説明

ハプテン化腫瘍細胞の凍結保存

【課題】ハプテン化腫瘍細胞の保存方法を提供する。
【解決手段】等張性緩衝塩類溶液中に有効量の蔗糖とヒト血清アルブミンとを含有する凍結メディウムを使用し、該媒体中でハプテン化細胞を極低温で保存すると、貯蔵の間に腫瘍細胞の完全性が維持された。このハプテン化腫瘍細胞は細胞に関連する抗原及びハプテンも維持し、免疫原性、すなわち転移性疾患のマウスモデルで凍結していないワクチンと同程度、免疫療法応答を誘導し得る。ハプテン化細胞を、Hanks緩衝溶液中の蔗糖8%とヒト血清アルブミン10%との溶液に暴露し、次いで−80℃に一晩凍結させ、次いで液体窒素冷凍庫で貯蔵する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
〔001〕 本発明は、ハプテン化腫瘍細胞の凍結保存用組成物及び方法に関する。この
腫瘍細胞組成物は、特に、免疫療法ワクチンに好適である。
【0002】
発明の背景
〔002〕 輸血、骨髄移植、免疫療法ワクチン調製、または他のex vivo細胞調製において直面する主な問題の一つは、細胞の保存である。臨床的な産生及び保存と適合し得る期間、優れた生存可能条件下で細胞を保存し、且つ細胞調製物を分析できるようにすることは重要である。最も広く使用される細胞の長期保存方法は、凍結し、続いて解凍することである。しかしながら細胞を凍結する間、細胞の溶解と細胞の完全性(integrity)の欠
損とが起きることがある。これは、腫瘍細胞のサンプル中の無傷腫瘍細胞(intact tumor
cell)の減少と、それに伴う非-無傷腫瘍細胞(non-intact tumor cell)の量の増加と
によって観察されることが多い。この問題は、細胞が保存前に修飾や改変されていた時、及び細胞が組織または腫瘍標本のタンパク分解によって得られる場合には、より複雑でさえある。使用前にそれほど極端ではない条件下、たとえば氷上(約0℃)、冷蔵(約4℃)、または室温で細胞を保存することは、これらの貯蔵条件が数時間しか有効でないため、これも困難である。
【0003】
免疫療法
〔003〕 細胞、特にその免疫原性の保存は、腫瘍細胞を使用する癌の免疫療法では重
要である。免疫療法の目的は、腫瘍細胞または腫瘍細胞抽出物を癌患者に投与することによって、腫瘍に対する免疫応答を誘起させること、または凍結していない腫瘍の予防接種をすることである。本組成物中の腫瘍細胞は、処置すべき腫瘍中にも存在する抗原を含むはずなので、組成物中の抗原に対して誘発された免疫応答は、腫瘍に対して効果的である。通常、細胞は、腫瘍から回収(recover)し、凍結保存媒体中に懸濁させ、ワクチン調
製に使用するまで凍結させる。必要により細胞を解凍し、次いで投与するまで約0℃(氷
上)〜室温の範囲の温度で貯蔵する。
【0004】
〔004〕 患者から採取した腫瘍から調製した非修飾無傷腫瘍細胞(unmodified intact
tumor cell)、すなわち自己の腫瘍細胞を使用する免疫療法計画(immunotherapy regimen)は、文献(たとえば、Berdらの、Cancer Research、1986年:2572〜2577頁;Hoover
らのCancer、1985年:1236〜1243頁;及びHannaらの米国特許第5,484,596号を参照されたい)で包括的に記載されてきた。破砕細胞に基づく別のワクチン組成物も提案されてきた。たとえば腫瘍膜(たとえばLevinらのIn:Human Tumors in Short Term Culture:Techniques and Clinical Applications,P.P.Dendy編,1976年、Academic Press,ロンドン、277〜280頁を参照されたい)または腫瘍から抽出した腫瘍ペプチド(たとえば、Eberleinの米国特許第5,550,214号及びElliotらの米国特許第5,487,556号を参照されたい)が挙げられる。腫瘍細胞は、幾つかの方法で修飾して免疫応答を変更または増加させることもできる(たとえば、Hostelerら、Cancer Research,1989年;49巻:1207〜1213頁;及びMullerらのAnticancer Research,1991年;11巻:925〜930頁を参照されたい)。
【0005】
ハプテン化腫瘍細胞ワクチン
〔005〕 免疫療法において強い作用を持つ腫瘍細胞修飾の特別な一形態は、ハプテン
の腫瘍細胞への結合である。ハプテンジニトロフェニル(DNP)で修飾した自己の全細胞
ワクチンは、メラノーマ患者の転移部に免疫応答を産生することが示されている。DNP-修飾ワクチンを使用するアジュバント療法は、手術のみの後に報告されたものよりも大変高
い術後生存率をもたらす。Berdの米国特許第5,290,551号は、ハプテン化メラノーマ細胞
を含むワクチン組成物について開示且つ請求する。これらの細胞で処置したメラノーマ患者は、強い免疫応答を示した。この応答は、ハプテン化腫瘍細胞と非ハプテン化腫瘍細胞に対する遅延型過敏症(delayed-type hypersensitivity:DTH)応答で検出することができる。より重要なことには、この免疫応答によってメラノーマ患者の生存率が高くなった。
【0006】
〔006〕 ハプテン化腫瘍細胞ワクチンは、肺癌、乳癌、結腸癌、膵臓癌、卵巣癌及び
白血病(たとえばPCT国際特許出願国際公開第WO96/40173号及び同第WO00/09140号、及び
米国特許第6,333,028号を参照されたい)を含む他のタイプの癌、並びに関連する方法及
び最適化された処置計画(PCT国際特許出願国際公開第WO00/38710号、同第WO00/31542号
、同第WO99/56773号、同第WO99/52546号及び同第WO98/14206号を参照されたい)についても記載されてきた。たとえば、ヒト血清アルブミン(HSA)を添加すると、ハプテン化腫
瘍細胞調製物の安定性が増加することも示された(PCT国際公開第WO00/29554号及び米国
特許第6,248,585号を参照されたい)。
【0007】
〔007〕 原形質膜(細胞膜:plasma membrane)及びペプチドなどの腫瘍細胞抽出物をハプテン化すると、強力な免疫療法ワクチンを製造し得ることも見いだされた(PCT国際
公開第WO96/40173号及び同第WO99/40925号、いずれもBerdらを参照されたい)。
【0008】
〔008〕 ハプテン化ワクチンに関しては、ハプテン化細胞または抽出物の安定性を保
存する貯蔵条件の探索では、ハプテン化反応の中には、細胞生存可能性または完全性を変えたり影響を与えたりし得るものがあるということも考慮に入れねばならない。従来の研究から、ハプテン化メラノーマワクチン製剤の安定性を高めるために何の手段も取らなければ、これらの製剤の細胞完全性は、ハプテン修飾後4時間未満であることが示唆されて
いる。また、ハプテンまたはハプテン化手順の中には、他のものよりももっと細胞を壊れ易くしてしまうものがある。たとえば、DNP-修飾細胞の調製物は4℃で貯蔵したときには
少なくとも18時間安定であるが、スルファニル酸(SA)抱合(conjugation)の手順の中
には、細胞をより壊れ易くしてしまうものがあり、SA-修飾細胞は場合によっては、4℃で2時間未満しか安定でないことがある。
【0009】
〔009〕 しかしながら、投与後に患者の腫瘍に対してうまく免疫応答を誘発させるた
めに修飾腫瘍細胞を使用しようと非修飾腫瘍細胞を使用しようと、腫瘍細胞組成物中の抗原の量及び免疫原性は、その組成物の調製及び貯蔵の間、極力維持すべきである。腫瘍抗原も、細胞に関連したままで残存すべきである。
【0010】
〔0010〕 かくして、免疫療法ワクチンとして送達前に貯蔵及び保存すべき細胞の効果的な処置のための需要が当該技術分野においてある。また、投与前にワクチン用のそのような細胞の完全性、抗原量及び免疫原性を保存する処置、並びに最適免疫応答を得るための腫瘍細胞調製物及び製剤を設計する方法に対する需要がある。本発明は当該技術分野におけるこれら及び他の需要に有利に取り組むものである。
【0011】
発明の概要
〔0011〕 本発明は、一部分として無傷腫瘍細胞の数に関してハプテン化腫瘍細胞ワクチンを保存するために見いだされた凍結保存方法;ハプテンを含む種々の腫瘍細胞に関連する抗原の濃度;及び腫瘍細胞ワクチンのin-vivo免疫原性及び免疫療法の可能性(potential)に基づいている。従って、本発明は、抗腫瘍ワクチン中で使用前にその保存及び/または貯蔵のために腫瘍細胞または腫瘍細胞抽出物を処置する方法を好都合に提供する。
【0012】
〔0012〕 従って、本発明は、ハプテン化腫瘍細胞を保存する方法であって、
(i) 前記ハプテン化腫瘍細胞を凍結メディウムと接触させ、ここで前記凍結メディウ
ムは、蔗糖、ヒト血清アルブミン及び等張性緩衝溶液を含み;及び
(ii) 前記腫瘍細胞を凍結させる、各段階を含み、これによって前記腫瘍細胞の免疫原性が保存される、前記方法を提供する。一態様において、等張性緩衝塩類溶液はHanks緩
衝溶液である。たとえば、この凍結メディウムは、蔗糖8%、ヒト血清アルブミン10%を
補充したHanks緩衝溶液を含んでもよい。貯蔵温度は約−20℃〜約−196℃、好ましくは−80℃〜約−196℃である。一態様では、少なくとも一種の腫瘍細胞関連抗原(tumor cell-associated antigen:TCAA)のレベルの少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%が、たとえば−80℃未満の温度で約3ヶ月貯蔵後に保存される。もう一つの態様では、ハプテ
ン化腫瘍細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%が、たとえば約−80℃未満の温度で約3ヶ月貯蔵後に保存される。この腫瘍細胞は、たとえばメラノーマ細胞、卵巣癌
細胞、結腸直腸癌細胞、小細胞肺癌細胞、腎臓癌細胞、乳癌細胞、または白血病細胞であってもよい。特別な態様では、この腫瘍細胞はメラノーマ細胞である。この腫瘍細胞を、たとえばDNP、TNP及びスルファニル酸から選択され得る少なくとも一種のハプテンでハプテン化する。特別な態様では、このハプテンはDNPである。もう一つの特別な態様では、
腫瘍細胞を少なくとも二種類の異なるハプテンでハプテン化する。
【0013】
〔0013〕 本発明は、ワクチンで使用するためのハプテン化腫瘍細胞の貯蔵方法であって、少なくとも3ヶ月間、凍結温度未満の温度でハプテン化腫瘍細胞と凍結メディウム組
成物とを貯蔵することを含む、前記方法を提供する。一態様において、この温度は約−80℃〜−196℃である。腫瘍細胞は、たとえばDNA及びスルファニル酸から選択される少なくとも一種のハプテンでハプテン化することができる。
【0014】
〔0014〕 また本発明は、ワクチンで使用するためのハプテン化腫瘍細胞と凍結メディウムとを含む組成物であって、前記凍結メディウムは、蔗糖、ヒト血清アルブミン及び等張性緩衝塩類溶液を含む、前記組成物を提供する。好ましくは、この凍結メディウムは、蔗糖8%、ヒト血清アルブミン10%を含み、前記等張性緩衝塩類溶液はHanks緩衝溶液である。腫瘍細胞は、メラノーマ細胞、卵巣癌細胞、結腸直腸癌細胞、小細胞肺癌細胞、腎臓癌細胞、乳癌細胞、及び白血病細胞であってもよい。特別な態様では、腫瘍細胞はメラノーマ細胞である。この腫瘍細胞は、たとえばDNP、TNP及びスルファニル酸から選択され得る少なくとも一種のハプテンでハプテン化する。特別な態様では、このハプテンはDNPで
ある。もう一つの特別な態様では、腫瘍細胞は少なくとも二種類の異なるハプテンでハプテン化する。
【0015】
〔0015〕 図面、詳細な説明及び実施例は、本発明をさらに説明する。
【0016】
発明の詳細な説明
〔0020〕 本発明は、貯蔵用のハプテン化腫瘍細胞または腫瘍細胞抽出物を安定化させ、且つ前記腫瘍細胞の免疫原性、細胞関連抗原のレベル及び/または完全性を維持する、新規凍結保存法を好都合に提供する。そのような方法により形成された組成物も提供する。本発明の方法の好都合な点は、本方法によって、無傷細胞、細胞関連抗原、及び/または免疫原性を実質的に失う危険性がなく、調製後数ヶ月間にわたって腫瘍細胞を貯蔵できるということである。たとえば、本凍結保存法では、種々の腫瘍細胞関連抗原(TCAA)の濃度の実質的な損失がない。保存された腫瘍細胞は、感染防御免疫を提供するのに十分に免疫原性であり、且つin-vivoアッセイで評価されるように、同型の腫瘍細胞の凍結して
いない調製物と同一の免疫原性を保持し得る。かくして、本発明の方法は、腫瘍細胞組成物を診療所に搬送し、品質管理のために検査し、またはワクチンとして患者に投与する前に、さらなる操作若しくは分析にかけられる追加の時間窓(time window)を提供する。
【0017】
〔0021〕 腫瘍細胞の保存及び/または貯蔵方法は、有効量の蔗糖及びヒト血清アルブ
ミンを含む凍結メディウムと細胞とを接触させ、次いでこの細胞を凍結させることを含む。細胞は、組成物の凍結温度よりも低い任意の温度で貯蔵できる。非限定的な貯蔵温度の例としては、−10℃未満、好ましくは−20℃未満、より好ましくは−80℃未満である。特に好ましい温度は、約−80℃〜約−196℃の範囲である。好適な貯蔵媒体は、液体窒素と
、好適な温度を保持し得る冷凍庫とを含む。本発明の凍結保存法は、メラノーマ、卵巣癌、小細胞肺癌、結腸癌、白血病若しくはリンパ腫から誘導されたハプテン化腫瘍細胞などの任意のハプテン化腫瘍細胞、またはそのような腫瘍細胞のハプテン化膜抽出物の処置に好適である。
【0018】
〔0022〕 本発明の方法によって凍結メディウムで処理し、凍結保存された保存化ハプテン化腫瘍細胞は、細胞がトリパンブルーを排除しないとしても、MHC1等の抗原、及びDNPなどの表面ハプテン化の保持及び細胞特徴の保存により、ワクチンで使用することがで
きる。約−80℃〜約−196℃に凍結させる凍結メディウム処理化細胞の溶液中、貯蔵後に
、50%を超え、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%の腫瘍細胞が無傷なまま維持され、50%を超え、好ましくは80%を超え、より好ましくは90%を超える腫瘍細胞関連抗原が保存される(細胞上に存在する)のが好ましい。細胞は任意の好適な時間、貯蔵することができるが、腫瘍細胞を最大3ヶ月保存できるのが好ましい。特別な
態様では、腫瘍細胞はヒト腫瘍細胞である。
【0019】
〔0023〕 本発明の凍結メディウムは、有効量の蔗糖とヒト血清アルブミンと、凍結プロセスの間にハプテン化腫瘍細胞を安定化且つハプテン化腫瘍細胞の抗原性を保持するための等張性緩衝塩類溶液を含む組成物である。好ましい態様では、この凍結メディウムは、蔗糖、ヒト血清アルブミン及びHanks溶液から構成される。この凍結メディウム中で蔗
糖及びヒト血清アルブミン及び等張性緩衝塩類溶液を使用することによって、人で使用すべきワクチンの能力を維持しつつ、凍結保存の間に抗原性、免疫原性及び安定性の一つ以上を保存する。対照的に、他の凍結メディウム添加剤は、ハプテン化腫瘍細胞ワクチンでは使用できない。たとえば、凍結保存化ハプテン化腫瘍細胞ワクチンで凍結メディウム中にデキストランを使用すると、マウスでアナフィキラシー(anaphylaxis)を誘導したの
で、人では使用不可能なワクチンになった。
【0020】
〔0024〕 本発明において、蔗糖含有量は好ましくは約0.1%〜約40%に及ぶ。より好
ましくは、蔗糖含有量は約1%〜約20%に及ぶ。さらにより好ましくは、蔗糖含有量は約5%〜約15%に及ぶ。最も好ましくは、蔗糖含有量は約8%である。
【0021】
〔0025〕 蔗糖に加えて、凍結メディウムは、ヒト血清アルブミン及び等張性緩衝塩類溶液を含むことができる。好ましくは、ヒト血清アルブミン含有量は、1%〜約30%に及
ぶ。より好ましくは、ヒト血清アルブミン含有量は、5%〜約15%に及ぶ。さらにより好
ましくは、ヒト血清アルブミン含有量は、10%である。Hanks緩衝液またはHBSS、公知の
緩衝溶液は、以下、より詳細に記載する。
【0022】
〔0026〕 好ましい態様では、Hanks緩衝液は、凍結メディウム中に等張性緩衝塩類溶
液として含まれる。当業者は、他の緩衝塩類溶液、たとえばPBSを使用し得ることを理解
するだろう。以下の製剤のセクションでは、緩衝塩類溶液の限定的ではない例を列記する。本発明の好ましい凍結メディウムは、Hanks溶液中に蔗糖約8%とヒト血清アルブミン約10%とを含む組成物である。
【0023】
〔0027〕 当業者は、この凍結プロセスが、サンプルの温度を所望の温度にまで低下させ、サンプルの貯蔵の間、所望の温度に維持し、ワクチンとしてさらに使用するためにサンプルを解凍することを含むことを理解するだろう。異なるタイプの癌に由来する腫瘍細胞のタイプ、及び用途に依存して、温度の低下速度及び他のパラメータに関しては変動す
ることができる。本発明の開示に基づいて、そのようなパラメータは、所望の貯蔵及びサンプル条件に適合させるために抗原性の安定性及び保存を最適化し得る当業者によって容易に理解される。さらに、それぞれの用途に関する純度及び無菌性(sterility)のレベ
ルを決定することができ、従って調製及び凍結プロセスを最適化し得る。ハプテン化腫瘍細胞は任意の好適な方法により凍結メディウムと接触させ得るが、凍結メディウム中にハプテン化腫瘍細胞を懸濁させるのが好ましい。
【0024】
〔0028〕 ハプテン化腫瘍細胞と凍結メディウムの混合物の温度を、凍結メディウムとハプテン化腫瘍細胞とを接触させた温度より低下させると、ハプテン化腫瘍細胞の凍結保存または凍結が起きる。好ましくは、混合物の温度を約−20℃に下げ、次いで約−196℃
に下げ、その温度で所望の貯蔵期間、維持する。所望の貯蔵期間が長いほど、収率を高めるにはより低い貯蔵温度を使用すべきである。ハプテン化腫瘍細胞は、特に長期間保存する場合には約−196℃で凍結メディウム中に貯蔵するのが好ましい。短期間及び中程度の
期間の場合には、より高い貯蔵温度も使用し得る。好ましくは、約−80℃を超える温度は、中程度の期間及び短期間の貯蔵には使用しない。短期間の貯蔵に関しては、貯蔵温度は−10℃を超えないのが好ましく、より好ましくは約−20℃を超えない。
【0025】
〔0029〕 温度は当該技術分野で公知の任意の方法を使用して保持することができる。凍結方法の非限定的な例としては、約−20℃〜約−180℃の温度に保持し得る電気冷凍庫
が挙げられる。そのような冷凍庫は市販されている。そのような業者の一つは、TermaForma、Marietta、オハイオ州である。さらに、冷凍庫は当業者にも公知の非電気的な方法によって極低温に保持することができる。たとえば、ドライアイス(約−78℃で凍結二酸化炭素)を使用して、低温を保持することができる。もう一つの例は、極低温冷凍庫で一般的に使用される液体窒素(−196℃)である。極低温冷凍庫は、たとえばTermaForma、Marietta、オハイオ州から市販されている。本発明の好ましい態様では、サンプルを−80℃
の冷凍庫で一晩冷凍し、次いで貯蔵用に液体窒素冷凍庫に移す。貯蔵期間は、数ヶ月、たとえば最大9ヶ月、好ましくは最大6ヶ月、さらにより好ましくは最大3ヶ月に延長できる
。数日間または数週間の貯蔵も、本発明の方法に包含される。
【0026】
〔0030〕 凍結保存後、細胞は、投与の必要な患者に与えるのに腫瘍細胞ワクチンを調製するのに使用することができる。本発明の調製法はそのような用途には特に好都合である。と言うのも保存細胞は、細胞関連抗原、免疫原性もワクチン有効性も失うことなくより長期間貯蔵することができるので、患者への投与に先立ち、より長期間、ワクチンの品質保証(QA)と品質管理(QC)を可能にする。凍結保存したワクチンを解凍した後、免疫保護(immunoprotection)(腫瘍発生前の処置、すなわち腫瘍に対する「ワクチン接種」)及び免疫療法(腫瘍再発または転移性疾患などを防止するために腫瘍に既に罹患している患者の処置)を含む、患者における種々の治療用途に関して使用することができる。
【0027】
〔0031〕 ハプテン化腫瘍細胞を有効量の蔗糖及びヒト血清アルブミンを含む、最適化濃度の凍結メディウムで処理し、続いて約−20℃〜約−196℃で凍結保存したところ、そ
の細胞特性が実質的に保持され、フローサイトメトリーによって決定されるように、表面ハプテン化と細胞関連抗原とが実質的に保存される。好ましくは、凍結メディウムで処理した凍結細胞の保存は、同じ時間及び同じ温度で対照媒体と接触させ、次いで同じ時間及び同じ温度で凍結させた腫瘍細胞の同種、数及び濃度の保存を上回る。
【0028】
〔0032〕 本発明の種々の側面は、ハプテン化腫瘍細胞を保存するための好適な媒体及び製剤を対象とする、以下のセクションでより詳細に記載されよう。
【0029】
定義
〔0033〕 以下に定義した用語は本明細書を通して使用し、本発明の範囲及び実施を理
解するのに有用でなければならない。
【0030】
〔0034〕 「約」または「およそ」なる用語は、当業者によって決定される特定の値に関する許容可能な誤差範囲内であることを意味し、これはその値を測定または決定した方法、すなわち、測定系の限界に一部依存する。たとえば、「約」とは、当該技術分野で実施する毎に1以上の標準偏差内であることを意味することができる。あるいは、「約」と
は、所与の値の20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、及びより好ま
しくは1%以下の範囲を意味することができる。あるいは、特に生物系またはプロセスに
関しては、この用語は、ある値のワンオーダー以内、好ましくは5倍以内、より好ましく
は2倍以内を意味することができる。
【0031】
〔0035〕 「製剤(formulation)」なる用語は、好ましくは生物体に直接注射し得る
、ハプテン化腫瘍細胞の保存用の水性媒体または溶液を意味する。水性緩衝液は、おおよそ等張性濃度(isotonic concentration)の塩若しくは糖、またはそのいずれをも含む。製剤はさらに、本明細書中に記載の如く、蔗糖を含んでもよい。
【0032】
〔0036〕 「ヒト血清アルブミン」または「HSA」は、66 kDの分子量をもつ、585個の
アミノ酸残基からなる非グリコシル化単量体タンパク質を指す。その球形構造は、連続した9個の二重ループを作る17個のジスルフィド架橋により保持される(Brown、“Albumin structure,function and uses”,Rosenoer,V.M.ら編、Pergamon Press:Oxford,pp.27〜51頁,1977年)。HSAはヒト血漿アルブミンとも呼ぶことができる。
【0033】
〔0037〕 「生」細胞とは、トリパンブルー排除によって評価されるように無傷細胞、原形質(plasma)、または「外部」膜をもつ細胞を意味する。生細胞は、成長若しくは維持、及び分裂若しくは増殖可能であるか、または減弱化、すなわち分裂及び増殖不可能であってもよい。細胞は、たとえば(放射線)照射(irradiation)によって減弱化させる
ことができる。
【0034】
〔0038〕 「死」細胞とは、トリパンブルー排除実験で評価されるように、トリパンブルーを排除せず、且つ分裂も増殖も不可能な細胞を意味する。「死」細胞は、生細胞を凍結することなどによって製造することができる。死細胞は、顕微鏡検査などによって無傷の外観を呈し、その細胞形状が生細胞のものと似ていることを意味する。「固定(fixed
)」細胞は、死細胞の一例である。
【0035】
〔0039〕 「溶解(lysed)」細胞は、もはや無傷ではなく、その細胞形状は生細胞の
ものとは似ていないことを意味する。
〔0040〕 「保存(preserved)」細胞とは、溶解していない細胞である。保存細胞は
生細胞であっても死細胞であってもよい。この細胞はトリパンブルーを排除しても排除しなくてもよいが、細胞関連抗原、好ましくは細胞膜に存在する抗原のそのレベルを維持するか、またはその経時での免疫原性が、同様に保存されていない細胞よりもよい。
【0036】
〔0041〕 「免疫原性」とは、腫瘍細胞または腫瘍細胞抽出物が、腫瘍細胞または抽出物に対する免疫応答を誘発する能力を意味する。通常、免疫原性分子が無傷である腫瘍細胞に関しては、免疫原性は高い。ハプテン化腫瘍細胞調製物が免疫原性であるかは、実験動物モデルにおけるDTH-アッセイまたはin-vivoアッセイなどによって試験することがで
きる。実施例5で記載した動物モデルは、ヒト・メラノーマワクチンの試験を示し、同様
のモデルを他の腫瘍ワクチンに適用することができる。本発明に従って貯蔵した腫瘍細胞上の免疫原性分子の保存は、免疫原(イムノゲン)の直接測定によって、または免疫原の保存と相関すべき他の腫瘍関連分子の保存を測定することによって間接的に測定することができる。
【0037】
〔0042〕 「腫瘍細胞関連抗原(tumor cell associated antigen)」(TCAA:腫瘍関
連抗原または“TAA”とも称する)は、哺乳類の免疫系の抗体またはもう一つの成分がそ
れを認識できるような、腫瘍細胞と関連する抗原である。好ましくは、必ずではないが、TCAAは腫瘍細胞の外部細胞膜または細胞膜(原形質膜)と関連する。好ましくは、しかし必ずではないが、抗原が腫瘍によって拘束性である(restricted)または過剰発現されるという点で、TCAAは腫瘍特異性である。典型的なメラノーマTCAAとしては、HLA Class I
、CD45、GD3、S100、HMB45、及びMART-1が挙げられる。本発明の状況において、ハプテン化腫瘍細胞ワクチンのTCAAは、腫瘍細胞が関連しているか、または結合している1または
複数のハプテンがついた細胞タンパク質であってもよい。そのようなハプテンTCAAとしては、DNP、TNP及びSAが挙げられるが、これらに限定されない。腫瘍細胞上の1または複数
のTCAAの濃度またはレベル、本明細書中、「抗原性」とも称されるレベルは、腫瘍関連抗原に対する抗体を使用したFACS分析などを使用して測定することができる。
【0038】
〔0043〕 「細胞再生率(cell recovery)」または「細胞再生速度」なる用語は、特
定の期間の貯蔵またはインキュベーション後に、どれだけ多くの細胞が実質的に無傷であり、生細胞に相当するかまたはそれに似た形状をもち、及び/または保存抗原性をもつことの尺度であ。細胞再生率を計算するときには、特定の時点、または特定の調製段階後の細胞数は、参照時点または当該調製段階前における細胞数に関連づけられる。
【0039】
〔0044〕 「医薬的に許容可能な」なる用語は、ヒトまたは非ヒト動物に投与したときに、生理的に我慢でき、且つ通常、急性胃蠕動、発熱、目眩などのアレルギーまたは同様の有害反応を引き起こさない、特定の濃度における分子的実体(molecular entity)、及び組成物を指す。好ましくは、本明細書で使用するように、「医薬的に許容可能な」なる用語は、連邦関係官庁または州の関係官庁の管理機関によって認可されるか、あるいはヒト若しくは非ヒト動物で使用するため米国薬局方または一般的に承認されている薬局方に列記されていることを意味する。
【0040】
〔0045〕 「被験者」とは、本発明の組成物に製剤化したハプテン化腫瘍細胞を受容し得るヒトまたは非ヒト動物である。非ヒト動物としては、家庭用ペット、たとえばネコ及びイヌ;家畜、たとえばウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ及びヤギ;実験動物、たとえばマウス、ラット、モルモット及びウサギなどが挙げられる。
【0041】
〔0046〕 「抗腫瘍応答(anti-tumor response)」なる用語は、以下の少なくとも一
つである:腫瘍壊死、腫瘍の緩解、腫瘍炎症(tumor inflammation)、活性化Tリンパ球
による腫瘍湿潤、腫瘍湿潤性リンパ球の活性化、遅延型過敏症(DTH)応答、または臨床
反応。本発明に従った処置によって得られる抗腫瘍反応の臨床応答基準としては、完全、部分または混合応答並びに持続性疾患(stable disease)が挙げられる。本発明の処置に従った際に見いだされ得る他の臨床応答は、再発までの時間の遅延、または延命である。
【0042】
〔0047〕 「製剤(formulation)」とは、好ましくは生物体に直接注射可能な、ハプ
テン化腫瘍細胞または腫瘍細胞抽出物の、保存若しくは投与、またはその両方のための水性媒体または溶液を指す。この水性媒体としては、おおよそ等張性の濃度での塩若しくは糖、またはその両方を含むことができる。
【0043】
〔0048〕 「ワクチン組成物」とは、免疫活性化サイトカインまたはリンフォカインを含む、アジュバントをさらに含む前述の組成物である。
〔0049〕 「ワクチン」、「免疫的療法」及び「免疫療法」なる用語は、本明細書中、腫瘍の外科的切除の後などで、癌を処置するために腫瘍細胞調製物(好ましくはハプテン化されたもの)を含む組成物を投与することと互換可能に使用する。
【0044】
〔0050〕 「免疫療法の有効性」とは、個々の被験者において免疫療法が抗腫瘍応答を誘発する程度、または処置の結果として抗腫瘍反応が起きる被験者の割合である。好ましくは、有効性は、自然発生的腫瘍をもつが、治療を受けていないか、見かけの治療(sham
therapy)、または代替療法を受容する対照に対する組成物によって決定される。
【0045】
〔0051〕 「腫瘍細胞調製物」とは、組成物中に配合するための単離若しくは精製した腫瘍細胞または腫瘍細胞抽出物を指す。「ハプテン修飾」とは、この用語は免疫学的に理解されているように腫瘍細胞(または抽出物)がハプテンに化学的に結合(抱合)されることを意味する。
【0046】
〔0052〕 「処置」なる用語は、腫瘍、すなわち癌の細胞に対して抗腫瘍応答を誘発させようとすることを意味する。抗腫瘍応答とは、これらに限定されないが、生存期間の長期化、腫瘍転移の阻害、腫瘍成長の阻害、腫瘍退行、及び非修飾腫瘍細胞に対する遅延型過敏症(delayed-type hypersensitivity:DTH)応答の産生が挙げられる。
【0047】
〔0053〕 本明細書中で使用するように、「対照」なる用語は、通常、凍結メディウムで処理しない1または複数の細胞について記載する。対照なる用語は、通常、塩類溶液も
意味する場合がある。より好ましくは、対照とは、凍結メディウム処理以外の本質的に他の全ての側面において同一条件に暴露し、同一緩衝媒体及び追加の成分中に貯蔵される組成物について記載する。
【0048】
凍結メディウム
〔0054〕 上記の如く、及び以下の実施例で記載するように、腫瘍細胞を適当な凍結メディウムに暴露し、次いで適当な温度、たとえば0℃未満、好ましくは−80℃〜−196℃にサンプルを凍結すると、凍結保存の間、腫瘍細胞、その抗原性及びその免疫原性を保持することが意外にも見いだされた。これは、免疫療法ワクチン調製物で使用する腫瘍細胞にとって特に好都合である。本発明の凍結メディウムは、ハプテン化腫瘍細胞を安定化させ、且つ凍結プロセスの間、ハプテン化腫瘍細胞の抗原性を保存させるための有効量の蔗糖とヒト血清アルブミンと等張性緩衝塩類溶液とを含む組成物である。好ましい態様において、この凍結メディウムは蔗糖、ヒト血清アルブミン及びHanks緩衝液から構成される。
意外にも、凍結メディウム中に蔗糖とヒト血清アルブミンと等張性緩衝塩類溶液とを使用すると、ヒトで使用すべきワクチンの能力を維持しつつ、凍結保存の間に抗原性、免疫原性及び安定性を保持する。蔗糖、ヒト血清アルブミン及びHanks溶液に、他の成分、すな
わちDMSOを凍結メディウムに添加してもよい。しかしながら、凍結メディウムの好ましい態様ではDMSOは入れない。
【0049】
〔0055〕 本発明において、蔗糖含有量は約0.1%〜約40%におよび得る。蔗糖含有量
は約1%〜約20%におよび得るのが好ましい。蔗糖含有量は約5%〜約15%に及ぶのがより好ましい。例示の好ましい蔗糖含有量は、8%である。蔗糖に加えて、この凍結メディウ
ムはヒト血清アルブミンと等張性緩衝塩類溶液とを必要とする。ヒト血清アルブミン含有量は約30%〜約1%に及ぶのが好ましい。ヒト血清アルブミン含有量は約5%〜約15%に及ぶのがより好ましい。ヒト血清アルブミン含有量は約10%であるのがさらにより好ましい。Hanks緩衝液は標準緩衝溶液であり、以下詳細に記載する。本発明の好ましい態様では
、凍結メディウムにHanks緩衝液を使用する。当業者には他の緩衝塩類溶液、たとえばPBSを使用し得ることが考えられよう。凍結メディウムの非常に好ましい態様は、Hanks溶液
中の蔗糖8%、ヒト血清アルブミン10%の組成物である。
【0050】
〔0056〕 貯蔵すべき特定の腫瘍細胞及びもしあれば、その修飾に依存して、当業者は本発明の凍結メディウムをその測定の必要条件に最適化し得る。そのような凍結メディウ
ムは、貯蔵した腫瘍細胞の対照に対して細胞の保存を高める。たとえば、そのような凍結メディウムは、対照に対して抗原-発現及び免疫原性細胞の量を維持するようなものであ
る。細胞の保存の増加は、統計的に有意であるのが好ましい。非常に好ましい態様では、細胞は次いで、約−196℃の条件で貯蔵する。一態様において、細胞は最初に−80℃の冷
凍庫で保存し、次いで液体窒素に移す。この方法によって、抗原-発現及び免疫原性の保
存は、ハプテン化腫瘍細胞ワクチンで実質的に保持し得る。好ましくは、凍結メディウム処置に供し、次いで−196℃で凍結させた腫瘍細胞の保存は、同一期間、同一温度での対
照媒体中で貯蔵した同種の腫瘍細胞よりも多い。
【0051】
〔0057〕 凍結メディウム処置段階で使用すべき細胞の濃度は、使用する1または複数
の細胞調製物に依存して、実験的に決定し得る。しかしながら、一般的に適当な濃度は、溶液1ミリリットル当たり、105〜108細胞(個)、より好ましくは106〜107細胞(個)、
最も好ましくは約5×106細胞(個)である。この溶液は、必ずではないが、等張性であると都合がよい。
【0052】
〔0058〕 膜などの腫瘍細胞抽出物、細胞核を除去した腫瘍細胞溶解物、または単に溶解した若しくは粉砕した細胞は、無傷、または実質的に無傷の腫瘍細胞に関して記載するのと同様の手順に従って保存することができる。以下に記載の免疫療法(immunotherapy regimen)で使用するために処理した腫瘍細胞または腫瘍細胞抽出物は、処理または配合
の間にいつでも凍結メディウム処理に供し、次いで凍結保存することができる。細胞膜、溶解細胞、または粉砕細胞の濃度は、本明細書中、通常、「細胞等価物(cell equivalents)」または「c.e.」として表す。
【0053】
〔0059〕 ハプテン化腫瘍細胞を含むワクチンに関しては、凍結メディウム処理及び凍結保存は、必ずではないが、ハプテン化の後に実施するのが好ましい。
【0054】
腫瘍細胞
〔0060〕 本発明で使用する腫瘍細胞は、たとえば腫瘍から得られた腫瘍細胞、または癌の処置の経過で外科的に切除または回収した、腫瘍細胞を含む組織若しくは体液から製造する。蔗糖凍結メディウムで処置した凍結保存腫瘍細胞は、転移性腫瘍及び原発性腫瘍を含む、癌の処置用の腫瘍細胞ワクチンの調製で有用である。腫瘍細胞ワクチンで使用する場合、保存腫瘍細胞は、これらが死んでいるか、または実質的に非増殖状態であるように、被験者に投与した後で成長も分裂も不可能であるべきである。「死細胞」とは、無傷の細胞も原形質膜も含まず、且つin-vivoで分裂しない細胞を意味し、「非増殖状態の細
胞(cells in a state of no growth)」とは、in-vivoで分裂しない生細胞を意味する。非増殖状態の細胞を懸濁させる慣用法は当業者に公知であり、本発明で有用である。たとえば、細胞は、これらが増殖しないように、使用前に照射することができる。投与後に細胞が増殖しないようにするために、2500 cGyの線量を受けるように腫瘍細胞を照射することができる。あるいは、死細胞とするためにエタノール処理を使用することができる。
【0055】
〔0061〕 腫瘍細胞は、事実上任意のタイプの腫瘍から製造することができる。本発明は、癌腫(carcinoma)などの充実性腫瘍;及び血液の悪性腫瘍(hematologic malignancy)などの非充実性腫瘍由来の腫瘍細胞の使用について検討する。腫瘍細胞を誘導し得る
充実性腫瘍の例としては、肉腫及び癌腫、たとえばこれらに限定されないが、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆道癌、絨毛上皮腫、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、精巣癌、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮性癌、神経膠腫、神経膠星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、脳室上衣細胞腫、
松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、メラノーマ(黒色腫)、神経芽細胞腫及び網膜芽細胞腫が挙げられる。血管の悪性腫瘍としては、白血病、リンパ腫、及び多発性骨髄腫(multiple myeloma)が挙げられる。以下は、本発明に従って保存すべき腫瘍細胞の非限定的な好ましい例である:たとえばステージ-4メラノーマ(state-4 melanoma)を含むメラノーマ;たとえば進行卵巣癌細胞を含む卵巣癌細胞;小細胞肺癌;急性骨髄性白血病、これを含むがこれに限定されない、白血病;肝臓に転移した結腸癌を含む、結腸癌細胞;直腸癌細胞、結腸直腸癌細胞、乳癌細胞、肺癌細胞、腎臓癌細胞及び前立腺癌細胞。
【0056】
〔0062〕 腫瘍細胞ワクチンは、上記列記の腫瘍細胞種のどれからでも製造することができる。そのような腫瘍細胞ワクチンとしては、保存細胞、すなわち本発明の方法に従ってエタノールで処理した細胞を含むことができる。ワクチンは、処理すべき腫瘍と同型の細胞を含むのが好ましい。この腫瘍細胞は、ワクチン処置が予定されている被験者から誘導した、自己由来であるのが最も好ましい。本発明の方法を使用して製造した腫瘍細胞を含むワクチンは、上記例示の如く、充実性腫瘍と非充実性腫瘍のいずれの処置に関しても使用することができる。従って、本発明は、悪性腫瘍などの充実性悪性腫瘍;及び血液の悪性腫瘍などの非充実性腫瘍から製造した「保存」ワクチンであり、これらの処置を予定する。ワクチンの好ましい腫瘍型としては、メラノーマ、卵巣癌、大腸癌、及び小細胞肺癌が挙げられる。
【0057】
〔0063〕 腫瘍細胞は、処置すべき癌と同型であるのが好ましく、同遺伝子型(たとえば自己由来または組織適合)であるのが最も好ましい。本発明の目的に関しては、同遺伝子型(syngeneic)とは、予定受容者の免疫系が細胞を「自己」であると認識するほど遺
伝子的に十分に合致する腫瘍細胞、たとえばその細胞が、HLA分子と同じまたは殆ど同じ
相補体(complement)を発現することを指す。このもう一つの用語は、「組織型適合(tissue-type matched)」である。たとえば、遺伝的同一性は、抗原または免疫学的反応、
及び当該技術分野で公知の他の方法によって決定することができる。細胞は、処置すべき癌のタイプに由来するのが好ましく、処置すべき同一被験者由来であるのがより好ましい。腫瘍細胞は、生検若しくは外科的切標本、またはそのような細胞の組織培養物から誘導した自己由来細胞であり得るが、これに限定されない。とはいえ、自己由来細胞及び幹細胞も本発明の範囲内である。
【0058】
〔0064〕 本発明で使用するための腫瘍細胞は、以下のようにして製造することができる。腫瘍は、Berdらにより記載の如く処理する(Cancer Res.1986年;46巻、2572頁;米
国特許第5,290,551号;米国特許出願第08/203,004号、同第08/475,016号及び同第08/899,905号も参照されたい)。細胞は、コラゲナーゼ及びDNaseを使用する酵素的分離により、またはブレンダー、ピンセットでのティージング(teasing)、乳鉢及び乳棒、外科用メ
ス刃を使用して小片に切断することなどの機械的分離により抽出する。機械的に分離した細胞は、単一細胞懸濁液を製造するために上記の如く酵素でさらに処理することができる。
【0059】
〔0065〕 腫瘍細胞は、Hannaらの米国特許第5,484,596号に従っても製造することができる。手短に言えば、腫瘍組織は、ワクチンを調製すべき特定の充実性癌に罹患している患者から得る。この腫瘍組織を患者から外科的に取り出し、非腫瘍組織から分離して、直径2〜3 mmの断片などの小片に切断する。この腫瘍断片を酵素溶液中でインキュベーショ
ンすることによって、遊離した個々の腫瘍細胞に消化させる。消化後、細胞をプールし、計数し、細胞生存率を評価する。所望により、トリパンブルー排除試験を使用して、細胞生存率を評価することができる。
【0060】
〔0066〕 さらに腫瘍細胞は、以下の手順に従って製造することができる(Hannaらの
米国特許第5,484,596号を参照されたい)。Petersらの組織分離手順は、ラミナフローフ
ード下、滅菌方法を使用して実施することができる。腫瘍組織は、HBSSとゲンタマイシンとで遠心分離管の中で3回濯ぎ、次いで氷上のペトリ皿に移すことができる。メスで剥離
除去した外来組織及び腫瘍を、直径約2〜3 mmの小片に刻む。組織断片を37℃に予熱した
、0.14%(200単位/ml)コラゲナーゼタイプ1(Collagenase Type 1:Sigma C-0130)及
び0.1%(500 Kunitz単位/ml)デオキシリボヌクレアーゼタイプ1(Sigma D-0876)(DNase1、Sigma D-0876)の入った溶液20〜40 mlを、75 mlフラスコに設置する。フラスコを
回転させるが、泡立たせない速度で、水中用マグネチックスターラーを使用して37℃水浴に設置した。30分間インキュベーションした後、遊離細胞を、滅菌媒体で湿潤させた3層
のナイロンメッシュ(166t:Matrin Supply Co.,Baltimore, Md)を通して50 ml遠心分離管内へデカンテーションする。細胞を冷却遠心分離器中で10分間、1200 rpm(250×g)で遠心分離する。上清を廃棄し、細胞をDNase(HBSS中、0.1%)5〜10 ml中に再懸濁させ、37℃で5〜10分間保持する。管をHBSSで充填し、遠心分離により洗浄し、HBSS中15 mlに再懸濁させ、氷上で保持する。この手順を十分に細胞が得られるまで、通常、腫瘍細胞に関しては3回繰り返す。次いで異なる消化物由来の細胞をプールし、計数する。場合により
、必ずではないが、細胞生存率をトリパンブルー排除試験により評価する。
【0061】
〔0067〕 分離した腫瘍細胞の濃度は、蔗糖凍結メディウム中、約5〜10×107/mlまた
は約5×107または10×107個/mlに調節することができる。
【0062】
腫瘍細胞抽出物
〔0068〕 上記の如く腫瘍から回収(retrieve)した腫瘍細胞をさらに処理して、腫瘍細胞ワクチンで使用するための腫瘍細胞抽出物を製造することができる。
【0063】
〔0068〕 ワクチンで使用するための腫瘍細胞膜を製造するために、以下の手順を使用することができる。腫瘍細胞は、Hanks緩衝液中で2回洗浄する。約1 mMのフェニルメチルスルホニルフルオリドを含む約30 mMの重炭酸ナトリウム緩衝液約5容量中に細胞を懸濁させ、ガラスホモジナイザーで粉砕する。残存する無傷細胞及び核は、約1000×gで遠心分
離により除去する。膜は、100,000 gで90分間、遠心分離することによりペレット化する
。膜を約8%蔗糖に再懸濁し、好ましくは、しかし必ずではないが、必要になるまで約−196℃で凍結する。腫瘍細胞膜を調製する他の手順は、たとえばBerdらのPCT国際公開第WO96/40173号及び同第WO99/40925号に記載の如く、当該技術分野では周知である。これらの
刊行物は腫瘍細胞ペプチドの抽出についても記載し、これも免疫療法ワクチンで使用することができる。
【0064】
〔0070〕 あるいは、全腫瘍細胞抽出物は、単にホモジネーションなどの当該技術分野で公知の任意の方法を使用して細胞を溶解させるか、またはEDTA、プロテアーゼ阻害剤、及び緩衝成分などの追加の成分を所望により含有する、界面活性剤若しくは低張液、または細胞溶解液(たとえばCytobuster:登録商標、Novagen)中に細胞を懸濁させることに
よって製造することができる。
【0065】
ハプテン
〔0071〕 一態様において、腫瘍細胞または腫瘍細胞抽出物をハプテン化する。本発明の目的に関しては、単独で投与したときに免疫応答を誘導できない事実上小さなタンパク質または他の小さな分子のいずれかも、ハプテンとして機能することができる。非常に異なる化学構造の種々のハプテンが、同様のタイプの免疫応答を誘発することが見いだされた。たとえばTNP(Kempkesら、J.Immunol.,1991年、147巻:2467頁);ホスホリルコリン(Jangら、Eur.J.Immunol.,1991年、21巻:1303頁);ニッケル(Pitoorら、J.Invest.Dermatol.,1995年、105巻:92頁);及びヒ酸塩(Nalefski及びRao、J.Immunol.,150巻:3806頁、1993年)。免疫応答を誘発させるためのハプテンの細胞への抱合は、好ましくは、
リジンのε-アミノ基または-COOH基を介する抱合によって実施することができる。この群のハプテンとしては、化学的に多様な種々の化合物が挙げられる:ジニトロフェニル、トリニトロフェニル、N-ヨードアセチル-N'-(5-スルホン酸1-ナフチル)エチレンジアミン、トリニトロベンゼン-スルホン酸、ジニトロベンゼンスルホン酸、フルオレセインイソ
チオシアネート、ヒ酸ベンゼンイソチオシアネート及び、ジニトロベンゼン-S-マスター
ド(Nahas及びLeskowitz、Cellular Immunol.,1980年;54巻:241頁)。本発明の開示に
よって、当業者は本発明で使用するためのハプテンを選択することができよう。
【0066】
ハプテン化
〔0072〕 同様のタイプの免疫応答を誘発させるために異なる化学構造の種々のハプテンが示されてきた:たとえばジニトロフェニル(DNP);トリニトロフェニル(TNP)(Kempkesら、J.Immunol.,1991年、147巻:2467頁);ホスホリルコリン(Jangら、Eur.J.Immunol.,1991年、21巻:1303頁);ニッケル(Pitoorら、J.Invest.Dermatol.,1995年、105巻:92頁);及びヒ酸塩(Nalefski及びRao、J.Immunol.,1993年、150巻:3806頁)。ハ
プテンの細胞への抱合は、たとえば、リジンのε-アミノ基または-COOH基を介する抱合によって実施することができる。この群のハプテンとしては、化学的に多様な種々の化合物が挙げられる:ハロニトロベンゼン(ジニトロフルオロベンゼン、ジフルオロジニトロベンゼン、トリニトロフルオロ-ベンゼンを含む)、NヨードアセチルN'(5スルホン酸1ナフチル)エチレンジアミン、ニトロベンゼンスルホン酸(トリニトロベンゼンスルホン酸及びジニトロベンゼンスルホン酸を含む)、フルオレセインイソチオシアネート、ヒ酸ベンゼンイソチオシアネート及び、ジニトロベンゼン-S-マスタード(Nahas及びLeskowitz、Cellular Immunol.,1980年;54巻:241頁)。
【0067】
〔0073〕 通常、ハプテンは「認識基(recognition group)」を含み、この基が抗体
と相互作用する。この認識基はハプテン反応基と不可逆的に結合する。かくして、ハプテン反応基がターゲット分子上の官能基と抱合すると、ハプテン認識基は抗体と結合可能になる。種々のハプテン認識基の例としては、ジニトロフェニル、トリニトロフェニル、フルオレセイン、他の芳香族、ホスホリルコリン、ペプチド、糖化糖鎖形成最終産物(advanced glycosylation endproduct:AGE)、炭水化物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
〔0074〕 ハプテンは、タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸側鎖上の置換基への抱合用の官能基も含む。ハプテンに抱合し得るアミノ酸側鎖基としては、たとえば、アスパラギン酸若しくはグルタミン酸の遊離カルボン酸基;リジンのε-アミノ基;システイ
ンのチオール部分;セリン若しくはチロシンのヒドロキシル基;ヒスチジンのイミダゾール部分;またはトリプトファン、チロシン若しくはフェニルアラニンのアリール基が挙げられる。特定のアミノ酸側鎖と反応し得るハプテン官能基を以下に記載する。
【0069】
〔0075〕 一級アミンと反応性の官能基:アミノ酸側鎖上に存在する一級アミンと共有結合を形成するハプテン反応基としては、酸クロリド、無水物、反応性エステル、α,β-不飽和ケトン、イミドエステル及びハロニトリルベンゼンが挙げられるが、これらに限定されない。一級アミンなどの求核性基と反応性をもつ種々の反応性エステルは、たとえばPierce(Rockford、Illinois)より市販されている。
【0070】
〔0076〕 カルボン酸と反応性の官能基:一級及び二級アミンを含む種々の求核試薬との反応性を考慮に入れると、EDCなどのカルボジイミドの存在下におけるカルボン酸を活
性化することができる。カルボン酸のアルキル化によって安定なエステルを形成することは、硫黄若しくはナイトロジェンマスタード、またはアルキル若しくはアリールアジリジン部分を含むハプテンとの相互作用によって実施することができる。
【0071】
〔0077〕 芳香族基と反応性の官能基:特定のアミノ酸と関連する芳香族部分の相互作用は、タンパク質またはペプチドの存在下でアリールジアゾニウム化合物の光活性化によって実施することができる。かくして、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン及びフェニルアラニン、特にヒスチジン及びトリプトファンのアリール側鎖の修飾は、そのような反応性の官能基を使用することによって実施することができる。
【0072】
〔0078〕 スルフヒドリル基と反応性の官能基:アミノ酸の側鎖に存在するスルフヒドリル基と結合し得る幾つかの反応性基がある。α,β不飽和ケトンまたはエステル部分を
含有するハプテン、たとえばマレイミドは、スルフヒドリル並びにアミノ基と相互作用し得る反応性の官能基を提供する。さらに、2-ピリジルジチオ基または5,5'-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)基などの反応性ジスルフィド基も適用可能である。反応性ジスルフィド結合を含有する試薬の幾つかの例としては、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジル-ジチ
オ)プロピオネート(Carlssonら、Biochem J.,1978年、173巻:723〜737頁)、ナトリウムS-4-スクシンイミジルオキシカルボニル-アルファ-メチルベンジル-チオサルフェート
及び、4スクシンイミジルオキシカルボニル-アルファ-メチル-(2-ピリジルジチオ)-ト
ルエンが挙げられる。チオール基と反応する二重結合を持つ反応性基を含む試薬の数例としては、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサヘ-1-カルボキシレー
ト及びスクシンイミジルm-マレイミドベンゾエートが挙げられる。
【0073】
〔0079〕 他の官能性分子としては、スクシンイミジル3-(マレイミド)-プロピオネ
ート、スルホスクシンイミジル4-(p-マレイミド-フェニル)ブチラート、スルホ-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル-シクロヘキサン)-1-カルボキシレート、マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルが挙げられる。上記試薬及びそのスルホン酸塩の多くは、Pierce(Rockford、Illinois)より市販されている。
【0074】
〔0080〕 任意のハプテンまたは種々のハプテンの組み合わせを本発明の組成物で使用することができる。たとえば一態様では、同一ハプテン認識基を異なる官能基を介して異なるアミノ酸に結合させる。たとえば、試薬のジニトロベンゼンスルホン酸、ジニトロフェニルジアゾニウム、及びジニトロベンゼンSマスタードは全て、アミノ基、芳香族基、
及びカルボン酸基とそれぞれ結合したジニトロフェニルハプテンを形成する。同様に、アルソン酸ハプテンは、アルソン酸ベンゼンイソチオシアネートをアミノ基へまたはアゾベンゼンアルソネートを芳香族基へ反応させることにより連結させることができる。もう一つの態様では、腫瘍細胞は二重ハプテン化(dual-haptenize)する。すなわち同一腫瘍細胞調製物を二つの異なるハプテンと結合させる。ハプテンは、種々のアミノ酸などの腫瘍細胞上に異なる官能基と反応する反応性基を含むことができる。そのような二重ハプテン化は、BerdらのPCT国際公開第WO00/38710号に記載されている。
【0075】
〔0081〕 さらにもう一つの態様では、腫瘍細胞は二ハプテン化(bi-haptenized)す
ることができる。すなわち、一つの腫瘍細胞調製物の二つ以上のアリコートをそれぞれ異なるハプテンと結合させて、投与前に混合するか、または互いに組み合わせて投与する。例えば、DNPはMHC-結合ペプチドの親水性残基(主にリジンε-アミノ基)を修飾するので(Nahas及びLeskowitz、Cellular Immunol、1980年;54巻、241頁)、第二のハプテンは
疎水性残基(たとえばチロシン及びヒスチジン)に抱合すると都合がよい。アゾ結合を介してタンパク質を結合するそのようなハプテンとしては、スルファニル酸、アルサニル酸及びホスホリルコリンが挙げられる。他のハプテン、たとえば、トリニトロフェニル、N-ヨードアセチル-N'-(5-スルホン酸1-ナフチル)エチレンジアミン、トリニトロベンゼン-スルホン酸、フルオレセインイソチオシアネート、ヒ酸ベンゼンイソチオシアネート、
トリニトロベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、アルサニル酸、ジニトロベンゼン-S-
マスタード及びこれらの組み合わせを同様に使用することができるが、これらに限定されない。
【0076】
〔0082〕 調製された細胞をハプテンで修飾することは、たとえばMiller及びClanian
の方法(J.Immunol.,1976年;117巻:151頁)などの公知の方法により実施することがで
きる。記載された手順は、滅菌条件下で腫瘍細胞をDNFBと共に30分間インキュベーションし、続いて滅菌塩類溶液またはHanks/HSAで洗浄することを含む。ハプテン化の他の手順
は当該技術分野で公知である(たとえば全てBerdらのPCT国際公開第WO96/40173号、同第WO00/09140号、同第WO00/31542号、同第WO99/56773号、同第WO99/52546号、同第WO99/40925号、同第WO98/14206号、同第WO00/295号及びBerdらの米国特許第5,290,551号を参照されたい。これらはその全体が本明細書中、参照として援用される)。以下の手順は例示的なハプテン化手順を説明するものである。
【0077】
〔0083〕 DNP修飾:調製された細胞をDNPまたはもう一つのハプテンで修飾することは、公知の方法、たとえば本明細書中、その全体が参照として含まれるMiller及びClanian
の方法(J.Immunol.,1976年;117巻:151頁)により実施することができ、この方法では
、滅菌条件下で腫瘍細胞をDNFBと共に30分間インキュベーションし、次いで滅菌塩類溶液またはHBSS/HSAで洗浄することを含む。たとえば、DNFB(Sigma Chemical Co.,St.Louis
、MO)約100 mgを70%エタノール約0.5 ml中に溶解させることができる。約99.5 mlのPBSを添加する。この溶液を37℃の水浴中で一晩撹拌する。溶液の貯蔵期間は約4週間である
。細胞を解凍し、Hanks緩衝塩類溶液中5×106個/mlでペレットを再懸濁させる。約0.1 mlのDNFB溶液を細胞1 ml毎に添加し、室温で約30分間インキュベーションする。
【0078】
〔0084〕 SA修飾:調製された細胞のSAによる修飾は、公知の方法によって実施することができる。たとえば、一態様において、スルファニル酸(SA)は、亜硝酸ナトリウムの飽和量を添加することによって、ジアゾニウム塩に転化させる。氷冷し、滅菌濾過(0.2
μm)した10%亜硝酸ナトリウム溶液を、飽和するまで0.1 NのHCl 10 ml中に溶解させた
無水SA 100 mgのSA溶液に滴下添加する。(飽和点は、約40 mMのスルファニル酸ジアゾニウム塩の最終濃度にほぼ対応する)。このSAジアゾニウム塩溶液を滅菌濾過(0.2μm膜)し、HBSS(HSAなし)中で1:8(v/v)に希釈する。必要により、pHは、1 NのNaOHを滴下
添加することによって7.2に調整する。次いでこのSAジアゾニウム塩/HBSS溶液を濾過(0.2μm膜)により滅菌する。ペレット化した腫瘍細胞を、終濃度5×106個までジアゾニウム塩/HBSS溶液中に再懸濁させる。この細胞混合物を室温で5分間インキュベーションする。5分間のインキュベーション後、この細胞混合物に25%HSA/HBSS溶液0.5 mlを添加するこ
とによって、ハプテン化反応を停止させる。
【0079】
製剤
〔0085〕 本発明に従って凍結メディウムで処理し、次いで凍結保存した腫瘍細胞及び腫瘍細胞抽出物は、種々の製剤中に配合し得る。たとえば、蔗糖凍結メディウムで処理した、凍結保存した腫瘍細胞は、ハプテン化型であり、腫瘍ワクチンの調製で有用である。そのような製剤の種々の成分を一緒に混合し、次いで腫瘍細胞に添加することができる。前記成分の一種または数種と腫瘍細胞とを混合し、次いで(1または複数の)残りの成分
に添加することも可能である。製剤の調製及び腫瘍細胞の添加は、滅菌条件下で実施するのが好ましい。腫瘍細胞は、最終配合の前に凍結メディウム処理及び凍結保存にかけるのが好ましい。しかしながら、最終製剤に配合すべき一種以上の成分は、蔗糖凍結メディウム処理及び凍結保存段階の前またはその間でも配合することができる。
【0080】
〔0086〕 当業者は、本発明に従って媒体の成分の個々の割合を適合させることができる。以下に説明するように、その割合を変更することができるが、特定の濃度範囲が好ましい。
【0081】
〔0087〕 通常、適切な緩衝化媒体を腫瘍細胞製剤に使用する。要するに、緩衝化媒体
は、等張性緩衝水溶液、たとえばリン酸緩衝塩類溶液(PBS)、Tris緩衝塩類溶液またはHEPES緩衝塩類溶液である。好ましい態様では、媒体は、Sigma Chemical Co.(St.Louis,Missouri,USA)により市販されているようなものなどの普通のHanks緩衝液(フェノールレッドを含まない)などの緩衝化細胞培養液である。他の組織培養液、たとえばイーグル基礎培地(EarleまたはHank塩のいずれかを含む)、ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM
)、Iscove修飾ダルベッコ培地(IMDM)、培地199、最小必須培地(MEM)イーグル(EarleまたはHank塩のいずれかを含む)、RPMI、ダルベッコのリン酸緩衝塩類溶液、Earle平衡化塩類溶液(Earle's balanced salt:EBSS)、及びHank平衡塩類溶液(HBSS)を使用す
ることもできる。これらの培地は、グルコース、Ham栄養素またはHEPESを補充することができる。具体的には、重炭酸ナトリウム及びL-グルタミンなどの他の成分も配合または省略することができる。培地、塩及び他の試薬は、Sigma、Gibco、BRL、Mediatech及び他の会社などの多くの製造業者から購入することができる。
【0082】
〔0088〕 通常、ヒト血清アルブミン(HSA)も、以下に記載の如く配合する。さらに
、本発明の組成物または製剤は、ハプテン化腫瘍細胞をさらに安定化させるために、HSA
の他に成分を含んでもよい。そのような成分の例としては、たとえば5%濃度で炭水化物
及び糖、たとえば蔗糖、グルコースなど;たとえば10%濃度で中〜長鎖ポリオール、たとえばグリセロール、ポリエチレングリコールなど;他のタンパク質;アミノ酸;核酸;キレート化剤;タンパク質分解阻害剤;防腐剤及び他の成分が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物のそのような成分は、医薬的に許容可能であるのが好ましい。
【0083】
ヒト血清アルブミン
〔0089〕 好ましい態様において、本発明の腫瘍細胞製剤は、腫瘍細胞を安定化するのに有効な、アルブミンなどのある濃度または量のタンパク質を含む。腫瘍細胞を安定化させるのに有効量のタンパク質を、凍結保存の前及び/または後に、またはハプテン化腫瘍細胞の場合には、ハプテン化の前及び/または後に添加することができる。好ましい態様では、アルブミンはヒト血清アルブミンまたはHSAである。HSAは、タンパク質抗原、及び小さな有機分子、たとえばヘミン(Paige,A.G.ら、Pharmaceutical Res.,12巻:1883〜1888頁、1995年;Chang,A.C.及びR.K.Gupta.J.,Pharm.Sci.,85巻、129〜132頁;Niemeijer,N.R.ら、Ann.Allergy Asthma Immunol.,76巻:535〜540頁、1996年;及びCannon,J.B.ら
、PDA:J.Pharm.Sci&Tech.,49巻:77〜82頁、1995年)、並びにハプテン化腫瘍細胞組成物(PCT国際公開第WO00/29554号、米国特許第5,248,585号に対応)を含むタンパク質の溶液を安定化させることが判明している。
【0084】
〔0090〕 本発明の構成で使用するHSAは、天然物由来(精製HSA)または組換え物由来(rHSA)のいずれであってもよい。当然、in-vivoで製剤を送達する場合には、自己由来
または非免疫原性の血清アルブミンを使用するのが好ましい。かくしてヒト治療に関しては、HSAが望ましく且つ好ましい。しかしながら、当業者は本発明の実施において任意の
血清アルブミンを使用することができ、より具体的には、任意の非ヒト動物での癌の処置に関して、腫瘍細胞ワクチンと一緒に任意の自己由来の血清アルブミンを使用し得ることを直ちに理解できる。具体的な態様では、25%HSA溶液であるヒト血清アルブミン溶液(
アメリカ赤十字)を使用する。
【0085】
〔0091〕 特定の品質判定基準(たとえば均質性、純度、安定性)を満たす組換えまたは天然HSAを使用すると好都合である。かくして、薬局方は、アルブミン溶液に関して多
くのパラメータ、すなわちpH値、タンパク質含有量、ポリマー及び凝集物含有量、アルカリ性ホスファターゼ含有量及び特定のタンパク質組成物を定める。さらに、特定の吸収、滅菌性、発熱因子及び毒性に関する試験の服薬遵守(“Albumini humani solutio”、European Pharmacopeia(1984年)、255頁を参照されたい)も課す。本質的ではないが、こ
れらの基準に従ってアルブミン組成物を使用するのが特に好ましい。
【0086】
〔0092〕 通常、本発明のHSA製剤は、上記の如く所望の終濃度を達成するために選択
した培地/緩衝化塩溶液にHSA粉末または溶液を添加することによって製造する。
〔0093〕 腫瘍細胞、特にハプテン化腫瘍細胞の製剤でアルブミンを使用することに関する追加の情報は、米国特許第6,248,585号に対応するPCT国際公開第WO00/29554号に見いだすことができる。
【0087】
ワクチン調製及び投与
〔0094〕 本発明の組成物は、目的の投与経路及び標準的な薬務に関して選択した、医薬的に許容可能なキャリヤと混合して投与することができる。用量は、患者の体重及び症状に関して設定することができる。活性成分対キャリヤの割合は、組成物の化学的性質、溶解性及び安定性、並びに検討した用量に当然、依存する。本発明の腫瘍細胞の使用量は、癌細胞に関する化合物の親和性、存在する癌細胞の量及び組成物の溶解性などの因子に依存する。皮内、静脈内、腹膜内、筋肉内及び皮下経路などを使用する予防接種及び注射形態を含む任意の好適な経路で本発明の組成物を投与することができる。たとえば、本組成物は、リンパ節切開と同側の手足以外の、上腕または足に1回の投与当たり三箇所の隣
接部位への皮内注射によって投与してもよい。さらに、ワクチンは、腫瘍切開部位近くに皮下注射によって投与してもよい。
【0088】
腫瘍細胞用量
〔0095〕 従来、腫瘍細胞ワクチンに配合すべき腫瘍細胞量は、生細胞、すなわちトリパンブルー排除細胞の数に基づいて決定されていた(たとえば、Hooverら、1985年;55巻:1236〜1243頁及びHannaらの米国特許第5,484,596号を参照されたい)。本発明の好ましい態様に従って、患者に投与すべき腫瘍細胞ワクチン中の腫瘍細胞数は、生存可能な腫瘍細胞数に基づくのではなく、すなわちトリパンブルー排除によって評価された生細胞と「死」細胞の両方の腫瘍細胞の総数に基づく。
【0089】
〔0096〕 総細胞を計数する手順は、当該技術分野で公知の任意の適切な方法により実施することができる。たとえば、細胞は、顕微鏡及び標準細胞計数チャンバを使用して、またはBeckman Coulterセルカウンターなどの自動セルカウンターを使用して計数するこ
とができる。本方法では、生細胞と「死」細胞とを識別する必要はないので、生細胞または死細胞に関して選択的なトリパンブルー及び他の手段は省略することができる。次いで細胞濃度は、特定の容積が患者に注射すべき細胞数に対応するように滅菌溶液で細胞を希釈して調節し、次いでこの容積を貯蔵バイアルに分取(aliquote)する。
【0090】
〔0097〕 本発明の好ましい態様では、本組成物は、医薬的に許容可能なキャリヤまたは希釈剤、たとえばHanks緩衝液(HBSS)、塩類溶液、リン酸緩衝塩類溶液及び水など(
ただしこれらに限定されない)に懸濁させた、約1×104〜1×108個、より好ましくは1×106〜約25×106個、さらにより好ましくは約2.5×106〜約7.5×106個の腫瘍細胞または腫
瘍細胞等価物を含むワクチンを含む。
【0091】
アジュバント
〔0098〕 好ましい態様では、腫瘍細胞組成物は、免疫学的アジュバントと一緒に投与することができる。医薬的に許容可能なアジュバントの市販品は限られているが、アジュバントの代表例としては、カルメット・ゲラン桿菌(Bacille Calmette-Guerin、BCG)、または合成アジュバント、キラジャ・サポナリア(Quillaja saponaria)樹皮から精製した均質サポニンを含むQS-21、コルネバクテリウム・パルヴム(Corynebacterium parvum
)(McCuneら、Cancer 1979年;43巻:1619頁)及びIL-12が挙げられる。
【0092】
〔0099〕 アジュバントは最適化を条件とすることは理解されよう。言い換えれば、当
業者は日常の実験だけに従事して、使用すべき最適アジュバントを決定することができる。
【0093】
免疫賦活剤及び併用療法
〔00100〕 腫瘍細胞組成物は、インターロイキン-2、インターロイキン-4、γインタ
ーフェロン、インターロイキン-12、GM-CSFなどのサイトカイン(ただし、これらに限定
されない)を含む他の化合物と同時投与することができる。本発明の腫瘍細胞及び抽出物は、化学療法、照射、抗体、アンチセンス・オリゴヌクレオチド及び遺伝子治療を含む(ただし、これらに限定されない)他の癌治療と組み合わせても使用することができる。
【0094】
実施例
以下の実施例は、本発明の例示であって、本発明を限定するものではない。
【0095】
実施例1:凍結ワクチン処理
〔00101〕 本実施例は、腫瘍細胞の処理及び貯蔵について記載する。腫瘍細胞は、患
者の腫瘍から調製し、ハプテン化し凍結する。
【0096】
材料及び装置
〔00102〕 コラゲナーゼ(Sigma、カタログ番号#C1639またはC9722);Hanks緩衝塩
類溶液、フェノールレッド無し(Gibco/BRL、カタログ番号#14175-095または等価物);EDTA二ナトリウム(IBIカタログ番号#IB70182、Sigma#E8008または等価物);A.C.S.認
定蔗糖(Fisherカタログ番号#S53または等価物);PBS(カルシウム、マグネシウム非含有)(Sigmaカタログ番号#D8537または等価物);DNFB(Sigmaカタログ番号#D1529);Nalgeneフィルター装置(PES)0.20μm(カタログ番号#165-0020)または等価物;Falcon 50 ml及び15 ml遠心分離管または等価物;トリパンブルー0.4%(Gibco/BRLカタログ番号#15-250-061または等価物);イソプロパノール;凍結用バイアル(cryovial)、1.0 mL
外ねじ(VWRカタログ番号#66021-994、またはFisherカタログ番号#12-565-164N);#50
メッシュスクリーン;ヒトアルブミン(HSA)25%;クラスIIバイオロジカル・セーフテ
ィ・キャビネット(Biological Safety Cabinet);Nalgene Cryo Containerカタログ番
号#5100-0001;血球計;顕微鏡。
【0097】
手順
〔00103〕 以下の手順を使用して任意の充実性腫瘍から腫瘍細胞を調製することがで
きるが、この手順はメラノーマ及び卵巣癌に特に適している。切開した腫瘍をバイオセーフティキャビネットに移し、滅菌性に関して試験する。腫瘍は滅菌ピンセットで輸送培地から取り出し、滅菌Hanks溶液50 mlの入った3つの試料容器にそれぞれ順に1分間沈める。次いで腫瘍を秤量用にペトリ皿に移す。
【0098】
〔00104〕 Hanks溶液5〜10 mlを添加し、腫瘍を外科用メスで直径約3 mm以下の小片に切断する。溶液をピペットで取り出し、腫瘍片を滅菌のディスポーザブル・バッフル付きフラスコ(baffled flask)に移し、滅菌のマグネチックスターラーバーを加える。この
腫瘍を、70 mgコラゲナーゼを含有する50 ml洗浄及び解凍液(500 ml Hanks緩衝液+0.5 g EDTA+2 ml 25%HSA、1 NのNaOHを添加してpHを7.2に調整)で消化させる。コラゲナーゼ溶液は使用前に0.2 mmフィルターで濾過する。37℃で30分間撹拌しながら、消化させる。消化後、腫瘍をワイヤメッシュスクリーンで濾過し、細胞を含むフロースルー部分を集める。
【0099】
〔00105〕 細胞は、室温で276×gで7分間遠心分離してペレット化し、HSAを含まない20 mlHanks溶液中に再懸濁させる。細胞を室温で276×gで7分間遠心分離してペレット化し、HSAを含まない10 ml Hanks溶液中に再懸濁させる。10 mlアリコートを無菌的に取り出
して、0.2%トリパンブルー(25 ml 0.4%トリパンブルーストック+25 ml PBS Ca/Mgな
し)中に希釈する。細胞を血球計で計数し、トリパンブルー排除腫瘍細胞(I)、トリパ
ンブルー染色腫瘍細胞(NI)、及びリンパ球(L)の数を記録する(消化及び細胞数カウ
ント後)。場合により細胞を照射してもよい。細胞は、以下に記載の如く、DNFBストック溶液を添加し、次いでチューブを転置することによって10分毎に混合しながら、室温で30分間インキュベーションすることによってハプテン化することもできる。
【0100】
〔00106〕 細胞は、その後、室温で276×gで7分間遠心分離することによってペレット化する。全ての上清(10 mL)を、4℃で滅菌のラベル付きチューブに移し設置する。このサンプルは滅菌性に関して試験する。細胞を2 ml滅菌凍結メディウム(60 ml Hanks溶液
+8 g蔗糖+40 ml 25%HSA、pH 7.2に調整;0.2 mmフィルターで濾過)中に再懸濁させる。非常に多くの細胞がある場合には、できるだけ最小量の培地に再懸濁させる。細胞の終濃度は約25×106個/mLであるのが好ましい。細胞を、イソプロパノールを含有するNalgene Cryo 1℃コンテナに設置し、−80℃の冷凍庫に一晩設置する。翌日、バイアルを貯蔵用に液体窒素に移す。
【0101】
実施例2:消化、ハプテン化並びに凍結及び解凍後の細胞タイプの内訳
〔00107〕 メラノーマワクチンは、出発する腫瘍の自然の変異性にも関わらず、細胞
組成、すなわち無傷細胞、非-無傷細胞及びリンパ球の割合に関して比較的均一である。
ワクチンを凍結及び解凍すると、無傷細胞がかなり非-無傷細胞に転化する。しかしなが
ら、ワクチン調製の間の照射は、メラノーマワクチンの細胞組成には影響を与えない。
【0102】
〔00108〕 消化後、ハプテン化後及び凍結及び解凍後の3つの製造段階におけるメラノーマワクチンの細胞組成を表1に示す。予想されたように、それぞれの腫瘍は特徴的な存
在であるので、計数した最初の時点、すなわち消化後ではそれぞれの腫瘍の間にはかなりのばらつきがあった。しかしながら、所定のワクチンに関しては、それぞれの細胞タイプの割合はハプテン化の結果として殆ど変化しなかったが、凍結及び解凍後にはかなりの変化が観察された。
【0103】
【表1】

【0104】
〔00109〕 結果:ハプテン化の結果としてのそれぞれの細胞の種類の割合の小さな変
化は、個々のワクチン及び平均の両方に関して、消化後及びハプテン化後の同様の結果に反映される。ワクチンの凍結そして解凍の結果としての大きな変化は、無傷腫瘍細胞(I
)が減少し、それに呼応して非-無傷(NI)腫瘍細胞量が増加し、並びにリンパ球が減少
するという結果に反映される。無傷細胞の割合が初期に低かったワクチン(患者VD、RLT
及びPSB)以外の全ての場合において、この変化が観察された。
【0105】
〔00110〕 全体的に見れば、ワクチンの解凍後サンプルのうちで種々の細胞の種類の
割合における変化は、ずっと小さな標準偏差に反映されているように、消化後及びハプテン化後サンプルよりもずっと小さく、このことは、出発する腫瘍にばらつきがあるにもか
かわらず、ワクチンが比較的均一であることを示している。さらに、調製の間に照射したワクチンと照射しなかったワクチンとの間には明白な差がなかった。種々の画分における異なった細胞種類の平均割合は、照射したものと照射しなかったものとを合わせた全サンプルの平均割合と比較して、照射サンプルだけに対して極めて類似していた。
【0106】
実施例3:蔗糖凍結メディウム処理及び凍結保存後のHLAクラスI抗原及び表面DNPの保存
〔00111〕 本実施例は、蔗糖、ヒト血清アルブミン及びHanks緩衝液から構成される凍結メディウムで処理し、液体窒素中に最高7ヶ月保存した際のハプテン化細胞の細胞回収
率及び抗原性について記載する。照射及び非照射ワクチンサンプルの両方について試験した。細胞計数及びフローサイトメトリーを以下のように実施した。
【0107】
〔00112〕 以下の表に示すように、蔗糖凍結メディウム処置、続く凍結保存により、
表面DNPも表面HLAクラスI抗原も減少は殆ど示さなかった。
【0108】
【表2】

【0109】
〔00113〕 プロトコル:照射ハプテン化細胞及び非照射ハプテン化細胞を凍結メディ
ウムと接触させた。この凍結メディウムは、蔗糖8%、ヒト血清アルブミン10%及びHanks緩衝液から構成されていた。サンプルを−80℃の冷凍庫で一晩凍結させ、次いで貯蔵用に液体窒素冷凍庫に移した。
【0110】
〔00114〕 結果:照射ハプテン化腫瘍細胞及び非照射ハプテン化腫瘍細胞のいずれの
結果も、表面ハプテンDNPまたは表面HLAクラスI抗原が数ヶ月間の貯蔵の間に保持された
ことを示す。表2のVDと表示された1サンプルだけは、ハプテン化及び凍結メディウム処置及び液体窒素中の長期保存で僅かでも一貫した損失を示した。
【0111】
サイトメトリー手順
〔00115〕 腫瘍サンプルは液体窒素から取り出し、一晩−196℃に設置し、次いで37℃の水浴中で約90秒間解凍して、氷上に設置した。サンプルは、70μm Falconナイロンフィルターを使用してこの時点で濾過してもよい。サンプルを、3本は表面染色用、そして4本は内部染色用の7本の試験管に分けた。表面サンプルは、洗浄用緩衝液(0.1%ウシ血清アルブミン及び0.1%NaN3を含むリン酸緩衝塩類溶液)1 ml/試験管で洗浄し、4℃、1500 rpmで7分間ペレット化した。洗浄水100μl以外は廃棄し、マウス抗-ヒトHLA-ABC(Dakoカタログ番号#0736;IgG2a);マウス抗-DNP(Sigmaカタログ番号#8406)またはマウスIgG2a
対照イソタイプ対照抗体のいずれか1.1μgをサンプルに添加した。4℃で1時間インキュベーションした後、細胞を洗浄緩衝液3 ml中で洗浄し、4℃、1500 rpmで7分間ペレット化した。洗浄液100μl以外は吸引し、フルオレセインイソチオシアネート(FITC、Dakoカタログ番号#F0313)と結合させた二次抗体、ウサギ-抗マウスIg 5μlをそれぞれのサンプル試験管に添加した。4℃で45〜60分間インキュベーションした後、サンプルを洗浄緩衝液3 mlでもう一回洗浄し、4℃、1500 rpmで7分間ペレット化した。最後の洗浄の後、洗浄水100μl以外を試験管から吸引し、細胞を洗浄緩衝液2 ml中に再懸濁させた。サンプルをBeckman Coulter Epics Altraフローサイトメーター上で読み取り、データをExpo32(登録商標)ソフトウェア(Applied Cytometry Systems)を使用して解析した。Erdileら(J.Immuno.Meth.,2001年、258巻:47〜53頁)に記載の如く、イソタイプ対照抗体に関する曲線の
右側の1/2最大ピーク高さよりも高い蛍光をもつ事象の割合を計算することによってシフ
トを決定した。
【0112】
実施例4:蔗糖凍結メディウムで処理した凍結保存細胞の安定性
〔00116〕 この実施例は、照射DNP-ハプテン化メラノーマ細胞と非照射DNP-ハプテン
化メラノーマ細胞の長期安定性について比較する。手短に言えば、細胞を、蔗糖8%、ヒ
ト血清アルブミン及びHanks緩衝液を含む凍結メディウム中に懸濁させ、−80℃の冷凍庫
に一晩設置し、貯蔵用に液体窒素冷凍庫に移した。最大9ヶ月の種々の時点でサンプルを
解凍し、無傷細胞、非-無傷細胞及びリンパ球の相対画分を測定した。結果を表3に示す。
【0113】
〔00117〕 少なくとも最初の3ヶ月間の貯蔵では種々の細胞タイプの割合は、比較的変化せずに残存し、照射腫瘍細胞サンプルと非照射腫瘍細胞サンプルとの偏差は小さかった。この結果は、この凍結メディウムがハプテン化腫瘍細胞を保存したことを示す。
【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【0116】
実施例5:凍結保存したワクチンのin-vivo効率
〔00118〕 この実施例は、原発性410.4乳癌を外科的に切除したマウスでの腫瘍再発に対する、凍結ジニトロフェニル(DNP)-修飾腫瘍細胞ワクチンの治療的効率の評価について記載する。この結果は、凍結ジニトロフェニル(DNP)-修飾腫瘍細胞ワクチンが、凍結していないDNP-修飾腫瘍細胞ワクチンと同様に無再発生存率を改善する際に等しく効果的であることを示す(Sojkaら、Cancer Immunol. Immunother.2002年;51巻:200〜208頁)。無再発生存率の改善は、4つの独立した実験で一致し、全4つの研究からのデータをまとめると、効果は統計的に有意であった。凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチンと凍結していないDNP-修飾腫瘍細胞ワクチンとの直接比較から、これらの効率は区別できないほど似ていることが示唆された。さらに、凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチンを予防接種(immunize)したマウスの無再発生存率は、3つの独立した実験での凍結非修飾腫瘍細胞ワクチンを予防接
種したマウスの無発生生存率よりも優れており、この差は、全3つの研究からのデータを
まとめると、統計的に有意であった。従って、DNP-修飾によってこの腫瘍細胞ワクチンの治療的利益(therapeutic benefit)を改善し、使用した凍結保存法は、ワクチンの効能
を低下させない。予備段階での結果も、そのDNP修飾前に腫瘍細胞をガンマ線に照射する
と、ワクチン効能を改善したことを示した。このワクチンは、十分に耐容性(well-tolerated)であり、注射部位では穏やかな自己制限性硬結(self-limited induration)だけ
を示した。材料及び実験計画、並びに結果について、以下詳細に議論する。
【0117】
〔00119〕 動物モデルは、自然発生的に発生したBALB/cネズミ乳癌に由来する非常に
転移性の410.4腫瘍を使用した。腫瘍細胞は既に記載のようにin-vitroで保持し(Sojkaら、Cancer Immunol. Immunother.2002年;51巻;200〜208頁)、7〜10週齢の雌のBALB/cAnNCrBRマウス(Charles River Breeding Laboratories,Wilmington, MA)の左胸脂肪体(fatpad)に3×105個の腫瘍細胞を注射した。腫瘍を直径6〜8 mmに成長させ、その時点で原発性癌を外科的に切除し、処置を開始した。マウスは、局所的腫瘍再発と、もう一方の胸及び局部リンパ節の触診可能な転移の出現とに関して、少なくとも一週間に2回監視した

【0118】
〔00120〕 ワクチン調製に関しては、腫瘍細胞をEDTAの入った培地フラスコ(Sigma Chemical Co.,St Louis,MO)から切り離し、示さない限り、γ-照射(2500 cGy、137Cs供
給源)にかけた。2,4-ジニトロフルオロベンゼン(DNFB,Sigma Chemicals Co.,St.Louis
,MO)を添加し、室温で30分間インキュベーションしてハプテン化を実施し、ヒト腫瘍由来の臨床用ワクチンを製造した。凍結していないDNP-修飾、γ-照射、腫瘍細胞ワクチン
に関しては、細胞は調製の日に使用した。凍結DNP-修飾、γ-照射、腫瘍細胞ワクチンに
関しては、DNP-修飾、γ-照射、腫瘍細胞を洗浄し、蔗糖8%及びヒト血清アルブミン(HSA)10%を補ったHanks緩衝液中に再懸濁させた。次いでDNP-修飾細胞のアリコートを取り、イソプロパノールを含むNalgene Cryo 1℃コンテナにバイアルを設置し、−80℃の冷凍庫に一晩設置した。次いで凍結細胞を使用するまで貯蔵した。使用直前に細胞を37℃の水浴で解凍し、Hanks溶液で2回洗浄して、残存するHSAを除去した。凍結させた非修飾、γ-照射腫瘍細胞ワクチンは、DNP修飾を実施しなかった以外には、同様にして調製した。ワ
クチンをそれぞれ0.2 mlの総容積で投与し、これはカルメット・ゲラン桿菌(Bacille Calmette-Guerin:BCG, Tice Strain, Organon)0.5×106〜4×106コロニー形成単位(CFU
)と混合した、5×106凍結DNP-修飾細胞若しくは非修飾腫瘍細胞、または3×106個の凍結していないDNP-修飾腫瘍細胞からなっていた。
【0119】
〔00121〕 実験計画に従って、原発性腫瘍の外科的切除から3〜5日後に、マウスに15 mg/kgのシクロホスファミド(CY;Mead Johnson-A Bristol-Myers Squibb Co.,Princeton,NJ)の腹腔内注射を施した。低用量CY処置の3日後、マウスに腫瘍切除部位の近くに表記ワクチンの皮下注射を施した。このプロトコルを実験の間、10日毎に繰り返した。参照点として、幾つかの実験では一群のマウスには塩類溶液を与えた。原発部位における腫瘍再発に関して、並びにもう一方の胸及び局所リンパ節の触診可能な転移の出現に関して、一週間に少なくとも二回、全てのマウスを監視した。転移が顕著になったら、実験の間、またはマウスが苦痛の兆候を見せるまで腫瘍を悪化させ、その後犠死させた。腫瘍再発に関して監視することに加えて、幾つかの実験では、注射部位の反応及び体重に関しても動物を監視した。
【0120】
〔00122〕 Kaplan-Meierタイプ生存曲線として、それぞれの監視点で腫瘍再発のない
動物の割合をプロットすることによりデータの統計分析を実施し、GraphPadソフトウェア(Prism software,San Diego,CA)を使用してlogランク試験を実施した。0.05未満のp値を有意とみなした。
【0121】
〔00123〕 この結果は、塩類溶液の注射と比較して、凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチン
が無再発生存率を改善したことを示した。全部で4つの実験を実施し、それぞれが塩類溶
液処置群に対して凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチンの治療的利益を示し、この結果をまとめた。群の間に統計的に有意な差(p=0.0011)を示すまとめた結果を図1に示す。かくして、原発性腫瘍を外科的に切除したマウスを凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチンで処置すると、腫瘍再発に対して治療的利益を提供する。
【0122】
〔00124〕 独立した実験では、凍結していない及び凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチンを
、410.4腫瘍における腫瘍再発に対するその治療的有効性に関して比較した。実験の結果
をまとめると、二つの処置群は匹敵し得る治療的利益を提供した(p=0.6725)。これら
の結果を図2に示す。凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチンの治療的有効性も、Sojkaら(Cancer
Immunol. Immunother. 2002年:51巻:200〜208頁)により報告の凍結していないDNP-修飾腫瘍細胞の治療的有効性と同様であることも示された。
【0123】
〔00125〕 凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチンを受容したマウスの無再発生存率と塩類溶
液処置群の無再発生存率との比較に加えて、凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチンで処置したマ
ウスの無再発生存率と、凍結非修飾照射腫瘍細胞ワクチンで処置したマウスの無再発生存率とを比較する実験を実施した。全ての研究をまとめると、DNP-修飾凍結ワクチンは、有意に優れた無再発生存率(p=0.0004)を誘発した。これらの結果は、図3に示す。総合すれば、本出願人の現在の結果は、凍結していないDNP-修飾照射腫瘍細胞ワクチンのように、凍結DNP-修飾照射腫瘍細胞ワクチンは、原発性410.4腫瘍を外科的に切除したマウスの
無再発生存率を改善した点で、非修飾照射腫瘍細胞よりも優れていることを示し、このことは、DNP修飾が最適抗腫瘍作用をもたらすのに不可欠であることを意味している。
【0124】
〔00126〕 さらに、実験結果は、照射がDNP-修飾腫瘍細胞ワクチンの作用に重要であ
ることを示した。照射を任意に実施した、DNPによるハプテン化は、in-vitro増殖及びin-vivo腫瘍形成の両方を排除するのに十分であることが判明した。照射段階を排除できるかどうか調べるために、照射を任意に実施して製造した凍結DNP-修飾腫瘍細胞ワクチンを比較した。この結果は、凍結DNP-修飾照射腫瘍細胞ワクチンよりも非照射に関して無再発生存率が有意に低いことを示した(図4;p=0.0362)。照射によって410.4腫瘍系での腫瘍
再発に対するDNP-修飾腫瘍細胞ワクチンの効能を改善する(1または複数の)メカニズム
は、依然として不明である。しかしながら、照射は、腫瘍根絶免疫性(tumor eradicating immunity)(Chenら、Immunol Today 1993年;14巻;483〜486頁;Allisonら、Curr Opin Immunol、1995年;7巻;682〜686頁;Gorelikら、J.Immunol.,1995年;154巻;3941〜3951頁;Sojkaら、Caner Immunol.Immunother 2002年;51巻;200〜208頁)の獲得に関して重要であることが知られている遺伝子の発現(たとえば、B7-1(Morelら、Cancer Immunol Immunother、1998年:46巻:277〜282頁;Sojkaら、J.Immunol 2000年:164巻;6230〜6236頁;Vereecqueら、Br J.Haematol 2000年;108巻:825〜831頁)及びTNF-α(Hallahanら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)1989年;86巻:10104〜10107頁;Weillら、J.Interferon Cytokine Res 1996年;16巻:395〜402頁))を活性化させることが判明し、これ
がこれらの結果を説明となるかもしれない。
【0125】
〔00127〕 最後に、凍結していない場合と凍結した場合とに関わらず、DNP-修飾腫瘍
細胞ワクチンは十分に耐容性であった。凍結DNP-修飾照射腫瘍細胞ワクチンを受容した動物は、塩類溶液を受容した対照動物と同様の体重を保持した。これらの研究で言及したワクチンに関する唯一の拒絶反応(adverse reaction)は、ワクチンのBCG成分によく付随
する注射部位の水腫及び硬結であった。これらは穏和且つ自己制限性であり、次の予防接種前には消失した。
【0126】
実施例6:凍結保存した二ハプテン化細胞
〔00128〕 この実施例は、蔗糖、ヒト血清アルブミン及びHanks緩衝液から構成される蔗糖凍結メディウムで処置し、液体窒素中に最大6ヶ月間貯蔵したときの、二ハプテン化
メラノーマ細胞の細胞回収率、抗原性及びハプテン保持率について記載する。
【0127】
〔00129〕 二ハプテン化メラノーマ細胞組成物は、上記の如く、約半分はDNPで腫瘍細胞調製したものと、残りの半分はSAで調製したものを抱合させることにより調製した。蔗糖凍結メディウムは、蔗糖が完全に溶解するまでHBSS 60 mlと25%HSA 40 mlと蔗糖8 gとを混合し、続いて0.2μmフィルター装置を使用してディスポーザブル・プラスチック・ボトルに滅菌濾過することによって調製した。細胞計数とフローサイトメトリーによる安定性試験は、実施例3に記載の如く本質的に実施し、細胞マーカー、HLAクラスI、CD45、GD3、S100、HMB45及びMart-1の発現に関して試験する。以下の表5及び6は、#1〜12で示す、それぞれが異なる腫瘍細胞調製物を示す、12個のサンプルに関する評価結果を示す。実質的に、貯蔵最大6ヶ月間で凍結保存した細胞調製物では一貫した変化はなかった。
【0128】
【表5】

【0129】
【表6−1】

【0130】
【表6−2】

【0131】
実施例7:凍結保存した細胞を使用する臨床研究
〔00130〕 本実施例は、凍結メディウム処理した凍結保存ハプテン化細胞を使用する
種々の臨床研究について概説する。
【0132】
〔00131〕 ハプテン、ジニトロフェニル(DNP)で修飾した自己由来の腫瘍細胞からなる新規ヒト癌ワクチンを開発した。このDNP-修飾ワクチンは、特徴的な免疫学的効果を誘発し、臨床的有効性を示す。その半分はDNPで修飾し、半分は第二のハプテン、スルファ
ニル酸(SA)で修飾した自己由来の腫瘍細胞から構成される第二世代のワクチンも開発した。この「二ハプテン化」ワクチンは、免疫学的により強力であり、臨床的により有効である。
【0133】
〔00132〕 ステージIVメラノーマの患者における二ハプテン化ワクチンの第I相試験を実施し、4用量レベルを試験した。主な目標は、DNP-修飾、SA-修飾及び非修飾自己由来腫瘍細胞に対する、遅延型過敏症の産生(Delayed-type hypersensitivity:DTH)である。また、腫瘍炎症応答の産生も研究する。
【0134】
〔00133〕 続いて、第I相試験で免疫学的に有効であることが見いだされた最小用量を使用して第II相試験を実施する。新規開発の現象の免疫学的基礎−ワクチン「誘発」用量(inducing dose)のタイミングの重要性について研究する。低用量のシクロホスファミ
ドの誘発用量を最適に適時投与すると、もしそうでない場合には抗-腫瘍免疫応答をダウ
ンレギュレーションまたは阻止するであろうサプレッサーT細胞の選択的減少がもたらさ
れるという仮説を試験する。末梢血リンパ球を、種々の時間点で患者から採取し、サプレッサー細胞の存在に関して評価した。次いでそのようなサプレッサー細胞が、CTLA4の同
時発現と共に特徴的な表現型、CD4+CD25+を持つかどうか、及び刺激によってこれらが免
疫調節サイトカイン、IL10を産生するかどうかを研究した。最終的に、アロ抗原、ハプテン-修飾腫瘍細胞、及び非修飾腫瘍細胞に対するin-vitro T細胞応答をダウンレギュレー
ションするサプレッサー細胞の能力を試験する。これらの研究は、ヒト癌ワクチンの免疫生物学に識見を提供して、より効果的な免疫治療戦略の開発を補佐する。
【0135】
〔00134〕 本発明は、本明細書中に記載した具体的な態様によってその範囲を限定す
るものではない。実際、本明細書中に開示の態様に加えて、当業者には上記記載及び付記図面から本発明の種々の変形が明らかになろう。そのような変形は、付記請求の範囲内に含まれるものである。
【0136】
〔00135〕 全ての値はある程度おおよそのものであり、記載目的のために提供するも
のである。
〔00136〕 特許、特許出願、公報、製品の記載及びプロトコルは、本出願を通して引
用され、その開示は本明細書中、その全体が参照として含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】図1は、塩類溶液処理対照マウスと比較した、原発性410.4乳腺癌(mammary adenocarcinoma tumor)を外科的に除去し、極凍結保存した照射済みDNP-修飾腫瘍細胞で処理後のマウスの無再発生存率を示す。
【図2】図2は、凍結していないハプテン化腫瘍細胞ワクチンで処理したマウスと比較した、極凍結保存したハプテン化腫瘍細胞ワクチンで処理したマウスの無再発生存率を示す。
【図3】図3は、極凍結保存非ハプテン化腫瘍細胞ワクチンで処理したマウスと比較した、極凍結保存ハプテン化腫瘍細胞ワクチンで処理したマウスの無再発生存率を示す。
【図4】図4は、極凍結保存ハプテン化非照射ワクチンで処理したマウスと比較した、極凍結保存ハプテン化照射腫瘍細胞ワクチンで処理したマウスの無再発生存率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハプテン化腫瘍細胞を保存する方法であって、
(i) 前記ハプテン化腫瘍細胞と凍結メディウムを接触させ、ここで前記凍結メディウ
ムは、蔗糖、ヒト血清アルブミン及び等張性緩衝溶液を含み;及び
(ii) 前記腫瘍細胞を凍結させる、各段階を含み、これによって前記腫瘍細胞の免疫原性を保存する、前記方法。
【請求項2】
前記等張性緩衝塩類溶液がHank's緩衝溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凍結メディウムが、蔗糖8%、ヒト血清アルブミン10%を含み、前記等張性緩衝塩
類溶液がHank's緩衝溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記温度が約−80℃〜約−196℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも−80℃の温度で約3ヶ月貯蔵後に、少なくとも一つの腫瘍細胞関連抗原(TCAA)のレベルの少なくとも70%が保存される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記TCAAの少なくとも90%が保存される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも−80℃の温度で約3ヶ月貯蔵後に、前記ハプテン化腫瘍細胞の少なくとも50
%が保存される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ハプテン化腫瘍細胞の少なくとも70%が無傷で保存される、請求項7に記載の方法

【請求項9】
前記腫瘍細胞が、メラノーマ細胞、卵巣癌細胞、結腸直腸癌細胞、小細胞肺癌細胞、腎臓癌細胞、乳癌細胞、及び白血病細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法

【請求項10】
前記腫瘍細胞がメラノーマ細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記腫瘍細胞が、DNP、TNP及びスルファニル酸からなる群から選択される少なくとも一種のハプテンでハプテン化される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記腫瘍細胞がDNPでハプテン化される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記腫瘍細胞が、少なくとも二種類のハプテンでハプテン化される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ワクチンで使用するためのハプテン化腫瘍細胞を貯蔵する方法であって、ハプテン化腫瘍細胞及び凍結メディウム組成物を、少なくとも3ヶ月間、凍結温度より低い温度で貯蔵
することを含む、前記方法。
【請求項15】
前記温度が、約−80℃〜−196℃である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記腫瘍細胞が、DNA及びスルファニル酸から選択される少なくとも一種のハプテンで
ハプテン化される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
ワクチンで使用するためのハプテン化腫瘍細胞と凍結メディウムとを含む組成物であっ
て、前記凍結メディウムが、蔗糖、ヒト血清アルブミン及び等張性緩衝塩類溶液を含む、前記組成物。
【請求項18】
前記凍結メディウムが、蔗糖8%、ヒト血清アルブミン10%を含み、前記等張性緩衝塩
類溶液がHank's緩衝溶液である、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記腫瘍細胞が、メラノーマ細胞、卵巣癌細胞、結腸直腸癌細胞、小細胞肺癌細胞、腎臓癌細胞、乳癌細胞、及び白血病細胞からなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
前記腫瘍細胞がメラノーマ細胞である、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
前記腫瘍細胞が、DNP、TNP及びスルファニル酸からなる群から選択される少なくとも一種のハプテンでハプテン化される、請求項15に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−268809(P2010−268809A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161908(P2010−161908)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【分割の表示】特願2004−510528(P2004−510528)の分割
【原出願日】平成15年6月10日(2003.6.10)
【出願人】(504455355)アバクス・テクノロジーズ・インコーポレーテッド (3)
【出願人】(301055505)トーマス ジェファーソン ユニバーシティ (4)
【Fターム(参考)】