説明

ハードキャンディの製造方法

【課題】加水工程を省略して作業性を向上させ得るハードキャンディの製造方法を提供する。
【解決手段】本願発明は、結晶水を含有しない砂糖及び無水麦芽糖のうちの少なくとも片方と、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖のうちの少なくとも一方とを主原料とし、その主原料を加熱溶融し、所定形状に成形して冷却することでハードキャンディを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱溶融したキャンディ原料を所定形状に冷却して作製されるハードキャンディの製造方法に関し、特に加水を省略することができるハードキャンディの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なハードキャンディの製造は、キャンディベースとなる砂糖(ショ糖)や水飴等の糖質に加水し、溶解した後、適度な水分になるまで煮詰め、その後に、成形し冷却するようにして行われる(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−192950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したハードキャンディの製造方法による場合には、上記糖質の溶解に加水工程を要し、そのために作業性を簡潔にすることができず、この点に関し改善の余地が残されていた。
【0005】
本発明は、このような従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、加水工程を省略して作業性を向上させ得るハードキャンディの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願出願人は、種々の実験により、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖のうちの少なくとも一方を主原料に含ませることで、加水することなく主原料を加熱溶融させることができるという知見を得た。
【0007】
請求項1に係る本願発明は、この知見に基づくものであって、結晶水を含有しない砂糖及び無水麦芽糖のうちの少なくとも片方と、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖のうちの少なくとも一方とを主原料とし、その主原料を加熱溶融し、所定形状に成形して冷却することでハードキャンディを製造することを特徴とする。本発明による場合には、結晶水を含有しない砂糖及び無水麦芽糖のうちの少なくとも片方と、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖のうちの少なくとも一方とを同じ容器に入れて加熱溶融させればよく、加水する必要がないので作業性を大幅に向上させることが可能になる。また、主原料に含まれる水分量を多くすることにより、換言すれば、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖のうちの少なくとも一方が主原料に含まれる割合を大きくすることにより、加熱溶融させる温度を低下させ得るため、省エネルギー化が図れる。
【0008】
このハードキャンディの製造方法において、上記主原料に加水してもよい。本発明にあっては、基本的には加水の必要性は無いが、加水することを含む。
【0009】
このハードキャンディの製造方法において、上記主原料に、結晶水を含有しない砂糖、無水麦芽糖、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖を除く他の糖質、脂質、たんぱく質、各種エキス、乳製品、果汁、香料、酸味料、ビタミン、ミネラル、着色料、調味料、増粘剤および乳化剤のうちの1種または2種以上を含む副原料を含有させるようにしてもよい。このようにすることで、ハードキャンディに対して色や香り、味などを付加することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明による場合には、結晶水を含有しない砂糖及び無水麦芽糖のうちの少なくとも片方と、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖のうちの少なくとも一方とを同じ容器に入れて加熱溶融させればよく、加水する必要がないので作業性を大幅に向上させることが可能になる。また、主原料に含まれる水分量を多くすることにより、換言すれば、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖のうちの少なくとも一方が主原料に含まれる割合を大きくすることにより、加熱溶融させる温度を低下させ得るため、省エネルギー化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】砂糖に含水麦芽糖を加えた場合における含水麦芽糖の置換率(横軸)と溶融温度(縦軸)との関係を示す図である。
【図2】砂糖に含水結晶ぶどう糖を加えた場合における含水結晶ぶどう糖の置換率(横軸)と溶融温度(縦軸)との関係を示す図である。
【図3】無水麦芽糖に含水麦芽糖を加えた場合における含水麦芽糖の置換率(横軸)と溶融温度(縦軸)との関係を示す図である。
【図4】無水麦芽糖に含水結晶ぶどう糖を加えた場合における含水結晶ぶどう糖の置換率(横軸)と溶融温度(縦軸)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0013】
本発明の一実施形態に係るハードキャンディの製造は、まず原料を準備し、次にその原料を加熱クッカー(図示せず)に装入して溶融し、その後、その溶融物をデポジッターで金型へ充填して成形し、その後に所定温度以下に冷却し、離型することにより行われる。或いは、溶融物を冷却盤で冷却し、アームニーダー、バッチロール、ロープサイザー、スタンピングマシンで成形してもよい。
【0014】
上記原料は、主原料と、必要に応じて加えられる副原料とを含む。主原料としては、結晶水を含有しない砂糖及び無水麦芽糖のうちの少なくとも片方の第1主原料と、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖のうちの少なくとも一方の第2主原料とを含み、これら第1、第2主原料が加熱クッカーに装入されて混合される。また副原料としては、例えば色や香り、味などを付加する目的で添加され、上述した4つの結晶水を含有しない砂糖、無水麦芽糖、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖を除く他の糖質、脂質、たんぱく質、各種エキス、乳製品、果汁、香料、酸味料、ビタミン、ミネラル、着色料、調味料、増粘剤、乳化剤などが該当し、また必要に応じて1または2種以上が加えられ、必要の無い場合は省略される。
【0015】
(第1実施形態)
この第1実施形態は、第1主原料に砂糖を用い、第2主原料に含水麦芽糖を用いてハードキャンディを製造した場合である。表1は、第1実施形態の条件と結果を示す。
【0016】
【表1】

【0017】
第1実施形態では、表1に示すように、砂糖と含水麦芽糖の比率(重量%)を、砂糖:含水麦芽糖として、100%:0%、90%:10%、80%:20%、75%:25%、60%:40%、50%:50%、40%:60%、25%:75%、0%:100%と、9通りで変化させている。なお、上記砂糖としては、例えば日新製糖株式会社製、商品名フロストシュガーFS−2(粉糖)が用いられ、上記含水麦芽糖としては、例えば株式会社林原商事製、商品名サンマルトS(1水和)が用いられ、以下においても同様である。
【0018】
この表1における歯脆さの評価と、歯付きし難さの評価とは、ハードキャンディとして商品となり得るか否かの指標となり、二重丸( ◎ )であるものは商品となり得ることを表す。なお、歯脆さとは、噛むと砕け易いことをいい、歯付きし難さとは、歯に付着し難いことをいう。歯脆さの評価については、× : 悪い、△ : やや悪い、○ : やや良好、◎ : 良好を示し、歯付きし難さの評価についても同様である。この評価の仕方は、以下同様である。
【0019】
第1実施形態による場合には、表1から理解されるように、主原料に全く水を加えずに、商品となり得るハードキャンディを製造することが可能になる。但し、第2主原料(含水麦芽糖)を加えない場合には、脆く欠け易いキャンディになり、また副原料を混合するときは、砂糖の再結晶を防止できなくなるため、第2主原料(含水麦芽糖)は主原料中に最低でも10%程度を含むようにすることが好ましい。
【0020】
また、上述したように主原料中に第2主原料を最低でも10%程度含むようにすることで、加熱による溶融温度を低減することができ、これにより省エネルギー化が図れる。なお、溶融温度の低減率は、主原料中における第2主原料の含有率が10%未満になると、極めて低くなる。
【0021】
図1に、主原料における含水麦芽糖の置換率(%)と溶融温度(℃)との間の関係を示す。この図1から理解されるごとく、含水麦芽糖の置換率が高くなると溶融温度が低くなるように、含水麦芽糖の置換率と溶融温度とが変化する。したがって上記省エネルギー化は、主原料中の第2主原料の含有比率を高くすることにより、より向上させ得る。但し、主原料中の第2主原料の含有比率が75%を超えると、キャンディの甘味度が低下し、高甘味度甘味料(例えばアスパルテーム、スクラロース、ステビア、アセスルファムk、ネオテーム等)による甘味補充が必要になり、材料コストが嵩張る。
【0022】
(第2実施形態)
この第2実施形態は、第1主原料に前記砂糖を用い、第2主原料に含水結晶ぶどう糖を用いてハードキャンディを製造した場合である。表2は、第2実施形態の条件と結果を示す。
【0023】
【表2】

【0024】
第2実施形態では、表2に示すように、砂糖と含水結晶ぶどう糖の比率(重量%)を、砂糖:含水結晶ぶどう糖として、100%:0%、90%:10%、80%:20%、75%:25%、67%:33%、63%:37%、50%:50%、25%:75%、0%:100%と、9通りで変化させている。なお、含水結晶ぶどう糖としては、例えばサンエイ糖化株式会社製、商品名結晶ぶどう糖(HI−MESH)が用いられる。
【0025】
この第2実施形態による場合は、表2より理解されるように、主原料に全く水を加えずに、商品となり得るハードキャンディを製造することが可能になる。但し、第2主原料を加えない場合には、脆く欠け易いキャンディになり、また副原料を混合するときは、砂糖の再結晶を防止できなくなるため、第2主原料は主原料中に最低でも10%程度を含むようにすることが好ましい。そして、このように主原料中に第2主原料を最低でも10%程度含むようにすることで、加熱による溶融温度を低減することができ、これにより省エネルギー化が図れる。
【0026】
また、表2より理解されるように、主原料中に含水結晶ぶどう糖を50%以上含有させると、歯脆さ、歯付きし難さの評価が低くなるが、加熱温度を上昇させることにより前記評価を改善することができる。具体的には、含水結晶ぶどう糖の含有率が50%のときは溶融温度よりも高い170℃に加熱し、含水結晶ぶどう糖の含有率が75%のときは同じく175℃に加熱すればよい。
【0027】
図2に、主原料における含水結晶ぶどう糖の置換率(%)と溶融温度(℃)との間の関係を示す。この図2から理解されるごとく、含水結晶ぶどう糖の置換率が高くなると溶融温度が低くなるように、含水結晶ぶどう糖の置換率と溶融温度とが変化する。したがって上記省エネルギー化は、主原料中の第2主原料の含有比率を高くすることにより、より向上させ得る。但し、主原料中の第2主原料の含有比率が75%を超えると、キャンディの甘味度が低下し、高甘味度甘味料(例えばアスパルテーム、スクラロース、ステビア、アセスルファムk、ネオテーム等)による甘味補充が必要になり、材料コストが嵩張る。また、キャンディの保存時に、キャンディの表面がべたついたり、部分的に溶けた状態になる、所謂泣きの発生が著しくなり、品質上の問題が生じるようになる。
【0028】
(第3実施形態)
この第3実施形態は、第1主原料に無水麦芽糖を用い、第2主原料に前記含水麦芽糖を用いてハードキャンディを製造した場合である。表3は、第3実施形態の条件と結果を示す。
【0029】
【表3】

【0030】
第3実施形態では、表3に示すように、無水麦芽糖と含水麦芽糖の比率(重量%)を、無水麦芽糖:含水麦芽糖として、100%:0%、80%:20%、70%:30%、60%:40%、50%:50%、25%:75%、0%:100%と、7通りで変化させている。なお、無水麦芽糖としては、例えば株式会社林原商事製、商品名ファイントースが用いられる。
【0031】
この第3実施形態による場合には、表3より理解されるように、主原料に全く水を加えずに、商品となり得るハードキャンディを製造することが可能になる。また、含水麦芽糖(第2主原料)を40%以上にすることにより、加熱による溶融温度を低減することが可能になり、これにより省エネルギー化が図れる。更に、無水麦芽糖と含水麦芽糖を用いる場合には、含水麦芽糖(第2主原料)の含有比率に拘わらずに、歯脆さ、歯付きし難さの評価が良好なキャンディが容易に得られる。
【0032】
図3に、主原料における含水麦芽糖の置換率(%)と溶融温度(℃)との間の関係を示す。この図3から理解されるごとく、含水麦芽糖の置換率が高くなると溶融温度が低くなるように、含水麦芽糖の置換率と溶融温度とが変化する。したがって上記省エネルギー化は、主原料中の第2主原料の含有比率を高くすることにより、より向上させ得る。
【0033】
(第4実施形態)
この第4実施形態は、第1主原料に前記無水麦芽糖を用い、第2主原料に前記含水結晶ぶどう糖を用いてハードキャンディを製造した場合である。表4は、第4実施形態の条件と結果を示す。
【0034】
【表4】

【0035】
第4実施形態では、表4に示すように、無水麦芽糖と含水結晶ぶどう糖の比率(重量%)を、無水麦芽糖:含水結晶ぶどう糖として、100%:0%、70%:30%、50%:50%、25%:75%、0%:100%と、5通りで変化させている。
【0036】
この第4実施形態による場合には、表4より理解されるように、主原料に全く水を加えずに、商品となり得るハードキャンディを製造することが可能になる。また、第2主原料を主原料中に30%以上含有させることにより、加熱による溶融温度を低減させ得、これにより省エネルギー化が図れる。但し、主原料中の第2主原料の含有比率を高くし過ぎると、歯脆さ、歯付きし難さの評価が低下するため、主原料中の第2主原料の含有比率は50%以下が好ましい。なお、歯脆さ、歯付きし難さの評価が低下する場合には、加熱による溶融温度を上昇させることで対処し得る。
【0037】
図4に、主原料における含水結晶ぶどう糖の置換率(%)と溶融温度(℃)との間の関係を示す。この図4から理解されるごとく、含水結晶ぶどう糖の置換率が高くなると溶融温度が低くなるように、含水結晶ぶどう糖の置換率と溶融温度とが変化する。したがって上記省エネルギー化は、主原料中の第2主原料の含有比率を高くすることにより、より向上させ得る。
【0038】
上述したように本願発明にあっては、主原料に全く水を加えずにハードキャンディを製造するものであるが、主原料に水分を加えてもよい。
【0039】
なお、上述した実施形態では、砂糖として、フロストシュガー(粉糖)を用いているが、顆粒状のもの、例えば日新製糖株式会社製フロストシュガー(商品名)、同じくMフロストシュガー(商品名)、同じくフロストシュガーMM(商品名)などを用いることができる。
【0040】
また、上述した副原料に含まれる糖質としては、上述した4つの結晶水を含有しない砂糖、無水麦芽糖、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖を除く他の糖質が該当し、例えば無水ぶどう糖、果糖、乳糖、パラチノース、トレハロース、ラフィノース、スタキオース、水飴、蜂蜜などの糖類や、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、還元パラチノース、還元水飴などの糖アルコール類が挙げられる。同じく脂質としては、例えば菜種油、大豆油、ごま油、ヤシ油などの植物油や、バター、ラード、ヘッドなどの動物油などが挙げられ、同じくたんぱく質としては、例えばコラーゲン、ケラチン、アルブミンなどが挙げられ、同じく各種エキスとしては、例えば梅エキス、人参エキス、ニンニクエキスなどの植物エキスや、シジミエキス、サメ軟骨エキスなどの動物エキス等が挙げられる。同じく乳製品としては、例えばバター、チーズなどが挙げられ、果汁としては、例えばりんごやミカンの果汁が挙げられ、香料としては、食品に添加されるフレーバーが用いられる。酸味料としては、例えばクエン酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸などが挙げられ、ビタミンとしては、例えばビタミンA、ビタミンB、ビタミンCなどが挙げられ、ミネラルとしては、例えばカルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられ、着色料としては、例えばウコン、クチナシなどが挙げられる。調味料としては、例えば醤油、ソース、スパイス、ハーブ、味噌などが挙げられ、増粘剤としては、例えばアラビアガム、寒天、カラギナンなどが挙げられ、乳化剤としては、例えばレシチン、モノグリセリドなどが挙げられる。
【0041】
また、味や香りの調整を行うべく酸味料や香料などの副原料を添加する場合には、味や香りが逃げないように適当な温度に冷却を行って酸味料や香料を混合し、その後、その混合物を、例えばデポジッター等で金型へ充填して成形しハードキャンディを製造することが好ましい。なお、成形には、スタンピング成形などを用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶水を含有しない砂糖及び無水麦芽糖のうちの少なくとも片方と、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖のうちの少なくとも一方とを主原料とし、その主原料を加熱溶融し、所定形状に成形して冷却することでハードキャンディを製造することを特徴とするハードキャンディの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のハードキャンディの製造方法において、上記主原料に加水することを特徴とするハードキャンディの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハードキャンディの製造方法において、上記主原料に、結晶水を含有しない砂糖、無水麦芽糖、含水麦芽糖及び含水結晶ぶどう糖を除く他の糖質、脂質、たんぱく質、各種エキス、乳製品、果汁、香料、酸味料、ビタミン、ミネラル、着色料、調味料、増粘剤および乳化剤のうちの1種または2種以上を含む副原料を含有させることを特徴とするハードキャンディの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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