説明

バイオチップを用いた検査方法及び装置

【課題】サンプル液とバイオチップの壁面との接触面積を小さく保ち、且つ、サンプル液の被検物質とバイオチップの特異結合物質との反応速度を高める検査方法及び装置を提供する。
【解決手段】バイオチップ10は、サンプル液中の被検物質に特異に反応する特異結合物質がプレート12の上面の特定領域16内に固定化される。バイオチップ10の特定領域16内にはサンプル液が滴下され、サンプル液中の被検物質が特異結合物質で検出される。検査装置には、サンプル液の液滴36とプレート12の表面との接触面を特定領域16内に保つ疎水面18と、特定領域16内に滴下されたサンプル液の液滴36を変形させるための加振装置34を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオチップを用いた検査方法及び装置に係り、特にDNAなどの生体関連物質をバイオチップを用いて検査する検査方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体内物質の存在や量を検査する生体関連物質の検査は、健康状態を知り、治療方法を決定する上で重要である。また、生体関連物質の検査は、近年、迅速化や高感度化が求められており、特に、健康上の異常を知らせる体内物質の検査については、迅速な治療と患者の負担軽減のため、検査の高感度化が求められている。
【0003】
このような生体関連物質の検査において、生体から取り出したサンプル液の中から、取り出したい物質だけをバイオチップの特定領域に特異的に反応・吸着させ、分離を行う検査方法がある。この検査方法は、未反応物質や夾雑物がノイズとなって検出を阻害することを防止できるので、検査を高感度で行うことができる。
【0004】
ところで、生体関連物質の検査では、サンプル採取による患者の負担を軽減するために、或いは、薬液が希少で高価な場合にコストを削減するために、検査に使用される液量が微小量であることが多い。液量が微少量の場合には液体の代表寸法も小さいため、体積に対する表面積の比率が大きくなり、液体を容器に入れた際に容器壁面に接する液体の接触面積割合が大きくなる。その結果、液体中の検出対象物質(以下、被検物質ともいう)が壁面の特定領域外に非特異的に吸着してしまうおそれがある。
【0005】
被検物質が特定領域外に吸着した場合、検査の感度が低下するという問題が発生し、さらに検査に定量化が求められる場合には、意図しない箇所に被検物質が吸着することによって測定精度が低下するという問題が生じる。
【0006】
また、液体が微小量の場合、液体と壁面の接触面積割合が増加するため、粘性力が支配的となり、液体内の流動が抑制される。その結果、被検物質が壁面へ供給される量が低下するので、それに伴って反応速度が低下し、検査時間が長くなるという問題が発生する。
【0007】
反応速度の低下の問題に関しては、物質供給速度を改善した検査装置が開発されている。たとえば、容器を薄膜状にし、且つ、その一部を弾性体で形成したDNAチップ反応促進装置が商品化されている。このDNAチップ反応促進装置によれば、容器の一部が弾性変形することによって、液体内に流動が発生するため、反応率を向上させることができる。
【0008】
一方、特許文献1には、平行な二つの壁面の間に液体を供給し、その一方の壁面を他方の壁面に対して移動することによって、液体を混合する検査装置が記載されている。この検査装置によれば、液体層と媒体との界面が弾性膜として機能するので、液体の混合速度を向上させることができる。
【特許文献1】特表2002−509247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した検査装置はいずれも、反応速度を向上させるためのものであり、液体と壁面との接触面積が大きいという問題は解消することができない。たとえば、上述したDNAチップ反応促進装置は、液体を壁面全面に接触させた状態で液体の流動を発生させる構成であり、接触面積を小さくした状態では反応速度を向上させることはできない。一方、先行文献1は、接触面積を大きくするほど、液体の混合速度が高まる構成であり、接触面積を小さくした状態では反応速度を向上させることはできない。したがって、従来装置では、液体と壁面との接触面積を小さく保持し、且つ、液体における反応速度を向上させることはできず、検査精度と検査時間の両方を十分に改善することができないという問題があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、サンプル液とバイオチップの基板壁面との接触面積を小さく保ち、且つ、サンプル液の被検物質とバイオチップの特異結合物質との反応速度を高めることができ、検査精度及び検査時間を十分に改善することのできるバイオチップを用いた検査方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、サンプル液中の被検物質に特異に反応する特異結合物質が基板壁面の特定領域内に固定化されたバイオチップを用い、前記サンプル液を前記特定領域に供給することによって該サンプル液中の被検物質を前記特異結合物質で検出する検査方法において、前記サンプル液の液滴と前記基板壁面との接触面を前記特定領域内に保ったまま、前記サンプル液の液滴を変形させることによって、前記被検物質と前記特異結合物質との反応を促進させることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、サンプル液の液滴の接触面を特定領域内に保ったまま、その液滴を変形させることによって、液滴の内部で流動が生じ、被検物質と特異結合物質との接触頻度が増え、特異反応が促進される。これにより、検査時間を短縮することができる。また、本発明によれば、液滴の接触面を特定領域内に保っているので、液滴が特定領域外に接触することを防止できる。したがって、特定領域外での非特異的な吸着を防止でき、検査精度を高めることができる。よって、本発明によれば、検査時間の短縮と検査精度の向上の両方を達成することができる。なお、本発明において、液滴とは、特定領域の周囲に一周にわたって、固体との非接触部分を有することをいう。
【0013】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記特定領域に供給されたサンプル液の液滴に上から可動壁面が接触した状態で、該可動壁面を前記基板壁面に対して相対的に移動させることによって、前記可動壁面と前記基板壁面との間の液滴を変形させることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、サンプル液の液滴に接触する二つの壁面のうち、一方の壁面を他方の壁面に対して移動させるので、液滴を変形させることができる。なお、本発明では、可動壁面と基板壁面をそれぞれ板状のプレートで形成するとよい。また、本発明において可動壁面の移動は、基板壁面に対して進退(接近・離間)する方向(すなわち上下方向)に動かすことが好ましいが、可動壁面をその面上で(すなわち水平方向に)動かすようにしてもよい。
【0015】
請求項3に記載の発明は請求項1の発明において、前記特定領域に供給されたサンプル液の液滴に上から可動壁面が接触した状態で、該可動壁面を前記基板壁面に対して変形させることによって、前記可動壁面と前記基板壁面との間の液滴を変形させることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、サンプル液の液滴に接触する二つの壁面のうち、一方の壁面を他方の壁面に対して変形させるので、液滴を変形させることができる。なお、本発明では、基板壁面を板状のプレートで形成し、可動壁面を弾性体や薄膜のフィルムで形成するとよい。
【0017】
請求項4に記載の発明は請求項2又は3の発明において、前記可動壁面に周期性を有する反復運動を与えることによって、前記液滴を変形させることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、可動壁面に反復運動を与えることによって、可動壁面を移動又は変形させることができ、液滴を変形させることができる。また、本発明によれば、周期性を有する反復運動を与えるようにしたので、非周期性の振動を与えた場合よりも、サンプル液の液滴が特定領域外に広がりにくくなり、検査精度を確実に向上させることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は請求項1〜4のいずれか1の発明において、前記特定領域の外縁に沿って前記基板壁面に段差を形成し、該段差によって前記サンプル液の液滴と前記基板壁面との接触面を前記特定領域内に保持することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、特定領域の外縁に段差が設けられているので、サンプル液の液滴が特定領域の外側に拡がることを防止できる。なお、段差は、特定領域全体が凸、その周囲が凹となるような段差が好ましいが、特定領域の外縁のみをリング状に突出させてもよい。
【0021】
請求項6に記載の発明は請求項1〜4のいずれか1の発明において、前記特定領域の外縁に沿って疎水面又は親水面の境界線を形成し、該疎水面又は親水面の境界線によって、前記サンプル液の液滴と前記基板壁面との接触面を前記特定領域内に保持することを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、特定領域の外縁に沿って疎水面又は親水面の境界線が形成されているので、サンプル液の液滴が特定領域の外側に拡がることを防止することができる。なお、サンプル液が親水性の場合には、親水性の基板壁面に対して特定領域の外側にリング状の疎水面を形成するか、或いは、疎水性の基板壁面に対して特定領域の内部全体を親水面とするとよい。
【0023】
請求項7に記載の発明は請求項1〜6のいずれか1の発明において、前記被検物質と前記特異結合物質の反応後、前記基板壁面の上に洗浄液を供給することによって、前記液滴を洗い流すことを特徴とする。本発明によれば、反応後に液滴を洗い流すので、未反応の液体を除去することができ、検査を正確に行うことができる。
【0024】
請求項8に記載の発明は請求項7の発明において、前記洗浄液を、前記基板壁面の一方側の端部から供給し、他方側の端部で吸収部材に吸収させることを特徴とする。本発明によれば、使用後の洗浄液をすぐに吸収除去することができる。
【0025】
請求項9に記載の発明は請求項7又は8に記載の発明において、前記洗浄液は、該洗浄液の容器内にエアを送風して該洗浄液を押し出すことによって供給し、該洗浄液の供給後に該洗浄液に連続して前記エアを前記基板壁面の上に供給することによって、該基板壁面から洗浄液を押し出すことを特徴とする。本発明によれば、基板壁面の洗浄と洗浄液除去を連続して行うことができ、検査時間をより短縮することができる。
【0026】
請求項10に記載の発明は前記目的を達成するために、サンプル液中の被検物質に特異に反応する特異結合物質が基板壁面の特定領域内に固定化されたバイオチップを用い、前記サンプル液を前記特定領域内に供給することによって該サンプル液中の被検物質を前記特異結合物質で検出する検査装置において、前記サンプル液の液滴と前記基板壁面との接触面を前記特定領域内に保つ接触面保持手段と、前記特定領域内に供給されたサンプル液の液滴を変形させる液滴変形手段を備えたことを特徴とする。
【0027】
本発明によれば、液滴変形手段によってサンプル液の液滴を変形させるので、サンプル液の内部で流動が生じ、被検物質と特異結合物質との接触頻度が増え、特異反応が促進される。これにより、検査時間を短縮することができる。また、本発明によれば、接触面保持手段によって接触面が特定領域内に保たれるので、サンプル液の液滴が特定領域外に接触することを防止できる。したがって、非特異的な吸着を防止でき、検査精度を高めることができる。よって、本発明によれば、検査時間の短縮と検査精度の向上の両方を達成することができる。
【0028】
請求項11に記載の発明は請求項10の発明において、前記液滴変形手段は、前記特定領域に供給されたサンプル液の液滴に上から接触する可動壁面と、該可動壁面を前記基板壁面に対して相対的に移動させる壁面移動装置と、を備えることを特徴とする。
【0029】
本発明によれば、壁面移動装置によって可動壁面を移動させるので、可動壁面と基板壁面に接触した液滴を変形させることができる。なお、本発明では、可動壁面と基板壁面はそれぞれ板状のプレートで形成するとよい。
【0030】
請求項12に記載の発明は請求項10の発明において、前記液滴変形手段は、前記特定領域に供給されたサンプル液の液滴に上から接触する可動壁面と、該可動壁面を前記基板壁面に対して変形させる壁面変形装置と、を備えることを特徴とする。
【0031】
本発明によれば、壁面変形装置によって可動壁面を変形させることによって、可動壁面と基板壁面とに接触した液滴を変形させることができる。なお、本発明では、基板壁面を板状のプレートで形成し、可動壁面を弾性体や薄膜のフィルムで形成するとよい。
【0032】
請求項13に記載の発明は請求項11又は12の発明において、前記液滴変形手段は、前記可動壁面に周期的な反復運動を与える反復運動装置を備えることを特徴とする。本発明によれば、反復運動装置(たとえば振動装置)によって、可動壁面に反復運動を与えることができ、可動壁面を移動又は変形させることができる。また、本発明によれば、周期性を有する反復運動を与えるので、非周期性の反復運動を与えた場合よりも、サンプル液の液滴が特定領域外に広がりにくくなり、検査精度を確実に向上させることができる。
【0033】
請求項14に記載の発明は請求項10〜13のいずれか1の発明において、前記接触面保持手段は、前記特定領域の外縁に沿って、前記基板壁面に形成された段差であることを特徴とする。本発明によれば、特定領域の外縁に段差が設けられているので、サンプル液の液滴が特定領域の外側に拡がることを防止できる。なお、段差は、特定領域全体が凸、その周囲が凹となるような段差が好ましいが、特定領域の外縁のみをリング状に突出させてもよい。
【0034】
請求項15に記載の発明は請求項10〜13のいずれか1の発明において、前記接触面保持手段は、前記特定領域の外縁に沿って、前記基板壁面に形成された疎水面又は親水面の境界線であることを特徴とする。本発明によれば、特定領域の外縁に沿って疎水面又は親水面の境界線が形成されているので、サンプル液の液滴が特定領域の外側に拡がることを防止することができる。なお、サンプル液が親水性の場合には、親水性の基板壁面に対して特定領域の外側にリング状の疎水面を形成するか、或いは、疎水性の基板壁面に対して特定領域の内部全体を親水面とするとよい。
【0035】
請求項16に記載の発明は請求項10〜15のいずれか1の発明において、前記基板壁面の端部には、該基板壁面の上に洗浄液を供給する洗浄液供給装置が設けられることを特徴とする。本発明によれば、洗浄液供給装置によって基板壁面の上に洗浄液が供給されるので、基板壁面を洗浄することができる。
【0036】
請求項17に記載の発明は請求項16の発明において、前記洗浄液供給装置が設けられた端部と反対側の基板壁面の端部には、前記洗浄液を吸収する吸収部材が設けられることを特徴とする。本発明によれば、使用後の洗浄液をすぐに吸収除去することができ、洗浄液が周囲を汚染することを防止できる。
【0037】
請求項18に記載の発明は請求項16又は17の発明において、前記洗浄液供給装置は、前記洗浄液の容器内にエアを送風して該洗浄液を押し出すことによって該洗浄液を前記基板壁面上に供給し、該洗浄液の供給に連続して前記エアを前記基板壁面の上に送気することを特徴とする。本発明によれば、洗浄液の供給に続けて、エアの送気による液押し出しを行うことができ、基板壁面の洗浄と洗浄液除去を連続して行うことができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、サンプル液の液滴と基板壁面との接触面を特定領域内に保ったままサンプル液の液滴を変形させるようにしたので、液滴が特定領域外に接触することを防止できるとともに、液滴内に流動を生じさせて特異反応を促進させることができ、検査精度の向上と検査時間の短縮の両方を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下添付図面に従って本発明に係るバイオチップを用いた検査方法及び装置の好ましい実施形態について説明する。なお、本実施の形態は、POCT(Point Of Care Testing)用の検査装置に本発明を適用する例であるが、本発明の適用はこれに限定するものではない。また、バイオチップは、DNAチップやマイクロチップであってもよい。
【0040】
図1は、第1の実施形態で使用されるバイオチップ10を示す分解斜視図である。
【0041】
これらの図に示すように、バイオチップ10は主として、プレート12(基板に相当)及びカバーフィルム14(可動壁面に相当)で構成される。プレート12は、硬質板、たとえば白色のポリスチレン板から成り、このプレート12の上面(基板壁面に相当)に、円形状の特定領域16が形成される。特定領域16には、サンプル液の被検物質に特異的に反応する特異結合物質(不図示)が固定化されている。特異結合物質はサンプル液中の被検物質に特異的に反応して被検物質の情報が得られるものであればよい。本発明で分析できる被検物質は、これに特異的に結合する特異結合物質が天然界に存在するもの、あるいは化学的手段によりこれを用意できるものであればよい。一方、特異結合物質は、被検物質に対して特異的に結合することが可能な物質である。
【0042】
被検物質と特異結合物質との組み合わせは、例えば、抗原と抗体、ある種の糖類とレクチン、ビオチンとアビジン、プロテインAとIgG、ホルモンとそのレセブター、酵素と基質、核酸と相補的な核酸、などが例として挙げられる。この組合せは、逆でもよい。最も一般的な例は、抗原を被検物質とし、抗体を特異結合物質とするものである。特異結合物質としての抗体は、ポリクローナル抗体でもよく、モノクローナル抗体であってもよい。また、複数の種類の抗体を使用してもよい。抗体のクラスは特に限定されず、IgGであってもIgMであっても使用可能であるし、FabやFab'やF(ab')2等の抗体のフラグメントであってもよい。なお、本実施形態では、特異反応を検査するために特異結合物質をプレート12に固定したが、これに限定するものではなく、被検物質との反応に関与する物質であればよい。
【0043】
特異結合物質のプレート12への固定方法は特に限定されるものではないが、たとえばインクジェット装置のノズルから特異結合物質を吹き付けることによって固定化するとよい。また、特異結合物質の固定方法は、プレート12に直接固定してもよいし、間接的に固定してもよい。
【0044】
一方、プレート12の壁面(不溶性担体)として用いる材質は、特異結合物質(反応に関与する物質)を安定に保持できるものであれば、いかなるものも用いることができる。壁面の好ましい素材としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ポリエチレンテレフタレート等を含む高分子素材、ガラス、セラミックス、金属等が挙げられる。
【0045】
なお、特定領域16の形状は、円形が特に好ましいが、楕円形や矩形など様々な形状が可能である。また、特定領域16の個数は一つに限定されるものではなく、特にDNAチップの場合には複数個の特定領域16を所定の間隔をあけるとよい。
【0046】
プレート12の上面には、特定領域16の外縁に沿って疎水面18がリング状に形成される。疎水面18は撥水性を発揮するものであれば、その形成方法は特に限定されないが、たとえば撥水性のインクを塗布することによって形成される。この疎水面18を設けることによって、特定領域16内に滴下された親水性のサンプル液の液滴が特定領域16の外部に拡がることが防止される。なお、本実施の形態では、サンプル液とプレート12の表面が親水性であるため、特定領域16の外側を疎水面18としたが、サンプル液とプレート12の表面が疎水性である場合には、特定領域16の外側を親水面として形成するとよい。
【0047】
一方、カバーフィルム14は、可撓性を有する薄膜状に形成される。カバーフィルム14は、プレート12の上面に積層され、接合テープ20によってプレート12に貼着される。接合テープ20は枠状に形成され、プレート12の上面の四つの縁部とカバーフィルム14の下面の四つの縁部とを貼り付けるように構成される。また、接合テープ20は、所定の厚みを有しており、プレート12とカバーフィルム14とのスペーサとして作用するようになっている。これにより、プレート12とカバーフィルム14との間には、所定の大きさの空間(以下、チャンバ28という)が形成され、特定領域16に滴下したサンプル液が潰されることなく液滴状態を保つことができる。なお、プレート12とカバーフィルム14との隙間の大きさは、大き過ぎるとかえって液滴を形成しにくくなるため、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、3mm以下がさらに好ましい。
【0048】
図2は、バイオチップ10を検査装置に装着した状態を示している。また、図3(A)〜図3(E)は、検査装置の作用を説明する説明図であり、各図はバイオチップ10の縦断面図を模式的に示している。
【0049】
これらの図に示すように、バイオチップ10の端部には、洗浄液容器22と吸収パッド24が設けられる。洗浄液容器22は、その内部に洗浄液26が充填されており、バイオチップ10の一方側の端部に取り付けられる。吸収パッド24は、ウレタン製スポンジなどの吸水性素材から成り、洗浄液容器22と反対側の端部に取り付けられている。これらの洗浄液容器22、吸収パッド24は、バイオチップ10と一体化してユニットとして持ち運びできるようにしてもよいし、検査装置に予め取り付けておき、バイオチップ10が検査装置の所定の位置にセットされた際にバイオチップ10の両端部に配置されるようにしてもよい。
【0050】
洗浄液容器22及び吸収パッド24はそれぞれ、プレート12とカバーフィルム14の間のチャンバ28に連通されている。連通方法は特に限定するものではないが、たとえば、接合テープ20に逆流防止弁付きの開口(不図示)を形成し、この開口を介して連通される。これにより、洗浄液容器22と吸収パッド24がチャンバ28を介して連通され、洗浄液容器22内の洗浄液26を、チャンバ28を介して吸収パッド24に供給することができる。
【0051】
洗浄液容器22の上面には、逆流防止機構付きの開口30が設けられる。開口30には、検査装置のエア送気装置(不図示)のノズル32(図3(B)参照)が接続され、エア送気装置からエアを送気することによって、洗浄液容器22内にエアが送気され、洗浄液容器22内の洗浄液26が図3(D)に示す如くチャンバ28に押し出される。そして、図3(E)に示すように、洗浄液容器22内の洗浄液が全てチャンバ28に押し出された後も送気を連続して行うことによって、チャンバ28にエアが送り込まれ、プレート12上から洗浄液が除去される。
【0052】
図2に示すように、検査装置には加振装置34が設けられている。加振装置34は、バイオチップ10を検査装置にセットした際に、カバーフィルム14の上面に当接される。その際、カバーフィルム14の上面を吸着するように構成することが好ましい。また、加振装置34は、偏心モータやピストン式のバイブレータから成り、周期性を有する反復運動(たとえば周波数10Hz程度、振幅0.5mm程度の反復運動)をカバーフィルム14に与えるように構成される。これにより、カバーフィルム14は加振装置34から反復運動が付与され、上下に変形される。
【0053】
なお、検査装置は、液滴36内の被検物質が特異反応した特異結合物質を検出できるように構成されており、その方法は、たとえば、比濁法、ラテックス凝集法、酵素免疫測定法、蛍光測定法、化学発光測定法、(イムノ)クロマト法などがあり、それぞれの方法に応じて、下方あるいは上方からの反射、散乱などの光学的検査、磁力による検査、電気化学的な検査が可能である。これらのうち、光学的な検査には、レーザー、紫外線、赤外線、可視光、X線等を用いることができる。
【0054】
次に上記の如く構成された検査装置の使用方法及び作用について図3(A)〜図3(E)に従って説明する。
【0055】
まず、図3(A)の如くカバーフィルム14をめくり、その状態で、プレート12の特定領域16にサンプル液を滴下する。これにより、特定領域16上にサンプル液の液滴36が形成される。
【0056】
次に図3(B)に示すようにカバーフィルム14を被せてプレート12に貼り付ける。これにより、特定領域16上の液滴36は、カバーフィルム14の下面に当接され、カバーフィルム14と基板12の両方に接触した状態になる。
【0057】
次に加振装置34によってカバーフィルム14に反復運動を与える。これにより、カバーフィルム14が図3(B)、図3(C)に示す如く変形するので、プレート12とカバーフィルム14の間の液滴36は、上下方向に伸縮するように変形する。このように液滴36を上下に伸縮させた場合、液滴36は、プレート12との接触面積を保ったまま(すなわち、接触面積を広げることなく)変形し、その変形によって液滴36の内部に上下方向の流動が発生する。これにより、液滴36内の被検物質と特定領域16表面の特異結合物質との接触頻度が増加させて反応速度を高めることができ、検査時間を短縮することができる。
【0058】
また、特定領域16の外側には、疎水面18が形成されるので、特定領域16上の液滴36は、特定領域16の外側に拡がることが確実に防止される。これにより、特定領域16外で非特異反応が発生することを防止でき、検査の精度を高めることができる。
【0059】
被検物質と特異結合物質の反応に必要な時間が経過した後、図3(D)に示すように洗浄液容器22にエアを送気し、洗浄液容器22内の洗浄液をプレート12上に押し出す。押し出された洗浄液は、プレート12とカバーフィルム14との間のチャンバ28を、洗浄液容器22側から吸収パッド24側に流れ、吸収パッド24に吸収される。これにより、液滴36中の未反応物質や夾雑物をプレート12上から除去することができ、検査を正確に行うことができる。また、洗浄処理を行うことによって、反応時間を制御することができる。
【0060】
図3(E)に示すように、洗浄液容器22から洗浄液が全て押し出すまでエアの送液を継続する。特に光学的な測定を行う場合、残存洗浄液による光散乱を防止できる。
【0061】
乾燥処理後、特異結合物質を所定の方法で(たとえば光学的に)検査する。これにより、被検物質の検出結果が正確に得られる。
【0062】
このように本実施の形態によれば、カバーフィルム14を変形させて液滴36を変形させ、液滴36の内部に流動を発生させるようにしたので、液滴36内の被検物質と特定領域16表面の特異結合物質との反応速度を高めることができ、検査時間を短縮することができる。さらに、被検物質と特異結合物質の反応後に洗浄処理と押し出し処理とを連続して行うようにしたので、検査時間をより短縮することができる。
【0063】
また、本実施の形態によれば、特定領域16の外側に疎水面18を形成したので、液滴36を変形させた際に液滴36が特定領域16の外側に拡がることを防止できる。さらに本実施の形態によれば、カバーフィルム14に周期性を有する反復運動を与えたので、液滴36は同じ範囲で変形を繰り返すようになり、変形時の反動によって液滴36が特定領域16の外側に拡がることを防止できる。したがって、本実施の形態によれば、液滴36が特定領域16の外側に接触して非特異的な反応が発生することを防止でき、検査精度を高めることができる。
【0064】
また、本実施の形態によれば、プレート12とカバーフィルム14との間にチャンバ28を形成し、そのチャンバ28内に洗浄液を供給して洗浄するようにしたので、洗浄液が外部に飛散して装置を汚染することを防止することができる。
【0065】
なお、上述した実施形態では、可撓性を有するカバーフィルム14を被せたが、図4に示すように、(可撓性のない)板状のカバープレート38を設けてもよい。この場合、カバープレート38は、反復運動を与えることによって上下方向に移動させることが好ましい。これにより、液滴36が上下に伸縮するように変形するので、接触面積を広げることなく液滴36内に流動を発生させて反応速度を高めることができる。なお、カバープレート38は、図5に示すように水平方向に移動させてもよい。この場合には、カバープレート38の振幅を適切な範囲に調節することによって、液滴36の接触面積を広げることなく、液滴36を変形させることができる。
【0066】
なお、上述した実施形態は、液滴36の接触面保持手段として、特定領域16の外側に疎水面18を形成したが、接触面保持手段はこれに限定するものではなく、たとえば特定領域16の外縁に沿って、プレート12の上面に段差を設けてもよい。たとえば、図6に示すプレート40は、特定領域16の外周部には凹部40Aが形成される。凹部40Aは、特定領域16の外縁に沿ってリング状に形成されており、特定領域16全体が凸部となっている。この場合、液滴36は特定領域16の外側に拡がることが防止されるので、液滴36の接触面を特定領域16内に保持することができる。これにより、液滴36が特定領域16の外部に接触して非特異な反応が発生することを防止でき、検査精度を高めることができる。
【0067】
また、図7に示すプレート42は、特定領域16の外縁に沿って突出部42Aが形成され、特定領域16の外縁のみが突出されている。この場合にも、液滴36が特定領域16の外側に拡がることを防止でき、非特異な反応の発生を防止して検査精度を高めることができる。
【実施例】
【0068】
抗マウス1gG抗体を2ng/mm物理吸着させたポリエチレン基板に、抗抗マウス1gG抗体64pM溶液10μl滴下した。非特異的な吸着を防止するため、基板には、タンパク質の吸着も行った。このため、基板に対する抗体溶液の接触角が小さくなっており、抗マウス1gG抗体を吸着した円周を描くように、φ5mmの溝を切削した。次に、液滴を押しつぶすように、ポリエチレン基板を上から押し当て、上下2枚の基板間距離を約2mmに設定した。上面の基板に加振機を押し当て、周波数10Hz、振幅0.5mmの上下運動を行い、反応量の経時変化を測定して本実例とした。また、比較例として、振動のない場合で反応量の経時変化を測定した。
【0069】
比較例では、60分要した反応量を、本実施例では15分で得られた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態のバイオチップを示す分解斜視図
【図2】図1のバイオチップを検査装置に装着した状態を示す斜視図
【図3】本発明の作用を説明する説明図
【図4】液体変形手段の構成が異なるバイオチップを説明する図
【図5】図4と可動壁面の移動方向が異なるバイオチップを説明する図
【図6】接触面保持手段の構成が異なるバイオチップの説明図
【図7】接触面保持手段の構成が異なるバイオチップの説明図
【符号の説明】
【0071】
10…バイオチップ、12…プレート、14…カバーフィルム、16…特定領域、18…疎水面、20…接合テープ、22…洗浄液容器、24…吸収パッド、26…洗浄液、28…チャンバ、30…開口、32…ノズル、34…加振装置、36…液滴、38…カバープレート、40…プレート、42…プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル液中の被検物質に特異に反応する特異結合物質が基板壁面の特定領域内に固定化されたバイオチップを用い、前記サンプル液を前記特定領域に供給することによって該サンプル液中の被検物質を前記特異結合物質で検出する検査方法において、
前記サンプル液の液滴と前記基板壁面との接触面を前記特定領域内に保ったまま、前記サンプル液の液滴を変形させることによって、前記被検物質と前記特異結合物質との反応を促進させることを特徴とするバイオチップを用いた検査方法。
【請求項2】
前記特定領域に供給されたサンプル液の液滴に上から可動壁面が接触した状態で、該可動壁面を前記基板壁面に対して相対的に移動させることによって、前記可動壁面と前記基板壁面との間の液滴を変形させることを特徴とする請求項1に記載のバイオチップを用いた検査方法。
【請求項3】
前記特定領域に供給されたサンプル液の液滴に上から可動壁面が接触した状態で、該可動壁面を前記基板壁面に対して変形させることによって、前記可動壁面と前記基板壁面との間の液滴を変形させることを特徴とする請求項1に記載のバイオチップを用いた検査方法。
【請求項4】
前記可動壁面に周期性を有する反復運動を与えることによって、前記液滴を変形させることを特徴とする請求項2又は3に記載のバイオチップを用いた検査方法。
【請求項5】
前記特定領域の外縁に沿って前記基板壁面の段差を形成し、該段差によって前記サンプル液の液滴と前記基板壁面との接触面を前記特定領域内に保持することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のバイオチップを用いた検査方法。
【請求項6】
前記特定領域の外縁に沿って疎水面又は親水面の境界線を形成し、該疎水面又は親水面の境界線によって、前記サンプル液の液滴と前記基板壁面との接触面を前記特定領域内に保持することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のバイオチップを用いた検査方法。
【請求項7】
前記被検物質と前記特異結合物質の反応後、前記基板壁面の上に洗浄液を供給することによって、前記液滴を洗い流すことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のバイオチップを用いた検査方法。
【請求項8】
前記洗浄液を、前記基板壁面の一方側の端部から供給し、他方側の端部で吸収部材に吸収させることを特徴とする請求項7に記載のバイオチップを用いた検査方法。
【請求項9】
前記洗浄液は、該洗浄液の容器内にエアを送風して該洗浄液を押し出すことによって供給し、該洗浄液の供給後に該洗浄液に連続して前記エアを前記基板壁面の上に供給することによって、該基板壁面から洗浄液を除去することを特徴とする請求項7又は8に記載のバイオチップを用いた検査方法。
【請求項10】
サンプル液中の被検物質に特異に反応する特異結合物質が基板壁面の特定領域内に固定化されたバイオチップを用い、前記サンプル液を前記特定領域内に供給することによって該サンプル液中の被検物質を前記特異結合物質で検出する検査装置において、
前記サンプル液の液滴と前記基板壁面との接触面を前記特定領域内に保つ接触面保持手段と、
前記特定領域内に供給されたサンプル液の液滴を変形させる液滴変形手段を備えたことを特徴とするバイオチップを用いた検査装置。
【請求項11】
前記液滴変形手段は、
前記特定領域に供給されたサンプル液の液滴に上から接触する可動壁面と、
該可動壁面を前記基板壁面に対して相対的に移動させる壁面移動装置と、
を備えることを特徴とする請求項10に記載のバイオチップを用いた検査装置。
【請求項12】
前記液滴変形手段は、
前記特定領域に供給されたサンプル液の液滴に上から接触する可動壁面と、
該可動壁面を前記基板壁面に対して変形させる壁面変形装置と、
を備えることを特徴とする請求項10に記載のバイオチップを用いた検査装置。
【請求項13】
前記液滴変形手段は、前記可動壁面に周期的な反復運動を与える反復運動装置を備えることを特徴とする請求項11又は12に記載のバイオチップを用いた検査装置。
【請求項14】
前記接触面保持手段は、前記特定領域の外縁に沿って、前記基板壁面に形成された段差であることを特徴とする請求項10〜13に記載のバイオチップを用いた検査装置。
【請求項15】
前記接触面保持手段は、前記特定領域の外縁に沿って、前記基板壁面に形成された疎水面又は親水面の境界線であることを特徴とする請求項10〜13に記載のバイオチップを用いた検査装置。
【請求項16】
前記基板壁面の端部には、該基板壁面の上に洗浄液を供給する洗浄液供給装置が設けられることを特徴とする請求項10〜15に記載のバイオチップを用いた検査装置。
【請求項17】
前記洗浄液供給装置が設けられた端部と反対側の基板壁面の端部には、前記洗浄液を吸収する吸収部材が設けられることを特徴とする請求項16に記載のバイオチップを用いた検査装置。
【請求項18】
前記洗浄液供給装置は、前記洗浄液の容器内にエアを送風して該洗浄液を押し出すことによって該洗浄液を前記基板壁面上に供給し、該洗浄液の供給に連続して前記エアを前記基板壁面の上に送気することを特徴とする請求項16又は17に記載のバイオチップを用いた検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−85797(P2009−85797A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256758(P2007−256758)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】