積を大きくすることが、目封じ部の熱容量を大きくする為に効果的である。即ち、平均目封じ部面積を広くすることと、目封じ部深さを深くすることは、目封じ部の体積を大きくするという観点から、相乗効果を奏するといえる。
【0026】
充填材7の充填は、ハニカムセグメント2の成形後における焼成前に行っても、焼成後に行ってもよいが、焼成前に行う方が、焼成工程が1回で終了するため好ましい。即ち、充填材7の充填されたハニカムセグメント2を乾燥した後、例えば窒素雰囲気中で加熱脱脂し、その後アルゴン等の不活性雰囲気中で焼成することにより本発明のハニカム構造体を構成するハニカムセグメントを得ることができる。焼成温度及び焼成雰囲気は原料により異なり、当業者であれば、選択された原料に適切な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。
【0027】
以上のようなハニカムセグメント2の作製の後、ハニカムセグメント2の外周面にスラリー状の接合材層9を塗布し、所定の立体形状(ハニカム構造体1の全体構造)となるように複数のハニカムセグメント2を組み付け、この組み付けた状態で圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、複数のハニカムセグメント2が一体的に接合されたハニカムセグメント接合体を得る。
【0028】
本発明で得られるハニカム構造体1は、例えば、図1に示すように、複数のハニカムセグメント2が接合材層を介して互いの接合面で一体的に接合されたハニカムセグメント接合体と、ハニカムセグメント接合体の外周面を被覆する外周コート層4とを備え、被処理流体の流路となる複数のセル5が中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有する。
【0029】
尚、本発明に用いられる接合材層9は、ハニカムセグメント2の外周面に塗布されて、ハニカムセグメント2を接合するように機能する。接合材層9の形成は、例えば、ハニカムセグメント2の作製の後、ハニカムセグメント2の外周面にスラリー状の接合材層9を塗布し、所定の立体形状(ハニカム構造1の全体構造)となるように複数のハニカムセグメント2を組み付け、この組み付けた状態で圧着した後、加熱乾燥するようにして行われる。この場合、塗布は隣接しているそれぞれのハニカムセグメント2の外周面に行ってもよいが、隣接したハニカムセグメント2の相互間においては、対応した外周面の一方に対してだけ行ってもよい。
【0030】
本発明に用いられる接合材層9としては、無機繊維、無機バインダー、有機バインダー及び無機粒子から構成されてなるものを好適例として挙げることができる。具体的には、無機繊維としては、例えば、アルミノシリケート及びアルミナ等の酸化物繊維、その他の繊維(例えば、SiC繊維)等を挙げることができる。無機バインダーとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル、粘土等を挙げることができる。有機バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を挙げることができる。無機粒子としては、例えば、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ムライト等のセラミックスを挙げることができる。
【0031】
以上のように形成された接合型ハニカム構造体1は、流入側セル5aにおいては、図3に示すような、流入側端部Aが開口している一方、流出側端部Bが充填材7によって目封じされており、これと隣接する流出側セル5bにおいては、流入側端部Aが充填材7によって目封じされているが、流出側端部Bが開口しているハニカムセグメント2の接合体として形成されている。このような目封じにより、図2に示すように、ハニカムセグメント2の端部は、市松模様状を呈するようになる。このような複数のハニカムセグメント2が接合されたハニカム構造体1を排ガスの排気系内に配置した場合、排ガスが図3における左側から各ハニカムセグメント2のセル流入側セル5a内に流入して右側に移動する。そして、隔壁6を通過する際に排ガス中に含まれるスート等の粒子状物質(PM)が隔壁6に捕捉される。このようにして、排ガスの浄化を行うことができる。このような捕捉によって、ハニカムセグメント2の内部にはPMが経時的に堆積して圧力損失が大きくなるため、PMを燃焼させる再生処理が行われるが、本発明のハニカム構造体は、被処理流体の流入側と流出側とで、平均目封じ部面積、目封じ部深さ、及び目封じ部気孔率を変化させたハニカムセグメント2を接合しているため、流出側目封じ部の熱容量が大きくなっており、流出側端部においてクラックや溶損が発生しにくくなっている。
【0032】
(実施形態2)
本発明の実施形態2について説明する。図4は本発明の別の実施形態である一体型ハニカム構造体20を模式的に示す斜視図である。ハニカム構造体20は、一体成形されており、セル5はハニカム構造体20の中心軸方向に互いに並行するように配設されており、隣接しているセル5におけるそれぞれの端部が交互に充填材7によって目封じされている。
【0033】
さらに具体的に説明すると、一体型ハニカム構造体20は、柱状に形成されており、被処理流体の流路となる複数のセル5を区画形成する多孔質の隔壁6を備え、セル5の中心軸方向に垂直な平面で切断した断面における断面積が異なる2種類のセル5a,5bが形成されている。実施形態1と同様に、流入側セル5aの断面積は、流出側セル5bの断面積よりも大きく、角部に相当する部分が切り落とされた八角形状または角部に相当する部分が円弧状の略四角形状に形成されており、流出側セル5bは、四角形状に形成されている。
【0034】
ハニカムの構造、目封じに用いる充填材7等の材料、及びその他詳細は、一体成形されている点以外は、実施形態1とほぼ同様であるため、説明を省略する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
直径144mm×長さ152mmの円筒形状であり、セルの断面形状が正方形であり、かつ隣接するセルが互いに反対側の端部で目封じされており、流入側目封じ部深さD1が5.0mm、流出側目封じ部深さD2が10.0mm、流入側目封じ部気孔率P1が60.0%、流出側目封じ部気孔率P2が50.0%、流入側平均目封じ部断面積S1が0.5mm、流出側平均目封じ部断面積S2が1.0mmのハニカム構造体を気孔率52%材料より作成した。表1に、流入側平均目封じ部断面積S1に対する流出側平均目封じ部断面積S2の比である平均目封じ部断面積比S2/S1と共に、各パラメータの値を示した。
【0037】
(実施例2〜8、比較例1〜19)
表1に示したように、流出側目封じ部深さD2、流出側目封じ部気孔率P2、流入側平均目封じ部断面積S1、及び流出側平均目封じ部断面積S2を変更したほかは、実施例1と同様にして実施例2〜8、比較例1〜19を製造した。
【0038】
(評価)
各実施例及び比較例に係るハニカム構造体をエンジンの排気通路に配設して排ガス浄化装置とし、上記エンジンを回転数3000min−1、トルク50Nmで所定の時間運転し、その後に再生処理を行う実験を行い、再生時のハニカム構造体の最高温度を測定し、結果を表1に示した。また、各ハニカム構造体の流出側目封じ部と流入側目封じ部における熱容量の差(流出側目封じ部熱容量−流入側目封じ部熱容量)も目封じ部熱容量差として表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示したように、各実施例に係るハニカム構造体は、流出側目封じ部深さD2、流出側目封じ部気孔率P2、平均目封じ部断面積比S2/S1の3つのパラメータのうち少なくとも1つが本請求の範囲を満たさない場合の各比較例に係るハニカム構造体と比べて、再生時最高温度が低く抑えられた。例えば、通常の四角セルハニカム構造体である比較例1と比べて、実施例8においては、約50℃の再生時最高温度の低減効果が確認された。再生時温度は、スス堆積量、入口排ガス温度等が増加すれば、DPFが溶損する1300℃程度まで上昇するが、常識的な範囲での再生条件(スス堆積量10g/L未満、入口排ガス温度650℃未満)であれば1200℃程度で収束する。更に、流出側目封じ部の熱容量が上昇すれば(流出側と流入側の熱容量差が広がれば)、再生時温度は低くなる。本発明のハニカム構造体においては、流出側目封じ部気孔率P2が流入側目封じ部気孔率P1よりも低め、流出側目封じ部深さD2が流入側目封じ部深さD1よりも深め、流出側平均目封じ部断面積S2が流入側平均目封じ部断面積S1よりも大きめになるほど、目封じ部熱容量差が増加し、再生時最高温度を抑えることができる。一方、目封じ部熱容量差(流出側−流入側)を増加させる目的で、流出側目封じ部深さD2を本発明の範囲を超えて過度に深くし、流出側目封じ部気孔率P2を過度に下げ、平均目封じ部断面積比S2/S1を過度に増大させると、圧力損失の悪化という問題が生じる。本発明のハニカム構造体は、流入側及び流出側における目封じ部深さ、目封じ部気孔率、及び平均目封じ部断面積を所定の範囲に制御することにより、目封じ部熱容量差(流出側−流入側)を大きく維持し、再生時最高温度を十分に低減させ、且つハニカムの強度やその従来の機能等を損なうことなく、再生時のクラックや溶損等の発生を低減させることを可能とした。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のハニカム構造体は、排ガス用の捕集フィルタとして好適に用いられるが、特にディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕捉して除去する為の、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ハニカムセグメントの接合により形成された本発明の実施形態1のハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のハニカム構造体を構成するハニカムセグメントを模式的に示す斜視図である。
【図3】図2におけるA−A断面図である。
【図4】一体成形により形成された本発明の実施形態2のハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1:接合型ハニカム構造体、2:ハニカムセグメント、4:外周コート層、5:セル、5a:流入側セル、5b:流出側セル、6:隔壁、7:充填材、9:接合材層、20:一体型ハニカム構造体、A:流入側端部、B:流出側端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁によって区画された被処理流体の流路となる複数のセルを有し、前記被処理流体の流入側端部において所定の前記セルが充填材により目封じされ、前記被処理流体の流出側端部において残余の前記セルが前記充填材により目封じされたハニカム構造体であって、
前記流入側端部における目封じ部の前記セルの中心軸方向に対する垂直断面積の平均を流入側平均目封じ部断面積S1、前記流出側端部における目封じ部の前記セルの中心軸方向に対する垂直断面積の平均を流出側平均目封じ部断面積S2とした場合に、S1<S2の関係であり、
前記流入側端部における前記目封じ部の深さを流入側目封じ部深さD1、前記流出側端部における前記目封じ部の深さを流出側目封じ部深さD2とした場合に、D1<D2の関係であり、
前記流入側端部における前記充填材の気孔率を流入側目封じ部気孔率P1、前記流出側端部おける前記充填材の気孔率を流出側目封じ部気孔率P2とした場合に、P1>P2の関係であり、
前記目封じ部の熱容量が、前記流入側端部よりも前記流出側端部おいて大きくなるように形成されたハニカム構造体。
【請求項2】
前記流入側平均目封じ部断面積S1が0.2mm<S1<1.0mmの範囲であり、
前記流出側平均目封じ部断面積S2が0.4mm<S2<1.4mmの範囲であり、
前記流入側目封じ部深さD1が2mm<D1<10mmの範囲であり、
前記流出側目封じ部深さD2が5mm<D2<20mmの範囲であり、
前記流入側目封じ部気孔率P1が50%<P1<70%の範囲であり、
前記流出側目封じ部気孔率P2が30%<P2<60%の範囲である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記流入側平均目封じ部断面積S1が0.3mm<S1<0.7mmの範囲であり、
前記流出側平均目封じ部断面積S2が0.6mm<S2<1.2mmの範囲であり、
前記流入側目封じ部深さD1が3mm<D1<7mmの範囲であり、
前記流出側目封じ部深さD2が8mm<D2<18mmの範囲であり、
前記流入側目封じ部気孔率P1が55%<P1<65%の範囲であり、
前記流出側目封じ部気孔率P2が35%<P2<55%の範囲である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
一の前記隔壁を挟んだ両側の前記セルが互いに反対側の端部において目封じされており、
前記流入側端部において目封じされている前記セルの中心軸方向に対する垂直断面形状と、前記流出側端部において目封じされている前記セルの中心軸方向に対する垂直断面形状が異なる請求項1〜3の何れか1項に記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−240865(P2009−240865A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88116(P2008−88116)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】