説明

バラスト水製造装置およびその運転方法

【課題】バラスト水は、海水または淡水中の微生物等を死滅若しくは排除する必要があるが、加熱、紫外線照射、薬品等を用いても、完全に除去することは困難である。
【解決手段】海水取入れ口から原水切替弁を介してポンプに連結され、前記ポンプの出水口から第1戻し経路切替弁に連結された送水路と、前記第1戻し経路切替弁から微細気泡発生装置とろ過膜を介して第2戻し経路切替弁に連結されたろ過路と、前記第2戻し経路切替弁から貯留タンクまで連結された出水路とを含む給水経路と、前記第2戻し経路切替弁から前記第1戻し切替弁までを連通させた戻し経路と、前記貯留タンクから前記原水切替弁まで連通させた供給路と、前記微細気泡発生装置から前記ポンプまでの間に設定された排水弁と、前記排水弁から放水端まで連結された排水路を有するバラスト水製造装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の重心安定のために積載するバラスト水製造装置およびそのバラスト水製造装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶は積荷を積載した際に舵やスクリューが所定の深度となって、安定して航行できるように予め設計されている。従って、積荷が積載されていない場合は、大きな浮力で浮かび上がり、予定されている状態まで水面から沈まない。このような状態で航行しようとすると、舵が効かない、もしくはスクリューが海中に沈まず推力が生まれないなど、安定した航行はできない。
【0003】
このため、積荷が積載されていない状態では、安定な姿勢を保つための所定の喫水状態を得るためにバラストタンクにバラスト水を搭載する。バラスト水によって船の重量は重くなり、安定した状態まで船が沈む事となる。また、バラスト水に淡水を用いれば、航海中に利用できることにもなる。
【0004】
ところで、例えば、出発地で空荷のまま出発し、到着地で荷物を積載する場合、出発地でバラスト水を積載し、それを到着地で放流することになる。この場合、出発地の海中生物や微生物およびそれらの卵(以後「微生物等」と呼ぶ。)をバラスト水と共に到着地まで運び、これを放流することになるため、到着地では本来生息しない生物が持ち込まれることとなる。これは、海洋生物の生態系を破壊する原因となる。
【0005】
また、微生物等を含んだままのバラスト水は、航海の間に微生物等が増殖し、悪臭を発する。これは船舶自体にとっても好ましい状態ではない。そこで、バラスト水として取り込む海水から微生物等を除去してバラスト水を作る技術が提案されている。例えば、取り込んだ水等を加熱処理、紫外線照射処理、薬剤投入処理等を行う事が挙げられる。
【0006】
しかし、これらの処理では、微生物等を完全に死滅させることはできず、また、装置自体も大規模となり、実用上ほとんど不可能である。また、ヨウ素や次亜塩素酸等の薬剤では、微生物等を完全に死滅させるために多量の薬剤が必要となり、今度は大量の中和剤が必要になるといった弊害も生じる。
【0007】
以上のように、バラスト水中の微生物等は、残留させてしまっては、それらはいずれ増殖してしまい、完全に死滅させるのは容易でない。このような課題に対して、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、ナノろ過膜(NF膜)若しくは逆浸透膜(RO膜)といった、ろ過膜で微生物等を除去してバラスト水を製造する方法が提案されている。
【0008】
微生物等は、具体的に大腸菌等のような細菌や、ミジンコ、ヒドデ等の幼生等が挙げられるが、概ねこれらの大きさは数μmであり、最も小さいものでも0.3μm程度である。従って、MF膜若しくはUF膜までで全てろ過することができる。一方、これらのろ過膜を用いる場合の問題点として、膜表面に付着物が沈着し液体の透過流束が減少してしまうファウリングや、膜の孔に微小物が詰まってしまう目詰まりを原因とする性能劣化が挙げられる。従って、ろ過膜を用いたバラスト水の製造においても、ろ過膜の洗浄は大きな課題の1つである。
【0009】
特許文献1(特開2005−329300号公報)には、淡水をMF膜、UF膜若しくはRO膜を通過させてバラスト水を製造する方法が開示されている。図14を参照して、特許文献1の製造方法では、吸引ポンプ108で淡水120を吸引し、ろ過装置101中に配置された中空糸膜モジュール105を通過させろ過することで、バラスト水122としている。そして中空糸膜モジュール105の洗浄には、ろ過膜を挟んで下流側から上流側に貯留タンク106のバラスト水122を流す、所謂逆洗のための配管110とポンプ109が用意されている。
【0010】
また、中空糸膜モジュール105の表面に気泡をあてて膜面に付着した微生物等を剥離除去するためのディストリビュータ112とブロア111が用意されている。
【0011】
一方、ろ過膜に残った微生物等をそのまま排出したり、また配管中に残留するおそれを回避するために、ろ過膜の微生物等を死滅させる洗浄方法も提案されている。
【0012】
特許文献2(特開2005−342626号公報)では、ろ過膜を洗浄した洗浄液中に衝撃水圧を発生させて洗浄水中の微生物等を死滅させる方法が開示されている。これは、比較的大きな水生生物や硬い殻に覆われているような卵や胞子等の死滅に効果的であるとされる。
【0013】
また、特許文献3(WO2007/142068号公報)には、洗浄液中にオゾンを混入させ、微生物等を死滅させるバラスト水製造方法を開示している。図15を参照して、バラスト水の浄化装置201は、バラスト水をポンプ212でろ過膜214に送りろ過する。そして、処理水の一部をポンプ215で吸い出して、オゾン注入部216でオゾンを注入し、オゾンを混入した処理水と混入しなかった処理水を混合してバラスト水(A)とする。
【0014】
一方、ろ過膜214の洗浄には、オゾンを混入させた処理水(B)を流すことで、微生物等を死滅させ、ついで、ポンプ217により逆洗を行って死骸等を船外に放出する。これらの処理は、213a乃至213cのバルブ操作によって行われる。
【0015】
ところで、ろ過膜の洗浄に関しては、薬品を用いる方法の他、マイクロバブルやナノバブルと呼ばれる微小泡を用いる方法がある。特許文献4には、マイクロバブル発生装置をろ過膜の下流側に配置し、逆洗の際に、マイクロバブルを含んだ洗浄水をろ過膜の裏側から通すことで、ろ過膜の表面の付着物を除去する技術が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−329300号公報
【特許文献2】特開2005−342626号公報
【特許文献3】WO2007/142068号公報
【特許文献4】特開2010−253457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1は、バラスト水を製造するためにろ過膜を使うことの利点を開示している。しかし、ろ過膜の洗浄は逆洗と所謂曝気処理のようにろ過膜表面に泡を当てるだけであるので、ろ過された微生物等が死滅することはない。また、ブロアも含めポンプが3台も配置されており、製造装置としての規模は大きくなる。バラスト水製造装置は、船舶に搭載されるものであるので、できるだけ規模が小さいことが望まれる。
【0018】
また、特許文献2は、微生物等の死滅に効果的な方法であるとしても、バラスト水の製造装置としては、配管中に微生物等を含む水等が残留する構造になっている点で課題が残る。このような構成ではいずれ微生物等が繁殖し、腐敗臭を発したり、到着地でバラスト水を放流する際に、同じく出発地の微生物等が放流されるおそれが残るからである。
【0019】
すなわち、バラスト水製造装置においては、微生物等の除去は、除去手段にあたる部分だけでなく、取り回しの配管の中を、微生物等がいない状況に保つというのが大きな課題である。バラスト水製造装置は、船舶に搭載されることを想定する必要があるので、航行中に配管中で微生物等が増殖しては、次の使用の際に好ましくない。また、航行中の船舶で異臭が発生するのも好ましくないからである。
【0020】
また、特許文献3は、船舶に設置されるバラスト水製造装置として、配管中の微生物等の残留をできるだけ押さえることのできる構成となっている。しかし、ポンプが3台も必要であり、限られた船舶中の空間に設置するバラスト水製造装置としては、規模が大きくなりすぎる。
【0021】
また、特許文献4のマイクロバブルを用いたろ過膜の洗浄方法ろ過膜の洗浄にマイクロバブルを用いる事が記載されているが、バラスト水製造装置として配管中の洗浄については何も配慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は上記課題に鑑みて想到されたものであり、ポンプ等の駆動設備の数ができるだけ少なくし、装置の配管中にできるだけ微生物等を残留させることなく、ろ過膜の洗浄ができるバラスト水製造装置とその運転方法を提供するものである。
【0023】
より具体的には、本発明のバラスト水製造装置は、
海水をくみ上げてバラスト水を製造するバラスト水製造装置であって、
海水取入れ口から原水切替弁を介してポンプに連結され、前記ポンプの出水口から第1戻し経路切替弁に連結された送水路と、
前記第1戻し経路切替弁から微細気泡発生装置とろ過装置を介して第2戻し経路切替弁に連結されたろ過路と、
前記第2戻し経路切替弁から貯留タンクまで連結された出水路とを含む給水経路と、
前記第2戻し経路切替弁から前記第1戻し切替弁までを連通させた戻し経路と、
前記貯留タンクから前記原水切替弁まで連通させた供給路と、
前記微細気泡発生装置から前記ポンプまでの間に設定された排水切替弁と、
前記排水切替弁から放水端まで連結された排水路を有することを特徴とする。
【0024】
また本発明バラスト水製造装置は、上記の構成に加えて、
前記排水路に設置された排水弁と、
前記ろ過装置のろ過膜の一次側から前記排水弁の上流に連結された補助戻し経路が形成されていてもよい。
【0025】
また、本発明のバラスト水製造装置は、上記の構成に加えてさらに、
前記補助戻し経路中に排水容器を配設したことを特徴とする。
【0026】
また、本発明のバラスト水製造装置の運転方法は、
原水を取り込み、ポンプで前記原水にろ過膜を通過させるろ過処理工程と、
前記ろ過膜の上流から微細気泡が混入した洗浄水を流し、前記ろ過膜の上流側に戻しながら還流させるろ過膜洗浄処理工程と、
前記ろ過膜の下流から前記ろ過膜の上流に向けて処理水を流す逆洗処理工程を有することを特徴とする。
【0027】
また、本発明のバラスト水製造装置の運転方法は、上記の工程であって、
前記ろ過膜洗浄処理工程は、
前記微細気泡が混入した洗浄水の一部が前記ろ過膜の一次側から前記ろ過膜の上流側に戻される工程を有することを特徴とする。
【0028】
また、本発明のバラスト水製造装置の運転方法は、上記の工程であって、さらに前記洗浄水の一部を貯留する一次貯留工程をさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明のバラスト水製造装置およびその運転方法では、薬液等の高価な洗浄剤を使用せずに、微生物等の付着したろ過膜を洗浄することができるので、低価格かつ環境負荷のないバラスト水製造装置を提供することができる。
【0030】
本発明のバラスト水製造装置およびその運転方法は、ろ過膜の二次側で吸引ポンプを使用せず、ろ過膜の一次側に配置した送出ポンプ1台だけで、洗浄および逆洗も行えるので、規模が小さく、船舶用のバラスト水製造装置としては好適である。また、ろ過膜を用いたろ過膜部分だけでなく、配管全体に渡って、洗浄を行うことで、微生物等を排出することができるので、航行中に配管等の中で微生物等が繁殖し、異臭を発生するといったことがない。
【0031】
また、補助戻し経路が設けられるとろ過膜の表面から沈着物を剥離させ効果的に除去することができるという効果を有する。
【0032】
また、ろ過膜洗浄の際に用いられる循環径路の途中に、分離した微生物を循環させずに保持する排水容器を設けたので、洗浄には弊害となる微生物の循環を阻止して微細気泡のみを循環させて、ろ過膜の洗浄効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のバラスト水製造装置1の構成を示す図。
【図2】バラスト水製造装置の運転方法のフローを示す図。
【図3】ろ過処理工程の弁状態と流路を示す図。
【図4】押出処理工程の弁状態と流路を示す図。
【図5】ろ過膜洗浄処理工程の弁状態と流路を示す図。
【図6】逆洗処理工程の弁状態と流路を示す図。
【図7】本発明のバラスト水製造装置2の構成を示す図。
【図8】バラスト水製造装置2の押出処理工程の弁状態と流路を示す図。
【図9】バラスト水製造装置2のろ過膜洗浄処理工程の弁状態と流路を示す図。
【図10】バラスト水製造装置2の逆洗処理工程の弁状態と流路を示す図。
【図11】本発明のバラスト水製造装置3の構成を示す図。
【図12】バラスト水製造装置3ろ過膜洗浄処理工程の弁状態と流路を示す図。
【図13】バラスト水製造装置3逆洗処理工程の弁状態と流路を示す図。
【図14】従来のバラスト水の処理装置の構成を示す図。
【図15】従来のバラスト水の処理装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下本発明の実施形態について説明するが、以下は本発明の実施形態の例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施形態を変更することができる。
【0035】
(実施の形態1)
図1に本発明のバラスト水製造装置の構成を示す。本発明のバラスト水製造装置1は、海水取入れ口10と、ポンプ12と、微細気泡発生装置14と、ろ過装置16と、貯留タンク18と、これらを連結する配管40乃至52および配管同士を連結する弁30乃至36と、弁、ろ過装置16、微細気泡発生装置14、ポンプ12を制御する制御装置20、これらを駆動するための電源装置(図示せず)等を含む。なお、本明細書を通じて「バルブ」と「弁」は同意に用いる。
【0036】
バラスト水製造装置1は、船舶に備え付けられるものであるが、それだけに限定されるのではなく、陸地に設置してもよい。従って、全体の形状は特に決まるものではなく、各構成部材が任意に配置され、連結関係だけが保持されていてもよい。
【0037】
海水取入れ口10は、船舶の底面に組み込み設置されていてもよいし、必要な時に端部が開口したパイプを海中に入れて構成してもよい。海水取入れ口10からは配管が延設される。海水取入れ口10のすぐ下流には原水切替弁30が配設される。原水切替弁30は、バラスト水製造装置1全体に海水(若しくは淡水でもよい)を流すか若しくはすでにバラスト水として処理した処理水を流すかを選択するバルブである。原水切替弁30は、図1では、三方弁として記載したが、複数の弁を組み合わせてもよい。また、原水切替弁30は、後述する制御装置20で開閉が制御できるように構成されているのが好ましい。他の弁についても同様である。
【0038】
原水切替弁30の下流にはポンプ12が配置される。すなわち、ポンプ12の入水口は原水切替弁30と連通されている。本発明のバラスト水製造装置1では、唯一のポンプである。もちろん、実際には単位時間の処理量や不測の事態のための予備として複数個のポンプを並列若しくは直列に並べておいてもよい。ポンプ12も制御装置20で運転制御が可能なように構成されているのが好ましい。ポンプ12の出水口からは配管が継続して第1戻し経路切替弁32まで配置され、ポンプ12と第1戻し経路切替弁32は連通されている。海水取入れ口10から第1戻し経路切替弁32までを送水路40と呼ぶ。なお、原水切替弁30から第1戻し経路切替弁32までを送水路40と呼ぶ場合もある。第1戻し経路切替弁32は、洗浄水を循環させたり、逆洗を行う際に使用する。詳細は後述する。
【0039】
第1戻し経路切替弁32の下流には排水切替弁34が連結されており、その下流にはろ過装置16が配置される。ろ過装置16の上流側には微細気泡発生装置14が配設されている。また、ろ過装置16の下流には第2戻し経路切替弁36が連結される。第1戻し経路切替弁32からろ過装置16をはさんで第2戻し経路切替弁36までをろ過路42と呼ぶ。排水切替弁34は、ろ過路42から船外に液体を排出する排水路44への切替バルブである。排水路44は主に洗浄後の洗浄水等が流れて放出端11より船外に排出される。
【0040】
微細気泡発生装置14は、加圧減圧法若しくは気液せん断法等の方法によって、液中に数nmから数十μmの泡を混在させる装置である。したがって、図示はしていないが、ろ過路42からの給水口とろ過路42への出水口を有している。微細気泡は表面が疎水性であるため、ろ過膜や配管に沈着した付着物表面に吸着し、付着物を剥離させる効果を有する。また、より強い殺菌力を付与するために、難溶解性のオゾンで微細気泡を作製してもよい。
【0041】
ろ過装置16は、ろ過膜16mによって原水をろ過する。ろ過膜は1種類のろ過膜である必要はなく、複数のグレードのろ過膜を並列若しくは直列にして用いてもよい。ろ過膜16mのタイプは特に限定されず、スパイラル型、中空糸型、平膜型、管型等任意に用いることができる。ろ過膜16mのグレードもNF(Nano Filtration)膜、UF(Ultra Filtration)膜、MF(Micro Filtration)膜およびRO(Reverse Osmosis)膜(逆浸透膜)等を利用することができる。特に、RO膜を最後部に配置すれば、海水から淡水を得る事ができ、海上を航行する船舶には有用である。また、ろ過装置16の前にはプレフィルタ15を配置してもよい。ろ過装置16と言った場合はこのプレフィルタ15も含むものとする。
【0042】
ここで、MF膜とは精密ろ過膜であり、通過孔の大きさが概ね0.05μmから0.5μmの膜である。また、UF膜とは限外ろ過膜であり、通過孔の大きさが概ね2から200nm(分画分子量では、5000から250000程度)である。また、NF膜とはナノろ過膜であり、通過孔の大きさが概ね1から2nmで、イオンや塩類等の阻止率が70%以下(分画分子量で100から5000)程度のものである。
【0043】
これらの膜は、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン等の高分子を材料として製造される。また、セラミック等を用いる事も出る。
【0044】
第1戻し経路切替弁32と第2戻し経路切替弁36の間をろ過装置16を介さずに連通させた配管が戻し経路46である。戻し経路46は、微細気泡を含んだ洗浄水を循環させたり、逆洗用の洗浄水を通過させるといった場合に用いられる。戻し経路46は、第1戻し経路切替弁32と第2戻し経路切替弁36に挟まれた密閉空間ともなるので、未使用時に内部を乾燥させるため、ベント等が付加されていてもよい。
【0045】
第2戻し経路切替弁36の下流には、貯留タンク18が設置されている。貯留タンク18には少なくとも微生物等が排除されたバラスト水が貯留される。従って、貯留タンク18は直接バラストタンクであってもよい。第2戻し経路切替弁36から貯留タンク18までを出水路48と呼ぶ。また、送水路40、ろ過路42、出水路48をまとめて給水経路50と呼ぶ。
【0046】
貯留タンク18には、原水切替弁30との間を液密に連通させる供給路52が配設される。貯留タンク18中のバラスト水を洗浄用として供給するための経路である。
【0047】
制御装置20は、ポンプ12、原水切替弁30、第1戻し経路切替弁32、第2戻し経路切替弁36、排水切替弁34、微細気泡発生装置14と電気的に連結されている。なお、それぞれの連結線は省略した。そしてこれらの構成要素は、制御装置20からの指示信号によってバルブの開閉、微細気泡の発生と停止、送水圧力の高低と停止といった動作を制御される。
【0048】
次に、本発明のバラスト水製造装置1の運転方法について説明する。なお、図2に本発明のバラスト水製造装置1の制御装置20の運転フローを示す。本発明のバラスト水製造装置1を動作させる際(図2ステップS100)は、原水切替弁30を海水取入れ口10側に切替え、第1戻し経路切替弁32および排水切替弁34はともに送水路40とろ過路42を連通させ、第2戻し経路切替弁36はろ過路42と出水路48を連通させる。この弁の設定(以後「弁状態」と呼ぶ。)を「ろ過状態」と呼ぶ。弁状態を「ろ過状態」に設定し、ポンプ12を稼動させる。図3には、「ろ過状態」の弁状態を示す。図中三方弁で黒塗りした方向は止水している方向である。すなわち、白三角から白三角に水は流れる。
【0049】
ポンプ12が稼動を開始すると、海水取入れ口10から海水が汲み上げられ、ポンプ12を介して送水路40を流れる。そのあと第1戻し経路切替弁32と排水切替弁34を通してろ過路42を流れる。ろ過路42の途中に配置されているろ過装置16で微生物等は濾し取られる。微生物等が除去された原水はバラスト水として貯留タンク18に貯留される。なお、ろ過装置16にRO膜が用いられた場合は、バラスト水は淡水にまで処理されている。これをろ過処理工程(図2ステップS102)と呼ぶ。図3では、液体の流路を太線で表した。
【0050】
制御装置20は、出水路48の出口に設置された流水計(図示せず)若しくは貯留タンク18の水位計(図示せず)若しくは時計(図示せず)等によって、バラスト水製造装置1の運転経過時間や単位時間の処理量をモニタする。ろ過装置16のろ過膜16mの表面には微生物等が沈着してゆき、時間と共にろ過装置16の透過流束は減少する。制御装置20は、このろ過装置16の能力低下を見て、継続して処理を進めるか、洗浄工程を行うかを決める。
【0051】
これは、図2ではステップS104で表す判断の処理である。ここで「ε」は、単位時間のろ過量の最低値を表し、予め定められた値である。単位時間の処理量が「ε」より小さくなった場合は、ろ過処理工程を一度停止し、ろ過膜16mの洗浄を行う(ステップS104のY分岐)。ここでは洗浄工程に移るか否かを単位時間の処理量で判断したが、単位時間の処理量の積算値や時間で判断してもよいのは、上記に説明したとおりである。
【0052】
洗浄工程を行うと判断した場合は、まず、原水切替弁30を貯留タンク18側に切り替える。排水切替弁34、第1戻し経路切替弁32、第2戻し経路切替弁36は切り替えをしない。この弁状態を「押出状態」と呼ぶ。図4にこの状態を示す。図4中、各弁は白三角から白三角に水が流れる(以後同じである。)。この弁操作によって、給水経路50は、貯留タンク18と供給路52を介して循環する経路の一部となる。そして所定時間のろ過処理工程を行うと、給水経路50の中は、すべてバラスト水(処理水)となる。
【0053】
この操作は、給水経路50中をバラスト水で充満させるのが目的であるので、所定時間若しくは所定量だけ循環させればよい。送水路40中の海水を全て処理するためである。給水経路50中をバラスト水で充満させることができたらポンプ12を停止する。弁状態を「押出状態」にしてからポンプ12を停止するまでを押出処理工程(図2ステップS106)と呼ぶ。
【0054】
次に第1戻し経路切替弁32と第2戻し経路切替弁36で戻し経路46とろ過路42を連通させる。この弁状態を「循環状態」と呼ぶ。図5にこの状態を示す。「循環状態」は、ろ過路42と戻し経路46が閉じた経路となる。そして次に微細気泡発生装置14を始動させる。微細気泡発生装置14からは微細気泡が発生され、ろ過路42と戻し経路46中でできた閉じた経路中を循環することとなる。
【0055】
この時、ろ過装置16のろ過膜16mの表面に沈着した微生物等はろ過膜16m表面から剥離される。また、このとき、微細気泡が混入したバラスト水(これを「洗浄水」と呼ぶ。)がろ過路42と戻し経路46を循環するため、これらの経路中も洗浄されることとなる。この洗浄も所定時間行う。弁状態を「循環状態」にして微細気泡発生装置14を駆動させる間をろ過膜洗浄処理工程(図2ステップS108)と呼ぶ。
【0056】
次に、原水切替弁30は供給路52と送水路40をつなぎ、第1戻し経路切替弁32は送水路40と戻し経路46をつなぎ、第2戻し経路切替弁36は戻し経路46とろ過路42をつなぎ、排水切替弁34はろ過装置16側のろ過路42と排水路44をつなぐ。この弁状態を「逆洗状態」と呼ぶ。図6にこの状態を示す。そして、ポンプ12を始動させる。すると、貯留タンク18中のバラスト水(処理水)が、原水切替弁30を介して送水路40に流れ込み、第1戻し経路切替弁32から戻し経路46を逆流し、第2戻し経路切替弁36からろ過装置16の下流側に流れる。
【0057】
すなわち、ろ過装置16の下流側から上流側に向かってバラスト水(処理水)が流れ、ろ過膜16mの逆洗を行う。ろ過膜16mの表面から剥離された微生物等は、逆洗によって排水切替弁34を介し、排水路44を通って船外に放出される。この逆洗もろ過路42中の洗浄水を微生物等と共に押し出せばよいので、所定量もしくは所定時間行えばよい。弁状態を「逆洗状態」として、ポンプ12でバラスト水を流す操作を逆洗処理工程(図2ステップS110)と呼ぶ。
【0058】
洗浄工程は以上の押出処理工程(図2ステップS106)と、ろ過膜洗浄処理工程(図2ステップS108)と、逆洗処理工程(図2ステップS110)をこの順で行うことをいう。この洗浄工程で、ろ過装置16のろ過膜16mの微生物等は除去される。また、バラスト水製造装置1の配管中からも微生物等は除去される。そして、バラスト水の製造は十分であるか否かを判断し(図2ステップS112)、バラスト水の製造を継続する場合(図2ステップS112のN分岐)は、弁状態を「ろ過状態」(図3)に設定し、ポンプを駆動する(図2ステップS102)。若しくはこれでバラスト水の製造を終了する場合(図2ステップS112のY分岐)は、配管中の水をリークさせる等の後処理工程を行い(図2ステップS114)、作業を終了する(図2ステップS116)。
【0059】
以上の弁の切替および微細気泡発生装置14やポンプ12の起動および停止の動作は、全て制御装置20が行うことができ、簡便な作業で微生物等の含まれないバラスト水を得る事ができる。なお、これらの動作は制御装置20が行っているので、出水路48中に微生物等の自動検知装置を付加することで、ろ過装置16に異常があった場合等、バラスト水中に微生物等が以上発生した場合は、直ちに製造を中止することができる。
【0060】
本実施の形態のバラスト水製造装置1は、ろ過膜の一次側に設置した1つのポンプ12でろ過、洗浄、逆洗といったろ過装置16に必要な工程を行うことができる。また、本発明における洗浄工程は、配管中に微生物等が残留しないので、微生物等の存在しないバラスト水を安定に得る事ができる。
【0061】
(実施の形態2)
次に図7を参照して、本発明の他の実施形態について説明する。図7に示すバラスト水製造装置2は図1のバラスト水製造装置1に、ろ過膜16mの一次側から排水路44までの補助戻し経路54と、ろ過膜16mの一時側と補助戻し経路54を開閉する補助戻し経路弁37と、補助戻し経路54が排水路44と接合した点より下流側に排水弁38を付加した構成を有する。補助戻し経路弁37と排水弁38はともに制御装置20で開閉が制御される。従って、補助戻し経路弁37を閉じることで、実施の形態1のバラスト水製造装置1同様、海水をくみ上げてろ過装置16を通過させ処理水を生成するろ過処理工程および給水経路50中をバラスト水で満たす押出処理工程を行うことができる。
【0062】
なお、本実施の形態における「ろ過状態」の弁状態は具体的には、原水切替弁30を海水取入れ口10側に切替え、第1戻し経路切替弁32および排水切替弁34はともに送水路40とろ過路42を連通させ、第2戻し経路切替弁36はろ過路42と出水路48を連通させ、補助戻し経路弁37は閉じる。この弁状態は「第2のろ過状態」と呼ぶ。
【0063】
図8には、押出処理工程の際の弁状態および流路を示す。具体的には、「第2のろ過状態」から原水切替弁30を貯留タンク18側に切り替える。排水切替弁34、第1戻し経路切替弁32、第2戻し経路切替弁36は切り替えをしない。本実施の形態における「押出状態」を「第2の押出状態」と呼ぶ。なお、弁と配管による流路は増えたが、基本的な運転方法は実施の形態1の場合と同じである。従って、運転方法は図3に示した運転フローと同じである。
【0064】
一方ろ過膜洗浄処理工程(図2ステップS108)と、逆洗処理工程(図2ステップS110)における流路は少し異なる。まず、ろ過膜洗浄処理工程であるが、弁状態は実施形態1の場合に補助戻し経路弁37の開閉が加わる。具体的には、第1戻し経路切替弁32と第2戻し経路切替弁36で戻し経路46とろ過路42を連通させ、補助戻し経路弁37を開き、排水弁38は閉じる。なお、この弁状態を「第2の循環状態」と呼ぶ。図9にこの時の弁状態および流路を示す。
【0065】
具体的な運転方法は、「第2の押出状態」(図8)を経て、「第2の循環状態」(図9)に至り、微細気泡発生装置14を始動させる。ここで、発生させられた微細気泡はろ過膜16mに衝突した後、ろ過膜16mに沿って流れ、微細気泡発生装置14の上流側に至る経路(補助戻し経路54および排水路44)が形成されている(図8参照)。ここでは、排水切替弁34は、三方向全て通過させるように制御される。つまり、実施の形態1では、洗浄水がろ過膜16mを通過する際に沈着物を剥離させていたが、本実施の形態のバラスト水製造装置2は、ろ過膜16mに沿って流れる流路ができたために、剥離力がより増加する。
【0066】
図10を参照して、ろ過膜洗浄処理工程が終了したら、弁状態を「第2の逆洗状態」としてポンプ12を始動させる。「第2の逆洗状態」は、具体的には、原水切替弁30は供給路52と送水路40をつなぎ、第1戻し経路切替弁32は送水路40と戻し経路46をつなぎ、第2戻し経路切替弁36は戻し経路46とろ過路42をつなぎ、排水切替弁34はろ過装置16側のろ過路42と排水路44をつなぎ、補助戻し経路弁37および排水弁38は開く。この弁操作によって、処理水がろ過膜16mを逆洗し、補助戻し経路54に残った付着物とろ過路42に残った付着物を全て船外に排出することができる。
【0067】
以上のように、本実施の形態のバラスト水製造装置2は、ろ過膜16mの一次側から排水路44に連通する補助戻し経路54を設けたので、ろ過膜16mの表面を洗浄水が流れる流路ができ、ろ過膜16m表面の付着物をより効果的に剥離させることができる。
【0068】
(実施の形態3)
図11に本実施の形態のバラスト水製造装置3の構成を示す。本実施の形態のバラスト水製造装置3では、実施の形態2で示したバラスト水製造装置2の補助戻し経路54の途中に排水容器22を付加した構成となっている。これはろ過膜洗浄処理工程(図2ステップS108)で利用されるものであるので、ろ過膜洗浄処理工程について説明する。なお、ろ過処理工程および押出処理工程の弁状態は実施の形態2で示したバラスト水製造装置2を同じである。また、運転方法のフローが実施の形態1の場合と同じであるのは実施の形態2の場合と同じである。
【0069】
図12を参照して、ろ過膜洗浄処理工程では、弁状態は、「第3の循環状態」とする。具体的には、第1戻し経路切替弁32と第2戻し経路切替弁36で戻し経路46とろ過路42を連通させ、補助戻し経路弁37を開き、排水切替弁34は、ろ過路42同士を連通させる。そして、微細気泡発生装置14を駆動させる。微細気泡が含まれる洗浄水は、戻し経路46を循環する流れと、ろ過膜16mの一次側に接続された補助戻し経路54によってろ過膜16mの表面に沿って補助戻し経路54への流れができる。
【0070】
この補助戻し経路54側に流れた洗浄水はろ過膜16m表面から剥離した付着物が多く残留している。そこで、洗浄過程において補助戻し経路54を流れる洗浄水を排水容器22に一次貯留する。これを一次貯留工程と呼ぶ。このようにすると、補助戻し経路54から排水路44を経由して循環する流れはなくなるが、ろ過膜16m表面の付着物を、戻し経路46およびろ過路42で形成された循環路中に存在させないという効果がある。これによって、より微生物等が存在しないバラスト水を製造することができる。
【0071】
図13には、本実施の形態における逆洗処理工程の弁状態と流路を示す。本実施の形態における弁状態を「第3の逆洗状態」と呼ぶ。具体的には、原水切替弁30は供給路52と送水路40をつなぎ、第1戻し経路切替弁32は送水路40と戻し経路46をつなぎ、第2戻し経路切替弁36は戻し経路46とろ過路42をつなぎ、排水切替弁34はろ過路42と排水路44をつなぎ、補助戻し経路弁37と排水弁38は共に開く。
【0072】
このようにすることで、配管中はもとより、排水容器22に貯留したろ過装置16を洗浄した後の水をバラスト水で船外に押し出すことができ、ろ過装置16と配管および排水容器22とも微生物等のいない状態にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のバラスト水製造装置およびその運転方法は、バラスト水の製造に好適に利用することができるが、原水は特に海水や自然状態で得られる淡水とは限定されないので、広く水を浄化する装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1、2、3 バラスト水製造装置
10 海水取入れ口
11 放出端
12 ポンプ
14 微細気泡発生装置
16 ろ過装置
18 貯留タンク
20 制御装置
22 排水容器
30 原水切替弁
32 第1戻し経路切替弁
34 排水切替弁
36 第2戻し経路切替弁
37 補助戻し経路弁
38 排水弁
40 送水路
42 ろ過路
44 排水路
46 戻し経路
48 出水路
50 給水経路
52 供給路
54 補助戻し経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水をくみ上げてバラスト水を製造するバラスト水製造装置であって、
海水取入れ口から原水切替弁を介してポンプに連結され、前記ポンプの出水口から第1戻し経路切替弁に連結された送水路と、
前記第1戻し経路切替弁から微細気泡発生装置とろ過装置を介して第2戻し経路切替弁に連結されたろ過路と、
前記第2戻し経路切替弁から貯留タンクまで連結された出水路とを含む給水経路と、
前記第2戻し経路切替弁から前記第1戻し切替弁までを連通させた戻し経路と、
前記貯留タンクから前記原水切替弁まで連通させた供給路と、
前記微細気泡発生装置から前記ポンプまでの間に設定された排水切替弁と、
前記排水切替弁から放水端まで連結された排水路を有するバラスト水製造装置。
【請求項2】
前記排水路に設置された排水弁と、
前記ろ過装置のろ過膜の一次側から前記排水弁の上流に連結された補助戻し経路が形成された請求項1に記載されたバラスト水製造装置。
【請求項3】
前記補助戻し経路中に排水容器を配設したことを特徴とする請求項2に記載されたバラスト水製造装置。
【請求項4】
原水を取り込み、ポンプで前記原水にろ過膜を通過させるろ過処理工程と、
前記ろ過膜の上流から微細気泡が混入した洗浄水を流し、前記ろ過膜の上流側に戻しながら還流させるろ過膜洗浄処理工程と、
前記ろ過膜の下流から前記ろ過膜の上流に向けて処理水を流す逆洗処理工程を有するバラスト水製造装置の運転方法。
【請求項5】
前記ろ過膜洗浄処理工程は、
前記微細気泡が混入した洗浄水の一部が前記ろ過膜の一次側から前記ろ過膜の上流側に戻される工程を有する請求項4に記載されたバラスト水製造装置の運転方法。
【請求項6】
前記洗浄水の一部を貯留する一次貯留工程をさらに有する請求項5に記載されたバラスト水製造装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−206025(P2012−206025A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73839(P2011−73839)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】