説明

バイオガス生成システム

【課題】 糞尿などを発酵してバイオガスを出力するバイオガス生成プラントにおいて、バイオガスの出力変動を抑制する。
【解決手段】 原料受入槽21において、糞尿などの原料11を受け入れて消化液15を脱水した水分16で希釈し、消化液15を熱源とした加温装置24で加温して被処理物12として発酵槽2に供給するバイオガス生成プラント1を提供する。消化液15を用いることにより、バイオガス生成プラント1のエネルギー収支を悪化させずに被処理物12を加温でき、被処理物12の投入による発酵槽2の温度変化を抑制できるので、その後のバイオガスの生成のピークを抑制し、出力変動を小さくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糞尿などを被処理物として発酵させたバイオガスを供給するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
家畜の糞尿を集めて処理する過程で生成されたバイオガスを用いて発電したり、冷暖房したりするシステムが研究されている。発電施設については、バイオガスを燃焼させることにより火力発電を行なったり、バイオガスを改質して燃料電池の燃料として発電に利用するなどのシステムが検討されている。
【0003】
糞尿を処理する過程において、消化槽あるいは発酵槽と称される容器あるいはタンクに糞尿を被処理物として受け入れて、嫌気性状態で一定時間滞留させることによりメタン発酵させ、バイオガス(消化ガス)を発生させる。発酵槽においてガスの排出を促進させる技術についての検討は進められており、例えば、特開平5−0269494号公報においては、汚泥に、焼却灰、破砕ごみ、もみがら、木屑、破砕されたし渣などをガス排出促進剤用添加物(事前添加物)として混入してから消化槽に入れることが開示されている。
【特許文献1】特開平5−269494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の発酵システムでは、糞尿などの汚泥を効率良く発酵させて消化ガスを出力することだけが目的であった。これに対し、発電設備の一環としてバイオガスを生成(発生)するシステムでは、汚泥を効率良く発酵させることも重要な目的の1つであるが、さらに、バイオガスの出力を一定にすることも重要な目的の1つである。すなわち、この種の発電設備の発電量は、いわゆる発電所として商業的に発電するプラントに比して発電量は小さく、電力消費に合わせて発電量を変更することは必要であるとしても、発電効率の観点からは発電量を一定に保ち、消費電力の変動は、蓄電設備を用意したり、外部の商用の電力供給システムからの供給により賄うことが望ましい。この場合、発電の際の燃料消費も一定になるので、燃料となるバイオガスも一定量がコンスタントに生成されることが望ましい。バイオガスの生成量の変動が大きいと、バイオガスの生成システムにバッファとして大容量のタンクを用意する必要があり、可燃性のガスを大量に貯めることになるとシステムが複雑で高価なものになる。
【0005】
バイオガスの生成量は、投入される汚泥の量とタイミングに影響され、投入後、若干時間が経過した時点で発酵が急激に進み、バイオガスの生成量が急激に増加することが知られている。バイオガスの生成量を一定にするために、汚泥を連続的に投入する案もある。しかしながら、汚泥を投入するためには、発酵槽から消化液を抜き出す必要があるが、その処理を連続して行うことになると、発酵槽内の汚泥の最小滞留時間が確保できなくなる可能性がある。したがって、有機汚泥を連続投入して消化液を連続して抜く方法は、全く消化されていない有機汚泥が消化液に混入する可能性があるので好ましくなく、汚泥の供給はバッチ処理にせざるを得ない。
【0006】
そこで、本発明においては、汚泥を1日1回または1日数回のレベルで断続的に投入する方法を採用したときに、バイオガスの出力変動を抑制することができるバイオガス生成システムを提供することを目的としている。さらに、出力変動を抑制するために余分なエネルギーや他の資源を消費することの少ないバイオガス生成システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発酵槽において、被処理物を投入した後、若干の時間が経過してから急速にバイオガスの出力が増加するのは、発酵により分解される原料となる被処理物の量が急激に増加して発酵が急激に促進されるからである。発酵によるバイオガスの生成(発生)を促進する要因の1つとして、さらに、発酵槽内の温度がある。すなわち、発酵を行うメタン菌の活動範囲(発酵温度)は、35℃〜42℃であり、発酵槽内の温度を発酵温度に保つために、通常、発酵槽は保温され、ボイラーなどを熱源とする加温(加熱)設備が設けられている。したがって、被処理物を発酵槽に投入すると、発酵槽内の温度が急激に低下するために加温装置により発酵槽内は急激に加熱され、その結果、発酵槽内の温度が急激に上昇して発酵が急速に促進される。このため、被処理物を投入した後のバイオガスの出力の急激な増加を抑制するためには、発酵槽内の温度上昇を抑えることが考えられる。しかしながら、被処理物を投入することにより発酵槽内の温度が急激に低下することを許容すると、逆に、被処理物を投入直後のバイオガスの出力が急激に低下して、バイオガスの出力変動を抑制できない。
【0008】
そこで、本発明においては、発酵槽に投入する有機汚泥などの被処理物を、事前に加温してから投入する。すなわち、本発明のバイオガス生成システムは、被処理物を受け入れ、当該被処理物の発酵により得られたバイオガスを出力する発酵槽と、発酵槽の内部を加温するための第1の加温装置と、加温された被処理物を発酵槽に供給する被処理物供給システムとを有する。発酵槽に投入する被処理物の温度を発酵温度の下限またはそれを若干下回る程度に加温しておくことにより、発酵槽に被処理物を投入したときの発酵槽内の温度低下を防止または抑制でき、投入直後のバイオガスの出力の低下を防止できる。それと共に、発酵槽内の温度を第1の加温装置により急激に上昇させる制御は不要なので、発酵槽内の温度を発酵に必要な最低温度に維持したり、逆に発酵槽内の温度を緩やかに下げる制御が可能となり、被処理物を投入した後のバイオガス出力の急激な上昇を防止し、バイオガス出力の変動を抑制できる。
【0009】
投入前の被処理物を加温するために、ボイラーなどを熱源とする加温(加熱)装置を用意することができる。一方、発酵槽は発酵温度に加熱されており、発酵槽内の処理物の容量を一定に保つため、被処理物を投入すると共に、消化液を排出する処理を行う。したがって、消化液を投入前の被処理物を加熱する熱源とすることにより、被処理物を加熱するためのエネルギー消費を節約できる。それと共に、被処理物は、消化液の温度程度まで加熱されるだけなので、発酵槽内の温度を超えて加熱されることはなく、被処理物を事前に投入するのにほぼ適した温度に加熱することができる。したがって、被処理物供給システムは、糞尿を受け入れる原料受入槽と、発酵槽から排出される消化液の熱により原料受入槽内を加温する第2の加温装置とを備えていることが望ましい。
【0010】
さらに、被処理物供給システムにおいて、原料受入槽では、受け入れた糞尿を、一定の範囲の粘度の被処理物に加工するために水分を加える処理を行う。この水分として、発酵槽から排出された消化液を用いることにより、消化液の熱量により直に被処理物を加温できる。したがって、被処理物供給システムは、消化液を原料受入槽に供給する消化液供給システムを備えていることが望ましい。この際、消化済みの汚泥がリサイクルされることを防止するために、消化液供給システムは、消化液から固形分を分離する分離装置を備えることが望ましい。
【0011】
消化液を原料から被処理物の加工に用いることにより、発酵槽に投入される被処理物に対して事前にメタン菌を混入させることができる。発酵槽においては、発酵槽内の処理中の汚泥を、攪拌機などを用いて攪拌してメタン菌との接触を確保する処理を行い、被処理物が投入された直後は、被処理物にメタン菌を混入するために攪拌の頻度を上げる処理を行うことが多い。この処理によっても、被処理物を投入した後に急激にバイオガスが増加すること考えられる。したがって、事前にメタン菌が混入した被処理物を投入することにより、攪拌の程度を増加する処理を省くことが可能となり、この点でも、投入後のバイオガスの急激な増加を抑制できる。したがって、本発明においては、発酵が進みやすい状態にした被処理物を投入することにより、逆に、被処理物を投入した後の発酵槽内の状態を、発酵を抑制する方向に制御することを可能とし、バッチ処理で被処理物を注入しても、その後のバイオガスの急激な上昇を抑えて、バイオガスの出力変動を防止できるようにしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に、家畜の糞尿からバイオガスを生成するバイオガス生成システムの一例として、消費側である発電プラントに供給するバイオガス生成プラントの概略構成を示してある。このバイオガス生成プラント1は、被処理物12を受け入れ、当該被処理物の発酵により得られたバイオガス14を出力する発酵槽2と、発酵槽2の内部を加温するための温水ボイラシステム3と、加温された被処理物12を発酵槽2に供給する被処理物供給システム10とを備えている。発酵槽2は、内部の処理物(有機汚泥)13を攪拌する攪拌装置4を備えており、温水ボイラシステム3は発酵槽2の内部の処理物13を発酵に適した35〜42℃に加温する。
【0013】
バイオガス生成プラント1は、さらに、発酵槽2から出力されたバイオガス14を一時的に蓄積するガスバッグ5と、発酵槽2から消化液15を抽出する消化液移送ポンプ7と、抽出された消化液15を蓄える消化液槽8とを備えている。消化液槽8に蓄えられた消化液15は、ポンプ9により、液肥などに使用するために排出される。ガスバッグ5には、消費プラントとして燃料電池プラント50が接続されており、ガスバッグ5から供給されたバイオガスが改質され、燃料電池の燃料として消費される。
【0014】
被処理物供給システム10は、原料である糞尿11を受け入れて被処理物12を加工する原料受入槽21と、被処理物12を原料受入槽21から発酵槽2に供給する移送ポンプ22と、原料受入槽21の内部の原料などを攪拌する攪拌装置23と、原料受入槽21の内部の原料などを加温する加温装置24とを備えている。原料受入槽21において、糞尿11の粘度を下げるために投入される水分としては消化液15が使用されるようになっている。このため、被処理物供給システム10は、消化液15から固形分を分離する分離装置25を備えており、分離装置25で分離された水分16が原料受入槽21に供給される。分離装置25で分離された固形分17は、肥料などとして使用するために排出される。
【0015】
消化液15は、さらに、原料受入槽21の内部を加熱する加温装置24の熱源としても利用される。このため、被処理物供給システム10においては、消化液移送ポンプ7から消化液15を受け入れて、分離装置25と、加温装置24とに配管により分割し、原料受入槽21の液面を制御する制御装置26により制御される制御弁27および28を設置して、分離装置25に供給される消化液15の量と、加温装置24に供給される消化液15の量とを調整している。分離装置25を介して原料受入槽21へ供給される消化液15の流量を制御するための制御弁27は、流量をバリアブルに調整できるタイプが好ましい。原料受入槽21を加温する加温装置24への消化液15の供給を制御する制御弁28は、温度コントロールの精度は不要なのでオンオフタイプで十分である。そして、本例においては、発酵槽2から排出される消化液15は、原料11の稀釈に用いられるか、少なくとも原料受入槽21を加温した後に消化液槽8に蓄えられるようになっている。したがって、消化液15は、発酵槽2において加温された熱量が、必ず、原料受入槽21の内部の被処理物を加温するために使用された後に、消化液槽8に排出される。
【0016】
消化液15を固分17と水分16に分離する分離装置25は、脱水機とも呼ばれ、ローラプレスタイプ、スクリュープレスタイプなどの市販の分離装置を適用できる。固分17は、堆肥化設備(不図示)に供給されて堆肥化処理を行った後に、肥料として販売することが可能である。水分16は、原料11の希釈液として使用される。また、消化液15は液肥処理設備(不図示)に供給され、液肥料化処理を行った後に、液肥料として販売することが可能である。そして、液肥料化されなかった水分は、さらに、汚水浄化処理設備(不図示)で浄化した後に河川に放流することができる。
【0017】
このバイオガス生成プラント1の被処理物供給システム10では、原料受入槽21において、原料である糞尿11を希釈する水分として、発酵槽2から排出された消化液15の水分16を使用する。消化液15は、発酵槽2で加温されており、また、発酵に使用されたメタン菌を含んでいる。したがって、この原料受入槽21で調整された被処理物12は、消化液15に含まれているメタン菌が混入され、また、消化液15の熱量により加温された被処理物となる。さらに、原料受入槽21の内部は、消化液15を熱源とする加温装置24により加温される。したがって、原料受入槽21の被処理物12は、消化液15の熱量により加温される。
【0018】
このため、被処理物供給システム10から、バイオガスを生成のために発酵槽2に供給される被処理物12は、消化液15により事前に加熱され、さらに、メタン菌を事前に含んだものとなる。したがって、被処理物12を発酵槽2に投入したときの発酵槽2の内部の温度低下は少ないので、発酵槽2の加熱装置であるボイラシステム3により発酵槽2を急激に加熱しなくても、発酵槽2の温度を維持でき、バイオガスの生成量を維持できる。また、攪拌装置4により発酵槽2の内部を急激に攪拌しなくてもバイオガスの生成量を維持できる。このため、このバイオガス生成プラント1においては、被処理物12を投入した後に、発酵槽2を急激に加熱したり、急激に攪拌する必要がなくなり、その後のバイオガスの発生が急激に増加する要因を緩和できる。そして、被処理物12の投入時あるいはその直後の発酵槽2の内部条件を維持し、あるいは逆に、発酵槽2の条件を発酵が減衰する方向に制御することが可能となる。したがって、被処理物12を投入した後のバイオガスの出力のピークを低く抑え、バイオガスの生成量の変動を抑制できる。
【0019】
被処理物供給システム10において被処理物12を加温する熱源として、ボイラシステム3の熱水を用いたり、あるいは被処理物供給システム10のためのボイラシステムを設置することも可能である。しかしながら、その場合は、新たに熱源が必要になるため、エネルギー消費が増大し、バイオガス生成プラント1としてのエネルギー収支は悪化する。また、ボイラシステムから供給される熱水は高温になるので、原料受入槽21の内部の温度制御を行う新たなシステムが要求される。これに対し、消化液15を熱源として利用すると、バイオガス生成プラント1のエネルギー収支の悪化を防止できる。また、消化液15の温度は最高で発酵槽2の内部の温度なので、原料受入槽21の内部の温度が発酵槽2の温度以上に上昇することはなく、温度を制御するシステムは不要である。夏場に外気温が高くなる地域に設置されるプラントにおいては、原料受入槽21の内部を加温することを望まない期間に備えて、加温装置24をバイパスして消化液15を直に消化液槽8に排出するバイパスラインを設けておくことが望ましい。
【0020】
このバイオガス生成プラント1では、被処理物12を投入した後のバイオガスの発生のピークを低くすることができるので、バイオガスを長時間にわたり安定した量で出力できる。したがって、バッファであるガスバッグ5の容量を小さくすることが可能となり、バイオガス生成プラント全体をコンパクトに纏めることができる。そして、消費側のプラントである燃料電池プラント50にはコンスタントにバイオガスを供給できるので、燃料電池プラント50を高効率で長時間にわたり稼動させることができる。
【0021】
また、被処理物12を投入した後のバイオガスの生成のピークを低く抑えることができるので、被処理物12を1日1回あるいは数回に分けて、バッチ処理で投入しても、消費プラント側へバイオガスを安定して供給できる。このため、被処理物である有機汚泥の発酵槽2の滞留時間を確保でき、発酵槽2をコンパクトでシンプルな構造にできる効果もある。すなわち、被処理物を連続投入して、消化液を連続排出するシステムを検討すると、被処理物の滞留時間を確保するためには、槽内を汚泥が循環するシステムを採用できず、ワンスルーのシステムを採用すれば、発酵槽は大型になり、また、メタン菌の循環が難しいなど様々な問題が発生する。これに対し、本発明を適用することにより、従来の発酵槽の内部で滞留させて発酵するシステムを用いて、バイオガスの出力の変動を抑制することが可能となる。
【0022】
なお、消費側のプラントとして燃料電池プラントを設けた例を示しているが、バイオガスをボイラの燃料として利用して発電・給湯するシステムに接続したり、バイオガスを家庭で使用される燃料として分配するシステムなどに接続することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るバイオガス生成プラントの概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 バイオガス生成プラント、 2 発酵槽、 3 ボイラシステム
5 ガスバッグ、 8 消化液槽
10 被処理物供給システム
11 原料(糞尿)、 12 被処理物、 14 バイオガス
15 消化液、 16 消化液を分離した水分、 17 消化液を分離した固分
21 原料受入槽、 24 加温装置、 25 分離装置
50 燃料電池プラント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を受け入れ、当該被処理物の発酵により得られたバイオガスを出力する発酵槽と、
前記発酵槽の内部を加温するための第1の加温装置と、
加温された前記被処理物を前記発酵槽に供給する被処理物供給システムとを有するバイオガス生成システム。
【請求項2】
請求項1において、前記被処理物供給システムは、糞尿を受け入れる原料受入槽と、
前記発酵槽から出力される消化液の熱により前記原料受入槽の内部を加温する第2の加温装置とを備えている、バイオガス生成システム。
【請求項3】
請求項2において、前記被処理物供給システムは、前記消化液を前記原料受入槽に供給する消化液供給システムを備えている、バイオガス生成システム。
【請求項4】
請求項3において、前記消化液供給システムは、前記消化液から固形分を分離する分離装置を備えている、バイオガス生成システム。

【図1】
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