説明

バイオプリンティングステーション、そのバイオプリンティングステーションを含むアセンブリ、およびバイオプリンティング法

バイオプリンティングステーション(1)は、−生体物質(2)のパターンを基材(3)の対象領域(3a)に堆積させるように構成されたバイオプリンティング装置(4)、−基材(3)の画像を得るように、および得られた画像上に基材(3)の非対象領域(3b)に対する対象領域(3a)を認識可能に表示するように構成された撮像システム(15)を含み、得られた基材(3)の画像は、得られた画像上に認識可能に表示された対象領域(3a)を検出して、得られた画像上に検出された対象領域(3a)に対応するパターンを決定するように処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオプリンティングステーション、そのバイオプリンティングステーションを含むアセンブリ、およびバイオプリンティング法に関する。
【0002】
特に、本発明は、
− (細胞、細胞集合体、生体材料、ナノ粒子、薬剤、および組織の細胞に生物学的作用を有する他の分子などを含む)生体物質のパターンを基材の対象領域に堆積させるように構成されたバイオプリンティング装置であって、上記対象領域は、その対象領域を基材の非対象領域と区別する特徴(凹部、特定の形態、光学特性、標識など)を有し、バイオプリンティング装置は、
堆積させる生体物質を供給するように構成された少なくとも一つの生体物質供給装置、および
基材を受容し、対象領域を上記供給装置に対して位置合わせするように構成された位置合わせシステム、
を含むものである、バイオプリンティング装置と、
− 堆積させるパターンに応じて上記供給装置および上記位置合わせシステムを互いに対して駆動するように構成された電子制御部と、
を含むバイオプリンティング(生物学的プリンティング)ステーションに関する。
【背景技術】
【0003】
特に限定されないが、本発明は、例えば、組織機能が損なわれるような外傷または疾病によって失われた(三次元で精密に組織された複数の細胞種およびマトリックス成分を含む)組織構築物の治療の分野に特に有利である。
【0004】
そのような組織構築物の喪失は、工学的および材料学的方法を用いて、細胞を適切に結合させ、体内における細胞のミクロ環境および組織のミクロ構築物の両方を再現する適当な生化学的および物理化学的要素を得ることを介して生体組織を生成することによって治療できることが分かっている。これに関連して、組織の機能を回復、維持もしくは改善する生物学的代替物または臓器全体を提供することを目的とした組織工学が開発されている。
【0005】
まず、生体適合性であり最終的には生分解可能である足場(スキャフォールド)に生細胞を播種し、バイオリアクターで培養して、組織へと増殖する最初の細胞集団を形成する。生物細胞外マトリックスを再現する適当な足場(スキャフォールド)を利用して、発達する組織は、所望の臓器の形状および機能を得て、患者の体内に移植することができる。
【0006】
上記方法と平行して、バイオプリンティング技術による三次元的(3D)生物構造物の作製が検討されている("Application of laser printing to mammalian cells", J.A. Barron, B.R. Ringeisen, H. Kim, B.J. Spargo, et D.B. Chrisey, Thin Solid Films, vol. 453-454, Apr. 2004, 383-387; "Quantification of the activity of biomolecules in microarrays obtained by direct laser transfer", V. Dinca, A. Ranella, M. Farsari, D. Kafetzopoulos, M. Dinescu, A. Popescu, et C. Fotakis, Biomedical Microdevices, vol. 10, Oct. 2008, 719-25)。バイオプリンティングでは、細胞および細胞集合体を含む生体物質を、コンピューターを援用して自動的に積層化させて堆積、転写およびパターン化させる("Organ printing: computer-aided jet-based 3D tissue engineering", V. Mironov, T. Boland, T. Trusk, G. Forgacs, and R.R. Markwald, Trends in Biotechnology, vol. 21, Apr. 2003, 157-161; "Biofabrication: a 21st century manufacturing paradigm", V. Mironov, T. Trusk, V. Kasyanov, S. Little, R. Swaja, et R. Markwald, Biofabrication, vol. 1, 2009, p. 022001; "Jet-based methods to print living cells", B.R. Ringeisen, C.M. Othon, J.A. Barron, D. Young, et B.J. Spargo, Biotechnology Journal, vol. 1, Sep. 2006, 930-48)。近年、バイオプリンティングの定義は、“コンピューターを援用した転写プロセスの使用により、所定の2Dまたは3D組織に生物材料および非生物材料をパターン化および一体化して、再生医療、薬物動態および基礎細胞生物学研究に貢献する生物工学的構造物を製造すること”に拡大された(F. Guillemot, V. Mironov, M. Nakamura, Biofabrication, vol. 2, 2010)。
【0007】
この目的のために、コンピューターを援用して設計されたテンプレートに従って生物学的集合物をパターン化するために市販のインクジェットプリンターが再設計され("Application of inkjet printing to tissue engineering", T. Boland, T. Xu, B. Damon, and X. Cui, Biotechnology Journal, vol. 1, 2006, 910-917)、あるいは、新製品が製造されている("Biocompatible inkjet printing technique for designed seeding of individual living cells", Makoto Nakamura, Akiko Kobayashi, Fumio Takagi, Akihiko Watanabe, Yuko Hiruma, Katsuhiro Ohuchi, Yasuhiko Iwasaki, Mikio Horie, Ikuo Morita, Setsuo Takatani, Tissue Eng 2006; "Delivery of human fibroblast cells by piezoelectric drop-on-demand inkjet printing", Saunders RE, Gough JE, Derby B., Biomaterials 2008; 29: 193-203.)。生細胞および細胞集合体を取扱うために、バイオプロッタなどの圧力作動型機械的押出機も開発されている("Tissue Engineering by Self-Assembly of Cells Printed into Topologically Defined Structures", K. Jakab, C. Norotte, B. Damon, F. Marga, A. Neagu, C.L. Besch-Williford, A. Kachurin, K.H. Church, H. Park, V. Mironov, R. Markwald, G. Vunjak-Novakovic, and G. Forgacs, Tissue Engineering Part A, vol. 14, 2008, 413-421)。
【0008】
これらのバイオプリンティング法と平行して、生体物質を一体化およびミクロパターン化するための代替法としてレーザー援用プリンティングがある。
【0009】
レーザー誘導直接描画(LGDW)は、複数の細胞をレーザー光中にトラップし、それらを一定の流れとして任意の非吸収性表面上に堆積させることができる技術である("Laser-guided direct writing for three-dimensional tissue engineering" Nahmias Y, Schwartz RE, Verfaillie CM, Odde DJ, Biotechnol Bioeng 2005; 92: 129-36; "Micropatterning of living cells by laser-guided direct writing: application to fabrication of hepatic-endothelial sinusoid-like structures", Yaakov Nahmias, David J. Odde, Nat Protoc 2006)。
【0010】
レーザー援用バイオプリンティング(LAB)は、光透過性石英支持体上に広げられた生体物質層から形成される貯留部としてのリボンから、パルスレーザーを使用して、そのリボンと近接または接触している基材へと生体物質を転写するレーザー誘起前方転写(LIFT)技術に基づいている("Laser printing of pluripotent embryonal carcinoma cells", Ringeisen BR, Kim H, Barron JA, Krizman DB, Chrisey DB, Jackman S, Auyeung RYC, Spargo BJ, Tissue Eng 2004; 10: 483-91)。
【0011】
公知のレーザー援用バイオプリンティング法は、マトリックス援用パルスレーザー蒸発直接描画(MAPLE−DW)("Application of laser printing to mammalian cells", Barron JA, Ringeisen BR, Kim H, Spargo BJ, Chrisey DB, Thin Solid Films 2004: 383-7)、吸収膜援用LIFT(AFA−LIFT)("Survival and proliferative ability of various living cell types after laser-induced forward transfer", Bela Hopp, Tomi Smausz, Norbert Kresz, Norbert Barna, Zsolt Bor, Lajos Kolozsvari, Douglas B. Chrisey, Andras Szabo, Antal Nogradi, Tissue Eng 2006)、およびレーザー援用バイオプリンティング(LAB)("Laser-Assisted Bioprinting: a novel technique for creating heterogeneous 3-dimensional cell patterns", Barron JA, Wu P, Ladouceur HD, Ringeisen BR, Biomed Microdev 2004; 6: 139-47; "Laser printing of single cells: statistical analysis, cell viability, and stress", Barron JA, Krizman DB, Ringeisen BR, Ann Biomed Eng 2005; 33: 121-30)を含む。LABを使用すれば、適当な照射条件下で、広範なレオロジーを示す液体において、材料を、明確な形状を有する円形液滴として高度な空間的解像度で堆積させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、生体物質のパターンを堆積させるべき対象領域に正確に合致させて生体物質のパターンを堆積させるために、バイオプリンティングのパターンの決定精度を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のために、本発明は、基材の画像を得るように、および得られた画像上に非対象領域に対する対象領域の特徴を認識可能に表示するように構成された撮像システムを含む、上記した種類のバイオプリンティングステーションを提案し、ここで、得られた基材の画像は、得られた画像上に認識可能に表示された対象領域を検出して、得られた画像上に検出された対象領域に対応するパターンを決定するように処理される。
【0014】
よって、本発明によるバイオプリンティングステーションでは、パターンを堆積させる対象領域を自動的に直接的に得て、得られた画像上に示された対象領域に合う特定のパターンを決定する。したがって、堆積させた生体物質のパターンは、正確に対象領域と合致することができる。この際、対象領域は、例えば、得られた基材の画像上で基材の非対象領域に対して濃淡で示され、制御部を介してオペレーターにより、あるいは制御部により自動的に検出され、バイオプリンティング全体の精度を改善することができる。
【0015】
一つの実施形態において、電子制御部は、得られた基材の画像を処理して、得られた画像上に認識可能に表示された対象領域を自動的に検出し、得られた画像上に検出された対象領域に対応するパターンを自動的に決定するように構成されている。
【0016】
さらに、電子制御部は、バイオプリンティングステーションの視枠における対象領域の位置を決定し、決定された位置に応じて上記供給装置および上記位置合わせシステムを互いに対して駆動するように構成されていてもよい。よって、対象領域を自動的に位置合わせすることができる。
【0017】
さらに、精度を向上させるため、電子制御部は、堆積させるべく決定されたパターンに対応した光経路に応じて撮像システムを駆動するように構成されていてもよい。このようにすることで、撮像システムは、生体物質の供給を追従することができる。
【0018】
特に有利な実施形態において、バイオプリンティングステーションは、レーザー援用バイオプリンティングを実行する。
【0019】
この点に関し、供給装置は、
− 生体物質を含有する少なくとも一つのリボンを保持するための保持装置であって、上記リボンの少なくとも一部を受容するように構成された少なくとも一つの開放作業空間を備えており、この開放作業空間が対象領域を向くように電子制御部がこの保持装置および上記位置合わせシステムを互いに対して駆動するように構成されている、保持装置、
− レーザー光を発光するために配置されたレーザーシステムであって、生体物質をリボンから基材へ転写させるように構成されており、電子制御部が、決定されたパターンに応じて開放作業空間内にレーザー光を向けるようにこのレーザーシステムを駆動するように構成されている、レーザーシステム、を含んでいてもよい。
【0020】
特に、レーザーシステムは、レーザー光を発光するための、赤外パルスレーザーなどのレーザー装置、および開放作業空間内にレーザー光を配向させるように構成された光学走査装置を含んでいてもよい。
【0021】
生体物質の貯留部として機能するリボンは、保持装置の開放作業空間内に少なくとも部分的に受容されることができる。このリボンは、レーザーシステムの方を向く第1表面および生体物質の層を備えた第2表面を有し、この第2表面は、上記位置合わせシステムの方を向く。上記リボンは、レーザー光に対して透過性を有し、生体物質の層で覆われた支持体、および支持体と生体物質の層との間に配置された変換中間層を含んでいてもよい。
【0022】
そのようなレーザー援用バイオプリンティングステーションは、医学、物理、材料、電子工学、情報科学、ロボット工学などにおける発展が集結した結果であるコンピューター援用医療介入(CAMI)の発達に沿うものである。CAMIは、低侵襲性の医療介入を正確におよび安全に計画、シミュレーションおよび実行するために、臨床医が集学的データを合理的で定量的な方法で活用することを可能とする手段を提供することを目的としている。医療介入には、診断行為および治療行為(手術、放射線治療、薬剤の局部注射など)の両方が含まれる。この目的のために、情報科学および微小技術は、臨床診療の発展を伴い、ベッドサイドでのロボット適用の道を開いてきた。実際、CAMIにより:
(i)医療行為の準備および/またはモニタリングの際に、各患者に対してより多くのデータ(例えば、画像、信号)が取り扱われる、
(ii)トレーサビリティおよび品質管理が系統化されている、および、
(iii)診断および治療行為が、より低侵襲性となる傾向がある。
【0023】
さらに、自動化の発達により医療ロボット工学が発達し、臨床医の技能(または存在)が制限される場合においての補助となる。多くの分野と同様に、医学においてロボットを使用することによる利点として、正確性、作業を無限に繰り返す能力、コンピューター化されたデータおよびセンサーとの接続の可能性、または、厳しい環境での作業が可能なことがある。作業の観点から、ロボットが秘める特定の能力としては、例えば:
(i)形状寸法的に複雑な作業(例えば、3Dの骨空洞を機械加工する作業)を実現できる、
(ii)非常に低い値まで力を制御することができる、
(iii)(顕微鏡手術において)高解像度で高精度な動きを実行することができる、
(iv)動いている臓器に追従し、信号などに基づいて外部の事象に同期することができる、
(v)体内で作業を行うために、患者の体内に導入することができる。
【0024】
実際、レーザー援用バイオプリンティングステーションは、治療および外科処置に関する異なる作業を行うように構成された医療アセンブリの一部となり得る。特に、レーザー装置自体は、生体物質をリボンから基材へ転写させる以外に、切除、機械加工、加熱、溶着などの他の作業に使用することができる。
【0025】
組織工学において利用される場合、バイオプリンティング装置は、生体物質のパターンを堆積させることにより生体組織構造物を形成するように構成されていてもよく、この場合、対象領域は、基材の非対象領域に対して特徴となる起伏部を有し、この起伏部は、ある形状寸法を有し、撮像システムは、得られた画像上にこの起伏部を認識可能に表示するように構成され、認識可能に表示された起伏部は、得られた画像上で検出され、得られた画像上で検出された起伏部の形状寸法に対応するパターンが決定され、この起伏部に対応する生体組織構造物が形成される。
【0026】
電子制御部は、得られた画像上に認識可能に表示された起伏部を自動的に検出し、得られた画像上に検出された起伏部の形状寸法に対応するパターンを自動的に決定するように構成されていてもよい。
【0027】
本発明は、特に、(目的用途における細胞および細胞集合体を含む)生体物質を、対象領域としての基材の凹部上に積層化させて堆積させることにより、2Dまたは3Dで生体組織構造物を形成する用途に関する。そのような用途において、撮像システムは、基材と生体物質供給装置との間の距離の差を測定するように構成され、この差を基材の画像上に、対応する濃淡で示すように構成されている。しかしながら、本発明は、そのような用途に限定されず、他の疾病および外傷の治療などの、他の用途に利用することができる。例えば、バイオプリンティングステーションは、組織細胞に対して生物学的作用を有する薬剤または他の分子を生体物質として、基材の非対象領域に対して濃淡で示すことのできる腫瘍細胞などの特定の細胞上に上記生体物質を堆積させるために利用することができる。この点に関し、細胞は、撮像システムによって検出可能な特定の配置を有していてもよく、あるいは、適当なマーカーを予め結合させて標識することができ、それにより、撮像システム(フィルター、・・・)を適切に設定して光学的特徴を認識可能に表示することができる。
【0028】
他の態様において、本発明は、上記したようなバイオプリンティングステーション、ならびに少なくとも一つの対象領域、および非対象領域を呈する基材を含むアセンブリを提案し、ここで、上記対象領域は、その対象領域を非対象領域から区別する特徴を有し、上記基材は、上記位置合わせシステム内に配置される。
【0029】
組織工学において実施される場合、上記対象領域は、基材の非対象領域に対する凹部などの起伏部を有していてもよく、この起伏部は、ある形状寸法を有し、上記バイオプリンティングステーションは、その起伏部に対応した生体組織構造物を形成するように構成されている。
【0030】
別の態様において、本発明は、下記工程を含むバイオプリンティング法を提案する:
A−生体物質のパターンを堆積させるように構成されたバイオプリンティング装置を準備する、
B−少なくとも一つの対象領域、および非対象領域を呈する基材であって、対象領域が、その対象領域を非対象領域と区別する特徴を有する基材を準備する、
C−対象領域をバイオプリンティング装置に対して位置合わせする、
D−基材の画像を得て、得られた画像上に対象領域の特徴を認識可能に表示する、
E−得られた基材の画像を処理し、得られた画像上に認識可能に表示された対象領域を検出し、得られた画像上に検出された対象領域に対応するパターンを決定する、
F−決定されたパターンに応じて生体物質を対象領域上に堆積させる。
【0031】
一つの実施形態において、工程Eは、得られた画像上に認識可能に表示された対象領域を自動的に検出し、得られた画像上に検出された対象領域に対応するパターンを自動的に決定することを含んでいてもよい。
【0032】
特定の実施形態において、基材の対象領域は、基材の非対象領域に対して特徴となる起伏部を有しており、この起伏部は、ある形状寸法を有しており、工程Dは、得られた画像上にこの起伏部を認識可能に表示することを含み、工程Eは、得られた画像上に認識可能に表示された起伏部を検出すること、および得られた画像上に検出された起伏部の形状寸法に対応するパターンを決定することを含み、工程Fは、起伏部に対応した生体組織構造物を形成することを含む。
【0033】
さらに、工程Eは、対象領域の位置を決定することをさらに含んでいてもよく、工程Fは、その決定された位置に生体物質を堆積させることを含んでいてもよい。
【0034】
本発明による他の目的および他の利点は、添付の図面を参照して説明する以下の開示によって明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、生体組織構造物のレーザー援用バイオプリンティング用に構成されたバイオプリンティングステーションを示す、本発明の一実施形態によるバイオプリンティングステーションの概略図である。
【図2】図2は、図1のバイオプリンティングステーションを利用した第1の実験においてマウスに形成された二つの頭蓋冠欠損を示し、第1の実験では、試験部位としてのマウス頭蓋冠欠損内で骨組織の成長を促進させるのに適した生体物質(ナノ−ヒドロキシアパタイト、n−HA)をプリントすることにより、上記二つのマウス頭蓋冠欠損の片方を試験部位としてインビボ処置し、他方のマウス頭蓋冠欠損を対照部位として欠損したまま残した。
【図3】図3は、第1の実験においてマウス頭蓋冠欠損を生体物質の供給装置に対して位置合わせする様子を示す、図1のバイオプリンティングステーションの部分側面図である。
【図4a】図4aは、第1の実験において近赤外パルスレーザーを直接照射して試験した側(矢印)の硬膜の浮腫の1週間後の様子を示すMRI画像であり、浮腫が退行していることを示している。
【図4b】図4bは、第1の実験において近赤外パルスレーザーを直接照射して試験した側(矢印)の硬膜の浮腫の2週間後の様子を示すMRI画像であり、浮腫が退行していることを示している。
【図5】図5は、第1の実験において頭蓋冠欠損を形成して頭蓋冠欠損の一方をレーザー照射してから15日後のマウスの脳の脱灰させた冠状断面を示すものであり、図5では、炎症が退行し、脳組織において壊死が全く観察されないことが示されている。
【図6a】図6a、6b、6c、6d、6eおよび6fは、第1の実験におけるマウス頭蓋冠欠損の脱灰させた組織の画像であり、図6a〜6fにおいて文字Bは骨を表し、文字NTは神経組織を表し、文字FTは繊維組織を示す。図6aは、試験部位において脳の表面から近接に接触しているレーザープリントされたn−HA(矢印)の治療後1週間の状態を示す。
【図6b】図6bは、対照部位において脳の表面から離間した一部のn−HA(矢印)の治療後1週間の状態を示す。
【図6c】図6cは、試験部位における成熟骨および未成熟骨の治療後1か月の状態を示す。
【図6d】図6dは、対照部位の欠損における繊維組織の治療後1か月の状態を示す。
【図6e】図6eは、試験部位での欠損全体を修復している成熟骨組織の治療後3か月の状態を示す。
【図6f】図6fは、対照部位の欠損の中央において、治療後3か月の時点で骨組織がないことを示す。
【図7】図7は、第1の実験におけるマウス頭蓋冠欠損の脱灰させた組織の図であり、試験した側で3か月後に骨が完全に修復(星)したことを示し、対照部位(矢印)のマウス頭蓋冠欠損は再構築されていないことを示す。
【図8a】図8aは、第1の実験におけるマウス頭蓋冠欠損の、治療後1週間の状態を示すX線マイクロトモグラフィー画像である。
【図8b】図8bは、第1の実験におけるマウス頭蓋冠欠損の、1か月の状態を示すX線マイクロトモグラフィー画像である。
【図9】図9は、図1の生物学的プリンティングステーションを利用した第2の実験においてマウスに形成された頭蓋冠欠損を示し、第2の実験では、ルシフェラーゼ酵素で形質転換したMG63(MG63−Luc)を生体物質として正中線マウス頭蓋冠欠損にインビボプリンティングした。
【図10】図10は、図1の生物学的プリンティングステーションの撮像システムのカメラによって撮影されたマウス頭蓋冠欠損の画像を示す。
【図11】図11は、図1の生物学的プリンティングステーションの撮像システムの光子撮像装置により、適当なマーカー(ルシフェリン:Luciferin)を注射した後に撮影されたマウスの画像を示す。
【図12】図12は、図1の生物学的プリンティングステーションを利用した第3の実験におけるバイオプリンティング後の、一秒当たり、および時間の関数としてのステラジアン当たりの光子数の増加を示す図であり、第3の実験では、ルシフェラーゼ酵素で形質転換したマウスの間充織幹細胞(ATCCから購入したD1細胞株)を生体物質(D1−Luc)としてマウス頭蓋冠側部欠損にインビボプリントし、この図は、間充織幹細胞の増殖を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図において、同一参照符号は、同一または類似の要素を指す。
【0037】
図1は、生体組織の治療用または外科処置用の生体物質2を基材3上に堆積させるように構成されたバイオプリンティングステーション1を概略的に示す。
【0038】
この点に関し、生体物質3は、生細胞および細胞集合体、ならびに組織細胞と相互作用するように構成された薬剤または分子などを含む、治療または外科効果を有する適当な生体物質であり得る。
【0039】
基材3は、支持体を形成しており、生体物質を組織細胞と相互作用させるため、生体物質を培養するため、または生体物質を成長させるために上記支持体上に生体物質を受容することができる。特に、生体物質2は、生体自体の一部により形成された基材3上に直接または間接的にプリントすることができ、堆積させた生体物質2は、引き続き、基材3と共にまたは基材3とは別に移植される。後者の場合、基材3は、細胞培養物、生体から抽出した自然組織、人工組織、もしくは特に生体適合性材料または移植可能な材料により作製された足場(スキャフォールド)、または他の基材であり得る。
【0040】
本発明を、特に、組織工学の用途における高性能レーザー援用バイオプリンティング(HT−LAB)に特化したバイオプリンティングステーション1に関して開示するが、その開示は一例であり、本発明を限定するものではない。そのようなステーションは、異なる種類の生体物質2をミクロレベルの解像度でプリントすることが可能であり、特に、複雑な二次元(2D)または三次元(3D)の生体組織構造物の構築に用いられる。
【0041】
特に、記載されるレーザー援用バイオプリンティングステーション1は、欠損を有する組織に対して、その欠損の形状に正確に対応するパターンを堆積させることにより欠損組織を回復、維持または改善するための生体組織構造物を形成するために使用することができる。
【0042】
図1に示されるように、修復すべき組織から直接作製された基材3、または組織細胞に対して処置後に効果または相互作用を有する他の適切な支持体から作製された基材3は、生体物質2がプリントされる少なくとも一つの対象領域3a、および非対象領域3bを有する。
【0043】
対象領域3aは、この対象領域3aを非対象領域3bと区別する特徴を有する。図示する例において、対象領域3aは、その上面が非対象領域3bの上面に対して内側に段差となっている凹部であり、それにより基材3の非対象領域3bと区別される。しかしながら、対象領域3aは、非対象領域3bに対して表面高低差を有する他の起伏部であってもよい。
【0044】
生体物質2の堆積は、組織自体の欠損を形成している対象領域3aに対して直接的に行うことができる。あるいは、その組織とは離れた部分であって、欠損の形状寸法と合致する形状寸法を有する対象領域に対して間接的に行ってもよく、これにより得られる生体組織構造物は、次に、組織の欠損に移植される。
【0045】
なお、本発明は、例えばLGDW、MAPLE−DWまたはAFA−LIFTを用いたあらゆる種類のレーザー援用バイオプリンティングステーションとして具現化することができる。より一般的には、本発明は、インクジェットプリンター、バイオプロッタなどの圧力作動型機械的押出機、ミクロ接触プリンティング、リソグラフィーなどを含む、あらゆる種類のバイオプリンティングステーションに使用することができる。
【0046】
さらに、本発明は、組織工学への適用に限定されず、他の疾病および外傷の処置に利用することができる。実際、上記バイオプリンティングステーションは、適当な方法、例えば、基材の非対象領域の特徴とは異なる光学的特徴などの特徴を細胞に与えるマーカーの使用により識別した細胞上に、薬剤または他の有効成分を正確に堆積させるために使用することができる。
【0047】
バイオプリンティングステーション1は、生体物質2のパターンを堆積させるように構成され、電子制御部5によって制御されるバイオプリンティング装置4を含む。
【0048】
バイオプリンティング装置4は、少なくとも一つの生体物質供給装置、および図示しない位置合わせシステムを含み、この位置合わせシステムは、基材3を受容する。供給装置および位置合わせシステムは、生体物質2が基材3上に堆積されるように互いに対して配置される。電子制御部5は、供給装置および位置合わせシステムに接続され、これらのうちの少なくとも一つ、例えば位置合わせシステムを、他方に対して動かして、供給装置に対する対象領域3aの位置合わせを行う。
【0049】
レーザー援用バイオプリンティング用のレーザー援用バイオプリンティング装置4の適当な例は、"High-throughput Laser Printing of Cells and Biomaterials for Tissue Engineering", F. Guillemot, A. Souquet, S. Catros, B. Guillotin, J. Lopez, M. Faucon, B. Pippenger, R. Bareille, M. Remy, S. Bellance, P. Chabassier, J. Fricain, et J. Amedee, Acta Biomaterialia, 2009および"Self-consistent modeling of jet formation process in the nanosecond laser pulse regime", C. Mezel, L. Hallo, A. Souquet, J. Breil, D. Hebert, and F. Guillemot. Phys. Plasmas 16, 123112 (2009)に開示されている。
【0050】
位置合わせシステムは、多色のパターンをプリントし、3D生物構造物を構築する目的で、例えば、高性能5軸位置合わせシステムから構成される。基材3は、横軸xおよび縦軸yの解像度が1μm、および垂直軸zの解像度が5μmである(x、y、z)電動式マイクロメーター平行移動ステージに保持することができる。
【0051】
さらに、図1に概略的に示されるこのレーザー援用バイオプリンティング装置4において、供給装置は、
−生体物質2の貯留部を形成するリボン6であって、このリボン6は、第1表面6a、および第1表面6aに対向して、生体物質2の層を備えた第2表面6bを有し、第2表面6bが位置合わせシステムおよび基材3の方を向いている、リボン6、
−開放作業空間7aを備えた保持装置7であって、上記開放作業空間内にリボン6の中央部が延在し、リボン6の中央部の各側にある対向縁部が保持装置7により脱着可能に保持されている、保持装置7、
−生体物質2をリボン6から基材3へと転写させるように構成された、レーザー光9を発光するために配置されたレーザーシステム8であって、リボン6の中央部の第1表面6aの方を向いているレーザーシステム8、
を含んでいる。
【0052】
図1に示されるように、リボン6は、レーザー光に対して透過性を有する支持体、例えば、IR透過性の石英から作製された円板を含み、生体物質2の層で被覆されている。この例において、レーザー援用バイオプリンティング装置4は、吸収膜援用LIFT(AFA−LIFT)を行う。したがって、支持体と生体物質2層との間に変換中間層が配置され、レーザー光9から受けた光エネルギーを機械エネルギーへ変換し、生体物質2を転写させる。しかしながら、リボン6は、そのような変換中間層が用いられない他のあらゆる種類のレーザープリンティング法に合わせて構成することができる。
【0053】
多色プリンティングを行うため、保持装置7は、高解像度(1°角解像度)電動回転式コンベアからなっていてもよく、このコンベアは、レーザーシステム8に対して回転可能に取付けられ、異なる生体物質2を備えた複数のリボン6をそれぞれ受容する複数の開放作業空間を備えている。特に、回転式コンベアは、搭載能力として異なる五つのリボン6を搭載可能なものであってもよい。基材の位置合わせシステムおよび回転式コンベアは、間隙距離を変更することなく焦点条件を変化させる目的で、同一垂直軸上に保持される。保持装置は、各開放作業空間を基材3の対象領域3aに向けることができるように制御部5に接続される。
【0054】
レーザーシステム8は、レーザー光9を発光するためのレーザー装置10、および開放作業空間7a内およびリボン6の第1表面6a上にレーザー光9を配向させるように構成された光学走査装置を含む。
【0055】
例えば、レーザー装置10は、使用する生体物質の変質を誘発させない波長λを有する赤外パルスレーザーであってもよい。特に、下記の仕様を有する固体Nd:YAG結晶レーザー(Navigator I,Newport Spectra Physics)を選択することができる:λ=1064nm、s=30ns、f=1〜100kHz、q=3.4mrad、TEM00,ptp<1.5%rms、P=7W。しかしながら、他の実施形態においては、UVレーザーを用いることもできる。
【0056】
さらに、リボン6の第2表面6bから液滴を発生させることによる生体物質2の堆積は、例えば、2000mm.s-1に達する走査速度を有する二つの検流ミラー11(SCANgine 14,ScanLab)、および広視野光学F−シータレンズ12(S4LFT, Sill Optics, France)(F=58mm)から構成される高速走査システムを含む光学走査装置によってレーザー光9を駆動させることにより行うことができる。
【0057】
レーザーシステムは、制御部に接続され、この接続部は、レーザー装置10のレーザーパラメーターを制御し、生体物質の転写を起こすために適当なパラメーターを有するレーザー光9を、決定されたパターンに応じてリボン6の第1表面6a上に向けるように、検流ミラー11および光学F−シータレンズ12を駆動させる。
【0058】
図1に示されるように、バイオプリンティングステーションはさらに、CCDカメラおよび/または解剖学的および/または機能的画像を提供するように構成された他の適当な撮像装置、例えば、光子撮像装置、MRI、fMRI、PETまたは他の装置などの撮像システム15を含み、この撮像システムは、制御部5に接続され、光学走査システム11、12を通して行われるリボン6および(x,y,z)基材の位置合わせの際に焦点を設定するために、堆積させるべく決定されたパターンに対応した光経路に応じて駆動される。
【0059】
本発明において、撮像システム15は、例えば、光経路を基材に沿って動かすことにより行われる走査により基材3の画像を得るように、および基材3の非対象領域3bに対して凹部3aを認識可能に表示するように構成されている。特に、撮像システムは、凹部3aの上面と非対象領域3bの上面との間の表面段差を感知し、例えば濃淡によって、基材の画像上に凹部3aを示すことができる。
【0060】
起伏部以外の対象領域を検出する必要のある用途において、撮像システム15は、その必要に応じて対象領域を認識可能に表示するように構成することができる。例えば、対象領域は、非対象領域とは種類の異なる細胞からなっていてもよく、撮像システム15は、対象領域の細胞を検出するように構成される。特に、それらの細胞は、他の細胞との区別が可能な空間的配置を有していてもよい。対象領域の細胞は、必要に応じて適当なフィルターおよび/または適当な設定を有する撮像システム15により認識可能に表示されるように照明されてもよく、あるいは他の手段で標識されてもよい。
【0061】
制御部5は、撮像システム15により得られた基材の画像を自動的に処理して認識可能に表示された凹部を検出し、凹部3aの形状寸法に対応したパターンを決定することを可能にする指令を含んでおり、それにより、凹部3aに対応した生体組織構造物が形成される。有利には、バイオプリンティングステーションの視枠における凹部3aの配置は、制御部によって自動的に行うことができ、この際、制御部は、基材の画像を処理し、それに応じて位置合わせシステム、保持装置7および/または供給装置を駆動させる。
【0062】
上記の代わりとして、撮像システム15により得られた基材の画像は、オペレーターによって処理することもできる。オペレーターは、制御部5を介して得られた画像上に認識可能に表示された凹部を検出し、場合によってはその位置を特定し、次に、その凹部に最も合致するパターンを決定して入力することができる。
【0063】
図1に関し、バイオプリンティング法における上記バイオプリンティングステーションの利用について説明する。このバイオプリンティング法は、下記工程:
− 位置合わせシステム上に基材3を設置し、保持装置7にリボン6を設置する、
− 位置合わせシステムおよび保持装置7を互いに対して駆動させ、基材の凹部3aを開放作業空間7aに対して位置合わせする、
− 撮像装置を駆動し基材3を走査して、基材の画像を得る、ここで、撮像装置は、表面段差を感知し凹部3aを認識可能に表示する、
− 自動的に作動する、またはオペレーターによって制御される制御部により、基材の画像を処理し、それにより、認識可能に表示された凹部3aを検出し、凹部3aの位置および凹部3aの形状寸法に対応するパターンを決定する、
− 決定された位置において生体物質2を凹部上に、決定されたパターンに応じて堆積させるべく決定されたパターンに応じてレーザー光9をリボン6の第1表面6a上に動かし、凹部3aの形状寸法に対応した生体組織構造物を形成する
を含む。
【0064】
図示した例において、高性能プロセスを目的として、パルス幅τおよび繰り返し率fを考慮することができる。さらに、システムの再現性、安定性および高解像度を確保するために、ビームの開きq、空間モードおよびパルス−パルス間(ptp)の安定性を含むビームの質を考慮に入れなければならない。
【0065】
実際、非接触プリンティングは、噴流の形成を通して得ることができる("Jet Formation in the laser forward transfer of liquids", M. Duocastella, J. Fernandez-Paras, P. Serra, et J. Morenza, Applied Physics A: Materials Science and Processing, vol. 93, 2008, 453-456)。この噴流形成は、液膜のレオロジー特性および厚さ、金属吸収層の厚さ、ならびにレーザーエネルギーに依存する複雑な閾値を越えて、マイクロ秒の時間的尺度で起こる("High-throughput Laser Printing of Cells and Biomaterials for Tissue Engineering", F. Guillemot, A. Souquet, S. Catros, B. Guillotin, J. Lopez, M. Faucon, B. Pippenger, R. Bareille, M. Remy, S. Bellance, P. Chabassier, J. Fricain, et J. Amedee, Acta Biomaterialia, 2009; Self-consistent modeling of jet formation process in the nanosecond laser pulse regime ", C. Mezel, L. Hallo, A. Souquet, J. Breil, D. Hebert, and F. Guillemot. Phys. Plasmas 16, 123112 (2009))。
【0066】
他の物理学的研究との類似性から、噴流形成を気泡の動力学と関連付けることの可能性が提案されている。気泡の成長は、主に、液体の粘度および表面張力に依存し、一方、気泡の崩壊は、気泡前面と自由表面との間の距離に関連している。その結果、液滴の吐出は、気泡の動力学により駆動されるため、高性能LAB(HT−LAB)では、他の気泡により最初の気泡の崩壊に乱れが生じることを避けるために、二つのパルス間、すなわち二つの気泡間における空間的−時間的な近接を考慮することが必要である。
【0067】
上記高性能レーザー援用バイオプリンティングステーションは、有利には、組織工学において、欠損を有する組織に対して、その欠損の形状寸法に正確に対応するパターンを堆積させることにより欠損組織を回復、維持または改善するための生体組織構造物を二次元または三次元で形成するために用いることができる。この堆積は、欠損および組織に対して直接的に行ってもよく、あるいは、その組織とは離れて間接的に行い、引き続き組織に移植してもよい。
【0068】
例として、上記高性能レーザー援用バイオプリンティングステーションを、以下に詳細に記載する組織工学における三つの特定の実験において、骨の修復を促進させるために利用した。
【0069】
第1の実験
図2〜8に関連して記載される第1の実験では、ナノ−ヒドロキシアパタイト(n−HA)を、重篤な大きさのマウス頭蓋冠欠損へインビボで堆積させる。
【0070】
材料および方法
プリント可能なn−HAの合成
オルトリン酸溶液(HPO)を水酸化カルシウム溶液(Ca(OH))中に滴下する湿式化学沈殿法により、ナノ−ヒドロキシアパタイト(n−HA)スラリーを室温で調製した。合成した材料を乾燥させたものをTEM分析することにより、50nm長の針状結晶が観察された。FTIR分析により、リン酸イオンの明確なバンドが559cm-1、601cm-1および1018cm-1に観察され、炭酸塩の不明確なバンドが1415cm-1に観察された。上記材料の乾燥物をX線回折(XRD)で分析することにより、ヒドロキシアパタイトに特有の六方格子パラメーターを有する結晶格子が観察された。
【0071】
LAB実験のために、調製の最後に30%(v/v)グリセロールをn−HA溶液に添加した。n−HA含有懸濁液を15分間の紫外線照射により殺菌させた。粉末状物質の生物学的物性を予めin vitroおよびインビボで試験したところ、合成したn−HAは、骨芽細胞に対して生体適合性を有しており、マウス頭蓋冠欠損においてインビボでの炎症を起こさないことが示された。
【0072】
リボンの調製
上述したように、リボンは、支持体、変換中間層としての薄厚金属吸収層およびn−HA懸濁液から構成されるヒドロゲル溶液の三つの層から作られる。
【0073】
支持体は、IR透過性の石英から作製された30mm径の円板である。まず、高真空チタンコーティング装置を用いてチタン(60nm)の薄厚吸収層で支持体をコーティングした。厚さは、近赤外波長(1064nm)における光学的表皮深さ(optical skin depth)よりも大きくなるように選択した。
【0074】
次に、上記溶液30μlを“ドクターブレード”装置(Film Applicator 3570, Elcometer, France)を用いてリボンの表面に塗布し、30μm厚のn−HAスラリー層を得た。
【0075】
マウスにおける重篤サイズの頭蓋冠欠損の作成
この研究のために、12週齢0F−1雄のマウス(Charles Rivers, France)36匹を使用した。マウス脳への赤外レーザー照射を試験するために6匹を用い、30匹をnHAのインビボプリンティングに用いた。まず、マウスにケタミン(Ketamin)およびキシラジン(Xylazine)を腹腔内注射して麻酔した。皮膚を消毒(ベタジン:Betadine)した後、頭蓋正中線を切開し、頭皮を切断して頭蓋冠を露出させ、次に、骨膜を慎重に剥離した。各動物個体について、4mm径のトレフィン(TBR, Toulouse, France)を用いて、頭蓋冠骨側部に4mm幅の欠損を二つ形成した(図2)。
【0076】
一方の欠損は、レーザー処置に用い、対照側部は、陰性対照として処置を行わなかった。
【0077】
生理食塩水による洗浄を継続して行いながら外科治療を行い、硬膜を傷つけないように注意を払った。次に、動物個体をバイオプリンティングステーション内に配置してインビボプリンティング実験を行った(下記参照)。実験の最後に、軟組織を元の位置に戻し、3/0バイクリル(Vicryl)を用いて縫合した。動物個体は、動物施設に戻す前に温かい環境で回復させた。
【0078】
マウス脳への近赤外パルスレーザー照射の効果
レーザープリンティング実験に先立って、マウス硬膜へのレーザー照射の効果を評価した。6匹のOF−1雄マウスの頭蓋冠に重篤サイズの骨欠損を形成し、次に、動物個体をプリンティングステーション内に位置合わせし、一つの部位の硬膜に直接レーザーを集束させた。レーザー光を直接硬膜上に集束させたため、仮説としての硬膜への悪影響は、n−HAプリンティングの際に見られる悪影響よりも大きくなるはずである。実際、n−HAプリンティングにおいて、レーザー集束点は、硬膜表面から1.5mm上の地点であった。対照側部にはレーザーを照射せずに、陰性対照とした。実験の最後に皮膚を縫合した。
【0079】
図4aおよび4bに示すように、水平型4,7Tバイオスペックシステム(horizontal 4,7°T Biospec system)(Bruker, Germany)を用いて、磁気共鳴映像法(MRI)により炎症を縦方向に追跡調査した。このシステムは、最大強度950mT/mおよび立ち上がり時間80μmが可能な6cmのグラジエントインサート(gradient insert)を備えている。マウスは、空気中で混合した1.5〜2%イソフルオラン(Centravet, La Palisse,France)で麻酔し、磁石中にうつ伏せで置き、頭部をNMRコイルの中心に置いた。TrueFISPシークエンスにより3D画像を撮影した:TE/TR=3.2/6.4ms、フリップ角:65°、FOV:30×18×18mm、マトリックス:256×96×96、解像度:117×188×188μm、スライス方向:冠状断、受信バンド幅:195Hz/pixel。平均値の合計数は、24(6 per l magnitude images)に等しく、合計取込時間は、23分26秒であった。
【0080】
高圧二酸化炭素への暴露により1週間後に3匹の動物個体を犠牲にし、残る3匹は1か月後に犠牲にした。頭蓋骨および脳を塊状に採取し、脱塩組織切片とした。すなわち、サンプルを12時間脱塩(Decalcifiant osseux BAYER, ref 70033, France)し、次にエタノール(70%、80%、95%、100%)中で脱水し、パラフィンに包埋した。10ミクロンの冠状切片を切り取り、ヘマトキシリン−エオジン−サフラン(Hematoxylin-Eosin-Saffron(HES))で染色し、顕微鏡写真機(Nikon eclipse 80i,The Netherlands)で観察した。切片について、脳/頭蓋骨界面での炎症の有無を観察した。
【0081】
マウス頭蓋冠欠損でのインビボプリンティング
インビボ実験を行うため、図3に示すように、マウスを受容するように構成された保持装置にマウスを設置し、頭蓋冠欠損がリボンを向くように位置合わせした。
【0082】
その結果、プリンティング法を以下のように行った:
・マウスを保持部に設置し、次にステーション内の(x、y、z)電動式平行移動ステージ上に導入した。
・ビデオシステム(すなわち、瞬間表示装置を有するCCDカメラ)を使用して頭蓋冠欠損を可視化し、マウス保持部をz軸に対して平行移動させることにより焦点を合わせた。実際、硬膜表面をz軸に沿った基材の位置としてソフトに記録した。このz位置は、基材の物理的位置としてソフトに記録した。次に、タッチスクリーンを通して(x、y)軸に沿ってマウス保持部を平行移動させて、右側の欠損の中央を対象とした。次に、この位置をプリントパターンの起点として記録した。
・ソフトによりパターン(直径3mmの円板)をコンピューター処理し、レーザーパラメーター(出力、周波数)、走査速度およびプリント間隙距離をパターンと組み合わせた。この研究の枠組みにおいて、事前に行ったn−HAのレーザープリンティングについての研究と同じように、レーザーエネルギーは12μJ/パルス(40μmスポットサイズ)、周波数は5kHz、走査速度は200mm/s、およびプリント間隙は1500μmであった。
・このパターンを30回再現することにより、3Dプリンティングを行なった。各パターンの間において、保持部を、リボン上にプリントされた二つのパターンの間の距離と等しくした任意の距離に基づき、自動的に移動させた。層を追加する前に、マウス保持部を20μm下げた。これは、n−HAの一層の厚さに対応するものである。
・プロセスの最後に、マウスとリボンとの間の接触を避けるために、保持部を適当な距離に下げる。
【0083】
この1群は、雄のOF1マウス(12週齢)を30匹含んでいた。頭蓋冠骨欠損を発生させた後、各動物個体に対して、同量の材料を与えた。この材料は、HT Bio−LPにより左側の欠損(試験部位)にプリントされた30層のn−HA(各層20μm)からなる積層であった。対照側部(右側)の欠損は、陰性対照(対照部位)として欠損したまま残した。次に、皮膚を縫合し、動物個体を動物施設に戻した。
【0084】
3か月の群に属する2匹の動物個体に対して、7日目、15日目および30日目に、MRIを非侵襲法として使用して脳の炎症をインビボで縦方向に評価した。この研究で使用したパラメーターは、上記と同様であった。
【0085】
n−HA追跡調査および新しい骨の形成に関し、1週間後(マウスの数n=10)、1か月後(n=10)または3か月後(n=10)に、高圧二酸化炭素への暴露によりマウスを犠牲にし、頭部全体を“塊”として切除し、4%PFA中で3日間固定した。General Electric μCTを使用したX線マイクロトモグラフィーにより、全てのサンプルについてデータを取得した。X線発生のために使用した電圧および強度は、それぞれ80kVおよび60mAであった。暴露時間3000msで800枚の画像を得た。得られた解像度は、0.015mmであった。Image J Softwareを用いて、骨欠損の再構築されなかった表面を評価した。Medcalc(登録商標)software(Belgium)を用いて、統計分析を行った。三つの独立した群(非対サンプル:1週間、1か月および3か月)を、ノンパラメトリックなマン−ホイットニー(Mann-Whitney)のU−検定により比較した。p<0.05の場合、有意な差異とみなした。
【0086】
最後に、各群のサンプル三つを、組織を調べるために脱塩した。脱灰切片を上記のように調製し、ヘマトキシリン−エオジン−サフラン(Hematoxylin-Eosin-Saffron(HES))で染色し、n−HAおよび新たに形成された骨の有無を調べるために顕微鏡写真機(Nikon eclipse 80i, The Netherlands)で観察した。
【0087】
結果および考察
生きたマウスに形成された重篤サイズの頭蓋冠欠損にn−HAをプリントする根拠
上記動物モデルを、インビボでのバイオプリンティングの可能性を評価するために保存した。外傷を負わせる可能性のあるプロセスであるにもかかわらず、ほとんどの動物個体は早期に回復し、感染や神経障害の兆候を全く示さなかった。
【0088】
本発明のHT Bio−LPステーションを用いて、n−HAのインビボプリンティングを行った。
【0089】
ヒドロキシアパタイトは、骨の非有機成分であるため、これを選択した。
【0090】
暫定的結果として、30匹の雄マウスのうち、29匹が、一連の外科処置、さらにレーザープリンティング実験を含む全プロセスの後に回復した。手術およびn−HAプリンティング後に創感染または神経障害を発症した動物個体はなかった。さらに、骨欠損を形成した後、硬膜の一体性を調べた。すなわち、脈動する血管の存在を確認することにより硬膜の一体性を確認した。
【0091】
マウスの脳に対する近赤外レーザー照射の効果
248nmおよび355nmのUVパルスレーザーを用いるレーザー援用バイオプリンティングが広く研究されているが、近赤外レーザーパルスは生体組織に無害であると想定されているため、1064nmで発光するナノ秒パルスレーザーを用いた。
【0092】
プリンティング実験と同様の暴露を用いて、6匹のマウスの硬膜に対して、レーザーを直接照射した。
【0093】
図4aおよび4bに示すように、MRI分析により、レーザー効果および外科処置による外傷について、7日目の時点で試験した側の硬膜の下にあった浮腫が、15日目で退行し、21日後に消滅したことが示された。脱灰切片において、試験欠損および対照欠損の両方で筋線維芽細胞が見られ、神経および骨組織の炎症または壊死はなかった(図5)。これらの実験に基づき、この実験で用いた赤外レーザーは、研究に使用した脳組織に対して有害な作用がないことが結論付けられた。
【0094】
頭蓋冠欠損内におけるインビボでのn−HAプリンティングおよび骨の修復
頭蓋冠欠損内でのn−HAプリンティングに関し、実験の最後に行った肉眼検査により、プリントされた材料が、コンピューター描画したパターンの形状に応じて存在することが確認された。さらに、プリントされた材料の化学的および生物学的物性は、レーザープリンティングにより変質していなかった。
【0095】
n−HAプリンティングを施した動物個体における脳の炎症をMRIで追跡したところ、事前にレーザー照射して得たサンプル(上記参照)と同じ炎症強度が示された。この結果より、n−HAのレーザープリンティング自体は、マウスの脳に有害な作用を引き起こさない。
【0096】
脱灰組織切片について、マイクロコンピュータートモグラフィーにより、三つの時点(1週間後10匹のマウス、1か月後10匹のマウス、および3か月後10匹のマウス)において骨の修復を縦方向に分析した。
【0097】
1週間後の脱灰切片では、材料が試験部位の硬膜と近接して存在していた(図6a)。1か月後では、新たに形成された成熟骨および未成熟骨、ならびにマクロファージ内のn−HA凝集物が試験部位に観察された(図6c)。一方、対照部位では骨の修復は見られなかった(図6d)。プリンティングから3か月後では、成熟骨組織が試験部位に観察された(図6e)。対照部位(図6f)では、骨の修復は多くの場合、未完全なままであった。さらに、1週間後から3か月後まで、インサイチュで観察されたn−HA粒子の量が減少した。これは、材料が骨の再構築化に取り込まれたこと、または、間質液への溶解および炎症細胞による貪食が原因と考えられる。
【0098】
これらの結果は、X線マイクロトモグラフィー分析により確認した。図8aおよび8bに示すように、プリンティングから1か月後で骨の形成がはっきりと観察された。再構築されていない表面は、1か月後の時点で1週間後と比較して有意に低く(p<0.05)、3か月後の時点で1か月後と比較して有意に低く(p<0.01)、3か月後の時点で1週間後と比較して有意に低い(p<0.01)。さらに、陰性対照部位では、いずれの時点においても骨の形成は起こらなかった。
【0099】
一部の場合において、プリンティング実験に関係しなかった領域である対照側部欠損においてもn−HA材料が観察された。図6bに示すように、n−HAは、脳表面(対照部位、頭蓋冠正中線)から離れた位置で観察することができる。これらのn−HA粒子は、プリントされた材料が受容部位へと固定化されなかったために、プリントされた部位から移動していた可能性がある。よって、縫合の際、および動物個体の回復後に皮膚に加えられた圧力により、プリントされたn−HAが、プリントされた欠損から対照側部へ移動する現象を誘発した可能性がある。将来、プリントされた材料の固定化およびマウス皮膚の縫合に特定の関心が向けられるであろう。この目的のため、外科用接着剤または他の生体膜を使用することが想定される。
【0100】
結論および展望
高性能レーザー援用バイオプリンティングに特化したCAD−CAMステーションを用いて、ナノ−ヒドロキシアパタイトのインビボバイオプリンティングを行った。これらの結果により、インビボプリンティングが可能であることが示され、将来、医療ロボット工学およびコンピューター援用医療介入において有用であることが証明される可能性がある。
【0101】
バイオプリンティング機能を有する医療ロボットを改良することにより、まず、外科手術の精度を向上させることが可能になると考えられる。実際、体内において材料または薬剤をμLの体積で取り扱うことは、現在、外科医(または実際のロボット)が注射器を用いて行っているが、生物学的プリンターを使用して非常に少量の材料または薬剤を堆積させることができる。これは、生物学的プリンターがpL体積の液滴を発生させることができるからである。さらに、体積を減少させることと平行して、レーザープリンターまたは他のバイオプリンターを使用することにより、空間的解像度も大幅に改善されるであろう。
【0102】
最後に、インビボバイオプリンティングがレーザー技術の独創的な使用用途となるかに関して、レーザープリンティングを他のレーザー援用プロセス(例えば、レーザー組織切除、レーザー加熱、・・・)と組み合わせることで、ロボット製造業者、したがって臨床医に対しても新たな展望が開かれるであろう。
【0103】
第2の実験
図9〜11に関連して記載される第2の実験では、ルシフェラーゼ酵素で形質転換したMG63細胞(MG63−Luc)を生体物質として、正中線マウス頭蓋冠欠損内にインビボプリンティングを行う。
【0104】
材料および方法
プリント可能なMG63−Lucの合成
この実験において、生体物質として、ルシフェラーゼ酵素で形質転換したMG63細胞(MG63−Luc)の溶液を堆積させた。細胞濃度は5000万個/mlであり、細胞は0.5%アルギン酸塩(v/v)を添加した培地に懸濁させた。
【0105】
マウスにおける重篤サイズの頭蓋冠欠損の作成
この場合、直径トレフィンバー(diameter trephine burr)(TBR Toulouse,France)を用いて、ヌードマウス(Charles River,France)に4mm幅の正中線頭蓋冠欠損を形成した(図9参照)。動物個体の準備は、上記と同様の手順である。
【0106】
マウス頭蓋冠欠損でのインビボプリンティング
上記生物学的プリンティングステーション1を使用し、支持体を覆う生体物質層以外は第1の実験に関して記載したものと同様のリボンを調製した。
【0107】
受容基材3としてのマウスを、位置合わせシステムに置き(図9)、対象領域としての正中線頭蓋冠欠損を保持装置の開放作業領域およびCCDカメラに向けた。
【0108】
欠損のビデオキャプチャーを示す図10から分かるように、生物学的プリンティングステーションの撮像システムのCCDカメラにより、欠損を検出した。
【0109】
欠損の形態に応じて、3mm径の環状パターンに決定した。環の中央を、欠損の中央に調節した。
【0110】
結果および考察
バイオプリンティング直後に行った肉眼検査により、MG63細胞の円が見られた。
【0111】
さらに、ルシフェリン(Luciferin)を腹腔内に注射して光子撮像(Biospace, France)分析を行った。光子撮像装置で速やかに観察した結果を図11に示す。同図より、予め撮像システムで決定した位置にMG63細胞の環状パターンが存在することが証明された。
【0112】
この実験は、インビボでの細胞のプリンティングが実施可能であることを示している。
【0113】
第3の実験
図12に関連して示される第3の実験では、ルシフェラーゼ酵素で形質転換したマウス間充織幹細胞(ATCCから購入したD1細胞株)を生体物質(D1−Luc)として用いて、マウス頭蓋冠側部欠損でのインビボプリンティングを行う。
【0114】
材料および方法
プリント可能なD1−Luc溶液の調製
この実験において、ルシフェラーゼ酵素で形質転換したD1細胞(D1−Luc)の溶液を生体物質として堆積させた。細胞濃度は5000万個/mlであり、1%アルギン酸塩(v/v)を添加した培地に細胞を懸濁させた。
【0115】
マウスにおける重篤サイズの頭蓋冠欠損の作成
この場合、直径トレフィンバー(TBR Toulouse, France)を用いて、Balb/c(Charles River, France)に3.3mm幅の頭蓋冠側部欠損を二つ形成した。動物個体の準備は、上記と同様の手順ある。
【0116】
マウス頭蓋冠欠損でのインビボプリンティング
上記生物学的プリンティングステーション1を使用し、支持体を覆う生体物質層以外は第2の実験に関して記載したものと同様のリボンを調製した。
【0117】
受容基材3としてのマウスを、位置合わせシステムに置き、対象領域としての一方の頭蓋冠側部欠損を保持装置の開放作業領域およびCCDカメラに向けた。
【0118】
生物学的プリンティングステーションの撮像システムのCCDカメラにより、欠損を検出した。
【0119】
欠損の形態に応じて、環状パターンを以下のように決定した:外径:3.2mm、内径:2.8mm。環の中央を、欠損の中央に調節した。
【0120】
結果および考察
光子撮像装置(Biospace, France)を使用して、インビボでの細胞増殖をバイオプリンティングから3週間後まで追跡した。図12に示すように、間充織幹細胞は、バイオプリンティングから21日後まで増殖する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 生体物質(2)のパターンを基材(3)の対象領域(3a)に堆積させるように構成されたバイオプリンティング装置(4)であって、対象領域(3a)は、その対象領域(3a)を基材(3)の非対象領域(3b)と区別する特徴を有し、バイオプリンティング装置(4)は、
堆積させる生体物質(2)を供給するように構成された少なくとも一つの生体物質供給装置(6、7、8)、および
基材(3)を受容し、対象領域(3a)を供給装置(6、7、8)に対して位置合わせするように構成された位置合わせシステム、
を含むものである、バイオプリンティング装置(4)と、
− 堆積させるパターンに応じて供給装置(6、7、8)および前記位置合わせシステムを互いに対して駆動するように構成された電子制御部(5)と、
を含むバイオプリンティングステーション(1)であって、
バイオプリンティングステーション(1)が、基材(3)の画像を得るように、および得られた画像上に非対象領域(3b)に対する対象領域(3a)の特徴を認識可能に表示するように構成された撮像システム(15)を含み、得られた基材(3)の画像が、得られた画像上に認識可能に表示された対象領域(3a)を検出して、得られた画像上に検出された対象領域(3a)に対応するパターンを決定するように処理されることを特徴とするバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項2】
電子制御部(5)が、得られた基材(3)の画像を処理して、得られた画像上に認識可能に表示された対象領域(3a)を自動的に検出し、得られた画像上に検出された対象領域(3a)に対応するパターンを自動的に決定するように構成されている、
請求項1に記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項3】
電子制御部(5)が、バイオプリンティングステーション(1)の視枠における対象領域(3a)の位置を決定し、決定された位置に応じて供給装置(6、7、8)および前記位置合わせシステムを互いに対して駆動するように構成されている、
請求項2に記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項4】
電子制御部(5)が、堆積させるべく決定されたパターンに対応した光経路に応じて撮像システム(15)を駆動するように構成されている、
請求項2または3に記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項5】
前記供給装置が、
−生体物質(2)を含有する少なくとも一つのリボン(6)を保持するための保持装置(7)であって、リボン(6)の少なくとも一部を受容するように構成された少なくとも一つの開放作業空間(7a)を備えており、この開放作業空間(7a)が対象領域(3a)を向くように電子制御部(5)がこの保持装置(7)および前記位置合わせシステムを互いに対して駆動するように構成されている、保持装置(7)、
−レーザー光(9)を発光するために配置されたレーザーシステム(8)であって、生体物質(2)をリボン(6)から基材(3)へ転写させるように構成されており、電子制御部(5)が、決定されたパターンに応じて開放作業空間(7a)内にレーザー光(9)を向けるようにこのレーザーシステム(8)を駆動するように構成されている、レーザーシステム(8)、を含む、
請求項1〜4のいずれかに記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項6】
レーザーシステム(8)が、レーザー光(9)を発光するためのレーザー装置(10)、および開放作業空間(7a)内にレーザー光(9)を配向させるように構成された光学走査装置(11、12)を含む、
請求項5に記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項7】
レーザー装置(10)が赤外パルスレーザーである、
請求項6に記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項8】
保持装置(7)の開放作業空間(7a)内に少なくとも部分的に受容されたリボン(6)をさらに含み、このリボン(6)は、レーザーシステム(8)の方を向く第1表面(6a)および生体物質(2)の層を備えた第2表面(6b)を有し、この第2表面(6b)は、前記位置合わせシステムの方を向く、
請求項5〜7のいずれかに記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項9】
リボン(6)が、レーザー光(9)に対して透過性を有し、生体物質(2)の層で覆われた支持体、および支持体と生体物質(2)の層との間に配置された変換中間層を含んでいる、
請求項8に記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項10】
バイオプリンティング装置(4)が、生体物質(2)のパターンを堆積させることにより生体組織構造物を形成するように構成されており、前記対象領域が、基材(3)の非対象領域(3b)に対して特徴となる起伏部(3a)を有し、この起伏部(3a)は、ある形状寸法を有し、撮像システム(15)が、得られた画像上にこの起伏部(3a)を認識可能に表示するように構成され、認識可能に表示された起伏部は、得られた画像上で検出され、得られた画像上で検出された起伏部の形状寸法に対応するパターンが決定され、この起伏部(3a)に対応する生体組織構造物が形成される、
請求項1〜9のいずれかに記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項11】
電子制御部(5)が、得られた画像上に認識可能に表示された起伏部(3a)を自動的に検出し、得られた画像上に検出された起伏部(3a)の形状寸法に対応するパターンを自動的に決定するように構成されている、
請求項10に記載のバイオプリンティングステーション(1)。
【請求項12】
請求項1〜11に記載のバイオプリンティングステーション(1)、ならびに少なくとも一つの対象領域(3a)、および非対象領域(3b)を呈する基材(3)を含むアセンブリであって、対象領域(3a)は、その対象領域(3a)を非対象領域(3b)から区別する特徴を有し、基材(3)が、前記位置合わせシステム内に配置される、アセンブリ。
【請求項13】
前記対象領域が、基材(3)の非対象領域(3b)に対する起伏部(3a)を有しており、この起伏部(3a)がある形状寸法を有している、
請求項10に従属した請求項12に記載のアセンブリ。
【請求項14】
前記起伏部が凹部(3a)である、請求項13に記載のアセンブリ。
【請求項15】
A−生体物質(2)のパターンを堆積させるように構成されたバイオプリンティング装置(4)を準備する工程、
B−少なくとも一つの対象領域(3a)、および非対象領域(3b)を呈する基材(3)であって、対象領域(3a)が、その対象領域(3a)を非対象領域(3b)と区別する特徴を有する基材(3)を準備する工程、
C−対象領域(3a)をバイオプリンティング装置(4)に対して位置合わせする工程、
D−基材(3)の画像を得て、得られた画像上に対象領域(3a)の特徴を認識可能に表示する工程、
E−得られた基材(3)の画像を処理し、得られた画像上に認識可能に表示された対象領域(3a)を検出し、得られた画像上に検出された対象領域(3a)に対応するパターンを決定する工程、
F−決定されたパターンに応じて生体物質(2)を対象領域(3a)上に堆積させる工程、
を含むバイオプリンティング法。
【請求項16】
工程Eが、得られた画像上に認識可能に表示された対象領域(3a)を自動的に検出し、得られた画像上に検出された対象領域(3a)に対応するパターンを自動的に決定することを含む、
請求項15に記載のバイオプリンティング法。
【請求項17】
基材(3)の対象領域が、基材(3)の非対象領域(3b)に対して特徴となる起伏部(3a)を有しており、この起伏部(3a)は、ある形状寸法を有しており、工程Dが、得られた画像上にこの起伏部(3a)を認識可能に表示することを含み、工程Eが、得られた画像上に認識可能に表示された起伏部(3a)を検出すること、および得られた画像上に検出された起伏部(3a)の形状寸法に対応するパターンを決定することを含み、工程Fが、起伏部(3a)に対応した生体組織構造物を形成することを含む、
請求項15または16に記載のバイオプリンティング法。
【請求項18】
工程Eが、対象領域(3a)の位置を決定することをさらに含み、工程Fが、その決定された位置に生体物質(2)を堆積させることを含む、
請求項15〜17に記載のバイオプリンティング法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図6e】
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【図6f】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−521033(P2013−521033A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555441(P2012−555441)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053331
【国際公開番号】WO2011/107599
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】