説明

バイオセンサチップ組立用キット、バイオセンサチップの製造方法及びバイオセンサチップ

【課題】
電導性良好な金属電極を含み、射出成形で作製することが可能な2分割した構造体からなるバイオセンサ用チップであって、酵素等の活性に悪影響を与えない条件で、これら2分割構造体を接合して、寸法ばらつきが低減されたバイオセンサ用チップを提供するための手段の提供。
【解決手段】第1電極12、第1配線13と第1接合面14を有する第1部材10、並びに第2電極22、第2配線23と第2接合面23を有する第2部材20からなり、第1接合面14と第2接合面24が対向するように第1部材10と第2部材20を積層し接合させることでバイオセンサが組立てられるバイオセンサチップ組立用キット。接合により対向する第1電極12と第2電極22の隙間に、バイオセンサの測定対象となる被検体を導入するための空間と、この空間に被検体を導入するための導入孔16を有する。このキットを用いるバイオセンサチップの製造方法。このキットを用いて作製されるバイオセンサチップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサチップ組立用キット、バイオセンサチップの製造方法及びバイオセンサチップに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサには、酵素サンサ、微生物センサ、免疫センサなどがある。これらは、酵素群や抗原抗体の反応特異性を利用して、多数の有機物質が混在する溶液中でも、選択的に特定の有機物(測定対象、被検体)を識別定量できる。バイオセンサチップは、バイオセンサにおける測定対象を直接収納する部分であり、測定対象と特異的に作用する反応部(空間)を形成したバイオセンサチップ本体と、反応部での反応によって変化する現象を電気的に検出して外部に伝達する手段(電極と配線)を備えている。
【0003】
現在、広く普及している酵素電気化学測定としては、血糖値測定を行うグルコースセンサがある。このセンサ用の電極及び酵素等試薬を含むチップは、フィルムと印刷技術により作製されている。具体的には、フィルムに電極、接着剤、酵素等試薬を印刷して貼り合わせることにより作製している(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
この種のバイオセンサチップは、大量に作ることで安価である利点はあるものの、フィルムの製造ロットの違いによる寸法ばらつきが10%に達する場合もあり、この寸法バラツキは被検体のサンプリング量(測定対象の量)のバラツキに直結する。また、印刷による電極はカーボンを基材としており、電導性が悪いために感度への悪影響から測定精度の低下につながっている。現在は、これらの問題点を緩和するために複雑な補正機能を付与する必要がある(例えば、特許文献3)。そのため、結局は生産性、操作性を犠牲にしている。併せて、上記生産方法は、少量多品種には適さない方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−209219号公報
【特許文献2】特開2004−147845号公報
【特許文献3】特表2008−511841号公報
【特許文献4】WO2006/135061
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、複雑な補正機能を必要としない酵素センサ等のバイオセンサ用のチップを、少量多品種に適した形態で提供することを目的とする。
【0007】
これまでのバイオセンサチップは、基本的に、フィルムと印刷技術を用いて作製されている。フィルムの製造ロットの違いによる寸法ばらつきを解消するためには、射出成形による基板の提供が有力である。1つの構造体で射出成形することも可能であるが、この場合は内部に正確な酵素等の固定化が困難であり、このようなセンサは実現できない。そのため、射出成形のみで作製されたバイオセンサチップは知られていない。
【0008】
また、射出成形品を2分割した構造の場合、これを接合する必要がある。しかし、酵素等の活性に悪影響を与えない方法による接合ができずに、センサに必要な中空構造を実現することができなかった。
【0009】
本発明の目的は、電導性良好な金属電極を含み、射出成形で作製することが可能な2分割した構造体からなるバイオセンサ用チップであって、酵素等の活性に悪影響を与えない条件で、これら2分割構造体を接合して、寸法ばらつきが低減されたバイオセンサ用チップを提供するための手段を提供することにある。より具体的には、本発明の目的は、上記バイオセンサチップを形成するために用いることができるバイオセンサチップ組立用キット、このキットを用いるバイオセンサチップの製造方法、さらにはこのキットを用いて作製されるバイオセンサチップを提供することにある。
【0010】
本発明者らが検討した結果、電導性良好な金属電極を含む2分割した構造体を射出成形で作製することが可能であり、しかも、酵素等の活性に悪影響を与えない条件で、これら射出成形品(2分割構造体)を接合して、寸法ばらつきが低減されたバイオセンサ用チップが得られる手段を見出して、本発明を完成させた。
【0011】
本発明では、特許文献4に記載のポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体とを含有する樹脂組成物を用い、金属電極を一体に成形した射出成形品(2分割構造体)を、特許文献4には記載されていない、新たな方法で酵素等の活性に悪影響を与えることなく接合して、バイオセンサ用チップが得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下のとおりである。
[1]
第1基板、第1基板の表面に配設された第1電極、及び第1電極に接続する第1配線を含み、第1電極の第1配線側に、第1基材の厚さ方向に伸びる貫通孔を有し、かつ第2部材の第2接合面と接合されるため第1接合面を第1電極と同じ側の表面に有する第1部材、並びに
第2基板、第2基板の表面に配設された第2電極、及び第2電極に接続する第2配線を含み、かつ第1部材の第1接合面と接合されるため第2接合面を第2電極と同じ側の表面に有する第2部材、を含むバイオセンサ組立用キットであって、
第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部は、バイオセンサ用の生物材料を固定するために用いられ、
第1接合面と第2接合面が対向するように第1部材と第2部材を積層し接合したときに、
(1)前記第1電極及び第2電極の少なくとも一方は、第1電極と第2電極とが接触しないように、電極が配設された基板の表面より後退した位置に、前記対向する表面を有し、
(2)対向した第1電極と第2電極の隙間の空間は、バイオセンサの測定対象となる被検体を前記空間に導入するための導入孔を有し、
(3)第1配線と第2配線は、非接触状態であり、かつ
第1基板及び第2基板の少なくとも一方は、ポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである)とを含有する樹脂組成物からなり、
積層した第1部材と第2部材は、前記接合面を、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して前記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10〜40質量部含有する接着剤を用いて、前記バイオセンサ用の生物材料が失活しない温度条件での接合に付されて組立てられる、
前記バイオセンサチップ組立用キット。
[2]
一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである)を含有するアルコキシ又はアルキルシラン化合物を、前記接合面用接着剤としてさらに含む、[1]に記載のバイオセンサチップ組立用キット。
[3]
前記第1基板または第2基板は、第1基板の場合は、第1電極及び第1配線が配設された第1基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第1電極及び第1配線と非接触状態でさらに含み、第2基板の場合は、第2電極及び第2配線が配設された第2基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第2電極及び第2配線と非接触状態でさらに含み、
第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を積層し接合したときに、
前記第3電極は、前記対向した第1電極と第2電極の隙間の空間に、少なくとも一部の表面が露出する
[1]または[2]に記載のバイオセンサチップ組立用キット。
[4]
前記第1部材および第2部材の少なくとも一方の接合面の少なくとも一部に、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して前記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10〜40質量部含有する接着剤層を有する、[1]に記載のバイオセンサチップ組立用キット。
[5]
前記第1基板または第2基板は、第1基板の場合は、第1電極及び第1配線が配設された第1基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第1電極及び第1配線と非接触状態でさらに含み、第2基板の場合は、第2電極及び第2配線が配設された第2基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第2電極及び第2配線と非接触状態でさらに含み、
第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を積層し接合したときに、
前記第3電極は、前記対向した第1電極と第2電極の隙間の空間に、少なくとも一部の表面が露出する
[4]に記載のバイオセンサチップ組立用キット。
[6]
前記第1部材および第2部材は射出成形により作製したものである[1]〜[5]のいずれかに記載のバイオセンサチップ組立用キット。
[7]
[1]または[3]に記載のバイオセンサチップ組立用キットの第1部材と第2部材の、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部にバイオセンサ用の生物材料を固定し、第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を積層し、[2]に記載の接合面用接着剤を用いて第1部材と第2部材の接合面を、前記生物材料が失活しない温度条件で接合することを含む、バイオセンサチップの製造方法。
[8]
[4]または[5]に記載のバイオセンサチップ組立用キットの第1部材と第2部材の、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部にバイオセンサ用の生物材料を固定し、第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を積層し、前記接着剤層を介して第1部材と第2部材の接合面を、前記生物材料が失活しない温度条件で接合することを含む、バイオセンサチップの製造方法。
[9]
前記生物材料が、酵素、抗原、抗体、ペプチド、タンパクおよび核酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の材料である[7]または[8]に記載の製造方法。
[10]
前記生物材料が失活しない温度条件が、30〜40℃の範囲である[7]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]
[7]〜[10]のいずれかに記載の方法で製造して得られたバイオセンサチップ。
[12]
第1基板、第1基板の表面に配設された第1電極、及び第1電極に接続する第1配線を含み、第1電極12の第1配線側に、第1基材11の厚さ方向に伸びる貫通孔18を有し、かつ第2部材の第2接合面と接合されるため第1接合面を第1電極と同じ側の表面に有する第1部材、並びに
第2基板、第2基板の表面に配設された第2電極、及び第2電極に接続する第2配線を含み、かつ第1部材の第1接合面と接合されるため第2接合面を第2電極と同じ側の表面に有する第2部材、を含み、
第1基板及び第2基板の少なくとも一方は、ポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである)とを含有する樹脂組成物からなり、
第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部に、バイオセンサ用の生物材料が固定されており、
前記第1部材および第2部材は、第1接合面と第2接合面が対向するように積層し、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して上記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10〜40質量部含有する接着剤を用いて接合されたものであり、
(1)前記第1電極及び第2電極の少なくとも一方は、第1電極と第2電極とが接触しないように、電極が配設された基板の表面より後退した位置に、前記対向する表面を有し、
(2)対向した第1電極と第2電極の隙間の空間は、バイオセンサの測定対象となる被検体を前記空間に導入するための導入孔を有し、かつ
(3)第1配線と第2配線は、非接触状態である、
バイオセンサチップ。
[13]
前記生物材料が、酵素、抗原、抗体、ペプチド、タンパクおよび核酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の材料である[12]に記載のバイオセンサチップ。
[14]
[11]〜[13]のいずれかに記載のバイオセンサチップを含むバイオセンサ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複雑な補正機能を必要としない酵素センサ等のバイオセンサ用のチップを、少量多品種に適した形態で提供することを可能にする、バイオセンサ組立用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1部材の背面(a)および接合面(b)の斜視図である。
【図2】第1部材の背面(a)、接合面(b)および側面(c)の平面図、A-A断面図およびB-B断面図である。
【図3】第2部材の背面(a)および接合面(b)の斜視図である。
【図4】第2部材の背面(a)、接合面(b)および側面(c)の平面図、A-A断面図およびB-B断面図である。
【図5】第1部材10及び第2部材20を積層し接合してバイオセンサチップ30とした状態を示す。
【図6】実施例における第1部材及び第2部材を積層し接合する手順を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[バイオセンサ組立用キット]
本発明は、バイオセンサ組立用キットであって、このキットは、第1基板、第1基板の表面に配設された第1電極、及び第1電極に接続する第1配線を含む第1部材、並びに
第2基板、第2基板の表面に配設された第2電極、及び第2電極に接続する第2配線を含む第2部材、を含み、前記第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部は、バイオセンサ用の生物材料を固定するために用いられる。
【0016】
図1は、第1部材の接合面とは反対側の背面側から見た斜視図(a)および接合面側から見た斜視図(b)である。図2は、第1部材の背面(a)、接合面(b)および側面(c)の平面図、A-A断面図およびB-B断面図である。図3は、第2部材の接合面とは反対側の背面側から見た斜視図(a)および接合面側から見た斜視図(b)の斜視図である。図4は、第2部材の背面(a)、接合面(b)および側面(c)の平面図、A-A断面図およびB-B断面図である。いずれの図中の第1部材および第2部材も、接合する前の状態である。図1から図4に基づき本発明の実施形態を説明する。
【0017】
第1部材10は、第1基板11、第1基板11の接合面側には凹部15に埋設された第1電極12、及び第1電極12に接続する第1配線13を含む。第1基板11の接合面側には凹部15が設けられており、この凹部に第1電極が露出するように埋設される。第1電極12および凹部15は、第1基板11の接合面側のいずれかの端部に配設される。第1電極の露出面はバイオセンサ用の生物材料を固定するために用いられるか、または、第2電極にバイオセンサ用の生物材料を固定する場合には、対極として用いられる。第1配線13は一端が第1電極12に接続し、かつ、他端が、第1電極12が埋設された第1基板11の接合面の端部とは反対側の端部から第1基板11の外側まで延在し、端部付近では接合面側に露出して外部との電気的接続を可能にする。図1および2に示す第1部材10では、第1配線13は、第1電極12との接続部分および開放端の途中まで13'で示すように、第1基板11中に埋設されている。
【0018】
さらに第1部材10は、第1電極12の第1配線側に、第1基材11の厚さ方向に伸びる貫通孔18が設けられており、前記凹部15と第1基材11の背面側とを連通している。貫通孔18の機能については後述する。
【0019】
第2部材20は、第2基板21、第2基板21の接合面側に埋設された第2電極22、及び第2電極22に接続する第2配線23を含む。第2電極22は、第2基板21の接合面側のいずれかの端部に配設され、バイオセンサ用の生物材料を固定するために用いられるか、または、第1電極にバイオセンサ用の生物材料を固定する場合には、対極として用いられる。第2配線23は、第2電極22に接続し、かつ、第2電極22が配設された第2基板21の接合面の端部とは反対側の端部まで延在し、外部との電気的接続を可能にする。第2配線23は、第2基板21と同一の材質からなる2つの固定部材27で第2基板21の接合面24に固定される。また、図1(b)および図2(b)に示すように、第2基板21の接合面24に対向する第1部材10の接合面14には、第2基板21の接合面において凸部となる2つの固定部材27を収容する2つの凹み17が設けられる。2つの凹み17は、第1基材の接合面の離隔した位置に第1基材の短辺方向に伸びる2つの溝として設けられる。
【0020】
尚、第1部材10の接合面14の2つの凹み17の間にも凹み17aが設けられ、凹み17aは電極逃しとして機能する。第2基板21を構成する樹脂と第2配線23を構成する金属では熱膨張率が異なる。そのため、射出成形した後に、電極の歪みが発生する場合がある。第2配線23を固定するために第2基板に設けられた2つの固定部材27の間で、この歪による第2配線23の基板表面からの盛り上がり(凸状の歪み)が発生するように設計している。そして、歪による第2配線23の基板表面からの盛り上がりを吸収するために、第2基板21と対向して接合される第1基板11の上記2つの固定部材27の間に向かい合う部分に凹み17aを設け、電極の凸状の歪みを逃がし(吸収し)機能を付与することで、第1基材と第2基材の接合面の接合時の密着を確保している。
【0021】
第1電極12及び第2電極22の少なくとも一方の表面の少なくとも一部は、バイオセンサ用の生物材料を固定するために用いられる。そのために十分な面積を有するものである。
【0022】
上記第1部材10及び第2部材20は、第1電極12及び第2電極22の少なくとも一部が対向するように積層し接合されて、センサを構築するために用いられる。そして、第1電極12と第2電極22の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を接合したときに、以下の(1)〜(4)の関係を有する構造を有する。第1部材10及び第2部材20を積層し接合してバイオセンサチップ30を形成した状態を図5に示す。第2部材20の突出部28に第1部材10から延存する第1配線13と第2電極23および第3電極26が並んでいる。このような構造の突出部28は、組立てられたバイオセンサチップの測定装置との接続端子として機能する。また、図5に示す第1部材10に設けられた貫通孔18は断面形状が図1および2(円形)と異なり、角が丸い三角形である。但し、貫通孔18の断面形状に特に制限はない。
【0023】
(1)第1電極12及び第2電極22の少なくとも一方は、第1電極12と第2電極22とが接触しないように、電極が埋設された基板の表面より後退した位置に、前記対向する表面を有する。本実施態様では、図1および2に示す、第1電極12が凹部15の底面に位置する。第1電極12が基板11の表面より後退した位置に配設された状態は、図1の(b)、図2の(c)およびA-A断面図に示されている。第1電極12は、表面の一部が凹部15の底面において露出するように基板11に埋設されている。
【0024】
(2)対向した第1電極12と第2電極22の隙間の空間は、バイオセンサの測定対象となる被検体を前記空間に導入するための導入孔を有する。図1および2に示す第1部材10においては、凹部15を有するので、第1電極12が基板11の表面より後退した位置に配設されている。一方、図3(b)および図4(b)、(c)に示す第2部材20の第2電極22を設けた接合面側に示すように、第2電極22は、表面が露出するように第2基板21に埋設され、かつ第2電極22の露出表面と第2基板21の接合面とは同じ高さか、または第2基板21の接合面より後退した位置に配設される。こうすることで、第1電極12と第2電極22との間にバイオセンサの測定対象となる被検体を導入するための空間が形成され、かつ第1部材10の第1電極12を設けた端面は開口となることから、この開口は上記空間と外部との導入孔16となる。
【0025】
第1基材11の凹部15が第2基材21と接合して閉鎖されると、対向した第1電極12と第2電極22の隙間に被検体を収容するための空間が形成される。この空間にはバイオセンサの測定対象となる被検体を前記空間に導入するための導入孔16と、導入孔16の反対側に位置して被検体導入時に空間内の空気を大気中に逃す貫通孔18とが設けられる。導入孔16は、第1基材11を射出成形するときに凹部15の一端を切り欠く構造となるように金型を製作しておけばよい。
【0026】
(3)第1配線13と第2配線23は、非接触状態である。図1および2に示す第1基板11の表面に配設された第1配線13と、図3および4に示す第2基板21の表面に配設された第2配線23とは、第1電極12と第2電極22の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を接合したときに、互いに非接触状態になる位置に設けられている。
【0027】
(4)第1部材及び第2部材は、第1部材と第2部材を接合して一体化可能な対向する接合面をそれぞれ有する。第1部材については、第1基板11の表面14が接合面になり、第2部材については、第2基板21の表面24が接合面になる。第2基板21の接合面24には接合時の位置決めのための2つの29ピン(突起)を設けることができ、対向する第1基板11の接合面14には2つの29ピン(突起)を受け入れるための2つ凹み19を設けることができる。
【0028】
第1部材と第2部材は、互いの接合面を向かい合わせたときに平面が同一となるような寸法および形状を有する。但し、第2部材は、第2配線の第2電極とは反対側の端側において、第1部材と対向しない突出部28を有することができる。第2配線23および、後述する第3配線26は、突出部28の端部まで延存する。また、第1部材10に設けられた第1配線の第1電極とは反対側にはみ出した端側は、第2部材と接合したときに突出部28に設けられた第2配線の端部とほぼ同じ長さになるようにする。このような構造とすることで突出部28は、組立てられたバイオセンサチップの測定装置との接続端子として機能させることができる。
【0029】
本発明のバイオセンサチップ組立用キットは、上記構造に加えて、第1基板または第2基板は、第1基板の場合は、第1電極及び第1配線が配設された第1基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第1電極及び第1配線と非接触状態でさらに含み、第2基板の場合は、第2電極及び第2配線が配設された第2基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第2電極及び第2配線と非接触状態でさらに含むことができる。図1および2に示す第1基板は、上記第3電極及び第3配線は有さず、図3および4に示す、第2基板21が、第3電極25及び第3配線26を有する。第3電極は、第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を接合したときに、前記対向した第1電極と第2電極の隙間の空間に、少なくとも一部の表面が露出する。これにより、第1電極と第3電極または第2電極と第3電極の間に導電性の溶液である被検体が導入されたときに導通が得られ、被検体が凹部15に導入されたことを電気的に確認できる。
【0030】
第1基板及び第2基板の少なくとも一方は、ポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである)とを含有する樹脂組成物からなる。好ましくは第1基板及び第2基板のいずれもが、上記樹脂組成物からなるものである。
【0031】
ここで、ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリマー又は、エチレン、ブテンー1、ヘキセンー1などのα―オレフィンを含むランダムコポリマーを用いることができる。ポリマーブロックXとして、ビニル芳香族モノマー(例えばスチレン)、エチレン又はメタクリレート(例えばメチルメタクリレート)等の重合したポリマーがある。なお、一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体には、(X−Y)nにおいてn=1〜5の範囲にあるものや、X−Y−X、Y−X−Y等が含まれる。
【0032】
水素添加誘導体のポリマーブロックXとしては、ポリスチレン系とポリオレフィン系のものがあり、ポリスチレン系のものは、スチレン、α−メチルスチレン、ο−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンのうちから選択された1種又は2種以上のビニル芳香族化合物をモノマー単位として構成されるポリマーブロックが上げられる。また、ポリオレフィン系のものは、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンの共重合体がある。更に非共役ジエンが共役重合されていても良い。前記オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等である。前記非共役ジエンとしては、例えば、1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボネル、5−ブチリデン−2−ノルボネル、2−イソプロペニル−5−ネルボルネン等がある。共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体等が挙げられる。
【0033】
ポリマーブロックYの水素添加前のものとして、2−ブテン−1,4−ジイル基及びビニルエチレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基をモノマー単位として構成されるポリブタジエンや、また2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基、イソプロペニルエチレン基及び1−メチル−1−ビニルエチレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基をモノマー単位として構成されるポリイソプレンが挙げられる。更に水素添加前のポリマーブロックYとして、イソプレン単位及びブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるイソプレン/ブタジエン共重合体で、イソプレン単位が2−メチルー2−ブテン−1,4−ジイル基、イソプロペニルエチレン基及び1−メチル−1−ビニルエチレン基からなる群から選ばれるすくなくとも1種の基であり、ブタジエン単位が2−ブテン−1,4−ジイル基及び/又はビニルエチレン基であるものが挙げられる。ブタジエン単位とイソプレン単位の配置は、ランダム状、ブロック状、テーパブロック状のいずれの形態になっても良い。
【0034】
また、ポリマーブロックYの水素添加前のものとして、ビニル芳香族化合物単位及びブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるビニル芳香族化合物/ブタジエン共重合体で、ビニル芳香族化合物単位が、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンのうちから選択された1種のモノマー単位であり、ブタジエン単位が、2−ブテン1,4−ジイル基及び/又はビニルエチレン基である共重合体が挙げられる。 ビニル芳香族化合物単位とブタジエン単位の配置は、ランダム状、ブロック状、テーパブロック状のいずれの形態になっても良い。上記のようなポリマーブロックYにおける水素添加の状態は、部分水素添加であっても、また完全水素添加であっても良い。
【0035】
なお、水素添加誘導体のポリマーブロックXがポリスチレンであり、ポリマーブロックYの水素添加前のものが1,2結合、3,4結合及び/又は1,4結合のポリイソプレンであると原材料を入手しやすい。スチレン成分はポリプロピレン系樹脂等と相溶しないので、その割合が高くなるとポリプロピレンとの混合に時間を要するので、スチレン成分の多い水素添加誘導体を用いるときはマスターバッチ化し、予め十分に混合しておくのが良い。
【0036】
水素添加誘導体のポリマーブロックXがポリスチレンであり、ポリマーブロックYの水素添加前のものが1,2結合及び/又は1,4結合のポリブタジエンである場合も原材料が入手しやすい。
【0037】
生化学研究に用いる器具において、測定対象(被検体)に直接接触する部分(反応部)は生態適合性に優れ、ポリペプチド等が吸着せず、生体物質に影響を与えないことが求められる。さらに、合成樹脂製のバイオセンサチップでは合成樹脂の改質のために添加されている添加剤が各種の操作過程で溶出しないことが必要である。上記のポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体で形成されるポリマーアロイからなる樹脂組成物は、水素添加誘導体の数十ナノメートルの球状のミクロドメイン、ポリプロピレンの結晶ラメラ、およびマトリックスをなすポリプロピレンの非晶マトリックスからなり、ポリプロピレンの結晶部部分のサイズはポリプロピレン単独の場合に比較して100分の1以下という特徴を有している。このため、機械的強度に優れており、バイオセンサチップとしての使用に十分耐え、加えてポリペプチド等が吸着せず、生体適合性に優れている。
【0038】
第1基板の表面に第1電極及び第1配線を含む第1部材、並びに第2基板の表面に第2電極及び第2配線を含む第2部材(但し、第2部材は、前述のように、さらに第3電極及び第3配線を含むこともできる)は、上記樹脂組成物と、電極及び配線の材料を用いて射出成形により成形することができる。第1部材および第2部材は射出成形により作製することができる。特に、第1電極および第1配線は、第1基材を射出成形する際にインサート成形により一体成形される。
【0039】
電極及び配線は、導電性の材料であれば特に制限はなく、種々の金属製の電極及び配線を用いることができ、例えば、導電性の良い非鉄金属である銅または銅合金製の電極または配線に表面処理、(例えば、Ag、Au等のメッキ)を行ったものを挙げることができる。好ましくは、銅製薄板にニッケルメッキを施したあと更に金メッキをしたものを所定の形状に打ち抜いたものである。打ち抜き成形された電極と配線を金型キャビティに押し当てピンで押圧固定して、樹脂組成物を射出することにより、上記第1部材及び第2部材を製造することができる。尚、電極の厚みは、例えば、0.05〜0.08mmの範囲とし、基板を構成する樹脂の収縮を考慮して、電極部分に樹脂が被らないように複数個の電極固定ピンを設けることが好ましい。
【0040】
本発明では、積層した第1部材と第2部材は、前記接合面を、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して前記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10〜40質量部、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは10〜20質量部含有する接着剤を用いて、前記バイオセンサ用の生物材料が失活しない温度条件での接合に付されて組立てられる。
【0041】
尚、前記水素添加誘導体の含有量が30質量部超えると、アルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して完全に溶解しない場合もある。しかし、水素添加誘導体が完全に溶解せず、一部が残渣となり分散した状態であっても接着力には問題はない。ただし、前記水素添加誘導体の含有量が多くなるとそれだけ接着剤の粘度が高くなる傾向がある。従って、塗布時の作業性を考慮すると、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して10質量部〜20質量部の範囲の添加量が最も望ましい。
【0042】
一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体は、上記第1基板及び第2基板を構成するために用いられるものと同様である。
【0043】
アルコキシ又はアルキルシラン化合物とは、例えば、下記の構造式で示すものであることができる。
【化1】

【化2】

【0044】
ここで、R1は水素、窒素、直鎖又は側鎖を有する、アルキル基あるいはアルケニル基のいずれかである。R1は末端に官能基を有していてもよいが、末端に官能基を有しないアルキル基であると、ポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を含有する結晶度の低い樹脂組成物への浸透性が良く、接合強度がより高い。R2、R3は、炭素数1〜3程度のアルキル基であり、n、n'、m、m'は0、1、2、3のいずれかで、かつ、n+m=3, n'+m'=3である。R4はアルキレン基であり、2つのアルキレン基を官能基で結合したものであってもよい。
【0045】
本発明では、このアルコキシ又はアルキルシラン化合物に、前記所定量の一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を溶解添加する。特許文献4には、上記樹脂組成物からなる複数の構造体を、アルコキシ又はアルキルシラン化合物に、一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を溶解添加した接着剤を用いて接合してマイクロ部品を形成することが記載されている。しかし、特許文献4においては、上記接合は90℃〜120℃で2時間の加熱により実施されている。このような高温での加熱による接合は、本発明のように、バイオセンサ用の生物材料を固定した電極を有する部材の接合には使用できない。バイオセンサ用の生物材料が失活して、センサとして使用できなくなるからである。
【0046】
本発明のバイオセンサチップ組立用キットに用いられるバイオセンサ用の生物材料には特に制限はないが、例えば、常温付近に最適温度を有する、非耐熱性の酵素も含まれる。非耐熱性の酵素をバイオセンサ用の生物材料として電極に失活させることなしに固定するという観点では、積層した第1部材と第2部材は、好ましくは40℃以下、さらに好ましくは35℃以下の温度で接合されることが適当である。しかし、上記特許文献4に記載の接着剤では、このような温度条件での接合はできなかった。
【0047】
本発明者らが検討した結果、前記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10%以上含有するアルコキシ又はアルキルシラン化合物を用いることで、前記バイオセンサ用の生物材料が失活しない温度条件でも接合ができることを見出した。アルコキシ又はアルキルシラン化合物100質量部当たりの一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体の量は、上記のように、好ましくは10〜40質量部の範囲であり、より好ましくは10〜30質量部の範囲であり、さらに好ましくは10〜20質量部の範囲である。
【0048】
さらに、一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体としては、クラレ製のハイブラー7311、またはハイブラーKL7135を用いることが特に好ましい。
【0049】
本発明のバイオセンサチップ組立用キットは、上記第1部材と第2部材に加えて、一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである)を含有するアルコキシ又はアルキルシラン化合物を、前記接合面用接着剤としてさらに含むことかできる。
【0050】
本発明のバイオセンサチップ組立用キットは、上記接合面用接着剤を含む以外に、前記第1部材および第2部材の少なくとも一方の接合面の少なくとも一部に、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して前記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10〜40質量部含有する接着剤の層を有するものであることもできる。この接着剤層は、良好な接合強度を得るという観点からは、第1部材および第2部材の少なくとも一方の接合面の全面に設けることが好ましい。前記接着剤層は、前記接合面用接着剤を接合面に塗布し、乾燥機において適度に乾燥することで形成することができる。前記接着剤層を有するバイオセンサチップ組立用キットの場合、使用時に接合面用接着剤を接合面に塗布する手間が省けるという利点がある。接着剤層を有するバイオセンサチップ組立用キットは、接着剤層表面に接着剤層を保護するフィルムを貼り付けておくこともできる。さらに、少なくとも接着剤層を有する部材を密閉包装しておくことで、接着剤層の接着特性を維持することもできる。
【0051】
[バイオセンサチップ]
本発明は、上記本発明のバイオセンサチップ組立用キットの第1部材と第2部材の、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部にバイオセンサ用の生物材料を固定し、第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように積層し、上記接合面用接着剤を用いて接合して得られたバイオセンサチップを包含する。
【0052】
具体的には、本発明のバイオセンサチップは、第1基板、第1基板の表面に配設された第1電極、及び第1電極に接続する第1配線を含み、第1電極12の第1配線側に、第1基材11の厚さ方向に伸びる貫通孔18を有し、かつ第2部材の第2接合面と接合されるため第1接合面を第1電極と同じ側の表面に有する第1部材、並びに
第2基板、第2基板の表面に配設された第2電極、及び第2電極に接続する第2配線を含み、かつ第1部材の第1接合面と接合されるため第2接合面を第2電極と同じ側の表面に有する第2部材、を含む。
【0053】
第1基板及び第2基板の少なくとも一方は、ポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである)とを含有する樹脂組成物からなる。この樹脂組成物は前述のとおりである。
【0054】
第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部に、バイオセンサ用の生物材料が固定されている。生物材料が固定される電極はいずれでも良く、所望により、第1電極と第2電極に異なる生物材料を固定することもできる。
【0055】
前記第1部材および第2部材は、第1接合面と第2接合面が対向するように積層し、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して上記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10〜40質量部含有する接着剤を用いて接合されたものである。
【0056】
さらに、
(1)前記第1電極及び第2電極の少なくとも一方は、第1電極と第2電極とが接触しないように、電極が配設された基板の表面より後退した位置に、前記対向する表面を有し、
(2)対向した第1電極と第2電極の隙間の空間は、バイオセンサの測定対象となる被検体を前記空間に導入するための導入孔を有し、かつ
(3)第1配線と第2配線は、非接触状態である。
【0057】
バイオセンサ用の生物材料には特に制限はないが、例えば、各酵素類、抗原、抗体、ペプチド、タンパク、核酸などの溶液や固形体などがあげられる。また、バイオセンサ用の生物材料の固定量は、バイオセンサチップ検体吸入部の大きさの違いや生体材料の反応性の違いなどにより特に制限はないが、数ピコリットルから数十マイクロリットルの液体を塗布、もしくは、数フェムトグラムから数マイクログラムの固体を固定化することなどが挙げられる。
【0058】
第1部材と第2部材の積層及び接合において、第1部材と第2部材の平面形状は、第1部材の第1基板11の接合面14と、第2部材の第2基板21の接合面24とが、大部分で接合するように設計することが、実用的な接合強度を得るという観点からは好ましい。接合面の少なくとも一方に接合面用接着剤を塗布した第1部材と第2部材は積層し、好ましくは接合を促進するように加圧することが好ましく、加圧は、例えば、2枚の板の間に積層した第1部材と第2部材を挟み込み、板の両側から加圧することができる。さらに、複数の積層した第1部材と第2部材を上記2枚の板の間に挟み込み、同時に複数のバイオセンサを作成することもできる。上記加圧は、接合面用接着剤による接合を促進し、しかし、電極に固定されたバイオセンサ用の生物材料を失活させることのない温度条件で維持することが好ましい。上記温度条件は、例えば、30〜40℃の範囲、好ましくは約35℃である。接合のための時間は、条件により異なるが、例えば、10分〜10時間の範囲である。
【0059】
本発明は、上記本発明のバイオセンサチップを含むバイオセンサに関する。本発明のバイオセンサは、バイオセンサチップに加えて、バイオセンサチップを用いて電気化学測定を行うための装置、例えば、定電流測定装置または定電圧測定装置を含むことができ、さらには電気化学測定を行うための装置からの信号を記録するため記録装置などを含むことができる。
【実施例】
【0060】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明はこれらの例に限定される意図ではない。
【0061】
<第1実施例>
第1部材および第2部材を成形するための樹脂組成物としては、ポリプロピレン系樹脂として日本ポリプロ製のホモポリマーMA04Aを用い、水素添加誘導体としてクラレ製のハイブラー7311を用いた。両者の混合割合は質量比で50:50であり、あらかじめ十分混合するために、マスターバッチ化した。マスターバッチ化された樹脂組成物を射出成形機のホッパーに入れ、通常の射出条件で第1部材および第2部材を成形した。ここで使用する金型は、キャビティの成形面、特に第1部材および第2部材の接合面を成形する面を鏡面研磨した。
【0062】
上記MA04Aとハイブラー7311とは、改質剤の添加量を極めて低く抑えており、しかも両者で形成されるポリマーアロイは、ハイブラー7311の数十ナノメートルの球状のミクロドメイン、ポリプロピレンの結晶ラメラ、およびマトリックスをなすポリプロピレンの非晶マトリックスからなり、ポリプロピレンの結晶部部分のサイズはポリプロピレン単独の場合に比較して100分の1以下という特徴を有している。このため、機械的強度に優れており、バイオセンサチップとしての使用に十分耐え、加えてポリペプチド等が吸着せず、生体適合性に優れている。さらに、上記ポリマーアロイは精密転写性に優れているから、前記金型で第1部材および第2部材を成形したときに、それらの接合面を金型の鏡面研磨度合い(平面平滑度)と同程度の平滑度の接合面を形成することができる。
【0063】
接着剤は、水素添加誘導体としてクラレ製のハイブラー7311を用い、アルコキシ又はアルキルシラン化合物としてアルコキシシランの一種であるイソブチルトリメトキシシランを用いた。イソブチルトリメトキシシラン100グラムに対してクラレ製のハイブラー7311を20グラム添加してスターラーで8時間攪拌して溶解させて接着剤を調製した。
【0064】
射出成形された第1部材の接合面に、上記接着剤を塗布していったん常温で乾燥し、接着剤層に第2部材の接合面を当接して積層体とし、この積層体の上下にガラス板を配置してサンドイッチ状にし、ガラス板の周縁を複数個のクリップで止めて、乾燥機に35℃で4時間保存した。
【0065】
図6に、第1部材及び第2部材を積層し接合する手順を示す写真を示す。
(1)接着剤層を設けた第1部材及び第2部材を積層する。
(2)アルミ治具に積層した第1部材及び第2部材を10個取り付ける。
(3)ガラス板をアルミ治具の上下にセットする。
(4)治具1辺当たり2個のクリップではさむ。4辺で合計8個のクリップを使用す る。
(5)35℃に設定した乾燥機に治具にセットした第1部材及び第2部材を投入する 。
(6)終了後、乾燥機から治具を取り出し、接合されたチップを取り出す。
【0066】
乾燥機から取り出したチップは、指でその接合面を引き離す方向に剥がそうとしても、相当な力を入れない限り剥離できなかった。得られたチップは、繰り返し使用に耐えるものであった。
【0067】
<第2実施例>
第1部材および第2部材は、第1実施例のものと同様のものを用いた。
接着剤は、水素添加誘導体としてクラレ製のハイブラーKL7135(ビニルSEPS)を用い、アルコキシ又はアルキルシラン化合物として、アルコキシシランの一種であるイソブチルトリメトキシシランを用いた。イソブチルトリメトキシシラン100グラムに対してクラレ製のハイブラーKL7135を10グラム添加したものを6時間スターラーで攪拌して溶解させ、これを第1部材の接合面に塗布して、第1実施例と同条件で接合した。その結果、実施例1と同レベルの接着強度であった。
【0068】
また、イソブチルトリメトキシシラン100グラムに対してハイブラーKL7135を15グラム添加して調製した接着剤を用いて同様にしてチップを作製した。その結果、第1実施例および上記10グラム添加の例よりも接着強度が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、バイオセンサに関連する分野に有用である。
【符号の説明】
【0070】
10 第1部材
11 第1基材
12第1電極
13第1配線
14第1接合面
15 凹部
16 導入孔
17、17a 凹み
18貫通孔
19 凹み
20 第2部材
21 第2基板
22第2電極
23 第2配線
24 第2接合面
25 第3電極
26 第3配線
27固定部材
28突出部
30 バイオセンサチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板、第1基板の表面に配設された第1電極、及び第1電極に接続する第1配線を含み、第1電極の第1配線側に、第1基材の厚さ方向に伸びる貫通孔を有し、かつ第2部材の第2接合面と接合されるため第1接合面を第1電極と同じ側の表面に有する第1部材、並びに
第2基板、第2基板の表面に配設された第2電極、及び第2電極に接続する第2配線を含み、かつ第1部材の第1接合面と接合されるため第2接合面を第2電極と同じ側の表面に有する第2部材、を含むバイオセンサ組立用キットであって、
第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部は、バイオセンサ用の生物材料を固定するために用いられ、
第1接合面と第2接合面が対向するように第1部材と第2部材を積層し接合したときに、
(1)前記第1電極及び第2電極の少なくとも一方は、第1電極と第2電極とが接触しないように、電極が配設された基板の表面より後退した位置に、前記対向する表面を有し、
(2)対向した第1電極と第2電極の隙間の空間は、バイオセンサの測定対象となる被検体を前記空間に導入するための導入孔を有し、
(3)第1配線と第2配線は、非接触状態であり、かつ
第1基板及び第2基板の少なくとも一方は、ポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである)とを含有する樹脂組成物からなり、
積層した第1部材と第2部材は、前記接合面を、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して前記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10〜40質量部含有する接着剤を用いて、前記バイオセンサ用の生物材料が失活しない温度条件での接合に付されて組立てられる、
前記バイオセンサチップ組立用キット。
【請求項2】
一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである)を含有するアルコキシ又はアルキルシラン化合物を、前記接合面用接着剤としてさらに含む、請求項1に記載のバイオセンサチップ組立用キット。
【請求項3】
前記第1基板または第2基板は、第1基板の場合は、第1電極及び第1配線が配設された第1基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第1電極及び第1配線と非接触状態でさらに含み、第2基板の場合は、第2電極及び第2配線が配設された第2基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第2電極及び第2配線と非接触状態でさらに含み、
第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を積層し接合したときに、
前記第3電極は、前記対向した第1電極と第2電極の隙間の空間に、少なくとも一部の表面が露出する
請求項1または2に記載のバイオセンサチップ組立用キット。
【請求項4】
前記第1部材および第2部材の少なくとも一方の接合面の少なくとも一部に、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して前記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10〜40質量部含有する接着剤層を有する、請求項1に記載のバイオセンサチップ組立用キット。
【請求項5】
前記第1基板または第2基板は、第1基板の場合は、第1電極及び第1配線が配設された第1基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第1電極及び第1配線と非接触状態でさらに含み、第2基板の場合は、第2電極及び第2配線が配設された第2基板の表面に、第3電極及び第3電極に接続する第3配線を、第2電極及び第2配線と非接触状態でさらに含み、
第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を積層し接合したときに、
前記第3電極は、前記対向した第1電極と第2電極の隙間の空間に、少なくとも一部の表面が露出する
請求項4に記載のバイオセンサチップ組立用キット。
【請求項6】
前記第1部材および第2部材は射出成形により作製したものである請求項1〜5のいずれかに記載のバイオセンサチップ組立用キット。
【請求項7】
請求項1または3に記載のバイオセンサチップ組立用キットの第1部材と第2部材の、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部にバイオセンサ用の生物材料を固定し、第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を積層し、請求項2に記載の接合面用接着剤を用いて第1部材と第2部材の接合面を、前記生物材料が失活しない温度条件で接合することを含む、バイオセンサチップの製造方法。
【請求項8】
請求項4または5に記載のバイオセンサチップ組立用キットの第1部材と第2部材の、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部にバイオセンサ用の生物材料を固定し、第1電極と第2電極の少なくとも一部が対向するように第1部材と第2部材を積層し、前記接着剤層を介して第1部材と第2部材の接合面を、前記生物材料が失活しない温度条件で接合することを含む、バイオセンサチップの製造方法。
【請求項9】
前記生物材料が、酵素、抗原、抗体、ペプチド、タンパクおよび核酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の材料である請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記生物材料が失活しない温度条件が、30〜40℃の範囲である請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載の方法で製造して得られたバイオセンサチップ。
【請求項12】
第1基板、第1基板の表面に配設された第1電極、及び第1電極に接続する第1配線を含み、第1電極12の第1配線側に、第1基材11の厚さ方向に伸びる貫通孔18を有し、かつ第2部材の第2接合面と接合されるため第1接合面を第1電極と同じ側の表面に有する第1部材、並びに
第2基板、第2基板の表面に配設された第2電極、及び第2電極に接続する第2配線を含み、かつ第1部材の第1接合面と接合されるため第2接合面を第2電極と同じ側の表面に有する第2部材、を含み、
第1基板及び第2基板の少なくとも一方は、ポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである)とを含有する樹脂組成物からなり、
第1電極及び第2電極の少なくとも一方の表面の少なくとも一部に、バイオセンサ用の生物材料が固定されており、
前記第1部材および第2部材は、第1接合面と第2接合面が対向するように積層し、100質量部のアルコキシ又はアルキルシラン化合物に対して上記一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体を10〜40質量部含有する接着剤を用いて接合されたものであり、
(1)前記第1電極及び第2電極の少なくとも一方は、第1電極と第2電極とが接触しないように、電極が配設された基板の表面より後退した位置に、前記対向する表面を有し、
(2)対向した第1電極と第2電極の隙間の空間は、バイオセンサの測定対象となる被検体を前記空間に導入するための導入孔を有し、かつ
(3)第1配線と第2配線は、非接触状態である、
バイオセンサチップ。
【請求項13】
前記生物材料が、酵素、抗原、抗体、ペプチド、タンパクおよび核酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の材料である請求項12に記載のバイオセンサチップ。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載のバイオセンサチップを含むバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−215010(P2011−215010A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83706(P2010−83706)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度文部科学省知的クラスター創成事業(第II期)「ほくりく健康創造クラスター」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(000107066)株式会社リッチェル (77)
【出願人】(501212922)株式会社土田製作所 (6)
【出願人】(507106847)NSマテリアルズ株式会社 (8)