説明

バイオチップ

吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合が抑制され、検出感度に優れたバイオチップを提供する。バイオチップ用基板の基板表面にホスホリルコリン基および活性エステル基を含む高分子物質を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の生理活性物質の検出または分析に用いられるバイオチップに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子活性の評価や疾患プロセス、薬物効果の生物学的プロセスを含む生物学的プロセスを解読するための試みは、伝統的に、ゲノミクスに焦点が当てられてきたが、プロテオミクスは、細胞の生物学的機能についてより詳細な情報を提供する。プロテオミクスは、遺伝子レベルというよりもむしろ、タンパク質レベルでの発現を検出しそして定量することによる、遺伝子活性の定性的かつ定量的な測定を含む。また、タンパク質の翻訳後修飾、タンパク質間の相互作用など遺伝子にコードされない事象の研究を含む。
【0003】
膨大なゲノム情報の入手が可能となった今日、プロテオミクス研究はますます迅速高効率(ハイスループット)化が求められている。この目的の分子アレイとしてDNAチップが実用化されてきた。一方、生体機能において最も複雑で多様性の高いタンパク質の検出に関しては、プロテインチップが提唱され、最近研究が進められている。プロテインチップとは、タンパク質、またはそれを捕捉する分子をチップ(微小な基板)表面に固定化したものを総称する。
【0004】
しかし、現状のプロテインチップは一般にDNAチップの延長線上に位置付けられて開発がなされている為、ガラス基板上にタンパク質、またはそれを捕捉する分子をチップ表面に固定化する検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
プロテインチップのシグナル検出において、プロテインチップ基板への検出対象物質の非特異的な吸着は信号対雑音比を低下させる原因となり、検出精度を低下させる(たとえば、非特許文献1参照)。
【0006】
このため、通常のサンドイッチ法では、一次抗体を固定化した後に二次抗体の非特異的吸着を防止するため、吸着防止剤のコーティングが行われているが、これらの非特異的吸着防止能は十分でない。また一次抗体を固定化した後に吸着防止剤をコーティングするため固定化したタンパク質の上にコーティングされてしまい、二次抗体と反応できないという問題があった。このため、一次抗体の固定化後、吸着防止剤をコーティングすることなく、生理活性物質の非特異的吸着量の少ないバイオチップが求められている。非特異的吸着の原因としては種々あるが基材とタンパクとの疎水性相互作用、水素結合などが考えられている。そのため、バイオチップ基板の表面は親水性であり、かつ水素結合基を持たないことが求められている。
【0007】
また、プロテインチップ基板への検出対象物質の非特異的吸着を除去するために界面活性剤による洗浄過程が多数組み込まれているが、界面活性剤によりコーティング膜がはがれてしまうという問題もあり、界面活性剤による洗浄でもコーティング膜が剥がれないプロテインチップが求められている。
【0008】
また、マイクロアレイ状のチップを用いて試料検体の情報を得る技術は、生物学、医学において欠くことのできない技術になりつつある。たとえば、DNAマイクロアレイでは、複雑な生物系においてもゲノム全体の発現パターンの研究が可能となり、遺伝子情報量の爆発的な増加がもたらされている。
【0009】
マイクロアレイのシグナル検出において、マイクロアレイ用基板のバックグランドはS/N比を低下させる原因となり、検出精度を低下させる(たとえば、非特許文献1など)。S/N比とは、ラベル化された試料検体から得られたシグナル量(シグナル)をラベル化された試料検体から得られたシグナル物質以外の部位から発生したシグナル量(ノイズ)で除した値のことをいい、S/N比が高いと検出感度が高くなる。
【0010】
マイクロアレイ上の物質を検出する手段として蛍光物質を用いる場合、マイクロアレイ基板の自己蛍光量がバックグランドとなり、基板の自己蛍光が高いと、S/N比が低下する問題がある。また、蛍光物質の基板への付着によりバックグランドにムラが生じた場合、その基板から得られたデータの再現性または信頼性に支障をきたす原因となりうる。
【0011】
マイクロアレイ用基板として用いられる素材は、ガラスもしくはプラスチック製であることが多いが、通常これらの材料表面は化学的に不活性であることから、生理活性物質を固定化するためには表面修飾を施す必要がある。ガラスやプラスチックなどの不活性な表面に様々な官能基を直接導入することは困難であるため、まずアミノ基を導入しておき、そのアミノ基を介して官能基を導入する方法が一般的である。
【0012】
基板表面へのアミノ基の導入方法として、アミノアルキルシランによる処理、窒素雰囲気下でのプラズマ処理、アミノ基含有高分子物質のコーティングなどが挙げられるが、処理の簡便性、均一性、再現性の観点から、アミノアルキルシランによる処理が多用されている。一般的に用いられているアミノアルキルシランとしては、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルメチルジメトキシシランなどの1級アミノ基を有するアミノアルキルシランが挙げられる。
【0013】
アミノ基を介して官能基を導入する方法として、たとえば、2官能性アルデヒドを有するグルタルアルデヒドで処理することにより、基板にアルデヒド基を導入することが知られている(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。マレイミド基を導入する場合は、一端にマレイミド基、一端に活性エステルを有する架橋剤であるN−(6−マレイミドカプロイロキシ)スクシンイミドなどで処理することができる(特許文献5)。また、同様にN−ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを導入する場合には、両端に活性エステル基を有するEthyleneglycol−O,O−bis(succinimidylsuccinate)などを用いる。
【0014】
ところが、基板に上記のような表面処理を施した場合、基板の自己蛍光量が増大し、この基板の自己蛍光の上昇がS/N比の低下の原因となっていた。また、蛍光物質の基板への付着が起こることによりバックグランドが高くなり、S/N比の低下の原因となる問題もあった。そのため、表面処理により自己蛍光量が増大せず、かつ蛍光物質の付着のないマイクロアレイ用基板が求められていた。
【0015】
また、マイクロアレイ研究の一方で、反応の高効率化および微少サンプル化を目指し、マイクロフルイディクスと呼ばれる、微細流路を用いる技術が開発されている。たとえば、微細流路内で抗原抗体反応を起こさせる免疫分析などが挙げられる(特許文献6)。DNA分析においてもマイクロ流路を用いた手法が検討されている(特許文献7)。
【0016】
ところが、微細流路を用いた生理的活性物の従来の分析においては、流路へ生理活性物質が付着してしまい、検出感度の低下をまねくことがあった。このため、流路への生理活性物質の付着を防止する技術が求められている。また、DNAのハイブリダイゼーションや抗原抗体反応等においては、より短時間かつ少量で反応が起こる系が切望されている。
【特許文献1】特開2001−116750号公報
【非特許文献1】「DNAマイクロアレイ実戦マニュアル」、林崎良英、岡崎康司編、羊土社、2000年、p.57
【特許文献2】特開2002−176991号公報
【特許文献3】特開2002−181817号公報
【特許文献4】特表2002−532699号公報
【特許文献5】特開平11−187900号公報
【特許文献6】特開2001−004628号公報
【特許文献7】特開2004−053417号公報
【発明の開示】
【0017】
【0018】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合が抑制され、検出感度に優れたバイオチップを提供する。
【0019】
本発明によれば、基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と活性エステル基を有する第二単位とを含む高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0020】
本発明のバイオチップ用基板は、ホスホリルコリン基を有するため、基板上への生理活性物質の非特異的吸着を抑制することができる。また、活性エステル基を有するため、生理活性物質を捕捉する捕捉物質を高分子物質中に安定的に導入することができる。このため、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制し、検出感度を向上させることができる。本発明のバイオチップ用基板は、たとえば基板の表面に生理活性物質を捕捉する捕捉物質が固定化されるバイオチップに用いる基板とすることができる。
【0021】
本発明のバイオチップ用基板において、前記高分子物質がブチルメタクリレート基を有する第三単位を含み、前記高分子物質に含まれる前記ホスホリルコリン基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、3モル%以上40モル%以下であってもよい。また、本発明のバイオチップ用基板において、前記高分子物質がブチルメタクリレート基を有する第三単位を含み、前記高分子物質に含まれる前記ホスホリルコリン基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、20モル%以上40モル%未満であってもよい。
【0022】
本発明のバイオチップ用基板において、前記高分子物質がブチルメタクリレート基を有する第三単位を含み、前記高分子物質に含まれる前記活性エステル基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、1モル%以上25モル%以下であってもよい。また、本発明のバイオチップ用基板において、前記高分子物質がブチルメタクリレート基を有する第三単位を含み、前記高分子物質に含まれる前記活性エステル基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、15モル%以上25モル%未満であってもよい。
【0023】
本発明によれば、基板の表面に、下記(a)、(b)成分を含む高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
(a)ホスホリルコリン基を有する第一単位と活性エステル基を有する第二単位とを含む高分子
(b)ホスホリルコリン基を有する第一単位とブチルメタクリレート基を有する第三単位とを含む高分子
【0024】
本発明のバイオチップ用基板は、上記(a)、(b)成分を含む高分子物質を有するため、基板上への生理活性物質の非特異的吸着をさらに確実に抑制することができる。なお、(a)成分の第一単位と(b)成分の第一単位とは同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。また、(a)成分と(b)成分とが混合されていてもよい。
【0025】
本発明のバイオチップ用基板において、前記高分子物質に含まれるホスホリルコリン基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、3モル%以上40モル%以下であってもよい。また、本発明のバイオチップ用基板において、前記高分子物質に含まれるホスホリルコリン基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、20モル%以上40モル%未満であってもよい。なお、本明細書において、高分子物質が上記(a)、(b)成分を含む構成では、ホスホリルコリン基の割合は、(a)成分と(b)成分に含まれるホスホリルコリン基の合計を指す。
【0026】
本発明のバイオチップ用基板において、前記高分子物質に含まれる前記活性エステル基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、1モル%以上25モル%以下であってもよい。また、本発明のバイオチップ用基板において、前記高分子物質に含まれる前記活性エステル基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、15モル%以上25モル%未満であってもよい。
【0027】
本発明によれば、基板の表面に、
アミノ基を有する化合物を含む第一の層と、
ホスホリルコリン基を含む第一単位と活性エステル基を含む第二単位とを有する高分子物質を含む第二の層と、
が、
前記基板、前記第一の層、および前記第二の層の順で積層されていることを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0028】
本発明においては、基板、第一の層および第二の層がこの順で積層されているため、バイオチップ用基板の表面に吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制し、検出感度を向上させることができる。また、界面活性剤等による洗浄による層の剥離を抑制することができる。なお、第一の層または第二の層は、膜状に形成することができる。
【0029】
本発明のバイオチップ用基板において、
前記第一の層の前記アミノ基と、前記第二の層の前記活性エステル基とが反応して共有結合、具体的にはアミド結合が形成された構成とすることができる。
【0030】
本発明のバイオチップ用基板において、前記第一の層が前記アミノ基を有するシランカップリング剤を含んでもよい。アミノ基を有するシランカップリング剤は、ポリオルガノシロキサン等のオルガノシロキサンの形態で存在していてもよい。
【0031】
本発明のバイオチップ用基板において、ホスホリルコリン基を含む前記第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有する構成とすることができる。
【0032】
本発明のバイオチップ用基板において、前記高分子物質は、ブチルメタクリレート基を含む第三単位を有する構成とすることができる。また、本発明において、前記高分子物質は共重合体とすることができる。この構成において、前記高分子物質は、前記ホスホリルコリン基を有する単量体と、前記活性エステル基を有する単量体と、前記ブチルメタクリレート基を有する単量体と、の共重合体とすることができる。
【0033】
本発明によれば、基板上に第一の層が形成され、
さらに第一の層上に第二の層が形成され、
前記第一の層は、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも一つの基を有する化合物から形成され、
前記第二の層は、ホスホリルコリン基を有する単量体の重合体と、活性エステル基を有する単量体と、の共重合体から形成されていることを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0034】
また、本発明によれば、基板と、
前記基板上に設けられ、オルガノシロキサンからなる第一の層と、
第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を有する単量体と、活性エステル基を有する単量体との共重合体からなる第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0035】
この構成によれば、基板上にホスホリルコリン基と活性エステル基とを含む共重合体から形成された層を有するため、バイオチップ用基板の表面に吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制し、検出感度を向上させることができる。また、かつ界面活性剤等による洗浄による層の剥離を抑制することができる。この構成において、前記基板の表面に前記第一の層が設けられ、前記第一の層の表面に前記第二の層が設けられた構成とすることができる。
【0036】
また、前記オルガノシロキサンは、重合性二重結合を含む基を有する化合物とすることができる。重合性二重結合を有する基がアルケニル基を構成していてもよい。また、重合性二重結合を有する基の少なくとも一部がアクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基を構成していてもよい。
【0037】
本発明のバイオチップ用基板において、前記化合物の、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基が、前記第二の層の前記共重合体と共有結合を形成していてもよい。
【0038】
本発明のバイオチップ用基板において、前記第一の層が、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤により形成されていてもよい。また、シランカップリング剤は、オルガノシロキサンを形成していてもよい。
【0039】
本発明のバイオチップ用基板において、ホスホリルコリン基を有する前記単量体が、メタクリル基またはアクリル基を有する構成とすることができる。また、本発明のバイオチップ用基板において、ホスホリルコリン基を有する前記単量体が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンであってもよい。
【0040】
本発明のバイオチップ用基板において、活性エステル基を有する前記単量体が、メタクリル基またはアクリル基を有する構成とすることができる。また、本発明のバイオチップ用基板において、前記活性エステル基がp−ニトロフェニル基またはN−ヒドロキシスクシンイミド基を含むことができる。
【0041】
本発明のバイオチップ用基板において、前記基板の材料がプラスチックであってもよい。また、本発明のバイオチップ用基板において、前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンであってもよい。また、本発明のバイオチップ用基板において、前記基板の材料がガラスであってもよい。
【0042】
本発明によれば、基板の表面に、ホスホリルコリン基を含む第一単位と下記式(1)に示される一価の基を含む第二単位とを有する高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0043】

【0044】
(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
【0045】
また、本発明によれば、基板の表面に、下記(a)、(b)成分を含む高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
(a)ホスホリルコリン基を有する第一単位と上記式(1)で示される一価の基を有する第二単位とを含む高分子
(b)ホスホリルコリン基を有する第一単位とブチルメタクリレート基を有する第三単位とを含む高分子
【0046】
また、本発明によれば、
基板と、
前記基板上に設けられ、アミノ基を有する化合物を含む第一の層と、
前記第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を有する第一単位と上記式(1)で示される一価の基を有する第二単位とを含む高分子物質を含む第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0047】
また、本発明によれば、基板と、
前記基板上に設けられ、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基を有する化合物から形成された第一の層と、
前記第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を有する単量体の重合体と、上記式(1)で示される一価の基を有する単量体と、の共重合体から形成された第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0048】
こうした構成によれば、上記式(1)に示したように、第二単位にカルボニル基を介して脱離基Aが存在するため、高分子物質中に生理活性物質を捕捉する捕捉物質をさらに確実に化学的に導入することができる。
【0049】
本発明のバイオチップ用基板において、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であってもよい。こうすることにより、脱離基Aをさらに確実に活性化し、反応性をさらに向上させることができる。なお、下記式(p)または式(q)は、それぞれ、Nを含む環状化合物のNからHが抜けた構成やCを含む環状化合物のCからHが抜けた構成とすることもできる。
【0050】

【0051】
(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【0052】
本発明によれば、基板の表面に、ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0053】
また、本発明によれば、基板の表面に、下記(a)、(b)成分を含む高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
(a)ホスホリルコリン基を有する第一単位とカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子
(b)ホスホリルコリン基を有する第一単位とブチルメタクリレート基を有する第三単位とを含む高分子
【0054】
また、本発明によれば、基板と、
前記基板上に設けられ、アミノ基を有する化合物を含む第一の層と、
前記第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質を含む第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0055】
また、本発明によれば、基板と、
前記基板上に設けられ、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基を有する化合物から形成された第一の層と、
前記第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を有する単量体と、カルボン酸誘導基を有する単量体と、の共重合体から形成された第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板が提供される。
【0056】
本発明によれば、前記バイオチップ用基板の前記基板の表面に生理活性物質を捕捉する捕捉物質を固定化し、蛍光色素を用いて前記生理活性物質を検出するためのマイクロアレイ用基板であって、前記基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と活性エステル基を有する第二単位とを含む前記高分子物質を有することを特徴とするマイクロアレイ用基板が提供される。本発明のマイクロアレイ用基板は、生理活性物質の非特異的吸着を抑制しつつ、捕捉物質と活性エステル基とを反応させて共有結合を形成させることができるため、生理活性物質の検出を確実に行うことができる。
【0057】
本発明によれば、前記バイオチップ用基板に、生理活性物質を捕捉する捕捉物質が固定化されたことを特徴とするバイオチップが提供される。なお、捕捉物質は生理活性を有することができる。また、生理活性物質を有する分子とすることができる。この分子は単独で生理活性物質を捕捉することもできるし、複数の分子で生理活性物質を捕捉することもできる。また、本発明において、捕捉物質が高分子物質に共有結合している構成とすることができる。
【0058】
本発明によれば、ホスホリルコリン基を含む第一単位と活性エステル基を含む第二単位とを有する高分子物質を表面に有する基板を含むバイオチップであって、
前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップが提供される。
【0059】
本発明によれば、活性エステル基の作用により捕捉物質が高分子物質に化学的に固定化されているとともに、基板上への生理活性物質の非特異的吸着がホスホリルコリン基の作用により抑制されるので、生理活性物質の分析を確実に行うことができる。なお、捕捉物質とが反応して、共有結合を形成している構成として、捕捉物質と活性エステル基のある所定の部位とが反応して共有結合している場合も含まれる。また、本発明において、前記基板の表面に前記高分子物質が層状に形成されていてもよい。また、前記基板の表面を前記高分子物質が被覆していてもよい。こうすれば、さらに確実に非特異的吸着を抑制することができる。また、固定化に用いる活性エステル基を基板表面にさらに確実に導入できる。
【0060】
本発明によれば、基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と、活性エステル基を有する第二単位を複数と、を含む高分子物質を有するバイオチップであって、
一部の前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して共有結合を形成しており、
残りの前記活性エステル基と親水基を有する親水性ポリマーとが反応して共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップが提供される。
【0061】
本発明においては、高分子物質中に、たとえば一種類の活性エステル基が2個以上含まれ、補足物質と共有結合を形成した活性エステル基以外の、残りの活性エステル基と親水性ポリマーとが反応して共有結合を形成している。このため、生理活性物質と活性エステル基との反応が抑制され、また、高分子物質が親水化されている。よって、生理活性物質の非特異的吸着がより一層抑制された構成となっている。
【0062】
本発明のバイオチップにおいて、前記親水性ポリマーがアミノ基を有する構成とすることができる。こうすれば、親水性ポリマーを活性エステルとさらに確実に反応させて、アミド結合を形成させることができる。
【0063】
本発明のバイオチップにおいて、前記親水性ポリマーは、ポリアルキレンオキシドまたは複数種類の前記ポリアルキレンオキシドを構造中に含むことができる。また、前記親水性ポリマーが、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体、およびこれらの少なくとも一つと他のポリアルキレンオキシドとの共重合体のいずれかを構造中に含むことができる。
【0064】
本発明のバイオチップにおいて、前記基板の材料がプラスチックであってもよい。また、本発明のバイオチップにおいて、前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンであってもよい。
【0065】
本発明によれば、基板と、前記基板に設けられた流路と、を有し、
前記流路の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と活性エステル基を有する第二単位とを含む高分子物質を有し、
前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップが提供される。
【0066】
本発明のバイオチップにおいては、基板に流路が設けられているため、捕捉物質がさらに充分に固定化された構成となっている。また、生理活性物質をさらに確実に捕捉物質と相互作用させることができる構成となっている。このため、流路中に試験液を流動させて、捕捉物質に捕捉された試験液中の生理活性物質の検出または定量に好適に用いることができる。また、試験液中に含まれる成分の特定に用いることもできる。なお、この構成において、流路が基板の表面に溝状に設けられていてもよい。
【0067】
本発明のバイオチップにおいて、複数の前記活性エステル基を有し、前記複数の活性エステル基は、前記捕捉物質と反応して共有結合を形成しているか、または不活化されていてもよい。なお、活性エステル基が不活性化されているとは、活性エステル基を構成する一部の基(脱離基)が他の基に置換されて、高い反応活性を喪失していることをいう。
【0068】
本発明のバイオチップにおいて、前記流路を覆う保護部材を有していてもよい。また、保護部材が板状部材であってもよい。このとき、基板と板状の保護部材とが接合され、接合面に流路が形成された構成とすることもできる。
【0069】
本発明のバイオチップにおいて、前記基板または保護部材の材料がプラスチックであってもよい。また、本発明のバイオチップにおいて、前記基板の材料が、検出光に対して透明なプラスチックであってもよい。また、本発明において、前記基板と前記保護部材の少なくとも一方の材料が、検出光に対して透明なプラスチックであってもよい。
【0070】
本発明のバイオチップにおいて、さらに前記捕捉物質に前記生理活性物質が捕捉された構成とすることができる。
【0071】
本発明のバイオチップにおいて、ホスホリルコリン基を含む前記第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有することができる。
【0072】
本発明のバイオチップにおいて、前記活性エステル基がp−ニトロフェニル基またはN−ヒドロキシスクシンイミド基を有することができる。
【0073】
本発明のバイオチップにおいて、前記高分子物質は、ブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することができる。この構成において、前記高分子物質は、前記ホスホリルコリン基を有する単量体と、前記活性エステル基を有する単量体と、前記ブチルメタクリレート基を有する単量体と、の共重合体とすることができる。
【0074】
本発明のバイオチップにおいて、前記基板の材料がガラスであってもよい。
【0075】
本発明のバイオチップにおいて、前記捕捉物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であってもよい。また、本発明のバイオチップにおいて、前記生理活性物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であってもよい。
【0076】
本発明のバイオチップにおいて、生理活性物質を捕捉する捕捉物質が、中性またはアルカリ性の条件で前記基板の表面に固定化されてなる構成とすることができる。前記中性またはアルカリ性の条件は、pH7.6以上の条件とすることができる。
【0077】
本発明によれば、ホスホリルコリン基を含む第一単位と下記式(1)に示される一価の基を含む第二単位とを有する高分子物質を表面に有する基板を含むバイオチップであって、
前記下記式(1)に示される一価の基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップが提供される。
【0078】

【0079】
(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
【0080】
また、本発明によれば、基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と、上記式(1)で示される一価の基を有する第二単位を複数と、を含む高分子物質を有するバイオチップであって、
一部の前記式(1)で示される一価の基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して共有結合を形成しており、
残りの前記式(1)で示される一価の基と親水基を有する親水性ポリマーとが反応して共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップが提供される。
【0081】
また、本発明によれば、基板と、前記基板に設けられた流路と、を有し、
前記流路の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と上記式(1)に示される一価の基を有する第二単位とを含む高分子物質を有し、
前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップが提供される。
【0082】
本発明のバイオチップにおいて、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であってもよい。
【0083】

【0084】
(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【0085】
本発明によれば、ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質を表面に有する基板を含むバイオチップであって、前記カルボン酸誘導基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップが提供される。
【0086】
また、本発明によれば、基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位とカルボン酸誘導基を有する第二単位を複数とを含む高分子物質を有するバイオチップであって、
一部の前記カルボン酸誘導基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して共有結合を形成しており、
残りの前記カルボン酸誘導基と親水基を有する親水性ポリマーとが反応して共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップが提供される。
【0087】
また、本発明によれば、基板と、前記基板に設けられた流路と、を有し、
前記流路の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位とカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有し、
前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップが提供される。
【0088】
本発明によれば、前記マイクロアレイ用基板に、
核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の前記捕捉物質が固定化されたことを特徴とするマイクロアレイが提供される。
【0089】
本発明によれば、マイクロアレイ用基板の自己蛍光を低減し、かつ蛍光物質の吸着を低減することにより、マイクロアレイの検体のシグナルを精密に検出することができる。
【0090】
本発明によれば、前記バイオチップ用基板の製造方法であって、
(1)前記基板の前記表面とアミノ基を有する前記化合物との接触工程、および
(2)前記アミノ基を有する化合物と前記高分子物質との接触工程、
を含むことを特徴とするバイオチップ用基板の製造方法が提供される。
【0091】
また、本発明によれば、前記バイオチップ用基板の製造方法であって、
前記基板上に、前記第一の層を形成した後、
前記第一の層上で、ホスホリルコリン基を有する前記単量体と活性エステル基を有する前記単量体とを共重合することにより前記第二の層を形成することを特徴とするバイオチップ用基板の製造方法が提供される。
【0092】
本発明によれば、前記バイオチップ用基板の使用方法であって、
(1)生理活性物質を捕捉する捕捉物質を中性またはアルカリ性の条件で前記基板上に固定化するステップ、および
(2)前記マイクロチップ用基板の表面に、検出される生理活性物質を含む前記条件以下のpHの液体を接触させて、前記捕捉物質に前記生理活性物質を捕捉させるステップ、
を含むことを特徴とするバイオチップ用基板の使用方法が提供される。
【0093】
本発明のバイオチップ用基板の使用方法によれば、吸着防止剤をコーティングすることなく、生理活性物質の溶液のpHを制御することにより、検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制し、検出感度の高いマイクロチップを得ることができる。この構成において、液体は、生理活性物質を含む溶液とすることができる。また、上記(1)における条件は、たとえばpH7.6とすることができる。
【0094】
本発明のバイオチップ用基板の使用方法において、前記捕捉物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であってもよい。
【0095】
また、本発明のバイオチップ用基板の使用方法において、検出される前記生理活性物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であってもよい。
【0096】
本発明によれば、前記バイオチップ用基板を用いたバイオチップの製造方法であって、
前記バイオチップ用基板は、複数の前記活性エステル基を有し、
一部の前記活性エステル基と前記捕捉物質とを反応させて、前記捕捉物質を固定化する工程と、
捕捉物質を固定化する工程の後、残りの前記活性エステル基を不活性化する工程と、
を有することを特徴とするバイオチップの製造方法が提供される。
【0097】
本発明のバイオチップの製造方法において、残りの活性エステル基を不活性化する前記工程を、アルカリ化合物を用いて行うことができる。
【0098】
また、本発明のバイオチップの製造方法において、残りの活性エステル基を不活性化する前記工程を、1級のアミノ基を有する化合物を用いて行うことができる。また、本発明のバイオチップの製造方法において、1級のアミノ基を有する前記化合物が、アミノエタノールまたはグリシンであってもよい。
【0099】
本発明のバイオチップの製造方法において、前記捕捉物質が、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であってもよい。また、この構成において、捕捉物質を固定化する前記工程は、前記生理活性物質を含むpH7.6以下の溶液を前記基板の前記表面に接触させる工程を含んでもよい。
【0100】
本発明によれば、本発明のバイオチップの製造方法であって、前記捕捉物質を含む酸性または中性の液体を前記基板の前記表面に接触させる工程を含むことを特徴とするバイオチップの製造方法が提供される。本発明において、酸性または中性の前記液体のpHが7.6以下あってもよい。
【0101】
本発明によれば、前記バイオチップの製造方法であって、
前記バイオチップ用基板の一部の前記活性エステル基と前記捕捉物質とを反応させて、共有結合を形成させて、前記捕捉物質を固定化する工程と、
捕捉物質を固定化する前記工程の後、残りの前記活性エステル基と前記親水性ポリマーとを反応させて、共有結合させる工程と、
を含むことを特徴とするバイオチップの製造方法が提供される。
【0102】
本発明によれば、前記バイオチップの製造方法により製造されたことを特徴とするバイオチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0103】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0104】
【図1】実施の形態に係るバイオチップの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0105】
(第1の実施形態)
本実施形態は、基板(固相基板)上に生理活性物質を捕捉する捕捉物質が固定化されバイオチップ用基板に関する。このバイオチップ用基板は、基板の表面に高分子物質を有する。高分子物質は、ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する。以下、バイオチップ用基板の構成部材について説明する。
【0106】
(高分子物質)
ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質は、生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質と生理活性物質を固定化する性質とを併せ持つポリマーである。第一単位に含まれるホスホリルコリン基は生理活性物質の非特異的吸着を抑制する役割を果たし、第二単位に含まれるカルボン酸誘導基は捕捉分子を化学的に固定化する役割を果たす。
【0107】
第一の単位は、たとえば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン基等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン基;
2−メタクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン基および10−メタクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン基等の(メタ)アクリロイルオキシアルコキシアルキルホスホリルコリン基;
アリルホスホリルコリン基、ブテニルホスホリルコリン基、ヘキセニルホスホリルコリン基、オクテニルホスホリルコリン基、およびデセニルホスホリルコリン基等のアルケニルホスホリルコリン基;
等の基を有し、ホスホリルコリン基がこれらの基中に含まれている構成とすることができる。
【0108】
また、これらの基のうち、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを有する構成とすることにより、基板表面における非特異的吸着をより一層確実に抑制することができる。
【0109】
活性化されたカルボン酸誘導体は、カルボン酸のカルボキシル基が活性化されたものであり、C=Oを介して脱離基を有するカルボン酸である。活性化されたカルボン酸誘導体としては、たとえば、カルボン酸であるアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基が、酸無水物、酸ハロゲン化物、活性エステル、活性化アミドに変換された化合物が挙げられる。カルボン酸誘導基は、こうした化合物に由来する活性化された基であり、たとえば、p−ニトロフェニル基やN−ヒドロキシスクシンイミド基等の活性エステル基;
−Cl、−F等のハロゲン;
等の基を有することができる。
【0110】
また、カルボン酸誘導基は、下記式(1)に示される基とすることができる。
【0111】

(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く脱離基である。)
【0112】
上記式(1)に示される一価の基は、たとえば下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基とすることができる。
【0113】

【0114】
(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【0115】
上記式(p)に示される基として、たとえば下記式(r)、(s)、および(w)に示される基が挙げられる。また、上記式(q)に示される基として、たとえば下記式(u)、(v)に示される基が挙げられる。
【0116】
上記式(1)に示される基は、たとえば下記式(r)、式(s)等に示される酸無水物由来の基;
下記式(t)に示される酸ハロゲン化物由来の基;
下記式(u)、式(w)に示される活性エステル由来の基;または
下記式(v)に示される活性化アミド由来の基とすることができる。

【0117】
カルボン酸誘導基のうち、活性エステル基は、穏やかな条件における反応性に優れるため、好ましく用いられる。穏やかな条件としては、たとえば中性またはアルカリ性の条件、具体的にはpH7.0以上10.0以下、さらに具体的にはpH7.6以上9.0以下、さらにまた具体的にはpH8.0とすることができる。
【0118】
なお、本明細書において規定するところの「活性エステル基」は、その定義について厳密な規定はなされていないが、慣用の技術表現としては、エステル基のアルコール側に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応を活性化するエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味するものとして、各種の化学合成、たとえば高分子化学、ペプチド合成等の分野で慣用されているものである。実際的には、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N−ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。
【0119】
本実施形態および以下の実施形態では、高分子物質中の活性化カルボン酸誘導体基が活性エステル基である場合を例に、説明する。活性エステル基としては、たとえばp−ニトロフェニル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基、コハク酸イミド基、フタル酸イミド基、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド基等が挙げられるが、たとえばp−ニトロフェニル基が好ましく用いられる。
【0120】
基板の表面に捕捉物質が固定化されるバイオチップ用基板の場合、第一単位と第二単位のさらに具体的な構成の組み合わせとして、たとえば、ホスホリルコリン基を含む第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有し、活性エステル基がp−ニトロフェニル基である構成とすることができる。
【0121】
また、本発明に使用する高分子物質は、ホスホリルコリン基およびカルボン酸誘導基以外に他の基を含んでもよい。また、高分子物質は共重合体とすることができる。具体的には、高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体であることが好ましい。こうすることにより、高分子物質を適度に疎水化し、基板表面への吸着性をさらに好適に確保することができる。
【0122】
具体的には、高分子物質を、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)基を有する第一単量体と、p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート(NPMA)基を有する第二単量体と、ブチルメタリレート(BMA)基を有する第三単量体との共重合体とすることができる。これらの共重合体であるpoly(MPC−co−BMA−co−NPMA)(PMBN)は、模式的に下記一般式(2)で示される。
【0123】

【0124】
ただし、上記一般式(2)において、a、b、およびcは、それぞれ独立して、正の整数である。また、上記一般式(2)において、第一〜第三単量体がブロック共重合していてもよいし、これらの単量体がランダムに共重合していてもよい。
【0125】
上記一般式(2)で示される共重合体は、高分子物質の適度な疎水化と、非特異吸着を抑制する性質と、捕捉物質固定化する性質とのバランスにより一層優れた構成である。このため、これを用いることにより、基板表面をより一層確実に高分子物質で被覆するとともに、高分子物質が設けられた基板上への非特異的吸着を抑制しつつ、捕捉物質をさらに確実に共有結合により固定化して基板上に導入することができる。
【0126】
なお、上記一般式(2)で示される共重合体は、MPC、BMA、およびNPMAの各単量体を混合し、ラジカル重合等の公知の重合方法により得ることができる。上記一般式(2)で示される共重合体をラジカル重合により作製する場合、たとえば、Ar等の不活性ガス雰囲気にて、30℃以上90℃以下の温度条件で溶液重合を行うことができる。
【0127】
溶液重合に使用される溶媒は適宜選択されるが、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールや、ジエチルエーテル等のエーテル、クロロホルム等の有機溶媒を単独でまたは複数混合して用いることができる。具体的には、ジエチルエーテルとクロロホルムを体積比で8対2とした混合溶媒とすることができる。
【0128】
また、ラジカル重合反応に使用されるラジカル重合開始剤としては、通常使用されるものを用いることができる。たとえば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスバレロニトリル等のアゾ系開始剤;
過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、t−ブチルペルオキシピバレート等の油溶性の有機過酸化物;
などが用いられる。
【0129】
さらに具体的には、ジエチルエーテルとクロロホルムを体積比で8対2とした混合溶媒およびAIBNを用い、Ar中、60℃にて2〜6時間程度重合を行うことができる。
【0130】
(基板の素材)
本実施形態において、バイオチップ用基板として使用される基板の素材は、たとえばガラス、プラスチック、金属その他とすることができる。このうち、表面処理の容易性および量産性の観点から、プラスチックが好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0131】
熱可塑性樹脂としては、蛍光発生量の少ないものを用いることができる。蛍光発生量の少ない樹脂を用いることにより、生理活性物質の検出反応におけるバックグランドを低下させることができるため、検出感度をさらに向上させることができる。蛍光発生量の少ない熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の直鎖状ポリオレフィン;
環状ポリオレフィン;
含フッ素樹脂;
等を用いることができる。上記樹脂の中でも、飽和環状ポリオレフィンは、耐熱性、耐薬品性、低蛍光性、透明性および成形性に特に優れるため、光学的な分析に好適であり、基板の材料として好ましく用いられる。
【0132】
ここで、飽和環状ポリオレフィンとは、環状オレフィン構造を有する重合体単独または環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体を水素添加した飽和重合体を指す。前者の例としては、たとえばノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセンに代表されるノルボルネン系モノマー、及び、これらのアルキル置換体を開環重合して得られる重合体を水素添加して製造される飽和重合体である。後者の共重合体はエチレンやプロピレン、イソプロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンと環状オレフィン系モノマーのランダム共重合体を水素添加することにより製造される飽和重合体である。共重合体では、エチレンとの共重合体が最も好ましい。これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種類またはそれ以上の共重合体あるいは混合物であってもよい。また、環状オレフィン構造を有する単量体が開環重合して得られる飽和環状ポリオレフィンだけでなく、環状オレフィン構造を有する単量体の付加重合により得られる飽和環状ポリオレフィンを用いることもできる。
【0133】
本実施形態に係るバイオチップ用基板は、所定の形状に加工された基板の表面に高分子物質を含む液体を塗布し、乾燥することにより得られる。また、高分子物質を含む液体中に基板を浸漬し、乾燥してもよい。
【0134】
なお、本実施形態および以下の実施形態において、基板の形状は板状には限られず、たとえばフィルム状やシート状であってもよい。具体的には、基板を可とう性のプラスチックフィルムとすることもできる。また、基板は、一つの部材から構成されていてもよいし、複数の部材から構成されていてもよい。
【0135】
得られたバイオチップ用基板を用いてバイオチップを作製することができる。以下、バイオチップ用基板を用いたバイオチップについて説明する。
【0136】
バイオチップは、たとえば、バイオチップ用基板の表面に、高分子物質を介して生理活性物質を捕捉する捕捉物質が固定化された構成とすることができる。こうすれば、生理活性物質の検出にさらに好適に用いることができる。
【0137】
なお、本実施形態および以降の実施形態において、バイオチップは、単独で用いられてもよいし、他の分析装置中に組み込まれた状態で用いられてもよい。たとえば、バイオチップが分析装置の試料台を兼ねる構成とすることもできる。
【0138】
本実施形態および以下の実施形態において、生理活性物質を捕捉する捕捉物質は、生理活性物質に特異的に相互作用する物質とすることができる。特異的な相互作用は物理的な相互作用であっても化学的な相互作用であってもよい。また、捕捉物質は生理活性を有することができる。生理活性を有する捕捉物質としては、たとえば、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、または糖タンパク質とすることができる。
【0139】
また、本実施形態および以下の実施形態において、生理活性物質は、たとえば、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、または糖タンパク質とすることができる。
【0140】
次に、バイオチップの製造方法を説明する。本実施形態のバイオチップは、バイオチップ用基板に捕捉物質を固定化することにより得られる。
【0141】
(生理活性物質を捕捉する捕捉物質の固定化)
バイオチップの製造工程は、たとえば、
(i)バイオチップ用基板上の高分子物質に含まれる複数の活性エステル基のうち、少なくとも一部の活性エステル基と捕捉物質とを反応させて共有結合を形成させることにより、バイオチップ用基板の捕捉物質を固定化する工程、
(ii)捕捉物質を固定化した以外の基板表面の活性エステル基を不活性化する工程、すなわち残りの活性エステル基を不活性化する工程、
を有することができる。以下、それぞれの工程について説明する。
【0142】
上記(i)において、生理活性物質を捕捉する捕捉物質をバイオチップ用基板上に固定化する際には、捕捉物質を溶解または分散した液体を点着する方法が好ましい。高分子物質に含まれる活性エステル基の一部が捕捉物質と反応して、捕捉物質と共有結合が形成される。
【0143】
捕捉物質を溶解または分散した液体のpHは、たとえば酸性から中性とすることができる。
【0144】
また、点着後、固定化されなかった生理活性物質を除去するため、純水や緩衝液で洗浄することができる。
【0145】
また、上記(ii)に示したように、洗浄後は生理活性物質を固定化した以外の基板表面の活性エステルの不活性化処理をアルカリ化合物、あるいは一級アミノ基を有する化合物で行う。
【0146】
アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸ナトリウム、水酸化リチウム、リン酸カリウムなどを用いることができる。
【0147】
一級アミノ基を有する化合物としては、グリシン、9−アミノアクアジン、アミノブタノール、4−アミノ酪酸、アミノカプリル酸、アミノエタノール、5−アミノ2,3−ジヒドロ−1,4−ペンタノール、アミノエタンチオール塩酸塩、アミノエタンチオール硫酸、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、リン酸二水素2−アミノエチル、硫酸水素アミノエチル、4−(2−アミノエチル)モルホリン、5−アミノフルオレセイン、6−アミノヘキサン酸、アミノヘキシルセルロース、p−アミノ馬尿酸、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、5−アミノイソフタル酸、アミノメタン、アミノフェノール、2−アミノオクタン、2−アミノオクタン酸、1−アミノ2−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、3−アミノプロペン、3−アミノプロピオニトリル、アミノピリジン、11−アミノウンデカン酸、アミノサリチル酸、アミノキノリン、4−アミノフタロニトリル、3−アミノフタルイミド、p−アミノプロピオフェノン、アミノフェニル酢酸、アミノナフタレンなどを用いることができる。これらのうち、アミノエタノール、グリシンを用いることが好ましい。
【0148】
バイオチップ用基板に固定化する捕捉物質は、活性エステル基との反応性を高めるため、アミノ基を有することが好ましい。アミノ基は活性エステル基との反応性に優れるため、アミノ基を有する捕捉物質を用いることにより、効率よくかつ強固にバイオチップ基板上に捕捉物質を固定化することができる。アミノ基の導入位置は分子鎖末端あるいは側鎖であってもよいが、分子鎖末端に導入されていることが好ましい。
【0149】
たとえば、本実施形態および以下の実施形態に記載のバイオチップ用基板上に固定化する捕捉物質として核酸、アプタマーを用いる場合、活性エステル基との反応性を高めるために、アミノ基を導入することが好ましい。DNAやアプタマー等の核酸鎖の場合、分子鎖中にアミノ基を有しているが、さらに、分子鎖末端にアミノ基を導入してもよい。こうすることにより、末端のアミノ基を活性エステル基と反応させて、高分子物質とさらに確実に共有結合を形成させることができる。また、末端のアミノ基を固定化に用いることにより、DNA相補鎖とのハイブリダイゼーションやタンパクとの相互の反応をより一層効率よく行うことができる。
【0150】
また、捕捉物質として、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質を用いる場合にも、必要に応じてアミノ基を導入することが好ましい。
【0151】
以上により、基板上に捕捉物質が固定化されたバイオチップが得られる。このバイオチップは、生理活性物質の検出、定量等に用いることができる。また、試験液中に含まれる生理活性物質の特定にも利用可能である。以下、バイオチップを用いた生理活性物質の検出について説明する。
【0152】
(生理活性物質の検出)
バイオチップを用いた生理活性物質の検出方法に特に制限はないが、たとえば蛍光物質を用いて行うことができる。こうすることにより、検出感度を向上させることができる。
【0153】
また、バイオチップ上に活性エステル基を不活性化しないで用いる場合や、活性エステル基が基板上に残存している可能性が有る場合には、検出対象の生理活性物質を溶解または分散した液体が中性から酸性とすることができる。こうすることにより、高分子物質と生理活性物質との非特異的な反応や吸着をより一層確実に抑制することができる。
【0154】
このような条件として、具体的には、液体のpHは8.0以下、好ましくは7.6以下とすることができる。また、さらに具体的には、たとえばpH7.0とすることができる。pHが高すぎると、活性エステル基と生理活性物質のアミノ基とが反応を起こし、捕捉分子を点着した以外の部分に、検出する生理活性物質が共有結合により固定化されやすくなる。
【0155】
本実施形態によれば、バイオチップ用基板の表面に吸着防止剤をコーティングすることなく検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制するとともに、生理活性物質を捕捉する捕捉分子を共有結合により確実に固定化することができるため、検出感度や検出精度を向上させることができる。
【0156】
本実施形態のバイオチップは、たとえば生体試料中の多数のタンパク質、核酸等の並列検出および分析に用いられる。より詳細には、たとえばプロテオミクスや遺伝子活性の細胞内タンパク質レベルでの測定等に用いられる。
【0157】
なお、本実施形態で用いた各部材は、以下の実施形態においても用いることができる。
【0158】
以下の実施形態においては、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0159】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態において、バイオチップ用基板への捕捉物質の固定化および生理活性物質の検出を、以下の条件で行う。
【0160】
(捕捉物質の固定化)
本実施形態においても、第1の実施形態の場合と同様に、捕捉物質をバイオチップ基板上に固定化する際に、捕捉物質を溶解または分散させた液体を点着する方法を用いることができる。
【0161】
また、本実施形態においては、捕捉物質の固定化反応を中性またはアルカリ性の条件で行う。たとえば、点着に用いる捕捉物質を溶解または分散した液体を中性またはアルカリ性とする。こうすることにより、捕捉物質と高分子物質の第二単位中の活性エステル基とをさらに確実に反応させ、共有結合を形成させることができる。こうした条件として、たとえばpH7.0以上、好ましくはpH7.6以上とすることができる。さらに具体的には、pHを8.0とすることができる。pHが低すぎる条件では、活性エステル基と捕捉物質とが反応を起こしにくく、捕捉物質を固定化することが困難となる懸念がある。
【0162】
また、捕捉物質を含む液体のpHの下限は、捕捉物質の種類や高分子物質の材料に応じて適宜選択されるが、たとえばpH10以下とすることができる。
【0163】
なお、本実施形態においても、点着後、固定化されなかった生理活性物質を除去するため、純水や緩衝液で洗浄することが好ましい。
【0164】
また、本実施形態においては、捕捉物質の固定化後、生理活性物質を捕捉させる際に、生理活性物質を含む酸性または中性の液体、たとえば溶液を基板上の高分子物質に接触させることもできる。生理活性物質を含む液体は、中性または酸性、具体的には第1の実施形態にて前述したpH条件とすることができる。こうすることにより、生理活性物質の非特異的吸着を抑制しつつ、捕捉物質にさらに安定的に相互作用させることができる。
【0165】
なお、本実施形態において、バイオチップ用基板およびバイオチップの構成として、第1の実施形態に記載の構成を用いることができる。
【0166】
たとえば、本実施形態のバイオチップの構成は、下記(i)から(x)に示す構成とすることができる。
(i)ホスホリルコリン基および活性エステル基を有する高分子層を表面に有する基板に、該活性エステル基を介して、生理活性物質を捕捉する分子が基板表面に固定化される構成、
(ii)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基中に含まれる構成、
(iii)活性エステル基がp−ニトロフェニル基である構成、
(iv)高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体である構成、
(v)基板がプラスチック製である構成、
(vi)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンある構成、
(vii)基板がガラス製である構成。
(viii)捕捉物質が核酸、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである構成、
(ix)バイオチップにさらに生理活性物質が捕捉された構成、
(x)生理活性物質が核酸、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである構成。
【0167】
本実施形態によれば、タンパク質、核酸等の検出および分析に用いられる際に、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合が抑制され、検出精度や検出感度が高いバイオチップが得られる。
【0168】
(第3の実施形態)
本実施形態においては、第1の実施形態に記載のバイオチップ用基板を用いて、第2の実施形態に記載の条件で捕捉物質の固定化を行う。捕捉物質の固定化の条件は、第2の実施形態に記載の条件とすることができる。
【0169】
また、本実施形態では、捕捉物質の固定化後、基板上の高分子物質に、検出対象の生理活性物質を含む液体を接触させ、捕捉物質に生理活性物質を捕捉させる。このとき、生理活性物質を含む液体のpHを、捕捉物質を含む液体のpH以下のpH、好ましくは捕捉物質を含む液体のpHより低いpHとする。
【0170】
このようにすれば、生理活性物質と活性エステル基との反応をさらに確実に抑制することができる。
【0171】
具体的には、バイオチップ用基板への捕捉物質の固定化および生理活性物質の検出を、下記(1)(2)の手順で行うことができる。
(1)pH7.6以上で捕捉物質を固定するステップ、および
(2)検出する生理活性物質を含むpH7.6以下の溶液を基板表面に接触させ、捕捉物質に生理活性物質を捕捉させるステップ。
【0172】
本実施形態によれば、生理活性物質を含む液体のpHを制御することにより、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制し、検出精度や検出感度の高いバイオチップを得ることができる。また、マイクロチップ用基板としてマイクロアレイ用基板を用いれば、検出感度に優れたマイクロアレイが得られる。
【0173】
なお、本実施形態において、バイオチップ用基板およびバイオチップの構成として、第1の実施形態または他の実施形態に記載の構成を用いることができる。
【0174】
(第4の実施形態)
本実施形態のバイオチップ用基板は、基板表面に、アミノ基を有する化合物を含む第一の層と、ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導体とを含む第二単位とを有する高分子物質を含む第二の層と、を有する。基板、第一の層および第二の層がこの順に積層されている。
【0175】
基板としては、たとえば第1の実施形態に記載の材料または形状のものを用いることができる。たとえば、飽和環状ポリオレフィン等のプラスチック製の基板やガラス製の基板とすることができる。
【0176】
第一の層は、アミノ基を有する化合物を含む。第一の層は、第二の層を基板上に固定化し、その剥離を抑制する接着層として機能する。第一の層は、たとえば、アミノ基を有するシランカップリング剤等のアミノシランを含むことができる。こうすれば、基板表面に第一の層をさらに安定的に設け、基板表面を第一の層でさらに確実に被覆することができる。なお、アミノ基を有するシランカップリング剤は、オルガノシロキサンやポリオルガノシロキサン等の形態で存在していてもよい。
【0177】
第一の層の厚さは、たとえば1Å(0.1nm)以上とすることができる。こうすることにより、基板表面を確実に被覆し、第二の層の基板表面からの剥離をさらに確実に抑制することができる。また、第一の層の厚さの上限に特に制限はないが、たとえば100Å(10nm)以下とすることができる。
【0178】
第二の層は、基板上を被覆して生理活性物質の検出等に適した表面状態を提供する機能を有する。第二の層を構成する高分子物質は、生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質と生理活性物質を固定化する性質とを併せ持つポリマーである。高分子物質中のホスホリルコリン基は生理活性物質の非特異的吸着を抑制する役割を果たす。また、高分子物質中のカルボン酸誘導基は、第一の層中の化合物のアミノ基と反応する役割および捕捉物質を固定化する役割を果たす。
【0179】
高分子物質として、たとえば第1の実施形態に記載の構成を適用することができる。また、高分子物質中のホスホリルコリン基を含む基およびカルボン酸誘導基は、たとえば第1の実施形態に例示した基とすることができる。たとえば、高分子物質の第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有する構成とすることができる。また、高分子物質の第二単位がp−ニトロフェニル基を有する構成とすることができる。さらに、第1の実施形態と同様に、本実施形態においても、高分子物質がブチルメタクリレート基を含む第三単位を有していてもよい。以下、活性化されたカルボン酸誘導体が活性エステル基である場合を例に説明する。
【0180】
第二の層の厚さは、たとえば5nm以上とすることができる。こうすることにより、第一の層の設けられた基板表面を確実に被覆し、生理活性物質等の非特異的吸着をさらに確実に抑制することができる。また、第二の層の厚さの上限に特に制限はないが、たとえば100nm以下とすることができる。
【0181】
なお、基板と第一の層との間および第一の層と第二の層との間には、介在層が存在していてもしていなくてもよい。第一の層が基板に接して設けられ、第二の層が第一の層に接して設けられた構成とし、実質的に介在層が存在しない積層形態とすることにより、バイオチップの製造過程または使用過程における基板からの高分子物質の剥離より一層確実に抑制することができる。
【0182】
また、第一の層のアミノ基と、第二の層中の一部の活性エステル基とが反応して共有結合、具体的にはアミド結合が形成された構成とすることができる。こうすることにより、基板上に第二の層をより一層確実に固定し、その剥離を抑制することができる。また、残りの活性エステル基を用いて、生理活性物質を捕捉する捕捉物質をバイオチップ用基板上に化学的に固定化し、バイオチップを得ることができる。
【0183】
次に、本実施形態に係るバイオチップ用基板の製造方法を説明する。本実施形態のバイオチップ用基板の製造方法は、基板上に第一の層を設ける工程と、第一の層上に第二の層を設ける工程とを含むことができる。基板に接して第一の層が設けられ、第一の層に接して第二の層が設けられる構成の場合、バイオチップ用基板の製造工程は、たとえば下記(1)および(2)の工程を含むことができる。
(1)基板の表面とアミノ基を有する化合物との接触工程、および
(2)アミノ基を有する化合物と高分子物質との接触工程。
【0184】
まず、上記(1)の工程について説明する。(1)の工程により、基板上に第一の層が形成される。
【0185】
基板表面へのアミノ基を有する化合物を含む第一の層の導入には、アミノアルキルシラン処理、窒素雰囲気下でのプラズマ処理、アミノ基含有高分子物質のコーティングなどの方法を用いることができる。このうち、アミノアルキルシラン処理は、簡便性および均一性の観点から好ましく用いられる。
【0186】
アミノアルキルシラン処理は、たとえばアミノアルキルシラン(カップリング剤)溶液への基板の浸漬および熱処理によることができる。アミノアルキルシラン溶液の濃度は、たとえば、0.1重量%以上10重量%以下、好ましくは、0.1重量%以上5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以上5重量%以下とすることができる。アミノアルキルシラン濃度を0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上とすることにより、基板の表面により一層確実にアミノ基を有する化合物を層状に形成することができる。また、アミノアルキルシラン濃度を10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下とすることにより、アミノアルキルシラン化合物を基板状に一様に分散させることができる。このため、第一の層の膜厚のばらつきを抑制することができる。
【0187】
次に、上記(2)の工程について説明する。(2)の工程により、第一の層上に第二の層が形成される。
【0188】
第一の層の上部に、ホスホリルコリン基を含む第一単位と活性エステル基を含む第二単位とを有する高分子物質を含む第二の層を形成する際には、たとえばホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質の溶液に基板を浸漬する方法を用いることができる。ホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質の濃度はたとえば0.05重量%以上5.0重量%以下、好ましくは0.1重量%以上1.0重量%以下とすることができる。
【0189】
高分子物質の濃度を0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上とすることにより、第一の層を被覆する第二の層を確実に設けることができる。また、高分子物質の濃度を5.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以下とすることにより、第一の層上に一様に第二の層を形成し、第二の層の膜厚のばらつきを抑制することができる。
【0190】
本実施形態によれば、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制し、かつ界面活性剤による洗浄によっても膜剥がれしない検出精度または検出感度の高いバイオチップ用基板が得られる。
【0191】
本実施形態のバイオチップ用基板を使用して各種の捕捉物質を固定化し、バイオチップを得ることができる。また、バイオチップを用いて生理活性物質の検出等を行うことができる。
【0192】
なお、本実施形態においても、捕捉物質および生理活性物質としては、たとえば第1の実施形態に記載の物質を用いることができる。また、本実施形態において、バイオチップ用基板およびバイオチップの構成として、第1の実施形態または前述した他の実施形態に記載の構成を用いることができる。
【0193】
(第5の実施形態)
本実施形態では、以上の実施形態に記載の記載のバイオチップ用基板を用いたバイオチップに関する。本実施形態のバイオチップは、基板の表面にホスホリルコリン基と複数のカルボン酸誘導基とを有する高分子物質を有するバイオチップ用基板の、一部の前記カルボン酸誘導基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して共有結合を形成しており、残りの前記カルボン酸誘導基と親水性基を有する親水性ポリマーとが反応して共有結合を形成している構成である。共有結合による高分子物質への親水性ポリマーの導入により、バイオチップ表面の高分子物質へのタンパク質の非特異的吸着をさらに低減できる。
【0194】
バイオチップ用基板としては、本明細書の他の実施形態に記載のバイオチップ用基板のいずれかの構成を用いることができる。以下、第1の実施形態に記載のバイオチップ用基板を用いる場合を例に説明する。バイオチップ用基板の高分子物質は、たとえば、第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を含み、第二単位が活性化カルボン酸誘導基の一態様である活性エステル基としてp−ニトロフェニル基を有する構成とすることができる。また、上記一般式(2)に示した高分子物質を用いてもよい。
【0195】
また、本実施形態のバイオチップは、バイオチップ用基板の高分子物質中に含まれる複数の活性エステル基のうち、一部の活性エステル基を捕捉物質と反応させて、捕捉物質と共有結合を形成させる捕捉物質の固定化工程と、捕捉物質の固定化工程の後、残りの活性エステル基を親水性ポリマーと反応させて、親水性ポリマーと共有結合させる工程を含むことができる。
【0196】
(捕捉物質の固定化)
バイオチップ基板への捕捉物質の固定化は、以上の実施形態に記載の方法により、たとえば第2の実施形態に記載の方法により、行うことができる。具体的には、本実施形態においても、上述した実施形態と同様に、捕捉物質をバイオチップ基板上に固定化する際には、生理活性物質を溶解または分散した液体を点着する方法を用いることができる。捕捉物質を溶解または分散した液体のpHは、中性またはアルカリ性、好ましくは7.6以上とすることができる。また、点着後、固定化されなかった捕捉物質を除去するため、純水や緩衝液で洗浄することができる。
【0197】
本実施形態では、捕捉物質の固定化後および洗浄後、さらに、捕捉物質を点着した以外の基板表面部分、つまり基板上に残存している活性エステル基を親水性ポリマー化する。以下、高分子物質への親水性ポリマーの導入について説明する。
【0198】
(親水性基を有するポリマーの導入)
本発明では、さらに生理活性物質を固定化した以外の基板表面の活性エステル基とを親水性ポリマーとを反応させて、高分子物質を親水性ポリマー化する。
【0199】
親水性ポリマーは、親水基を有するポリマーであり、たとえばポリアルキレンオキシドまたは複数種類のポリアルキレンオキシドを構造中に含むことができる。ポリアルキレンオキシドとして、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらの共重合体、およびこれらの少なくとも一つと他のポリアルキレンオキシドとの共重合体のいずれかを構造中に含むことができる。
【0200】
また、親水性ポリマーは、活性エステル基との反応性を高めるために末端がアミノ化されていることが好ましい。末端にアミノ基が導入された親水性ポリマーとしては、具体的にはサン テクノケミカル株式会社製のジェファーミンMシリーズ(XTJ−505、XTJ−6506、XTJ−507、M−2070、XTJ−234)等が挙げられる。
【0201】
活性エステル基への親水性ポリマーの導入には、親水性ポリマーの溶液等の液体に生理活性物質が固定化された基板を浸漬する方法が好ましい。親水性ポリマーを含む液体中の親水性ポリマーの濃度は、たとえば0.1重量%以上とすることができる。こうすることにより、高分子物質に確実に親水性ポリマーを導入することができる。また、親水性ポリマーの濃度は、たとえば100重量%以下とすることができる。溶液の粘度が高いポリマーを使用する場合は希釈して使用することが好ましい。こうすることにより、高分子物質に安定的に親水性ポリマーを導入することができる。
【0202】
本実施形態に係るバイオチップは、親水性ポリマーの導入により残存する活性エステル基が脱離した構成であるため、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制し、検出感度をより一層確実に向上させることができる。
【0203】
なお、本実施形態において、バイオチップ用基板およびバイオチップの構成として、第1の実施形態または前述した他の実施形態に記載の構成を用いることができる。
【0204】
(第6の実施形態)
第1の実施形態に記載のバイオチップ用基板および以上の他の実施形態に記載のバイオチップ用基板において、高分子物質の第二単位に含まれるカルボン酸誘導基を活性エステル基とする場合、活性エステル基がN−ヒドロキシスクシンイミド基であってもよい。
【0205】
たとえば、バイオチップ用基板に一次抗体等の生理活性を有する捕捉物質が固定化されたバイオチップとして、捕捉物質の固定化法においては、物理的吸着による固定化法、化学反応による固定化法などが用いられる。
【0206】
化学的固定化法においては、活性エステルを用いて生理活性物質のアミノ基と反応させることにより固定化する方法が知られている。しかしながら活性エステル基はそのエステルの種類によりアミノ基との反応性が大きく変化する。
【0207】
例えばp−ニトロフェニルエステルなどは比較的高いpH側での反応性に優れる。このため、生理活性を有する捕捉物質の種類によっては、高いpHによる捕捉物質の変性、分解などが原因となり充分なシグナル強度が得られない懸念があった。
【0208】
このような場合、活性エステル基をN−ヒドロキシスクシンイミド基とすることにより、より低いpH、たとえばpH7.4以上9.0以下にて捕捉物質を固定化することができる。このため、高pHにおける安定性の低い捕捉物質の場合においても、生理活性を保持した状態で高分子物質に安定的に固定化することができる。
【0209】
なお、本実施形態のバイオチップ用基板の基本構成は、高分子物質中の第二単位がN−ヒドロキシスクシンイミド基を有することを除くほか、第1の実施形態に記載のバイオチップ用基板と同様とすることができる。
【0210】
たとえば、基板の表面に高分子物質を有するバイオチップ用基板において、第一単位と第二単位のさらに具体的な構成の組み合わせとして、たとえば、ホスホリルコリン基を含む第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有し、活性エステル基がN−ヒドロキシスクシンイミド基である構成とすることができる。
【0211】
本実施形態によれば、基板上に吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制することができるので、シグナル強度を向上させることができる。
【0212】
なお、本実施形態において、バイオチップ用基板およびバイオチップの構成として、第1の実施形態または前述した他の実施形態に記載の構成を用いることができる。
【0213】
(第7の実施形態)
以上の実施形態に記載のバイオチップ用基板において、高分子物質中の第一単位にホスホリルコリン基の割合、または高分子物質の第二単位に含まれる活性化カルボン酸誘導基の割合を、以下のようにすることもできる。以下、活性化カルボン酸誘導基が活性エステル基である場合を例に説明する。
【0214】
本実施形態において、バイオチップ用基板およびバイオチップの構成部材としては、第1の実施形態または前述した他の実施形態に記載のものを用いることができる。
【0215】
本実施形態において、基板上の高分子物質が、下記(a)成分からなる構成とすることができる。
(a)ホスホリルコリン基を含む第一単位と活性エステル基を有する第二単位とを必須成分とし、ブチルメタクリレート基を有する第三単位を任意成分とする高分子
【0216】
この場合、高分子物質中に含まれるホスホリルコリン基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基とブチルメタクリレート基との合計に対する割合を、たとえば3モル%以上、好ましくは25%以上とすることができる。ホスホリルコリン基の割合が小さすぎると、チップとして用いたときに、生理活性物質の非特異的吸着を起こすようになり、バックグランドが高くなる懸念がある。
【0217】
また、基板上の高分子物質に含まれるホスホリルコリン基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基とブチルメタクリレート基との合計に対する割合を、たとえば40モル%以下、好ましくは40モル%未満、さらに好ましくは35モル%以下、さらにまた好ましくは35モル%未満とすることができる。ホスホリルコリン基の割合が大きすぎると、混合ポリマーの水溶性が高くなるため表面層が剥離してしまう懸念がある。
【0218】
また、高分子物質に含まれる活性エステル基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基との合計に対する割合を、たとえば1モル%以上25モル%以下とすることができる。活性エステル基の割合が小さすぎると、生理活性物質の固定化量が低下し充分なシグナルが得られない懸念がある。また、活性エステル基の割合が大きすぎると、最表面に存在する活性エステル基量が飽和してしまいシグナル強度が向上しない懸念がある。
【0219】
さらに具体的には、高分子物質に含まれる活性エステル基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基との合計に対する割合を、たとえば15モル%以上25モル%未満とすることができる。また、生理活性物質の検出反応におけるバックグランドをより一層確実に低下させる観点では、高分子物質に含まれる活性エステル基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基との合計に対する割合を、1モル%以上8%以下とすることがさらに好ましい。1モル%以上8%以下とすることにより、検出感度をさらに向上させることができる。
【0220】
また、高分子物質が上記(a)成分および下記(b)成分からなる以下の構成とすることもできる。
(b)ホスホリルコリン基を含む第一単位とブチルメタクリレート基を含む第三単位とを有する高分子
【0221】
なお、上記(a)の第一単位と上記(b)の第一単位とは同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。また、上記(a)がブチルメタクリレート基を含む第三単位を含むとき、(a)の第三単位と上記(b)の第三単位とは同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0222】
(b)成分は、生理活性物質の非特異的吸着を抑制するポリマーとして用いられる。このようなポリマーとしては、たとえばホスホリルコリン基が30モル%、ブチルメタクリレート基が70モル%の割合で含まれているものであるMPCポリマー(日本油脂社製)を用いることができる。
【0223】
なお、高分子物質が上記(a)、(b)成分からなる場合、(a)、(b)成分が混合されている構成とすることができる。上記(a)成分および(b)成分のポリマーは、たとえばエタノール溶液に溶解できるため、それぞれのポリマー溶液を混合することにより容易に混合ポリマーを得ることができる。
【0224】
上記(a)、(b)成分からなる混合ポリマーに含まれるホスホリルコリン基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基とブチルメタクリレート基との合計に対する割合は、たとえば3モル%以上、好ましくは25モル%以上とすることができる。混合ポリマーにおいても、ホスホリルコリン基の割合が小さすぎると、生理活性物質の非特異的吸着を起こすようになり、バックグランドが高くなる懸念がある。
【0225】
また、上記(a)、(b)成分からなる混合ポリマーに含まれるホスホリルコリン基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基とブチルメタクリレート基との合計に対する割合は、たとえば、40モル%以下、好ましくは40モル%未満、さらに好ましくは35モル%以下、さらにまた好ましくは35モル%未満とすることができる。混合ポリマーにおいても、ホスホリルコリン基の割合が大きすぎると、混合ポリマーの水溶性が高くなるため表面層が剥離してしまう懸念がある。
【0226】
また、上記(a)、(b)成分からなる混合ポリマーに含まれる活性エステル基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基とブチルメタクリレート基との合計に対する割合を、たとえば1モル%以上25モル%以下することができる。混合ポリマーの場合にも、活性エステル基の割合が小さすぎると、生理活性物質の固定化量が低下し十分なシグナルが得られない懸念がある。また、活性エステル基の割合が大きすぎると、最表面に存在する活性エステル基量が飽和してしまいシグナル強度が向上しない懸念がある。
【0227】
さらに具体的には、(a)、(b)成分からなる混合ポリマーに含まれる活性エステル基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基との合計に対する割合を、たとえば15モル%以上25モル%未満とすることができる。また、生理活性物質の検出反応におけるバックグランドをより一層確実に低下させる観点では、(a)、(b)成分からなる混合ポリマーに含まれる活性エステル基の、ホスホリルコリン基と活性エステル基との合計に対する割合を、1モル%以上8%以下とすることがさらに好ましい。1モル%以上8%以下とすることにより、検出感度をさらに向上させることができる。
【0228】
なお、本実施形態においても、活性エステル基としては、たとえばp−ニトロフェニル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基等を用いることができる。
【0229】
本実施形態のバイオチップ用基板に捕捉物質を用いると、検出感度に優れたバイオチップを得ることができる。バイオチップ用基板を用いたバイオチップの作製には、以上の実施形態に記載の方法を用いることができる。
【0230】
たとえば、本実施形態においても、捕捉物質をバイオチップ基板上に固定化する際には、生理活性物質を溶解または分散した液体を点着する方法を用いることができる。また、捕捉物質を溶解または分散した液体のpHは7.6以上とすることができる。また、点着後、固定化されなかった物質を除去するため、純水や緩衝液で洗浄することができる。また、洗浄後は生理活性物質を点着した以外の部分を親水性ポリマー化してもよい。
【0231】
本実施形態によれば、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合が抑制され、検出精度または検出感度の高いバイオチップを得ることができる。
【0232】
(第8の実施形態)
本実施形態は、以上の実施形態に記載のバイオチップ用基板を有するマイクロアレイ用基板に関する。このマイクロアレイ用基板は、基板表面にホスホリルコリン基を含む第一単位と活性エステル基を含む第二単位とを有する高分子物質を有する。
【0233】
本実施形態において、マイクロアレイ用基板の構成部材、材料、および製造方法としては、以上の実施形態に記載のものを用いることができる。
【0234】
本実施形態のマイクロアレイ用基板は、自己蛍光を低減化、蛍光色素の吸着を低減した構成である。このため、検体の情報シグナルを蛍光としてさらに高感度で検出することができる。このマイクロアレイ用基板は、基板の表面に生理活性物質を捕捉する捕捉物質を固定化し、蛍光色素を用いて生理活性物質を検出するためのマイクロアレイ用基板として好適に用いられる。
【0235】
また、本実施形態のマイクロアレイ用基板を用いると、たとえば蛍光色素を用いて生理活性物質を検出するマイクロアレイに好適に用いられるマイクロアレイが得られる。たとえば、マイクロアレイ用基板に、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質のうち、少なくとも一つの捕捉物質を固定化することにより、マイクロアレイが得られる。なお、本明細書において、マイクロアレイは、DNAマイクロアレイには限られず、基板上に生理活性を有する所定の捕捉物質を集積化した(チップ化した)素子のことをいう。
【0236】
なお、本実施形態において、マイクロアレイ用基板およびマイクロアレイの構成に、第1の実施形態または前述した他の実施形態に記載のマイクロチップ用基板およびマイクロチップの構成を適用することができる。
【0237】
たとえば、本実施形態のバイオチップの構成は、下記(i)から(vi)に示す構成とすることができる。
(i)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基であるマイクロアレイ用基板、
(ii)活性エステル基がp−ニトロフェニル基またはN−ヒドロキシスクシンイミド基であるマイクロアレイ用基板、
(iii)高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体であるマイクロアレイ用基板。
(iv)基板がプラスチック製であるマイクロアレイ用基板、
(v)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンであるマイクロアレイ用基板、
(vi)基板がガラス製であるマイクロアレイ用基板。
【0238】
(第9の実施形態)
本実施形態は、ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質が基板上に設けられたマイクロチップ用基板の別の構成に関する。本実施形態のマイクロチップ用基板は、基板と、基板上に設けられ、オルガノシロキサンを含む第一の層と、第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を有する単量体とカルボン酸誘導基を有する単量体との共重合体を含む第二の層と、を有する。基板、第一の層および第二の層がこの順に積層された層が設けられている。以下、カルボン酸誘導基が活性エステル基である場合を例に説明する。
【0239】
この構成において、第一の層を構成するオルガノシロキサンは、重合性二重結合を有する基を有する化合物とすることができる。重合性二重結合を有する基がアルケニル基(オレフィン基)を構成していてもよい。また、重合性二重結合を有する基の少なくとも一部がアクリレート基、メタクリレート基、またはビニル基を構成していてもよい。第一の層は、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、または他のアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基を有する化合物を有することができる。
【0240】
基板の構成としては、以上の実施形態に記載の基板を用いることができる。
【0241】
第一の層は、重層される第二の層が単量体のラジカル重合、光重合、またはラジカルイオン重合等の重合により形成される際に、第二の層中の単量体と反応し、共有結合により第二の層を基板上に固定化する層である。
【0242】
第一の層の厚さは、たとえば1Å(0.1nm)以上とすることができる。こうすることにより、基板表面を確実に被覆し、第二の層の基板表面からの剥離をさらに確実に抑制することができる。また、第一の層の厚さの上限に特に制限はないが、たとえば100Å(10nm)以下とすることができる。
【0243】
第二の層は、基板上を被覆して生理活性物質の検出等に適した表面状態を提供する機能を有する。第二の層は、生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質と捕捉物質を固定化する性質とを併せ持つ。第二の層中の共重合体中のホスホリルコリン基は生理活性物質の非特異的吸着を抑制する役割を果たし、共重合体中の活性エステル基は生理活性物質を固定化する役割を果たす。
【0244】
第二の層の厚さは、たとえば5nm以上とすることができる。こうすることにより、第一の層の設けられた基板表面を確実に被覆し、生理活性物質等の非特異的吸着をさらに確実に抑制することができる。また、第二の層の厚さの上限に特に制限はないが、たとえば100nm以下とすることができる。
【0245】
なお、基板と第一の層との間および第一の層と第二の層との間には、介在層が存在していてもしていなくてもよい。第一の層が基板に接して設けられ、第二の層が第一の層に接して設けられた構成とし、実質的に介在層が存在しない積層形態とすることにより、バイオチップの製造過程または使用過程における基板からの高分子物質の剥離より一層確実に抑制することができる。また、このとき、第一の層中のオルガノシロキサンが重合性二重結合を有する基を有し、重合性二重結合を有する基と前記共重合体とが反応して、共有結合が形成された構成とすることができる。
【0246】
また、本実施形態において、第一の層が、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、または他のアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基を有する化合物のみから形成され、第二の層が共重合体のみから形成されていてもよい。また、基板の表面に第一の層が設けられ、第一の層の表面に第二の層が設けられた構成としてもよい。
【0247】
次に、本実施形態のバイオチップ用基板の製造方法を説明する。このバイオチップ用基板は、基板表面に、第一の層を形成した後、第一の層上でホスホリルコリン基を有する単量体と活性エステル基を有する単量体とを共重合することにより第二の層を形成することにより得られる。
【0248】
基板表面の第一の層の形成に使用するオルガノシロキサンとしては、重合性二重結合を有するシランカップリング剤を用いることができる。なお、シランカップリング剤は、基板上にオルガノシロキサンの状態で存在していてもよい。また、オルガノシロキサンは、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、またはその他のオレフィン基から選ばれる少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【0249】
これらのシランカップリング剤としては、(3−アクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、N−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリエトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリメトキシシラン、(3−アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)−プロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロペンオキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトキシイミノ)シラン、アリルオキシウンデシルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ノルボルネニルトリエトキシシラン、3−ブテニルトリエトキシシラン、2−(クロロメチル)アリルトリメトキシシラン、(2−(3−シクロヘキセニル)エチル)トリエトキシシラン、(2−(3−シクロヘキセニル)エチル)トリメトキシシラン、(3−シクロペンタジエニルプロピル)トリエトキシシラン、ドコセニルトリエトキシシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリ−t−ブトキシシラン、ビニルトリス、(メトキシプロポキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、1,3−ジビニルテトラアメチルジシラザン、ビニルジメチルエトキシシラン、トリビニルメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリル)エチレン、ビス(トリメトキシシリルメチル)エチレン、トリエトキシシリル修飾ポリ1,2−ブタンジエンなどが挙げられる。
【0250】
シランカップリング剤による第一の層の形成は、たとえばシランカップリング剤溶液を基板に浸漬し熱処理することにより行うことができる。シランカップリング剤溶液の濃度は、0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上とすることができる。こうすることにより、第一の層をさらに確実に形成することができる。また、シランカップリング剤溶液の濃度は、たとえば10重量%以下、好ましくは5重量%とすることができる。こうすることにより、第一の層を基板上により一層安定的に形成することができる。
【0251】
第一の層の上部に、ホスホリルコリン基を有する単量体の重合体、および活性エステル基を有する単量体の重合体を含む第二の層を導入するには、たとえば、ホスホリルコリン基を有する単量体、および活性エステル基を有する単量体の溶液に第一の層が形成された基板を浸漬し、各単量体を重合することができる。重合は、ラジカル重合、ラジカルイオン重合、光重合などで行われる。ホスホリルコリン基を有する単量体、および活性エステル基を有する単量体の溶液には重合開始剤を添加しておくことができる。
【0252】
ホスホリルコリン基を有する単量体としては、たとえば2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10−メタクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン、アリルホスホリルコリン、ブテニルホスホリルコリン、ヘキセニルホスホリルコリン、オクテニルホスホリルコリン、デセニルホスホリルコリン等を挙げられるが、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。
【0253】
活性エステル基を有する単量体は、活性エステル基としてたとえば第1の実施形態に記載の活性エステル基、さらに具体的には、p−ニトロフェニル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基等を有する単量体が好ましく、さらにメタクリル基またはアクリル基を有するものが好ましい。特にp−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0254】
以上により得られるバイオチップ用基板は、タンパク質、核酸等の検出および分析に用いられる際に、吸着防止剤をコーティングすることなく、検出対象物質の非特異的な吸着または結合を抑制し、かつ界面活性剤による膜剥がれすることがなく、検出精度や検出感度に優れる。また、得られたバイオチップ用基板に各種の捕捉物質を固定化し、生理活性物質の検出等が可能なバイオチップを得ることができる。
【0255】
なお、本実施形態において、捕捉物質および生理活性物質は、たとえば以上の実施形態に記載の物質とすることができる。また、本実施形態において、バイオチップ用基板およびバイオチップの構成として、第1の実施形態または前述した他の実施形態に記載の構成を用いることができる。
【0256】
(第10の実施形態)
本実施形態は、以上の実施形態に記載のバイオチップ用基板を用いたバイオチップに関する。また、本実施形態は、生体試料中のタンパク質、核酸等の分析を、微細流路を用いて行うバイオチップに関する。
【0257】
本実施形態のバイオチップは、基板および基板に設けられた流路を有する。流路は、たとえば基板の表面に溝状に設けられていてもよい。このバイオチップは、流路の表面に、ホスホリルコリン基を含む第一単位と活性エステル基を含む第二単位とを有する高分子物質を有する。また、活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成している。
【0258】
また、バイオチップが、流路を覆う保護部材を有してもよい。こうすれば、流路の内容物の乾燥や流路外への漏出を抑制することができる。このため、バイオチップを用いた分析をさらに安定的に行うことができる。保護部材の形状に特に制限はないが、たとえば板状、シート状、またはフィルム状とすることができる。以下、板状の基板と板状の保護部材を有する構成を例に、本実施形態のバイオチップについてさらに詳細に説明する。
【0259】
図1は、本実施形態に係るバイオチップの構成を示す平面図である。図1に示したバイオチップは、流路基板および蓋基板の二つの板状部材が接合されてなる基板103と、基板103の接合面に設けられた溝102と、溝102の両端に設けられ、溝102に連通する貫通孔101とを有する。図1では、基板103を構成する流路基板の表面に3つの溝102が互いに平行に設けられている。
【0260】
溝102は、液体を流通可能な微細流路として機能する。また、貫通孔101は、溝102中への試験液等の液体の導入部として機能する。また、貫通孔101は外気に接続しているため、溝102中の液体を流動させる導気孔としても機能する。
【0261】
基板103は、溝102の表面すなわち微細流路表面の一部または全体に、ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質を有する。基板103上の高分子物質に、生理活性物質を捕捉する捕捉物質が固定化されている。カルボン酸誘導基と捕捉物質とが反応して、共有結合を形成している。これにより、たとえば、DNAやタンパク質などの生理活性を有する捕捉物質が基板上に固定化されている。
【0262】
高分子物質は、複数のカルボン酸誘導基を有し、複数のカルボン酸誘導基は、捕捉物質と反応して共有結合を形成しているか、または不活化されている。ここで、カルボン酸誘導基が不活性化されているとは、カルボン酸誘導基を構成する一部の基(脱離基)が他の基に置換されて、活性を喪失していることをいう。
【0263】
高分子物質は、以上の実施形態に記載の物質とすることができる。高分子物質の第二単位に含まれるカルボン酸誘導基は、たとえば第1の実施形態に記載の基とすることができる。たとえば、カルボン酸誘導基を活性エステル基とすることができる。以下、カルボン酸誘導基が活性エステル基である場合を例に説明する。また、活性エステル基は、固定化の対象となる捕捉物質によって使い分けることができるが、たとえば、第1の実施形態に記載の基、さらに具体的には、p−ニトロフェニル基またはN−ヒドロキシサクシンイミド基とすることができる。
【0264】
高分子物質は、溝102の表面に層状に形成されていてもよい。こうすれば、溝102の表面への非特異的吸着をさらに確実に抑制することができる。高分子物質からなる層の厚さに特に制限はないが、たとえば5nm以上とすることができる。また、溝102の表面に膜状の高分子物質が設けられていてもよい。こうすれば、溝102の表面をさらに安定的に高分子物質の膜で被覆することができる。また、高分子物質は、溝102の表面全面に設けられていてもよい。こうすれば、溝102の表面への非特異的吸着をより一層確実に抑制することができる。
【0265】
基板103の素材は、たとえば、以上の実施形態で用いられる基板の素材とすることができる。具体的には、ガラス、プラスチック、金属その他を用いることができるが、表面処理の容易性および量産性から、プラスチックが好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0266】
また、基板103を構成する流路基板および蓋基板のうち、少なくとも片方を検出光に対して透明な樹脂とすることができる。透明な樹脂の材料は、生理活性物質の検出反応に用いられる検出光の波長に応じて適宜選択されるが、たとえば、飽和環状ポリオレフィン、PMMA、ポリスチレン、ポリカーボネイトなどが挙げられる。流路基板および蓋基板のうちの少なくとも一方を透明とすることにより、送液の状態を容易に確認することができる。また、流路基板および蓋基板のうちの少なくとも一方について適当な着色を施すこともできる。こうすることにより、光学的に流路内の反応を観察する際に、感度を上げる作用も期待できる。
【0267】
図1に示したバイオチップは、流路中に試験液を流動させて、捕捉物質に捕捉された試験液中の生理活性物質の検出または定量に用いられる構成とすることができる。また、試験液中に含まれる成分の特定も可能である。
【0268】
貫通孔101の径は、蓋基板の厚さや流路の幅等に応じて適宜設計される。また、流路となる溝102については、以下の構成とすることができる。バイオチップ用基板に捕捉物質が固定化されたバイオチップの流路中で生理活性物質の検出反応を効率よく行うためには、ある程度の流速が必要である。また、反応に寄与するのは捕捉物質が固定化されている流路表面部分である。これらのことから、少ない量のサンプル液で効率よく反応させるには、流路の断面積が小さい方が好ましい。
【0269】
流路の延在方向に垂直な断面の幅および深さは、たとえば20μm以上、好ましくは50μm以上とすることができる。こうすることにより、流路へのサンプル液の流通を充分に確保することができる。また、サンプル液の流通を制御しやすい構成とすることができる。また、流路の幅および深さは、たとえば500μm以下、好ましくは200μm以下とすることができる。こうすることにより、ハイブリダイゼーションなどの生理活性物の捕捉の状況を蛍光スキャナーなどで行う場合にも、認識のしやすさを充分に確保することができる。また、流路の長さは検出物質の種類や試験液の量などに応じて適宜設計することができる。
【0270】
次に、図1に示したバイオチップの製造方法について説明する。
まず、微細流路が彫刻された流路基板と蓋となる蓋基板を準備する。流路基板と蓋基板は、それぞれ、上述した基板および保護部材に対応する。流路基板には、前述した溝102および溝102に連通し流路基板を貫通する貫通孔101を設けておく。
【0271】
次に、両基板の接合面、すなわち流路を形成する側の面を、ホスホリルコリン基および活性エステル基を有する高分子物質でコートする。高分子物質のコートは、たとえば以上の実施形態において、マイクロチップ用基板の作製時に基板上に高分子物質を付着させる方法により行うことができる。
【0272】
そして、流路基板の流路内または蓋基板の流路形成部内もしくはその近傍の所定の位置に、捕捉物質を溶解または分散させた液体を滴下してある一定時間放置し、捕捉物質を固定化する。捕捉物質を含む液体を高分子物質上に滴下する方法として、たとえば、ピンスポッターによる点着や、インクジェット方式のスポットが挙げられる。また、捕捉物質を含む液体のpHは、たとえば2以上11以下とすることができる。捕捉物質を含む液体のpHが大きすぎたり小さすぎたりする場合、強酸側または強アルカリ側となるため、生理活性物質の変性が起こる可能性がある。たとえば、捕捉物質がタンパク質である場合、捕捉物質を含む液体のpHを中性付近とすることができる。
【0273】
捕捉物質の固定の後、洗浄を行い、固定化されなかった余剰の捕捉物質を除去する。洗浄の後、活性エステル基を不活性化する。不活化処理は、たとえば第1の実施形態に記載の条件で行うことができる。具体的には、アルカリ化合物、あるいは一級アミノ基を有する化合物を用いて不活性化を行うことができる。
【0274】
不活性化の後、流路基板と蓋基板を貼り合わせ、液体が流通できる流路を形成する。二枚の基板の貼り合わせは、接着剤の塗布による接着や熱溶着により行うことができる。また、生理活性を有する捕捉物質は一般的に熱に弱いため、熱に弱い捕捉物質が固定化されている場合、基板の材料として熱可塑性の樹脂を用いることができる。熱可塑性の樹脂を用いることにより、比較的低温での熱溶着が可能である。
【0275】
本実施形態では、ホスホリルコリン基および活性エステル基を有する高分子物質に捕捉物質を固定化するため、固定化後、生理活性物質の耐熱性を向上させることができる。このため、熱可塑性樹脂を用いれば、熱溶着を行っても、固定化した捕捉物質の活性を保持することができる。
【0276】
なお、捕捉物質および生理活性物質としては、以上の実施形態に記載の物質が挙げられる。また、本実施形態においても、捕捉物質の構造に応じて、捕捉物質にアミノ基を導入してもよい。また、本実施形態において、バイオチップ用基板およびバイオチップの構成として、第1の実施形態または前述した他の実施形態に記載の構成を用いることができる。
【0277】
次に、本実施形態のバイオチップの使用方法を、捕捉物質として一次抗体がチップ上に固定化されている場合を例に説明する。
【0278】
バイオチップを使用する際には、まず、マイクロポンプやマイクロシリンジ等の送液手段を用いて、一定量のサンプル液を送液する。この工程で抗体に検出目的のタンパクが捕捉される。サンプル液の送液の後、洗浄液を一定量送液し洗浄を行う。
【0279】
次に、分析目的のタンパク質に対する抗体に蛍光物質等の標識を施した二次抗体を一定量送液し、洗浄を行う。サンプル液中に分析目的のタンパクが存在すれば、蛍光スキャナーにより蛍光スポットとして認識できる。
【0280】
以上により、抗原抗体反応の効率が高く、少ない送液量で充分なタンパクを捕捉することができる。また、ブロッキングを施さずともタンパクの吸着が起こらず、少ない洗浄液の送液量での洗浄が可能で、検出時のバックグランドを充分に低下させることができる。
【0281】
本実施形態によれば、吸着防止剤をコーティングすることなく、試験液中の成分、ここでは検出対象の生理活性物質を含む成分の流路上への非特異的吸着を抑制することができる。このため、検出感度を上げることができる。また、検出部を流路状とすることにより、捕捉物質と生理活性物質との特異的な相互作用の効率をより向上させることができる。
【0282】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。この実施形態はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0283】
(実験例)
(実験例A1、実験例A2)
実験例A1および実験例A2では、第1の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、抗体の検出を行った。
【0284】
(実験例A1)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR(Melt flow index):21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液に浸漬することにより、基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を導入した。
【0285】
次に、該基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより、表1に示した希釈倍率で調製された一次抗体である抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することにより活性エステルを失活させた。
【0286】
その後、抗原であるマウスIgG2aと抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表1に示す。
【0287】
(実験例A2)
実験例A1と同様の基板の表面に親水化処理を施したのち、アミノ基含有アルキルシランの2重量%水溶液中に浸漬後、熱処理を施して表面にアミノ基を導入した。これを1重量%グルタルアルデヒド水溶液中に浸漬することにより、表面のアミノ基とグルタルアルデヒドを反応させ、アルデヒド基を導入した。
【0288】
次に該基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより表1に示した希釈倍率で調製された一次抗体である抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、非特異吸着防止の為に5重量%スキムミルクを懸濁させた9.6g/リットルのPBS(phosphate buffered saline)緩衝溶液に該基板を浸し室温で2時間静置した。その後、抗原であるマウスIgG2aと抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表1に示す。
【0289】
実験例A1および実験例A2における蛍光量の測定には、Packard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー「ScanArray」を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度60%、励起波長649nm、測定波長670nm、解像度50μmであった。
【0290】
実験例A1は、いずれの希釈倍率においても、実験例A2よりもスポットシグナル値が強く、バックグランド値が低く、S/N比が大きい結果になった。
【0291】
[表1]

【0292】
(実験例B1、実験例B2)
実験例B1および実験例B2では、第2の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、抗体の検出を行った。
【0293】
(実験例B1)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR:21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液に浸漬することにより、基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を導入した。
【0294】
次に、該基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより表2に示した希釈倍率でpHが8.0に調製された一次抗体である抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、pH7.0に調製された、抗原であるマウスIgG2aの溶液を基板表面に塗布し、抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表2に示す。
【0295】
(実験例B2)
pHが7.0に調製された一次抗体である抗マウスIgG2aとpHが8.0に調製された抗原であるマウスIgG2aの溶液を用いた以外はすべて実験例B1と同様の操作を行った。
【0296】
実験例B1および実験例B2における蛍光量の測定には、Packard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー「ScanArray」を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度60%、励起波長649nm、測定波長670nm、解像度50μmであった。
【0297】
実験例B1は、いずれの希釈倍率においても、実験例B2よりもスポットシグナル値が強く、バックグランド値が低く、S/N比が大きい結果になった。
【0298】
[表2]

【0299】
(実験例C1、実験例C2)
実験例C1および実験例C2では、第3の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、抗体の検出を行った。
【0300】
(実験例C1)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR:21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液に浸漬することにより、基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を導入した。
【0301】
次に該基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより表3に示した希釈倍率でpHが8.0に調製された一次抗体である抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、pH7.0に調製した抗原であるマウスIgG2aの溶液を基板表面に塗布し、抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表3に示す。
【0302】
(実験例C2)
pHが7.0に調製された一次抗体である抗マウスIgG2aとpHが8.0に調製された抗原であるマウスIgG2aの溶液を用いた以外はすべて実験例C1と同様の操作を行った。
【0303】
実験例C1および実験例C2における蛍光量の測定には、Packard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー「ScanArray」を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度60%、励起波長649nm、測定波長670nm、解像度50μmであった。
【0304】
表3より、実験例C1は、いずれの希釈倍率においても、実験例C2よりもスポットシグナル値が強く、バックグランド値が低く、S/N比が大きい結果になった。
【0305】
[表3]

【0306】
(実験例D1、実験例D2)
実験例D1および実験例D2では、第4の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、抗体の検出を行った。
【0307】
(実験例D1)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR:21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を、1重量%のKBM903(信越化学社製、アミノシラン)水溶液に浸漬することにより第一の層を形成した。さらにこの基板を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液に浸漬することにより、基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を有する第二の層を形成した。
【0308】
(実験例D2)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR:21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液に浸漬することにより、基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を有する層を形成した。
【0309】
(評価実験)
次に、得られたそれぞれの基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより表4に示した希釈倍率で調製された一次抗体である抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することにより活性エステルを失活させた。その後1.0重量%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に1時間浸漬した。
【0310】
その後、抗原であるマウスIgG2aと抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表4に示す。
【0311】
実験例D1および実験例D2における蛍光量の測定には、Packard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー「ScanArray」を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度50%、励起波長649nm、測定波長670nm、解像度50μmであった。
【0312】
表4に示したように、実験例D1では、高いスポットシグナル値、低いバックグランド値が観測されたが、実験例D2では、層が剥がれてしまい、低いスポットシグナル値を示した。また層剥がれにより基板に非特異的吸着を起こしたためバックグランド値も高くなった。
【0313】
[表4]

【0314】
(実験例E1、実験例E2)
実験例E1および実験例E2では、第5の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、抗体の検出を行った。
【0315】
(実験例E1)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR:21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工した。基板を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液に浸漬することにより基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を導入した。
【0316】
次に該基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより表5に示した希釈倍率で調製された一次抗体、抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、親水性ポリマーとして、XTJ−506(サン テクノケミカル株式会社製、末端アミノ化エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体)の40重量%水溶液に浸漬することにより活性エステル基を親水性ポリマー化した。
【0317】
(実験例E2)
XTJ−506の40重量%水溶液の代わりに0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いたこと以外は実験例E1と同様の操作を行った。
【0318】
(評価実験)
実験例E1および実験例E2のバイチップのそれぞれについて、さらに抗原であるマウスIgG2aと抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表5に示す。
【0319】
蛍光量の測定には、Packard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー「ScanArray」を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度60%、励起波長649nm、測定波長670nm、解像度50μmであった。
【0320】
実験例E1は、いずれの希釈倍率においても、実験例E2よりもバックグランド値が低く、S/N比が大きい結果になった。
【0321】
[表5]

【0322】
(実験例F1〜実験例F3)
実験例F1〜実験例F3では、第6の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、抗体の検出を行った。
【0323】
(実験例F1)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR:21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−N−ヒドロキシスクシンイミドカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液に浸漬することにより、基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を導入した。
【0324】
次に、該基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより表6に示した希釈倍率で調製された一次抗体である抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、0.1規定の炭酸水素ナトリウム水溶液に浸漬することにより活性エステルを失活させた。
【0325】
その後、抗原であるマウスIgG2aと抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表6に示す。
【0326】
(実験例F2)
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液を用いた以外は実験例F1と同様に操作した。
【0327】
(実験例F3)
実験例F1と同様にして基板の表面に親水化処理を施したのち、アミノ基含有アルキルシランの2重量%水溶液中に浸漬後、熱処理を施して表面にアミノ基を導入した。これを1重量%グルタルアルデヒド水溶液中に浸漬することにより、表面のアミノ基とグルタルアルデヒドを反応させ、アルデヒド基を導入した。
【0328】
次に該基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより表6に示した希釈倍率で調製された一次抗体である抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、非特異吸着防止の為に5重量%スキムミルクを懸濁させた9.6g/リットルのPBS緩衝溶液に該基板を浸し室温で2時間静置した。その後、抗原であるマウスIgG2aと抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表6に示す。
【0329】
実験例F1〜F3における蛍光量の測定には、Packard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー「ScanArray」を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度50%、励起波長649nm、測定波長670nm、解像度50μmであった。
【0330】
実験例F1は、いずれの希釈倍率においても、実験例F2および実験例F3よりもスポットシグナル値が強く、バックグランド値が低く、S/N比が大きい結果になった。
【0331】
[表6]

【0332】
(実験例G1〜実験例G9)
実験例G1〜実験例G9では、第7の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、抗体の検出を行った。
【0333】
(実験例G1〜G7、実験例G10、実験例G11)単独ポリマー
表7の割合よりなるホスホリルコリン基および活性エステル基を有する高分子物質を飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR:21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))のスライド基板に導入した。溶液はエタノール基板で0.5重量%とした。
【0334】
[表7]

【0335】
(実験例G8、実験例G9、実験例G12〜G14)
実験例G6または実験例G7で用いたポリマーの0.5重量%エタノール溶液を、それぞれMPCポリマー(ホスホリルコリン基30モル%、ブチルメタクリレート基70モル%)の0.5重量%エタノール溶液と混合することにより各基の割合を調整した。配合割合と最終組成を表8に示す。
【0336】
[表8]

【0337】
(評価実験)
次に、該基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより表9に示した希釈倍率で調製された一次抗体、抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、0.1Nの水酸化ナトリウムの水溶液に浸漬することにより活性エステル基を処理した。
【0338】
実験例G1〜G14のバイチップについて、さらに抗原であるマウスIgG2aと抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表9に示す。
【0339】
蛍光量の測定には、Packard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー「ScanArray」を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度45%、励起波長649nm、測定波長670nm、解像度50μmであった。
【0340】
表9より、実験例G4、実験例G10〜G14は、バックグランド値が特に低く、S/N比が大きい結果になった。
【0341】
[表9]

【0342】
(実験例H1、実験例H2)
実験例H1および実験例H2では、第8の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、DNAのハイブリダイゼゼーションを行った。
【0343】
(実験例H1)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR:21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液に浸漬することにより、基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を導入した。
【0344】
(実験例H2)
実験例H1に使用したのと同様の基板を2体積%の3−アミノプロピル−トリメトキシシランのエタノール溶液に浸漬した後、純水洗浄し、熱処理することによりアミノ基を導入した。アミノ基を導入した基板を1体積%のグルタルアルデヒド水溶液に浸漬した後、純水洗浄することでアルデヒド基を導入した。
【0345】
(DNA溶液の調製)
DNA溶液1およびDNA溶液2として、以下の溶液を調製した。
DNA溶液1:5’末端にアミノ基を有した鎖長24bpのオリゴDNA(TAGAAGCATTTGCGGTGGACGATG(配列番号1)(シグマジェノシス社製)を0.1μg/μlの濃度になるように所定の緩衝液で溶解した。
DNA溶液2;5’末端にCy3標識を有した鎖長24bpのオリゴDNA(CATCGTCCACCGCAAATGCTTCTA(配列番号2)(シグマジェノシス社製)を0.002μg/μlの濃度になるように3×SSC(standard saline citrate)、0.2重量%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の溶液に溶解した。
【0346】
(スポットおよびハイブリダイゼーション)
実験例H1では、DNA溶液1を96穴プレートに分注し、マイクロピン式のマイクロアレイスポッターを用いて基板上にスポットした。スポット終了後、80℃のオーブン中に静置した。
【0347】
その後、0.1Nの水酸化ナトリウム溶液に5分間浸漬することによって、活性エステル基を不活性化することにより、ブロッキング処理を行った。次に、この基板上に、DNA溶液2を展開し、カバーグラスで覆い、65℃の多湿容器内で3時間放置することで、固定化されたオリゴDNAとCy3標識オリゴDNAとのハイブリダイゼーションを行った。その後、2×SSC、0.5重量%SDS中で洗浄し、次に純水洗浄することによりDNAハイブリダイゼーション後の基板を作製した。
【0348】
実験例H2では、実験例H1と同様にして、DNA溶液1を96穴プレートに分注し、マイクロピン式のマイクロアレイスポッターを用いて基板上にスポットした。スポット終了後、80℃のオーブン中に静置した。
【0349】
その後、0.5重量%水素化ホウ素ナトリウムPBS溶液に5分間浸漬することによって、余分なアルデヒド基をブロッキングした。この基板上に、DNA溶液2を展開し、カバーグラスで覆い、65℃の多湿容器内で3時間放置することで、固定化されたオリゴDNAとCy3標識オリゴDNAとのハイブリダイゼーションを行った。その後、2×SSC、0.5重量%SDS中で洗浄し、次に純水洗浄することによりDNAハイブリダイゼーション後の基板を作製した。
【0350】
(評価実験)
実験例H1および実験例H2における自己蛍光量の測定には、マイクロアレイ用蛍光スキャナー「ScanArray」(Packard BioChip Technologies社製)を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度70%、励起波長550nm、測定波長570nmであった。ScanArrayを用いて得られたスキャンイメージから、スキャナーに付属の解析用ソフトウェア「QuantArray」を用いて基板の蛍光量を数値化した結果を表10に示す。
【0351】
DNAハイブリダイゼーション後の蛍光カウント値、バックグランド値の測定にはマイクロアレイスキャナー「ScanArray Lite」(パッカードバイオチップテクノロジー社製)を用いてスポットの蛍光を検出した。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度45%、励起波長550nm、測定波長570nmであった。スキャナーに付属の解析用ソフトウェア「QuantArray」を用いてスポットの蛍光量を数値化した結果を表10に示す。
【0352】
実験例H1では、実験例H2と比較して、自己蛍光が低い結果となった。また、DNAハイブリダイゼーション後の蛍光カウント値についても実験例H1が優れていた。この結果は、本発明の効果を支持するものであった。
【0353】
[表10]

【0354】
(実験例I1〜実験例I5)
実験例I1〜実験例I5では、第9の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、抗体の検出を行った。
【0355】
(実験例I1)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物(MFR:21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃))をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を、1重量%の(3−アクリルオキシプロピル)トリメトキシシランのエタノール/水混合溶液に浸漬することにより第一の層を形成した。さらにこの基板を2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリン(0.1mol/L)、p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート(0.1mol/L)、ラジカル開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(0.01mol/L)のエタノール溶液に浸漬し65℃にて4時間加熱することにより基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する第二の層を形成した。
【0356】
(実験例I2)
第一の層の形成に(3−アクリルオキシプロピル)トリメトキシシランの代わりにメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランを用いた以外は実験例I1と同様に操作して基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する第二の層を形成した。
【0357】
(実験例I3)
飽和環状ポリオレフィン樹脂をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を、1重量%のビニルトリエトキシシランのエタノール/水混合溶液に浸漬することにより第一の層を形成した。さらにこの基板を2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリン(0.1mol/L)、p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート(0.1mol/L)、光開始剤である1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(0.01mol/L)のエタノール溶液に浸漬し250nm−400nmの紫外線を2時間照射することにより基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する第二の層を形成した。
【0358】
(実験例I4)
第一の層の形成にアリルトリエトキシシランを用いた以外はすべて実験例I3と同様に操作して基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する第二の層を形成した。
【0359】
(実験例I5)
飽和環状ポリオレフィン樹脂をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して基板を作製した。基板を2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液に浸漬することにより、基板表面にホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を有する層を形成した。
【0360】
(評価実験)
次に該基板上でサンドイッチ法を実施した。詳細はまず、該基板に自動スポッターにより表11に示した希釈倍率で調製された一次抗体である抗マウスIgG2aをスポット後、室温4℃の環境下に24時間静置した。その後、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することにより活性エステル基を失活させた。その後1.0重量%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に1時間浸漬した。
【0361】
その後、抗原であるマウスIgG2aと抗原抗体反応を実施後、二次抗体であるビオチン標識抗マウスIgG2aと抗原抗体反応を実施した。最後にCy5標識されたストレプトアビジンと反応させ、各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表11に示す。
【0362】
実験例I1〜実験例I5における蛍光量の測定には、Packard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー「ScanArray」を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度60%、励起波長649nm、測定波長670nm、解像度50μmであった。
【0363】
実験例I1〜実験例I4では、高いスポットシグナル値、低いバックグランド値が観測されたが、実験例I5では、層が剥がれてしまい、低いスポットシグナル値を示した。また層剥がれにより基板に非特異的吸着を起こしたためバックグランド値も高くなった。
【0364】
[表11]

【0365】
(実験例J1〜J6)
本実験例では、第10の実施形態に記載のバイオチップ用基板およびバイオチップを作製し、DNAのハイブリダイゼーションおよび抗体の検出を行った。
【0366】
(溶液類の調製)
本実験例において、DNA溶液1、2、抗体溶液、抗原溶液、およびブロッキング溶液1〜3として、以下の溶液を調製した。
【0367】
DNA溶液1:5‘末端にアミノ基を有した鎖長24bpのオリゴDNA(TAGAAGCATTTGCGGTGGACGATG(配列番号1)(シグマジェノシス社製)を0.1μg/μlの濃度になるように所定の緩衝液に溶解し調製した。
DNA溶液2:5‘末端にCy3標識を有した鎖長24bpのオリゴDNA(CATCGTCCACCGCAAATGCTTCTA(配列番号2)(シグマジェノシス社製)を0.002μg/μlの濃度になるように3×SSC、0.2重量%SDSの溶液に溶解した。
【0368】
抗体溶液:抗マウスIgG2a抗体(ウサギ由来)をPBS中に0.1mg/mlの濃度の濃度で溶解し調製した。
抗原溶液:FBS中にマウスIgG2a抗体を1μg/ml濃度で溶解し、pH9.5の炭酸バッファー1ml中に、上記マウスIgG2a抗体を含むFBSを100μlを加え、さらに1mg/ml濃度でNHS化Cy3を超純水に溶解させた溶液を10μl添加し、25℃で2時間放置し、ゲルろ過カラムにより未反応のNHS化Cy3を除き、PBS中にCy3標識されたマウスIgG2aおよびFBS由来タンパク質を含む溶液を調製した。
【0369】
ブロッキング溶液1:0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を調製した。
ブロッキング溶液2:水素化ホウ素ナトリウムを0.5重量%の濃度でPBS中に溶解し調製した。
ブロッキング溶液3:BSAを1重量%濃度でPBS中に溶解させ調製した。
【0370】
(実験例J1)
射出成形により、幅150μm深さ100μmの溝と、溝の末端に設けられた直径1mmの貫通孔と、を有するポリスチレン樹脂基板を成形した。また、この基板と同じ大きさのポリスチレン樹脂の平板基板を成形した。
【0371】
溝を形成させた基板の溝を有する面と平板基板の片面とを2−メタクリロイルオキシエチルホシホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液を塗布乾燥することにより、ホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を導入した。
【0372】
直径100μmのマイクロアレイ用スポットピンを用いて、DNA溶液1を溝の底面部に点着し、点着後湿度を保ちながら一晩放置した。その後、平面基板の樹脂コート面と溝を有する基板の溝が形成された面を合わせ、超音波溶着により基板同士を貼り合わせ、流体が流通できる基板を作製した。溝の末端に設けられた孔からブロッキング溶液1を注入し、流路内に満たした後、10分間放置し、流路内の活性エステル基を不活化し、DNAハイブリダイゼーションによる評価に供した。
【0373】
(実験例J2)
射出成形により、ポリスチレン樹脂基板に、幅150μm深さ100μmの溝および溝の末端に直径1mmの貫通孔を有する基板を成形した。また、この基板と同じ大きさの平板基板を成形した。
【0374】
溝を形成させた基板の溝を有する面と平板基板の片面を2−メタクリロイルオキシエチルホシホリルコリン−ブチルメタクリレート−p−ニトロフェニルカルボニルオキシエチルメタクリレート共重合体の0.5重量%エタノール溶液を塗布乾燥することにより、ホスホリルコリン基と活性エステル基とを有する高分子物質を導入した。
【0375】
直径100μmのマイクロアレイ用スポットピンを用いて、抗体溶液を溝の底面部に点着し、点着後湿度を保ちながら一晩放置した。その後、平面基板の樹脂コート面と溝側を合わせ、超音波溶着により基板同士を貼り合わせ、流体が流通できる基板を作製した。溝の末端に設けられた孔からブロッキング溶液1を注入し、流路内に満たした後、10分間放置し、流路内の活性エステル基を不活化し、抗原抗体反応による評価に供した。
【0376】
(実験例J3)
射出成形によりポリスチレン樹脂基板に幅150μm深さ100μmの溝および溝の末端に直径1mmの貫通孔を有する基板およびこの基板と同じ大きさの平板基板を成形した。両基板の表面に親水化処理を施した後、アミノアルキルシラン2重量%溶液中に浸漬した後、熱処理を施し両基板の表面にアミノ基を導入した。これを1重量%グルタルアルデヒド水溶液に浸漬することにより、基板表面のアミノ基とグルタルアルデヒドを反応させ、アルデヒド基を導入した。直径100μmのマイクロアレイ用スポットピンを用いて、DNA溶液1を溝の底面部に点着し、点着後湿度を保ちながら一晩放置した。その後、平面基板の樹脂コート面と溝側を合わせ、超音波溶着により基板同士を貼り合わせ、流体が流通できる基板を作製した。溝の末端に設けられた孔からブロッキング溶液2を注入し、流路内に満たした後、10分間放置し流路内のアルデヒド基を不活化し、DNAハイブリダイゼーションによる評価に供した。
【0377】
(実験例J4)
射出成形によりポリスチレン樹脂基板に幅150μm深さ100μmの溝および溝の末端に直径1mmの貫通孔を有する基板およびこの基板と同じ大きさの平板基板を成形した。両基板の表面に親水化処理を施した後、アミノアルキルシラン2重量%溶液中に浸漬した後、熱処理を施し両基板の表面にアミノ基を導入した。これを1重量%グルタルアルデヒド水溶液に浸漬することにより、基板表面のアミノ基とグルタルアルデヒドを反応させ、アルデヒド基を導入した。
【0378】
直径100μmのマイクロアレイ用スポットピンを用いて、抗体溶液を溝の底面部に点着し、点着後湿度を保ちながら一晩放置した。その後、平面基板の樹脂コート面と溝側を合わせ、超音波溶着により基板同士を貼り合わせ、流体が流通できる基板を作製した。溝の末端に設けられた孔からブロッキング溶液2を2μl/分のスピードで10分間送液した後、ブロッキング溶液3を2μl/分のスピードで10分間送液し、最後にPBSを送液し、抗原抗体反応による評価に供した。
【0379】
(実験例J5)
射出成形によりポリスチレン樹脂基板に幅150μm深さ100μmの溝および溝の末端に直径1mmの貫通孔を有する基板およびこの基板と同じ大きさの平板基板を成形した。両基板の表面に親水化処理を施した後、アミノアルキルシラン2重量%溶液中に浸漬した後、熱処理を施し両基板の表面にアミノ基を導入した。これを1重量%グルタルアルデヒド水溶液に浸漬することにより、基板表面のアミノ基とグルタルアルデヒドを反応させ、アルデヒド基を導入した。
【0380】
直径100μmのマイクロアレイ用スポットピンを用いて、抗体溶液を溝の底面部に点着し、点着後湿度を保ちながら一晩放置した。その後、平面基板の樹脂コート面と溝側を合わせ、超音波溶着により基板同士を貼り合わせ、流体が流通できる基板を作製した。溝の末端に設けられた孔からブロッキング溶液2を2μl/分のスピードで10分間送液し、最後にPBSを送液し、抗原抗体反応による評価に供した。
【0381】
(実験例J6)
射出成形によりポリスチレン樹脂基板に幅150μm深さ100μmの溝および溝の末端に直径1mmの貫通孔を有する基板およびこの基板と同じ大きさの平板基板を成形した。両基板の表面に親水化処理を施した。
【0382】
直径100μmのマイクロアレイ用スポットピンを用いて、抗体溶液を溝の底面部に点着し、点着後湿度を保ちながら一晩放置した。その後、平面基板の樹脂コート面と溝側を合わせ、超音波溶着により基板同士を貼り合わせ、流体が流通できる基板を作製した。溝の末端に設けられた孔からブロッキング溶液3を2μl/分のスピードで10分間送液し、最後にPBSを送液し、抗原抗体反応による評価に供した。
【0383】
(DNAハイブリダイゼーションによる評価実験)
実験例J1および実験例J3を用いて評価を行った。注入孔からDNA溶液2を2μl/分のスピードで1分間、3分間、5分間、および10分間送液した後、PBS(−)を5μl/分のスピードで10分間送液し洗浄を行い、超純水を送液した後、流路中のDNAスポット部およびスポット部以外の蛍光(Cy3)をマイクロアレイ用スキャナー「ScanArray Lite」(パッカードバイオチップテクノロジー社製)を用いて測定した。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度45%、励起波長550nm、測定波長570nmであった。スキャナーに付属の解析用ソフトウェア「QuantArray」を用いてスポットの蛍光量を数値化した結果を表12および表13に示す。
【0384】
(抗原抗体反応による評価実験)
実験例J2、実験例J4、実験例J5および実験例J6を用いて評価を行った。注入孔から抗原溶液を2μl/分のスピードで1分間、3分間、5分間、および10分間送液した後、PBS(−)を5μl/分のスピードで10分間送液し洗浄を行い、超純水を送液した後、流路中のDNAスポット部およびスポット部以外の蛍光(Cy3)をマイクロアレイ用スキャナーで測定した。結果を表14および表15に示す。
【0385】
なお、以上の実験例においては、基板の材料をプラスチックとした実験例を示したが、基板の材料をガラスとした場合にも、基板表面にホスホリルコリン基および活性エステル基を有する高分子物質を用いることにより、検出感度の向上が可能であった。
【0386】
[表12]

【0387】
[表13]

【0388】
[表14]

【0389】
[表15]

【0390】
以下、本発明の実施態様を列挙する。
(1−1)固相基板の表面の生理活性物質を固定化するバイオチップ用基板であって、基板表面にホスホリルコリン基及び活性エステル基を有する高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
(1−2)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである(1−1)記載のバイオチップ用基板。
(1−3)活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル基である(1−1)又は(1−2)記載のバイオチップ用基板。
(1−4)前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体である(1−1)〜(1−3)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(1−5)固相基板がプラスチック製であることを特徴とする(1−1)〜(1−4)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(1−6)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである(1−5)記載のバイオチップ用基板。
(1−7)固相基板がガラス製である(1−1)〜(1−4)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(1−8)(1−1)〜(1−7)いずれか記載のバイオチップ用基板に生理活性物質を固定化する工程、及び生理活性物質を固定化した以外の基板表面の活性エステル基を不活性化する工程を有することを特徴とするバイオチップの製造方法。
(1−9)活性エステル基の不活性化をアルカリ化合物を用いて行う(1−8)記載のバイオチップの製造方法。
(1−10)活性エステル基の不活性化を1級のアミノ基を有する化合物を用いて行う(1−8)記載のバイオチップの製造方法。
(1−11)1級のアミノ基を有する化合物がアミノエタノール、又はグリシンである(1−10)記載のバイオチップの製造方法。
(1−12)生理活性物質が核酸、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである(1−8)〜(1−11)いずれかに記載のバイオチップの製造方法。
(1−13)(1−8)〜(1−12)いずれか記載のバイオチップの製造方法により製造されたバイオチップ。
【0391】
(2−1)ホスホコリン基及び活性エステル基を有する高分子層を表面に有する基板に、該活性エステル基を介して、生理活性物質を捕捉する分子が基板表面に固定化されているバイオチップ。
(2−2)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基である(2−1)記載のバイオチップ。
(2−3)活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル基である(2−1)又は(2−2)記載のバイオチップ。
(2−4)前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体である(2−1)〜(2−3)いずれか記載のバイオチップ。
(2−5)固相基板がプラスチック製である(2−1)〜(2−4)いずれか記載のバイオチップ。
(2−6)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである(2−5)記載のバイオチップ。
(2−7)固相基板がガラス製である(2−1)〜(2−4)いずれか記載のバイオチップ。
(2−8)生理活性物質を捕捉する分子が核酸、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである(2−1)〜(2−7)いずれか記載のバイオチップ。
(2−9)生理活性物質を捕捉する分子の固定化が、pH7.6以上で行なわれる、(2−1)〜(2−8)いずれか記載のバイオチップ。
(2−10)(2−1)〜(2−9)いずれか記載のバイオチップに更に生理活性物質が捕捉されたバイオチップ。
(2−11)生理活性物質が核酸、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである(2−10)記載のバイオチップ。
(2−12)(2−10)又は(2−11)のバイオチップの製造方法であって、生理活性物質を含むpH7.6以下の溶液を基板表面に接触させる工程を含むことを特徴とするバイオチップの製造方法。
【0392】
(3−1)基板の表面にホスホリルコリン基及び活性エステル基を有する高分子物質を有するバイオチップ用基板の使用方法であって、(1)pH7.6以上で生理活性物質を捕捉する分子である捕捉分子を固定する工程、及び(2)検出する生理活性物質を含むpH7.6以下の溶液を基板表面に接触させ、該捕捉分子に生理活性物質を捕捉させる工程、を含むことを特徴とするバイオチップ用基板の使用方法。
(3−2)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基である(3−1)記載のバイオチップ用基板の使用方法。
(3−3)活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル基である(3−1)又は(3−2)記載のバイオチップ用基板の使用方法。
(3−4)前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体である(3−1)〜(3−3)いずれか記載のバイオチップ用基板の使用方法。
(3−5)捕捉分子が核酸、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである(3−1)〜(3−4)いずれか記載のバイオチップ用基板の使用方法。
(3−6)検出する生理活性物質が核酸、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである(3−1)〜(3−5)いずれか記載のバイオチップ用基板の使用方法。
【0393】
(4−1)固相基板の表面に生理活性物質を固定化するバイオチップ用基板であって、基板表面にアミノ基を有する化合物を含む層Aとホスホリルコリン基及び活性エステル基を有する高分子物質を含む層Bとが基板、層A、層Bの順で重層されていることを特徴とするバイオチップ用基板。
(4−2)層Aのアミノ基の一部又は全てが層Bの活性エステル基と反応して共有結合を形成している(4−1)記載のバイオチップ用基板。
(4−3)層Bの活性エステル基の一部が層Aのアミノ基と反応して共有結合を形成している(4−1)又は(4−2)記載のバイオチップ用基板。
(4−4)層Aがアミノシランを含む(4−1)〜(4−3)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(4−5)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基である(4−1)〜(4−4)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(4−6)活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル基である(4−1)〜(4−5)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(4−7)前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体である(4−1)〜(4−6)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(4−8)固相基板がプラスチック製である(4−1)〜(4−7)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(4−9)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである(4−8)記載のバイオチップ用基板。
(4−10)固相基板がガラス製である(4−1)〜(4−7)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(4−11)(4−1)〜(4−10)いずれか記載のバイオチップ用基板の製造方法であって、(1)基板表面とアミノ基を有する化合物との接触工程、及び(2)ホスホリルコリン基及び活性エステル基を有する高分子物質との接触工程、を含むバイオチップ用基板の製造方法。
【0394】
(5−1)基板表面にホスホリルコリン基及び活性エステル基を有する高分子物質を有するバイオチップ用基板に活性エステル基と反応して生理活性物質が固定化され、前記生理活性物質が固定化されている以外の基板表面の活性エステル基部に親水性基を有するポリマーが導入されていることを特徴とするバイオチップ。
(5−2)親水性ポリマーが、アミノ基を有する親水性ポリマーである(5−1)記載のバイオチップ。
(5−3)親水性ポリマーがポリアルキレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びこれらの共重合体のいずれかを構造中に含むものである(5−1)又は(5−2)記載のバイオチップ。
(5−4)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基である(5−1)〜(5−3)いずれか記載のバイオチップ。
(5−5)活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル基である(5−1)〜(5−4)いずれか記載のバイオチップ。
(5−6)前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体である(5−1)〜(5−5)いずれか記載のバイオチップ。
(5−7)固相基板がプラスチック製である(5−1)〜(5−6)いずれか記載のバイオチップ。
(5−8)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである(5−7)記載のバイオチップ。
(5−9)固相基板がガラス製である(5−1)〜(5−6)いずれか記載のバイオチップ。
(5−10)生理活性物質が核酸、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである(5−1)〜(5−9)いずれかに記載のバイオチップ。
(5−11)(5−1)〜(5−10)いずれか記載のバイオチップの製造方法であって、基板表面にホスホリルコリン基及び活性エステル基を有する高分子物質を有するバイオチップ用基板に生理活性物質を固定化する工程、及び生理活性物質が固定化されている以外の基板表面の活性エステル基部に親水性基を有するポリマーを導入する工程、を含むことを特徴とするのバイオチップの製造方法。
【0395】
(6−1)固相基板の表面の生理活性物質を固定化するバイオチップ用基板であって、基板表面にホスホリルコリン基及びN−ヒドロキシスクシンイミドエステルを有する高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
(6−2)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである(6−1)記載のバイオチップ用基板。
(6−3)前記高分子物質がブチルメタクリレート基、を含む共重合体である(6−1)又は(6−2)記載のバイオチップ用基板。
(6−4)固相基板がプラスチック製であることを特徴とする(6−1)〜(6−3)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(6−5)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである(6−4)記載のバイオチップ用基板。
(6−6)固相基板がガラス製である(6−1)〜(6−3)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(6−7)(6−1)〜(6−6)いずれか記載のバイオチップ用基板に生理活性物質を固定化する工程、及び生理活性物質を固定化した以外の基板表面の活性エステル基を不活性化する工程を有することを特徴とするバイオチップの製造方法。
(6−8)活性エステル基の不活性化をアルカリ化合物を用いて行う(6−7)記載のバイオチップの製造方法。
(6−9)活性エステル基の不活性化を1級のアミノ基を有する化合物を用いて行う(6−7)記載のバイオチップの製造方法。
(6−10)1級のアミノ基を有する化合物がアミノエタノール、又はグリシンである(6−9)記載のバイオチップの製造方法。
(6−11)生理活性物質が核酸、アプタマー、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである(6−7)〜(6−10)いずれかに記載のバイオチップの製造方法。
(6−12)(6−7)〜(6−11)いずれか記載のバイオチップの製造方法により製造されたバイオチップ。
【0396】
(7−1)ホスホリルコリン基及び活性エステル基を有する高分子物質、あるいは前記高分子物質とホスホリルコリン基及びブチルメタクリレート基からなるポリマーとの混合ポリマーを基板の表面に有することを特徴とするバイオチップ。
(7−2)高分子物質、あるいは混合ポリマーに含まれるホスホリルコリン基の割合が20モル%以上40モル%未満である(7−1)記載のバイオチップ。
(7−3)高分子物質、あるいは混合ポリマーに含まれる活性エステル基の割合が15モル%以上25モル%未満である(7−1)又は(7−2)記載のバイオチップ。
(7−4)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基である(7−1)〜(7−3)いずれか記載のバイオチップ。
(7−5)活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル基又はN−ヒドロキシスクシンイミドエステルである(7−1)〜(7−4)いずれか記載のバイオチップ。
(7−6)前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体である(7−1)〜(7−5)いずれか記載のバイオチップ。
(7−7)固相基板がプラスチック製である(7−1)〜(7−6)いずれか記載のバイオチップ。
(7−8)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである(7−7)記載のバイオチップ。
(7−9)固相基板がガラス製である(7−1)〜(7−6)いずれか記載のバイオチップ。
(7−10)(7−1)〜(7−9)いずれか記載のバイオチップの製造方法であって、基板表面にホスホリルコリン基及び活性エステル基を有する高分子物質、あるいは前記高分子物質とホスホリルコリン基及びブチルメタクリレート基からなるポリマーとの混合ポリマーを有するバイオチップ用基板に生理活性物質を固定化する工程、及び前記生理活性物質が固定化されている以外の基板表面の活性エステル基部に親水性基を有するポリマーを導入する工程、を含むことを特徴とするバイオチップの製造方法。
(7−11)生理活性物質が核酸、アプタアマー、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質の内、少なくとも一つである(7−10)に記載のバイオチップの製造方法。
【0397】
(8−1)固相基板の表面に生理活性物質を固定化し蛍光色素を用いて検出するためのマイクロアレイ用基板であって、固相基板表面にホスホリルコリン基及び活性エステル基を有する高分子物質を有することを特徴とするマイクロアレイ用基板。
(8−2)ホスホリルコリン基が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基である(8−1)記載のマイクロアレイ用基板。
(8−3)活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル基又はN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基である(8−1)又は(8−2)記載のマイクロアレイ用基板。
(8−4)前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体である(8−1)〜(8−3)いずれか記載のマイクロアレイ用基板。
(8−5)固相基板がプラスチック製である(8−1)〜(8−4)いずれか記載のマイクロアレイ用基板。
(8−6)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである(8−5)記載のマイクロアレイ用基板。
(8−7)固相基板がガラス製である請求項(8−1)〜(8−4)いずれか記載のマイクロアレイ用基板。
(8−8)(8−1)〜(8−7)いずれか記載のマイクロアレイ用基板に核酸、アプタマー、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、及び糖タンパク質の内、少なくとも一つの生理活性物質を固定化したマイクロアレイ。
【0398】
(9−1)固相基板の表面に生理活性物質を固定化するためのバイオチップ用基板であって、固相基板表面上に層Aが形成され、更に層A上に層Bが形成され、層Aはアクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、及びオレフィン基から選ばれる少なくとも1つの基を有する化合物Aから形成され、層Bはホスホリルコリン基を有する単量体の重合体、及び活性エステル基を有する単量体の重合体から形成されていることを特徴とするバイオチップ用基板。
(9−2)化合物Aのアクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、及びオレフィン基から選ばれる少なくとも1つの基の一部又は全てが、層Bのホスホリルコリン基を有する単量体、及び活性エステル基を有する単量体の共重合体と共有結合を形成している(9−1)記載のバイオチップ用基板。
(9−3)化合物Aがアクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、及びオレフィン基から選ばれる少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤である(9−1)又は(9−2)記載のバイオチップ用基板。
(9−4)ホスホリルコリン基を有する単量体が、更にメタクリ基又はアクリル基を有するものである(9−1)〜(9−3)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(9−5)ホスホリルコリン基を有する単量体が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである(9−4)記載のバイオチップ用基板。
(9−6)活性エステル基を有する単量体が、更にメタクリ基又はアクリル基を有するものである(9−1)〜(9−5)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(9−7)活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル基又はN−ヒドロキシスクシイミドエステル基である(9−1)〜(9−6)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(9−8)固相基板がプラスチック製である(9−1)〜(9−7)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(9−9)プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである(9−8)記載のバイオチップ用基板。
(9−10)固相基板がガラス製である(9−1)〜(9−7)いずれか記載のバイオチップ用基板。
(9−11)(9−1)〜(9−10)いずれか記載のバイオチップ用基板の製造方法であって、固相基板表面にアクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、及びオレフィン基から選ばれる少なくとも1つの基を有する化合物Aを有する層Aを形成した後、層A上でホスホリルコリン基を有する単量体、及び活性エステル基を有する単量体を共重合することにより層Bを形成することを特徴とするバイオチップ用基板の製造方法。
(9−12)(9−1)〜(9−10)いずれか記載のバイオチップ用基板に生理活性物質を固定化したバイオチップ。
【0399】
(10−1)基板と、前記基板に設けられた流路と、を有し、前記流路上に、ホスホリルコリン基を有する第一単位とカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有し、前記カルボン酸誘導基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。
(10−2)(10−1)に記載のバイオチップにおいて、複数の前記カルボン酸誘導基を有し、前記複数のカルボン酸誘導基は、前記捕捉物質と反応して共有結合を形成しているか、または不活化されていることを特徴とするバイオチップ。
(10−3)(10−1)または(10−2)に記載のバイオチップにおいて、前記カルボン酸誘導基が活性エステル基であることを特徴とするバイオチップ。
(10−4)(10−3)に記載のバイオチップにおいて、前記活性エステル基がp−ニトロフェニル基またはN−ヒドロキシスクシンイミド基を有することを特徴とするバイオチップ。
(10−5)基板と、前記基板に設けられた流路と、を有し、前記流路の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と下記式(1)に示される一価の基を有する第二単位とを含む高分子物質を有し、前記式(1)に示される一価の基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。
【0400】

【0401】
(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
(10−6)(10−5)に記載のバイオチップにおいて、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であることを特徴とするバイオチップ。
【0402】

【0403】
(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
(10−7)(10−1)乃至(10−6)いずれかに記載のバイオチップにおいて、ホスホリルコリン基を含む前記第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有することを特徴とするバイオチップ。
(10−8)(10−1)乃至(10−7)いずれかに記載のバイオチップにおいて、前記高分子物質は、ブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することを特徴とするバイオチップ。
(10−9)(10−1)乃至(10−8)に記載のバイオチップにおいて、前記基板の材料がプラスチックであることを特徴とするバイオチップ。
(10−10)(10−1)乃至(10−9)いずれかに記載のバイオチップにおいて、前記流路を覆う保護部材を有することを特徴とするバイオチップ。
(10−11)(10−10)に記載のバイオチップにおいて、前記基板の材料と、前記保護部材の材料のうち、少なくとも一方が検出光に対して透明なプラスチックであることを特徴とするバイオチップ。
(10−12)(10−1)乃至(10−11)に記載のバイオチップにおいて、前記基板の材料がガラスであることを特徴とするバイオチップ。
(10−13)(10−1)乃至(10−12)いずれかに記載のバイオチップにおいて、前記捕捉物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であることを特徴とするバイオチップ。
(10−14)(10−1)乃至(10−13)いずれかに記載のバイオチップにおいて、前記生理活性物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であることを特徴とするバイオチップ。
【産業上の利用可能性】
【0404】
本発明のバイオチップは、タンパク質をはじめとする生理活性物質の非特異的吸着が少ないため検体中の標的となる生理活性物質のロスが抑制されており、効率よく抗原抗体反応等の特異的相互作用が生じるため、短時間で高感度な生理活性物質の検出が可能である。また、基板の自己蛍光が低減化し、蛍光色素の吸着を低減された構成であるため、S/N比を高め、検体のシグナルを精密に検出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と活性エステル基を有する第二単位とを含む高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載のバイオチップ用基板において、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を有する第三単位を含み、
前記高分子物質に含まれる前記ホスホリルコリン基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、20モル%以上40モル%未満であることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項3】
請求の範囲第1項に記載のバイオチップ用基板において、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を有する第三単位を含み、
前記高分子物質に含まれる前記ホスホリルコリン基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、3モル%以上40モル%以下であることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項4】
請求の範囲第1項に記載のバイオチップ用基板において、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を有する第三単位を含み、
前記高分子物質に含まれる前記活性エステル基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、15モル%以上25モル%未満であることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項5】
請求の範囲第1項に記載のバイオチップ用基板において、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を有する第三単位を含み、
前記高分子物質に含まれる前記活性エステル基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、1モル%以上25モル%以下であることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項6】
基板の表面に、下記(a)、(b)成分を含む高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
(a)ホスホリルコリン基を有する第一単位と活性エステル基を有する第二単位とを含む高分子
(b)ホスホリルコリン基を有する第一単位とブチルメタクリレート基を有する第三単位とを含む高分子
【請求項7】
請求の範囲第6項に記載のバイオチップ用基板において、前記高分子物質に含まれるホスホリルコリン基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、20モル%以上40モル%未満であることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項8】
請求の範囲第6項に記載のバイオチップ用基板において、前記高分子物質に含まれるホスホリルコリン基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、3モル%以上40モル%以下であることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項9】
請求の範囲第6項に記載のバイオチップ用基板において、前記高分子物質に含まれる前記活性エステル基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、15モル%以上25モル%未満であることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項10】
請求の範囲第6項に記載のバイオチップ用基板において、前記高分子物質に含まれる前記活性エステル基の、前記ホスホリルコリン基と前記活性エステル基と前記ブチルメタクリレート基との合計に対する割合が、1モル%以上25モル%以下であることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項11】
基板の表面に、
アミノ基を有する化合物を含む第一の層と、
ホスホリルコリン基を含む第一単位と活性エステル基を含む第二単位とを有する高分子物質を含む第二の層と、
が、
前記基板、前記第一の層、および前記第二の層の順で積層されていることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項12】
請求の範囲第11項に記載のバイオチップ用基板において、
前記第一の層の前記アミノ基と、前記第二の層の前記活性エステル基とが反応してアミド結合が形成されたことを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項13】
請求の範囲第11項に記載のバイオチップ用基板において、前記第一の層が前記アミノ基を有するシランカップリング剤を含むことを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項14】
請求の範囲第1項、第6項、および第11項のいずれかに記載のバイオチップ用基板において、
ホスホリルコリン基を含む前記第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項15】
請求の範囲第1項または第11項に記載のバイオチップ用基板において、前記高分子物質は、ブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項16】
基板上に第一の層が形成され、
さらに第一の層上に第二の層が形成され、
前記第一の層は、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも一つの基を有する化合物から形成され、
前記第二の層は、ホスホリルコリン基を有する単量体の重合体と、活性エステル基を有する単量体と、の共重合体から形成されていることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項17】
基板と、
前記基板上に設けられ、オルガノシロキサンからなる第一の層と、
第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を有する単量体と、活性エステル基を有する単量体との共重合体からなる第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項18】
請求の範囲16項に記載のバイオチップ用基板において、
前記化合物の、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基が、前記第二の層の前記共重合体と共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項19】
請求の範囲16項に記載のバイオチップ用基板において、
前記第一の層が、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤により形成されたことを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項20】
請求の範囲19項に記載のバイオチップ用基板において、ホスホリルコリン基を有する前記単量体が、メタクリル基またはアクリル基を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項21】
請求の範囲19項に記載のバイオチップ用基板において、ホスホリルコリン基を有する前記単量体が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンであることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項22】
請求の範囲16項に記載のバイオチップ用基板において、活性エステル基を有する前記単量体が、メタクリル基またはアクリル基を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項23】
請求の範囲第1項、第6項、第11項、第16項、および第17項のいずれかに記載のバイオチップ用基板において、前記活性エステル基がp−ニトロフェニル基またはN−ヒドロキシスクシンイミド基を含むことを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項24】
請求の範囲第1項、第6項、第11項、第16項、および第17項のいずれかに記載のバイオチップ用基板において、前記基板の材料がプラスチックであることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項25】
請求の範囲第24項に記載のバイオチップ用基板において、前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンであることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項26】
請求の範囲第1項、第6項、第11項、第16項、および第17項のいずれかに記載のバイオチップ用基板において、前記基板の材料がガラスであることを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項27】
基板の表面に、ホスホリルコリン基を含む第一単位と下記式(1)に示される一価の基を含む第二単位とを有する高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板。

(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
【請求項28】
請求の範囲第27項に記載のバイオチップ用基板において、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であることを特徴とするバイオチップ用基板。

(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【請求項29】
基板の表面に、ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項30】
基板の表面に、下記(a)、(b)成分を含む高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
(a)ホスホリルコリン基を有する第一単位と下記式(1)で示される一価の基を有する第二単位とを含む高分子
(b)ホスホリルコリン基を有する第一単位とブチルメタクリレート基を有する第三単位とを含む高分子


(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
【請求項31】
請求の範囲第30項に記載のバイオチップ用基板において、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であることを特徴とするバイオチップ用基板。

(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【請求項32】
基板の表面に、下記(a)、(b)成分を含む高分子物質を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
(a)ホスホリルコリン基を有する第一単位とカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子
(b)ホスホリルコリン基を有する第一単位とブチルメタクリレート基を有する第三単位とを含む高分子
【請求項33】
基板と、
前記基板上に設けられ、アミノ基を有する化合物を含む第一の層と、
前記第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を有する第一単位と下記式(1)で示される一価の基を有する第二単位とを含む高分子物質を含む第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板。

(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
【請求項34】
請求の範囲第33項に記載のバイオチップ用基板において、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であることを特徴とするバイオチップ用基板。

(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【請求項35】
基板と、
前記基板上に設けられ、アミノ基を有する化合物を含む第一の層と、
前記第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質を含む第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項36】
基板と、
前記基板上に設けられ、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基を有する化合物から形成された第一の層と、
前記第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を有する単量体の重合体と、下記式(1)で示される一価の基を有する単量体と、の共重合体から形成された第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板。

(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
【請求項37】
請求の範囲第36項に記載のバイオチップ用基板において、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であることを特徴とするバイオチップ用基板。


(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【請求項38】
基板と、
前記基板上に設けられ、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびアルケニル基から選ばれる少なくとも1つの基を有する化合物から形成された第一の層と、
前記第一の層上に設けられ、ホスホリルコリン基を有する単量体と、カルボン酸誘導基を有する単量体と、の共重合体から形成された第二の層と、
を有することを特徴とするバイオチップ用基板。
【請求項39】
請求の範囲第1項または第6項に記載のバイオチップ用基板の前記基板の表面に生理活性物質を捕捉する捕捉物質を固定化し、蛍光色素を用いて前記生理活性物質を検出するためのマイクロアレイ用基板であって、
前記基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と活性エステル基を有する第二単位とを含む前記高分子物質を有することを特徴とするマイクロアレイ用基板。
【請求項40】
請求の範囲第1項、第6項、第11項、第16項、および第17項のいずれかに記載のバイオチップ用基板に、生理活性物質を捕捉する捕捉物質が固定化されたことを特徴とするバイオチップ。
【請求項41】
ホスホリルコリン基を含む第一単位と活性エステル基を含む第二単位とを有する高分子物質を表面に有する基板を含むバイオチップであって、
前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。
【請求項42】
基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と、活性エステル基を有する第二単位を複数と、を含む高分子物質を有するバイオチップであって、
一部の前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して共有結合を形成しており、
残りの前記活性エステル基と親水基を有する親水性ポリマーとが反応して共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。
【請求項43】
請求の範囲第42項に記載のバイオチップにおいて、前記親水性ポリマーがアミノ基を有することを特徴とするバイオチップ。
【請求項44】
請求の範囲第42項に記載のバイオチップにおいて、前記親水性ポリマーは、ポリアルキレンオキシドまたは複数種類の前記ポリアルキレンオキシドを構造中に含むことを特徴とするバイオチップ。
【請求項45】
請求の範囲第41項または第42項に記載のバイオチップにおいて、前記基板の材料がプラスチックであることを特徴とするバイオチップ。
【請求項46】
請求の範囲第45項に記載のバイオチップにおいて、前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンであることを特徴とするバイオチップ。
【請求項47】
基板と、前記基板に設けられた流路と、を有し、
前記流路の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と活性エステル基を有する第二単位とを含む高分子物質を有し、
前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。
【請求項48】
請求の範囲第47項に記載のバイオチップにおいて、
複数の前記活性エステル基を有し、
前記複数の活性エステル基は、前記捕捉物質と反応して共有結合を形成しているか、または不活化されていることを特徴とするバイオチップ。
【請求項49】
請求の範囲第47項に記載のバイオチップにおいて、前記流路を覆う保護部材を有することを特徴とするバイオチップ。
【請求項50】
請求の範囲第49項に記載のバイオチップにおいて、前記基板の材料と前記保護部材の材料のうち、少なくともがプラスチックであることを特徴とするバイオチップ。
【請求項51】
請求の範囲第47項に記載のバイオチップにおいて、前記基板の材料が、検出光に対して透明なプラスチックであることを特徴とするバイオチップ。
【請求項52】
請求項の範囲第41項、第42項および第47項のいずれかに記載のバイオチップにおいて、さらに前記捕捉物質に前記生理活性物質が捕捉されたことを特徴とするバイオチップ。
【請求項53】
請求の範囲第41項、第42項および第47項のいずれかに記載のバイオチップにおいて、
ホスホリルコリン基を含む前記第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有することを特徴とするバイオチップ。
【請求項54】
請求の範囲第41項、第42項および第47項のいずれかに記載のバイオチップにおいて、前記活性エステル基がp−ニトロフェニル基またはN−ヒドロキシスクシンイミド基を有することを特徴とするバイオチップ。
【請求項55】
請求の範囲第41項、第42項および第47項のいずれかに記載のバイオチップにおいて、前記高分子物質は、ブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することを特徴とするバイオチップ。
【請求項56】
請求の範囲第41項、第42項および第47項のいずれかに記載のバイオチップにおいて、前記基板の材料がガラスであることを特徴とするバイオチップ。
【請求項57】
請求の範囲第41項、第42項および第47項のいずれかに記載のバイオチップにおいて、前記捕捉物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であることを特徴とするバイオチップ。
【請求項58】
請求の範囲第41項、第42項および第47項のいずれかに記載のバイオチップにおいて、生理活性物質を捕捉する捕捉物質が、中性またはアルカリ性の条件で前記基板の表面に固定化されてなることを特徴とするバイオチップ。
【請求項59】
請求の範囲第41項、第42項および第47項のいずれかに記載のバイオチップにおいて、前記生理活性物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であることを特徴とするバイオチップ。
【請求項60】
ホスホリルコリン基を含む第一単位と下記式(1)に示される一価の基を含む第二単位とを有する高分子物質を表面に有する基板を含むバイオチップであって、
前記式(1)に示される一価の基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。

(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
【請求項61】
請求の範囲第60項に記載のバイオチップにおいて、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であることを特徴とするバイオチップ。

(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【請求項62】
ホスホリルコリン基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質を表面に有する基板を含むバイオチップであって、
前記カルボン酸誘導基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。
【請求項63】
基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と、下記式(1)で示される一価の基を有する第二単位を複数と、を含む高分子物質を有するバイオチップであって、
一部の前記式(1)で示される一価の基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して共有結合を形成しており、
残りの前記式(1)で示される一価の基と親水基を有する親水性ポリマーとが反応して共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。

(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
【請求項64】
請求の範囲第63項に記載のバイオチップにおいて、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であることを特徴とするバイオチップ。


(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【請求項65】
基板の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位とカルボン酸誘導基を有する第二単位を複数とを含む高分子物質を有するバイオチップであって、
一部の前記カルボン酸誘導基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して共有結合を形成しており、
残りの前記カルボン酸誘導基と親水基を有する親水性ポリマーとが反応して共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。
【請求項66】
基板と、前記基板に設けられた流路と、を有し、
前記流路の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位と下記式(1)に示される一価の基を有する第二単位とを含む高分子物質を有し、
前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。


(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く一価の脱離基である。)
【請求項67】
請求の範囲第66項に記載のバイオチップにおいて、前記式(1)に示される一価の基が、下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基であることを特徴とするバイオチップ。

(ただし、上記式(p)および式(q)において、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、RはCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、RはNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【請求項68】
基板と、前記基板に設けられた流路と、を有し、
前記流路の表面に、ホスホリルコリン基を有する第一単位とカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有し、
前記活性エステル基と生理活性物質を捕捉する捕捉物質とが反応して、共有結合を形成していることを特徴とするバイオチップ。
【請求項69】
請求の範囲第39項に記載のマイクロアレイ用基板に、
核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の前記捕捉物質が固定化されたことを特徴とするマイクロアレイ。
【請求項70】
請求の範囲第11項に記載のバイオチップ用基板の製造方法であって、
(1)前記基板の前記表面とアミノ基を有する前記化合物との接触工程、および
(2)前記アミノ基を有する化合物と前記高分子物質との接触工程、
を含むことを特徴とするバイオチップ用基板の製造方法。
【請求項71】
請求の範囲第16項に記載のバイオチップ用基板の製造方法であって、
前記基板上に、前記第一の層を形成した後、
前記第一の層上で、ホスホリルコリン基を有する前記単量体と活性エステル基を有する前記単量体とを共重合することにより前記第二の層を形成することを特徴とするバイオチップ用基板の製造方法。
【請求項72】
請求の範囲第1項、第6項、第11項、第16項、および第17項のいずれかに記載のバイオチップ用基板の使用方法であって、
(1)生理活性物質を捕捉する捕捉物質を中性またはアルカリ性の条件で前記基板上に固定化するステップ、および
(2)前記マイクロチップ用基板の表面に、検出される生理活性物質を含む前記条件以下のpHの液体を接触させて、前記捕捉物質に前記生理活性物質を捕捉させるステップ、
を含むことを特徴とするバイオチップ用基板の使用方法。
【請求項73】
請求の範囲第72項に記載のバイオチップ用基板の使用方法において、
前記捕捉物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であることを特徴とするバイオチップ用基板の使用方法。
【請求項74】
請求の範囲第72項に記載のバイオチップ用基板の使用方法において、
検出される前記生理活性物質は、核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であることを特徴とするバイオチップの使用方法。
【請求項75】
請求の範囲第1項、第6項、第11項、第16項、および第17項のいずれかに記載のバイオチップ用基板を用いたバイオチップの製造方法であって、
前記バイオチップ用基板は、複数の前記活性エステル基を有し、
一部の前記活性エステル基と前記捕捉物質とを反応させて、前記捕捉物質を固定化する工程と、
捕捉物質を固定化する工程の後、残りの前記活性エステル基を不活性化する工程と、
を有することを特徴とするバイオチップの製造方法。
【請求項76】
請求の範囲第75項に記載のバイオチップの製造方法において、残りの活性エステル基を不活性化する前記工程を、アルカリ化合物を用いて行うことを特徴とするバイオチップの製造方法。
【請求項77】
請求の範囲第75項に記載のバイオチップの製造方法において、残りの活性エステル基を不活性化する前記工程を、1級のアミノ基を有する化合物を用いて行うことを特徴とするバイオチップの製造方法。
【請求項78】
請求の範囲第77項に記載のバイオチップの製造方法において、1級のアミノ基を有する前記化合物が、アミノエタノールまたはグリシンであることを特徴とするバイオチップの製造方法。
【請求項79】
請求の範囲第75項に記載のバイオチップの製造方法において、前記捕捉物質が、
核酸、アプタマー、タンパク質、酵素、抗体、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質からなる群から選択される一または二以上の物質であることを特徴とするバイオチップの製造方法。
【請求項80】
請求の範囲第41項に記載のバイオチップの製造方法であって、前記捕捉物質を含む酸性または中性の液体を前記基板の前記表面に接触させる工程を含むことを特徴とするバイオチップの製造方法。
【請求項81】
請求の範囲第42項に記載のバイオチップの製造方法であって、
前記バイオチップ用基板の一部の前記活性エステル基と前記捕捉物質とを反応させて、共有結合を形成させて、前記捕捉物質を固定化する工程と、
捕捉物質を固定化する前記工程の後、残りの前記活性エステル基と前記親水性ポリマーとを反応させて、共有結合させる工程と、
を含むことを特徴とするバイオチップの製造方法。

【図1】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/029095
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514060(P2005−514060)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013656
【国際出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【特許番号】特許第3887647号(P3887647)
【特許公報発行日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(592057341)
【Fターム(参考)】