説明

ハロゲン系ガスの除去剤およびハロゲン系ガスの除去方法

【課題】被処理ガスの吸着熱による除去剤の発熱の抑制、および処理後の固形廃棄物の発生の低減が可能で、低濃度の本ハロゲン系ガスを含む被処理ガスにも用いることができ、本ハロゲン系ガスの除去効率により優れた除去方法、および除去剤を提供する。また、該除去方法を用いた半導体の製造方法を提供する。
【解決手段】ハロゲン系ガスを含有する被処理ガスと、造粒物からなる除去剤とを接触させて前記ハロゲン系ガスを除去する方法であって、前記造粒物が、アルカリ金属の炭酸水素塩および/または炭酸塩と、炭素質材料と、アルカリ土類金属の水酸化物と、アルカリ土類金属のハロゲン化物の水和物とを含有するハロゲン系ガスの除去方法。また、前記造粒物からなる除去剤。また、前記除去方法を利用した半導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン系ガスの除去剤およびハロゲン系ガスの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ドライエッチング排ガス、SiH(シラン)ガスを主成分とするCVD(Chemical Vapor Deposition)チャンバーの排ガス、AsH(アルシン)やPH(ホスフィン)を主成分とするイオン注入やドーピングの排ガス等には、N(窒素)ガス等のキャリアーガスと共に、F、Cl、Br、I、ハロゲン化水素、次亜ハロゲン酸、および加水分解してハロゲン化水素または次亜ハロゲン酸を生成する化合物からなるハロゲン系ガス(以下、「本ハロゲン系ガス」ということがある。)や、製造装置内で分解および反応して本ハロゲン系ガスを生成するガス、またそれらの粒子等が含まれる。
【0003】
前記本ハロゲン系ガスの処理には、設備の小型化や、操作および設備保守の簡便化の点から、活性炭からなる吸着剤の充填物を利用する方法が用いられていた。しかし、このような処理方法では、被処理ガスの吸着熱による被処理ガスの発火のおそれがあり、また使用済みの吸着剤から脱着する本ハロゲン系ガスの臭気による充填剤交換時の作業環境の悪化、および処理後の固形廃棄物の増大等の問題があった。また、充填物の入れ替え作業頻度の低減のため、充填物の吸着容量を更に増加させることが求められていた。これらの問題は、Clガスや、ClとBCl(三塩化ホウ素)との混合ガスといった使用頻度の高いガスを処理する場合に特に重要である。
【0004】
前記問題を解決する本ハロゲン系ガスの除去方法としては、炭酸水素塩の粉末を造粒して得られる造粒物を用いる方法(例えば、特許文献1)、固体塩基と活性炭の混合物からなる除去剤を用いる方法(例えば、特許文献2)、消石灰およびチオ硫酸塩を含有する除去剤を用いる方法(例えば、特許文献3)が知られている。
しかし、特許文献1の方法は、本ハロゲン系ガスがF、Cl、Br、Iである場合に、次亜ハロゲン酸塩が生成することにより中和反応が阻害され、処理容量が低下するおそれがあった。また、特許文献2の方法は、前述した被処理ガスの発火、使用済吸着剤からの臭気による作業環境の悪化および固形廃棄物の増大等の問題を解決するとともに、充填物の吸着容量を増加させることで該充填物の入れ替え作業頻度を低減することができる。しかし、高濃度の本ハロゲン系ガスを除去する場合には充分な除去性能を有するものの、5質量%以下の低濃度の本ハロゲン系ガスに対しては充分な除去性能が得られなかった。また、特許文献3の方法は、消石灰を主剤とした除去剤とした際に、中和反応の発熱量が大きい。更に除去剤粒子中のハロゲン系ガスの拡散が悪くなり、除去剤と本ハロゲン系ガスとの反応効率が低下し、多くの消石灰が未反応で残ってしまう。また消石灰は水に対する溶解度が極めて小さいため、処理後に水に溶解させて固形廃棄物を低減させることが困難であった。
【0005】
そこで、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属塩の炭酸水素塩、活性炭等の炭素質材料、消石灰等のアルカリ土類金属の水酸化物を含有する造粒物からなる除去剤を用いた本ハロゲン系ガスの除去方法が示されている(特許文献4)。
【特許文献1】米国特許第6685901号明細書
【特許文献2】国際公開第03/033115号パンフレット
【特許文献3】特開2001−17831号公報
【特許文献4】国際公開第2007/135823号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4の処理方法は、被処理ガス中の本ハロゲン系ガスが低濃度であっても除去効率が高く、被処理ガスの吸着熱による除去剤の発熱を抑えることができ、また処理後の固形廃棄物の発生を低減することができる。そのため、多種類のガスが用いられる半導体の製造設備に利用することで、本ハロゲン系ガスを効率的に除去して該製造装置の性能を向上させ、高い稼働率を維持させることができる。
しかし、さらに優れた性能で、より高い稼働率を維持して安定して半導体を製造するため、除去効率により優れた本ハロゲン系ガスの除去方法が望まれている。
【0007】
そこで本発明では、被処理ガスとの反応熱による除去剤の発熱の抑制、および処理後の固形廃棄物の発生の低減が可能で、低濃度の本ハロゲン系ガスを含む被処理ガスにも用いることができ、本ハロゲン系ガスの除去効率により優れた除去剤、および該除去剤を用いた本ハロゲン系ガスの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハロゲン系ガスの除去剤は、F、Cl、Br、I、ハロゲン化水素、次亜ハロゲン酸、および、加水分解してハロゲン化水素または次亜ハロゲン酸を生成する化合物からなるハロゲン系ガスの群より選ばれる少なくとも1種を除去するハロゲン系ガスの除去剤であって、アルカリ金属の炭酸水素塩および/または炭酸塩と、炭素質材料と、アルカリ土類金属の水酸化物と、アルカリ土類金属のハロゲン化物の水和物とを含有する造粒物からなる。
また、本発明のハロゲン系ガスの除去剤は、前記造粒物が、該造粒物の全質量に対して、45〜99.8質量%の前記アルカリ金属の炭酸水素塩および/または炭酸塩と、0.1〜30質量%の前記炭素質材料と、0質量%超15質量%以下の前記アルカリ土類金属の水酸化物と、0.1〜10質量%の前記アルカリ土類金属のハロゲン化物の水和物とを含有することが好ましい。
また、前記造粒物が、該造粒物の全質量に対して、1〜20質量%の多孔質体をさらに含有することが好ましい。
また、前記造粒物が、前記アルカリ土類金属のハロゲン化物の水和物として塩化カルシウムの水和物を含有することが好ましい。
また、前記造粒物が、前記アルカリ金属塩の炭酸水素塩として炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素カリウムを含有することが好ましい。
前記造粒物が、前記アルカリ土類金属の水酸化物として、水酸化カルシウムおよび/または水酸化マグネシウムを含有することが好ましい。
前記造粒物における粒子径が4.0mm以下の粒子の質量割合が90質量%以上であり、かつ粒子径が1.0mm以下の粒子の質量割合が10質量%以下であることが好ましい。
粒子径が1.4mm以上2.0mm未満の造粒物の平均硬度が5N以上であることが好ましい。
また、粒子径が2.0mm以上2.8mm未満の造粒物の平均硬度が15N以上であることが好ましい。
粒子径が2.8mm以上の造粒物の平均硬度が25N以上であることが好ましい。
【0009】
本発明のハロゲン系ガスの除去方法は、前記ハロゲン系ガスの群より選ばれる少なくとも1種を含有する被処理ガスと、請求項1〜10のいずれかに記載の除去剤とを接触させて前記ハロゲン系ガスを除去する方法である。
また、本発明のハロゲン系ガスの除去方法は、前記造粒物を充填密度0.7g/cm以上で充填した充填層を形成し、該充填層に前記被処理ガスを供給することが好ましい。
また、前記被処理ガスが、半導体の製造において排出されるドライエッチング排ガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の除去剤は、被処理ガスとの反応熱による除去剤の発熱の抑制、および処理後の固形廃棄物の発生の低減が可能であり、低濃度の本ハロゲン系ガスを含む被処理ガスに対しても優れた除去効率を示す。
また、本発明の除去方法は、被処理ガスとの反応熱による除去剤の発熱の抑制、および処理後の固形廃棄物の発生の低減が可能であり、低濃度の本ハロゲン系ガスを含む被処理ガスに対しても、優れた除去効率で本ハロゲン系ガスを除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[被処理ガス]
本発明における被処理ガスは、F、Cl、Br、I、ハロゲン化水素、次亜ハロゲン酸、および、加水分解してハロゲン化水素または次亜ハロゲン酸を生成する化合物からなるハロゲン系ガス(本ハロゲン系ガス)の群より選ばれる少なくとも1種を含有するガスである。
【0012】
被処理ガスとしては、例えば、半導体の製造工程等で発生するドライエッチング排ガス、CVDチャンバー排ガス、イオン注入排ガス、ドーピング排ガス、クリーニング排ガスが挙げられる。
加水分解してハロゲン化水素または次亜ハロゲン酸を生成する化合物としては、例えば、SiF(四フッ化ケイ素)、SiHCl(ジクロロシラン)SiCl(四塩化ケイ素)、AsCl(三塩化ヒ素)、PCl(三塩化リン)、BF(三フッ素化ホウ素)、BCl(三塩化ホウ素)、BBr(三臭素化ホウ素)、WF(六フッ化タングステン)、ClF(三フッ化塩素)、COF(フッ化カルボニル)が挙げられる。また、これらの化合物に比べて若干除去効率が低くなるものの、加水分解が進行するCOCl(ホスゲン)も除去対象とすることができる。
【0013】
[除去剤]
本発明の除去剤は、アルカリ金属の炭酸水素塩および/または炭酸塩(以下、これらをまとめて「本アルカリ金属塩」という。)と、炭素質材料と、アルカリ土類金属の水酸化物(以下、「本水酸化物」という。)と、アルカリ土類金属のハロゲン化物の水和物(以下、「本水和物」という。)とを含有する造粒物(以下、「本造粒物」という。)からなる。
【0014】
アルカリ金属の炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが挙げられる。
アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム(NaCO・NaHCO・2HO)、炭酸カリウムが挙げられる。炭酸ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウムは、天然、合成に関わらず使用することができる。また、炭酸ナトリウムは、軽質(軽灰)、重質(重灰)に関わらず使用することができる。
【0015】
本アルカリ金属塩は、本ハロゲン系ガスの除去反応におけるハロゲン化水素との反応で炭酸ガスを生成するため、該炭酸ガスにより本造粒物の表面および粒子内部に空孔を形成させる。これにより、本造粒物における反応に供することが可能な場の面積が増加し、本ハロゲン系ガスの除去効率が向上する。
【0016】
また、アルカリ金属の炭酸水素塩とハロゲン化水素との中和反応は一般に吸熱反応であるため、消石灰のように発熱することがなく、活性炭による吸着のような被処理ガスの発火のおそれがないという利点がある。また、炭酸水素ナトリウムが消火剤としても用いられているように、前記炭酸水素塩は消火性を有している。
また、本アルカリ金属塩は、本ハロゲン系ガスと反応して揮発性を有さない塩を生成する。そのため、本造粒物を充填して充填層を形成させて被処理ガスを処理する場合、処理後の充填物を交換する際に、活性炭のみを用いた方法のように該活性炭から脱着した本ハロゲン系ガスにより作業環境が悪化することを防止できる。そのため、より作業環境を改善することができ、また作業場に設置する除害設備も小型化することができる。
【0017】
本アルカリ金属塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが好ましい。本アルカリ金属塩として炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウムを用いると、それら自身が水溶性であることから、本ハロゲン系ガスを除害した後の本造粒物の多孔質体以外のほとんどの部分が水に解けるため、処理後の固形廃棄物を大幅に低減することができる。
さらに、本アルカリ金属塩は、吸湿性が無く、本造粒物の製造および保存が容易で、大量かつ安価に入手可能である等、工業的な製造原料として適している点から、炭酸水素ナトリウムが特に好ましい。
【0018】
本造粒物における本アルカリ金属塩の含有率は、本造粒物の全質量(100質量%)に対して、45〜99.8質量%であることが好ましく、50〜99.8質量%であることがより好ましく、60〜90質量%であることが特に好ましい。本アルカリ金属塩の含有率が45質量%以上であれば、本アルカリ金属塩による前記効果が得られやすく、本ハロゲン系ガスの除去効率がより向上する。また、本アルカリ金属塩の含有率が99.8質量%以下であれば、本ハロゲン系ガスの除去反応に必要な他の有効成分の割合を充分に確保する事が容易になる。
【0019】
本アルカリ金属塩の一次粒子の平均粒子径は、1〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましい。ただし、本アルカリ金属塩の一次粒子とは、本アルカリ金属塩の単結晶の状態における粒子をいう。本アルカリ金属塩の前記平均粒子径が1μm以上であれば、本アルカリ金属塩の流動性が良好となり、ハンドリング等の取り扱い性がより向上する。また、本アルカリ金属塩の前記平均粒子径が500μm以下であれば、本アルカリ金属塩を他の成分と均一に混合させやすくなるため、本造粒物を低コストで工業的に製造することが容易になる。
【0020】
本発明における一次粒子の平均粒子径とは、平均粒子径が70μm以上のものについては、篩分け法において各篩と最下部の受け皿の上に残った一次粒子の質量を測定し、その全質量を100%として累積曲線を作成し、その累積質量が50%となる点の粒子径をいう。また、平均粒子径が70μm未満のものについては、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により一次粒子の質量を測定し、その全質量を100%として累積曲線を作成し、その累積質量が50%となる点の粒子径をいう(以下、同じ。)。
【0021】
炭素質材料としては、例えば、活性炭、木炭、骨炭、グラファイト、カーボンブラック、コークス、石炭、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイル、ガラス状カーボンが挙げられる。活性炭は、原料、賦活方法、添着や担持の有無等の違いによっては限定されない。
【0022】
本造粒物における炭素質材料の含有率は、本造粒物の全質量(100質量%)に対して、0.1〜30質量%であることが好ましく、0.1〜20質量%であることが特に好ましい。炭素質材料の含有率が0.1質量%以上であれば、本ハロゲン系ガスの除去反応が速やかに進行しやすくなり、除去効率がより向上する。また、炭素質材料の含有率が30質量%以下であれば、充分な強度を有し、粒子が崩壊し難い本造粒物を得ることが容易になる。
【0023】
炭素質材料の一次粒子の平均粒子径は、1〜500μmであることが好ましく、5〜300μmであることがより好ましい。ただし、炭素質材料の一次粒子とは、炭素質材料の粉末の状態における粒子をいう。炭素質材料の前記平均粒子径が1μm以上であれば、炭素質材料の流動性が良好となり、ハンドリング等の取り扱い性がより向上する。また、炭素質材料の前記平均粒子径が500μm以下であれば、炭素質材料を他の成分と均一に混合させやすくなるため、本造粒物を低コストで工業的に製造することが容易になる。一次粒子の平均粒子径が前記範囲を超える炭素質材料は、粉砕して前記範囲を満たす炭素質材料として用いることが好ましい。
【0024】
本水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム(消石灰)、水酸化マグネシウムが挙げられる。なかでも、安価で大量に得られる点から、水酸化カルシウムが好ましい。
本水酸化物を用いることによって本ハロゲン系ガスの除去効率が向上する機構については、詳細には解明されていないが、本アルカリ金属塩と本水酸化物との総量の利用効率が向上するためであると考えられる。
【0025】
本造粒物における本水酸化物の含有率は、本造粒物の全質量(100質量%)に対して、0質量%超15質量%以下であることが好ましく、0.01〜10質量%であることがより好ましく、0.1〜3質量%であることが特に好ましい。本水酸化物の含有率が0質量%超、すなわち極少量でも本水酸化物が含有されていれば、本水酸化物による効果が得られ、本ハロゲン系ガスの除去効率が向上する。また、本水酸化物は含有量が低いほど除去効率を向上させる効果が得られやすく、含有量が15質量%以下であれば、本ハロゲン系ガスの除去効率がより高くなる。
【0026】
また、本水酸化物の一つである消石灰は、酸との中和反応で発熱するが、前記含有率のような極少量で用いることで発熱量を小さくすることができるため、実用上問題とならない。
【0027】
本水酸化物の一次粒子の平均粒子径は、1〜500μmであることが好ましく、5〜300μmであることがより好ましい。ただし、本水酸化物の一次粒子とは、本水酸化物の結晶または粉末の状態における粒子をいう。本水酸化物の前記平均粒子径が1μm以上であれば、本水酸化物の流動性が良好となり、ハンドリング等の取り扱い性がより向上する。また、本水酸化物の前記平均粒子径が500μm以下であれば、本水酸化物を他の成分と均一に混合させやすくなるため、本造粒物を低コストで工業的に製造することが容易になる。
【0028】
本水和物としては、例えば、塩化カルシウムや塩化マグネシウムの水和物が挙げられる。塩化カルシウムの水和物としては、一水和物、二水和物、四水和物、六水和物が挙げられ、一水和物、四水和物は一般的ではなく、また六水和物は潮解性がある事から、二水和物が好ましい。
本造粒物が本水和物を含有されていることにより、本ハロゲン系ガスの除去反応の開始に必要な水が充分に供給され、除去反応が速やかに開始され、除去効率が向上すると考えられる。特に、本水和物は、ハロゲン化物の水和物であるため、安価に入手可能な点で優れている。
【0029】
本造粒物における本水和物の含有率は、本造粒物の全質量(100質量%)に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましく、0.1〜3質量%であることが特に好ましい。本水和物の含有率が0.1質量%以上であれば、本ハロゲン系ガスの除去反応を速やかに進行させることが容易になる。また、本水和物の含有率が10質量%以下であれば、本ハロゲン系ガスの除去反応に必要な他の有効成分の割合を充分に確保する事が容易になる。
【0030】
また、本造粒物には、無機酸化物からなる多孔質体がさらに含有されていることが好ましい。
多孔質体としては、例えば、天然または合成のゼオライト、シリカゲル、アルミナ、多孔質ガラス、ケイソウ土、珪酸カルシウム、多孔質セラミックスが挙げられる。多孔質体は、工業的に安価に入手しやすい点から、天然または合成のゼオライトが好ましい。
【0031】
本造粒物に多孔質体を含有させることにより、本ハロゲン系ガスの除去反応において発生したハロゲン化水素を本造粒物の内部まで誘導し、本造粒物全体と反応させることが容易になる。これにより、本造粒物の反応に用いる比表面積を増加させることができるため、本ハロゲン系ガスの除去反応の反応速度および反応効率が向上する。
また、本造粒物は除去反応によって生じた過剰な水分を吸収すると、本造粒物の粒子同士が溶解によって相互に付着する。そのため、本造粒物をカラム等に充填して用いる場合、該カラムから処理後の本造粒物を取り出し難くなってしまう。しかし、水分の吸着性に優れた多孔質体を用いることにより、本造粒物の粒子同士が相互に付着することを抑制できる。また、本造粒物は、処理後に水に溶解して固形廃棄物を低減したときに濾過することにより多孔質体を回収することができる。そのため、必要に応じて多孔質体を再利用できることから、資源のリサイクルに役立つ。
【0032】
多孔質体の平均細孔半径は、0.1〜50nmであることが好ましく、0.2〜50nmであることがより好ましい。ただし、前記多孔質体の平均細孔半径は、ガス吸着法による細孔分布測定装置を使用して、窒素吸着法により細孔容積を測定し、全細孔容積を100%として累積曲線を求めたときに、その累積細孔容積が50%となる点の細孔半径(nm)のことをいう。
多孔質体の平均細孔半径が0.1nm以上であれば、ガスが本造粒物中に充分に拡散しやすく、本ハロゲン系ガスの除去反応の反応速度および反応効率がより向上する。また、多孔質体の平均細孔半径が50nm以下であれば、充分な硬度を有し、粉化し難い本造粒物を得ることが容易になる。
【0033】
多孔質体の細孔容積は0.005〜0.5cm/gであることが好ましく、0.01〜0.2cm/gであることがより好ましい。多孔質体の細孔容積が0.005cm/g以上であれば、ガスが本造粒物中に充分に拡散しやすく、本ハロゲン系ガスの除去反応の反応速度および反応効率がより向上する。また、多孔質体の細孔容積が0.5cm/g以下であれば、充分な硬度を有し、粉化し難い造粒物を得ることが容易になる。
【0034】
本造粒物における多孔質体の含有率は、本造粒物の全質量(100質量%)に対して、1〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることが特に好ましい。多孔質体の含有率が1質量%以上であれば、多孔質体による効果が充分に得られやすく、本ハロゲン系ガスの除去効率がより向上する。また、多孔質体の含有率が20質量%以下であれば、本造粒物の有効成分の割合を充分に確保する事ができ、本ハロゲン系ガスの除去効率を向上させやすい。
【0035】
多孔質体の一次粒子の平均粒子径は、1〜500μmであることが好ましく、5〜300μmであることがより好ましい。ただし、多孔質体の一次粒子とは、多孔質体の粉末の状態における粒子をいう。多孔質体の前記平均粒子径が1μm以上であれば、多孔質体の流動性が良好となり、ハンドリング等の取り扱い性がより向上する。また、多孔質体の前記平均粒子径が500μm以下であれば、多孔質体を他の成分と均一に混合させやすくなるため、本造粒物を低コストで工業的に製造することが容易になる。
【0036】
また、本造粒物には、粘土が含有されていてもよい。粘土は層状構造を有しているため、配合することにより造粒物の内部に間隙を形成することができ、前記多孔質体と同様の効果が得られる。
粘土としては、例えば、活性白土、酸性白土、パーライト、クリソタイルやベントナイト等の層状ケイ酸塩、セピオライト、パリゴルスカイト、アロフェン、イモゴライト、アンチゴライトの酸処理生成物、合成層状化合物が挙げられる。粘土は、工業的に安価に入手しやすい点から、活性白土、ベントナイトが好ましい。
【0037】
本造粒物における粘土の含有率は、本造粒物の全質量(100質量%)に対して、0〜19質量%であることが好ましく、0〜15質量%であることがより好ましく、0〜10質量%であることが特に好ましい。粘土の含有率が19質量%以下であれば、充分な硬度を有する本造粒物が得られやすい。
また、多孔質体と粘土とを併用する場合には、それらを合計した含有率が、1〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることが特に好ましい。
【0038】
粘土の一次粒子の平均粒子径は、1〜500μmであることが好ましく、5〜300μmであることがより好ましい。ただし、粘土の一次粒子とは、粘土の粉末の状態における粒子をいう。粘土の前記平均粒子径が1μm以上であれば、粘土の流動性が良好となり、ハンドリング等の取り扱い性がより向上する。また、粘土の前記平均粒子径が500μm以下であれば、粘土を他の成分と均一に混合させやすくなるため、本造粒物を低コストで工業的に製造することが容易になる。
【0039】
本発明の除去剤を構成する本造粒物は、以上説明した各成分を含有する。本発明の除去剤は、本造粒物の全質量に対して、45〜99.8質量%の本アルカリ金属塩と、0.1〜30質量%の炭素質材料と、0質量%超15質量%以下の本水酸化物と、0.1〜10質量%の本水和物とを含有する本造粒物からなることが好ましい。
【0040】
また、本造粒物は、本アルカリ金属塩、炭素質材料、本水酸化物および本水和物の合計量が、本造粒物の全質量に対して80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。本造粒物の全質量に対する前記合計量が80質量%以上であれば、本ハロゲン系ガスの除去剤としてのガス処理容量が充分に得られやすい。そのため、カラム等に充填して充填層として使用する際に除去剤を取り替える頻度を少なくすることができる。本造粒物に多孔質体や粘土を含有させる場合は、前記合計量が前記範囲を満たすように含有させることが好ましい。
【0041】
本造粒物中における本アルカリ金属塩と、多孔質体または粘土との混合比率は、処理対象となる本ハロゲン系ガスの組成、濃度、圧力、温度、所要処理時間等により最適化される。例えば、本ハロゲン系ガスの濃度、圧力および温度が低い場合や、本造粒物と本ハロゲン系ガスとの接触時間が短い場合には、多孔質体の含有率を大きくすることが好ましい。
【0042】
本造粒物の平均粒子径は、0.5〜20mmであることが好ましく、0.5〜15mmであることがより好ましく、0.5〜10mmであることが特に好ましい。本造粒物の平均粒子径とは、篩分け法において各篩と最下部の受け皿の上に残った本造粒物の質量を測定し、その全質量を100%として累積曲線を作成し、その累積質量が50%となる点の粒子径をいう。
本造粒物の平均粒子径を前記範囲内とすることにより、新たな設備を導入することなく、活性炭用やゼオライト用等の既存の充填式の乾式除害設備をそのまま利用できる。また、本造粒物の平均粒子径が0.5mm以上であれば、本造粒物を充填した充填層に被処理ガスを通過させる際の圧力損失をより低減することができ、減圧ポンプ等の吸引設備を設けなくても処理を行え、所要電力を抑えやすい。また、本造粒物の平均粒子径が20mm以下であれば、被処理ガスと本造粒物の外表面との接触面積を大きくしやすく、本ハロゲン系ガスの除去効率がより向上する。
【0043】
また、本造粒物は、粒子径が4.0mm以下の粒子の質量割合が90質量%以上であり、かつ粒子径が1.0mm以下の粒子の質量割合が10質量%以下であることが好ましく、更には4.0mm以下の粒子の質量割合が95%以上であり、かつ1.0mm以下の粒子の質量割合が8%以下であることがより好ましい。本造粒物における粒子径が4.0mm以下の粒子および粒子径が1.0mm以下の粒子の質量割合が前記条件を満たすことにより、本造粒物をカラム等に充填して充填層とする際に該充填層が均一になりやすく、本ハロゲン系ガスの除去効率をより向上させることができる。充填層が均一になることで除去効率が向上するのは、充填層の構造が均一になると理論段数が向上するためである。
本造粒物における粒子径が4.0mm以下の粒子の質量割合が90質量%以上であることにより、本ハロゲン系ガスが内部まで浸透しやすくなって反応効率がより高くなる効果も得られる。また、本造粒物における粒子径が1.0mm以下の粒子の質量割合が10質量%以下であることにより、その小粒子が他の粒子間の間に入り込んで充填層の充填構造が不均一になり、被処理ガスの均一な流れを阻害することを抑制することもできる。
【0044】
また、本造粒物は、充填層として使用する場合において、充填時や反応時に本造粒物が粉化することを抑制しやすい点から、下記平均硬度を満たすものであることが好ましい。ただし、硬度とは、一個の粒子を上方より垂直に力をかけて圧縮して破壊する際の力である。この硬度は、同じ材料からなる粒子であっても粒子径に依存して変化するため、粒子径を篩い分け等により揃えた後に、特定の範囲内の粒子径に揃えた本造粒物から任意に20個を選択し、硬度を測定して平均値を求めることにより平均硬度とする。
具体例としては、目開き1.4mm、2.0mm、2.8mmの篩により順に篩い分けを行うことにより、粒子径が1.4mm以上2.0mm未満の本造粒物、粒子径が2.0mm以上2.8mm未満の本造粒物、粒子径が2.8mm以上の本造粒物を得ることができる。これら各範囲の粒子径を有する本造粒物から20個ずつを採取して硬度を測定し、その平均をそれぞれの粒子径範囲における平均硬度とする。
【0045】
粒子径が1.4mm以上2.0mm未満の本造粒物の平均硬度は、5N以上であることが好ましく、10N以上であることがより好ましい。
粒子径が2.0mm以上2.8mm未満の本造粒物の平均硬度は、15N以上であることが好ましく、20N以上であることがより好ましい。
粒子径が2.8mm以上の本造粒物の平均硬度は、25N以上であることが好ましく、30N以上であることがより好ましい。
各粒子径の本造粒物が前記条件を満たすことにより、本造粒物を充填層として使用する際、本造粒物の配管での堆積、目皿への詰まり、減圧ポンプへの吸引、被処理ガスが充填層を通過する際の圧力損失の増加等が発生することを防止することが容易になる。
【0046】
本造粒物の平均硬度は、本造粒物に結合剤を含有させることにより向上させることができる。
結合剤としては、例えば、水ガラス(濃ケイ酸ナトリウム水溶液)、ケイ酸ナトリウム、CMC(カルボキシメチルセルロース)またはPVA(ポリビニルアルコール)、シリコーンオイルが挙げられる。これらは、被処理ガスに含まれる本ハロゲン系ガスの組成によって適宜選択して用いることができる。
【0047】
結合剤の含有率は、本造粒物の全質量に対して、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。結合剤の含有率が0.01質量%以上であれば、結合剤による硬度向上の効果が得られやすい。また、結合剤の含有率が10質量%以下であれば、本造粒物における除去反応に寄与する有効成分の量を充分に確保しやすい。
【0048】
本造粒物は、乾式法または湿式法のいずれの方法でも製造することができる。
乾式の造粒方法としては、例えば、圧縮成形法が挙げられる。湿式の造粒方法としては、例えば、転動式造粒法、攪拌式造粒法、押し出し式成形法、スプレードライ法、流動層法が挙げられる。これらのなかでも、乾燥工程が不要である等、工程が簡略なため工業的な生産に有利であり、結合剤を用いなくても硬度の高い本造粒物を得ることができる点から、打錠成形法、ロールプレス法等による乾式の圧縮成形法が好ましい。また、この方法は、本アルカリ金属塩、炭素質材料、本水酸化物および本水和物の合計量を容易に増加させることができ、加えて本ハロゲン系ガスにより結合剤が劣化して本造粒物の強度が低下する懸念がない点で好ましい。この場合の本造粒物の粒度分布と平均粒子径の調節方法としては、乾式圧縮成形機で成形後、粗砕し、篩い分ける工程からなる方法を採用することができる。
【0049】
また、本造粒物を得る湿式の方法としては、アルカリ金属塩、炭素質材料、本水酸化物および本水和物と、必要に応じて多孔質体、粘土、結合剤、水とを混錬した後に、ペレタイザー等の湿式の押し出し式成形機で成形し、その後に乾燥して篩い分けし、粒度分布と平均粒子径を調整する方法が挙げられる。
また、ペレタイザーで成形した後にマルメライザー等の転動式造粒機で球状にすることにより、本造粒物の磨耗部分(例えば、飛び出した出っ張り等の、本造粒物から欠け落ちやすい部分)の発生を抑制し、かつ、充填層に充填した際の密度を上げることができる。この効果は、篩い分けを複数回実施することによっても達成される。また、複数回の篩い分けは、本造粒物の粒度分布を狭くし、充填層としたときの充填構造を均一化する効果も得られる。これにより、充填層の理論段数を上げて、本ハロゲン系ガスの除去効率をさらに向上させることができる。
【0050】
[除去反応]
以下、本造粒物からなる除去剤による本ハロゲン系ガスの除去反応について、本アルカリ金属塩として炭酸水素ナトリウム、炭素質材料として活性炭、本水酸化物として消石灰、および本水和物として塩化カルシウム・二水和物を含有する本造粒物を使用し、Clを含有するガスを被処理ガスとした場合を例に詳細に説明する。
【0051】
本造粒物中の炭酸水素ナトリウム(NaHCO)とClとの反応により、下記式[1]で表される反応によって次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)と塩化ナトリウム(NaCl)が生成する。下記式[1]の反応を進行させるためには、次亜塩素酸ナトリウムを極力少なくする必要があるため、生成した次亜塩素酸ナトリウムが逐次分解されていく必要がある。すなわち、次亜塩素酸ナトリウムの分解が、下記式[1]の反応全体の律速となると考えられる。
【0052】
一方、炭素質材料である活性炭は、下記式[2]に示すように、水の存在下で、Clと反応して塩化水素(HCl)を生成する。下記式[2]の反応に必要な水は、本水和物である塩化カルシウム・二水和物から結晶水が離れることにより供給される。また、被処理ガス中に混入している水や、本造粒物に付着したわずかな量の水等もこの反応に関与する。また、下記式[1]および下記式[3]に示すように、反応開始後は、水は反応生成物としても供給される。
また、下記式[3]に示すように、下記式[2]で発生する塩化水素等の酸は、下記式[1]の反応で生成する次亜塩素酸ナトリウムの分解を促進すると考えられる。
2NaHCO+Cl→NaClO+NaCl+HO+2CO ・・・[1]
C+Cl+HO→CO+2HCl ・・・[2]
2NaClO+2HCl→2NaCl+Cl+HO+(1/2)O ・・・[3]
【0053】
式[2]において生成した酸のうち、式[3]で消費されなかった余剰の酸は、下記式[4]で表される反応により中和される。
HCl+NaHCO→NaCl+HO+CO ・・・[4]
【0054】
本発明では、式[3]の反応によって速やかに次亜塩素酸ナトリウムが分解され、全体としては、主に下記式[5]で表される反応でClが除去されると考えられる。被処理ガスがF、BrまたはIの場合も、同様に次亜ハロゲン酸塩が生成し、その分解をハロゲン化水素が促進しているものと考えられる。
C+4NaHCO+2Cl→4NaCl+2HO+4CO+CO+(1/2)O ・・・[5]
【0055】
以上のように、本造粒物からなる除去剤を用いることにより、被処理ガス中の本ハロゲン系ガスを高い除去効率で除去することができる。また、ホスゲン等の、加水分解によりハロゲン化水素または次亜ハロゲン酸を発生するガスの場合についても、式[3]および式[4]で表される反応を経由して分解されることにより除去される。
本発明の除去剤は、後述するハロゲン系ガスの除去方法に好適に用いることができる。
【0056】
[ハロゲン系ガスの除去方法]
本発明の除去方法は、前述した本造粒物からなる除去剤と、本ハロゲン系ガスを含有する被処理ガスとを接触させることで、該被処理ガスから本ハロゲン系ガスを除去する方法である。
本発明の本ハロゲン系ガスの除去は、本造粒物を充填した充填層を形成し、該充填層に被処理ガスを供給することにより行うことが好ましい。充填層の形成は、カラム等の充填容器に本造粒物を充填することにより行うことができる。
【0057】
充填層における本造粒物の充填密度は、0.7g/cm以上とすることが好ましく、0.8g/cm以上とすることがより好ましく、0.9g/cm以上とすることが特に好ましい。本造粒物の充填密度を0.7g/cm以上とすれば、単位容積あたりの充填密度が高く、本ハロゲン系ガスの処理量を大きくすることができるため、除去効率をより向上させることができる。本造粒物は嵩密度が高く、カラムへの充填質量を大きくすることができるので、一度に充填される本造粒物による除去能力に優れる。従来の活性炭のみを用いる方法では充填密度が0.4〜0.6g/cmであるのに対し、本造粒物は0.7g/cm以上で充填することが容易である。
【0058】
また、本造粒物を充填した充填層の温度は、0〜50℃とすることが好ましく、10〜40℃とすることがより好ましい。充填層の温度が0℃以上であれば、本造粒物と本ハロゲン系ガスとの反応速度がより高くなり、本ハロゲン系ガスの除去効率がより向上する。また、充填層の温度が50℃以下であれば、高価な耐熱材料や耐熱構造を用いた充填塔等の設備をせず、処理操作および設備を簡略化しやすい。
充填層に供給する被処理ガスの温度も、同様の理由から、0〜50℃とすることが好ましく、10〜40℃とすることがより好ましい。
【0059】
このように、本造粒物を充填した充填層に被処理ガスを供給することにより、該充填層内で前述のような本ハロゲン系ガスの除去反応が行われ、高い除去効率で本ハロゲン系ガスが除去される。
被処理ガスが、加水分解してハロゲン化水素または次亜ハロゲン酸を生成する化合物を含む場合、該化合物は、それらは被処理ガスに含まれる水、除去剤である造粒物に付着した僅かな量の水、アルカリ金属塩、および/または、本水和物から脱離により生成する水、本造粒物の反応生成物である水によって加水分解され、HF、HCl、HBr、HIのハロゲン化水素、またはHClO、HBrO、HIOの次亜ハロゲン酸を生成する。
【0060】
尚、本発明の除去方法は、本造粒物と他の除去薬剤とを併用してもよい。例えば、被処理ガスの組成に応じて、本造粒物と、活性炭の造粒物もしくは炭酸水素ナトリウムの造粒物等とを混合するか、または、本造粒物と、活性炭の造粒物もしくは炭酸水素ナトリウムの造粒物の層とを併用して、除害装置のカラムに充填して使用する方法が挙げられる。また、塩化水素が本ハロゲン系ガスの大部分である場合には、炭酸水素ナトリウムの造粒物の充填層を本ハロゲン系ガスの流路の上流に配し、本造粒物の充填層を下流に配することが好ましい。
また、本発明の除去方法は、緊急除害用の散布薬剤や、防毒マスクの吸収管等にも好適に用いることができる。
【0061】
以上説明した本発明の除去方法によれば、5質量%以下の低濃度の本ハロゲン系ガスを含む被処理ガスであっても、優れた除去効率で本ハロゲン系ガスを除去することができる。また、本造粒物が中和反応の際の発熱を抑制できることから被処理ガスとの反応熱が抑えられ、固形廃棄物の発生も低減することができる。本発明の除去方法は、特許文献4に記載された除去方法に比べて除去効率がさらに向上している。この要因としては、本造粒物には本水和物が含有されていることで、その本水和物から結晶水が離れた水が前記式[2]で表される反応に用いられ、本ハロゲン系ガスの除去反応が円滑に開始されるためであると考えられる。
すなわち、従来では、前記式[2]の反応に用いられる水は、被処理ガス中に混入している水や、造粒物に付着したわずかな量の水等により供給されていたため、反応を円滑に開始するのに充分な量の水が供給しきれていなかったと考えられる。これに対し、本発明の除去方法では、本水和物からの水が加わることで前記式[2]の反応が進行しやすくなったことで、本ハロゲン系ガスの除去効率が向上すると考えられる。
【0062】
また、このように本水和物からの水が前記式[2]の反応に用いられて除去反応を円滑に進行することを考慮すると、本発明の除去方法は、被処理ガスおよび本造粒物が高度に乾燥された状態であっても反応開始に必要な水が供給されるため、優れた除去効率で本ハロゲン系ガスを除去できると考えられる。
【0063】
本発明のハロゲン系ガスの除去剤および除去方法は、半導体製造工程等における本ハロゲン系ガスの除去処理に好適に用いることができる。本発明の除去剤および除去方法を半導体の製造に用いることにより、多種のガスが用いられる半導体製造設備の能力を向上させて高い稼働率で維持することができ、半導体の生産効率の向上に大きく寄与することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例において、硬度は、木屋式デジタル硬度計KHT−20型(藤原製作所社製)を使用して測定した。また、硬度は、粒子径によって異なるため、篩分けして粒子径を揃えた状態で測定した。
本造粒物における一次粒子の平均粒子径については、平均粒子径70μm未満のものについては、マイクロトラックFRA9220(日機装社製)を使用して測定し、平均粒子径70μm以上のものは篩い分けにより測定した。また、本造粒物の平均粒子径については篩い分けにより測定した。
【0065】
本ハロゲン系ガスの除去能力の計測は、まず、除去対象ガス(被処理ガス)に含まれる本ハロゲン系ガスとして塩素(Cl)を選定し、カラムからの破過検知を、半導体材料ガス検知器XPS−7型(新コスモス電機株式会社)の検出の警報設定値を0.25ppmに設定して実施した。塩素ガスを選択したのは、本ハロゲン系ガスを対象とした実験検討を行なう場合、除去剤の性能を比較するうえで一般的に広く採用されているためである。また、本発明の効果は、以下の実施例に記載された内容に限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]
一次粒子の平均粒子径が95μmの工業用炭酸水素ナトリウムの粉末(旭硝子社製)を15.8kg使用し、これに平均粒子径67μmの活性炭(商品名:白鷺C、日本エンバイロケミカルズ社製)2.0kg、平均粒子径が5μmである消石灰(関東化学社製)0.2kg、平均粒子径2.0μm、平均細孔半径8.24nm、細孔容積0.010cm/gの合成A型ゼオライト(日本ビルダー社製)1.8kg、塩化カルシウム・二水和物(関東化学社製試薬一級)0.2kgを均一に混合し、ロールプレス式圧縮成形機(ターボ工業株式会社製、商品名:ローラーコンパクターWP型、ロール外径:230mm、ロール長:80mm)を使用して線圧36.8kN/cmで圧縮成形することにより、炭酸水素ナトリウム、活性炭、消石灰、塩化カルシウム・二水和物およびゼオライトの混合物であって、消石灰の含有率が1質量%のフレーク状の成形体を得た。この成形体100質量%に対して、炭酸水素ナトリウムは79質量%、活性炭は10質量%、塩化カルシウム・二水和物は1質量%、ゼオライトは9質量%であった。
【0067】
上述のようにして得られたフレーク状の成形体を、ロール式架砕造粒機(日本グラニュレーター社製、商品名:架砕ロールグラニュレーターGRN−2521型)により粗粉砕して整粒した。架砕機は二段に設置し、一段目の回転歯のピッチは14mmで二段目は4mmとした。次に、整粒された粒子を、内径200mmの金網ステンレス製の標準篩で目開き1.7mmと4.0mmを二段にセットして手で篩い分け、1.7mmの篩の上の粒子を採取し本造粒物を得た。
【0068】
次に、内径200mmの金網ステンレス製の標準篩で目開き4.0mm、2.8mm、2.0mm、1.4mm、1.0mmのものを重ね合わせ、最下部に底皿を設置した上に、本造粒物100gを注いだ。次いで、ロータップシェーカー式篩振とう機(飯田製作所社製、商品名:IIDA SIEVE SHAKER、振とう数290回転/分、打数165回/分)により10分間振とうさせた後、各標準篩と底皿の上の本造粒物の残渣の質量を測定し、各目開きに対する通過質量の累計をグラフ化して、通過質量の累計が50%となる粒子径を平均粒子径とした。本造粒物の平均粒子径は2.2mmであった。粒子径が4mm以下の粒子の質量割合が100質量%、粒子径が1.0mm以下の粒子の質量割合が5.8質量%であった。
【0069】
本造粒物の硬度は、前記硬度測定法により測定した。すなわち得られた平均粒子径2.2mmの本造粒物を1.4mm、2.0mm、2.8mmの目開きの篩で篩分け、各粒度の硬度を20個測定し平均値を求めたところ、1.4〜2.0mmの間の粒子の平均硬度が40.2N、2.0〜2.8mmが47.3N、2.8mm以上が58.7Nであった。
【0070】
次に、底面が通気性ガラス板で内径30mm、長さ300mmのガラス製反応管に、充填物として前記本造粒物を充填層高が100mmとなるように充填した。充填容積は70.7cmで、充填質量は72.3g、充填密度は1.02g/cmであった。これに、標準状態(0℃、0.10MPa)で、流量が毎分424cm、組成がCl0.3体積%、N99.7体積%のガスを、温度25℃にて、常圧下で底部から注入した。
塩素ガスの処理後のカラムからの破過を、前記半導体材料ガス検知器を使用して行なったが、開始直後の検出はなかった。
処理開始から2540分経過後に除去対象ガスが破過し、ガス検知器の警報が作動した。本造粒物1kgあたりに除去された塩素ガスは、標準状態換算で、40.4Lであった。
【0071】
充填物を取り出したところ、造粒物粒子の粉化や本造粒物同士の固着は見られず、また、塩素臭気の発生もほとんど無く、本造粒物の取り出し作業は容易であった。また、この充填物を水に溶解したところ、ゼオライトと残余の消石灰以外は溶解し、これを濾過分離することにより、固形廃棄物を削減できた。また、混合ガス処理中に充填層のガラス壁外部の温度を測定したところ、最低温度は27℃、最高温度は29℃であった。この温度は、ガス下流側が最も高く、ガス上流側が最も低かった。また、上記最高温度および最低温度が計測された個所は、反応が進むに従って、共にガス下流側に移動していった。この傾向は、以下に説明する比較例1でも共通であった。また、以下の比較例を含め、装置の外気温は20〜25℃の範囲であった。
【0072】
[比較例1]
一次粒子の平均粒子径が95μmの工業用炭酸水素ナトリウムの粉末(旭硝子社製)を15.8kg使用し、これに平均粒子径67μmの活性炭(商品名:白鷺C、日本エンバイロケミカルズ社製)2.0kg、平均粒子径が5μmである消石灰(関東化学社製)0.2kg、平均粒子径2.0μm、平均細孔半径8.24nm、細孔容積0.010cm/gの合成A型ゼオライト(日本ビルダー社製)2.0kgを用いた以外は実施例1と同様にして、消石灰の含有率が1質量%のフレーク状の成形体を得た。この成形体100質量%に対して、炭酸水素ナトリウムは79質量%、活性炭は10質量%、ゼオライトは10質量%であった。
【0073】
更にこの成形体を用いて実施例1と同様の方法で造粒物を得た。造粒物の平均粒子径は1.9mmであった。粒子径が4mm以下の粒子の質量割合が100質量%、粒子径が1.0mm以下の粒子の質量割合が6.3質量%であった。
また、造粒物の硬度は、1.4〜2.0mmの間の粒子の平均硬度が37.8N、2.0〜2.8mmが45.1N、2.8mm以上が56.8Nであった。
【0074】
次に、底面が通気性ガラス板で内径30mm、長さ300mmのガラス製反応管に、充填物として前記本造粒物を充填層高が100mmとなるように充填した。充填容積は70.7cmで、充填質量は81.9g、充填密度は1.16g/cmであった。これに、標準状態(0℃、0.10MPa)で、流量が毎分424cm、組成がCl0.3体積%、N99.7体積%のガスを、温度25℃にて、常圧下で底部から注入した。
塩素ガスの処理後のカラムからの破過を、前記半導体材料ガス検知器を使用して行なったが、開始直後の検出はなかった。
処理開始から2,485分経過後に除去対象ガスが破過し、ガス検知器の警報が作動した。本造粒物1kgあたりに除去された塩素ガスは、標準状態換算で、38.6Lであった。
【0075】
以上のように、本発明の除去方法を用いた実施例1では、除去された塩素ガスの量が、同一条件で測定した比較例1に比べて多くなっており、本ハロゲン系ガスの除去効率に優れていた。これは、実施例1の本造粒物には比較例1の造粒物には用いられていない塩化カルシウム・二水和物が含有されていることで、本ハロゲン系ガスの除去反応が速やかに進行したためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のハロゲン系ガスの除去方法および除去剤は、ドライエッチングやCVD等において発生する排ガス、および各種プロセスのハロゲン系ガスを、従来の技術よりも高い除去効率で除去できるので、特に、半導体製造工程等で発生する排ガスに含まれるハロゲン系ガスを除去するのに好適である。また、本発明のハロゲン系ガスの除去剤は、緊急除害用の散布薬剤や防毒マスクの吸収管等にも好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
、Cl、Br、I、ハロゲン化水素、次亜ハロゲン酸、および、加水分解してハロゲン化水素または次亜ハロゲン酸を生成する化合物からなるハロゲン系ガスの群より選ばれる少なくとも1種を除去するハロゲン系ガスの除去剤であって、
アルカリ金属の炭酸水素塩および/または炭酸塩と、炭素質材料と、アルカリ土類金属の水酸化物と、アルカリ土類金属のハロゲン化物の水和物とを含有する造粒物からなる、ハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項2】
前記造粒物が、該造粒物の全質量に対して、45〜99.8質量%の前記アルカリ金属の炭酸水素塩および/または炭酸塩と、0.1〜30質量%の前記炭素質材料と、0質量%超15質量%以下の前記アルカリ土類金属の水酸化物と、0.1〜10質量%の前記アルカリ土類金属のハロゲン化物の水和物とを含有する、請求項1に記載のハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項3】
前記造粒物が、該造粒物の全質量に対して、1〜20質量%の多孔質体をさらに含有する、請求項1または2に記載のハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項4】
前記造粒物が、前記アルカリ土類金属のハロゲン化物の水和物として塩化カルシウムの水和物を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項5】
前記造粒物が、前記アルカリ金属塩の炭酸水素塩として炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素カリウムを含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項6】
前記造粒物が、前記アルカリ土類金属の水酸化物として、水酸化カルシウムおよび/または水酸化マグネシウムを含有する、請求項1〜5のいずれかに記載のハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項7】
前記造粒物における粒子径が4.0mm以下の粒子の質量割合が90質量%以上であり、かつ粒子径が1.0mm以下の粒子の質量割合が10質量%以下である、請求項1〜6のいずれかに記載のハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項8】
粒子径が1.4mm以上2.0mm未満の造粒物の平均硬度が5N以上である、請求項1〜7のいずれかに記載のハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項9】
粒子径が2.0mm以上2.8mm未満の造粒物の平均硬度が15N以上である、請求項1〜8のいずれかに記載のハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項10】
粒子径が2.8mm以上の造粒物の平均硬度が25N以上である、請求項1〜9のいずれかに記載のハロゲン系ガスの除去剤。
【請求項11】
前記ハロゲン系ガスの群より選ばれる少なくとも1種を含有する被処理ガスと、請求項1〜10のいずれかに記載の除去剤とを接触させて前記ハロゲン系ガスを除去する、ハロゲン系ガスの除去方法。
【請求項12】
前記造粒物を充填密度0.7g/cm以上で充填した充填層を形成し、該充填層に前記被処理ガスを供給する、請求項11に記載のハロゲン系ガスの除去方法。
【請求項13】
前記被処理ガスが、半導体の製造において排出されるドライエッチング排ガスである、請求項11または12に記載のハロゲン系ガスの除去方法。

【公開番号】特開2010−64040(P2010−64040A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235035(P2008−235035)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】