説明

バイオチップ及びバイオチップの温度検知方法

【課題】製造、輸送、保管、反応等の工程において試薬に加えられた熱を検知することができるバイオチップを提供する。
【解決手段】本発明は、基板2上に複数の反応室3を有するバイオチップ1であって、反応室3と同一の大きさの凹部10に、所定の第1温度を融点とする第1温度検知体12が配置された第1温度検知部8を備え、第1温度検知部8内の第1温度検知体12の形状又は色彩によって反応室3が第1温度以上の環境下にあったかどうかを判定できることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応やDNA反応、タンパク質反応等を行うためのバイオチップ及びバイオチップの温度検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学反応やDNA反応、タンパク質反応等をチップ上にて行うμ−TotalAnalysis System技術や、Lab‐on‐Chip技術などが研究され実現されつつある。これにより、今まで大型の実験装置や大量の反応試薬が必要であった反応実験が数ミリ角以下のバイオチップを用いて少量の反応試薬で行えるようになってきている。
【0003】
このバイオチップ上には、ウェルと呼ばれる微小な穴やくぼみが複数形成されており、それぞれが独立した反応容器として用いられる。複数のウェル状反応容器は、試液貯留部から延設された試液流路により接続されている(例えば、特許文献1参照)。
このバイオチップに試薬を封入するには予め試薬を各ウェル内に充填、保存する方法や、試薬貯留部から流路を通じて試薬を各ウェルに充填する方法が考えられる。
【特許文献1】特表2002−503336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生化学でもちいられる試薬は熱に弱く、室温であっても酵素の機能低下や核酸の断絶など、致命的な被害を受けやすい。特にバイオチップ上で反応検出を行う場合、その試薬の劣化によるわずかな反応効率の低下でさえも許されない場合が多々ある。また、品質保証の観点からも、製造、輸送過程で、試薬にどの程度の熱がかかってしまったのか、把握、記録する必要がある。直接温度を測る方法としては、熱電対での測定を始め従来の様々な技術があるが、これらは破壊検査のため望ましくない。
【0005】
また、温度によって化学反応をおこす色素層の組み込み等の非破壊検査および、保存容器外壁に市販されているような示温材を貼る、或いは示温材塗料を容器の内部又は外部に塗布するという方法も知られているが、バイオチップなどの小型チップに搭載する観点からは必ずしも適切とはいえない。また、試薬に加えられた熱を正確に把握するためには、基板ではなく、試薬保存部内の温度が測定されるのが望ましい。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、製造、輸送、保管、反応等の工程において試薬に加えられた熱を検知することができるバイオチップ及びバイオチップの温度検知方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、反応室に加えられた温度を簡便に検知することができるバイオチップの温度検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板上に複数の反応室を有するバイオチップであって、前記複数の反応室のいずれかと同一の大きさの凹部に、所定の第1温度を融点とする温度検知体が配置された温度検知部を備え、前記温度検知部内の前記温度検知体の形状又は色彩によって前記反応室が前記第1温度以上の環境下にあったかどうかを判定できることを特徴とする。
【0008】
本発明のバイオチップによれば、温度検知部の温度検知体の形状や色彩を見ることによって、バイオチップが第1温度以上の温度にさらされたかどうかを容易に判断することができる。
【0009】
本発明のバイオチップは、前記複数の反応室のいずれかと同一の大きさの凹部に、前記第1温度と異なる第2温度を融点とする第2温度検知体が配置された第2温度検知部をさらに備えてもよい。この場合、反応中、製造時、輸送時等複数の環境において温度管理が適切に行われているかどうかを簡便に判断することができる。
【0010】
前記複数の反応室の少なくとも1つには、試薬が配置されていてもよい。この場合、簡便に反応を行え、かつ試薬が適切な温度管理下にあったかどうかも容易に把握できるバイオチップを構成することができる。また、前記試薬は、酵素又は核酸を含むものでもよい。
【0011】
なお、「試薬」とは、バイオチップ上で反応液と反応させるために用いられるあらゆる物質を指し、基質、バッファー等も含まれる。
【0012】
本発明のバイオチップは、前記複数の反応室の上面を覆う蓋材をさらに備えてもよい。この場合、反応室へのコンタミネーション等を防ぐことができる。
【0013】
本発明のバイオチップの温度検知方法は、基板上に複数の反応室を有するバイオチップの前記反応室に加えられた温度を検知する温度検知方法であって、前記バイオチップに前記複数の反応室のいずれかと同一の大きさの凹部を形成する工程と、前記凹部に所定の第1温度を融点とする温度検知体を配置する工程とを備えることを特徴とする
【発明の効果】
【0014】
本発明のバイオチップによれば、製造、輸送、保管、反応等の工程において試薬に加えられた熱を検知することができるバイオチップを提供することができる。
また、本発明のバイオチップの温度検知方法によれば、反応室に加えられた温度を簡便に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のバイオチップ1を示す平面図である。バイオチップ1は、略長方形状の基板2上に、複数の反応室3が設けられて構成されている。
【0016】
基板2は、樹脂等からなる略長方形の板状部材である。材料となる樹脂としては、ポリプロピレン(PP)やポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PV)、ポリスチレン(PS)等が、耐熱性、耐薬品性、成型加工性などに優れているため好ましい。
【0017】
基板2の厚さは、使用中に容易に折れ曲がることのない程度の厚みとするのが好ましい。また、基板2は、2種類以上の樹脂が接合されて形成されてもよい。この場合、それぞれの樹脂の特徴を生かして基板2を作製することにより、反応試薬及び試料等の物性に応じた多様な基板2とすることが可能となり、用途ごとに使い分けることができる。例えば、基板2の上半分と下半分とで材料を分けたりすることも可能となる。さらに、基板2の素材として石英ガラスを用いることもできる。
【0018】
反応室3は、図2(a)に示すように、断面が半球状(椀状)又は逆円錐状(鉢状)等の凹部であり、基板2上に整列している。反応室3は、基板2を構成する樹脂を切削加工し、又は基板2の材料樹脂を射出成形する等の方法で形成される。
反応室3の開口部の直径は0.01mm以上5mm以下とするのが好ましい。このようにすると、後述する反応試液の供給が容易になり、気泡の混入が防止される。各反応室3内には、使用時に添加されるDNAを含んだサンプルとの初期反応に必要な第1試薬(試薬)4が配置されている。バイオチップ1で複数種類の反応を行えるように、第1試薬4を一部の反応室3にのみ配置してもよい。
【0019】
また、図1に示すように、基板2の他の部位には、反応室3における初期反応後の反応に使用する第2試薬5を保存する第2試薬留置部6が設けられている。第2試薬留置部6は、図2(b)に断面で示すように、反応室3と略同一の形状の留置室7に第2試薬5が配置されて形成されている。第2試薬5は、必要となるタイミングで、定量分注器等を用いて各反応室3に添加される。
【0020】
さらに、反応室3が設けられた領域の周辺の基板2上には、バイオチップ1に加えられた温度を検知するための第1温度検知部(温度検知部)8及び第2温度検知部9が設けられている。
図2(c)は第1温度検知部8の、図2(d)は、第2温度検知部9のそれぞれ断面図である。各温度検知部8、9は、反応室3と略同一の形状を有する凹部10、11と、それぞれ凹部10、11内に配置された第1温度検知体(温度検知体)12及び第2温度検知体13を有して構成されている。
【0021】
第1温度検知部8は、バイオチップ1の製造時及び輸送時において、配置された第1試薬4及び第2試薬5の品質に影響するような温度が加えられたかどうかを検知する部分であり、配置される第1温度検知体12として、例えば35℃(第1温度)を融点とする物質が選択されている。
第2温度検知部9は、バイオチップ1上における反応時において、反応室3内の試薬に正常に反応温度が加えられたかどうかを検知する部分であり、配置される第2温度検知体13として、例えば80℃(第2温度)を融点とする物質が選択されている。
なお、第1温度検知部8、第2温度検知部9ともに、融点が異なる複数種類の第1温度検知体12及び第2温度検知体13をそれぞれ異なる凹部に配置して、複数の温度について判定できるように構成されてもよい。
【0022】
第1温度検知体12及び第2温度検知体13として用いる材料は、ある温度以上にすると状態変化を起こす物質であればどのようなものでもよい。中でもワックス類が扱いやすく好適であり、設定融点が100℃以上であればポリエチレンワックス、設定融点が80〜100℃であればマイクロクリスタリンワックス、設定融点が80℃以下であればパラフィンワックス等を用いることができる。
【0023】
各温度検知体12、13の形状は、融解前後で異なることが容易に判別できるものが好ましい。例えば、通常融解すれば表面張力により球形に近い形状となるため、配置の時点では四角形の板状にしておくなどである。一方、反応室3に配置された第1試薬4への影響を正確に把握する観点からは、凹部10、11の底部に対する各温度検知体12、13の接触面積が、反応室3における第1試薬4と略同等であることが好ましい。また、第1試薬4と第2試薬5の形状が異なる場合は、各温度検知部8、9の一方の温度検知体12、13を第2試薬5と略同等の接触面積を有する形状にしてもよいし、上述のように、複数の温度を検知できるようにこれらが複数組設置されてもよい。
【0024】
温度検知は、各温度検知体12、13の融解による形状変化のみによって判断してもよいし、各温度検知体12、13に色素を抱合させ、融解した場合に抱合されていた色素が凹部10、11内に拡散するようにして、より判別しやすく構成されてもよい。
【0025】
再び図1に示すように、反応室3の右側には、各反応室3に供給される第2試薬が試液である場合に、当該試液が貯留されるための試液貯留部14が設けられている。試液貯留部14は、第2試薬の量が多い場合などにも使用することができる。
【0026】
使用前において、基板2及び各反応室3、第2試薬留置部6、各温度検知部8、9、及び試液貯留部14の上面は、図2(a)〜(d)に示すように、コンタミネーション等を防ぐため、蓋材15によって覆われている。蓋材15はヒートシールやレーザーによる熱融着等の方法で基板2に接着されてもよい。そして、このような蓋材の固定工程でかかる熱によって試薬がダメージを受けたかどうかを判断するための温度検知体が、固定工程の前に予めチップに配置されてもよい。なお、蓋材15は反応室に必要な試料等を添加した後、容易に再装着できるものが好ましい。
【0027】
また、蓋材15が製造時にヒートシールによって接着され、かつ輸送時の温度環境を検知する等の目的で、ヒートシール時の温度より低い融点を有する温度検知体が配置される場合は、当該温度検知体が配置される温度検知部を蓋材15で覆わず、ヒートシール後に当該温度検知体を配置してもよい。温度検知部には試料は添加されないため、コンタミネーション等に関しても大きな問題はない。
【0028】
以下、本発明のバイオチップについて、実施例を用いてさらに説明する。本実施例のバイオチップ20は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法に用いられるバイオチップである。
【0029】
(実施例1)
まず、PPからなる基板21上の図3に示すような位置に、切削によって半径1.5mmの半球状の反応室22を形成した。また、温度検知部を形成するため反応室22と同一形状の凹部23、24を形成した(凹部形成工程)。反応室22の容積は、理論値で7.7μL(マイクロリットル)である。反応室22の内面にはプラズマ処理を施して親液化した。
加えて、第2試薬留置部となる留置室25及び試液貯留部26も基板21上に形成された。
【0030】
図4(b)に断面で示すように、凹部23には、第1温度検知体27として、融点98℃の粒状のクリスタリンワックス(日本精蝋社製 商品名「Hi−Mic−2095」)を配置して(温度検知体配置工程)、第1温度検知部28を形成した。第1温度検知体27は、凹部23に配置した状態でPCR変性温度(96℃)を30秒間加えると熱によって変形し、PCR変性温度より3度低い温度を同時間加えたときには変形しないことが確認されている。
なお、実施例1においては、第1温度検知部のみ設け、第2温度検知部は設けられなかった。
【0031】
続いて、図4(a)に断面で示すように、各反応室22の底部に各々異なる増幅部位のプライマー(第1試薬)29を1.0μL配置して乾燥固定させ、基板21の上面に蓋材(ABI社製 ABI PRISM Optical Adhesive Cover)32を装着してバイオチップ20を作製した。
【0032】
このようなバイオチップ20を2枚用意し、テンプレートDNA、DNAポリメラーゼ、及びdNTPにバッファーを加えて試液30として調製し、蓋材32をはがして、一旦試液貯留部26に貯留してから、プライマー29を配置した各反応室22に3.5μLずつ分注した。さらに、加熱中の蒸発防止のためにミネラルオイル31を3μLずつ分注した。その後、蓋材32を再装着して上面をカバーした。
【0033】
作業終了後のバイオチップ20に対して、プレートPCRを用いて熱履歴をかけた。ここで、一方のバイオチップ20を温度調節正常サンプルBとして、変性過程(90〜98℃)、アニーリング過程(40〜60℃)、及び伸長過程(70℃前後)にしたがって、該当核酸増幅に最適な温度調節を行った。
【0034】
一方、もう一方のバイオチップ20を比較用の温度調節不備サンプルAとした。温度調節不備サンプルAに対しては、最も温度が高い変性過程において加える温度を温度調節正常サンプルより3℃低く設定し、他の過程は温度調節正常サンプルBと同様とした。この温度調節不備サンプルAは、PCR法実行時において、反応効率を下げるほどの温度不調が発生した場合を想定している。
【0035】
温度調節正常サンプルBと温度調節不備サンプルAとの比較結果を表1に示す。PCR反応終了後、各サンプルの第1温度検知部を目視にて確認したところ、温度調節正常サンプルBの第1温度検知部28では、図5に示すように、凹部23内の第1温度検知体27が縁に向かって広がるように融解し、配置時と異なることが容易に識別可能な形状に変化していた。一方、温度調節不備サンプルAの第1温度検知部においては、図6に示すように、第1温度検知体27は配置時と同様の形状であり、融解していないことが確認された。
【0036】
【表1】

【0037】
(実施例2)
次に、本発明のバイオチップを用いて、一遺伝子多型(SNP)検出法の一つであるインベーダー法を行った例を説明する。
本実施例のバイオチップ40を作製するために、まず、実施例1と同様の手順で基板21上に反応室22、凹部23、24、留置室25、及び試液貯留部26を形成する。
【0038】
次に、図3に示すように、凹部24内に、融点62℃の高純度精製パラフィンワックス(日本精蝋社製 商品名「HNP−5」)を第2温度検知体41として配置して第2温度検知部42を形成した。第2温度検知体41は、63℃で完全に融解することを予め確認した。
そして、凹部23内には、上述の高純度精製パラフィンワックスをミネラルオイル(シグマ社製 商品名「Mineral oil, Light oil」)で26倍希釈して融点を室温程度に調整したものを第1温度検知体43として配置して第1温度検知部44を形成した。第1温度検知体43は、25℃程度で数時間静置すると、融解を始めて形状が変化することを予め確認した。
【0039】
インベーダー法においては、2種類の非蛍光標識オリゴヌクレオチド(アレルプローブ、インベーダープローブ)、2種類の蛍光標識オリゴヌクレオチド(FRETプローブ)、及びDNA構造に特異的なエンドヌクレアーゼ(クリベース)が用いられる。インベーダー反応は約63℃で数十分から4時間程度インキュベートすることによって行われる。
【0040】
本実施例においてはインベーダーアッセイキット(Third Wave Technologies社製)の構成に準じてバイオチップ40を作製した。
まず、反応室22の各底部に各々異なるインベーダープローブ及びそれぞれ対応するアレルプローブを、一対ずつ0.15μL加えて乾燥させた。その上に蛍光物質としてFAM標識又はRED標識が結合したFRETプローブを各反応室22に0.75μLずつ加えて乾燥させた。そしてクリベースを各反応室22に0.15μLずつ配置し、これらを第1試薬(試薬)46とした。そして、実施例1と同様に蓋材32を装着してバイオチップ40を作製した。
上記構成のバイオチップ40を3枚用意し、そのうち1枚(以下、チップAと称する。)を室温に4時間放置し(保存状態不備)、残り2枚(以下、チップB及びCと称する。)を冷蔵保存した(保存状態良好)。
【0041】
保存後のバイオチップ40の蓋材32をはがし、調製済みのPCR産物(QIAGEN社製 Multiprex PCR kit使用)に対してインベーダーバッファーを加え、全量が60μLとなるように調製して試液47とした。この試液47を、一旦試液貯留部26に貯留してから、図4(a)に示すように、第1試薬46が配置された各バイオチップ40の各反応室22に3.5μLずつ分注し、さらに加熱中の蒸発防止のためにミネラルオイル48を3.0μLずつ分注した。
【0042】
その後、蓋材32を基板21の上面に再装着して被覆してから、各バイオチップ40にプレートPCRにて熱履歴をかけた。このとき、反応温度としてチップA及びCは63℃(設定反応温度)、チップBは59℃(反応温度不備)でそれぞれ加熱した。
【0043】
すなわち、チップAは保存状態に不備があり、設定温度で反応が進められたサンプル、チップBは、保存状態は良好であるが、反応温度に不備があったサンプル、チップCは保存状態、反応温度とも問題ないサンプルとして設定、調整されている。各チップA、B、Cの比較結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
インベーダー反応を開始する前に、チップA、B、Cの第1温度検知部44に設置された第1温度検知体43を目視にて観察したところ、チップAでは第1温度検知体43が変形しており、保存状態に不備があることが目視で容易に判定できた。一方、冷蔵保存されていたチップB及びチップCの第1温度検知体43には変化はなく、保存状態に問題がないことが判定できた。
【0046】
インベーダー反応後、チップA、B、Cの第2温度検知部42に設置された第2温度検知体41を目視にて観察したところ、チップA及びCでは第2温度検知体41が変形しており、設定温度以上の温度で反応が行われたことが目視で容易に判定できた。一方、59℃で加熱されたチップBの第2温度検知体41には変化はなく、反応温度に不備があることが判定できた。
【0047】
各チップA、B、Cを蛍光イメージアナライザー(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製 商品名「モレキュラーイメージャーFX466」)を用いて測定したところ、保存状態、反応温度共に問題のないチップCと比較して、いずれか一方に不備のあるチップA及びBはいずれも極端に蛍光値が低く、想定どおり反応効率が下がっていた。チップAにおいては、保存状態に不備があったため試薬の劣化によって反応効率が低下し、チップBにおいては、インベーダー反応時の温度調節に不備があったために反応効率が低下したものと推察された。
【0048】
本発明のバイオチップによれば、所定の温度を融点とする第1及び第2温度検知体が反応室と略同一形状の凹部に配置されて第1及び第2温度検知部が構成されているので、反応室内の試薬等にかかった熱がほぼ同様に各温度検知体に作用する。従って、反応室内の試薬がどのような温度環境下にあったかについて、目視で簡便に判定をすることができる。
【0049】
また、第1温度検知体として、製造や運搬時に試薬等への影響が懸念される温度を融点とする物質が選択され、第2温度検知体として、反応時の設定温度を融点とする物質が選択されているので、試験前の試薬等の状態と反応中の温度調節との2ポイントについて、監視することができる。従って、測定の品質をより向上させることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0051】
例えば、上述の実施形態においては、各反応室がそれぞれ独立している例を説明したが、これに代えて、図7に示す変形例のバイオチップ50のように、各反応室51が溝状の流路52で接続され、流路52は、試液貯留部53と接続されるように構成されてもよい。このようにすると、試液貯留部53に圧力を加えることによって、すべての反応室51に一括して試液を供給することができる。
【0052】
また、温度検知部を第1温度検知部の1種類のみ設ける場合は、反応時の設定温度、製造、輸送時の温度のいずれのインジケータとしても構わない。どちらを設けるかは、配置される試薬等の特性に応じて適宜決定することができる。
【0053】
さらに、上述の実施形態においては、反応室の大きさがすべて同一である例を説明したが、これに代えて、大きさの異なる複数の反応室が基板上に形成されてもよい。この場合、それぞれの反応室と同一の大きさの凹部を設けて温度検知体を配置すれば、それぞれの大きさの反応室に対応する温度検知部を構成することができる。
【0054】
加えて、上述の各実施例においては、PCR法又はインベーダー法に使用するバイオチップに適用される例を説明したが、本発明はこれには限定されない。本発明は、適切な温度管理を必要とする試薬等が反応室に配置されたあらゆるバイオチップに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態のバイオチップを示す平面図である。
【図2】(a)は同バイオチップの反応室、(b)は同バイオチップの第2試薬留置室、(c)は同バイオチップの第1温度検知部、(d)は同バイオチップの第2温度検知部をそれぞれ示す断面図である。
【図3】本発明の一実施例のバイオチップを示す平面図である。
【図4】(a)は同バイオチップの反応室、(b)は同バイオチップの第1温度検知部をそれぞれ示す断面図である。
【図5】同バイオチップの第1温度検知部内の第1温度検知体が変形した状態を示す図である。
【図6】同バイオチップの第1温度検知部内の第1温度検知体が変形しなかった状態を示す図である。
【図7】本発明のバイオチップの変形例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0056】
1、20、40、50 バイオチップ
2、21 基板
3、22、51 反応室
4、46 第1試薬(試薬)
8、28、44 第1温度検知部(温度検知部)
9、42 第2温度検知部
10、11、23、24 凹部
12、27、43 第1温度検知体(温度検知体)
13、41 第2温度検知体
15、32 蓋材
29 プライマー(試薬)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数の反応室を有するバイオチップであって、
前記複数の反応室のいずれかと同一の大きさの凹部に、所定の第1温度を融点とする温度検知体が配置された温度検知部を備え、
前記温度検知部内の前記温度検知体の形状又は色彩によって前記反応室が前記第1温度以上の環境下にあったかどうかを判定できることを特徴とするバイオチップ。
【請求項2】
前記複数の反応室のいずれかと同一の大きさの凹部に、前記第1温度と異なる第2温度を融点とする第2温度検知体が配置された第2温度検知部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項3】
前記複数の反応室の少なくとも1つに、試薬が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオチップ。
【請求項4】
前記試薬は、酵素又は核酸を含むことを特徴とする請求項3に記載のバイオチップ。
【請求項5】
前記複数の反応室の上面を覆う蓋材をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項6】
基板上に複数の反応室を有するバイオチップの前記反応室に加えられた温度を検知する温度検知方法であって
前記バイオチップに前記複数の反応室のいずれかと同一の大きさの凹部を形成する工程と、
前記凹部に所定の第1温度を融点とする温度検知体を配置する工程と、
を備えることを特徴とするバイオチップの温度検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−47643(P2009−47643A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216052(P2007−216052)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】