説明

バッター用油脂組成物

【課題】 バッター液への分散性に優れ、得られたフライ食品がサクサクした食感であって、この食感が長時間保たれ、さらにフライ食品を冷凍保管あるいは冷蔵保管した際の再加熱時に電子レンジを使用しても良好なサクサク感が得られる、バッター用油脂組成物、及び該バッター用油脂組成物を含有するバッター液を提供すること。
【解決手段】 油相中にリン脂質を2〜30質量%(油相基準)及び極度硬化油脂を1〜10質量%(油相基準)含有し、且つ、該油相のSFCが、10〜40℃の全ての温度において2〜25%である、バッター用油脂組成物、及び該バッター用油脂組成物を3〜30質量%含有するバッター液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッター液に添加する際の分散性が良好で、サクサクした食感のフライ食品を得ることができるバッター用油脂組成物、及び該バッター用油脂組成物を含有してなるバッター液に関する。
【背景技術】
【0002】
コロッケ、メンチかつなどのフライ食品は、タネ(食品素材)を、澱粉類と水を主体とし、その他必要に応じ卵液や調味料などを添加したバッター液に浸漬後、パン粉を付着させ、フライ油でフライして得られるものであり、バッター液に含まれる澱粉や蛋白質、あるいは付着させたパン粉が高温のフライ用油脂でフライされることによりサクサクした食感が得られ、これが特徴となっている。
また、てんぷらは、タネ(食品素材)を、ダシ汁や水に、澱粉類を薄く溶いたバッター液に浸漬後、フライ油でフライして得られるものであり、バッター液に含まれる澱粉や蛋白質が高温のフライ用油脂でフライされることによりサクサクした食感が得られ、これが特徴となっている。
【0003】
しかし、これらのフライ食品のサクサク感は、フライ後、時間が経過するにつれ、タネ(食品素材)に含まれる水分の移行や、空気中の水分の吸湿により徐々に失われ、べたついた食感になってしまう。
また、フライ食品を冷凍保管あるいは冷蔵保管した際の再加熱時に、電子レンジを使用するとさらにべとつきの激しい食感になってしまい、当初のサクサク感は微塵もみられなくなってしまう。
そこで、これらの場合においても良好なサクサクした食感を保持するフライ食品とするため、従来より、フライ用油脂の改良や、パン粉の改良、タネ(食品素材)の改良、バッター液の改良など、様々な改良がなされてきた。
【0004】
このうち、バッター液の改良に関するものは上記のなかでも最も普遍性が高いことから各種の発明がなされており、例えば、卵類や澱粉類などの加熱セット性を有する原料を含有し約20〜50%の液状油脂と水相からなる水中油型乳化型のバッター液(例えば特許文献1参照)、10℃における固体脂含有量が15〜35%且つ15℃における固体脂含有量が0〜10%である油脂組成物を使用する方法(例えば特許文献2参照)や、温度5〜20℃での固体脂含有率が2〜10%となる流動状食用油脂と、融点が45℃以上の食用油脂とを所定割合で混合した油脂組成物を使用する方法(例えば特許文献3参照)、25℃における固体脂含量が1〜5%であり、且つ、構成脂肪酸中、炭素数20〜22の飽和脂肪酸を0.3〜4質量%含有することを特徴とするバッター用油脂組成物(例えば特許文献4参照)等が知られている。
【0005】
しかし、特許文献1のバッター液では、フライ食品がソフトな食感となってしまい、サクサクした食感が得られない問題があり、特許文献2で使用する油脂組成物は、使用油脂の融点が高く、冬季など固化してしまうため扱いにくく、その場合バッター液への分散性が極端に悪いという問題があった。また、特許文献3の方法では、別途粉末状の高融点油脂を用意する必要があるため作業が煩雑であり、また上記2種の油脂を混合した油脂組成物は高融点油脂が沈降してしまう問題があることに加え、バッター液中に高融点油脂が均一に分散しにくいという問題があり、特許文献4のバッター用油脂組成物では、バッター液への分散性が十分ではないため、均質なバッター液を得るためには強力な攪拌装置を必要とするという問題があった。
【特許文献1】特開平1−144939号公報
【特許文献2】特開平9−94074号公報
【特許文献3】特開平10−248487号公報
【特許文献4】特開2001−128617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、バッター液への分散性に優れ、得られたフライ食品がサクサクした食感であって、この食感が長時間保たれ、さらにフライ食品を冷凍保管あるいは冷蔵保管した際の再加熱時に電子レンジを使用しても良好なサクサク感が得られる、バッター用油脂組成物、及び該バッター用油脂組成物を含有するバッター液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、従来使用されていたよりも極めて多量のリン脂質と、極度硬化油脂を併用した油脂組成物により、上記目的を達成可能なことを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、油相中にリン脂質を2〜30質量%(油相基準)及び極度硬化油脂を1〜10質量%(油相基準)含有し、且つ、該油相のSFCが、10℃〜40℃の全ての温度において2〜25%であることを特徴とするバッター用油脂組成物、及び、該バッター用油脂組成物を3〜30質量%含有してなるバッター液を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のバッター用油脂組成物は、広い温度域でほぼ同一の物性を示し、バッター液への分散性に優れる。また、該バッター用油脂組成物を含有する本発明のバッター液を使用した、てんぷら、コロッケ、メンチかつなどのフライ食品は、サクサクした食感が得られ、この食感が長時間保たれ、さらに、冷凍保管品の解凍時や、冷蔵保管や長期保管により、べたついた食感となってしまったフライ食品を再加熱する際に、電子レンジを使用しても良好なサクサク感が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明のバッター用油脂組成物について詳述する。
本発明のバッター用油脂組成物は、油相中に、リン脂質を2〜30質量%、好ましくは8〜30質量%、更に好ましくは10〜30質量%(油相基準)含有する。
リン脂質含量が2質量%未満であると、バッター用油脂組成物は広い温度域での一定の粘性が出ず、バッター液への分散性が悪くなってしまう。また、30質量%を超えると、粘度が高くなりすぎ、バッター用油脂組成物のバッター液への分散性が極端に悪化してしまうことに加え、得られるフライ食品の口溶けが極めて悪くなってしまう。
【0010】
本発明で使用するリン脂質とは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸等のジアシルグリセロリン脂質、及び、これらをリゾ化、水素化、分別等の処理を施したもの、さらには、これらの2種以上の混合物を含むものである。
本発明で使用するリン脂質の起源としては特に限定されず、ナタネ、卵黄、大豆、牛乳等が挙げられる。
また、本発明では、精製されたリン脂質を使用してもよいが、リン脂質を含有する大豆レシチン、ナタネレシチン、卵黄レシチン、卵黄油、あるいは牛乳レシチン、脱脂濃縮乳等の食品素材や食品添加物を用いることも勿論可能である。
上記リン脂質を含有する食品素材や食品添加物を使用する場合は、固形分中のリン脂質の含有量が10質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である食品素材や食品添加物を使用することが好ましい。
また、上記のリン脂質を含有する食品素材や食品添加物は、液体状でも、粉末状でも、濃縮物でも構わない。
【0011】
また、本発明のバッター用油脂組成物では、リン脂質の一部又は全部がリゾ化されたものであることが好ましい。該リゾ化されたリン脂質(リゾリン脂質)を含有することにより、バッター液への分散性をより向上させることができる。また該リゾ化されたリン脂質を使用したフライ食品は、フライ時の風味劣化や、増粘、食感の劣化が少なくなる。
【0012】
本発明のバッター用油脂組成物で用いるリゾリン脂質としては、リゾ化率50%以上のものが好ましく、より好ましくは80%以上である。
リン脂質をリゾ化するにはホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置き換える作用を有する酵素である。ホスホリパーゼAは、作用する部位の違いによってA1、A2に分かれるが、A2が好ましい。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。
【0013】
また、本発明のバッター用油脂組成物は、油相中に、上記リン脂質に加え、極度硬化油脂を1〜10質量%、好ましくは1〜8質量%、更に好ましくは3〜8質量%(油相基準)含有する。
極度硬化油脂含量が1質量%未満であると、バッター用油脂組成物は広い温度域での一定の粘性が出ず、バッター液への分散性が悪くなってしまう。また、10質量%を超えると、粘度が高くなりすぎ、バッター用油脂組成物のバッター液への分散性が極端に悪化してしまうことに加え、得られるフライ食品の口溶けが極めて悪くなってしまう。
上記極度硬化油脂は、原料油脂に対し、ヨウ素価が好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下、最も好ましくは1未満となるまで水素添加し、実質的に構成成分である不飽和脂肪酸をほぼ完全に飽和することによって得られる油脂であって、その融点は、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上である。
なお、融点の上限については特に制限はないが、好ましくは80℃である。
【0014】
また、上記極度硬化油脂は、上記極度硬化油脂を更に分別した硬部油、あるいは1種又は2種以上の極度硬化油脂をエステル交換したものであってもよく、また、極度硬化油脂と、飽和脂肪酸や、飽和脂肪酸を主体とする部分グリセリド等とをエステル交換したものであってもよい。本発明では、これら全てを極度硬化油脂として扱う。
【0015】
本発明のバッター用油脂組成物においては、上記極度硬化油脂の中でも、微細結晶が得られ、バッター液への分散性が特に優れている点において、結晶形がβプライム型である極度硬化油脂を使用することが好ましい。
結晶形がβプライム型である極度硬化油脂の好ましい例としては、下記(1) 〜(5) の油脂が挙げられる。
(1) 「牛脂、豚脂、乳脂等の奇数酸を多く含む動物油脂や、ハイエルシン菜種油、魚油等の長鎖脂肪酸を多く含有する油脂」を原料油脂とした極度硬化油脂。
(2) 「構成脂肪酸の平均鎖長が異なる2種又は3種以上の油脂からなる油脂配合物を、化学的あるいは酵素的にエステル交換して、構成脂肪酸の鎖長をばらつかせた油脂配合物」を原料油脂とした極度硬化油脂。
(3) 「1種又は2種以上の油脂に、該油脂と構成脂肪酸の平均鎖長が異なる飽和脂肪酸又は該飽和脂肪酸を主体とする部分グリセリドを添加してなる油脂配合物を、化学的あるいは酵素的にエステル交換して、構成脂肪酸の鎖長をばらつかせた油脂」を原料油脂とした極度硬化油脂。
(4) 構成脂肪酸の平均鎖長が異なる2種以上の極度硬化油脂をエステル交換した油脂。
(5) 「1種又は2種以上の極度硬化油脂に、該極度硬化油脂と構成脂肪酸の平均鎖長が異なる飽和脂肪酸又は該飽和脂肪酸を主体とする部分グリセリドを添加してなる油脂配合物」を、化学的あるいは酵素的にエステル交換して、構成脂肪酸の鎖長をばらつかせた油脂。
【0016】
本発明では、これらの極度硬化油脂の中でも、ハイエルシン菜種油の極度硬化油脂、魚油の極度硬化油脂等、長鎖脂肪酸を多く含む油脂を原料油脂とした極度硬化油脂が、広い温度域で固液分離が特に少ないバッター用油脂組成物を得られる点で好ましく使用される。
なお、上記極度硬化油脂の結晶形がβプライム型であることを確認するには、極度硬化油脂を80℃で完全溶解した後、0℃で30分間保持し、次いで5℃で30分間保持して析出させた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施し、4.1〜4.3オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られることを確認すればよい。
【0017】
本発明のバッター用油脂組成物は、上記リン脂質及び上記極度硬化油脂に加え、その他の油脂を、油相のSFCが10〜40℃の全ての温度において2〜25%、好ましくは6〜25%となるように、油脂のヨウ素価、平均脂肪酸鎖長を勘案し、油相に配合する。
ここで、油相のSFCが10〜40℃のいずれかの温度において2%未満であると、流動性が高すぎて、バッター液への分散性が悪化し、均一なバッター液が得られない上に、得られるフライ食品がサクサク感に乏しいものとなってしまう。また、油相のSFCが10〜40℃のいずれかの温度において25%を超えると、保存中、あるいは温度変動等によって固化してしまい、その場合、バッター液への分散性が悪化し、均一なバッター液が得られない上に、得られるフライ食品の食感が硬すぎ、口溶けの悪いものになってしまう。
尚、上記SFCは、次のようにして測定する。即ち、先ず、油相を60℃に30分間保持して完全に融解した後、0℃に30分間保持して固化させる。次いで、25℃に30分間保持し、テンパリングを行い、その後、0℃に30分間保持する。これを各測定温度に順次30分間保持後、SFCを測定する。
【0018】
上記SFCに調整するために使用するその他の油脂としては、食用に適する油脂であればよく、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も挙げられ、更に、これらの食用油脂の水素添加油脂、分別油、エステル交換油等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
本発明のバッター用油脂組成物では、上記その他の油脂の中でも、10℃において液状である油脂を使用することが、バッター液への分散性が良好な油脂組成物が得られる点で好ましく、具体的には、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油、パーム分別軟部油、パーム分別軟部油のエステル交換油の分別軟部油の中から選択される1種又は2種以上の混合油脂が好ましく使用される。
本発明のバッター用油脂組成物における上記その他の油脂の配合量は、油相中に、好ましくは60〜96質量%、より好ましくは65〜90質量%(油相基準)である。
本発明のバッター用油脂組成物における油相には、後述のその他の成分のうち、油溶性成分を含有してもよい。該成分としては、β−カロチン等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、リン脂質以外の乳化剤等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0020】
本発明のバッター用油脂組成物の油相含量は、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%、さらに好ましくは99〜100質量%である。
すなわち本発明のバッター用油脂組成物における水相含量は、好ましくは20質量%未満、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは1%未満である。
油相含量が80質量%未満、すなわち水相成分が20質量%を超えると、保存中にリン脂質の吸水により、バッター用油脂組成物が濁ったり、バッター用油脂組成物中にダマが発生してしまうなどの問題を生じるおそれがある。また、バッター液が水中油中水型の二重乳化の形態になってしまうこともあり、その場合、フライ食品に水分が残りやすく、結果としてサクサクした食感のフライ食品が得られない。
【0021】
本発明のバッター用油脂組成物は、10〜40℃の全ての温度において、粘度が、100mPa・s以上、特に500mPa・s以上であることが好ましく、20,000mPa・s以下、特に18,000mPa・s以下であることが好ましい。
10〜40℃のいずれかの温度において粘度が100mPa・s未満であると、保存中に固液分離を起こすおそれがあり、また、バッター液中に分散させる際の混合時間が延びたり、乳化せずにダマになる等、分散性が低下しやすい。
一方、10〜20℃のいずれかの温度において粘度が20,000mPa・sを超えると、硬すぎてバッター液への分散性が悪化し、均一なバッター液が得られない上に、得られるフライ食品の食感が口溶けの悪いものになってしまう。
【0022】
本発明のバッター用油脂組成物は、上記以外のその他の成分を含有することができる。該その他の成分としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
本発明のバッター用油脂組成物における上記その他の成分の含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0023】
次に本発明のバッター用油脂組成物の製造方法を説明する。
本発明のバッター用油脂組成物は、その製造方法が特に制限されるものではなく、リン脂質、極度硬化油脂、その他の油脂を含有する油相を溶解、混合後、冷却、結晶化させることにより製造することができる。
詳しくは、先ず、リン脂質を2〜30質量%(油相基準)及び極度硬化油脂を1〜10質量%(油相基準)含有し、SFCが10〜40℃の全ての温度において2〜25%である油相を溶解し、必要により該油相に水相を混合乳化する。そして、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0024】
次に、溶解した油相(又は油相と水相との混合乳化物)を冷却し、結晶化させる。好ましくは冷却可塑化する。冷却条件は、好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より、急速冷却の方が好ましい。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンピネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
また、本発明のバッター用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもよいが、気相を含有することにより粘度が高くなり、特に低温度域での流動性が失われるおそれがあることから、気相を含有しないものであることが好ましい。
【0025】
以上のようにして得られた本発明のバッター用油脂組成物は、マーガリンやショートニング等の可塑性油脂と異なり、一定の粘性と流動性を有することに加え、さらにリン脂質を多量に含有するため、従来のバッター用油脂組成物に比べて極めて容易に水や卵液に分散し、均質なバッター液を得ることができる。
そのため、特別な混合機を必要とせずとも、手混ぜであっても簡単に均質なバッター液とすることが可能であるという特徴を有する。
【0026】
次に本発明のバッター液について述べる。
本発明のバッター液は、上記の本発明のバッター用油脂組成物を3〜30質量%、好ましくは5〜20質量%含有してなるものであり、タネ(食品素材)への付着性が適度であり、該バッター液を使用して得られたフライ食品はサクサクした食感であって、この食感が長時間保たれ、さらにフライ食品を冷凍保管あるいは冷蔵保管した際の再加熱時に電子レンジを使用しても良好なサクサク感が得られるという特徴を有する。
【0027】
本発明のバッター液は、従来のバッター液を製造する際に使用する食品素材や食品添加物に加え、本発明のバッター用油脂組成物を上記の含有量となるように添加して製造すればよい。
つまり、水、クリーム、牛乳、濃縮乳、醗酵乳、卵、ダシ汁等の水性原料や、穀粉及び/又は澱粉等の粉体原料に加え、本発明のバッター用油脂組成物を使用し、これに必要に応じて、糖類、脱脂粉乳や全粉乳等の乳製品、食塩等の塩味剤、β−カロチン等の着色料、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、ホエー蛋白質、カゼイン蛋白質等の動物蛋白質、卵及び各種卵加工品、酢酸やクエン酸等の酸味料、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ゼラチン、ペクチン、キサンタンガム等の増粘安定剤、乳化剤、酸化防止剤、膨張剤、保存料、苦味料、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、ステビア抽出物等の甘味料、香辛料、香辛料抽出物、香料、食塩等の無機塩類、着色料、調味料、豆類、野菜類等の食品素材や食品添加物を加え、常法に従って加工することにより、本発明のバッター液を得ることができる。
【0028】
本発明のバッター用油脂組成物をバッター液に含有させる方法としては、予め、穀粉及び/又は澱粉等の粉体原料を水性原料に分散させたバッター液に、本発明のバッター用油脂組成物を添加し、十分に混合する方法、穀粉及び/又は澱粉等の粉体原料に、本発明のバッター用油脂組成物を分散させた後、水性原料を添加し、十分に混合する方法、本発明のバッター用油脂組成物を水性原料に分散させた後、穀粉及び/又は澱粉等の粉体原料を添加し、十分に混合する方法等があり、これらのうちの何れの方法でも良い。
なお、本発明のバッター用油脂組成物は、分散性が極めて良好であるため、手混ぜであっても簡単に均質なバッター液とすることが可能であるが、コロイドミル等の乳化機、ホモゲナイザー等の均質化機を使用することにより、より均質で良好な物性のバッター液を得ることができる。
【0029】
本発明のバッター液は、てんぷら、コロッケ、クリームコロッケ、メンチカツ、魚介類や畜肉類のフライ等の、各種フライ食品に使用することができる。
本発明のバッター液の使用方法は、従来のバッター液の使用方法と同様であり、例えばタネ(食品素材)に、必要に応じ小麦粉等の打ち粉をまぶし、次いでバッター液を付着させ、更にパン粉を付け、又はそのまま成型するというものである。これを直ちに、又は冷蔵や冷凍等の方法にて保管後、フライ油で揚げることによってフライ食品が得られる。
なかでも本発明のバッター液は、フライ食品が、バッター液を付着後成型冷凍保管したもの、あるいは、フライ油で揚げたものを冷凍保管したものなどの、冷凍過程を経たものに使用した場合、特にサクサク感の改良効果が顕著であり、適している。
【実施例】
【0030】
〔実施例1〕
菜種油87質量%及びハイエルシン菜種油の極度硬化油脂(融点60℃・ヨウ素価1未満)3質量%の混合油脂を70℃に加熱して溶融した後、大豆レシチン(リン脂質を60質量%含有)10質量%を均一に溶解し、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質を6質量%及び極度硬化油脂を3質量%含有し、油相のSFCが10℃で9%、20℃で9%、30℃で9%、40℃で8%である本発明のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、10〜40℃の全ての温度において、500〜2,000mPa・sであった。
【0031】
〔実施例2〕
菜種油70質量%及びハイエルシン菜種油の極度硬化油脂(融点60℃・ヨウ素価1未満)3質量%の混合油脂を70℃に加熱して溶融した後、大豆レシチン(リン脂質を60質量%含有)27質量%を均一に溶解し、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質を16質量%及び極度硬化油脂を3質量%含有し、油相のSFCが10℃で16%、20℃で16%、30℃で16%、40℃で15%である本発明のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、10〜40℃の全ての温度において、500〜2,000mPa・sであった。
【0032】
〔実施例3〕
パームスーパーオレイン35質量%、菜種油35質量%及びハイエルシン菜種油の極度硬化油脂(融点60℃・ヨウ素価1未満)3質量%の混合油脂を70℃に加熱して溶融した後、大豆レシチン(リン脂質を60質量%含有)27質量%を均一に溶解し、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質を16質量%及び極度硬化油脂を3質量%含有し、油相のSFCが10℃で24%、20℃で16%、30℃で16%、40℃で16%である本発明のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、20℃〜40℃の範囲では500〜20,000mPa・sであったが、10℃における粘度が25,000Pa・sを超えていた。
【0033】
〔実施例4〕
菜種油70質量%及びハイエルシン菜種油の極度硬化油脂(融点60℃・ヨウ素価1未満)8質量%の混合油脂を70℃に加熱して溶融した後、大豆レシチン(リン脂質を60質量%含有)22質量%を均一に溶解し、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質を13質量%及び極度硬化油脂を8質量%含有し、油相のSFCが10℃で18%、20℃で18%、20℃で17%、40℃で17%である本発明のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、10〜40℃の全ての温度において、500〜15,000mPa・sであった。
【0034】
〔実施例5〕
菜種油87質量%及びハイエルシン菜種油の極度硬化油脂(融点60℃・ヨウ素価1未満)3質量%の混合油脂を70℃に加熱して溶融した後、豚の膵液由来のホスホリパーゼAを使用して酵素処理した大豆リゾレシチン(リン脂質を60質量%含有、リゾ化率80%)10質量%を均一に溶解し、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質を6質量%(うちリゾ化リン脂質は5質量%)及び極度硬化油脂を3質量%含有し、油相のSFCが10℃で8%、20℃で8%、30℃で7%、40℃で6%である本発明のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、10〜40℃の全ての温度において、500〜2,000mPa・sであった。
【0035】
〔実施例6〕
菜種油82質量%及びハイエルシン菜種油の極度硬化油脂(融点60℃・ヨウ素価1未満)8質量%の混合油脂を70℃に加熱して溶融した後、豚の膵液由来のホスホリパーゼAを使用して酵素処理した大豆リゾレシチン(リン脂質を60質量%含有、リゾ化率90%)10質量%を均一に溶解し、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質を6質量%(うちリゾ化リン脂質は5質量%)及び極度硬化油脂を8質量%含有し、油相のSFCが10℃で13%、20℃で13%、30℃で12%、40℃で12%である本発明のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、10〜40℃の全ての温度において、500〜15,000mPa・sであった。
【0036】
〔比較例1〕
菜種油(SFCが10℃で0%、20℃で0%、30℃で0%、40℃で0%)をそのまま比較例1のバッター用油脂組成物とした。この菜種油は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、10〜40℃の全ての温度において、100mPa・s未満であった。
【0037】
〔比較例2〕
菜種油97質量%及びハイエルシン菜種油の極度硬化油脂(融点60℃・ヨウ素価1未満)3質量%の混合油脂を70℃に加熱して均一に溶解した後、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質を含有せず、極度硬化油脂を3質量%含有し、油相のSFCが10℃で4%、20℃で4%、30℃で4%、40℃で3%である、比較例2のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、10〜40℃の全ての温度において、500〜2,000mPa・sであった。
【0038】
〔比較例3〕
菜種油70質量%を70℃に加熱して溶融した後、大豆レシチン(リン脂質を60質量%含有)30質量%を均一に溶解し、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質を18質量%含有し、極度硬化油脂を含有せず、油相のSFCが10℃で12%、20℃で12%、30℃で12%、40℃で12%である比較例3のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、10〜40℃の全ての温度において、100〜300mPa・sであった。
【0039】
〔比較例4〕
菜種硬化油(融点23℃)97質量%及びハイエルシン菜種油の極度硬化油脂(融点60℃・ヨウ素価1未満)3質量%を70℃に加熱して均一に溶解した後、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質を含有せず、極度硬化油脂を3質量%含有し、油相のSFCが10℃で20%、20℃で8%、20℃で4%、40℃で4%である比較例4のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、20℃〜40℃の範囲では500〜20,000mPa・sであったが、10℃における粘度が25,000Pa・sを超えていた。
【0040】
〔比較例5〕
菜種硬化油(融点23℃)100質量%を70℃に加熱して均一に溶解した後、パーフェクターを使用して5秒間で15℃に急速冷却して、リン脂質及び極度硬化油脂を含有せず、油相のSFCが10℃で17%、20℃で4%、20℃で0%、40℃で0%である比較例5のバッター用油脂組成物を得た。このバッター用油脂組成物は、ビスコステスター(リオン(株)製)で粘度を測定したところ、10℃において20,000Pa・sを超え、且つ、40℃において100Pa・s未満であった。
【0041】
<分散性試験>
上記の実施例1〜6及び比較例1〜5で得られたバッター用油脂組成物について、下記の方法で分散性試験を行なった。
1,000ml容のステンレスビーカーに水600gを入れ、撹拌羽根を使用して泡立たないように400rpmで撹拌しながら、ここへバッター用油脂組成物100gを一度に添加し、さらに400rpmで2分混合・分散させた。その際のバッター用油脂組成物の分散性について、下記評価基準に従って4段階で評価した。その結果を表1に記載した。
(分散性の評価基準)
◎:極めて良好(撹拌を止めて2分以上たっても乳化層が残る)
○:良好(撹拌を止めると徐々に分離して2分後にははっきりと2層に分かれる)
△:やや悪い(撹拌を止めるとすぐに2層に分かれる)
×:悪い(撹拌しても乳化しない)
【0042】
【表1】

【0043】
<バッター液の調製及びフライ試験>
上記の実施例1〜6及び比較例1〜5で得られたバッター用油脂組成物を使用して、下記の方法でバッター液をそれぞれ調製し、調製した各バッター液について、下記の方法でフライ試験を行なった。
1,000ml容のステンレスビーカーに水600gを入れ、撹拌羽根を使用して泡立たないように400rpmで撹拌しながら、ここへバッター用油脂組成物100gを一度に添加し、さらに400rpmで2分混合・分散させた。次いで小麦粉300gを投入してさらに2分混合・分散させ、バッター液を調製した。
このバッター液に白身魚(タラ)の切り身10gを浸漬し、パン粉を付着させたものを急速冷凍し、−20℃で1週間冷凍保管した。冷凍のまま180℃のフライ油(菜種油使用)で4分間フライしてフライ食品を得た。
このフライ食品のフライ直後及びフライ5時間後の食感(サクサク感)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。その結果を表2に記載した。
また、得られたフライ食品の一部については、ただちに急速冷凍し、−20℃の冷凍庫にて1週間保管後、電子レンジで再加熱した際の食感(サクサク感)について、同様に評価した。その結果を表2に併せて記載した。
(食感の評価基準)
23名のパネラーにより下記の4段階評価を行なった。そして、その評価点数の平均点を算出した。
6点:サクサク感がきわめて良好
4点:サクサク感が良好
2点:サクサク感がやや悪い
0点:サクサク感が全く認められない
【0044】
【表2】

【0045】
表1及び表2から判るように、実施例1〜6のバッター用油脂組成物は、分散性が良好で、得られたバッター液を使用したフライ食品の食感もサクサク感があり、フライ5時間後あるいは冷凍保管品を電子レンジで再加熱した場合もその食感が保持されていた。
それに対し、極度硬化油脂もリン脂質も含有しない比較例1及び比較例5のバッター用油脂組成物、並びに、極度硬化油脂は含有するが、リン脂質を含有しない比較例2及び比較例4のバッター用油脂組成物は、いずれも、分散性が極めて悪い上に、得られたバッター液を使用したフライ食品はサクサク感が劣り、またフライ5時間後あるいは冷凍保管品を電子レンジで再加熱した場合のサクサク感の消失も大きいものであった。
また、リン脂質は含有するが、極度硬化油脂を含有しない比較例3のバッター用油脂組成物は、分散性がやや悪く、得られたバッター液を使用したフライ食品のサクサク感は良好であるものの、フライ5時間後あるいは冷凍保管品を電子レンジで再加熱した場合のサクサク感の消失が大きいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相中にリン脂質を2〜30質量%(油相基準)及び極度硬化油脂を1〜10質量%(油相基準)含有し、且つ、該油相のSFCが、10〜40℃の全ての温度において2〜25%であることを特徴とするバッター用油脂組成物。
【請求項2】
上記リン脂質の一部又は全部がリゾ化されたものである請求項1記載のバッター用油脂組成物。
【請求項3】
10〜40℃の全ての温度において、粘度が100〜20,000mPa・sである請求項1又は2記載のバッター用油脂組成物。
【請求項4】
上記極度硬化油脂がハイエルシン菜種油の極度硬化油脂である請求項1〜3のいずれかに記載のバッター用油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のバッター用油脂組成物を3〜30質量%含有してなるバッター液。