説明

バーコードが印字されたコイル結束用フープ

【課題】コイル状物を結束するフープ表面のバーコード印字は、フープの湾曲により、その認識性が悪化する。これを解決するため、本発明は、現状の鉄鋼薄板コイルの結束用金属帯(フープ)を例として、正確な認識性を有するバーコード印字がなされたコイル結束用フープを提案する。
【解決手段】バーコードをフープ長手方向に対し斜めに印字することにより、バーコードの実質的曲率を大きくする。そこで、コイル半径、バーコード長さ、およびバーコードとフープとのなす角を変えて印字されたことを特徴とするコイル結束用フープであり、更に、前記バーコード長さ(L)と前記コイル半径(R)の関係が以下の式であるコイル結束用フープを提案する。
L ≦(0.2×R−40)/cosθ
L: バーコード長さ(mm)
R: コイル半径(mm)
θ: バーコード横方向とフープ長手方向が交わる角度

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼薄鋼板のコイル等、コイル状に巻き取ったものの結束用金属帯(フープ)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の薄鋼板等の帯状物をコイル状に巻き取ったとき、その帯状物をコイル状に固定するため、一般に、結束用金属帯(フープ)により結束する。このフープによる結束により、コイル状物の輸送や保管が容易になるためである。
昨今、物流や生産管理上の理由から、こうしたコイル状物についてもデータ管理がされるようになってきた。こうしたデータ管理においては、コイル状物の一品一品に固有の識別番号を付与して管理している。従来は、コイル状物に識別番号を印刷した譜表を付けていたが、最近は、バーコードやICタグなどにより識別番号を付けている。
【0003】
鉄鋼の薄板コイルでも、同様にコイルに固有の識別番号を付与している。鉄鋼薄板コイルの場合、識別番号をバーコード化し、結束用フープに印字して使用する場合が多い。
例えば特許文献1(特開2006-293844号公報)には、コイルの結束用フープの表面にバーコード等の製品管理データを印字し、それを用いて搬送する製品管理システムが開示されている。
また、特許文献2(特開2005−231658号公報)には、薄板コイルの結束用フープへレーザー印字する際に、印刷位置を検知し制御する結束装置が開示されている。
さらに、特許文献3(特開2003−12020号公報)には、荷造り用結束用フープの片面に、その長手方向に沿って所定の間隔ごとに扁平小片状のICタグを取り付けた、ICタグ付結束バンドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-293844号公報
【特許文献2】特開2005−231658号公報
【特許文献3】特開2003−12020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に記載のICタグによる製品管理は、鉄鋼等の導電体である金属材料に対しては、まだ背面金属影響により認識率が低下するため、バーコードによる製品管理が一般的である。
しかし、鉄鋼の薄板コイルの結束用フープは、通常、コイルの外周面(コイルの円周方向)に沿って巻き付けられる。このとき、コイル外周に沿ってフープが湾曲するため、フープ表面に印字したバーコードも湾曲した状態で読まれることになる。このため、コイル径(湾曲径)によっては、バーコードリーダーでは認識できず読み取れない場合がある。その場合は、オペレーターによる視認に頼ることとなり、一旦作業を停止するため、生産性や作業性を著しく悪化させることなる。
フープの湾曲を避けるため、フープの幅方向にバーコードを印字することも試みたが、通常のフープ幅が狭く(鉄鋼用結束フープの標準幅は32mm)、バーコードを正確に認識できないのが実状である。
【0006】
そこで、本発明は、かかる問題を解決すべく、湾曲したフープ上のバーコード認識性の向上を課題とする。そして本発明は、現状の鉄鋼薄板コイルの結束用金属帯(フープ)を例として、正確な認識性を有するバーコード印字がなされたコイル結束用フープの提案を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、フープ長手方向に対しバーコードの横方向が斜めになるように印字することにより、フープの曲率半径以上の曲率半径でバーコード印字され、正確にバーコード情報を認識しうることを見出し、本発明をなすに至った。
本発明の要旨となすところは、以下のとおりである。
【0008】
(1)バーコードが印字されたコイル結束用フープであって、フープの長手方向に対し、バーコードが直交または斜交するように印字されていることを特徴とするコイル結束用フープ。
【0009】
(2)前記バーコードが複数個並列に印字されていることを特徴とする(1)に記載のコイル結束用フープ。
【0010】
(3)前記コイル結束用フープが鋼製であって、印字された前記バーコードの表面に透明の樹脂をコーティングすることを特徴とする(1)または(2)に記載のコイル結束用フープ。
【0011】
ここで、コイルとは、帯状物をコイル状に巻き取ったものをいう。例えば、鉄鋼の薄板コイルや、紙を巻き取ったロール状のものがそれに該当する。
フープとは、コイルを結束するための細いバンド状のものをいう。鉄鋼の薄板コイル用には、鋼製フープが一般的に用いられる。
バーコードとは、小売、物流および生産管理等で物品管理上一般的に用いられる縞模様状の線の太さによって数値や文字を表す識別子である。多種類の規格があるが、本発明においては、バーコード規格は不問である。また、QRコード等の2次元コードも、バーコードに準ずるものであり、本発明の技術的範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、コイル結束用フープへ印字されたバーコードであっても、コイル外径によらず正確にバーコード情報を認識することができるという効果を奏する。これにより、認識できないバーコードの確認のため、連続的な生産の流れを中断することがなくなるため、生産性および作業性が格段によくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】金属コイルの製品管理工程を示す概念図。
【図2】金属材料のコイルと結束用フープによる結束状態を示す概念図。(a)は、コイルに結束フープを取り付けたところを示す概念図。(b)はフープに印字したバーコードの例を示す概念図。(c)は、複数個のバーコードを並列に印字した例を示す概念図。
【図3】結束用フープに印字されたレーザードットの例を示す図。
【図4】鋼製フープに印字されたバーコードの例を示す図。
【図5】バーコード長さ(L)、金属コイルの半径(R)、バーコードとフープ長手方向のなす角(θ)の違いによるバーコードの認識性の実験結果を示す図(θ=0°)。
【図6】バーコード長さ(L)、金属コイルの半径(R)、バーコードとフープ長手方向のなす角(θ)の違いによるバーコードの認識性の実験結果を示す図。(a)はθ=15°を示す。(b)はθ=30°を示す。(c)はθ=45°を示す。
【図7】鋼製フープに発生した赤錆の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、鉄鋼での薄板コイルを例として説明する。言うまでもないが、本発明は、鉄鋼の薄板コイルに限定されるものでなく、コイル状に巻き取られたものを結束するためのフープであれば適用できる。特に、鉄鋼等の金属材料の結束に用いる結束用金属帯(フープ)に適用すると、その効果はさらに大きくなる。
【0015】
図1に、一般的な鉄鋼での薄板コイルの製品管理工程を示す。例えば、熱間圧延工場において熱間圧延された熱延鋼板は、鋼板コイル1として巻き取られその鋼板コイル1は需要家の要求に従って製品分割され、その各々においてラベル2の発行およびサービスカード3の発行が行われる。コイルが払い出された後、ラベルとサービスカードがコイルに添付され、次の工程であるコイル梱包工程に搬送される。コイル梱包工程では、ラベルとサービスカードのバーコードが照合され、コンピューターによる指示により、指定の場所へ搬送され、保管されることになる。
【0016】
ラベルやサービスカードは、バーコードを印字した帳票(紙製)をコイルに貼付するものであり、搬送中や保管中の破損や汚れが多く、バーコードの認識性が劣化する場合がある。また、バーコードによる読み取りもオペレーターに頼るものであったため、作業性が悪く、また生産性向上の阻害要因でもあった。
そこで、図2に示すように、コイル結束用フープに直にバーコードを印字することが考えられている。コイル結束用フープは、コイルがほどけないよう、コイル外周部に沿うように巻きつけ、結束されている。
【0017】
一般的に鉄鋼用のフープは、焼入れした鋼の表面にワックス(透明樹脂)をコーティングしている。焼入れしているため、表面は濃紺色である。鉄鋼における標準的なフープ幅は32mmであり、必要に応じて13〜32mm程度の幅のものが使われている。
【0018】
フープへのバーコードの印字は、レーザードット式印字で行うことができる(図3)。レーザードットを適正に配置することにより、バーコードとして印字することができる(図4)。前述したように、鋼製フープ表面は、通常、黒錆の濃紺色(焼入れによる色。いわゆるブルーイング。)をしている。そこにレーザー印字すると、表層の酸化鉄が除去され、印字箇所が鋼の色(灰白色)となり、このコントラストで、バーコードを認識することができる。このコントラストにより、バーコードリーダー(図示せず)によりバーコード情報を認識することができる。
【0019】
一般にバーコードリーダーは、バーコード部を直線でスキャンし読み取っている。スキャンする直線は、バーコードに対し斜めであっても特段問題はない。バーコードスキャンの最初と最後および中央(バーコードの左端と右端と中央部)を基準とすることで、相対的なバー幅で読み取るようにしているからである。
【0020】
しかし、図2に示すように、コイル外周部にフープが沿っているため、フープ自体が湾曲し、結果としてフープ上に印字したバーコードも湾曲する。そうすると、バーコードリーダーからは、奥行き方向に湾曲しているため、バーコードの認識性が極端に悪化する。
つまり、フープの曲率により、バーコードの読み取り限界がある。そのため、結束用フープの長手方向に対し、バーコードの横方向を斜めにすることにより(図2)、バーコード部分の実質的曲率半径を大きくすることができ、バーコードの情報の認識性を向上させることができる。例えば、バーコードの横方向とフープ長手方向の交わる角度をθとすると、曲率半径は、概算で1/cosθ大きくなる。従って、θが小さいとその効果は小さいが、θが大きくなると、その効果は大きくなってくる。
つまり、実際の湾曲半径(つまり、コイル半径と同じ)に応じて、バーコードをフープ長手方向に対しで斜めに印字し、バーコード長(バーコードの横方向長さ、つまりバーが並んでいる方向の長さ)を変えることにより、正確にバーコードの情報が認識できるものである。
【0021】
次に、バーコードの認識性がどのように変化するか実験を行った。実験に使用した鋼製フープは、実際に使用する幅32mmの薄板コイルの結束用フープを使用した。バーコードの高さは、25mmとし、バーコードとともに対応する数字も印字した(図3)。レーザードットの深さは、20μm程度とした(通常のレーザードットの深さは、5〜50μm程度である。なお、本発明においては、レーザードットの深さは特に限定されない。バーコードリーダーは一般的なもの(キーエンス社製BTシリーズ)を使用し、実際の現場環境と同じ蛍光灯下で行った。まずθ=0°のときのバーコードの認識性について図5に示す。3回の試行で3回ともバーコード情報を正確に認識できたものを〇、1回認識できなかったものを△、2回認識失敗したものと全く認識できなかったものを×とした。
【0022】
次に、同じ条件で、バーコードをフープに対して斜めに印字した場合のバーコード認識性について試験した結果を図6(a)(b)(c)に示す。図6(a)はθ=15°、図6(b)はθ=30°、図6(b)はθ=45°のときの結果である。図6は、3回読み取り試行して、3回ともバーコードの情報を正確に認識できたものを〇、1回でも認識できなかったときがあるものを×とした。実線はL =(0.2×R−40)/cosθの線を、破線は、θ=0°のときの認識限界を示す線(つまりL =0.2×R−40)を示す。
【0023】
この結果からも分かるように、バーコードの認識性は、バーコード長さ(L)とコイル半径(R)およびバーコードとフープ長手方向の角度(θ)とに強く依存していることが分かった。正確に認識するためには、以下の式を満足する必要があることが分かった。
L ≦ (0.2×R−40)/cosθ
L: バーコード長さ(mm)
R: コイル半径(mm)
【0024】
バーコード長さ(L)の下限は、バーコードに盛り込む情報量により変わるが、標準的な13桁コードの場合、35mm程度が正確に認識しうる限界と考えられる。また、バーコード長さ(L)の上限は、特に設定しないが、常識的な範囲で認識しうる長さを設定すればよく、例えば100mmを上限としても問題はない。
また、バーコードとフープ長手方向のなす角(θ)は、小さいとその効果が少なく、大きいとフープ幅との関係からバーコードの高さ(一つのバーの長さに相当)やバーコード長さが制限される。認識性や操作性の観点から上限を決めればよい。もちろんθ=90°、つまりフープ長手方向に直交するようにバーコードを印字してもよい。フープの標準幅32mmでの実際の使用上は、θは15°以上、60°以下が望ましく、15°以上45°以下でも充分に効果を奏することは、上記図6の結果からも分かる。
また、バーコードを複数個、並列に配置してもよい(図2(c))。例えば、一つのバーコード情報を複数個に分割し、これを並列に、しかもフープに直交または斜交するように印字してもよい。長いバーコード情報も分割することによりフープ上に認識性よく印字することができる。
【0025】
次に、レーザー印字後の赤錆による認識性の劣化について説明する。
図7に、図4と同様に、鋼製フープにバーコード印字したものを、湿潤環境下に24時間放置したときの外観を示す。バーコードのところどころに赤錆が発生し、バーコードの認識性を著しく悪化させていることが分かる。
【0026】
これは、レーザードットにより掘られた部分は、鋼の活性面が露出しているため、空気中の水分により鉄の酸化が進み、赤錆がでたものである。部分的な赤錆の発生であれば、全く認識できないというわけではないが、時間が経つと赤錆の発生が増加し、認識性は加速度的に劣化することを確認した。
【0027】
そこで、赤錆対策として、レーザー印字後10分以内に、バーコード全体をカバーするように透明ワックス(樹脂)をコーティングした。ここで透明性とは、光を透過し、フープの元々の表面色とバーコードのコントラストによりバーコードが認識できる程度の透明性をいう。透明であって、水分を浸透させなければ、樹脂の成分や組成は限定されるものではない。この透明ワックス(樹脂)のコーティングにより、同様な湿潤環境下に7日間放置しても赤錆の発生がないことを確認した。また、透明ワックスをコーティングしても、バーコードの読み取り性、認識性には影響ないことも確認できた。
透明な樹脂のコーティングは、レーザーによるバーコード印字直後に行うことが望ましく、例えば、特許文献2に記載されているレーザー印字装置に併設するように透明樹脂のコーティング装置を配置するとよい。
【実施例】
【0028】
実際の薄板コイルの結束用フープにおいて、実際の実機ラインで本発明を実施した。
薄板コイルの半径:400mm
バーコード長さ :45mmおよび60mmをそれぞれ1箇所づつ同一フープ上に印 字
このとき、バーコードとフープ長手方向とのなす角を30°とし た。
バーコードリーダー:キーエンス製BT−500
バーコード読み取り結果は、バーコード長45mmのものは正確に読み取れたが、バーコード長60mmのものは、その両端に近い部分の読み取りができなかった。
また、バーコード長45mmのものは、2コイルに実施し、一方にのみ透明樹脂(ワックス)をコーティングし、もう一方は、バーコード印字したまま30日間、屋外ヤードに放置した。その結果、透明樹脂コーティングしたものは、赤錆の発生がなく、30日後でも正確にバーコード情報が読み取れたが、透明樹脂コーティングをしていないものは、赤錆の発生があり、3回の試行中1回しかバーコード情報が読み取れなかった。
以上詳細に説明してきたが、前述した本発明の実施の態様は一例を示しただけであり、本発明は、これらの態様に限定されないことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、コイル状物の結束用フープに利用することができる。説明に例示的に用いた鉄鋼の薄板コイルだけでなく、広く金属材料のコイル結束用フープに使用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 鋼板コイル
2 ラベル
3 サービスカード
10 結束用フープ
11 バーコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーコードが印字されたコイル結束用フープであって、フープの長手方向に対し、バーコードの横方向が斜交するようにバーコードを印字することを特徴とするコイル結束用フープ。
【請求項2】
前記バーコード長さ(L)と前記コイル半径(R)、および前記バーコードの横方向と前記フープの長手方向の交わる角度(θ)が以下の式であることを特徴とする請求項1に記載のコイル結束用フープ。
L ≦(0.2×R−40)/cosθ
L: バーコード長さ(mm)
R: コイル半径(mm)
θ: バーコード横方向とフープ長手方向が交わる角度
【請求項3】
前記コイル結束用フープが鋼製であって、印字された前記バーコードの表面に透明の樹脂をコーティングすることを特徴とする請求項1または2に記載のコイル結束用フープ。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−225233(P2011−225233A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95019(P2010−95019)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】