説明

ハロゲン含有シリコン、その製造及び使用方法

本発明は、ハロゲン化ポリシランの熱分解によって得られたハロゲン化合物を含むシリコン及びその製造方法に関する。シリコンは1atm%〜50atm%の含有量のハロゲン化合物を有する。更に、本発明は金属シリコンの精製のため、ハロゲン化合物を含有したシリコンの使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化ポリシラン、特に、塩素化ポリシランの熱分解によって得られるシリコンに関する。
【背景技術】
【0002】
WO2006/125425A1は、ハロシランからシリコンを製造する方法を開示し、ここでは、第1工程にて、ハロシランがプラズマ放射の発生を伴い、ハロゲン化ポリシランに変換され、この後、第2工程にて、ハロゲン化ポリシランは加熱を受けて分解され、シリコンを形成する。ハロゲン化シランの分解のため、好ましくは、ハロゲン化シランは400℃〜1500℃の温度に加熱される。実施例では、800℃、700℃、900℃、そして、再度800℃の温度が使用されている。圧力に関する限り、減圧が好ましく、実施例では真空が用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の方法が可能な限り純粋なシリコンを製造すべく努力していることは言うまでもない。特に、得られたシリコンは低い含有量のハロゲン化合物を有する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ハロゲン化ポリシランの熱分解によって得られるシリコン変形体、特に、シリコンを精製する目的で使用可能なシリコン変形体を提供することにある。
上記目的は、1at%〜50at%の含有量のハロゲン化合物を有したハロゲン化ポリシランの熱分離によって得られたハロゲン含有シリコンによって達成される。
本発明によれば、特に最終製品におけるハロゲン化合物の含有量に関し、最終製品の純度を高くするには前述したシリコンを製造する公知の方法にて使用された高温及び低圧に起因すると認められる。今、本発明は可能な限り低い含有量のハロゲン化合物を有したシリコンの製造に努力するのではなく、むしろ、1at%〜50at%の比較的高い含有量のハロゲン化合物を有するシリコンをターゲットにする。このように比較的高い含有量のハロゲン化合物を有するシリコンは熱分解中、比較的低温且つ比較的高圧によって与えられる。
【0005】
ハロゲン化ポリシランの熱分解によって得られたシリコンは粉粒の形態で直接的に得られるのが好ましい。更に、シリコンは、0.2〜1.5g/cmの嵩密度、更には、50〜20000μmの粒子サイズを有しているのが好ましい。
ハロゲン化合物の含有量は粒子サイズに依存するものと認められている。粒子サイズが成長するに連れ、ハロゲン化合物の含有量は増加する。
【0006】
ハロゲン化合物の含有量は、(ムーアによれば)硝酸銀を使用した滴定法によって量的に決定可能である。塩化物含有シリコンに関し、IRスペクトル分析測定(ATR技術、ダイヤモンドシングル反射)は1029cm−1にて信号を示す。信号の強度はハロゲン化合物の含有量に依存し、含有量の増加に連れて増加する。
それ故、上述の従来技術において、方法の条件(熱分解の条件)は、可能な限り純粋なシリコンが得られるべく選択されるのに対し、本発明のシリコンはその目標として比較的高い含有量のハロゲン化合物を有する。
【0007】
シリコンにおけるハロゲン化合物の含有量に関する限り、シリコンは例えば、ハロゲン含有シリコン粒子の隙間にハロシラン(Si2n+2(X=ハロゲン))を含む。このハロシランはシリコン粒子との物理的な混合によって存在する。しかしながら、また、シリコンはSi原子に化学的にしっかりと結合されたハロゲンを含むことができ、ここで本発明のシリコンは通常、両方の変形を含む。
【0008】
本発明のシリコンの色はハロゲン化合物の含有量(塩化物の含有量)に依存する。例として、30at%の含有量の塩化物を有するシリコンは赤みがかった茶色であり、これに対し、5at%の含有量の塩化物を有するシリコンは黒みがかった灰色である。
更にまた、本発明は、発明における粉粒状のシリコンを製造する方法に関し、ここでは、反応器内にハロゲン化ポリシランを連続的に加え、このハロゲン化ポリシランは熱分解される。好ましくは、この場合、ハロゲン化ポリシランは反応器内に滴状にして導入される。この連続した手順により、本発明でのハロゲン化合物の比較的高い所望の含有量が得られる。
【0009】
これにより、熱分解は350℃〜1200℃の温度範囲で生じるのが好ましく、ここで、ハロゲン化ポリシランの熱分解温度は400℃よりも低い方が好ましい。
更にまた、熱分解は大気圧に関して、10−3mbar〜300mbaの圧力で実施されるのが好ましく、ここでは、100mbarよりも高い圧力が好適する。
本発明の代替方法によれば、熱分解に使用される反応器内は不活性ガス雰囲気、特にアルゴン雰囲気で維持されている。
【0010】
所望の含有量のハロゲン化合物に設定するには、一連のパラメータの変化、例えば所望の時間プロファイル、温度プロファイル及び圧力プロファイルを設定することで可能である。既に記載したように、本発明の方法において、ハロゲン含有シリコンは粉粒の形態で直接に得られるのが好ましい。このことは勿論、特定の範囲にて所望の材料特性を得るために、機械的な細砕や篩分け等の更なる機械的手段により、最終製品が相応の変更を受ける可能性を排除するものではない。
【0011】
得られた粉粒状シリコンのハロゲン化合物の含有量を設定する代替の方法は、得られたシリコンの後処理に関係する。例として、ハロゲン化合物の含有量は焼成によって減少可能である。それ故、例として特定のシリコン型(粒子サイズ5μm〜20000μm、含有量15%の塩化物)の塩化物の含有量は4時間に亘る1150℃までの焼成により、4%に減少される。例として、焼成、真空下の焼成、細砕又は篩分けが好適な後処理として記載される。
【0012】
更にまた、本発明は、金属シリコンを精製するためにハロゲン含有シリコンを使用方法に関する。
US 4312849は、シリコンの精製のため、リン不純物を除去する方法を開示する。ここでは、溶融したシリコンが生成され、この湯はリンを除去するために塩素源で処理される。使用される好適な塩素源はガス状の塩素源、特に、Cl,COCl,CClである。湯には付加的にアルミニウムが付加される。ガス含有塩素源は湯を通じて泡立つ。
【0013】
DE 2929089A1は、シリコン結晶を精錬して成長させる方法を開示する。ここでは、ガスが溶融したシリコンとの反応を引き起こし、ガスは湿潤水素、塩素ガス、酸素及び塩化水素のグループから選択される。
EP0007063A1は多結晶シリコンを製造する方法を開示する。ここでは、炭素及びシリコンの混合物が加熱されて湯を形成し、この湯を通じて塩素及び酸素を含むガスが導入される。
【0014】
上述の説明によって示されるように、ガス状の塩素源の助けを借りてシリコンの湯から不純物を除去することは公知である。それ故、シリコンの湯に塩素ガス又は塩素を含むガス混合物が導入される。しかしながら、このような技術の実施は非常に複雑である。何故なら、塩素はシリコンの湯に直接に導入されねばならず、これは一般的に小さなチューブや特定のノズルによってもたされるからである。それ故、シリコンの湯の全体に亘る均質な塩素の分配は制限された範囲のみで可能である。更にまた、シリコンへの湯に塩素を導入する装置はシリコンの湯自体に悪影響を及ぼす。即ち、例えばガスを導入する装置由来の不純物が生じる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のハロゲン含有シリコンが金属シリコンの精製にとって好適すること、正確に言えば、特に簡単且つ効果的であることが分かる。これにより、第1の方法によれば、以下の工程、
ハロゲン含有シリコンと精製されるべき金属シリコンとを混合する工程と、
混合物を溶融し、この湯から不純物を金属ハロゲン化物の形態で昇華して除去する工程と
が実施される。
【0016】
この結果、従来技術の場合のように金属シリコンを精製するためにガス状の塩素源を使用するのではなく、固形のハロゲン含有シリコンが精製されるべき金属シリコンと混合され、そして、この混合物が溶融される。この結果、例えば重金属等の不純物が塩化物の形態、例えばFeClの形態で昇華され、従って、湯から除去される。
本発明の第2方法によれば、以下の工程、
精製されるべき金属シリコンを溶融する工程と、
湯にハロゲン含有シリコンを導入し、これにより、湯から不純物を金属ハロゲン化物の形態で昇華して除去する工程と
が実施される。
【0017】
それ故、第2方法において、ハロゲン含有シリコンと精製されるべき金属シリコンとの予混合は実施されず、ハロゲン含有シリコンは、精製されるべき金属シリコンの湯に直接に導入される。また、これによって、精製されるべきシリコンの不純物は金属ハロゲン化物の形態で湯から昇華され、そして、除去される。
この場合、使用されるハロゲン含有シリコンは、塩化物含有シリコンであるのが好ましい。
【0018】
好ましくは、使用されるハロゲン含有シリコンは、Si片と混合されたハロシラン片を含むハロゲン含有シリコンである。好ましくは、このようなハロシラン(Si2n+2,ここで、Xはハロゲンを示し、nは1〜10、好ましくは1〜3を示す)は、塩化物含有シリコン粒子の空所に(物理的に)存在するが、また、化学結合によりシリコン原子(Si−X)にしっかりと結合可能でもある。
【0019】
対応したハロゲン化合物の含有量は、(ムーアによれば)硝酸銀を使用した滴定法によって量的に決定可能である。塩化物含有シリコンに関して、IRスペクトル分析測定(ATR技術、ダイヤモンドシングル反射)は、1029cm−1にて信号を示す。信号の強度はハロゲン化合物の含有量に依存し、この含有量が増加するに連れて増加する。
ハロゲン含有シリコンと精製されるべき金属シリコンとの良好な混合を達成するために、好ましくは、粉粒状、特に細かな粉粒状のハロゲン含有シリコンが使用される。この場合、粒子サイズは便宜上、50μm〜20000μmである。好ましくは、ハロゲン含有シリコンは0.2〜1.5g/cmの嵩密度を有する。
【0020】
ハロゲン化合物の含有量は粒子サイズに依存する。粒子サイズが成長するに連れ、ハロゲン化合物の含有量は増加する。
本発明の更なる代替方法は、精製のために使用されるハロゲン含有シリコンのハロゲン化合物の含有量が後処理で設定されるという事実によって特徴付けられる。後処理は真空の下で実施されるのが好ましい。例として、特定のシリコン型(粒子サイズ5μm〜20000μm(篩分け無し)、塩化物含有量15%)の塩化物含有シリコンにおける塩化物の含有量は4時間に亘る1150℃までの焼成により4%に減少される。好適な後処理は例えば、焼成、真空下の焼成、細砕又は篩分けを含む。
【0021】
本発明によれば、金属シリコンの精製に関して、湯にガスを導入する複雑な装置無しに、良好な結果を達成することが分かる。この場合、例えば重金属等が湯から塩化物の形態で、完全且つ十分に除去可能である。
本発明の使用方法の実施例において、湯にハロゲン含有シリコンが補充される。この場合、「湯」は、ハロゲン含有シリコン及び精製されるべきシリコンを含む混合物の湯、又は、精製されるべきシリコン単独の湯を意味する。両者の場合、実施される「補充」により、対応した精製プロセスはが設定、例えば再調整又は改めて開始される。
【0022】
本発明の他の使用方法は、湯が均質化されているという事実で特徴付けられる。これは例えば、湯の撹拌、特にるつぼの回転、攪拌棒の使用等によってもたらされる。しかしながら、また、湯は十分な時間だけそのままにされることでも簡単に均質化でき、この場合、対流によって好適な均質が生じる。
本発明の精製は、特にSi結晶化法に例えば、インゴット鋳込み法、チョクラルスキー法、EFG法、ストリングリボン法、RSG法にて使用可能である。
【0023】
これにより、本発明は、溶融シリコンを精製するために使用され、溶融シリコンから水晶が製造される。インゴット鋳込み法において、多結晶のシリコンインゴットは、数センチメータまでの幅を有する水晶によって製造され、これら水晶は制御された凝固により完全なインゴットへの成長が可能である。EFG法(エッジディフファインドフィルム成長)においては、8角形の「チューブ」が溶融シリコンから引き抜かれる。この結果、多結晶のチューブはその端にて鋸で切られ、ウェハを形成するために処理される。ストリングリボン法においては、2つのワイヤ間のリボンが溶融シリコンから引き抜かれる。RGS法(基板上のリボン成長)においては、シリコンのリボンが液状シリコンを備えたるつぼの下側を移動される担持材料によって生じる。チョクラルスキー法はシリコンの単一結晶を製造する方法であり、ここでは、水晶が溶融シリコンから引き出される。引き出し及び回転の運動の下、円筒状のシリコンの単一結晶は種水晶に堆積する。
【実施例】
【0024】
プラズマ-化学的に製造されたPSC形態のハロゲン化ポリシランは反応器内に滴状にして連続的に導入され、反応器の反応域は300mbarの圧力に維持されている。反応域の温度は450℃に維持されている。得られた固形且つ粉粒状の最終製品は反応器から連続して抜き取られる。最終製品は33at%の塩化物含有量を有するシリコンである。得られた塩化物含有シリコンは1.15g/cmの嵩密度を有し、赤色である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1at%〜50at%の含有量のハロゲン化合物を有するハロゲン化ポリシランを熱分解して得られたことを特徴とするハロゲン含有シリコン。
【請求項2】
粉粒状の形態をなしていることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン含有シリコン。
【請求項3】
0.2〜1.5g/cmの嵩密度を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のハロゲン含有シリコン。
【請求項4】
50μm〜20000μmの粒子サイズを有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のハロゲン含有シリコン。
【請求項5】
ハロゲン含有シリコン粒子の隙間にハロシラン(Si2n+2(X=ハロゲン))を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のハロゲン含有シリコン。
【請求項6】
Si原子に化学的にしっかりと結合されたハロゲンを含むことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のハロゲン含有シリコン。
【請求項7】
塩化物を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のハロゲン含有シリコン。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載のハロゲン含有シリコンを製造する方法において、前記ハロゲン化ポリシランが反応器内に連続的に加えられ、熱分解されることを特徴とするハロゲン含有シリコンの製造方法。
【請求項9】
前記ハロゲン化ポリシランが反応器内に滴状にして導入されることを特徴とする請求項8に記載のハロゲン含有シリコンの製造方法。
【請求項10】
350℃〜1200℃の温度範囲で熱分解を実施することを特徴とする請求項8又は9に記載のハロゲン含有シリコンの製造方法。
【請求項11】
ハロゲン化ポリシランの熱分解温度は400℃よりも低いことを特徴とする請求項10に記載のハロゲン含有シリコンの製造方法。
【請求項12】
10−3mbar〜300mbarの圧力で前記熱分解を実施することを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載のハロゲン含有シリコンの製造方法。
【請求項13】
前記熱分解に使用される反応器内が不活性ガス雰囲気、特にアルゴン雰囲気で維持されていることを特徴とする請求項8〜12の何れかに記載のハロゲン含有シリコンの製造方法。
【請求項14】
得られたハロゲン含有シリコンにおけるハロゲン化合物の含有量がハロゲン含有シリコンの後処理によって設定されることを特徴とする請求項8〜13の何れかに記載のハロゲン含有シリコンの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14の何れかに記載のハロゲン含有シリコンを使用する方法において、金属シリコンを精製するために、
ハロゲン含有シリコンと精製すべき金属シリコンとを混合する工程と、
混合物を溶解し、これにより、湯から金属ハロゲン化物の形態で、不純物を昇華して除去する工程と
を備えることを特徴するハロゲン含有シリコンの使用方法。
【請求項16】
請求項1〜14の何れかに記載のハロゲン含有シリコンを使用する方法において、金属シリコンを精製するために、
精製すべき金属シリコンを溶融する工程と、
湯中にハロゲン含有シリコンを導入し、前記湯から金属ハロゲン化物の形態で、不純物を昇華して除去する工程と
を備えることを特徴とするハロゲン含有シリコンの使用方法。
【請求項17】
使用されたハロゲン含有シリコンは、Si片が混合されたハロシラン片を含むハロゲン含有シリコンであることを特徴とする請求項15又は16に記載のハロゲン含有シリコンの使用方法。
【請求項18】
使用されたハロゲン含有シリコンは、Si原子に化学的に結合されたハロゲンを含むハロゲン含有シリコンであることを特徴とする請求項15〜17の何れかに記載のハロゲン含有シリコンの使用方法。
【請求項19】
粉粒状、特に細かな粉粒状のハロゲン含有シリコンが使用されることを特徴とする請求項15〜18の何れかに記載のハロゲン含有シリコンの使用方法。
【請求項20】
前記湯にハロゲン含有シリコンが補充されることを特徴とする請求項15〜19の何れかに記載のハロゲン含有シリコンの使用方法。
【請求項21】
前記湯は均質化されていることを特徴とする請求項15〜20の何れかに記載のハロゲン含有シリコンの使用方法。
【請求項22】
Si結晶化法、特に、インゴット鋳込み法、チョクラルスキー法、EFG法、ストリングリボン法、RSG法に使用されることを特徴とする請求項15〜21の何れかに記載のハロゲン含有シリコンの使用方法。

【公表番号】特表2011−520763(P2011−520763A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510825(P2011−510825)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/DE2009/000728
【国際公開番号】WO2009/143825
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(510313360)シュパウント プライベート ソシエテ ア レスポンサビリテ リミテ (14)
【氏名又は名称原語表記】Spawnt Private S.a.r.l
【住所又は居所原語表記】16, Rue Jean l’Aveugle, 1148 Luxembourg, Luxembourg
【Fターム(参考)】