説明

バレル圧着用のクリンパー及び端子圧着装置

【課題】加締めの際の外観不良や圧着不良を防止することが可能なバレル圧着用のクリンパーと、このクリンパーを含む端子圧着装置とを提供する。
【解決手段】クリンパー26の脚状部33は、加締め空間35が存在する側にバレル押圧面36を有しており、加締めの際に用いられるようになっている。バレル押圧面36は、加締めの際にインシュレーションバレルに当接し、これを押圧しつつ傾倒させることができる部分として形成されている。バレル押圧面36は、単なる面ではなく、バレルガイド溝43となるように形成されている。バレルガイド溝43は、脚状部33の先端34から基端44へ向けて延びるように形成されている。バレルガイド溝43は、先端34の位置における溝幅W1が広く、基端44側の溝幅W2になるまで漸次溝幅が狭くなるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子のバレルを圧着するためのクリンパーと、このクリンパーを含む端子圧着装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に配索されるワイヤハーネスは、電線を束ねるようにして製造されている。ワイヤハーネスの端末には、機器等に接続されるコネクタが設けられている。コネクタは、コネクタハウジングと、このコネクタハウジングの端子収容室に収容される端子(端子金具)とを有している。
【0003】
図4(a)において、端子1は、電線2の端末に設けられている。端子1には、電気接触部3と、電線接続部4とが形成されている。図中の電気接触部3は雌型の形状に形成されている。電線接続部4には、ワイヤーバレル5と、インシュレーションバレル6とが形成されている。各バレルは、端子の軸方向から見ると略U字状となる形状に形成されている。端子1は、オープンドバレル型のものに形成されている。電線2は、導体7と、この導体7の外側に設けられる絶縁体8とを備えている。電線2は、この端末において絶縁体8が所定長さで除去されており、導体7が露出するようになっている。このような電線2の端末に対して端子1を設けると、導体7はワイヤーバレル5に圧着接続されるとともに、絶縁体8はインシュレーションバレル6に固定されるようになっている。
【0004】
図4(b)において、図中には端子1のバレル部分9の断面が示されている。このバレル部分9の上方にはクリンパー10が配設されている。また、下方にはアンビル11が配設されている。バレル部分9は、クリンパー10及びアンビル11による加締めにより、所定形状に押し潰されるようになっている。クリンパー10及びアンビル11は、端子圧着装置の一部を構成するものとなっている(例えば下記特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−124762号公報
【特許文献2】特開平6−260258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
略U字状に形成されるバレルの一方が他方に重なるようなオーバーラップ圧着と呼ばれる方式を例に挙げると、図5(a)はバレル12の一方が他方に綺麗に重なる圧着状態を示している。このような正常な圧着状態が常に形成されれば良いが、図5(b)に示す如くバレル12の一方12aが他方12bに綺麗に重ならないような圧着不良が形成されてしまうことも考えられる(円Cで示す如くズレが生じる)。圧着不良が形成されると、外観が悪くなるのは勿論のこと、圧着強度の低下を招いてしまうことになる。また、不良として扱われることから、コストアップの要因にもなってしまうことになる。
【0007】
尚、電線13は絶縁線心に限らず、編組を有する同軸ケーブルの場合もあり、バレル12の一方12aが他方12bに綺麗に重ならないようであれば、電気的特性に影響を来してしまうという虞を有している。
【0008】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、加締めの際の外観不良や圧着不良を防止することが可能なバレル圧着用のクリンパーと、このクリンパーを含む端子圧着装置とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明のバレル圧着用のクリンパーは、先端がアンビル側に向き且つ端子の軸方向から見ると溝状の加締め空間が間に形成される一対の脚状部を有するとともに、前記端子のバレルを押圧しつつ傾倒させるバレル押圧面を前記一対の脚状部の前記加締め空間側に有するバレル圧着用のクリンパーにおいて、各前記バレル押圧面は前記一対の脚状部先端から基端へ向けてのびるバレルガイド溝となるように形成されることを特徴とする。
【0010】
このような特徴を有する本発明によれば、加締めの際にバレルがバレルガイド溝によって案内される。これによりバレルの軌道が確保され、正常な圧着状態が形成される。本発明によれば、バレルの形状に多少のバラツキがあったとしても、これを吸収することが可能になる。また、圧着ミスを防止することが可能になる。
【0011】
請求項2記載の本発明のバレル圧着用のクリンパーは、請求項1に記載のバレル圧着用のクリンパーにおいて、前記バレルガイド溝は前記一対の脚状部先端から基端へ向けて漸次溝幅が狭くなるように形成されることを特徴とする。
【0012】
このような特徴を有する本発明によれば、バレルガイド溝の溝幅が漸次狭くなることから、加締めが進むにつれてバレルの軌道が矯正される。バレルガイド溝は、脚状部の先端位置で幅が広いことから、バレルを入り易くすることが可能になる。
【0013】
上記課題を解決するためになされた請求項3記載の本発明の端子圧着装置は、請求項1又は請求項2に記載のバレル圧着用のクリンパーと、該クリンパーに対向配置されるアンビルと、前記クリンパーを前記アンビルに対して近接離間させる昇降機構とを含むことを特徴とする。
【0014】
このような特徴を有する本発明によれば、請求項1又は請求項2に記載のバレル圧着用のクリンパーを含むことから、正常な圧着状態を常に形成することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された本発明によれば、バレルガイド溝を有することにより、バレルの軌道を確保して正常な圧着状態を形成することができるという効果を奏する。また、バレルの軌道を確保することにより、外観不良や圧着不良を防止することができるという効果を奏する。従って、十分な圧着強度を確保することができるとともに、不良低減やコストアップ防止を図ることができるという効果を奏する。この他、本発明によれば、バレルの形状のバラツキを吸収することや、圧着ミスの低減を図ることができるという効果を奏する。
【0016】
請求項2に記載された本発明によれば、バレルを入り易くしつつ軌道を確保することができるという効果を奏する。
【0017】
請求項3に記載された本発明によれば、外観不良や圧着不良を防止することが可能な端子圧着装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の端子圧着装置を示す側面図である。
【図2】(a)はクリンパーの斜視図、(b)は電線端末の斜視図、(c)は端子の斜視図である。
【図3】(a)はクリンパーの断面を含む斜視図、(b)はクリンパーの断面図である。
【図4】(a)は従来例の端子及び電線端末の斜視図、(b)は従来例のクリンパーとアンビルの配置を示す図である。
【図5】(a)は正常な圧着状態を示す平面図、(b)は外観不良及び圧着不良の状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
端子圧着装置は、バレル圧着用のクリンパーと、このクリンパーに対向配置されるアンビルと、クリンパーをアンビルに対して近接離間させる昇降機構とを含んで構成される。クリンパーのバレル押圧面は、バレルの軌道を確保するバレルガイド溝となるように形成される。
【実施例】
【0020】
以下、図面を参照しながら実施例を説明する。図1は本発明の端子圧着装置を示す側面図である。また、図2(a)はクリンパーの斜視図、図2(b)は電線端末の斜視図、図2(c)は端子の斜視図である。さらに図3(a)はクリンパーの断面を含む斜視図、図3(b)はクリンパーの断面図である。
【0021】
図1において、端子圧着装置21は、電線22の端末に端子23を加締めによる圧着によって接続固定するための装置であって、端子23を載置するアンビル24と、このアンビル24の上方に配置されるクリンパー25、26と、アンビル24に対してクリンパー25、26を近接離間させる昇降機構27と、昇降機構27の駆動制御をする図示しない制御手段とを備えて構成されている。アンビル24は、端子圧着装置21における基台28の一端に設置されている。基台28は、この他端に支柱29を有しており、支柱29は昇降機構27を支持している。クリンパー25、26は、昇降機構27に連結されるクリンパーホルダ30に固定されている。クリンパー25、26は、所定の間隔をあけて並ぶように配置固定されている。
【0022】
本実施例においては、クリンパー26の方に本発明の特徴部分を付加している(一例であるものとする。クリンパー25、26の両方に付加することも可能であるものとする)。
【0023】
図2(a)において、クリンパー26は、上記の如く本発明の特徴部分を付加してなる金属製の部品であって、上下方向に延びる略帯板状となる形状に形成されている。クリンパー26は、ホルダ固定部31と、この下方に連成されるくびれ部32と、くびれ部の下方に連成される一対の脚状部33、33とを有している。一対の脚状部33、33は、この各先端34がアンビル24(図1参照)側に向くように配置されている。一対の脚状部33、33は、この間に溝状の加締め空間35が形成されるように配置されている。加締め空間35は、端子23の後述する軸Aの方向から見ると、溝状となる空間に形成されている。一対の脚状部33、33の加締め空間35側には、バレル押圧面36がそれぞれ形成されている。
【0024】
ここで、図2(b)を参照しながら電線22について、また、図2(c)を参照しながら端子23について説明をする。そして、この後に一対の脚状部33、33の詳細について説明をする。
【0025】
図2(b)において、電線22は、導体37と、この導体37の外側に設けられる絶縁体38とを備えている。電線22は、この端末において絶縁体38が所定長さで除去されている。絶縁体38が除去されると、導体37が露出するようになっている。導体37は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等からなる、例えば撚り線導体であるものとする(一例であるものとする)。尚、上記の電線22に替えて、既知の同軸ケーブルを用いてもよいものとする。
【0026】
図2(c)において、端子23は、導電性を有する金属板をプレス加工することにより製造されている。図中の端子23は、オープンドバレル型のものとして製造されている。このような端子23は、電気接触部39と、電線接続部40とを有している。電線接続部40には、ワイヤーバレル41と、インシュレーションバレル42とが形成されている。ワイヤーバレル41及びインシュレーションバレル42は、端子23の軸Aの方向から見るとそれぞれ略U字状となる形状に形成されている。本実施例における説明では、インシュレーションバレル42以外の部分の形状は一例であるものとする。
【0027】
図2(a)及び図3において、クリンパー26の一対の脚状部33、33は、上記の如く加締め空間35が存在する側にバレル押圧面36を有しており、加締めの際に用いられるようになっている。バレル押圧面36は、加締めの際にインシュレーションバレル42(図2(c)参照)に当接し、これを押圧しつつ傾倒させることができる部分として形成されている。バレル押圧面36は、単なる面ではなく、バレルガイド溝43となるように形成されている。
【0028】
バレルガイド溝43について具体的に説明すると、バレルガイド溝43は、インシュレーションバレル42(図2(c)参照)を案内して正常な軌道を確保するための部分であって、脚状部33の先端34から基端44へ向けて延びるように形成されている。バレルガイド溝43は、先端34の位置における溝幅W1が広く、基端44側の溝幅W2になるまで漸次溝幅が狭くなるように形成されている。溝幅W2は、インシュレーションバレル42のバレル幅W3(図2(c)参照)とほぼ同じくらいに設定されている。バレルガイド溝43は、先端34の位置における溝幅W1が広いことから、インシュレーションバレル42を入り易くすることができるようになっている。尚、矢印Bは加締めの際のインシュレーションバレル42の進行方向を示している。言い換えれば、軌道の方向を示している。
【0029】
バレルガイド溝43は、この溝側部45がガイド部分になっている。ガイド部分としての溝側部45は、インシュレーションバレル42(図2(c)参照)の形状にバラツキがある場合、これを矯正して軌道を正常に戻すことができるような機能を有している。バレルガイド溝43は、バレル形状のバラツキを吸収することができるような機能を有している。
【0030】
以上、図1ないし図3を参照しながら説明してきたように、バレルガイド溝43を有するクリンパー26を構成に含む端子圧着装置21は、電線22の端末に端子23を加締めにより圧着接続すると、この時、インシュレーションバレル42の軌道がバレルガイド溝43によって確保されることから、インシュレーションバレル42の一方が他方に綺麗に重なる圧着状態が形成される(図5(a)参照)。すなわち、正常な圧着状態が形成される。
【0031】
本発明によれば、バレルガイド溝43を有することにより、インシュレーションバレル42の軌道を確保して正常な圧着状態を形成することができる。また、インシュレーションバレル42の軌道を確保することにより、外観不良や圧着不良を防止することができる。従って、十分な圧着強度を確保することができるとともに、不良低減やコストアップ防止を図ることができる。この他、本発明によれば、バレルガイド溝43を有することにより、インシュレーションバレル42の形状のバラツキを吸収することができる。また、圧着ミスを削減することができるとともに、歩留まりの改善を図ることもできる。
【0032】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
21…端子圧着装置
22…電線
23…端子
24…アンビル
25、26…クリンパー
27…昇降機構
28…基台
29…支柱
30…クリンパーホルダ
31…ホルダ固定部
32…くびれ部
33…脚状部
34…先端
35…加締め空間
36…バレル押圧面
37…導体
38…絶縁体
39…電気接触部
40…電線接続部
41…ワイヤーバレル
42…インシュレーションバレル(バレル)
43…バレルガイド溝
44…基端
45…溝側部
A…端子の軸
B…軌道の方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端がアンビル側に向き且つ端子の軸方向から見ると溝状の加締め空間が間に形成される一対の脚状部を有するとともに、前記端子のバレルを押圧しつつ傾倒させるバレル押圧面を前記一対の脚状部の前記加締め空間側に有するバレル圧着用のクリンパーにおいて、
各前記バレル押圧面は前記一対の脚状部先端から基端へ向けてのびるバレルガイド溝となるように形成される
ことを特徴とするバレル圧着用のクリンパー。
【請求項2】
請求項1に記載のバレル圧着用のクリンパーにおいて、
前記バレルガイド溝は前記一対の脚状部先端から基端へ向けて漸次溝幅が狭くなるように形成される
ことを特徴とするバレル圧着用のクリンパー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のバレル圧着用のクリンパーと、該クリンパーに対向配置されるアンビルと、前記クリンパーを前記アンビルに対して近接離間させる昇降機構とを含む
ことを特徴とする端子圧着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−198584(P2011−198584A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63461(P2010−63461)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】