説明

バランス修正用加工データの演算装置

【課題】除去対象部の形状に基づいて作成された参照データを使用して、2回目以降の除去加工時にも実加工深さを算出できるようにする。
【解決手段】2回目以降の除去加工における、回転中心から見た第1方位と第2方位の実加工深さを算出するバランス修正用加工データの演算装置20。第1方位と第2方位は、残存するアンバランスの測定方位を間に挟む。これまでになされた各除去加工について、該除去加工で除去されたアンバランス量と該アンバランス量の方位とからなるデータを既除去アンバランスデータとし、これまでになされた各除去加工の既除去アンバランスデータを合成したデータを合成既除去アンバランスデータとする。合成既除去アンバランスデータに基づいて、測定残存アンバランスデータが示すアンバランスを無くすための、第1方位と第2方位の実加工深さを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の除去対象部を複数回除去加工して回転体のアンバランスを除去する場合に、2回目以降の除去加工における、回転中心から見た第1方位と第2方位の実除去加工深さを算出するバランス修正用加工データの演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体は、回転機械に設けられ、その軸を中心として回転する。本発明の対象となる回転機械は、流体と力を及ぼし合う回転翼が回転体に設けられた流体機械である。この回転機械には、原動機と被動機がある。原動機は、流体が回転翼に作用させる圧力により回転体が回転駆動されることで、流体の持つエネルギーを回転運動エネルギーに変換する。原動機としては、例えば、ガスタービン(軸流タービン、ラジアルタービン)がある。被動機は、回転駆動されている回転翼が流体に圧力を作用させることで、回転運動エネルギーを流体に与える。被動機としては、例えば、圧縮機(遠心圧縮機、航空エンジンなどに設けられる軸流圧縮機、斜流圧縮機、横流圧縮機、ポンプ)がある。また、本発明の対象となる回転機械には、原動機と被動機の両方の機能を持つ過給機もある。
【0003】
回転機械の回転体のバランス修正は、この回転体のアンバランスを測定し、この測定アンバランスデータに従って、回転体における除去対象部を除去加工することで行う。以下、この例では、除去加工が切削であるとして説明する。測定アンバランスデータは、どの方位(即ち、回転中心から見た方位。以下同様)に、アンバランス量としてどれだけの重量モーメント(即ち、アンバランス質量と、回転中心から該アンバランス質量の重心までの距離との積。以下同様)があるかを示すデータである。測定アンバランスデータが示す方位において、測定アンバランスデータが示す重量モーメントに相当する量を切削することで、回転体のアンバランスを除去する。本願では、回転体の回転中心を単に回転中心ともいう。
【0004】
回転体の除去対象部において、回転中心から半径方向外端までの距離が方位によって異なる場合には、バランスを正確に修正できない。即ち、図1は、回転体の軸方向から見た除去対象部13a(この例では、6角ナット)である。図1の斜線部分は、切削工具11a(この例では、エンドミル)である。図1において、回転体の軸方向から見て、切削工具11aの一部を除去対象部13aの外周部に重複させた状態で、切削工具11aが回転しながら軸方向に除去対象部11a内へ移動して切削する。この場合、方位Dαと方位Dβで、同じ半径方向位置において軸方向に同じ深さだけ除去対象部13aを切削しても、回転中心Cから半径方向外端までの距離が方位によって異なるので、方位Dαと方位Dβとの間で切削量が異なってしまう。
そこで、従来では、切削する方位と量を補正していた(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−19948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、回転中心から半径方向外端までの距離が方位によって異なる除去対象部の場合、除去対象部の形状に基づいて、どの方位にどれだけの量を切削したら、どの方位にどれだけアンバランス量が除去されるかを示す近似式やテーブルなどの参照データを予め用意しておくことが考えられる。このような参照データに測定アンバランスデータを適用することで、実加工方位(実切削方位)と実加工深さ(実切削深さ)を求めることができる。
【0007】
しかし、複数回の切削を行う場合には、上述の参照データを使用できない。回転体の除去対象部を1回切削するだけでは、アンバランスを除去しきれない場合がある。この場合には、複数回の切削を行う必要がある。2回目以降の切削においては、1回目の切削により除去対象部の形状が変わっているため、上述の参照データを使用できない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、回転体の除去対象部を複数回除去加工(例えば切削)して回転体のアンバランスを除去する場合に、2回目以降の除去加工においても、次に除去加工すべき実加工深さを高精度に算出できるようにすることにある。
また、本発明の別の目的は、上述のような参照データを使用して実加工深さを求める場合に、2回目以降の除去加工時にも上述の参照データを使用して次に除去加工すべき実加工深さを高精度に算出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によると、回転体の除去対象部を複数回除去加工して回転体のアンバランスを除去する場合に、2回目以降の除去加工における、回転中心から見た第1方位と第2方位の実加工深さを算出するバランス修正用加工データの演算装置であって、
前記回転体の回転軸方向から見た場合に、前記回転中心から第1方位に延びる仮想半直線を第1半直線とし、前記回転中心から第2方位に延びる仮想半直線を第2半直線とし、これまでの除去加工後に前記回転体に残存するアンバランスの測定方位に前記回転中心から延びる仮想半直線を第3半直線とし、第1半直線と第2半直線で挟まれる領域内に第3半直線が含まれ、かつ、回転中心にある該領域の頂点の角度が180度より小さくなるように、第1方位と第2方位が定められ、
これまでになされた各除去加工について、該除去加工で除去されたアンバランス量と該アンバランス量の方位とからなるデータを既除去アンバランスデータとし、これまでになされた各除去加工の既除去アンバランスデータを合成したデータを合成既除去アンバランスデータとし、
これまでの除去加工後に前記回転体に残存するアンバランス量の測定値と、該アンバランス量が存在する前記測定方位とからなるデータを測定残存アンバランスデータとし、
合成既除去アンバランスデータに基づいて、測定残存アンバランスデータが示すアンバランスを無くすための、第1方位と第2方位の実加工深さを算出する、ことを特徴とするバランス修正用加工データの演算装置が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によると、記憶部、データ特定部、および加工データ算出部を備え、
記憶部は、参照データを記憶し、参照データは、仮加工方位と、仮加工深さと、該仮加工方位および仮加工深さに従って除去対象部を仮に除去加工した場合に除去されるアンバランス量および該アンバランス量の方位からなる仮除去アンバランスデータと、を互いに対応付けたものを1組として、複数組の仮加工方位と仮加工深さと仮除去アンバランスデータとからなり、
第1方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータと第2方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータとの合成データを合成仮除去アンバランスデータとし、
データ特定部は、合成仮除去アンバランスデータと合成既除去アンバランスデータとのデータ差を補正後除去アンバランスデータとして生成し、該補正後除去アンバランスデータが測定残存アンバランスデータに最も近くなる合成仮除去アンバランスデータと、該合成仮除去アンバランスデータの周辺にある1つまたは2つ以上の合成仮除去アンバランスデータとを特定し、
加工データ算出部は、特定された複数の合成仮除去アンバランスデータと参照データとを用いて、第1方位と第2方位の実加工深さを算出する。
【0011】
好ましくは、加工データ算出部は、
特定された複数の合成仮除去アンバランスデータからそれぞれ生成された複数の補正後除去アンバランスデータを、当該複数の合成仮除去アンバランスデータをそれぞれ構成する複数対の仮除去アンバランスデータに変換する写像関数を生成し、
前記測定残存アンバランスデータを前記写像関数に適用することで、1対の基準除去アンバランスデータを算出し、
データ特定部は、
算出された各基準除去アンバランスデータについて、該基準除去アンバランスデータに最も近い仮除去アンバランスデータと、該仮除去アンバランスデータの周辺にある1つまたは2つ以上の仮除去アンバランスデータとを参照データから抽出し、
加工データ算出部は、
一方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された前記複数の仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工深さに基づいて、第1方位の実加工深さを算出し、
他方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された前記複数の仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工深さに基づいて、第2方位の実加工深さを算出する。
【0012】
より好ましくは、加工データ算出部は、
一方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された複数の仮除去アンバランスデータを、これら仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工方位および仮加工深さに変換する写像関数を生成し、
一方の基準除去アンバランスデータを該写像関数に適用することで得られる仮加工深さを第1方位の実加工深さとし、
他方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された複数の仮除去アンバランスデータを、これら仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工方位および仮加工深さに変換する写像関数を生成し、
他方の基準除去アンバランスデータを該写像関数に適用することで得られる仮加工深さを第2方位の実加工深さとする。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明によると、2回目以降の除去加工において、これまでの除去加工後に前記回転体に残存するアンバランスの測定方位を挟む第1方位と第2方位を次の加工方位とし、これまでになされた各除去加工の既除去アンバランスデータを合成したデータを合成既除去アンバランスデータとし、合成既除去アンバランスデータに基づいて、測定残存アンバランスデータが示すアンバランスを無くすための第1方位と第2方位の実加工深さを算出する。このように、これまでになされた各除去加工を反映した合成既除去アンバランスデータを利用することで、2回目以降の除去加工においても、次に除去加工すべき実加工深さを高精度に算出できるようになる。具体的には、次の通りである。
【0014】
第1方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータと、第2方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータとの合成データを合成仮除去アンバランスデータとし、データ特定部は、合成仮除去アンバランスデータと合成既除去アンバランスデータとのデータ差を補正後除去アンバランスデータとして生成するので、補正後除去アンバランスデータは、これまでになされた各除去加工の既除去アンバランスデータの影響を参照データから高精度に除いたデータとなる。その後、データ特定部は、補正後除去アンバランスデータが測定残存アンバランスデータに最も近くなる合成仮除去アンバランスデータと、該合成仮除去アンバランスデータの周辺にある1つまたは2つ以上の合成仮除去アンバランスデータとを特定し、加工データ算出部は、特定されたこれら複数の合成仮除去アンバランスデータと参照データに基づいて、第1方位と第2方位の実加工深さを算出するので、2回目以降の除去加工時にも参照データを使用して次に除去加工すべき第1方位と第2方位の実加工深さを高精度に算出できる。本発明の実施形態により得られる他の効果は後述する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】除去対象部における方位による除去加工量の違いを示す図である。
【図2】回転機械のバランス修正装置、および、本発明の実施形態によるバランス修正用加工データの演算装置を示す。
【図3】図2のIII−III矢視図である。
【図4】(A)は、図2の演算装置が利用する1番目のデータテーブルを示し、(B)は、p(=β)番目のデータテーブルを示す。
【図5】横軸が重量モーメントMであり、縦軸が方位φである2次元平面である。
【図6】横軸が重量モーメントMであり、縦軸が方位φである別の2次元平面である。
【図7】加工方位および加工深さの説明図である。
【図8】図2の演算装置が算出したデータに基づいて過給機の回転体のバランスを修正する場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
本発明のバランス修正用加工データの演算装置は、回転機械のバランス修正装置に使用される加工データを算出する。
【0018】
[バランス修正装置]
図2と図3に基づいて、回転機械のバランス修正装置10を説明する。図3は、図2のIII−III矢視図である。バランス修正装置10は、支持体3、加速度センサ5、角度センサ7、演算器9、および加工装置11を備える。
【0019】
支持体3は、回転機械の回転体13を支持する。回転体13は、支持体3に支持された状態で、回転体13の軸Cを中心に回転可能である。なお、支持体3の一部は、回転機械の静止側部材により構成されてもよい。
【0020】
加速度センサ5は、支持体3に取り付けられる。加速度センサ5は、回転体13が回転している状態で、支持体3の加速度(即ち、振動)を検出し、検出した加速度を演算器9に出力する。加速度センサ5は、例えば磁気センサであってよい。
【0021】
角度センサ7は、回転体13の回転角を検出し、検出した回転角を演算器9に出力する。この回転角は、回転体13が1回転することでゼロ度〜360度まで変化する。即ち、回転角は、所定の始点となる回転体13の回転位相(始点回転角)から回転体13が回転した角度を示す。
【0022】
演算器9は、加速度センサ5が検出した前記加速度と角度センサ7が検出した前記回転角との関係を表す振動データを生成し、さらに、この振動データから、影響係数を用いて回転体13の後述する測定アンバランスデータを算出する。なお、影響係数は、予め取得しておく。影響係数は、例えば、回転体13に試し錘を取り付けること等により回転体13にバランス変化を与え、このバランス変化による振動データ(前記と同様の振動データ)の変化に基づいて算出される。
【0023】
加工装置11は、本発明の演算装置20が出力する後述の実加工深さA、実加工方位θ、および半径方向位置Rに従って回転体13の一端部の除去対象部13aを除去加工する。本実施形態では、加工装置11は、回転体13の除去対象部13aを除去加工(切削)する加工部11a(エンドミルなどの切削工具)と、該加工部11aを3次元的(例えば、図2の互いに直交するX軸方向、Y軸方向、Z軸方向)に移動させる駆動機構11bと、該駆動機構11bの動作を制御することで加工部11aの位置を制御する位置制御部11cとを有する。位置制御部11cは、加工部11a(例えば、回転駆動されている状態のエンドミル11a)が、実加工方位θおよび半径方向位置Rに位置決めされた状態で、基準軸方向位置から実加工深さAだけ軸方向(回転体13の軸Cと平行な方向。以下同様)に移動するように駆動機構11bを制御する。基準軸方向位置は、除去対象部13aがまだ1回も除去加工されていない場合に、加工部11aが軸方向に除去対象部13aの軸方向端面に接触する位置である。例えば、第1方位を除去加工する場合には、位置制御部11cは、加工部11aが、第1方位および半径方向位置Rに位置決めされた状態で、基準軸方向位置から実加工深さAだけ軸方向に移動するように駆動機構11bを制御する。この場合、この除去加工が、第1方位において2回目の除去加工である場合には、加工部11aは、1回目の加工深さに到達するまでは、除去対象部13aを実質的に除去加工しないので、実質的に除去加工する深さは、実加工深さAから1回目の加工深さを引いた深さとなる。
除去対象部13aは、回転中心から半径方向外端までの距離が方位によって異なる。図3では、除去対象部13aは、軸Cの方向から見た形状が6角形(好ましくは正6角形)である6角ナットである。
【0024】
図2のように、回転機構14を設けてもよい。回転機構14は、回転体13の他端部を把持して回転体13を回転させ、これにより、回転体13の回転方向位置を調節する。回転機構14は、図示を省略するが、例えば、回転体13の他端部を把持する把持機構(例えばコレットチャック)と、当該把持機構を、回転体13の回転軸C周りに回転させる回転駆動機構と、回転駆動機構を制御して回転体13の回転方向位置を調節する制御部と、を備える。
【0025】
[バランス修正用加工データの演算装置]
ここで、後述の図7(A)に基づいて、第1方位と第2方位を説明しておく。図7(A)は、除去対象部13aを前記回転体13の回転軸方向から見た図である。図7(A)に示すように、前記回転体13の回転軸方向から見た場合に、前記回転中心Cから第1方位Daに延びる仮想半直線L、前記回転中心Cから第2方位に延びる仮想半直線L、および、前記回転中心Cから、これまでの除去加工後に前記回転体に残存するアンバランスの測定方位Dc(即ち、残存するアンバランス質量の重心が存在する方位)へ延びる仮想半直線Lを、それぞれ第1半直線、第2半直線、および第3半直線とし、第1半直線Lと第2半直線Lに挟まれる領域であり、回転中心Cにある頂点の角度Xが180度より小さい該領域内に、第3半直線Lが含まれるように第1方位Daと第2方位Dbが定められる。
第1方位Daと第2方位Dbとは、予め設定された3つ以上の複数の設定方位(例えば、位相が60度ずつ異なる6つの設定方位)から演算装置20により選択されて決定されてよい。例えば、これら複数の設定方位のうち、前記測定方位Dcに最も近い方位を第1方位Daとするように演算装置20により選択されてよい。前記複数の設定方位は、これらすべての設定方位において加工部11aが除去対象部13aを除去加工した場合に、除去対象部13aおける除去加工された各設定方位の領域が、互いに重複しないように互いに隔たっている。また、前記各設定方位以外の方位では、除去加工しないものとする。なお、第1方位Daと第2方位Dbとは、図7の例では、回転中心Cから6角ナット13aの頂点へ延びる半直線の方向であるが、回転中心Cから6角ナット13aの頂点以外の点へ延びる半直線の方向であってもよい。
これまでになされた各除去加工について、該除去加工で除去されたアンバランス量と該アンバランス量の方位とからなるデータを既除去アンバランスデータとし、これまでになされた各除去加工の既除去アンバランスデータを合成したデータを合成既除去アンバランスデータとする。また、これまでの除去加工後に回転体13に残存するアンバランス量の測定値と、該アンバランス量が存在する前記測定方位とからなるデータを測定残存アンバランスデータとする。
演算装置20は、合成既除去アンバランスデータに基づいて、測定残存アンバランスデータが示すアンバランスを無くすための、第1方位と第2方位の実加工深さを算出する。なお、演算装置20は、除去対象部13aを1回目に除去加工する時の実加工方位(実切削方位)および実加工深さも算出できてよい。
演算装置20は、後述する手順で、「1回目の実加工方位および実加工深さの算出」および「2回目以降の実加工方位および実加工深さの算出」を行うためのプログラムを記憶している。また、演算装置20は、そのプログラムを実行させる機能を有している。
【0026】
本願において、方位は、回転中心周りの位置を意味し、半径方向位置は、回転中心に対する半径方向の位置を意味する。また、好ましくは、加工部11aが除去対象部13aを除去加工する半径方向位置は方位によらず一定である。さらに、図1のように、回転体13の軸方向から見て、加工部の一部のみが除去対象部13aの外周部に重複する半径方向に加工部が位置決めされた状態で、加工部11aが回転しながら軸方向に除去対象部13a内へ移動して除去加工する場合に、本発明は特に有利である。
【0027】
記憶部21は、参照データを記憶する。参照データは、仮加工方位(仮切削方位)と、仮加工深さ(仮切削深さ)と、該仮加工方位および仮加工深さに従って除去対象部13aを仮に除去加工した場合に除去されるアンバランス量および該アンバランス量の方位からなる仮除去アンバランスデータとを互いに対応付けたものを1組として、複数組の仮加工方位と仮加工深さと仮除去アンバランスデータとからなる。
【0028】
データ特定部23は、上述の合成既除去アンバランスデータと下記の合成仮除去アンバランスデータとのデータ差を補正後除去アンバランスデータとして生成する。合成仮除去アンバランスデータは、第1方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータと、第2方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータとの合成データである。データ特定部23は、さらに、補正後除去アンバランスデータが測定残存アンバランスデータに最も近くなる合成仮除去アンバランスデータと、該合成仮除去アンバランスデータの周辺にある(即ち、該合成仮除去アンバランスデータに近い)1つまたは2つ以上の合成仮除去アンバランスデータとを特定する。
【0029】
加工データ算出部25は、特定された複数の合成仮除去アンバランスデータと参照データとを用いて、第1方位と第2方位の実加工深さを算出する。
【0030】
好ましくは、次の演算を行う。加工データ算出部25は、特定された複数の合成仮除去アンバランスデータからそれぞれ生成された複数の補正後除去アンバランスデータを、当該複数の合成仮除去アンバランスデータをそれぞれ構成する複数対の仮除去アンバランスデータに変換する写像関数を生成し、前記測定残存アンバランスデータを前記写像関数に適用することで、1対の基準除去アンバランスデータを算出する。
データ特定部23は、算出された各基準除去アンバランスデータについて、該基準除去アンバランスデータに最も近い仮除去アンバランスデータと、該仮除去アンバランスデータの周辺にある(即ち、該仮除去アンバランスデータに近い)1つまたは2つ以上の仮除去アンバランスデータとを参照データから抽出する。
加工データ算出部25は、第1方位に対応する一方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された前記複数の仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工深さに基づいて、第1方位の実加工深さを算出し、第2方位に対応する他方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された前記複数の仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工深さに基づいて、第2方位の実加工深さを算出する。
【0031】
より好ましくは、次の演算を行う。加工データ算出部25は、一方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された複数の仮除去アンバランスデータを、これら仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工方位および仮加工深さに変換する写像関数を生成し、一方の基準除去アンバランスデータを該写像関数に適用することで得られる仮加工深さを第1方位の実加工深さとする。
また、加工データ算出部25は、他方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された複数の仮除去アンバランスデータを、これら仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工方位および仮加工深さに変換する写像関数を生成し、他方の基準除去アンバランスデータを該写像関数に適用することで得られる仮加工深さを第2方位の実加工深さとする。
【0032】
以下、最初に、上述の演算装置20により1回目の実加工方位および実加工深さを算出する場合を説明し、その後、2回目以降の実加工方位および実加工深さを算出する本実施形態をより詳細に説明する。
【0033】
[1回目の実加工方位および実加工深さの算出]
(測定アンバランスデータについて)
測定アンバランスデータVUBを、次式(1)により複素数で表す。

UB = MUB(cosφUB+isinφUB) ・・・(1)

ここで、iは、虚数単位であり、MUBは、現時点で回転体13に存在する測定アンバランス量であり、φUBは、該測定アンバランス量の方位(即ち、アンバランスが存在する方位であってアンバランス質量の重心の方位)である。この方位は、回転中心周りの位置を示す0〜360度の角度である。
測定アンバランス量MUBの次元は、回転体13におけるアンバランスの質量を、当該質量の重心と回転中心との距離に乗算したものである。
【0034】
(参照データについて)
図4(A)は、記憶部21が記憶する加工データと仮除去アンバランスデータを表すデータテーブル(即ち、参照データ)である。図4(A)のデータテーブルは、n行のデータからなる。加工データ(仮加工方位、仮加工深さ、および半径方向位置R)と仮除去アンバランスデータとは、上述のように互いに対応付けられているが、図4(A)では、同じデータ番号mの行の各値同士が対応付けられている。
【0035】
以下の説明において、mは、仮加工方位θ、半径方向位置R、仮除去アンバランスデータV、仮除去アンバランス量M、仮除去アンバランス量の方位φに付される添え字を意味する。この添え字mは、図4(A)のデータ番号を示し、1〜nの間の整数である(即ち、m=1,2,・・・,α−1,α,α+1,・・・n)。
【0036】
仮加工方位θは、除去対象部13aにおける回転中心周りの角度(0〜360度の値)である。半径方向位置Rは、除去対象部13aにおける回転中心に対する半径方向の位置であり、データ番号mの値によらず一定である。図4(A)において、仮加工方位θが、0度または0度付近の角度であり、データ番号mの値が増加するにつれθの値が増加し、θが、360度または360度付近の角度となる。好ましくは、mの値が1つ増加すると、θの値が0.1度〜1度の間の大きさで増加する。
【0037】
仮加工深さAは、除去対象部13aを除去加工で除去する質量に相当する。仮加工深さAは、図2において、加工部11a(エンドミル)が、半径方向位置Rと仮加工方位に位置決めされた状態で、回転しながら、上述の基準軸方向位置から、除去加工を終了するまでに、軸方向(図2の左側)に移動する距離である。この場合、仮除去アンバランスデータV(即ち、仮除去アンバランス量Mおよびこれの方位φ)は、図4(A)において該仮除去アンバランスデータVと同じ行の仮加工深さA、仮加工方位θおよび半径方向位置Rと、除去対象部13aの寸法および形状データ(例えばCADデータ)と、除去対象部13aの密度と、加工部11aの寸法および形状とに基づいて予め算出される。図4(A)において、仮加工深さAは、データ番号mによらず一定値である。
【0038】
仮除去アンバランスデータVは、仮除去アンバランス量(仮除去重量モーメント)Mと、該仮除去アンバランス量Mの方位φとからなる。仮除去アンバランス量Mは、図4(A)においてこれに対応する加工データに従って除去対象部13aをした場合に除去されるアンバランス量の大きさである。仮除去アンバランス量Mの次元は、回転体13において除去されるアンバランスの質量を、当該質量の重心と回転中心との距離に乗算したものである。方位φは、図4(A)においてこれに対応する加工データに従って除去対象部13aをした場合に除去されるアンバランスの質量の重心の方位である。また、方位φは、除去対象部13aにおける回転中心周りの角度(0〜360度の値)である。
【0039】
図4(A)と同様のデータテーブル(参照データ)が、各仮加工深さ毎に設けられる。k個の仮加工深さ毎に図4(A)と同様のデータテーブルを記憶部21に記憶させる。これらk個の仮加工深さを、それぞれ、A(即ち、図4(A)の仮加工深さ)、A、A、・・・、Aとする。以下において、pを仮加工深さAの添え字として、仮加工深さAをpにより区別する。各仮加工深さA(p:1〜kまでの整数)のデータテーブルは、該仮加工深さAを一定にして、図4(A)と同様に、互いに対応付けられたn行の該仮加工深さA、仮加工方位θ、半径方向位置R、仮除去アンバランス量M、および方位φを含む。また、これらk個のデータテーブルの間で、同じデータ番号mにおいて仮加工方位θと半径方向位置Rは同じである。これらk個の各データテーブルにおいて、仮除去アンバランスデータV(即ち、仮除去アンバランス量Mおよび方位φ)は、上述と同じ方法で予め定められ、半径方向位置Rはデータ番号mによらず一定である。なお、測定アンバランスデータVUBの取り得る範囲において、後述のようにVUBを4つの仮除去アンバランスデータで囲めるようにkの値を十分大きく定める。
【0040】
以下、各記号において、各データテーブル内のデータ番号を上述の添え字mで示すとともに、何番目のデータテーブル(即ち、仮加工深さA)であるかを上述の添え字pで示す。図4(B)は、k個のデータテーブルのうちp(=β)番目のデータテーブルを示す。即ち、pは、テーブル番号であり、p=1,2,・・・,β−1,β,β+1,・・・kである。
【0041】
(データ抽出について)
仮除去アンバランスデータVm,pを、次式(2)により複素数で表す。

m,p=Mm,p(cosφm,p+isinφm,p) ・・・(2)

ここで、iは虚数単位である。
データ特定部23は、次の|Vm,p−VUB|が最も小さいVm,pと、該Vm,pの周辺にある1つまたは2つ以上のVm,pとを記憶部21内の参照データから抽出する。なお、VUBは、上式(1)の測定アンバランスデータである。

|Vm,p−VUB

=|Mm,p(cosφm,p+isinφm,p
−MUB(cosφUB+isinφUB)|

=|Mm,pcosφm,p−MUBcosφUB
+i(Mm,psinφm,p−MUBsinφUB)|

={(Mm,pcosφm,p−MUBcosφUB
+(Mm,psinφm,p−MUBsinφUB1/2

【0042】
この例では、データ特定部23は、2段階の処理により、VUBに最も近いVm,pと当該Vm,pの周辺にある3つのVm,pとを記憶部21内のデータから特定して抽出する。好ましくは、図5の2次元平面上において、VUBの位置を囲める、VUBにできるだけ近い4つのVm,pを記憶部21内のデータから特定して抽出する。
【0043】
・1段階目の処理
まず、データ特定部23は、k個のデータテーブルの中から|Vm,p−VUB|が一番小さくなるデータ番号mとテーブル番号pを特定する。ここでは、m=α、p=βで、|Vm,p−VUB|が一番小さくなるとして、データ特定部23は、β番目のデータテーブルにおけるデータ番号αの仮除去アンバランスデータVα,βをVUBに一番近いとして抽出する。
次に、データ特定部23は、βを固定して、αに関してVα,βに隣接するデータを抽出する。即ち、データ特定部23は、β番目のデータテーブルの中から、データ番号α−1の仮除去アンバランスデータVα−1,βと、データ番号α+1の仮除去アンバランスデータVα+1,βとを抽出する。
同様に、データ特定部23は、αを固定して、βに関してVα,βに隣接するデータを抽出する。即ち、データ特定部23は、β−1番目のデータテーブルにおけるデータ番号αのデータVα,β−1と、β+1番目のデータテーブルにおけるデータ番号αのデータVα,β+1とを抽出する。
このように、データ特定部23は、5つの仮除去アンバランスデータVα,β、Vα−1,β、Vα+1,β、Vα,β−1、Vα,β+1を抽出する。
【0044】
・2段階目の処理
横軸がアンバランス量Mであり、縦軸が方位φである2次元平面を考える。この2次元平面を図5に示す。図5において、1段階目の処理により抽出された5つの量Vα,β、Vα−1,β、Vα+1,β、Vα,β−1、Vα,β+1とVUBの位置を示す。図5の2次元平面において、以下のように、VUBを囲む4つのVm,pを特定する。
まず、図5のように、1段階目の処理によりVUBに一番近いとして抽出されたVα,βの位置から、1段階目の処理により抽出された他の4つのVα−1,β、Vα,β+1、Vα+1,β、Vα,β−1の位置までそれぞれ延びる4つのベクトルを分割ベクトルD(D,D,D,D)として定める。その後、Vα,βの位置を一端として延び、4つの分割ベクトルDをそれぞれ含む4つの半直線HL(HL,HL,HL,HL)を考える。データ特定部23は、これら4つの半直線HLの中から、VUBの位置を含む領域を挟む隣接する2つの半直線HLを特定する。図5の例では、特定された隣接する2つの半直線HL,HLで挟まれる領域を斜線で示している。データ特定部23は、このような隣接する2つの半直線を特定したら、これら2つの半直線で挟まれる領域内にあって、かつ、Vα,βとαが1つだけ異なりβが1つだけ異なる新たなVm,pを、上述したk個のデータテーブルから抽出する。図5の例では、この新たなVm,pは、Vα+1,β−1である。
次いで、データ特定部23は、図5の2次元平面上でVUBを囲む4つのVm,pとして、Vα,β、Vα,β−1、Vα+1,β、Vα+1,β−1を特定する。即ち、Vα,βと、上述のように特定した隣接する2つの半直線にそれぞれ含まれる分割ベクトルDが示す2つのデータVm,p(図5の例では、Vα,β−1とVα+1,β)と、上述のように抽出した新たなVm,p(図5の例では、Vα+1,β−1)とを、VUBが示す位置を囲む4つの位置を示すVm,pとして特定する。これらVUBを囲む4つのVm,pが、データ特定部23により、VUBに最も近いVm,p、および当該Vm,pの周辺にある3つのVm,pであるとして抽出される複数の仮除去アンバランスデータである。
【0045】
(写像関数について)
加工データ算出部25は、データ特定部23が抽出したVUBに最も近いVm,p、および当該Vm,pの周辺にある1つまたは2つ以上のVm,p(図5の例では、Vα,β、Vα,β−1、Vα+1,β、Vα+1,β−1)を、これらに対応する加工データに変換する写像関数を算出する。写像関数は、この例では、図5の2次元平面上の点(Mm,p,φm,p)を、横軸が仮加工深さAであり縦軸が仮加工方位θである2次元平面上の点(A,θ)に移す線形写像である(ただし、本発明によると、写像関数は、線形写像に限定されず、線形写像以外のものであってもよい)。この線形写像を次式(3)、(4)で表す。

=a11m,p+a12φm,p+b ・・・(3)

θ=a21m,p+a22φm,p+b ・・・(4)

ここで、a11,a12,a21,a22,b,bは定数である。また、式(3)、(4)において、Mm,p、φm,pは、データ特定部23が上述のように抽出したVUBに最も近い仮除去アンバランスデータVm,p、または、当該仮除去アンバランスデータVm,pの周辺にある1つまたは2つ以上の仮除去アンバランスデータVm,pであり、A、θは、これら複数の仮除去アンバランスデータに対応付けられた参照データ内の仮加工深さと仮加工方位である。
加工データ算出部25は、上式(3)、(4)の定数a11,a12,a21,a22,b,bを次のように算出する。図5の例では、Vα,β=(Mα,β,φα,β)を上式(3)、(4)に適用すると、(Aβ,θα)に変換され、Vα,β−1=(Mα,β−1,φα,β−1)を上式(3)、(4)に適用すると、(Aβ−1,θα)に変換され、Vα+1,β=(Mα+1,β,φα+1,β)を上式(3)、(4)に適用すると、(Aβ,θα+1)に変換され、Vα+1,β−1=(Mα+1,β−1,φα+1,β−1)を上式(3)、(4)に適用すると、(Aβ−1,θα+1)に変換されるa11,a12,a21,a22,b,bを最小二乗法で求める。具体的には,次の値Sが最小となるa11,a12,a21,a22,b,bを算出する。

S={Aβ−(a11α,β+a12φα,β+b)}
+{θα−(a21α,β+a22φα,β+b)}
+{Aβ−1−(a11α,β−1+a12φα,β−1+b)}
+{θα−(a21α,β−1+a22φα,β−1+b)}
+{Aβ−(a11α+1,β+a12φα+1,β+b)}
+{θα+1−(a21α+1,β+a22φα+1,β+b)}
+{Aβ−1−(a11α+1,β−1+a12φα+1,β−1+b)}
+{θα+1−(a21α+1,β−1+a22φα+1,β−1+b)}

【0046】
加工データ算出部25は、このように算出した写像関数にMUBとφUBを適用することで実加工深さAと実加工方位θを算出する。具体的には、次式(5)、(6)により、実加工深さAと加工方位θを算出する。

A=a11UB+a12φUB+b ・・・(5)

θ=a21UB+a22φUB+b ・・・(6)

【0047】
[2回目以降の実加工方位および実加工深さの算出]
(各データについて)
補正後除去アンバランスデータ、合成仮除去アンバランスデータ、測定残存アンバランスデータ、合成既除去アンバランスデータを次のように表す。

補正後除去アンバランスデータ:Vm,p+Vm’,p’−V
合成仮除去アンバランスデータ:Vm,p+Vm’,p’
測定残存アンバランスデータ:νUB
合成既除去アンバランスデータ:V

【0048】
上述の各記号は、次の式(7)〜(10)で表現される。

νUB=MUB(cosφUB+isinφUB) ・・・(7)

m,p=Mm,p(cosφm,p+isinφm,p) ・・・(8)

m’,p’=Mm’,p’(cosφm’,p’+isinφm’,p’) ・・・(9)

=Σm(cosφ+isinφ) ・・・(10)

νUBは、現時点で回転体13に残存するアンバランス量MUB(測定値)と、当該アンバランス量MUBの方位φUBとからなる
ここで、φm,pは第1方位に最も近い(一番近い)仮加工方位であり、φm’,p’は第2方位に最も近い(一番近い)仮加工方位である。φm’,p’=φm,p+φであり、φ(例えば60度)により、φm,p<φUB<φm’,p’となる。即ち、Vm,p、Vm’,p’の方位でνUBの方位を挟む。第1方位と第2方位は、予め定められている方位である。なお、仮加工方位φm,pと仮加工方位φm’,p’の差φが、実加工方位および実加工深さを算出する毎に変化せず一定(例えば60度)となるように参照データを作成してアルゴリズムを組んでもよいし、仮加工方位φm,pと仮加工方位φm’,p’の差φが、実加工方位および実加工深さを算出する毎に変化し得るように参照データを作成してアルゴリズムを組んでもよい。
例えば、φm,pのデータ番号mは、1回目の除去加工がなされた実加工方位θに一番近い参照データ内の仮加工方位θのデータ番号mである。ここでは、m=α、m’=α’であるとする。以下、m=α、m’=α’として説明する。
m,p、Vm’,p’の添え字m、pは上述の通りであるが、m、pに付せられた「’」は、Vm,pとVm’,p’とを単に識別するためのものである。
の式において、Σはjについての和である。jは、何回目の除去加工であるかを示す。例えば、除去対象部13aをまだ1回しか除去加工していない場合には、V=m(cosφ+isinφ)であり、除去対象部13aをまだ2回しか除去加工していない場合には、V=m(cosφ+isinφ)+m(cosφ+isinφ)である。このように、Vの式において、jは、これまでになされた各除去加工を互いに識別するものであり、Σにより、これまでになされた各除去加工の既除去アンバランスデータを合成し、この合成されたデータがVである。
【0049】
合成既除去アンバランスデータVは、過去の加工データから算出してよい。例えば、まだ1回しか除去対象部13aを除去加工していない場合であって、1回目の実加工深さと実加工方位が上式(5)、(6)で算出した実加工深さAと実加工方位θ(第1方位であるとする)である場合に、実加工深さAを間に挟み、かつ、実加工深さAに最も近い2つの仮加工深さA、Ap+1(この例では、pの増加によりAが増加する。即ち、A≦A≦Ap+1)とそれぞれ同じテーブル番号を有する2つの仮除去アンバランスデータVα,p,Vα,p+1であって、仮加工方位が第1方位に最も近くなるデータ番号m=αである当該2つの仮除去アンバランスデータVα,p,Vα,p+1を参照データから抽出する。Vα,p,Vα,p+1は、次式(11)、(12)で表される。

α,p=Mα,p(cosφα,p+isinφα,p) ・・・(11)

α,p+1=Mα,p+1(cosφα,p+1+isinφα,p+1) ・・・(12)

この場合、次式(13)で表すVは、次のように線形補完式(14)、(15)により算出される。

=m(cosφ+isinφ) ・・・(13)

=(Mα,p+1−Mα,p)×(A−Aα,p)÷(Aα,p+1−Aα,p)+Mα,p
・・・(14)

φ=(φα,p+1−φα,p)×(A−Aα,p)÷(Aα,p+1−Aα,p)+φα,p
・・・(15)

なお、既に2回以上除去加工している場合も、Vを構成するm、φ、m、φも上式(14)、(15)と同様の線形補完式により算出されてよい。ただし、2回目またはそれ以降の回の実加工深さとして、実質的に除去加工した深さを線形補完式に適用する。即ち、2回目またはそれ以降の回の除去加工が、既に除去加工されている実加工方位の除去加工であった場合には、当該回の時に既に除去加工されている深さを、当該回における前記基準軸方向位置からの実加工深さから引いたものを線形補完式に適用する。
【0050】
(データ抽出について)
データ特定部23は、補正後除去アンバランスデータVα,p+Vα’,p’−Vが測定残存アンバランスデータνUBに最も近くなる1対の仮除去アンバランスデータVα,p、Vα’,p’と、該1対の仮除去アンバランスデータVα,p、Vα’,p’ の周辺にあるデータとなる1対または2対以上の仮除去アンバランスデータVα,p、Vα’,p’ とを参照データから抽出する。
即ち、データ特定部23は、次式(16)のWが最小になる複数対の仮除去アンバランスデータVα,p、Vα’,p’を参照データから抽出する。

W=|νUB−(Vα,p+Vα’,p’−V)| ・・・(16)

【0051】
ここで、上式(16)について、Vα,p+Vα’,p’−V=ν(p,p’)とする。
上式(16)のWを最小にすることは、補正後除去アンバランスデータν(p,p’)がνUBに最も近いことと同じである。
この例では、データ特定部23は、図6の2次元平面上でνUBが示す位置に最も近いν(p,p’)、および該ν(p,p’)の周辺にある1つまたは2つ以上のν(p,p’)として、νUBを囲めることができ、かつνUBにできるだけ近い4つのν(p,p’)を特定するために、これら4つのν(p,p’)を特定するpとp’を参照データから抽出する。例えば、データ特定部23は、νUBを囲むこれら4つのν(p,p’)として、ν(t,u)、ν(t+1,u)、ν(t,u+1)、ν(t+1,u+1)を特定して抽出すると仮定する。なお、ν(t,u)は、参照データから抽出できるpとp’の全通りの組み合わせのうち、νUBに一番位置が近くなる組み合わせで生成されるデータである。
なお、図6は、横軸座標の単位が重量モーメント(質量×半径)であり、縦軸座標の単位が方位φである2次元平面を示す。
【0052】
(実加工方位と実加工深さについて)
4つのν(p,p’)をそれぞれ参照データ内の1対の仮除去アンバランスデータVα,p、Vα’,p’(即ち、仮除去アンバランスモーメントMα,p、Mα’,p’と該仮除去アンバランスモーメントの方位φα,p、φα’,p’)に変換する写像関数を次式(17)〜(20)のように生成する。

α,p=a11ν+a12ν+b ・・・(17)

φα,p=a21ν+a22ν+b ・・・(18)

α’,p’=a31ν+a32ν+b ・・・(19)

φα’,p’=a41ν+a42ν+b ・・・(20)

ここで、ν、νは、データ特定部23が特定して抽出した4つのν(p,p’)の各々の横軸座標と縦軸座標である。
上式(17)〜(20)の定数a11,a21,a31,a41,a12,a22,a32,a42,b,b,b,bを次のように算出する。図6の例では、νt,uを上式(17)〜(20)に適用すると、1対の仮除去アンバランスデータVα,t、Vα’,uに変換され、νt+1,uを上式(17)〜(20)に適用すると、1対の仮除去アンバランスデータVα,t+1、Vα’,uに変換され、νt,u+1を上式(17)〜(20)に適用すると、1対の仮除去アンバランスデータVα,t、Vα’,u+1に変換され、νt+1,u+1を上式(17)〜(20)に適用すると、1対の仮除去アンバランスデータVα,t+1、Vα’,u+1に変換されるa11,a21,a31,a41,a12,a22,a32,a42,b,b,b,bを、上式(3)、(4)の場合と同様に最小二乗法で求める。
【0053】
加工データ算出部25は、このように算出した写像関数にνUB=MUB(cosφUB+isinφUB)を適用することで、1対の基準除去アンバランスデータ(即ち、1対のアンバランス量M、M’とその方位φ、φ’)を算出する。具体的には、次式(21)〜(24)により、1対のアンバランス量M、M’とその方位φ、φ’を算出する。

M=a11UB+a12φUB+b ・・・(21)

φ=a21UB+a22φUB+b ・・・(22)

M’=a31UB+a32φUB+b ・・・(23)

φ’=a41UB+a42φUB+b ・・・(24)

ここで、MUB、φUBは、図6におけるνUBの横軸座標と縦軸座標である。
【0054】
MおよびφとM’およびφ’は、以下のように次回除去加工する2方位の加工データとなる。
上式(21)で算出されたMを、上式(1)のMUBであるとし、上式(22)で算出されたφを上式(1)のφUBであるとして、データ特定部23は、上式(1)の測定アンバランスデータVUB=MUB(cosφUB+isinφUB)を生成する。次いで、演算装置20は、このように生成したVUBを上式(1)の測定アンバランスデータであるとして、[1回目の実加工方位および実加工深さの算出]と同じ方法で、VUBに最も近い仮除去アンバランスデータVm,p、および当該仮除去アンバランスデータVm,pの周辺にある1つまたは2つ以上の仮除去アンバランスデータVm,pを参照データから抽出し、上式(3)、(4)と同様に、これら複数の仮除去アンバランスデータを、これらに対応する加工データに変換する写像関数を算出し、該写像関数にVUB=MUB(cosφUB+isinφUB)を適用することで、実加工深さAと実加工方位θを算出する。ここで、実加工深さAと実加工方位θのうち実加工深さAのみを使用する。即ち、この実加工深さAを第1方位における実加工深さとする。
同様に、上式(23)で算出されたM’を、上式(1)のMUBであるとし、上式(24)で算出されたφ’を上式(1)のφUBであるとして、データ特定部23は、上式(1)の測定アンバランスデータVUB=MUB(cosφUB+isinφUB)を生成する。次いで、演算装置20は、このように生成したVUBを上式(1)の測定アンバランスデータであるとして、[1回目の実加工方位および実加工深さの算出]と同じ方法で、VUBに最も近い仮除去アンバランスデータVm,p、および当該仮除去アンバランスデータVm,pの周辺にある1つまたは2つ以上の仮除去アンバランスデータVm,pを参照データから抽出し、上式(3)、(4)と同様に、これら複数の仮除去アンバランスデータを、これらに対応する加工データに変換する写像関数を算出し、該写像関数にVUB=MUB(cosφUB+isinφUB)を適用することで、実加工深さAと実加工方位θを算出する。ここで、実加工深さAと実加工方位θのうち実加工深さAのみを使用する。即ち、この実加工深さAを第2方位における実加工深さとする。
【0055】
(本実施形態の効果)
上述した本発明の実施形態によるバランス修正用加工データの演算装置20では、2回目以降の除去加工において、これまでの除去加工後に回転体13に残存するアンバランスの測定方位を間に挟む第1方位と第2方位を次の加工方位とし、これまでになされた各除去加工の既除去アンバランスデータを合成したデータを合成既除去アンバランスデータとし、合成既除去アンバランスデータに基づいて、測定残存アンバランスデータが示すアンバランスを無くすための第1方位と第2方位の実加工深さを算出する。このように、これまでになされた各除去加工を反映した合成既除去アンバランスデータを利用することで、2回目以降の除去加工においても、次に除去加工すべき実加工深さを高精度に算出できるようになる。
【0056】
第1方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータと、第2方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータとの合成データを合成仮除去アンバランスデータとし、データ特定部23は、合成仮除去アンバランスデータと合成既除去アンバランスデータとのデータ差を補正後除去アンバランスデータとして生成するので、補正後除去アンバランスデータは、これまでになされた各除去加工の既除去アンバランスデータの影響を参照データから高精度に除いたデータとなる。好ましい一例では、νUBの位置を囲むことができ、かつ当該νUBにできるだけ近い4つの補正後除去アンバランスデータν(p,p’)と、これらν(p,p’)に対応する仮除去アンバランスデータとに基づいて、νUB近傍での局所的な近似式(例えば、上式(17)〜(20))を使用することで、第1方位と第2方位の基準除去アンバランスデータを取得し、さらに、各基準除去アンバランスデータに最も近い仮除去アンバランスデータVm,p、および当該仮除去アンバランスデータVm,pの周辺にある1つまたは2つ以上の仮除去アンバランスデータVm,pを抽出し、各基準除去アンバランスデータVUB近傍での局所的な近似式(例えば、上式(3)、(4))を使用することで、第1方位と第2方位の実加工深さの算出精度を向上させることができる。
【0057】
[除去加工]
(1回目の除去加工)
演算装置20は、算出した上述の式(5)、(6)の実加工深さAおよび実加工方位θを、加工装置11の位置制御部11cに出力する。位置制御部11cは、入力された実加工深さAおよび実加工方位θに基づいて、加工部11aが、該実加工方位θおよび半径方向位置Rに位置決めされた状態で、上述の基準軸方向位置から実加工深さAだけ軸方向に移動するように駆動機構11bを制御する。これにより、実加工方位θにおいて、除去対象部13aが軸方向に実加工深さAだけ除去加工される。
【0058】
(2回目以降の除去加工)
演算装置20は、上述のように算出した第1方位の実加工深さおよび第2方位の実加工深さを、加工装置11の位置制御部11cに出力する。位置制御部11cは、入力された第1方位の実加工深さに基づいて、加工部11aが、第1方位および半径方向位置Rに位置決めされた状態で、上述の基準軸方向位置から当該実加工深さだけ軸方向に移動するように駆動機構11bを制御する。これにより、第1方位において、除去対象部13aが軸方向に前記実加工深さだけ除去加工される。その後、位置制御部11cは、入力された第2方位の実加工深さに基づいて、加工部11aが、第2方位および半径方向位置Rに位置決めされた状態で、上述の基準軸方向位置から当該実加工深さだけ軸方向に移動するように駆動機構11bを制御する。これにより、第2方位において、除去対象部13aが軸方向に前記実加工深さだけ除去加工される。
【0059】
(方位の位置決め調整)
上述の「1回目の除去加工」および「2回目以降の除去加工」において、演算装置20が算出して出力した除去対象部13aにおける実加工方位θと、加工部11aの方位とを一致させる制御は、次の第1および第2の手法のいずれかで行ってよい。
第1の手法では、加工部11aの位置が、図2のY軸方向およびZ軸方向において一定である場合に、演算装置20が出力する実加工方位θに基づいて、回転機構14が、除去対象部13aにおける当該実加工方位θを、加工部11aの既知の方位に一致させるように回転体13を上述のように回転させる。その後、回転機構14は、加工部11aによる除去加工中に回転体13が回転しないように、回転体13の回転方向位置を一定に保持することで、実加工方位θと加工部11aの方位とが一致した状態を維持する。
第2の手法では、演算装置20が出力する実加工方位θに基づいて、位置制御部11cが、除去対象部13aにおける当該実加工方位θに、加工部11の方位を一致させるように、加工部11aを移動させる制御を駆動機構11bに対し行う。なお、このようなな位置決めの制御時から加工部11aによる除去加工が終了するまで、回転機構14は、回転体13の他端部を把持して回転体13が回転しないように回転体13の回転方向位置を一定に維持する。
【0060】
(加工方位および加工深さ)
図7(A)は、1回目の除去加工後の除去対象部13aを示す。図7(A)の左側は、図3の部分拡大図であり除去対象部13aを示し、図7(A)の右側は、図7(A)の左側のX−X矢視図である。具体的には、図7(A)は、1回目の除去加工で、加工装置11により、除去対象部13aの第1方位Daにおいて、軸方向基準位置S(基準面S)から実加工深さd1だけ除去加工した場合を示す。なお、図7(A)において、符号42は、1回目の除去加工で除去加工された部分を示す。
一方、図7(B)は、図7(A)の状態から、2回目の除去加工を行った後の除去対象部13aを示す。図7(B)の左側は、図7(A)に対応し、図7(B)の右側は、図7(B)の左側のX−X矢視図である。この例では、図7(B)に示すように、2回目の除去加工で、加工装置11により、除去対象部13aの第1方位Daにおいて、軸方向基準位置S(基準面S)から実加工深さd2だけ除去加工している。さらに、図7(B)に示すように、2回目の除去加工で、加工装置11により、除去対象部13aの第2方位Dbにおいて、軸方向基準位置S(基準面S)から実加工深さd3だけ除去加工している。図7(B)おいて、符号43は、2回目の除去加工で除去加工された部分を示す。
なお、図7の例では、第1方位Daと第2方位Dbは、それぞれ、6角ナットの頂点に一致しているが、一致していなくてもよい。また、図7の例では、第1方位Daと第2方位Dbとのずれ角は、60度であるが、他の角度であってもよい。
【0061】
[過給機への適用例]
図8を用いて、回転機械が過給機である場合を説明する。図8において、過給機の回転体13は、図8に示すように、エンジンの排ガスにより回転駆動されるタービン翼31と、タービン翼31と一体的に回転することで圧縮空気をエンジンに供給するコンプレッサ翼33と、一端部にタービン翼31が結合され他端部にコンプレッサ翼33が結合される回転軸35と、を有する。また、過給機は、回転体13を回転可能に支持する静止側部材37を有する。図8の例では、静止側部材37は、回転体13(回転軸35)を回転可能に支持する軸受37a,37bが内部に組み込まれる軸受ハウジングである。また、過給機は、タービン翼31を内部に収容するタービンハウジング41と、コンプレッサ翼33を内部に収容するコンプレッサハウジング(図8では取り外されている)と、を備える。タービンハウジング41には、タービン翼31を回転駆動する流体を流す流路(スクロール)が形成されている。タービンハウジング41は、支持体3の内部に取り付けられる。タービン翼31を駆動する流体をタービンハウジング41の前記流路へ供給でき、タービン翼31を駆動した当該流体を支持体3の外部へ排出できるように支持体3が構成されている。
【0062】
また、支持体3は、タービンハウジング41を介して、または直接、軸受ハウジング37を支持する。図8では、回転体13の除去対象部13aは、コンプレッサ翼33側の端部にあり、この例では6角ナットである。図8では、角度センサ7と加工装置11は、共にコンプレッサ翼33側に設けられているが、角度センサ7を使用する時には、加工装置11の加工部11aが角度センサ7に干渉しない位置へ退避し、加工装置11を使用する時には、角度センサ7が加工装置11に干渉しない位置へ退避する。
【0063】
上述のように演算装置20の加工データ算出部25が算出した1回目または2回目以降の実加工深さAと実加工方位θ、および半径方向位置Rに従って、位置制御部11cが加工装置11を制御することで、高精度なアンバランス修正が可能となる。即ち、位置制御部11cは、加工部11aが、実加工方位θおよび半径方向位置Rに位置決めされた状態で上述の基準軸方向位置から実加工深さAだけ軸方向に移動するように駆動機構11bを制御する。特に、2回目以降については、位置制御部11cは、加工部11aが、第1方位θおよび半径方向位置Rに位置決めされた状態で上述の基準軸方向位置から第1方位の実加工深さAだけ軸方向に移動するとともに、加工部11aが、第2方位θおよび半径方向位置Rに位置決めされた状態で上述の基準軸方向位置から第2方位の実加工深さAだけ軸方向に移動するように駆動機構11bを制御する。
【0064】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、下記の変更点を単独でまたは組み合わせて採用してよい。
【0065】
1回目の除去加工については、上述の実施形態以外の方法で実加工方位と実加工深さを求めてもよい。例えば、上述の参照データを使用して1回目の実加工方位と実加工深さを算出してもよいが、単に、VUBに一番近い仮除去アンバランスデータが参照データ内で対応する仮加工方位と仮加工深さを1回目の実加工方位と実加工深さとしてもよい。
【0066】
また、本発明によると、除去対象部13aは、6角ナットに限定されず、回転軸C周りに関して回転対称性を持つ他の形状のものであってもよい。例えば.除去対象部13aは、12角ナットであってもよく、コンプレッサインペラのコンプレッサ翼33の基端部33a(図8を参照)や、他の部分であってもよい。
【0067】
さらに、データ特定部23は、上述の例では、[1回目の実加工方位および実加工深さの算出]において、VUBに最も近い仮除去アンバランスデータVm,p、および当該仮除去アンバランスデータVm,pの周辺にある3つの仮除去アンバランスデータVm,pを参照データから特定して抽出したが、本発明によると、データ特定部23は、VUBに最も近い仮除去アンバランスデータVm,p、および当該仮除去アンバランスデータVm,pの周辺にある1つ、2つ、または4つ以上の仮除去アンバランスデータVm,pを参照データから特定して抽出してもよい。この場合、他の処理、構成は上述の実施形態と同じでよい。また、データ特定部23は、上述の例では、[2回目以降の実加工方位および実加工深さの算出]において、νUBに最も近い補正後仮除去アンバランスデータν(p,p’)、および当該補正後仮除去アンバランスデータν(p,p’)の周辺にある3つの補正後仮除去アンバランスデータν(p,p’)を参照データから特定したが、本発明によると、データ特定部23は、νUBに最も近い補正後仮除去アンバランスデータν(p,p’)、および当該補正後仮除去アンバランスデータν(p,p’)の周辺にある1つ、2つまたは4つ以上の補正後仮除去アンバランスデータν(p,p’)を参照データから特定してもよい。この場合、他の処理、構成は上述の実施形態と同じでよい。
【0068】
上述の実施形態では、除去対象部13aは、回転中心から半径方向外端までの距離が方位によって異なっていたが、回転中心から半径方向外端までの距離が方位によらず一定である除去対象部(即ち、円柱状の除去対象部)にも本発明を適用可能である。この場合、円柱状の除去対象部について参照データを予め作成しておく。
また、除去対象部13aが、回転軸C周りに関して回転対称性を持たない非多角形部や非対称部であっても、除去対象部13aのCADデータさえあれば、360度分の参照データを予め作成することで、本発明を実施できる。
【0069】
また、上述の実施形態では、加工部11aは、軸方向に除去対象部13aを除去加工したが、加工部11aが半径方向に除去対象部13aを除去加工する場合にも、本発明を適用できる。この場合には、加工部11aが半径方向に除去対象部13aを除去加工することを前提として、上述の参照データが作成され、上述の基準軸方向位置は、基準半径方向位置に変更され、他の点は、半径方向の切削に合わせて適宜変更されるが、変更を要しない点は、上述の実施形態と同じであってよい。
【0070】
本発明では、回転体のアンバランスを除去するために、除去加工により除去対象部13aの一部を除去するが、除去加工は、切削以外の他の加工(例えばレーザ加工)であってもよい。
【0071】
3 支持体、5 加速度センサ、7 角度センサ、
9 演算器、10 バランス修正装置、11 加工装置、
11a 加工部、11b 駆動機構、11c 位置制御部、
13 回転体、13a 除去対象部、14 回転機構、
20 バランス修正用加工データの演算装置、
21 記憶部、23 データ特定部、25 加工データ算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の除去対象部を複数回除去加工して回転体のアンバランスを除去する場合に、2回目以降の除去加工における、回転中心から見た第1方位と第2方位の実加工深さを算出するバランス修正用加工データの演算装置であって、
前記回転体の回転軸方向から見た場合に、前記回転中心から第1方位に延びる仮想半直線を第1半直線とし、前記回転中心から第2方位に延びる仮想半直線を第2半直線とし、これまでの除去加工後に前記回転体に残存するアンバランスの測定方位に前記回転中心から延びる仮想半直線を第3半直線とし、第1半直線と第2半直線で挟まれる領域内に第3半直線が含まれ、かつ、回転中心にある該領域の頂点の角度が180度より小さくなるように、第1方位と第2方位が定められ、
これまでになされた各除去加工について、該除去加工で除去されたアンバランス量と該アンバランス量の方位とからなるデータを既除去アンバランスデータとし、これまでになされた各除去加工の既除去アンバランスデータを合成したデータを合成既除去アンバランスデータとし、
これまでの除去加工後に前記回転体に残存するアンバランス量の測定値と、該アンバランス量が存在する前記測定方位とからなるデータを測定残存アンバランスデータとし、
合成既除去アンバランスデータに基づいて、測定残存アンバランスデータが示すアンバランスを無くすための、第1方位と第2方位の実加工深さを算出する、ことを特徴とするバランス修正用加工データの演算装置。
【請求項2】
記憶部、データ特定部、および加工データ算出部を備え、
記憶部は、参照データを記憶し、参照データは、仮加工方位と、仮加工深さと、該仮加工方位および仮加工深さに従って除去対象部を仮に除去加工した場合に除去されるアンバランス量および該アンバランス量の方位からなる仮除去アンバランスデータと、を互いに対応付けたものを1組として、複数組の仮加工方位と仮加工深さと仮除去アンバランスデータとからなり、
第1方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータと第2方位に最も近い仮加工方位を含む1つの仮除去アンバランスデータとの合成データを合成仮除去アンバランスデータとし、
データ特定部は、合成仮除去アンバランスデータと合成既除去アンバランスデータとのデータ差を補正後除去アンバランスデータとして生成し、該補正後除去アンバランスデータが測定残存アンバランスデータに最も近くなる合成仮除去アンバランスデータと、該合成仮除去アンバランスデータの周辺にある1つまたは2つ以上の合成仮除去アンバランスデータとを特定し、
加工データ算出部は、特定された複数の合成仮除去アンバランスデータと参照データとを用いて、第1方位と第2方位の実加工深さを算出する、ことを特徴とする請求項1に記載のバランス修正用加工データの演算装置。
【請求項3】
加工データ算出部は、
特定された複数の合成仮除去アンバランスデータからそれぞれ生成された複数の補正後除去アンバランスデータを、当該複数の合成仮除去アンバランスデータをそれぞれ構成する複数対の仮除去アンバランスデータに変換する写像関数を生成し、
前記測定残存アンバランスデータを前記写像関数に適用することで、1対の基準除去アンバランスデータを算出し、
データ特定部は、
算出された各基準除去アンバランスデータについて、該基準除去アンバランスデータに最も近い仮除去アンバランスデータと、該仮除去アンバランスデータの周辺にある1つまたは2つ以上の仮除去アンバランスデータとを参照データから抽出し、
加工データ算出部は、
一方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された前記複数の仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工深さに基づいて、第1方位の実加工深さを算出し、
他方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された前記複数の仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工深さに基づいて、第2方位の実加工深さを算出する、ことを特徴とする請求項2に記載のバランス修正用加工データの演算装置。
【請求項4】
加工データ算出部は、
一方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された複数の仮除去アンバランスデータを、これら仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工方位および仮加工深さに変換する写像関数を生成し、
一方の基準除去アンバランスデータを該写像関数に適用することで得られる仮加工深さを第1方位の実加工深さとし、
他方の基準除去アンバランスデータについて、抽出された複数の仮除去アンバランスデータを、これら仮除去アンバランスデータに対応する複数の仮加工方位および仮加工深さに変換する写像関数を生成し、
他方の基準除去アンバランスデータを該写像関数に適用することで得られる仮加工深さを第2方位の実加工深さとする、ことを特徴とする請求項3に記載のバランス修正用加工データの演算装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−128113(P2011−128113A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289361(P2009−289361)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】