説明

バイオマス熱分解油からの燃料ガス製造方法及びタール製造方法、コークス炉ガスの保有顕熱の回収方法、転炉ガスの保有顕熱の回収方法及び転炉ガスの発熱量増加方法

【課題】コストが嵩むことなくバイオマスを熱処理して得られるバイオマス熱分解油から高品質な燃料を製造することのできる燃料ガスを製造する方法、コークス炉ガスの保有顕熱を有効的に回収する方法を提供することを課題とする。また、転炉ガスの燃焼発熱量を増大させる方法を提供することも課題としている。
【解決手段】バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油をコークス炉1からのコークス炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解し燃料ガスを生成することを特徴とするバイオマス熱分解油からの燃料ガス製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを熱処理して得られるバイオマス熱分解油から燃料ガスを製造する方法及びタールを製造する方法、コークス製造プロセスにおけるコークス炉ガスの保有顕熱の回収方法、製鉄など金属精錬用の転炉から発生する転炉ガスの保有顕熱の回収方法及び転炉ガスの発熱量増加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)バイオマス熱分解油の利用
<バイオマスの定義及びバイオマスの従来の利用>
化石資源ではない、再生可能な、生物由来の有機性資源をバイオマスと呼ぶ。バイオマスは太陽エネルギーを使い、水と二酸化炭素から生物が生成するものなので、持続的に再生可能な資源である。バイオマスは有機物であるため、燃焼させると二酸化炭素が排出される。しかし、これに含まれる炭素は、そのバイオマスが成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来するので、バイオマスを使用しても全体として見れば大気中の二酸化炭素量を増加させていないと考えてよいとされる。この性質をカーボンニュートラルと呼ぶ。バイオマスは林業系(製材廃棄物、間伐材、製紙廃棄物等)、農業系(稲わら、麦わら、サトウキビ糠、米糠、草木等)、畜産系(家畜廃棄物等)、水産系(水産加工残滓等)、廃棄物系(生ごみ、庭木、建築廃材、下水汚泥等)等に分類される。
【0003】
近年、地球温暖化問題に関連してバイオマスエネルギーの役割が強調されている。しかし、例えば間伐材、製材屑、建築廃材、梱包材等の木質バイオマスは大量に排出されているにもかかわらず、一部が燃料チップ等として利用される以外は主に焼却処分され、ほとんどエネルギーとして利用されていないのが現状である。
【0004】
バイオマスをエネルギーとして利用する方法には様々なものがあるが、その一つに特許文献1に開示されているように、バイオマスを石油系有機溶媒と混合して熱処理することにより液体燃料を製造して利用するものがある。バイオマスを発酵させてエタノール等を得る方法では前処理、糖化処理、発酵処理と処理工程が多く効率が低いことに比べて、バイオマスを熱処理して液体燃料を得る方法は、比較的簡便な工程である点で優れている。また、バイオマスを発酵させる方法では、穀物など発酵に適したバイオマス種を選ぶ必要があり食料としての利用との競合が問題視されるが、バイオマスを熱処理して液体燃料を得る方法は基本的にはどんな種類のバイオマスも使える点が優れている。
【0005】
バイオマスを熱処理して得られる液体(以下、バイオマス熱分解油と称する)には、バイオマスを無酸素状態で500℃程度にて急速熱分解して得られる油類(バイオオイルとも称する)や、バイオマスをガス化(部分燃焼)する際に副生して得られる油類や、バイオマスを炭化する際に副生して得られる油類が含まれる。
【0006】
(2)コークス炉ガスの保有熱量の有効利用
一方、コークスを用いる高炉を使った製鉄プロセスでは、多くのCOを排出するため、製鉄所でのCO排出量削減は重要な課題である。
【0007】
CO排出量削減のためには、製鉄所で発生する排熱を如何に有効に利用するかが大きなポイントとなる。
【0008】
その意味では、石炭を乾留してコークスを製造するコークス炉の排熱量は大きく、従来から排熱回収が取り組まれている。
【0009】
<コークス炉の説明及び従来のコークス炉ガスの利用>
コークス炉は、炭化室と燃焼室が隔壁を介して交互に配置されており、石炭は炭化室に装入され、該炭化室に隣接する燃焼室内で燃料が燃焼され隔壁を通して炭化室内の石炭を加熱、乾留してコークスを製造する。石炭中の揮発分はガス化し、各炭化室からそれぞれに設けられた上昇管を経て集められ、このコークス炉ガス(COガス)は冷却され、タール等を分離し、精製された後、コークス炉や製鉄プラントの燃料として利用される。
【0010】
コークス炉ガスの代表的な組成は、水素50〜60体積%、メタン25〜35体積%、一酸化炭素5〜8体積%、二酸化炭素2〜5体積%、窒素3〜7体積%である。
【0011】
コークス製造後にコークスが有する顕熱は、窒素ガス等の不活性ガスで赤熱コークスを消火、冷却する際に熱回収するコークス乾式消火設備(CDQ:Coke Dry Quencher)により回収される技術が確立されているが、これに対して、コークス炉ガスはコークス炉から600〜800℃の高温度で排出されており、その保有顕熱が膨大であるにもかかわらず、コークス炉ガス中に大量のタール分が含有されているために、顕熱の回収利用技術は十分には確立されていない。
【0012】
特許文献2には、コークス炉上昇管部に間接熱交換器を設け、コークス炉ガスの顕熱を回収する方法が開示されている。
【0013】
また、特許文献3には、重質炭化水素を随伴するコークス炉ガスを炭化水素分解触媒反応器に通すことにより、コークス炉ガスの顕熱を利用して重質炭化水素を軽質炭化水素に転換する方法が開示されている。
【0014】
(3)転炉ガスの保有熱量の有効利用
また、製鉄所では転炉から発生する転炉ガスからの排熱回収も取り組まれている。
【0015】
<転炉の説明及び従来の転炉ガスの利用>
転炉の主な機能は、純酸素ガスにより溶銑を脱炭することである。純酸素ガスの吹込み方式により上吹き転炉や底吹き転炉などの形式があるが、最近では両者の特徴を生かした、上底吹き転炉が製鋼において主流となっている。いずれにせよ溶銑中の炭素と酸素とを直接反応させ、一酸化炭素として脱炭する機能を持つ。
【0016】
転炉の形式にかかわりなく、CO濃度の高い転炉ガスが発生する。この転炉ガスを処理する設備として、燃焼式設備(フルボイラー方式、ハーフボイラ方式)と非燃焼方式設備(OG方式)があり、現在では転炉ガスを未燃焼のまま回収するOG方式が主流である。OG方式は、酸素転炉排ガス回収システム(Oxygen Converter Gas Recovery System)の略称であり、転炉ガスを燃焼させずに回収し、処理して燃料ガスとして使用するものである。
【0017】
OG方式処理の転炉ガスの代表的な組成は、水素1〜2体積%、一酸化炭素70〜80体積%、二酸化炭素10〜15体積%、窒素10〜15体積%である。
【0018】
転炉ガスは転炉の炉口で約1500℃と高温であるため、OG処理設備にボイラを設置し蒸気回収する転炉ガス顕熱回収設備(OGボイラ)も普及しつつある。しかし、顕熱回収が実施されている事例の多くは、転炉ガス煙道のうち輻射部と呼ばれる比較的温度が低い部分であり、炉口部と煙道との隙間及びその近傍を外側から覆うフード部やスカート部などの炉口に近い、特に高温の部分については技術的に顕熱回収が難しく、設備もコスト高であるという問題がある。
【0019】
特許文献4には、廃プラスチックなどの合成樹脂を転炉内や転炉ガス煙道に導入して、高温の転炉ガスの顕熱を利用して合成樹脂を熱分解して、燃料ガスに転換する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−063310号公報
【特許文献2】特開昭58−76487号公報
【特許文献3】特開2003−55671号公報
【特許文献4】特開2000−192129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、上述した従来のバイオマスを熱処理して得られるバイオマス熱分解油の利用、コークス炉ガスの保有熱量の利用及び転炉ガスの保有熱量の利用は十分になされておらず、次のような課題を残している。
【0021】
<従来のバイオマス熱分解油の利用における課題>
バイオマス熱分解油は、特許文献1に見られるように、カーボンニュートラルな液体燃料として注目されているが、燃料としての質が低い。すなわち、水分を多く含み、酸素含有率が高いことなどにより、発熱量が石油系燃料油の1/2に満たないため、バイオマス熱分解油をそのまま燃焼して利用するとしても、適用できる設備は限られ、エンジンや高効率発電設備などへの適用は難しい。また、バイオマス熱分解油は、pHが2〜3と低く、層分離しやすく、不均一であるという問題があり、燃料として使用する際に制約が多い。
【0022】
このようなバイオマス熱分解油の燃料としての質が低いという問題を解決するために、バイオマス熱分解油を水素添加反応等により改質して、燃料としての質を向上させる方法があるが、非常にコスト高になる。また、バイオマス熱分解油をガス化して高濃度の水素に転換しようとする検討も進められているが、やはりコスト高である。このようにバイオマス熱分解油を改質や水素転換して燃料としての品質を向上させることはコスト高になるし、品質向上にも限界がある。
【0023】
このように、バイオマス熱分解油はカーボンニュートラルな液体燃料として注目されている一方で、その燃料としての品質の低さから、有効に利用することが難しい。
【0024】
<コークス炉ガスの保有熱量の利用における課題>
特許文献2による間接熱交換器を使ったコークス炉ガスの保有熱量の利用方法では、伝熱管外表面へコークス炉ガスに随伴するタールの付着や、コーキングが進行し、圧損が増加し、さらに経時的に伝熱効率が低下する問題があり、長期間安定して熱回収することが困難である。
【0025】
また、特許文献3の方法ではコークス炉ガスに含まれる硫黄化合物により触媒が被毒され触媒寿命が著しく短くなり、長期間安定して運転することが困難であるという問題があり、そもそも大掛かりな炭化水素分解触媒反応器を設置することがコスト高であるという問題がある。
【0026】
このように、コークス炉ガスの保有顕熱の回収技術は十分には確立されておらず、現状では大量の水噴霧による直接冷却がされており、有効に熱回収されていない問題がある。
【0027】
<転炉ガスの保有熱量の利用における課題>
特許文献4による転炉ガスの保有熱量の利用方法では、廃プラスチックなどの合成樹脂には塩素等のハロゲン成分が混入しているため、熱分解により発生した塩化水素により設備が損傷したり、ダイオキシンが発生してしまうなどの問題があった。また、炭素と水素を主成分とする合成樹脂を熱分解させた場合、そもそも転炉ガス雰囲気では酸素が不足しているため、水素やメタンなど燃料ガスも発生するが炭素分のうち多くはチャーに転化することとなり、効率的に合成樹脂を燃料ガスに転換できない課題がある。
【0028】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、コストが嵩むことなくバイオマスを熱処理して得られるバイオマス熱分解油から高品質な燃料を製造することのできる燃料ガスを製造する方法、コークス炉ガス、転炉ガスの保有顕熱を有効に回収する方法を提供することを課題とする。また、転炉ガスの燃焼発熱量を増大させる方法を提供することも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0029】
発明者が検討した結果、バイオマスを熱処理して得られるバイオマス熱分解油は、石油系の重質油や石炭系のタール類に比べて、熱分解により可燃ガス成分が得られ易い性質があることを見出した。また、バイオマス熱分解油を熱分解して可燃ガスを得るのに好適な温度は、800〜1000℃前後であることが分かり、ちょうどコークス炉ガスの保有顕熱を有効利用できる温度域であることを見出した。
【0030】
その結果、本発明を想到するに至った。
【0031】
本発明に係る燃料ガス製造方法は、バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解し燃料ガスを生成することを特徴としている。
【0032】
このような本発明にしたがい、コークス炉ガス中でバイオマス熱分解油の熱分解とガス化が進むかどうかを確かめたところ、コークス炉ガス中でも熱分解とガス化が進み、可燃ガスが高効率で得られることが確認された。ここでバイオマス熱分解油から得られたガスの成分は、H,CO,CH,C,C,COなどが主成分であり、高カロリーの燃料ガスとして非常に高品質のガスである。かくして、バイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて、コークス炉ガスの保有顕熱により熱分解・ガス化させることにより、バイオマス熱分解油から燃料ガスを製造することができることとなった。
【0033】
このような本発明によると、これまで有効に活用されていなかったコークス炉ガスの保有顕熱を有効利用することができる。
【0034】
また、バイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて熱分解し生成したタールには、ベンゼンなど高価値成分が多く含まれていることが分かった。バイオマス熱分解油から生成したタールは、コークス炉ガス中のコールタール成分と共に、コークス炉ガスから分離され、有用成分を回収することができる。
【0035】
このように、バイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて熱分解することにより、ガス化したガス成分は燃料ガスとして有効利用され、タール成分についても有効利用される。さらに、コークス炉ガスの保有顕熱を有効利用することができる。
【0036】
本発明において、バイオマス熱分解油をコークス炉の上昇管内部及び炉内上部のうち少なくとも一つに吹き込むことができる。コークス製造中に、コークス炉の上昇管内部、炉内上部でのコークス炉ガス温度はそれぞれ800℃,1000℃程度であり、バイオマス熱分解油を吹き込み熱分解・ガス化させるのに好適な温度であるので、これらの箇所に吹き込む方法が有効である。
【0037】
本発明において、バイオマス熱分解油をコークス炉内の原料石炭量に対して0.1重量%以上で1.5重量%以下の供給量で吹き込むことが好ましい。
【0038】
バイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて熱分解するのに適したバイオマス熱分解油の供給量について調べた。バイオマス熱分解油のコークス炉ガスへの吹き込み量が少なすぎるとコークス炉ガスの保有顕熱を利用する効果が十分でないし、また、多すぎると、上昇管内壁に付着する炭化物が増加するため、操業に好ましくない場合があることが分かった。その点について更に検討した結果、コークス炉内へ供給する原料石炭重量に対して吹き込むバイオマス熱分解油の重量が0.1重量%以上で1.5重量%以下であれば効果が十分得られると共に問題が起きないことが分かった。1.5%以下であれば、付着炭化物の原因となる物質量の増加と、吸熱反応に伴う上昇管部温度低下によっての炭化物付着反応速度の低下とが相殺しあって、結果として上昇管内壁に付着する炭化物の増加が起きないためと推定できる。
【0039】
本発明は、バイオマス熱分解油を熱分解してタールを得ることにも関しており、このタール製造方法は、バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解しタールを生成することを特徴としている。このタールは、バイオマス熱分解油の熱分解により、燃料ガスを得ることと共に、該燃料ガスとは分離して得ることができる。
【0040】
さらには、バイオマス熱分解油の成分によっては、コークス炉ガスの保有顕熱を利用して熱分解・ガス化させることで、もともとバイオマス熱分解油がもつ熱量よりも増加した熱量をもつ燃料ガスが得られることが分かった。
【0041】
このことは、コークス炉ガスの保有顕熱を利用して、バイオマス熱分解油を吸熱反応により熱分解・ガス化して、コークス炉ガスの顕熱の熱エネルギーを、燃料ガスの化学エネルギーに変換できることを意味している。
【0042】
本発明に係る燃料ガス製造方法は、バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解し燃料ガスを生成することを特徴としている。
【0043】
このような本発明にしたがい、転炉ガス中でバイオマス熱分解油の熱分解とガス化が進むかどうかを確かめたところ、転炉ガス中でも熱分解とガス化が進み、可燃ガスが高効率で得られることが確認された。ここでバイオマス熱分解油から得られたガスの成分は、H,CO,CH,C,C,COなどが主成分であり、高カロリーの燃料ガスとして非常に高品質のガスである。かくして、バイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させて、転炉ガスの保有顕熱により熱分解・ガス化させることにより、バイオマス熱分解油から燃料ガスを製造することができることとなった。
【0044】
このような本発明によると、これまで有効に活用されていなかった転炉ガスの保有顕熱を有効利用することができる。
【0045】
本発明において、バイオマス熱分解油を転炉の内部、転炉ガスフード、スカート部及び転炉ガス煙道のうち少なくとも一つに吹き込むことができる。転炉ガスフードやスカート部は炉口部と煙道との隙間及びその近傍を外側から覆うフード部やスカート部をいう。
【0046】
本発明において、バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解し生成した燃料ガスを転炉ガスに混合することにより転炉ガスの発熱量増加を図ることができる。
【0047】
これまで、石油系の重質油や石炭系のタール類を、コークス炉ガスや転炉ガスの顕熱を利用し熱分解して可燃ガスを得ようとする検討は多くなされてきたが、バイオマス熱分解油を使う場合には、石油系の重質油や石炭系のタール類の場合に比べ、著しく可燃ガスを得る効率が高いことが分かった。また、石油系の重質油や石炭系のタール類から可燃ガスを得る場合には、副生するチャー、重質分や残渣の処理が問題となるが、バイオマス熱分解油を使う場合には、これらの発生が少なく支障を生じない点でも優れている。
【発明の効果】
【0048】
本発明は、以上のように、バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解し燃料ガスやタールを生成することとしたので、高カロリーの燃料ガスそして高価値なタールを得られる。
【0049】
このように、本発明によると、これまで有効に活用されていなかったコークス炉ガスの保有顕熱を有効利用することができる。
【0050】
また、バイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて熱分解し生成したタールには、ベンゼンなど高価値成分が多く含まれていることが分かった。バイオマス熱分解油から生成したタールは、コークス炉ガス中のコールタール成分と共に、コークス炉ガスから分離され、有用成分を回収することができる。
【0051】
かくして、バイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて熱分解することにより、ガス化したガス成分は燃料ガスとして有効利用され、タール成分についても有効利用される。さらに、コークス炉ガスの保有顕熱を有効利用することができる。
【0052】
本発明は、以上のように、バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解し燃料ガスを生成することとしたので、高カロリーの燃料ガスを得られる。
【0053】
このように、本発明によると、これまで有効に活用されていなかった転炉ガスの保有顕熱を有効利用することができる。
【0054】
また、バイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させて生成した燃料ガスを転炉ガスに混合することにより、転炉ガスの発熱量を増加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、添付図面にもとづき、本発明の実施の形態を説明する。
【0056】
図1は、本発明の一実施形態装置の概要構成図である。
【0057】
図1において、符号1はコークス炉を示し、該コークス炉1は炉内に原料としての石炭(以下「原料炭」という)が供給される炭化室と、該炭化室と隔壁をへだてて形成された燃焼室とを有している。外部から燃焼室へ供給された燃料の燃焼により、上記炭化室内の原料炭は無酸素状態で上記隔壁を介して間接加熱されて乾留される。この乾留により、固体分としてコークス、気体分としてコークス炉ガスを得る。コークス炉ガスは、コークス炉の上部に設けられた上昇管2から取り出される。乾留の過程で発生したガス状のタールがコークス炉ガスに含まれる。かかるコークス炉1自体は公知であり、これ以上の詳述は省略する。
【0058】
上記コークス炉1の上昇管2には、外部からバイオマス熱分解油を該上昇管2の内部へ噴射するインジェクタ3が取り付けられている。
【0059】
かかる上昇管2は、煙道を介してコークス炉ガスからタールを分離し精製する精製装置4に接続されている。この精製装置4は、分離されたタール、若干のチャーを取り出す取出口4Aを下部に有し、また、精製後のクリーンなガス分としての燃料ガスを貯蔵する貯蔵ホルダー5に接続されている。
【0060】
上記貯蔵ホルダー5は、燃料ガスを製品として取り出すことができるようになっていると共に、上記燃料ガスの一部をコークス炉1での燃料として使用できるように該コークス炉1の燃焼室に接続されている。勿論、上記燃料ガスは、製品として取り出さずに、すべてを上記燃焼室へ供給するようになっていてもよい。
【0061】
かかる本実施形態装置において、バイオマス熱分解油の熱分解とその後の処理は、次の要領にて行われる。
【0062】
(1)本実施形態装置に用いられるバイオマス熱分解油は、バイオマスを他装置で熱処理して得られる。バイオマス熱分解油には、バイオマスを無酸素状態で500℃程度で急速熱分解して得られる油類や、バイオマスを部分燃焼する際に得られる油類や、バイオマスを炭化する際に得られる油類が含まれる。
【0063】
(2)かかるバイオマス熱分解油をコークス炉1内、もしくはコークス炉上昇管2にポンプ等によりインジェクタ3から噴霧して吹き込む。コークス炉ガスの温度は、コークス炉内で1000℃以上、上昇管内では800℃程度であり、噴霧されたバイオマス熱分解油はコークス炉ガスの保有顕熱により加熱され、蒸発し次いで熱分解、ガス化される。熱分解ガス化による生成物は、H,CO,CH,CO,C,Cなどが主成分の高カロリーなガスと、タールおよび若干のチャーである。この熱分解ガス化反応は吸熱反応であり、コークス炉ガスの保有顕熱はバイオマス熱分解油の蒸発潜熱及び熱分解熱として利用される。
【0064】
(3)バイオマス熱分解油の熱分解により生成したガスは、この熱分解に供したコークス炉ガスとともにコークス炉1の後段に既設されているガス精製装置4にて精製され、クリーンな燃料ガスとなる。コークス炉ガスにバイオマス熱分解油から生成したガスが混合された混合燃料ガスは、コークス炉ガスと同程度の発熱量を有する燃料ガスとなり、製鉄所内の、コークス炉や各プラントで有効利用される。また、カーボンニュートラルな燃料ガスとして、製品の形で外販することも可能である。本実施形態では、図示のごとく、燃料ガスを製品とすると共に、コークス炉1における燃料としても使用している。
【0065】
液体燃料としては発熱量が低く、水分が多く、安定性も悪いバイオマス熱分解油が、このように、コークス炉ガス顕熱を有効利用して、クリーンで高カロリーの燃料ガスに転換できることになる。条件によっては、生成する高カロリーガスの熱量は、原料であるバイオマス熱分解油の熱量よりも大きくなる。コークス炉ガスが有する熱エネルギーが、燃料としての化学エネルギーに変換されていて、熱エネルギーの極めて有効な利用形態であるといえる。
【0066】
もちろん、製鉄所でカーボンニュートラルな燃料ガスを利用することで、製鉄所から排出される化石燃料由来のCO排出量の削減につながる。
【0067】
(4)一方、バイオマス熱分解油から生成され上記精製装置4から取り出されるタールには、必ずしも元のバイオマス熱分解油には含まれていないベンゼン、トルエン、キシレン等の軽質分が含まれる。ベンゼン、トルエン、キシレン等は化学原料としての高い価値を持っている。このように、バイオマス熱分解油からクリーンな燃料ガスが得られるだけでなく、高価値の軽質分を含むタールも得ることができ、経済性を一層向上させることができる。これらの軽質分は、コークス炉ガスに含まれるコールタール成分とともにコークス炉の後段に既設されている設備(図示せず)でコールタール回収、加工プロセスにより分離精製され、化学原料として外販される。
【0068】
(5)また、バイオマス熱分解油から若干生成され上記精製装置4から取り出されるチャーなどの固形分は、コークス製造過程に生成されてコークス炉ガスに含まれる固形分と共に、やはりコークス炉の後段に既設されている処理設備(図示せず)で回収処理、リサイクルされる。バイオマス熱分解油に少量含まれる固形分が熱処理を経てなお残留したとしても、同様にコークス炉の後段に既設されている処理設備で処理、リサイクルされるので、液体燃料としては使いづらいバイオマス熱分解油を利用する上で種々の問題を解決できる。
【0069】
本発明において、バイオマス熱分解油を熱分解ガス化し、より多くの燃料ガスを得るには、好適なバイオマス熱分解油の組成範囲があることが分かった。好ましいバイオマス熱分解油の組成は、Cが70重量%以下であり、Oが20重量%以上であり、Hが6重量%以上である。
【実施例】
【0070】
各種のバイオマス熱分解油と、比較のためのコールタールについて熱分解実験を実施した。結果は、次のごとくである。
【0071】
実験に供した供試油は、バイオマス熱分解油No.1〜4及びコールタールである。
【0072】
バイオマス熱分解油No.1とNo.2は、パームヤシの空果房(EFB:Empty Fruit Bunches)のチップを原料として、無酸素雰囲気下で500〜600℃程度で急速熱分解して得られた油である。バイオマス熱分解油No.3は、木材チップを原料として、無酸素雰囲気下で500〜600℃程度で急速熱分解して得られた油である。バイオマス熱分解油No.4は、木材チップを原料として、空気と水蒸気をガス化剤としたガス化反応時に副生した油である。コールタールは、コークス炉にて石炭からコークスを得る際に得られたタールである。
【0073】
バイオマス熱分解油No.1〜4及びコールタールの組成(単位 wt%)、水分率(単位 wt%)、低位発熱量(単位 kcal/kg)を表1に記す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示される供試油を加熱した石英管に滴下し、窒素ガス気流中1000℃にて熱分解して、得られたガスとチャーを分析した結果を表2に記す。発生ガスの冷ガス効率は、発生したガスの低位発熱量を、供給した供試油の低位発熱量で除した値である。チャー発生率は、発生したチャーの重量を、供給した供試油の重量で除した値である。試験はそれぞれ2回実施し、その平均値を表2に示した。
【0076】
【表2】

【0077】
バイオマス熱分解油はいずれも、コークス炉内温度と同じ1000℃にて、熱分解・ガス化され、チャー発生率がコールタールに比べ低く、熱分解ガス化され易く、得られるガス量が多い。また、バイオマス熱分解油からの発生ガスの冷ガス効率が高く、バイオマス熱分解油から燃料ガスを製造する際に発熱量の高い燃料ガスを得ることができることを確認した。
【0078】
上記の熱分解実験は発生ガスの分析を容易に行うため窒素ガス雰囲気で行ったが、コークス炉ガス雰囲気でも、バイオマス熱分解油を熱分解して同様の燃料ガスを得ることができることを確認した。
【0079】
また、バイオマス熱分解油を熱分解して得られたガスの発熱量は、3500〜3700kcal/mであり、一般的な転炉ガス(未燃焼のまま回収されるガス)の発熱量である2200〜2500kcal/mより大きな発熱量であることを確認した。バイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させて熱分解させ燃料ガスを生成し、転炉ガスに混合することにより転炉ガスの発熱量を増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施形態装置の概要構成図である。
【符号の説明】
【0081】
1 コークス炉
2 上昇管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解し燃料ガスを生成することを特徴とするバイオマス熱分解油からの燃料ガス製造方法。
【請求項2】
バイオマス熱分解油をコークス炉の上昇管内部及び炉内上部のうち少なくとも一つに吹き込むことによりバイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させることを特徴とする請求項1に記載のバイオマス熱分解油からの燃料ガス製造方法。
【請求項3】
バイオマス熱分解油をコークス炉内の原料石炭量に対して0.1重量%以上で1.5重量%以下の供給量で吹き込むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバイオマス熱分解油からの燃料ガス製造方法。
【請求項4】
バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解しタールを生成することを特徴とするバイオマス熱分解油からのタール製造方法。
【請求項5】
バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油をコークス炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油をコークス炉ガスの保有顕熱により熱分解し燃料ガスを生成することを特徴とするコークス炉ガスの保有顕熱の回収方法。
【請求項6】
バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解し燃料ガスを生成することを特徴とするバイオマス熱分解油からの燃料ガス製造方法。
【請求項7】
バイオマス熱分解油を転炉の内部、転炉ガスフード、スカート部及び転炉ガス煙道のうち少なくとも一つに吹き込むことによりバイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させることを特徴とする請求項6に記載のバイオマス熱分解油からの燃料ガス製造方法。
【請求項8】
バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を転炉ガスの保有顕熱により熱分解し燃料ガスを生成することを特徴とする転炉ガスの保有顕熱の回収方法。
【請求項9】
バイオマスを熱処理して生成したバイオマス熱分解油を転炉ガスと接触させて、該バイオマス熱分解油を熱分解し生成した燃料ガスを転炉ガスに混合することを特徴とする転炉ガスの発熱量増加方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−203335(P2009−203335A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46575(P2008−46575)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】