説明

バラの栽培方法

【課題】外気温が低く、温室内気温が低下しやすい場合においても、切り花品質を向上させ、採花本数を増加させるバラの栽培方法を提供する。このことにより、温室内の空気の温度を全体として上昇させる場合に比べて燃料消費量を抑え、地球温暖化の原因となる炭酸ガスの排出量を削減する。
【解決手段】バラの株元の茎(Ra)近傍に通液管(3)を配設し、この通液管に温度20〜50℃の範囲の液体を通すことにより、外気温が低く、温室内気温が低下しやすい場合においても、切り花品質を向上させ、採花本数を増加させ得る。通液管(3)は、バラの株元の茎(Ra)近傍に水平に配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切花用のバラを栽培する方法に関し、さらに詳しくは、外気温が低い冬場に温室内で切花用のバラを栽培する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バラは、花き栽培においてキク、カーネーションに次ぐ主力品目であり、平成18年統計では国内作付面積489ha、年間出荷本数3億6,910万本、生産者数約1,710戸で生産を行っている。しかしながら、近年、切り花単価の低迷、生産経費の高騰、生産環境の悪化等によりバラ生産者の経営状態は苦難を呈しており、栽培規模の縮小や経営転換をせざるを得ない生産者も現れている。特に、生産経費の中で暖房燃料の割合が大きいので、近年の重油のコストの高騰は負担が大きいものとなっている。特に、A重油の価格は、平成10年に30円台/Lであったが、平成20年には120円台/Lまで高騰している。
【0003】
一般的に、バラは、環境の温度が下がると開花までの日数(到花日数)が長くなり、切り花本数が減少する。このため、切り花の生産量を減少させないためには、温室内の温度が下がりすぎないようにする必要がある。しかしながら、燃料費の変動経費全体に占める割合が大きいバラ栽培生産者にとって、燃料消費量の増加は経営の悪化につながる。
また、燃料消費量の増加により温室効果ガスの排出量も増加するので、人類の大きな取り組み課題である地球温暖化防止の観点からも好ましくない。
そこで、切り花の生産性・品質向上技術を図ることにより、省エネルギーを達成することが望まれている。
【0004】
バラの株元に通液管を配設しておき、気温および培地温がバラの栽培適温を下回る時期に通水管に温湯を通水することにより、温湯の通水で冬季にバラの株元付近の培地温を上げて栽培適温に制御するとともに、周囲の気温低下を抑制するバラの栽培方法が提案されている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開2003−169536号公報(段落[0007]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術は、バラの株元として、バラを育種するポットの両側に通水管を設ける構造でり、上部をフィルム等で覆うことによる培地を中心とした加温システムであるため、バラ株元近くの茎の温度及び株元から上方向に伸びるバラの茎と葉の環境温度に対する効果が十分でなく、切り花品質を向上させ、採花本数を確保することが困難であるという課題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、上記課題を解決すべく、外気温が低く、温室内気温が低下しやすい場合においても、切り花品質を向上させ、採花本数を増加させるバラの栽培方法を提供することことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するとともに上記の目的を達成するために鋭意研究した。そして、バラの株元の茎近傍に通液管を配設し、この通液管に温度20〜50℃の範囲の液体を通すことにより、外気温が低く、温室内気温が低下しやすい場合においても、切り花品質を向上させ、採花本数を増加させ得ることを見い出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明において、通液管がバラ株元の茎近傍に水平に配設されることが好ましい。このことにより、同時に複数のバラの苗について、各々のバラ株元の茎近傍及び株元から上方向に伸びるバラの茎と葉、さらに折り曲げた光合成枝をより効率的に加温することができる。さらに、本発明において、より容易に入手でき、熱容量の大きい水を通液管に流すことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した本発明によれば、バラの株元の茎近傍に配設された通液管に温度20〜50℃の範囲の液体が流れるので、通液管からの直接の放熱・輻射熱により、バラ株元の茎部及びその上部の茎と葉、さらに折り曲げた光合成枝に効率よく熱を与えることができ、外気温が低く、温室内気温が低下しやすい場合であっても、切り花品質を向上させ、採花本数を増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の態様を詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。なお、本発明において、「環境温度」とは温室内におけるバラが育成する場所の空気温度を示す意味において用いられる。
【0011】
図1は、本実施形態に係るバラの栽培方法に使用する栽培装置10を示す。
栽培装置10は、高設ベンチ7と、該高設ベンチ7上に載置された栽培ベッド5と、該栽培ベッド5に一定間隔で一列に置かれる苗育成キューブ1を有する。該苗育成キューブ1で育種されるバラの株元の茎Ra近傍には、その茎の両側(図1において、バラの株元の茎Raの左右)に、該茎を挟んで略平行、かつ水平(図1において、紙面に垂直方向)に通液管3が配設される。
【0012】
栽培ベッド5は、発砲スチロールの容器の内部に、培地として市販の園芸用のロックウールマットが敷かれたものであり、この中に肥料を含んだ水溶液を供給することにより、バラに養分が与えられる。苗育成キューブ1としては、市販の園芸用ロックウールキューブが用いられ、該ロックウールキューブにバラの苗が育種される。そして、この苗育成キューブ1は、栽培ベッド5のロックウールマットの上に一定間隔で一列に(図1において、紙面に垂直方向)載置される。バラは、生長すると、苗育成キューブ1の底面を通って、栽培ベッド5のロックウールマット中にその根を張る。
【0013】
栽培装置10は、温室内に配置され、外気温が下がると、温室内は一定温度(18℃)を維持するように重油を燃料とするバーナーにより加温される。このとき、通液管3に温度20〜50℃の範囲の水を通すことにより、バラの株元の茎Ra、株元から上方向に伸びているバラの茎と葉、さらに折り曲げた光合成枝が加温される。
水温は、バラの栽培に最適とされる18℃よりやや高い20℃から50℃の範囲であれば効果を発揮できるが、24℃から40℃の範囲が好適である。20℃より低いと加温効果が弱くなり、50℃を超えるとバラの株元の温度が上昇しすぎるため、省エネルギーの観点の点からも好ましくない。
【0014】
通液管3の材料は、銅管、アルミニウム管などの金属配管材料、硬質ポリ塩化ビニル管などの樹脂配管材料から適宜選択できる。さらに、輻射熱を多く放出する管が適している。
本発明に係るバラの栽培方法では、バラ株元の茎近傍に配設される通液管に温度20〜50℃の範囲の液体が通されるので、バラの株元の茎Ra、株元から上方向に伸びているバラの茎と葉及び折り曲げた光合成枝など植物体の地上部30cmまでが輻射熱により直接的に及び/又は環境温度の上昇により間接的に加温されることにより、切り花本数、切り花品質を向上させることができる。
【0015】
上記のように、本発明に係るバラの栽培方法では、温室内での切り花用のバラの栽培において、冬期などの外気温が低く、温室内気温が低下しやすい場合であっても、切り花品質及び採花本数を向上させつつ、エネルギー消費量を削減することができる。このことは、さらに、温室内の空気の温度を全体として上昇させる場合に比べて省エネルギーとなり、全体として燃料消費量を削減し、地球温暖化の原因となる炭酸ガスの排出量を抑えることができる。
【実施例】
【0016】
本実施例は本発明の実施態様を具体的に説明したものであって、本発明の範囲を限定することを意図しない。
材料及び方法
[実施例1]
昼間は換気で設定温度23℃、夜間は加温で設定温度18℃に調整が行われている温室内に、高さ80cmの高設ベンチ7を設けた。バラ養液栽培用スラブとして市販の園芸用のロックウールマットを発砲スチロール製の容器に敷き詰めた栽培ベッド5を、高設ベンチ7の上に設置した。
苗育成キューブ1は、一辺10cmの大きさの園芸用ロックウールキューブであり、4側面にビニルが巻かれているものを使用した。バラ苗の試供品種として、赤色大輪系の主力である「ローテローゼ」を用いた。
【0017】
9月下旬、栽培ベッド5に、バラの苗が育種してある苗育成キューブ1を一定間隔で一列に20個載置した。
次いで、すべて(20本)のバラ苗株元の茎近傍に茎を挟んで両側に通液管3を設けた。通液管3として、蛇腹の可撓性管(外径35mm、材質:塩化ビニル)を使用した。蛇腹の通液管3を用いたのは伝熱面積を大きくするためであり、可撓性管を用いたのは設置が容易なためである。
バラの苗が活着した11月下旬、バラの茎を株元より折り曲げ、アーチング仕立てを行った。
【0018】
折り曲げた日から全日、電熱ヒータ(ジェックス(株)製、コンパクトスリムヒータ200)を用いて温度35℃に加熱した水を、ポンプで通液管3を通して循環させた。室温センサーは、バラの株元とほぼ同じ高さ(地上1.0m)に設置し、バラの茎及び葉廻りの環境温度、通液管3の表面温度の測定は、熱電対を用いて行った。
採花は翌年の1月より行い、採花本数、切り花長、切り花重、節数について調査した。
2月5日、通液管3からの距離と環境温度との関係を測定した。
【0019】
[実施例2]
実施例1の場合と同じ材料及び装置を使用し、同じ方法で行ったが、通液管3に流す水の温度は25℃とした。
【0020】
[比較例]
従来の方法で行った。つまり、実施例1の場合と違って、バラ苗の株元の茎Ra近傍に通液管3を設けて、バラ株元の茎及びその上部の茎と葉を加温することはしなかった。その他の材料、装置及び方法は実施例1の場合と同じとした。
【0021】
結 果
(a)通液管3からの距離と環境温度との関係
図2は、夜間における通液管3からの距離(上方向)と環境温度との関係を示す。
実施例1では、通液管3の表面温度は25.2℃であり、そこから1cm離れた上方部の環境温度は20.1℃、10cm離れた上方部では18.8℃、30cmより上方部では約20℃であった。
実施例2では、通液管3の表面温度は19.6℃であり、そこから10cm離れた上方部までは、実施例1の場合より0.6〜0.1℃低く、30cmより上方部では、実施例1の場合と同様に約20℃であった。
比較例では、株元の茎Ra近傍の環境温度は16.5℃と低く、そこから上方へ行くほど上昇し、30cmより上方部では、実施例1及び2の場合とほぼ同じであった。
【0022】
夜間において、通液管3から5cm離れた上部の環境温度は、実施例1で平均2.3℃、実施例2で平均1.5℃、各々比較例よりも高かった。昼間は、気温の上昇とともに環境温度も高くなり、通液管3から5cm離れた上方部の環境温度は、実施例1及び2の場合と比較例との差は、いずれも夜間における温度差よりも小さくなった(図示せず)。
【0023】
図2に示すように、比較例では、バラの株元の茎Ra近傍の環境温度は16.5℃であり、室温(18℃)より低かった。これは、光合成枝Rcを折り曲げたことにより株元付近の空気が停滞し、重油バーナーによる加温効果が低下しているためと考えられる。通液管3を設置し、その中に温水を流すことにより、株元の茎Ra近傍及び通液管3から30cm上方部の範囲の環境温度をバラ栽培の最低制御温度18℃より高く維持することができた。
【0024】
(b)総採花本数と切り花品質との関係
表1は、実施例1、2及び比較例における総採花本数と切り花品質との関係を示す。
折り曲げ後の1番花の到花日数は、実施例1及び2で61日であるのに対して、比較例では、65日であった。つまり、通液管3に各々35℃及び25℃の水を流すことにより、採花を早めることができた。水の温度が35℃及び25℃の場合では、いずれも61日であり差は生じなかった。
【0025】
【表1】

【0026】
切り花長は、実施例1及び2の場合、いずれも比較例の場合より平均10cm長くなった。
切り花重は、切り花長に対応して、実施例1及び2の場合いずれも比較例よりも重くなった。また、切り花節数は、実施例1及び2がいずれも比較例より2節程度多くなった。
図3は、切り花長の比率を示す。採花された切り花長の比率でみると、実施例1及び2では100cm以上の比率が50%以上であるのに対して、比較例では20%程度であった。つまり、通液管3に各々35℃及び25℃の水を流すことにより、切り花長を長く、切り花重を重くすることができた。
【0027】
図3は、バラの採花枝Rb(ステム)の伸長経過を示す。ステムの伸長経過は、実施例1及び2の場合では、いずれも比較例より、折り曲げ後の伸長が早い。つまり、通液管3に各々35℃及び25℃の水を流すことにより、バラを早く生長させることができた。
【0028】
折り曲げ栽培(アーチング)において、バラの株の茎近傍に設けられた通液管3に各々35℃及び25℃の水を流すことにより、到花日数を短縮させ、切り花長、切り花重、節数など切り花の品質を向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、温室における切花用のバラの栽培に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係るバラの栽培方法に使用する栽培装置を示す正面図である。
【図2】実施例1及び2における通液管から上方への距離とその場所の環境温度との関係、及び比較例における同位置の温度との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1、2及び比較例における切り花長の比率を示すグラフである。
【図4】実施例1、2及び比較例におけるバラの採花枝(ステム)の伸長経過を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1 苗育成キューブ
3 通液管
5 栽培ベッド
7 高設ベンチ
10 栽培装置
Ra バラ株元の茎
Rb バラの採花枝
Rc バラの光合成枝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温室内で切花用のバラを栽培する方法であって、
バラ株元の茎近傍に配設される通液管に温度20〜50℃の範囲の液体を通すことを特徴とするバラの栽培方法。
【請求項2】
前記通液管がバラ株元の茎近傍に水平に配設されることを特徴とする請求項1記載のバラの栽培方法。
【請求項3】
前記液体が水であることを特徴とする請求項1又は2記載のバラの栽培方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−119311(P2010−119311A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293654(P2008−293654)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【Fターム(参考)】