説明

バイオマス樹脂組成物及び樹脂成形体

【課題】機械的強度及び熱安定性に優れ、かつ難燃性のバイオマス樹脂組成物及び樹脂成形体を提供する。
【解決手段】下記化学式(A)で示される構造のジオールと、下記化学式(B)及び/又は化学式(C)で示される構造のジオールとを重合してなるバイオマス共重合体に、ポリスチレン又はアクリルニトリル−スチレン共重合体等の高分子重合体をスルホン化したもの又はその塩を配合してバイオマス樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の原料を使用して製造されるバイオマス重合体を主成分とするバイオマス樹脂組成物及びこの樹脂を使用して形成された樹脂成形体に関する。より詳しくは、バイオマス樹脂組成物の難燃性を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明性、耐熱性及び耐衝撃性等の種々の特性を併せ持つ合成樹脂が開発され、様々な分野で使用されている。しかしながら、これら合成樹脂は、石油資源から得られる原料を用いて製造されるため、石油資源の枯渇や、廃棄物処理時に発生する二酸化炭素による地球温暖化等の問題が懸念されている。そこで、現在、より環境負荷が少ないバイオマス由来原料を使用したバイオマス樹脂が注目されている。
【0003】
例えば、従来、ポリカーボネート樹脂に代わるバイオマス樹脂として、イソソルビドと、炭酸ジエステル及び/又は脂肪族ジオール若しくは脂環式ジヒドロキシ化合物を重合させた共重合体が提案されている(例えば、特許文献1〜6参照。)。これらの共重合体の原料となるイソソルビドは、グルコースを分解して得られるソルビトールを、脱水縮合することにより製造されるバイオマス材料である。
【0004】
また、特許文献1に記載の熱可塑性成形材料では、難燃性を付与するために、イソソルビドを原料とした重合体に、難燃化成分として置換又は未置換の核酸塩基、ヌクレオシド又はヌクレオチドを添加している。更に、特許文献5,6に記載の樹脂組成物では、ハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤及び有機リン系難燃剤等の難燃剤を配合することにより、難燃化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−292603号公報
【特許文献2】国際公開第2004/111106号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/013463号パンフレット
【特許文献4】特開2008−24919号公報
【特許文献5】特開2009−74029号公報
【特許文献6】特開2009−57467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。第1に、従来のバイオマス樹脂は、石油原料由来の合成樹脂に比べて、耐熱性や熱安定性等の熱物性、耐衝撃性等の機械的強度及び透明性等の光学特性等が劣っているという問題点がある。そこで、特許文献1〜6に記載の樹脂においても、これらの特性を改善するための検討がなされているが、未だ充分でない。
【0007】
第2に、電子機器等に適用する際は難燃性を付与する必要があるが、バイマス樹脂は、石油原料由来の合成樹脂に比べて流動性が低いため、前述したような従来の難燃剤を適用すると、成形性が低下するという問題点がある。また、従来の難燃剤を配合したバイオマス樹脂組成物には、リサイクルし難いという問題点があり、更に充分な機械的強度が得られないという問題点もある。
【0008】
例えば、金属水酸化物系難燃剤を使用する場合、充分な難燃性を得るためには、樹脂組成物に難燃剤を多量に添加しなければならならず、得られる成形体の機械的特性が低下する。また、臭素化エポキシ樹脂等のハロゲン系難燃剤を、バイオマス樹脂組成物に使用すると、衝撃強度が低下しやすい。更に、リン酸エステル系難燃剤や有機リン系難燃剤等のリン系難燃剤を使用すると、樹脂組成物を射出成型する際にガスが発生したり、成形体の耐衝撃性や耐熱性が低下したりする。更にまた、シリコーン系難燃剤等の珪素系難燃剤は、リン系難燃剤より耐衝撃性や耐熱性の低下は起こりにくいが、適用可能な樹脂組成物が少なく、その用途が限定される。
【0009】
一方、特許文献1に記載の樹脂では、難燃剤として、置換又は未置換の核酸塩基、ヌクレオシド又はヌクレオチドを使用しているが、これらの化合物は、ガラス転移温度が低いため、OA機器や家電製品の筐体等のように高い熱安定性が求められるものへの適用は難しい。
【0010】
そこで、本発明は、機械的強度及び熱安定性に優れ、かつ難燃性のバイオマス樹脂組成物及び樹脂成形体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るバイオマス樹脂組成物は、下記化学式1で示される構造のジオールと、下記化学式2及び/又は化学式3で示される構造のジオールとを重合してなるバイオマス共重合体、並びに、少なくとも一部に下記化学式4で示される構成単位を有する高分子重合体を含有するものである。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
本発明においては、樹脂成分として、上記化学式1で示されるジオールと、上記化学式2及び/又は化学式3で示されるジオールとを重合したバイオマス共重合体を使用しているため、熱安定性及び機械的特性に優れている。また、難燃成分として、少なくとも一部に上記化学式4で示される構成単位を有する高分子重合体を配合しているため、少量の添加で優れた難燃性が得られる。
【0017】
この樹脂組成物では、前記高分子重合体として、例えば、ポリスチレン又はアクリルニトリル−スチレン共重合体をスルホン化したもの又はその塩を使用することができる。
また、前記高分子重合体を、前記バイオマス共重合体に対して、0.3〜1.0質量%含有していてもよい。
一方、この樹脂組成物は、質量平均分子量(Mw)が50000〜80000であってもよい。
また、前述した各成分に加えて、ドリップ抑制剤として、ポリテトラフルオロエチレンを、前記バイオマス共重合体に対して、0.5質量%以下を配合することもできる。
更に、この樹脂組成物の酸化指数は19.0以上とすることができる。
【0018】
本発明に係る樹脂成形体は、前述したバイオマス樹脂組成物を使用して形成されたものである。
本発明においては、上記化学式1のジオールと、上記化学式2及び/又は化学式3のジオールとを重合したバイオマス共重合体、並びに、少なくとも一部に上記化学式4で示される構成単位を有する高分子重合体を含有する樹脂組成物で形成しているため、機械的強度、熱安定性及び難燃性に優れている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、樹脂成分を特定構造のバイオマス共重合体とし、更に、難燃成分としてスチレン系ポリマーにスルホ基又はスルホン酸塩基を導入した高分子重合体を配合しているため、優れた機械的強度及び熱安定性と、難燃性とを併せ持つバイオマス樹脂組成物及び樹脂成形体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例で作製したバイオマス共重合体のNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。また、説明は、以下の順序で行う。

1.第1の実施の形態 (バイオマス樹脂組成物の例)
2.第2の実施の形態 (樹脂成形体の例)

【0022】
<1.第1の実施の形態>
先ず、本発明の第1の実施形態に係るバイオマス樹脂組成物について説明する。本発明者は、前述した問題点を解決するために、鋭意実験研究を行った結果、以下に示す知見を得た。先ず、下記化学式5で示される構造のジオールと、下記化学式6及び/又は化学式7で示される構造のジオールとを重合したバイオマス共重合体を、主成分(樹脂成分)とすることにより、熱安定性及び機械的特性に優れた樹脂組成物が得られることを見出した。なお、下記化学式6,7におけるR,Rは、アルキル基、シクロアルキル基又はシクロアルコキシル基である。
【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
更に、本発明者は、難燃成分として、少なくとも一部に下記化学式8で示される構成単位を有する高分子重合体を配合することにより、前述したバイオマス共重合体の熱安定性及び機械的特性を低下させることなく、樹脂組成物に難燃性を付与できることを見出した。なお、下記化学式8におけるRは、スルホ基又はスルホン酸塩基である。
【0027】
【化8】

【0028】
そこで、本実施形態のバイオマス樹脂組成物においては、樹脂成分として、上記化学式5で示される構造のジオールと、上記化学式6及び/又は化学式7で示される構造のジオールとの共重合体を含有し、更に、難燃成分として、少なくとも一部に上記化学式8で示される構成単位を有する高分子重合体を配合している。以下、本実施形態のバイオマス樹脂組成物に含有される各成分について、具体的に説明する。
【0029】
[バイオマス共重合体]
本実施形態のバイオマス樹脂組成物に配合されるバイオマス共重合体は、上記化学式6で示される構造のジオール及び化学式7で示される構造のジオールのいずれか一方又は両方と、上記化学式5で示される構造のジオールとを共重合させたものである。具体的には、下記化学式9及び化学式10で示される構造単位を有する共重合体である。なお、下記化学式10におけるRは、アルキル基、シクロアルキル基又はシクロアルコキシル基である。
【0030】
【化9】

【0031】
【化10】

【0032】
このバイオマス共重合体の原料である上記化学式5で示される構造のジオールには、イソソルビド、イソマンニド及びイソイディッドの3種類の立体異性体が存在する。これらは、植物由来のバイオマス材料であり、例えば、イソドルビドは、グルコースを分解して得られるソルビトールを、脱水縮合することにより製造される。このイソソルビドは、澱粉等から容易に製造することができ、資源として豊富に入手することができることから、本実施形態におけるバイオマス共重合体の原料には、これらの立体異性体の中でも特にイソソルビドを使用することが好ましい。
【0033】
上記化学式6で示される構造のジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等を使用することができる。
【0034】
また、上記化学式7で示される構造のジオールとしては、例えば、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を使用することができる。これらのジオールの中でも、特に、入手しやすさ及び重合反応のしやすさ等の観点から、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールを使用することが好ましい。
【0035】
そして、本実施形態におけるバイオマス共重合体は、これらのジオールを、重合触媒及び炭酸ジエステルの存在下で共重合することにより得られる。その重合方法は特に限定されるものではなく、ホスゲンを使用した溶液重合法でも製造可能であるが、環境負荷及び経済性を考慮すると減圧溶融重合法が好ましい。ここで、減圧溶融重合法によりバイオマス共重合体を作製する場合は、重合時の最終到達温度を230〜260℃とすることが望ましい。なお、重合時の最終到達温度が230℃未満の場合、重合反応が十分に進行しないことがあり、また、260℃を超えると、熱による着色が促進されるおそれがある。
【0036】
また、重合の際使用する触媒としては、例えば、アルカリ金属化合物が好ましく、特に、重合反応を速やかに進行させることができ、入手しやすい炭酸セシウムを使用することが好ましい。更に、重合触媒の配合量は、上記化学式5で示されるジオール1molに対して、5×10−6mol以下とすることが望ましい。なお、重合触媒配合量が5×10−6molを超えると、得られる共重合体の色相が低下したり、副生成物の生成により流動性が低下したりすることが多くなり、目標とする共重合体の製造が困難になることがある。
【0037】
一方、炭酸ジエステルとしては、重合の反応性及び経済的観点から芳香族系炭酸ジエステルを使用することが好ましく、更に入手しやすさを考慮すると、炭酸ジフェニルを使用することが好ましい。また、上記化学式6で示されるジオールは、酸化分解物が含まれている可能性があるため、上記化学式7,8で示される構造のジオールと共重合する際は、予め減圧蒸留精製しておくことが望ましい。なお、このような酸化分解物を含むジオールを使用して重合反応を行うと、得られる共重合体に着色が発生したり、物性が著しく低下したりすることがある。
【0038】
[難燃成分]
本実施形態のバイオマス樹脂組成物に配合される難燃成分は、少なくとも一部に上記化学式8で示される構成単位を有する高分子重合体である。この高分子重合体は、スチレン系ポリマーをスルホン化処理して、その芳香環にスルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を導入することによって得られる。
【0039】
スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基が導入されるスチレン系ポリマーとしては、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン-スチレン樹脂(ACS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体(ASA)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−ジエン-スチレン樹脂(AEPDMS)等が挙げられ、これらは単独でも、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
そして、例えば、アクリロニトリルをモノマー単位とするスチレン系ポリマーの場合は、下記化学式11で示される構成単位を有することとなる。なお、下記化学式11におけるRは、スルホ基又はスルホン酸塩基である。
【0041】
【化11】

【0042】
また、難燃成分として配合される高分子重合体の原料となるスチレン系ポリマーは、質量平均分子量(Mw)が5000〜10000000であることが好ましい。質量平均分子量(Mw)がこの範囲から外れるスチレン系ポリマーを使用した高分子重合体は、前述したバイオマス共重合体との相溶性が低下し、均一な樹脂組成物が得られないことがある。なお、スチレン系ポリマーは、質量平均分子量(Mw)が20000〜500000のものを使用することがより好ましい。
【0043】
一方、スチレン系ポリマーに導入される官能基は、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のいずれでもよいが、スルホン酸塩基が導入された高分子重合体を使用する方が、より高い難燃性を付与することができる。スチレン系ポリマーに導入されるスルホン酸塩基としては、例えば、スルホン酸Na塩基、スルホン酸K塩基、スルホン酸Li塩基、スルホン酸Ca塩基、スルホン酸Mg塩基、スルホン酸Al塩基、スルホン酸Zn塩基、スルホン酸Sb基、スルホン酸Sn塩基等が挙げられる。本実施形態のバイオマス樹脂組成物においては、特に、スルホン酸Na塩、スルホン酸K塩及びスルホン酸Ca塩が導入された高分子重合体が好適である。
【0044】
この高分子重合体は、前述したバイオマス共重合体に対して、0.3〜1.0質量%配合されていることが望ましい。高分子重合体の配合量が、バイオマス共重合体の配合量の0.3質量%未満の場合、充分な難燃性が得られないことがあり、また1.0質量%を超えて配合しても、難燃効果の向上は認められず、他の物性値に影響を与えるおそれもある。言い換えれば、難燃成分として、この高分子重合体を使用することにより、少ない配合量で、樹脂組成物に難燃性を付与することができる。
【0045】
[ドリップ抑制剤]
更に、本実施形態のバイオマス樹脂組成物には、前述した各成分に加えて、ドリップ抑制剤が配合されていてもよい。このドリップ抑制剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレンを使用することができ、なお、ポリテトラフルオロエチレンを、バイオマス共重合体の配合量の0.5質量%を超える量配合しても、それ以上の効果向上は期待できないため、ポリテトラフルオロエチレン配合量は、前述したバイオマス共重合体に対して、0.5質量%以下とすることが望ましく、より好ましくは0.3質量%以下である。
【0046】
[バイオマス樹脂組成物の物性]
本実施形態のバイオマス樹脂組成物は、以下に示す要件を満たすことが望ましい。
【0047】
1)ガラス転移温度(Tg):120℃以上
ガラス転移温度(Tg)は、組成物の熱安定性を示し、その値が高いものほど、熱安定性に優れているといえる。そして、このガラス転移温度(Tg)が120℃未満であると、電子機器等の筐体に使用した場合に充分な熱安定性が得られないことがあるため、バイオマス樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は120℃以上であることが望ましい。なお、ここでいうガラス転移温度(Tg)は、粘弾性測定装置により測定した貯蔵弾性率から外挿した値である。
【0048】
2)5%質量減少温度(Td):360℃以上
5%質量減少温度(Td)が大きい組成物ほど熱安定性が高く、より高温での使用に耐えることができる。一方、5%質量減少温度(Td)が小さい組成物は、熱安定性が低く、高温での使用には適さない。具体的には、5%質量減少温度(Td)が360℃未満であると、成形品を形成する際に充分な熱安定性が得られないことがあるため、バイオマス樹脂組成物の5%質量減少温度(Td)は360℃以上であることが望ましい。なお、ここでいう「5%質量減少温度」とは、昇温速度を一定にして試料を加熱していき、その質量が加熱前の値から5%減少したときの温度であり、示差熱天秤により測定することができる。
【0049】
3)質量平均分子量(Mw):50000〜80000
バイオマス樹脂組成物の質量平均分子量(Mw)が50000未満であると、成形品の成形時に不良が生じることがあり、また、質量平均分子量(Mw)が80000を超えると、十分な流動性が得られず、成形性が低下することがある。このため、バイオマス樹脂組成物の質量平均分子量(Mw)は、50000〜80000であることが好ましく、これにより、成形時に適度な流動性と安定性が得られる。なお、ここで規定する質量平均分子量(Mw)は、スチレン換算値である。
【0050】
4)シャルピー衝撃強度:5.0kJ/m以上
樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、成形体の強度に影響し、その値が高いものほど壊れにくいと考えられる。具体的には、シャルピー衝撃強度が5.0kJ/m未満の場合、形成された成形体が強度不足になることがある。よって、バイオマス樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、5.0kJ/m以上であることが望ましい。
【0051】
5)メルトフローレート(250℃):6.2g/10分未満
メルトフロートレートは、樹脂の流動性を示すものであり、この値が大きすぎたり、小さすぎたりすると、成形性が低下する。具体的には、250℃におけるメルトフロートレートが6.2g/10分以上であると、成形時に不良が発生することがある。よって、バイオマス樹脂組成物の250℃でのメルトフローレートは、6.2g/10分よりも小さいことが好ましい。
【0052】
6)質量平均分子量の減少率(85℃,80%RH,96時間):2%以下
高温・高湿の環境下に長時間保存したときの質量平均分子量(Mw)の減少率は、樹脂組成物の耐久性を示し、この値が小さいものほど高温での耐久性に優れているといえる。具体的には、85℃,80%RHの環境下に96時間保持したときの質量平均分子量(Mw)の減少率が2%を超えると、充分な耐久性が得られないことがある。
【0053】
7)酸素指数:19.0以上
酸素指数は、難燃性の度合いを示し、その値が大きいほど燃えにくい、即ち、難燃性に優れるとされており、本実施形態のバイオマス樹脂組成物においては、酸素指数を19.0以上とすることが望ましい。なお、前述したバイオマス共重合体は、酸素指数が低く、比較的燃焼しやすいが、前述した難燃成分(高分子重合体)を配合することにより、バイオマス樹脂組成物の酸素指数を19.0以上とすることができ、これにより優れた難燃性が得られる。
【0054】
[製造方法]
次に、本実施形態のバイオマス樹脂組成物の製造方法ついて説明する。本実施形態のバイオマス樹脂組成物は、前述したバイオマス共重合体と、難燃成分である高分子重合体とを所定の割合で配合し、更に、必要に応じてドリップ抑制やその他の添加剤・充填剤等を配合し、加熱混練することにより製造することができる。
【0055】
その際、混練温度が170℃未満であると、各成分の流動性が低くなり、作業効率が低下する。また、混練温度が250℃を超えると、樹脂組成物に着色や分解が生じることがある。よって、各成分を混練する際は、加熱温度を170〜250℃の範囲にすることが望ましい。
【0056】
以上詳述したように、本実施形態のバイオマス樹脂組成物は、樹脂成分として、上記化学式5で示されるジオールと、上記化学式6及び/又は化学式7で示されるジオールとを重合したバイオマス共重合体を使用しているため、熱安定性及び機械的特性に優れている。また、難燃成分として、上記化学式8で示される構成単位を有する高分子重合体を配合しているため、少量の添加で優れた難燃性が得られる。
【0057】
これにより、バイオマス共重合体の優れた機械的特性や流動性を低下させることなく、樹脂組成物に難燃性を付与することができる。その結果、環境負荷が少なく、かつ熱安定性、機械的強度及び成形性に優れ、更に、耐熱性、耐燃性及び耐久性を併せ持つ、バイオマス樹脂組成物が得られる。そして、このバイオマス樹脂組成物は、難燃性が要求される電子部品等への適用も可能であり、幅広い分野で利用することができる。
【0058】
<2.第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る樹脂成形体について説明する。本実施形態の樹脂成形体は、前述した第1の実施形態の樹脂組成物を成形したものである。その成形方法は、特に限定されるものではないが、例えば、射出成形、押出成形、トランスファー成形、カレンダー成形及び圧縮成形等が挙げられる。また、その形状も、特に限定されるものではなく、OA機器及び家電製品の筐体や部品等種々の形状のものに適用することができる。
【0059】
本実施形態の樹脂成形体は、バイオマス樹脂組成物により形成しているため、従来石油由来の合成樹脂で形成されたものよりも環境に対する付加が少ない。また、従来の合成樹脂と同等の機械的強度及び熱安定性を備えており、更に難燃性にも優れているため、幅広い分野で使用が可能である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、イソソルビドと1,4−シクロヘキサンジメタノールとを重合したバイオマス共重合体に、難燃剤としてポリスチレンスルホン酸カリウム又はアクリロニトリル−スチレン共重合体スルホン酸カリウムを配合して、バイオマス樹脂組成物を作製し、その難燃性、機械的強度及び熱安定性を調べた。
【0061】
本実施例においては、減圧蒸留精製したイソソルビドを使用した。具体的には、先ず、500mLの四つ口フラスコに、未精製のイソソルビド300gとスターラーバーとを投入した後、クライゼン管(バンドヒーター60V)及び受器を取り付けた。次に、真空ポンプ−減圧コントローラ(窒素ガスパージ仕様)を使用し、減圧(133Pa,1mmHg)−窒素パージ(93.3kPa,700mmHg)を繰り返した。
【0062】
次に、系内を266Pa(2mmHg)に保ち、フラスコを160℃のオイルバスに浸漬させて、原料が融解し、内温が160℃にて留出し始めたことを確認した後、初留分として約10gを採取した。その後、内温を170℃にして蒸留を行い、精製イソソルビド(薄黄色の固体)約280gを得た。そして、得られた精製イソソルビド(薄黄色の固体)を、窒素雰囲気下にて粉砕し、粉体状にした。
【0063】
また、バイオマス共重合体は、以下に示す方法で作製した。先ず、精製イソソルビド146.1質量部(1.00mol)、1,4−シクロヘキサンジメタノール67.8質量部(0.47mol)、炭酸ジフェニル312.8質量部(1.46mol)及び重合触媒として炭酸セシウム1.6×10−3質量部(5×10−6mol)を、1Lの四つ口フラスコに投入し、このフラスコに撹拌羽根を備えた撹拌棒と、減圧度調整系を備えた留去系とを取り付けた。
【0064】
次に、全体を密封系とし、系内の圧力が133Pa(1mmHg)となるように減圧した後、系内に窒素ガスを導入して圧力を常圧付近(93.3kPa,700mmHg)に戻す窒素置換を、2回行った。その後、系内の圧力を常圧付近(93.3kPa,700mmHg)とし、投入した各原料を撹拌しながら、フラスコを180℃のオイルバスに浸漬して、原料の溶解を確認しつつ、内温が180℃になるまで引き続き撹拌した。
【0065】
そして、内温が180℃に達したことを確認した後、系内の圧力を、約50分かけて、16kPa(120mmHg)まで減圧し、その状態で更に30分間撹拌した。次に、系内の圧力を、10分間かけて、14.6kPa(110mmHg)まで減圧し、その状態で20分間撹拌した。その後、1時間かけてオイルバスの温度を200℃まで昇温し、その状態で更に40分間撹拌して、内温が200℃に到達したことを確認した。
【0066】
次に、系内の圧力を4.0kPa(30mmHg)まで減圧した後、オイルバスの温度を215℃に上昇させ、5分間に666Pa(5mmHg)ずつ減圧すると共に、5℃ずつ昇温して、系内を250℃、14.6kPa(110mmHg)にした。その状態で20分間撹拌した後、窒素ガスを吹き込んで系内を常圧にし、オイルバスを外して、室温−窒素雰囲気下にて放冷した。これにより得られたバイオマス共重合体(薄黄色透明固体)を、液体窒素で冷却した後、粉砕機で粉砕して、粉体とした。
【0067】
得られたバイオマス共重合体について、溶媒に重クロロホルムを使用し、JOEL社製 NMR(Nuclear Magnetic Resonance;核磁気共鳴分光)測定装置にて、共鳴周波数400MHz、測定温度25℃にて、H−NMRスペクトルを測定し、その構造を確認した。図1は本実施例で作製したバイオマス共重合体のNMRスペクトルである。なお、図1に示すNMRスペクトルは、図1に示すように、本実施例で作製したバイオマス共重合体は、上記化学式9及び化学式10で示される構造単位を有することが確認された。
【0068】
また、このバイオマス共重合体は、ガラス転移温度が128℃、比重が1.36、シャルピー衝撃強度が、ノッチありで5.0kJ/m、ノッチなしでNBであった。なお、シャルピー衝撃強度は、東洋精機製作所製 シャルピー衝撃試験機(Digital Impact Tester)を使用して測定した。その際、ノッチ有りの試験片では、ハンマーの重さを4Jとし、ノッチ無しの試験片では、ハンマーの重さを2Jとした。また、各試験片のノッチは、ISO2818に準拠し、単刃ノッチ加工(Aノッチ d=2.0,r=0.25)により形成した。
【0069】
次に、このバイオマス共重合体を使用して、以下に示す実施例1〜7及び比較例1〜4の樹脂組成物ペレットを作製した。
【0070】
(実施例1)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分としてポリスチレンスルホン酸カリウム0.09質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、実施例1の樹脂組成物ペレットを得た。
【0071】
(実施例2)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分としてポリスチレンスルホン酸カリウム0.15質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、実施例2の樹脂組成物ペレットを得た。
【0072】
(実施例3)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分としてポリスチレンスルホン酸カリウム0.27質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、実施例3の樹脂組成物ペレットを得た。
【0073】
(実施例4)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分としてアクリロニトリル−スチレン共重合体スルホン酸カリウム0.09質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、実施例4の樹脂組成物ペレットを得た。
【0074】
(実施例5)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分としてポリスチレンスルホン酸カリウム0.03質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、実施例5の樹脂組成物ペレットを得た。
【0075】
(実施例6)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分としてポリスチレンスルホン酸カリウム(溶液反応)0.09質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、実施例6の樹脂組成物ペレットを得た。
【0076】
(実施例7)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分としてジフェニルスルホン−スルホン酸カリウム0.09質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、実施例7の樹脂組成物ペレットを得た。
【0077】
(比較例1)
小型二軸混連機を用いて、バイオマス共重合体を190℃で混練し、比較例1の樹脂組成物ペレットとした。
【0078】
(比較例2)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分としてリン系難燃剤1.5質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、比較例2の樹脂組成物ペレットを得た。
【0079】
(比較例3)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分として珪素系難燃剤0.6質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、比較例3の樹脂組成物ペレットを得た。
【0080】
(比較例4)
バイオマス共重合体30質量部、ドリップ防止剤としてポリテトラフルオロエチレン0.09質量部、難燃成分としてフッ素系難燃剤0.09質量部を、小型二軸混練機により190℃で混練して、比較例4の樹脂組成物ペレットを得た。
【0081】
そして、これら実施例及び比較例の各樹脂組成物ペレットについて、下記に示す方法で、比重、ガラス転移温度(Tg)、5%質量減少温度(Td)、メルトフロート(MFR)、燃焼速度、酸素指数及び耐久性を測定した。
【0082】
a)比重
水中置換法により測定した。
【0083】
b)ガラス転移温度(Tg)
レオメトクリス社製 粘弾性測定装置(Soild Analyzer RSAII)を使用して、測定周波数6.28rad/秒、測定温度範囲35〜160℃で、貯蔵粘弾性E´を測定し、その外挿温度からガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0084】
c)5%質量減少温度(Td)
リガク製TG−DTA(Thermoflex TAS2000)を使用し、実施例及び比較例の各樹脂組成物ペレット5mg程度を石英容器に載せ、窒素雰囲気下(窒素流量100mL/分)で、昇温速度を40℃/分として、200〜600℃まで測定し、質量が5%減少したときの温度を測定した。
【0085】
d)メルトフロート(MFR)
東洋精機製作所製 メルトフロー測定装置(メルトインデックサ)を使用し、測定温度を250℃、荷重を2.16kgとして、メルトフローレートを測定した。
【0086】
e)燃焼速度
実施例及び比較例の各樹脂組成物ペレットを使用して、厚さ2mm、幅10mm、長さ120mmの試験片を作製した。そして、各試験片の端部から、25.4mm及び101.6mmの位置にそれぞれ印を付け、長さ76.2mmの燃焼時間を測定して、燃焼速度を求めた。
【0087】
f)酸素指数
実施例及び比較例の各樹脂組成物ペレットを使用して、厚さ1mm、幅10mm、長さ100mmの試験片を作製した。そして、スガ試験機製 燃焼性試験機(ONI−METER)を使用して、各試験片を燃焼させ、酸素指数を測定した。
【0088】
g)耐久性
各試験片を、85℃,80%RHにした恒温槽内に96時間放置した後、室温で24時間乾燥させた。そして、Waters社製GPCシステムを使用して、各試験片の質量平均分子量(Mw)の測定を行い、試験前後の分子量(スチレン換算値)変化を求めた。結果は、初期値(試験前の値)を100%としたときの比較分子量として求めた。
【0089】
以上の結果を、下記表1及び表2にまとめて示す。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
上記表1に示すように、従来の難燃剤を配合した比較例2〜4の樹脂組成物では、難燃成分を配合していない比較例1の樹脂組成物に比べて、難燃性の向上を見られるが、比較例2の樹脂組成物ではガラス転移点が低下していた。また、比較例2,3の樹脂組成物では、比較例1の樹脂組成物に比べて、MFRが増加しており、熱分解が進行していると考えられる。このことから、比較例2,3の樹脂組成物は、いずれも熱安定性が低下していた。更に、比較例4の樹脂組成物は、燃焼速度及び酸素指数の値が、難燃成分を配合していない比較例1の樹脂組成物と同等であり、難燃性向上の効果がほとんどみられなかった。
【0093】
これに対して、本発明の範囲内で作製した実施例1〜7の樹脂組成物は、熱安定性は比較例1の樹脂組成物同等で、かつ、従来の難燃剤を配合した比較例2〜4の樹脂組成物と同等以上の難燃性を示した。また、これら実施例1〜7の樹脂組成物では、従来の難燃剤を使用している比較例2,3の樹脂組成物に比べて、難燃成分の配合量が少ないため、前述したバイオマス共重合体の機械的強度を低下させることがない。これにより、本発明の樹脂組成物は、機械的強度、熱安定性及び難燃性の全てに優れることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(A)で示される構造のジオールと、下記化学式(B)及び/又は化学式(C)で示される構造のジオールとを重合してなるバイオマス共重合体、並びに、
少なくとも一部に下記化学式(D)で示される構成単位を有する高分子重合体
を含有するバイオマス樹脂組成物。


【請求項2】
前記高分子重合体は、ポリスチレン又はアクリルニトリル−スチレン共重合体をスルホン化したもの又はその塩である請求項1に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項3】
前記高分子重合体を、前記バイオマス共重合体に対して、0.3〜1.0質量%含有する請求項1又は2に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項4】
質量平均分子量(Mw)が50000〜80000である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項5】
更に、ポリテトラフルオロエチレンを、前記バイオマス共重合体に対して、0.5質量%以下を含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項6】
酸化指数が19.0以上である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物により形成された樹脂成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−21059(P2011−21059A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164878(P2009−164878)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】