説明

バイオマーカーとしての新規スモールRNAを用いた腫瘍の診断

【課題】特定のスモールRNAを腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法、腫瘍の判定方法、腫瘍の判定キット等を提供する。
【解決手段】特定の配列のポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAを腫瘍のバイオマーカーとして使用する。腫瘍(特に頭頸部腫瘍)の診断や、腫瘍(特に頭頸部腫瘍)の治療薬のスクリーニングの分野において特に有用に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍における新規スモールRNAの発現プロファイルとその用途に関する。より詳細には、特定のスモールRNAを腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法、腫瘍の判定方法、腫瘍の判定キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
ノンコーディングRNA(non-coding RNA:ncRNA)は、タンパク質をコードしないRNA分子の総称であり、その中には、transfer RNA(tRNA)、ribosomal RNA(rRNA)、small nuclear RNA(snRNA:核内低分子RNA)、small nucleolar RNA(snoRNA:核小体低分子RNA)、signal recognition particle RNA(SRP RNA)、アンチセンスRNA、マイクロRNA(miRNA)、siRNA、Piwi-interacting RNA(piRNA)などが含まれている。ノンコーディングRNAの機能については、以前はそれほど注目されていなかったが、近年、ノンコーディングRNAが様々な生理的機能を発揮していることが知られるにつれて、その重要性が認識されるようになってきている。
【0003】
ノンコーディングRNAには、マイクロRNA、siRNA、あるいはpiRNAなどの19−30塩基程度のスモールRNA(small RNA)と呼ばれているものがあるが、これらは、その生成において2重鎖RNA特異的RNA分解酵素に依存し、またArgonaute familyタンパクと結合、ガイド役を果たすことで、標的遺伝子の発現を抑制する。ヒトの既知のマイクロRNAのうち(900種類程度)のいくつかは、がんとの関連が示唆されている。例えば特許文献1には、マイクロRNA34a(miR−34a)の他、miR−15、miR−16、miR−143、miR−145等とがんとの関連が示唆されている(非特許文献1参照)。しかし、患者臨床検体を用いた、未知のスモールRNAの網羅的解析についての報告は現在まで行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−239596号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Croce CM. Causes and consequences of microRNA dysregulation in cancer. Nat Rev Genet. 2009; 10(10): 704-714.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、特定のスモールRNAを腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法、腫瘍の判定方法、腫瘍の判定キット等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これまでに、頭頸部腫瘍や婦人科がんと既知のマイクロRNAとの関連を調べるために、頭頸部腫瘍の臨床検体や婦人科がんの臨床検体における、既知のマイクロRNAの発現を解析し、特定のマイクロRNAが頭頸部腫瘍において異常発現していること(特願2009−099849号参照)や、特定のマイクロRNAが婦人科がんにおいて異常発現していること(特願2009−150986号)を見出した。また、本発明者らは、頭頸部腫瘍において異常発現しているマイクロRNAについて、その異常発現を正常化する方向に変化させ得る物質が、頭頸部腫瘍の治療効果や転移抑制効果を発揮することをin vivoの解析により見出している(特願2009−270157号)。
【0008】
今回、発明者らは、次世代シークエンサーSOLiD(登録商標)システム(Applied Biosystems社製)を利用して、喉頭がん(悪性腫瘍)及び喉頭乳頭腫(良性腫瘍)の両臨床検体細胞中のスモールRNAについて、未知のものも含めて網羅的に解析を行い、各スモールRNAの発現量の測定及びそのリボヌクレオチド配列の決定を行った。次いで、本発明者らは、その解析結果から既知のスモールRNAのデータを除き、喉頭乳頭腫における新規スモールRNAの発現プロファイルと、喉頭がんにおける新規スモールRNAの発現プロファイルを対比し、特定のスモールRNAが喉頭がん組織において異常発現していることを見出した。さらに、本発明者らは、同一患者の喉頭癌組織及び喉頭非癌組織中の特定のスモールRNAの発現を、リアルタイムPCRにて定量、比較したところ、癌組織において、前述の発現プロファイルと同様の異常発現していることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAを腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法や、(2)腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする上記(1)に記載の方法や、(3)頭頸部腫瘍が頭頸部がんであることを特徴とする上記(2)に記載の方法や、(4)以下の工程を備えたことを特徴とする腫瘍の判定方法:(A)検体組織中又は被検体の血液中のRNAを抽出する工程:(B)抽出したRNA中の、配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量を測定する工程:(C)コントロールとしての、検体組織と同種の非がん組織又は被検体と同種の非がん被検体の血液におけるスモールRNAの発現量と比較・評価する工程:や、(5)抽出したRNA中の、配列番号1〜7、10〜56のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量が、コントロールと比較して増加している場合に腫瘍であると評価することを特徴とする上記(4)に記載の腫瘍の判定方法や、(6)抽出したRNA中の、配列番号8〜9、57〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量が、コントロールと比較して低下している場合に腫瘍であると評価することを特徴とする上記(4)に記載の腫瘍の判定方法や、(7)腫瘍が頭頸部腫瘍であり、検体組織が頭頸部の検体組織であることを特徴とする上記(4)〜(6)のいずれかに記載の腫瘍の判定方法に関する。
【0010】
また、本発明は、(8)配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの発現量を測定することができる、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を備えたマイクロアレイを腫瘍の判定に使用する方法や、(9)腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする上記(8)に記載の方法や、(10)配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの配列を増幅し得るプライマーセットと、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を含む蛍光プローブとを、腫瘍の判定に使用する方法や、(11)腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする上記(10)に記載の方法に関する。
【0011】
さらに、本発明は、(12)配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの発現量を測定することができる、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を備えたマイクロアレイを含んでいることを特徴とする腫瘍の判定キットや、(13)腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする上記(12)に記載の判定キットや、(14)配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの配列を増幅し得るプライマーセットと、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を含む蛍光プローブとを備えたことを特徴とする腫瘍の判定キットや、(15)腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする上記(14)に記載の判定キットに関する。
【0012】
また、本発明は、(16)以下の工程を含むことを特徴とする腫瘍治療薬のスクリーニング方法:(A)腫瘍に罹患した非ヒト動物に被検物質を投与する工程:(B)前記非ヒト動物における腫瘍組織中又は血液中の、配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量を測定する工程:(C)コントロールとしての、被検物質を未投与の場合におけるスモールRNAの発現量と比較・評価する工程:や、(17)腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする上記(16)に記載のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の特定のスモールRNAを腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法や、腫瘍の判定方法や、判定キットによると、迅速かつ正確に腫瘍を判定することができる。また、本発明の腫瘍治療薬のスクリーニング方法によると、腫瘍治療薬を効率的にスクリーニングすることができる。特に、被検体が腫瘍に罹患している場合に、被検体の血液中の濃度も変化するスモールRNAの場合は、採取がきわめて容易な血液サンプルを利用することができるため、腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法や、腫瘍の判定方法等における迅速性や簡便性に特に優れている。なお、本発明におけるスモールRNA等についてさらに研究が進めば、腫瘍の発症・進展・予後予測や治療が可能となることで、現在の腫瘍臨床のさまざまな問題点を解決する突破口となることが期待できる。さらに治療に際しては、薬剤や放射線治療への抵抗性が診断できれば、患者個人ごとに有効な治療法を選択する個別化治療にまで発展させ得る可能性を含んでいる。正確な診断や予後の予測は、余計な検査や患者の必要以上の通院を減らすことが期待でき、医療経済効果も大きいと予想される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】SOLiD(登録商標)システムを用いて行った網羅的な解析から、新規のスモールRNA(特にマイクロRNA)の解析結果のみを取り出すために用いたフィルタリング処理の内容を示す図である。
【図2】配列番号1のスモールRNA(chr2_207683032-)をターゲットとしたリアルタイムPCRの結果を示す図である。
【図3】配列番号52のスモールRNA(chr12_56726499-)をターゲットとしたリアルタイムPCRの結果を示す図である。
【図4】配列番号36のスモールRNA(chr4_108412614+)をターゲットとしたリアルタイムPCRの結果を示す図である。
【図5】配列番号2のスモールRNA(chr7_36343030-)をターゲットとしたリアルタイムPCRの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.本発明の特定のスモールRNAを腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法
本発明における特定のスモールRNA(以下、単に「本発明におけるスモールRNA」とも表示する。)を腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法としては、本発明におけるスモールRNA、すなわち、配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAを、腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法である限り特に制限はされず、具体的には、本発明の腫瘍の判定方法や、本発明のマイクロアレイを腫瘍の判定に使用する方法や、本発明のプライマーセットと蛍光プローブとを腫瘍の判定に使用する方法や、腫瘍治療薬のスクリーニング方法を例示することができる。
【0016】
配列番号1は、chr2_207683032-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号2は、chr7_36343030-、chr14_101596693+、chr15_67507851+、chr16_67565867+、chr18_66266580+、chr3_72191016+、chr6_28718144+、chr7_36343030+、chr7_73459867+又はchr8_101124981+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号3は、chr4_159841311-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号4は、chr5_54503922-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号5は、chr9_90179002+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号6は、chr15_81221854+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号7は、chr18_41923331-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号8は、chr4_56991616-又はchr4_56991638+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号9は、chr4_30588363+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号10は、chr10_20112541+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号11は、chr13_31633612+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号12は、chr21_22980685-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号13は、chr12_76362038-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号14は、chr5_40434928-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号15は、chr18_4062216+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号16は、chr7_3809680-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号17は、chr20_35192920+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号18は、chr5_100470010+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号19は、chrX_123771048+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号20は、chr4_116312290-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号21は、chr1_156317610+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号22は、chr5_63701264-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号23は、chr3_73146433+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号24は、chr16_67383847-又はchr21_42904480-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号25は、chr1_19721746-、chr12_129789723-、chr2_217084552-又はchrX_8751220-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号26は、chr8_12727029-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号27は、chr19_23230662+又はchr19_21821648+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号28は、chr3_111130631+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号29は、chr2_101579062+、chr20_50197765+又はchr3_194722220+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号30は、chr1_36224681+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号31は、chr13_19205704+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号32は、chr4_61605850+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号33は、chr19_57796219-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号34は、chr9_80531106+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号35は、chr1_31069387-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号36は、chr14_95988605+、chr17_77533020+、chr6_162162960+、chr7_68077544+、chrX_68077544+、chr1_243042506+、chr18_17499093+、chr20_29665815+、chr3_152747438+、chr4_108412614+、chr6_46898430+又はchr6_86176534+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号37は、chr13_101895663+、chr12_109426460+又はchr2_122088345+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号38は、chr17_45622764-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号39は、chr5_12903733-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号40は、chr14_105016753+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号41は、chr17_56759632+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号42は、chr7_158573832-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号43は、chr18_56821334-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号44は、chr14_35974023-又はchr20_55147622-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号45は、chr17_44935494-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号46は、chr2_96517928-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号47は、chr5_150592162-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号48は、chr12_80798194+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号49は、chr14_44686123+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号50は、chr6_100553953-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号51は、chr13_58552205-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号52は、chr12_56726499-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号53は、chr1_26315983+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号54は、chr3_102802629-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号55は、chr2_88095951+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号56は、chr20_5593536+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号57は、chr4_80722625-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号58は、chr18_52159944+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号59は、chr2_116291799+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号60は、chr12_43586396+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号61は、chrY_13903890+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号62は、chr11_112899263-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号63は、chr7_125532232-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号64は、chr8_3706415+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号65は、chr10_97280927-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号66は、chr14_101141137-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号67は、chr1_59372670-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号68は、chr9_126381650-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号69は、chr6_32480269-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号70は、chr3_51938784+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号71は、chr13_58381244+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号72は、chr11_64299436-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号73は、chr2_135492728+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号74は、chr9_24002277+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号75は、chr3_45733243+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号76は、chr10_17892682+又はchr10_18139672+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号77は、chr7_155835128+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号78は、chr14_79906621-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号79は、chr6_113313108-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号80は、chr1_25272290+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号81は、chr18_32960249-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号82は、chr6_30433838+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号83は、chr16_81421137-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号84は、chrX_128924858-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号85は、chr16_69993560+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号86は、chr16_47548696+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号87は、chr5_147459156-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号88は、chr5_81565927-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号89は、chr17_64785401-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号90は、chr7_1677442+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号91は、chr5_154945381+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号92は、chr6_165090018+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号93は、chr3_48962778+又はchr3_48962296+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号94は、chr12_114668994+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号95は、chr12_65009031+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号96は、chr5_132978063+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号97は、chr11_86193869+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号98は、chr16_15746666-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号99は
、chr16_53649542+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号100は、chr1_45480552-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号101は、chr12_42928769+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号102は、chrX_47388240-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号103は、chr11_37781434-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号104は、chr10_80302437-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号105は、chr19_14839510-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号106は、chr4_82522273+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号107は、chr11_30355663+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号108は、chr2_171442461-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号109は、chr7_15682704-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号110は、chr10_87326332-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号111は、chr15_91176756-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号112は、chr11_49328346-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号113は、chr15_69806720-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号114は、chr3_38725780+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号115は、chr1_239235411+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号116は、chr9_132742582+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号117は、chr2_147679179-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号118は、chr1_231289111-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号119は、chr11_26311952-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号120は、chr14_36146417+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号121は、chr6_14585267-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号122は、chr16_53731358+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号123は、chr19_6925359+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号124は、chr8_133963297+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号125は、chrX_112049432-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号126は、chr15_32166220-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号127は、chr13_72312801+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号128は、chr6_158836211+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号129は、chr3_107317523-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号130は、chr6_75848122+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号131は、chr2_179055758+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号132は、chr1_202037610+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号133は、chrY_8804566+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号134は、chrX_139050490+の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドであり、配列番号135は、chr18_64836428-の位置のヌクレオチドを開始位置として含むポリリボヌクレオチドである。本発明における好適なポリリボヌクレオチドとして、配列番号1、52、36、2を好適に例示することができ、中でも配列番号1をより好適に例示することができる。なお、chr番号の最後の「+」は、ポジティブストランドであることを示し、「−」はネガティブストランドであることを示す。
【0017】
本明細書中の「腫瘍」としては、がん(悪性腫瘍)を好適に例示することができ、中でも、頭頸部がん、胃がん、虫垂がん、大腸がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵臓がん、副腎がん、腎臓がん、中皮腫、肺がん、骨肉腫、横紋筋肉腫、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、皮膚がん、肛門がん、乳がん、子宮体がん、子宮頚がん、卵巣がん、脳腫瘍、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫をより好適に例示することができ、中でも、頭頸部がんを特に好適に例示することができる。「頭頸部」としては、口唇・口腔、鼻・副鼻腔、唾液腺、耳・側頭骨、頭蓋底等の頭部や、咽頭、喉頭、食道、甲状腺等の頸部を例示することができ、中でも、頸部を好適に例示することができ、中でも喉頭をより好適に例示することができる。
【0018】
本発明におけるスモールRNAの由来となる生物としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等の哺乳動物を好適に例示することができ、中でもヒト、マウスをより好適に例示することができ、特にヒトを好適に例示することができる。なお、配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドからなるスモールRNAは、ヒト由来のスモールRNAである。スモールRNAの配列は特に哺乳動物間では保存性が高く、上記の本発明におけるスモールRNAはヒト以外の哺乳動物においてもヒトと同様の発現プロファイルを示すと考えられる。ヒト由来のこのリボヌクレオチド配列の情報に基づいて、ヒト以外の哺乳動物からも、本発明におけるスモールRNAに相当するスモールRNAを単離及び同定することができる。
【0019】
前述の配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドの変異体としては、
(i)配列番号1〜7、10〜56のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドに対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するポリリボヌクレオチドからなり、かつ、腫瘍又は腫瘍被検体の血液においてコントロールと比較して発現が増加するスモールRNA:
や配列番号8〜9、57〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドに対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するポリリボヌクレオチドからなり、かつ、腫瘍又は腫瘍被検体の血液においてコントロールと比較して発現が低下するスモールRNA:
(ii)配列番号1〜7、10〜56のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドにおいて1若しくは2個以上のリボヌクレオチドが欠失、置換、若しくは付加されたポリリボヌクレオチドからなり、かつ、腫瘍又は腫瘍被検体の血液においてコントロールと比較して発現が増加するスモールRNA:や
配列番号8〜9、57〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドにおいて1若しくは2個以上のリボヌクレオチドが欠失、置換、若しくは付加されたポリリボヌクレオチドからなり、かつ、腫瘍又は腫瘍被検体の血液においてコントロールと比較して発現が低下するスモールRNA:
(iii)配列番号1〜7、10〜56のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリリボヌクレオチドからなり、かつ、腫瘍又は腫瘍被検体の血液においてコントロールと比較して発現が増加するスモールRNA:や
配列番号8〜9、57〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリリボヌクレオチドからなり、かつ、腫瘍又は腫瘍被検体の血液においてコントロールと比較して発現が低下するスモールRNA:
【0020】
上記(ii)における「1若しくは2個以上のリボヌクレオチドが欠失、置換、若しくは付加されたポリリボヌクレオチド」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のリボヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたポリリボヌクレオチドを意味する。
【0021】
上記(iii)における「ストリジェントな条件下」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、80%以上、好ましくは85%以上の同一性を有するDNA同士(又はDNAとRNA)がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士(又はDNAとRNA)がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。上記(iii)における「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリリボヌクレオチド」としては、プローブとして使用するポリヌクレオチドの相補配列と、一定以上の同一性を有するポリリボヌクレオチドが挙げることができ、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するポリヌクレオチドを好適に例示することができる。
【0022】
上記(i)の配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドは、そのリボヌクレオチド配列が明らかとなったので、例えば、鋳型としてヒトのゲノムDNAを用い、該リボヌクレオチド配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるPCR反応によって、または該リボヌクレオチド配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによっても得ることができる。なお、染色体DNAは、常法に開示された方法により取得できる。
【0023】
オリゴヌクレオチドの合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて常法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGeneAmp PCR System2400を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して常法に従って行なうことができる。
【0024】
また、前述のポリリボヌクレオチドの変異体は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチドに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらポリリボヌクレオチドに変異を導入することにより、ポリリボヌクレオチドの変異体を取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0025】
なお、前述のポリリボヌクレオチドの変異体からなるスモールRNAが、腫瘍又は腫瘍被検体の血液においてコントロールと比較して発現が増加又は低下するかどうかは、後述のSOLiD(登録商標)システム(Applied Biosystems社製)を用いた解析法の他、マイクロアレイ法や定量PCR法により容易に確認することができる。また、上記の腫瘍被検体とは、腫瘍に罹患した被検体を意味する。本明細書における「被検体」としては、対象となるヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等の哺乳動物を好適に例示することができ、中でもヒト、マウスをより好適に例示することができ、特にヒトを好適に例示することができる。
【0026】
2.本発明の腫瘍の判定方法
本発明の腫瘍の判定方法としては、(A)検体組織中又は被検体の血液中のRNAを抽出する工程:(B)抽出したRNA中の、配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量を測定する工程:(C)コントロールとしての、検体組織と同種の非がん組織又は被検体と同種の非がん被検体の血液におけるスモールRNAの発現量と比較・評価する工程:を備えている限り特に制限されないが、抽出したRNA中の、配列番号1〜7、10〜56のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量が、コントロールと比較して増加している場合に腫瘍であると評価し、及び/又は、配列番号8〜9、57〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量が、コントロールと比較して低下している場合に腫瘍であると評価する方法を好適に例示することができる。
【0027】
なお、上記工程(A)において検体組織を用いた場合は、上記工程(C)におけるコントロールとして、検体組織と同種の非がん組織を用い、上記工程(A)において被検体の血液を用いた場合は、上記工程(C)におけるコントロールとして、被検体と同種の非がん被検体の血液を用いる。また、本明細書におけるスモールRNAの発現量としては、サンプル間のばらつきを補正するために適切な内部標準遺伝子で補正した相対発現量を用いることがより正確な判定を行なう観点から好ましい。内部標準遺伝子としては特に制限されないが、RNU48、RNU6b、snRNA(核内低分子RNA)、及び、snoRNA(核小体低分子RNA)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の遺伝子を例示することができる。
【0028】
上記(A)工程におけるRNAを抽出する方法としては、検体組織中又は被検体の血液中から、スモールRNAを含むRNAを抽出する方法である限り特に制限されず、例えば、mirVana miRNA Isolation Kit(Applied Biosystems社製)を添付のプロトコールにしたがって用いることによって、スモールRNAを含むトータルRNAを抽出する方法を好適に例示することができる。上記の検体組織としては、腫瘍の判定の対象となる生物由来の組織である限り特に制限されず、上記生物としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等の哺乳動物を好適に例示することができ、中でもヒト、マウスをより好適に例示することができ、特にヒトを好適に例示することができる。
【0029】
上記(B)工程における本件スモールRNAの発現量を測定する方法としては、スモールRNAを含むRNA中の本件スモールRNA量を同定し得る方法である限り特に制限されず、本発明の腫瘍の判定キットを用いる方法を例示することができる。かかる方法については、後述の3.の本発明の腫瘍の判定に使用する方法、及び、本発明の判定キットの項目において詳述する。
【0030】
上記(C)工程のコントロールとしての、検体組織と同種の非がん組織(例えば検体組織が喉頭組織である場合は、非がん喉頭組織)におけるスモールRNAの発現量と比較・評価する方法におけるコントロールとしては、より正確な評価が可能となることから、検体組織と同一個体の組織(非がん部位)であることが好ましい。なお、コントロールとしての検体組織と同種の非がん組織又は被検体と同種の非がん被検体の血液は、検体組織又は被検体の血液を採取する際にかならずしも採取する必要はなく、非がん組織中又は非がん被検体の血液中の本件スモールRNAの発現量についてあらかじめ検量線を作成し、それとの比較・評価を行なってもよい。
【0031】
このように検体組織中又は被検体の血液中のRNAに含まれるスモールRNAの発現量に基づいて、その検体組織又はその被検体が腫瘍であるかどうかを判定することができる。前記のように、本件スモールRNAのうち配列番号1〜7、10〜56のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAついては、コントロールと比較してその発現量が増加している場合に腫瘍であると判定することができ、配列番号8〜9、57〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAについては、コントロールと比較してその発現量が低下している場合に腫瘍であると判定することができる。
【0032】
腫瘍であると判定する場合の本件スモールRNAの発現量の増加の程度としては、例えば、コントロールに対する割合として8倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは12倍以上の増加を好適に例示することができ、腫瘍であると判定する場合の本件スモールRNAの発現量の低下の程度としては、例えば、コントロールに対する割合として好ましくは8倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは12倍以上の低下を好適に例示することができる。
【0033】
3.本発明の腫瘍の判定に使用する方法、及び、本発明の腫瘍の判定キット
本発明の腫瘍の判定に使用する方法は、以下の(1)〜(3)のいずれかの本発明の腫瘍の判定キットを腫瘍の判定に使用する方法である限り特に制限されない。
(1)配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの発現量を測定することができる、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を備えたマイクロアレイを含んでいることを特徴とする腫瘍の判定キット:
(2)配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの配列を増幅し得るプライマーセットを備えたことを特徴とする腫瘍の判定キット:
(3)配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの配列を増幅し得るプライマーセットと、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を含む蛍光プローブとを備えたことを特徴とする腫瘍の判定キット:
【0034】
上記マイクロアレイを腫瘍の判定に使用する方法としては、マイクロアレイ法を好適に例示することができ、上記プライマーセットを腫瘍の判定に使用する方法としては、定量PCR法を好適に例示することができ、上記プライマーセットと蛍光プローブとを腫瘍の判定に使用する方法としては、定量PCR法(蛍光プローブ法)を好適に例示することができる。
【0035】
上記のマイクロアレイ法としては、本件スモールRNAの発現量を測定することが可能である限り特に制限されないが、組織から抽出したRNAをラベル(好ましくは蛍光ラベル)で標識し、そのRNAを、同定対象とするスモールRNAに相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド(好ましくはDNA)又はその一部からなるプローブが固定されたマイクロアレイに接触させてハイブリダイゼーションを行った後、マイクロアレイを洗浄して、マイクロアレイ上に残ったスモールRNAの発現量を測定する方法を例示することができる。
【0036】
上記の核酸配列のヌクレオチドの種類としては、本発明における所定のスモールRNAに特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限されないが、安定性が高いことからDNAであることが好ましい。また、上記のポリヌクレオチドの一部の長さとしては、本発明における所定のスモールRNAに特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限されないが、ハイブリダイゼーションの安定性を確保する観点から、10〜100merであることが好ましく、10〜40merであることがより好ましい。なお、上記のポリヌクレオチド又はその一部は、当該技術分野において周知の方法を用いて化学合成等することにより得ることができる。
【0037】
上記のポリヌクレオチド又はその一部を固定するアレイとしては特に制限されないが、ガラス基板やシリコン基板等を好適に例示することができ、ガラス基板をより好適に例示することができる。上記のポリヌクレオチド又はその一部をアレイに固定する方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0038】
また、本発明のマイクロアレイを含んでいる腫瘍の判定キットには、前述のマイクロアレイの他に、例えばRNAのラベル化反応に用いる試薬、ハイブリダイゼーション反応に用いる試薬、洗浄に用いる試薬、組織からのRNA抽出に用いる試薬等の、マイクロアレイ法に用いる試薬などの任意の要素をさらに含んでいてもよい。
【0039】
そして、マイクロアレイ法としては、Agilent Human miRNAV2 (Agilent Technologies社製)をAgilent Technologies社のmiRNA Microarray protocol Version 1.5に記載の方法に従って用い、DNA Microarray Scanner (Agilent Technologies社製)でスモールRNAの発現量を測定する方法をより具体的に例示することができる。上記のポリヌクレオチド又はその一部からなるプローブが固定されたマイクロアレイは、測定対象とする本件スモールRNAの配列情報に基づいてポリヌクレオチドを合成し、それを市販のアレイに固定するなどして作製することができる。
【0040】
上記の定量PCR法としては、本件スモールRNAの配列を増幅し得るプライマーセットを用いる方法であり、かつ、本件スモールRNAの発現量を測定することが可能である限り特に制限されず、アガロース電気泳動法、SYBRグリーン法、蛍光プローブ法等の通常の定量PCR法を用いることができるが、定量の精度や信頼性の点で、蛍光プローブ法が最も好ましい。
【0041】
定量PCR法におけるプライマーセットとは、本件スモールRNAの配列を増幅し得るプライマー(ポリヌクレオチド)の組合せを意味する。上記プライマーとしては、本件スモールRNAの配列を増幅し得る限り特に制限されないが、本発明における所定のスモールRNAの配列の5’側の一部の配列からなるプライマー(フォワードプライマー)と、そのスモールRNAの配列の3’側の一部の配列に相補的な配列からなるプライマー(リバースプライマー)とからなるプライマーセットを例示することができる。ここで、5’側とは、成熟型スモールRNAの配列において比較した場合に、リバースプライマーに対応する配列よりも、5’側であることを意味し、3’側とは、成熟型スモールRNAの配列において比較した場合に、フォワードプライマーに対応する配列よりも、3’側であることを意味する。
【0042】
スモールRNAの5’側の配列として、好ましくは、そのスモールRNAの配列の中央の核酸よりも5’側の配列を例示することができ、スモールRNAの3’側の配列として、好ましくは、そのスモールRNAの配列の中央の核酸よりも3’側の配列を例示することができる。また、それぞれのプライマーの長さとしては、スモールRNAを増幅し得る限り特に制限されないが、7〜10merのポリヌクレオチドであることが好ましい。なお、上記プライマーであるポリヌクレオチドのヌクレオチドの種類としては、安定性が高いことからDNAであることが好ましい。
【0043】
上記の蛍光プローブとしては、本件スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を含んでいる限り特に制限されず、TaqMan(登録商標)プローブ法(FRET原理を利用したものも含む)や、サイクリングプローブ法に用いうる蛍光プローブを好適に例示することができ、特にTaqMan(登録商標)プローブ法(FRET原理を利用したものも含む)に用いうる蛍光プローブをより好適に例示することができる。TaqMan(登録商標)プローブ法(FRET原理を利用したものを除く)や、サイクリングプローブ法に用いうる蛍光プローブとしては、5’側に蛍光色素を標識し、3’側に消光物質を標識した蛍光プローブを例示することができ、FRET原理を利用した蛍光プローブとしては、5’側と3’側に、それぞれドナー色素とアクセプター色素を標識した蛍光プローブを例示することができる。上記の蛍光色素、消光物質、ドナー色素、アクセプター色素等は、市販のものを適宜使用することができる。
【0044】
上記の蛍光プローブにおける核酸配列のヌクレオチドの種類としては、本件スモールRNAに特異的にハイブリダイズし得る限り、特に制限されないが、安定性が高いことからDNAであることが好ましい。また、上記のポリヌクレオチドの一部の長さとしては、本発明における所定のスモールRNAに特異的にハイブリダイズし得る限り、特に制限されないが、ハイブリダイゼーションの安定性を確保する観点から、10mer以上であることが好ましく、15mer以上であることがより好ましく、対象とするスモールRNAの全長のヌクレオチド数から1〜3mer少ないヌクレオチド数であることがさらに好ましい。
【0045】
上記プライマーセットや、上記の蛍光プローブは、その配列情報に基づき当該技術分野において周知の方法を用いて化学合成等することにより得ることができる。上記のプライマーセットや蛍光プローブを用いた定量PCRの方法としては、周知の方法を用いることができる。また、プライマーセットと蛍光プローブとを備えた本発明の腫瘍の判定キットには、前述のプライマーセットの他に、例えばポリメラーゼ等の定量PCR反応に用いる試薬などの任意の要素をさらに含んでいてもよい。
【0046】
4.本発明の腫瘍治療薬のスクリーニング方法
本発明の腫瘍治療薬のスクリーニング方法としては、(a)腫瘍に罹患した非ヒト動物に被検物質を投与する工程:(b)前記非ヒト動物における腫瘍組織中又は血液中の、本件スモールRNAの発現量を測定する工程:(c)コントロールとしての、被検物質を未投与の場合における本件スモールRNAの発現量と比較・評価する工程:を含んでいる限り特に制限されず、上記非ヒト動物の種類としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等の非ヒト哺乳動物を好適に例示することができ、中でもマウス、ラットをより好適に例示することができる。また、腫瘍に罹患した非ヒト動物としては、腫瘍を自然に罹患した非ヒト動物であってもよいし、発がん物質で腫瘍を誘導した非ヒト動物であってもよい。
【0047】
上記(b)工程における本件スモールRNAの発現量を測定する方法としては、前述の本件スモールRNAの発現量を測定する方法を用いればよく、また、上記(c)工程において比較・評価する方法としては、本件スモールRNAのうち、配列番号1〜7、10〜56のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAについては、コントロールと比較して低下している場合に、その被検物質が腫瘍治療薬である可能性が高いと判定することができ、配列番号8〜9、57〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAについては、コントロールと比較して増加している場合に、その被検物質が頭頸部腫瘍治療薬である可能性が高いと判定することができる。スモールRNAは、遺伝子の発現を抑制するなどの性質が報告されているため腫瘍組織又は血液中における上記スモールRNAの異常発現を正常化方向にシフトさせるような被検物質は、腫瘍治療薬として用いうる可能性が高いと考えられる。
【0048】
なお、(c)工程に代えて、(d)コントロールとしての、腫瘍組織と同種の非がん組織又は被検体と同種の非がん被検体の血液におけるスモールRNAの発現量と比較・評価する工程:を採用することができる。(d)工程において比較・評価する方法としては、本件スモールRNAの発現量が、コントロールと比較して有意差がない場合に、その被検物質が腫瘍治療薬である可能性が高いと判定することができる。
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
[サンプル組織の採取1]
慶應義塾大学医学部ならびに佐野厚生総合病院の倫理委員会の承認のもと、慶應義塾大学病院又は佐野厚生総合病院の耳鼻咽喉科外来を受診した患者を選定し、サンプル提供の依頼対象者とした。その上で、その対象者からインフォームド・コンセントを得た後、5人の各対象者の喉頭から、5種類のサンプル組織を採取した。これら5人の対象者の患者背景は以下の表1のとおりです。
【0051】
【表1】

【0052】
これら5種類のサンプル組織における組織の種類としては、T416とT506については喉頭がん組織であり、T421、T502、T484については多発性の喉頭乳頭腫(喉頭パピローマ)組織であった。
【0053】
採取したこれらの組織のそれぞれの一部を、RNAlater(登録商標)(Applied Biosystems社製)が分注されたチューブに入れて冷凍保存し、組織内のRNAを安定化した。なお、各サンプルの組織の状態(がん、乳頭腫等)は、採取した組織の他の一部について病理学検査を実施し、確定診断を行った。
【実施例2】
【0054】
[サンプル組織からのRNAの抽出及びその質的評価]
後述のSOLiD(登録商標)システム(Applied Biosystems社製)解析に用いるため、実施例1で冷凍保存した各組織からmirVana miRNA Isolation Kit(Applied Biosystems社製)にてトータルRNAを抽出した。次に、この抽出したRNAの質的評価を行った。具体的には、抽出したトータルRNAのRIN(RNA Integrity Number)を、Bio-Analyzer RNA6000(Agilent Technologies社製)にて計測し、RNAの分解の程度を調べた。その結果、T416由来のトータルRNAのRINは9.1であり、T506由来のRINは8.4であり、T421由来のトータルRNAのRINは9.8であり、T502由来のトータルRNAのRINは9.8であり、T484由来のトータルRNAのRINは9.7であった。すなわち、各サンプルのRINは十分に高いレベルを保持しており、質の良いRNAであることが分かった。
【実施例3】
【0055】
[トータルRNAからのスモールRNAの精製]
抽出したRNAを、まず、flashPAGE(登録商標)Fractionator(Applied Biosystems社製)にアプライし、電気泳動によるPAGE精製を行うことで、10−40塩基の低分子量のRNA(スモールRNAを含む)を回収した。続いて、flashPAGE(登録商標)Reaction Clean-Up Kitを用いて、これらの核酸の精製、濃縮を行った。
【実施例4】
【0056】
[各組織におけるスモールRNAの配列決定及び発現解析]
各組織におけるスモールRNAの配列決定及び発現を解析するために、実施例3で得られたスモールRNAについて、SOLiD(登録商標)システム(Applied Biosystems社製)を用いた解析を行った。このシステムは、次世代シークエンサーのひとつであり、two-base encodingという方法を利用している。このシステムを利用すると、例えば、ある組織におけるスモールRNA(配列未知のものを含む)の配列を網羅的に決定すると共に、そのスモールRNAの発現解析も同時に行うことが可能となる。
【0057】
実施例3で得られた各スモールRNAについて、SOLiD(登録商標)システムに付属のプロトコールに記載の方法にしたがって、同システムにより網羅的に解析を行った。その解析結果から、新規のスモールRNA(特にマイクロRNA)の解析結果のみを取り出すため、以下のフィルタリング処理(図1参照)を行った。
(1)解析結果のデータから、LINE(Long interspersed nuclear element)、SINE(Short interspersed nuclear element)(Alu配列等)、rRNA、tRNA、及び、シークエンスの人工物に相当する配列データを除去した。
(2)次いで、Sanger miRBase 13を利用して、既知のヒトマイクロRNAに相当する配列データを除去した。
(3)次いで、残った配列データについて、Human Mar. 2006 (hg18) assemblyを用いて、ゲノムとのマッチングを調べて、マッチしない配列データを除去した。
(4)次いで、Tag counts(スモールRNAの発現量に相当)の頻度に応じて、スモールRNAのゲノム遺伝子座を図示した。Tag countsが100以上のものを選択したところ、4556クローンのスモールRNAが見出された。
(5)次いで、fRNAdbというノンコーディングRNAの配列データベース(http://www.ncrna.org/frnadb/sitemap)を用いて、4556クローンのスモールRNAを、既知のRNAと照合した。その結果、4556クローンのうち、208クローンがSRPであること、32クローンがsnRNAであること、166クローンがsnoRNAであること、398クローンがtRNAであること、158クローンがrRNAであること、181クローンがncRNAであること、3クローンがアンチセンスRNAであること、245クローンがそれ以外のncRNAであることが判明し、残りの3165クローンは未知のスモールRNAであることが判明した。
(6)次に、これらの中から、発現調節に関与している可能性が高い新規なスモールRNAとして、前述の未知の3165クローンのスモールRNAと、181クローンのncRNAと、245クローンのそれ以外のncRNAの合計3591クローンを選択した。
(7)上記の(6)で選択した3591クローンについて、それらの前駆体における二次構造の推定を行った。具体的には、現状で、世界最高の予測精度を有するCentroidFold(Bioinformatics. 2009 June 15; 25(12): i330-i338.)というソフトウェアを用いて、これらの各スモールRNAの二次構造を解析し、前駆体がヘアピン構造を取るであろうクローンを選択した。ヘアピン構造を選択したのは、遺伝子の発現調節に関与することが知られるマイクロRNAが、その生成過程において通常ヘアピン構造を取ることが知られているからである。二次構造解析の結果、3165クローンのスモールRNAから、ヘアピン構造を取るであろう126クローンを選択し、181クローンのncRNA及び245クローンのそれ以外のncRNAの中から、ヘアピン構造を取るであろう31クローンを選択した。選択した合計157クローンについて、喉頭がん組織における平均発現量と乳頭腫組織における平均発現量を比較した。発現量としては、内在性コントロール(RNU6B)にて補正した相対発現量を用いた。その結果、喉頭がん組織において特異的に発現上昇するクローンとして7つのスモールRNA(chr2_207683032-、chr7_36343030-、chr4_159841311-、chr5_54503922-、chr9_90179002+、chr15_81221854+、chr18_41923331-)を選択し、喉頭がん組織において特異的に発現抑制するクローンとして2つのスモールRNA(chr4_56991616-、chr4_30588363+)を選択した。上記の(1)〜(7)のフィルタリング処理(以下、「フィルタリング処理A」とも表示する。)を通過したこれらの合計9クローンの新規スモールRNAは、喉頭がん組織において特異的に発現上昇又は抑制されており、かつ、ヘアピン構造を取る可能性が特に高いため、喉頭がんの診断マーカーとして用いうる新規マイクロRNAである可能性が特に高い。
【0058】
また、SOLiD(登録商標)システムによる解析結果の中から、がんにおける異常発現の程度が特に顕著な新規スモールRNAの解析結果を取り出すために、上記のフィルタリング処理Aとは別の以下のようなフィルタリング処理を行った。
(i)解析の生データにおいて一定の発現量(タグ数100)未満のものを除去したところ、4914クローンが残った。
(ii)4914クローンの発現量を内在性コントロール(RNU6B)にて補正した相対発現量について、喉頭がん(T416、T506)と、喉頭乳頭腫(T421、T484、T502)のそれぞれについて、平均値、最大値、最小値を算出した。
(iii)次に、喉頭がん、喉頭乳頭腫のそれぞれの最大値、最小値を並べたときに、「喉頭がんの最大値>喉頭がんの最小値>喉頭乳頭腫の最大値>喉頭乳頭腫の最小値」、又は、「喉頭乳頭腫の最大値>喉頭乳頭腫の最小値>喉頭がんの最大値>喉頭がんの最小値」となるように、(喉頭がんの最大値>喉頭乳頭腫の最小値)かつ(喉頭がんの最小値>喉頭乳頭腫の最大値)、又は、(喉頭乳頭腫の最大値>喉頭がんの最小値)かつ(喉頭乳頭腫の最小値>喉頭がんの最大値)となるクローンを選択した。
(iv)次に、選択したクローンについて、(喉頭がんの平均値/喉頭乳頭腫の平均値)の値を算出し、その算出値の小さい順に並べ替えた。
その結果を以下の表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
(v)喉頭乳頭腫の平均値と比較して、喉頭がんの平均値が10倍以上低下しているもの
81クローン、及び、10倍以上向上している77クローンを選択した。
【0061】
この77クローンとして、chr10_20112541+、chr13_31633612+、chr21_22980685-、chr12_76362038-、chr5_40434928-、chr18_4062216+、chr7_3809680-、chr20_35192920+、chr5_100470010+、chrX_123771048+、chr4_116312290-、chr1_156317610+、chr5_63701264-、chr3_73146433+、chr16_67383847-、chr21_42904480-、chr1_19721746-、chr12_129789723-、chr2_217084552-、chrX_8751220-、chr8_12727029-、chr19_23230662+、chr3_111130631+、chr2_101579062+、chr20_50197765+、chr3_194722220+、chr1_36224681+、chr13_19205704+、chr14_101596693+、chr15_67507851+、chr16_67565867+、chr18_66266580+、chr3_72191016+、chr6_28718144+、chr7_36343030+、chr7_73459867+、chr8_101124981+、chr4_61605850+、chr19_57796219-、chr9_80531106+、chr1_31069387-、chr14_95988605+、chr17_77533020+、chr6_162162960+、chr7_68077544+、chrX_68077544+、chr19_21821648+、chr13_101895663+、chr12_109426460+、chr2_122088345+、chr17_45622764-、chr5_12903733-、chr14_105016753+、chr17_56759632+、chr7_158573832-、chr18_56821334-、chr14_35974023-、chr20_55147622-、chr17_44935494-、chr2_96517928-、chr5_150592162-、chr12_80798194+、chr14_44686123+、chr6_100553953-、chr13_58552205-、chr12_56726499-、chr1_26315983+、chr3_102802629-、chr2_88095951+、chr1_243042506+、chr18_17499093+、chr20_29665815+、chr3_152747438+、chr4_108412614+、chr6_46898430+、chr6_86176534+、chr20_5593536+を選択した。なお、この77クローンのうち、chr21_42904480-、chr12_129789723-、chr2_217084552-、chrX_8751220-、chr20_50197765+、chr3_194722220+、chr17_77533020+、chr6_162162960+、chr7_68077544+、chrX_68077544+、chr19_21821648+、chr12_109426460+、chr2_122088345+、chr20_55147622-、chr1_243042506+、chr18_17499093+、chr20_29665815+、chr3_152747438+、chr4_108412614+、chr6_46898430+、chr6_86176534+の21クローンは、最初のフィルタリング処理により残ったクローンと重複しているので、またchr14_101596693+、chr15_67507851+、chr16_67565867+、chr18_66266580+、chr3_72191016+、chr6_28718144+、chr7_36343030+、chr7_73459867+、chr8_101124981+の9クローンはフィルタリング処理Aの(7)で選択したクローンと重複しているので、これらこのクローンを外し、47クローンを選択した。
【0062】
また、前述の81クローンとして、chr4_80722625-、chr18_52159944+、chr2_116291799+、chr12_43586396+、chrY_13903890+、chr11_112899263-、chr7_125532232-、chr8_3706415+、chr10_97280927-、chr14_101141137-、chr1_59372670-、chr9_126381650-、chr6_32480269-、chr3_51938784+、chr13_58381244+、chr11_64299436-、chr2_135492728+、chr9_24002277+、chr3_45733243+、chr10_17892682+、chr10_18139672+、chr7_155835128+、chr14_79906621-、chr6_113313108-、chr1_25272290+、chr18_32960249-、chr6_30433838+、chr16_81421137-、chrX_128924858-、chr16_69993560+、chr16_47548696+、chr5_147459156-、chr5_81565927-、chr17_64785401-、chr7_1677442+、chr5_154945381+、chr6_165090018+、chr3_48962778+、chr3_48962296+、chr12_114668994+、chr12_65009031+、chr5_132978063+、chr11_86193869+、chr16_15746666-、chr16_53649542+、chr1_45480552-、chr12_42928769+、chrX_47388240-、chr11_37781434-、chr10_80302437-、chr19_14839510-、chr4_82522273+、chr11_30355663+、chr2_171442461-、chr7_15682704-、chr10_87326332-、chr15_91176756-、chr11_49328346-、chr15_69806720-、chr3_38725780+、chr1_239235411+、chr9_132742582+、chr2_147679179-、chr1_231289111-、chr11_26311952-、chr14_36146417+、chr6_14585267-、chr16_53731358+、chr19_6925359+、chr8_133963297+、chrX_112049432-、chr15_32166220-、chr13_72312801+、chr6_158836211+、chr3_107317523-、chr6_75848122+、chr2_179055758+、chr1_202037610+、chrY_8804566+、chrX_139050490+、chr18_64836428-を選択した。なお、この81クローンのうち、chr10_18139672+、chr3_48962296+の2クローンは、最初のフィルタリング処理により残ったクローンと重複しているので、これらのクローンを外し、79クローンを選択した。
【0063】
以上のように、喉頭乳頭腫と比較して喉頭がんにおいて10倍以上変化しているこれらの126クローン(47+79)を選択した。
【0064】
上記の(i)〜(v)のフィルタリング処理(以下、「フィルタリング処理B」とも表示する。)を通過した126クローンのスモールRNAは、喉頭がん組織において特異的に発現上昇又は抑制されているため、喉頭がんの診断マーカーとして用いうる新規スモールRNAである可能性が特に高い。
【0065】
以上のことから、前述のフィルタリング処理Aを通過した9クローンの新規スモールRNAと、前述のフィルタリング処理Bを通過した126クローンのスモールRNAの合計135クローン(9+126)のスモールRNAは、喉頭がんの診断マーカーとして用いうる新規スモールRNAである可能性が特に高い。
【実施例5】
【0066】
[リアルタイムPCRによる発現解析]
実施例4でフィルタリングしたスモールRNAが喉頭がんの診断マーカーとして実際に用い得ることを、リアルタイムPCRによって検証した。リアルタイムPCRは以下の方法で行った。実施例1の喉頭がん患者とは別の喉頭がん患者3名に、喉頭癌組織と、それに隣接する喉頭非癌組織をそれぞれ提供してもらった。3名の喉頭がん患者の臨床進行期はそれぞれ1a、1b、2であった。臨床進行期が1aの患者の喉頭癌組織をT541と命名し、その喉頭非癌組織をT542と命名し、臨床進行期が1bの患者の喉頭癌組織をT478と命名し、その喉頭非癌組織をT479と命名し、臨床進行期が2の患者の喉頭癌組織をT528と命名し、その喉頭非癌組織をT529と命名した。各組織検体からmirVana(登録商標)PARIS(登録商標)Kit (Ambion社製)を用いて、スモールRNA画分を含むトータルRNAを抽出し、Nanodrop(登録商標)の吸光光度度計を用いた吸光度測定によってRNA濃度を測定した。
【0067】
次いで、Custom TaqMan(登録商標)Small RNA Assays(Applied Biosystems社製)及びTaqMan(登録商標)MicroRNA Assays(内部標準RNU6B)(Applied Biosystems社製)によって、RNA発現の定量解析を行った。具体的には、以下のような方法で行った。TaqMan(登録商標)MicroRNA RT Kit(Applied Biosystems社製)を用い、以下の組成からなるRT reaction mix7μLと、2ng/μLに調整したトータルRNA5μL(計10μg)とを氷上で混合した。
【0068】
RT reaction mixの組成
DEPC-treated Water 4.162μL, 10×Reverse Transcription Buffer 1.5μL, 100mM dNTPs 0.15μL, RNase Inhibitor 0.188μL, MultiScribe Reverse Transcriptase 1μL。
【0069】
さらにRT primer 3μLを加え合計15μLの反応液とし、16℃30分間、42℃30分間、85℃5分間からなる温度サイクルにてcDNA合成を行った。cDNA合成後のRT産物と、TaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix, No UNG(Applied Biosystems社製)とを用い、以下の組成からなるReal Time PCR反応液を氷上で調製した。
【0070】
Real Time PCR反応液の組成
double distilled water 7.67μL, 2×TaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix 10μL, 20×TaqMan(登録商標)MicroRNA Assay Mix 1μL, RT産物 1.33μL。
【0071】
Real Time PCR反応液20μLをStepOne Plus(Applied Biosystems)にセットし、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR解析を行った。
95℃10分間、(95℃15秒間、60℃1分間)×50サイクル
各スモールRNAターゲットについて得られたCT値、及び、内部標準としてのRNU6Bについて得られたCT値を元に、ΔΔCT法によって定量解析を行った。配列番号1のスモールRNAをターゲットとした結果を図2に示し、配列番号52のスモールRNAをターゲットとした結果を図3に示し、配列番号36のスモールRNAをターゲットとした結果を図4に示し、配列番号2のスモールRNAをターゲットとした結果を図5に示す。図2〜5から分かるように、いずれの患者においても、採取した喉頭癌組織とそれに隣接する喉頭非癌組織(コントロール)との検体ペアにおいて、喉頭癌組織での各スモールRNAの発現の上昇が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、腫瘍(特に頭頸部腫瘍)の診断や、腫瘍(特に頭頸部腫瘍)の治療薬のスクリーニングの分野において特に有用に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAを腫瘍のバイオマーカーとして使用する方法。
【請求項2】
腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
頭頸部腫瘍が頭頸部がんであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
以下の工程を備えたことを特徴とする腫瘍の判定方法:
(A)検体組織中又は被検体の血液中のRNAを抽出する工程:
(B)抽出したRNA中の、配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量を測定する工程:
(C)コントロールとしての、検体組織と同種の非がん組織又は被検体と同種の非がん被検体の血液におけるスモールRNAの発現量と比較・評価する工程:
【請求項5】
抽出したRNA中の、配列番号1〜7、10〜56のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量が、コントロールと比較して増加している場合に腫瘍であると評価することを特徴とする請求項4に記載の腫瘍の判定方法。
【請求項6】
抽出したRNA中の、配列番号8〜9、57〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量が、コントロールと比較して低下している場合に腫瘍であると評価することを特徴とする請求項4に記載の腫瘍の判定方法。
【請求項7】
腫瘍が頭頸部腫瘍であり、検体組織が頭頸部の検体組織であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の腫瘍の判定方法。
【請求項8】
配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの発現量を測定することができる、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を備えたマイクロアレイを腫瘍の判定に使用する方法。
【請求項9】
腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの配列を増幅し得るプライマーセットと、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を含む蛍光プローブとを、腫瘍の判定に使用する方法。
【請求項11】
腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの発現量を測定することができる、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を備えたマイクロアレイを含んでいることを特徴とする腫瘍の判定キット。
【請求項13】
腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする請求項12に記載の判定キット。
【請求項14】
配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれるスモールRNAの配列を増幅し得るプライマーセットと、前記スモールRNAの配列に相補的な核酸配列からなるポリヌクレオチド又はその一部を含む蛍光プローブとを備えたことを特徴とする腫瘍の判定キット。
【請求項15】
腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする請求項14に記載の判定キット。
【請求項16】
以下の工程を含むことを特徴とする腫瘍治療薬のスクリーニング方法:
(A)腫瘍に罹患した非ヒト動物に被検物質を投与する工程:
(B)前記非ヒト動物における腫瘍組織中又は血液中の、配列番号1〜135のいずれかに示されるポリリボヌクレオチド又はその変異体からなるスモールRNAからなる群から選ばれる1又は2種以上のスモールRNAの発現量を測定する工程:
(C)コントロールとしての、被検物質を未投与の場合におけるスモールRNAの発現量と比較・評価する工程:
【請求項17】
腫瘍が頭頸部腫瘍であることを特徴とする請求項16に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−107(P2012−107A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111206(P2011−111206)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り http://www.aeplan.co.jp/mbsj2009/abstracts/index.html 2009年11月20日掲載
【出願人】(509305664)
【出願人】(509305675)
【出願人】(510137168)
【Fターム(参考)】