説明

バイオセンサ

【課題】電気化学的手法を用いて試料溶液中の測定対象物質を特異的に高感度で検出することが可能なバイオセンサを提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも表面が導電性ダイヤモンドからなる基材と、前記基材の表面を部分的に被覆する貴金属層と、前記貴金属層に固定化された酵素と、を備えているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気化学的手法を用いて試料溶液中の測定対象物質を特異的に高感度で検出することが可能なバイオセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コレステロール等の血液中の成分を定期的に検査することは、病気の予防や早期発見に重要である。このような生体試料中の成分を検出するためには、その成分と特異的に反応する酵素を用いれば、当該成分を感度良く検出することができる。
【0003】
このような酵素反応を利用したセンサとして、特許文献1には、金が海島状に被覆されたカーボン電極の金表面に酵素が固定化された電気化学センサが記載されている。
【0004】
しかしながら、カーボン電極はタンパク質等の生体成分が付着しやすいという特性を有し、カーボン電極に生体成分が付着すると感度が低下し、測定結果の精度低下の原因となる。また、カーボン電極はバックグラウンド電流が高いので、この点からも高精度の測定は困難である。
【0005】
このため、特許文献1記載の電気化学センサを生体成分の検査に用いるのは困難である。
【特許文献1】特開2004−156928
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、生体成分が付着しにくく、バックグラウンド電流が低いうえ、水溶液中における電位窓が広く、また、物理的化学的に安定で堅牢性及び耐久性に優れ、強力な化学洗浄も可能な電極として、導電性ダイヤモンド電極が知られているが、導電性ダイヤモンド電極は生体成分の検査に広く用いられる酵素であるオキシダーゼにより生体成分が酸化された際に発生する過酸化水素に対して反応を示さない。
【0007】
そこで本発明は、電気化学的手法を用いて試料溶液中の測定対象物質を特異的に高感度で検出することが可能なバイオセンサを提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係るバイオセンサは、少なくとも表面が導電性ダイヤモンドからなる基材と、前記基材の表面を部分的に被覆する貴金属層と、前記貴金属層に固定化された酵素と、を備えていることを特徴とする。なお、本発明において「部分的に被覆する」とは、基材表面に対する貴金属層の被覆率が100%未満であり、少なくとも基材表面の一部が貴金属層で被覆されないまま露出していることをいう。
【0009】
このようなものであれば、生体成分等が付着しにくく、バックグラウンド電流が低く、電位窓が広い導電性ダイヤモンド電極を基材として用い、かつ、酵素反応を利用することができるので、生体成分等の試料溶液中の測定対象物質を特異的に高感度で検出することができる。
【0010】
また、電位窓が広い導電性ダイヤモンド電極を基材として用いているので、夾雑反応が起こりにくい電位を適宜選択することにより精度の高い測定を行うことが可能である。
【0011】
また、酵素が予めセンサ表面に固定化してあるので、試料溶液に別途酵素を添加する必要がなく、酵素の非特異的吸着によるセンサの汚染を防ぐことができるので、センサの汚染を最小限に留め、感度の低下を防ぐことができる。
【0012】
本発明で基材として用いられる導電性ダイヤモンド電極としては、13族又は15族の元素の混入により導電性とされたダイヤモンド薄膜を有するものが挙げられ、なかでも、ホウ素、窒素、及び、リンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を混入したものが好ましく、特に、ホウ素を混入したボロンドープダイヤモンド電極が好適である。
【0013】
また、前記導電性ダイヤモンド電極としては、8族、9族又は10族の元素の混入により導電性とされたダイヤモンド薄膜を有するものを用いることもでき、このような導電性ダイヤモンド電極としては、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、及び、イリジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が混入されたものが挙げられる。
【0014】
前記貴金属層としては、例えば、金、白金、パラジウム、銀等からなるものが挙げられる。これらの金属は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0015】
前記酵素としては特に限定されず、例えば、オキシダーゼ等の酸化還元酵素が挙げられるが、更に、適宜目的に合わせて、転移酵素、加水分解酵素、補助因子を必要とする酵素等から任意の酵素を選択することができる。このため、本発明に係るバイオセンサは、固定化する酵素に応じて、多様な物質を選択的に高感度で検出することができる。
【0016】
例えば、前記酵素としてオキシダーゼが用いられると、まず、本発明に係るバイオセンサ表面に固定化されたオキシダーゼにより、コレステロール等の測定対象物質が酸化され、それに伴って過酸化水素が発生する。次いで、当該バイオセンサに所定の電圧を印加すると、過酸化水素がセンサ表面で酸化され、当該酸化反応に伴い電流が発生する。この電流が検出されることにより、コレステロール等の測定対象物質が電気化学的に検出される。
【0017】
なお、表面が何ら修飾されていない剥き出しの導電性ダイヤモンド電極は過酸化水素を検出することができないが、金等の貴金属により部分的に被覆された導電性ダイヤモンド電極は過酸化水素を検出することができる。一方、導電性ダイヤモンド電極の表面全体を金等の貴金属により完全に被覆してしまうと、電極表面で過酸化水素が酸化される際に発生する酸素によりバックグラウンド電流が非常に大きくなり、検出感度が著しく悪化することが本発明者により確認されている。
【0018】
本発明に係るバイオセンサを用いて電気化学的分析器を構成することができる。すなわち本発明に係る電気化学的分析器は、本発明に係るバイオセンサと、対電極と、前記バイオセンサ及び前記対電極に電圧が印加されることにより発生した電流値を測定する電流測定装置と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る電気化学的分析器は、本発明に係るバイオセンサと前記対電極とを内蔵し、それらと接触するように試料溶液を収容可能であるセルを有していて、バイオセンサ及び対電極を用いて二電極法による測定を行うものであってもよいが、高感度及び高精度の測定を行う場合は、更に参照電極を用いて三電極法による測定を行うものが好ましい。試料溶液に、参照電極を接触させることにより、本発明に係るバイオセンサと対電極との間に印加する電圧の絶対値を制御することができる。
【発明の効果】
【0020】
このように本発明によれば、生体成分等の試料溶液中の測定対象物質を特異的に高感度で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る電気化学的分析器1は、図1に模式的に示すように、電気化学測定用のフローセルを用いた液体注入型の電気化学的測定装置(フローインジェクション分析装置)である。
【0023】
フローインジェクション分析は、定量ポンプ等を用いて制御された連続流れをつくりだし、この流れの中で種々の反応、分離や試料注入等を行い、末端に設置したフローセルを備えた検出器により溶液中の成分を分析する方法である。
【0024】
本実施形態に係る電気化学的分析器1は、流路の上流側から、対電極4、バイオセンサ5及び参照電極6が内蔵されたフローセル3、ポンプ2、を備えており、対電極4、バイオセンサ5及び参照電極6は、ポテンショガルバノスタット7に接続され、更にポテンショガルバノスタット7には情報処理装置8が接続されている。
【0025】
ポンプ2としては一定速度で試料溶液Sをフローセル3に送ることができるものであれば特に限定されず、例えば液体クロマトグラフィー用ポンプ等を用いることができる。
【0026】
フローセル3は、図2に示すように、バイオセンサ5、対電極4、及び、参照電極6が、試料溶液Sが流れる内部流路31内に露出され、試料溶液Sと接触できるよう構成されている。バイオセンサ5はその基材表面を構成するダイヤモンド薄膜が、内部流路31内に露出され、試料溶液Sと接触している。試料溶液Sは、内部流路31の流入口32から入り、図中の矢印のように流れ、流出口33に至る。そして、バイオセンサ5と対電極4との間に電圧が印加されることにより、試料溶液S中で電気化学的反応が起こる。
【0027】
バイオセンサ5は、ボロンドープダイヤモンド電極を基材とし、当該ボロンドープダイヤモンド電極の表面に金が隙間を空けて部分的に被覆されており、更に金にオキシダーゼが固定化されているものである。
【0028】
前記オキシダーゼとして、例えば、コレステロールオキシダーゼを用いると、下記式(1)に示すように、その基質であるコレステロールが酸化され、電子受容体である酸素が還元されて過酸化水素が発生する。
【0029】
コレステロール+O→コレスト−4エン−3オン+H・・・(1)
【0030】
このようにして発生した過酸化水素が、少なくともその表面の一部が金で被覆されたボロンドープダイヤモンド電極と接触して、当該電極に所定の電圧が印加されると、下記式(2)に示すように、そのボロンドープダイヤモンド電極の表面で電子の授受が行なわれ、過酸化酸素が酸化されて電流が発生する。そして、当該電流を検出することによりコレステロールを検出することができる。
【0031】
→O+2H+2e・・・(2)
【0032】
バイオセンサ5の基材であるボロンドープダイヤモンド電極は、絶縁体であるダイヤモンドにホウ素が添加されることにより導電性を示すようになったものである。高濃度でホウ素をドープしたボロンドープダイヤモンド電極は、電位窓が広く(酸化電位及び還元電位が広い)、他の電極材料と比較してバックグラウンド電流が低く、酸化還元種に対して感度が高く、金や白金等に比べて電極表面に物理的吸着が生じにくいため酸素・水素発生以外のピークが出にくい、といった優れた性質を有している。また、ボロンドープダイヤモンド電極は、化学的耐久性、機械的耐久性、電気伝導度、耐腐食性等にも優れている。更に、ボロンドープダイヤモンド電極はその硬度から化学的・物理的な洗浄を行ないやすく、電極表面を清浄な状態に維持しやすいという利点も有する。
【0033】
ダイヤモンドへのホウ素の添加量は、ダイヤモンドに導電性を付与できる範囲で適宜決定されればよいが、例えば抵抗率1×10−2〜10−6Ωcm程度の導電性を与える量であることが好ましく、当該添加量は一般的には製造工程において制御される。
【0034】
ボロンドープダイヤモンドそれ自体を基材の支持によらず電極とすることも可能であるが、基材上にボロンドープダイヤモンドの薄膜を形成し、この薄膜に導線を接続させ、電極とすることが好ましい。基材としては、Si(例えば、単結晶シリコン)、Mo、W、Nb、Ti、Fe、Au、Ni、Co、Al、SiC、Si、ZrO、MgO、黒鉛、単結晶ダイヤモンド、cBN、石英ガラス等が挙げられ、特に単結晶シリコン、Mo、W、Nb、Ti、SiC、単結晶ダイヤモンドが好適に用いられる。
【0035】
ボロンドープダイヤモンド薄膜の厚さは特に限定されないが、1〜100μm程度であることが好ましく、より好ましくは5〜50μm程度である。
【0036】
本発明においては、バイオセンサ5の基材であるボロンドープダイヤモンド電極は、マイクロ電極の形態のものであってもよい。ここで、マイクロ電極形態のボロンドープダイヤモンド電極とは、Pt等の細線の末端を鋭利に切断し、電解研磨により末端を更に鋭利にした後、その末端表面にボロンドープダイヤモンドの薄膜を形成した構成のものをいう。
【0037】
ボロンドープダイヤモンド電極の製造方法としては、マイクロ波プラズマアシストCVD法を用いることができ、当該製造方法においては、まず、水素ガスが充満したチャンバー内に水素プラズマを生成し、そこにボロン種を溶解したアセトンとメタノールの混合ガスを導入して炭素源を導入し、例えばシリコン基板等の導電性(又は半導電性)基板上に気相成長させる。
【0038】
より具体的には、例えば、基板としてシリコン基板{Si(111)}を用い、基板表面をテクスチャー処理(例えば、0.5μmのダイヤモンド粉による研磨)した後、基板を成膜装置のホルダーにセットする。成膜用ソースとしては、アセトンとメタノールの混合物(液体で、混合比は体積比9:1)を用い、この混合物に酸化ホウ素(B)をホウ素/炭素(B/C)比で10ppmとなるように溶解する。そして、この成膜用ソースにキャリアーガスとして純Hガスを通した後、チャンバー内に導入し、予め別ラインで水素(例えば、532ml/min)を流して所定圧力(例えば、115Torr=115×133.322Pa)となるように調整する。次いで、2.45GHzのマイクロ波電力を注入し、放電させた後、電力が5kWとなるように調整する。そして、安定したところで、成膜用ソースにキャリアーガスとして純Hガス(例えば、15ml/min)流して成膜を行う。
【0039】
上記のマイクロ波プラズマアシストCVD法を用いた製造方法により、成膜速度1〜4μm/時で、約30μmの厚さとなるまでダイヤモンド薄膜の成膜を行ったところ、基板の加熱は行わなかったものの、定常状態において約850〜950℃の温度となっていることが観察された。また、得られたダイヤモンド薄膜のラマンスペクトルをとると、1333cm−1に単一ピークのみが観察された。また、電気伝導度は抵抗率約10−3Ωcm程度であり、0.5M硫酸中においてサイクリックボルタモグラムを測定した結果、−1.25〜+2.3V(対SHE(標準水素電極))と、広い電位窓を有することが確認できた。
【0040】
ボロンドープダイヤモンド電極の表面を金で被覆するには、例えば、金ナノ粒子をボロンドープダイヤモンド電極表面に電着させる方法等を用いることができる。また、ボロンドープダイヤモンド電極の表面を部分的に金で被覆するには、電着を行なう際にボロンドープダイヤモンド電極表面にマスクキングを施したり、また、電着により形成された金層の一部を研磨シートにより除去する方法を用いることができる。
【0041】
オキシダーゼをボロンドープダイヤモンド電極表面に形成された金層に固定化する方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。すなわち、まず、チオール化合物のSH基が金に対して結合性を示す金−チオール結合現象を利用して、金層の上にL−システインからなる自己組織化単分子膜(SAM膜)を形成し、次いで、L−システインのカルボキシル基とオキシダーゼのN末端のアミノ基とを脱水縮合させて、当該オキシダーゼを固定化する。
【0042】
対電極4としては、例えば、白金、炭素、ステンレス、金、ダイヤモンド、SnO等からなるものを用いることができる。
【0043】
参照電極6としては公知のものを利用することができ、標準水素電極、銀塩化銀電極、水銀塩化水銀電極、水素パラジウム電極等を用いることができる。
【0044】
ポテンショガルバノスタット7は、バイオセンサ5の電位を参照電極6に対して一定にした状態で、バイオセンサ5と対電極4との間に発生した電流を検出し、その検出信号を情報処理装置8に伝達する。
【0045】
情報処理装置8は、CPUや、メモリ、入出力チャンネル、キーボード等の入力手段、ディスプレイ等の出力手段、A/D変換器、D/A変換器等を備えた汎用乃至専用のものであり、前記CPU及びその周辺機器が、前記メモリの所定領域に格納されたプログラムに従って協働動作することにより、ポテンショガルバノスタット7で検出された信号を解析し、測定対象物質の検出、濃度の測定が行われる。なお、この情報処理装置8は、物理的に一体である必要はなく、有線又は無線により複数の機器に分割されていてもよい。
【0046】
このように構成された電気化学的分析器1を用いて測定対象物質を検出するには、まず、測定対象物質を含有しないリン酸緩衝液等のキャリア溶液のみをフローセル3に流し、いわゆるバックグラウンド電流をできるだけ小さくし、かつ安定させる。次に、試料溶液Sを前記キャリア溶液に混合させてフローセル3に流す。
【0047】
そして、対電極4、バイオセンサ5及び参照電極6が試料溶液Sに接触した状態で、バイオセンサ5と対電極4との間に電圧を印加することにより、コレステロール等の測定対象物質から発生した過酸化水素がバイオセンサ5上で酸化されて、当該酸化反応に伴う電流が発生する。
【0048】
なお、バイオセンサ5と対電極4との間に印加する電圧は、測定効率及び精度の観点から、最大電流値を与える電圧であることが好ましい。ここで、最大電流値を与える電圧とは、例えばサイクリックボルタンメトリーにより、最大電流値を与える電圧である。また、最大電流値を与える電圧は、回転電極法又はマイクロ電極法により求めることもできる。回転電極法又はマイクロ電極法によれば、測定条件等による測定誤差の可能性をより排除できる点で有利である。
【0049】
このような電気化学的反応によって発生した電流値(電気信号)はポテンショガルバノスタット7に伝達され各電極における信号の制御・検出が行われる。ポテンショガルバノスタット7で検出された信号は情報処理装置8に送信され、予め作成された測定対象物質の濃度と電流値との検量線と、得られた電流値とが対比されて、試料溶液中の測定対象物質の濃度が算出される。なお、測定が終了した試料溶液Sは電気化学的分析器1外に排出される。
【0050】
このように構成された電気化学的分析器1によれば、バイオセンサ5が、生体成分等が付着しにくく、バックグラウンド電流が低く、電位窓が広いボロンドープダイヤモンド電極を基材として用い、かつ、酵素反応を利用するものであるので、生体成分等の試料溶液中の測定対象物質を特異的に高感度で検出することができる。
【0051】
また、オキシダーゼが予めバイオセンサ5表面に固定化してあるので、試料溶液に別途オキシダーゼを添加する必要がなく、オキシダーゼの非特異的吸着によるバイオセンサ5の汚染を防ぐことができるので、バイオセンサ5の汚染を最小限に留めることができ、感度の低下を防ぐことができる。
【0052】
また、電気化学的分析器1では、フローインジェクション法(FIA法)が採用されているので、測定対象物質とバイオセンサ5表面との接触時間が短く、生体成分等が測定対象物質であってもバイオセンサ5表面への物理的な吸着が生じにくい。
【0053】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0054】
バイオセンサ5の基材としては、ボロンドープダイヤモンド電極に代えて、窒素、リン等の15族の元素の混入により導電性とされたダイヤモンド薄膜を有するダイヤモンド電極や、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、イリジウム等の8族、9族又は10族の元素の混入により導電性とされたダイヤモンド薄膜を有するダイヤモンド電極を用いることもできる。
【0055】
バイオセンサ5の基材表面を被覆する貴金属としては金に限定されず、白金、パラジウム、銀等であってもよい。
【0056】
バイオセンサ5表面に固定化される酵素としてはオキシダーゼに限定されず、適宜目的に合わせて選択することができる。
【0057】
前記実施形態に係る電気化学的分析器1は、対電極4、バイオセンサ5及び参照電極6が備わった三電極法による測定を行うものであるが、本発明に係る電気化学的分析器は、バイオセンサ5及び対電極4のみを備えた二電極法による測定を行うものであってもよい。三電極法の方が、バイオセンサ5と対電極4との間に印加する電圧の絶対値を制御することができるので、精度及び感度の高い測定を行うことが可能であるが、二電極法によれば、用いる電極がバイオセンサ5及び対電極4の2種類の電極ですむので、フローセル3の構造を単純化、小型化することができ、測定セルをチップ化し使い捨てとすることも可能で、より簡便な測定を行いうる。
【0058】
また、前記実施形態ではセルがフロー型であったが、セルがバッチ型であってもよい。
【0059】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
<バイオセンサの作成>
(1)マイクロ波プラズマアシストCVD法を用いたボロンドープダイヤモンド薄膜の製造
基板としてシリコン基板{Si(111)}を用い、基板表面をテクスチャー処理した後、基板を成膜装置のホルダーにセットした。成膜用ソースとしては、炭素源としてアセトンとメタノールの混合物(液体で、混合比は体積比9:1)を用い、そこにホウ素源としてBをホウ素/炭素(B/C)比で10ppmとなるように溶解したものを用意した。
【0062】
そして、この成膜用ソースにキャリアーガスとして純Hガスを通した後、チャンバー内に導入し、予め別ラインで水素(532ml/min)を流して所定圧力(115Torr=115×133.322Pa)となるように調整した。引き続いて、2.45GHzのマイクロ波電力を注入し、放電させた後、電力が5kWとなるように調整し、安定したところで、成膜用ソースにキャリアーガスとして純Hガス(15ml/min)を流して成膜を行い、シリコン基板上にボロンドープダイヤモンド薄膜が形成されたボロンドープダイヤモンド電極を製造した。
【0063】
(2)金ナノ粒子の電着
10ppmのHAuClを0.1MのHCl/KClに溶解して、得られた水溶液に、ボロンドープダイヤモンド電極を浸漬し、サイクリックボルタンメトリー(−0.6〜1.2V)を掃引速度100mV/sで5サイクル行うことにより、ボロンドープダイヤモンド電極表面に金ナノ粒子を電着して金層を形成した。形成された金層は研磨シートにより部分的に除去された。
【0064】
(3)金層の修飾
表面に金層が形成されたボロンドープダイヤモンド電極を1MのL−システイン水溶液に浸漬して、6時間放置し、金−チオール結合現象を用いて、金層の上にL−システインからなる自己組織化単分子膜(SAM膜)を形成した。
【0065】
(4)オキシダーゼの固定化
カルボキシル基活性化剤である1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)とN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)とを1mgずつ溶解したリン酸緩衝液(pH7.0)に、コレステロールオキシダーゼを添加して得られたオキシダー溶液に、表面にL−システインからなるSAM膜が形成されたボロンドープダイヤモンド電極を浸漬し、1晩4℃で放置した。これにより、L−システインのカルボキシル基とオキシダーゼのN末端のアミノ基とが脱水縮合して、当該コレステロールオキシダーゼが固定化された金部分被覆ボロンドープダイヤモンド電極が得られた。
【0066】
<過酸化水素の検出>
0.1mMの過酸化水素を含む電解液を試料とし、作用電極として、ボロンドープダイヤモンド電極、金電極、及び、金により部分的に被覆されたボロンドープダイヤモンド電極を用いて、サイクリックボルタンメトリーによる測定を行なった。作用電極として、ボロンドープダイヤモンド電極を用いた結果を図3に示し、金電極を用いた結果を図4に示し、金により部分的に被覆されたボロンドープダイヤモンド電極を用いた結果を図5に示した。
【0067】
図3に示すように、作用電極として、ボロンドープダイヤモンド電極を用いた場合は、過酸化水素に対応するピークが観察されず、過酸化水素を電気化学的に検出することができなかった。
【0068】
一方、図4及び図5に示すように、作用電極として、金電極や、金により部分的に被覆されたボロンドープダイヤモンド電極を用いた場合は、過酸化水素に対応するピークが観察されたが、金電極を用いた場合は、バックグラウンド電流が高く検出感度が低かった。
【0069】
<コレステロールの検出>
10μM〜4mMコレステロール及び5%(W/V)TritonX−100を含む0.05Mリン酸緩衝液(pH7)を試料とし、作用電極としてオキシダーゼが固定化された金部分被覆ボロンドープダイヤモンド電極を用いて、0.9Vの電圧を印加し、クロノアンペロメトリーによる測定を行なった。ここで、コレステロールとしては、下記式(3)で表され、以下のような物性を有するものを用いた。
【0070】
【化1】

【0071】
分子式:C2746
分子量:386.654
形状:白色の結晶粉
融点:148〜150℃
沸点:360℃(分解)
水への溶解度:0.095mg/L(30℃)
【0072】
クロノアンペロメトリーによる測定結果を図6に示し、コレステロールの濃度と電圧印加後100秒における電流値との相関関係を示すグラフを図7に示した。
【0073】
図7に示すように、コレステロールの濃度が10μM〜2mMの間で、コレステロール濃度と電流値との間には比例関係が観察された。これにより、コレステロールオキシダーゼが固定化されたボロンドープダイヤモンド電極を作用電極として用いた電気化学的測定により、試料溶液のコレステロール濃度を測定することが可能であることが明らかとなった。
【0074】
なお、表面にコレステロールオキシダーゼを固定化した金電極を用いて、クロノアンペロメトリーによる測定を同様に行なうと、電極表面で過酸化水素が酸化されて発生した酸素によりバックグラウンド電流が非常に大きくなり、検出感度が著しく悪化する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気化学的分析器の概要図。
【図2】図1に示す電気化学的分析器のフローセルの構成を示す概要図。
【図3】作用電極としてボロンドープダイヤモンド電極を用いて、過酸化水素溶液を試料とした、サイクリックボルタンメトリーによる測定結果を示すグラフ。
【図4】作用電極として金電極を用いて、過酸化水素溶液を試料とした、サイクリックボルタンメトリーによる測定結果を示すグラフ。
【図5】作用電極として金により部分的に被覆されたボロンドープダイヤモンド電極を用いて、過酸化水素溶液を試料とした、サイクリックボルタンメトリーによる測定結果を示すグラフ。
【図6】コレステロール溶液を試料として、作用電極としてコレステロールオキシダーゼが固定化された金部分被覆ボロンドープダイヤモンド電極を用いた、クロノアンペロメトリーによる測定結果を示すグラフ。
【図7】試料溶液のコレステロール濃度と電圧印加後100秒における電流値との相関関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0076】
1・・・電気化学的分析器
4・・・対電極
5・・・バイオセンサ
7・・・ポテンショガルバノスタット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が導電性ダイヤモンドからなる基材と、
前記基材の表面を部分的に被覆する貴金属層と、
前記貴金属層に固定化された酵素と、を備えているバイオセンサ。
【請求項2】
前記貴金属層は、金、白金、パラジウム、及び、銀からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなる請求項1記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記酵素は、オキシダーゼである請求項1又は2記載のバイオセンサ。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のバイオセンサと、
対電極と、
前記バイオセンサ及び前記対電極に電圧が印加されることにより発生した電流値を測定する電流測定装置と、を備えている電気化学的分析器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−300342(P2009−300342A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157370(P2008−157370)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】