説明

バイオベース原料を用いた高分子量脂肪族ポリエステルエーテルおよびその製造方法

【課題】バイオマス由来の2,5-フランジカルボン酸を含有し、熱的性質、機械的性質、加工性に優れた生分解性高分子量脂肪族ポリエステルエーテルを提供する。
【解決手段】一般式(1)


(式中、Rは炭素数2〜12の二価脂肪族基、pはポリエステル中に含まれる前記一般式(1)で示されるエステル部のモル分率を示す)で表わされるエステル部Aと、一般式(2)


(式中、rはポリエステル中に含まれる前記一般式(2)で示されるエーテル部のモル分率を示す)で表わされるエーテル部Bを含有することを特徴とする高分子量脂肪族ポリエステルエーテル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な共重合構造を有する高分子量脂肪族ポリエステルエーテル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンや芳香族ポリエステル等の合成高分子は、日常生活に欠かせない材料として大量に使われているが、これらの合成高分子の原材料は石油を中心とした化石燃料であり、将来的な不足が予想されている。このため、持続可能なバイオマスを原料とした化成品や高分子の合成が注目されている。
【0003】
米国エネルギー省は、バイオマス資源から合成可能な化学製品を系統的に調査し、スクリーニングによって最も有望な12種の化学品を選定したが、その中に2,5-フランジカルボン酸が選定されている(非特許文献1)。2,5-フランジカルボン酸は新規なバイオベースポリマーの原料として期待されている。
【0004】
本発明者らは、バイオマス由来のガラクタル酸に脂肪族アルコールを反応させることにより、容易に2,5-フランジカルボン酸ジエステルを合成する方法を提案した(特許文献1)。とくにアルコールとして1-ブタノールを用いると高収率で2,5-フランジカルボン酸ジブチルが得られる(非特許文献2)。
【0005】
本発明者らは、バイオマス由来のグルカル酸を用いても、脂肪族アルコールと反応させることにより同様に2,5-フランジカルボン酸ジアルキルが合成できることを見出した(非特許文献3)。
【0006】
また、本発明者らは、上記方法により合成した2,5-フランジカルボン酸ジブチルエステルを用いて、コハク酸および1,4-ブタンジオールと共重合することにより、すぐれた性質を有する高分子量脂肪族ポリエステルの製造法を提案した(特許文献2)。
【0007】
2,5-フランジカルボン酸と脂肪族ジオール類との重合によるポリマーの合成については、すでに庄野ら(非特許文献4)およびMooreら(非特許文献5)により報告されているが、これらは分子量が低く、機械的物性が測定できない等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-127282
【特許文献2】特願2008-115161
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】DOE report Top Value Added Chemicals from Biomass 2004 PNNL/DOE
【非特許文献2】Y. Taguchi, et al., Chemistry Letters, 37(1), 50-51 (2008).
【非特許文献3】田口他、第9回GSCシンポジウム、E-13, 2009年3月9日
【非特許文献4】庄野他、工業科学雑誌、63(1), 176-178 (1960).
【非特許文献5】J. A. Moore et al, Macromolecules, 11(3), 568-573 (1978).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、バイオマス由来の化成品である2,5-フランジカルボン酸誘導体を含有し、機械的強度、熱的性質に優れた新規な高分子量脂肪族ポリエステルエーテル及び該高分子量脂肪族ポリエステルエーテルの工業的に有利な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
〈1〉 一般式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜12の二価脂肪族基、pはポリエステル中に含まれる前記一般式(1)で示されるエステル部のモル分率を示す)で表わされるエステル部Aと、一般式(2)
【化2】

(式中、rはポリエステル中に含まれる前記一般式(2)で示されるエーテル部のモル分率を示す)で表わされるエーテル部Bを含有することを特徴とする高分子量脂肪族ポリエステルエーテル。
〈2〉使用されるフランジカルボン酸成分がバイオマス由来であることを特徴とする請求項1に記載の高分子量脂肪族ポリエステルエーテル。
〈3〉Rが(CHであることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子量脂肪族ポリエステルエーテル。
〈4〉下記一般式(3)
【化3】

(式中、RはHまたは炭素数1〜8のアルキル基を示す)で表わされる2,5-フランジカルボン酸誘導体と、下記一般式(4)
【化4】

(式中、Rは炭素数2〜12の二価脂肪族基を示す)で表わされる脂肪族グリコールとを縮合反応させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高分子量脂肪族ポリエステルエーテルの製造方法。
〈5〉Rがn-ブチル基であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高分子量脂肪族ポリエステルエーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高分子量脂肪族ポリエステルは、すぐれた熱的・機械的性質を有するとともに、バイオマス由来のフランジカルボン酸部分を含有するため、バイオマス由来原料の有効利用が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る新規な高分子量ポリエステルエーテルは、
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜12の二価脂肪族基、pはポリエステル中に含まれる前記一般式(1)で示されるエステル部のモル分率を示す)で表わされるエステル部Aと、一般式(2)
【化2】

(式中、rはポリエステル中に含まれる前記一般式(2)で示されるエーテル部のモル分率を示す)で表わされるエーテル部Bを含有することを特徴とする。
【0014】
この場合、エステル部Aを示す一般式(1)において、Rは鎖状又は環状の二価脂肪族基を示すが、その炭素数は2〜12、好ましくは2〜8である。このような二価脂肪族基としては、アルキレン基、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキシレン、オクチレン、ドデシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキサンジメチレン等が挙げられる。
エーテル部Bを示す一般式(2)において、Rは前記と同じである。rは、通常、p1モルあたり、0.01〜2.0モル、好ましくは0.10〜1.0モルの割合である。
【0015】
本発明の高分子量ポリエステルエーテルは、1万以上、好ましくは3万以上の重量平均分子量を有するものである。この場合、その重量平均分子量の上限は100万程度である。
【0016】
本発明の高分子量脂肪族ポリエステルエーテルは、すぐれた熱的・機械的特性を有し、しかもバイオマス由来原料の有効利用が図られたものである。
【0017】
本発明の高分子量脂肪族ポリエステルエーテルは、たとえば、
下記一般式(3)
【化3】

(式中、RはHまたは炭素数1〜8のアルキル基を示す)で表わされる2,5-フランジカルボン酸誘導体と、下記一般式(4)
【化4】

(式中、Rは炭素数2〜12の二価脂肪族基を示す)で表わされる脂肪族グリコールとを縮合反応させることにより製造することができる。
【0018】
前記一般式(3)で表わされる2,5-フランジカルボン酸誘導体としては、2,5-フランジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸ジメチル、2,5-フランジカルボン酸ジエチル、2,5-フランジカルボン酸ジプロピル、2,5-フランジカルボン酸ジブチル、2,5-フランジカルボン酸ジヘキシル、2,5-フランジカルボン酸ジオクチル等が挙げられる。
【0019】
また、前記一般式(4)で表わされる脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0020】
本発明に係る前記縮合反応は、従来公知のポリエステル縮合用触媒の存在下で好ましく行われる。前記反応において、その反応温度は、100〜300℃、好ましくは120〜270℃である。反応圧力は、減圧、常圧またはやや加圧(0.5kg/cm2G以下)であることができるが、好ましくは、常圧ないし減圧である。
【0021】
前記縮合反応を行う場合、反応は予備縮合工程(第一工程)と、高分子量化工程(第二工程)との二つの工程で行うのが好ましい。
前記予備縮合工程においては、末端に脂肪族ジオールの結合した低分子量の縮合物を生成させる。この縮合物の数平均分子量は、1000〜5000にするのがよく、その分子量は反応条件及び反応時間により適当に調節することができる。
前記高分子量工程においては、低分子量の縮合物の末端に結合する脂肪族ジオールを脱離させながら縮合させて高分子量の縮合物を生成させる工程である。この工程により、重量平均分子量が1万以上の縮合物を生成させることができる。この場合の反応条件は、副生する脂肪族ジオールが気体として存在しうる条件であればよい。この高分子量工程は、前記予備縮合工程を実施する反応装置と同じ装置又は攪拌効率のよい重合装置で実施することができる。
触媒、予備縮合工程の反応条件、高分子量化工程の反応条件を適当に調節することにより、エーテル部Bの比率rを変化させることが可能である。
【実施例】
【0022】
次に本発明を実施例によって具体的に説明する。脂肪族ポリエステルエーテルの種々の物性値は下記の方法によって測定した。
【0023】
(分子量及び分子量分布)ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法を用いて標準ポリスチレンから校正曲線を作成し、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を求めた。なお、溶離液はクロロホルムを用いた。
【0024】
(熱的性質)示差走査熱量分析装置(DSC)により融解温度及びガラス転移点を求めた。また熱重量分析装置(TG)により熱分解温度を求めた。
【0025】
(エーテルの比率)生成物のプロトンNMRの測定において、フラン環のプロトンとエーテル部のメチレン基の積分比により高分子に含まれるエーテルの比率を計算した。
【0026】
実施例1
攪拌羽つき内容量50ミリリットルのガラス製反応器に2,5-フランジカルボン酸ジブチル13.4g(50.0ミリモル)、1,6-ヘキサンジオール11.9g(101ミリモル)、酢酸カルシウム一水和物49.9mg(0.28ミリモル)、酸化アンチモン89.6mg(0.31ミリモル)を仕込み、160℃まで昇温して1時間、1-ブタノールの留出を行った。40mmHgに減圧して、温度を徐々に230℃まで昇温して2時間保持した。温度をいったん180℃まで下げて、1mmHg以下まで減圧したのち、温度を徐々に上げて230℃で2時間保持した。得られたポリマーは褐色で、Mn 30,200、Mw 129,700を有し、そのMw/Mnは4.29であった。またその融解温度は143.0℃であり、その2%重量減温度は346.2℃であった。これはポリエチレンの融点(135℃)や生分解性プラスチックであるポリエチレンサクシネート(108℃)よりも高い。このポリマー中に含まれるエーテル結合の割合は、ポリマー中に含まれるフランジカルボン酸成分100モルあたり、27モルの割合である。
また、機械的強度を測定したところ、弾性率365MPa、上降伏点応力25.1MPa、破断点応力8.4MPa、破断点伸度100%の優れた特性を示した。
【0027】
実施例2
内容量50ミリリットルのガラス製反応器に2,5-フランジカルボン酸ジブチル2.68g(10.0ミリモル)、1,6-ヘキサンジオール2.37g(20.1ミリモル)、チタンテトライソプロポキシド25マイクロリットル(0.1ミリモル)を仕込み、160℃まで昇温して1時間、1-ブタノールの留出を行った。その後、温度を徐々に200℃まで昇温して3時間保持した。温度をいったん180℃まで下げて、3mmHgまで減圧したのち、温度を徐々に上げて230℃で3.5時間保持した。得られたポリマーは褐色で、Mn 14,100、Mw 40,200を有し、そのMw/Mnは2.85であった。またその融解温度は131.9℃であり、その2%重量減温度は329.8℃であった。このポリマー中に含まれるエーテル結合の割合は、ポリマー中に含まれるフランジカルボン酸成分100モルあたり、15モルの割合である。
【0028】
実施例3
攪拌羽つき内容量50ミリリットルのガラス製反応器に2,5-フランジカルボン酸ジブチル13.45g(50.2ミリモル)、1,6-ヘキサンジオール11.80g(100.0ミリモル)、チタンテトライソプロポキシド12.5マイクロリットル(0.05ミリモル)を仕込み、160℃まで昇温して30分、180℃で30分、200℃で30分、230℃で1時間、1-ブタノールの留出を行った。温度をいったん180℃まで下げて、1mmHg以下まで減圧したのち、180℃で30分、200℃で30分、230℃で2時間保持した。得られたポリマーは褐色で、Mn 32,000、Mw 115,000を有し、そのMw/Mnは3.59であった。またその融解温度は113.8℃であり、その2%重量減温度は349.2℃であった。このポリマー中に含まれるエーテル結合の割合は、ポリマー中に含まれるフランジカルボン酸成分100モルあたり、40モルの割合である。
また、機械的強度を測定したところ、弾性率78.5MPa、上降伏点応力11.2MPa、破断点応力20.1MPa、破断点伸度424%の優れた特性を示した。
【0029】
実施例4
内容量50ミリリットルのガラス製反応器に2,5-フランジカルボン酸ジブチル8.05g(30.0ミリモル)、1,6-ヘキサンジオール7.10g(60.2ミリモル)、酸化アンチモン0.0636g(0.22ミリモル)を仕込み、200℃まで昇温して30分、230℃で2.5時間、1-ブタノールの留出を行った。温度をいったん180℃まで下げて、1.5mmHgまで減圧したのち、温度を徐々に上げて230℃で5時間保持した。得られたポリマーは褐色で、Mn 19,300、Mw 55,200を有し、そのMw/Mnは2.85であった。またその融解温度は111.9℃であり、その2%重量減温度は348.5℃であった。このポリマー中に含まれるエーテル結合の割合は、ポリマー中に含まれるフランジカルボン酸成分100モルあたり、60モルの割合である。
また、機械的強度を測定したところ、弾性率47.8MPa、上降伏点応力10.3MPa、破断点応力16.7MPa、破断点伸度493%であった。
【0030】
実施例5
内容量50ミリリットルのガラス製反応器に2,5-フランジカルボン酸ジブチル8.05g(30.0ミリモル)、1,6-ヘキサンジオール7.09g(60.1ミリモル)、2-エチルヘキサン酸スズ25マイクロリットル(約0.1ミリモル)を仕込み、230℃まで昇温して1時間、その後100mmHgまで減圧してさらに1時間、1-ブタノールの留出を行った。温度をいったん180℃まで下げて、0.5mmHgまで減圧したのち、徐々に温度を上げ、230℃で5時間保持した。得られたポリマーは褐色で、Mn 14,800、Mw 42,800を有し、そのMw/Mnは2.89であった。またその融解温度は103.3℃であり、その2%重量減温度は351.6℃であった。このポリマー中に含まれるエーテル結合の割合は、ポリマー中に含まれるフランジカルボン酸成分100モルあたり、56モルの割合である。
また、機械的強度を測定したところ、弾性率68.0MPa、上降伏点応力10.5MPa、破断点応力8.3MPa、破断点伸度24%であった。
【0031】
実施例6
内容量50ミリリットルのガラス製反応器に2,5-フランジカルボン酸ジブチル8.03g(30.0ミリモル)、1,6-ヘキサンジオール7.10g(60.2ミリモル)、酢酸カルシウム0.0337g(0.19ミリモル)、酸化アンチモン0.0490g(0.17ミリモル)を仕込み、180℃まで昇温して1時間、230℃で1時間、1-ブタノールの留出を行った。0.5mmHgまで減圧したのち、温度を徐々に上げて230℃で5時間保持した。得られたポリマーは褐色で、Mn 14,700、Mw 35,800を有し、そのMw/Mnは2.44であった。またその融解温度は107.1℃であり、その2%重量減温度は350.4℃であった。このポリマー中に含まれるエーテル結合の割合は、ポリマー中に含まれるフランジカルボン酸成分100モルあたり、59モルの割合である。
また、機械的強度を測定したところ、弾性率81.7MPa、上降伏点応力11.5MPa、破断点応力7.5MPa、破断点伸度27%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜12の二価脂肪族基、pはポリエステル中に含まれる前記一般式(1)で示されるエステル部のモル分率を示す)で表わされるエステル部Aと、一般式(2)
【化2】

(式中、rはポリエステル中に含まれる前記一般式(2)で示されるエーテル部のモル分率を示す)で表わされるエーテル部Bを含有することを特徴とする高分子量脂肪族ポリエステルエーテル。
【請求項2】
使用されるフランジカルボン酸成分がバイオマス由来であることを特徴とする請求項1に記載の高分子量脂肪族ポリエステルエーテル。
【請求項3】
が(CHであることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子量脂肪族ポリエステルエーテル。
【請求項4】
下記一般式(3)
【化3】

(式中、RはHまたは炭素数1〜8のアルキル基を示す)で表わされる2,5-フランジカルボン酸誘導体と、下記一般式(4)
【化4】

(式中、Rは炭素数2〜12の二価脂肪族基を示す)で表わされる脂肪族グリコールとを縮合反応させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高分子量脂肪族ポリエステルエーテルの製造方法。
【請求項5】
がn-ブチル基であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高分子量脂肪族ポリエステルエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2010−254827(P2010−254827A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107234(P2009−107234)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】