説明

バイオエタノールの精製方法及びバイオエタノールの精製装置

【課題】バイオマスから生成されたバイオエタノールのpHが保管中に低下することを抑制する。
【解決手段】バイオマスから生成されたバイオエタノールを含む被処理液(BE)とイオン交換樹脂41とを接触させるイオン交換樹脂接触処理工程を有することを特徴とするバイオエタノールの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオエタノールの精製方法及びバイオエタノールの精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマス燃料がガソリンの代替燃料として注目を集めている。特にバイオマス燃料の一種であるバイオエタノールは、サトウキビ等の糖質系原料やトウモロコシ等のデンプン系原料から製造する技術が一般的である。例えば、木質系バイオマスから発酵によってエタノールを製造する方法において、木質系バイオマスを加水分解し、その加水分解液を発酵させてエタノールを製造するエタノール製造する技術が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−87350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バイオマスを原料として生成されるバイオエタノールは有機酸等の不純物を含有する。そのため、長期間の保管中に水素イオン濃度指数(pH)が低下しやすい。また、米国では燃料エタノールのpH低下により燃料ポンプの腐食が問題となっている。この対策として、腐食防止剤の適用が推奨されている。
本発明の目的は、腐食防止剤であるインヒビターを用いずに、バイオマスから生成されたバイオエタノールのpHが保管中に低下することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記請求項に係るバイオエタノールの精製方法及びバイオエタノールの精製装置が提供される。
【0006】
請求項1に係る発明は、バイオマスから生成されたバイオエタノールを含む被処理液とイオン交換樹脂とを接触させるイオン交換樹脂接触処理工程を有することを特徴とするバイオエタノールの精製方法である。
請求項2に係る発明は、前記イオン交換樹脂接触処理工程は、前記イオン交換樹脂と接触処理されて得られる処理液のpHが7.0±1.0の範囲になるように、前記被処理液中に含まれる有機酸を当該被処理液から除去することを特徴とする請求項1に記載のバイオエタノールの精製方法である。
請求項3に係る発明は、前記イオン交換樹脂が強塩基性陰イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオエタノールの精製方法である。
【0007】
請求項4に係る発明は、バイオマスから生成されたバイオエタノールを含む被処理液とイオン交換樹脂とを接触させるイオン交換樹脂接触手段を備えることを特徴とするバイオエタノールの精製装置である。
請求項5に係る発明は、前記イオン交換樹脂接触手段における前記イオン交換樹脂が架橋共重合体に結合した4級アンモニウム塩基を有する強塩基性陰イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項4に記載のバイオエタノールの精製装置である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、本発明を採用しない場合と比較して、バイオマスから生成されたバイオエタノールのpHが保管中に低下することを抑制することができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、本発明を採用しない場合と比較して、バイオエタノール中の有機酸の含有量を低下させることができる。
【0010】
請求項3に係る発明によれば、本発明を採用しない場合と比較して、有機酸を選択的に除去することができる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、バイオエタノールの精製装置において、バイオマスから生成されたバイオエタノールのpHが保管中に低下することを抑制することができる。
【0012】
請求項5に係る発明によれば、本発明を採用しない場合と比較して、バイオマスから生成されたバイオエタノールに含まれる有機酸を選択的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】バイオマスを原料とするバイオエタノールの生成工程の一例を説明する図である。
【図2】本実施の形態が適用されるバイオエタノールの精製装置の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0015】
<バイオマスから生成されたバイオエタノールの説明>
図1は、バイオマスを原料とするバイオエタノールの生成工程の一例を説明する図である。バイオエタノールの生成工程は、植物由来の原料であるバイオマスを使用し、これに酵素などを加えて菌体が代謝できる糖を得た後、菌体によるアルコール発酵する工程を有している。
図1に示すように、バイオエタノールの生成工程は、原料として用いるバイオマスの種類により、3つに大別される。原料として用いるバイオマスは、糖質系バイオマス、でんぷん系バイオマス、木質(セルロース)系バイオマスが挙げられる。
【0016】
糖質系バイオマスとしては、例えば、さとうきび、モラセス、甜菜等が挙げられる。糖質系バイオマスを原料として使用する場合、例えば、さとうきびを圧搾(圧搾)して糖蜜や廃糖蜜を生成し、得られた糖蜜や廃糖蜜のアルコール発酵(発酵)工程を経てバイオエタノールを生成する。
【0017】
でんぷん系バイオマスとしては、トウモロコシ、ソルガム(モロコシ、こうりゃん)、ジャガイモ、サツマイモ、麦等が挙げられる。でんぷん系バイオマスを原料として使用する場合、例えば、トウモロコシを粉砕(湿式製法:ウエットミル)又は製粉(乾式製法:ドライミル)の後、これを糖化し、次いで、アルコール発酵(発酵)工程を経てバイオエタノールを生成する。ここで、湿式製法は、トウモロコシの実を水と亜硫酸ガスに浸した後で粉砕し、デンプン、グルテン、繊維質、胚などに分離し、それぞれを加工する方法である。加工工程で得られるデンプン溶液が糖化され、発酵原料となる。乾式製法は、とうもろこしの実を乾燥した状態で丸ごと製粉し、その粉に水を加えたマッシュを糖化・発酵させる加工方法である。
【0018】
木質(セルロース)系バイオマスは、樹木の全部又はその一部を、例えば、チップにして得られる木質産物であって、エネルギ生産に向けられる枝条、梢端、市場価値の無い幹、あるいは麦わら、稲わら等を含むものとして定義される。具体的には、木材が挙げられる。また、これ以外に、製材工場等の残廃材、産業廃棄物とされる建築廃材・解体材等も含まれる。
木質(セルロース)系バイオマスを原料として使用する場合、原料を適当な大きさに粉砕(粉砕)した後、酸又はアルカリを用いて木質系バイオマス原料を加水分解し、ヘミセルロース、セルロース由来の糖を得る(糖化)。次いで、中和工程(中和)とアルコール発酵工程(発酵)と蒸留工程(図示せず)によりバイオエタノールを生成する。
以上の工程を経て生成されたバイオエタノールは所定の精製装置により精製する。
【0019】
<バイオエタノールの精製装置の説明>
次に、バイオエタノールの精製装置について説明する。
図2は、本実施の形態が適用されるバイオエタノールの精製装置の一例を説明する図である。図2に示すように、精製装置100は、バイオエタノール生成工程Pによって生成されたバイオエタノールを含む被処理液(BE)を貯留する被処理液貯留槽10と、イオン交換樹脂接触手段として、バイオエタノールを含む被処理液(BE)と接触させるイオン交換樹脂41が充填されたイオン交換樹脂充填塔40を有している。イオン交換樹脂充填塔40の上流側には、被処理液(BE)をイオン交換樹脂充填塔40に通液させるためのポンプ14が備えられている。
【0020】
<精製装置100によるバイオエタノールの精製方法の説明>
図2に示すように、バイオエタノール生成工程Pによって生成され、被処理液貯留槽10に貯留されたバイオエタノールを含む被処理液(BE)中のバイオエタノール濃度は、90重量%程度以上が望ましい。
【0021】
<イオン交換樹脂接触処理工程>
本実施の形態では、バイオエタノール濃度が90重量%以上である被処理液(BE)は、ポンプ14により、イオン交換樹脂充填塔40に送液され、内部に充填されたイオン交換樹脂41に通液される(イオン交換樹脂接触処理工程)。
被処理液(BE)をイオン交換樹脂充填塔40に充填されたイオン交換樹脂41に通液する際の通液量は、特に限定されない。本実施の形態では、イオン交換樹脂充填塔40に通液する1回の通液量は、イオン交換樹脂充填塔40に充填したイオン交換樹脂41の容積の5BV〜150BV、好ましくは、10BV〜120BVの範囲から選択される。ここで、BVは、イオン交換樹脂量に対する通液倍量(BV:BED VOLUME)である。
また、通液速度は、空間速度(SV)が5/時〜30/時であり、通水温度は、30℃〜45℃で成行きである。ここで空間速度(SV)は、1時間当たりの通液倍量(BV)である。
【0022】
本実施の形態では、イオン交換樹脂接触処理工程により、バイオエタノールを含む被処理液(BE)中に含まれる有機酸が除去される。有機酸としては、例えば、酢酸、酪酸、イソ酪酸、プロピオン酸等が挙げられる。
イオン交換樹脂接触処理工程を経て有機酸が除去されることにより、処理されたバイオエタノールの水素イオン濃度指数(pH)は、7.0±1.0の範囲に保たれ、長期間の保管後にpHが低下することが防止される。
【0023】
<イオン交換樹脂>
ここで、イオン交換樹脂充填塔40に充填するイオン交換樹脂41について説明する。
本実施の形態において使用するイオン交換樹脂41としては、例えば、スチレン系又はアクリル系の架橋共重合体からなる樹脂母体に、下記一般式(1)で示される4級アンモニウム塩基が結合した強塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。
−A−N(R)X (1)
ここで、一般式(1)において、Aは、炭素数3〜炭素数8の直鎖状アルキレン基又は炭素数4〜炭素数9のアルコキシメチレン基を表す。Rは、水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜炭素数4のアルキル基、R及びRは、炭素数1〜炭素数4の炭化水素基を表す。Xは、アンモニウム基に配位した対イオンを表す。
【0024】
Aの直鎖状アルキレン基としては、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。また、アルコキシ基としては、例えば、ブトキシメチレン基、ペントキシメチレン基等が挙げられる。
、R及びRの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
としては、例えば、Cl、Br、I等のハロゲンイオン;硫酸イオン、NO、OH、p−トルエンスルホン酸イオン等のアニオンが挙げられる。ここで、アニオンが硫酸イオン等の2価である場合、一般式(1)で表される構造単位2個に対して、アニオン1個が結合する。
【0025】
一般式(1)において、R及びRは、メチル基が好ましい。さらに、4級アンモニウム塩基としては、Rが、メチル基であるトリメチルアンモニウム塩基(I型強塩基性陰イオン交換樹脂)、またはRが、ヒドロキシエチル基であるジメチルヒドロキシエチルアンモニウム塩基(II型強塩基性陰イオン交換樹脂)が好ましい。
【0026】
また、架橋共重合体を構成する不飽和炭化水素基含有架橋性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。これらの中ではジビニルベンゼンが好ましい。
【0027】
本実施の形態で使用する強塩基性陰イオン交換樹脂は、全アニオン交換基に対する一般式(1)で表される4級アンモニウム基の割合は90%以上であることが好ましく、全アニオン交換基の実質的全量が一般式(1)で表される4級アンモニウム基であることが特に好ましい。
【0028】
このような強塩基性陰イオン交換樹脂は、例えば、グリニヤール法に従い、クロルメチルスチレン及び炭素数3〜炭素数8のポリメチレン基を有するポリアルキレンジハライドの反応物と、または、ビニルベンジルアルコール及び1,ω−ジハロゲノアルカンの反応によって得られるアルコキシメチレン基を有するω−ハロゲノメチルスチレンと、架橋剤としてのジビニルベンゼンとの共重合によって製造することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。但し、本発明は、その要旨を越えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
蒸留処理を行った被処理液(pH:5.83)をイオン交換樹脂と接触させ、得られた処理液についてpH測定を行った。pH測定は、イオン交換樹脂と接触処理直後の処理液と接触処理後10日経過した処理液について行った。結果を表1に示す。尚、被処理液とイオン交換樹脂との接触処理、被処理液のpH測定、被処理液をイオン交換樹脂と接触処理して得られた処理液のpH測定は、以下の条件で行った。
【0031】
(イオン交換樹脂接触処理条件)
イオン交換樹脂:強塩基性イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製/ダイヤイオンPA312)
カラム:10mmΦ×1000mmHジャケット付ガラスカラム
イオン交換樹脂量:50mL
通液SV:20(1/h)
温度:40℃
再生レベル:100g−NaOH/L−R
被処理液中のエタノール濃度:99.5%以上
【0032】
(被処理液と処理液のpH測定)
pH測定器:株式会社堀場製作所製F−24
電極:非水溶媒用電極(株式会社堀場製作所製6377−10D)
測定基準:JASO規格法による
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示す結果から、被処理液と強塩基性イオン交換樹脂との接触処理により得られた処理液のpHは、接触処理直後に7.0±1.0の範囲になり、その後、10日経過後のpHも、この範囲に保たれることが分かる。
【0035】
以上、説明したように、本発明では、バイオマスから生成されたバイオエタノールを含む被処理液とイオン交換樹脂とを接触させる構成を採用している。これにより、保管中にバイオエタノールのpHの低下が防止される。
【符号の説明】
【0036】
10…被処理液貯留槽、14…ポンプ、40…イオン交換樹脂充填塔、41…イオン交換樹脂、100…精製装置、P…バイオエタノール生成工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスから生成されたバイオエタノールを含む被処理液とイオン交換樹脂とを接触させるイオン交換樹脂接触処理工程を有することを特徴とするバイオエタノールの精製方法。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂接触処理工程は、前記イオン交換樹脂と接触処理されて得られる処理液のpHが7.0±1.0の範囲になるように、前記被処理液中に含まれる有機酸を当該被処理液から除去することを特徴とする請求項1に記載のバイオエタノールの精製方法。
【請求項3】
前記イオン交換樹脂が強塩基性陰イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオエタノールの精製方法。
【請求項4】
バイオマスから生成されたバイオエタノールを含む被処理液とイオン交換樹脂とを接触させるイオン交換樹脂接触手段を備えることを特徴とするバイオエタノールの精製装置。
【請求項5】
前記イオン交換樹脂接触手段における前記イオン交換樹脂は、架橋共重合体に結合した4級アンモニウム塩基を有する強塩基性陰イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項4に記載のバイオエタノールの精製装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−37719(P2011−37719A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183558(P2009−183558)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000232863)日本錬水株式会社 (75)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】