説明

バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株から生産される抗菌物質マクロラクチンA

本発明は、新規のバチルス菌株であるバチルスポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2)(KCCM10769P)によって生産されるマクロラクチンAの抗菌物質としての用途に関する。バチルスポリファーメンチカスKJS−2によって生産される本発明のマクロラクチンAは、各種微生物と真菌に対して広い抗菌スペクトルを示しており、特に、多剤耐性菌であるバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MASA)の抑制に卓越した効果がある。よって、バチルスポリファーメンチカスKJS−2によって生産される抗菌物質マクロラクチンAは、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を抑制する優れた抗菌製剤を提供することができるので、医薬産業上非常に有用な発明である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2)(KCCM10769P)から生産される抗菌性物質マクロラクチンAおよびその用途に係り、特に、例えばバンコマイシン耐性腸球菌 (Vancomycin-resistant enterococci、VRE)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌などの有害菌に対して抗菌活性を有するマクロラクチンAおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の増加は、人類にとって不幸なことであり、例えば新しい抗生剤の開発のために莫大な資金がかかるなど、多くの課題を生んでいる。1989年に病院内感染の0.3%がバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)によるものであり、1993年には7.9%に増加したという報告がある。多剤耐性VREによる菌血症に関連した致死率は70%水準に達しており、VREの耐性遺伝子は他のグラム陽性球菌に対する転移を起してバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(Vancomycin-resistant Staphylococcus Aureus、VRSA)の出現を懸念させる。最近、国内では抗生剤テイコプラニンを耐性菌に使用し始めたが、既にテイコプラニンに対する耐性菌の出現が報告されたことがある。
【0003】
そこで、本研究者等は、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して抗菌活性を有し、その他の大腸菌(Escherichia coli, E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis 168)、マイクロコッカスルテウス(Micrococcus luteus)、ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)およびストレプトコッカスパラウベリス(Streptococcus parauberis)に抗菌活性を示すマクロラクチンA(macrolactin A)を生産する新規菌株としてのバチルスポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2)菌株を分離して種菌登録を行った(種菌登録番号KCCM10769P)。また、活性成分として分離してその構造を解明し、マクロラクチンAであることを明らかにし、マクロラクチンAの効能検索によって効果を導出した。
【0004】
マクロラクチンAおよびマクロラクチンAの生産菌株に関する従来の研究内容は下記に表記した。
【0005】
マクロラクチンAは、1989年に深海海洋バクテリアからWilliam Fenicalによって最初に分離された。この研究報告によれば、マクロラクチンAは選択的な抗菌活性およびB16−F10 murine melanoma cancerに対して細胞毒性を示し、単純ヘルペス(Herpes simplex)とHIVに対して抗ウイルス活性を有すると明らかにしたことがある。
【0006】
1997年、ICK−DONG YOOは、アクチノマデュラ属(Actinomadura sp.)からマクロラクチンAを分離し、分離されたマクロラクチンAを用いて、グルタミン酸塩により誘発された神経細胞の保護に関する研究を行った。
【0007】
2001年、Hiroshi Sanoは、バチルス属(Bacillus sp.)PP19−H3菌株からマクロラクチンAを分離し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)IFO12732と枯草菌(Bacillus subtilis)IFO3134菌株に対する抗菌活性について研究を行った。
【0008】
2003年、Sung−Won Choiは、ストレプトマイセス属(Streptomyces sp.)YB−401菌株からマイクロラクチンAを生産し、マクロラクチンAがコレステロール生合成抑制効果を示すと報告した。
【0009】
2004年、Keun−Hyung Parkは、バチルスアミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)CHO104菌株からマクロラクチンAを分離し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)KCTC1928、大腸菌(Escherichia coli)KCTC2593、およびボトリチスシネレア(Botrytis cinerea)について抗菌活性に関する研究を行った。2005年、Joo−Won Suhは、Bacillus sp. sunhua菌株からマクロラクチンAを分離し、生産されたマクロラクチンAを用いてジャガイモそうか病菌の抑制に関する研究を行った。
【0010】
2006年、Gabriella Molinariは、枯草菌(Bacillus subtilis)DSM16696菌株からマクロラクチンAおよびマロニル−マクロラクチンA(malonyl-macrolactin A、MMA)を分離し、各該当物質をバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、およびセパシア菌(Burkholderia cepacia)に対する抗菌実験を行った。この研究では、マロニル−マクロラクチンAは前記実験菌に対して優れた抗菌活性を示し、マクロラクチンAはMRSA菌に対してのみ抗菌活性を示すものと明らかになった。これらの結果はいろいろの優秀な意義を持っているが、各菌株から生産される精製物の含量は最大1mg/Lを超えず、優れた効能を有するマロニル−マクロラクチンA(MMA)の生産量は最大1.2mg/Lを超えない結果を示しており、産業的に利用するには制限がある。また、マクロラクチンの光学異性体に関する研究はない実情であり、生産量が少なくて解明することが難しい。向後、これに関する研究が必要であると見られる。本研究の結果として得られたマクロラクチンも、光学異性体としては研究が微々である。
【0011】
構造上では、4つの不斉炭素が存在して16個の光学異性体が理論的に存在する。よって、同じマクロラクチンの構造であっても、光学的に異なる場合、薬効の特性が変わるのは医薬品において一般的である。すなわち、各菌株から生産される物質の効果が光学異性体の種類によって異なうるが、同じ構造であっても光学的特性によって異なるというのは科学的に証明されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して抗菌活性を有し、その他の大腸菌(Escherichia coli, E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis 168)、マイクロコッカスルテウス(Micrococcus luteus)、ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)およびストレプトコッカスパラウベリス(Streptococcus parauberis)に効能を示す物質としてのマクロラクチンA(macrolactin A)を生産し、本物質を効能検査によって抗生剤として開発しようとした。
【0013】
本物質は、分子量402.24のマクロライド系抗生物質であって、二重結合およびヒドロキシル基(−OH)が多数存在する一つの環状構造を有する。この環状構造は炭素と酸素からなっており、24環を成している。本物質の分子式はC2434である。このため、本発明は、新規の分離菌株であるバチルスポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2)(種菌登録番号KCCM10769P)菌株を用いて、特にバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を抑制する用途を提供する目的で提案する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、バチルスポリファーメンチカスKJS−2(種菌登録番号KCCM10769P)菌株を用いてバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して優れた抑制活性を示すマクロラクチンAを提供する。
上記他の目的を達成するために、本発明は、バチルスポリファーメンチカスKJS−2から生産されるもので、大腸菌(Escherichia coli, E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis 168)、マイクロコッカスルテウス(Micrococcus luteus)、ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)およびストレプトコッカスパラウベリス(Streptococcus parauberis)に対して優れた抗菌活性を示す抗生物質としてのマクロラクチンA、および前記菌株から生産されるマクロラクチン誘導体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって提供される新規の菌株であるバチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株から生産されるマクロラクチンAは、各種微生物と真菌に対して広い抗菌スペクトルを示している。
【0016】
特に、多剤耐性菌である11種のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)および13種のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して90%以上抑制することが可能な最小抑制濃度(MIC->90-)の平均値がそれぞれ31.25μg/mLと約19.83μg/mLであって、現在、多剤耐性菌に感染した患者へ使用されるテイコプラニンより4〜5.3倍程度優れた活性を示すため、抗菌製剤を開発するのには十分な価値があることが分かる。
【0017】
よって、本発明に係るバチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株から生産された抗菌物質としてのマクロラクチンAおよびマクロラクチンAの類似体も、病原性菌の抑制に優れた微生物製剤および抗菌製剤を提供することができるので、医薬産業上非常に有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に使用した菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2を発酵し、生成された発酵液に対して紫外線検出器(OD600nm)で時間による細胞数を測定したことを示す。
【図2】本発明に使用した菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2を発酵し、生成された発酵液を様々な時点に回収して抽出した後、HPLCで分析したクロマトグラムを示す。
【図3】本発明に使用した菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2を2.5日間発酵し、生成された発酵液を抽出した後、LC/Massで分析したデータを示す。
【図4】本発明に使用した菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2を2.5日間発酵し、生成された発酵液を抽出した後、HPLCによって各ピークを分画し、生成された分画物を用いて生物学的評価試験を行った結果を示す。
【図5】図4で優れた抗菌活性を示す第1番の分画を精製して純度と分子量を測定したLC/Mass資料である。
【図6】バチルスポリファーメンチカスKJS−2を用いて、発酵により生成された物質の抽出液における、図4に提示された第1番の分画を分取用LCで分析した結果を示す。
【図7】図6の分取用LCで分析した第1番の分画を精製して純度と分子量を測定したLC/Mass資料を示す。
【図8】図7の精製された物質をBrucker NMR 500MHzで分析したH−NMRスペクトルを示す。
【図9】図7の精製された物質をBrucker NMR 500MHzで分析した13C−NMRスペクトルを示す。
【図10】図7の精製された物質をBrucker NMR 500MHzで分析したDEPT−90 NMRスペクトルを示す。
【図11】図7の精製された物質をBrucker NMR 500MHzで分析したDEPT−135 NMRスペクトルを示す。
【図12】図7の精製された物質をBrucker NMR 500MHzで分析したHOMO−COZY NMRスペクトルを示す。
【図13】図7の精製された物質をBrucker NMR 500MHzで分析したHMQC NMRスペクトルを示す。
【図14】図7の精製された物質をBrucker NMR 500MHzで分析したHMBC NMRスペクトルを示す。
【図15】図7の精製された物質をHR−Massで分析したデータを示す。
【図16】マイクロラクチンAの構造式を示す。
【図17】本発明に使用した菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2を2.5日間発酵し、生成された発酵液を抽出した後、生成された抽出液をLC/Massで分析した資料を示す。
【図18】本発明に使用した菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2を4.2日間発酵し、生成された発酵液を抽出した後、生成された抽出液をLC/Massで分析した資料を示す。
【図19】50%アセトン溶媒とメタノール溶媒に対するマクロラクチンAの溶解性を間接的に測定したHPLC資料を示す。(A)は1mgのマクロラクチンAを1mLの50%アセトン溶液に溶かした後、10倍希釈して1μLをHPLC分析したクロマトグラム、(B)は1mgのマイクロラクチンAを1mLのメタノールに溶かした後、10倍希釈して1μLをHPLC分析したクロマトグラム。
【図20】酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)、マイクロコッカスルテウス(Micrococcus luteus)およびストレプトコッカスパラウベリス(Streptococcus parauberis)菌株に対する精製されたマクロラクチンA(macrolactin A)の抗菌性実験を示す。
【図21】VRE5菌株に対する濃度勾配によるマクロラクチンAの抗菌性実験を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1933年、日本でTerakado博士チームによって分離されたバチルスポリフマーメンチカスn.sp(Bacillus polyfermenticus n.sp)を対象として抗菌実験を行う過程中に、他のバチルス菌株とは異なる形態を有する菌株を選別した。前記菌株を顕微鏡で観察して桿菌の特徴および胞子形成を観察し、16rRNAのDNA塩基配列を同定して系統図を分析した結果、新規のバチルス属菌株であることが判明された。
前記バチルス菌株をバチルスポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2)と命名し、これを2006年8月16日にKCCM(Korea Culture Center of Microorganisms)に寄託し、受託番号KCCM10769Pを付与された。
バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株によって生産される抗菌活性物質を分離するために、前記バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株を3LのTSB培地(TSB寒天;トリプトン(Tryptone):17g、ソイトン(Soytone):3g、デキストロース:2.5g、NaCl:5g、リン酸二カリウム:2.5g、pH6.8〜7.2)で培養した後、同一の培地に接種して30℃、200rpm、1vvm、pH6.8で2.5日間発酵した。こうして得た培養液を酢酸エチルで有機溶媒抽出し、LC/Massを用いて分析した。LC/Massの分析結果および抗生剤効能検査と共に、抗菌活性に優れた分画を探し、最終的に分取用逆相HPLC(preparative silicagel RP-18)で当該分画を精製した。
また、最終精製物質の構造を分析するために、1次NMRと2次NMR(H−NMR、13C−NMR、90−DEPT、135−DEPT、HMQC、HMBC)およびHRMS/FABを行った結果、本発明の菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2から生産される抗生物質はマクロラクチンAであることが確認された。
前記バチルスポリファーメンチカスKJS−2から生産されるマクロラクチンAが臨床で分離された11種のバンコマイシン耐性腸球菌と13種のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対して90%以上抑制することが可能な最小抑制濃度(MIC、Minimun Inhibitory Concentration)の実験結果、31.25μg/mLと19.83μg/mLであって、耐性菌に使用する抗生剤テイコプラニンより約4〜5.3倍程度優れた抗菌活性を示した。この他にも、マイクロラクチンAは、大腸菌(Escherichia coli, E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis 168)、マイクロコッカスルテウス(Micrococcus luteus)、ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)およびストレプトコッカスパラウベリス(Streptococcus parauberis)に対して優れた抗菌活性を示した。また、バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株から生産されるマクロラクチンA(macrolactin A)は、熱に対する安定性に優れるうえ、弱酸性および中性状態で非常に安定であった。
バチルスポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2)から生産される抗菌物質としてのマクロラクチンAの他にも、前記物質の誘導体も広い抗菌スペクトルを示した。
以下、本発明の構成を下記実験例および実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の権利範囲は下記実施例に限定されない。
【実施例1】
【0020】
バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株の分離同定および抗生物質の生産
[第1段階:バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株の分離同定]
1933年に日本でTerakado博士チームによって分離されたバチルスポリファーメンチカスn.spを対象として抗菌実験を行う過程中に、他のバチルス菌株とは異なる形態の菌株を選別した。この菌株を顕微鏡で観察して桿菌の特徴および胞子形成を観察し、16s rRNAのDNA塩基配列を同定して系統図を分析した結果、新規のバチルス属菌株であることが判明された。本菌株の16s RNAの塩基配列は既存のマクロラクチンAを生産するバチルス属PP19−H3菌株の16s RNAの塩基配列と99%の相同性を示して最も類似であり、これを本発明者等が証明した(韓国特許出願10−2006096935:2006年10月2日)。
【0021】
バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株自体の抗菌性
【0022】
【表1】

+++:非常に強い抑制作用
++:強い抑制作用
+:通常の抑制作用
表1において前記菌株自体のみでも優れた抗菌活性を示す本菌株をバチルスポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2)と命名し、これを2006年8月16日にKCCM(Korea Culture Center of Microorganisms)に寄託し、受託番号KCCM10769Pを付与された。
【0023】
[第2段階:分析装備および条件]
本発明の菌株から生産される抗生物質を分析するために、下記に提示された装備および条件を用いた。HPLC分析では、agilent 1100シリーズとShimadzu HPLCを用いた。カラムはZorbax SB−C18(カラムサイズ4.6*250mm、粒子サイズ5μm)を使用した。溶媒はアセトニトリルと水に0.1%蟻酸を入れて使用した。
HPLC分析は2つの条件で実施した。その一つは20分間アセトニトリル0%〜100%でグラジエント(gradient)溶媒分析方法によって実施し、もう一つはアセトニトリル40%でアイソクラチック(isocratic)溶媒分析方法によって実施した。HPLC分析において、溶媒流量は、Agilent 1100シリーズを用いた場合には1mL/minとし、Shimadzu HPLCを用いた場合には1.5mL/minとした。HPLC分析では、紫外線検出器を使用し、228、262、280、300および350nmの波長で分析を行った。LC/Mass分析では、agilent 100MSD装備を使用し、LC条件は前記で提示されたHPLC条件と同様であり、Mass条件はAP−ESIモードであり、乾燥ガスの流量は13L/min、蒸気圧は50psi、乾燥ガスの温度は350℃であり、毛細管電圧は陽イオンモードで4000V、陰イオンモードでは3500Vであり、質量範囲は100〜1000m/z、フラグメント電圧は150V、流量は1mL/minであった。分取用LC分析では、アジレント分取用LC(Agilent preparative LC)を使用し、カラムは分取用カラムとしてのGemini−C18(カラムサイズ10mm*250mm、粒子サイズ10μm)であり、溶媒はアセトニトリルと水を使用し、流量は5mL/minであった。分取用LC分析においても、紫外線検出器を使用し、228、262、280、300および350nmの波長で分析を行った。
【0024】
[第3段階:バチルスポリファーメンチカスKJS−2の代謝物質分析]
本発明の菌株から抗生物質を生産するために、バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株を、3LのTSB培地(TSB寒天;トリプトン(Tryptone)17g、ソイトン(Soytone)3g、デキストロース2.5g、NaCl5g、リン酸二カリウム2.5g、pH6.8〜7.2)に4%種培養して4.5日間30℃、200rpm、1vvmおよびpH6.8条件で発酵した。12時間毎に3mLの培養液を取ってOD600nmで紫外線検出器を用いて、発酵された菌の量を測定したうえ(図1参照)、培養液50mLを酢酸エチルで抽出し、実施例1で[第2段階]に提示された条件でLC/Massを用いて、本発明の菌株から生産される代謝物質を分析した。本発明の菌株から生産される代謝物質は、図2のクロマトグラムに提示されたように発酵時間によって異なる様相を示した。図3は2.5日間培養された培養液をLC/Massで分析した結果を示す。滞留時間15.376分で紫外線分析の際に、262nmの最大吸収波長、425.8の[M+Na]+、および402.8の分子量を有する物質と確認された。
【実施例2】
【0025】
バチルスポリファーメンチカスKJS−2の培養液からの抗菌活性物質の分離
バチルスポリファーメンチカスKJS−2から生産される抗菌物質を分離するために、前記菌株を3LのTSB培地(TSB寒天;トリプトン17g、ソイトン3g、デキストロース2.5g、NaCl5g、リン酸二カリウム2.5g、pH6.8〜7.2)に4%種培養して2.5日間30℃、200rpm、1vvmおよびpH6.8条件で発酵した。生成された培養液を酢酸エチルで抽出してHPLCで実施例1の[第2段階]溶媒条件で分析した。それぞれのピークは図4に提示されたように分画された。それぞれの分画は大腸菌(Echerichia coli)、バチルスサブチルス168(Bacillus subtilis 168)およびバンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-resistant Enterococci)を対象として抗菌実験を行った。その結果、大腸菌(Echerichia coli)に対して第1番、第4番、第5番および第7番の分画(図4参照)で抗菌活性を示し、バチルスサブチルス168に対しては第1番、第2番、第4番、第5番、第6番、第7番および第9番の分画(図4参照)で抗菌活性を示した。この他にも、バンコマイシン耐性腸球菌に対しては第1番と第2番の分画で共通的な抗菌活性を示した(図4参照)。ところが、本発明の菌株では第1番の分画が第2番の分画より著しく高い生産量を有するうえ、前記3つの実験菌株に対して共通に抗菌活性を示す第1番の分画を精製して実験に利用した(図4参照)。図5は図4に提示された第1番の分画の実施例1の[第2段階]に提示されたLC/Mass条件を用いて分析した資料であって、94.63%の純度に精製された。

【実施例3】
【0026】
バンコマイシン耐性腸球菌に対して優れた抑制活性を示す分画部分の構造分析
大腸菌、バチルスサブチルス168、およびバンコマイシン耐性腸球菌を阻害する最終精製物質の構造を分析するために、実施例1の[第2段階]に提示された分取用LC条件で多量分画した(図6参照)。分画物は実施例1の[第2段階]のLC/Mass条件で分析し、実施例2における第1番の分画を92.72%の純度に精製した(図7参照)。分取用LCを用いて、30mgの精製された物質を700μLのDMSO−d6溶媒に溶かして1次NMRと2次NMR(H−NMR、13C−NMR、90−DEPT、135−DEPT、H−H COZY、HMQC、HMBC)分析を行った。分析結果は表2、図8、図9、図10、図11、図12、図13および図14にNMR資料を記載した。NMR分析結果、マクロラクチンAと判明された(図16参照)。また、最終精製された物質はHRMS/FABを用いて[M+Na]425.23m/zおよび分子量402.23のマクロラクチンAと検証された。精密質量分析のために使用された機器はHRMS(FAB)JMS−700であった。図15ではHRMS/FABで分析された精密質量分析資料を表示した。前記分析結果をまとめた結果、実施例2に提示された抗菌活性に優れた第1番の分画は分子式C2434および分子量402.23のマクロラクチンA(図16参照)と一致した。
【0027】
バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株から生産された抗生物質マクロラクチンAのNMRデータ
【0028】
【表2】

【実施例4】
【0029】
バチルスポリファーメンチカスKJS−2の培養液から生成された代謝物質のLC/Mass分析
実施例2でバチルスポリファーメンチカスKJS−2を2.5日と4.2日間培養した培養液50mLを酢酸エチルで抽出し、LC/Massで分析した。バチルスポリファーメンチカスKJS−2から生産される全体代謝物質の紫外線スペクトル、分子量、およびバチルス属から生産される代謝物質に関する既存の文献を用いて、下記表3および表4(図17および図18参照)のような結果を得た。下記表3と表4における予測物質は、分子量とマクロラクチン類似体の特徴的な紫外線波長に基づいて類推したものであり、向後、NMRによる構造分析と抗菌性試験の研究資料が追加されなければならない。
【0030】
バチルスポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2)を2.5
日間培養した後で生成された抽出液のLC/Mass分析
【0031】
【表3】

【0032】
バチルスポリファーメンチカスKJS−2を4.2日間培養した後で生成された抽出液のLC/Mass分析
【0033】
【表4】

【実施例5】
【0034】
バンコマイシン耐性腸球菌およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対するMIC(最小抑制濃度)測定実験
本発明の菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2によって生産されるマクロラクチンAのバンコマイシン耐性腸球菌およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を調べるために、前記2菌株のMIC(最小抑制濃度)を測定した。実験菌株は、臨床で分離された11種のバンコマイシン耐性腸球菌と13種のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌である。それぞれの実験菌株は、MH II培地で200rpm、37℃で6時間培養した後、紫外線検出器を用いてOD600nmで培養液の吸光度を測定し、1mLの培養液をMH II固形培地に塗抹して37℃で16時間培養する。16時間培養された固形培地に生成されたコロニーの数を数える。それぞれの実験菌株はMH II培地で200rpm、37℃で6時間培養した後、紫外線検出器を用いてOD-600nmで培養液の吸光度を測定する。前記で測定されたコロニーの数と6時間培養された培養液の吸光度を比例式で換算して細胞数を計算する。各細菌培養液を0.25*10cfu/mLに希釈する。マクロラクチンAはDMSO溶媒に溶かし、アンピシリン、テイコプラニン、バンコマイシンおよびメチシリンは水に溶かして使用する。マクロラクチンAのMICを測定するために、500μLのエッペンドルフチューブに、下記表5に提示されたものを添加し、4つの抗生剤のMICを測定するために、下記表6に提示されたものを添加した後、37℃、200rpmで16時間培養し、その後、Fluorescence Multi−Detection Reader装備を用いて紫外線/可視光線検出器によって600nmで吸光度を測定することにより、MICの結果を得ることができた。その結果、表7と表8に示したように、11個のバンコマイシン耐性腸球菌に対するマクロラクチンAのMIC>90は平均31.25μg/mLであってテイコプラニンより4倍優れるし、13個のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対するマクロラクチンAのMIC>90は平均19.83μg/mLであってテイコプラニンより約5.3倍優れた。
【0035】
MIC実験の対照実験およびマクロラクチンAの濃度勾配条件
【0036】
【表5】

【0037】
・マクロラクチンAはDMSO内で可溶化されている。
・細胞濃度は0.25×10cfu/ml
【0038】
MIC実験の対照実験とアンピシリン、テイコプラニン、バンコマイシンおよびメチシリンの濃度勾配条件
【0039】
【表6】

【0040】
・アンピシリン、テイコプラニン、 バンコマイシン、メチシリンは水中で可溶化されている。
・細胞濃度は0.25×10cfu/ml
【0041】
11種のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対するマクロラクチンAおよびその他の抗生剤のMIC>90結果
【0042】
【表7】

【0043】
13種のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対するマクロラクチンAおよびその他の抗生剤のMIC>90結果
【0044】
【表8】

【実施例6】
【0045】
マクロラクチンAの生物学的評価実験
本発明の菌株バチルスポリファーメンチカスKJS−2によって生産されるマイクロラクチンAの微生物に対する抑制力を測定するために、生物学的評価を行った。実験菌株は、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)、マイクロコッカスルテウス(Micrococcus luteus)、およびストレプトコッカスパラウベリス(Streptococcus parauberis)菌株である。ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)以外のそれぞれの実験菌株はTSB培地に接種して37℃、200rpmで16時間培養した後、0.5mLの培養液(約2.8*10cfu/mL)をTSB固形培地に塗抹する。ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)は、TSB培地に接種し、最適の生育条件、すなわち25℃、200rpmで16時間培養した後、前記に提示された量で固形培地に塗抹する。生物学的評価実験のために、マクロラクチンAを溶かすことができながら前記実験菌株に対して毒性を現さない溶媒が必要であった。マクロラクチンAは、メタノールによく溶けるが、メタノール自体のみでも前記実験菌株に対して毒性が現れるため、生物学的評価実験に使用される溶媒としては適していない。ところが、50%アセトン溶媒は前記3つの実験菌株に対して毒性が現れなかった(図20参照)。
【0046】
図19の(A)は1mgのマクロラクチンAを1mLの50%アセトン溶媒に溶かした後、10倍希釈して1μLをHPLC分析したクロマトグラムであり、図19の(B)は1mgのマクロラクチンAを1mLのメタノールに溶かした後、10倍希釈して1μLをHPLC分析したクロマトグラムである。
【0047】
すなわち、実施例2の[第2段階]のHPLC条件で分析したクロマトグラムである。
【0048】
前記実験結果をまとめると、50%アセトン溶媒は前記3つの実験菌株に対して毒性が現れておらず(図20)、マクロラクチンAの溶解性もメタノールとほぼ同様なので(図19)、生物学的評価実験に50%アセトン溶媒が使用された。50%アセトン溶媒に溶けているマクロラクチンA溶液2.5mg/mLを10μL点滴して試験した結果、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)、マイクロコッカスルテウス(Micrococcus luteus)およびストレプトコッカスパラウベリス(Streptococcus parauberis)菌株に対して優れた抑制活性を示した(図20参照)。この他にも、バンコマイシン耐性腸球菌第5番(実施例5に提示されたMIC実験中のVRE5)が塗抹されたTSB固形培地に、マクロラクチンA(濃度1.25、2.5、5、10および20mg/mL in 50%アセトン)それぞれ10μLと、対照実験としての50%アセトン溶媒10μLおよびバンコマイシン(5mg/mL in HO)10μLをそれぞれ点滴した。その結果、前記提示された体積の50%アセトン溶媒および5mg/mLのバンコマイシン溶液では実験菌であるバンコマイシン耐性腸球菌第5番(VRE5)は抑制されなかったが、1.25mg/mL濃度以上のマクロラクチン溶液ではバンコマイシン耐性腸球菌第5番(VRE5)は抑制された(図21参照)。
【実施例7】
【0049】
液状培地におけるバンコマイシン耐性腸球菌抑制効果
バンコマイシン耐性腸球菌に対する実験では、対照群として1,000,000cfu/mLの濃度で菌株を液状培地にそれぞれ接種し、試験群としては菌株1,000,000cfu/mLとマクロラクチンAとを混合して液状培地で培養した。マクロラクチンAの使用濃度は50μg/mLであり、実験に使用した菌株は東亜大学校医科大学から分譲を受け、VRE1、VRE2、VRE3、VRE4、VRE5、VRE6、VRE7、VRE8、VRE11、VRE914およびVRE915の総11個の菌株であった。下記表に示すように、対照群(C)の場合には培養6時間後と培養4時間後との比較において著しく増加する様相を示し、試験群の場合には対照群に比べて著しい成長阻害および抑制を示した。VRE8とVRE11は、対照群に比べて相当な成長阻害があったが、残りの菌株に比べては多少敏感性が低下するものと見える。11個の検査菌株のうち9個の菌株は著しい成長抑制があった。培養後の対照群は4時間後に0.76の 平均吸光度を示し、マクロラクチンAの添加群は0.19の吸光度を示した。対照群と添加群とは級光度において著しい差異をあった。また、6時間後には、対照群の場合は急激な増加を示して1.5の吸光度を記録したが、マクロラクチンAの添加群の場合は0.26の吸光度を記録して相当の成長抑制があった。
【0050】
【表9】

【実施例8】
【0051】
比旋光度測定の結果
「Gabriella」等によるマクロラクチンAの比旋光度は[α]22(c in MeOH)=−10.7(0.68)(7-O-Malonyl Macrolactin A, a New Macrolactin Antibiotic from Bacillus subtilis Active against Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus, Vancomycin-Resistant Enterococci, and a Small-Colony Variant of Burkholderia cepacia. Antimicrob. Agents Chemother.50:1701-1709, 2006)であり、「Yoo」等によるマクロラクチンAの比旋光度は[α]18(c in MeOH)=−20(0.1)(Neuronal cell protection activity of macrolactin A produced by Actinomadura sp. J. Microbiol. Biotechnol. 7:429-434. 1997)であった。William等によるマクロラクチンAの比旋光度は[α](c in MeOH)=−9.6(1.86)(The macrolactins, a novel class of antiviral and cytotoxic macrolides from a deep-sea marine bacterium. J. Am. Chem. Soc. 111:7519-7524. 1989)であり、「Park」などによるマクロラクチンAの比旋光度は[α]25(c in MeOH)=−10.36(0.13)であった(Isolation and Characterization of Antimicrobial Substance Macrolactin A Produced from Bacillus amyloliquefaciens CHO104 Isolated from Soil. J. Microbiol. Biotechnol. 14:525-531, 2004)。
【0052】
本研究結果として、バチルスポリファーメンチカスKJS−2菌株によって生産されるマクロラクチンAは[α]22(c in MeOH)=−10(4.0)の数値を示した。これは、既存の実験結果とは差異があるものであって、結果的に光学異性体として相異することを示唆するものである。対照実験としてサッカロス(saccharose)の比旋光度を測定したところ、[α]28(c in water)=64.038(26)と正常的な実験結果を示した。よって、本研究結果物は、他の分離菌株で使用したマクロラクチンAとは異なる異性体であると結論付けられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロラクチンAを生産する新規の菌株である、バチルスポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2)菌株(受託番号KCCM10769P)。
【請求項2】
請求項1のマクロラクチンAをバンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-resistant enterococci、VRE)に対する抗菌剤として用いる方法。
【請求項3】
マクロラクチンAのMIC(最小抑制濃度)>90が15.63μg/mL〜31.25μg/mLであることを特徴とする、請求項2に記載のマクロラクチンAをバンコマイシン耐性腸球菌に対する抗菌剤として用いる方法。
【請求項4】
請求項1のマクロラクチンAをメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus、MRSA)に対する抗菌剤として用いる方法。
【請求項5】
マクロラクチンAのMIC(最小抑制濃度)>90が7.81μg/mL〜31.25μg/mLであることを特徴とする、請求項4に記載のマクロラクチンAをメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌剤として用いる方法。
【請求項6】
請求項1のマクロラクチンAを、ビブリオバルニフィカス(Vibrio vulnificus)とストレプトコッカスパラウベリス(Streptococcus parauberis)菌株を含む感染性細菌に対する抗菌剤として用いる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2010−521151(P2010−521151A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553518(P2009−553518)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/KR2008/001393
【国際公開番号】WO2008/114954
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(509250272)
【出願人】(509250261)
【Fターム(参考)】