説明

バイオ電池

【課題】バイオ電池において、電極に固定した酵素やメディエーターなどの活性劣化などが主要因となって発電能力の低下が起き、自然環境や生体内環境に曝されて働く際に、溶存酸素による酸化反応などによる劣化を完全に防ぐことは極めて困難で、長時間の発電が不可能な状況である。
【解決手段】分解速度が調節可能な生分解性高分子を利用し、例えば、複数のバイオ電池を電解質溶液より隔離して連結することにより、高分子の分解による電解質溶液と電極との接液が順次発生し、それにより発電の開始が個々の電池ごとに順次起こり、その結果長期間の発電が維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間にわたって発電可能なバイオ電池に関するものである。特には、本発明は、生分解性の高分子を用いて電解質溶液より隔離した2個以上の電池を連結した構造であり、高分子の分解による各々の電池の接液と、接液による発電が、時差を有して自動的に順次開始することによって長期間の発電が可能な電池、特には燃料電池に関するものである。また、本発明では、生分解性高分子を利用して電極部が電解質溶液より隔離されており、該生分解性高分子が分解されることにより電解質溶液が電極部に接液して発電が開始される構造を有することを特徴とする電池又は発電デバイスにも関する。
【背景技術】
【0002】
電源を搭載した超小型の電子デバイスを自然環境や生体内環境に分散配置し、これを用いて持続的・網羅的に計測や診断および治療を行なおうとする試みが始まっている。このような分散型・小型デバイスにおいては充電が困難であるため、電源の寿命がデバイスの設計や実用形態を制限する場合が多く、発電能力を長期間にわたって維持できる小型電源の開発が求められている。
【0003】
自然環境や生体内環境に分散して利用される電子デバイスの電源として、マンガン電池などの一次電池やバイオ燃料電池(非特許文献1)が考えられる。特にバイオ燃料電池は、生体触媒(酵素もしくは微生物)を用い、さらに環境に優しい有機物のみで構成が可能で、環境や生体に負荷をかけない使い捨て電源になりうる。また、生体触媒が有する高度な反応特異性によって、精製せずに自然界に存在する糖分などを直接エネルギー源にできる可能性がある。体液(血液や組織液など)に含まれる糖分も燃料となりうるため、皮膚パッチ型さらに埋め込み型の医療用マイクロ燃料電池の開発が検討されている(非特許文献2)。
しかしながら、一次電池が出力できる電気量は活物質の量で規定されるため、利用期間をそれ以上に引き延ばすことは原理的に不可能である。バイオ燃料電池においては、電極に固定した酵素やメディエーターなどの活性劣化などが主要因となって発電能力の低下が起こる。酵素やメディエーターの安定化を指向した研究が続けられているが、自然環境や生体内環境に曝されて働く際に、溶存酸素による酸化反応などによる劣化を完全に防ぐことは極めて困難である。
【0004】
一次電池やバイオ燃料電池の消耗や劣化は、電極が電解質溶液(バイオ燃料電池においては燃料を含む電解質溶液)に接した状態で進行する。電解質溶液に接していない状態では活物質の消耗は起こらない。このことを利用して長期保存を可能とした海水電池が、古くから非常用の救命ボートや救命胴衣のランプなどに使用されている。海水電池はMgとAgClによる一次電池であり、乾燥状態で保存され、使用時に海水などの電解質溶液を注入して発電を開始させるので保存中の劣化が無い。最近では、尿によって発電を開始するMg-AgCl電池が開発され、尿検査チップ用の電源として期待されている(非特許文献3)。バ
イオ燃料電池を含めたバイオ電池においても同様であり、溶液に接しない乾燥状態であれば酵素やメディエーターを固定した電極の長期保存が可能であり、燃料を含む電解質溶液を注入して初めて発電が開始される。しかしながら、これらの技術は長期保存のための方法であり、稼動時間を長期間に延長させるものではない。
【0005】
【非特許文献1】A. Heller, Phys Chem. Chem. Phys., 6; 209, 2004.
【非特許文献2】A. Heller, AIChE J., 51; 1054, 2005.
【非特許文献3】K. B. Lee, J. Micromech. Microeng., 15; 5210, 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、分解速度が調節可能な生分解性高分子で複数の電池を電解質溶液から隔離して連結することにより、高分子の分解による電解質溶液と電極との接液が順次発生し、それにより発電の開始が電池ごとに順次起こり、その結果長期間の発電が維持できるという電池、特には一次電池およびバイオ燃料電池を包含するバイオ電池(発電デバイスを包含する)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA)などの生分解性高分子を利用し電極部と電解質溶液とが隔離され、この生分解性高分子が分解することによって電解質溶液が電極部に接液して発電が開始されることを特徴とするバイオ電池が得られる。
また、本発明によれば、分解に要する時間が異なる生分解性高分子を利用することによって電解質溶液から隔離された複数のバイオ電池が連結されることで、各々の電池の発電が順次開始されることになり、長期間発電を維持可能なバイオ電池が得られる。
また、本発明によれば、電池のひとつが液に接するまでは、残りの生分解性高分子の隔離膜は液に接することなく、電解質溶液による分解作用を受けないようにしてあれば、一種類の生分解性高分子を用いても、各々の電池の発電が順次開始されることになり、長期間発電を維持可能なバイオ電池が得られる。
本発明では、生分解性高分子を利用することで電解質溶液から隔離された電極部を、該生分解性高分子が分解されることで、電解質溶液に接触させ起電させる構造の電池及び/又は起電デバイスをも提供している。
さらに本発明は、外部より燃料供給が可能な電池、例えば、燃料電池に加え、製造時にパッケージされた通常の一次電池形態の電池へも応用が可能なものである。
【0008】
かくして、本発明は、次なるものを提供する。
(1)電極部が電解質溶液より隔離されている電極を少なくとも一個有しており、電極が2個以上連結され、順次発電を行うものであることを特徴とするバイオ電池。
(2)生分解性高分子の分解により順次電極が接液するものであることを特徴とする前記(1)に記載のバイオ電池。
(3)生分解性高分子を隔壁として用いているものであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のバイオ電池。
(4)生分解性高分子を接着剤として用いているものであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のバイオ電池。
(5)前記生分解性高分子の分解反応が順次開始される構造によって、長期間の発電が維持できることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一に記載のバイオ電池。
(6)前記生分解性高分子は、2種類以上の分解に時間が異なるものを用い、分解に伴い順次発電が開始することによって長期間の発電が維持できることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一に記載のバイオ電池。
(7)機械式スイッチにより順次電極が接液するものであることを特徴とする前記(1)に記載のバイオ電池。
【0009】
(8)前記生分解性高分子は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体もしくはそれらの誘導体を含むことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか一に記載のバイオ電池。
(9)前記バイオ電池は、酵素を電極触媒としてグルコースやアルコールなどを燃料として発電する電池であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか一に記載のバイオ電池。
(10)前記バイオ電池は、微生物を用いてグルコースやアルコールなどを燃料として
発電する電池であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか一に記載のバイオ電池。
(11)前記バイオ電池は、ミリオーダー以下の微小な電池を2個以上平面に配列したシート状の形状であることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれか一に記載のバイオ電池。
(12)前記バイオ電池は、電極と構造材を含んだ全ての部品が有機物で構成されることを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれか一に記載のバイオ電池。
(13)生分解性高分子を利用して電極部が電解質溶液より隔離され、且つ、生分解性高分子が分解されることにより電解質溶液が電極部に接液して発電が開始される構造を有することを特徴とする電池又は発電デバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、以下の効果が得られる。
PLGAなどの生分解性高分子を用いており、バイオ電池の電極を電解質溶液から隔離して安定な保存状態を確保した電池が提供できれば、そうした電池を複数を連結することで、時差を有した発電が自動的に順次開始され、発電を長期間維持できるようになる。バイオ電池の発電が長期間維持できるようになれば、この電池を搭載した小型センサを分散させて環境情報を収集したり、体内埋め込み型の診断・治療デバイスを自立させるのに有効である。さらにバイオ電池においては、有機物のみでの構成が可能となる極めて安全性に優れた発電装置であり、環境や生体への親和性が高く、本発明によって長期間の発電が可能になれば、自然環境や生体内環境に負荷をかけない使い捨て電源として利用できる可能性がある。本発明によれば、生体内などの隔離された環境中で、電解質溶液から隔離されて安定な保存状態を確保してある電池を、生分解性高分子が分解する現象を利用して、起電開始時間を制御する技術が提供される。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書中、「電池」とは、エネルギーを直接に直流電力に変換する電力機器を指しており、例えば、化学反応により生ずるエネルギーを利用する起電装置・発電デバイスを包含するもので、本発明では、特に、バイオ電池及びバイオ発電デバイスを包含しており、例えば、外部より燃料供給が可能な燃料電池に加え、製造時にパッケージされた通常の一次電池形態の電池も包含される。
本明細書中、バイオ燃料電池としては、酵素を電極触媒としてグルコースやアルコールなどを燃料として発電する燃料電池、もしくは微生物を用いてグルコースやアルコールなどを燃料として発電する燃料電池などが挙げられる。
本発明は、連結された2個以上のバイオ電池が時差を有して順次発電を開始することで、個々のバイオ電池の寿命が短くとも、全体として長期間発電を維持できる電池であることを特徴としている。具体的には、分解速度が異なる生分解性高分子を利用して電解質溶液から隔離された2個以上の複数の電池を作製し、連結することで、発電が自動的に順次開始され、長期に渡って一定量以上の電力を供給することが可能なバイオ電池である。もしくは、同一種類の生分解性高分子で隔離した場合であっても、分解反応が順次開始する構造とすることで、長期に渡って一定量以上の電力を供給することが可能な電池である。
本発明において、好適には、対象とするバイオ電池は、特には燃料電池、すなわち、バイオ燃料電池である。バイオ電池の種類は特に限定されるものではなく、酵素や微生物の酸化還元反応を利用する電池すべて、特には燃料電池すべてを含み、電子伝達物質、すなわち、メディエータを利用するものも包含される。
【0012】
まず、酵素の酸化還元反応を利用する電池における構成要素について説明する。
アノード電極へ固定する酵素として、例えば、ジアフォラーゼとグルコースデヒドロゲナーゼの併用や、グルコースオキシダーゼが代表的である。これ以外として、フルクトースオキシダーゼ,フルクトースデヒドロゲナーゼ、アルコールオキシダーゼ,アルコールデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ,乳酸デヒドロゲナーゼ等の酵素から選択されることが好ましい。しかしながら、アノード電極へ使用可能な酵素はこれらに限定されず、糖やアルコールなどのバイオマス燃料の分解に有用なものであれば何れのものでもよい。
カソード電極としては、白金などの貴な金属単体電極あるいは、カーボンなどにビルリビンオキシダーゼやラッカーゼなどのマルチ銅オキシダーゼの酵素を固定化した電極を用いることが好ましい。しかしながら、カソード電極へ使用可能な酵素はこれらに限定されず、酸素還元に有用なものであれば何れのものでもよい。
【0013】
また、燃料電池の場合の燃料としては、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、メタノール・エタノールなどのアルコール、乳酸、ショ糖(スクロース)などから選択されることが好ましい。しかしながら、使用可能な燃料はこれらに限定されず、前記アノード電極用酵素およびカソード電極用酵素に有用なものであれば何れのものでも良い。
次に、微生物の酸化還元反応を利用する電池においては、それが燃料電池の場合、燃料としては、糖やアルコールなどバイオマス燃料として用いられるもの全て、さらには、微生物にとって資化性の栄養源などすべてに対し、本発明の適用が可能である。
【0014】
本発明においてバイオ電池を被覆したり、接着剤などとして使用する生分解性高分子は、合成高分子もしくは天然系高分子であって、電極部に電解質溶液が接液するのを防ぐ機能を有し、加水分解あるいは酵素や微生物の働きで低分子化合物に分解されることによって、電解質溶液の侵入を許し発電を開始させる役割を担うものである。例えば、具体例としては、合成ポリエステル系の生分解性高分子であるポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール
酸(PGA)、乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA)、およびこれらの誘導体などから選
択されることが好ましい。該生分解性高分子としては、例えば、50/50 poly(D,L-lactide-co-glycolide) (50/50 DLPLG)、65/35 poly(D,L-lactide-co-glycolide) (65/35 DLPLG)、75/25 poly(D,L-lactide-co-glycolide) (75/25 DLPLG)、85/15 poly(D,L-lactide-co-glycolide) (85/15 DLPLG)、poly(D,L-lactide) (DLPLA)、poly(L-lactide) (LPLA)、poly(glycolide) (PGA)、poly(ε-caprolactone) (PCL)、25/75 poly(D,L-lactide-co-ε-caprolactone) (25/75 DLPLCL)、80/20 poly(D,L-lactide-co-ε-caprolactone) (80/20 DLPLCL)などが知られており、FDAで認可されている。しかしながら、使用可能な生分解性高分子はこれらに限定されず、加水分解あるいは酵素や微生物により低分子化合物へ分解するものであれば何れのものでもよい。分解速度は平均分子量や誘導体化によって調節可能であり、特にPLGAについては共重合比によって数時間から一ヶ月の間で調節できる。電池性能の劣化が顕著になり、接続されている機器の機能維持が困難になる直前に次の電池が発電を開始するように分解速度を設定できることが望ましい。
【0015】
生分解性高分子は、近年盛んに研究されている材料であり、主要な用途としては、農業用フィルム用、食品包装用、ゴミ袋用、繊維用などが開発されている。生分解性高分子の一つであるPLGAは、ドラッグデリバリー技術において薬剤投与のタイミングを調節する応用として、薬剤粒子の担体物質あるいはコーティング物質が知られている(例えば, 特開平5-70363号公報、特表2006-507036号公報)。さらに、シリコンウェハーに多数作製した穴に薬剤を封入してPLGAで蓋をし、PLGAの分解によって順次薬剤が放出されるデリバリー
デバイスも開発されている(A.C.R.Grayson et al., Nature Materials, 2; 767, 2003.
)。
なお、本発明で用いる生分解性高分子の形態としては、PLA、PGA、PLGAおよびそれらの誘導体などの単体に限られるものではなく、例えば、弾性を有するシリコン樹脂などと混合して用いることも可能である。また電解質溶液からの隔離の方法としては、電極部を内包する容器又は区画と電解質との仕切板として用いる方法や、電極そのものを被覆する方法、電極部を内包する容器又は区画と電解質との間の仕切板の接着剤として用いる方法などがある。さらに電極として白金などの化学的安定性の高い材料を用いた場合、必ずしも電解質溶液からの隔離が必要ではない場合もある。
【0016】
本発明はバイオ電池の形状を特に制限しないが、生分解性高分子による電解質溶液との隔離が可能で、それによって電解質溶液が電極部に接触することが防がれ、安定な保存状態が確保され得る形状が望ましい。生分解性高分子の分解によって電解質溶液が速やかに電極部に接触することも重要であるが、ミリオーダー以下のセル状の形状を用いた場合、気泡がこれを妨げることがあり得る。この場合、電極部に綿などを封入しておくと電解質溶液の侵入が比較的容易になる。また、隔離されている電極部を親水性にしておいたり、陰圧などにしておくことも可能である。このように、隔離状況が解消されたなら、速やかに電解質溶液と電極部が、十分に起電現象が生ずるように接触することを図ることができる。本発明において連結されるバイオ電池は2個以上であり上限はない。より多くのバイオ電池が連結され、適切なタイミングで発電を開始することが望ましい。たとえば、平板上に微小な電池を多数配列させて作製し、それぞれの電池を、たとえばインクジェットプリンタなどの印刷技術を利用して生分解性高分子で被覆してもよい。
【0017】
さらに本発明は、一次電池形態の電池へも応用が可能なものである。例えば、Mgをマイナス極としAgClやPbCl2をプラス極とする一次電池があるが、適用可能な一次電池の種類
は特に限定されるものではない。
【0018】
本発明では、時差式小型発電デバイスを提供する。当該デバイスの発電機構は、次々に発電する電極が切り替わり、常に新しい電極で発電できるような発電システムで、これを「時差式発電」とした。燃料などの電解質溶液中に曝されていない乾燥状態で保存された酵素電極などのバイオ電極は、性能低下が比較的起こりにくいと考えられ、溶液に触れる電極を次々と切り替えることで、電極の発電までに時差を持たせ、常に性能の高い(劣化していない)電極での発電を可能にするもので、当該時差式発電は本目的を達成できるものである。
本発明の時差式発電デバイスは、少なくとも次のような機構を備えたものである:
(1) 燃料溶液などの電解質溶液がバイオ電池、例えば、バイオ燃料電池内部に導入され
る。
(2) 一部のアノードとカソードによる発電が開始される。他は、カバーにより燃料など
の電解質溶液から遮断され、酵素反応などの化学反応を起こしていない保存状態にある。(3) (2)で発電していた酵素電極などのバイオ電極の性能低下が顕著になるタイミングで、燃料などの電解質溶液から遮断されていた酵素電極などのバイオ電極の一部が自然にあるいは強制的に、燃料などの電解質溶液に曝される。まだ燃料などの電解質溶液に曝されていない酵素電極などのバイオ電極は保存状態にある。
(4) (2)、(3)が連続することで、時差を持って次々と新しい電極が発電を始め、ほぼ一
定の発電量を得ることができる。
【0019】
一つの態様では、本時差式発電デバイスは、分解速度の異なる生分解性高分子を使用して構成できる。生分解性高分子の分解速度の差異は、例えば、モノマー比やポリマーの平均分子量の違いにより、分解速度を変えることが可能であり、例えば、PLGA(ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体)は、よく研究されている。典型的な場合では、異なる崩壊
速度を有す生分解性高分子薄膜によって酵素電極を燃料から遮断し、生分解性高分子薄膜の崩壊と共に、時間差で発電が自然に開始される時差式小型発電デバイスが挙げられる。
一つの態様では、電極部が電解質溶液より隔離されている電極を少なくとも一個有しており、電極が2個以上連結され、それら電極が、順次発電を行う形態のバイオ電池が挙げられる。各電池では、発電を順次なすためには、例えば、生分解性高分子の分解により順次電極が接液するものにするとか、あるいは、機械式スイッチにより順次電極が接液するものにすることが挙げられる。上記において、生分解性高分子を隔壁として用いたり、接着剤として用いているものが包含されてよい。例えば、複数の電池が側面に張り付いた構造とし、生分解性高分子の隔壁が分解された際に、電極が順次接液するものとか、分解速度の遅い蓋を生分解性高分子で接着してあり、接着剤の生分解性高分子の分解で軽くて浮く蓋が剥がれて浮き上がるとか、接着面が剥がれることにより、蓋が開くように反り返る場合などを挙げることができる。当該蓋の材料は、生分解性高分子とは別の材料でもよいし、分解速度の遅いものであってもよいが、これらに限定されず、また、所要の目的を達成可能であれば当該分野で知られた材料を適宜選択して使用できる。生分解性高分子で接着するには、例えば、CO2 bondingを使用できる。代表的な構成例を、図11にそれぞれ
具体例として示す。
【0020】
一つの態様では、電極部を電解質溶液より隔離する生分解性高分子の隔離膜を複数設けてあり、当該複数の隔離膜の一つが液に接するまでは、残りの生分解性高分子の隔離膜は液に接することなく、電解質溶液による分解作用を受けないようにしてあり、したがって、電解質溶液に電極部が接液していない残りの電極が存在しており、当該複数の隔離膜が順次分解されて該複数の電極部が順次電解質溶液に接液して、時差式発電が可能とされている形態のものが挙げられる。こうした態様のものでは、同一の生分解性高分子を使用することもできる。つまり、(1)発電と(2)次の電池(燃料溶液などの電解質溶液より隔離さ
れているもの)への壁(生分解性高分子などで構成あるいは生分解性高分子などを接着剤
としている)、が同時進行する構造であるものが包含される。こうしたものでは、一種類の材料で時差式発電が実現できる。図12には、本構成の一具体例を示してある。こうした機能を発揮するものは、すべて本発明の範囲内であり、上記以外にも様々な構造が考えられる。
別の態様では、ボタンを押すなどの方法で、出力が弱ってきたなどの場合に、次の電池を活性化するような形態であってよい(図13)。
以下に実施例を掲げ、図面を参照しながら本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。ここでは、短時間で実験を実施するために、PLGAの平均分子量による分解速度の違いを利用しており、電池の劣化も顕著には起きていないが、共重合比による分解速度の制御は数時間から数ヶ月と幅広い事が知られており、電池の寿命に対応させた分解時間の設定が可能である。
【実施例1】
【0021】
(生分解性高分子の分解による電解質溶液の侵入)
図1(a)に示すように、ポテンシオスタット(HSV-100、 北斗電工)を用いてサイクリ
ックボルタンメトリーを行なった。溶液は1mMのフェロセンメタノールを含むリン酸緩衝水溶液であり、サーモスタットで35℃に維持されている。参照電極(R)には銀・塩化
銀(Ag/AgCl)電極、対極(C)には白金ワイヤーを用い、作用電極である3本のカーボン電極(直径3mm)はガラス管の中に設置した。図1(b)に示すように、これらのガラス管に
は直径3mmの穴を開けた蓋が貼り付けてあり、3本のガラス管のうち1本はそのまま用い
、他の2本は平均分子量が異なるPLGA5005(配合比50:50、平均分子量5000)、PLGA5015(配合比50:50、平均分子量15000)によって穴を塞いでから用いた。PLGAの塗布は、ヘ
キサフルオロ2プロパノールに溶かした1g/ml のPLGA溶液10μlを用いて行なった。図1(c)は実験開始直後、15分後、40分後に測定したサイクリックボルタモグラムである。フェロセンメタノールの酸化還元電流が2倍、3倍になっており、PLGA膜が時差を有して分解し、溶液がガラス管内に流入したために作用電極の面積が2倍、3倍になったことを反映している。
【実施例2】
【0022】
(バイオ燃料電池の時差式発電)
図2(a)に示す実験装置でバイオ燃料電池の時差式稼動を行なった。溶液は50mMグルコ
ース(D(+)-Glucose、 Mw:180.16)と1 mMのNADHを含むリン酸緩衝水溶液で、液温は35℃に保たれている。実施例1と同様にして作製した3本のガラス管の中に、酵素を固定化したアノードと、Ptカソードからなるバイオ燃料電池を挿入し、100kΩの外部負荷に生じる電圧を計測した。酵素を固定化したアノードは、2種類の酵素を積層して作製した。先ず、 NADHを酸化してNAD+を生成する酵素であるジアフォラーゼを、ビタミンK3を修飾した
ポリ-L-リジンおよびケッチェンブラックと共にカーボン電極上に塗布して固定化する。
その上に、グルコースを酸化するNAD+依存性のグルコースデヒドロゲナーゼをポリ-L-リ
ジンと共に塗布した。以上2種類の酵素の反応が連携することによって、賞味、グルコースを酸化して電子を引き抜く能力を持った電極となる。一方、Ptカソードにおいては、この電子が溶存酸素に渡される還元反応が起きる。
【0023】
図2(b)は計測開始後2000秒間の出力電圧の変化である。約450秒と約1600秒の時点で出力電圧が急激に上昇しているのが読み取れる。これはPLGA5005膜とPLGA5015膜の崩壊によって起こった変化であり、バイオ燃料電池の時差式発電に成功したといえる。3本の電極
は並列に接続されているので、出力電圧はグルコース燃料電池の起電力(開回路時の電圧)を超えることはないが、電極面積が増えることで、より起電圧に近づいたと言える。これは電池の発電許容値が大きくなったため、電流が流れることによる電圧降下の影響が相対的に軽減されたためである。この実施例では、電池の性能が著しく悪くなるほどの長時間の実験は行えなかったが、共重合比が異なるPLGAを用いて長期の実験を行うことでバイオ燃料電池の性能低下をカバーする方法として時差式稼動が有効であることをより明確にすることができると考える。
【実施例3】
【0024】
(平板上に配列して作製されたバイオ燃料電池の時差式発電)
図3(a)に示すように、ガラス板上にPtの電極パターン(カソード用)とAuの電極パターン(アノード用)をフォトリソグラフィーとスパッタリングで作製した。Au電極上には実施例2と同じく酵素の固定化を行なった。そして、図3(b)の様に上面の直径3mm、下面の直径8mmの穴が開いたPLA板を貼り付けた。実施例1および実施例2と同様に PLGA5005およ
びPLGA5015によって穴が塞がれている。なお、電極のリード部はポリイミドで絶縁化した。この板状電池を、50mMグルコース(D(+)-Glucose、 Mw:180.16)と1 mMのNADHを含むリン酸緩衝水溶液(35℃)に挿入し、図2(a)と同様に出力電圧の変化を測定した。
【0025】
出力電圧の測定結果は再現性が悪く、不安定であった。これは、電極部に存在する気体が抜けないために、PLGAが分解しても電解質溶液が速やかに侵入しないためであると考えられた。そこで、図3(c)に記載の様に、電極部に綿をつめて、電解質溶液が侵入しやすくしたところ、図3(d)に示す結果が得られた。PLGAの分解に対応すると見られる出力電圧
の上昇が確認された。実施例2よりも時間がかかっているのは、ガラス管を用いたときに
高分子の崩壊を促進した水圧が無いためと考えられる。
【0026】
実施例3では電極が3組であるが、微細加工技術を用いてより多数の電池を同一基板上に配列することが可能であり、インクジェットプリンタなどによってそれぞれの電池を生分解性高分子で被覆することで、より小型で、長期間にわたって発電が可能なバイオ燃料電池が作製可能である。実施例3では基板を用いているが、可塑性のあるシート状に作製することも可能である。
【0027】
さらに実施例3で用いたカソード用のPt電極は化学安定性が高いため、必ずしも生分解性高分子により被覆する必要はなく、化学的に不安定な酵素が固定化されたアノードのみを被覆すれば、同様な効果は達成される。これにより、一層の小型化が可能となる。また、体積あたりの電極数を増加するには、基板あるいはシートを積層する構造も考えられる。
【実施例4】
【0028】
(バイオ燃料電池電極の作製)
図4に全ての部品が有機物によるバイオ燃料電池の作製方法を示した。図3ではアノードおよびカソード電極としてそれぞれ生分解性機能のないAuとPtを用いているが、有機物のみを用いた電極の作製を試みた。まずテフロン(登録商標)シート上に印刷法を用いカーボン電極を作製した。ここで言うカーボンはカーボンブラックを指し、有機物として扱う。次に、カーボン電極上に円筒状のPLAを置き、板厚方向に2枚の押さえ板で加圧しPLAを板状に変形させた。加圧後、テフロン(登録商標)シートを取り除くとカーボン電極はPLA側に転写していることが確認された。PLA板のサイズは30mmx30mmx3mmであった。この
カーボン電極上にアノード用触媒、カソード用触媒を設置し、さらに両極をPLGAで覆うことにより、所定の時間差後発電を開始するバイオ燃料電池が作製される。基板は被覆材料より分解速度の長い生分解性材料である必要がある。電極としてはカーボンなどの導電性を有する有機物を用いることができ、導電性が妨げられない範囲で、カーボン粉末と生分解性物質を混合して作製した電極を用いることもできる。生分解性材料として、ここでは、PLAとPLGAを示したが、それに限定されるものではなく、基板材料としては被覆材料よ
り長い分解時間を持つ生分解性材料であれば何れの材料を用いてもよい。ここで言う基板は燃料電池を構成する構造材として扱うことができる。
【実施例5】
【0029】
(時差式小型発電デバイスの作製)
(a) PLGA薄膜の作製
乳酸とグリコール酸の配合比が1対1であるPLGAを用いた。PLGAは、PLGA5005(Mw. 5000,和光化学工業)、PLGA5015(Mw. 15000,和光化学工業)を用いた。PLGAは薄くすると
非常に割れやすいために、コンポジット化し強度を高めて用いた。PLGAにナノクレイ(Cloisite30B,Southern Clay Products)を分散させコンポジットとすることで強度を向上
させた。
PLGAとナノクレイを重量比96:4で、十分に混ぜる。得られた混合物を1,1,1,3,3,3-Hexafluoro-2-propanol(ヘキサフルオロプロパノール, Wako)に0.2mg/mLの濃度で溶かした。得られたものを、PLGA溶液とするが、ナノクレイは溶解せず、分散している状態であるため、使用直前に超音波洗浄機を用いて、十分に分散させてから必要量を取り出した。
【0030】
(b) PLGA薄膜作製に用いるPDMS鋳型の作製
PLGA薄膜を成型するため、薄膜パターンを有すPDMSを鋳型として用いた。微細加工技術を使用したPDMS鋳型の作製のため、厚膜ネガレジストのSU-8を作製したい薄膜形状にパターニングし、それをPDMSに転写した。PLGAはPDMSから容易に剥離できるため、鋳型材料に適する。
(1) 基板の準備は次のようにして行った。スライドガラス(MICRO SLIDE GLASS, Thickn
ess 0.8〜1.0 mm, MATSUNAMI)をエタノール溶液中で超音波洗浄し、乾燥させた。(2)マ
スクの作製は次のようにして行った。マスクパターンを描画ソフトで描き、市販のOHPシ
ートに黒で印刷することにより作製した。(3)フォトリソグラフィーは次のようにして行
った。(i)プロモーター(AZ ADプロモーター、AZエレクトロニックマテリアル株式会社)を基板上にスピンコート(ACT-220D, Active)(4000rpm,30sec)し、ホットプレート(TH-900, AS ONE)を用い100℃で10minベークする。(ii)フォトレジスト(SU-8 2050, 化薬マイクロケム株式会社)をスピンコートする(2000rpm, 30sec;厚さ 70μm)。(iii)徐々に温度
を上げて、95℃で15minベークする。(iv)基板に位置を合わせてマスクを密着させ、露光
装置(UIV-5100, USHIO)を用いて33sec露光する。(v)徐々に温度を上げて、95℃で9minベ
ークする。(vi)現像液(SU-8デベロッパー, 化薬マイクロケム株式会社)中で10min現像し
、イソプロパノールで1min×2リンス(図5(a))した。(4)PDMSの主剤(SILPOT 184, DOW CORNING TORAY)と硬化剤(CATALYST SILPOT 184, DOW CORNING TORAY)を重量比10:1で混合し、よくかき混ぜた後、十分脱気し、(3)で作製したSU-8鋳型に流し込む。(5)オーブンでベークし、十分に硬化させた後SU-8鋳型からはずし、必要な部分を切り出した(図5(b)
)。
【0031】
(c) PLGA薄膜の作製
PDMS鋳型を用いてPLGA薄膜を成型する手順を以下に示すようにして行った。液滴を乾燥させるだけでは、平らな膜とはならないため、エンボッシングにより平らなPLGA薄膜を得た。上記(a)で作製したPLGA分散液をガラス製マイクロシリンジを用いて、PDMS鋳型の凹
部に8μl滴下する。次に、常温で数時間乾燥させる。流動性が無くなったら、バキュームオーブン(AVO-250N, AS ONE)の減圧下40℃で2日間以上乾燥させた。次に、両面をスライ
ドガラスにはさみ、120℃に加熱したホットエンボス(AH-2003, AS ONE)で加圧し(0.2MPa)、冷却してから外した。
【0032】
(d) 電極とPLGA薄膜取り付け枠の作製
微細加工技術を使用して電極基板の作製を行った。その電極にPLGA薄膜を接着するための枠を作製した。枠の作製は次のようにして行った。先ず、リフトオフ後の電極基板をエタノールで超音波洗浄し、乾燥させた。プロモーター(AZ ADプロモーター, AZエレクトロニックマテリアル株式会社)を基板上にスピンコート(ACT-220D, Active)(4000rpm, 30sec)し、ホットプレート(TH-900, AS ONE)を用い100℃で10minべークした。フォトレジスト(SU-8 2050,化薬マイクロケム株式会社)をスピンコート(1000rpm 30sec)し、次に徐々に温度を上げて、95℃で30minベークし、基板に位置を合わせてマスクを密着させ、露光装置(UIV-5100, USHIO)を用いて60sec露光した。徐々に温度を上げて、12minべークし、現像液(SU-8デベロッパー, 化薬マイクロケム株式会社)中で15min現像し、イソプロパノールで1min×2リンスした。この電極を図6に示す。以降、このSU-8の枠(高さ150μm)の付いた電極を時差式デバイス用電極とした。
【0033】
(e) PLGA薄膜の接着
燃料から酵素電極を遮断するには、作製したPLGA薄膜の酵素電極上面への接着が必要となるが、加熱や有機溶剤を用いた接着法では、酵素電極の失活を招いてしまう。また、接着剤の利用も考えられるが、微少量の接着剤を正確に塗布することは難しい。そこで、PLGAと酵素電極を接着する方法として、CO2 bondingを用いた。本接着法は、接着させたい
試料を貼り合わせた状態で40℃前後の耐圧容器内に入れ、CO2ガスを充填して圧力を上げ
ることで、高密度のCO2ガスがPLGA表面を溶解させ、接着できるというものである。使用CO2ガス中においても細胞は生存できるといった報告がある。本実施例では、耐圧容器内が35℃で一定となるようにした。CO2 bondingではCO2ガスが接着面の外周部から内部へとPLGA中を拡散しながらPLGAを溶解していることが示唆される結果を得た。上記(d)で得た時
差式デバイス用電極と上記(c)で得たPLGA薄膜の接着を行った。CO2 bondingでは、処理時のCO2圧力、加圧時間の条件設定を接着面積(接着距離)によって変えることができ、例
えば、印加圧力0.5MPa、印加時間30minで接着を行うことができる。
【0034】
(f) 時差式小型発電デバイスを用いた時間差通電試験
上記(c)で得たPLGA薄膜で電極(上記(d)で作製)を覆うことで、溶液から電極を遮断し、PLGAの崩壊により、時差をつけて電極を溶液に露出させることが可能か否かを調べた。
PLGA5005とPLGA5015を用いて作製したPLGA薄膜を、それぞれの電極にCO2 bonding(0.5MPa,30min)により接着した。0.5mL/minの流量で0.1mMフェロセンメタノール溶液をペリスタポンプでPDMS流路(流路高さ1mm, 流路幅5mm)内に送液した(図7)。PLGA薄膜上面を、測定溶液が通過すると同時にポテンショスタットによるサイクリックボルタンメトリー法(CV法, 電位掃引速度5mVs-1)測定を開始し、3分毎に同じ電位を測定するように、
繰り返し測定した。
サイクリックボルタモグラムの、電位0.3Vにおける電流値を経過時間に合わせて取得した。PLGA5005で覆った電極では溶液導入後60min、PLGA5015で覆った電極では500minの間
まで、電流がほぼゼロであり、PLGA薄膜による電極の溶液からの遮断を実現できた。また、PLGA5005を用いた薄膜で覆った電極では、電流値が緩やかに増加していき、時差をつけて電極を機能させることにも成功した。PLGA5015を用いた薄膜電極で覆った電極でも時差をつけることに成功した。2種類のPLGA薄膜の崩壊過程が異なったことが認められた。
【0035】
(g) 酵素電極を用いた時間差通電試験
PLGA薄膜で覆ったグルコース酸化電極を用いて時間差の検証を行った。
上記(d)で作製した基板に酵素修飾を行った電極に対して、上記(c)で得たPLGA薄膜(PLGA5005)を、CO2 bonding(0.5MPa,30min)で接着する。0.5mL/minの流量で1mM NAD+、10mMグルコース、0.1M NaClを含む燃料溶液をPDMS流路(流路高さ1mm, 流路幅5mm)内にペリスタポンプで送液した(図7)。
PLGA薄膜上面を、測定溶液が通過すると同時にポテンショスタットによるリニアスウィープボルタンメトリー法(LSV法,電位掃引速度5mV s-1)測定を開始し、3分毎に同じ電
位を繰り返し測定した。
得られたリニアスウィープボルタモグラムの電位 0Vの電流値を経過時間に合わせてプ
ロットした結果を図8に示す。溶液を導入した0minから40minの間まで、PLGA薄膜で覆わ
れた電極では、電流が観測されず、PLGA薄膜による燃料からの酵素電極遮断を実現できた。その後、電流値の増加が徐々に得られ時差をつけた通電が観測された。但し、PLGA薄膜が酵素電極上に残っていることで、PLGA薄膜を介した燃料の流入速度が、酵素電極のグルコース消費速度に対して遅くなるという問題が観察された。
【0036】
(h) 時差式小型発電デバイスの電極性能安定性試験
上記で時間差のグルコース酸化が行えることを確認できたので、時間差発電バイオ燃料電池の安定性を評価した。分子量がMw 5000、Mw 15000と異なり、分解速度に差があるPLGA薄膜を用いることで、酵素電極をアレイ化した時間差発電燃料電池を構成した。
上記(d)で作製した基板に酵素修飾を行った電極に対して、上記(c)で得たPLGA薄膜(PLGA5005,5015)を、CO2 bonding(0.5MPa, 30min)で接着する。それに、PDMS流路(流路高さ1mm, 流路幅5mm)を接着させた流路セル(図9)に、0.5mL/minの流量で1mM NAD+、10mMグルコース、0.1M NaClを含む燃料溶液を流した。PLGA薄膜上面を、測定溶液が通過すると
同時に、ポテンショスタットにより0Vの定電圧を印加し、測定を開始した。また、比較としてPLGA薄膜で被覆されていない酵素電極1枚の測定も同様に行った。
電流−時間曲線を図10に示す。電極1枚だけでの電流値(a)に比べ、性能低下が緩や
かになり安定性が向上した。これは、燃料の供給開始で被覆されていない電極が時間の経過で性能低下していくなか、PLGA5005と5015で燃料から遮断されていた酵素電極がそれぞれ時間差をもって溶液にぬれ始め、グルコース酸化を開始し、徐々に電流値が大きくなったため、全体としての電流値が向上したものと考えられる。測定開始後の最大電流値を100%として、時間経過後の電流値を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
PLGA薄膜で燃料を遮断した酵素電極に関して、上記(g)において述べたように、グルコ
ースの供給量が十分でないため、PLGA薄膜で覆われていない電極と同程度の電流値を得られなかった。8時間経過した時点で、わずかながらではあるが性能の回復が見られた。こ
れは、分解によって孔のあきやすくなったPLGA薄膜が、燃料の流れの影響で大きく変形し、グルコースの流入量が増加したために生じたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、バイオ電池を時差式に稼動することができ、長寿命の電池が提供できるので、使い捨て可能な電池、ブドウ糖を燃料とする電池、体内医療装置用電池、皮膚貼付式医療器具用電池(湿布など)、皮膚貼付式美容用途用電池(パックなど)に応用可能であり、医療分野を含めたバイオデバイス開発に貢献する。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に従った生分解性高分子の分解による電解質溶液の侵入による電極の活性化。(a)実験構成図。(b)実験に用いたガラス管の写真。(c)実験開始直後、15分後、および40分後に測定したサイクリックボルタモグラム。電位走査速度は50mV/s。
【図2】本発明に従ったバイオ燃料電池の時差式発電。(a)実験構成図。(b)負荷100kΩにおける出力電圧の経時変化。
【図3】本発明に従った平板上に配列して作製されたバイオ燃料電池の時差式発電。(a)ガラス板上に作製した電極の写真(b)PLGAで被覆した状態の電極基板の写真。(c)電極部に綿をつめることで電解質溶液が侵入しやすくなることの説明図。(d)負荷100kΩにおける出力電圧の経時変化。
【図4】本発明に従ったバイオ燃料電池電極。(a)外観写真。(b)電極の作製方法。
【図5】本発明に従ったPLGA薄膜作製に用いるPDMS鋳型の作製における薄膜パターン(a)とPDMS鋳型(b)を示す。
【図6】本発明に従った時差式デバイス用電極を示す。
【図7】本発明に従った時差式小型発電デバイスを用いた時間差通電試験での実験構成図を示す。
【図8】実施例5(g)で得られたリニアスウィープボルタモグラムの電位 0Vの電流値を経過時間に合わせてプロットしたグラフを示す。
【図9】本発明に従った時差式小型発電デバイスの電極性能安定性試験での実験構成図を示す。
【図10】実施例5(h)で得られた電流−時間曲線を示す。
【図11】本発明に従った時差式小型発電デバイスで燃料溶液から電極を隔離している蓋を生分解性高分子で接着して構成する一具体例を示す。
【図12】本発明に従った時差式小型発電デバイスで燃料溶液から電極を隔離している隔壁を複数、同一の生分解性高分子で構成し、該複数の隔壁を順次溶液に接触させて分解せしめ、複数の電極を順次稼動せしめるようにした一具体例を示す。
【図13】本発明に従った時差式小型発電デバイスで燃料溶液から電極を隔離している隔壁を複数で構成し、該複数の隔壁を機械式スイッチにより破壊せしめ、複数の電極を順次稼動せしめるようにした一具体例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極部が電解質溶液より隔離されている電極を少なくとも一個有しており、電極が2個以上連結され、順次発電を行うものであることを特徴とするバイオ電池。
【請求項2】
生分解性高分子の分解により順次電極が接液するものであることを特徴とする請求項1に記載のバイオ電池。
【請求項3】
生分解性高分子を隔壁として用いているものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオ電池。
【請求項4】
生分解性高分子を接着剤として用いているものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオ電池。
【請求項5】
前記生分解性高分子の分解反応が順次開始される構造によって、長期間の発電が維持できることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載のバイオ電池。
【請求項6】
前記生分解性高分子は、2種類以上の分解に時間が異なるものを用い、分解に伴い順次発電が開始することによって長期間の発電が維持できることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載のバイオ電池。
【請求項7】
機械式スイッチにより順次電極が接液するものであることを特徴とする請求項1に記載のバイオ電池。
【請求項8】
前記生分解性高分子は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体もしくはそれらの誘導体を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載のバイオ電池。
【請求項9】
前記バイオ電池は、酵素を電極触媒としてグルコースやアルコールなどを燃料として発電する電池であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一に記載のバイオ電池。
【請求項10】
前記バイオ電池は、微生物を用いてグルコースやアルコールなどを燃料として発電する電池であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一に記載のバイオ電池。
【請求項11】
前記バイオ電池は、ミリオーダー以下の微小な電池を2個以上平面に配列したシート状の形状であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一に記載のバイオ電池。
【請求項12】
前記バイオ電池は、電極と構造材を含んだ全ての部品が有機物で構成されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一に記載のバイオ電池。
【請求項13】
生分解性高分子を利用して電極部が電解質溶液より隔離され、且つ、生分解性高分子が分解されることにより電解質溶液が電極部に接液して発電が開始される構造を有することを特徴とする電池又は発電デバイス。


【図2】
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【図8】
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【図10】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−270206(P2008−270206A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90274(P2008−90274)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】