説明

バイオチップ用基板

【課題】プラスチック、セラミック、ガラス、シリコン、石英、金属等からなる基材上に2次元的なアレイ状に固定化されたバイオ分子等(プローブ)を配列するタイプのバイオチップの一部を構成するバイオチップ用基板の提供を目的とする。
【解決手段】基材上に設けられているアルミナまたはアルミニウムからなる被膜層の上に、ベーマイト処理されてなる親水性領域とそれ以外の疎水性領域とが二次元的なアレイ状に配列されていることを特徴とするバイオチップ用基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に2次元的なアレイ状にプローブを配列するタイプのバイオチップの一部を構成するバイオチップ用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の遺伝子工学分野における技術の急速に発展に伴い、数万個以上の塩基配列の解読などに用いられるバイオチップ技術が注目されている。
【0003】
バイオチップには種々のタイプのものがある。アレイ基板を用いたバイオチップもそのひとつである。その中に、親水性領域と疎水性領域が配置されているアレイ基板(バイオチップ基板)を有するバイオチップがあり、種々の改良をしたものがいろいろと提案されている。これらの提案に係るほとんどのものは、基材としてガラス基材を用いたものであり(例えば、特許文献1参照。)、それらの作製に当たっては高度な技術が必要であり、価格も高いものとなっている。
【0004】
このような状況の下、量産性が高く、かつ安価に提供が可能な、バイオチップ用基板の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−4076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような状況の下でなされたものであり、基材上に成膜された被膜層の表層に、この被膜層より塗れ性の高い親水性領域が部分的に形成されてなる、量産性に優れ、しかも安価に提供が可能なバイオチップ用基板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされ、請求項1に記載の発明は、基材上に設けられているアルミナまたはアルミニウムからなる被膜層の上に、ベーマイト処理されてなる親水性領域とそれ以外の疎水性領域とが二次元的なアレイ状に配列されていることを特徴とするバイオチップ用基板である。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のバイオチップ用基板において、前記被膜層の疎水性領域の上には、疎水性材料層が積層されていることを特徴とする。
【0009】
さらにまた、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のバイオチップ用基板において、前記親水性領域はドット状に整列されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバイオチップ用基板は、プラスチック、セラミック、ガラス、シリコン、石英、金属などからなるフィルムやシートなどの基材の上に設けられているアルミナまたはアルミニウムからなる成膜層上に、ベーマイト処理されてなる親水性領域とそれ以外の疎水性領域とが二次元的なアレイ状に配列された構造のものであるので、非常に容易に、しかも安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一例に係るバイオチップ用基板の概略の断面構成を示す説明図である。
【図2】本発明の他の例に係るバイオチップ用基板の概略の断面構成を示す説明図である。
【図3】図2に示すようなバイオチップ用基板の概略の平面状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のバイオチップ用基板は、その代表的な構成を示す図1ないし図3からも分かるように、基材1、21上に設けられているアルミナまたはアルミニウムからなる被膜層2、22の上に、ベーマイト処理されてなる親水性領域3、23とそれ以外の疎水性領域4、24が二次元的なアレイ状に配列されてなるものである。
【0013】
図2に示すバイオチップ用基板は、その疎水性領域24を覆うように疎水性材料層25がさらに設けられている点で異なっている。
【0014】
基材1、21としては、プラスチック、セラミック、ガラス、シリコン、石英、金属などの公知の材料からなるものを使用することができるが、成形性、コスト面からフィルム基材を使用することが好ましい。具体的には、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン−6、ナイロン−66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などのプラスチックからなるフィルム基材を挙げることができる。これらの中から、用途や要求物性などを考慮して適宜のものを選定して用いればよい。基材1、21の厚みは特に限定されるものではないが、6μmから200μm程度であればよい。
【0015】
このような基材1、21上に設けられている被膜層2、22は、その表面に、この層より濡れ性の高い親水性の領域を部分的に設けることが可能であって、成膜性に優れ、比較的安価なアルミナまたはアルミニウムからなる薄膜層であり、スパッタリング法などの薄膜形成手段により設けられてなる層である。
【0016】
このアルミナまたはアルミニウムからなる被膜層2、22の上には、ベーマイト処理されてなる親水性領域3、23とそれ以外の疎水性領域4、24とが2次元的なアレイ状に配列されている。図3に示すバイオチップ用基板においては、濡れ性の高い親水性領域23がこの被膜層上にドット状に配列して設けられている例が示してある。
【0017】
アルミナまたはアルミニウムからなる被膜層2、22の上に濡れ性の高い親水性領域3、23を形成する手段としては、ベーマイト処理が適用される。例えば、アルミナまたはアルミニウムからなる被膜層2、22の表面に部分的にベーマイト処理液を作用させることでベーマイト処理を施してその部分にベーマイトを生成させ、その領域における親水性を高くし、親水性領域3、23とすればよい。
【0018】
より具体的には、被膜層の親水性領域としたい領域以外の部分をマスクした後に、被膜層全体に渡ってベーマイト処理に係る処理液を塗布または滴下し、非マスク部分にベーマイト処理を施し、しかる後にマスクした部分を剥がすようにすればよい。
【0019】
この際に用いるベーマイト処理液としては、例えば、水の中にトリエタノールアミンやアンモニアを添加した処理液を用いればよく、これを70℃以上、好ましくは95℃以上の高温水または加圧水蒸気にして処理に供するようにすればよい。
【0020】
以上のようなベーマイト処理によって、アルミナまたはアルミニウムからなる被膜層2、22の上に親水性領域3、23が形成されることによって、その領域以外の疎水性領域4、24とで2次元的なアレイ状の配列がなされることになり、バイオチップ用基板を得ることができる。
【0021】
図1に示すバイオチップ用基板は、その疎水性領域4が、被膜層2のアルミナまたはアルミニウムの面が露出した部分となっているが、その部分の疎水性をより高めるために、ベーマイト領域(親水性領域)を成形した後に、そのベーマイト領域にマスキング処理を施した後に、フッ素系またはシリコン系などの撥水性の高い成分を含む疎水性材料からなる疎水性材料層25を非親水性領域に選択的に被覆させ、疎水性領域24を形成するようにしてもよい(図2、図3参照。)。
【0022】
このようにして形成された疎水性領域4、24の部分には、疎水性相互作用により固定化された分子等(プローブ)を選択的に保持させ、バイオチップとして所期の解析に供することができる。
【実施例1】
【0023】
まず、ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる厚みが12μmの基材の一方の面に、スパッタリング法にて厚みが25nmのアルミナ薄膜からなる被覆層を成膜した。次に、蒸留水中に0.3w%のトリエタノールアミンを含ませたベーマイト処理液を95℃まで加温し、その0.05mlずつを、前記工程で成膜された被膜層の表面に縦、横10mmの間隔を開けて設定した20箇所のポイントのそれぞれに滴下した。20秒経過後に被膜層上の敵下処理液を除去し、実施例1に係るバイオチップ用基板を得た。
【0024】
得られたバイオチップ用基板の、ベーマイト処理領域(親水性領域)と未処理領域(疎水性領域)に純水を滴下し、純水接触角を測定した。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0025】
ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる厚みが100μmの基材の一方の面に、スパッタリング法にて厚みが25nmのアルミナ薄膜からなる被膜層を成膜した。次に、蒸留水中に0.3w%のトリエタノールアミンを含ませたベーマイト処理液を95℃まで加温し、その0.05mlずつを、前記工程で成膜された被膜層の表面に縦、横10mmの間隔を開けて設定した20箇所のポイントのそれぞれに滴下した。20秒経過後に被膜層上の敵下処理液を除去し、実施例2に係るバイオチップ基板を得た。
【0026】
得られたバイオチップ基板の、ベーマイト処理領域(親水性領域)と未処理領域(疎水性領域)に純水を滴下し、純水接触角を測定した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0027】
まず、ポリエチレンナフタレートフィルムからなる厚みが100μmの基材の一方の面に、スパッタリング法にて厚みが25nmのアルミナ薄膜からなる被膜層を成膜した。次に、蒸留水中に0.3w%のトリエタノールアミンを含ませたベーマイト処理液を95℃まで加温し、その0.05mlずつを、前記工程で成膜された被膜層の表面に縦、横10mmの間隔を開けて設定した20箇所のポイントのそれぞれに滴下した。20秒経過後に被膜層上の処理液を除去し、実施例3に係るバイオチップを得た。
【0028】
得られたバイオチップ基板の、ベーマイト処理領域(親水性領域)と未処理領域(疎水性領域)に純水を滴下し、純水接触角を測定した。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0029】
まず、ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる厚み100μmの基材の一方の面に、スパッタリング法にて厚みが25nmのアルミナ薄膜からなる被膜層を成膜した。次に、蒸留水中に0.3w%のトリエタノールアミンを含ませたベーマイト処理液を95℃まで加温し、その0.05mlずつを、前記工程で成膜された被膜層の表面に縦、横10mmの間隔を開けて設定した20箇所のポイントのそれぞれに滴下した。そして、20秒経過後に被膜層上のベーマイト処理液を除去した。続いて、ベーマイト処理がされていない被膜層の部分に0.5w%のパーフルオロアルキルシランを含む混合液を選択的に塗布し、疎水性領域を設け、実施例4に係るバイオチップ基板を得た。
【0030】
そして、得られたバイオチップ基板の、ベーマイト処理領域(親水性領域)と未処理領域(疎水性領域)に純水を滴下し、純水接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【符号の説明】
【0032】
1、21・・・基材
2、22・・・被覆層
3、23・・・親水性領域
4、24・・・疎水性領域
25・・・疎水性材料層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられているアルミナまたはアルミニウムからなる被膜層の上に、ベーマイト処理されてなる親水性領域とそれ以外の疎水性領域とが二次元的なアレイ状に配列されていることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項2】
前記被膜層の疎水性領域の上には、疎水性材料層が積層されていることを特徴とする請求項1記載のバイオチップ用基板。
【請求項3】
前記親水性領域はドット状に整列して設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のバイオチップ用基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−97894(P2011−97894A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255974(P2009−255974)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】