説明

ハロゲンフリー難燃性電線

【課題】内層と外層の2層からなる電機絶縁体の樹脂配合を適正化することにより、柔軟性と耐電圧との両方に優れた特性を備えたハロゲンフリー難燃性電線を提供する。
【解決手段】電気導体2の外周部を内層3と外層4の2層からなる電気絶縁体5で絶縁したハロゲンフリー難燃性電線である。内層3は、酢酸ビニルの含有率が60%以上〜80%以下のエチレン酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、無水マレイン酸変性エチレンエチルアクリレート共重合体(無水マレイン酸変性率25%)5〜40重量部と金属水酸化物が添加され、外層4は、酢酸ビニル含有率が30%以上〜60%未満のエチレン酢酸ビニル共重合体に金属水酸化物が添加されている。また、外層4の厚さが内層3の厚さより薄く形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の内部配線等に使用されるハロゲンフリー系の絶縁樹脂組成物を用いた、柔軟性と耐電圧を備えたハロゲンフリー難燃性電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への対応から、燃焼時にダイオキシンなどの有害なハロゲンガスの発生のないハロゲンフリー難燃性樹脂組成物が開発され、電線やケーブル等の絶縁被覆材として使用されている。ハロゲンフリー難燃性樹脂組成物としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)と無水マレイン酸変性エチレンエチルアクリレート共重合体(無水マレイン酸変性EEA)などの共重合体に、難燃剤として金属水酸化物を混和したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
他方、難燃性を向上させるために、難燃剤の混和量を増加させると、機械的特性や電気的特性が低下することから、電線の絶縁層を内層と外層の2層で形成することが知られている。しかし、外層をより難燃化するためにポリオレフィン100重量部に対して、水酸化マグネシウム300重量部を添加しても、機械的、電気的特性を確保するために電気絶縁体の層厚を厚くするとポリオレフィンが燃焼時に流動化し、これがガス化して燃焼するとされている。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献2に開示の技術においては、電気絶縁体の内層として、エチルアクリレート(EA)含有量が9〜35重量%のエチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)を単独または他のポリオレフィン系樹脂を混合したベース樹脂100重量部に対し、水酸化マグネシウム等の難燃剤50〜150重量部を含むものを用いている。そして、電気絶縁体の外層として、EA含有量が15〜35重量%のEEAもしくは酢酸ビニル(VA)含有量が15〜45重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を単独または他のポリオレフィン系樹脂を混合したベース樹脂100重量部に対し、水酸化マグネシウム等の難燃剤150〜300重量部を含むものを用いている。
【特許文献1】特開2003−160709号公報
【特許文献2】特開2006−286529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
柔軟性と耐電圧を有するハロゲンフリー難燃性の電線が要求されることがあるが、無水マレイン酸変性EEAをベース樹脂のEVAに添加すると電気絶縁体の伸びが低下する。すなわち、絶縁電線としての柔軟性が低下し硬くなる。他方、無水マレイン酸変性EEAをベース樹脂のEVAに添加することで、電気絶縁体の吸湿を抑えることができ、絶縁電線の耐電圧を向上させることができる。
また、ベース樹脂であるEVAのVA含有率を高くすると柔軟にすることができる。しかし、EVAのVA含有率を高くしていくと、絶縁電線を巻き取った際に電線同士がくっついてしまい、抗張力も低下して破断しやすくなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、内層と外層の2層からなる電機絶縁体の樹脂配合を適正化することにより、柔軟性と耐電圧との両方に優れた特性を備えたハロゲンフリー難燃性電線の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるハロゲンフリー難燃性電線は、電気導体の外周部を内層と外層の2層からなる電気絶縁体で絶縁したハロゲンフリー難燃性電線である。内層は、酢酸ビニルの含有率が60%以上〜80%以下のエチレン酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、無水マレイン酸変性エチレンエチルアクリレート共重合体(無水マレイン酸変性率25%)5〜40重量部と金属水酸化物が添加され、外層は、酢酸ビニル含有率が30%以上〜60%未満のエチレン酢酸ビニル共重合体に金属水酸化物が添加されていることを特徴とする。また、外層の厚さが内層の厚さより薄く形成するのが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、内層のベース樹脂であるエチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率を上げることで柔軟性を確保し、ポリエチレン・無水マレイン酸・エチルアクリレートの3元共重合体を添加することで耐電圧を高めることができる。また、外層のベース樹脂であるエチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率を下げることで電気絶縁体の表面を硬質にして、電線が互いに接着するのを抑止すると共に電線の抗張力を高めることができ、柔軟性と耐電圧の両方を備えたハロゲンフリー難燃性電線とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明によるハロゲンフリー難燃性電線1は、図1に示すように、電気導体2の外側を内層3と外層4の2層からなる電気絶縁体5で覆った電線またはケーブルを対象とする。また、電気導体2には、例えば、断面円形状の錫メッキされた単心の軟銅線または7本撚りの軟銅線が用いられる。電気絶縁体5の内層3と外層4は、何れもポリオレフィン系樹脂のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)をベース樹脂とし、これに難燃剤として金属水酸化物を添加したハロゲンフリーの難燃性樹脂が用いられる。
【0010】
ベース樹脂として用いるEVAは、分子内に酸素を有しているため、これ自体での難燃性が高く、且つ金属水酸化物との親和性も高い性質を有している。なお、EVAは、エチレンと酢酸ビニル(VA)とを共重合した熱可塑性樹脂であるが、VAの含有量が多くなるにしたがって柔軟性を増し、ゴムに近い性質を示す。VAの含有量が少ないものは、低密度ポリエチレンに近い性質を示すが、より強靭で抗張力を備えたものとなる。したがって、電線の柔軟性を得るために、電気絶縁体5をVAの含有量が多いEVAを用いると、電線表面がべたついて電線の接触部分が互いにくっつきやすくなり、取扱いにくいものとなる。
【0011】
本発明においては、電気絶縁体5の内層3のEVAにおけるVA含有率を多くして、機器内配線が容易な電線としての柔軟性が得られるようにすると共に、外層4のEVAのVA含有率を少なくして、電気絶縁体5の表面が硬くなるようにする。具体的には、内層3のVA含有率は、60%以上で80%以下として柔軟性を与え、外層4のVA含有率は、60%未満で30%以上として硬めとするのが望ましい。これにより、電気絶縁体5の外表面がべたつかず、抗張力もある程度確保することができ、電線の巻き取りや配線での取扱いを容易なものとすることができる。
【0012】
また、内層3のEVAには、無水マレイン酸変性されたエチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)が添加される。この無水マレイン酸変性EEAは、耐熱性、機械的強度を強めるが伸びが低下する。しかし、無水マレイン酸変性EEAは、電気絶縁体が水で膨潤されるのを抑える作用があり、このため、これを添加することにより電気絶縁体の耐電圧特性を向上させることができる。また、無水マレイン酸変性されていないEEAは、膨潤抑制効果がなく、酸性基同士のイオン結合がないため、EVAとの結合が低下し必要な破断強度も得られない。
【0013】
具体的には、無水マレイン酸変性EEAの変性率は1〜40%で、EVA100重量部に対して、5〜40重量部程度が添加され、好ましくは15〜35重量部が添加される。なお、5重量部未満では、吸湿抑制効果があまり期待できず、40重量部を超えると結晶成分が多くなるため、柔軟性、屈曲性等が悪くなる。
【0014】
電線の柔軟性を確保するには、内層3と比べての柔軟性が低い外層4の厚さを、内層3の厚さより薄くするのが望ましい。電気絶縁体5の全体の厚さは、要求される耐電圧や電気導体の太さ等によって異なるが、例えば、定格電圧6kV(AC)とし、使用する電気導体太さをAWG20〜30(直径0.81mm〜0.25mm)とすると、内層3の厚さは0.4mm〜0.5mmで、外層4の厚さが0.1mm〜0.2mmで、内層と外層の合計厚さが、0.5mm〜0.7mmとするのが望ましい。電気絶縁体5の厚さを、あまり厚くすると、曲げにくく柔軟性も低下して取り扱い性が悪くなり、機器内の配線スペースを多く必要とし機器が大型化する。
【0015】
また、電気絶縁体5の内層3と外層4のそれぞれには難燃剤として、従来と同様に金属水酸化物が添加される。金属水酸化物として、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどが用いられているが、なかでも水酸化マグネシウムの難燃効果が高く好ましい。また、これらの金属水酸化物は、ベース樹脂との親和性を高めるために、チタネートカップリング剤、ビニルシラン、エポキシシラン、アミノシラン、メタクリルシランなどのシランカップリング剤、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸などの高級脂肪酸を用いて表面処理を施したものを用いるようにしてもよい。
【0016】
この金属水酸化物からなる難燃剤は、電気絶縁体の内層3及び外層4のベース樹脂100重量部に対して、50重量部〜200重量部が添加される。具体的な添加量は、要求される難燃度に応じて決められるが、50重量部未満では難燃性が不足し、200重量部を超えると、電気絶縁体の破断強度、伸びが低下する。
【0017】
この他、上記したハロゲンフリーの難燃性組成物からなる電気絶縁体5の内層3及び外層4の何れにも、必要に応じてベース樹脂100重量部に対して、熱酸化による樹脂の脆弱化を抑制する酸化防止剤0.1重量部〜5.0重量部を添加することができる。また、この他に電気絶縁体5の成形性を向上させる加工助剤、着色剤、安定剤等の各種の助剤を添加させることができる。
【0018】
本発明におけるハロゲンフリー難燃性電線1は、ULstandard758(米国規格)に準拠し、以下に示すような結果を満足しているものとする。
(1)難燃性については、UL VW−1に合格していること。
(2)柔軟性(伸び)については、電線から電気導体を引き抜いて残った電気絶縁体(チューブ)の破断伸びが150%以上あること。
(3)抗張力については、同上の電気絶縁体(チューブ)の破断強度が10.3MPa以上であること。
(4)耐電圧については(定格電圧がAC6kVの場合)、電線の束を24時間水につけた後(端部は出しておく)、水と電線との間に13kVの電圧を1分印加して、電圧破壊がないこと。
【0019】
(実施例1)
・電気導体:錫メッキ軟銅線(AWG24 導体構成7/0.203 外径0.61mm)
・電気絶縁体(内層):VA含有率が70%のEVA 100重量部
無水マレイン酸変性EEA(変成率25%) 20重量部
水酸化マグネシウム 180重量部
酸化防止剤 2重量部
層厚さ0.42mm
・電気絶縁体(外層):VA含有率が50%のEVA 100重量部
水酸化マグネシウム 180重量部
酸化防止剤 2重量部
層厚さ0.13mm
【0020】
上記実施例1の電線は、所定の難燃性規格(UL VW−1)をクリアすると共に、耐電圧が13kV(1分)をクリアし、伸びが170%、抗張力が11.5MPaで、所定値を満足する結果が得られた。
【0021】
(実施例2:内層と外層の厚さが同じ)
・電気導体:錫メッキ軟銅線(AWG24 導体構成7/0.203 外径0.61mm)
・電気絶縁体(内層):VA含有率が70%のEVA 100重量部
無水マレイン酸変性EEA(変成率25%) 20重量部
水酸化マグネシウム 180重量部
酸化防止剤 2重量部
層厚さ0.27mm
・電気絶縁体(外層):VA含有率が50%のEVA 100重量部
水酸化マグネシウム 180重量部
酸化防止剤 2重量部
層厚さ0.27mm
【0022】
上記実施例2の電線は、実施例1における内層と外層の厚さを同じとした例で、所定の難燃性規格(UL VW−1)をクリアすると共に、耐電圧が13kV(1分)をクリアし、伸びが150%、抗張力が10.5MPaで、所定値を満足する結果が得られたが、実施例1に比べて伸び及び抗張力が多少劣る。
【0023】
(比較例1:内層に無水マレイン酸変性EEAを添加せず)
・電気導体:錫メッキ軟銅線(AWG24 導体構成7/0.203 外径0.61mm)
・電気絶縁体(内層):VA含有率が70%のEVA 100重量部
水酸化マグネシウム 180重量部
酸化防止剤 2重量部
層厚さ0.42mm
・電気絶縁体(外層):VA含有率が50%のEVA 100重量部
水酸化マグネシウム 180重量部
酸化防止剤 2重量部
層厚さ0.13mm
【0024】
(比較例2:内層のEEAは無水マレイン酸変性されていない)
・電気導体:錫メッキ軟銅線(AWG24 導体構成7/0.203 外径0.61mm)
・電気絶縁体(内層):VA含有率が70%のEVA 100重量部
EEA 20重量部
水酸化マグネシウム 180重量部
酸化防止剤 2重量部
層厚さ0.42mm
・電気絶縁体(外層):VA含有率が50%のEVA 100重量部
水酸化マグネシウム 180重量部
酸化防止剤 2重量部
層厚さ0.13mm
【0025】
比較例1は、実施例1における内層の無水マレイン酸変性EEA(20重量部)を添加しない例で、柔軟性、抗張力については規定値をクリアしたが、耐電圧を満足することができなかった。また、比較例2は、実施例1における内層の無水マレイン酸変性EEAを、無水マレイン酸変性されない単なるEEAを添加した例で、比較例1と同様に、柔軟性、抗張力については規定値をクリアしたが、耐電圧を満足することができなかった。
【0026】
以上の試験結果から、内層のベース樹脂であるFVAのVA含有率を上げることで、ハロゲンフリー難燃性電線の柔軟性を確保し、無水マレイン酸変性エチレンエチルアクリレート共重合体を添加することで耐電圧を高めることができる。そして、外層のベース樹脂であるEVAのVA含有率を下げることで、ハロゲンフリー難燃性電線の表面を硬質にして電線が互いに接着するのを抑止すると共に、電気絶縁体の伸びと抗張力を高め、柔軟性と耐電圧の両方を備えたハロゲンフリー難燃性電線とすることができる。
また、電気絶縁体の外層の厚さを内層の厚さより薄くすることで、上述の作用効果をより高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明によるハロゲンフリー難燃性電線の概略を説明する図である。
【符号の説明】
【0028】
1…ハロゲンフリー難燃性電線、2…電気導体、3…電気絶縁体(内層)、3…電気絶縁体(外層)、5…電気絶縁体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気導体の外周部を、内層と外層の2層からなる電気絶縁体で絶縁したハロゲンフリー難燃性電線であって、
前記内層は、酢酸ビニル含有率が60〜80%のエチレン酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、無水マレイン酸変性エチレンエチルアクリレート共重合体(無水マレイン酸変性率25%)5〜40重量部と金属水酸化物が添加され、
前記外層は、酢酸ビニル含有量が30〜60%未満のエチレン酢酸ビニル共重合体に金属水酸化物が添加されていることを特徴とするハロゲンフリー難燃性電線。
【請求項2】
前記外層の厚さが、前記内層の厚さより薄く形成されていることを特徴とする請求項1に記載のハロゲンフリー難燃性電線。

【図1】
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