説明

バンパステー

【課題】車両の衝突の態様が異なる場合であっても衝突荷重の吸収を有効に行うことが可能なバンパステーの提供。
【解決手段】衝撃吸収体11は、多角筒形状を有し、その外周面の断面形状を構成する複数の辺(辺12a、辺12b、辺13a及び辺13b)が略同一の長さに形成されていると共に、隣接する2つの辺により構成される角部(角部12c及び角部13c)のうち、車幅方向内側に位置する角部12cの角度が鈍角に形成されている一方、車幅方向外側に位置する2つの角部13cの角度が鋭角に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体フレームとバンパビームとの間に設けられるバンパステーに係り、特に、衝突荷重を吸収することが可能なバンパステーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車幅方向に沿って延設されるバンパビームを備えた車両では、車幅方向両側で車両前後方向に沿って延設される左右一対のフロントサイドフレームと、バンパビームの両端部とをそれぞれ左右一対のバンパステーで連結し、これらバンパステーに衝撃吸収性能を持たせたものが広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フロントサイドフレームとバンパビームとの間に、断面縦長長方形状を有し、アルミ押出し成形により形成された所謂クラッシュボックスを備えたバンパステーを設ける技術について開示されている。
【0004】
このようなクラッシュボックスを備えたバンパステーによれば、車両前方からバンパビームに衝突荷重が作用した場合、優先的にクラッシュボックスを軸圧縮変形させることで衝突荷重を吸収することが可能である。特に、衝突の態様が軽衝突である場合には、ラジエータやバンパステーに接続されるフロントサイドフレーム等の車両部材の損傷を回避することが可能となる。
【0005】
ここで、バンパステーによる衝撃吸収性能を向上させるためには、バンパステーに衝突荷重が入力されたときに、その軸方向の中間部等で折れ曲がることなく、軸方向に安定的に座屈変形させるのが有効である。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のバンパステーでは、クラッシュボックスが断面縦長長方形状といった極めて単純な形状に形成されているため、クラッシュボックスに入力される衝突荷重の大きさやその荷重の入力方向によっては、クラッシュボックスが軸方向の中間部等で折れ曲がってしまい、衝突荷重の吸収を十分に行うことができないといった問題が生じる。
【0007】
このような場合、衝突荷重の吸収がクラッシュボックスによって十分に行われる前に、衝突荷重がバンパステーを介してフロントサイドフレームに伝達されてしまうため、場合によっては、上記車両部材が損傷してしまうといった問題が生じる。
【0008】
そこで、例えば、バンパステーの車幅方向内側及び車幅方向外側の外周面のそれぞれに、複数のクラッシュビード(脆弱部)をその軸方向に等間隔で形成する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【0009】
特許文献2に記載のバンパステーによれば、その軸方向に衝突荷重が入力された場合、クラッシュビードが形成される部位を起点として、強制的に蛇腹状に座屈変形させることが可能なため、衝突荷重を良好に吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−219869号公報
【特許文献2】特開2005−001462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、被衝突物に対して車両が前方から衝突する衝突の態様としては、上記特許文献2に記載のような、衝突荷重がバンパステーに対してその軸方向と略同じ方向で作用するような衝突(被衝突物にバンパビームの車幅方向両端部が衝突、以下、「斜め衝突」と称す)の他、バンパビームの車幅方向中央部に衝突荷重が作用するような衝突(被対象物にバンパビームの車幅方向中央部が衝突、以下、「前面衝突」と称す)もある。
【0012】
ここで、車両が前面衝突をした場合について説明すると、このような衝突の場合、バンパビームの車幅方向中央部には、車両後方へ向かう衝突荷重が作用するため、バンパビームの左右両側に接続されるバンパステーには、その前端部を車幅方向内側へと移動させるような回転モーメント(衝突荷重)が入力されることとなる。すなわち、車両が前面衝突をした場合、バンパステーには、車両が斜め衝突をした場合と異なる方向の衝突荷重が作用することとなる。
【0013】
上記のように、特許文献2に記載のバンパステーは、衝突荷重が軸方向と略同じ方向に作用した場合を想定したものである。このため、バンパステーに斜め衝突により生じる回転モーメントが作用した場合、バンパステーによって十分な衝突荷重(回転モーメント)の吸収が十分に行われないまま、その荷重がフロントサイドフレームに伝達される虞がある。このような場合、フロントサイドフレームは、回転モーメントの作用により損傷してしまうといった問題が生じる。
【0014】
本発明は、上記不都合を解決するためになされたものであり、その目的は、車両の衝突の態様が異なる場合であっても衝突荷重の吸収を有効に行うことが可能なバンパステーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は、本発明に係る車両の前部構造によれば、車体フレームと、該車体フレームの車両前方側で車幅方向に沿って延設されるバンパビームの車幅方向両端部との間にそれぞれ設けられ、前記バンパビーム側から入力される衝突荷重を吸収することが可能な衝撃吸収体を備えたバンパステーであって、前記衝撃吸収体は、多角筒形状を有し、その外周面の車幅方向の断面形状を構成する複数の辺が略同一の長さに形成されていると共に、隣接する2つの前記辺により構成される角部のうち、車幅方向内側に位置する角部の角度が鈍角に形成されている一方、車幅方向外側に位置する少なくとも1つの角部の角度が鋭角又は直角に形成されていることにより解決される。
【0016】
以上のように、上記構成では、車体フレームとバンパビームとの間に設けられる多角筒状の衝撃吸収体は、その外周面の断面形状を構成する、複数の辺の長さが略同一に形成されている。
【0017】
すなわち、衝撃吸収体の外周面を構成する、上記複数の辺を含む各側壁の周方向の幅は、それぞれ略同一の長さに形成されているため、車両が斜め衝突をした場合(衝撃吸収体に軸方向の衝突荷重が作用した場合)、上記各側壁には、衝突荷重が略均等に作用することとなる。このため、車両が斜め衝突をした場合には、衝撃吸収体を、上記側壁の幅(衝撃吸収体の外周面の断面形状を構成する、辺の長さ)と略同一の間隔で、軸方向に安定して蛇腹状に座屈変形させることが可能となる。
【0018】
また、上記構成では、衝撃吸収体の外周面の断面形状を構成する複数の角部は、その車幅方向内側に位置する角部の角度が鈍角に形成されていると共に、その車幅方向外側に位置する少なくとも一つの角部の角度が鋭角又は直角に形成されている。
【0019】
すなわち、衝撃吸収体の外周面のうち車幅方向内側に面する外周面は、車幅方向外側に面する外周面よりも、車幅方向の荷重に対して、相対的にその強度が低いものとなっている。このため、車両が前面衝突をして、バンパステーに回転モーメント(衝突荷重)が作用した場合、積極的に車幅方向内側の外周面が座屈変形することとなる。この座屈変形により、回転モーメントが有効に吸収されるため、バンパステーに接続されるフロントサイドフレーム等の車体フレームに回転モーメントが伝達されることを抑制することが可能となり、斯かる場合、車体フレームの変形を回避することができる。
【0020】
以上のように、上記構成を備えたバンパステーでは、簡単な構成により、斜め衝突及び前面衝突の何れにおいても、衝撃吸収体を安定的に座屈させることにより衝突荷重を効果的に吸収することが可能なため、特に、衝突の態様が軽衝突である場合には、車体フレームの損傷を有効に防止することができる。
【0021】
また、上記構成では、単に、衝撃吸収体の外周面の外面形状を構成する辺の長さを略同一に形成すると共に、隣接する2つの辺により構成される角部の角度を所定の角度に設定すればよいため、バンパステーの生産性を向上させることができる。
【0022】
また、前記衝撃吸収体は、車両前後方向に沿って分割された複数の接合部材からなり、該接合部材のそれぞれに設けられ、前記辺を構成する接合片同士を互いに接合することにより形成され、前記接合される接合片の少なくとも一方には、車両前後方向に沿って前記辺の長さの略2倍の間隔をあけて形成され、所定以上の前記衝突荷重が入力されたときに変形を生じる脆弱部が設けられていると好適である。
【0023】
上記構成では、衝撃吸収体の外周面の断面形状を構成する、複数の辺には、接合部材の接合片同士を接合した辺(以下、「接合辺」と称す)が含まれることとなる。すなわち、この接合辺は、上記接合片を重ね合わすことにより形成されているため、必然的にその強度は高くなるが、上記構成では、接合片にその変形を誘発する脆弱部が所定の間隔で形成されているため、車両が衝突をしたときに、衝撃吸収体の安定的な座屈を阻害することがない。
【0024】
しかも、上記構成では、脆弱部は、接合片の車両前後方向に、衝撃吸収体の外周面の断面形状を構成する、辺の長さの2倍の間隔、換言すれば、衝撃吸収体に対して軸方向の衝突荷重が作用したときに、衝撃吸収体が座屈変形する間隔の2倍の間隔で形成されている。すなわち、脆弱部は、衝撃吸収体がその軸方向に蛇腹状に座屈変形したときに形成される、山部又は谷部の何れかの箇所に形成されているため、衝撃吸収体に軸方向の衝突荷重が作用したときに、安定して蛇腹状に座屈変形させることが可能となる。
【0025】
このとき、前記脆弱部は、前記接合片同士を重ね合わせた状態でスポット溶接することにより形成されると好適である。このように構成すれば、複数の接合部材を接合するのと同時に脆弱部が形成されるため、バンパステーの生産性を確実に向上させることができる。
【0026】
また、前記複数の辺の総数は、偶数であると好適である。
【0027】
ここで、衝撃吸収体が蛇腹状に座屈変形した際に形成される山部及び谷部について説明する。例えば、衝撃吸収体に軸方向の衝突荷重が入力されて、ある側壁に山部が一段形成されたとする。そうすると、この側壁に隣接する側壁には、上記山部に連続して谷部が周方向に一段形成され、この谷部が形成された側壁に隣接する側壁には、谷部に連続して山部が周方向に一段形成されることとなる。このように、衝撃吸収体が蛇腹状に座屈変形すると、隣接する各側壁には、その周方向に山部と谷部とが交互に連続して形成されることになる。
【0028】
すなわち、仮に、上記複数の辺の総数が奇数であるような場合において、衝撃吸収体に軸方向の衝突荷重が入力されると、各側壁に、上記のような山部と谷部とが周方向に交互に連続して形成されなくなってしまい、衝撃吸収体の安定した座屈変形を得ることが困難となる可能性もある。しかし、上記構成では、このような不都合を低減することができるため、衝撃吸収体をより安定的に座屈変形させることが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明に係るバンパステーによれば、簡単な構成により、斜め衝突及び前面衝突の何れにおいても、衝撃吸収体を安定的に座屈させることにより、衝突荷重を効果的に吸収することが可能なため、特に、衝突の態様が軽衝突である場合には、車体フレームの損傷を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係る車両の前部を示す斜視図である。
【図2】図1の分解斜視図である。
【図3】バンパビーム及びバンパステーの組付状態を示す斜視図である。
【図4】バンパステーの断面図である。
【図5】従来の衝撃吸収体に対して衝撃荷重が作用した場合を示す模式図であり、(a)は車両が斜め衝突をした状態を示し、(b)は車両が前面衝突をした状態を示す図である。
【図6】本実施形態に係る衝撃吸収体に対して衝撃荷重が作用した場合を示す模式図であり、(a)は車両が斜め衝突をした状態を示し、(b)は車両が前面衝突をした状態を示す図である。
【図7】山部及び谷部が形成された衝撃吸収体を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る車両の前部を示す斜視図、図2は図1の分解斜視図、図3はバンパビーム及びバンパステーの組付状態を示す斜視図、図4はバンパステーの断面図、図5は従来の衝撃吸収体に対して衝撃荷重が作用した場合を示す模式図であり、(a)は車両が斜め衝突をした状態を示し、(b)は車両が前面衝突をした状態を示す図、図6は本実施形態に係る衝撃吸収体に対して衝撃荷重が作用した場合を示す模式図であり、(a)は車両が斜め衝突をした状態を示し、(b)は車両が前面衝突をした状態を示す図、図7は山部及び谷部が形成された衝撃吸収体を示す側面図である。なお、図中FRは車両前方を、UPは車両上方を、INは車幅方向内側を示す。また、以下の説明における左右方向は車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
【0032】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る車両1は、車幅方向両側で車両前後方向に沿って延設される左右一対のフロントサイドフレーム3、3と、フロントサイドフレーム3の前部3aに固定されるラジエータ支持部材5と、ラジエータ支持部材5の前方に配設されるバンパビーム6とを備えている。なお、上記フロントサイドフレーム3と、バンパビーム6とがそれぞれ特許請求の範囲に記載の「車体フレーム」と、「バンパビーム」とに該当する。
【0033】
フロントサイドフレーム3は、鋼板製の部材からなり、閉断面形状に形成されている。このフロントサイドフレーム3の前部3aには、その前端部に、後述する張出部材30を固定するためのフランジ部(図示省略)が形成されている。
【0034】
次に、ラジエータ支持部材5について説明する。
図1、図2に示すように、ラジエータ支持部材5は、鋼板製の部材により略枠形状に形成され、車幅方向に沿って延設されるアッパ部21と、アッパ部21の車幅方向両端部21aからそれぞれ下方へ向けて延設される左右一対のサイド部22、22と、一対のサイド部22、22の下端部同士を連結するロア部23とを備え、ラジエータ50及びコンデンサ51を支持する。
【0035】
ラジエータ50及びコンデンサ51の上部と、側部と、下部とは、それぞれアッパ部21と、サイド部22と、ロア部23とに対して、ボルト等により締結固定されている。
【0036】
サイド部22は、フロントサイドフレーム3及び後述するバンパステー10に取り付けられるフロントサイドフレーム・バンパステー取付部22aを備えている。
【0037】
このフロントサイドフレーム・バンパステー取付部22aの所定位置には、フロントサイドフレーム3を取り付けるためのフロントサイドフレーム3取付用のボルト挿通孔(図示省略)及びバンパステー10を取り付けるためのバンパステー10取付用のボルト挿通孔22bがそれぞれ複数形成されている。
【0038】
フロントサイドフレーム3は、そのフランジ部とフロントサイドフレーム・バンパステー取付部22aとをボルト等により固定することにより、ラジエータ支持部材5に対して取り付けられるようになっている。
【0039】
バンパステー10は、後述するフランジ部16に形成されたボルト挿通孔16a及びフロントサイドフレーム・バンパステー取付部22aに形成されたボルト挿通孔22bにボルトを挿通して締め付けることにより、ラジエータ支持部材5に対して取り付けられるようになっている。
【0040】
次に、バンパビーム6について図2及び図3に基づいて説明する。
バンパビーム6は、バンパ(図示省略)の車両後方で車幅方向に沿って延設され、鋼板製の部材により中空閉断面形状に形成されている。
【0041】
また、バンパビーム6は、車幅方向両端部6a、6aよりも車幅方向中央部6bの方が車両前方に突出した湾曲形状に形成されている。
【0042】
バンパビーム6の車幅方向両端部6a、6aのそれぞれには、その後面側に後述するバンパステー10を取り付けるためのバンパステー取付部(図示省略)が設けられている。
【0043】
次に、バンパステー10について図2乃至図4に基づいて説明する。
バンパステー10は、張出部材30、30を介して、左右一対のフロントサイドフレーム3、3と、バンパビームの車幅方向両端部6a、6aとの間にそれぞれ設けられている。なお、左右一対のバンパステー10は、ほぼ同様な構成を有しているため、以下、右側のバンパステー10について説明し、左側のバンパステー10についてはその説明を省略する。
【0044】
バンパステー10は、衝撃吸収体11と、衝撃吸収体11の後端部に配置されるフランジ部16とを備えている。なお、上記衝撃吸収体11が特許請求の範囲に記載の「衝撃吸収体」に該当する。
【0045】
衝撃吸収体11は、例えば、鋼板製の部材からなり、多角筒形状に形成されている。この衝撃吸収体11は、車幅方向内側に配置される断面略U字状に形成された内側部材12と、車幅方向外側に配置される断面М字状に形成された外側部材13とを備えている。なお、上記内側部材12及び外側部材13が特許請求の範囲に記載の「接合部材」に該当する。
【0046】
内側部材12は、車幅方向の断面形状において、7つの辺を有すると共に、上下方向中央を通る水平線lに対して略線対称となるように形成されている。また、この7つの辺のうち上下一対の端辺12a、12aは、互いに略平行に対向配置されている。なお、上記端辺12aが特許請求の範囲に記載の「辺」に該当する。
【0047】
また、端辺12a、12a及びその他の複数の中間辺12bは、それぞれ略同じ長さWに形成されている。すなわち、内側部材12の外周面を構成する複数の側壁のうち、端辺12a、12aを含む側壁12A、12A、及び、中間辺12bを含む複数の側壁12Bのそれぞれの周方向の幅は、何れも略同じ幅を有することとなる。なお、上記中間辺12bと、側壁12Aとがそれぞれ特許請求の範囲に記載の「辺」と、「接合片」とに該当する。
【0048】
さらに、隣接する2つの辺、すなわち、端辺12aと中間辺12b、及び、中間辺12bと中間辺12bにより構成される角部12cの角度は、全て鈍角となるように形成されている。なお、上記角部12cが特許請求の範囲に記載の「角部」に該当する。
【0049】
一方、外側部材13は、内側部材12と同様に、車幅方向の断面形状において、7つの辺を有すると共に、上下方向中央を通る水平線lに対して略線対称となるように形成されている。また、この7つの辺のうち上下一対の端辺13a、13aは、互いに略平行に対向配置されている。なお、本実施形態では、後述するように、内側部材12と外側部材13との接合を、内側部材12の側壁12A、12Aの内面側と、外側部材13の側壁13A、13Aの外面側とをそれぞれ重ね合わせた状態で行うようにしているため、端辺13a、13a間の離間距離は、内側部材12の端辺12a、12a間の離間距離よりも僅かに短くなるように設定されている。なお、上記端辺13aが特許請求の範囲に記載の「辺」に該当する。
【0050】
また、端辺13a、13a及びその他の複数の中間辺13bは、その長さが内側部材12の端辺12a及び中間辺12bの長さと略同一の長さLに形成されている。すなわち、外側部材13の外周面を構成する、端辺13a、13aを含む側壁13A、13A、及び、中間辺13bを含む複数の側壁13Bの周方向の幅は、内側部材12の側壁12A及び側壁Bの幅と略同一の幅に形成されていることとなる。なお、上記中間辺13bと、側壁13Aとがそれぞれ特許請求の範囲に記載の「辺」と、「接合片」とに該当する。
【0051】
隣接する2つの中間辺13bにより構成される4つの角部のうち、上側及び下側に位置する2つの角部13cの角度は、内側部材12の角部12cとは異なり、鋭角に形成されている。
【0052】
衝撃吸収体11は、内側部材12の内周側と外側部材13の内周側とを対向させた状態で、内側部材12の側壁12A、12Aの内面側と、外側部材13の側壁13A、13Aの外面側とをそれぞれ重ね合わせ、これら側壁12A及び側壁13Aをスポット溶接Sにより接合することで形成されるようになっている。なお、上記スポット溶接Sの行われる箇所が特許請求の範囲に記載の「脆弱部」に該当する。
【0053】
上記スポット溶接Sは、上記辺(端辺12a、中間辺12b、端辺13a及び中間辺13b)の長さLの略2倍の間隔2Lをあけて複数箇所で行われるようになっている。スポット溶接が行われた箇所では、それ以外の箇所に比べてその強度が低下するため、バンパステー10に対してバンパビーム6側から軸方向に衝突荷重F(図6参照)が作用した場合、衝撃吸収体11は、スポット溶接Sが行われた箇所を起点として、山部X又は谷部Yが形成されるため、良好に蛇腹状に座屈変形し易くなる。なお、本実施形態では、スポット溶接を行うことにより、側壁12A及び側壁13Aの所定箇所の強度を低下させるようにしたが、これに限られず、例えば、切欠きを形成したりやその肉厚を他の部位よりも薄肉化等することにより、強度を低下させることも可能である。また、この際、切欠き等は、内側部材12又は外側部材13の何れか一方に形成することも可能である。
【0054】
内側部材12と外側部材13とを接合した状態で、衝撃吸収体11の外周面の断面形状を構成する辺(端辺12a及び端辺13aにより構成される辺と、中間辺12bと、中間辺13b)の総数は偶数である「12」となり、衝撃吸収体11の外周面の断面形状は上下方向中央を通る水平線lに対して略線対称となるように形成される。
【0055】
衝撃吸収体11は、その前端部にバンパビーム6を取り付けるためのバンパビーム取付部11aが形成されている。バンパステー10は、バンパビーム取付部11aとバンパビーム6のバンパビーム取付部(図示省略)とをボルト等によって固定することにより、バンパビーム6に対して取り付けられるようになっている。
【0056】
フランジ部16は、中空矩形形状を有し、衝撃吸収体11の後端部に対してボルト等により固定されている。また、フランジ部16の所定位置には、張出部材30を取り付けるための張出部材取付用のボルト挿通孔16aが複数形成されている。
【0057】
バンパステー10は、フランジ部16のボルト挿通孔16aと、張出部材30のボルト挿通孔22bとのそれぞれにボルト等を挿通して締め付けることにより、張出部材30に対して取り付けられるようになっている。
【0058】
バンパビーム6が、バンパステー10及び張出部材30を介して、フロントサイドフレーム3に取り付けられた状態では、バンパステー10は、フロントサイドフレーム3の略延長線上に配置されるようになっている。
【0059】
次に、図5及び図6に基づいて、本実施形態に係る衝撃吸収体11と従来の多角筒状の衝撃吸収体111とを比較して説明する。なお、上記「従来の衝撃吸収体111」とは、本実施形態に係る衝撃吸収体11と同様な材質により形成されているが、衝撃吸収体11のように、外周面の断面形状を構成する辺(端辺12a、中間辺12b、端辺13a、中間辺13b)の長さが略同一の長さに形成されているものでなく、且つ、鋭角な角度に形成される角部13cのようなものが存在しないもの、例えば、断面略縦長長方形状に形成されているものをいう。また、以下の文中における「斜め衝突」とは、衝突荷重がバンパステーに対してその軸方向と略同じ方向で作用するような衝突を意味し、「前面衝突」とは、バンパビームの車幅方向中央部に対して前方から衝突荷重が作用するような衝突を意味する。
【0060】
先ず、車両が斜め衝突をした場合について、本実施形態に係る衝撃吸収体11と従来の衝撃吸収体111とを比較して図5(a)及び図6(a)に基づいて説明する。
【0061】
図5(a)に示すように、従来の衝撃吸収体111を備えた車両が被対象物80に対して斜め衝突をすると、バンパステー110の衝撃吸収体111には、バンパビーム6を介して、衝突荷重Fがその軸方向と略同じ方向で入力されることとなる。
【0062】
衝撃吸収体111は、外周面を構成する複数の側壁の周方向の幅が、全て略同一に形成されていないため、衝突荷重Fは、これらの側壁に対して、不均一に作用することとなる。このため、衝撃吸収体111が軸方向に安定して座屈せずに、その軸方向の中間部付近で折れ曲ってしまうケースが少なくない。このような場合には、衝撃吸収体111によって衝突荷重Fを有効に吸収することができず、これに接続されるフロントサイドフレーム3に過大な衝突荷重Fが作用するため、衝突荷重Fの大きさによっては、フロントサイドフレーム3が損傷してしまう。
【0063】
これに対して、本実施形態に係る衝撃吸収体11は、図6(a)に示すように、側壁12A、側壁12B、側壁13A及び側壁13Bの周方向の幅が略同一の幅に形成されているため(図4参照)、衝突荷重Fは、これらの側壁に対して略均等に作用することとなる。
【0064】
このため、車両1が斜め衝突をした場合には、衝撃吸収体11を、側壁(側壁12A、側壁12B、側壁13A及び側壁13B)の幅、すなわち、辺(端辺12a、中間辺12b、端辺13a及び中間辺13b)の長さLと略同一の長さ間隔L´で、その軸方向に山部Xと谷部Yとが相互に連続するように座屈変形させることが可能となる。従って、この蛇腹状の座屈変形により、衝突荷重Fを効果的に吸収することが可能なため、フロントサイドフレーム3の損傷を有効に防止することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る衝撃吸収体11は、内側部材12の側壁12Aと外側部材13の側壁13Aとを接合することにより形成されているため(図3参照)、これらを接合した箇所は必然的にその剛性強度が増加することとなる。しかし、上述したように、側壁12A及び側壁13Aには、辺(端辺12a、中間辺12b、端辺13a及び中間辺13b)の長さLの2倍の間隔2L、すなわち、衝撃吸収体11が蛇腹状に座屈変形したときに、その軸方向に形成され得る山部X又は谷部Yの何れかの間隔2Lで、その強度を低下させるスポット溶接Sが行われている(図3参照)。従って、衝撃吸収体11に衝突荷重Fが作用した際、スポット溶接Sの行われた箇所に上記山部X又は谷部Yが形成されるように座屈変形させることが可能なため、衝撃吸収体11の安定的な座屈変形を阻害することがない。
【0066】
ここで、衝撃吸収体11が蛇腹状に座屈変形した際に形成される山部X及び谷部Yについて図7に基づいて説明する。
図7に示すように、仮に、衝撃吸収体11に軸方向の衝突荷重Fが入力されて、複数の側壁12Bのうち、最も上方に位置する側壁12Bに山部Xが一段形成されたとする。そうすると、それに隣接するその下方に位置する側壁12Bには、この山部Xに連続して谷部Yが一段形成され、この谷部Yが形成された側壁12Bに隣接するその下方に位置する側壁12Bには、谷部Yに連続して山部Xが一段形成されることとなる。
【0067】
このように、衝撃吸収体11が蛇腹状に座屈変形すると、隣接する各側壁には、その周方向に山部Xと谷部Yとが交互に連続して形成されることになる。
【0068】
すなわち、仮に、衝撃吸収体の外周面の断面形状を構成する辺の総数が奇数であるような場合において、衝撃吸収体に軸方向の衝突荷重が入力されると、各側壁に、山部Xと谷部Yとが周方向に交互に連続して形成されなくなってしまい、衝撃吸収体の安定した座屈変形を得ることが困難となる可能性もある。しかし、本実施形態では、衝撃吸収体11の外周面の断面形状を構成する辺(端辺12a及び端辺13aにより構成される辺と、中間辺12bと、中間辺13b)の総数は偶数である「12」であるため、このような不都合を低減することができ、衝撃吸収体11をより安定的に座屈変形させることが可能となる。
【0069】
以上のように、本実施形態に係る衝撃吸収体11を備えた車両1(図1参照)が被対象物80に斜め衝突をした場合、衝撃吸収体11を安定的に座屈変形させることが可能なため、衝撃吸収体11によって衝突荷重Fを効果的に吸収することでき、フロントサイドフレーム3等が損傷してしまうといった事態を回避することが可能である。
【0070】
次に、車両が前面衝突をした場合について、本実施形態に係る衝撃吸収体11と従来の多角筒状の衝撃吸収体111とを比較して図5(b)及び図6(b)に基づいて説明する。
【0071】
図5(b)に示すように、従来の衝撃吸収体111を備えた車両が被対象物80に対して前面衝突をすると、バンパビーム6の車幅方向中央部6bには、車両後方へ向かう衝突荷重Fが入力されることとなる。このため、バンパビーム6の車幅方向中央部6bの左右両側に接続されるバンパステー10には、その前端部を車幅方向内側へと移動させるような回転モーメントMが作用することとなる。
【0072】
そうすると、回転モーメントMの大きさや衝撃吸収体111の剛性強度によっては、衝撃吸収体111が座屈変形しないケースがある。このような場合、衝撃吸収体111による十分な回転モーメントMの吸収が行われないまま、回転モーメントMが張出部材30(図2参照)を介してフロントサイドフレーム3に伝達されてしまい、回転モーメントMの大きさやフロントサイドフレーム3の剛性強度によっては、フロントサイドフレーム3が損傷してしまう。
【0073】
これに対して、本実施形態に係る衝撃吸収体11は、その外周面の断面形状を構成する、複数の角部のうち、その車幅方向内側に位置する複数の角部12cの角度が鈍角に形成されていると共に、その車幅方向外側に位置する2つの角部13cの角度が鋭角に形成されている(図4参照)。すなわち、衝撃吸収体11の車幅方向内側に面する外周面の強度は、車幅方向外側に面する外周面の強度よりも、車幅方向の荷重に対して、相対的に低いものとなっている。
【0074】
このため、図6(b)に示すように、衝撃吸収体11に回転モーメントMが作用した場合には、積極的に衝撃吸収体11の車幅方向内側が座屈変形することとなる。
【0075】
従って、衝撃吸収体11の車幅方向内側の座屈によって、回転モーメントMを効果的に吸収することができるため、フロントサイドフレーム3の変形を回避することが可能となる。
【0076】
このように本実施形態では、簡単な構成により、斜め衝突及び前面衝突の何れにおいても、衝撃吸収体11を安定的に座屈させることにより、衝突荷重F又は回転モーメントMを効果的に吸収することが可能なため、特に、衝突の態様が軽衝突である場合には、フロントサイドフレーム3の損傷を有効に防止することができる。
【0077】
また、本実施形態に係る衝撃吸収体11は、単に、衝撃吸収体11の外周面の断面形状を構成する、辺(端辺12a、中間辺12b、端辺13a、中間辺13b)の長さを略同一となるように形成すると共に、隣接する2つの辺により構成される角部(角部12c、角部13c)の角度を所定の角度となるように設定すればよく、その外周面等に衝撃吸収性能を向上させるためのビード等を形成する必要がないため、バンパステー10の生産性を向上させることができる。
【0078】
なお、本実施形態では、衝撃吸収体11を内側部材12と外側部材13というように分割したが、これに限られず、一体成形により形成することも可能である。さらに、衝撃吸収体11とフランジ部16とを別体に形成したが、必ずしもこれらを別体に形成する必要はなく、一体成形により形成することも可能である。
【0079】
また、衝撃吸収体11の外周面の断面形状を構成する辺(端辺12a及び端辺13aにより構成される辺と、中間辺12bと、中間辺13b)の総数を、偶数である「12」としたが、それ以上又はそれ以下であってもよい。この場合、辺の総数は偶数であることが好ましい。
【0080】
さらに、衝撃吸収体11の外周面の断面形状を構成する、車幅方向外側に位置する角部13cの数を「2」としたが、それ以上又はそれ以下であってもよい。また、本実施形態では、角部13cの角度を鋭角に形成したが、直角に形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、衝撃吸収体を安定的に座屈させることにより、衝突荷重を効果的に吸収することが可能なため、車体フレームとバンパビームとの間にバンパステーが設けられた様々な車両に利用することができる
【符号の説明】
【0082】
1 車両
3 フロントサイドフレーム(車体フレーム)
6 バンパビーム(バンパビーム)
6a 両端部
6b 中央部
10 バンパステー
11 衝撃吸収体
11a バンパビーム取付部
12 内側部材(接合部材)
12a 端辺(辺)
12b 中間辺(辺)
12c 角部(角部)
12A 側壁(接合片)
12B 側壁
13 外側部材(接合部材)
13a 端辺(辺)
13b 中間辺(辺)
13A 側壁(接合片)
13B 側壁
13c 角部(角部)
16 フランジ部
16a ボルト挿通孔
80 被対象物
110 バンパステー
111 衝撃吸収体
F 衝突荷重
M 回転モーメント(衝突荷重)
S スポット溶接(脆弱部)
L 辺の長さ
X 山部
Y 谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと、該車体フレームの車両前方側で車幅方向に沿って延設されるバンパビームの車幅方向両端部との間にそれぞれ設けられ、前記バンパビーム側から入力される衝突荷重を吸収することが可能な衝撃吸収体を備えたバンパステーであって、
前記衝撃吸収体は、
多角筒形状を有し、その外周面の車幅方向の断面形状を構成する複数の辺が略同一の長さに形成されていると共に、
隣接する2つの前記辺により構成される角部のうち、車幅方向内側に位置する角部の角度が鈍角に形成されている一方、車幅方向外側に位置する少なくとも1つの角部の角度が鋭角又は直角に形成されていることを特徴とするバンパステー。
【請求項2】
前記衝撃吸収体は、車両前後方向に沿って分割された複数の接合部材からなり、該接合部材のそれぞれに設けられ、前記辺を構成する接合片同士を互いに接合することにより形成され、
前記接合される接合片の少なくとも一方には、車両前後方向に沿って前記辺の長さの略2倍の間隔をあけて形成され、所定以上の前記衝突荷重が入力されたときに変形を生じる脆弱部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のバンパステー。
【請求項3】
前記脆弱部は、前記接合片同士を重ね合わせた状態でスポット溶接することにより形成されることを特徴とする請求項2に記載のバンパステー。
【請求項4】
前記複数の辺の総数は、偶数であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のバンパステー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−153252(P2012−153252A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14015(P2011−14015)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)