説明

バクテリオファージを含む、細菌性感染症治療用の薬剤

【課題】 魚類のエドワジエラ症および/またはレンサ球菌症を治療および予防する薬剤を提供する。
【解決手段】 本発明に係る薬剤に、エドワジエラ・タルダに特異的に感染するバクテリオファージ、またはストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染するバクテリオファージを含ませる。各バクテリオファージは、エドワジエラ・タルダまたはストレプトコッカス・イニアエを指示細菌として集殖法、または2重寒天法にて得たものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバクテリオファージを含む、細菌性感染症治療用の薬剤に関し、特に、エドワジエラ症および/またはレンサ球菌症を治療するための、バクテリオファージを含む薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
養殖技術の急速な発展に伴い、今や様々な魚種を養殖できるようになっている。このような養殖産業における大きな課題の一つに、養殖魚の感染症がある。一般的な養殖場では、ある大きさの養殖領域内で数多くの魚を養殖するため、1尾の養殖魚が感染症になると、瞬く間に養殖領域の全ての魚に感染し、重症の場合には全養殖魚が死滅してしまう場合がある。これは、養殖業者にとって死活問題と成り得る。
【0003】
このような感染症として知られているものとして、例えば、養殖ヒラメでは、エドワジエラ症(Edwardsiellosis)およびレンサ球菌症(Streptococcus iniae infection)がある。
【0004】
エドワジエラ症は、Edwardsiella tardaが被感染体(ここではヒラメ)に感染することによって引き起こされる感染症である。Edwardsiella tardaは、グラム陰性桿菌であり、ヒラメ以外にも、マダイ、テラピアなど多くの魚種に対して感染能をもっている。また、ウナギのパラコロ病の原因菌でもある。エドワジエラ症になると、内臓に膿瘍形成や腹水といった症状を示す。
【0005】
レンサ球菌症は、Streptococcus iniaeが被感染体に感染することによって引き起こされる感染症である。Streptococcus iniaeは、1980年代はじめより、ニジマス、ギンザケ、アユ等に全身感染を起こすことが知られていたが、最近では特にヒラメにおいてエドワジエラ症と並ぶ再重要疾病となっている。ヒラメの場合、レンサ球菌症を発症すると、鰓蓋出血、眼球突出、腹水の貯留等を示し、重度の全身感染を引き起こして死に至る。
【0006】
このようなエドワジエラ症およびレンサ球菌症は、養殖場に限らず、海や河川の遊魚への影響も確認されており、社会問題化している。
【0007】
このようなエドワジエラ症およびレンサ球菌症の予防・治療策として、レンサ球菌症の場合では、化学薬剤を使用する方法がある。化学薬剤としては、例えばオキシテトラサイクリンを用いることができる。
【0008】
エドワジエラ症およびレンサ球菌症を予防する方法として、ワクチンの開発なども行われている。
【0009】
一方、近年、細菌感染症を、バクテリオファージを用いて治療する方法が研究されている。例えば、非特許文献1には、マウスの大腸菌感染を、バクテリオファージを用いて治療する方法が記載されている。
【0010】
バクテリオファージは、細菌内で増殖して短時間(約30分)で細菌を殺す能力があり、しかも特定の細菌種または特定の株にのみ感染するという特徴を有するので、感染症の治療に用いることができる。また、バクテリオファージは、自然界における細菌の存在量を調整する役割を担っており、環境への有害性は皆無である。
【0011】
バクテリオファージを用いて細菌感染症を治療する方法は、魚類についても研究が行われつつあり、本願発明者らによって、養殖アユやニジマスにおいて被害の大きい「細菌性冷水病」に対するバクテリオファージを用いた治療薬剤の研究(特許文献1)がなされている。また、同じく本願発明者らは、養殖アユの「細菌性出血性腹水病」あるいは養殖ブリの「Lactococcus garvieae 感染症」について、その原因菌に特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを用いて感染症をコントロールできることを報告している(非特許文献2、3、4)。
【特許文献1】特開2004−269445号公報(2004年9月30日公開)
【非特許文献1】「ジャーナルオブジェネラルマイクロバイオロジー」("Journal of General Microbiology"),(イギリス),1982年,第128巻,p.307-318
【非特許文献2】「アプライドアンドエンバイロンメンタルマイクロバイオロジー」("APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY"),(アメリカ合衆国),第66巻,2000年4月,p.1416-1422
【非特許文献3】「ディジーズオブアクアティックオーガニズムズ」("DISEASES OF AQUATIC ORGANISMS"),(ドイツ),2003年1月,第53巻,p.33-39
【非特許文献4】「ディジーズオブアクアティックオーガニズムズ」("DISEASES OF AQUATIC ORGANISMS"),(ドイツ),1999年6月,第37巻,p.33-41
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、エドワジエラ症およびレンサ球菌症の予防・治療策については、まだ数多くの問題が残っている。
【0013】
まず、エドワジエラ症に関しては、これを予防・治療するために使用できる有効な薬剤(水産用医薬品)がないということである。すなわち、エドワジエラ症の予防・治療策に有効な方法は未だに解明されていない。
【0014】
また、上述したように、レンサ球菌症の予防・治療策の一つに化学薬剤を投与する方法があるが、その治療効果はかなり不安定であり、安定してレンサ球菌症を抑制することができない。
【0015】
また、化学薬剤の投与に関しては、薬剤耐性細菌が出現する可能性が非常に高いという問題がある。さらに、化学薬剤を投与する場合、化学薬剤が海や河川に流出することで環境汚染につながり、他の生息生物やヒトへの有害な影響といった問題が発生する。
【0016】
また、ワクチンについては、現在エドワジエラ症に有効な市販ワクチンはなく、今春(平成17年)市販されたレンサ球菌症に対するワクチンは、養殖現場での使用に際して、そのコストと投与方法(注射)に難点がある。
【0017】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な効果を示すエドワジエラ症の予防および治療のための薬剤、および良好な効果を示すレンサ球菌症の予防および治療のための薬剤を提供することにあり、加えて、環境にも無害な当該薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、エドワジエラ症の原因細菌であるエドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)に特異的に感染するバクテリオファージ、およびレンサ球菌症の原因細菌であるストレプトコッカス・イニアエ(Streptococcus iniae)に特異的に感染するバクテリオファージを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
まず、エドワジエラ症の予防および治療に関しては、本発明に係る、エドワジエラ症の予防および治療のための薬剤は、上記の課題を解決するために、エドワジエラ・タルダに特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含むことを特徴としている。
【0020】
また、レンサ球菌症の予防および治療に関しては、本発明に係る、レンサ球菌症の予防および治療のための薬剤は、上記の課題を解決するために、ストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含むことを特徴としている。
【0021】
上記バクテリオファージとは、細菌に感染するウイルスであり、エドワジエラ・タルダまたはストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染するバクテリオファージは、例えば、エドワジエラ・タルダまたはストレプトコッカス・イニアエを指示細菌として、集殖法または2重寒天法にて採取できる。
【0022】
ここで、上記「指示細菌として採取する」とは、特定の細菌種または細菌株(指示細菌)を含む環境で、この指示細菌を溶菌するバクテリオファージを培養することによってこのバクテリオファージを増殖させて、バクテリオファージを得る方法である。具体的には、集殖法では、材料すなわち目的のバクテリオファージを含む試料を、指示細菌をいれた液体培地で培養することにより、材料中のバクテリオファージの数を増やす。また、2重寒天法では、材料と指示細菌とを軟寒天中で混合し、栄養寒天平板上に重層させることで、材料中のバクテリオファージにプラーク(溶菌斑)を形成させる。
【0023】
また、上記バクテリオファージとしては、特にミオウィルス科、シホウィルス科、またはポドウィルス科に分類されるものが挙げられる。
【0024】
このような薬剤を、エドワジエラ症またはレンサ球菌症を発症した魚類に対して投与すれば、上記バクテリオファージが、エドワジエラ症の原因細菌であるエドワジエラ・タルダ、またはレンサ球菌症の原因細菌であるストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染して溶菌するので、安定した治療効果を発揮する。
【0025】
このように、本発明の薬剤はバクテリオファージを用いて、原因細菌を溶菌しているので、エドワジエラ症またはレンサ球菌症を防ぐ生物農薬であるということもできる。
【0026】
なお、エドワジエラ症の原因細菌であるエドワジエラ・タルダ、およびレンサ球菌症の原因細菌であるストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染して溶菌する上記各バクテリオファージを共に用いることによって、エドワジエラ症およびレンサ球菌症を同時に治療することができることは言うまでもない。
【0027】
また、本発明に係る薬剤に含まれるバクテリオファージは、自然環境に生息するものであるので、環境汚染や人を含めた他生物への悪影響もない。さらに、化学薬剤の投与に対しては薬剤耐性細菌が出現するのに対し、バクテリオファージ耐性のエドワジエラ・タルダまたはストレプトコッカス・イニアエが現れる可能性も低い。
【0028】
また、本発明の薬剤は、上記バクテリオファージとして感染特性の異なる複数種類の株を含んでいることが望ましい。
【0029】
本発明の薬剤に含まれるバクテリオファージは、エドワジエラ・タルダまたはストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染し、溶菌させるものであるが、それぞれのバクテリオファージ株は、すべてのエドワジエラ・タルダまたはストレプトコッカス・イニアエに感染できるわけではなく、エドワジエラ・タルダの株またはストレプトコッカス・イニアエの株によって感染可能なものと感染できないものがある。なお、本明細書における「感染特性が異なる」とは、この感染できるエドワジエラ・タルダの株またはストレプトコッカス・イニアエの株が異なることを示している。従って、薬剤に、複数の株のバクテリオファージを含ませることで、感染・溶菌が可能なエドワジエラ・タルダまたはストレプトコッカス・イニアエの株が増え、エドワジエラ症またはレンサ球菌症の治療の可能性が高まる。
【0030】
本発明の薬剤を投与する対象動物としては、ヒラメ科の魚類が挙げられる。ヒラメ科の魚類は、エドワジエラ症およびレンサ球菌症の発症が多く確認され、被害が広がっている。ヒラメ科の魚類に本発明の薬剤を投与することで、エドワジエラ症および/またはレンサ球菌症の被害を抑えることができる。
【0031】
また、本発明の薬剤が、薬剤投与対象動物に注射または経口投与されるように構成されていることによって、本発明の薬剤は、腹腔や筋肉または消化管から循環系に侵入し、腎臓等に蓄積されたエドワジエラ・タルダまたはストレプトコッカス・イニアエを溶菌して、エドワジエラ症またはレンサ球菌症を発症した個体を治療したり、発症を抑えたりできる。
【0032】
注射や経口投与以外にも、本発明の薬剤を、薬剤投与対象動物の体表面から接触投与(浸漬法)できるように構成することも可能である。
【0033】
なお、本明細書における「体表面」とは、皮膚をはじめとする、外部環境と接触できる状態にある部分を示し、魚類で言えば、そのエラも「体表面」に含まれる。魚類を薬剤投与対象動物とする場合には、魚類を本発明に係る薬剤が分散した分散液に浸漬することによって、薬剤を投与することができる。これにより、本発明の薬剤に含まれるバクテリオファージが、体表やエラに付着したエドワジエラ・タルダまたはストレプトコッカス・イニアエを溶菌する、あるいはバクテリオファージは体表から体内に速やかに侵入することができるので、体内で増殖中の細菌を溶菌することにより、エドワジエラ症またはレンサ球菌症に罹った個体を治療したり、発症を抑えたりできる。
【0034】
また、上記バクテリオファージは動物の循環器系を循環したものであることが望ましい。
【0035】
バクテリオファージを生体に投与する場合、バクテリオファージが、体内にある種々の生体防御因子(補体など)の作用により比較的短時間で消滅してしまい、生体に長時間作用することができない。そこで、バクテリオファージを動物の循環器系を循環させることによって、これらの防御因子の作用を受けにくい、または受けない株を選択することができ、長時間体内に存在し得るバクテリオファージ株を取得することができる。これにより、バクテリオファージが投与対象個体の体内に長く留まり、治療効果が長く持続する薬剤とすることもできる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のエドワジエラ症治療用の薬剤は、以上のように、エドワジエラ・タルダに特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含むものである。
【0037】
また、本発明のレンサ球菌症治療用の薬剤は、以上のように、ストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含むものである。
【0038】
それゆえ、エドワジエラ症の原因細菌であるエドワジエラ・タルダ、またはレンサ球菌症の原因細菌であるストレプトコッカス・イニアエに感染した、または感染する可能性のある薬剤投与対象動物(例えばヒラメ科の魚類)に対して、本発明の薬剤を投与することで、当該薬剤に含まれるバクテリオファージが、体内に侵入したエドワジエラ・タルダ、または体内に侵入したストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染して溶菌するので、エドワジエラ症またはレンサ球菌症を回復させる治療効果を発揮することができる。
【0039】
また、本発明に係る薬剤に含まれるバクテリオファージは、自然環境に生息するものであるので、環境汚染や、人を含めた他生物への影響等の心配がない。さらに、化学薬剤の投与の場合では、薬剤耐性細菌が出現するのに対し、バクテリオファージ耐性のエドワジエラ・タルダおよびストレプトコッカス・イニアエが現れる可能性は低い。
【0040】
従って、エドワジエラ症やレンサ球菌症により深刻な被害がでているヒラメ養殖場などにおいて、環境への負担がなく、治療効果の高いエドワジエラ症またはレンサ球菌症治療用の薬剤として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
バクテリオファージ(以下ファージと称する)は、細菌内で増殖して短時間(約30分)で細菌を殺す能力があり、しかも特定の細菌種あるいは特定の株にのみ感染するという特徴を有する。また、ファージは自然界における細菌の存在量を調整する役割を担っており、環境への有害性は皆無であることが分かっている。そこで、本願発明者らは、「エドワジエラ症」の原因細菌であるエドワジエラ・タルダを特異的に溶菌するファージ、および「レンサ球菌症」の原因細菌であるストレプトコッカス・イニアエを特異的に溶菌するファージを採取し、治療に利用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0043】
エドワジエラ・タルダは、グラム陰性桿菌であり、ヒラメ以外にも、マダイ、テラピアなど多くの魚種に対して感染能をもっている。また、ウナギのパラコロ病の原因菌でもある。エドワジエラ・タルダに感染してエドワジエラ症を発症すると、内臓に膿瘍形成や腹水といった症状を示す。
【0044】
ストレプトコッカス・イニアエは、1980年代はじめより、ニジマス、サケ、ブリ等に髄膜脳炎を起こすことが知られており、魚の表面に存在し、時に菌血症から髄膜脳炎を起こす。ストレプトコッカス・イニアエに感染してレンサ球菌症を発症すると、体色黒化、エラの出血等を示し、重症例では、腹部膨満、腎臓と脾臓が腫大し、死に至らしめる疾病で、ヒラメの疾病の中で最重要の疾病の1つとなっている。
【0045】
以下、本発明の一実施の形態について、図表を用いて説明する。
【0046】
なお、以下の説明では、「エドワジエラ症」の原因細菌であるエドワジエラ・タルダに対する本発明の薬剤について説明するが、特に、言及しない限りにおいては、「エドワジエラ症」の代わりに「レンサ球菌症」を適用でき、かつ以下の説明において「エドワジエラ・タルダ」の代わりに「ストレプトコッカス・イニアエ」を適用することができる。
【0047】
本実施形態における薬剤は、エドワジエラ症を治療するために、エドワジエラ・タルダに特異的に感染して溶菌するファージを利用する薬剤である。このファージは、エドワジエラ・タルダを指示細菌として、自然環境から、例えば集殖法や2重寒天法を用いて採取することができる。集殖法では、材料すなわち目的のファージを含む試料を、指示細菌をいれた液体培地で培養することにより、材料中のファージの数を増やす。また、2重寒天法では、材料と指示細菌とを軟寒天中で混合し、栄養寒天平板上に重層させることで、材料中のファージにプラーク(溶菌斑)を形成させる。集殖法および2重寒天法の詳細については、海洋学講座11「海洋微生物」多賀信夫編、東京大学出版会(1974)に詳細に記載されている。
【0048】
なお、ファージを採取するためのエドワジエラ・タルダは、例えばエドワジエラ症を発症した魚個体の患部や、エドワジエラ症罹病魚が生息している水から、塗沫法により取得でき、トリプトソイ寒天培地またはサルモネラ・シゲラ寒天培地(選択培地)で25−30℃にて分離・培養することができる。
【0049】
以上のようにして得たエドワジエラ・タルダを特異的に感染・溶菌するファージは、生育環境とほぼ同等な条件の培養液にて保存することが可能であり、5℃程度の低温で保存した場合は、6ヶ月以上の保存が可能である。
【0050】
上記ファージは、エドワジエラ症の原因細菌であるエドワジエラ・タルダに特異的に感染して溶菌させるので、魚類に対して投与することで、後述の実施例に示すように、エドワジエラ症を回復させる治療効果を安定して発揮することができる。さらに、本実施形態におけるエドワジエラ症治療用の薬剤に、古くから海産魚の疾病として知られているラクトコックス・ガルビアエ(Lactococcus garvieae)感染症などの他の感染症を治療するファージを混合することにより、エドワジエラ症の治療を行うと共に、別の細菌の繁殖を防ぐ薬剤を提供することも可能である。
【0051】
また、上述したように、本発明に係る、エドワジエラ症治療用の薬剤と、レンサ球菌症治療用の薬剤とを併せて用いることにより、エドワジエラ・タルダの繁殖を防ぐことによってエドワジエラ症の治療を行うと共に、レンサ球菌症の原因細菌であるストレプトコッカス・イニアエの繁殖を防ぐことによってレンサ球菌症を治療することができる。
【0052】
バクテリオファージは、もともと自然環境に生息し、細菌の存在量を調整する役割を担っているものである。そのため、環境汚染や、人を含めた他生物への悪影響も皆無であると言える。
【0053】
さらに、細菌を化学薬剤により死滅させる場合と異なり、ファージを細菌に感染させたとしても、ファージ耐性細菌の出現の可能性は低いと言われている(APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,Apr. 2000, p.1416-1422、DISEASE OF AQUATIC ORGANISMS vol.53:33-39, 2003参照)。非特許文献3に示されるファージを用いた細菌感染症(細菌性腹水病)の治療においても、観察期間の間、ファージ耐性菌の出現は観察されていない。従って、本実施形態の薬剤に含まれるファージに対する耐性を有するエドワジエラ・タルダが現れる可能性は低く、長期間の使用においても安定したエドワジエラ症への治療・予防効果が得られると期待できる。
【0054】
細菌に感染するウイルスであるファージは、保持する遺伝子がRNAであるかDNAであるか、あるいは1本鎖であるか2本鎖により分類されており、さらに、粒子の形態的特徴から科に分類される。エドワジエラ・タルダを特異的に溶菌するファージとしては、2本鎖DNAを有し、図1のように、頭部、尾部を有しているもの、すなわち、ミオウィルス科(Myoviridae)、シホウィルス科(Siphoviridae)、ポドウィルス科(Podoviridae)に分類されるものが挙げられる。なお、図1(a)および(b)のミオウィルス科は収縮可能な尾部を持ち、図1(c)のシホウィルス科は柔軟性のある長い尾部を持ち、図1(d)のポドウィルス科は短い尾部を持つことなどにより特徴付けられている。
【0055】
上記ファージはさらに細かく株に分類される。本発明の薬剤に含まれるファージは、一種類の株から構成されているものでも構わないが、多種類の株を含んでいることが好ましい。これは、種々の株のファージを含むことにより、種々の感染特性のファージを含むこととなり、多くのエドワジエラ・タルダ株に感染し、溶菌できるためである。多くの種類の株に作用する薬剤であれば、あらゆるエドワジエラ症に対して治療効果を発揮できる。
【0056】
また、本発明の薬剤を投与する対象動物としては、具体的には、ヒラメ(ヒラメ科の魚類)が挙げられる。ヒラメは、養殖場などにおけるエドワジエラ症による被害が大きいので、その対策が望まれている。また、本実施の形態の薬剤は後述するように、人工的にエドワジエラ症を発症させたヒラメに投与することで、その症状が回復した。
【0057】
しかしなから、本発明の薬剤の適用対象はこれに限らず、エドワジエラ・タルダに感受性を有する全ての魚(淡水魚も含む)に適用可能であり、野生魚、養殖魚、種苗、魚の大きさ、魚の成長段階等を問わず、どのような魚類にも適用可能である。具体的には、マダイ、クロダイ、ブリ、ウナギ、テラピア等にも適用可能である。
【0058】
本発明の薬剤は、個体毎に直接注射する以外に、魚個体に経口投与されることによって投与されてもよい。経口投与は、例えば、魚の口内にファージを注入してもよいが、餌に本発明の薬剤を混入、またはスプレーなどで染み込ませて個体に自由に摂取させれば、多数の個体に対して薬剤を投与することができるため、好ましい。この後、ファージは、消化管から体内に侵入し、腎臓等に存在するエドワジエラ・タルダを溶菌して、エドワジエラ症を発症した個体の発症を抑えたり、治療したりできる。
【0059】
また、本実施形態の薬剤を適当な分散媒体に分散して、分散液を水槽などに入れて、分散液中に魚類を浸漬することによって、体表やエラに付着したエドワジエラ・タルダまた体内で増殖中の菌を溶菌して、エドワジエラ症を発症した個体を治療したり、発症を抑えたりできる。
【0060】
本実施形態の薬剤は、どのような濃度でエドワジエラ・タルダを特異的に感染して溶菌するファージを含んでいてもよいが、使用時のファージの濃度は10PFU/ml(g)以上10PFU/ml(g)以下で薬剤に含ませ、それを餌に混入する、あるいはそれに魚を浸漬することが望ましい。なお、PFUとは、プラーク形成単位であり、プラーク形成の元となるファージの濃度を示している。
【0061】
本発明の薬剤の投与方法は、上記した経口投与法、浸漬法に限定されるものではなく、注射によって投与対象動物に投与されてもよい。注射による投与の場合、ワクチン投与の際に用いられるワクチン接種用連続注射器を用いて行うことができる。
【0062】
本実施形態の薬剤に含まれるファージは、動物の循環器系を循環したものであることが望ましい。上記動物にはヒラメを用いることができ、例えばファージをヒラメの腹腔内に注入した後血液からファージを採取(動物透過)し、再び培養することで、動物の循環器系を循環したファージを得ることができる。この動物透過は複数回繰り返すことが好ましい。
【0063】
ファージを生体に投与する場合、当該ファージが体内にある生体防御因子(補体など)の作用により比較的短時間で消滅してしまうと、長時間生体に作用できない。ところが、動物の循環器系を循環させれば、生体防御因子(補体など)の作用を受けない突然変異株が選択され、長時間体内に存在し得るファージ株を取得できる(「プロシーディングスオブザナショナルアカデミーオブサイエンスイズオブザユナイテッドステーツオブアメリカ」("Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America"),(アメリカ合衆国),1996年4月,第93巻,p.3188-3192を参照のこと)。これにより、バクテリオファージが投与対象個体の体内に長く留まり、治療および予防効果が長く持続する薬剤とすることもできる。
【実施例】
【0064】
本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0065】
〔実施例1〕 エドワジエラ・タルダを特異的に溶菌するファージの取得方法
まず、ファージを得るためのエドワジエラ・タルダの取得方法について説明する。
【0066】
広島、愛媛、長崎、および三重県下で採取した、エドワジエラ症を発症したヒラメ、マダイ、クロダイから、エドワジエラ・タルダ27株を分離した。この27株それぞれについて、分離された魚種、その魚の採取された場所、採取年を表1に示している。
【0067】
【表1】

【0068】
上記のようにして得られたエドワジエラ・タルダを指示細菌として、自然環境から、2重寒天法を用いてエドワジエラ・タルダに特異的に感染して溶菌するファージを採取した。
【0069】
次に、得られたファージ(以下、PEtFファージと呼ぶ)の形態および核酸型を調べた。これらの株は全て核酸として2本鎖DNA(dsDNA)を有し、ウイルス粒子の形態的特徴を基にした分類における、ミオウィルス科(Myoviridae)、ポドウィルス科(Podoviridae)のいずれかに属していた(図1参照)。
【0070】
また、得られたPEtFファージは、その感染性から、HW−8、KF−1、IW−1、JF−1、GW−1の5株に分類された。それぞれの株の属する科と、頭部サイズ、尾部サイズを表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
なお、得られたPEtFファージはいずれも、エドワジエラ・タルダ以外の細菌には感染しないことがわかった。
【0073】
次に、このようにして得られた5株のファージの感染性を、上述した27株のエドワジエラ・タルダについて調べた。
【0074】
上述した2重寒天法により、PEtF HW−8、PEtF KF−1、PEtF IW−1、PEtF JF−1、PEtF GW−1の5株のファージが、それぞれのエドワジエラ・タルダに感染するか否かを調べた。その結果が表1に示されている。
【0075】
これによれば、どのエドワジエラ・タルダもPEtF HW−8、PEtF KF−1、PEtF IW−1、PEtF JF−1、PEtF GW−1のうちの少なくとも一つに感受性を示した。
【0076】
また、PE210株に対して、ファージの試験管内増殖抑制効果を調べたところ、いずれのファージも約10PFU/ml以上で増殖抑制効果を示した。
【0077】
〔実施例2〕 エドワジエラ症を発症したヒラメに対するファージ治療(経口法)
以下に、エドワジエラ症を発症したヒラメに対するファージ治療の実施例を説明する。まず、ヒラメにエドワジエラ・タルダを感染させた。
【0078】
感染方法は、ヒラメ病魚由来エドワジエラ・タルダPE210を用い、その培養菌(3.0×1010CFU/ml)を平均体重62gのヒラメの肛門から直腸内に0.1ml注入した。ヒラメ1尾当たりの菌量は3.0×10CFUであった。
【0079】
次に、上記の方法によりエドワジエラ・タルダを感染させたヒラメに、それぞれ約10PFU/mlに調整したPEtF HW−8、PEtF KF−1、PEtF IW−1、PEtF JF−1、PEtF GW−1の5株のPEtFファージを等量ずつ混合したPEtFファージ混合液を、市販の配合飼料(日清飼料、おとひめ2号を粉末にしたもの)と混合し、このファージ飼料を強制的に経口摂取させた(経口投与)。ファージ投与量は、ヒラメ1尾当たり平均4.2×10PFUとなった(ファージ力価は2重寒天法で測定)。
【0080】
経口投与後、水温25℃で、20日間流水飼育した。ファージ投与区、対照区(ファージ投与なし)ともに40尾(20尾×2水槽)のヒラメを供試した。
【0081】
図2に、20日間の飼育期間中の累積死亡率を示す。図2中には、PEtFファージを経口摂取させたファージ区40尾、およびPEtFファージを摂取させなかった対照区40尾の20日間の飼育期間中の生存率を縦軸に、ファージ投与からの日数を横軸に示す。図2から、20日後における、ファージ区の生存率は51.3%(すなわち、死亡率は48.7%)、対照区の生存率は29.2%(すなわち、死亡率は71.8%)という結果が得られた。
【0082】
以上から、PEtFファージを経口摂取させたことによって、対照区に比べてエドワジエラ・タルダに感染したヒラメの生存率(生残率)の低下を有意に抑制させることができたことが示された。
【0083】
また、各区の生残ヒラメの腎臓からトリプトソイ寒天培地を用いて画線塗抹法によりエドワジエラ・タルダPE210の再分離を行った結果、上記対照区からの分離率が81.8%であったのに対して、上記ファージ区からの分離率は45.0%であった。これにより、対照区と比較して、ファージ区のヒラメではその腎臓中のエドワジエラ・タルダPE210が減少していることが示された。
【0084】
以上のことから、PEtFファージを経口投与が、エドワジエラ症の治療に有効であることが示された。
【0085】
〔実施例3〕 経口法により投与されたヒラメの各組織内のファージ濃度
本実施例では、経口法により投与されたヒラメの各組織内におけるファージ濃度を経時的に測定した。
【0086】
PEtF IW−1ファージ液(約1011PFU/ml)を、市販の配合飼料(日清飼料、おとひめ2号を粉末にしたもの)と混合し、このファージ飼料を平均体重62gのヒラメに強制的に経口摂取させた(経口投与)。ファージ投与量は、ヒラメ1尾当たり平均1010PFUとなった(ファージ力価は2重寒天法で測定)。
【0087】
このようにしてファージを投与したヒラメの肝臓、脾臓、腎臓、脳におけるファージ量を2重寒天法により経時的に定量した。定量結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
表3に示すように、肝臓、脾臓、腎臓、脳には、ファージ投与後1時間以内にファージが確認できた。また、ファージ投与後6時間後には、各組織におけるファージ濃度が10〜10PFU/組織(g)まで上昇していた。そして、ファージ感染後24時間後には、胃と腸管を除く各組織中からファージが消失していることが示された。
【0090】
このことから、経口的に投与されたファージは速やかに各組織に侵入し、数時間は安定して存在し得ることが確かめられた。また、24時間後には各組織から消失したことは、ファージが体内で長時間の残存することによる生体への悪影響を考慮する必要がないことを意味する。
【0091】
〔実施例4〕 ストレプトコッカス・イニアエを特異的に溶菌するファージの取得方法
まず、ファージを得るためのストレプトコッカス・イニアエの取得方法について説明する。
【0092】
愛媛および香川県下で採取した、レンサ球菌症を発症したヒラメから、ストレプトコッカス・イニアエ合計22株を分離した。なお、比較対照として、ブリおよびニジマス由来のストレプトコッカス・イニアエ株をそれぞれ1株ずつ供試した。この24株それぞれについて、分離された魚種、その魚の採取された場所、採取年を表4に示している。
【0093】
【表4】

【0094】
上記のストレプトコッカス・イニアエを指示細菌として、自然環境から、2重寒天法を用いてストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染して溶菌するファージを採取した。
【0095】
次に、得られたファージ(以下、PSiFファージと呼ぶ)の形態および核酸型を調べた。これらの株は全て核酸として2本鎖DNA(dsDNA)を有し、ウイルス粒子の形態的特徴を基にした分類における、ミオウィルス科(Myoviridae)、シホウィルス科(Siphoviridae)のいずれかに属していた(図1参照)。
【0096】
また、得られたPSiFファージは、その感染性から、PSiJ1006、PSiJ1104、PSiJ1208、PSiJ1220の4株に分類された。それぞれの株の属する科と、頭部サイズ、尾部サイズを表5に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
なお、得られたPSiFファージはいずれも、ストレプトコッカス・イニアエ以外の細菌には感染しないことがわかった。
【0099】
次に、このようにして得られた4株のファージの感染性を、上述した24株のストレプトコッカス・イニアエについて調べた。
【0100】
上述した2重寒天法により、PSiJ1006、PSiJ1104、PSiJ1208、PSiJ1220の4株のファージが、それぞれのストレプトコッカス・イニアエに感染するか否かを調べた。その結果が表4に示されている。
【0101】
これによれば、ヒラメ由来のどのストレプトコッカス・イニアエもPSiJ1006、PSiJ1104、PSiJ1208、PSiJ1220のいずれのファージにも感受性を示した。なお、比較に用いたブリおよびニジマス由来の株も少なくともPSiJ1006とPSiJ1104に感受性を示した。
【0102】
〔実施例5〕 ヒラメのレンサ球菌症に対するファージ治療(注射法)
以下に、ヒラメのレンサ球菌症に対するファージ治療の実施例を説明する。まず、ヒラメにストレプトコッカス・イニアエを感染させた。
【0103】
感染方法は、ヒラメ病魚由来ストレプトコッカス・イニアエPSi402を用い、その培養菌液(2.6×10CFU/ml)を平均体重42gのヒラメの腹腔内に0.1ml注射した。ヒラメ1尾当たりの接種菌量は2.6×10CFUであった。
【0104】
このようにしてストレプトコッカス・イニアエを注射感染させたヒラメに、菌接種後1時間して、それぞれ約10PFU/mlに調整したPSiJ1006、PSiJ1104、PSiJ1208、PSiJ1220の各PSiFファージを等量ずつ混合したPSiFファージ混合液(5.5×10PFU/ml)を、注射器を用いて腹腔内に0.1ml注入した(ヒラメ1尾当たりのファージ接種量は5.5×10PFUとなる)。
【0105】
ファージ注射後、水温25℃で、2週間流水飼育した。ファージ接種区、対照区(ファージ接種なし)ともに40尾(20尾×2水槽)のヒラメを供試した。
【0106】
図3に、2週間の飼育期間中の累積死亡率を示す。図3中には、PSiFファージを接種したファージ区(20尾×2)、およびPSiFファージを接種しなかった対照区(20尾×2)の2週間の飼育期間中の生存率を縦軸に、ファージ接種からの日数を横軸に示す。図3から、2週間後における、ファージ区の生存率は80.0%(すなわち、死亡率は20.0%)、対照区の生存率は0.0%(すなわち、死亡率は100.0%)という結果が得られた。
【0107】
さらに、同様の実施例では、ストレプトコッカス・イニアエPSi402を接種した後12時間後、および24時間後に、上記したPSiFファージ混合液を、注射器を用いて腹腔内にそれぞれ0.1ml注入し、ヒラメ1尾当たり各々6.7×10PFUのPSiFファージを接種させた。
【0108】
ファージ接種後、水温25℃で、2週間流水飼育した。ファージ接種区、対照区(ファージ接種なし)ともに40尾(20尾×2水槽)のヒラメを供試した。
【0109】
図4に、2週間の飼育期間中の累積死亡率を示す。図4中には、PSiFファージを接種したファージ区(20尾×2)、およびPSiFファージを接種しなかった対照区(20尾×2)の2週間の飼育期間中の生存率(生残率)を縦軸に、ファージ接種からの日数を横軸に示す。図4から、2週間後における、菌接種12時間後にファージを接種した区の生存率は45.0%(すなわち、死亡率は55.0%)、菌接種24時間後にファージを接種した区の生存率は33.0%(すなわち、死亡率は67.0%)、ファージを接種しなかった対照区の生存率は5.0%(すなわち、死亡率は95.0%)という結果が得られた。
【0110】
以上から、PSiFファージを注射したことによって、対照区に比べてストレプトコッカス・イニアエ感染によるヒラメの生存率の低下を有意に抑制させることができたことが示された。
【0111】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上のように、本発明では、エドワジエラ・タルダに特異的に感染するバクテリオファージを用いた、エドワジエラ症の予防および治療のための薬剤、およびストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染するバクテリオファージを用いた、レンサ球菌症の予防および治療のための薬剤を提供することができるため、本発明は、エドワジエラ症および/またはレンサ球菌症により深刻な被害がでている養殖場などにおいて、環境への負担がなく、治療効果の高い、各感染症の治療用薬剤として広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】バクテリオファージの代表的形態を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施例である、エドワジエラ・タルダ(エドワジエラ症の原因菌)を感染させたヒラメに対する、PEtFファージの治療効果(経口投与)を、累積死亡率に基づいて示したグラフである。
【図3】本発明の一実施例である、ストレプトコッカス・イニアエ(レンサ球菌症の原因菌)を感染させたヒラメに対する、腹腔内注射法によるPSiFファージの治療効果を、累積死亡率に基づいて示したグラフである。ストレプトコッカス・イニアエPSi402を接種した後1時間後に、PSiFファージを接種した。
【図4】本発明の一実施例である、図3と同じくストレプトコッカス・イニアエを感染させたヒラメに対するPSiFファージの治療効果(腹腔内注射法)を、累積死亡率に基づいて示したグラフである。ストレプトコッカス・イニアエPSi402を接種した後、12時間後または24時間後に、PSiFファージを接種した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エドワジエラ・タルダに特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含むことを特徴とするエドワジエラ症治療用の薬剤。
【請求項2】
ストレプトコッカス・イニアエに特異的に感染して溶菌させるバクテリオファージを含むことを特徴とするレンサ球菌症治療用の薬剤。
【請求項3】
上記バクテリオファージは、上記エドワジエラ・タルダを指示細菌として、集殖法または2重寒天法により得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
上記バクテリオファージは、上記ストレプトコッカス・イニアエを指示細菌として、集殖法または2重寒天法により得られたものであることを特徴とする請求項2に記載の薬剤。
【請求項5】
上記バクテリオファージがミオウィルス科、シホウィルス科、またはポドウィルス科に分類されるものであることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の薬剤。
【請求項6】
上記バクテリオファージが感染特性の異なる複数種類の株を含んでいることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の薬剤。
【請求項7】
薬剤投与対象動物に注射投与できるように構成されていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
薬剤投与対象動物に経口投与できるように構成されていることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の薬剤。
【請求項9】
薬剤投与対象動物の体表面から接触投与できるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
薬剤投与対象動物が、ヒラメ科の魚類であることを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の薬剤。
【請求項11】
上記バクテリオファージは、動物の循環器系を循環したものであることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−84492(P2007−84492A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276501(P2005−276501)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】