説明

ハロゲン置換テレフタル酸ジアミド化合物、その製造方法及び該化合物を用いたハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法

【課題】ハロゲン置換ベンゼンジメタノールの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】ハロゲン置換ベンゼンジカルボキサミド化合物とピロカルボン酸ジアルキルを反応させて、N,N,N’,N’−テトラキス(アルコキシカルボニル)ベンゼンジカルボキサミド化合物を得る第1工程と、該N,N,N’,N’−テトラキス(アルコキシカルボニル)ベンゼンジカルボキサミド化合物を水素化ホウ素化合物で還元して、下式(4)で示されるハロゲン置換ベンゼンジメタノールを得る第2工程とを含むことを特徴とするハロゲン置換ベンゼンジメタノール(4)の製造方法。


(式中、X、X、XおよびXは、水素原子またはハロゲン原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン置換テレフタル酸ジアミド化合物、その製造方法及び該化合物を用いたハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法としては、例えば、対応するハロゲン置換テレフタル酸(例えば、特許文献1参照。)やハロゲン置換テレフタル酸エステル(例えば、特許文献2、3および4参照。)を、それぞれ水素化ホウ素化合物で還元する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−224017号公報
【特許文献2】特開2007−211001号公報
【特許文献3】特開2007−23006号公報
【特許文献4】特開2008−31158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ハロゲン置換ベンゼンジメタノールの新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。すなわち、本発明は、
<1> 式(1)

(式中、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、X、X、XおよびXの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示される化合物、及び、式(2)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基を表す。)
で示される化合物を反応させて、式(3)

(式中、R、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるジカルボキサミド化合物を得る第1工程と、
第1工程で得られた式(3)で示されるジカルボキサミド化合物を水素化ホウ素化合物で還元して、式(4)

(式中、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるハロゲン置換ベンゼンジメタノールを得る第2工程と
を含むことを特徴とするハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法;
【0006】
<2> X、X、XおよびXは、全てハロゲン原子であることを特徴とする<1>記載の製造方法;
<3> Rが、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法;
<4> 第1工程が、4−ジアルキルアミノピリジンの存在下で反応させる工程であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか記載の製造方法;
<5> 第2工程が、モノアルコールの存在下で還元する工程であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか記載の製造方法;
<6> モノアルコールが、炭素数1〜5の脂肪族モノアルコールであることを特徴とする<5>記載の製造方法;
<7> 水素化ホウ素化合物の量が、式(3)で示されるジカルボキサミド化合物1モルに対して1〜3モルであるであることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか記載の製造方法;
<8> 水素化ホウ素化合物が、水素化ホウ素アルカリ金属塩であることを特徴とする<1>〜<7>のいずれか記載の製造方法;
【0007】
<9> 式(1)

(式中、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、X、X、XおよびXの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示される化合物、及び、式(2)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基を表す。)
で示される化合物を反応させて、式(3)

(式中、R、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるジカルボキサミド化合物を得る第1工程
を含むことを特徴とするジカルボキサミド化合物の製造方法;
【0008】
<10> 式(3)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基を表す。X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、X、X、XおよびXの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示されるジカルボキサミド化合物を水素化ホウ素化合物で還元して、式(4)

(式中、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるハロゲン置換ベンゼンジメタノールを得る第2工程
を含むことを特徴とするハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法;
【0009】
<11> 式(3)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基を表す。X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、X、X、XおよびXの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示されるジカルボキサミド化合物;
<12> N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド
等である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハロゲン置換ベンゼンジメタノールの新規な製造方法が提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法は、後述の第1工程と第2工程とを含む。
第1工程は、式(1)

【0012】
(式中、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、X、X、XおよびXの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示される化合物(以下、化合物(1)と称することがある)、及び、式(2)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基を表す。)
で示される化合物(以下、化合物(2)と称することがある)を反応させて、式(3)
【0013】

(式中、R、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるジカルボキサミド化合物を得る工程である。
【0014】
式(1)において、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子を表す。
上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
、X、XおよびXとしては、それぞれ独立に、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子および塩素原子がより好ましく、フッ素原子が更に好ましい。X、X、XおよびXは、全てハロゲン原子であることが好ましい。
【0015】
化合物(1)の例として、2−フルオロテレフタル酸ジアミド、2−クロロテレフタル酸ジアミド、2,5−ジフルオロテレフタル酸ジアミド、2,6−ジフルオロテレフタル酸ジアミド、2,3−ジフルオロテレフタル酸ジアミド、2、6−ジクロロテレフタル酸ジアミド、2,3−ジクロロテレフタル酸ジアミド、2,3,5−トリフルオロテレフタル酸ジアミド、2,3,5−トリクロロテレフタル酸ジアミド、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジアミド、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジアミド、2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジアミド等が挙げられる。なかでも2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジアミドが好ましい。
【0016】
化合物(1)は、例えば、対応する酸ハライドとアンモニアガスとを反応させる(例えば、Zhurnal Obshchei Khimii, 34, 2953−2958 (1964)参照。)等の方法に準じて製造することができる。
【0017】
式(2)において、Rは、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、すなわちアルコキシカルボニル基または置換基を有するアルコキシカルボニル基を表す。
Rにより示されるアルコキシカルボニル基としては、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基が挙げられる。かかるアルコキシカルボニル基は、直鎖状、分枝鎖状および環状の何れであってもよく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基、オクタデシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
該アルコキシカルボニル基に結合される置換基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。置換基を有するアルコキシカルボニル基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基等の炭素数8〜20のアリール置換アルコキシカルボニル基等が挙げられる。
式(2)において、Rとしては、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基が好ましく、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基がより好ましく、tert−ブトキシカルボニル基が更に好ましい。
【0018】
化合物(2)としては、例えば、ピロカルボン酸ジメチルエステル、ピロカルボン酸ジエチルエステル、ピロカルボン酸ジイソプロピルエステル、ピロカルボン酸ジ−tert−ブチルエステル、ピロカルボン酸ジベンジルエステル等が挙げられる。
化合物(2)として、例えば特開平4−211634号公報等に記載の公知の方法により製造したものや、市販のものを用いてもよい。
化合物(2)の量は、化合物(1)1モルに対して、少なくとも4モルであることが好ましい。化合物(2)の量の上限は、特に限定されないが、経済的には、化合物(1)1モルに対して10モル以下であることが好ましい。
【0019】
第1工程は、4−ジアルキルアミノピリジンの存在下で行われることが好ましい。
4−ジアルキルアミノピリジンは、ジアルキルアミノ基が炭素数1〜5のアルキル基を有することが好ましく、炭素数1〜3のアルキル基を有することがより好ましい。
4−ジアルキルアミノピリジンとしては、例えば、4−ジメチルアミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、4−ジ(n−プロピル)アミノピリジン、4−ジ(n−ブチル)アミノピリジン等が挙げられ、入手の容易さから、4−ジメチルアミノピリジンが好ましい。
4−ジアルキルアミノピリジンとして、市販のものを用いることができる。
4−ジアルキルアミノピリジンは、通常、化合物(1)1モルに対して0.001モル以上、好ましくは0.001〜0.1モル、より好ましくは0.005〜0.1モルの範囲で用いられる。
【0020】
第1工程は、溶媒の存在下に行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;などが挙げられる。第1工程において、該溶媒は1種類のみ用いられてもよいし、2種以上用いられてもよい。
該溶媒としては、ニトリル溶媒が好ましく、アルキルニトリル溶媒がより好ましく、炭素数1〜5のアルキルニトリル溶媒が更に好ましい。該溶媒を2種以上用いる場合、ニトリル溶媒と芳香族炭化水素溶媒との混合物を用いることが好ましい。
溶媒を使用する場合、その量は制限されないが、容積効率(第1工程に用いる反応容器単位容積あたりの式(3)で示される化合物の生産性)等を考慮すると、化合物(1)1重量部に対して、例えば、溶媒1〜100重量部の範囲等を挙げることができる。
【0021】
第1工程の反応温度は、例えば、−20〜150℃の範囲等を挙げることができ、好ましくは、例えば、30〜100℃の範囲等を挙げることができる。また、第1工程は常圧条件下で行ってもよいし、加圧条件下で行ってもよい。
【0022】
第1工程における反応の進行の度合いは、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
第1工程は、化合物(1)と化合物(2)とを混合し、必要に応じて加熱することにより行われる。化合物(1)および化合物(2)の混合順序は特に制限されない。具体的には、例えば、[1]化合物(1)、化合物(2)、必要に応じて溶媒、及び必要に応じて4−ジアルキルアミノピリジンを一括して混合し、必要に応じて加熱する工程、[2]化合物(2)、必要に応じて溶媒、及び必要に応じて4−ジアルキルアミノピリジンを一括して混合し、必要に応じて加熱し、得られた混合物に化合物(1)を混合する工程、[3]化合物(1)、必要に応じて溶媒、及び必要に応じて4−ジアルキルアミノピリジンを一括して混合し、必要に応じて加熱し、得られた混合物に化合物(2)を混合する工程等を挙げることができる。上記[2][3]において混合物に混合される化合物(1)又は化合物(2)は、溶媒に溶解させていてもよい。
第1工程の好ましい工程としては[3]を挙げることができ、好ましくは、溶媒と4−ジメチルアミノピリジンと化合物(1)の混合物を好ましい反応温度に調整しながら、化合物(2)を加えていく工程等が挙げられる。
【0023】
第1工程により、式(3)

で示されるジカルボキサミド化合物(以下、化合物(3)と称することがある。)を含む反応混合物が得られる。
【0024】
式(3)において、R、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味である。
式(3)において、X、X、XおよびXの好ましい範囲は、式(1)と同様である。
式(3)において、Rの好ましい範囲は、式(2)と同様である。
【0025】
化合物(3)としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラキスメトキシカルボニル−(2−フルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスエトキシカルボニル−(2−クロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスブトキシカルボニル−(2,5−ジフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスベンジルオキシカルボニル−(2,6−ジフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3−ジフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,5−ジクロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,6−ジクロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3−ジクロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5−トリフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5−トリクロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスメトキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスエトキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスイソプロポキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスベンジルオキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、
【0026】
N,N,N’,N’−テトラキスメトキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラクロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスエトキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラクロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、
N,N,N’,N’−テトラキスイソプロポキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラクロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラクロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスベンジルオキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラクロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド
【0027】
N,N,N’,N’−テトラキスメトキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスエトキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキスイソプロポキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5−トリフルオロ−6−クロロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド等が挙げられる。なかでも、N,N,N’,N’−テトラキスアルコキシカルボニル−(2,3,5,6−テトラハロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミドが好ましく、N,N,N’,N’−テトラキス(C1〜C5アルコキシ)カルボニル−(2,3,5,6−テトラハロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミドがより好ましく、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミドが更に好ましい。
【0028】
第1工程により得られる反応混合物は、そのまま、後述する第2工程に供してもよいし、晶析、濃縮、分液等を行うことにより該反応混合物から化合物(3)を単離し、得られた化合物(3)を第2工程に供してもよい。単離された化合物(3)は、例えば晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法により精製した後、精製された化合物(3)を第2工程に供してもよい。
【0029】
化合物(3)は、好ましくは、有機溶媒と酸水溶液とを用いた分液により上記反応混合物から単離される。より好ましくは、有機溶媒と酸水溶液とを該反応混合物に加え、これらを攪拌、静置及び分液し、得られる有機溶媒層から化合物(3)を回収することができる。該反応混合物が有機溶媒を含む場合、酸水溶液のみを該反応混合物に加えることにより分液することができる。該有機溶媒は、水と混和しない溶媒であればよい。該有機溶媒としては、トルエン等の芳香族炭化水素化合物;酢酸エチル等の脂肪族炭化水素化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物が挙げられる。該酸水溶液としては、塩酸、硫酸等の無機酸の水溶液が好ましく、塩酸がより好ましい。
【0030】
本発明の第2工程は化合物(3)を水素化ホウ素化合物で還元して、式(4)

(式中、R、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるハロゲン置換ベンセンジメタノール(以下、化合物(4)と称することがある。)を得る工程である。
【0031】
水素化ホウ素化合物としては、例えば、水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化ホウ素アルカリ土類金属塩等が挙げられる。上記水素化ホウ素アルカリ金属塩としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウムが挙げられる。上記水素化ホウ素アルカリ土類金属塩としては、水素化ホウ素カルシウム、水素化ホウ素マグネシウム等が挙げられる。
水素化ホウ素化合物としては、入手の容易さから、水素化ホウ素アルカリ金属塩が好ましく、水素化ホウ素ナトリウムがより好ましい。
【0032】
水素化ホウ素化合物は、市販のものを用いてもよいし、調製して用いてもよい。例えば、水素化ホウ素ナトリウムは、ホウ酸エステルと水素化ナトリウムとから容易に調製可能である。また、他の水素化ホウ素化合物は、水素化ホウ素ナトリウムと対応する金属ハロゲン化物との反応により調製可能であり、例えば水素化ホウ素カルシウムは、水素化ホウ素ナトリウムと塩化カルシウムとの反応により得られる。水素化ホウ素化合物を調製して用いる場合には、予め調製した水素化ホウ素化合物を用いてよいし、化合物(3)の還元反応と同時に該化合物(3)の存在下で調製されてもよい。
水素化ホウ素化合物は、化合物(3)1モルに対して、通常1モル以上の量で用いればよい。該水素化ホウ素化合物の量は、経済性の点において、化合物(3)1モルに対して、通常5モル以下、好ましくは1〜2.5モルの範囲である。
【0033】
化合物(3)の還元は、好ましくはモノアルコールの存在下で行われる。化合物(3)の還元をモノアルコールの存在下で行う場合、化合物(3)が化合物(4)に効率よく変換される。上記モノアルコールは溶媒として用いることができる。
上記モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素数1〜4の脂肪族モノアルコールが挙げられ、メタノールが好ましい。
該モノアルコールの量は、制限されないが、化合物(3)1モルに対して、例えば、1〜100モルの範囲等が挙げられる。
【0034】
化合物(3)の還元は、溶媒の存在下で行われる。かかる溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル溶媒や、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒が挙げられる。上記溶媒は、好ましくはエーテル溶媒である。
【0035】
第2工程における溶媒の量は、制限されないが、容積効率(第2工程に用いる反応容器単位容積あたりの化合物(4)の生産性)等を考慮すると、化合物(3)1重量部に対して、実用的には1重量部以上、100重量部以下である。
第2工程における反応温度は、例えば、0〜100℃の範囲等を挙げることができ、好ましくは20〜70℃の範囲等が挙げられる。
第2工程は、例えば、溶媒の存在下、化合物(3)と水素化ホウ素化合物とを、反応温度条件下で混合する工程等を挙げることができ、それらの混合順序は特に限定されない。具体的には、化合物(3)と水素化ホウ素化合物とを含む混合物にモノアルコールを該混合物に徐々に加えていく工程等が挙げられる。モノアルコールを該混合物に徐々に加えていくことにより、化合物(3)の水素化ホウ素化合物による還元反応を促進する傾向があることから好ましい。
【0036】
第2工程は、通常、常圧条件下で行われるが、加圧条件下に行ってもよい。反応の進行の度合いは、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
第2工程終了後、得られる反応混合物には化合物(4)が含まれており、これに、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の鉱酸の水溶液を加えた後、必要に応じて、中和、抽出、濃縮等の公知の手段により、化合物(4)を単離することができる。得られた化合物(4)は、例えば晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法により精製されてもよい。
【0037】
上記化合物(4)は、式(4)で示される化合物である。式(4)において、X、X、XおよびXの好ましい範囲は、式(1)と同様である。
上記化合物(4)としては、例えば、2−フルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2−クロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,5−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,6−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,5−ジクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,6−ジクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3−ジクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3,5−トリフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3,5−トリクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノール、2,3,5,6−テトラクロロベンゼンジメタノール、2,3,5−トリフルオロ−6−クロロベンゼンジメタノール等が挙げられる。なかでも、2,3,5,6−テトラハロベンゼンジメタノールが好ましく、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノール及び2,3,5,6−テトラクロロベンゼンジメタノールがより好ましく、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールが更に好ましい。
【0038】
化合物(1)と化合物(2)を反応させて化合物(3)を得る該化合物(3)の製造方法もまた、本発明に含まれる。
化合物(3)は、本発明のハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法における中間体として有用である。化合物(3)は、容易にハロゲン置換ベンゼンジメタノールに変換することができる。化合物(3)の製造方法は、ハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造に好適な化合物(3)を容易に得る方法として有用である。
化合物(3)を水素化ホウ素化合物で還元して化合物(4)を得る該化合物(4)の製造方法もまた、本願発明の1つである。該化合物(4)の製造方法は、化合物(3)を用いるので、ハロゲン置換ベンゼンジメタノールを容易に得ることができる。
【0039】
ハロゲン置換ベンゼンジメタノールは、例えば、医農薬原料、中間体などとして重要な化合物である。特に2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールは、家庭用殺虫剤の中間体として有用であることが知られている(例えば、日本国特許第2606892号公報参照。)。本発明は、かかるハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法およびその中間体として有用である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
(1)N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミドの調製
還流冷却管を付した100mlフラスコに、室温(約25℃)で2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジアミド500mg、トルエン10g、アセトニトリル10g、4−ジメチルアミノピリジン10mgを仕込み、内温を80℃に調整した。内容物を同温度で攪拌しながら、そこに、ピロカルボン酸ジ(tert−ブチルエステル)3.0gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、内容物を同温度で2時間攪拌した後、室温まで冷却した。得られた反応混合物に5重量%塩酸水20gを加えて攪拌、静置したところ、2層に分離したので、分液して上層の有機溶媒層を得た。該有機溶媒層を水30gで2回洗浄し、得られた有機溶媒層から溶媒を留去することにより、淡黄色の油状物として、{N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド1.3gを得た。収率は96%であった。
N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド
H−NMR(δppm、CDCl3、TMS基準):1.51(s,36H)
【0041】
(2)2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの調製
還流冷却管を付した100mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム125mg、テトラヒドロフラン5gを仕込んだ。そこに、上記実施例1(1)で得た油状物700mgを加え、内温を50℃に調整し、内容物を同温度で2時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、そこに10重量%塩酸水10gと酢酸エチル10gを加えて攪拌、静置したところ、2層に分離したので、分液して上層の有機溶媒層を得た。該有機溶媒層を液体クロマトグラフィ内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの得量は95mgであり、収率は41%であった。
【0042】
(実施例2)
(1)N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミドの調製
還流冷却管を付した100mlフラスコに、室温で2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジアミド500mg、アセトニトリル10g、4−ジメチルアミノピリジン10mgを仕込み、内温を80℃に調整した。内容物を同温度で攪拌しながら、そこに、ピロカルボン酸ジ(tert−ブチルエステル)3.0gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、内容物を同温度で2時間攪拌した後、室温まで冷却した。得られた反応混合物に5重量%塩酸水20gと酢酸エチル20gを加えて攪拌、静置したところ、2層に分離したので、分液して上層の有機溶媒層を得た。該有機溶媒層を水30gで2回洗浄し、得られた有機溶媒層から溶媒を留去することにより、N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミドを主成分とする淡黄色の油状物を得た。
【0043】
(2)2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの調製
還流冷却管を付した100mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム240mg、テトラヒドロフラン10gを仕込んだ。そこに、実施例2(1)で得た油状物の全量を加え、内温を50℃に調整し、内容物を同温度で2時間攪拌した。そこに、メタノール5gを1時間かけて滴下し、得られた内容物を同温度で1時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、そこに10重量%塩酸水20gと酢酸エチル20gを加えて攪拌、静置したところ、2層に分離したので、分液して上層の有機溶媒層を得た。該有機溶媒層を液体クロマトグラフィ内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの得量は360mgであった。実施例2−1からの通算収率は81%であった。
【0044】
(実施例3)
還流冷却管を付した100mlフラスコに、室温で2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジアミド500mg、アセトニトリル5g、4−ジメチルアミノピリジン10mgを仕込み、内温を60℃に調整した。内容物を同温度で攪拌しながら、そこに、ピロカルボン酸ジ(tert−ブチルエステル)3.0gを1時間かけて滴下した。滴下終了後、内容物を同温度で4時間攪拌した後、室温まで冷却した。冷却すると結晶が析出したので、ろ過、アセトニトリル1mlで洗浄後、乾燥して、白色結晶450mgを得た。この結晶は、NMRによりN,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミドと同定した。
N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド
H−NMR(δppm、CDCl3、TMS基準):1.51(s,36H)
13C−NMR(δppm、CDCl3、TMS基準):27.5(s)、27.8(s)、86.0(s)、86.5(s)、148.2(s)、158.0(s)
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、ハロゲン置換ベンゼンジメタノールの新規な製造方法が提供可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

(式中、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、X、X、XおよびXの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示される化合物、及び、式(2)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基を表す。)
で示される化合物を反応させて、式(3)

(式中、R、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるジカルボキサミド化合物を得る第1工程と、
第1工程で得られた式(3)で示されるジカルボキサミド化合物を水素化ホウ素化合物で還元して、式(4)

(式中、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるハロゲン置換ベンゼンジメタノールを得る第2工程と
を含むことを特徴とするハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法。
【請求項2】
、X、XおよびXは、全てハロゲン原子であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
Rが、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
第1工程が、4−ジアルキルアミノピリジンの存在下で反応させる工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
第2工程が、モノアルコールの存在下で還元する工程であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
モノアルコールが、炭素数1〜5の脂肪族モノアルコールであることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
水素化ホウ素化合物の量が、式(3)で示されるジカルボキサミド化合物1モルに対して1〜3モルであるであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の製造方法。
【請求項8】
水素化ホウ素化合物が、水素化ホウ素アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の製造方法。
【請求項9】
式(1)

(式中、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、X、X、XおよびXの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示される化合物、及び、式(2)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基を表す。)
で示される化合物を反応させて、式(3)

(式中、R、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるジカルボキサミド化合物を得る第1工程
を含むことを特徴とするジカルボキサミド化合物の製造方法。
【請求項10】
式(3)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基を表す。X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、X、X、XおよびXの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示されるジカルボキサミド化合物を水素化ホウ素化合物で還元して、式(4)

(式中、X、X、XおよびXは、それぞれ上記と同じ意味を表す。)
で示されるハロゲン置換ベンゼンジメタノールを得る第2工程
を含むことを特徴とするハロゲン置換ベンゼンジメタノールの製造方法。
【請求項11】
式(3)

(式中、Rは置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基を表す。X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、X、X、XおよびXの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示されるジカルボキサミド化合物。
【請求項12】
N,N,N’,N’−テトラキス(tert−ブトキシカルボニル)−(2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン)−1,4−ビスカルボキサミド。

【公開番号】特開2010−229128(P2010−229128A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47753(P2010−47753)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】