説明

バリア層または封入としての疎水性線状または2次元の多環式芳香族化合物からなる層の使用およびこのタイプの層により構築され、有機ポリマーを含む電子部品

本発明は、有機層により構築され、ラジカル基として−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基および/またはフッ化炭化水素を有する金属を含有するか含有しないフタロシアニン等の3個から12個の環構造を有する疎水性の線状または2次元の多環式芳香族化合物からなる層を含む電子部品に関し、前記層は、バリア層または封入として用いられる。このことは、特に、SM層およびポリマー層からなるハイブリッド構造物を獲得することを可能とする。加えて、部品の現場以外での封入はもはや必要がない。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
有機材料から構築される電子部品は、典型的に用いられる半導体部品に対して利点を提供するので、その可能な用途を目的として、ますます研究されるようになっている。例えば、ある種の有機材料は、通電により光を発するように励起し得ることが知られている。それゆえ、OLED(有機発光ダイオード)の多数の構造がすでに知られるようになっている。光学的に活性な層は、複数の層から適切に構成され、その場合、少なくとも1つの層は具体的には正孔形成のために(正孔注入層、HIL)、そして正孔伝導のために(正孔輸送層、HTL)構成され、別の層は具体的には電子放出のために(電子注入層、EIL)、電子輸送のために(電子輸送層、ETL)および発光のために(発光層、EML)形成されることが見いだされている。
【0002】
そのようなOLEDの既知の構造には、透明な導電性酸化物(TCO)から、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)から形成される透明なアノードが形成されているガラス基板が想定される。この構成には、例えば、HIL、HTL、EML、ETLおよびEILおよび最後に金属カソードが連続して設けられる。この構造において、光は、「下向きに」、すなわち基板を通るように放射される。
【0003】
材料の選択については、既知のタイプのOLEDは、異なる小分子(SM−OLED、小分子OLED)の層から、または異なるポリマー(PM−OLED)からかのいずれかのみから構築される。小分子は、真空昇華により薄層として基板に連続して適用される。対照的に、ポリマーは、溶液(水または有機溶媒)から加工処理される。特に、ポリマー層は、良好な正孔輸送特性を示すので、HILおよびHTLとして利点を提供する。HILとして好適な既知の分子は、例えば、アントラセン、テトラセン、およびペンタセンである(EP0278758B1を参照されたい)。
【0004】
小さな有機分子で構成される層の適用は問題が少なく、ポリマーから構成される層は正孔伝導について利点を提供するので、それらの層の組み合わせを得る試みがなされてきた。このことは、正孔伝導に関係のあるHILおよびHTLポリマー層が湿潤状態でアノード(ITOで構成される)に適用され、続いて乾燥され、真空脱ガスされるとき通常の構造のOLEDで可能である。この場合、真空昇華による小分子の後の適用は、問題なしに可能である。
【0005】
直接光照射を可能とするために、金属カソードをいずれかの基板に適用し、次いで、電子伝導層をまず形成してから正孔伝導層を適用し、透明なアノードで終了するという逆構造のOLEDを実現するための試みがますますなされている。この構造については、ハイブリッド技術は可能ではない。正孔伝導HTLおよびHIL層の湿式形成の場合には、電子伝導層の小分子は、HTLおよび/またはHILのためのポリマーが適用される溶媒または分散剤(例えば水)により攻撃され、電気的性質の点で使用不可能となり、金属カソードもまた水分感受性であり、水との接触により破壊され得るためである。
【0006】
OLEDの層はきわめて水分劣化性であり、、第2の電極の適用後、電極の接続のみがアクセス可能であるような方式でOLEDが封入されることも知られている。
【0007】
有機材料の水分劣化性もまた他の電子部品に問題を引き起こす。
【0008】
「小分子」とポリマーとの間の上述の区別は、この技術分野では受け入れられており、慣例となっている。それゆえ、「小分子」は、重合により鎖または網状構造を形成しない有機分子である。
【0009】
それゆえ、本発明の目的は、水分感受性の結果として、および有機物質からの電子部品の構築についての拡散現象の結果として存在する制限をなくすかまたは少なくとも減少させることである。
【0010】
驚くべきことに、この目的は、有機層により構築された電子部品中のバリア層としてまたは該部品の封入として、ラジカル基として−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基および/またはフッ化炭化水素を有する、金属を含有するか含有しないフタロシアニン等の、3個から12個の環構造を有する疎水性の線状または2次元の多環式芳香族化合物で構成される層の使用により達成される。
【0011】
本発明は、特に好ましくはペンタセンにより構成される、言及された層が有機電子部品の形成において機能層となり得るのみならず、予想外にも、対応する層が下の層および金属カソードの保護のために水分に対するバリア層として用いられることを可能とするバリア層特性も有するという事実に基づいている。
【0012】
本発明により用いられる層は、好ましくは、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ペンタセン、ヘキサセン、ペリレン、トリフェニレン、コロネン、m−ナフトジアントラセン、m−アントラセノジテトラセン、m−テトラセノジペンタセン、ピレン、ベンゾピレン、オバレン、ビオラントレン、およびラジカル基−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基および/またはフッ化炭化水素を有する前述の物質の誘導体からなる群の材料から形成される。
【0013】
代わりに、層は、式
【化5】

【0014】
(式中、M=Cu、Zn、Fe、Mn、Co、Ni、V=O、Ti=Oであり、それぞれのRは−Hおよび/または−Fおよび/またはアルキル基および/またはアリール基および/またはフッ化炭化水素でありうる)の金属含有フタロシアニンから形成され得る。
【0015】
代わりに、層は、式
【化6】

【0016】
(式中、M=Cu、Zn、Fe、Mn、Co、Ni、V=O、Ti=Oであり、それぞれのRは−Hおよび/または−Fおよび/またはアルキル基および/またはアリール基および/またはフッ化炭化水素であり得る)の金属を含有しないフタロシアニンから形成され得る。
【0017】
すべての場合に、芳香族化合物の環構造の数は5〜10、好ましくは4〜10、より好ましくは5〜8であるときが好ましい。
【0018】
バリア層または封入として詳細に記載される層の例示された用途のために、該層が電気的機能を果たし、かつバリア層としてまたは現場での封入として形成されている有機電子部品を構築することが可能である。
【0019】
したがって、本発明によれば、基板、基板に適用された第1の電極、少なくとも1つの電子注入および輸送ゾーン、少なくとも1つの正孔注入および輸送ゾーン、並びに第2の電極を有する有機発光ダイオードは、正孔注入および輸送ゾーンが、ラジカル基として−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基および/またはフッ化炭化水素を有する、金属を含有するか金属を含有しないフタロシアニン等の、線状または2次元の鎖および3個から12個の環構造を有する多環式芳香族化合物で構成される層を含み、この層が封入層の形態にあるすることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、言及される層は、機能性層を形成するのみならず、現場での封入として機能する。この目的のために、その層構造は、当該層がすべてのすでに構築された水分感受性層を被覆するようなものである。
【0021】
本発明はまた、基板、基板に適用されたカソード、少なくとも1つの電子注入および輸送ゾーン、少なくとも1つの正孔注入および輸送ゾーン、並びに光透過アノードを有する有機発光ダイオードであって、電子注入および輸送ゾーンが小分子により構築され、それが、ラジカル基として−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基、および/またはフッ化炭化水素を有する、金属を含有するか金属を含有しないフタロシアニン等の、線状または2次元の鎖および3個から12個の環構造を有する多環式芳香族化合物で構成される層によりアノードに向けて結合されているダイオードも可能とする。
【0022】
それゆえ本発明は、また、ハイブリッド構造として構築され、放射が「上向き」になる、すなわち、基板側から離れた方向になる有機発光ダイオード(OLED)も可能とする。したがって、本発明は、上方に発光するOLEDの最適構造を可能とする。言及される層は、その下の層への水の拡散を防止する有効なバリア層として機能するからである。したがって、OLEDの要求操作電圧を減少させるために付加的な正孔注入層として水溶性形態で、例えばPDOT:PSSで構成される水性ポリマーフィルムをアノードにむけて、言及された層に対して好ましく適用することが可能である。
【0023】
本発明によるバリア層または封入として機能する層を形成し得る物質の例は以下の通りである。
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【0024】
明確さのために、この層の列挙された分子のすべては、それに12個までの環構造が存在するときでさえ、本発明の意味での「小分子」であることが指摘されるべきである。重合が存在しないからである。
【0025】
以下、本発明を、図面に示される実施例を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1および2に示されるOLEDは、上向きに発光する。それらは、金属層がカソード2として適用された基板1からなる。適切な金属層は、マグネシウムまたはLiF/Alで構成される合金である。
【0027】
カソード2には、既知の方式で自由電子を提供する電子注入層EILが接続している。自由電子は、以下詳細に説明される残りの層からの正孔と発光層EML中で再結合し、そこにおいて、再結合はエレクトロルミネセンスを生じさせる、すなわち、光が発光する。
【0028】
発光層EML上には、任意に、複数の正孔伝導層HTLsが配置される。それらは、示されている実施例ではペンタセンから形成され得る正孔注入層HIL1により覆われている。この層は、現実の構造において、下に存在する層を覆うように形成されるという点で封入層として用いられる。HIL1には、好ましくはインジウムスズ酸化物からなる透明なアノード3が接続している。EIL、EML、HTLsおよびHIL1層は既知の方式で薄層として形成され、カソード2に関して十分な大きさの正の電圧がアノード2にかけられるとき発光する。上向きの発光が図1の矢印により示されている。
【0029】
封入層としてのHIL1層の使用の結果として、さもなければ必要な後の(現場でではない)OLEDの封入が不要となる。それゆえ、図1による本発明のOLEDは、現場で封入され、それゆえ、その後の封入は、水蒸気に対する透過性に関してより低下した要求性の結果として実質的により単純な方式で実施され得る。
【0030】
図2に示されるOLEDにおいて、原理的に似た構造が想定され、EIL、EML、HTLsおよびHIL1層はすべて小分子からなる(SM層として)。本発明によるバリア層として用いられるHIL1層とアノード3との間に別のHIL2層が適用され、それは例えばPDOTのようなポリマー層として形成される。このHIL2ポリマー層は湿潤状態で適用されるが、しかし、HIL1のバリア層作用のために、下にある水分感受性のHTL、EMLおよびEIL層を損傷しない。
【0031】
HIL2層はアノード3とカソード2の間の使用電圧を低下させることを可能とし、図2による実施例でも上向きである発光の効率を増加させる。
【0032】
HIL2ポリマー層は水分感受性ではないので、この例においても、HIL1層が、封入層として構成されることが、すなわち、その下にあるHTL、EMLおよびEIL層を覆うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】封入層としてHIL層を有する「上向きに」発光する、すべての層がSM層の形態にあるOLEDの模式的構造。
【図2】SM層とポリマー層で構成されるハイブリッド構造を有するOLEDの模式的構造。
【符号の説明】
【0034】
1…基板、2…カソード、3…アノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル基として−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基および/またはフッ化炭化水素を有する、金属を含有するか金属を含有しないフタロシアニン等の3個から12個の環構造を有する疎水性の線状または2次元の多環式芳香族化合物で構成される層(HIL1)の、有機層により構築される電子部品中のバリア層としてまたは該部品の封入としての使用。
【請求項2】
前記層が、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ペンタセン、ヘキサセン、ペリレン、トリフェニレン、コロネン、m−ナフトジアントラセン、m−アントラセノジテトラセン、m−テトラセノジペンタセン、ピレン、ベンゾピレン、オバレン、ビオラントレンおよびラジカル基として−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基および/またはフッ化炭化水素を有する前述の物質の誘導体からなる群からの材料から形成されたものである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記層が式
【化1】

(式中、M=Cu、Zn、Fe、Mn、Co、Ni、V=O、Ti=Oであり、それぞれのRが−Hおよび/または−Fおよび/またはアルキル基および/またはアリール基および/またはフッ化炭化水素であり得る)の金属含有フタロシアニンから形成される請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記層が、式
【化2】

(式中、M=Cu、Zn、Fe、Mn、Co、Ni、V=O、Ti=Oであり、それぞれのRは、−Hおよび/または−Fおよび/またはアルキル基および/またはアリール基および/またはフッ化炭化水素であり得る)の金属を含有しないフタロシアニンから形成される請求項1に記載の使用。
【請求項5】
基板(1)、前記基板(1)に適用された第1の電極(2)、少なくとも1つの電子注入および輸送ゾーン(EIL)、少なくとも1つの正孔注入および輸送ゾーン(HTL、HIL)並びに第2の電極(3)を有する有機発光ダイオードであって、前記正孔注入および輸送ゾーン(HTL、HIL)が、ラジカル基として−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基、および/またはフッ化炭化水素を有する、金属を含有するか金属を含有しないフタロシアニン等の線状または2次元の鎖および3個から12個の環構造を有する多環式芳香族化合物で構成される層(HIL1)を含むことを特徴とする有機発光ダイオード。
【請求項6】
基板(1)、前記基板(1)に適用されたカソード(2)、少なくとも1つの電子注入および輸送ゾーン(EIL)、少なくとも1種の正孔注入および輸送ゾーン(HTL、HIL)、並びに光透過性アノード(3)を有する有機発光ダイオードであって、前記電子注入および輸送ゾーン(EIL)が小分子により構築され、それが、ラジカル基として−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基および/またはフッ化炭化水素を有する、金属を含有するか金属を含有しないフタロシアニン等の、線状または2次元の鎖および3個から12個の環構造を有する多環式芳香族化合物で構成される層によりアノード(3)に向けて結合されることを特徴とするダイオード。
【請求項7】
前記層の材料が、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ペンタセン、ヘキサセン、ペリレン、トリフェニレン、コロネン、m−ナフトジアントラセン、m−アントラセノジテトラセン、m−テトラセノジペンタセン、ピレン、ベンゾピレン、オバレン、ビオラントレン、およびラジカル基として−Hおよび/または−F、アルキル基、アリール基、および/またはフッ化炭化水素を有する前述の物質の誘導体からなる群からの材料で形成される請求項5または6に記載の有機発光ダイオード。
【請求項8】
前記層が式
【化3】

(式中、M=Cu、Zn、Fe、Mn、Co、Ni、V=O、Ti=Oであり、それぞれのRは、−Hおよび/または−Fおよび/またはアルキル基および/またはアリール基および/またはフッ化炭化水素であり得る)の金属含有フタロシアニンから形成される請求項5または6に記載の有機発光ダイオード。
【請求項9】
前記層が式
【化4】

(式中、M=Cu、Zn、Fe、Mn、Co、Ni、V=O、Ti=Oであり、それぞれのRは−Hおよび/または−Fおよび/またはアルキル基および/またはアリール基および/またはフッ化炭化水素であり得る)の金属を含有しないフタロシアニンから形成される請求項5または6に記載の有機発光ダイオード。
【請求項10】
前記層(HIL1)と前記第2の電極(3)との間に、水溶液から適用される正孔注入および輸送ポリマー層(HIL2)が適用されていることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の有機発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−501510(P2007−501510A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522229(P2006−522229)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【国際出願番号】PCT/DE2004/001775
【国際公開番号】WO2005/015959
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(503019567)テヒニシェ・ウニベルジテート・ブラウンシュバイク・カロロ−ビルヘルミナ (2)
【Fターム(参考)】