説明

バーンスルー耐性を示す航空機の胴体

本発明は、航空機の胴体の内部に配置される少なくとも1つの空間、および少なくとも1つの壁(16)を含む、航空機の胴体(12)に関する。本発明によれば、壁は、航空機の胴体の外側から空間に向けて、少なくとも4分の期間中、バーンスルー耐性を示し、空間の下側の航空機の胴体(12)の領域は、バーンスルー耐性を示す絶縁体を含まない。空間は、航空機の貨物室または客室であることができ、一方、壁は、貨物室の床、客室の床、または翼/胴体フェアリング(腹部フェアリング)として設計されることができる。本発明による航空機の胴体の設計は、航空機の胴体のいかなる追加的なバーンスルー耐性を示す絶縁体もなしで、連邦航空規則FAR§25.856(b)の要求条件を満たすバーンスルー耐性に結びつく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
この出願は、2008年3月28日に出願のドイツ国特許出願番号第10 2008 016 104.7号の、および、2008年3月28日に出願の米国仮特許出願番号第61/072320号の、出願日の利益を請求するものであり、それらの出願の開示は、ここに、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本発明は航空機の胴体に関する。
【背景技術】
【0003】
最近の航空規則、特に連邦航空規則FAR§25.856(b)により、20人以上の乗客定員を有する旅客機は、バーンスルー耐性を示すように製造されなければならない。これは、例えば、緊急着陸後、航空機の外側において航空機の胴体に作用する火が存在するような場合に、少なくとも4分の期間中、航空機の外部から内部の客室内への炎の貫通が防止されなければならないことを意味する。
【0004】
この期間の後、航空機の胴体に作用している炎が航空機の内部に侵入できるため、一般に使用されるアルミニウム製の航空機構造物は、ほぼ60秒後にバーンスルーを経験する。これを防止するためには、客室を保護する目的で、客室胴体の下半分用にバーンスルー耐性を示す絶縁材料が必須である。しかしながら、この目的に適したバーンスルー耐性を示す絶縁材料は、航空機の製造における追加的な支出と関連し、さらに、例えば、絶縁マットは、バーンスルー耐性を示す特別なフィルムまたはホイル、およびフィルムまたはホイルの取付装置を含むことが必要であるので、追加的な重量に結びつく。これは今度は、全体として、航空機の重量を増加させ、したがって、航空機の性能、経済性および整備性に負の影響を及ぼす。さらに、貨物室領域には、絶縁マットに吸収されるかなりの量の湿気が集まるので、バーンスルー耐性を示すフィルムまたはホイルを含む絶縁マットを、貨物室領域の下部(胴体のビルジ内)に配置することは、推奨されない。これは、絶縁マットの重量が徐々に増加することに結びつき、そして、排水はより困難になる。
【発明の概要】
【0005】
したがって、少なくとも4分の期間中、バーンスルー耐性を示す航空機の胴体を提案することは、本発明の目的であり、この航空機の胴体は、貨物スペースの少なくともいくつかの下部領域において、バーンスルー耐性を示すように設計される絶縁マットを使用する必要がない。
【0006】
この目的は、独立請求項1、9、11および13の特徴によって果たされる。有利な改良は、それぞれの従属請求項において提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
客室内部のバーンスルー耐性は、航空機の胴体の外側から、航空機の胴体の内側における空間内に、少なくとも4分の期間中バーンスルー耐性を示す、バーンスルー耐性壁によって提供される。第1実施形態において、これは、貨物室内または客室内において対応するバーンスルー耐性を達成する、バーンスルー耐性を示す貨物室の床によって実現されてもよい。航空機の客室は、通常、貨物室よりも上方に配置されるので、バーンスルー耐性を示す貨物室の床が提供される場合、貨物室の下側に位置する火は、貨物室を貫通することが不可能であり、したがって、客室に侵入することも不可能である。適切なバーンスルー耐性を示す貨物室の床は、適切な材料から作られる貨物室の床パネルを含むことができる、この床パネルは、一方で高い強度を特徴とし、他方で適正なバーンスルー耐性を提供する。例えば、炭素繊維材料またはガラス繊維材料が、これのために考慮されてもよく、この材料は、編まれた繊維構造、ラミネート、サンドイッチ構造等の形態で適用されてもよい。好ましくは、本発明の文脈において使用する床パネルの重量は、従来の貨物室の床パネルの重量と同一であり、その結果、これは追加的な重量に結びつかない。
【0008】
貨物室の床はまた、床パネルのない領域、例えば、コンテナの輸送のためのローラコンベヤまたはボールエレメントマットを含む領域、を含むので、これらの領域は、好ましくは、他の手段を用いるバーンスルー耐性が与えられる必要がある。この目的のためには、上述の構造の下側に、とりわけ、薄いガラス繊維マットおよび/または炭素繊維マットあるいはラミネートが用いられることができる。床パネルのないこれらの特定領域は、貨物室の床の比較的小さい一部のみをカバーするので、床パネルのない領域における特別なバーンスルー耐性材料から結びつく製造経費、および追加的な重量もまた、航空機の全ての床下領域に別個のバーンスルー耐性絶縁マットを取り付けた後の追加的な重量よりも少ない。加えて、床下領域の従来の絶縁マットは、非常に急速に汚れてきてもよく、そして多量の液体を吸収してもよく、これは、腐食を促進することができ、そして製品の特性に負の影響を及ぼすこともできる。この種の絶縁マットの使用は、設置および保守に関する不利な点とも関連する。その理由は、本発明による解決策を用いることで、バーンスルー耐性を示す絶縁マットによって達成されるよりも、製造および保守の費用がかなり少なくできるように、これらのコンポーネントは容易に損傷を受けるからである。
【0009】
本発明の別の実施形態において、代替物として、客室の床パネルは、それらがバーンスルー耐性を示すように設計される。この趣旨で、同一材料が、貨物室の床上のバーンスルー保護に関して用いられてもよい。しかしながら、客室上のバーンスルー保護は、提供されることが必要なバーンスルー耐性を示す絶縁が、第1実施形態の場合よりもずっと少ないという点で、非常に多くの効果と関連している。
【0010】
本発明のさらなる実施形態において、適正なバーンスルー保護は、少なくとも翼/胴体の推移の領域において、その場所に提供される空気力学的な保護フェアリング、それはまた「腹部フェアリング」と呼ばれ、前出の例示的実施形態におけるものと同様に、適切なガラス繊維構造または炭素繊維構造から製造されるフェアリング、という点で実現されてもよい。したがって、腹部フェアリングは、それがバーンスルー耐性に関する顕著な特徴を含むという趣旨で、修正されてもよい。その結果、この領域でも、バーンスルー耐性を示す絶縁なしで済ますことは可能であり、これは、重量を省き、製造中の支出も節約する。フェアリングに存在する隙間で炎の貫通が不可能になることを確実にしてもよいように、そしてその結果、航空機の胴体の下側に位置する火が外側から内側へ作用する場合に、客室が完全に保護されるように、フェアリングの詳細設計は、いくつかの場所において修正されなければならなくてもよい。これらの修正は、例えば、フェアリングコンポーネントの隙間寸法の減少に関係し、フェアリングコンポーネントなどの重なり合う領域の統合に関係し、その結果、炎の貫通は発生することができない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下に、本発明は、図面を参照してさらに詳細に説明される。図において、同一の対象物には同じ参照符号が用いられる。
【図1】図1は、現状技術における下部胴体領域の線図である。
【図2】図2は、本発明によるバーンスルー耐性を示す航空機の胴体の下部領域の線図である。
【図3】図3は、ローラコンベヤを備える貨物室の床領域の部分である。
【図4】図4a〜4cは、本発明によるバーンスルー耐性を示す航空機の胴体の腹部フェアリングである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
例示的な図1は、さまざまな構造的コンポーネント6を介して外板8に連結される貨物室の床2を備える、航空機の胴体4の部分を示す。外板8がバーンスルー耐性を示す胴体絶縁体10を備えるという点で、現状技術は、バーンスルー耐性を確立することを提供する。この胴体絶縁体10は、例えば、特別なバーンスルー耐性材料から成る絶縁パッケージを含むことができ、この絶縁パッケージは、少なくとも必須の4分の期間中、バーンスルー耐性を示すための要求を満たしてもよい。バーンスルー耐性を示す胴体絶縁体10は、例えば緊急着陸後に、航空機からの脱出を可能にし、この脱出は、航空機の胴体4の外側に位置する火が胴体を貫通するまでよりもかなり短い時間で完了する。
【0013】
図2に示す第1の例示的実施形態における本発明による航空機の胴体12は、貨物スペースの床14上に、バーンスルー耐性を示す貨物室の床パネル16を備え、この貨物室の床パネル16は、貨物室の床の幅の大きな領域を越えて延びる。しかしながら、貨物室の床のいくつかの領域は、床パネル16を備えておらず、その代わりに、貨物室の内部でコンテナを容易に移動させるためのローラコンベヤ18およびボールエレメントマット20を備えている。これらの領域において、バーンスルー耐性は、他の対策を用いることのみで、例えば、ローラコンベヤ18、ボールエレメントマット20または他の設備の下側に、バーンスルー耐性を示すフィルムまたはホイルを一体化することによって、達成されてもよい。概して、このような方法で、全ての貨物室の床14は、バーンスルー耐性を示すように製造されてもよく、もはや、図1に示す別個の絶縁体10を提供する必要性はない。
【0014】
上記の配置構成において、航空機の胴体の外側に位置する火は、外板8を通して航空機の胴体12の内部に入り込むことができるが、しかしながら、本発明による貨物室の床2を貫通することはできず、それよりも上方に位置する客室領域に到達することはできない。
【0015】
図3は、バーンスルー耐性を示す貨物室の床パネル16が横方向に隣接するローラコンベヤ18、を有する貨物室の床2の領域を示す。ローラコンベヤ18の下側22には、バーンスルー耐性を示すフィルムまたはホイル24が配置され、これは、完全に閉じた領域が結果として得られるように、隣接するバーンスルー耐性を示す貨物室の床パネル16を補完する。床パネル16とローラコンベヤ18との繋ぎ目の位置に、貨物スペースの内部に侵入した火が貨物室の床14を貫通することができる隙間ができないように、フィルムまたはホイル24は、上記繋ぎ目の領域において床パネル16と重なることが好ましい。ローラコンベヤ18の下側22から離れて、貨物室の床パネル16が設置されないかもしれない貨物室の床14のすべての他の設備もまた、この種のフィルムまたはホイルを備えることが好ましい。
【0016】
バーンスルー耐性を示すフィルムまたはホイル24は、ラミネートまたは編まれた繊維材料として設計されてもよい。設置するときに、または航空機の整備を行うときに、フィルムまたはホイル24が損害を受けることが防止されてもよいように、フィルムまたはホイル24の厚みは、薄すぎないことが好ましい。
【0017】
バーンスルー耐性を示す絶縁体を用いずにバーンスルー保護を実現するためのさらなるオプションは、航空機28の翼/胴体フェアリング26(「腹部フェアリング」とも呼ばれる)のバーンスルー耐性を示す設計によって提供され、このフェアリング26は、図4a〜4cに、航空機28の正面図、側面図、およびフェアリング26の詳細図が概略的に示される。腹部フェアリング26は、翼付根と航空機の胴体との繋ぎ目(transition)の領域における気流損失が制限の範囲内に保持されるように、上記繋ぎ目を空気力学的にできるだけなめらかに維持するように主に設計される。この腹部フェアリング26のバーンスルー耐性を示す設計は、本発明による胴体12の少なくともこの領域において、内側での追加的な絶縁マットの必要性を除去し、したがって、腹部フェアリング26に隣接する胴体領域におけるバーンスルー耐性を示す貨物室の床14を補完する。
【0018】
対応する追加的な補助構造30によって、腹部フェアリング26は所与の適正な安定性があるので、腹部フェアリング26のための材料の選択は、非常に柔軟に扱われてもよい。腹部フェアリング26の外板の材料は、それ自体で機械的安定度を提供することは必要でなく、その結果、材料の選択に制限はない。好ましくは、編まれたガラス繊維材料、または、編まれた炭素繊維材料が用いられ、対応するテストの結果として、バーンスルー耐性を示す適正な期間が、すなわち少なくとも4分間が、実証された。
【0019】
最後に、バーンスルー耐性を示す床パネル16およびバーンスルー耐性を示すフィルムまたはホイル24を有する貨物室の床14を装備することから離れて、それよりも上方に配置される客室の床を、貨物室のないいくつかの領域が存在する場所に、または、航空機内部の床下領域が客室として用いられる場所に、あるいは、材料および経費を追加的に節約するために、装備することは、想像でき、また賢明である。
【0020】
記述した対策によって、連邦航空規則FAR§25.856(b)による目下のバーンスルー要求条件を満たすことに関して、追加的なバーンスルー耐性を示す絶縁体なしで、航空機のバーンスルー保護は達成されてもよい。絶縁体内部のすべての締着具および特別なバーンスルー耐性を示す材料は、この締着具および材料がこのために必要でない場合は、なくてもよい。このようにして、経費および重量が節約され、その結果、航空機は、同一の安全基準を保ちながら、同じ最大積載量を少なくとも達成してもよく、そして、同じ燃料消費量を少なくとも達成してもよい。航空機の製造および整備は、特に、航空機の床下領域においてバーンスルー耐性を示す絶縁体を提供する必要がもはやないという理由で、かなり単純化される。
【0021】
加えて、「を含む」は他の要素またはステップを除外せず、そして、「1」または「1つ」は複数を除外しない、と指摘されなければならない。さらに、上記の例示的実施形態の1つを参照して記述された特徴またはステップは、上述の他の例示的実施形態の他の特徴またはステップと組み合わせて使用されてもよい、と指摘されなければならない。請求項における参照符号は、限定として解釈されるべきでない。
【符号の説明】
【0022】
2…貨物室の床
4…航空機の胴体
6…構造的コンポーネント
8…外板
10…絶縁材料
12…航空機の胴体(本発明による)
14…貨物室の床
16…床パネル
18…ローラコンベヤ
20…ボールエレメントマット
22…ローラコンベヤの下側
24…バーンスルー耐性を示すフィルムまたはホイル
26…腹部フェアリング(翼/胴体フェアリング)
28…航空機
30…腹部フェアリング(翼/胴体フェアリング)の補助構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床(14)を有する航空機の胴体(12)の内部に配置される少なくとも1つの空間を含み、
前記床(14)は、1またはいくつかの床パネル(16)を含む、前記航空機の胴体(12)であって、
前記床パネル(16)は、前記航空機の胴体(12)の外側から前記空間に向けて、少なくとも4分の期間中、バーンスルー耐性を示し、
前記床(14)の下側における前記航空機の胴体(12)の領域は、バーンスルー耐性を示す絶縁体を含まない、ことを特徴とする航空機の胴体(12)。
【請求項2】
前記空間は、貨物室として設計される、請求項1に記載の航空機の胴体(12)。
【請求項3】
前記空間は、客室として設計される、請求項1に記載の航空機の胴体(12)。
【請求項4】
前記床(14)は、前記床パネル(16)を装備できない設備(18、20)を含む少なくともいくつかの領域を有し、
前記設備(18、20)の下側(22)には、少なくとも4分の期間中バーンスルー耐性を示すバーンスルー耐性フィルムまたはホイル(24)が配置される、請求項1に記載の航空機の胴体(12)。
【請求項5】
前記バーンスルー耐性フィルムまたはホイル(24)は、隣接する前記床パネル(16)に重ね合わせられる、請求項4に記載の航空機の胴体(12)。
【請求項6】
前記床(14)は、編まれた繊維構造、ラミネート、サンドイッチ構造等の形態における、炭素繊維材料またはガラス繊維材料から設計される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の航空機の胴体(12)。
【請求項7】
航空機の胴体(12)の内部に配置される床(14)を有する少なくとも1つの空間、および、翼/胴体の繋ぎ目のフェアリング(26)を含む航空機の胴体(12)であって、
前記フェアリング(26)は、前記航空機の胴体(12)の外側から前記空間に向けて、少なくとも4分の期間中、バーンスルー耐性を示し、
前記フェアリング(26)よりも上方の空間領域は、バーンスルー耐性を示す絶縁体を含まない、ことを特徴とする航空機の胴体(12)。
【請求項8】
少なくとも4分の期間中、バーンスルー耐性を示す、航空機の内部の床(14)用の床パネル(16)。
【請求項9】
前記床パネル(16)は、編まれた繊維構造、ラミネート、サンドイッチ構造等の形態における、炭素繊維材料またはガラス繊維材料から設計される、請求項8に記載の床パネル(16)。
【請求項10】
少なくとも4分の期間中、航空機の胴体(12)の内部へのバーンスルー耐性を示す壁(26)、を有する前記航空機の翼/胴体フェアリングまたは腹部フェアリング。
【請求項11】
前記壁(26)は、編まれた繊維構造、ラミネート、サンドイッチ構造等の形態における、炭素繊維材料またはガラス繊維材料から設計される、請求項10に記載の翼/胴体フェアリングまたは腹部フェアリング。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の航空機の胴体を有する航空機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公表番号】特表2011−515272(P2011−515272A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501176(P2011−501176)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053122
【国際公開番号】WO2009/118256
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(509203120)エアバス オペラツィオンス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (67)
【出願人】(508178711)エアバス ソシエテ パ アクシオンス シンプリフィエ (3)