説明

バイパスターボジェットエンジンを備える一体型推進システム

【課題】従来技術の上述の欠点を簡潔、効果的、かつ経済的なやり方で回避し、さらに定期的にエンジンへと加えられる保守作業を容易にする推進システムにある。
【解決手段】一体型推進ターボジェットエンジンシステムであって、2つの部品から構成される下流側の円筒形のナセル構造を備え、2つの部品の一方(26)が、固定であって航空機への取り付け手段を固定するための梁(20)を備え、2つの部品の他方(40)が、使用位置と保守を容易にする開放位置との間を移動できる一体型推進ターボジェットエンジンシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイパスターボジェットエンジンを備えるとともに、エンジン中間ケーシングによって支えられてターボジェットの周囲に二次流のための流通空間を画定するナセルを備え、この二次流が、推力のうちの80%超をもたらすように意図されている航空機用の一体型推進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンは、一般的には、パイロンによって翼の下方、胴体の一部、あるいは航空機の尾部の一部へと取り付けられるが、パイロンは、きわめて頑丈かつきわめて重たい構成要素であって、サスペンションを介して複数の点においてエンジンへと固定され、エンジンと航空機との間で伝達されるすべての負荷がサスペンションを通過する。
【0003】
また、パイロンおよびサスペンションによる固定は、推力の伝達のエンジンの軸に対するずれを引き起こし、エンジンのケーシングに全体としての曲げを引き起こす。さらには、パイロンをエンジンへと固定する要素が、ナセルの内側の二次流の流路を横切って部分的に妨げるため、特にはバイパス比の大きいエンジンの場合に、ナセルの半径方向の寸法が、そのような寸法の低減を航空機の製造者らが望んでいるにもかかわらず、相応に増加することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主題は、上述の形式の推進システムであって、従来技術の上述の欠点を簡潔、効果的、かつ経済的なやり方で回避し、さらに定期的にエンジンへと加えられる保守作業を容易にする推進システムにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のため、本発明は、バイパスターボジェットエンジンと、中間ケーシングによって支えられてターボジェットの周囲に二次流のための環状の流通空間を画定するナセルとを備える航空機用の一体型推進システムであって、ナセルが、下流側の円筒構造を2つの部品にて備え、その一方が、航空機の一部分へのエンジン取り付け要素を固定するための手段と中間ケーシングへの固定のための手段とを備える固定の骨組みであり、他方が、固定の骨組みに支えられ、エンジンを動作させるべく固定の骨組みへと添えられた使用位置とエンジン構成要素へのアクセスを可能にすべく固定の骨組みから離れるように動かされた開放位置との間を移動できる可動部品であり、可動部品を使用位置において固定の骨組みへと固定して、ナセルの下流側の構造を剛にしてエンジンから航空機への負荷の伝達を改善するために、係止手段が設けられている推進システムを提供する。
【0006】
このナセルの下流側の円筒構造は、当分野において外側固定構造(OFS)と称され、エンジンと航空機との間の負荷の伝達を可能にする剛性を有する。エンジン中間ケーシングへと固定されることで、エンジンを完全に支持することができ、従来技術において使用されているパイロンをなくして、航空機への取り付けのためのはるかに軽量な手段によって置き換えることができ、したがって大幅な重量軽減がもたらされる。さらに、ナセルの下流側の円筒構造を、一方が可動である2つの部品で構成することによって、保守の目的のためのターボジェットの内部の構成要素へのアクセスを、この下流側の円筒構造の全体を分解する必要なく達成するための方法がもたらされる。
【0007】
可動部品を、固定の骨組みに対して回転移動可能にすることができ、かつ/または固定の骨組みに対して平行移動可能にすることができる。
【0008】
本発明の好ましい実施形態においては、可動部品が、長手軸を中心として固定の骨組みへと連結されて使用位置と保守位置との間を移動できる2つの半円筒形の格子によって形成される。フェアリングまたはカウリングのパネルが、これらの格子へと取り付けられ、エンジンファンによって生成される二次流を案内するための外壁を形成する。
【0009】
本発明によるエンジンは、逆推力装置を備えても、備えなくてもよい。前者の場合には、逆推力装置の動作時にファンによって生成された二次流を2つの半円筒形の格子によって偏向させることができるよう、これらの格子に穴があけられる。2つの半円筒形の格子に取り付けられたフェアリングまたはカウリングのパネルが、2つの格子の穴あき部分を遮る上流側位置と、これらの穴あき部分を露出させて逆推力装置の動作を可能にする下流側位置との間で、平行移動可能である。
【0010】
本発明によれば、格子が、保守の際にエンジン内部への容易なアクセスを提供するために、固定の骨組みに対して40度〜180度の角度で開くことができる。
【0011】
さらに本発明は、上述の形式の一体型推進システムのナセルの下流側の円筒構造であって、2つの部品を備え、その一方が、航空機の一部分へのエンジン取り付け部材を固定するための手段と中間ケーシングへの固定のための手段とを備える固定の骨組みであり、他方が、固定の骨組みに支えられ、固定の骨組みへと2つの長手軸を中心として連結される2つの半円筒形の格子によって形成されている可動部品であるナセルの下流側の円筒構造に関する。
【0012】
本発明の或る特定の実施形態においては、2つの半円筒形の格子に穴があけられ、フェアリングまたはカウリングのパネルが、これらの格子上に長手方向にスライド可能に取り付けられる。
【0013】
一般に、本発明による推進用アセンブリは、例えば翼の下方、翼、翼に一体化された構造体、航空機の胴体あるいは尾部など、航空機の任意の部分へと上述の手段によって取り付けることができる。
【0014】
本発明の他の利点および特徴が、添付の図面を参照しつつ例示に限定されることなく提示される以下の説明を検討することによって、明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に概略的に示した推進用バイパスターボジェットエンジンシステムは、本質的には、円筒形であって上流部分でファン車を囲んでいるナセル10と、ターボジェット(図1では後部のみを見て取ることができる)とを備え、ファン車が、当業者にとってよく知られている様相でターボジェットのタービンによって回転させられる。
【0016】
エンジンの動作の際に、ファンが、ターボジェットの周囲かつナセル10の内側を後方へと流れる二次空気流を生成し、この二次空気流が、エンジンの推力の80%をもたらす。エンジンへと入る空気の一部が、ターボジェットの吸気圧縮機へと供給され、次いで燃焼室において燃料と混合される。燃焼室を出る燃焼ガスが、タービンへと進み、次いで排気ケーシングへと吐き出されて、図1に矢印Pによって示されているようにターボジェットを出る。ここで、矢印Pの近傍の矢印Sは、二次流の流出を示している。
【0017】
エンジンナセル10は、吸気ダクトと称される上流側円筒部分12、エンジン中間ケーシングによって支えられたカウルで形成されている中間円筒部分14、および外側固定構造(OFS)と一般に称される下流側円筒部分16を備える。下流側円筒部分16が、本発明によれば、負荷を伝達し、例えば航空機の翼の一部を形成している支持構造体18へとエンジンを固定すべく機能する構造部品である。
【0018】
ナセルの下流側部分16は、以下でさらに詳しく見られるように、骨組みへと固定されたカウリングパネルを備え、骨組みの上部が、エンジン取り付けロッドまたはリンク22、24を支持構造体18へと固定すべく機能する長手方向の梁20を備える。これらの取り付け要素22、24は、それらの端部が梁20および支持構造体18へと固定されたとき、剛であって変形しないアセンブリを構成する。
【0019】
エンジンを航空機の一部へと固定するこの方法は、従来技術において従来使用されていて、重量のある構成要素であり、エンジンへの取り付け点が本体構造のひずみを生み、ナセル10内の二次流の流通領域を部分的に妨げて、このナセルの直径の増加を引き起こして航空機製造者から見た欠点を構成しているパイロンを、なくすことができるようにする。
【0020】
図2においてよりはっきりと見られるように、ナセルの下流側円筒部分16の枠または骨組み26は、エンジン中間ケーシングの外側環状フランジ30の外周の少なくとも一部への固定を可能にする上流側の環状フランジ28を備え、ボルトによって行われるこの固定が、エンジンの軸の周囲を少なくとも180°にわたって広がり、好ましくは360°にわたって広がっており、すなわち環状フランジ30の全周を巡って広がっている。
【0021】
さらに、枠26は、下流側の環状部品32を、上述の長手方向の梁20および梁20に正対する下方の長手方向の支柱34によって上流側の環状フランジ28へと接続して備える。下流側の環状部品30を、当分野において一般に内側固定構造(IFS)と称され、二次流のための内側案内面を構成している円筒形のケース38の下流側の端部へと、リンクまたは接続ロッド36によって接続することができる。
【0022】
好都合なことに、この内側の円筒ケース38は、上流端がボルトによってエンジン中間ケーシングの内側環状フランジへと固定され、したがって本体構造のひずみを少なくするようにも機能する剛な部品であってよい。
【0023】
ナセルの下流側円筒部分16は、本発明によれば、上述の枠または骨組み26をエンジンに固定に取り付けて備えるとともに、この第1の部品に対して移動が可能であるもう1つの部品を、上記第1の部品によって支えて備える。このもう1つの部品は、図2に示した例では、一端において長手方向の軸を中心にして梁20へと連結された2つ(梁20の各側に1つずつ)の半円筒形の格子40からなる。それぞれの格子40は、翼の下方のエンジンの保守作業を容易にすべく、内側の円筒ケース38およびターボジェットへのアクセスを提供するため、自身の連結軸を中心として約40°〜180°の角度にわたって枢動することができる。
【0024】
エンジンが逆推力装置を備えていない場合には、それぞれの格子40は、カウリングまたはフェアリングのパネルが固定される任意の種類の骨組みまたは枠を備えることができる。
【0025】
エンジンが逆推力装置を備える場合には、これらの格子によって逆推力装置を支えることができ、これらの格子を、逆推力装置カスケードの固定を可能にする格子を形成する穴あきの骨組み42と、この骨組みの外側に長手方向にスライド可能に取り付けられて、逆推力装置の出口カスケードを遮る上流側位置とこの出口カスケードを露出させて逆推力装置の動作を可能にする下流側位置との間をスライドできるカウリングパネル44とで構成することができる。
【0026】
例えばフック、顎、またはつめを備える知られている形式の係止手段が、半円筒形の格子40を、それらがナセルの下流側円筒部分16の枠26上の保守作業位置にあるときに、動かぬように保持するために設けられる。これらの係止手段は、枠26の上流側の環状フランジ28に配置でき、さらには/あるいは梁20に正対している長手方向の支柱34に配置することができる。「V溝」という名称で知られている形式の手段など、固定の骨組み26と2つの半円筒格子40によって形成される可動部品との間の補助的な接続手段を、エンジンの動作の際に可動部品が運転位置にある場合に、これら2つの部品の間に負荷の伝達をもたらすために使用することができる。
【0027】
ナセルの下流側円筒部分16を、それぞれ固定部品および可動部品である2つの部品で構成することによって、航空機の翼の下方のエンジンの保守作業が大いに容易化され、さらに内側の円筒ケース38またはIFSが、46として概略的に示されているターボジェットのいくつかの構成要素への直接のアクセスのために、図5に示されているように取り外し可能なパネルを備えるため、この保守作業がなおさら実現可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるシステムの側面図である。
【図2】保守位置にある本発明によるシステムの部分切断の概略の斜視図である。
【図3】動作位置にある図2に示したシステムの部分断面の概略の側面図である。
【図4】保守位置にある図2および図3に示したシステムの部分切断されていない別の概略の斜視図である。
【図5】図4に示したシステムの別の概略の斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10 ナセル
12 上流側円筒部分
14 中間円筒部分
16 下流側円筒部分
18 支持構造体
20 梁
22、24 エンジン取り付けロッド
26 枠
28 上流側の環状フランジ
30 外側環状フランジ
32 下流側の環状部品
34 支柱
36 リンク
38 円筒形のケース
40 格子
42 骨組み
44 カウリングパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用の一体型推進システムであって、
バイパスターボジェットエンジンと、中間ケーシングによって支えられてターボジェットの周囲に二次流のための環状の流通空間を画定するナセルとを備え、
ナセルが、下流側の円筒構造を2つの部品にて備え、その一方が、航空機の一部分へのエンジン取り付け部材を固定するための手段と中間ケーシングへの固定のための手段とを備える固定の骨組みであり、他方が、固定の骨組みに支えられ、エンジンを動作させるべく固定の骨組みへと添えられた使用位置とエンジン構成要素へのアクセスを可能にすべく固定の骨組みから離れるように動かされた開放位置との間を移動できる可動部品であり、
可動部品を使用位置において固定の骨組みへと固定して、ナセルの下流側の構造を剛にしてエンジンから航空機への負荷の伝達を改善するために、係止手段が設けられている、推進システム。
【請求項2】
可動部品が、固定の骨組みに対して回転移動可能であり、かつ/または平行移動可能である、請求項1に記載の推進システム。
【請求項3】
係止手段の少なくともいくつかが、固定の骨組みの環状のフランジおよび長手方向の支柱に取り付けられている、請求項1に記載の推進システム。
【請求項4】
可動部品が、固定の骨組みへと長手軸を中心として連結される2つの半円筒形の格子を備え、これら2つの半円筒形の格子が対称であってよい、請求項1に記載の推進システム。
【請求項5】
2つの半円筒形の格子に穴があけられており、2つの半円筒形の格子が、逆推力装置の出口カスケードのための支持部を形成している、請求項4に記載の推進システム。
【請求項6】
フェアリングまたはカウリングのパネルが、逆推力装置の動作を可能にすべく2つの格子上に長手方向にスライド可能に取り付けられている、請求項5に記載の推進システム。
【請求項7】
格子が、固定の骨組みに対して40度〜180度の角度で開く、請求項4に記載の推進システム。
【請求項8】
二次流のための内側案内面を形成する実質的に円筒形のケースを備え、このケースが、上流端において中間ケーシングへと固定されるとともに、下流端に排気ケーシングを支持および案内するための手段を備え、さらにナセルの下流側の円筒構造の可動部品に面するターボジェット構成要素へのアクセスのための取り外し可能なパネルを備える、請求項1に記載の推進システム。
【請求項9】
請求項1に記載の一体型推進システムのナセルの下流側の円筒構造であって、
2つの部品を備え、その一方が、エンジン取り付け要素を航空機の一部分へと固定するための手段と中間ケーシングへの固定のための手段とを備える固定の骨組みであり、他方が、固定の骨組みに支えられ、固定の骨組みへと長手軸を中心として連結される2つの半円筒形の格子によって形成されている可動部品である、ナセルの下流側の円筒構造。
【請求項10】
2つの半円筒形の格子に穴があけられている、請求項9に記載のナセルの下流側の円筒構造。
【請求項11】
格子上に長手方向にスライド可能に取り付けられたカウリングパネルを備える、請求項9に記載のナセルの下流側の円筒構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−114836(P2008−114836A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−241953(P2007−241953)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)