バンパ補強材
【課題】比較的低コストでの製造が可能な板金製のバンパ補強材を基礎として、両者が抱える問題を克服し、更にピーク荷重を高くしたり、エネルギー吸収量を大きくしたりすることを目標として、新しいバンパ補強材について検討した。
【解決手段】バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12,12を有する中空断面構造のバンパ補強材1において、上下一対の小溝側面21,21及び小溝底面22からなる小溝部2と、前記小溝部2を内包し、上下一対の大溝側面31,31及び大溝底面32からなる大溝部3とをバンパ前面11に形成したバンパ補強材1である。
【解決手段】バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12,12を有する中空断面構造のバンパ補強材1において、上下一対の小溝側面21,21及び小溝底面22からなる小溝部2と、前記小溝部2を内包し、上下一対の大溝側面31,31及び大溝底面32からなる大溝部3とをバンパ前面11に形成したバンパ補強材1である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のバンパを構成するバンパ補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のバンパは、衝撃を吸収するバンパ補強材と、前記バンパ補強材を覆うバンパカバーとから構成される。バンパ補強材は、中空な断面形状を変形(前記断面形状を形成する面の塑性変形)させて衝撃を吸収する。バンパ補強材のエネルギー吸収特性は、3点曲げ試験において印加される荷重の最大値(ピーク荷重)が高く、また前記3点曲げ試験における変形量及び荷重の積分値(エネルギー吸収量)が大きいほど、優れている。バンパ補強材におけるエネルギー吸収特性は、塑性変形する各面を厚肉化したり、高強度材料を用いたり、断面形状を複雑化したりして、向上させる。
【0003】
特許文献1は、高さ(車両の前後方向の幅)の異なる複数の縦壁と、前記縦壁相互を連結する横壁とからなり、横壁相互を多段の位置関係に、縦壁相互を衝撃によって座屈、圧潰する際に干渉する位置関係に、それぞれ配置したバンパ補強材(衝撃吸収部材)を開示している。特許文献1が開示するバンパ補強材は、衝撃が各横壁によって多段階に加わるので、最初に発生するピーク荷重(初期ピーク荷重)を小さくしながら、エネルギー吸収量も向上させることができるとしている。
【0004】
特許文献2は、車体側に支持する主補強材と、主補強材の前面に取り付ける補助補強材とからなり、補助補強材は略凹型断面部を、主補強材は凹溝部をそれぞれ設け、補助補強材は略凹型断面部を前記凹溝部に当接させたバンパ補強材を開示している。特許文献2が開示するバンパ補強材は、特別な部材を要せず、加工も容易な構造であることから、材料や生産設備の変更が不要となり、コスト増を抑えている。また、局部的な座屈を抑えながら、エネルギー吸収量を向上させている。
【0005】
特許文献3は、前面及び上下側面からなる背面開放断面構造の主補強材と、主補強材の前面から上下側面それぞれに架設した補助補強材とからなり、補助補強材は前面に凸な山折れ部を形成したバンパ補強材を開示している。主補強材は、前面に溝底面及び溝側面からなる断面凹な前面溝部を設け、前面溝部から上下側面それぞれに補助補強材を架設する。特許文献3が開示するバンパ補強材は、背面開放断面構造(背面が開放されている構造)でありながら、閉鎖断面構造のバンパ補強材に劣らない高いピーク荷重と大きなエネルギー吸収量とを有している。
【0006】
【特許文献1】特開2005-170234号公報
【特許文献2】特開2003-237507号公報
【特許文献3】特開2004-074834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述したように、バンパ補強材におけるエネルギー吸収特性は、塑性変形する各面を厚肉化する、高強度材料を用いる、又は断面形状を複雑化することにより向上させることができる。しかし、各面を厚肉化するとバンパ補強材が大型化して重量物になる。また、高強度材料を用いると製造コストが高くなる。更に、断面形状の複雑化は、バンパ補強材の設計自由度を低下させ、車両全体の設計自由度を制約しかねない。これから、バンパ補強材におけるエネルギー吸収特性を向上させる手段は、大型化や製造コスト増を防止する観点、そして設計自由度を損ねない観点からも、評価する必要がある。
【0008】
特許文献1が開示するバンパ補強材は、縦壁が長いため、各縦壁の変形が一様でなく、縦壁相互が座屈、圧潰する際に必ず干渉するとは限らない。仮に縦壁相互が緩衝するとしても、各縦壁が相互に大きく離れているから、縦壁それぞれが相当程度に座屈、圧潰しなければ、縦壁相互が干渉しないと考えられる。これから、吸収される荷重が脈動し(初期ピーク荷重との表現は、脈動を前提とする)、全体として安定したエネルギー吸収特性が得られないと考えられる。また、吸収される荷重が脈動することから、エネルギー吸収量が小さくなることが避けられない(特許文献1[図5]参照)。
【0009】
これに対し、特許文献2が開示するバンパ補強材は、吸収される荷重を安定させ、エネルギー吸収量も大きくすることができる。しかし、主補強材の前面に補助補強材を取り付ける構造であるため、どうしてもバンパ補強材として大型化することが避けられず、重量増加を招くほか、設計自由度が制約されていた。このため、重量制限及びレイアウト制限が厳しい軽自動車やデザイン性の高い自動車には、特許文献2が開示するバンパ補強材が利用しづらかった。
【0010】
特許文献3が開示するバンパ補強材は、補助補強材を主補強材の内部に設けるため、特許文献2が開示するバンパ補強材のように、大型化することがない。ところが、特許文献3記載の発明は、閉鎖断面構造のバンパ補強材に対して劣るとされた背面開放断面構造のバンパ補強材を改良するものであり、背面開放断面構造のバンパ補強材としての変形を制御する点に力点がおかれ、閉鎖断面構造のバンパ補強材に相当するエネルギー吸収特性を確保するだけで、更にピーク荷重を高くしたり、エネルギー吸収量を大きくしたりするものではなかった。
【0011】
このように、大型化や製造コスト増を防止し、そして設計自由度を損ねずに、エネルギー吸収特性の向上を図ることができるバンパ補強材は、未だ存在していないと考えることができる。そこで、比較的低コストでの製造が可能な板金製のバンパ補強材についての発明である特許文献2記載の発明又は特許文献3記載の発明を基礎として、両者が抱える問題を克服し、更にピーク荷重を高くしたり、エネルギー吸収量を大きくしたりすることを目標として、新しいバンパ補強材について検討した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
検討の結果開発したものが、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造のバンパ補強材において、上下一対の小溝側面及び小溝底面からなる小溝部と、前記小溝部を内包し、上下一対の大溝側面及び大溝底面からなる大溝部とをバンパ前面に形成したバンパ補強材である。ここで、「中空断面構造のバンパ補強材」とは、背面が閉鎖又は開放されているかを問わず、内部にバンパ補強材の延在方向(通常、車両の左右方向)に連続する空洞部分を有する構造のバンパ補強材を意味する。これから、本発明のバンパ補強材は、アルミの押出成形品や研削成形品や、後述するように、製造が容易かつ廉価な板金製として構成することができる。
【0013】
本発明のバンパ補強材は、大溝側面における上下方向の変形と、小溝側面における上下方向の変形とを対向させ、互いの変形を抑制して、エネルギー吸収特性のピーク荷重を高くする。また、前記大溝側面及び小溝側面が共に抑制された変形を継続させて、エネルギー吸収量を大きくする。本発明において、小溝部は、バンパ前面から小溝底面までの小溝部の深さbを、バンパ前面から大溝底面までの大溝部の深さLの1/10〜1/2とし、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から大溝側面までの最短距離aを、前記大溝部の深さLの1/10より小さくするとよい。ここで、「バンパ前面から小溝底面までの小溝部の深さb」とは、バンパ前面の表面と小溝底面の表面との最短直交距離を、また「小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から大溝側面までの最短距離a」とは、前記角部の大溝側面に対向する表面と大溝側面との最短直交距離を意味する。
【0014】
大溝部及び小溝部は、概ね半分から前(バンパ前面寄り)が内向き(上下対称軸線に近づく向き)に膨らみ、概ね半分から後(大溝底面寄り又は小溝底面寄り)が外向き(上下対称軸線から遠ざかる向き)に膨らむ。これから、小溝部の深さbが大溝部の深さLの1/2以下にすることにより、大溝部の半分から前の変形と小溝部の半分から後の変形とを対向させることができ、互いの変形を抑制できる。しかし、小溝部の深さbがあまり小さいと小溝側面の変形がしにくくなる。そこで、小溝部の深さbは、1/10以上にすることが望ましい。
【0015】
また、大溝部の変形直後から小溝部の変形が直ちに対向することが好ましいことから、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から大溝側面までの最短距離aは、「0(ゼロ)」であることが望ましい。裏返せば、前記最短距離aが大きくなるほど、大溝部の変形と小溝部の変形との対向が遅れ、場合によっては互いの変形を抑制するに至らなくなる。これから、前記最短距離aを大溝部の深さLの1/10以下にする、すなわち前記最短距離aを大溝部の深さLの0〜1/2にすることにより、大溝部の変形と小溝部との変形が対向し、互いの変形の抑制が必ずなされて、本発明の効果を得ることができるようになる。
【0016】
大溝部は、バンパ前面に接続される前縁部から小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面とした場合、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から接続斜面までの最短距離aを、バンパ前面から大溝部の深さLの1/10より小さくするとよい。接続斜面は、大溝側面に対する角部の存在により、小溝部に向かって膨出するように変形するので、大溝部の変形と小溝部の変形とを対向させやすい。接続斜面は、大溝側面の長さを実質長くするものであるが、車両デザインとの関係で、小溝部の幅を大きくしたい場合、特に相対的に小溝部の幅を大溝部の幅より大きくする場合に用いる。接続斜面は、バンパ前面から大溝部の深さLの範囲内とする。すなわち、大溝側面を全て接続斜面としてもよい。また、バンパ前面に直交する大溝側面に対する傾斜角度θは60度以下とする。裏返せば、傾斜角度0度の接続斜面は、バンパ前面に直交する大溝側面である。
【0017】
ここで、「小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から接続斜面までの最短距離a」とは、前記角部の大溝側面に対向する表面と接続斜面との最短直交距離を意味する。接続斜面は、変形する大溝側面を実質的に長くする。このとき、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部と傾斜側面とが遠ざかるため、前記角部が開いてバンパ前面又は小溝側面が変形しやすくなる(傾斜側面に対するバンパ前面及び小溝側面の三角形断面が潰れる)虞がある。そこで、小溝部は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成するとよい。膨出部は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部が開くことを防止する働きがある。この膨出部の膨出方向は自由であるが、バンパ前面に対して前方に膨出(突出)することが望ましい。また、膨出部の断面形状は、円弧状がよい。この場合、バンパ前面に対して膨出部のみが先行して障害物に衝突することを避けるため、膨出部以外に障害物と衝突する補助膨出部をバンパ前面に設けるとよい。こうした膨出部又は補助膨出部は、バンパ前面に対して補強ビードとして働き、ピーク荷重を高くする。
【0018】
本発明は板金製のバンパ補強材に適している。すなわち、板金製の主補強材及び補助補強材から構成され、主補強材は、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造で、上下一対の小溝側面及び小溝底面からなる小溝部をバンパ前面に形成し、バンパ側面の後縁部を車体側に接続させ、補助補強材は、上下一対の大溝側面及び大溝底面から大溝部を形成する前面開放構造で、大溝側面の前縁部を前記主補強材のバンパ前面の裏面に接続させ、大溝底面を車体側に接続させた板金製のバンパ補強材とする。
【0019】
ここで、「中空断面構造」の主補強材は、背面が閉鎖された断面構造(背面閉鎖断面構造)の主補強材又は背面が開放された断面構造(背面開放断面構造)の主補強材を意味する。主補強材は、上下一対のバンパ側面の後縁部が車体(車両フレーム)に直接又は(衝撃吸収部材等を介して)間接に接続され、支持されるほか、後述するように、補助補強材を介して車体側に間接に支持される。
【0020】
また「前面開放断面構造」の補助補強材は、前面が開放された断面構造の補助補強材を意味する。補助補強材は、大溝底面を車体側に接続し、大溝側面の前縁部を主補強材のバンパ補強材に接続して、それぞれに支持される。これから、バンパ前面は、補助補強材を介して車体側に間接に支持される。補助補強材の大溝側面の前縁部は、端縁を直接バンパ前面の裏面に接続してもよいが、前記前縁部に設けた接続フランジを介してバンパ前面の裏面に接続する方が好ましい。
【0021】
補助補強材は、バンパ前面の裏面に接続される前縁部から主補強材が形成する小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面に形成してもよい。この場合、上述したように、主補強材は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成するとよい。膨出部は、上述同様、バンパ前面に対して補強ビードとして働き、ピーク荷重を高くする。
【0022】
上述の板金製のバンパ補強材において、主補強材及び補助補強材の関係を入れ替えることもできる。すなわち、板金製の主補強材及び補助補強材から構成され、主補強材は、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造で、上下一対の大溝側面及び大溝底面からなる大溝部をバンパ前面に形成し、バンパ側面の後縁部と大溝底面とを車体側に接続させ、補助補強材は、上下一対の小溝側面及び小溝底面から小溝部を形成する前面開放断面構造で、小溝側面の前縁部に設けた接続フランジを前記主補強材のバンパ前面の表面に接続させた板金製のバンパ補強材とする。
【0023】
ここで、「中空断面構造」の主補強材は、背面が閉鎖された断面構造(背面閉鎖断面構造)の主補強材又は背面が開放された断面構造(背面開放断面構造)の主補強材を意味する。主補強材は、上下一対のバンパ側面の後縁部と大溝部底面とが車体(車両フレーム)に直接又は(衝撃吸収部材等を介して)間接に接続され、支持される。また「前面開放断面構造」の補助補強材は、前面が開放された断面構造の補助補強材を意味する。補助補強材は、車体側に接続される部分がなく、あくまで主補強材に支持される。
【0024】
主補強材は、バンパ前面から補助補強材が形成する小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面に形成してもよい。この場合、補助補強材は、接続フランジ及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成するとよい。膨出部は、上述同様、バンパ前面に対して補強ビードとして働き、ピーク荷重を高くする。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、大型化や製造コスト増を防止し、そして設計自由度を損ねずに、エネルギー吸収特性の向上を図ることができるバンパ補強材が提供できるようになる。具体的には、大溝部及び小溝部がバンパ前面及びバンパ側面に囲まれる範囲に収められるため、大型化が防止でき、また前記大溝部及び小溝部の構造は簡単なため、製造コスト増も防止できる。大溝部及び小溝部がバンパ前面及びバンパ側面に囲まれる範囲に収められ、それぞれの構造が簡単なことは、設計自由度を損ねない利点をもたらす。そして、互いの変形を抑制する大溝部及び小溝部の組み合わせにより、ピーク荷重を高め、エネルギー吸収量を大きくできる効果を得ることができる。
【0026】
本発明のバンパ補強材は、とりわけ、製造が容易かつ廉価となる板金製のバンパ補強材に適した構造である。具体的には、補助補強材が主補強材の範囲に収められるため、大型化が防止でき、また大溝部及び小溝部の形成のための加工が容易なため、製造コスト増も防止できる。補助補強材が主補強材の範囲に収められ、大溝部及び小溝部の形成のための加工が容易なことは、設計自由度を損ねない利点をもたらす。そして、本発明の技術的特徴である大溝部及び小溝部相互の変形の抑制は、板金製のバンパ補強材でも発揮され、ピーク荷重を高め、エネルギー吸収量を大きくできる効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図を参照しながら説明する。図1は背面開放断面構造の主補強材14に小溝部2を形成し、補助補強材15を大溝部3とした一例のバンパ補強材1を表す斜視図、そして図2は本例のバンパ補強材1を表す断面図である。図2以下の断面図において、バンパ側面12の後縁部121や大溝部3の大溝底面32は、型鋼やパイプを組み付けた具体的な車両フレームや前記車両フレームから突出された具体的な衝撃吸収部材に接続されるが、本発明では具体的な車両フレームや衝撃吸収部材の構成又は構造は自由であるため、図示の便宜上、バンパ側面12の後縁部121や大溝部3の大溝底面32を接続する面を車体4として図示している。
【0028】
本発明のバンパ補強材1は、図1及び図2に見られるように、板金製の主補強材14及び補助補強材15を組み合わせて構成できる。本例のバンパ補強材1を構成する主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、バンパ側面12の後縁部121を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を形成する前面開放断面構造であり、大溝側面31の前縁部に設けた接続フランジ151を前記主補強材14のバンパ前面11の裏面に例えばスポット溶接により接続させ、大溝底面32を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。
【0029】
小溝部2の幅(小溝側面21の対向距離)は、車両デザインに合わせて適宜決定すればよい。これに対し、バンパ前面11から小溝底面22までの小溝部2の深さbは、バンパ前面11から大溝底面32までの大溝部3の深さLの1/10〜1/2とする(本例はb=3/10L)。小溝部2の深さbは、ピーク荷重及びエネルギー吸収量双方に直接関係するパラメータであり、大溝部3の深さLの1/4〜3/10の範囲でピーク荷重及びエネルギー吸収量のピークを得る。これから、車両デザインの関係から制約を受ける場合、小溝部2の深さbは大溝部3の深さLの1/10〜1/2の範囲に留め、可能であれば前記小溝部2の深さbは大溝部3の深さLの1/4〜3/10の範囲で決定することが好ましい。大溝部3の深さLは、大溝底面32が車体4に接続するよう決定される。
【0030】
小溝側面21及び小溝底面22を結ぶ角部23から大溝側面31までの最短距離aは、前記大溝部3の深さLの1/10より小さくすればよい(本例はa=1/20L)。本発明において、最短距離aが大きくなる(小溝側面21及び小溝底面22を結ぶ角部23が大溝側面31から遠くなる)と、本発明の効果が発揮されないが、前記最短距離aが小さい場合は問題がない。これから、小溝側面21及び小溝底面22を結ぶ角部23を大溝側面31に密着させてもよい。大溝部3の幅(大溝側面31の対向距離)は、小溝部2の幅に前記最短距離aを加味して決定する。
【0031】
本例のバンパ補強材1は、主補強材14及び補助補強材15に同じ材料を用い、かつ同じ板厚にしている。本発明は、大溝部3の変形と小溝部2の変形とを対向させることができればよいので、大溝部3と小溝部2と同じタイミングで同じ変形量を有するのであれば、主補強材14及び補助補強材15が異なる材料又は異なる板厚になってもよい。また、各面を結ぶ角部は、いずれも断面円弧状に形成しているが、円弧半径の大小は本発明の効果を左右しない。このため、可能であれば、例えばバンパ前面11及び小溝側面21を結ぶ角部を直角に形成しても構わない。
【0032】
本発明は、バンパ補強材1において小溝部2及び大溝部3が設けられ、大溝部3が前記小溝部2を内包する関係にあるとよい。これから、上記例示(図1及び図2参照)のように、板金製のバンパ補強材1において、背面閉鎖構造であってもよいし、またアルミの押し出し成形品として構成することもできる。図3は背面閉鎖断面構造の主補強材14に小溝部2を形成し、補助補強材15を大溝部3とした別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図、そして図4は押し出し成形により小溝部2及び大溝部3を含めて全体を一体成形した別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図である。
【0033】
図3に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図1及び図2参照)の主補強材14を背面閉鎖断面構造に置き換えている。すなわち、主補強材14は、バンパ前面11、上下一対のバンパ側面12及びバンパ背面13を有する背面閉鎖断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、バンパ背面13を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。バンパ背面13は、バンパ側面12の後縁部121から折り返した延在面を中央で突き合わせて形成している。補助補強材15は、上記例示と同様で、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を形成する前面開放断面構造で、大溝側面31の前縁部に設けた接続フランジ151を前記主補強材14のバンパ前面11の裏面に例えばスポット溶接により接続させ、大溝底面32を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。
【0034】
図4に見られる別例のバンパ補強材1は、全体をアルミの押し出し成形品として構成している。すなわち、主補強材14及び補助補強材15がなく、全体がバンパ前面11、上下一対のバンパ側面12及びバンパ背面13を有する背面閉鎖断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、前記小溝部2を内包して、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を同じくバンパ前面11に形成して、バンパ背面13を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。図4に見られる別例のバンパ補強材1は、全体が一体成形品として構成されているため、最短距離aを「0(ゼロ)」にすることはできないが、小溝側面21と大溝側面31とがそれぞれ独立して変形できる限り、前記最短距離aを小さくすることが望ましい。
【0035】
本例(図1及び図2参照)のバンパ補強材1において、大溝側面31に接続斜面311を形成し(後掲図5)、更にバンパ前面11及び小溝側面21を結ぶ角部に膨出部24を設けることもできる(後掲図6)。図5は背面開放断面構造の主補強材14に小溝部2を形成し、補助補強材15を大溝部3として、大溝部3に接続斜面311を設けた別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図、そして図6は背面開放断面構造の主補強材14に小溝部2を形成し、補助補強材15を大溝部3として、大溝部3に接続斜面311を設け、かつバンパ前面11及び小溝側面21を結ぶ角部に膨出部24を設けた別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図である。
【0036】
図5に見られる別例のバンパ補強材1は、大溝側面31に接続斜面311を設けた構成である。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、バンパ側面12の後縁部121を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を形成する前面開放断面構造で、バンパ前面11に接続される前縁部から小溝部2を挟む範囲の大溝側面31に、徐変に間隔が小さくなる接続斜面311を設け、前記接続斜面311の前縁部に設けた接続フランジ151を主補強材14のバンパ前面11の裏面に例えばスポット溶接により接続させ、大溝底面32を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。
【0037】
接続斜面311は、バンパ前面11から大溝部3の深さLの3/5の範囲内で、残る大溝側面31に対する傾斜角度θは25度で傾斜させている。こうした接続斜面311は、大溝側面31に対する角部の存在により、小溝部2に向かって膨出するように変形するので、大溝部3の変形と小溝部2の変形とを対向させやすい。接続斜面311は、大溝側面31の長さを実質長くするものであるが、車両デザインとの関係で、小溝部2の幅を大きくしたい場合、特に相対的に小溝部2の幅を大溝部3の幅より大きくする場合に用いる(小溝部2の幅と大溝部3の幅とについて、図2及び図5を比較対照)。
【0038】
図6に見られる別例のバンパ補強材1は、上記別例(図5参照)に膨出部24を追加した構成である。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、バンパ前面11及び小溝側面21を結ぶ角部に、バンパ前面11に対して前方に突出した断面半円弧状の膨出部24を形成して、バンパ側面12の後縁部121を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。更に、前記膨出部24と障害物との衝突を同じくする補助膨出部26を、バンパ前面11及びバンパ側面12を結ぶ角部に、膨出部24同様の構成で形成している。補助補強材15は、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を形成する前面開放断面構造で、バンパ前面11に接続される前縁部から小溝部2を挟む範囲の大溝側面31に、徐変に間隔が小さくなる接続斜面311を設け、前記接続斜面311の前縁部に設けた接続フランジ151を主補強材14のバンパ前面11の裏面に例えばスポット溶接により接続させ、大溝底面32を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。
【0039】
本例(図1及び図2参照)ほか、図5及び図6に見られる別例のバンパ補強材1は、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にすることもできる。図7は背面開放断面構造の主補強材14に大溝部3を形成し、補助補強材15を小溝部2とした別例のバンパ補強材1を表す断面図、図8は背面開放断面構造の主補強材14に大溝部3を形成し、大溝部3に接続斜面311を設けて、補助補強材15を小溝部2とした別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図、そして図9は背面開放断面構造の主補強材14に大溝部3を形成し、大溝部3に接続斜面311を設けて、補助補強材15を小溝部2とし、かつ接続フランジ151及び小溝側面21を結ぶ角部に膨出部25を設けた別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図である。
【0040】
図7に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図1及び図2参照)に対し、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にしている。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32からなる大溝部3をバンパ前面11に形成し、バンパ側面12の後縁部121と大溝底面32とを車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22から小溝部2を形成する前面開放断面構造で、小溝側面21の前縁部に設けた接続フランジ151を前記主補強材14のバンパ前面11の表面に例えばスポット溶接により接続させている。図7に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図1及び図2参照)に対し、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にしている以外は相違がなく、エネルギー吸収特性は同じである。
【0041】
図8に見られる別例のバンパ補強材1は、上記別例(図7参照)の大溝側面31に接続斜面311を設けた構成である。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32からなる大溝部3をバンパ前面11に形成し、バンパ前面11から小溝部2を挟む範囲の大溝側面31に、徐変に間隔が小さくなる接続斜面311を設けて、バンパ側面12の後縁部121と大溝底面32とを車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22から小溝部2を形成する前面開放断面構造で、前記接続斜面311の前縁部に設けた接続フランジ151を主補強材14のバンパ前面11の表面に例えばスポット溶接により接続させている。図8に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図5参照)に対し、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にしている以外は相違がなく、エネルギー吸収特性は同じである。
【0042】
図9に見られる別例のバンパ補強材1は、上記別例(図8参照)に膨出部25を追加した構成である。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32からなる大溝部3をバンパ前面11に形成し、バンパ前面11から小溝部2を挟む範囲の大溝側面31に、徐変に間隔が小さくなる接続斜面311を設けて、バンパ側面12の後縁部121と大溝底面32とを車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22から小溝部2を形成する前面開放断面構造で、接続斜面311の前縁部に設けた接続フランジ151及び小溝側面21を結ぶ角部に、バンパ前面11に対して前方に突出した断面半円弧状の膨出部25を形成し、前記接続フランジ151を主補強材14のバンパ前面11の表面に例えばスポット溶接により接続させている。図9に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図6参照)に対し、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にしている以外は相違がなく、エネルギー吸収特性は同じである。
【0043】
本例(図1及び図2参照)のバンパ補強材1により、衝撃を受けた際の各部の変形について説明する。図10は本例のバンパ補強材1が、バンパ前面11に荷重Fを印加されて変形した状態を表す断面図である。バンパ全面に対する荷重Fは、後掲図11に見られる3点曲げ荷重試験の試験装置構成における印加部材6により上下均等に印加されるものとする。この場合、図10に見られるように、小溝部2を挟んだ上下一対のバンパ前面11は、背面方向に向けて凹み、断面円弧状の角部を介したバンパ側面12は、概ね半分から前が外向きに膨らみ、概ね半分から後が内向きに膨らむ。
【0044】
大溝側面31は、上記バンパ側面12と上下対称に変形する。すなわち、大溝側面31は、概ね半分から前が内向きに膨らみ、概ね半分から後が内向きに膨らむ(図10中白抜き矢印参照)。小溝側面21も、大溝側面31同様、上記バンパ側面12と上下対称に、概ね半分から前が内向きに膨らみ、概ね半分から後が内向きに膨らむ(図10中黒塗り矢印参照)。ここで、本例のバンパ補強材1は、小溝部2の深さbが大溝部3の深さLの3/10しかないため、小溝部2及び大溝部3が変形をし始めた直後、大溝側面31の内向きに膨らむ前半と小溝側面21の外向きに膨らむ後半とが衝突点Cにおいて衝突する。以後、小溝部2と大溝部3との衝突が続くため、両者の変形は互いに抑制され、この結果、高いピーク荷重と大きなエネルギー吸収量が実現される。
【実施例】
【0045】
本発明に基づくバンパ補強材のエネルギー吸収特性について、比較例と共に3点曲げ荷重試験を実施した。図11は実施例及び比較例に荷重Fを加える3点曲げ荷重試験の試験装置構成を示す模式図であり、図12〜図16は実施例1〜実施例3、比較例1及び比較例2の断面図である。3点曲げ荷重試験に用いられる試験装置は、従来公知の一般的な装置構成であり、図11に見られるように、実施例又は比較例の長尺なバンパ補強材を、断面円弧状の先端面を有する支持部材5,5によりバンパ背面13側の左右対称位置で支持し、同様の断面円弧状の先端面を有する印加部材6によりバンパ前面の左右中央位置を押圧して、荷重Fを印加する。
【0046】
実施例1〜実施例3、比較例1及び比較例2は、主補強材及び補助補強材に板厚1.2mmの980MPa材を用い、バンパ補強材としての高さWA、すなわち主補強材の高さ(バンパ側面外面の間隔)を100mm、バンパ補強材としての奥行きDA、すなわち主補強材の奥行き(バンパ側面の長さ)を45mmに揃え、各面を結ぶ角部を円弧半径r(断面内側の半径)が3mmの断面円弧状としている。また、各実施例及び各比較例の延在方向長さは1200mmに揃えている。この度の3点曲げ荷重試験では、こうした各実施例及び比較例のバンパ補強材を880mmの間隔に配置した支持部材5,5で支持させた。
【0047】
実施例1は、図12に見られるように、上記図2相当品であり、大溝部の深さLは43.6mm、小溝部の幅WS(小溝側面内面の間隔)は20.4mmとして最短距離aを2mm(a=約1/20L)とし、そして小溝部の深さbは13.6mm(b=約1/3L)としている。
【0048】
実施例2は、図13に見られるように、上記図5相当品であり、大溝部の幅WL(大溝側面内面の間隔)は30mm、大溝部の深さLは43.8mm、接続斜面はバンパ前面から17.6mm(約1/2.5L)の範囲内で、大溝側面に対する傾斜角度θを25度とし、小溝部の幅WS(小溝側面内面の間隔)は30mmとして最短距離aを1mm(a=約1/40L)とし、そして小溝部の深さbは13.8mm(b=約1/3L)としている。
【0049】
実施例3は、図14に見られるように、上記図6相当品であり、大溝部の幅WL(大溝側面内面の間隔)は30mm、大溝部の深さLは43.8mm、接続斜面はバンパ前面から17.6mm(約1/2.5L)の範囲内で、大溝側面に対する傾斜角度θを25度とし、小溝部の幅WS(小溝側面内面の間隔)は30mmとして最短距離aを1mm(a=約1/40L)とし、そして小溝部の深さbは13.8mm(b=約1/3L)としている。膨出部は、バンパ前面から2mm突出した断面半円弧状で、半径Rは3mmである。更に、実施例3は、膨出部と同時に印加部材に接触する補助膨出部を、バンパ前面及びバンパ側面を結ぶ角部に、膨出部と同じだけバンパ前面から突出して設けている。
【0050】
比較例1は、図15に見られるように、特許文献2相当品であり、奥行きが28mmである主補強材の前面に、奥行きが17mmとなるように補助補強材を取り付けた構造で、主補強材に設けた溝は幅MWが28mm、深さMLが14.8mm、補助補強材に設けた溝は幅SWが16mm、深さSLが20.8mmである。
【0051】
比較例2は、図16に見られるように、特許文献3相当品であり、主補強材の内側に補助補強材を取り付けた構造で、主補強材に設けた溝は幅MWが23mm、深さMLが5mm、補助補強材に設けた溝は幅SWが36.9mm、深さSLが16.4mmである。そして、比較例2の特徴となる山形と突出部位は、バンパ前面裏面から5mm離れた断面半円弧状で、半径rはその他の角部に揃えて3mmとしている。
【0052】
図17は各実施例及び各比較例についての3点曲げ荷重試験の結果を表すエネルギー吸収特性のグラフである。エネルギー吸収特性のグラフでは、ピーク荷重及びエネルギー吸収量を、単位質量当たりの値に換算している。このエネルギー吸収特性のグラフから明らかなように、実施例1〜実施例3は比較例1及び比較例2に対してピーク荷重が高く、またエネルギー吸収量も大きくなっている。また、実施例1〜実施例3は、ピーク荷重に達した後の落ち込みが少ないことから、エネルギー吸収特性が安定している。特に膨出部を設けた実施例3は、ピーク荷重に達する変位量が大きくなっており、実施例2よりエネルギー吸収量が大きくなっている。
【0053】
次に、本願発明のバンパ補強材の代表として実施例1を挙げ、最短距離a及び小溝部の深さbとピーク荷重及びエネルギー吸収量との関係について確認した。試験装置の構成や実施例1の構成については、上述の通りである。図18は最短距離aとピーク荷重との関係を表したグラフ、図19は最短距離aとエネルギー吸収量との関係を表したグラフ、図20は小溝部の深さbとピーク荷重との関係を表したグラフ、そして図21は小溝部の深さbとエネルギー吸収量との関係を表したグラフである。エネルギー吸収量は、印加部材が実施例1のバンパ前面に衝突してからの変位量が80mmまでのものである。
【0054】
最短距離aとピーク荷重及びエネルギー吸収量との関係を調べる3点曲げ荷重試験では、小溝部の深さbを12mm(約1/4L)に固定し、最短距離aを0mm〜6mm(約1/7L)の範囲で変化させた。その結果、図18及び図19に見られるように、最短距離aが「0(ゼロ)」である場合、すなわち小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部が大溝側面に接触している場合が最も好ましくことが分かる。そして、最短距離aが大きくなっていくと、エネルギー吸収量は比較的なだらかに低減していくが、ピーク荷重は最短距離a=2mm、すなわち約1/20L(L=43.6mm)を超え始めると急激に低下し始め、最短距離a=4mm、すなわち約1/10Lを超えると低下が止まることから、最短距離aが1/10L以下であれば、本願発明の効果としてピーク荷重を高くし、エネルギー吸収量を大きくすることが分かる。
【0055】
小溝部の深さbとピーク荷重及びエネルギー吸収量との関係を調べる3点曲げ荷重試験では、最短距離aを1mm(約1/40L)に固定し、小溝部の深さbを0mm〜40mm(約L相当)の範囲で変化させた。その結果、図20及び図21に見られるように、小溝部の深さbが10mm、すなわち約1/4Lである場合に特性のピークが見られ、小溝部の深さbが小さくなっても、また大きくなってもピーク荷重及びエネルギー吸収特性が小さくなることが分かる。エネルギー吸収量は、変化が比較的なだらかであるが、ピーク荷重の変化から、小溝部の深さbが1/10L〜1/2Lの範囲にあると、本願発明の効果としてピーク荷重を高くすると考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】背面開放断面構造の主補強材に小溝部を形成し、補助補強材を大溝部とした一例のバンパ補強材を表す斜視図である。
【図2】本例のバンパ補強材を表す断面図である。
【図3】背面閉鎖断面構造の主補強材に小溝部を形成し、補助補強材を大溝部とした別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図4】押し出し成形により小溝部及び大溝部を含めて全体を一体成形した別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図5】背面開放断面構造の主補強材に小溝部を形成し、補助補強材を大溝部として、大溝部に接続斜面を設けた別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図6】背面開放断面構造の主補強材に小溝部を形成し、補助補強材を大溝部として、大溝部に接続斜面を設け、かつバンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を設けた別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図7】背面開放断面構造の主補強材に大溝部を形成し、補助補強材を小溝部とした別例のバンパ補強材を表す断面図である。
【図8】背面開放断面構造の主補強材に大溝部を形成し、大溝部に接続斜面を設けて、補助補強材を小溝部とした別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図9】背面開放断面構造の主補強材に大溝部を形成し、大溝部に接続斜面を設けて、補助補強材を小溝部とし、かつ接続フランジ及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を設けた別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図10】本例のバンパ補強材が、バンパ前面に荷重Fを印加されて変形した状態を表す断面図である。
【図11】各実施例及び比較例に荷重Fを加える3点曲げ荷重試験の試験装置構成を示す模式図である。
【図12】図2相当品である実施例1の断面図である。
【図13】図5相当品である実施例2の断面図である。
【図14】図6相当品である実施例3の断面図である。
【図15】特許文献2相当品である比較例1の断面図である。
【図16】特許文献3相当品である比較例2の断面図である。
【図17】各実施例及び各比較例についての3点曲げ荷重試験の結果を表すエネルギー吸収特性のグラフである。
【図18】最短距離aとピーク荷重との関係を表したグラフである。
【図19】最短距離aとエネルギー吸収量との関係を表したグラフである。
【図20】小溝部の深さbとピーク荷重との関係を表したグラフである。
【図21】小溝部の深さbとエネルギー吸収量との関係を表したグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 バンパ補強材
11 バンパ前面
12 バンパ側面
14 主補強材
15 補助補強材
2 小溝部
21 小溝側面
22 小溝底面
3 大溝部
31 大溝側面
311 接続斜面
32 大溝底面
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のバンパを構成するバンパ補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のバンパは、衝撃を吸収するバンパ補強材と、前記バンパ補強材を覆うバンパカバーとから構成される。バンパ補強材は、中空な断面形状を変形(前記断面形状を形成する面の塑性変形)させて衝撃を吸収する。バンパ補強材のエネルギー吸収特性は、3点曲げ試験において印加される荷重の最大値(ピーク荷重)が高く、また前記3点曲げ試験における変形量及び荷重の積分値(エネルギー吸収量)が大きいほど、優れている。バンパ補強材におけるエネルギー吸収特性は、塑性変形する各面を厚肉化したり、高強度材料を用いたり、断面形状を複雑化したりして、向上させる。
【0003】
特許文献1は、高さ(車両の前後方向の幅)の異なる複数の縦壁と、前記縦壁相互を連結する横壁とからなり、横壁相互を多段の位置関係に、縦壁相互を衝撃によって座屈、圧潰する際に干渉する位置関係に、それぞれ配置したバンパ補強材(衝撃吸収部材)を開示している。特許文献1が開示するバンパ補強材は、衝撃が各横壁によって多段階に加わるので、最初に発生するピーク荷重(初期ピーク荷重)を小さくしながら、エネルギー吸収量も向上させることができるとしている。
【0004】
特許文献2は、車体側に支持する主補強材と、主補強材の前面に取り付ける補助補強材とからなり、補助補強材は略凹型断面部を、主補強材は凹溝部をそれぞれ設け、補助補強材は略凹型断面部を前記凹溝部に当接させたバンパ補強材を開示している。特許文献2が開示するバンパ補強材は、特別な部材を要せず、加工も容易な構造であることから、材料や生産設備の変更が不要となり、コスト増を抑えている。また、局部的な座屈を抑えながら、エネルギー吸収量を向上させている。
【0005】
特許文献3は、前面及び上下側面からなる背面開放断面構造の主補強材と、主補強材の前面から上下側面それぞれに架設した補助補強材とからなり、補助補強材は前面に凸な山折れ部を形成したバンパ補強材を開示している。主補強材は、前面に溝底面及び溝側面からなる断面凹な前面溝部を設け、前面溝部から上下側面それぞれに補助補強材を架設する。特許文献3が開示するバンパ補強材は、背面開放断面構造(背面が開放されている構造)でありながら、閉鎖断面構造のバンパ補強材に劣らない高いピーク荷重と大きなエネルギー吸収量とを有している。
【0006】
【特許文献1】特開2005-170234号公報
【特許文献2】特開2003-237507号公報
【特許文献3】特開2004-074834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述したように、バンパ補強材におけるエネルギー吸収特性は、塑性変形する各面を厚肉化する、高強度材料を用いる、又は断面形状を複雑化することにより向上させることができる。しかし、各面を厚肉化するとバンパ補強材が大型化して重量物になる。また、高強度材料を用いると製造コストが高くなる。更に、断面形状の複雑化は、バンパ補強材の設計自由度を低下させ、車両全体の設計自由度を制約しかねない。これから、バンパ補強材におけるエネルギー吸収特性を向上させる手段は、大型化や製造コスト増を防止する観点、そして設計自由度を損ねない観点からも、評価する必要がある。
【0008】
特許文献1が開示するバンパ補強材は、縦壁が長いため、各縦壁の変形が一様でなく、縦壁相互が座屈、圧潰する際に必ず干渉するとは限らない。仮に縦壁相互が緩衝するとしても、各縦壁が相互に大きく離れているから、縦壁それぞれが相当程度に座屈、圧潰しなければ、縦壁相互が干渉しないと考えられる。これから、吸収される荷重が脈動し(初期ピーク荷重との表現は、脈動を前提とする)、全体として安定したエネルギー吸収特性が得られないと考えられる。また、吸収される荷重が脈動することから、エネルギー吸収量が小さくなることが避けられない(特許文献1[図5]参照)。
【0009】
これに対し、特許文献2が開示するバンパ補強材は、吸収される荷重を安定させ、エネルギー吸収量も大きくすることができる。しかし、主補強材の前面に補助補強材を取り付ける構造であるため、どうしてもバンパ補強材として大型化することが避けられず、重量増加を招くほか、設計自由度が制約されていた。このため、重量制限及びレイアウト制限が厳しい軽自動車やデザイン性の高い自動車には、特許文献2が開示するバンパ補強材が利用しづらかった。
【0010】
特許文献3が開示するバンパ補強材は、補助補強材を主補強材の内部に設けるため、特許文献2が開示するバンパ補強材のように、大型化することがない。ところが、特許文献3記載の発明は、閉鎖断面構造のバンパ補強材に対して劣るとされた背面開放断面構造のバンパ補強材を改良するものであり、背面開放断面構造のバンパ補強材としての変形を制御する点に力点がおかれ、閉鎖断面構造のバンパ補強材に相当するエネルギー吸収特性を確保するだけで、更にピーク荷重を高くしたり、エネルギー吸収量を大きくしたりするものではなかった。
【0011】
このように、大型化や製造コスト増を防止し、そして設計自由度を損ねずに、エネルギー吸収特性の向上を図ることができるバンパ補強材は、未だ存在していないと考えることができる。そこで、比較的低コストでの製造が可能な板金製のバンパ補強材についての発明である特許文献2記載の発明又は特許文献3記載の発明を基礎として、両者が抱える問題を克服し、更にピーク荷重を高くしたり、エネルギー吸収量を大きくしたりすることを目標として、新しいバンパ補強材について検討した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
検討の結果開発したものが、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造のバンパ補強材において、上下一対の小溝側面及び小溝底面からなる小溝部と、前記小溝部を内包し、上下一対の大溝側面及び大溝底面からなる大溝部とをバンパ前面に形成したバンパ補強材である。ここで、「中空断面構造のバンパ補強材」とは、背面が閉鎖又は開放されているかを問わず、内部にバンパ補強材の延在方向(通常、車両の左右方向)に連続する空洞部分を有する構造のバンパ補強材を意味する。これから、本発明のバンパ補強材は、アルミの押出成形品や研削成形品や、後述するように、製造が容易かつ廉価な板金製として構成することができる。
【0013】
本発明のバンパ補強材は、大溝側面における上下方向の変形と、小溝側面における上下方向の変形とを対向させ、互いの変形を抑制して、エネルギー吸収特性のピーク荷重を高くする。また、前記大溝側面及び小溝側面が共に抑制された変形を継続させて、エネルギー吸収量を大きくする。本発明において、小溝部は、バンパ前面から小溝底面までの小溝部の深さbを、バンパ前面から大溝底面までの大溝部の深さLの1/10〜1/2とし、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から大溝側面までの最短距離aを、前記大溝部の深さLの1/10より小さくするとよい。ここで、「バンパ前面から小溝底面までの小溝部の深さb」とは、バンパ前面の表面と小溝底面の表面との最短直交距離を、また「小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から大溝側面までの最短距離a」とは、前記角部の大溝側面に対向する表面と大溝側面との最短直交距離を意味する。
【0014】
大溝部及び小溝部は、概ね半分から前(バンパ前面寄り)が内向き(上下対称軸線に近づく向き)に膨らみ、概ね半分から後(大溝底面寄り又は小溝底面寄り)が外向き(上下対称軸線から遠ざかる向き)に膨らむ。これから、小溝部の深さbが大溝部の深さLの1/2以下にすることにより、大溝部の半分から前の変形と小溝部の半分から後の変形とを対向させることができ、互いの変形を抑制できる。しかし、小溝部の深さbがあまり小さいと小溝側面の変形がしにくくなる。そこで、小溝部の深さbは、1/10以上にすることが望ましい。
【0015】
また、大溝部の変形直後から小溝部の変形が直ちに対向することが好ましいことから、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から大溝側面までの最短距離aは、「0(ゼロ)」であることが望ましい。裏返せば、前記最短距離aが大きくなるほど、大溝部の変形と小溝部の変形との対向が遅れ、場合によっては互いの変形を抑制するに至らなくなる。これから、前記最短距離aを大溝部の深さLの1/10以下にする、すなわち前記最短距離aを大溝部の深さLの0〜1/2にすることにより、大溝部の変形と小溝部との変形が対向し、互いの変形の抑制が必ずなされて、本発明の効果を得ることができるようになる。
【0016】
大溝部は、バンパ前面に接続される前縁部から小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面とした場合、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から接続斜面までの最短距離aを、バンパ前面から大溝部の深さLの1/10より小さくするとよい。接続斜面は、大溝側面に対する角部の存在により、小溝部に向かって膨出するように変形するので、大溝部の変形と小溝部の変形とを対向させやすい。接続斜面は、大溝側面の長さを実質長くするものであるが、車両デザインとの関係で、小溝部の幅を大きくしたい場合、特に相対的に小溝部の幅を大溝部の幅より大きくする場合に用いる。接続斜面は、バンパ前面から大溝部の深さLの範囲内とする。すなわち、大溝側面を全て接続斜面としてもよい。また、バンパ前面に直交する大溝側面に対する傾斜角度θは60度以下とする。裏返せば、傾斜角度0度の接続斜面は、バンパ前面に直交する大溝側面である。
【0017】
ここで、「小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から接続斜面までの最短距離a」とは、前記角部の大溝側面に対向する表面と接続斜面との最短直交距離を意味する。接続斜面は、変形する大溝側面を実質的に長くする。このとき、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部と傾斜側面とが遠ざかるため、前記角部が開いてバンパ前面又は小溝側面が変形しやすくなる(傾斜側面に対するバンパ前面及び小溝側面の三角形断面が潰れる)虞がある。そこで、小溝部は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成するとよい。膨出部は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部が開くことを防止する働きがある。この膨出部の膨出方向は自由であるが、バンパ前面に対して前方に膨出(突出)することが望ましい。また、膨出部の断面形状は、円弧状がよい。この場合、バンパ前面に対して膨出部のみが先行して障害物に衝突することを避けるため、膨出部以外に障害物と衝突する補助膨出部をバンパ前面に設けるとよい。こうした膨出部又は補助膨出部は、バンパ前面に対して補強ビードとして働き、ピーク荷重を高くする。
【0018】
本発明は板金製のバンパ補強材に適している。すなわち、板金製の主補強材及び補助補強材から構成され、主補強材は、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造で、上下一対の小溝側面及び小溝底面からなる小溝部をバンパ前面に形成し、バンパ側面の後縁部を車体側に接続させ、補助補強材は、上下一対の大溝側面及び大溝底面から大溝部を形成する前面開放構造で、大溝側面の前縁部を前記主補強材のバンパ前面の裏面に接続させ、大溝底面を車体側に接続させた板金製のバンパ補強材とする。
【0019】
ここで、「中空断面構造」の主補強材は、背面が閉鎖された断面構造(背面閉鎖断面構造)の主補強材又は背面が開放された断面構造(背面開放断面構造)の主補強材を意味する。主補強材は、上下一対のバンパ側面の後縁部が車体(車両フレーム)に直接又は(衝撃吸収部材等を介して)間接に接続され、支持されるほか、後述するように、補助補強材を介して車体側に間接に支持される。
【0020】
また「前面開放断面構造」の補助補強材は、前面が開放された断面構造の補助補強材を意味する。補助補強材は、大溝底面を車体側に接続し、大溝側面の前縁部を主補強材のバンパ補強材に接続して、それぞれに支持される。これから、バンパ前面は、補助補強材を介して車体側に間接に支持される。補助補強材の大溝側面の前縁部は、端縁を直接バンパ前面の裏面に接続してもよいが、前記前縁部に設けた接続フランジを介してバンパ前面の裏面に接続する方が好ましい。
【0021】
補助補強材は、バンパ前面の裏面に接続される前縁部から主補強材が形成する小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面に形成してもよい。この場合、上述したように、主補強材は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成するとよい。膨出部は、上述同様、バンパ前面に対して補強ビードとして働き、ピーク荷重を高くする。
【0022】
上述の板金製のバンパ補強材において、主補強材及び補助補強材の関係を入れ替えることもできる。すなわち、板金製の主補強材及び補助補強材から構成され、主補強材は、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造で、上下一対の大溝側面及び大溝底面からなる大溝部をバンパ前面に形成し、バンパ側面の後縁部と大溝底面とを車体側に接続させ、補助補強材は、上下一対の小溝側面及び小溝底面から小溝部を形成する前面開放断面構造で、小溝側面の前縁部に設けた接続フランジを前記主補強材のバンパ前面の表面に接続させた板金製のバンパ補強材とする。
【0023】
ここで、「中空断面構造」の主補強材は、背面が閉鎖された断面構造(背面閉鎖断面構造)の主補強材又は背面が開放された断面構造(背面開放断面構造)の主補強材を意味する。主補強材は、上下一対のバンパ側面の後縁部と大溝部底面とが車体(車両フレーム)に直接又は(衝撃吸収部材等を介して)間接に接続され、支持される。また「前面開放断面構造」の補助補強材は、前面が開放された断面構造の補助補強材を意味する。補助補強材は、車体側に接続される部分がなく、あくまで主補強材に支持される。
【0024】
主補強材は、バンパ前面から補助補強材が形成する小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面に形成してもよい。この場合、補助補強材は、接続フランジ及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成するとよい。膨出部は、上述同様、バンパ前面に対して補強ビードとして働き、ピーク荷重を高くする。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、大型化や製造コスト増を防止し、そして設計自由度を損ねずに、エネルギー吸収特性の向上を図ることができるバンパ補強材が提供できるようになる。具体的には、大溝部及び小溝部がバンパ前面及びバンパ側面に囲まれる範囲に収められるため、大型化が防止でき、また前記大溝部及び小溝部の構造は簡単なため、製造コスト増も防止できる。大溝部及び小溝部がバンパ前面及びバンパ側面に囲まれる範囲に収められ、それぞれの構造が簡単なことは、設計自由度を損ねない利点をもたらす。そして、互いの変形を抑制する大溝部及び小溝部の組み合わせにより、ピーク荷重を高め、エネルギー吸収量を大きくできる効果を得ることができる。
【0026】
本発明のバンパ補強材は、とりわけ、製造が容易かつ廉価となる板金製のバンパ補強材に適した構造である。具体的には、補助補強材が主補強材の範囲に収められるため、大型化が防止でき、また大溝部及び小溝部の形成のための加工が容易なため、製造コスト増も防止できる。補助補強材が主補強材の範囲に収められ、大溝部及び小溝部の形成のための加工が容易なことは、設計自由度を損ねない利点をもたらす。そして、本発明の技術的特徴である大溝部及び小溝部相互の変形の抑制は、板金製のバンパ補強材でも発揮され、ピーク荷重を高め、エネルギー吸収量を大きくできる効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図を参照しながら説明する。図1は背面開放断面構造の主補強材14に小溝部2を形成し、補助補強材15を大溝部3とした一例のバンパ補強材1を表す斜視図、そして図2は本例のバンパ補強材1を表す断面図である。図2以下の断面図において、バンパ側面12の後縁部121や大溝部3の大溝底面32は、型鋼やパイプを組み付けた具体的な車両フレームや前記車両フレームから突出された具体的な衝撃吸収部材に接続されるが、本発明では具体的な車両フレームや衝撃吸収部材の構成又は構造は自由であるため、図示の便宜上、バンパ側面12の後縁部121や大溝部3の大溝底面32を接続する面を車体4として図示している。
【0028】
本発明のバンパ補強材1は、図1及び図2に見られるように、板金製の主補強材14及び補助補強材15を組み合わせて構成できる。本例のバンパ補強材1を構成する主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、バンパ側面12の後縁部121を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を形成する前面開放断面構造であり、大溝側面31の前縁部に設けた接続フランジ151を前記主補強材14のバンパ前面11の裏面に例えばスポット溶接により接続させ、大溝底面32を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。
【0029】
小溝部2の幅(小溝側面21の対向距離)は、車両デザインに合わせて適宜決定すればよい。これに対し、バンパ前面11から小溝底面22までの小溝部2の深さbは、バンパ前面11から大溝底面32までの大溝部3の深さLの1/10〜1/2とする(本例はb=3/10L)。小溝部2の深さbは、ピーク荷重及びエネルギー吸収量双方に直接関係するパラメータであり、大溝部3の深さLの1/4〜3/10の範囲でピーク荷重及びエネルギー吸収量のピークを得る。これから、車両デザインの関係から制約を受ける場合、小溝部2の深さbは大溝部3の深さLの1/10〜1/2の範囲に留め、可能であれば前記小溝部2の深さbは大溝部3の深さLの1/4〜3/10の範囲で決定することが好ましい。大溝部3の深さLは、大溝底面32が車体4に接続するよう決定される。
【0030】
小溝側面21及び小溝底面22を結ぶ角部23から大溝側面31までの最短距離aは、前記大溝部3の深さLの1/10より小さくすればよい(本例はa=1/20L)。本発明において、最短距離aが大きくなる(小溝側面21及び小溝底面22を結ぶ角部23が大溝側面31から遠くなる)と、本発明の効果が発揮されないが、前記最短距離aが小さい場合は問題がない。これから、小溝側面21及び小溝底面22を結ぶ角部23を大溝側面31に密着させてもよい。大溝部3の幅(大溝側面31の対向距離)は、小溝部2の幅に前記最短距離aを加味して決定する。
【0031】
本例のバンパ補強材1は、主補強材14及び補助補強材15に同じ材料を用い、かつ同じ板厚にしている。本発明は、大溝部3の変形と小溝部2の変形とを対向させることができればよいので、大溝部3と小溝部2と同じタイミングで同じ変形量を有するのであれば、主補強材14及び補助補強材15が異なる材料又は異なる板厚になってもよい。また、各面を結ぶ角部は、いずれも断面円弧状に形成しているが、円弧半径の大小は本発明の効果を左右しない。このため、可能であれば、例えばバンパ前面11及び小溝側面21を結ぶ角部を直角に形成しても構わない。
【0032】
本発明は、バンパ補強材1において小溝部2及び大溝部3が設けられ、大溝部3が前記小溝部2を内包する関係にあるとよい。これから、上記例示(図1及び図2参照)のように、板金製のバンパ補強材1において、背面閉鎖構造であってもよいし、またアルミの押し出し成形品として構成することもできる。図3は背面閉鎖断面構造の主補強材14に小溝部2を形成し、補助補強材15を大溝部3とした別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図、そして図4は押し出し成形により小溝部2及び大溝部3を含めて全体を一体成形した別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図である。
【0033】
図3に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図1及び図2参照)の主補強材14を背面閉鎖断面構造に置き換えている。すなわち、主補強材14は、バンパ前面11、上下一対のバンパ側面12及びバンパ背面13を有する背面閉鎖断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、バンパ背面13を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。バンパ背面13は、バンパ側面12の後縁部121から折り返した延在面を中央で突き合わせて形成している。補助補強材15は、上記例示と同様で、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を形成する前面開放断面構造で、大溝側面31の前縁部に設けた接続フランジ151を前記主補強材14のバンパ前面11の裏面に例えばスポット溶接により接続させ、大溝底面32を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。
【0034】
図4に見られる別例のバンパ補強材1は、全体をアルミの押し出し成形品として構成している。すなわち、主補強材14及び補助補強材15がなく、全体がバンパ前面11、上下一対のバンパ側面12及びバンパ背面13を有する背面閉鎖断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、前記小溝部2を内包して、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を同じくバンパ前面11に形成して、バンパ背面13を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。図4に見られる別例のバンパ補強材1は、全体が一体成形品として構成されているため、最短距離aを「0(ゼロ)」にすることはできないが、小溝側面21と大溝側面31とがそれぞれ独立して変形できる限り、前記最短距離aを小さくすることが望ましい。
【0035】
本例(図1及び図2参照)のバンパ補強材1において、大溝側面31に接続斜面311を形成し(後掲図5)、更にバンパ前面11及び小溝側面21を結ぶ角部に膨出部24を設けることもできる(後掲図6)。図5は背面開放断面構造の主補強材14に小溝部2を形成し、補助補強材15を大溝部3として、大溝部3に接続斜面311を設けた別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図、そして図6は背面開放断面構造の主補強材14に小溝部2を形成し、補助補強材15を大溝部3として、大溝部3に接続斜面311を設け、かつバンパ前面11及び小溝側面21を結ぶ角部に膨出部24を設けた別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図である。
【0036】
図5に見られる別例のバンパ補強材1は、大溝側面31に接続斜面311を設けた構成である。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、バンパ側面12の後縁部121を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を形成する前面開放断面構造で、バンパ前面11に接続される前縁部から小溝部2を挟む範囲の大溝側面31に、徐変に間隔が小さくなる接続斜面311を設け、前記接続斜面311の前縁部に設けた接続フランジ151を主補強材14のバンパ前面11の裏面に例えばスポット溶接により接続させ、大溝底面32を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。
【0037】
接続斜面311は、バンパ前面11から大溝部3の深さLの3/5の範囲内で、残る大溝側面31に対する傾斜角度θは25度で傾斜させている。こうした接続斜面311は、大溝側面31に対する角部の存在により、小溝部2に向かって膨出するように変形するので、大溝部3の変形と小溝部2の変形とを対向させやすい。接続斜面311は、大溝側面31の長さを実質長くするものであるが、車両デザインとの関係で、小溝部2の幅を大きくしたい場合、特に相対的に小溝部2の幅を大溝部3の幅より大きくする場合に用いる(小溝部2の幅と大溝部3の幅とについて、図2及び図5を比較対照)。
【0038】
図6に見られる別例のバンパ補強材1は、上記別例(図5参照)に膨出部24を追加した構成である。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22からなる小溝部2をバンパ前面11に形成し、バンパ前面11及び小溝側面21を結ぶ角部に、バンパ前面11に対して前方に突出した断面半円弧状の膨出部24を形成して、バンパ側面12の後縁部121を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。更に、前記膨出部24と障害物との衝突を同じくする補助膨出部26を、バンパ前面11及びバンパ側面12を結ぶ角部に、膨出部24同様の構成で形成している。補助補強材15は、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32から大溝部3を形成する前面開放断面構造で、バンパ前面11に接続される前縁部から小溝部2を挟む範囲の大溝側面31に、徐変に間隔が小さくなる接続斜面311を設け、前記接続斜面311の前縁部に設けた接続フランジ151を主補強材14のバンパ前面11の裏面に例えばスポット溶接により接続させ、大溝底面32を車体4に例えばスポット溶接により接続させている。
【0039】
本例(図1及び図2参照)ほか、図5及び図6に見られる別例のバンパ補強材1は、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にすることもできる。図7は背面開放断面構造の主補強材14に大溝部3を形成し、補助補強材15を小溝部2とした別例のバンパ補強材1を表す断面図、図8は背面開放断面構造の主補強材14に大溝部3を形成し、大溝部3に接続斜面311を設けて、補助補強材15を小溝部2とした別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図、そして図9は背面開放断面構造の主補強材14に大溝部3を形成し、大溝部3に接続斜面311を設けて、補助補強材15を小溝部2とし、かつ接続フランジ151及び小溝側面21を結ぶ角部に膨出部25を設けた別例のバンパ補強材1を表す図2相当断面図である。
【0040】
図7に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図1及び図2参照)に対し、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にしている。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32からなる大溝部3をバンパ前面11に形成し、バンパ側面12の後縁部121と大溝底面32とを車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22から小溝部2を形成する前面開放断面構造で、小溝側面21の前縁部に設けた接続フランジ151を前記主補強材14のバンパ前面11の表面に例えばスポット溶接により接続させている。図7に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図1及び図2参照)に対し、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にしている以外は相違がなく、エネルギー吸収特性は同じである。
【0041】
図8に見られる別例のバンパ補強材1は、上記別例(図7参照)の大溝側面31に接続斜面311を設けた構成である。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32からなる大溝部3をバンパ前面11に形成し、バンパ前面11から小溝部2を挟む範囲の大溝側面31に、徐変に間隔が小さくなる接続斜面311を設けて、バンパ側面12の後縁部121と大溝底面32とを車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22から小溝部2を形成する前面開放断面構造で、前記接続斜面311の前縁部に設けた接続フランジ151を主補強材14のバンパ前面11の表面に例えばスポット溶接により接続させている。図8に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図5参照)に対し、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にしている以外は相違がなく、エネルギー吸収特性は同じである。
【0042】
図9に見られる別例のバンパ補強材1は、上記別例(図8参照)に膨出部25を追加した構成である。主補強材14は、バンパ前面11及び上下一対のバンパ側面12を有する背面開放断面構造で、上下一対の大溝側面31及び大溝底面32からなる大溝部3をバンパ前面11に形成し、バンパ前面11から小溝部2を挟む範囲の大溝側面31に、徐変に間隔が小さくなる接続斜面311を設けて、バンパ側面12の後縁部121と大溝底面32とを車体4に例えばスポット溶接により接続させている。補助補強材15は、上下一対の小溝側面21及び小溝底面22から小溝部2を形成する前面開放断面構造で、接続斜面311の前縁部に設けた接続フランジ151及び小溝側面21を結ぶ角部に、バンパ前面11に対して前方に突出した断面半円弧状の膨出部25を形成し、前記接続フランジ151を主補強材14のバンパ前面11の表面に例えばスポット溶接により接続させている。図9に見られる別例のバンパ補強材1は、上記例示(図6参照)に対し、主補強材14及び補助補強材15を逆の関係にしている以外は相違がなく、エネルギー吸収特性は同じである。
【0043】
本例(図1及び図2参照)のバンパ補強材1により、衝撃を受けた際の各部の変形について説明する。図10は本例のバンパ補強材1が、バンパ前面11に荷重Fを印加されて変形した状態を表す断面図である。バンパ全面に対する荷重Fは、後掲図11に見られる3点曲げ荷重試験の試験装置構成における印加部材6により上下均等に印加されるものとする。この場合、図10に見られるように、小溝部2を挟んだ上下一対のバンパ前面11は、背面方向に向けて凹み、断面円弧状の角部を介したバンパ側面12は、概ね半分から前が外向きに膨らみ、概ね半分から後が内向きに膨らむ。
【0044】
大溝側面31は、上記バンパ側面12と上下対称に変形する。すなわち、大溝側面31は、概ね半分から前が内向きに膨らみ、概ね半分から後が内向きに膨らむ(図10中白抜き矢印参照)。小溝側面21も、大溝側面31同様、上記バンパ側面12と上下対称に、概ね半分から前が内向きに膨らみ、概ね半分から後が内向きに膨らむ(図10中黒塗り矢印参照)。ここで、本例のバンパ補強材1は、小溝部2の深さbが大溝部3の深さLの3/10しかないため、小溝部2及び大溝部3が変形をし始めた直後、大溝側面31の内向きに膨らむ前半と小溝側面21の外向きに膨らむ後半とが衝突点Cにおいて衝突する。以後、小溝部2と大溝部3との衝突が続くため、両者の変形は互いに抑制され、この結果、高いピーク荷重と大きなエネルギー吸収量が実現される。
【実施例】
【0045】
本発明に基づくバンパ補強材のエネルギー吸収特性について、比較例と共に3点曲げ荷重試験を実施した。図11は実施例及び比較例に荷重Fを加える3点曲げ荷重試験の試験装置構成を示す模式図であり、図12〜図16は実施例1〜実施例3、比較例1及び比較例2の断面図である。3点曲げ荷重試験に用いられる試験装置は、従来公知の一般的な装置構成であり、図11に見られるように、実施例又は比較例の長尺なバンパ補強材を、断面円弧状の先端面を有する支持部材5,5によりバンパ背面13側の左右対称位置で支持し、同様の断面円弧状の先端面を有する印加部材6によりバンパ前面の左右中央位置を押圧して、荷重Fを印加する。
【0046】
実施例1〜実施例3、比較例1及び比較例2は、主補強材及び補助補強材に板厚1.2mmの980MPa材を用い、バンパ補強材としての高さWA、すなわち主補強材の高さ(バンパ側面外面の間隔)を100mm、バンパ補強材としての奥行きDA、すなわち主補強材の奥行き(バンパ側面の長さ)を45mmに揃え、各面を結ぶ角部を円弧半径r(断面内側の半径)が3mmの断面円弧状としている。また、各実施例及び各比較例の延在方向長さは1200mmに揃えている。この度の3点曲げ荷重試験では、こうした各実施例及び比較例のバンパ補強材を880mmの間隔に配置した支持部材5,5で支持させた。
【0047】
実施例1は、図12に見られるように、上記図2相当品であり、大溝部の深さLは43.6mm、小溝部の幅WS(小溝側面内面の間隔)は20.4mmとして最短距離aを2mm(a=約1/20L)とし、そして小溝部の深さbは13.6mm(b=約1/3L)としている。
【0048】
実施例2は、図13に見られるように、上記図5相当品であり、大溝部の幅WL(大溝側面内面の間隔)は30mm、大溝部の深さLは43.8mm、接続斜面はバンパ前面から17.6mm(約1/2.5L)の範囲内で、大溝側面に対する傾斜角度θを25度とし、小溝部の幅WS(小溝側面内面の間隔)は30mmとして最短距離aを1mm(a=約1/40L)とし、そして小溝部の深さbは13.8mm(b=約1/3L)としている。
【0049】
実施例3は、図14に見られるように、上記図6相当品であり、大溝部の幅WL(大溝側面内面の間隔)は30mm、大溝部の深さLは43.8mm、接続斜面はバンパ前面から17.6mm(約1/2.5L)の範囲内で、大溝側面に対する傾斜角度θを25度とし、小溝部の幅WS(小溝側面内面の間隔)は30mmとして最短距離aを1mm(a=約1/40L)とし、そして小溝部の深さbは13.8mm(b=約1/3L)としている。膨出部は、バンパ前面から2mm突出した断面半円弧状で、半径Rは3mmである。更に、実施例3は、膨出部と同時に印加部材に接触する補助膨出部を、バンパ前面及びバンパ側面を結ぶ角部に、膨出部と同じだけバンパ前面から突出して設けている。
【0050】
比較例1は、図15に見られるように、特許文献2相当品であり、奥行きが28mmである主補強材の前面に、奥行きが17mmとなるように補助補強材を取り付けた構造で、主補強材に設けた溝は幅MWが28mm、深さMLが14.8mm、補助補強材に設けた溝は幅SWが16mm、深さSLが20.8mmである。
【0051】
比較例2は、図16に見られるように、特許文献3相当品であり、主補強材の内側に補助補強材を取り付けた構造で、主補強材に設けた溝は幅MWが23mm、深さMLが5mm、補助補強材に設けた溝は幅SWが36.9mm、深さSLが16.4mmである。そして、比較例2の特徴となる山形と突出部位は、バンパ前面裏面から5mm離れた断面半円弧状で、半径rはその他の角部に揃えて3mmとしている。
【0052】
図17は各実施例及び各比較例についての3点曲げ荷重試験の結果を表すエネルギー吸収特性のグラフである。エネルギー吸収特性のグラフでは、ピーク荷重及びエネルギー吸収量を、単位質量当たりの値に換算している。このエネルギー吸収特性のグラフから明らかなように、実施例1〜実施例3は比較例1及び比較例2に対してピーク荷重が高く、またエネルギー吸収量も大きくなっている。また、実施例1〜実施例3は、ピーク荷重に達した後の落ち込みが少ないことから、エネルギー吸収特性が安定している。特に膨出部を設けた実施例3は、ピーク荷重に達する変位量が大きくなっており、実施例2よりエネルギー吸収量が大きくなっている。
【0053】
次に、本願発明のバンパ補強材の代表として実施例1を挙げ、最短距離a及び小溝部の深さbとピーク荷重及びエネルギー吸収量との関係について確認した。試験装置の構成や実施例1の構成については、上述の通りである。図18は最短距離aとピーク荷重との関係を表したグラフ、図19は最短距離aとエネルギー吸収量との関係を表したグラフ、図20は小溝部の深さbとピーク荷重との関係を表したグラフ、そして図21は小溝部の深さbとエネルギー吸収量との関係を表したグラフである。エネルギー吸収量は、印加部材が実施例1のバンパ前面に衝突してからの変位量が80mmまでのものである。
【0054】
最短距離aとピーク荷重及びエネルギー吸収量との関係を調べる3点曲げ荷重試験では、小溝部の深さbを12mm(約1/4L)に固定し、最短距離aを0mm〜6mm(約1/7L)の範囲で変化させた。その結果、図18及び図19に見られるように、最短距離aが「0(ゼロ)」である場合、すなわち小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部が大溝側面に接触している場合が最も好ましくことが分かる。そして、最短距離aが大きくなっていくと、エネルギー吸収量は比較的なだらかに低減していくが、ピーク荷重は最短距離a=2mm、すなわち約1/20L(L=43.6mm)を超え始めると急激に低下し始め、最短距離a=4mm、すなわち約1/10Lを超えると低下が止まることから、最短距離aが1/10L以下であれば、本願発明の効果としてピーク荷重を高くし、エネルギー吸収量を大きくすることが分かる。
【0055】
小溝部の深さbとピーク荷重及びエネルギー吸収量との関係を調べる3点曲げ荷重試験では、最短距離aを1mm(約1/40L)に固定し、小溝部の深さbを0mm〜40mm(約L相当)の範囲で変化させた。その結果、図20及び図21に見られるように、小溝部の深さbが10mm、すなわち約1/4Lである場合に特性のピークが見られ、小溝部の深さbが小さくなっても、また大きくなってもピーク荷重及びエネルギー吸収特性が小さくなることが分かる。エネルギー吸収量は、変化が比較的なだらかであるが、ピーク荷重の変化から、小溝部の深さbが1/10L〜1/2Lの範囲にあると、本願発明の効果としてピーク荷重を高くすると考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】背面開放断面構造の主補強材に小溝部を形成し、補助補強材を大溝部とした一例のバンパ補強材を表す斜視図である。
【図2】本例のバンパ補強材を表す断面図である。
【図3】背面閉鎖断面構造の主補強材に小溝部を形成し、補助補強材を大溝部とした別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図4】押し出し成形により小溝部及び大溝部を含めて全体を一体成形した別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図5】背面開放断面構造の主補強材に小溝部を形成し、補助補強材を大溝部として、大溝部に接続斜面を設けた別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図6】背面開放断面構造の主補強材に小溝部を形成し、補助補強材を大溝部として、大溝部に接続斜面を設け、かつバンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を設けた別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図7】背面開放断面構造の主補強材に大溝部を形成し、補助補強材を小溝部とした別例のバンパ補強材を表す断面図である。
【図8】背面開放断面構造の主補強材に大溝部を形成し、大溝部に接続斜面を設けて、補助補強材を小溝部とした別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図9】背面開放断面構造の主補強材に大溝部を形成し、大溝部に接続斜面を設けて、補助補強材を小溝部とし、かつ接続フランジ及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を設けた別例のバンパ補強材を表す図2相当断面図である。
【図10】本例のバンパ補強材が、バンパ前面に荷重Fを印加されて変形した状態を表す断面図である。
【図11】各実施例及び比較例に荷重Fを加える3点曲げ荷重試験の試験装置構成を示す模式図である。
【図12】図2相当品である実施例1の断面図である。
【図13】図5相当品である実施例2の断面図である。
【図14】図6相当品である実施例3の断面図である。
【図15】特許文献2相当品である比較例1の断面図である。
【図16】特許文献3相当品である比較例2の断面図である。
【図17】各実施例及び各比較例についての3点曲げ荷重試験の結果を表すエネルギー吸収特性のグラフである。
【図18】最短距離aとピーク荷重との関係を表したグラフである。
【図19】最短距離aとエネルギー吸収量との関係を表したグラフである。
【図20】小溝部の深さbとピーク荷重との関係を表したグラフである。
【図21】小溝部の深さbとエネルギー吸収量との関係を表したグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 バンパ補強材
11 バンパ前面
12 バンパ側面
14 主補強材
15 補助補強材
2 小溝部
21 小溝側面
22 小溝底面
3 大溝部
31 大溝側面
311 接続斜面
32 大溝底面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造のバンパ補強材において、上下一対の小溝側面及び小溝底面からなる小溝部と、前記小溝部を内包し、上下一対の大溝側面及び大溝底面からなる大溝部とをバンパ前面に形成したことを特徴とするバンパ補強材。
【請求項2】
小溝部は、バンパ前面から小溝底面までの小溝部の深さbを、バンパ前面から大溝底面までの大溝部の深さLの1/10〜1/2とし、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から大溝側面までの最短距離aを、前記大溝部の深さLの1/10より小さくした請求項1記載のバンパ補強材。
【請求項3】
大溝部は、バンパ前面に接続される前縁部から小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面とし、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から接続斜面までの最短距離aを、バンパ前面から大溝部の深さLの1/10より小さくした請求項2記載のバンパ補強材。
【請求項4】
小溝部は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成した請求項3記載のバンパ補強材。
【請求項5】
板金製の主補強材及び補助補強材から構成され、主補強材は、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造で、上下一対の小溝側面及び小溝底面からなる小溝部をバンパ前面に形成し、バンパ側面の後縁部を車体側に接続させ、補助補強材は、上下一対の大溝側面及び大溝底面から大溝部を形成する前面開放構造で、大溝側面の前縁部を前記主補強材のバンパ前面の裏面に接続させ、大溝底面を車体側に接続させた請求項1〜4いずれか記載のバンパ補強材。
【請求項6】
補助補強材は、バンパ前面の裏面に接続される前縁部から主補強材が形成する小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面に形成した請求項5記載のバンパ補強材。
【請求項7】
主補強材は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成した請求項6記載のバンパ補強材。
【請求項8】
板金製の主補強材及び補助補強材から構成され、主補強材は、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造で、上下一対の大溝側面及び大溝底面からなる大溝部をバンパ前面に形成し、バンパ側面の後縁部と大溝底面とを車体側に接続させ、補助補強材は、上下一対の小溝側面及び小溝底面から小溝部を形成する前面開放構造で、小溝側面の前縁部に設けた接続フランジを前記主補強材のバンパ前面の表面に接続させた請求項1〜4いずれか記載のバンパ補強材。
【請求項9】
主補強材は、バンパ前面から補助補強材が形成する小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面に形成した請求項8記載のバンパ補強材。
【請求項10】
補助補強材は、接続フランジ及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成した請求項9記載のバンパ補強材。
【請求項1】
バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造のバンパ補強材において、上下一対の小溝側面及び小溝底面からなる小溝部と、前記小溝部を内包し、上下一対の大溝側面及び大溝底面からなる大溝部とをバンパ前面に形成したことを特徴とするバンパ補強材。
【請求項2】
小溝部は、バンパ前面から小溝底面までの小溝部の深さbを、バンパ前面から大溝底面までの大溝部の深さLの1/10〜1/2とし、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から大溝側面までの最短距離aを、前記大溝部の深さLの1/10より小さくした請求項1記載のバンパ補強材。
【請求項3】
大溝部は、バンパ前面に接続される前縁部から小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面とし、小溝側面及び小溝底面を結ぶ角部から接続斜面までの最短距離aを、バンパ前面から大溝部の深さLの1/10より小さくした請求項2記載のバンパ補強材。
【請求項4】
小溝部は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成した請求項3記載のバンパ補強材。
【請求項5】
板金製の主補強材及び補助補強材から構成され、主補強材は、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造で、上下一対の小溝側面及び小溝底面からなる小溝部をバンパ前面に形成し、バンパ側面の後縁部を車体側に接続させ、補助補強材は、上下一対の大溝側面及び大溝底面から大溝部を形成する前面開放構造で、大溝側面の前縁部を前記主補強材のバンパ前面の裏面に接続させ、大溝底面を車体側に接続させた請求項1〜4いずれか記載のバンパ補強材。
【請求項6】
補助補強材は、バンパ前面の裏面に接続される前縁部から主補強材が形成する小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面に形成した請求項5記載のバンパ補強材。
【請求項7】
主補強材は、バンパ前面及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成した請求項6記載のバンパ補強材。
【請求項8】
板金製の主補強材及び補助補強材から構成され、主補強材は、バンパ前面及び上下一対のバンパ側面を有する中空断面構造で、上下一対の大溝側面及び大溝底面からなる大溝部をバンパ前面に形成し、バンパ側面の後縁部と大溝底面とを車体側に接続させ、補助補強材は、上下一対の小溝側面及び小溝底面から小溝部を形成する前面開放構造で、小溝側面の前縁部に設けた接続フランジを前記主補強材のバンパ前面の表面に接続させた請求項1〜4いずれか記載のバンパ補強材。
【請求項9】
主補強材は、バンパ前面から補助補強材が形成する小溝部を挟む範囲の大溝側面を、徐変に間隔が小さくなる接続斜面に形成した請求項8記載のバンパ補強材。
【請求項10】
補助補強材は、接続フランジ及び小溝側面を結ぶ角部に膨出部を形成した請求項9記載のバンパ補強材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−120581(P2010−120581A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298037(P2008−298037)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(503399920)株式会社アステア (31)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(503399920)株式会社アステア (31)
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