説明

バイオマスを分解するためのタンパク質のスクリーニング方法

【課題】バイオマスの分解に有効な酵素又はその組み合わせを効率的に取得するための評価系を提供する。
【解決手段】複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備し、複数個の評価領域に前記組み合わせを構成する可能性のある2種類以上の被験タンパク質をそれぞれ供給し、所定条件下での複数の評価領域における前記2種類以上の被験タンパク質によるバイオマスの分解活性を検出するようにする。相乗作用によりバイオマスを相乗作用により分解する酵素等のタンパク質の組み合わせを効率的に取得することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース等のバイオマスを利用するための酵素等タンパク質の取得に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマスへの期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。バイオマス材料の多くは、植物体の構成成分であるセルロース、ヘミセルロース等の多糖類やリグニンであるが、これら構成材料はそれぞれ高分子材料であるとともに植物体内において複合体として存在して強靭な細胞壁を構成している。また、複合体構造において多種多様な形態で各構成材料が存在している。このため、一般に、バイオマス材料を利用するには、こうした複合体構造を破壊して個々の材料を分離する処理が行われている。
【0003】
木材を分解する木材腐朽菌などの菌類は植物細胞壁を分解する酵素を有しており、こうした細菌の有するセルロース分解酵素等を利用する試みがなされている(特許文献1)。また、こうした酵素を改変する試みもなされている(特許文献2)。また、植物細胞壁を構成するセルロース−リグニン複合体を分解するには、複数の酵素が必要であることが知られており、2種類以上の酵素の相乗効果により難溶性セルロースの分解能力が高まることも知られている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−113067号公報
【特許文献2】特開2003−70489号公報
【非特許文献1】Biotechnol. Prog. 2006, 22, 270-277
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現状においてバイオマスの効果的な分解に寄与する天然酵素や改変酵素をスクリーニングするのは非常に困難であった。すなわち、植物細胞壁を構成するリグノセルロース中のセルロースに近い高分子量のセルロースは2種類以上の作用が異なる酵素の相乗効果によって初めて効率的な分解が実現されているにもかかわらず、単一の酵素についてそれぞれの基質の分解活性を指標とする評価系しかなく、2種類以上の酵素の相乗効果を指標とする効率的な評価系も存在しなかったからである。このため、たとえ単独でセルロース分解活性の高い酵素を取得できても、当該酵素が高分子量セルロースの分解のための複数の酵素を組み合わせたときの相乗効果に貢献できるとは限らず、相乗効果に貢献できる酵素及びその組み合わせを取得するのは極めて困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、バイオマスの分解に有効な酵素又はその組み合わせを効率的に取得するための評価系を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した現状に鑑み、バイオマスの分解に有効な酵素又はその組み合わせを効率的に取得するべく検討したところ、2種類以上のタンパク質の作用によって分解が促進されるバイオマス基質を含む固相体を準備し、この固相体に2種類以上の被験タンパク質を供給し、被験タンパク質による前記バイオマスの分解活性を検出することで、一挙に、バイオマスの効率的な分解のための相乗効果に寄与するタンパク質を選択できることを見出し、本発明を完成した。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0007】
本発明によれば、バイオマスを分解するためのタンパク質のスクリーニング方法であって、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備する工程と、複数個の前記評価領域に前記組み合わせを構成する可能性のある2種類以上の被験タンパク質をそれぞれ供給する工程と、所定条件下での複数の前記評価領域における前記2種類以上の被験タンパク質による前記バイオマスの分解活性を検出する検出工程と、を備える、スクリーニング方法が提供される。このスクリーニング方法は、さらに、前記検出したバイオマスの分解活性に基づいて前記2種類以上の被験タンパク質の少なくとも1種類の被験タンパク質の前記組み合わせに対する適否を評価する評価工程を備えることができる。
【0008】
本スクリーニング方法において、前記バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、デンプン及びリグニンから選択される1種又は2種以上を含有することができ、前記バイオマスは、リグニンと分離され非晶質セルロース及び/又は結晶質セルロースを含むバイオマスとすることもできる。
【0009】
本スクリーニング方法において、前記2種類以上の被験タンパク質の少なくとも一種類はバイオマス分解酵素とすることが好ましく、前記バイオマス分解酵素は、セロビオヒドロラーゼ、エキソグルカナーゼ、エンドグルカナーゼ、βグルコシダーゼ、ヘミセルラーゼ、キシロシダーゼ、マンナーゼ、マンノシダーゼ、ガラクトシダーゼ、アミラーゼ、リグニンペルオキシダーゼ及びマンガンペルオキシダーゼから選択される1種又は2種以上とすることが好ましい。さらに、前記バイオマス分解酵素はセロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。さらにまた、前記バイオマス分解酵素はセロビオヒドロラーゼ及びエンドグルカナーゼを含むことが好ましい。前記2種類以上の被験タンパク質のうち少なくとも一つはバイオマス分解酵素でないがバイオマスの分解を促進する可能性のあるタンパク質であってもよく、スウォレニン、エクスパンシン及びセルロース結合ドメインからなる群から選択される1種又は2種以上としてもよい。
【0010】
また、前記2種類以上の被験タンパク質の組み合わせのうち少なくとも1種類の被験タンパク質は、無細胞タンパク質合成系による産物を用いることもできるし、少なくとも1種類の被験タンパク質は、当該被験タンパク質の少なくとも1種類の被験タンパク質を細胞外部に発現する微生物の状態で供給されてもよい。
【0011】
本スクリーニング方法において、前記検出工程は、前記2種類以上の被験タンパク質によるバイオマスの分解活性を、前記バイオマスの消失量として検出する工程としてもよいし、前記バイオマスの消失量を前記固相担体におけるハロとして検出する工程としてもよい。
【0012】
本発明によれば、バイオマスを分解するための変異体タンパク質のスクリーニング方法は、組み合わせによりバイオマスの分解を促進する複数のタンパク質の少なくとも一種類のタンパク質についての複数個の変異体タンパク質からなる変異体ライブラリを準備する工程と、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備する工程と、複数個の前記評価領域に前記組み合わせを構成する可能性のある前記変異体タンパク質を含む2種類以上の被験タンパク質をそれぞれ供給する工程と、所定条件下での複数の前記評価領域における前記バイオマスの分解活性を検出する検出工程と、を備える、スクリーニング方法が提供される。このスクリーニング方法において、前記変異体ライブラリは、分子進化技術に基づく無細胞タンパク質合成系による産物を用いることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、バイオマスを分解するためのタンパク質のスクリーニング用デバイスであって、バイオマスを含有する固相体からなり、前記バイオマスを分解する可能性のある1種又は2種以上の被験タンパク質を付与したとき、前記被験タンパク質による前記バイオマスの分解活性を前記バイオマスの消失量として検出可能な複数個の評価領域を備える、スクリーニング用デバイスが提供される。このデバイスにおいては、前記バイオマスの消失量を前記固相担体におけるハロとして検出可能であることが好ましい。また、前記バイオマスは、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されて前記バイオマスの消失量として検出されるバイオマスであることが好ましく、より好ましくは、前記複数個の評価領域をアレイ状に備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、タンパク質のスクリーニング方法、バイオマスを分解するための変異体タンパク質のスクリーニング方法及びこれらのスクリーニング方法のためのデバイスに関する。
【0015】
本発明のバイオマスを分解するためのタンパク質のスクリーニング方法は、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備する工程と、複数個の前記評価領域に前記組み合わせを構成する可能性のある2種類以上の被験タンパク質をそれぞれ供給する工程と、所定条件下での複数の前記評価領域における前記バイオマスの分解活性を検出する検出工程と、を備えることができる。
【0016】
このスクリーニング方法によれば、所定のバイオマスを含有する固相体からなる評価領域に2種類以上の被験タンパク質を供給し、評価領域においてこれらの被験タンパク質によってバイオマスを分解させる。複数個の評価領域においてバイオマス分解活性を検出することで、バイオマスを相乗作用により効果的に分解することができるタンパク質又はその組み合わせを被験タンパク質のなかから容易に取得できる。すなわち、こうした組み合わせを構成する可能性のある個々のタンパク質の単独の作用又はその程度をスクリーニング等により取得していなくとも、バイオマスの効果的な分解に有用なタンパク質及びその組み合わせを効率的に取得できる。
【0017】
従来、好ましい組み合わせを構成しうる個々のタンパク質につき、それぞれの作用に基づきスクリーニングを実施し、その後、選抜されたタンパク質同士を組み合わせて相乗作用によるバイオマス分解活性を指標とするなどして好ましい組み合わせをスクリーニングしていた。しかしながら、必ずしも個々に優れた作用を発揮するタンパク質の組み合わせが相乗作用の高い組み合わせに一致するものでもなかった。すなわち、従来は、個々のタンパク質の機能向上にのみ着目し、タンパク質の相乗作用によるバイオマス分解活性は実際にはそれほど重視されていなかった。これに対し、本発明のスクリーニング方法によれば、無駄の多いスクリーニング工程、特に相乗作用について試行錯誤的なスクリーニング工程を排除することができ、バイオマスの分解を相乗作用により促進する複数のタンパク質の組み合わせを直接取得できる。
【0018】
本発明の変異体タンパク質のスクリーニング方法は、組み合わせによりバイオマスの分解を促進する複数のタンパク質の少なくとも一種類のタンパク質についての複数個の変異体タンパク質からなる変異体ライブラリを準備する工程と、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備する工程と、複数個の前記評価領域に前記組み合わせを構成する可能性のある前記変異体タンパク質を含む2種類以上の被験タンパク質をそれぞれ供給する工程と、所定条件下での複数の前記評価領域における前記バイオマスの分解活性を検出する検出工程と、を備えることができる。
【0019】
この変異体タンパク質のスクリーニング方法によれば、バイオマスを効果的に分解するのに有用な変異体タンパク質及び他のタンパク質との組み合わせを効率的に取得できる。すなわち、変異体ライブラリを構成する個々の変異体タンパク質の単独の作用及びその程度を取得することなく、最終的に効果的な変異体タンパク質とその組み合わせを取得できる。
【0020】
従来は、改変しようとするバイオマス分解酵素などのタンパク質につき変異体ライブラリを作製し、この変異体ライブラリを構成する変異体タンパク質につき、その単独の作用に基づきスクリーニングを実施していた。そして、得られた好ましい変異体を別のタンパク質と組み合わせるなどしていた。しかしながら、上述のように、必ずしも個々に優れた作用を発揮するタンパク質の組み合わせが相乗作用の高い組み合わせに一致するものでもないため、変異体ライブラリを対象とするスクリーニング及びその後の相乗作用スクリーニングには無駄が多かった。これに対し、本発明の変異体タンパク質のスクリーニング方法によれば、変異体ライブラリに無駄の多いスクリーニング工程、特に相乗作用について試行錯誤的なスクリーニング工程を排除することができ、バイオマスの分解を相乗作用により促進する複数のタンパク質の組み合わせを直接取得できる。
【0021】
本発明のスクリーニング用デバイスによれば、バイオマス分解用のタンパク質のスクリーニング用デバイスであって、バイオマスを含有する固相体からなり、前記バイオマスを分解する可能性のある1種又は2種以上の被験タンパク質を付与したとき、前記被験タンパク質による前記バイオマスの分解活性をバイオマスの消失量として検出可能な評価領域を複数個備えることができる。
【0022】
このスクリーニング用デバイスによれば、複数個の評価領域においてバイオマスの分解活性をバイオマスの消失量として検出できる。このため、多数個の被験タンパク質について効率的にそのバイオマス分解活性をスクリーニングすることができる。また、バイオマス分解活性をバイオマスの消失量として検出するため、簡易にしかも直接バイオマスの分解に有効なタンパク質をスクリーニングできる。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明のスクリーニング方法に用いるスクリーニング用デバイスを示す図である。
【0024】
(バイオマスを分解するためのタンパク質のスクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体を準備し、この固相体に前記組み合わせを構成する可能性のある2種類以上の被験タンパク質を供給して、前記2種類以上の被験タンパク質の組み合わせによる前記バイオマスの分解活性を検出することができる。
【0025】
(バイオマス)
本発明においてバイオマスとは、光合成作用に由来して炭素が太陽エネルギーによって有機物として植物体に固定化されたものであれば特に限定されない。ただし、化石資源はバイオマスには含まない。バイオマスの主体である植物体としては、樹木、草、各種の作物、海草などの植物や植物プランクトンが挙げられる。また、バイオマスは、栽培や採取によって産出される生産系バイオマスのほか、未利用資源又は廃資源としてのバイオマスがある。未利用又は廃資源バイオマスとしては、林産、農産、畜産、水産系の各種の未利用・廃資源が挙げられる。さらに、古紙、古布、建築廃材、製紙廃材などを含む生活上・産業上の産業や生活上の未利用・廃資源が挙げられる。
【0026】
バイオマスに含まれる材料としては、特に限定されないが、セルロース、ヘミセルロース、アミロース、アミロペクチン、デンプン、アガロース、カラギーナン、フコダインなどの各種多糖類、シュクロース、マルトース、トレハロースなどのオリゴ糖類、リグニンなどのフェノール系高分子が挙げられる。なお、本明細書においては、ヘミセルロースは、植物細胞壁を構成するセルロース以外の多糖類であって、ホモ多糖類あるいはヘテロ多糖類を総称するものとする。ヘミセルロースとしては、例えば、マンナン、グルコマンナン、グルコキシラン、ガラクタン、キシラン、アラビナン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、ペクチン、キチン等が挙げられる。
【0027】
バイオマスとしては、セルロース、ヘミセルロース、デンプン及びリグニンから選択される1種又は2種以上を含有することが好ましい。これらはバイオマスの主体であるからである。セルロース及びヘミセルロースを含むことがより好ましい。これらはバイオマスの廃棄物や未利用資源に多く含まれているからである。さらに好ましくはセルロースである。なお、セルロースの一部であるオリゴ糖類としては、セロビオースも挙げられる。セルロース及びヘミセルロースは、単独で存在するよりも複合構造を採ることが多く、例えば、セルロースはリグニンと複合体構造を形成しリグノセルロースとして存在している。また、存在形態も多様であり、セルロースは、結晶質部分(結晶セルロース)及び非晶質部分(非晶質セルロース)のいずれか又は双方の形態を同時に採って植物態中に存在している。
【0028】
バイオマスは、植物体又はその一部そのものの状態から、分離、分解及び精製等の程度により各種の状態を採ることができる。本スクリーニング方法においてスクリーニングしようとするタンパク質の分解対象であるバイオマス(本スクリーニング方法において被験タンパク質によって分解しようとするバイオマス)は、少なくともオリゴマーでない高分子状態のバイオマスであることが好ましい。
【0029】
複数のタンパク質の相乗作用に基づくバイオマス分解活性を検出する観点からは、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されて、相乗作用に基づくバイオマス分解活性をバイオマスの消失量として検出できるバイオマスであることが好ましい。さらに好ましくは、相乗作用によりバイオマスが分解されて初めてバイオマスの消失量として検出できるようなバイオマスである。このようなバイオマスを用いることにより、相乗作用に基づくスクリーニングを確実にかつ効果的に実施できる。
【0030】
このようなバイオマスとしては、セルロースとリグニンとの複合構造を含むバイオマスとすることもできるが、より好ましくは、水に不溶性の非晶質セルロース又は結晶性セルロースを含むバイオマスである。こうした形態のセルロースは、セロビオヒドロラーゼ及びエンドグルカナーゼなど複数のセルラーゼの相乗作用により初めて実質的に分解されるものであり、バイオマスの分解を促進する複数のタンパク質の組み合わせをスクリーニングする本スクリーニング方法にふさわしい。また、セロビオヒドロラーゼ及びエンドグルカナーゼのうち一方のみでは実質的に分解されないことから、相乗作用を極めて顕著に検出できる。
【0031】
なお、これらの非晶質セルロース及び結晶セルロースは、いずれもリグニンと分離された状態であることが好ましい。また、非晶質セルロース部分と結晶セルロース部分との双方を含んでいてもよい。
【0032】
スクリーニングにあたっては、結晶性セルロースとしては、アビセル(商品名)などを用いることができ、非晶質セルロースとしては、リン酸膨潤したアビセルなどを用いることができる。水溶性セルロースとしては、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。
【0033】
(スクリーニング対象)
本発明のスクリーニング方法のスクリーニング対象は、バイオマスを分解するためのタンパク質である。バイオマスを分解するためのタンパク質としては、バイオマスの構成材料である天然高分子材料をより低分子化し、最終的にモノマーユニットにまで分解する各種ステップで作用する活性(バイオマス分解活性)を有するタンパク質(バイオマス分解酵素)が挙げられる。バイオマス分解酵素は、高分子状態でのバイオマスを分解する酵素であることが好ましい。バイオマス分解酵素は、分解対象とする天然高分子材料やオリゴマーの種類に応じて各種知られている。例えば、セルロースを分解する酵素としては、セロビオヒドロラーゼを含むエキソグルカナーゼ、エンドグルカナーゼ及びβ−グルコシダーゼなどの各種セルラーゼが挙げられる。セロビオヒドロラーゼは、セルロースの端部のグリコシド結合を切断するエキソグルカナーゼの一種であり、主にセロビオースを生成する酵素であり、エンドグルカナーゼは、セルロースの内部のグリコシド結合を切断する酵素である。βグルコシダーゼは、セルロースオリゴマーのβグリコシド結合を切断し、グルコースを生成する酵素である。
【0034】
スクリーニング対象とするバイオマス分解酵素としては、セロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。セロビオヒドロラーゼは、植物細胞壁において剛直構造を構成する結晶質セルロースを分解できるからである。バイオマス分解酵素としては、セロビオヒドロラーゼとエンドグルカナーゼとを含むことが好ましい。これらの酵素の相乗作用により、結晶質セルロース部分と非晶質セルロース部分とを含む天然セルロースを効果的に分解できるからである。さらに、バイオマス分解酵素としては、これらに加えてβ−グルコシダーゼを含むことが好ましい。
【0035】
バイオマス分解酵素として、他に糖類に作用するものとしてヘミセルラーゼ、キシロシダーゼ、キシラナーゼ、マンナーゼ、マンノシダーゼ、ガラクトシダーゼ、アミラーゼ(α及びβ)、グルコアミラーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼなどが挙げられる。好ましくは、セロビオヒドロラーゼ、エキソグルカナーゼ、エンドグルカナーゼ、βグルコシダーゼ、ヘミセルラーゼ、キシロシダーゼ、マンナーゼ、マンノシダーゼ、ガラクトシダーゼ、アミラーゼが挙げられる。また、リグニンに作用するリグニンペルオキシダーゼ及びマンガンペルオキシダーゼなども挙げられる。スクリーニング対象とするバイオマス分解酵素は、セルラーゼを含めてこれらを単独であるいは2種類以上を適宜組み合わせることができる。
【0036】
スクリーニング対象とするバイオマスを分解するための他のタンパク質としては、バイオマス分解酵素でないがバイオマスの分解を促進するタンパク質(バイオマス分解促進タンパク質)が挙げられる。例えば、セルロース緩和タンパク質であるスウォレニンやエクスパンシン、セルロソームやセルラーゼの構成部分であるセルロース結合ドメイン(タンパク質)が挙げられる。これらのタンパク質は、いずれもセルロースへのセルラーゼのアクセシビリティを向上させることができる。このため、セルラーゼから選択される1種又は2種以上とこれらの促進タンパク質との組み合わせをスクリーニング対象とすることも好ましい。
【0037】
スクリーニング対象としては、バイオマス分解酵素やバイオマス分解促進タンパク質の作用を高めるタンパク質に限定されない。例えば、バイオマス分解酵素に対して補酵素的に作用するタンパク質や、バイオマス分解酵素やバイオマス分解促進タンパク質の保護する作用のあるタンパク質などが挙げられる。
【0038】
本スクリーニング方法におけるスクリーニング対象は、バイオマスを分解するためのタンパク質、さらにはこれらの組み合わせであり、スクリーニングに供するのは、バイオマスの分解を促進する可能性のある2種類以上のタンパク質の組み合わせである。本スクリーニング方法は、複数のタンパク質によるバイオマス分解活性を指標とするからである。スクリーニングに供するタンパク質は、2種類以上のタンパク質であればよく、3種類以上であってもよい。ここでいうタンパク質の種類とは、バイオマスに対する作用が異なることを少なくとも含む。例えば、セロビオヒドロラーゼとエンドグルカナーゼとの組み合わせが挙げられる。タンパク質の組み合わせは、同一のバイオマスに対する作用が異なっているタンパク質の組み合わせのほか、異なるバイオマスに対して作用するタンパク質の組み合わせであってもよい。
【0039】
例えば、セルロースを分解する糸状真菌であるTrichoderma reeseiは少なくとも2種類のセロビオヒドロラーゼ(CBH I〜II)と8種類のエンドグルカナーゼ(EG I〜VIII)を生産していることがわかっている。さらに、これらの他、各種の菌に由来する各種のCBHやEGが知られている。工業的にこれらのCBHとEGとを組み合わせてセルロースを分解利用する場合、まず、これらの各種の天然酵素群から好ましい特定のCBHと特定のEGとの組み合わせを選択する必要がある。本スクリーニング方法においては、複数種類のCBH及び複数種類のEGから選択される1種又は2種以上のCBHと1種又は2種以上のEGとの組み合わせをスクリーニング対象とすることができる。さらに、これらの組み合わせに1種又は2種以上のβ−グルコシダーゼ(BGL)も含めることができる。本スクリーニング方法によれば、多数個の組み合わせをスクリーニング対象とする網羅的なスクリーニングを一挙に行うことができるため、このような3種類以上のタンパク質の組み合わせであっても効率的に実施できる。
【0040】
組み合わせるタンパク質は、バイオマス分解酵素同士の組み合わせ、バイオマス分解酵素とバイオマス分解促進タンパク質との組み合わせが挙げられる。組み合わせには、少なくとも1種類のバイオマス分解酵素を含んでいることが好ましい。例えば、GHF(Glycoside Hydrolase family)(http://www.cazy.org/fam/acc.gh.html)内での分類に基づいて異なる酵素を選択し組み合わせすることができる。また、本発明の方法によれば、異なるGHF分類や同一のGHF分類内の複数の酵素の相乗作用も効率的に評価できる。
【0041】
(評価領域の準備工程)
本スクリーニング方法では、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備する。評価領域は、後述する検出工程において被験タンパク質によるバイオマス分解活性を検出するための領域である。
【0042】
評価領域はバイオマスを含有する固相体から構成される。固相体は、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有していればよい。このようなバイオマスはすでに説明したとおりであるが、スクリーニング対象とするタンパク質によるバイオマス分解活性を検出するのに好ましいバイオマスが選択される。
【0043】
固相体は、例えば、バイオマスを担持するゲルやフィルムが挙げられる。ゲルやフィルムの構成材料は特に限定しないで、天然又は人工の高分子材料を好ましく用いることができる。
このような高分子材料としては、アガロース(寒天)を好ましく用いることができる。固相体は、例えば、ある程度精製されたバイオマスとしてのセルロースをアガロース溶液に懸濁又は溶解させた後、所定条件で固化することにより得ることができる。また、未精製のバイオマスを乾燥粉砕して得られた粉体をアガロース溶液に懸濁した後、固化することによっても得ることができる。
【0044】
固相体の形態及び固相体に含まれるバイオマス量は、後述する検出工程において、バイオマス分解活性を検出可能な程度であればよい。例えば、バイオマス分解活性をバイオマスの消失量として検出する場合には、目視あるいは適当な染色等によりバイオマスの分解をハロ等として検出するのに適したバイオマス含有量及び大きさを備えるようにする。
【0045】
(スクリーニング用デバイス)
本スクリーニング方法は、このような評価領域を複数個備えるデバイスを用いることができる。本発明の一形態としてのスクリーニング用デバイスは、バイオマスを含有する固相体からなり、バイオマスを分解する可能性のある1種又は2種以上の被験タンパク質を付与可能であって、被験タンパク質によるバイオマスの分解活性を検出可能な評価領域を複数個備えることができる。
【0046】
スクリーニング用デバイスが評価領域を複数個備える形態としては、特に限定しないが、例えば、図1Aに示すようなデバイス形態を採ることができる。すなわち、図1Aに示す形態は、複数個のウェルを有するプレートの個々のウェル内に評価領域を備える形態である。また、図1Bに示す形態は、連続したプレート状の固相体に複数の、好ましくは多数の評価領域を備える形態である。図1Bに示す形態では、プレート状の固相体が明示的に区画されて複数個の評価領域が形成されている。固相体プレート上の個々の評価領域を識別するための表示手段は特に限定されない。図1Bに示すように固相体自体に施した区画線(凹部あるいは色素など)などであってもよいし、他の部材によって付与されたものでもよい。図1Cに示す形態は、図1Bと同様のプレート状の固相体を用いるが、複数個の評価領域を区画するような明示的な表示手段を備えていない形態である。プレートのどの部分が評価領域に相当しているかが検出時に把握されればよく、評価領域を区画するための表示は必須ではない。
【0047】
評価領域が、バイオマスの分解活性をバイオマスの分解量(消失量)をハロ(固相体においてバイオマスの分解により淡色化又は無色化する領域)等として検出する場合には、バイオマス分解活性があるときには直ちにハロを形成するため、なんら特別な手段を講じることなく評価領域が特定される。
【0048】
各評価領域は、既に説明したように、バイオマスの分解活性をバイオマスの消失量として検出可能な程度にバイオマスを含有しかつ適度な大きさを備えることが好ましい。また、各評価領域は、図1A及び図1Bに示すように、複数個の評価領域をアレイ状に備えることが好ましい。具体的には、縦及び横に複数個の列からなるマトリックス状に多数個の評価領域を備えることが好ましい。一つのスクリーニング用デバイスは、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上、さらに好ましくは200個以上の評価領域を備える。一層好ましくは300個以上の評価領域を備える。さらには、一つのスクリーニング用デバイスあたり384個又は1536個以上の評価領域を備えることができる。多数個の評価領域を備えることにより、より網羅的なスクリーニングを一挙に同一条件で行うことができるため、一層簡易にかつ確実に好ましい組み合わせ及びその構成タンパク質をスクリーニングできる。
【0049】
(被験タンパク質の供給工程)
次に、準備した複数個の評価領域の各評価領域にバイオマスの分解を促進する複数のタンパク質の組み合わせを構成する可能性のある2種類以上の被験タンパク質を組み合わせて供給する。各評価領域に供給する2種類以上の被験タンパク質は、既にスクリーニング対象として説明したタンパク質の組み合わせを構成する可能性のあるタンパク質である。予め所定の組み合わせを構成するタンパク質であるとして知得されているタンパク質のほか、機能未知のタンパク質(例えば、人工的に改変した変異体タンパク質など)も被験タンパク質に含めることができる。
【0050】
個々の評価領域に供給する被験タンパク質は2種類以上であればよく、3種類以上であってもよい。被験タンパク質としては、異なる作用を有する2種類以上のタンパク質を含んでいればよく、同一作用を有する可能性のある2種類以上のタンパク質を含んでいてもよい。例えば、セルロースを分解するCBH及びEGを例に挙げれば、被験タンパク質は少なくとも1種類のCBHと1種類のEGとを含んでいればよく、1種類のCBHと2種類のEGを被験タンパク質としてもよい。さらに、被験タンパク質として1種類又は2種類以上のBGLを含んでいてもよい。
【0051】
被験タンパク質は、天然のタンパク質であってもよいし、人工的に改変した変異体タンパク質であってもよい。被験タンパク質のうちの一種類が天然タンパク質であり、他の一種類が変異体タンパク質であってもよい。天然タンパク質を被験タンパク質とするとき、実質的に同一の活性を有する1種又は2種以上の生物に由来するタンパク質(典型的には酵素)としてもよい。例えば、CBHを例に挙げると各種菌に由来するCBHを複数個、好ましくは多数個準備してもよい。また、変異体タンパク質を被験タンパク質とするとき、一つの親タンパク質に由来する複数の、好ましくは多数の変異体タンパク質からなる変異体ライブラリを構築して、各変異体タンパク質を被験タンパク質とすることが好ましい。
【0052】
変異体タンパク質は、どのような手法により改変されていてもよい。多様な変異体タンパク質を得る手法としては、例えば、エラープローンPCR等によりランダム変異を導入する分子進化的手法を利用する無細胞タンパク質合成系を採用することができる。このような無細胞タンパク質合成系としては、公知のあるいは本出願人が出願している特開2006−61080号公報及び特開2003−116590号公報に記載のタンパク質合成系を用いることができる。本出願人によるこれらの無細胞タンパク質合成系を用いることで活性型の酵素を容易に得ることができるため、変異体タンパク質を取得する手法として好ましく用いることができる。
【0053】
被験タンパク質の少なくとも一部は、被験タンパク質を細胞外部において発現する微生物の状態で供給されてもよい。既に1種又は2種以上のタンパク質を酵母などの微小物において細胞表層提示する技術が各種知られている。例えば、特開2003−235579号公報、WO2002/042483号パンフレット、WO2003/016525号パンフレット、特開2006−136223号公報などが挙げられる。被験タンパク質をタンパク質表層提示酵母などの微小物として供給する場合、評価領域を構成する固相体は、微生物の生育に必要な栄養素を含んだ培地として機能させることが好ましい。
【0054】
2種類以上の被験タンパク質を評価領域に供給するのにあたっては、これらを同時に供給してもよいし、一部の被験タンパク質をあらかじめ付与しておき、残部の被験タンパク質を追って供給してもよい。また、被験タンパク質を評価領域に供給するのにあたっては、例えば、被験タンパク質を緩衝液等の水性媒体を伴って供給してもよい。さらに変異体ライブラリ等多数の被験タンパク質を供給する場合には、変異体タンパク質の無細胞合成系のプレートの各ウェルからピン等を用いたスタンプ形式あるいは分注機を用いて評価領域に供給してもよい。
【0055】
(検出工程)
次いで、所定条件下、評価領域における2種類以上の被験タンパク質の組み合わせによるバイオマスの分解活性を検出する。バイオマスの分解活性は、バイオマスの種類に応じて適宜検出する方法選択することができる。例えば、バイオマスとしてセルロースを用いる場合、セルロースの分解活性はバイオマスの分解量(消失量)として検出することができる。最も簡易には、セルロースを含む固相体において被験タンパク質の作用によりセルロースが分解してセルロースの分解量(消失量)に応じて得られるハロを検出する。バイオマス分解活性を固相体におけるハロとして検出する場合、ハロの大きさがバイオマス分解活性の指標となる。固相体におけるバイオマス消失に基づくハロは、通常、周囲よりも透明性の高い部分として形成され、そのままでも、目視等により視認することができる。ハロ検出時にコンゴーレッドなどで、セルロースを染色することで明瞭にハロを検出することができる。また、バイオマスとして色素結合セルロース(例えば、Cellulose Azure、Sigma社製など)を用いた場合、セルロースの分解により色素が固相体中に拡散しハロを形成するため、容易にセルロース分解活性を検出することができる。同様に蛍光色素を結合したセルロースもバイオマスとして利用することでハロを容易に検出することができる。さらに、酸処理セルロースなどをバイオマスとして用いた場合にもセルロースの分解により透明なハロを形成するため、セルロース分解活性を容易に検出することができる。ハロを検出するには、カルボキシルメチルセルロース(CMC)を用いてもよい。また、基質としてCMC等を用いて、DNS法やソモギ−ネルソン法により、セルロースの分解によって生じる還元糖を検出してもよい。
【0056】
バイオマス分解活性はバイオマスの分解量(消失量)として検出するのが好ましい。より具体的にはハロとして検出することが好ましい。効率的に多数の被験タンパク質の組み合わせについてバイオマス分解活性を検出することができるからである。例えば、バイオマスとして、結晶質セルロース部分を含むセルロースを用いる場合など、複数のタンパク質、例えば、CBHとEGとの相乗作用により初めて実質的にセルロースが分解される。このような場合には、セルロースの分解量(消失量)をバイオマス分解活性の検出のための指標とすることで、セルラーゼの相乗作用を顕著に検出することができる。
【0057】
バイオマス分解活性を検出するのにあたり、被験タンパク質の作用によって評価領域中のバイオマスが分解される反応条件を付与する。具体的には、被験タンパク質が機能する温度、pH、水分、塩濃度及び時間等についての個々の条件を付与する。このような条件は、各種バイオマス分解酵素あるいは分解促進タンパク質について当業者であれば容易に取得することができる。
【0058】
(評価工程)
本スクリーニング方法は、評価領域におけるバイオマス分解活性に基づいて2種類以上の被験タンパク質のうち少なくとも1種類の被験タンパク質の前記組み合わせに対する適否を評価する工程を備えることができる。被験タンパク質の組み合わせに対する適否は、例えば、バイオマス分解活性を固相体におけるハロの大きさに基づいて評価することができる。1種類の被験タンパク質の組み合わせに対する適否の評価は、同時に2種類以上の被験タンパク質の組み合わせ(相乗作用)の有効性を評価でもある。前記組み合わせに適していると評価できた1種類のタンパク質を含む組み合わせは、同時に相乗作用を発揮する組み合わせとしても有効だからである。
【0059】
(変異体タンパク質のスクリーニング方法)
本発明のバイオマスを分解するための変異体タンパク質のスクリーニング方法は、組み合わせによりバイオマスの分解を促進する複数のタンパク質の少なくとも一種類のタンパク質についての複数個の変異体タンパク質からなる変異体ライブラリを準備し、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備し、複数個の前記評価領域に前記組み合わせを構成する可能性のある前記変異体タンパク質を含む2種類以上の被験タンパク質をそれぞれ供給し、所定条件下での複数の前記評価領域における前記バイオマスの分解活性を検出することができる。
【0060】
変異体タンパク質のスクリーニング方法によれば、特に、バイオマスの分解を促進する複数のタンパク質の組み合わせを決定した後に、より高い相乗作用を発揮するための少なくとも1種類の変異体タンパク質及びこの変異体タンパク質を含む組み合わせを取得することができる。
【0061】
セルロースを分解するセルラーゼであるCBHとEGとを例に挙げて説明すると、セルロースの分解を促進するのに好ましい組み合わせとしての特定のCBH及び特定のEGとを決定したとき、さらなるセルロースの分解活性の向上を図るには、CBH及びEGのいずれかを改変することが好ましい。改変は、耐熱性、耐アルカリ性、CBD結合性の向上、生成物阻害回避などが挙げられるが、最も好ましいのは直接的に相乗作用を高める改変である。このような特定の変異体タンパク質を得る一つの方法は、CBH及びEGにつき変異体ライブラリを構築し、この変異体ライブラリの構成変異体タンパク質と他方のタンパク質(変異体でない)との組み合わせを被験タンパク質として評価領域に供給し、セルロース分解活性を検出することが挙げられる。この結果、一方が変異体タンパク質であり他方が非変異体タンパク質であるCBHとEGとのより好ましい組み合わせを得ることができる。また、CBHとEGとの双方につき変異体ライブラリを構築し、これらのライブラリの構成変異体タンパク質を組み合わせて被験タンパク質として評価領域に供給して、双方が変異体タンパク質であるより好ましい組み合わせを得ることもできる。こうした変異体ライブラリの構築に分子進化技術SIMPLEX法(Single-Molecule PCR-Linked in vitro expression)に基づく無細胞タンパク質合成系を採用することで、さらに、好ましい組み合わせを得ることもできる。
【0062】
分子進化技術に基づく変異体タンパク質ライブラリは、以下の方法で構築し、利用することが好ましい。すなわち、エラープローンPCR等を用いて変異DNAライブラリを構築し、これら各変異体DNAを用いて無細胞タンパク質合成を行い変異DNAに対応する変異体タンパク質ライブラリを構築する。この変異体タンパク質ライブラリの構成変異体タンパク質を変異体タンパク質のスクリーニング方法における被験タンパク質として用いる。相乗作用に貢献できる変異体タンパク質を取得できたときには、この変異体タンパク質の鋳型DNAにつき、さらにエラープローンPCR等による変異体DNAライブラリ及び無細胞タンパク質合成系による変異体タンパク質ライブラリを構築して、変異体タンパク質のスクリーニングにかける。こうすることで、相乗作用に貢献することについてより進化した変異体タンパク質を容易に得ることができる。
【0063】
なお、変異体タンパク質のスクリーニング方法においては、被験タンパク質の少なくとも一部に変異体ライブラリの構成変異体タンパク質を用いる以外は、既に説明した本発明のスクリーニング方法における各種態様を適用することができる。すなわち、バイオマス、スクリーニング対象、スクリーニング用デバイス、被験タンパク質の供給、バイオマス分解活性の検出及び評価について既に説明した各種態様を適用することができる。また、変異体ライブラリの準備と評価領域の準備の実施の先後は特に限定するものではなく、いずれを先に実施してもよく、同時に実施してもよい。
【0064】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。PCRによる遺伝子増幅は、特に述べない限り、KOD plus DNA polymerase(TOYOBO)を用い、添付のプロトコルに従って行った。PCR増幅反応は94℃で2分間の熱処理を行った後、94℃で15秒と53℃で30秒と68℃でX分(X:増幅遺伝子の大きさが1kbにつき1分とした)との3つの温度変化を1サイクルとし、これを25サイクル繰り返し、最後に4℃とした。PCR増幅装置はGene Amp PCR system 9700(PApplied Biosystems)を使用した。DNA断片のライゲーション反応にはIn-Fusion PCRクローニングキット(Clontech)またはLigaFast Rapid DNA Ligation System(Promega)を用いた。大腸菌の形質転換は、DH5α株のコンピテント細胞(TOYOBO)を用い、添付のプロトコルに従って行った。大腸菌の形質転換体の選抜はアンピシリン100μg/mlまたはカナマイシン50μg/mlを含むLBプレートを用いて行った。大腸菌からのプラスミドの抽出にはQIA Prep Spin Miniprepkit (QIAGEN)を用いた。
【実施例1】
【0065】
シャペロン(大腸菌由来のDnaK/DnaJ、GrpE、GroEL/GroES)を高発現した大腸菌を破砕後、S30画分を還元剤(ジチオスレイトール;DTT)未添加で調製したものを無細胞合成のための抽出液(媒体)として用いた。この抽出液に、鋳型DNA、56.4mM Tris-acetate pH7.4、1.2mM ATP、1mM GTP、1mM CTP、1mM UTP、40mMクレアチンフォスフェート、0.7mM 20アミノ酸ミックス、4.1%(w/w)ポリエチレングリコール6000、35μg/ml フォリン酸、0.2mg/ml大腸菌tRNA、36mM 酢酸アンモニウム、0.15mg/ml クレアチンキナーゼ、10mM 酢酸マグネシウム、100mM 酢酸カリウム、10μg/ml リファンピリシン、7.7μg/ml T7RNAポリメラーゼ及びカビ由来PDIと1mM GSH/0.1mM GSSGを加え、25℃、1〜3時間、転写翻訳共役反応を行った。
【0066】
なお、鋳型DNAとして、ファネロケーテクリソスポリウム由来のCBH3種類、トリコデルマリーゼイ由来CBH2種類、クロストリディウムサーモシーラム由来CBH5種類、アスペルギルスアキュリタス由来CBH1種類、アスペルギルスニガー由来EG2種類、アスペルギルスアキュリタス由来EG1種類、ファネロケーテクリソスポリウム由来EG2種類、トリコルデルマリーゼイ由来EG5種類、クロストリディウムサーモシーラム由来EG11種類、ファネロケーテクリソスポリウム由来BGL1種類、アスペルギルスアキュリタス由来BGL1種類、サーモトガマリティマ由来BGL2種類、ストレプトマイセス由来BGL1種類、バチルスサーキュランス由来BGL1種類、バチルスポリメキサ由来BGL1種類を用いた。
【実施例2】
【0067】
実施例1で無細胞合成した各種CBHのカルボキシメチルセルロースに対する活性を測定した。すなわち、カルボキシル化メチルセルロースに寒天を加えて固化させ、セルロース含有プレートを作製した。無細胞合成後の各反応液1μlを、セルロース含有プレート上にアレイ状に添加し、酵素反応を生じさせた。反応後、染色液(コンゴーレッド)をセルロース含有プレートに滴下重層して染色し、セルラーゼ反応部分が脱色されたハロが形成されるまで脱色反応を行った。すべての反応液について、ハロが検出されたことから、実施例1の無細胞合成系でCBHを活性型で合成できることがわかった。
【実施例3】
【0068】
マイクロタイタープレート中で、リン酸膨潤セルロース又は粉末化した結晶セルロースに寒天を加えて固化させ、高分子不溶性セルロース含有プレートとした。活性型で合成した実施例1の各種酵素を含む反応液1μlを様々な組み合わせ(CBHのみ、CBH+BGL、CBH+EG、CBH+EG+BGL)で、プレート上にアレイ状に添加し、酵素反応を生じさせた。反応後、実施例2と同様に、染色液を加えて脱色反応を行った。結果を図2に示す。
【0069】
図2に示すように、相乗作用の出る組み合わせについてのみハロが形成された。すなわち、CBHのみ、及びCBH+BGLの組み合わせではハロは形成されなかった。なお、コンゴーレッドによる染色前にあっても相乗作用によるハロを目視により確認できた。
【実施例4】
【0070】
仕切りのないマイクロタイタープレートに、カルボキシメチル化セルロースに寒天を加えて固化させてセルロース含有プレートを作製した。別途384プレート上に構築した無細胞合成系により構築したEGの変異体タンパク質ライブラリ(無細胞合成反応液)を、分注機を用いてセルロース含有プレート上に滴下して数時間酵素反応を生じさせた。コンゴーレッド染色及び脱色の後、ハロを検出し、ハロの大きさでEG活性を評価し、EG活性の高い変異体をスクリーニングした。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1A】本発明のスクリーニング方法に用いるスクリーニング用デバイスの一例を示す図である。
【図1B】本発明のスクリーニング方法に用いるスクリーニング用デバイスの一例を示す図である。
【図1C】本発明のスクリーニング方法に用いるスクリーニング用デバイスの一例を示す図である。
【図2】実施例2におけるセルロース分解活性のアッセイ結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを分解するためのタンパク質のスクリーニング方法であって、
複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備する工程と、
複数個の前記評価領域に前記組み合わせを構成する可能性のある2種類以上の被験タンパク質をそれぞれ供給する工程と、
所定条件下での複数の前記評価領域における前記2種類以上の被験タンパク質による前記バイオマスの分解活性を検出する検出工程と、を備える、スクリーニング方法。
【請求項2】
さらに、前記検出したバイオマスの分解活性に基づいて前記2種類以上の被験タンパク質の少なくとも1種類の被験タンパク質の前記組み合わせに対する適否を評価する評価工程を備える、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、デンプン及びリグニンから選択される1種又は2種以上を含有する、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記バイオマスは、リグニンと分離され非晶質セルロース及び/又は結晶質セルロースを含むバイオマスである、請求項1〜3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記2種類以上の被験タンパク質の少なくとも一種類はバイオマス分解酵素である、請求項1〜4のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記バイオマス分解酵素は、セロビオヒドロラーゼ、エキソグルカナーゼ、エンドグルカナーゼ、βグルコシダーゼ、ヘミセルラーゼ、キシロシダーゼ、マンナーゼ、マンノシダーゼ、ガラクトシダーゼ、アミラーゼ、リグニンペルオキシダーゼ及びマンガンペルオキシダーゼから選択される1種又は2種以上である、請求項5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記バイオマス分解酵素はセロビオヒドロラーゼを含む、請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記バイオマス分解酵素はセロビオヒドロラーゼ及びエンドグルカナーゼを含む、請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記2種類以上の被験タンパク質のうち少なくとも一つはバイオマス分解酵素でないがバイオマスの分解を促進する可能性のあるタンパク質である、請求項1〜8のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記タンパク質は、スウォレニン、エクスパンシン及びセルロース結合ドメインからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項9に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
前記2種類以上の被験タンパク質の組み合わせのうち少なくとも1種類の被験タンパク質は、無細胞タンパク質合成系による産物を用いる、請求項1〜10のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
前記2種類以上の被験タンパク質の組み合わせうち少なくとも1種類の被験タンパク質は、当該被験タンパク質を細胞外部に発現する微生物の状態で供給される、請求項1〜11のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
前記検出工程は、前記2種類以上の被験タンパク質によるバイオマスの分解活性を、前記バイオマスの消失量として検出する工程である、請求項1〜12のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記検出工程は、前記バイオマスの消失量を前記固相担体におけるハロとして検出する工程である、請求項13に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
バイオマスを分解するための変異体タンパク質のスクリーニング方法であって、
組み合わせによりバイオマスの分解を促進する複数のタンパク質の少なくとも一種類のタンパク質についての複数個の変異体タンパク質からなる変異体ライブラリを準備する工程と、
複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されるバイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備する工程と、
複数個の前記評価領域に前記組み合わせを構成する可能性のある前記変異体タンパク質を含む2種類以上の被験タンパク質をそれぞれ供給する工程と、
所定条件下での複数の前記評価領域における前記バイオマスの分解活性を検出する検出工程と、
を備える、スクリーニング方法。
【請求項16】
前記変異体ライブラリは、分子進化的手法に基づく無細胞タンパク質合成系による産物を用いる、請求項15に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
バイオマスを分解するためのタンパク質のスクリーニング用デバイスであって、
バイオマスを含有する固相体からなり、前記バイオマスを分解する可能性のある1種又は2種以上の被験タンパク質を付与したとき、前記被験タンパク質による前記バイオマスの分解活性を前記バイオマスの消失量として検出可能な複数個の評価領域を備える、スクリーニング用デバイス。
【請求項18】
前記バイオマスの消失量を前記固相担体におけるハロとして検出可能である、請求項17に記載のスクリーニング用デバイス。
【請求項19】
前記バイオマスは、複数のタンパク質の作用の組み合わせにより分解が促進されて前記バイオマスの消失量として検出されるバイオマスである、請求項17又は18に記載のスクリーニング用デバイス。
【請求項20】
前記複数個の評価領域をアレイ状に備える、請求項17〜19のいずれかに記載のスクリーニング用デバイス。


【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−72102(P2009−72102A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243626(P2007−243626)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】