説明

バイオセンサ

【課題】高い精度で測定ができるバイオセンサを提供することを課題とする。
【解決手段】絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極と、前記電極上に形成されてなる試料供給部と、を有するバイオセンサであって、前記試料供給部が、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素と、電子伝達体と、界面活性剤と、グルコースを基質とする非酸化還元酵素と、を含む反応層を有する、バイオセンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の特定成分、特に生体試料中に含まれる特定成分を、酵素反応を利用してその濃度を迅速且つ高精度に定量できるバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の特定成分を簡易に定量する方法としては、様々なバイオセンサが提案されているが、代表的なものとしては、絶縁性の基板上に少なくとも作用極および対極からなる電極系を形成し、この電極系上に、電極系に接して親水性高分子と酸化還元酵素と電子伝達体を含む反応層を形成したものである。
【0003】
このようにして作製されたバイオセンサの反応層に、基質を含む試料液を供給すると、反応層が試料液によって溶解することにより、酵素と基質が反応し、これに伴って電子伝達体が還元され、この還元された電子伝達体を電気化学的に酸化し、得られる酸化電流値から試料液中の基質濃度を定量することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
例えば、グルコースを試料とする場合、以下の方法が知られている。グルコースは、下記式(1)で示されるように、グルコースオキシダーゼ(GOD)を用いることにより定量することができる。すなわち、下記式において、還元型電子伝達体の増加量を電気化学的に測定することにより、グルコースを定量することが可能である。
【0005】
【化1】

【0006】
しかしながら、この方法は、溶存酸素の影響を受けるという問題点がある。溶存酸素の影響を受けない方法としては、NAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(NAD−GDH)もしくはNADP依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(NADP−GDH)を用いた下記式(2)に示される方法がある。
【0007】
【化2】

【0008】
しかしながら、この反応は、高価なNAD+もしくはNADPを添加する必要がある。溶存酸素の影響を受けず、且つ、高価な補酵素を添加しなくてもよい方法としては、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(PQQ−GDH)もしくはFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FAD−GDH)を用いた下記式(3)に示される方法がある。
【0009】
【化3】

【0010】
上記反応は、溶存酸素の影響を受けず、且つ、高価な補酵素を添加する必要がないというメリットがある。
【0011】
また、グリセロールを試料とする場合、以下の方法が知られている。グリセロールは、下記式(4)および式(5)で示されるように、グリセロールキナーゼ(GK)およびグリセロール−3−リン酸オキシダーゼ(GPO)またはグリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)を用いることにより定量することができる。すなわち、下記式において、還元型電子伝達体の増加量を電気化学的に測定することにより、グリセロールを定量することが可能である。
【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
しかしながら、この方法は高価な2種類の酵素を用いる必要があり、且つ、反応が煩雑であるという問題がある。さらに、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼを用いた場合は、溶存酸素の影響を受けるという問題点がある。また、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた場合は、高価なNAD+を添加する必要がある。
【0015】
溶存酸素の影響を受けず、1種類の酵素を用いる方法としては、下記式(6)で示すようにNAD+依存性グリセロールデヒドロゲナーゼ(NAD−GLDH)を用いる方法が知られている。
【0016】
【化6】

【0017】
しかしながら、この反応は、NAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼと同様、高価な
NAD+を添加する必要がある。
【0018】
より安価で簡便にグリセロールを定量する方法としては、補欠分子族としてピロロキノ
リンキノンを含むポリオールデヒドロゲナーゼ(PQQ−PDH)を用いる方法がある。
この方法は、下記式(7)の反応によって行われるため、溶存酸素の影響を受けない、反
応が簡便で複数の酵素を用いる必要がない、高価なNAD+を添加する必要がないなどの
メリットがある。
【0019】
【化7】

【0020】
補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含む酸化還元酵素(以下「PQQ依存性酸化還元酵素」とも称する)は、一般的には膜結合型酵素であるため、疎水性が強く、水に対する溶解性が低いことが知られている。そこで、該酵素をセンサに使用する場合、反応層に界面活性剤を加え、PQQ依存性酸化還元酵素は広範に使用されている。
【0021】
上記疎水性の膜結合型酸化還元酵素である、例えば、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含む酸化還元酵素は、使用する際精製する必要があるが、量産化におけるコスト低減の観点から、極力少ないステップで精製をすることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特許第2517153号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、少ない精製ステップで補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含む酸化還元酵素を精製する場合、夾雑物を含んだ状態で精製されてしまう虞があり、さらに、その夾雑物が測定系に影響を及ぼす虞がある。
【0024】
特に、注意しなければならないのは、他の酸化還元酵素が混入することである。
【0025】
例えば、GLDH(グリセロールデヒドロゲナーゼ)を精製する際に、同じ酸化還元酵素であるGDH(グルコースデヒドロゲナーゼ)が混入することである。GDHも、GLDHと同様に酸化還元メディエーター(Med)を利用した電子授受反応を行うため、GDHが混入すると、血液中のグルコースと反応してしまい、GLDHを用いたグリセロールの測定値にグルコース濃度の値が反映されてしまう。例えば、グリセロール濃度が同じであってもグルコース濃度がより高いサンプルは、実際よりも高いグリセロールの測定値になるという現象が生じる。これは測定値のばらつきを生み、ひいては、精度の高い測定ができないという問題を引き起こしている。
【0026】
上記したような夾雑物は、PQQを含む酸化還元酵素を精製する場合に限られず、培養条件等により、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を精製する場合にも含まれ得る。
【0027】
よって、本発明は、上記のような現象に起因する測定値のばらつきを低減し、高い精度で測定ができるバイオセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、例えばグリセロール測定の場合であれば、グルコースを基質とする非酸化還元酵素を、バイオセンサの反応層にあらかじめ添加しておくことによって、上記問題が解決できることを知得した。すなわち、血液中のグルコースを夾雑物であるグルコース脱水素酵素が反応しない物質に変換することにより、バイオセンサの狙いとする測定においてグルコース濃度の影響を無くし、試料がどのような血糖値であっても、正確な測定値が得られ、かつ、測定値のばらつきがほとんど生じないことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0029】
すなわち、本発明の課題は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極と、前記電極上に形成されてなる試料供給部と、を有するバイオセンサであって、前記試料供給部が、少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素と、電子伝達体と、界面活性剤と、グルコースを基質とする非酸化還元酵素と、を含む反応層を有する、バイオセンサを提供することによって、解決される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、測定値のばらつきがほとんどなく、高い精度で測定ができるバイオセンサを提供することができる。また特に、本発明のバイオセンサは、試料として全血を使用した中性脂肪の測定に好適であり、血糖値に影響を受けない、測定値のばらつきのほとんどない高い精度の中性脂肪測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のバイオセンサの第1実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】図1のバイオセンサの断面図である。
【図3】本発明のバイオセンサの第2実施形態を示す分解斜視図である。
【図4】図3のバイオセンサの断面図である。
【図5】実施例および比較例のバイオセンサの測定結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明のバイオセンサの実施形態を説明する。なお、図面の
寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0033】
図1は、本発明のバイオセンサの第1実施形態を示す分解斜視図であり、反応層が1で構成される。図2は、図1のバイオセンサのa−a方向の断面図である。
【0034】
図1、2が示すとおり、絶縁性基板1(本明細書中、単に「基板」とも称する)の上に、作用極2、参照極3および対極4が形成されている。さらに、接着剤6が、絶縁性基板1上の端部に設置される。作用極2、参照極3および対極4は、バイオセンサを電気的に接続するための手段として機能している。作用極2、参照極3および対極4は、例えば、スクリーン印刷・スパッタリング法などの従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせて、所望のパターンの電極を形成することができる。
【0035】
そして、絶縁性基板1上に形成された作用極2、参照極3および対極4には電極を露出するように、絶縁層5が形成されている。絶縁層5は、各電極間の短絡を防止するための絶縁手段として機能する。絶縁層の形成方法についても特に制限はなく、スクリーン印刷法や接着法などの従来公知の手法により形成されうる。
【0036】
また、絶縁層5を挟むように、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1が形成されている。そして、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1上には、反応層10が形成されている。なお、図1では、反応層10と、前記反応層10とカバー7との間に位置する空間部Sと、が試料供給部を形成する。この反応層10は、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素と、電子伝達体と、界面活性剤と、グルコースを基質とする非酸化還元酵素と、を含む。この作用部分(2−1、3−1、4−1)は、バイオセンサの使用時において、反応層10中の試料に電位を印加するための電位印加手段および試料中に流れる電流を検出するための電流検出手段として機能する。なお、作用部分(2−1、3−1、4−1)を含めて作用極2、参照極3および対極4と称する場合もある。作用極2および対極4は、バイオセンサの使用時に一対となって、反応層10中の試料に電位を印加した際に流れる酸化電流(応答電流)を測定するための電流測定手段として機能する。バイオセンサの使用時には、参照極3を基準として、対極4と、作用極2との間に所定の電位が印加される。
【0037】
バイオセンサは、基板1に設置された接着剤(両面テープ)6を介して反応層10を覆うようにカバー7が接着されることにより構成される。なお、接着剤6は、電極側に設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよいし、両方に設置してもよい。
【0038】
第1実施形態のバイオセンサは、測定に関与する酵素等の物質が1の反応層に全て含まれるため、製造時の組み立てが簡便であり、コンパクトなバイオセンサとなるメリットがある。大量生産時には、製造コストが安くなる点で好ましい。しかし、測定に関与する反応が複数に及ぶ場合や、バイオセンサの長期保存を想定する場合には、以下の反応層が2層で構成される第2実施形態が適している。
【0039】
続いて、図3は、本発明のバイオセンサの第2実施形態を示す分解斜視図であり、反応層が第1反応層および第2反応層の2層で構成されるバイオセンサを示している。図4は、図3のバイオセンサのa−a方向の断面図である。
【0040】
図3、4に示すとおり、バイオセンサの基本的な構造は第1実施形態と同様であるが、相違点は、反応層を2つ(第1の反応層8と、第2の反応層9)設ける点である。この際、第1の反応層8と、第2の反応層9と、両者の間の空間部Sと、が試料供給部を形成する。前記第1の反応層8が、酸化還元酵素および前記電子伝達体の一方を含み、かつ、前記第2の反応層9が他方を含む。換言すれば、第2実施形態では、酸化還元酵素、および電子伝達体は同時に同一の反応層に含まれない。具体的には、第1の反応層8に電子伝達体が含まれれば、酸化還元酵素は含まれず、前記第2の反応層9に、酸化還元酵素が含まれば、電子伝達体は含まれない。なお、便宜的に、カバー7側に形成される方を第1の反応層8と称し、電極側に形成される方を第2の反応層9と称する。なお、第1の反応層8は、両端に接着剤(両面テープ)6aが設置されたカバー7上の両端の隙間に形成されてなる。
【0041】
バイオセンサは、第2の反応層9が形成されている基板1に接着された接着剤(両面テープ)6bと、第1の反応層8が形成されているカバー7に接着した接着剤6aと、が互いに貼り合わされることにより、構成されてなる。なお、接着剤6は、基板1側のみに設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよい。
【0042】
第2実施形態のバイオセンサは、酸化還元酵素と電子伝達体とが別々の反応層に含まれ、両者は空間Sによって接触せず離隔されているため、長期保存の際も酸化還元酵素が分解や反応を起こしにくく安定して保たれるというメリットがある。それにより、より正確な測定が可能になる。
【0043】
以下、本発明のバイオセンサの各構成要件を詳説する。なお、上記の通り、第1実施形態と第2実施形態との相違点は、反応層が1つだけであるか、反応層が2つ(第1の反応層8と、第2の反応層9)であるか、である。それ以外の点は同様であるので、特に明記しない限り、下記に記載する構成要件の具体的な説明は、どちらの実施形態のバイオセンサにも適用される。
【0044】
また、本明細書中において、各構成要件の含有量を説明する際に「1センサ」という用語を用いることがあるが、本明細書における「1センサ」とは、一般的なバイオセンサの大きさである、試料供給部に供給される試料が「0.1〜20μl(好ましくは2μl程度)」であるものを想定している。よって、それよりも小さかったり、大きかったりするバイオセンサにおいては、各構成要件の含有量を適宜調整することによって制御することができる。
【0045】
<絶縁性基板>
本発明において使用される絶縁性基板1は、特に制限はなく従来公知のものを使用することができる。一例を挙げると、プラスチック、紙、ガラス、セラミックスなどが挙げられる。また、絶縁性基板1の形状やサイズについては、特に制限されない。
【0046】
プラスチックとしても、特に制限はなく従来公知のものを使用することができる。一例を挙げると、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0047】
<電極>
本発明のバイオセンサに使用する電極は、少なくとも作用極2と対極4とを含む。
【0048】
電極は、試料(測定対象物)と、酸化還元酵素との反応を電気化学的に検出できるものであれば特に制限されず、例えば、カーボン電極、金電極、銀電極、白金電極、パラジウム電極などが挙げられる。耐腐食性およびコストの観点からは、カーボン電極が好ましい。
【0049】
本発明においては、作用極2および対極4のみの二電極方式であっても、参照極3をさらに含む三電極方式であってもよい。なお、電位の制御がより高感度で行われるという観点からは、二電極方式よりも三電極方式が好ましく用いられうる。また、その他、液量を感知するための感知電極などを含んでいてもよい。
【0050】
また、試料供給部と接触する部分(作用部分)は、それ以外の電極部分と構成材料が異なってもよい。例えば、参照極3が、カーボンからなっている場合に、参照極作用部分3−1が、銀/塩化銀からなっていてもよい。なお、バイオセンサは、一般的に使い捨てであるため、電極としては、ディスポーザブル電極を用いるとよい。
【0051】
<絶縁層>
絶縁層5を構成する材料は特に制限されないが、例えば、レジストインク、PETやポリエチレン等の樹脂、ガラス、セラミックス、紙などにより構成されうる。好ましくは、PETである。
【0052】
<試料供給部>
上記の通り、第1実施形態においては、反応層10とカバー7とで挟まれた空間部Sが試料供給部を構成する。反応層10の厚さは特に制限はないが、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.05〜40μm、特に好ましくは0.1〜25μmにするとよい。この際の、厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、反応層の原料の滴下量を適宜調節することにより、制御することができる。
【0053】
第2実施形態の試料供給部は、第1の反応層と第2の反応層とで挟まれる空間部Sで構成される。第1の反応層8、第2の反応層9それぞれの厚さにも特に制限はないが、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmにするとよい。ここで、第1の反応層8と、第2の反応層9の厚さは、同じであっても異なってもよい。この際の、厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、反応層の原料の滴下量を適宜調節することにより、制御することができる。なお、第1の反応層8と、第2の反応層9との、離隔距離には特に制限はないが、好ましくは0.05〜1.5mm、より好ましくは0.075〜1.25mm、特に好ましくは0.1〜1mmである。上記範囲であれば、保存中に酸化還元酵素と、電子伝達体とがほとんど接触せず、また、毛細管現象が起こりやすく、試料が反応層に吸引されやすい。離隔距離は、接着剤の厚みを制御することにより、制御することができる。つまり、接着剤は、第1の反応層8と、第2の反応層9と、を離隔される、スペーサとしての役割をも担う。
【0054】
(酸化還元酵素)
本発明における反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)は、補欠分子族(「補酵素」とも称する)としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を含む。特に、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素が好ましい。なお、本発明においては、酸化還元酵素を単独で、または混合物の形態として使用してもよい。
【0055】
本発明において、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、特に制限されず、試料の種類に依存するが、補欠分子族として、ピロロキノリンキノン(PQQ)を含む酸化還元酵素としては、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、マンニトールデヒドロゲナーゼ、アラビトールデヒドロゲナーゼ、ガラクチトールデヒドロゲナーゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、アドニトールデヒドロゲナーゼ、エリスリトールデヒドロゲナーゼ、リビトールデヒドロゲナーゼ、プロピレングリコールデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2−ケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、5ケト−グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2,5−ジケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、環状アルコールデヒドロゲナーゼ、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アミンデヒドロゲナーゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースオキシダーゼなどが挙げられる。補欠分子族としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、モノアミンオキシダーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、D−乳酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼなどが挙げられる。
【0056】
中でも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の少なくとも一方を含むグリセロールデヒドロゲナーゼが好ましく、特に、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むグリセロールデヒドロゲナーゼが好ましい(以下、「PQQ依存性グリセロール脱水素酵素」とも称する)。
【0057】
上記の酸化還元酵素は、市販の商品を購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。当該酸化還元酵素を自ら調製する手法としては、例えば、当該酸化還元酵素を産生する細菌を、栄養培地に培養し、該培養物から当該酸化還元酵素を抽出する公知の方法が挙げられる(例えば、特開2008−220367号公報参照)。
【0058】
具体的には、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を例に挙げると、当該グリセロールデヒドロゲナーゼを産生する細菌としては、例えば、グルコノバクター属、シュードモナス属など様々な属に属する細菌が挙げられる。特にグルコノバクター属に属する細菌の膜画分に存在するPQQ依存性グリセロール脱水素酵素が好ましく用いられうる。中でも、入手の容易さから、グルコノバクター・アルビダス(Gluconobacter albidus)NBRC 3250、3273、103509、103510、103516、103520、103521、103524;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3267、3274、3275、3276;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)NBRC 3171、3251、3253、3262、3264、3265、3268、3270、3285、3286、3290、16669、103413、103421、103427、103428、103429、103437、103438、103439、103440、103441、103446、103453、103454、103456、103457、103458、103459、103461、103462、103465、103466、103467、103468、103469、103470、103471、103472、103473、103474、103475、103476、103477、103482、103487、103488、103490、103491、103493、103494、103499、103500、103501、103502、103503、103504、103506、103507、103515、103517、103518、103519、103523;グルコノバクター・ジャポニカス(Gluconobacter japonicus)NBRC 3260、3263、3269、3271、3272;グルコノバクター・カンチャナブリエンシス(Gluconobacter kanchanaburiensis)NBRC 103587,103588;グルコノバクター・コンドニ(Gluconobacter kondonii)NBRC 3266;グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3130、3189、3244、3287、3292、3293、3294、3462、12528、14819;グルコノバクター・ロセウス(Gluconobacter roseus)NBRC 3990;グルコノバクター・エスピー(Gluconobacter sp)NBRC 3259、103508;グルコノバクター・スファエリカス(Gluconobacter sphaericus)NBRC 12467;グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)NBRC 3172、3254、3255、3256、3257、3258、3289、3291、100600、100601等を使用することができる。このような微生物の代表菌株としては、グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)NBRC 3291が挙げられる。
【0059】
上記PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を培養する培地は、使用菌株が資化しうる炭素源、窒素源、無機物、その他必要な栄養素を適量含有するものであれば、合成培地であっても天然培地であってもよい。炭素源としては、例えば、グルコース、グリセロール、ソルビトールなどが使用される。窒素源としては、例えば、ペプトン類、肉エキス、酵母エキスなどの窒素含有天然物や、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどの無機窒素含有物が使用される。無機物としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどが使用される。その他、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。上記の炭素源、窒素源、無機物、およびその他の必要な栄養素は、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0060】
培養は、振とう培養あるいは通気撹拌培養で行うことが好ましい。培養温度は好ましくは20℃〜50℃、より好ましくは22℃〜40℃、最も好ましくは25℃〜35℃である。培養pHは好ましくは4〜9、より好ましくは5〜8である。これら以外の条件下でも、使用する菌株が生育すれば実施される。培養期間は通常0.5〜5日が好ましい。上記培養により、菌体内に酸化還元酵素が蓄積される。なお、これらの酸化還元酵素は、上記培養によって得られた酵素であっても、酸化還元酵素遺伝子を大腸菌等に形質導入して得られた組換え酵素であってもよい。
【0061】
次いで、得られたPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を抽出する。抽出方法は一般に使用される抽出方法を用いることができ、例えば超音波破砕法、フレンチプレス法、有機溶媒法、リゾチーム法などを用いることができる。抽出した酸化還元酵素の精製方法は特に制限されず、例えば、硫安やぼう硝などの塩析法、塩化マグネシウムや塩化カルシウムを用いる金属凝集法、ストレプトマイシンやポリエチレンイミンを用いる除核酸、またはDEAE(ジエチルアミノエチル)−セファロース、CM(カルボキシメチル)−セファロースなどのイオン交換クロマト法などを用いることができる。
【0062】
なお、これらの方法で得られる部分精製酵素や精製酵素液は、そのままの形態で使用しても、または化学修飾された形態で使用してもよい。本発明において、化学修飾された形態の酸化還元酵素を使用する場合には、上記の方法で得られる培養物由来の酸化還元酵素を、例えば、特開2006−271257号公報に記載されるような方法などを用いて適宜化学修飾して使用することができる。なお、化学修飾方法は、上記公報に記載の方法に限定されるものではない。
【0063】
酸化還元酵素の含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、電子伝達体の種類や、後述する親水性高分子の量などによって適宜選択することができる。一例を挙げると、例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を使用する場合には、1センサあたり、グリセロールの分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、好ましくは0.01〜100U、より好ましくは0.05〜50U、特に好ましくは0.1〜10Uの酵素が反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)に含まれるとよい。なお、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素の活性単位(U)の定義および測定方法は、特開2006−271257号公報に記載の方法による。また、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を含む酸化還元酵素は、後述もするが、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0064】
ここで、一般的なバイオセンサにおいては、電極に酵素が直接接触しないような構成を採る。それは、酵素はタンパク質から構成されているため、電極表面にそれが付着すると、電極表面が不動態化する虞があるからである。そのような一般的な常識があるため、例えば、本発明の第2実施形態のように、反応層が2つある場合は、電極に直接接しない第1の反応層8に酸化還元酵素を含有させるのが一般と考えられる。しかしながら、本発明の第2実施形態においては、電極に接する側の第2の反応層9に酸化還元酵素を含有させる。それは、本発明においては、酸化還元酵素が電極に固着することが有意に防止されているからである。その理由は、後述する親水性高分子や界面活性剤の機能によるものと考えられる。逆に、第2の反応層9に酸化還元酵素を含有させることで電極近傍での、酸化型電子伝達体の還元型電子伝達体への変換効率が高くなる、換言すれば、より試料液中の基質濃度との相関性が高くなるという利点がある。
【0065】
(脂質分解酵素)
また、本発明のバイオセンサを中性脂肪センサとして使用する場合においては、脂質を構成するエステル結合を加水分解する脂質分解酵素をさらに含むことが好ましい。かような脂質分解酵素として、具体的には、リポプロテインリパーゼ(LPL)、リパーゼ、エステラーゼが好適に挙げられる。特に、反応性の観点で、リポプロテインリパーゼ(LPL)が好ましい。
【0066】
LPLの含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、使用する親水性高分子の量や電子伝達体の種類などによって適宜選択することができる。一例を挙げると、中性脂肪の分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、1センサあたり、好ましくは0.1〜1000活性単位(U)、より好ましくは1〜500U、特に好ましくは10〜100Uである(実施例は75U)。なお、LPLの活性単位(U)の定義および測定方法は、国際公開第2006/104077号パンフレットに記載の方法による。また、LPLは、後述もするが、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0067】
前記酸化分解酵素と前記脂質分解酵素とは、一つの反応層中に共存してもよいし、別の層に分かれて存在してもよいが、別の層に分かれて存在することが好ましい。すなわち、前記反応層が、酸化分解酵素を含む層と脂質分解酵素を含む層を有することが好ましい。かような形態であれば、脂質分解酵素による加水分解反応が効率よく進行する。
【0068】
(電子伝達体)
本発明における反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)は、電子伝達体(「電子受容体」とも称する場合がある)を含む。
【0069】
電子伝達体は、バイオセンサの使用時において、酸化還元酵素の作用によって生成した電子を受け取る、すなわち還元される。そして、還元された電子伝達体は、酵素反応の終了後に電極への電位の印加によって電気化学的に酸化される。この際に流れる電流(以下、「酸化電流」とも称する)の大きさから、試料中の所望の成分の濃度が算出されうる。
【0070】
本発明において使用される電子伝達体としては、従来公知のものを使用することができ、試料や使用する酸化還元酵素に応じて適宜決定できる。なお、電子伝達体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
電子伝達体としては、より具体的には、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム、フェロセンおよびその誘導体、フェナジンメトサルフェートおよびその誘導体、p−ベンゾキノンおよびその誘導体、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、メチレンブルー、ニトロテトラゾリウムブルー、オスミウム錯体、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物などのルテニウム錯体などを好適に使用することができる。
【0072】
電子伝達体の含有量については特に制限はなく、試料の添加量などに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、基質量に対して十分量を含有させるという観点から、好ましくは1〜2000μg、より好ましくは5〜1000μg、特に好ましくは10〜500μgの電子伝達体が含まれるとよい。また、電子伝達体は、後述もするが、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0073】
本発明の第2実施形態においては、電子伝達体は、酸化還元酵素と同じ層に含まれなければ、第1の反応層8、第2の反応層9のいずれの反応層に含まれてもよいが、好ましくは第1の反応層8に含まれる。その理由は、上記のように、第2の反応層9に酸化還元酵素を含ませることが好ましいからである。また、電極に接する第2の反応層9に電子伝達体が存在すると、つまり、電極上に電子伝達体が存在すると、局部電池のような現象が生じ、電子伝達体が自動的に還元されてしまう虞がある。よって、より精度の向上されたバイオセンサを提供することを鑑みると、第1の反応層8(つまり、電極と接しない方)に含まれることが好ましい。
【0074】
(界面活性剤)
本発明のバイオセンサにおいては、反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)が、界面活性剤を有する。界面活性剤が添加されることにより、反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)の溶解が促進されうる。
【0075】
本発明に用いられる界面活性剤としては、使用する酸化還元酵素および非酸化還元酵素の酵素活性が低下しないものであれば、特に制限されないが、例えば、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、天然型界面活性剤などを適宜選択して使用することはできる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは酸化還元酵素および非酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤の少なくとも一方である。
【0076】
非イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、酸化還元酵素および非酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、ポリオキシエチレン系またはアルキルグリコシド系であることが好ましい。
【0077】
ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate;Tween 20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパリミテート(Polyoxyethylene Sorbitan Monopalmitate;Tween 40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monostearate;Tween 60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Polyoxyethylene Sorbitan Monooleate;Tween80)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))などが好ましい。中でも、酸化還元酵素の溶解性を上げるという観点から、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))が好ましい。
【0078】
アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、炭素数7〜12のアルキル基を有するアルキルグリコシド、アルキルチオグリコシドなどが好ましい。かかる炭素数については、より好ましくは7〜10であり、特に好ましくは炭素数8である。糖部分は、グルコース、マルトースが好ましく、より好ましくはグルコースである。より具体的には、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−オクチル−β−D−チオグルコシドであると好ましい。アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤は、バイオセンサに使用する際、製造過程において、非常に塗りやすく、均一にできる。特に、n−オクチル−β−D−チオグルコシド)が反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)に含有されると、試料溶液を滴下した際の広がりが非常によく、濡れ性がよい(表面張力を起こしにくくする。)。よって、広がりや濡れ性の観点で考えると、アルキルグリコシドよりもアルキルチオグリコシドが非常に好ましい。なお、これらは、単独で用いても混合物の形態で用いてもよい。
【0079】
両性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、n−アルキル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸(Zwittergent(登録商標))などが挙げられる。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)または3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)である。特にCHAPSが好ましい。その理由は、CHAPSは界面活性剤の中でも低溶血性のものだからである。
【0080】
陽イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、セチルピリジニウムクロリド、トリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0081】
陰イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0082】
天然型界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、リン脂質が挙げられ、好ましくは、卵黄レシチン、大豆レシチン、水添レシチン、高純度レシチンなどのレシチンなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0083】
上記の界面活性剤のうち、バイオセンサの精度をより向上させる観点で、試料として全血を使用する場合、低溶血性の界面活性剤を使用することが好ましい。具体例を挙げると、上記のCHAPSや、Tween、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)が好ましい。
【0084】
また、第2実施形態においては、界面活性剤は、第1の反応層8、第2の反応層9のいずれの反応層に含まれてもよいし、両方の反応層に含まれてもよいが、好ましくは両方の反応層に含まれる。両方の反応層に含める各界面活性剤の種類は、同一であっても異なるものであってもよい。この際、第1の反応層8、第2の反応層9に含有される各構成要件との相互作用を考慮して選択することが好ましい。
【0085】
より具体的には、まず、上記の通り、第2の反応層9においては、酸化還元酵素が含有されることが好ましいが、例えば、酸化還元酵素としてPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を含有させる場合、疎水性が強いため、少なくとも第2の反応層9には界面活性剤が含有されることが好ましい。この場合、界面活性剤の種類としては、バイオセンサの精度をより向上させる観点で、試料として全血を使用する場合、低溶血性の界面活性剤(例えば、CHAPS、Tween、エマルゲンPP−290など)を使用することが好ましい。一方で、第1の反応層8においては、上記述べた通り、好ましくは電子伝達体(例えば、ヘキサアンモンルテニウム(III)塩化物)が含有されることが好ましいが、広がりや濡れ性を向上させて、バイオセンサの精度をより向上させるとの観点で、第1の反応層8にも界面活性剤が含有されることがより好ましい。この場合にもまた、広がりや濡れ性の観点で考えると、低溶血性の界面活性剤(例えば、CHAPS、Tween、エマルゲンPP−290など)を使用することが好ましい。このような工夫を施すことによって、よりバイオセンサとしての精度が向上する。
【0086】
界面活性剤の含有量については特に制限はなく、試料の添加量などに応じて適宜調節されうる。
【0087】
界面活性剤として、両性のものを用いる場合、1センサあたり、酸化還元酵素および非酸化還元酵素の溶解性を上げ、且つ酵素活性を失活させず、また製造工程において塗布しやすいという観点から、好ましくは0.01〜100μg、より好ましくは0.05〜50μg、特に好ましくは0.1〜10μgが含まれるとよい。また、かような界面活性剤は、後述もするが、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。なお、界面活性剤が1センサに2種類以上含まれるときは、含量は、その合計量を意味する。
【0088】
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤のものを用いる場合、1センサあたり、酸化還元酵素の溶解性を上げ、且つ酵素活性を失活させず、また製造工程において塗布しやすいという観点から、好ましくは0.01〜100μg、より好ましくは0.05〜50μg、特に好ましくは0.1〜10μgが含まれるとよい。また、かような界面活性剤は、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0089】

(グルコースを基質とする非酸化還元酵素)
本発明における反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)は、グルコースを基質とする非酸化還元酵素を含む。グルコースを基質とする非酸化還元酵素の添加は、本発明の重要な特徴である。上述のように、バイオセンサの測定においては、被測定物質の酸化還元反応を利用して、還元型となった電子伝達体が電流を流すことにより、電流値が被測定物質の濃度を反映した測定値を与える。そのため、非測定物質以外で電子伝達体を還元する、すなわち酸化還元反応を生じるような夾雑物があれば、そのような夾雑物は正確な測定を妨げることになる。一方、非酸化還元酵素による酵素反応は、電子伝達体の還元に寄与することはない。そのため、夾雑物を非酸化還元反応によって測定に影響しない物質に変換できれば、より正確な測定が可能になる。さらに、被測定物質が違っていても一般的に試料として血糖を含む全血が使用されることや、精製条件が様々でも比較的GDHが混入しやすいことを考慮し、本発明ではグルコースを基質とする非酸化還元酵素を使用する。
【0090】
原理的には、本発明で用いるグルコースを基質とする非酸化還元酵素には、被測定物質の酸化還元反応に上乗せされる不要な酸化還元反応を防止できる非酸化還元反応を対象とするもの、かつ、反応後にさらに酸化還元されることのない物質に変換しうるものであれば、どのような非酸化還元酵素も適用できる。非酸化還元酵素としては、より具体的には、グルコースを基質とする転移酵素、異性化酵素、合成酵素が挙げられる。
【0091】
グルコースを基質とする転移酵素としては、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ等があげられる。グルコースを基質とする異性化酵素としては、グルコースイソメラーゼ等が挙げられる。グルコースを基質とする合成酵素としては、トレハロースシンターゼ、スクロースシンターゼ、ラクトースシンターゼ等が挙げられる。
【0092】
このような非酸化還元酵素による反応は、通常は、夾雑物の酸化還元反応と競合して進行する。したがって、夾雑物の酸化還元反応を妨げるために、非酸化還元反応の方がより速く進行するよう、想定する酸化還元反応よりも速い反応速度の非酸化還元反応を触媒する非酸化還元酵素を選択するか、または、非酸化還元酵素を大過剰に添加することが有効である。したがって、本発明における非酸化還元酵素およびその含有量は、被測定物質、測定に関与する酸化還元反応等、バイオセンサそれぞれの測定系に最適となるよう、選択されることが好ましい。
【0093】
中性脂肪から生じるグリセロールを測定する場合にも、グルコースを基質とする非酸化還元酵素を使用することが好ましい。グルコースを基質とする非酸化還元酵素を反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)に含有させることによって、上述したようなグリセロールの測定値に対する血液中のグルコースの影響をほとんど無くすかまたはまったく無くすことができる。したがって、血液等の各試料がどのような血糖値であっても、正確な測定値が得られ、かつ、測定値のばらつきがほとんど生じない。かような非酸化還元酵素として、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ、グルコースイソメラーゼ、トレハロースシンターゼ、スクロースシンターゼ、ラクトースシンターゼが好適に挙げられる。特に、反応性の観点で、ヘキソキナーゼが好ましい。
【0094】
本発明のバイオセンサにおいて、グルコースを基質とする非酸化還元酵素の含有量については、上述したように使用する親水性高分子の量や電子伝達体の種類などによって適宜選択することができる。好ましくは、グルコースを基質とする非酸化還元酵素の含有量は、1センサあたり、好ましくは0.5〜25U、より好ましくは2〜25U、特に好ましくは5〜20Uが含まれる。一般的には、単位Uは、毎分1μmolの基質を変化させることができる酵素量(μmol/分)を意味する。酵素量は、市販のキットまたは公知の方法により、容易に測定が可能である。一例を挙げると、ヘキソキナーゼを用いる場合、1センサあたり、好ましくは1〜50U、より好ましくは2〜30U、特に好ましくは5〜25U、特に好ましくは5〜20Uが含まれるとよい。より詳しくは、供給される試料が全血であった場合、全血が1mlに対して、好ましくは0.5〜25U、より好ましくは1〜15U、特に好ましくは2.5〜10U含有されるとよい。なお、ヘキソキナーゼの活性単位(U)の定義および測定方法は、特許第4022784号に記載の方法による。
【0095】
この範囲であれば、GDHの反応速度に比してヘキソキナーゼの反応速度が圧倒的に速くグルコースのほとんどがGDHの反応しない物質へと変換される。ヘキソキナーゼの量が少ない場合、グルコースがGDHの反応しない物質に変換される前にGDHと反応し、測定値に影響を与える虞がある。なお、ヘキソキナーゼを用いる場合、グルコースと反応させるためのリン酸源として、好ましくはATPをグルコースの量に応じて適宜添加する。より詳細には、ATPの添加量は、1〜100mMが好ましく、20〜80mMがより好ましい。さらに、補因子として、マグネシウムイオンをヘキソキナーゼの量に応じて適宜添加する。より詳細には、マグネシウムイオンの添加量は、1〜100mMが好ましく、より好ましくは、20〜80mMである。
【0096】
なお、本発明の第2実施形態においては、グルコースを基質とする非酸化還元酵素は、第1の反応層8、第2の反応層9のいずれか一方の反応層に含まれてもよいし、両方の層に含まれてもよい。また、上述のような、反応層が酸化還元酵素を含む層と脂質分解酵素を含む層とを有する場合、グルコースを基質とする非酸化還元酵素とグルコースとの反応を効率よく行わせるという観点から、グルコースを基質とする非酸化還元酵素は脂質分解酵素を含む層に含まれることが好ましい。
【0097】
実際の測定において、グルコースを基質とする非酸化還元酵素がグルコースと反応した分はGDHが反応しない物質に変換されるので、測定値に影響する虞はない。
【0098】
上記の非酸化還元酵素は、市販の商品を購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。当該非酸化還元酵素を自ら調製する手法としては、従来既知の調製方法を適用できる。また、上記のグルコースを基質とする非酸化還元酵素は、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0099】
第2実施形態のバイオセンサを製造する際には、グルコースを基質とする非酸化還元酵素は、これに限定されないが、酸化還元酵素が含まれる層に共に含まれることが好ましい。非酸化還元酵素は、酸化還元酵素の精製時の夾雑物の悪影響を防止するために添加するので、酸化還元酵素と同じ層に含まれることが、その目的のために効率的だからである。
【0100】
(親水性高分子)
本発明における反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)は、さらに、親水性高分子を含んでもよい。
【0101】
親水性高分子は、酸化還元酵素、グルコースを基質とする非酸化還元酵素または電子伝達体などを電極上に固定化する機能を有する。また、反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)が親水性高分子を含むことにより、基板1および電極表面からの反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)の剥離が防止されうる。また、親水性高分子は、反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)表面の割れを防ぐ効果も有しており、バイオセンサの信頼性を高めるのに効果的である。さらに、タンパク質などの吸着性成分の電極への吸着もまた、抑制されうる。なお、反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)が親水性高分子を含む場合、反応層内に親水性高分子が含まれる形態を有していてもよく、または反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)を覆うように親水性高分子を含む親水性高分子層を形成させた形態を有してもよい。
【0102】
本発明に用いることができる親水性高分子としては、従来公知のものを使用することができる。より具体的には、親水性高分子としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリリジンなどのポリアミノ酸、ポリスチレンスルホン酸、ゼラチンおよびその誘導体、アクリル酸の重合体またはその誘導体、無水マレイン酸の重合体またはその塩、スターチおよびその誘導体などが挙げられる。これらのうち、酸化還元酵素の酵素活性を失活させず、且つ溶解性が高いという観点から、カルボキシメチルセルロースが好ましい。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0103】
なお、このような親水性高分子の配合量は、1センサあたり、酵素や電子伝達体を固定化でき、且つ反応層の溶解性を下げないという観点から、好ましくは0.01〜100μgであり、より好ましくは0.05〜50μgであり、特に好ましくは0.1〜10μgである。親水性高分子は、後述もするが、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0104】
親水性高分子は、第2実施形態においては、第1の反応層8、第2の反応層9のいずれに含有されてもよい。好ましくは、第2の反応層9に酸化還元酵素が含まれるため、固定化の効果を勘案すると、第2の反応層9に親水性高分子を含有させることが好ましい。
【0105】
<バイオセンサの製造方法>
本発明のバイオセンサにおける反応層10または第1の反応層8、第2の反応層9を形成する方法にも特に制限はないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0106】
第1実施形態の反応層10の場合は、原料である酸化還元酵素と、電子伝達体と、界面活性剤と、グルコースを基質とする非酸化還元酵素と、必要に応じて脂質分解酵素とを、グリシルグリシン緩衝液などで調製し、その調製した原料を、電極(作用部分)に、所定量滴下する。調製した試料を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させる。なお、界面活性剤については、単に反応層内に含有されていてもよいし、反応層を覆うように界面活性剤を含む界面活性剤含有層を形成してもよい。また、必要に応じ上記した他の成分(例えば、親水性高分子など)を添加してもよい。また、必要に応じエタノール等の揮発性有機溶媒を添加しておいてもよい。揮発性有機溶媒を添加しておくことで、早く乾きやすく、結晶化が小さくて済む。最後に、反応層10にカバー7を覆うようにして、接着剤を介して張り合わせる。
【0107】
第2実施形態の第1の反応層8については、電子伝達体(例えば、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物)と、必要に応じて界面活性剤と、を含む原料を、グリシルグリシン緩衝液などで調製し、その調製した原料を、カバー7に、所定量滴下する。この際、界面活性剤については、単に反応層内に含有されていてもよいし、反応層を覆うように界面活性剤を含む界面活性剤含有層を形成してもよい。なお、予めカバー7に接着剤を設置しておくとよい。調製した原料を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させる。このようにして、第1の反応層8を作製することができる。
【0108】
一方で、第2の反応層9については、酸化還元酵素(例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素)と、界面活性剤(例えば、エマルゲン)と、グルコースを基質とする非酸化還元酵素(例えばヘキソキナーゼ)と、必要に応じて脂質分解酵素(例えばリポプロテインリパーゼ(LPL))と、親水性高分子と、を含む第2の反応層9を形成するための原料を、グリシルグリシン緩衝液などで調製し、その調製した原料を、電極に、所定量滴下する。この際、グルコースを基質とする酸化還元酵素については、第1の反応層に含まれてもよいし、第1および第2の反応層双方に含まれていてもよい。界面活性剤については、単に反応層内に含有されていてもよいし、反応層を覆うように界面活性剤を含む界面活性剤含有層を形成してもよい。なお、予め基板1に接着剤を設置しておくとよい。調製した原料を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させる。このようにして、第2の反応層9を作製することができる。
【0109】
また、例えば、酸化還元酵素(例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素)と、界面活性剤(例えば、エマルゲン)と、必要に応じて親水性高分子と、を含む原料をグリシルグリシン緩衝液などで調製し、その調製した液を電極に所定量滴下して乾燥して第1層を形成する。その後、グルコースを基質とする非酸化還元酵素(例えばヘキソキナーゼ)と、脂質分解酵素(例えばLPL)と、をグリシルグリシン緩衝液などで調製し、その調製した液を第1層の上部に所定量滴下し乾燥して第2層を形成し、全体で第2の反応層9としてもよい。この際、界面活性剤については、単に反応層内に含有されていてもよいし、反応層を覆うように界面活性剤を含む界面活性剤含有層を形成してもよい。なお、予め基板1に接着剤を設置しておくとよい。
【0110】
最後に、第2の反応層9が形成されている基板1と、第1の反応層8が形成されているカバー7を、接着剤6a、6bを介して張り合わせることにより、第2実施形態のバイオセンサを製造することができる。
【0111】
<バイオセンサの適用>
本発明において使用される試料は、好ましくは、溶液形態である。溶液形態における溶媒としても特に制限されず、従来公知の溶媒を適宜参照し、あるいは組み合わせて適用することができる。
【0112】
試料としても、特に制限はされないが、例えば、全血、血漿、血清、唾液、尿、骨髄などの生体試料;ジュースなどの飲料水、醤油、ソースなどの食品類;排水、雨水、プール用水などが挙げられる。好ましくは、全血、血漿、血清、唾液、骨髄であり、より好ましくは全血である。
【0113】
なお、試料は原液がそのまま用いられてもよいし、粘度などを調節する目的で適当な溶媒で希釈された溶液が用いられてもよい。試料に含まれる基質についても特に制限はなく、酸化還元酵素と反応しうる物質であればよい。
【0114】
試料中の所望の成分(基質)としては、例えば、グルコースなどの糖類、グリセロール、ソルビトール、アラビトールなどの多価アルコール、中性脂肪、コレステロールなどの脂質、グルタミン酸や乳酸などの有機酸類、クレアチン、クレアチニンなどが挙げられる。上記と同様の理由から、中性脂肪やコレステロールなどの脂質が基質として選択されることが好ましい。
【0115】
試料を試料供給部へ供給する形態は特に制限されず、例えば、毛細管現象を利用して、反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)に対して水平方向から試料を供給してもよい。
【0116】
反応層10(第1の反応層8、第2の反応層9)へと試料が供給されると、試料中の所望の成分(基質)は、反応層に含まれる酸化還元酵素の作用によって酸化され、自身の酸化と同時に電子を放出する。基質から放出された電子は、電子伝達体に捕捉され、これに伴って電子伝達体は酸化型から還元型へと変化する。試料の添加後、バイオセンサを所定時間放置することにより、酸化還元酵素によって基質が完全に酸化され、一定量の電子伝達体が酸化型から還元型へと変換される。
【0117】
基質と酵素との反応を完結させるための放置時間については特に制限はないが、試料添加後、通常は1秒〜5分間、好ましくは3秒〜3分間、バイオセンサを放置すればよい。
【0118】
その後、還元型の電子伝達体を酸化する目的で、電極を介して、作用極2と対極4との間に、所定の電位を印加する。これにより、還元型の電子伝達体が電気化学的に酸化され、酸化型へと変換される。この際に測定される電流(以下、「酸化電流」とも称する)の値から、電位印加前の還元型の電子伝達体の量が算出され、さらに、酵素と反応した基質の量が定量されうる。酸化電流を流す際に印加される電位の値は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜調節されうる。一例を挙げると、−200〜700mV程度、好ましくは0〜500mVの電位を、対極4と作用極2との間に印加すればよい。電位を印加するための電位印加手段についても特に制限はなく、従来公知の電位印加手段が適宜用いられうる。
【0119】
酸化電流値の測定、および当該電流値から基質濃度への換算の手法としては、所定の電位を印加してから一定時間後の電流値を測定するクロノアンペロメトリー法が用いられてもよいし、クロノアンペロメトリー法による電流応答を時間で積分して得られる電荷量を測定するクロノクーロメトリー法が用いられてもよい。簡単な装置系により測定されるという点で、クロノアンペロメトリー法が好ましく用いられうる。
【0120】
以上、還元型の電子伝達体を酸化する際の電流(酸化電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態を例に挙げて説明したが、場合によっては、還元されずに残存している酸化型の電子伝達体を還元する際の電流(還元電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態が採用されてもよい。
【0121】
本発明のバイオセンサは、いずれの形態で使用してもよく特に制限されない。例えば、使い捨て用途としてのディスポーザブルタイプのバイオセンサ、少なくとも電極部分を人体に埋め込んで連続的に所定の値を測定するためのバイオセンサなど、様々な用途に使用できる。
【0122】
本発明のバイオセンサは、中性脂肪センサ、グルコースセンサ等の従来公知のセンサに適用することが可能である。
【0123】
本発明の効果を以下に纏める。
【0124】
本発明のバイオセンサにおいては、グルコースを基質とする非酸化還元酵素が含まれ、グルコースをGDHが反応しない物質に変換するので、測定値に対するグルコース濃度の影響をほとんど無くすかまったく無くす。よって、どのような血糖値の試料であっても、正確な測定値が得られ、測定値のばらつきがほとんど生じず、バイオセンサの測定精度がより向上する。
【実施例】
【0125】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0126】
<全血中の中性脂肪濃度の測定>
(実施例)
電極は、DEP Chip EP−N(有限会社バイオデバイステクノロジー製)を使用した。DEP Chip EP−Nは、絶縁性基板1の上に、それぞれカーボンからなる作用極2、参照極3、対極4が形成され、絶縁層5を挟んで、カーボンからなる作用極作用部分2−1、銀塩化銀からなる参照極作用部分3−1、カーボンからなる対極作用部分4−1が形成されている。
【0127】
本実施例では、第2実施形態のバイオセンサを作製した。第2の反応層(酵素層)は以下の手順で形成した。
【0128】
1センサ(供給される試料「全血」の量2μl)あたり、終濃度で、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を1.5U、グリシルグリシン(和光純薬工業株式会社製)を5mM(0.65μg)、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.025%(0.5μg)になるように混合し溶液(GLDH溶液)を得た。得られたGLDH溶液を、EP−Nの作用極作用部分、参照極作用部分、および対極作用部分を被覆するように滴下し、30℃で5分間乾燥させ、GLDH層を形成させた。
【0129】
形成させたGLDH層の上に重層して、1センサ(試料液量2μl)あたり、リポプロテインリパーゼ(LPL、旭化成株式会社製)を75U、グリシルグリシン(和光純薬工業株式会社製)を5mM(0.65μg)、ヘキソキナーゼ(東洋紡績株式会社製)を10U、ATP二ナトリウム塩(和光純薬株式会社製)を50mM、MgCl・6HO(ナカライテスク社製)を50mMになるように混合し溶液(LPL溶液)を得た。得られたLPL溶液を、ER−Nの作用極作用部分、参照極作用部分、および対極作用部分を被覆するように滴下し、30℃で5分間乾燥させ、LPL層を形成させた。このようにして、GLDH層にLPL層を重層した酵素層を得た。
【0130】
第1の反応層(メディエーター層)は以下の手順で形成した。1センサ(供給される試料「全血」の量2μl)あたり、終濃度で、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(和光純薬工業株式会社製)を100mM(62μg)、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.05%(2μg)、グリシルグリシン(和光純薬工業株式会社製)を25mM(3.25μg)になるように混合し、メディエーター溶液を得た。得られたメディエーター溶液を、PETからなるカバーに接着剤(両面テープ)を貼り合わせた隙間に滴下後、50℃で5分間乾燥させ、第2の反応層(メディエーター層)を形成した。
【0131】
第1の反応層が形成されている基板と、第2の反応層が形成されているカバーに接着した接着剤(両面テープ)とを互いに貼り合わせることにより、中性脂肪センサを作製し、特性評価を行った。なお、この際、第1の反応層と、第2の反応層の厚みはそれぞれ5μmであり、離隔距離は0.15mmであった。
【0132】
試料液(全血)2μlを吸入させてから60秒後に、参照極を基準にして作用極と対極の間に+200mVの電位を印加し、5秒後に作用極と対極との間に流れる電流値を測定した。この電流値は、還元した電子伝達体の濃度、すなわち全血中の中性脂肪濃度に比例し、この電流値から全血中の中性脂肪濃度を求めることができる。
【0133】
表1に示す中性脂肪濃度およびグルコース濃度が異なる4人の全血を試料液とし、上記のように電流値の測定をそれぞれ3回行った。本実施例においては、バイオセンサの測定精度の評価のため、予め別の方法、トリグリセリドE−テストワコー(和光純薬株式会社製及びグルコースCII−テストワコー(和光純薬株式会社製)で測定した中性脂肪濃度およびグルコース濃度が既知の試料No.1〜4の全血の電流値を測定した。結果を図5に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
(比較例)
LPL層にグルコースを基質とする非酸化還元酵素であるヘキソキナーゼを添加しないこと以外は、実施例と同様に中性脂肪センサを作製し、測定を行った。その結果を図5に示す。
【0137】
図5中の式は、実施例および比較例のそれぞれについて、測定点の全てを最小二乗法を用いて一次関数にフィッティングした結果である。通常は、この一次関数を検量線として、未知試料の電流値測定から中性脂肪濃度を求める。したがって、この評価測定における、測定値に対する一次関数の直線性は、未知試料の測定精度を決めるものと考えてよい。Rは相関係数であってそのための指標であり、測定点がどの程度その一次関数からばらついているかを示すものである。Rが1に近いほど、測定点と一次関数の相関が高い(測定値のばらつきが少ない)ことを示し、言いかえれば、検量線を使用した未知試料の測定精度が高く、測定値の信頼性が高いことを示している。図5に示したように、実施例のRは0.9766と極めて1に近く、比較例の0.7361と比較して、測定精度が高いことが分かる。
【0138】
図5から明らかなように、比較例では全血中のグルコース濃度の影響を受けて、測定値が大きくばらついているのに対し、実施例では全体的な電流値が下がるとともに良好な直線性が得られている。例えば、試料No.1および4は、グルコース濃度がそれぞれ156mg/dlおよび131mg/dlと高く、図5の比較例のグラフでは、直線の上側に測定点が振れている。このことは、ヘキソキナーゼを含有していないために高いグルコース濃度が電流値にそのまま影響し、高い電流値となったことを示している。一方、実施例の試料No.1および4の測定では、測定点はわずかに上振れているものの、直線に非常に近い位置を示し、高いグルコース濃度の影響をなくすことに成功している。すなわち、本発明のバイオセンサでは、各試料においてグルコース濃度の影響が出ず、測定値のばらつきがほとんど出ていないことがわかる。
【符号の説明】
【0139】
1 絶縁性基板、
2 作用極、
2−1 作用極作用部分、
3 参照極、
3−1 参照極作用部分、
4 対極、
4−1 対極作用部分、
5 絶縁層、
6(6a、6b) 接着剤、
7 カバー、
8 第1の反応層、
9 第2の反応層、
10 反応層、
S 空間部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極と、前記電極上に形成されてなる試料供給部と、を有するバイオセンサであって、 前記試料供給部が、
少なくとも補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素と、
電子伝達体と、
界面活性剤と、
グルコースを基質とする非酸化還元酵素と、
を含む反応層を有する、バイオセンサ。
【請求項2】
前記反応層が、さらに脂質分解酵素を含む、請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記グルコースを基質とする非酸化還元酵素が、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ、グルコースイソメラーゼ、トレハロースシンターゼ、スクロースシンターゼおよびラクトースシンターゼからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載のバイオセンサ。
【請求項4】
前記グルコースを基質とする非酸化還元酵素を、1センサあたり0.5〜25U含む、請求項3に記載のバイオセンサ。
【請求項5】
前記酸化還元酵素が、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項6】
前記反応層が、前記酸化還元酵素を含む層と前記脂質分解酵素を含む層とを有する、請求項2〜5のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項7】
前記反応層が、電極上に形成される第1の反応層と、前記第1の反応層と分離されて形成されてなる第2の反応層を有し、
前記第1の反応層が、前記グルコースを基質とする酸化還元酵素および前記電子伝達体の一方を含み、かつ、
前記第2の反応層が、他方を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項8】
前記反応層が、さらに親水性高分子を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−214912(P2011−214912A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81597(P2010−81597)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【出願人】(503195850)有限会社アルティザイム・インターナショナル (31)