バイオセンサーラベル化群
タンパク質、ペプチド、核酸および関連分子のような分析物用の、共鳴ラマン分光ラベル、とりわけ、表面増強共鳴ラマン分光(SERRS)ラベルとして作用するように特異的に設計した1群の化合物を開示する。本発明の共鳴ラマン分光ラベルは、分析物へのラベルの共有結合のための反応基、SERRS表面結合基、およびハロゲンに共有結合させたメタロセンを含み、メタロセンへのハロゲンの結合が、ハロゲンが、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させるようであることを特徴とする。好ましい局面においては、該ラベルは、電気化学感知用のラベルとしての第2の使用に適するレドックス特性をも有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質、ペプチド、核酸および関連分子のような分析物用の、共鳴ラマン分光ラベル、とりわけ表面増強共鳴ラマン分光(SERRS)ラベルとして作用するように特異的に設計した化合物群に関する。本発明の好ましい局面においては、これらの化合物は、そのラマン分光特性以外に、電気化学感知用のラベルとしての第2の使用に適するレドックス特性も有する。
【背景技術】
【0002】
光を分子から散乱させるとき、光子の大部分は、弾力的に散乱する。散乱光子の大多数は、入射光子と同じエネルギー(従って、周波数および波長)を有する。しかしながら、少数の光(107個の光子中のおよそ1個)は、入射光子の周波数と異なる周波数で散乱する。散乱光子は、分子に対するエネルギーを喪失するとき、入射光子よりも長い波長を有する(いわゆるストークス散乱)。逆に、散乱光子は、エネルギーを獲得するとき、短い波長を有する(いわゆるアンチストークス散乱)。図1aを参照されたい。
この非弾性散乱に至る過程を、C.V.Raman卿以降、ラマン効果と称している(Raman卿は、1928年にこの効果を最初に説明した)。ラマン効果は、分子の振動、回転または電子エネルギーの変化に関連し、光子から分子に移行したエネルギーは熱として通常消散する。入射光子とラマン散乱光子間のエネルギー差は、散乱分子の振動状態または電子遷移のエネルギーに等しく、入射レーザーからの量子化エネルギー差での散乱光子をもたらす。散乱光の強度対エネルギーまたは波長差のプロットをラマンスペクトルと称し、その技術は、ラマン分光法(RS)として知られている。
表面増強ラマン分光法(SERS)は、RS分析法の修正法である。ラマンシグナルの強度は、分子がある種の金属表面に物理的に近接している場合、分子と金属の表面電子(プラズモン)間のさらなるエネルギー移動により、大いに増強させ得る。SERSを実施するには、分析物分子を原子的に粗面化した金属表面上に吸着させ、増強ラマン散乱を検出する。
【0003】
数オングストロームの金属表面内の化合物またはイオンからのラマン散乱は、溶液中におけるよりも103〜106倍高くあり得る。近可視光線においては、SERSは、銀上で最強であるが、金および銅上でも同様に容易に観測し得る。最近の研究によれば、種々の遷移金属も有用なSERS増強を与えることが証明されている。SERS効果は、本質的には、分子と金属表面近くの電磁場間の共鳴エネルギー移動である。励起レーザーの電気ベクトルは、金属表面中に双極子を誘発させ、その復元力により、この励起の共鳴周波数において振動電磁場が生じる。レイリーリミットにおいては、この共鳴は、主として、いわゆる‘プラズマ波長’を決定する金属表面での自由電子(‘プラズモン’)の密度並びに金属およびその環境の誘電定数により決まる。表面上にまたは表面に近接近して吸着された分子は、異常に大きな電磁場に直面し、この電磁場においては、表面に直角の振動様式が最も強く増強される。これが表面プラズマ共鳴(SPR)効果であり、プラズマと表面近くの分子間の空間エネルギー移動を可能にする。表面プラズマ共鳴の強度は、エネルギー移動効率がレーザー波長と金属のプラズマ波長間の良好な適合に依存していることから、入射光の波長および金属表面の形態のような多くの要因に依存している。
さらになお増強を高めるには、発色団成分を使用してエネルギー移動に対するさらなる分子共鳴寄与をもたらし得る;表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)と称する方法。共鳴ラマンピークの強度は、散乱断面の二乗αに比例する。順に、散乱断面は、遷移双極子モーメントの二乗に関連し、従って、吸収スペクトルを通常追跡する。入射光子がその吸収スペクトル中の吸収ピークに近いエネルギーを有する場合、分子は、散乱事象が生じるときの励起状態にある可能性が最も高く、それによってアンチストークスシグナルの相対的強度を増大させる。表面および共鳴増強効果の組合せは、SERRSが通常のラマン分光法を典型的には109〜1014倍上回る極めて大きなシグナル増強を与え得ることを意味する。
【0004】
ラマン散乱における共鳴増強に加え、最近は、ラマンシグナルを共鳴エネルギー移動メカニズムにより強度において弱める共鳴脱増強(de-enhancement)が説明されてきている。特定の条件下においては、興味あるエネルギーにエネルギー的に近い励起エネルギー状態は、ラマン散乱の低下を生じ得る。この状態においては、ラマン強度は断面の和の二乗に比例し、断面が逆符号を有する場合、破壊的干渉が生じて、観測される共鳴脱増強をもたらし得る。このことは、ラマン生体感知系において使用する別の測定基準を提供する(特定のラベルからのシグナルを、この脱増強効果を促進させるレーザー周波数/吸収プロフィールを使用するによってラマンスペクトルから選択的に取出し得る)。“共鳴ラマン分光法”なる用語は、本明細書においては、共鳴脱増強を包含するように使用する。
Park等(Journal of Organometallic Chemistry 584 (1999) 140-146)は、Pd-触媒アリル基置換反応用のキラルリガンドとしてのキラル1'-置換オキサゾリニルフェロセンの合成を開示している。この文献の方式1に示された合成法は、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸および1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセンの使用を含む。
Sunkel等(Zeitschrift fuer Naturforschung, B: Chemical Sciences (1993), 48(5), 583-590)は、シクロペンタジエニル環上に1個のさらなる官能基を有するある種のシマントレンチオエーテルの合成を開示している。開示されている化合物としては、各種のクロロ置換シマントレンモノ-およびビス-チオエーテル(以下、クロロ置換シマントレニルチオエーテルと称する)類、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、およびN,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素がある。
(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセンは、Sigma-Aldrich社から入手可能である。
【発明の開示】
【0005】
今回、発色団としてメタロセン基を使用する1連の分子を共鳴ラマン分光法用の、とりわけ生体感知用途用のラベルとして使用し得ることが判明した。これら分子のラマン分光特性を、1個以上のハロゲン置換基を取込ませてそのような化合物によって一般的に発生するシフトと異なるシフトでのラマン散乱ピークを生じさせることにより、分析物(好ましくは、ペプチド、タンパク質、核酸もしくは炭水化物のような生体分子、生体分子アナログ、または生体分子の特異結合性パートナー)と一緒に使用するように最適化する。
メタロセン基の存在は、これらのラベルを電気化学分析においても有用にするレドックス中心を提供する。
上記ラベルは、通常のペプチド接合化学と適合し得るように設計し得、および/または置換してセンサー表面上に固定するための表面結合官能性を付与するか(それによって、電極上の電気化学活性単分子層またはラマン散乱の表面増強を得る)、或いは遊離溶液中で使用し得る。
本発明によれば、特許請求の範囲において定義したようなラベルを提供する。
本発明によれば、分析物へのラベルの共有結合のための反応基およびハロゲンに共有結合させたメタロセンを含み、ハロゲンが、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させるような共鳴ラマン分光ラベルを提供する。
本発明のラベルは、以下の化合物を除外し得る:(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセン、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸、1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセン、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、およびクロロ置換シマントレニルチオエーテル。
反応基は、ハロゲン以外の基によって付与すべきである。好ましくは、反応基は、ハロゲンではない。
また、本発明によれば、分析物に共有結合させた共鳴ラマン分光ラベルを提供し、該ラベルは、メタロセンに共有結合させたハロゲンを含んで、ハロゲンが、該ラベルを共鳴ラマン分光法に供したとき、特徴的ラマンピークを発生させるようにする。
分析物に共有結合させた本発明のラベルは、以下の化合物を除外し得る:N,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
メタロセンは、遷移金属イオンを含有する1群の有機金属複合体であり、下記のフェロセンは1951年に最初に発見されている:
【化1】
当時、メタロセンなる用語は、2個のη5-シクロペンタジエニル(Cp)リガンド間に挟まれた金属イオン(M)を有する複合体を説明するのに使用されていた:
【化2】
フェロセンの発見以来、多数のメタロセンが製造され、該用語は、置換Cp環を有するメタロセンを含む広範囲の有機金属構造体を包含するように進展してきており、それらの例は、種々の可能性あるCp結合様式の全て、ある種の湾曲サンドイッチ構造体、および半サンドイッチまたはモノCp複合体さえも示す。
【0007】
用語“メタロセン”は、本明細書においては、遷移金属イオンに複合体化したシクロペンタジエニル環を含むあらゆる化合物を包含するように使用する。本発明に従って使用し得るメタロセン構造体の好ましい例を、下記に示す:
【化3】
ある種のメタロセンは環の1つまたは双方にヘテロ原子を含み得るので、用語“シクロペンタジエニル”は、本明細書においては、環炭素の1つが、代りに、窒素、イオウ、ケイ素または酸素のようなヘテロ原子であるシクロペンタジエニル環も包含するように使用する。
殆どの遷移金属イオンに対して利用し得る複数の酸化状態が存在し、それで、メタロセン類はレドックス中心として作用し得、従って、電気化学試験におけるラベルとして周知である。メタロセン化合物は、殆どのdブロックおよびランタニド系列元素において商業的に入手可能であり、従って、適切なレドックスおよび分光特性を有する化合物を選択するのに利用し得る広範囲の選択枝が存在する。好ましいメタロセンは、遷移金属イオンがスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅または亜鉛遷移金属イオンであるメタロセン類である。より好ましくは、遷移金属イオンは、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅または亜鉛遷移金属イオンである。
複数のハロゲンをメタロセンに共有結合させ得る。そのまたは各ハロゲンは、メタロセンの遷移金属イオンにまたはメタロセンのシクロペンタジエニル環に共有結合させ得る。
【0008】
共鳴ラマン分光法においては、ラベルは、ラマン励起レーザー(典型的には、このレーザーは、紫外線/可視光線/近赤外線領域である)のスペクトル範囲において少なくとも1つの強い吸収ピークを有すべきである。メタロセン類は、遷移金属イオンを含有するので、d軌道電子遷移によって生じるこのスペクトル領域内での強い吸収ピークを典型的に示す。メタロセン類は、強く着色した分子であり、従って、共鳴ラマン分光法において要求される発色団機能を与える良好な候補群であることが期待される。
分光ラベルにおける主要な要件は、最低限の背景干渉しか受けないスペクトルシグナルをもたらすことである。ラマンスペクトル中のピークは、主として、特定の化学基からの振動モードによるので、ラマン活性ラベルは、理想的には、分析するサンプル中には通常存在しない化学基を含有すべきである。タンパク質サンプルは、この領域においては、主としてシステイン、ジスルフィド結合および芳香環による幾つかの弱いピークを示すが、これらのピークは、残余のスペクトル中のピークよりもはるかに弱い。典型的なタンパク質においては、殆どのラマン散乱は、2000〜3000cm-1領域における第2窓を伴って、800〜1700cm-1領域において生じる。
インスリンにおけるラマンスペクトルを図1bに示す。インスリンは、比較的高割合のジスルフィド結合を有する(51-アミノ酸分子において3個のジスルフィド)。500〜800cm-1のスペクトル領域は、残りのスペクトルと‘平穏’に比較される。従って、これは、ラマン活性ラベルからシグナルを得るに当っての優れた窓口であろう。
【0009】
炭素-ハロゲン結合は、生物学的サンプルにおいては極めて稀であり、900 cm-1よりも下の領域において強いラマン発光ピークを生じることが知られている。2-ハロエタノール類におけるラマンスペクトルを図2に示す。ハロゲン原子の存在によるピーク強度は、周期表の下方から順次増大している。
図2に示すラマンスペクトルは、最高ピークに標準化している。置換していないエタノールにおいては、この最高ピークは、2930 cm-1辺りでのC-H結合振動に基づく。事実、該化合物の全ての間で共有される一般的C-H結合群に基づく2000〜3000cm-1領域における特徴的ピーク群が存在する。このピーク群は、置換分子中のC-ハロゲン結合によって生じるピーク強度の増大により、強度において低下しているようである。C-ハロゲンピークは、フルオロ置換分子においては、C-Hピークにおよそ等しい強度を有して860cm-1で出現している。クロロ置換分子においては、このピークは、665cm-1にシフトしており、今や、C-Hピークよりも強度においておよそ1.5倍大きい。ブロモ置換分子において、ピークは590cm-1においてで2.8倍大きい強度であり、イオド置換分子においては、ピークは520cm-1においてで3倍大きい強度である。最強ピーク以外に、ハロエタノールスペクトルにおいては、C-ハロゲン結合の別の振動モードに基づく800cm-1よりも低い領域において余分なピークが存在している。
図3は、主C-Hピークと対比した主C-ハロゲンピークのラマンシフトおよび強度を示す。主ピーク位置および強度は、周期表中のハロゲン類の順序に従っていることは明白である。ヨウ素および臭素は、最低のラマンシフトにおいて最強のピークを与える。しかしながら、C-Iピークは、516cm-1においてインスリンスペクトルで見られるジスルフィドS-Sピークに極めて近く、従って、C-Brピーク(インスリンスペクトル内のトラフと同じ領域を占める)よりも、タンパク質成分からの背景干渉に対して感受性であるようである。従って、ブロモ置換基がタンパク質およびペプチド類のラベル化においては好ましいが、ハロゲン類のいずれも許容し得る結果を与えるであろう。
【0010】
共鳴効果を最大にするには、発色団吸収特性に寄与する電子と振動によりラマン散乱光子のエネルギーシフトを生じさせる結合に関与する電子との間に強力な相互作用が存在すべきである。そのような配置は、励起状態の発色団からの電子遷移とラマン活性振動モードからのエネルギー遷移間の強力なカップリングの存在を確実にする。ハロゲン原子(1個以上)を、直接Cp環に置換するか、或いは少数のみの介入原子(好ましくは1個の原子、より好ましくは1個の炭素、ケイ素または窒素原子)によりまたは非局在化電子系を有する基によりCp環に結合させる場合、遷移金属電子もハロゲン原子(1個以上)への結合に関与する分子軌道を形成する可能性が存在する。
例えば、下記の完全臭素置換コバルトセンの最高占有および最低未占有分子軌道は、これらの軌道が分子中の殆どの原子上で非局在化していることを示している(図4a参照):
【化4】
電子は、コバルトイオン、10個全ての炭素原子および10個のうちの4個または6個の臭素原子のそれぞれ間で共有されている。HOMOおよびLUMOの双方は、C-Br結合上で反結合特性を示している。入射レーザーがこれらの電子を高エネルギー状態に励起すべき場合、C-Br結合の振動特性も改変され、それによって共鳴ラマンシグナルにおける効率的なエネルギーカップリングメカニズムを与えるであろう。
同様な効果は、トリブロモメチルコバルトセンにおいても見られる(図4b)。臭素原子が炭素原子によってCp環から離れていても、分子軌道は、電子が分子全体上で非局在化され、従って、発色団と分子のラマン活性領域間での効率的なカップリングが存在していることを示している。
【0011】
本発明の好ましい実施態様においては、複数のハロゲンをメタロセンに共有結合させて、特徴的ラマンピーク痕跡を、ラベル(好ましくは、SERRSラベル)を共鳴ラマン分光法(好ましくは、SERRS)に供したときに発生させるようにする。複数のハロゲンは、異なるハロゲンを含み得る。そのような実施態様は、複数の種々の分析物の同時共鳴ラマン分光検出において使用し得、各異なる分析物は本発明の異なるラベルによってラベル化されている。ラベルの共鳴ラマンスペクトル特性は、メタロセン中の遷移金属およびハロゲン置換パターンの適切な選択により調節して、各ラベルが他のラベルの特徴的ラマンピーク痕跡と識別し得る特徴的ラマンピーク痕跡を発生するようにし得ることを認識されたい。多数の種々の製造し得るラベルを考慮すれば、そのような実施態様は、原理的には、極めて多数の種々の分析物(可能性としては、49種を越える分析物)を検出するのに使用し得る。
本発明のラベルは、サンプル中の単数または複数のターゲットの存在または量を共鳴ラマン分光法によって検出するのに使用し得る。ターゲットは分析物であり得るか(即ち、ターゲットを本発明のラベルで直接ラベル化している場合)、或いは、分析物を使用してサンプル中のターゲットの存在または量を指標させることもできる(例えば、ターゲットに特異的に結合させることによって、またはターゲットの存在によりターゲット結合種から置換えるターゲットアナログであることによって)。
適切なターゲットの例としては、生体分子(タンパク質、核酸、炭水化物、プロテオグリカン、脂質またはホルモンのような)、薬物または他の治療薬およびこれらの代謝物、乱用薬物(例えば、アンフェタミン、アヘン、ベンゾジアゼピン、バルビツール酸塩、カナビノイド、コカイン、LSDおよびこれらの代謝物)、爆薬(例えば、ニトログリセリン、またはTNT、RDX、PETNおよびHMXのようなニトロトルエン類)、並びに環境汚染物(例えば、除草剤、殺虫剤)がある。
【0012】
サンプルは、ターゲットの存在または量について試験することを欲する任意のサンプルである。ターゲットの存在または量について試験することを欲する多くの状況が存在する。例としては、臨床用途(例えば、血液または尿サンプルのような生物学的サンプル中の抗原の存在の検出)、乱用薬物の存在(例えば、違法サンプル、または体液もしくは呼気サンプルのような生物学的サンプル中の)の検出、爆薬の検出、または環境汚染物(例えば、液体、空気、土壌または植物サンプル中の)の検出がある。
本発明の好ましい実施態様においては、分析物は、生体分子、生体分子の特異結合性パートナー、または生体分子の特異結合性パートナーによって特異的に結合させ得る生体分子アナログである。特異結合性パートナーは、生体分子を特異的に認識する抗体である。また、特異結合性パートナーは、ターゲット核酸に特異的にハイブリッド化(典型的には、緊縮ハイブリッド化条件下に)するように設計した核酸プローブである。また、代謝物、脂質、リン脂質および非ペプチドホルモンのような小分子基質アナログも、本発明に従ってラベル化して電気化学的モニタリングを可能にするのに適し得る。
用語“特徴的ラマンピーク”は、本明細書においては、上記ラベルおよび分析物(および分析物と異なる場合のターゲット)を含むサンプルを共鳴ラマン分光法に供したときに発生する他のラマンピークおよび背景と識別し得る、ハロゲンの存在によって生じたラマンピークを意味するように使用する。
メタロセンに結合させる反応基は、好ましくは、分析物と直接反応させ得る基を含む。分析物がペプチドまたはタンパク質である場合、好ましくは、反応基は、カルボン酸基を含む。分析物が核酸である場合、好ましくは、反応基は、アミン基を含む。
【0013】
本発明の好ましい実施態様においては、ラベルは、通常のペプチド接合化学と適合性である。通常のペプチド合成化学は、アミノ酸基を生長中の連鎖に順次付加させることを典型的に含む。連鎖は、あり得る反応性官能基をマスクしてN-末端の1個の反応性アミンのみを残すための数個の保護基を担持する。連続する各アミノ酸は、このアミンを1個のカルボン酸基(該カルボン酸基が含有し得るさらなる反応性カルボキシレート基をマスクする同様な保護基を有する)と反応させることによりペプチド結合を形成させることによって付加する。カップリング工程においては、この1個のカルボン酸を、典型的には、このカルボン酸をカップリング試薬、例えば、[(N-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)(ジメチルアミノ)メチレン]-N-メチルメタナミニウムヘキサフルオロホスフェート N-オキサイド(HBTU)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、7-アザベンゾトリアゾール-1-イル-N-オキシ-トリス(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyAOP)または同様な分子と接合させることによって活性化する。従って、ペプチドまたはタンパク質をラベル化するための本発明のSERRSラベルは、通常のペプチド合成化学を使用してペプチドに結合させる(実際には、通常の自動化ペプチドシンセサイザーにおいて使用する)のを可能にする1個の反応性カルボン酸基を必要とする。さらに、このカルボン酸基は、この接合反応を干渉する如何なる潜在的反応部位も含有してはならない。1個の反応性カルボン酸基を含有するメタロセン化合物は、容易に合成し得、従って、通常のペプチド合成法に適合性である。
また、本発明によれば、ハロゲンに共有結合させたメタロセンを含む共鳴ラマン分光ラベルも提供する。好ましくは、ハロゲンは、メタロセンのCp環上に直接置換させるか、或いは1個のみの原子を介してCp環に結合させる。さらに、本発明によれば、ハロゲンに共有結合させたメタロセンの共鳴ラマン分光ラベルとしての使用も提供する。ハロゲンは、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させなければならない。ハロゲンを共有結合させたメタロセンは、本発明のラベルによって調製し得る。
【0014】
メタロセン基の存在は、本発明のラベルを電気化学分析においても有用にするレドックス中心を与える。電気化学ラベルは、電子を容易に受容し供与して、サイクリックボルタンメトリー、アンペロメトリーおよび線型掃引ボルタンメトリーのような電気化学法によって検出可能である必要がある。メタロセン中の遷移金属イオンは種々の異なる酸化状態において安定なメタロセン構造を通常維持し得、従って、電気化学的に容易に検出可能である。遷移金属イオンの的確な選択およびこのイオンに結合させるリガンドの性質は、基の全体としてのレドックス電位に影響を与え、従って、レドックス電位の同調は、これらの成分の注意深い選定によって可能である。
本発明のラベルは、酵素反応の基質(好ましくは、ペプチド基質)をラベル化してこの反応を電気化学的にモニターし得るようにする電気化学ラベルとして使用し得る。そのような実施態様においては、上記反応を電気化学的にモニターするのに使用する電極は、本発明のラベルによって(即ち、ハロゲンに共有結合させたメタロセンによって)コーティーングして(共有的にまたは非共有的に)、電極表面上の酵素の変性を阻止または低減する保護層を電極上に付与することができる。
他の実施態様においては、本発明のラベルは、電気化学感知アッセイにおける電気化学メディエイターとして使用して、電子を、電極から、電気化学的にモニターすることを欲する反応の成分(例えば、酵素または基質)へ移行させ得る。ラベルは、溶液中で遊離状態であり得る。また、ラベルは、反応成分に共有結合させても、および/または電極に固定(共有的にまたは非共有的に)させてもよい。ラベルを電極に固定させる場合、この固定は、電極上に電気化学的に活性な層を付与する。反応成分がペプチドまたはタンパク質を含む場合、上記電気化学的に活性な層は、電極表面上のタンパク質の変性を阻止または低減する保護層を与え得る。
本発明の幾つかの実施態様によれば、電極を使用して本発明のラベルのレドックス状態を改変させ、それによって共鳴ラマン分光法によるラベルの視感度に影響を与え得る。このことは、ラベルの視感度を上回る電子制御をもたらす。このことは、複数の異なる分析物を、本発明の異なるラベルを使用して検出する本発明の実施態様においてとりわけ有用である。ラベルの視感度を変化させることにより、サンプルのラマンスペクトルを簡素化し得る。
多くの場合、ラベルを電極(典型的には、金属電極)の表面またはラマン表面増強を与えた表面(SERR表面)上に固定するのが望ましい。SERRS表面は、好ましくは金属、典型的には金、銀または銅である。
【0015】
本発明によれば、分析物へのラベルの共有結合のための反応基、SERRS表面結合基およびハロゲンに共有結合させたメタロセンを含み、メタロセンへのハロゲンの結合が、ハロゲンが、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させるようにすることを特徴とする共鳴ラマン分光ラベルを提供する。
また、本発明に寄れば、ハロゲンおよびSERRS表面結合基に共有結合させたメタロセンを含むSERRSラベルも提供する。さらに、本発明によれば、ハロゲンおよびSERRS表面結合基に共有結合させたメタロセンのSERRSラベルとしての使用も提供する。SERRSラベルは、SERRS表面結合基を含む本発明のラベルにより調製し得る。
SERRS表面に対するSERRS表面結合基の結合定数は、好ましくは、サンプル中のターゲットの自然産生濃度の少なくとも半分である。
金属結合特性を与えることが知られている数種の官能基が存在し、その殆どは、孤立電子対(多くの場合、窒素または酸素原子からの)による金属への結合または共有結合(典型的には、チオールまたはチオレート基からの)を形成する。チオエーテル基(-SMe基または-SPh基のような)または-PPh2基は、SERRS表面結合基であるとはみなされない。メタロセン中のCp環は、適切な基で置換して金属結合性機能を付与し得る。ラベルがペプチドまたはタンパク質分析物のラベル化用である場合、この基は、分析物をラベル化するのに使用するペプチド接合化学に適合し得るように選択すべきである(即ち、この基は、遊離のカルボキシレートまたは極めて電子密度の高い基を含有すべきでない)。
本発明のラベルは、共鳴ラマン分光法を使用してサンプル中の単数または複数のターゲットの存在または量を検出する既知の検出方法において使用し得る。好ましい方法は、SERRS置換アッセイ、とりわけSERRS置換イムノアッセイである。
好ましいSERRS置換アッセイによれば、サンプルを、固定したターゲット結合性種(ターゲットに特異的に結合し得る)、分析物に共有結合させた本発明のラベルおよびSERRS表面結合基を含む複合体に暴露させる。ラベルの分析物は、ターゲット結合性種をラベルの分析物部分に特異的に結合するようなターゲットのアナログである。ターゲットがサンプル中に存在する場合、このアナログは、ターゲット結合種をラベルに置換える。任意の置換ラベルをSERRS表面に暴露させ、該表面にSERRS表面結合基により結合させる。その後、置換ラベルをSERRSによって検出し得る。
好ましくは、SERRS置換アッセイは、ターゲット結合性種が、ターゲットを特異的に認識する抗体(または、抗体フラグメントまたは誘導体)であるSERRS置換イムノアッセイである。
【0016】
好ましくは、本発明のラベルのシクロペンタジエニル環は、下記の構造を有する:
【化5】
(式中、R1は、分析物または分析物への共有結合のための反応基であり;
R2、R3、R4およびR5は、個々に、XまたはYRxRyRzであり;
Yは、C、SiまたはNであり;
Rx、RyおよびRzは、個々に、XまたはHであり;そして、
Xは、ハロゲンであり;
必要に応じて、R2〜R5の1つは、金属結合基であり;
必要に応じて、環炭素の1つは、代りに、ヘテロ原子(好ましくは、窒素、イオウ、ケイ素または酸素)である;
但し、R2〜R5の少なくとも1つはXを含むことを条件とする)。
シクロペンタジエニル環の構造のみをこの場合示している。ラベルの残余は、上記で示したメタロセン構造体のいずれかを含み得る。
【0017】
また、好ましくは、本発明のラベルは、下記の構造:
【化6】
(式中、R'1、R'2、R'3、R'4およびR'5は、個々に、XまたはYRxRyRzであり;
Yは、C、SiまたはNであり;
Rx、RyおよびRzは、個々に、XまたはHであり;そして、
Xは、ハロゲンであり;
必要に応じて、環炭素の1つは、代りに、ヘテロ原子(好ましくは、窒素、イオウ、ケイ素または酸素)である;
但し、R'1〜R'5の少なくとも1つはXを含むことを条件とする)
を有する第1のシクロペンタジエニル環、および下記の構造:
【化7】
(式中、R”1は、分析物または分析物への共有結合のための反応基であり;
必要に応じて、R”1〜R”5の1つは、金属結合基である)
を有する第2のシクロペンタジエニル環を含む。
好ましい金属結合基の例は、ベンゾトリアゾール基である。
【0018】
本発明の好ましい局面は、下記のとおりである:
1) 共鳴ラマン分光法において発色団として作用するメタロセン基の使用。
2) タンパク質およびペプチド類により、或いは核酸または炭水化物または他の生体分子により発生させたピークとは異なるラマン散乱ピークを発生させるための1個以上のハロゲン置換基の取込み。
3) メタロセン基中の遷移金属および置換パターンの適切な選定による共鳴ラマンスペクトル特性の同調。
4) 電気化学分析におけるレドックス活性基としての上記ラベルの第2の使用。
5) 通常のペプチド接合化学を使用しての、ペプチド類への結合を可能にするためのラベルの官能化。
6) 表面固定化のための金属結合性を付与するラベルの官能化、並びに結果としてのラマン散乱における表面増強および/または電極表面上への単分子層形成。
本発明の1つの局面においては、本発明のラベルは、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したとき、特徴的ラマンピーク(即ち、分析物またはターゲットにより発生させたラマンピークと識別し得るピーク)を発生させるハロゲン以外の基に共有結合させたメタロセンを含み得る。
本発明の実施態様を、以下の実施例において、添付図面を参照して説明する。
【0019】
実施例1
図5は、電気化学感知用のラベルとしての第2の使用に適するレドックス特性をも有する本発明の好ましい実施態様に従うラベルを示す。ペプチド接合用の遊離カルボキシレートを担持するように置換した1つのCp環を有し且つ金属結合性を付与するチオメチル基で置換した他方のCp環を有する臭素置換コバルトセン。Cp結合コバルトイオンは、発色団およびレドックス中心特性を与え、環結合臭素は、ラベルを結合させ得るペプチドまたはタンパク質からの実質的干渉を被るべきでないスペクトル領域においてラマン散乱ピークを生じさせる。
【0020】
実施例2
染料A
図6は、染料Aと称する本発明の好ましい実施態様の化学構造を示す。図7は、染料AにおけるUV/Vis(可視光線)吸収スペクトルを示す。広いピークは、〜400〜550nmのスペクトルにおいて観察し得る。このことから、この化合物(およびその誘導体)は、各種の可視波長レーザーと一緒に使用するのに適していることを認識されたい。適切な商業的に入手可能なレーザーは、355、430、457、473、501、514、523、532、556および561nmにおいて得ることができる。図8は、染料AにおけるSERRSスペクトルを示す。染料Aの臭素によって生じた特徴的ラマンピークは、<1100波数において存在している。
【0021】
実施例3
染料B
図9は、染料Bと称する本発明のさらに好ましい実施態様の化学構造を示す。染料Bは、SERRS表面結合基として作用するベンゾチアゾール基を含む。図10は、染料BにおけるSERRSスペクトルを示す。染料Bの臭素によって生じた特徴的ラマンピークは、<1100波数において存在している。
【0022】
実施例4
ペプチド接合体
図11は、“ペプチド接合体”と称する本発明のさらに好ましい実施態様の化学構造を示す。この化合物においては、ベンゾチアゾール基(SERRS表面結合基として作用する)を、メタロセンのCp環に、ペプチド(配列:GGVYLLPRRGPR (SEQ ID NO:1))と反応させている連結基によって共有結合させている。図12は、該ペプチド接合体のSERRSスペクトルを示す。該ペプチドによって生じた分光背景は観察され得るが、臭素によって生じた特徴的ラマンピークは、<1100波数において存在しており、上記分光背景とは識別し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】a)は、ストークスおよびアンチストークス散乱光子におけるエネルギー変化を略図的に示す。b)は、インスリンにおけるラマンスペクトルを示す(C.Ortiz et al. (2004), Anal.Biochem. 332; 245-252)。
【図2】エタノールおよび2-ハロエタノールにおけるラマンスペクトルを示す。
【図2−1】2-ハロエタノールにおけるラマンスペクトルを示す。
【図3】主C-Hピークと対比しての主C-ハロゲンピークのラマンシフトと強度を示す。
【図4】1,2,3,4,5,1',2',3',4',5'-デカブロモコバルトセン(10-BrCc)における最高占有(頂部)および最低未占有(底部)分子軌道を示す。
【図4−1】トリブロモメチルコバルトセンにおける最高占有(頂部)および最低未占有(底部)分子軌道を示す。
【図5】本発明の好ましい実施態様に従うラベルを示す。
【図6】本発明のさらに好ましい実施態様に従うラベル(染料A)の化学構造を示す。
【図7】染料AにおけるUV/Vis吸収スペクトルを示す。
【図8】染料AにおけるSERRSスペクトルを示す。
【図9】本発明のさらに好ましい実施態様に従うラベル(染料B)の化学構造を示す。
【図10】染料BにおけるSERRSスペクトルを示す。
【図11】本発明のさらに好ましい実施態様に従うペプチド接合体の化学構造を示す。
【図12】図11に示すペプチド接合体におけるSERRSスペクトルを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質、ペプチド、核酸および関連分子のような分析物用の、共鳴ラマン分光ラベル、とりわけ表面増強共鳴ラマン分光(SERRS)ラベルとして作用するように特異的に設計した化合物群に関する。本発明の好ましい局面においては、これらの化合物は、そのラマン分光特性以外に、電気化学感知用のラベルとしての第2の使用に適するレドックス特性も有する。
【背景技術】
【0002】
光を分子から散乱させるとき、光子の大部分は、弾力的に散乱する。散乱光子の大多数は、入射光子と同じエネルギー(従って、周波数および波長)を有する。しかしながら、少数の光(107個の光子中のおよそ1個)は、入射光子の周波数と異なる周波数で散乱する。散乱光子は、分子に対するエネルギーを喪失するとき、入射光子よりも長い波長を有する(いわゆるストークス散乱)。逆に、散乱光子は、エネルギーを獲得するとき、短い波長を有する(いわゆるアンチストークス散乱)。図1aを参照されたい。
この非弾性散乱に至る過程を、C.V.Raman卿以降、ラマン効果と称している(Raman卿は、1928年にこの効果を最初に説明した)。ラマン効果は、分子の振動、回転または電子エネルギーの変化に関連し、光子から分子に移行したエネルギーは熱として通常消散する。入射光子とラマン散乱光子間のエネルギー差は、散乱分子の振動状態または電子遷移のエネルギーに等しく、入射レーザーからの量子化エネルギー差での散乱光子をもたらす。散乱光の強度対エネルギーまたは波長差のプロットをラマンスペクトルと称し、その技術は、ラマン分光法(RS)として知られている。
表面増強ラマン分光法(SERS)は、RS分析法の修正法である。ラマンシグナルの強度は、分子がある種の金属表面に物理的に近接している場合、分子と金属の表面電子(プラズモン)間のさらなるエネルギー移動により、大いに増強させ得る。SERSを実施するには、分析物分子を原子的に粗面化した金属表面上に吸着させ、増強ラマン散乱を検出する。
【0003】
数オングストロームの金属表面内の化合物またはイオンからのラマン散乱は、溶液中におけるよりも103〜106倍高くあり得る。近可視光線においては、SERSは、銀上で最強であるが、金および銅上でも同様に容易に観測し得る。最近の研究によれば、種々の遷移金属も有用なSERS増強を与えることが証明されている。SERS効果は、本質的には、分子と金属表面近くの電磁場間の共鳴エネルギー移動である。励起レーザーの電気ベクトルは、金属表面中に双極子を誘発させ、その復元力により、この励起の共鳴周波数において振動電磁場が生じる。レイリーリミットにおいては、この共鳴は、主として、いわゆる‘プラズマ波長’を決定する金属表面での自由電子(‘プラズモン’)の密度並びに金属およびその環境の誘電定数により決まる。表面上にまたは表面に近接近して吸着された分子は、異常に大きな電磁場に直面し、この電磁場においては、表面に直角の振動様式が最も強く増強される。これが表面プラズマ共鳴(SPR)効果であり、プラズマと表面近くの分子間の空間エネルギー移動を可能にする。表面プラズマ共鳴の強度は、エネルギー移動効率がレーザー波長と金属のプラズマ波長間の良好な適合に依存していることから、入射光の波長および金属表面の形態のような多くの要因に依存している。
さらになお増強を高めるには、発色団成分を使用してエネルギー移動に対するさらなる分子共鳴寄与をもたらし得る;表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)と称する方法。共鳴ラマンピークの強度は、散乱断面の二乗αに比例する。順に、散乱断面は、遷移双極子モーメントの二乗に関連し、従って、吸収スペクトルを通常追跡する。入射光子がその吸収スペクトル中の吸収ピークに近いエネルギーを有する場合、分子は、散乱事象が生じるときの励起状態にある可能性が最も高く、それによってアンチストークスシグナルの相対的強度を増大させる。表面および共鳴増強効果の組合せは、SERRSが通常のラマン分光法を典型的には109〜1014倍上回る極めて大きなシグナル増強を与え得ることを意味する。
【0004】
ラマン散乱における共鳴増強に加え、最近は、ラマンシグナルを共鳴エネルギー移動メカニズムにより強度において弱める共鳴脱増強(de-enhancement)が説明されてきている。特定の条件下においては、興味あるエネルギーにエネルギー的に近い励起エネルギー状態は、ラマン散乱の低下を生じ得る。この状態においては、ラマン強度は断面の和の二乗に比例し、断面が逆符号を有する場合、破壊的干渉が生じて、観測される共鳴脱増強をもたらし得る。このことは、ラマン生体感知系において使用する別の測定基準を提供する(特定のラベルからのシグナルを、この脱増強効果を促進させるレーザー周波数/吸収プロフィールを使用するによってラマンスペクトルから選択的に取出し得る)。“共鳴ラマン分光法”なる用語は、本明細書においては、共鳴脱増強を包含するように使用する。
Park等(Journal of Organometallic Chemistry 584 (1999) 140-146)は、Pd-触媒アリル基置換反応用のキラルリガンドとしてのキラル1'-置換オキサゾリニルフェロセンの合成を開示している。この文献の方式1に示された合成法は、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸および1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセンの使用を含む。
Sunkel等(Zeitschrift fuer Naturforschung, B: Chemical Sciences (1993), 48(5), 583-590)は、シクロペンタジエニル環上に1個のさらなる官能基を有するある種のシマントレンチオエーテルの合成を開示している。開示されている化合物としては、各種のクロロ置換シマントレンモノ-およびビス-チオエーテル(以下、クロロ置換シマントレニルチオエーテルと称する)類、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、およびN,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素がある。
(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセンは、Sigma-Aldrich社から入手可能である。
【発明の開示】
【0005】
今回、発色団としてメタロセン基を使用する1連の分子を共鳴ラマン分光法用の、とりわけ生体感知用途用のラベルとして使用し得ることが判明した。これら分子のラマン分光特性を、1個以上のハロゲン置換基を取込ませてそのような化合物によって一般的に発生するシフトと異なるシフトでのラマン散乱ピークを生じさせることにより、分析物(好ましくは、ペプチド、タンパク質、核酸もしくは炭水化物のような生体分子、生体分子アナログ、または生体分子の特異結合性パートナー)と一緒に使用するように最適化する。
メタロセン基の存在は、これらのラベルを電気化学分析においても有用にするレドックス中心を提供する。
上記ラベルは、通常のペプチド接合化学と適合し得るように設計し得、および/または置換してセンサー表面上に固定するための表面結合官能性を付与するか(それによって、電極上の電気化学活性単分子層またはラマン散乱の表面増強を得る)、或いは遊離溶液中で使用し得る。
本発明によれば、特許請求の範囲において定義したようなラベルを提供する。
本発明によれば、分析物へのラベルの共有結合のための反応基およびハロゲンに共有結合させたメタロセンを含み、ハロゲンが、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させるような共鳴ラマン分光ラベルを提供する。
本発明のラベルは、以下の化合物を除外し得る:(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセン、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸、1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセン、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、およびクロロ置換シマントレニルチオエーテル。
反応基は、ハロゲン以外の基によって付与すべきである。好ましくは、反応基は、ハロゲンではない。
また、本発明によれば、分析物に共有結合させた共鳴ラマン分光ラベルを提供し、該ラベルは、メタロセンに共有結合させたハロゲンを含んで、ハロゲンが、該ラベルを共鳴ラマン分光法に供したとき、特徴的ラマンピークを発生させるようにする。
分析物に共有結合させた本発明のラベルは、以下の化合物を除外し得る:N,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
メタロセンは、遷移金属イオンを含有する1群の有機金属複合体であり、下記のフェロセンは1951年に最初に発見されている:
【化1】
当時、メタロセンなる用語は、2個のη5-シクロペンタジエニル(Cp)リガンド間に挟まれた金属イオン(M)を有する複合体を説明するのに使用されていた:
【化2】
フェロセンの発見以来、多数のメタロセンが製造され、該用語は、置換Cp環を有するメタロセンを含む広範囲の有機金属構造体を包含するように進展してきており、それらの例は、種々の可能性あるCp結合様式の全て、ある種の湾曲サンドイッチ構造体、および半サンドイッチまたはモノCp複合体さえも示す。
【0007】
用語“メタロセン”は、本明細書においては、遷移金属イオンに複合体化したシクロペンタジエニル環を含むあらゆる化合物を包含するように使用する。本発明に従って使用し得るメタロセン構造体の好ましい例を、下記に示す:
【化3】
ある種のメタロセンは環の1つまたは双方にヘテロ原子を含み得るので、用語“シクロペンタジエニル”は、本明細書においては、環炭素の1つが、代りに、窒素、イオウ、ケイ素または酸素のようなヘテロ原子であるシクロペンタジエニル環も包含するように使用する。
殆どの遷移金属イオンに対して利用し得る複数の酸化状態が存在し、それで、メタロセン類はレドックス中心として作用し得、従って、電気化学試験におけるラベルとして周知である。メタロセン化合物は、殆どのdブロックおよびランタニド系列元素において商業的に入手可能であり、従って、適切なレドックスおよび分光特性を有する化合物を選択するのに利用し得る広範囲の選択枝が存在する。好ましいメタロセンは、遷移金属イオンがスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅または亜鉛遷移金属イオンであるメタロセン類である。より好ましくは、遷移金属イオンは、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅または亜鉛遷移金属イオンである。
複数のハロゲンをメタロセンに共有結合させ得る。そのまたは各ハロゲンは、メタロセンの遷移金属イオンにまたはメタロセンのシクロペンタジエニル環に共有結合させ得る。
【0008】
共鳴ラマン分光法においては、ラベルは、ラマン励起レーザー(典型的には、このレーザーは、紫外線/可視光線/近赤外線領域である)のスペクトル範囲において少なくとも1つの強い吸収ピークを有すべきである。メタロセン類は、遷移金属イオンを含有するので、d軌道電子遷移によって生じるこのスペクトル領域内での強い吸収ピークを典型的に示す。メタロセン類は、強く着色した分子であり、従って、共鳴ラマン分光法において要求される発色団機能を与える良好な候補群であることが期待される。
分光ラベルにおける主要な要件は、最低限の背景干渉しか受けないスペクトルシグナルをもたらすことである。ラマンスペクトル中のピークは、主として、特定の化学基からの振動モードによるので、ラマン活性ラベルは、理想的には、分析するサンプル中には通常存在しない化学基を含有すべきである。タンパク質サンプルは、この領域においては、主としてシステイン、ジスルフィド結合および芳香環による幾つかの弱いピークを示すが、これらのピークは、残余のスペクトル中のピークよりもはるかに弱い。典型的なタンパク質においては、殆どのラマン散乱は、2000〜3000cm-1領域における第2窓を伴って、800〜1700cm-1領域において生じる。
インスリンにおけるラマンスペクトルを図1bに示す。インスリンは、比較的高割合のジスルフィド結合を有する(51-アミノ酸分子において3個のジスルフィド)。500〜800cm-1のスペクトル領域は、残りのスペクトルと‘平穏’に比較される。従って、これは、ラマン活性ラベルからシグナルを得るに当っての優れた窓口であろう。
【0009】
炭素-ハロゲン結合は、生物学的サンプルにおいては極めて稀であり、900 cm-1よりも下の領域において強いラマン発光ピークを生じることが知られている。2-ハロエタノール類におけるラマンスペクトルを図2に示す。ハロゲン原子の存在によるピーク強度は、周期表の下方から順次増大している。
図2に示すラマンスペクトルは、最高ピークに標準化している。置換していないエタノールにおいては、この最高ピークは、2930 cm-1辺りでのC-H結合振動に基づく。事実、該化合物の全ての間で共有される一般的C-H結合群に基づく2000〜3000cm-1領域における特徴的ピーク群が存在する。このピーク群は、置換分子中のC-ハロゲン結合によって生じるピーク強度の増大により、強度において低下しているようである。C-ハロゲンピークは、フルオロ置換分子においては、C-Hピークにおよそ等しい強度を有して860cm-1で出現している。クロロ置換分子においては、このピークは、665cm-1にシフトしており、今や、C-Hピークよりも強度においておよそ1.5倍大きい。ブロモ置換分子において、ピークは590cm-1においてで2.8倍大きい強度であり、イオド置換分子においては、ピークは520cm-1においてで3倍大きい強度である。最強ピーク以外に、ハロエタノールスペクトルにおいては、C-ハロゲン結合の別の振動モードに基づく800cm-1よりも低い領域において余分なピークが存在している。
図3は、主C-Hピークと対比した主C-ハロゲンピークのラマンシフトおよび強度を示す。主ピーク位置および強度は、周期表中のハロゲン類の順序に従っていることは明白である。ヨウ素および臭素は、最低のラマンシフトにおいて最強のピークを与える。しかしながら、C-Iピークは、516cm-1においてインスリンスペクトルで見られるジスルフィドS-Sピークに極めて近く、従って、C-Brピーク(インスリンスペクトル内のトラフと同じ領域を占める)よりも、タンパク質成分からの背景干渉に対して感受性であるようである。従って、ブロモ置換基がタンパク質およびペプチド類のラベル化においては好ましいが、ハロゲン類のいずれも許容し得る結果を与えるであろう。
【0010】
共鳴効果を最大にするには、発色団吸収特性に寄与する電子と振動によりラマン散乱光子のエネルギーシフトを生じさせる結合に関与する電子との間に強力な相互作用が存在すべきである。そのような配置は、励起状態の発色団からの電子遷移とラマン活性振動モードからのエネルギー遷移間の強力なカップリングの存在を確実にする。ハロゲン原子(1個以上)を、直接Cp環に置換するか、或いは少数のみの介入原子(好ましくは1個の原子、より好ましくは1個の炭素、ケイ素または窒素原子)によりまたは非局在化電子系を有する基によりCp環に結合させる場合、遷移金属電子もハロゲン原子(1個以上)への結合に関与する分子軌道を形成する可能性が存在する。
例えば、下記の完全臭素置換コバルトセンの最高占有および最低未占有分子軌道は、これらの軌道が分子中の殆どの原子上で非局在化していることを示している(図4a参照):
【化4】
電子は、コバルトイオン、10個全ての炭素原子および10個のうちの4個または6個の臭素原子のそれぞれ間で共有されている。HOMOおよびLUMOの双方は、C-Br結合上で反結合特性を示している。入射レーザーがこれらの電子を高エネルギー状態に励起すべき場合、C-Br結合の振動特性も改変され、それによって共鳴ラマンシグナルにおける効率的なエネルギーカップリングメカニズムを与えるであろう。
同様な効果は、トリブロモメチルコバルトセンにおいても見られる(図4b)。臭素原子が炭素原子によってCp環から離れていても、分子軌道は、電子が分子全体上で非局在化され、従って、発色団と分子のラマン活性領域間での効率的なカップリングが存在していることを示している。
【0011】
本発明の好ましい実施態様においては、複数のハロゲンをメタロセンに共有結合させて、特徴的ラマンピーク痕跡を、ラベル(好ましくは、SERRSラベル)を共鳴ラマン分光法(好ましくは、SERRS)に供したときに発生させるようにする。複数のハロゲンは、異なるハロゲンを含み得る。そのような実施態様は、複数の種々の分析物の同時共鳴ラマン分光検出において使用し得、各異なる分析物は本発明の異なるラベルによってラベル化されている。ラベルの共鳴ラマンスペクトル特性は、メタロセン中の遷移金属およびハロゲン置換パターンの適切な選択により調節して、各ラベルが他のラベルの特徴的ラマンピーク痕跡と識別し得る特徴的ラマンピーク痕跡を発生するようにし得ることを認識されたい。多数の種々の製造し得るラベルを考慮すれば、そのような実施態様は、原理的には、極めて多数の種々の分析物(可能性としては、49種を越える分析物)を検出するのに使用し得る。
本発明のラベルは、サンプル中の単数または複数のターゲットの存在または量を共鳴ラマン分光法によって検出するのに使用し得る。ターゲットは分析物であり得るか(即ち、ターゲットを本発明のラベルで直接ラベル化している場合)、或いは、分析物を使用してサンプル中のターゲットの存在または量を指標させることもできる(例えば、ターゲットに特異的に結合させることによって、またはターゲットの存在によりターゲット結合種から置換えるターゲットアナログであることによって)。
適切なターゲットの例としては、生体分子(タンパク質、核酸、炭水化物、プロテオグリカン、脂質またはホルモンのような)、薬物または他の治療薬およびこれらの代謝物、乱用薬物(例えば、アンフェタミン、アヘン、ベンゾジアゼピン、バルビツール酸塩、カナビノイド、コカイン、LSDおよびこれらの代謝物)、爆薬(例えば、ニトログリセリン、またはTNT、RDX、PETNおよびHMXのようなニトロトルエン類)、並びに環境汚染物(例えば、除草剤、殺虫剤)がある。
【0012】
サンプルは、ターゲットの存在または量について試験することを欲する任意のサンプルである。ターゲットの存在または量について試験することを欲する多くの状況が存在する。例としては、臨床用途(例えば、血液または尿サンプルのような生物学的サンプル中の抗原の存在の検出)、乱用薬物の存在(例えば、違法サンプル、または体液もしくは呼気サンプルのような生物学的サンプル中の)の検出、爆薬の検出、または環境汚染物(例えば、液体、空気、土壌または植物サンプル中の)の検出がある。
本発明の好ましい実施態様においては、分析物は、生体分子、生体分子の特異結合性パートナー、または生体分子の特異結合性パートナーによって特異的に結合させ得る生体分子アナログである。特異結合性パートナーは、生体分子を特異的に認識する抗体である。また、特異結合性パートナーは、ターゲット核酸に特異的にハイブリッド化(典型的には、緊縮ハイブリッド化条件下に)するように設計した核酸プローブである。また、代謝物、脂質、リン脂質および非ペプチドホルモンのような小分子基質アナログも、本発明に従ってラベル化して電気化学的モニタリングを可能にするのに適し得る。
用語“特徴的ラマンピーク”は、本明細書においては、上記ラベルおよび分析物(および分析物と異なる場合のターゲット)を含むサンプルを共鳴ラマン分光法に供したときに発生する他のラマンピークおよび背景と識別し得る、ハロゲンの存在によって生じたラマンピークを意味するように使用する。
メタロセンに結合させる反応基は、好ましくは、分析物と直接反応させ得る基を含む。分析物がペプチドまたはタンパク質である場合、好ましくは、反応基は、カルボン酸基を含む。分析物が核酸である場合、好ましくは、反応基は、アミン基を含む。
【0013】
本発明の好ましい実施態様においては、ラベルは、通常のペプチド接合化学と適合性である。通常のペプチド合成化学は、アミノ酸基を生長中の連鎖に順次付加させることを典型的に含む。連鎖は、あり得る反応性官能基をマスクしてN-末端の1個の反応性アミンのみを残すための数個の保護基を担持する。連続する各アミノ酸は、このアミンを1個のカルボン酸基(該カルボン酸基が含有し得るさらなる反応性カルボキシレート基をマスクする同様な保護基を有する)と反応させることによりペプチド結合を形成させることによって付加する。カップリング工程においては、この1個のカルボン酸を、典型的には、このカルボン酸をカップリング試薬、例えば、[(N-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)(ジメチルアミノ)メチレン]-N-メチルメタナミニウムヘキサフルオロホスフェート N-オキサイド(HBTU)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、7-アザベンゾトリアゾール-1-イル-N-オキシ-トリス(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyAOP)または同様な分子と接合させることによって活性化する。従って、ペプチドまたはタンパク質をラベル化するための本発明のSERRSラベルは、通常のペプチド合成化学を使用してペプチドに結合させる(実際には、通常の自動化ペプチドシンセサイザーにおいて使用する)のを可能にする1個の反応性カルボン酸基を必要とする。さらに、このカルボン酸基は、この接合反応を干渉する如何なる潜在的反応部位も含有してはならない。1個の反応性カルボン酸基を含有するメタロセン化合物は、容易に合成し得、従って、通常のペプチド合成法に適合性である。
また、本発明によれば、ハロゲンに共有結合させたメタロセンを含む共鳴ラマン分光ラベルも提供する。好ましくは、ハロゲンは、メタロセンのCp環上に直接置換させるか、或いは1個のみの原子を介してCp環に結合させる。さらに、本発明によれば、ハロゲンに共有結合させたメタロセンの共鳴ラマン分光ラベルとしての使用も提供する。ハロゲンは、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させなければならない。ハロゲンを共有結合させたメタロセンは、本発明のラベルによって調製し得る。
【0014】
メタロセン基の存在は、本発明のラベルを電気化学分析においても有用にするレドックス中心を与える。電気化学ラベルは、電子を容易に受容し供与して、サイクリックボルタンメトリー、アンペロメトリーおよび線型掃引ボルタンメトリーのような電気化学法によって検出可能である必要がある。メタロセン中の遷移金属イオンは種々の異なる酸化状態において安定なメタロセン構造を通常維持し得、従って、電気化学的に容易に検出可能である。遷移金属イオンの的確な選択およびこのイオンに結合させるリガンドの性質は、基の全体としてのレドックス電位に影響を与え、従って、レドックス電位の同調は、これらの成分の注意深い選定によって可能である。
本発明のラベルは、酵素反応の基質(好ましくは、ペプチド基質)をラベル化してこの反応を電気化学的にモニターし得るようにする電気化学ラベルとして使用し得る。そのような実施態様においては、上記反応を電気化学的にモニターするのに使用する電極は、本発明のラベルによって(即ち、ハロゲンに共有結合させたメタロセンによって)コーティーングして(共有的にまたは非共有的に)、電極表面上の酵素の変性を阻止または低減する保護層を電極上に付与することができる。
他の実施態様においては、本発明のラベルは、電気化学感知アッセイにおける電気化学メディエイターとして使用して、電子を、電極から、電気化学的にモニターすることを欲する反応の成分(例えば、酵素または基質)へ移行させ得る。ラベルは、溶液中で遊離状態であり得る。また、ラベルは、反応成分に共有結合させても、および/または電極に固定(共有的にまたは非共有的に)させてもよい。ラベルを電極に固定させる場合、この固定は、電極上に電気化学的に活性な層を付与する。反応成分がペプチドまたはタンパク質を含む場合、上記電気化学的に活性な層は、電極表面上のタンパク質の変性を阻止または低減する保護層を与え得る。
本発明の幾つかの実施態様によれば、電極を使用して本発明のラベルのレドックス状態を改変させ、それによって共鳴ラマン分光法によるラベルの視感度に影響を与え得る。このことは、ラベルの視感度を上回る電子制御をもたらす。このことは、複数の異なる分析物を、本発明の異なるラベルを使用して検出する本発明の実施態様においてとりわけ有用である。ラベルの視感度を変化させることにより、サンプルのラマンスペクトルを簡素化し得る。
多くの場合、ラベルを電極(典型的には、金属電極)の表面またはラマン表面増強を与えた表面(SERR表面)上に固定するのが望ましい。SERRS表面は、好ましくは金属、典型的には金、銀または銅である。
【0015】
本発明によれば、分析物へのラベルの共有結合のための反応基、SERRS表面結合基およびハロゲンに共有結合させたメタロセンを含み、メタロセンへのハロゲンの結合が、ハロゲンが、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させるようにすることを特徴とする共鳴ラマン分光ラベルを提供する。
また、本発明に寄れば、ハロゲンおよびSERRS表面結合基に共有結合させたメタロセンを含むSERRSラベルも提供する。さらに、本発明によれば、ハロゲンおよびSERRS表面結合基に共有結合させたメタロセンのSERRSラベルとしての使用も提供する。SERRSラベルは、SERRS表面結合基を含む本発明のラベルにより調製し得る。
SERRS表面に対するSERRS表面結合基の結合定数は、好ましくは、サンプル中のターゲットの自然産生濃度の少なくとも半分である。
金属結合特性を与えることが知られている数種の官能基が存在し、その殆どは、孤立電子対(多くの場合、窒素または酸素原子からの)による金属への結合または共有結合(典型的には、チオールまたはチオレート基からの)を形成する。チオエーテル基(-SMe基または-SPh基のような)または-PPh2基は、SERRS表面結合基であるとはみなされない。メタロセン中のCp環は、適切な基で置換して金属結合性機能を付与し得る。ラベルがペプチドまたはタンパク質分析物のラベル化用である場合、この基は、分析物をラベル化するのに使用するペプチド接合化学に適合し得るように選択すべきである(即ち、この基は、遊離のカルボキシレートまたは極めて電子密度の高い基を含有すべきでない)。
本発明のラベルは、共鳴ラマン分光法を使用してサンプル中の単数または複数のターゲットの存在または量を検出する既知の検出方法において使用し得る。好ましい方法は、SERRS置換アッセイ、とりわけSERRS置換イムノアッセイである。
好ましいSERRS置換アッセイによれば、サンプルを、固定したターゲット結合性種(ターゲットに特異的に結合し得る)、分析物に共有結合させた本発明のラベルおよびSERRS表面結合基を含む複合体に暴露させる。ラベルの分析物は、ターゲット結合性種をラベルの分析物部分に特異的に結合するようなターゲットのアナログである。ターゲットがサンプル中に存在する場合、このアナログは、ターゲット結合種をラベルに置換える。任意の置換ラベルをSERRS表面に暴露させ、該表面にSERRS表面結合基により結合させる。その後、置換ラベルをSERRSによって検出し得る。
好ましくは、SERRS置換アッセイは、ターゲット結合性種が、ターゲットを特異的に認識する抗体(または、抗体フラグメントまたは誘導体)であるSERRS置換イムノアッセイである。
【0016】
好ましくは、本発明のラベルのシクロペンタジエニル環は、下記の構造を有する:
【化5】
(式中、R1は、分析物または分析物への共有結合のための反応基であり;
R2、R3、R4およびR5は、個々に、XまたはYRxRyRzであり;
Yは、C、SiまたはNであり;
Rx、RyおよびRzは、個々に、XまたはHであり;そして、
Xは、ハロゲンであり;
必要に応じて、R2〜R5の1つは、金属結合基であり;
必要に応じて、環炭素の1つは、代りに、ヘテロ原子(好ましくは、窒素、イオウ、ケイ素または酸素)である;
但し、R2〜R5の少なくとも1つはXを含むことを条件とする)。
シクロペンタジエニル環の構造のみをこの場合示している。ラベルの残余は、上記で示したメタロセン構造体のいずれかを含み得る。
【0017】
また、好ましくは、本発明のラベルは、下記の構造:
【化6】
(式中、R'1、R'2、R'3、R'4およびR'5は、個々に、XまたはYRxRyRzであり;
Yは、C、SiまたはNであり;
Rx、RyおよびRzは、個々に、XまたはHであり;そして、
Xは、ハロゲンであり;
必要に応じて、環炭素の1つは、代りに、ヘテロ原子(好ましくは、窒素、イオウ、ケイ素または酸素)である;
但し、R'1〜R'5の少なくとも1つはXを含むことを条件とする)
を有する第1のシクロペンタジエニル環、および下記の構造:
【化7】
(式中、R”1は、分析物または分析物への共有結合のための反応基であり;
必要に応じて、R”1〜R”5の1つは、金属結合基である)
を有する第2のシクロペンタジエニル環を含む。
好ましい金属結合基の例は、ベンゾトリアゾール基である。
【0018】
本発明の好ましい局面は、下記のとおりである:
1) 共鳴ラマン分光法において発色団として作用するメタロセン基の使用。
2) タンパク質およびペプチド類により、或いは核酸または炭水化物または他の生体分子により発生させたピークとは異なるラマン散乱ピークを発生させるための1個以上のハロゲン置換基の取込み。
3) メタロセン基中の遷移金属および置換パターンの適切な選定による共鳴ラマンスペクトル特性の同調。
4) 電気化学分析におけるレドックス活性基としての上記ラベルの第2の使用。
5) 通常のペプチド接合化学を使用しての、ペプチド類への結合を可能にするためのラベルの官能化。
6) 表面固定化のための金属結合性を付与するラベルの官能化、並びに結果としてのラマン散乱における表面増強および/または電極表面上への単分子層形成。
本発明の1つの局面においては、本発明のラベルは、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したとき、特徴的ラマンピーク(即ち、分析物またはターゲットにより発生させたラマンピークと識別し得るピーク)を発生させるハロゲン以外の基に共有結合させたメタロセンを含み得る。
本発明の実施態様を、以下の実施例において、添付図面を参照して説明する。
【0019】
実施例1
図5は、電気化学感知用のラベルとしての第2の使用に適するレドックス特性をも有する本発明の好ましい実施態様に従うラベルを示す。ペプチド接合用の遊離カルボキシレートを担持するように置換した1つのCp環を有し且つ金属結合性を付与するチオメチル基で置換した他方のCp環を有する臭素置換コバルトセン。Cp結合コバルトイオンは、発色団およびレドックス中心特性を与え、環結合臭素は、ラベルを結合させ得るペプチドまたはタンパク質からの実質的干渉を被るべきでないスペクトル領域においてラマン散乱ピークを生じさせる。
【0020】
実施例2
染料A
図6は、染料Aと称する本発明の好ましい実施態様の化学構造を示す。図7は、染料AにおけるUV/Vis(可視光線)吸収スペクトルを示す。広いピークは、〜400〜550nmのスペクトルにおいて観察し得る。このことから、この化合物(およびその誘導体)は、各種の可視波長レーザーと一緒に使用するのに適していることを認識されたい。適切な商業的に入手可能なレーザーは、355、430、457、473、501、514、523、532、556および561nmにおいて得ることができる。図8は、染料AにおけるSERRSスペクトルを示す。染料Aの臭素によって生じた特徴的ラマンピークは、<1100波数において存在している。
【0021】
実施例3
染料B
図9は、染料Bと称する本発明のさらに好ましい実施態様の化学構造を示す。染料Bは、SERRS表面結合基として作用するベンゾチアゾール基を含む。図10は、染料BにおけるSERRSスペクトルを示す。染料Bの臭素によって生じた特徴的ラマンピークは、<1100波数において存在している。
【0022】
実施例4
ペプチド接合体
図11は、“ペプチド接合体”と称する本発明のさらに好ましい実施態様の化学構造を示す。この化合物においては、ベンゾチアゾール基(SERRS表面結合基として作用する)を、メタロセンのCp環に、ペプチド(配列:GGVYLLPRRGPR (SEQ ID NO:1))と反応させている連結基によって共有結合させている。図12は、該ペプチド接合体のSERRSスペクトルを示す。該ペプチドによって生じた分光背景は観察され得るが、臭素によって生じた特徴的ラマンピークは、<1100波数において存在しており、上記分光背景とは識別し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】a)は、ストークスおよびアンチストークス散乱光子におけるエネルギー変化を略図的に示す。b)は、インスリンにおけるラマンスペクトルを示す(C.Ortiz et al. (2004), Anal.Biochem. 332; 245-252)。
【図2】エタノールおよび2-ハロエタノールにおけるラマンスペクトルを示す。
【図2−1】2-ハロエタノールにおけるラマンスペクトルを示す。
【図3】主C-Hピークと対比しての主C-ハロゲンピークのラマンシフトと強度を示す。
【図4】1,2,3,4,5,1',2',3',4',5'-デカブロモコバルトセン(10-BrCc)における最高占有(頂部)および最低未占有(底部)分子軌道を示す。
【図4−1】トリブロモメチルコバルトセンにおける最高占有(頂部)および最低未占有(底部)分子軌道を示す。
【図5】本発明の好ましい実施態様に従うラベルを示す。
【図6】本発明のさらに好ましい実施態様に従うラベル(染料A)の化学構造を示す。
【図7】染料AにおけるUV/Vis吸収スペクトルを示す。
【図8】染料AにおけるSERRSスペクトルを示す。
【図9】本発明のさらに好ましい実施態様に従うラベル(染料B)の化学構造を示す。
【図10】染料BにおけるSERRSスペクトルを示す。
【図11】本発明のさらに好ましい実施態様に従うペプチド接合体の化学構造を示す。
【図12】図11に示すペプチド接合体におけるSERRSスペクトルを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物へのラベルの共有結合のための反応基、SERRS表面結合基、およびハロゲンに共有結合させたメタロセンを含み、メタロセンへのハロゲンの結合が、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときにハロゲンが特徴的ラマンピークを発生させるようにすることを特徴とする、共鳴ラマン分光ラベル。
【請求項2】
分析物へのラベルの共有結合のための反応基およびハロゲンに共有結合させたメタロセンを含み、ハロゲンをメタロセンのシクロペンタジエニル環(明細書において定義するような)に共有結合させて、ハロゲンが、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させるようにすることを特徴とするが、(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセン、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸、1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセン、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、およびクロロ置換シマントレニルチオエーテルを除外する、共鳴ラマン分光ラベル。
【請求項3】
ラベルがメタロセンに共有結合させたハロゲンを含んで、ハロゲンが、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させるようにすることを特徴とするが、N,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素を除外する、分析物に共有結合させた共鳴ラマン分光ラベル。
【請求項4】
メタロセンを、表面増強共鳴ラマン分光(SERRS)表面結合基に共有結合させる、請求項2または3記載のラベル。
【請求項5】
ハロゲンを、メタロセンのシクロペンタジエニル環(明細書において定義するような)に共有結合させる、請求項1または3記載のラベル。
【請求項6】
ハロゲンを、メタロセンの遷移金属イオンに共有結合させる、請求項1または3記載のラベル。
【請求項7】
ハロゲンを、前記シクロペンタジエニル環の環原子に共有結合させる、請求項2または5記載のラベル。
【請求項8】
ハロゲンを、炭素、ケイ素または窒素原子により、前記シクロペンタジエニル環に共有結合させる、請求項2または5記載のラベル。
【請求項9】
ハロゲンを、非局在化電子系を含む基により、前記シクロペンタジエニル環に共有結合させる、請求項2または5記載のラベル。
【請求項10】
複数のハロゲンをメタロセンに共有結合させて、特徴的ラマンピーク痕跡を、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに発生させるようにする、請求項1〜9のいずれか1項記載のラベル。
【請求項11】
複数のハロゲンが、異なるハロゲンを含む、請求項10記載のラベル。
【請求項12】
前記シクロペンタジエニル環が、下記の構造を有する、請求項1〜11のいずれか1項記載のラベル:
【化1】
(式中、R1は、分析物または分析物への共有結合のための反応基であり;
R2、R3、R4およびR5は、個々に、XまたはYRxRyRzであり;
Yは、C、SiまたはNであり;
Rx、RyおよびRzは、個々に、XまたはHであり;そして、
Xは、ハロゲンであり;
R2〜R5の1つは、金属結合基であってもよく;
環炭素の1つは、代りに、ヘテロ原子(窒素、イオウ、ケイ素または酸素)であってもよいが;
但し、R2〜R5の少なくとも1つはXを含むことを条件とする)。
【請求項13】
分析物が、生体分子、生体分子アナログまたは生体分子の特異結合性パートナーである、請求項1〜12のいずれか1項記載のラベル。
【請求項14】
生体分子が、ペプチド、核酸または炭水化物である、請求項13記載のラベル。
【請求項15】
生体分子の前記特異結合性パートナーが、抗体または核酸である、請求項13記載のラベル。
【請求項16】
前記反応基が、ペプチド分析物との反応のためのカルボン酸基または核酸分析物との反応のためのアミン基を含む、請求項1または2記載のラベル。
【請求項17】
ラベルのレドックス状態を、共鳴ラマン分光法によるラベルの視感度に影響を与えるように変化させ得る、請求項1〜16のいずれか1項記載のラベル。
【請求項18】
共鳴ラマン分光法による複数の異なる分析物の検出用の複数の異なるラベルであって、各々の異なるラベルが、請求項1〜17のいずれか1項に従い、共鳴ラマン分光法に供したときに、各ラベルを他のラベルと識別するのに使用し得る特徴的ラマンピーク痕跡を発生させることを特徴とする前記複数の異なるラベル。
【請求項19】
各ラベルが請求項1〜17のいずれか1項に従う、共鳴ラマン分光法により複数の異なる分析物を検出するための、複数の異なるラベルの使用。
【請求項20】
共鳴ラマン分光ラベルとしての、ハロゲンに共有結合させたメタロセンの使用。
【請求項21】
ハロゲンを、前記メタロセンのシクロペンタジエニル環上に直接置換させるか、或いは前記シクロペンタジエニル環に1個の原子を介して結合させる、請求項20記載の使用。
【請求項22】
ハロゲンに共有結合させたメタロセンを、請求項1〜17のいずれか1項記載のラベル、或いは(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセン、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸、1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセン、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、クロロ置換シマントレニルチオエーテルまたはN,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素によって調製する、請求項20または21記載の使用。
【請求項23】
SERRS表面結合基も前記メタロセンに共有結合させる、SERRSラベルとしての請求項20または21記載の使用。
【請求項24】
ハロゲンおよびSERRS表面結合基に共有結合させたメタロセンを、請求項1または4〜17のいずれか1項記載のラベルにより調製する、請求項23記載の使用。
【請求項25】
ハロゲンに共有結合させたメタロセンの、ラベルまたは電気化学感知用の電気化学メディエイターとしての使用。
【請求項26】
ハロゲンに共有結合させたメタロセンを、請求項1〜17のいずれか1項記載のラベル、或いは(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセン、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸、1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセン、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、クロロ置換シマントレニルチオエーテルまたはN,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素によって調製する、請求項25記載の使用。
【請求項27】
前記メタロセンを、前記メタロセンの金属電極への固定のために、金属結合基にも共有結合させる、請求項25または26記載の使用。
【請求項28】
前記金属結合基が、SERRS表面結合基である、請求項27記載の使用。
【請求項1】
分析物へのラベルの共有結合のための反応基、SERRS表面結合基、およびハロゲンに共有結合させたメタロセンを含み、メタロセンへのハロゲンの結合が、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときにハロゲンが特徴的ラマンピークを発生させるようにすることを特徴とする、共鳴ラマン分光ラベル。
【請求項2】
分析物へのラベルの共有結合のための反応基およびハロゲンに共有結合させたメタロセンを含み、ハロゲンをメタロセンのシクロペンタジエニル環(明細書において定義するような)に共有結合させて、ハロゲンが、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させるようにすることを特徴とするが、(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセン、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸、1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセン、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、およびクロロ置換シマントレニルチオエーテルを除外する、共鳴ラマン分光ラベル。
【請求項3】
ラベルがメタロセンに共有結合させたハロゲンを含んで、ハロゲンが、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに、特徴的ラマンピークを発生させるようにすることを特徴とするが、N,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素を除外する、分析物に共有結合させた共鳴ラマン分光ラベル。
【請求項4】
メタロセンを、表面増強共鳴ラマン分光(SERRS)表面結合基に共有結合させる、請求項2または3記載のラベル。
【請求項5】
ハロゲンを、メタロセンのシクロペンタジエニル環(明細書において定義するような)に共有結合させる、請求項1または3記載のラベル。
【請求項6】
ハロゲンを、メタロセンの遷移金属イオンに共有結合させる、請求項1または3記載のラベル。
【請求項7】
ハロゲンを、前記シクロペンタジエニル環の環原子に共有結合させる、請求項2または5記載のラベル。
【請求項8】
ハロゲンを、炭素、ケイ素または窒素原子により、前記シクロペンタジエニル環に共有結合させる、請求項2または5記載のラベル。
【請求項9】
ハロゲンを、非局在化電子系を含む基により、前記シクロペンタジエニル環に共有結合させる、請求項2または5記載のラベル。
【請求項10】
複数のハロゲンをメタロセンに共有結合させて、特徴的ラマンピーク痕跡を、ラベルを共鳴ラマン分光法に供したときに発生させるようにする、請求項1〜9のいずれか1項記載のラベル。
【請求項11】
複数のハロゲンが、異なるハロゲンを含む、請求項10記載のラベル。
【請求項12】
前記シクロペンタジエニル環が、下記の構造を有する、請求項1〜11のいずれか1項記載のラベル:
【化1】
(式中、R1は、分析物または分析物への共有結合のための反応基であり;
R2、R3、R4およびR5は、個々に、XまたはYRxRyRzであり;
Yは、C、SiまたはNであり;
Rx、RyおよびRzは、個々に、XまたはHであり;そして、
Xは、ハロゲンであり;
R2〜R5の1つは、金属結合基であってもよく;
環炭素の1つは、代りに、ヘテロ原子(窒素、イオウ、ケイ素または酸素)であってもよいが;
但し、R2〜R5の少なくとも1つはXを含むことを条件とする)。
【請求項13】
分析物が、生体分子、生体分子アナログまたは生体分子の特異結合性パートナーである、請求項1〜12のいずれか1項記載のラベル。
【請求項14】
生体分子が、ペプチド、核酸または炭水化物である、請求項13記載のラベル。
【請求項15】
生体分子の前記特異結合性パートナーが、抗体または核酸である、請求項13記載のラベル。
【請求項16】
前記反応基が、ペプチド分析物との反応のためのカルボン酸基または核酸分析物との反応のためのアミン基を含む、請求項1または2記載のラベル。
【請求項17】
ラベルのレドックス状態を、共鳴ラマン分光法によるラベルの視感度に影響を与えるように変化させ得る、請求項1〜16のいずれか1項記載のラベル。
【請求項18】
共鳴ラマン分光法による複数の異なる分析物の検出用の複数の異なるラベルであって、各々の異なるラベルが、請求項1〜17のいずれか1項に従い、共鳴ラマン分光法に供したときに、各ラベルを他のラベルと識別するのに使用し得る特徴的ラマンピーク痕跡を発生させることを特徴とする前記複数の異なるラベル。
【請求項19】
各ラベルが請求項1〜17のいずれか1項に従う、共鳴ラマン分光法により複数の異なる分析物を検出するための、複数の異なるラベルの使用。
【請求項20】
共鳴ラマン分光ラベルとしての、ハロゲンに共有結合させたメタロセンの使用。
【請求項21】
ハロゲンを、前記メタロセンのシクロペンタジエニル環上に直接置換させるか、或いは前記シクロペンタジエニル環に1個の原子を介して結合させる、請求項20記載の使用。
【請求項22】
ハロゲンに共有結合させたメタロセンを、請求項1〜17のいずれか1項記載のラベル、或いは(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセン、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸、1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセン、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、クロロ置換シマントレニルチオエーテルまたはN,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素によって調製する、請求項20または21記載の使用。
【請求項23】
SERRS表面結合基も前記メタロセンに共有結合させる、SERRSラベルとしての請求項20または21記載の使用。
【請求項24】
ハロゲンおよびSERRS表面結合基に共有結合させたメタロセンを、請求項1または4〜17のいずれか1項記載のラベルにより調製する、請求項23記載の使用。
【請求項25】
ハロゲンに共有結合させたメタロセンの、ラベルまたは電気化学感知用の電気化学メディエイターとしての使用。
【請求項26】
ハロゲンに共有結合させたメタロセンを、請求項1〜17のいずれか1項記載のラベル、或いは(1-クロロ-2-ホルミルビニル)フェロセン、1,1'-ジブロモフェロセン、1-(1'-ブロモフェロセン)-カルボン酸、1-ブロモ-1'-(クロロ-カルボニル)フェロセン、[C5Cl4P(Ph)2]Mn(CO)3]、クロロ置換シマントレニルチオエーテルまたはN,N'-ビス[(トリカルボニル)(トリクロール(メチルチオ)(トリメチルチオ)-シクロペンタジエニル)マンガン]-尿素によって調製する、請求項25記載の使用。
【請求項27】
前記メタロセンを、前記メタロセンの金属電極への固定のために、金属結合基にも共有結合させる、請求項25または26記載の使用。
【請求項28】
前記金属結合基が、SERRS表面結合基である、請求項27記載の使用。
【図1】
【図2】
【図2−1】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図4−1】
【図2】
【図2−1】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図4−1】
【公表番号】特表2008−533462(P2008−533462A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500269(P2008−500269)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000849
【国際公開番号】WO2006/095181
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(506249727)イー2ヴイ バイオセンサーズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000849
【国際公開番号】WO2006/095181
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(506249727)イー2ヴイ バイオセンサーズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
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